才能はいい才能ならよし


 

第一章

               才能はいい才能ならよし
 佐藤菖蒲は絵が上手だ、習字等もそうでコンクール等に出るといつも入賞している。だが学校の成績は。
「普通なのよね」
「そうだな」 
 父の尚武が応えた、面長で四角い眼鏡をかけた色黒で黒髪を左で分けている一七〇位の背の痩せた中年男性だ。職業は郵便局員である。
「悪くないけれどな」
「いいとも言えないわね」
 母の桜も言ってきた、穏やかそうな大きな目で赤い唇で鼻は高めだ。丸い感じの顔で黒髪は長い。見れば菖蒲は母親そっくりである。
「学校の成績はね」
「菫の方が上よね」
 菖蒲は自分と母親そっくりの一つ下の妹を見た、姉は長い黒髪をポニーテールにしていて妹はツインテールだ。それ以外はそっくりだ。
「小学三年でいつもトップだしね」
「ああ、いいことだな」
「やっぱり勉強出来たらいいわね」
「学校の成績もよかったら」
「何言ってるのよ、私字が下手でね」
 妹は姉にすぐに言った。
「絵だってよ」
「下手だっていうの」
「そうしたことで入賞とかね」
「ないの」
「一度もね、お姉ちゃんいつも入賞してるでしょ」  
 絵や習字でというのだ。
「他の工作だって凄いし」
「だからなの」
「そうよ、私だって入賞したいわよ」
 絵等でというのだ。
「それ言ったらね」
「どっちもどっちだろ、菖蒲は芸術の才能があるんだろ」
 父はここで娘達にこう言った。
「菫は勉強の才能があるんだ」
「それぞれなの」
「才能があるの」
「だったらな」 
 娘達にさらに言った。
「それぞれの才能を伸ばせばいい、二人共好きだろ」
「絵とか習字とか好きよ」
 まずは菖蒲が答えた。
「描いたり書いてるだけでね」
「好きなら尚いい、続けたらな」
 それならというのだ。
「いい。菫は勉強嫌いか」
「やればやる程よくなるから」
 それでとだ、菫も父に答えた。
「好きよ」
「だったらどんどん勉強するんだ」
「そうすればいいのね」
「二人共な」
「そうね。二人共他のことは目立った悪くないし」
 母も言ってきた。
「このままね」
「やっていけばいいな」
「そうよね」
「ああ、このままな」
 夫婦で話した、そして娘達にそれぞれお互いにコンプレックスを抱かせない様に気を付けつつそれぞれ励ましていってだった。 

 

第二章

 才能を開花させる方に育てていった、すると菖蒲は優れた画家に書道家として知られる様になり菫は国立大学の教授で文学者になった。それぞれよくパートナーにも出会え幸せな家庭を築けた。その二人がそれぞれの家族と共に実家に帰った時にだ。
 今は定年している父はしみじみと言った。
「二人共いい才能を持っていたよかったよ」
「そうよね」
 母も言った。
「それを伸ばせてね」
「全くだ」
「いい才能って才能あるなら」
 両親の言葉を聞いてだ、まずは菖蒲が言った。
「いいでしょ」
「そうよね」
 菫も言った、二人共髪型は子供の頃のままであるが外見は母の三十代の頃そっくりになっている。両親はすっかり皺だらけで白髪になっている。
「それなら」
「問題ないわよね」
「ああ、才能といっても色々だぞ」
 父は娘達に言った。
「中には嘘を吐いたり盗んだりな」
「そういうのも才能?」
「悪いことするのも」
「ああ、嘘を吐く天才だっているんだ」 
 父は嫌そうに話した。
「誰にも平気でな」
「嘘吐けるの」
「そうした人いるの」
「そうだ、詐欺師だってそうだしな」
「世の中そんな人もいるから」
 母も言ってきた。
「そうした才能がないならね」
「いいことだ、才能といってもな」
「悪い才能もあるから」
「二人共そうした才能はなくてよかった」
「だからね」
「お父さんもお母さんも嬉しいんだ」
「そうなの。嘘吐く才能なんてね」 
 菖蒲はどうかという顔で述べた。
「いらないけれどね」
「泥棒の才能もね。私達がそうした才能持ってなくて」
 菫もそうした顔で言った。
「それを磨くこともなくてね」
「よかったわね」
「ええ、いい才能持ってて」
「それを磨けて今があるから」
「私達は幸せね」
「そうだ、いい才能を持っててそれを磨けてな」
 父は娘達にまさにと答えた。
「成功したらな」
「幸せね」
「そう出来たら」
「それでな」
「じゃあ皆でご飯食べましょう」
 母がここで言ってきた。
「鳥鍋よ、あんた達の家族も入れて皆で食べましょう」
「母さんの料理は美味しいからいいな」
「私はそっちの才能があって磨けたわね」
「ああ、そのことも幸せだな」
「本当にね」
 夫婦で笑顔で話した、姉妹はそんな両親を見て彼女達も笑顔になった。そして二人のそれぞれの家族も入れて母が才能を発揮した美味しい鍋を皆で食べるのだった。


才能はいい才能ならよし   完


                    2024・2・17