真似と開閉と世界旅行


 

第二の始まり~

 
前書き
・・・と言うわけで、咲編スタートです。ではどうぞ! 

 
『・・・はい。誕生日おめでとう、姉貴!』


『ふふ・・・覚えていてくれたのか』

『まあね。大切な家族の事だし・・・』

『・・・だが、私はろくにお前を祝ってやれなくて・・・』

『気にしないでよ。・・・っと、そろそろ時間だ』

『・・・今日がお前の初陣だな。・・・絶対に帰ってこい』

『わかってるよ。帰ってきたら姉貴のお祝いだ』

『・・・そうだ。これを持っていけ』

『これ・・・ペンダント?』

『お守り代わりだ。・・・行ってこい』

『・・・行ってきます。■■■』

最後に、名前を呼んだような・・・名前は・・・









「う・・・」

目を開く。そこは日本の自分の部屋でも、見慣れた洛陽の部屋でも無い。

「・・・」

ベッドから起き上がり、窓を開ける。

預言(スコア)通りの晴天か・・・」

預言。それはこの世界の秩序を作っているモノだ。預言には文字通り、一人一人の人間の運命が記されている。・・・重度な人間は一日の食事や行動すら預言に頼っている。

「下らない・・・」

俺、五十嵐咲は今はこの・・・“テイルズオブジアビス”の世界にいる。・・・この世界については・・・説明が面倒だ。預言もそうだが、RPGの定番であるマナは、音素(フォニム)と呼ばれていて、一から七まである。それについての説明は追々するとして・・・

「まずは着替えるか・・・」
服を着替えようとして、軽くコンプレックスになっていた長い髪が目に入る。・・・ただし、髪の色は黒ではなく金だ。何故かは知らない。それに、俺は咲の記憶はあるが、サキの記憶・・・つまりこの世界に存在する俺の・・・十四までの記憶はなくなっている。

「・・・」

服を脱ぎ、鏡を見ると背中に一筋の傷。黒ずんだ片腕。紅くなっている髪の一部と片方の瞳。

「よっ・・・」

服を着て、髪を一本に纏める。・・・俺が咲の記憶を取り戻したのは、一年前・・・部屋の中でいきなり、撫子が現れ・・・俺に話しかけた瞬間だ。

「マジでビビったんだからな・・・」

俺は愚痴りながら、部屋を出る。

「よう、サキ」

「ガイか。相変わらず朝早いのな」

話しかけてきた男は、ガイ・セシル。・・・俺を拾ってくれた恩人でもある。

「それにしても、もうサキも成人したんだよな」

「まあな。・・・まあ、正しいのかは知らねえけど」

「ま、記憶なんて何時でも戻るさ。それじゃ、俺は仕事に行くぜ」

「俺もすぐ行くよ」

・・・肝心な事を話していなかった。俺がいる場所は、キムラスカ王国と呼ばれる国の、ファブレ家と呼ばれる公爵家の奉公人をガイと共にやっている。この世界はキムラスカ王国とマルクト帝国がある。後は預言を詠むダアトという所もある。

「・・・」

俺は目の前にあるドアをノックする。

「・・・ルーク様。起きていますか?」

『サキか?入れよ』

俺は中に入る。中にいたのはこのファブレ家の一人息子。ルーク・フォン・ファブレだ。・・・簡単に言ってしまえば、アビスの主人公だ。

「・・・なあ、サキ。今日はヴァン師匠(せんせい)が来る日だよな?」

「ああ。確かな・・・俺、アイツ苦手なんだよな・・・」

ヴァン、というのはダアトにあるローレライ教団の人間で、ルークの剣術の師匠でもある。・・・だが、何故か俺はヴァンが苦手だ。理由はわからないが・・・

「楽しみだなー。ヴァン師匠と早く訓練したいぜ」

「まったく。まるで犬だな」

「んだと?」

俺とルークはお互いに軽口を叩く。実はルークも記憶喪失だ。子供の頃、マルクト帝国に拉致され、助け出した時には、まるで生まれたての赤ん坊のような状態だった。俺は数年前にここに来たが、ルークに俺の事を話したら、記憶喪失同士話が弾み、タメ口で話せる位の仲になった。

「・・・とにかく、もう少ししたらメイドが呼びに来ると思うから、それまで待ってろよ」

「おう。じゃあな、サキ」

俺は部屋から出ると、すぐに屋敷の掃除を始める。

「(まさか、自分が月や詠の仕事を体験する日が来るなんてな・・・)」

しばらく掃除をしていると、背後から声がした。

「ご苦労、サキ」

「あ・・・おはようございます、ファブレ公爵」

ルークの父親の、ファブレ公爵。俺をここで働かせてくれているのも、この人のお陰だ。

「・・・ルークの様子はどうだ?」

「今日は『ヴァン師匠が来る』と言って、外に出たいとは申しておりません」

「そうか・・・」

ルークは拐われて以来、この屋敷に軟禁(ルーク曰く監禁)されている。親として心配なのだろうが、ルークにはイマイチ伝わってない。

「ルークの事を頼むぞ」

「はい」

ファブレ公爵はそう言って去っていく。

「・・・」

どうもあの人はルークを避けている節がある。奥様はルークをとても心配しているが・・・

「とにかく、仕事を片付けよう・・・」

あらかた仕事を終わらせ、中庭を見るとガイと庭師のペールが見ている中、ルークとヴァンが訓練していた。

「おーおー、嬉しそうだな」

なんて見ていた時・・・

ーーーーー♪


「・・・?」

歌・・・?

ーーーーー♪

「・・・ッ!?」

その歌を聴いた瞬間、身体から力が抜けて・・・眠気に襲われて、片膝をつく。

「なん、だ・・・?」

その時、正面玄関から見慣れない少女が入ってきた。・・・見張りの兵士は何をやっているんだ、と言いたかったが・・・俺でさえこの様だ。兵士は完全に眠りに入っていると見て間違いない。

「ま・・・待て!何者だ!」

空間を開いている暇は無い。俺は飾られている甲冑から剣を奪う。

「・・・まさか、私の譜歌(ふか)を聴いて平気な人がいるなんて・・・」

少女はそう呟いた後、何処からか取り出したナイフを投げてくる。

「チィッ!」

剣を振り、ナイフを叩き落とすが・・・

「甘いわ」

足元にナイフが三本刺さる。

「まさか・・・!」

避けようとしたが、時既に遅し。ナイフから放たれた光が結界を作り、俺を閉じ込める。

「しまった・・・!」

少女は中庭へと歩いていく。・・・そして、しばらくした後・・・中庭がいきなり輝き、光が収まる頃には少女とルークの姿が消えていた。

「何、が・・・?」

少女が消えると同時に結界が消える。


「ガイ!何があった!?」

俺は中庭に駆け込んでガイに近寄る。

「わ、わからない。いきなり・・・」

「疑似超振動が起きたのか・・・」

「え・・・?」

ヴァンが不意にそう呟いた。

「・・・私はすぐにファブレ公爵にこの事を伝えてくる。・・・すまないが、君達にはルークの捜索を頼みたいのだが・・・」

「(コクッ)」

「・・・はい」

俺とガイはそう返す。俺は部屋に戻り、タンスから無造作に服を引っ張り出す。

「仕方ないか・・・たく、手間のかかる奴だな」

黒いシャツ、黒いズボン。左手に黒ずんだ腕を隠すように肘まである手袋。そしてボロボロの黒いマントを身に纏い、紅いマフラーを首に巻く。

「準備・・・完了!」

俺は外に出る。するとガイも部屋から出ていく。

「俺は準備完了だ。・・・ガイは?」

「こっちも万端だぜ。・・・悪いが、俺は先に行かせてもらう。ルークが心配なんでな」

「ああ、分かった」

ガイが走りだし、俺は中庭に誰もいない事を確認したら・・・腕を交差させる。

「ハァァァァ・・・」

身体を黒い闇が包んでいく。


「ウォォォォォォォォアアアアア!!」

変貌していく身体。俺はBモードを発動させる。

「・・・ハァッ!」

翼を動かして、空を飛ぶ。・・・この空を飛ぶことは・・・楽しい。よく亮が羨ましそうにしていたのを思い出す。

「(飛びたいなら浮遊魔法覚えりゃいいのによ・・・)」


・・・っと言ってみたこともあるが、答えは「そういう翼とか羽とかで飛んでみたいんだよ!」・・・だった。別に違いはないと思うが・・・



「とにかく・・・片っ端から見て回るしかないか・・・」

俺は村の近くで元の姿に戻り、着地する。

「よっ・・・と」

そのまま歩き出そうとした時、気配を感じて振り返った。

「グルルル・・・」

「魔物・・・!」

たしかウルフと呼ばれる魔物。

「・・・なるほど」

様子を見る限り、食料目当てで村を襲う気か。

「・・・今退けば後で食料を持っていってやる。だから、村を襲うのはやめろ」

「ガァァァ!」

「『断る』・・・それがお前の答えか?」

「グォォ!」

「『退け』・・・か、断る。お前こそ退けよ」


俺は魔物の言葉が分かる。理由は・・・今は話す余裕がない。ウルフが噛み付いて来るが、俺は避けながら・・・あの言葉を口にする。

「“開け”」

俺の能力を使うためのキーワード。そして開いた空間から、白と黒の入り交じった方天画戟を引きずり出し、構える。

「ガァオオンッ!」

「ふっ!」

素早さで相手の死角を狙う。

ガゴン!

「オラァ!」

そして、防ぎようのない全力の一撃はウルフの爪を砕く。

「まだだ!」

更に、容赦なく攻めて、ウルフにダメージを与えていく。

「・・・」

これらは全て俺の記憶にある奴の二番煎じ。ソレに近くはあれど、抜ける事はない。

「・・・なぁ、ここまでにしよう。お前だって命を捨ててまでそこまでするのは・・・」

「ガァァァァ!!」

ウルフは俺が言葉を理解できない咆哮で跳んでくる。

「・・・バカ野郎が!」

俺は方天画戟を回転させ、石突きでウルフに突きを放つ。

ガゴォン!

「ガ・・・」

ウルフはその場に崩れる。

「・・・」

その時、小さなウルフが倒れているウルフに近寄る。

「・・・お前」

「がるる・・・」

「・・・こいつの子供か・・・なんでこんな事を・・・」

「あう!」

「『自分の餌を取りに行った』だって?」

俺はウルフに近寄り、手をかざす。

「ふぅ・・・」

そして詠唱を開始する。

「癒しよ・・・ヒール」

癒しの術は第七の音素の特徴。それと、俺は全ての音素の適正がある。・・・ちなみに、第一から第六までは適正がなくても何とかなるが、第七は違う。そもそも第七音素(セブンスフォニム)は従来の音素と違い、属性を持たない。そして、第七音素は適正が無いのに使おうとすると・・・音素が暴走する。つまり、第七音素は産まれた時にランダムに与えられる特殊な音素という訳だ。

「・・・よし、取りあえずこれで大丈夫。・・・悪いな、今はこれぐらいしか・・・」

俺は空間に入れておいたリンゴをウルフの近くに置く。

「じゃあな。・・・家族を傷つけて・・・ごめん」

俺は立ち上がり、方天画戟を空間に投げ入れて村に向かって歩く。俺の物語は、幕を開けた・・・

 
 

 
後書き
サキ
「出番キター!しかも名前が片仮名に変わったぜ!」

リョウ
「しばらくは俺の出番は無しか」

サキ
「へへ、俺が味わった気持ちをたっぷりと味わいな!」

リョウ
「・・・いーよ。俺は蓮華達と話すから。それに・・・」

亞莎
「はい?」

リョウ
「亞莎が帰ってきたからな」

サキ
「・・・俺だってすぐに恋と詠を助けてやるさ」

リョウ
「楽しみにしてるぜ」

亞莎
「咲さんのプロフィールは次回です。また、使わない能力等があったら、それはNGな能力です」

リョウ
「・・・俺、禁止されたの・・・殆ど戦闘の主軸だったんだけど」

サキ
「俺だってそうさ」

亞莎
「また、それ以外で質問があったらどうぞ。それでは!」

リョウ
「次回の続・真似と開閉と世界旅行!」

サキ
「次回もよろしく!」 

 

過去~

 
前書き
なんかもう、原作変えまくりになりそうな予感・・・ではどうそ。 

 
・・・結局村の人は何も知らず、手がかりは得られなかった。

「・・・はぁ」

外に出ると、ウルフの親子は姿を消していた。

「(・・・そういえば)」


俺は再び空を飛びながら、昔の事を思い出していた。あれは確か・・・









「う、うぅ・・・」

身体中が痛い。意識が朦朧としている。

「・・・」

ガサッ、と草が揺れる。俺は顔を上げると、目の前には大型の魔物がいた。

「(死ぬのか・・・)」

俺は半ば諦めて意識を手放す。









「ううん・・・」

再び目を開くと、そこは森の中だった。

「ここは・・・?」

「・・・ッ!」

何かが動く気配。身体を起こすと、そこには一糸纏わぬ姿の少女がいた。

「・・・君は・・・」

「ふーっ・・・!」

だが少女は四つん這いになり、威嚇してくる。・・・そして、それに合わせて出てくるさっきの大型の魔物・・・本で見たことがある。確か、ライガクイーン。

「・・・お前が助けてくれたのか?」

「・・・」

ライガクイーンが頷く。・・・隣の少女は、このライガクイーンに育てられたのだろう。

「ガルル・・・」

ライガクイーンが少女を俺に向けて押し出す。そして、無理矢理二本足で立たせ、何かを訴えてくる。

「・・・人間の知識を与えろって事か?」

再び頷く。俺は痛む身体を無理矢理動かし、立ち上がる。

「・・・わかった。俺はサキ。サキ・・・あれ?」

思い出せない。一般常識などはすぐにわかるのに、自分の事だけ綺麗に頭から抜けている。

「・・・?」

警戒を解いた少女が不安そうに見上げてくる。

「・・・いや、とにかく・・・俺はサキだ。サ・キ。言ってみな?」

「さ・・・き・・・」


少女が掠れた声で言う。

「そうそう。・・・これからよろしく」

それから奇妙な生活が始まった。魔物達に助けられながら、少女に知識を与えていく。・・・何時しか俺も魔物の言葉が分かるようになっていた。

「・・・名前が必要だよな・・・」

「な、まえ・・・?」

少女が首を傾げる。・・・流石に裸のままでは可哀想なので、俺の着ていた上着を貸している。

「そう、名前。お前はライガクイーンを何て呼んでる?」

「・・・まま」

「じゃあお前は何て呼ばれてる?」

「・・・(ふるふる)」

なるほど、特に無しか。俺は考える。・・・何かないかな・・・


『このゲームにさー・・・』

『いたいた・・・』

『・・・アリエッタ』


「っ!?」

頭の中にいきなり流れる映像。知らない男と話していて・・・

「アリ、エッタ・・・」

「ありえった?」

少女が繰り返す。

「あ、ああ・・・どうかな?」

「ありえった・・・名前・・・アリエッタ!」


少女・・・アリエッタが俺に飛び付いてくる。

「アリエッタ、嬉しい!ありがとう、サキ!」


・・・後でライガクイーンに聞いたが、何れはアリエッタも人並みの暮らしをさせたかったらしい。アリエッタも俺と同じように海に流されてきた・・・ただし、アリエッタは当時赤ん坊だったから、どうしても知識が得られなかったらしい。

「なるほどね・・・」

まだ文字と言葉しか教えてないが、この調子ならきっと歴史や常識も・・・だけど、その日々は急に終わりを告げる。


「海か・・・」

俺は崖の上から遠くを眺めていた。

「俺にも・・・家族はいるのかな」

そう呟いた時、後ろから物音がした。

「アリエッタか?」

振り返ろうとした瞬間。

ズシャア

「・・・え・・・」

背中に冷たい感触。斬られた、と気づく前に身体は力を失い、崖下に落下していく。

「・・・」

そのまま意識が黒ずみ、同時に水面に落ちた・・・そしてまた流れ、ガイに助けられて、今に至る・・・と言うわけだ。









「(アリエッタ・・・どうしてるかな・・・)」


そのままキムラスカ中を探し回るが、まったく見つからない。


「まさか・・・マルクトか?」

俺は再び飛び、今度はマルクトに入る。・・・そして近くの村・・・エンゲーブに寄る。

「あの、すみませんが・・・ここら辺に紅い髪のチンピラみたいな奴が来ませんでしたか?」

「ああ・・・それなら昨日、ここを出ていったよ。確か・・・チーグルの森に行くとか・・・」

「ありがとうございます。それでは」

俺は村人に頭を下げてから森へ向かう。

「ここがチーグルの森か・・・」

俺は辺りを見渡しながら歩く。


「でも、ルークがこんな森に来たがるか・・・?」

そんな事を考えながらもどんどん奥に進んでいく。

「(ッ・・・血の匂い・・・)」

そして最深部で見たのは・・・

「・・・ライガクイーン!?」


血塗れで倒れていたのはライガクイーンだった。

「どうした!?何があった!?」

俺はライガクイーンに回復術をかけながら問いかける。

「ガァ・・・」


「『人間にやられた』だって?」

どうやらライガクイーンも俺だと分かったようだ。

「一体誰が・・・」

「グォォ・・・」

「『マルクト帝国の人間』・・・そうだ。他のライガやアリエッタは!?」

「・・・」

「ライガクイーン!」

俺は慌てて空間から・・・クレスがくれた薬を取り出す。

「間に合え・・・!」

薬を少量出し、音素の力で蒸発させ、それを風でライガの全身に纏わせる。

「ライガクイーン・・・」

何とか傷は癒えたが、それでも無茶は危険だ。俺はクイーンライガを移動させる。

「(ライガやアリエッタの行方が気になる。そもそも、ここはライガの住処じゃない。血の匂いはライガクイーンだけだから、他は無事なんだろうけど・・・)」


とにかく、考えていても仕方がない。俺は空を飛び・・・遠くにマルクト帝国の陸上装甲艦“タルタロス”が見えた。

「(アレか・・・!)」

俺は勢いをつけて飛ぶ。・・・こんな長時間飛ぶのは初めてだぞ。





「(・・・あれ?)」

タルタロスより遥か前に、見慣れた顔がいる。俺は離れた位置で着地して、元の姿に戻る。

「やっぱり・・・ルーク!」

俺が呼ぶと、ルークが振り返る。

「おま・・・サキ!?」

他にも何人かがいた。

「よっ、俺の方が早かったみたいだな」

「ガイまで・・・」

そして、見慣れない三人(後一人はファブレ家に侵入した少女)とお互いに話し合う。

「俺はファブレ家で使用人をしているサキだ。・・・お前らは?」

「僕はイオンと申します」

「イオン?イオンって・・・」

「ダアトのローレライ教団の最高指導者だな」

ガイが教えてくれる。

「なるほどね・・・そっちは・・・」

「私は、マルクト帝国第三師団師団長、ジェイド・カーティスと言います。以後、お見知りおきを」

「・・・」

俺はジェイドを見る。

「おや、何か私の顔についていますか?」

「いや・・・知り合いに似てたから」

まるで、てかまんま于吉にそっくりだ。態度も、声も。

「そんで、屋敷じゃ世話になったな」

「・・・私は、ダアトの神託の(オラクル)騎士団所属の、ティア・グランツよ」

「こいつ、ヴァン師匠の妹なんだとさ」

「妹?」

俺は少々考えた後・・・いきなり方天画戟をジェイドに突き付ける。

「サキ!?」

「おやおや、穏やかじゃありませんねえ」

「聞きたい事がある。ライガクイーンをやったのは・・・お前か?」

その言葉にルークが反応する。

「な、なんでお前がそれを・・・」

「俺はライガクイーンに助けられた事がある。・・・親代わりになって育ててもくれた」

「人を餌にするライガがあなたを・・・!?」

ティアが信じられないといった風に俺を見る。

「・・・ええ。確かに私が殺しました。ですが、そうしなければ被害が出ていたので」

「・・・」

確かに、正しいのはジェイドかもしれない。それに、ここで下手に口を滑らせてライガクイーンが生きている事を知られたら不味い。俺は大人しく方天画戟を引く。

「最後に・・・何でライガクイーンがチーグルの森にいたんだ?」

「・・・それはボクのせいですの」

いきなりルークの背後から小動物が現れた。

「な、なんだこいつ・・・」

「はじめましてですの!ボクはミュウと言うですの!」

「・・・お前が原因ってのは?」

「うみゅぅぅ・・・ボクがライガさんのお家を間違って燃やしてしまったんですの」

俺はそこまででミュウを止める。

「反省はしてるか?」

「もちろんですの!」

「じゃあ繰り返すなよ」

俺はそのまま黙り込む。その時、イオンがふらつく。

「イオン様。まさかタルタロスの中でダアト式譜術を使いましたね?」

ダアト式譜術・・・確か、ローレライ教団の導師だけに与えられる特別な術・・・そうか。最高指導者って事はイオンは導師なのか・・・とりあえず、そこで休憩する事になり、この変則的なパーティの理由を聞く。


「・・・戦争を回避するための使者って訳か」

ガイが説明を聞いてそう返す。・・・どうやらマルクト帝国はキムラスカ王国にキチンとした和解をしたいらしく。お互いが休戦できるようにしたイオンを頼ったらしい。そこでジェイドとイオンはキムラスカまで行こうとしたら、途中でタルタロスが襲撃にあい、イオンを拐われかけたそうだ。

「でも、なんだってモースは戦争を起こしたがっているんだ?」

・・・ちなみに、わりとローレライ教団もゴタゴタしているらしく、イオンを支える改革派と、大詠師モースを中心とした大詠師派がいるらしい。んで、イオンを拉致ろうとしたのが大詠師派という訳だ。

「それはローレライ教団の機密事項に属します。お話しできません」

「なんだよけちくせえ・・・」

ルークがぼやく。

「理由はどうあれ、戦争は回避すべきです。モースに邪魔はさせません」

ジェイドがそう言うと、ガイはルークを見る。

「ルークもえらくややこしい事に捲き込まれたなぁ・・・」

「ところで、あなたは・・・」

「そういや、サキはしたが俺はまだだったな。俺はガイ。ファブレ公爵のところでお世話になってる使用人だ」

ガイがイオンと握手し、ジェイドと・・・ティアが近づいた時、ガイがいきなり跳んで避けた。

「・・・何?」

「・・・ひっ」

ガイが後ずさる。

「・・・ガイは女嫌いなんだ」

「・・・というよりは、女性恐怖症のようですね」

「わ、悪い・・・キミがどうって訳じゃなくて・・・その・・・」

「私のことは女だと思わなくていいわ」

そう言って近づこうとするが・・・ガイはとことん逃げる。

「・・・わかった。不用意にあなたに近づかないようにする。それでいいわね?」

「すまない・・・」

「ガイも難儀だよな・・・」

俺は呟く。するとジェイドが・・・

「貴方達がファブレ公爵家の使用人ならキムラスカ人ですね。ルークを捜しに来たのですか?」

「まあ、な」

「ああ、マルクトの領土に消えてったのはわかってたから・・・俺は陸づたいにケセドニアから、グランツ閣下は海を渡ってカイツールから捜索してたんだ」

グランツ閣下ってのはヴァンの事だ。

「・・・って待て。マルクトに落ちたのを知ってたのか?」

「そうだが・・・あ、すまない。サキに言うのを忘れていた」

「お前な・・・」

だが、俺の言葉を区切るようにルークが言う。

「ヴァン師匠も捜してくれてるのか!」

「・・・兄さん」

その時、背後から鎧の音が聞こえる。

「やれやれ。ゆっくり話している暇はなくなったようですよ」

「に・・・人間・・・」

ルークが怯えたように下がる。

「ルーク、下がって!あなたじゃ人は斬れないでしょう!」

ティアが前に出る。俺は方天画戟を捻る。すると刃が動き、闇を通すと鎌に変形する。

「オラァァァァァ!」

一撃目で相手の剣を両断する。

「なにっ!?」

「そらよ!」

そのまま切り裂き、兵士は倒れる。見るとジェイドとガイも倒していて、ルークは一人、膝をついている兵士を見ていた。

「ルーク、とどめを!」

「・・・う・・・」

ルークが目を閉じて剣を振りかぶる。

ガキィン!

・・・だが、その剣は立ち上がった兵士の一撃で弾き飛ばされた。

「ボーッとすんな、ルーク!」

ガイとティアが走りだし、ガイが刀を振り、ティアがルークを庇う。

ズバァ!

・・・音が二つ聞こえた。ティアは片腕を抑えながらその場に倒れる。

「・・・ティア・・・お、俺・・・」

「・・・ばか・・・」

俺は急いでティアに駆け寄り、回復させる。

「あなたも・・・第七譜術師(セブンスフォニマー)なの・・・?」

「いいから黙ってろって。・・・そこまで傷は深くないか・・・」

「・・・仕方ありません。今日はここに野宿しましょうか」

俺はうなずく。

「ルーク・・・立てるか?」

ガイがルークに言う。そして、夜中になり・・・


「なあ、サキ・・・」

ルークが思い詰めた顔でやって来る。

「・・・どうした?」

「サキは・・・人を殺すのが怖くないのか?」

その質問に、俺は・・・

「さあ、な・・・怖かったと思う」

「思う?」

「俺さ・・・愛する人をこの手で殺してしまった事があるんだ」

「お前、記憶が・・・」

「関係ない記憶だけどな。なんつーか、その後に親友を勘違いでその仲間ごと殺そうとしちまった。俺が仲間に頭冷やされてわかったんだ。本当に怖いのは力を持つ事だって」

「力を・・・」

「俺は大切な人を守りたいから力を得た。どんどん強くなっていった。・・・けど、その力は守るどころか・・・大切な人を・・・傷つけてしまった」

「サキ・・・」

「そんな事があったからこそ、今の俺がいるんだ。二度と後悔しないように・・・な。だから怖いなんて感じてる余裕がないんだと思う」


「・・・俺、サキの事何にも知らなかったんだな」

「そうそう知られてたまるかよ。・・・ま、後悔だけはするなよ」

「・・・ああ」

俺はそのまま木に背中を預けて目を閉じる。・・・あの頃の夢を見た気がした・・・

 
 

 
後書き
サキ
「今回は・・・」

ルーク
「へへ、俺だな」

サキ
「んじゃ、一言よろしく」

ルーク
「なんかたりーな・・・俺はルーク・フォン・ファブレだ。まぁ、よろしくな」

サキ
「ついでに俺のプロフィールっと・・・」


サキ

二十歳

見た目は本編に書いてある通り、ほぼ真っ黒の服。赤のマフラーに詠の眼鏡。変わった点は髪が黒ではなく金髪だということ。また、十四までの記憶がないが、五十嵐咲の記憶はある。そして、魔物に助けられ、その際に魔物の言葉がある程度理解できるようになっている。全ての音素の適正がある。




サキ
「・・・こんなとこかな。質問があったらどうぞ」

ルーク
「別に答えなくてもよくねーか?」

サキ「いや、ダメだろ。それじゃ、次回の続・真似と開閉と世界旅行!」

ルーク
「次回も見ろよな」

 

 

遭遇~

 
前書き
もうすぐ新学期ですね。担任が理不尽にキレる教師じゃなきゃいいなぁ・・・ではどうぞ。 

 
・・・そして早朝、ティアは問題なく復活し、ティアがルークを連れてくる。

「私とガイ、ティアとサキで四角に陣形を取ります。あなたはイオン様と一緒に中心にいて、もしもの時には身を守ってください」

そうジェイドがルークに言う。

「え?」

「お前は戦わなくても大丈夫ってことだよ。さあ、いこうか」

俺達は歩き出す。

「ま、待ってくれ」

不意にルークが俺達を呼び止めた。

「どうしたんですか?」

イオンが立ち止まり、尋ねる。

「・・・俺も、戦う」

「人を殺すのが怖いんでしょう?」

「・・・怖くなんかねぇ」

「・・・下手な嘘はいらねーよ」

「本当だ!そりゃ、やっぱちっとは怖ぇとかあるけど・・・戦わなきゃ身を守れないなら戦うしかねぇだろ。俺だけ隠れてなんかいられるか!」

「ご主人様、偉いですの!!」

ルークがミュウを叩き落とす。

「お前は黙ってろ!とにかくもう決めたんだ。これから躊躇しねぇで戦う」

すると、ティアがルークに詰め寄る。

「・・・人を殺すということは相手の可能性を奪うことよ。それが身を守るためでも」


「・・・恨みを買うことだってある」

「そんで、一生その罪を背負わなきゃいけない」

ガイと俺が言う。

「あなた、それを受け止めることができる?逃げ出さず、言い訳せず、自分の責任を見つめることができる?」

「おまえも言ってたろ。好きで殺してる訳じゃねぇって。・・・決心したんだ。みんなに迷惑はかけられないし、ちゃんと俺も責任を背負う」

「・・・でも・・・」

「いいじゃありませんか。・・・ルークの決心とやら、見せてもらいましょう」

ガイがルークの肩に手を乗せる。

「無理するなよ、ルーク」

「・・・(コクッ)」

「・・・んで?次はどうするんだ?」

「ええ、アニスとの合流地点であるセントビナーへ向かいます」

「アニス?」

俺が聞くと答えたのはイオンだ。

「アニスは僕の導師守護役(フォンマスターガーディアン)ですよ」

「導師守護役ねぇ・・・んじゃ、相当厳ついのか?」

するとジェイドが笑う。

「いえいえ、とっても可愛らしい子ですよ」

「ふーん」

俺は既に子供でも強い奴はかなりいる事を知っているので、それ以上は特に聞かなかった。そしてセントビナーに到着するが・・・

「なんで神託の盾騎士団がここに・・・」

「タルタロスから一番近い街はこのセントビナーだからな。休息に立ち寄ると思ったんだろ」

「おや、ガイはキムラスカ人の割に、マルクトに土地勘があるようですね」

「卓上旅行が趣味なんだ」

「これはこれは、そうでしたか」

・・・確かに、ガイの部屋に結構地理関係の雑誌があったけど・・・

「んで、どうする?殺るか?」

「いえ、下手に騒ぎを起こすと、ここら辺をマークされてしまいます」

「だよなぁ・・・」

「大佐、あれを・・・」

ティアがジェイドに言う。・・・ジェイドって大佐だったのか。見ると馬車が通っていく。

「なるほど。これは使えますね」

「もう一台を待ち伏せて、乗せて貰うんだな?」

・・・結果、次に来た馬車に乗っていた人が、ルークとティアの知り合いだったため、あっさりと馬車に乗せてもらい、セントビナーに入る事ができた。

「・・・で、アニスはここにいるんだな?」

「マルクト軍の基地(ベース)で落ち合う約束です。・・・生きていればね」

「イヤなことを言う奴だな。じゃあ行こうか」

「・・・悪いけど、俺は別行動を取らさせてもらうぜ」

「・・・どうして?」

ティアが俺を疑惑に満ちた目で見てくる。

「・・・俺は人を捜しているんだ。キムラスカにはいなかった。なら、マルクトにいるのかもしれない・・・」

「人捜し、ですか・・・」

ジェイドも同様に疑いを持っている。

「戦別れしちまってな。死んだと思ってたけど・・・じゃ、街の人に話を聞いてくるよ」

俺はみんなから離れ、街の人から情報を集める。

「こんな人を見ませんでしたか?」

俺は二人の似顔絵・・・念のため、明命達の分も見せる。

「いや、知らないなぁ」

「そうですか・・・」

俺はため息を吐く。

『ため息を吐くと幸せが逃げるッスよ』

「うるせぇよ・・・は?」

俺は慌てて空間から方天画戟を取り出す。

『どもッス』

「・・・」

『ダークリパルサーッスよ!』

俺は方天画戟を操作して、ハンドアックスとダークリパルサーに分離させる。

『初めてッス!オイラは咲さんをサポートする為に生まれたッス!』

「ッ・・・」

言葉に出来ない苛立ちが募る。

「よく喋る奴だな・・・」

『よく言われるッス!でも、それが取り柄ッスから!』

俺は空間に投げ入れる。

「少し黙ってろ・・・!」

『ひどいッス~~~~・・・』



ダークリパルサーの声が聞こえなくなる。・・・長いからリパルでいいや。

「リョウコウの奴・・・余計なシステムをつけやがって・・・!」

・・・かなり後になって、これはリョウコウが付けた訳ではないと知り、謝る事になろうとはまだ知らなかった・・・












































街の隅にいるルーク達を見つける。

「・・・どうしたんだ?」

「いや、神託の盾が撤退したんだが・・・どうやら六神将が絡んでいるみたいだ?」

「六神将?」



「神託の盾の幹部六人の事です」

イオンが答えてくれると、ルークが言う。

「でも、五人しかいなかったな」

「黒獅子ラルゴに死神ディストだろ。烈風のシンク、妖獣のアリエッタ、魔弾のリグレット・・・と。いなかったのは鮮血のアッシュだな」

「・・・ッ、ま、待ってくれ・・・今・・・なんて・・・」

「?いなかったのは鮮血のアッシュ・・・」

「違う、その前!・・・アリエッタって言ったのか!?」

「あ、ああ・・・」
「・・・どうしたんだよ、サキ」

ルークが俺に聞いてくる。

「・・・アリエッタと俺は・・・一緒にいたんだ・・・ずっと前に・・・」

「ほう・・・敵の幹部と知り合い・・・ですか」

ジェイドの疑惑が強くなるのを感じる。

「彼らはヴァン直属の部下よ」

「ヴァン師匠の!?」

「六神将が動いているなら、戦争を起こそうとしているのはヴァンだわ・・・」

「六神将は大詠死派です。モースがヴァンに命じているのでしょう」

「大詠師閣下がそのような事をなさるはずがありません。極秘任務のため、詳しいことを話す訳にはいきませんが、あの方は平和のための任務を私にお任せ下さいました」

ティアが言うとルークが反発する。

「ちょっと待ってくれよ!ヴァン師匠だって、戦争を起こそうなんて考える訳ないって」

「兄ならやりかねないわ」

「なんだと!おまえこそモースとか言う奴のスパイじゃねえのか!?」

「二人とも、落ち着いてください」

「(俺が思うにゃ、どっちも怪しいけどな)」

イオンがなだめているのに、これを言うとまたヒートアップするので、俺は黙る。結局、俺達はアニスからの手紙で、カイツールに向かう事になった。

「・・・ま、水の中を歩くなんて思わなかったぜ」

俺達はフーブラス川に来ていた。

「仕方ないわ。近道の橋が壊れていたんだもの」

俺の愚痴にティアが真面目に返してくる。

「ここを越えれば、すぐキムラスカ領なんだよな」

「ああ。フーブラス川を渡って少し行くと、カイツールっていう街がある。あの辺りは非武装地帯なんだ」

「早く帰りてぇ・・・もういろんなことがめんどくせー」

「ご主人様、頑張るですの。元気だすですの」

ルークはミュウを踏む。

「おめーはうぜーから喋るなっつーの!」

「みゅう・・・」

「八つ当たりはやめて。ミュウが可哀想だわ」

「ルーク。面倒に巻き込んですみません」

「ちっ・・・」

イオンが言うとルークも落ち着く。

「さあ、ルークのわがままも終わったようですし、行きましょうか」

「わがままってなんだよ!」

ジェイドはスタスタ歩いていく。

「無視すんな、こら!」

「ジェイド・・・ルークの扱いをわかってるな」

俺達はどんどん奥へ進んでいく。すると・・・


「ガオオオン!」

「・・・ライガ!」

「後ろからも誰か来ます」

後ろにいた人物を見たとき・・・

「あ・・・」

俺は思わず声を漏らした。

「妖獣のアリエッタだ。見つかったか・・・」

「逃がしません・・・っ」

やっぱりこの声はアリエッタ・・・!

「アリエッタ!見逃して下さい。あなたならわかってくれますよね?戦争を起こしてはいけないって」

「イオン様の言うこと・・・アリエッタは聞いてあげたい・・・です。でもその人達、アリエッタの敵!」

「アリエッタ。彼らは悪い人ではないんです」

「ううん・・・悪い人です。だってアリエッタのママを・・・殺したもん!」

アリエッタの声には明確な殺意があった。

「何言ってんだ?俺達がいつそんなこと・・・」

ルークの疑問に答えるようにアリエッタが言う。

「アリエッタのママは、お家を燃やされて、チーグルの森に住み着いたの。ママは仔供達を・・・アリエッタの弟や妹達を守ろうとしてただけなのに・・・」

「まさかライガの女王のこと?でも・・・あ」

ティアが俺を見て言葉を詰まらせる。

「彼女はホド戦争で両親を失って魔物に育てられたんです。魔物と会話できる力を買われて、神託の盾騎士団に入隊しました」

「じゃあ、俺達が殺したライガが・・・」

「それがアリエッタのママ・・・!アリエッタはあなた達を許さないから!地の果てまで追いかけて・・・殺します!」

アリエッタが構えた瞬間、俺は叫んだ。

「ま、待ってくれアリエッタ!」

アリエッタは俺を見て・・・首を傾げた。

「髪が延びてるからわからないか・・・?俺だ、サキだ」

アリエッタの目が見開かれる。

「う、そ・・・?だって、だってサキは死んだって・・・」
「俺は生きている。それに・・・ッ!?」
ライガクイーンは生きている。そう口走りそうになった瞬間、いきなり地震に襲われた。そして何か蒸気のようなものが吹き出してくる。

「地震か・・・!」
「おい、この蒸気みたいなのは・・・」

「障気だわ・・・!」

ガイの言葉にティアが答える。イオンは焦りながら叫ぶ。

「いけません!障気は猛毒です!」

「きゃっ!!」


見るとアリエッタとライガが障気の直撃にあい、倒れる。

「アリエッタッ!!」

俺は全力で走り、アリエッタを抱き抱える。

「(こうなったら・・・!)」

障気は吸い続けると不味い。俺は黒ずんだ左手を解放するように力を籠めて・・・その時、歌が聞こえた。


ーーーーー♪

「この譜歌は・・・ユリアの譜歌です!」

・・・次の瞬間には、景色は元に戻っていた。

「障気が消えた・・・!?」

「障気が持つ固定振動と同じ振動を与えたの。一時的な防御壁よ。長くは持たないわ」

「噂には聞いた事があります。ユリアが残したと伝えられる七つの譜歌・・・しかしあれは、暗号が複雑で詠みとれた者がいなかったと・・・」

「詮索は後だ。ここから逃げないと」

「・・・そうですね」

そう返事するとジェイドは・・・こともあろうに俺に・・・正しくは俺が抱き抱えているアリエッタに槍を向けた。

「ッ!」

「や、やめろ!なんでそいつを殺そうとするんだ!」

俺が身構え、ルークが叫ぶ。

「生かしておけば、また命を狙われます」

「だとしても、気を失って無抵抗の奴を殺すなんて・・・」

「そうだ・・・もう・・・」

俺の頭の中を黒い感情に塗りつぶされていく。

「俺の家族を殺させるか・・・殺されるなら・・・そいつをブッコロシテヤツザキ二シテヤル」

身体中に闇が集まり、方天画戟を引き出して構える。

「ッ・・・!」

ジェイドの目の色が変わる。

「どうやら・・・あなたは危険すぎるようですね・・・」

俺とジェイドの間に殺気が渦巻く。

「止めてください、二人とも」

イオンの声で思考が元に戻る。



「ジェイド。彼女を見逃してください。アリエッタは元々、僕付きの導師守護役なんです」

ジェイドはしばらく俺を見た後・・・振り返る。

「・・・まあいいでしょう」

「障気が復活しても、当たらない場所に運ぶくらいはいいだろう?」

「ここで見逃す以上、文句を言う筋合いではないですね」


ガイは俺の耳元で話しかけてくる。

「(家族を失う悲しみは・・・わかるぜ)」

「(え・・・)」

「さぁてと!障気が復活する前に早くしようぜ」

俺はライガとアリエッタを寝かせる。

「・・・後で必ず誤解を解くよ・・・」

頭を軽く撫でてやってから俺は立ち上がり、みんなを追いかけた・・・













































「・・・少しよろしいですか?」



カイツールの目の前でジェイドがみんなを止める。

「・・・んだよ。もうすぐカイツールだろ。こんなところでなにするんだっつーの」

「ティアの譜歌の件ですね」

イオンの言葉にジェイドは返事をする。

「ええ。前々からおかしいとは思っていたんです。彼女の譜歌は私の知っている譜歌とは違う」

・・・譜歌は詠唱と旋律を組み合わせた・・・簡単な話“歌魔法”だ。だが、従来の譜歌は譜術ほど威力はないが・・・ティアが歌う譜歌はユリアの譜歌・・・ようするに譜術と同等の力を持っている。当然条件もあり、譜に込められた意味と象徴を理解、更に旋律に乗せる時に隠された英知の地図を作る・・・ぶっちゃけ一子相伝のかなり難しい技術という訳だ。・・・そして、ティアが言うにはティアの一族はユリアの血を引いているらしい。そして、再び歩き出す。

『さっき凄い怒ってたッスね。オイラもかなり恐かったッス』

頭に声が響く。

「(いきなりなんだ・・・!)」

『でも、やっぱり咲さんならあそこは怒るッスよね~』

「(うるせえ!お前に俺の何がわかるんだよ!)」

『そ、そんなに邪険にしなくても・・・』

「(・・・ハッキリ言ってやる。お前の言動の一つ一つがムカつくんだよ!)」

『ガ、ガーン!ッス!』


「(そういうのがムカつくってんだよ!くそ、俺はこんなふざけた武器で恋を・・・!)」

『えっ・・・』

「何でもねぇ!テメエは黙ってろ!次にふざけたこと抜かしたらリパルの部分をへし折るぞ!」

『そ、それだけは勘弁して下さいッスー!』

最後だけ叫んでしまい。周りに怪訝に思われる。俺は舌打ちをしながらカイツールに入った・・・












































































・・・カイツールに入ると・・・少女が兵士と話していた。

「あれ、アニスじゃねえか?」

「証明書も旅券もなくしちゃったんですぅ。通してください。お願いしますぅ」

「残念ですが、お通しできません」

「・・・ふみゅう~」

そう言ってアニスは去り際に・・・

「・・・月夜ばかりと思うなよ」

「(・・・)」

空耳・・・か?

「アニス。ルークに聞こえちゃいますよ」

イオンがそう言うと・・・

「ん・・・きゃわーん!アニスの王子様♪」

「・・・女ってこえー」

ガイがビビりながら呟く。

「(はぁ・・・な!?)」

和やかな会話をしている中・・・殺気を感じた。その直後、

「どうやって検問所を越えますか?私もルークも旅券がありません」

「ここで死ぬ奴にそんなものはいらねぇよ!」

ガキィン!

いきなり誰かが降ってきて、ルークを吹き飛ばす。そして俺達に背を向けている男はルークを追撃しようと・・・

「退け、アッシュ!」

「・・・ヴァン、どけ!」


・・・いきなり現れたヴァンがルークをかばっていた。男は舌打ちして飛び去っていく。

「師匠!」

「ルーク。今の避け方は不様だったな」

「ちぇっ、あっていきなりそれかよ・・・」

「・・・ヴァン!」

ティアがナイフを構える。


「ティア、武器を収めなさい。お前は誤解をしているのだ」

「誤解・・・?」

「頭を冷やせ。そして私の話を聞く気になったら宿に来い」

そう言ってヴァンは去ろうとするが・・・

「ヴァン師匠!助けてくれて・・・ありがとう」

「苦労したようだな、ルーク。しかし、よく頑張った。さすがは我が弟子だ」

「へ・・・へへ!」

俺達はティアをなだめ、宿屋に向かう。・・・さて、どうなるか・・・























 
 

 
後書き
サキ
「・・・」

ガイ
「荒れてるなぁ」

サキ
「自己紹介しろ」

ガイ
「あ、あぁ・・・俺はガイ・セシル。ファブレ公爵のもとで使用人をしているんだ。よろしくな」

サキ
「あと、こいつ女性恐怖症だから、シィ、ユエ、撫子、サチ辺り。ガイに近寄ってくれ」

ガイ
「おい!俺を殺す気か!」

サキ
「安心しろよ。みんな美少女だから。・・・あれ、つか知り合いに美少女しかいないような・・・」
ガイ
「美少女とかそういう問題じゃない!むしろ女性は大好きだ!」

サキ
「声高々に女好きって宣言されてもな・・・それじゃ、次回の続・真似と開閉と世界旅行!」

ガイ
「次回も見てくれよな」

サキ
「さて・・・霞ー、いるかー?」

ガイ
「やめろぉぉぉぉ!」

 

 

狂気~

 
前書き
狂気~ 

 
・・・俺達はヴァンの話を聞くことにした。

「頭が冷えたか?」

「・・・なぜ兄さんは戦争を回避しようとなさるイオン様を邪魔するの?」

ティアは敵意剥き出しで言う。

「やれやれ。まだそんなことを言っているのか」

「違うよな、師匠」

「でも六神将がイオン様を誘拐しようと・・・」

「落ち着け、ティア。そもそも、私は何故イオン様がここにいるのかすら知らないのだぞ。教団からは、イオン様がダアトの教会から姿を消したことしか聞いていない」

「すみません、ヴァン。僕の独断です」

「こうなった経緯をご説明いただきたい」

するとジェイドが口を開く。

「イオン様を連れ出したのは私です。私がご説明しましょう」

そうしてジェイドは事情を話す。

「・・・なるほど、事情はわかった。確かに六神将は私の部下だが、彼らは大詠師派でもある。おそらく、大詠師モースの命令があったのだろう」

「なるほどねぇ。ヴァン謡将が呼び戻されたのも、マルクト軍からイオン様を奪い返せってことだったのかもな」

「あるいはそうかもしれぬ」

ガイが言うとヴァンが肯定する。

「先ほどお前達を襲ったアッシュも六神将だが、奴が動いていることは私も知らなかった」

「じゃあ、兄さんは無関係だっていうの?」

「いや、部下の動きを把握していなかったという点では無関係ではないな。だが、私は大詠師派ではない」

「初耳です、主席総長」

アニスが驚く。

「六神将の長であるために、大詠師派ととられがちだがな。それよりティア、お前こそ大詠師旗下の情報部に所属しているはず・・・何故ここにいる?」

「モース様の命令であるものを捜索してるの。それ以上は言えない」

「第七譜石か?」

「ーーー機密事項です」

「第七譜石?なんだそれ?」

『・・・』

ルークの発言で場の空気が止まる。

「なんだよ、バカにしたような顔で・・・」

「箱入り過ぎるってのもなぁ・・・」

ガイが頭を掻く。

「第七譜石ってのはユリアが詠んだ預言だ。確か・・・世界の未来史が書かれてるんだよな?」

俺がティアに聞くとティアがうなずく。
「あまりにも長大な預言なので、それが記された譜石も、山ほどの大きさのものが七つになったんです。それが様々な影響で破壊され、一部は空に見える譜石帯となり、一部は地表に落ちました」

「地表に落ちた譜石は、マルクトとキムラスカで奪い合いになって、これが戦争の発端になったんですよ。譜石があれば世界の未来を知ることができるから・・・」

イオンとアニスも説明していく。

「ふーん。とにかく七番目の預言が書いてあるのが第七譜石なんだな」

「第七譜石はユリアが預言を詠んだ後、自ら隠したと言われています。故に様々な勢力が第七譜石を探しているのですよ」

「くだらねぇ・・・」

俺は誰にも聞こえないように呟く。・・・結局、この場はお開きになり、旅券はヴァンがなんとかしてくれた。・・・今日はここで休み、翌日出発するらしい。









「(・・・はぁ)」

俺はベッドに横になっていたが、まったく眠れない。

「・・・」

俺は空間から指輪と・・・ペンダントを取り出す。

「・・・」

指輪は詠とのペアリングで・・・ペンダントには、この世界の文字で“ハッピーバースデー サキ”と書かれていた。

「(俺は・・・この世界の俺は誰なんだ・・・)」

俺は指輪とペンダントを握りしめる。・・・記憶を取り戻すのが、怖い。

「(もし“サキ”の記憶が蘇った時・・・俺は“咲”でいられるのか・・・)」

当然、思考もまったく違うであろう二つの咲。俺が俺でいられる可能性は高くもない。・・・いや、そもそもここはシィの力でも不安定・・・イレギュラーを許さない世界の一つだ。なぜ五十嵐咲が存在できる?そして、何故その世界で恋姫の誰かが存在している?

「(くそっ・・・)」

無理矢理眠りにつくように自己暗示をかける。









次の日、カイツールを越えてカイツール軍港に向かう。だが・・・

「・・・ああ?なんだぁ?」

何処か騒がしい。

「魔物の鳴き声・・・」

上を見ると鳥の魔物が飛んでいく。

「あれって・・・根暗ッタのペットだよ!」

アニスが言うとガイが聞き返す。

「根暗ッタって・・・?」


アニスはガイに近寄り、ポカポカ叩く。

「・・・ひっ」

「アリエッタ!六神将妖獣のアリエッタ!」

「わ・・・わかったから触るなぁ~~!!」

「アリエッタが・・・どうして・・・」

「港の方から飛んできたわね。行きましょう」

俺達は走り出す。

「ほら、ガイ。喜んでないで行きますよ」

「嫌がってるんだ~~~!!」


そして港に到着するが・・・

「・・・う・・・」

ルークが呻く。見ると大量の兵士とライガが死んでいて、ヴァンとアリエッタがいる。

「アリエッタ!誰の許しを得てこんな事をしている!」

俺達も駆けつける。

「やっぱり根暗ッタ!人にメイワクかけちゃ駄目なんだよ!」

「お前達か」

「アリエッタ、根暗じゃないモン!アニスのイジワルゥ~!!」

「何があったの!?」

ティアが聞く。

「アリエッタが、魔物に船を襲わせていた」

「総長・・・ごめんなさい・・・アッシュに頼まれて・・・」

「アッシュだと・・・」

アリエッタが鳥の魔物を呼び、それに掴まる。

「船を修理できる整備士さんはアリエッタが連れていきます。返して欲しければ、ルークとイオン様がコーラル城へこい・・・です。二人がこないと・・・あの人達・・・殺す・・・です」

「アリエッタ!」

俺が叫ぶとアリエッタは俺を見る。

「サキ・・・サキもきて・・・」

アリエッタはそう言って飛んでいく。

「アリエッタ!・・・くそっ!」

「待ちなさい、サキ!」

走り出そうとした時、ジェイドに止められる。

「んだよっ!」


「今は生きている人の救助が先です」

「くっ・・・」

「・・・ところで、コーラル城とは?」
ジェイドがガイに聞く。

「確かファブレ公爵の別荘だよ。前の戦争で戦線が迫ってきて放棄したとかいう・・・」

「へ?そうなのか?」

ルークが聞くとガイが呆れる。

「おまえなー!七年前にお前が誘拐された時、発見されたのがコーラル城だろうが!」

「俺、その頃のことぜんっぜん覚えてねーんだってば。もしかして、行けば思い出すかな」

「行く必要はなかろう。訓練船の帰港を待ちなさい。アリエッタのことは私が処理する」

「・・・ですが、それではアリエッタの要求を無視することになります」

「今は戦争を回避する方が重要なのでは?」

イオンとヴァンが公論する。

「ルーク。イオン様を連れて国境へ戻ってくれ。ここには簡単な休息施設しかないのでな。私はここに残り、アリエッタ討伐に向かう」

「な・・・」

「は、はい、師匠」

俺は周りを見て・・・生存者がいないのを確認する。

「・・・断る。俺はコーラル城に行かせてもらう」

「お、おい!サキ!?」

ガイが呼び止める声に耳を貸さず、走り出す。









「・・・ここが・・・」

『コーラル城ッスね』

「・・・」

『そ、そんなあからさまに嫌な顔をしなくても・・・』

「・・・別に」

俺は中に入り、探索する。

「・・・?」

『無駄に手入れが行き届いてるッス』

「・・・そうだな」

何かの気配を感じ、方天画戟を引き抜く。

「・・・」

『ど、どうしたッスか?』

「リパル、黙ってろ。・・・誰だ!」

その瞬間、光線が飛んでくる。

「ッ!」

咄嗟に横に跳び、避ける。今のは・・・

「チッ・・・」

「愛依・・・お前か!」

「・・・今はテメエの相手をしてる暇はねーんだ。オレは・・・っ?」

「・・・くく・・・」

『さ、咲さん・・・?』

「くくく・・・ははは・・・」

「な・・・なんだ、よ・・・」

「ははは・・・はは・・・ハーッハッハッハ!!」

俺は狂ったように笑い出す。

「見つけたぁぁ・・・見つけたぞ、アイィィィィ!!」

コイツが・・・コイツがぁ・・・

「お前も探してたぜぇ・・・ブッコロスためによぉぉぉぉぉ!!」

俺は方天画戟を構える。

『お、落ち着くッス!』

「シィィィネェェェェェ!!」

「く・・・!?このイカれ野郎がっ!」


愛依は二本の偃月刀で俺の一撃を防ぐ。

「ッつぅ・・・!?」

愛依が顔を歪ませる。

「弱えぇんだよぉぉ!オラァッ!」

ガキャアアンッ!

「ぐ、あ・・・!?」

愛依が吹き飛び、体制を立て直す・・・前に接近する。

「あ・・・」

「捕まえた」

足を掴み・・・地面に叩きつける。

「がは・・・」

「まぁだだぁ!」

そのままBモードを発動、愛依を引きずりながら飛び回る。

「分かった・・・分かったぜぇ・・・俺は抑えていたんだな・・・怒りを!悲しみを!悔しさを!そして・・・お前への殺意をなぁぁぁぁ!!」

もう一度叩きつけ、腕を踏み砕く。

「アアアアアア!?」

愛依の悲鳴が響く。

「ハハハハッ!殺意を解放しちまえばこんなに容赦なく殺れるんだな!もっと早く気づけばよかったぜ!!」

コイツは・・・コイツは俺達の世界をぶち壊しやがった・・・その報いを・・・受けさせてやる・・・!

「詠を、消して!」

ドゴォ!

愛依の腹を踏みつける。

「ごほっ・・・」

「恋も消した!」

更に。

「あ・・・あ・・・」

「明命も思春も亞莎もな!」

メキィ!

「う゛・・・」

「将のみんなや民から笑顔を消した!」

「・・・」

「ハァ・・・ハァ・・・ッ!」

方天画戟を振り上げる。

『だ、ダメッス!』

・・・が、いきなり方天画戟が分離し、ハンドアックスとダークリパルサーが落ちる。

「・・・」

『な、なんかおかしいッスよ!』

「・・・まあ、いいか」

左手が一回り大きく・・・刺々しくなる。

「・・・さぁ、首が折れんのが先か、窒息すんのが先か」

「ぎあ・・・ああ・・・」

愛依の細い首を掴み、力を籠める。

「苦しめ・・・苦しんで泣き叫んで媚びて詫びて許しを乞えよぉぉぉ!!」

「・・・さん・・・」

「あぁ・・・?」

愛依の身体から力が抜け、涙を流しながら何かを呟いた。

「怖、いよ・・・死にたく・・・ない・・・父さん・・・」

「・・・!」

それを聞いた瞬間、何かが狂っていた俺の一部が元に戻る。


「・・・はっ!?」

正気に戻り、慌てて愛依から手を話す。
「ぐ・・・ゲホッ、ゲホッ!?」

「俺、は・・・何を・・・」

愛依を見て・・・それから・・・それから・・・

「あ・・・あた・・・っ!?」

愛依が頭を振る。

「オレ、は・・・死ぬわけには・・・いくか・・・椿を残す訳には・・・」


愛依は苦しそうに呼吸をしながらふらふらと離れ・・・その姿を消した。

「・・・リパル・・・」

『な、なんッスか?』

「俺は・・・何なんだ・・・」


あそこまで痛め付ける必要があったか?あんなに不敵な態度を取っていようと少女だ。それを・・・

「このままじゃ・・・また・・・」

今なら分かる。殺人犯がカッとなって人を殺す事が。気がつけば人が死んでいる。目の前に・・・

「ウワァァァァァァァァァ!!!」
頭を抱えて叫ぶ。

『咲さん!しっかりするッス!今はやらないといけない事があるじゃないッスか!」

「ううう・・・ああ・・・」

そうだ・・・アリエッタ・・・アイツは・・・俺を待ってる。

「リパル・・・すまない」

『あ、謝らなくてもいいッスよ』

俺は笑う。・・・ただし、さっきとは違い、軽く笑っただけ。

「・・・そうだな。お前に謝るのもなんかムカつくしな」

『それはそれでヒドイッスー!』

「くくく・・・それじゃ、行くぜ」

方天画戟に戻して空間に放り投げる。・・・待ってろ、アリエッタ・・・ 
 

 
後書き
サキ
「・・・」

ティア
「・・・」

サキ
「・・・何か喋れよ」

ティア
「私の事は大体本編で言ってるわ。それ以上の事は今は言えないわ」

サキ
「そうかよ」

ティア
「・・・」

サキ
「・・・」

ティア
「・・・」

サキ
「(れ、恋とは違うベクトルで話が続かねぇ・・・)」

ティア
「・・・何かしら」

サキ
「い、いや、何でもない。・・・それじゃ、次回の続・真似と開閉と世界旅行!」

ティア
「・・・次回もよろしく」

 

 

突き刺さる言葉~

 
前書き
クラス替えでハズレを引きましたね・・・ではどうぞ! 

 
「・・・しっかし、広い屋敷だな・・・」

『そうッスね』

俺は辺りを見渡しながら言う。・・・正直に言う、迷った。

「つーか初めて来る場所に迷うもクソもねえよ」

愚痴りながら歩き続けると・・・目の前に血が飛び散っていた。

「また戻ってきたか・・・」

この血は愛依の血だ。・・・もう五回くらいこれを見た。

「おっかしーなぁ・・・どうやってここまで来たんだっけ」

『・・・ま、まさか出れない・・・なんて事はないッスよね』


・・・・・・・・・

『え・・・』

「天井撃ち抜くか・・・」

『建物が崩れるッスー!?』

「じゃあどうすんだよ。くそ、洛陽や蜀でも迷わなかったってのに・・・」

『大声で誰かに助けを求める・・・はどうッスか?』

「あのな。ここに誰かいるわけないだろうが」

そんな会話をして・・・ふと気づく。

「あれ、でも少なくともアリエッタはいるんだよな」

『そうッスよね』

「・・・でも、流石に呼べないか。しかも俺の声も届かねぇだろうし」


ガキィン・・・

「?」

『今・・・』

「あっちだ!」

俺は走り出す。そして、扉の目の前で誰かが飛び出してくる。

「退け!」

「おわっ!」

不意を突かれ、一瞬で逃げられてしまう。俺は追走を諦めて先に進む。すると・・・

「サキ、ここにいたのか!」

「ガイ?みんな?」

・・・何故か大人数がここにいた。

「どうして・・・」

「アリエッタを追いかけて来たんです」

イオンが言う。

「ええ。そうしたら何処かの坊っちゃんが敵に捕まりましてねぇ。仕方ないのでこうして助けた訳です」

よく見ると巨大な機械の中心からルークが出てくる。

「・・・嫌味な奴」

「おや?聞こえてましたか」

ジェイドがルークに言う。・・・俺はイオンに向かって話す。

「とにかく、アリエッタを止めよう。このままじゃ人質も危ないしな」

「根暗ッタ・・・なんで余計な事するんだろ」

アニスが愚痴りながらも歩く。そして、屋上に近づき・・・ルークがミュウを掴んで走り出す。・・・その直後、襲ってきた魔物に炎の洗礼を浴びさせた。

「へへ、何度も同じ手に引っ掛かると思うなよ」

「ルーク様、すっご~い」

「あなたにしては上出来ですね」

「いちいちうるさいぞ!」

「アリエッタのお友達に・・・火・・・吹いた・・・!もう許さないんだからぁ!!」

「うるせえ!手間かけさせやがって、このくそガキ!」

「いいもん!あなた達倒してからイオン様とサキを取り返すモン!ママの仇っ!ここで死んじゃえっ!」

アリエッタが叫ぶと同時に魔物がやってくる。

「根暗ッタ!いい加減にしてよね!」

アニスが背中に背負っていた人形を巨大化させ、それに乗る。・・・原理はわからない。

「アニスこそ、わたしのイオン様を返してよ!」

「イオン様の邪魔をする奴にイオン様を渡せる訳ないでしょ!」

両手に花・・・この状況じゃイオンも嬉しくないだろうけどな。俺は空間に手を入れる。

「悪い、リパル!留守番だ!」

『ええっ!?』

俺は空間からこの世界用にカスタムしたハンドガンを二丁取り出す。

「空の魔物にはな・・・!」

俺は銃を向ける。

「タイトバレット!」

横薙ぎにしながら連射し、動きを止める。

「アクアバレット!」

片方の銃で技を撃ち、もう片方の銃を水弾に向ける。

「フレアショット!」

水と火がお互いにぶつかりあい、水蒸気を起こす。

「グァァァ!」

俺を見失った魔物が鳴き叫ぶ。

「『何処だ』・・・か。答えてやるよ、上だ」

俺は魔物の真上に跳んでいた。

「セッシブバレット!」

魔物は銃弾の雨に直撃し、気絶する。

「音素弾だからな・・・加減ができるのが幸いだ」

見るとルーク達も魔物を片付けつつあった。

「光の鉄槌!リミテッド!」

ズガン!

「はうあっ!?」

アニスがアリエッタの譜術に吹き飛ばされる。

「アニス!」

俺は落ちてくるアニスを受け止める。

「無事か?」

「う、うん。ありがとう、サキ」

「・・・して」

アリエッタの声が聞こえてくる。

「どうしてアニスを助けるの!?どうしてアリエッタのお友達に攻撃するの!?」

「アリエッタ・・・それは・・・」

「その人達はママの仇なのに!なんでサキはその人達と一緒にいるの!」

「アリエッタ!話を・・・」

だが、俺は弁解をする前に・・・それすらできなくなる言葉をアリエッタの口から聞いた。

「サキの裏切り者!サキなんか大嫌い!」

「・・・!」

憎悪がその言葉を更に強め、俺の心に突き刺さる。

「裏、切り・・・」

「みんないなくなっちゃえぇ!ブラッディハウリング!!」

「危ない!」

アニスが咄嗟に後退りをするが・・・

「っ!?サキ!?」

「な・・・はっ!」

慌てて避けるが間に合わず・・・それに直撃してしまった。

「ぐぁ・・・」

その場に倒れる。

「え・・・あ、さ、サキ・・・?」

我を取り戻したアリエッタが事態を呑み込む。

『サキさん!しっかりするッス!』

「う・・・」

いくらなんでも直撃は不味かった。体が動いてくれない。

「違、わたし・・・サキを傷つけるつもりじゃ・・・いや・・・いやぁぁぁぁ・・・!!」

アリエッタの声が途切れ、何かが倒れる音が聞こえる。

「アリ・・・エッタ・・・」

「おい、大丈夫か!?」

ガイが俺を抱え起こす。

「ティア、頼む」

「わかったわ。・・・ファーストエイド」


ティアのお陰で体が動くようになる。

「おい、大丈夫かよ?」

ルークが聞いてくる。

「ちっとキツいかな・・・歩くのがやっとってレベルだ」

「・・・なら、好都合ですね」

ジェイドが槍をアリエッタに向ける。

「やはり、見逃したのが仇になりましたね」

「ッ!止めろ!」

俺が動くより早く、イオンが立ち塞がる。

「待ってください!アリエッタを連れ帰り、教団の査問会にかけます。ですから、ここで命を絶つのは・・・」

「それがよろしいでしょう」

その時、ヴァンが歩いてきた。

「師匠・・・」

「カイツールから導師到着の伝令が来ぬから、もしやと思いここへ来てみれば・・・」

「すみません、ヴァン・・・」

「(コイツらも独断で来たのか・・・)」

「過ぎた事を言っても始まりません。アリエッタは私が保護しますが、よろしいですか?」

「お願いします」

「やれやれ・・・キムラスカ兵を殺し、船を破壊した罪、陛下や軍部にどう説明するんですか?」

ガイがヴァンに尋ねるが、答えたのはイオンだ。

「教団でしかるべき手順を踏んだ後処罰し、報告書を提出します。それが規律というものです」

「・・・死刑とかはないよな」

「安心してください、サキ。そんな事はありませんから」

「・・・そっか」

「カイツール司令官のアルマンダイン伯爵より、兵と馬車を借りました。整備隊長もこちらで連れ帰ります。イオン様はどうされますか?私としてはご同行願いたいが」

「このコーラル城に興味がある人もいるようですけど・・・」

イオンがジェイドを見る。

「俺も馬車がいい」

「・・・と言う人もいますから、一緒に帰ります」

「わかりました」

ルークの言葉で決定する。そしてカイツール軍港まで戻り基地に向かう。

「これはこれは、ルーク様」

「・・・?」

「覚えておられませんか。幼い頃一度バチカルのお屋敷でお目にかかりました、アルマンダインにございます」

「覚えてねぇや・・・」

「ルーク様はまだお小さかったですからな。仕方ありません」

「イオン様。アルマンダイン伯爵にはアリエッタの件をお話ししておきました」
「我がしもべの不手際、お許しください」

「ダアトからの誠意ある対応を期待しておりますぞ」

ルークが何かを思い出したかのように言う。

「そうだ。伯爵から親父に伝令を出せないか?」

「ご伝言ですか?伝書鳩ならバチカルご到着前にお伝えできると思いますが」

「それでいい。これから導師イオンとマルクト軍のジェイド・カーティス大佐を連れてくって・・・」

「・・・ルーク。あなたは思慮が無さ過ぎますね」

ジェイドが呆れた声を出す。

「・・・カーティス大佐とは、死霊使い(ネクロマンサー)ジェイドのことか」

アルマンダイン伯爵がジェイドを見る。

「その通り。ご挨拶もせず大変失礼致しました。マルクト帝国皇帝、ピオニー九世陛下の名代として和平の親書を預かっております」

「・・・ずいぶん貧相な使節団ですな」

「あまたの妨害工作がありました故、お許しいただければと思います」

「こいつら、俺を助けてくれたんだ。何とかいいように頼む」

「・・・わかりました。取り急ぎ本国に鳩を飛ばしてみましょう。明日には船も出港できます故、本日はこの港でお休みください」

「お世話になります」





























































































































・・・やっぱり俺は眠れなかった。

「・・・」

『サキの裏切り者!』

アリエッタの言葉が甦る。

「裏切り者・・・か」

俺は下を向く。・・・瞬間、何かが目に入った。

「これ・・・血、か?」

俺は血の後を辿り・・・誰かが倒れているのを見つける。

「あ・・・」

だが、そいつは・・・血塗れで倒れていたのは・・・

「愛、依・・・」

悲惨なものだった。あちこち傷だらけで俺が踏み砕いた腕はありえない方向に曲がっている。・・・だが、その姿を見て・・・再び、俺の意識が狂い出そうとしていた。

「ぐ・・・」

真っ先に反応したのは左腕だ。五十嵐咲の記憶を取り戻した時、変化した身体の一部。・・・アリエッタと暮らしていた時までは普通の左腕だったのだが・・・何にせよ、この腕には俺の闇だけではなく、恋の闇も含まれている。・・・だから、真っ先に暴走するのはこの左腕だ。

「リパル!」

俺は方天画戟をダークリパルサーに変形させ・・・そのまま左腕を貫いた。


「ッッッ!」

『な、何をしてるッスか!?』

「ッ、ダークリパルサーなんだろ。だったら、俺の闇も打ち払えるかなって・・・」


痛みのお陰で狂気は収まった。・・・今の俺に、殺したいとは別の思い・・・話を聞いてみたいと思った。・・・冷静に考えれば、おかしい部分はたくさんある。例えば、恋を消した事。剛鬼とリョウコウに聞いたが、愛依は死体を消した。・・・その必要があるのか?亮が言うには錯乱した椿を落ち着かせるためらしいが・・・

「(じゃあ、何故あの食い逃げ犯や春鈴と共にいた兵士まで消した?)」

話を聞くと、どちらにも椿はいない。・・・駄目だ。想定できる事実がありすぎて、断定ができない。

「(考えてたってしょうがない)」

俺はダークリパルサーを引き抜く。

「さて、何て言い訳するか・・・」

愛依を抱き抱え、宿屋に向かう。・・・はたして・・・どうなるか・・・ 
 

 
後書き
サキ
「今回は・・・」

ジェイド
「私ですね」

サキ
「・・・」

ジェイド
「おや、どうしましたか?」

サキ
「・・・別に」

ジェイド
「しかし、あなたは本当に詳細がわかりませんね。これからの旅が不安です」

サキ
「随分ハッキリ言ってくれるな・・・」

ジェイド
「すみません。生憎根が正直なもので」
サキ
「(腹立つ・・・)まんま于吉じゃねえか畜生」

ジェイド
「于吉とは?」

サキ
「最初のボスで途中でも出てきて更に俺の中にいた奴だ」

ジェイド
「ほう。・・・まぁ、それはいいでしょう。それでは、次回の続・真似と開閉と世界旅行」

サキ
「そっちは俺の台詞だけどな・・・それじゃ、また次回!」 

 

ケセドニアへ~

 
前書き
ふふふ・・・今回もやっちまったぜ。ではどうぞ! 

 
・・・今、俺達は船に乗っていた。愛依の事は色々誤魔化し、連れてきた。


「(何やってんだろ・・・)」

俺は溜め息を吐く。

「(しっかし、こうして見たら普通の女の子だよな)」

一応傷はクレスの薬で回復させた。・・・残りはざっと半分位。


「少し・・・外に出るか」

俺は甲板に出て空を見上げる。

「恋・・・詠・・・俺、自分を見失いそうだよ・・・」

・・・汽笛が鳴る。どうやらここで乗り換えのようだ。










































「流通拠点ケセドニア・・・か」


その時、いきなりルークが女性にまとわりつかれた。

「あらん、この辺りには似つかわしくない品のいいお方・・・」

「あ?な、なんだよ」

「せっかくお美しいお顔立ちですのに、そんな風に眉間にしわを寄せられては・・・ダ・イ・ナ・シですわヨ」

素早く女性の手がルークの懐に伸びる。・・・俺は抱き抱えている愛依を片手で持ち、もう片手を空間に入れる。

「きゃぅ・・・アニスのルーク様が年増にぃ・・・」

「あら~ん。ごめんなさいネお嬢ちゃん・・・お邪魔みたいだから行くわネ」

「待ちなさい」

ティアが女性の行く手を遮る。

「あらん?」

「・・・盗ったものを返しなさい」

「へ?あーっ!財布がねーっ!?」

「ルーク・・・」

「・・・はん。ぼんくらばかりじゃなかったか。ヨーク!後は任せた!ずらかるよ、ウルシー!」

女性が財布を男に投げ、男は逃げ出すが・・・

ダァン!

素早く引き抜いた銃から撃たれた弾丸が足下で跳ね、男は驚いてバランスを崩す。

「動かないで。盗ったものを返せば無傷で解放するわ」

すかさずティアがナイフを男に突き付け、財布を奪い返す。

「・・・俺たち“漆黒の翼”を敵に回すたぁいい度胸だ。覚えてろよ」


「漆黒の翼ねぇ・・・」

「ところで大佐はどうして、ルークがすられるのを黙って見逃したんですか?」

「やー、ばれてましたか。面白そうだったので、つい」

「・・・教えろよバカヤロー!」

そりゃルークも怒るわな・・・

「とにかく、キムラスカの領事館に行こうぜ」

ガイの言葉で俺達は頷く。・・・ちなみに、ヴァンはアリエッタをダアトに搬送するため、別行動を取っている。




































「・・・そんで、これを調べるのか・・・」

領事館に行ったらまだ船の用意が出来ていないらしい。そうしたらガイが六神将の烈風のシンクから奪った音譜盤(フォンディスク)を調べようと言い出した。・・・あの時コーラル城で逃がしたのはシンクだったらしい。・・・話が逸れた。それで、解析機はケセドニア商人ギルドのアスターと言う人が持っている事を聞き、そこに向かう事になった。・・・が、

「悪い、コイツ宿屋に連れていってもいいか?」

俺は許可を得て愛依を宿屋に連れていく。


「う・・・うぅ・・・怖い・・・よ・・・」


愛依は何かにうなされているようだった。


「・・・」

「父さ・・・ん・・・ご・・・めんな、さい・・・ああああ!」

愛依の身体から闇が吹き出す。

「愛依!?・・・ッ」

しまった、と感じた時には遅かった。左腕が愛依の闇に呼応して・・・俺を呑み込・・・

「う・・・ぉぉぉぉ!!!」

・・・む前に無理矢理闇を切り離す。

「な・・・なんだ・・・?」

愛依の闇は・・・俺の闇と波長が似ている。故に呑み込まれかけたのだ。

『大丈夫ッスか?』

「あ、あぁ・・・」

「う・・・」

愛依の目が開く。

「目が覚めたのか」

一応すぐ反応できるように方天画戟を掴んでいたのだが・・・

「あ・・・う・・・」

「・・・?」

様子がおかしい。何処か怯えているような・・・

「あ、あの・・・誰・・・ですか・・・?」

「・・・は?」

思わぬ言葉を聞いて目を丸くする。

「な、なにふざけてんだよ!?」


「ひっ!?ご、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」


つい怒鳴ってしまい、愛依が怯える。

「(明らかに演技じゃない)」

何らかのショックで愛依は記憶喪失になった。・・・俺のせいだよな・・・俺は頭を掻く。

「あー、怒鳴って悪かった。俺は・・・五十嵐咲。お前は・・・」

「えっ、と・・・愛依、です・・・」

「それ以外は?」

「・・・ごめんなさい・・・わからない、です・・・」

「そうか・・・」

「・・・ごめんなさい」

「一々謝んなくてもいいよ。とにかく、俺は・・・」

一度考える。この言葉を口にすればどうなるか・・・いや、それでも言わなければならない。

「俺は・・・お前の味方だよ。だから、安心してくれ」

「味方・・・」

「そう。味方。・・・今の状況を説明するよ」

俺は愛依にこの世界の事を説明する。・・・ただし、破壊者としての事は一切教えない。・・・今の有り得ないくらい脆くなっている彼女にこの事実は受け止めきれないだろう

「・・・と言うわけだ。わかったか?」

「一応は・・・」

俺はこれだけは聞いておきたかった。

「んじゃ、最後に一つ。・・・椿って名前に聞き覚えは?」

「椿・・・?・・・うっ・・・」

愛依が頭を抑える。

「愛依?」

「なん、だろう・・・忘れちゃいけない名前の気がします・・・」

「そう、か。・・・そんじゃあ、次だけど」

これも聞かなければいけないだろう。

「これからどうする?」

「え・・・」

「だから、俺達に着いてくるかどうかさ」

「あ・・・その・・・えっと・・・」


どんだけ弱気なんだよ・・・

「お前がしたいようにすればいいだろ?」

「は、はい・・・ごめんなさい・・・」

「謝るなっての。怒ってる訳じゃないんだしさ」

『姿を見ただけでぶちギレてあいたたたたたた!?』

全力で方天画戟のリパルサー部分を握りしめる。

「あ、あの!・・・咲さんは・・・ご迷惑、じゃないですか・・・?」

「迷惑なら気絶してる時の方が迷惑だったっつーの。・・・んで?」

「わ、わたし・・・咲さんに着いていきたい・・・です」

俺は愛依の頭をわしゃわしゃ撫でる。

「なら着いてこい。危険があるかもしれないけど、守ってやるから」

「は、はい!」

愛依が満面の笑みを浮かべる。・・・もう誰だよコイツ。

「じゃあ、みんなと合流するから行くよ。・・・歩けるか?」

「大丈夫です」


愛依は立ち上がり、偃月刀を取り出した。

「これ・・・刃物・・・」

「あっ、と・・・」

愛依が偃月刀を見て驚く。

「わたしが・・・武器を・・・」

「嫌なら俺が預かっとくぜ?」

愛依は首を横に振る。

「いえ・・・自分で持ってます」


そうして俺と愛依ははルーク達と合流する。・・・音譜盤の内容は膨大のため、船で読む事にしたらしい。

「何だ、そいつ目が覚めたのかよ?」

ルークがそう言うと愛依は怯えて俺の背中に隠れる。


「お、おいおい・・・コイツらは仲間だよ」

「仲間・・・ですか?」

「ああ・・・」

その時、ティアが叫んだ。

「危ない!」

「うわっ!?」

突如現れたシンクがガイに一撃を加え、音譜盤を奪う。

「それを寄越せ!」

ガイは紙をかき集め、すぐに間合いを取る。

「ここでいさかいを起こしては迷惑です。船へ!」

「くそっ!なんなんだ!」

俺は愛依の手を掴んで走り出す。

「逃がすかっ!」


俺達は急いで船に乗る。

「ルーク様。出発準備完了しております」

「急いで出港しろ!」

「は?」

「追われてるんだ!急げ!」

間一髪逃げ切り、追っては来なかった。

「ここまで来れば追ってこれないよな」

「くそ・・・烈風のシンクに襲われた時、書類の一部を無くしたみたいだな」

「見せてください」

ガイがジェイドに書類を渡す。

「同位体の研究のようですね。3・14159265358979323846・・・これはローレライの音素振動数か」

「ローレライ?同位体?音素振動数ぅ?訳わからねー」

ルークが言うとティアが返す。

「ローレライは第七音素の意識集合体の総称よ」

「音素は一定以上集まると自我を持つらしいですよ。それを操ると高等譜術を使えるんです」

「それぞれ名前が付いてるんだ。第一音素(ファーストフォニム)集合体がシャドウとか、第六音素(シックスフォニム)がレムとか・・・」

アニスとガイも説明していく。

「ローレライはまだ観測されていません。いるのではないかという仮説です」

「はー、みんなよく知ってるな」

「ルーク、これ一応常識だからな?」

俺が茶化すと意外にもティアが言った。

「仕方ないわ。これから知ればいいのよ」

「なんか・・・ティアってば突然ルーク様に優しくなったね」

「そ、そんなことはないわ。そ、そうだ!音素振動数はね、全ての物質が発してるもので、指紋みたいに同じ人はいないのよ」

「物凄い不自然な話の逸らせ方だな・・・」

「ガイは黙ってて!・・・同位体は音素振動数が全く同じ二つの個体の事よ。人為的に作らないと存在しないけど」

「まあ、同位体がそこらに存在していたら、あちこちで超振動が起きていい迷惑ですよ。同位体研究は兵器に転用できるので、軍部は注目していますねぇ」

「昔研究されてたっていうフォミクリーって技術なら同位体が作れるんですよね?」


「フォミクリーって複写機みたいなもんだろ?」

ガイが訪ねるとジェイドは首を横に振る。

「いえ、フォミクリーで作られるレプリカは、所詮ただの模造品です。見た目はそっくりですが、音素振動数は変わってしまいます。同位体はできませんよ」

「・・・そうなんですか・・・」

どうやら愛依はずっとこの難しい話を聞いてたみたいだった。

「あーもー!訳わかんねっ!難しい話はやめようぜ。その書類はジェイドが・・・」

「た、大変です!ケセドニア方面から多数の魔物と・・・正体不明の譜業反応が!」

兵士が飛び込んできたその時、爆音と共に神託の盾が乱入してくる。

「いけない!敵だわ!」

「っ!愛依、イオン、下がってろ!」

俺は椅子を蹴り飛ばし、神託の盾の兵を怯ませる。


「ッルァ!」

そのままの勢いで方天画戟を取り出し、鎧ごと粉砕する。

「はぁ!」

「エナジーブラスト!」

ガイの居合い斬り、ジェイドの譜術で完全に神託の盾は沈黙する。

「やっぱりイオン様と親書をキムラスカに届けさせまいと・・・?」

「船ごと沈められたりするんじゃねえか?」

ガイが言う。

「ご主人様、大変ですの!ミュウは泳げないですの」

「うるせぇ。勝手に溺れ死ね」


「しかし、水没させるつもりなら突入してこないでしょう」

「じゃあ、船を乗っとるつもりだ!」

「やられる前にブリッジを確保しろって事か」

「そういうことです」

俺の言葉をジェイドが肯定する。

「神託の盾の奴ら、そんなに戦争させたいのかよ。めんどくせーなぁ・・・」

「面倒くさがらずに。行きますよ」

そうして甲板に上がる。

「・・・敵のボスはどこにいるんだよ!とっとと終わらせようぜ」

「ハーッハッハッハッ!ハーッハッハッハッ!」

いきなり高笑いが聞こえてきた。見ると椅子に座りながら空を飛ぶ変な男がいた。

「野蛮な猿ども、とくと聞くがいい。美しき我が名を、我こそは神託の盾六神将薔薇の・・・」

「おや、鼻垂れディストじゃないですか」

「薔薇!バ・ラ!薔薇のディスト様だ!」

「死神ディストでしょ」

アニスに突っ込まれる。

「だまらっしゃい!そんな二つ名、認めるかぁ!薔薇だ、薔薇ぁっ!」

「なんだよ、知り合いなのか?」

「私はおなじ神託の盾騎士団だから・・・でも大佐は・・・?」

「そこの陰険ジェイドはこの天才ディスト様のかつての友」

「どこのジェイドですか?そんな物好きは」

「何ですって!?」

「ほらほら怒るとまた鼻水が出ますよ」

「キィーーーー!!出ませんよ!」

ジェイドを除く男性陣はこっそり話す。

「あ、あほらし・・・」

「こういうのを、おいてけぼりって言うんだな・・・」

「ついていきたくもねえよ・・・」

「・・・まあいいでしょう。さあ、音譜盤のデータを出しなさい!」

「これですか?」

ジェイドが取り出した書類をディストが奪う。

「ハハハッ!油断しましたねぇ、ジェイド!」

「差し上げますよ。その書類の内容はすべて覚えましたから」

「ムキーーー!!猿が私を小馬鹿にして!この私のスーパーウルトラゴージャスな技を喰らって後悔するがいい!現れよカイザーディストR!」


譜業が現れる。

「・・・ここまでやる気がでない戦闘は初めてかもな・・・」

「今回ばかりは同感です」

ジェイドが詠唱を開始。それに合わせて俺も詠唱を始める。

「歪められし扉よ・・・ネガティブゲイト!」

「行きますよ、スプラッシュ!」

闇と水が襲い、カイザーディストの動きが鈍る。

「双牙斬!」

ルークの切り上げでカイザーディストは・・・ディストを巻き込んでぶっ飛んだ。

「おい・・・あれ・・・」

「殺して死ぬような男ではありませんよ。ゴキブリ並の生命力ですから。それより、ブリッジを見てきます」


「俺も行く。サキと女の子達はルークとイオンのお守りを頼む」

「あれ?ガイってばもしかして私達が怖いのかな?」

「・・・ち、違うぞ。違うからなっ!」

「・・・アイ、だっけ?ガイに触れてみなよ♪」

「え?あ、は、はい・・・失礼します」

愛依はガイの腕をちょこんと触る。

「うおわぁっ!?」

「きゃあっ!?」

触られてガイが跳び退り、それにビックリして愛依が悲鳴を上げる。

「あ・・・す、すまない」

ガイはフラフラしながらジェイドを追いかける。

「俺達は・・・」

「怪我をしている人がいないか確認しましょう」

「そうですね」

「平和の使者も大変ですよねぇ」

「・・・ホントだよ」

こうして船はキムラスカの首都・・・バチカルに到着した。

「お初にお目にかかります。キムラスカ・ランバルディア王国軍第一師団師団長のゴールドバーグです。この度は無事のご帰国、おめでとうございます」

「ご苦労」

「アルマンダイン伯爵より鳩が届きました。マルクト帝国から和平の使者が同行しておられるとか」

「ローレライ教団導師イオンです。マルクト帝国皇帝、ピオニー九世陛下に請われ、親書をお持ちしました。国王インゴベルト六世陛下にお取り次ぎ願えますか?」

「無論です。皆様のことはこのセシル将軍が責任を持って城にお連れします」

隣にいた女性が口を開く。

「セシル少将であります。よろしくお願いします」

ガイが反応する。

「どうかしましたか?」

「お、いや私は・・・ガイといいます。ルーク様の使用人です」

「・・・ガイと同じく使用人のサキといいます。こちらは記憶喪失の・・・」

「あ、愛依と申します・・・」

「ローレライ教団神託の盾騎士団情報部第一小隊所属、ティア・グランツ響長であります」

「ローレライ教団神託の盾騎士団導師守護役所属、アニス・タトリン奏長です」
「マルクト帝国軍第三師団師団長、ジェイド・カーティス大佐です。陛下の名代として参りました」

「貴公があのジェイド・カーティス・・・!」

「ケセドニア北部の戦いでは、セシル将軍に痛い思いをさせられました」

「ご冗談を。・・・私の軍はほぼ壊滅でした」

「皇帝の懐刀と名高い大佐が名代として来られるとは・・・なるほど、マルクトも本気という訳ですか」

「国境の緊張状態がホド戦争開戦時より厳しい今、本気にならざるを得ません」

「おっしゃるとおりだ。ではルーク様は私どもバチカル守護隊とご自宅へ・・・」

「待ってくれ!俺はイオンから伯父上への取り次ぎを頼まれたんだ。俺が城へ連れていく」

「ありがとう。心強いです」

「ルーク、見直したわ。あなたも自分の責任をきちんと理解しているのね」

「う、うん・・・まぁ・・・」

「(ん・・・?)」

何か違和感を感じたが・・・気のせいか。

「承知しました。ならば公爵への使いをセシル将軍に頼みましょう。セシル将軍、行ってくれるか?」

「了解です」

「ではルーク。案内をお願いします」

「・・・おう、行くぞ」

こうして俺達は城に向かった・・・ 
 

 
後書き
サキ
「今回のゲストは!」

アニス
「アニス・タトリン十三歳で~す!」

サキ
「テンションたっけー・・・」

アニス
「そう言えば、サキは根暗ッタと知り合いなんだよね?」

サキ
「まぁ、そうだけど」

アニス
「どんな関係だったの?」

サキ
「妹みたいな関係さ。まぁ、あっちはどう思ってるかはしらないけどな」

アニス
「あ、でも一回だけ根暗ッタがボロボロのシャツを見てた事があったよ?」

サキ
「俺があげた服だな。・・・まだ大事に持ってたんだな」

アニス
「・・・色々あるんだね」

サキ
「ま、な。それじゃ、次回の続・真似と開閉と世界旅行!」

アニス
「次回も見てね♪」 

 

バチカル~

 
前書き
新キャラ登場。ではどうぞ。 

 
「ここが・・・バチカル?」

そう聞いたのはルークだ。

「なんだよ。初めて見たみたいな反応して・・・」

「仕方ねぇだろ!覚えてねぇんだ!」

ガイの言葉にそう返す。

「記憶喪失になってから外にでてなかったのか」

「・・・すっごい街!縦長だよぉ」

アニスが街を見上げながら言う。

「チーグルの森の何倍もあるですの」

「ここは空の譜石が落下してできた地面の窪みに作られた街なんだ」

「自然の城壁に囲まれてるって訳ね。合理的だわ」

ティアが感心する。

「うわ~・・・」

愛依が目を輝かせて辺りを見渡す。そのまま進もうとしたら・・・漆黒の翼がいた。

「・・・そちらのお坊っちゃまがイオン様かい」

「何なんですか、おばさん!」

「つるぺたのおチビは黙っといで。楽しみにしといで。坊や達。・・・行くよ!」

「へいっ!」


漆黒の翼は去っていく。・・・当然、アニスは激怒している。

「なんなの、あいつら!サーカス団みたいなカッコして!」

「そういや、あいつらどことなくサーカス団の“暗闇の夢”に似てるな。昔、一度見たきりだから自信はないが・・・」
ガイが言う。

「なんだよ!おまえ俺に内緒でサーカスなんか見に行ってたのかよ!」

「あ、ああ、悪い悪い・・・」

「・・・気になりますね。妙なことを企んでいそうですが」

「イオンを気にしてたみたいだな・・・気を付けろよ、イオン」

「はい。わかりました、サキ」

・・・そして、バチカル城に到着する。しかし・・・


「ただいま大詠師モースが陛下に謁見中です。しばらくお待ちください」

「モースってのは戦争を起こそうとしてるんだろ?伯父上に変なことを吹き込まれる前に入ろうぜ!」

「おやめ下さい」

「俺はファブレ公爵家のルークだ!邪魔をするようなら、お前をクビにするよう申し入れるぞ!」

「(こういう時に貴族って役に立つよな)」

「ルーク、いいのでしょうか。こんな強引に・・・」

「いいんだよ」

俺達は中に入る。すると当然玉座の近くにいる男が反応する。

「無礼者!誰の許しを得て謁見の間に・・・」

「うるせぇ、黙ってろ!」

「その方は・・・ルークか?シュザンヌの息子の・・・!」

シュザンヌ、とは奥様の事で、インゴベルト六世陛下は奥様の兄に当たる方だ。

「そうです、伯父上」

「そうか!話は聞いている。よくマルクトから無事に戻ってくれた。すると横にいるのが・・・」

「ローレライ教団の導師イオンと、マルクト軍のジェイドです」

「ご無沙汰しております、陛下。イオンにございます」

近くにいた男が狼狽える。

「導師イオン・・・お、お捜ししておりましたぞ・・・」

「モース。話は後にしましょう。・・・陛下、こちらがピオニー九世陛下の名代、ジェイド・カーティス大佐です」

ジェイドが片膝をつく。

「御前を失礼いたします。我が君主より、偉大なるインゴベルト六世陛下に親書を預かって参りました」

そうして、ルークはインゴベルト六世陛下に言う。

「伯父上。モースが言っていることはデタラメだからな。俺はこの目でマルクトを見てきた。首都には近付けなかったけど、エンゲーブやセントビナーは平和なもんだったぜ」

「な、何を言うか!・・・私はマルクトの脅威を陛下に・・・」

「うるせっ!戦争起こそうとしてやがるんだろうが!おまえマジうぜーんだよ!」

「ルーク、落ち着け。こうして親書が届けられたのだ。私とて、それを無視はせぬ。皆の者、長旅ご苦労であった。まずはゆっくりと旅の疲れを癒されよ」

こうしてみんなが休もうとしたが・・・

「ルークよ。実は我が妹シュザンヌが病に倒れた」

「母上が!?」

「わしの名代としてナタリアを見舞いにやっている。よろしく頼むぞ」


「(ナタリア・・・?)」

愛依が呟く。俺は愛依の耳元に口を近づける。

「(ナタリア様はインゴベルト六世陛下の娘で、ルークの許嫁だよ)」

「(お、お偉い方なんですか!?)」

・・・とにかく、一旦俺達はルークの屋敷に向かうことになった。

「父上!ただいま帰りました」

「報告はセシル少将から受けた。無事でなによりだ。ガイとサキもご苦労だったな」

「「・・・はっ」」

「使者の方々もご一緒か。お疲れでしょう。どうかごゆるりと」

「ありがとうございます」

「ところで、ルーク。ヴァン謡将は?」

「師匠?ケセドニアで別れたよ。後から来るって・・・」

「ファブレ公爵。私は港に」

「うむ。ヴァンのことは任せた。私は登城する」

ファブレ公爵はそう言って出ていく前に・・・

「キミのおかげでルークが吹き飛ばされたのだったな」

「・・・ご迷惑をおかけしました」

ティアが謝る。

「ヴァンの妹だと聞いているが」

「はい」

「ヴァンを暗殺するつもりだったと報告を受けているが。本当はヴァンと共謀していたのではあるまいな?」

「共謀?意味がわかりませんが」

「まあよかろう。行くぞ、セシル少将」

「なんか変だったな。旦那様」

ガイが呟く。

「ヴァン師匠がどうしたんだろう・・・」

「私もここで・・・」

「どうせなら奥様にも謝っていけば?・・・まぁ、奥様が倒れたのもルークがいなくなったせいだろうし・・・」

「・・・そうね。そうする」

俺達は奥様の部屋に向かう・・・途中。

「ルーク!」

「げ・・・」

奥から走ってきたのは・・・

「まあ何ですの、その態度は!(わたくし)がどんなに心配していたか・・・」

「いや、まあ、ナタリア様・・・ルーク様は照れてるんですよ」

「ガイ!あなたもあなたですわ!」

「ルークを捜しに行く前に私の所へ寄るようにと伝えていたでしょう?どうして黙っていったのです」

「俺みたいな使用人が城に行ける訳ないでしょう!」

近づくナタリアからガイが飛び退く。

「何故逃げるの」

「ご存知でしょう!」

「私がルークと結婚したら、おまえは私の使用人になるのですよ!少しは慣れなさい!」

「無理です!」

俺はゆっくりと後退りをする。

「サキ!」

「ハイッ!?」

「あなたもそんな真っ黒な格好をして・・・もっとしっかりしたものを着なさい!」

「い、いえ・・・これは動きやすいので・・・」

「そんなので私の使用人が勤まるの!?」

「お、仰る通りです・・・」

正直に言う。この人苦手だ。

「おかしな人たち。こんなに情けないのに、なぜメイド達はこの二人がお気に入りなのかしら」

ナタリア様がルークを見る。

「それにしても大変ですわね。ヴァン謡将・・・」

「師匠がどうかしたのかよ?」

「あら、お父様から聞いていらっしゃらないの?あなたの今回の出奔は、ヴァン謡将が仕組んだものだと疑われているの」

「それで私と共謀だと・・・」

「あら・・・そちらの方は?・・・ルーク!まさか使用人に手をつけたのではありませんわよね!」

ナタリア様がティアを見てルークに言う。

「なんで俺がこんな冷血女に手を出すんだ!つーか、使用人じゃねーよ!師匠の妹だ」

「・・・ああ。あなたが今回の騒動の張本人の・・・ティアさんでしたかしら?」

「んなことより、師匠はどうなっちまうんだ!」

「姫の話が本当なら、バチカルに到着次第捕らえられ、最悪処刑ということもあるのでは?」

「はぅあ!イオン様!総長が大変ですよ!」

「そうですね。至急ダアトから抗議しましょう」

「なあ、師匠は関係ないんだ!だから伯父上に取りなしてくれよ!師匠を助けてくれ!」

「・・・わかりましたわ。ルークの頼みですもの。その代わり、あの約束早く思い出してくださいませね」

「ガキの頃のプロポーズの言葉なんて覚えてねっつーの!」

「記憶障害のことはわかっています。でも、最初に思い出す言葉があの約束だと運命的でしょう?」

「い、いーからとっとと帰って伯父上に師匠の取りなししてこいよっ!」

「もう・・・意地悪ですわね。わかりましたわ」

ナタリア様は帰っていく。・・・あんな典型的なお姫様っているんだなぁ・・・麗羽よりかは幾分マシだけど・・・猪々子、斗詩。お前らの苦労を知ったよ。・・・そしてティアとルークは奥様に会ってきて・・・

「ナタリア様って綺麗な人。可愛いドレスも似合うし・・・」

「そうかぁ?ぎゃあぎゃあうるせーだけだよ」

「それにティアだって綺麗じゃないか」

ガイが不意打ち気味に言うと、ティアの顔が赤くなる。

「あ・・・ありがとう・・・」

そしてガイに近寄って・・・


「・・・ご、ごめんなさい。うっかりしてたわ」

「いや、こっちこそスマン」

「お前な、さらっとそういうこと言うから女に惚れられるんだよ」

「・・・思ったことを言っただけなんだがなぁ」

それが悪いんだっつーの。

「愛依、お前は城に行けば部屋が用意されて・・・」

愛依が俺のマントを掴む。

「その・・・咲さんと・・・一緒がいい・・・」


「・・・」

もしかしたら、破壊者になる前はこんな引っ込み思案だったのかもしれないな。

「ルーク、俺は愛依を部屋に連れていくよ。・・・じゃあな」


そして一晩経って・・・




「サキ、起きてるか?」

朝早くガイが入ってくる。・・・まだ愛依は寝ている。

「用事ができたぜ。ルークの世話係だ」

「は?」

・・・話を聞くと、和平の第一歩として、アクゼリュスという場所の住民を助けることになった。アクゼリュスは障気が溢れだし、危険な状態にあるらしい。マルクト側の通路も障気で塞がれているため、キムラスカ側から向かうと言うわけだ。ルークはキムラスカの親善大使としてアクゼリュスに向かうことになり、俺とガイがルークの世話係に選ばれたらしい。

「じゃ、俺は先に行ってるぜ」

ガイが出ていく。俺は愛依を見て・・・

「(置いてったら泣くよな・・・絶対)」

俺は愛依を起こして説明して・・・

「い、行きます!」

・・・即答だった。

『意外に優しいッスね』

「こんなんじゃ殺意も湧かねーっつの」

そうして城に行くと、丁度ルークと・・・ヴァンが出てきた。

「兄さん・・・」

「話は聞いた。いつ出発だ?」

「そのことでジェイドから、提案があるらしいですよ」

「ヴァン謡将にお話しするのは気が引けるのですが・・・まあいいでしょう」

・・・ジェイドが言うには神託の盾の船が海を監視しているらしい。そこで囮の船を出し、俺達は陸路を行くという訳だ。・・・囮の方にヴァンが立候補したため、ヴァンと別れた。

「・・・こちらは少人数で行くべきです」

ジェイドは愛依を見る。

「これ以上同行者を増やさないようにしましょう」

「・・・で、残ったのが冷血女と記憶喪失二人に女嫌いか・・・」

「誤解を招く言い方をするな!女性は大好きだ!」

「女好きだと声高に言うのもどうかしら・・・」

「き、記憶がなくてごめんなさい・・・」

「そこは謝るポイントじゃないって・・・」

途中でアニスが走ってくる。

「ルーク様ぁ!」

・・・ただし、その途中にガイがいたが。

「ひっ・・・」

「逢いたかったですぅ。・・・でもルーク様はいつもティアと一緒なんですね。・・・ずるいなぁ」

「あ・・・ご、ごめんなさい。でも安心して、アニス。好きで一緒にいる訳じゃないから」

「さりげに酷いな・・・」

「アニス。イオン様に付いていなくてもいいんですか?」

「大佐!それが・・・朝起きたらベッドがもぬけの殻で・・・街を捜したら、どこかのサーカス団みたいな人が、イオン様っぽい人と街の外へ行ったって・・・」

「サーカス団って・・・あの、昨日の・・・」

愛依が言うとジェイドが溜め息を吐く。

「やられましたね。多分漆黒の翼の仕業だ」

「なんだと!?あ、まさか神託の盾とグルか!」

「追いかけるか!」

「駄目だよ~!街を出てすぐのトコに六神将のシンクがいて邪魔するんだもん」

「・・・まずいわ。六神将がいたら私達が陸路を行くことも知られてしまう」

「ほえ?ルーク様達、船でアクゼリュスへ行くんじゃないんですか?」

・・・結局、アニスを連れていき、旧市街にある工場跡から街を出る事になった。

「バチカルが譜石の落下跡だってのは知ってるな。ここから奥へ進んでいくと、落下の衝撃でできた自然の壁を突き抜けられるはずだ」

「なるほど、工場跡なら・・・」

「ーーー排水を流す施設がある」

ジェイドとティアが理解する。

「そういうこと。ここの排水設備はもう死んでるが、通ることはできるはずだ」

「まあ、ガイ。あなた詳しいのね」

『!?』

振り替えると・・・

「見つけましたわ」

・・・ナタリア様だ。

「なんだ、おまえ。そんなカッコでどうしてこんなトコに・・・」

ナタリア様は動きやすそうな服に着替え、背中に矢筒を背負っていた。

「決まってますわ。宿敵同士が和平を結ぶという大事な時に、王女の私が出ていかなくてどうしますの」

「・・・アホか、おまえ。外の世界はお姫様がのほほんとしてられる世界じゃないんだぞ。下手したら魔物だけじゃなくて、人間とも戦うんだぞ」

ルークが言うがナタリア様は怯まない。

「私だって三年前、ケセドニア北部の戦で、慰問に出かけたことがありますもの。覚悟はできていますわ」

「慰問と実際の戦いは違うしぃ、お姫様は足手まといになるから残られた方がいいと思いま~す」

「失礼ながら、同感です」

アニスとティアが言う。

「ナタリア様。城へお戻りになった方が・・・」

「今ならバレずに済むと思うので・・・」

俺とガイも止めるが・・・

「お黙りなさい!私はランバルディア流アーチェリーのマスターランクですわ。それに、治療士(ヒーラー)としての学問も修めました!その頭の悪そうな神託の盾や無愛想な神託の盾より役に立つはずですわ」

「・・・何よ、この高慢女!」

「下品ですわね。浅学が滲んでいてよ」

「呆れたお姫様だわ・・・」

「これは面白くなってきましたねぇ」

「・・・だから女は怖いんだよ」

「・・・今は同感」

「何でもいいからついてくんな!」

「・・・あのことをばらしますわよ」

ルークが顔色を変え、ナタリア様と二人で話した後・・・

「ナタリアに来てもらうことにした」

『・・・』

「よろしくお願いいたしますわ」

「・・・ルーク。見損なったわ」

「う・・・うるせーなっ!とにかく親善大使は俺だ!俺の言うことは絶対だ!いいな!」

「あ、そうですわ。今後私に敬語はやめて下さい。名前も呼び捨てること。・・・そうしないと王女だとばれてしまうかも知れませんから」

「で、ですがナタリア様・・・」

「サキ」

「う・・・わ、わかりました・・・じゃなくって、わかったよ」

ふと気づいたら愛依が一言も喋らないのに気付いた。

「・・・怖くない、怖くない。暗いのなんて怖くない・・・!」

「あ、愛依?」

肩を叩くと・・・

「ひゃああ!?」

「うわ!?」

愛依が奇声を上げた。


「(・・・怖いの苦手なんだな)」

とにかく進むが・・・ナタリアの進行速度が早い。

「おい、ナタリア!もう少しゆっくり歩けよ!」

「なんですの?もう疲れましたの?だらしないことですわねぇ」

「そ、そんなんじゃねえよっ!」

「・・・うはー、お姫様のくせに何、この体力馬鹿」

アニスが愚痴る。

「何か仰いました?」

「べっつにー」

「導師イオンが拐かされたのですよ。それに私達は苦しんでいる人々のために、少しでも急がなければなりません。違っていまして?」

「確かにその通りだけど、この辺りは暗いから、少し慎重に進んだ方がいいと思うわ」

「そうですよ、ナタリア様。少しゆっくり歩きませんか?」

ティアとガイが言う。

「ガイ!私のことは呼び捨てにしなさいと言ったはずです!」

「おっと。そうでした。失礼・・・ではなくて、悪かったな」

「ナタリア」

意外にもジェイドが口を挟む。

「この八人で旅する以上、あなた一人に皆があわせるのは不自然です。少なくとも、この場ではあなたは王族という身分を棄てている訳ですからね」

「・・・確かにそうですわね。ごめんなさい」

「あれ、案外素直」

「一々うるさいですわよ」

「・・・」

「やー、皆さん。理解が深まったようですね。よかったよかった」

「どこがだよ、おい・・・」
「大丈夫、大丈夫・・・皆がいるから大丈夫・・・」

まだブツブツ言ってるよ。

「・・・まだ出口じゃないんですか・・・」

尋常じゃないくらいガクブルしている愛依が聞く。

「ああ、多分そろそ・・・」

俺は動きを止める。

「なんか臭うな」

「油臭いよぅ!」

「この工場が機能していた頃の名残かな?それにしちゃ・・・」

「待って!音が聞こえる・・・何か・・・いる?」

「まあ、何も聞こえませんわよ」

「いえ・・・いますね。魔物か?」

俺達は全員身構え・・・

「危ない!」

ティアがナタリアを突き飛ばす。・・・直後、油のスライムみたいな魔物が降ってくる。

「うわっ!きたーっ!」
「いやーーー!!」

愛依が叫ぶ。

「愛依、下がってろ!」

ナタリアが弓矢を構える。

「ビアシスライン!」

光を纏った矢が飛ぶが・・・

グニャン

「な、矢が・・・」



「なら、これならどうだ!」

ガイが走り出す。

「弧月閃!」

グニュン

「くっ・・・」

「だったら!リパル、鎌!」

『了解ッス!』

ガシャン、と音を立てながら鎌に変形させ、斬りつける。

ズバァ!

「通った!」

「なるほど、物理は通らないようですね」

「でしたら、アニスちゃんにお任せ!」

アニスが詠唱を始める。

「光の鉄槌!リミテッド!」

ズガン!

「行きますよ。・・・雷雲よ、我が刃となりて敵を貫け。サンダーブレード!」

ジェイドの一撃で魔物が苦しむ。

「終わりよ!エクレールラルム!」

ティアの譜術で魔物が完全に沈黙した。

「な、なんだったんだ、この魔物はよ・・・」

「・・・中身は蜘蛛みたいだな」

「油を食料にしている内に、音素暴走による突然変異を起こしたのかもしれませんね」

「・・・あ、あの。ティア」

「何?」

ナタリアが話しかける。

「ありがとう。助かりましたわ。・・・あなたにもみんなにも迷惑をかけてしまいましたわね」

「いいのよ」

「よくねぇよ。足引っ張んなよ。・・・ところで、排水施設ってのは一体・・・」

「下の方じゃないかな・・・ん?」

ガイが何かを見つける。

「あれ・・・非常口だよな」

「調べてみましょう」

「愛依、大丈夫か?」

愛依はぺたんと座りながら顔だけをこちらに向ける。

「あの・・・腰が抜けました・・・」

「・・・ぷっ」

俺は笑いながら愛依に手を貸す。

「よし、あそこに梯子を降ろせば外に出られるな」

「ケセドニアには砂漠越えが必要よ。途中にはオアシスがあるはずだから、そこで一度休憩しましょう」

「ガイ。あなたが先に降りなさい。私が足を滑らせたらあなたが助けるのよ」

「・・・俺がそんなことできないの知ってて言ってるよな」

「だって早くそれを克服していただかないと、ルークと結婚した時に困りますもの」

「ルーク様はもっとず~~っと若くてぴちぴちのコがいいですよねっ♪婚約なんていつでも破棄できますし♪」

「・・・なんですの」

「何よぅ・・・」

「ルーク。あなたって最低だわ」

「何なんだよ!俺のせいかよ!」

「やー、仲が良さそうで何よりです」

「あんたの目は節穴かっつーの!」

そして降りると・・・神託の盾がいた。ルークが剣を抜く。

「イオンを返せぇぇぇぇぇ!!」

そこにいた・・・鮮血のアッシュと打ち合う。

「・・・おまえかぁっ!」

二人がつばぜり合いをし・・・ルークの動きが止まる。

「アッシュ!今はイオンが優先だ!」

「わかってる!・・・いいご身分だな!ちゃらちゃら女を引き連れやがって」

アッシュの顔は・・・ルークとそっくりだった。ルークは口元を押さえてうつ向く。

「・・・あいつ・・・俺と同じ顔・・・」

「・・・どういうこと?」

ナタリアが呟く。

「ところで・・・イオン様が連れていかれましたが」

「・・・あああ!!しまったーっ!」

みるみるうちに神託の盾のタルタロスが見えなくなっていく。

「どちらにしても六神将に会った時点で囮作戦は失敗ですね」

「バチカルに戻って船を使った方がいいんじゃないか?」

「無駄ですわ」

「・・・なんで」

気分が悪そうにルークが聞く。

「お父様はまだマルクトを信じていませんの。囮の船を出港させた後、海からの侵略に備えて港を封鎖したはずです」

「陸路へ行ってイオン様を捜しましょう」

結局陸路に決定した。俺達はオアシスに向かって進みだした・・・


 
 

 
後書き
サキ
「それじゃ、今回は・・・」

ナタリア
「私ですわね。初めまして。私はナタリア・L・K・ランバルディアと申します」

サキ
「ちなみに、L・Kはルツ・キムラスカの略ね」

ナタリア
「それにしても私は随分と遅いパーティーインですのね」

サキ
「ま、タイミング的にはグレイセスのヒューバート並みだからな。実質レギュラーパーティーじゃ最終加入だし」

ナタリア
「・・・そうですのね。・・・それでは皆さん。また次回をお楽しみに」

サキ
「次回の続・真似と開閉と世界旅行!」

ナタリア
「是非見てください」 

 

砂漠越え~

 
前書き
着々と進むな~・・・ではどうぞ。 

 
俺達は神託の盾を追って砂漠に入っていた。

「・・・」

暑さのせいか口数が減る面々。

「愛依、大丈夫か?」

「は、はい・・・大丈夫、です・・・」

そう言う愛依の顔は赤い。

「・・・俺の後ろを歩けよ」

「え?」

「俺、背ぇ高い訳じゃねえけど、愛依が入るくらいの日除けにはなんだろ」

「で、でも・・・」

「いいから入れっての」

「は、はい」

「いやー、こうして見ると親子みたいですね」

ジェイドがそんなことを言う。

「・・・俺はまだ二十歳だ。こんなでかい娘がいるかっての」

実際は二十歳じゃないけどな・・・

「・・・見えたわ」

黙々と歩いていたティアが言う。そっちを見ると、オアシスがあった。俺達はオアシスに入り・・・

「いてぇ・・・なんだ・・・!?」

ルークが頭を抑える。

「ルーク!また例の頭痛か?」

「例の頭痛?」

ティアがガイに聞く。

「誘拐された時の後遺症なのか、たまに頭痛がして幻聴まで聞こえるらしいんだ」

「誰だ・・・おまえは・・・!・・・おまえ、アッシュか・・・!」

ルークが一人で何かを呟く。

「おまえ・・・っ!一体どこに・・・」

ルークが膝をつく。

「ルーク様!大丈夫ですか」

「ご主人様、気分悪いですの?」

ティアがルークの肩に触れる。


「しっかりして」

「また幻聴か?」

「幻聴なのかな・・・」

「アッシュがどうとかって・・・仰ってましたわよね。アッシュって、あの神託の盾の・・・?」

ルークが立ち上がる。

「・・・さっきの声は確かにアッシュだった。イオンとザオ遺跡にいるって・・・」

「ザオ遺跡!?そこにイオン様が!?」

「ザオ遺跡・・・2000年前の、あのザオ遺跡のことでしょうか」

「あ、あの・・・って、どんなところなんですか?」

愛依が聞くがジェイドは首を横に振る。

「すみません。私もよくは知りませんので」

「そんじゃ、ここの人に話を聞きがてら休息にするか」

俺がそう言うと、みんなが頷く。そして、ザオ遺跡の場所を聞いて、再び砂漠を歩く。

「あれじゃないか!」

走り出すガイを追いかける。

「この中か・・・」
「中は暗そうですわね・・・」

「あぅ・・・」

愛依の顔がひきつる。

「ミュウが火を吹くですの」

「ずっと吹き続けるのか?無理無理」

「風があるせいか、周囲に陸艦の痕跡が残っていませんね」

「立ち去った後か。それともまだ居るのか・・・」

「とにかく、イオン様の手がかりがあるかもなんだから、行きましょうっ!」

遺跡の中に入り、進んでいく。

「日が当たらないお陰か涼しいな・・・愛依、これなら・・・」

「怖くない。怖くない。ここならちょこっとだけお日様あるから怖くない・・・」

またかよ。

「愛依・・・怖がりすぎだ」

「だ・・・だってぇ・・・」

愛依が涙目になる。

「・・・見つけましたよ」

目を凝らすと、何人かが目に入る。俺達は近づくが・・・

「導師イオンは儀式の真っ最中だ。大人しくしていてもらおう」

「六神将・・・!」

「なんです。お前達は!仕えるべき方を拐かしておきながらふてぶてしい」

「シンク!ラルゴ!イオン様を返して!」

「そうはいかない。奴にはまだ働いてもらう」

「なら力ずくでも・・・」

ルークが剣を抜く。

「こいつは面白い。タルタロスでのへっぴり腰からどう成長したか、見せてもらおうか」

「はん・・・ジェイドに負けて死にかけた奴が、でかい口叩くな」

ルークが言うとラルゴが笑う。

「わははははっ、違いない!だが、今回はそう簡単には負けぬぞ、小僧・・・」

「六神将烈風のシンク。・・・本気で行くよ」

「同じく黒獅子ラルゴ。いざ、尋常に勝負!」

俺達は武器を構える。

「くっらえぇ!」

アニスの一撃を・・・シンクはあっさりと避ける。

「遅いよ」

ズドン!

「はぅああ!?」

アニスが吹き飛ぶ。

「おりゃあっ!」

ルークがラルゴに剣を振り下ろす。

ガキィン!

「なるほど。成長はしているようだが・・・まだ甘い!」

「おわぁ!?」

ルークが弾き飛ばされる。

「だったら・・・」

『鎌には鎌ッスね!』

「人の台詞を取るな!」

方天画戟を鎌に変え、ラルゴの大鎌を受け止める。

「ズァッ!」

鎌を回し、身体を自ら跳ばして蹴りを叩き込む。

「フッ!」

そのまま身体を捻って鎌を振るう。

ガキィン!

「ぬっ・・・」

蹴りで怯ませてからの一撃だったのだが・・・流石は六神将か。

「ぬおおお!」

「っうおお!?」

力で負け、吹き飛ばされる。

「チッ・・・なんつー馬鹿力だ・・・っとぉ!?」

ラルゴのフルスイングをしゃがんで避ける。

「やるな、小僧!」

「そっちこそな、おっさん!」

そのままつばぜり合いになるが・・・俺はここで凡ミスをする。それは・・・

ガッ

「なっ・・・」

足場が不安定な場所で力比べをした事だ。俺の右足は岩に引っかかり・・・

「隙ありだ!」

ガッキャアアンッ!!

「ぐはぁぁ!?」

力任せのラルゴの一撃にやられてしまった。

「咲さん!?」

「く・・・」

チャキッ

「う・・・」

首元に大鎌が突き付けられる。

「これで終わりだな。貴様のような者を殺すのは惜しいが・・・」

「・・・やだ」

「ッ!?」

身体中に寒気が走る。

「やだ・・・やだやだやだ・・・死なないで・・・わたしの前から・・・」

愛依の身体から闇が溢れ出す。

「誰もいなくならないで・・・一人は嫌だよ・・・あ、あああ・・・アアアアアアアアアアアア!!」

愛依は二本の偃月刀を持ち、走り出す。

ズガァァン!!

「・・・は?」

何が起こったのか理解が出来ない。さっきまでラルゴがいた場所には愛依が立っていて・・・

「愛、依・・・?」

「ウアアアアア!!!」

愛依が吼える。・・・これは、暴走。

「愛依!それ以上闇を使うな!」

「ガァァァァァァァ!!」

次第に愛依の身体が変貌していく。

「・・・ッ!」

まるで恋の時と同じ。俺は素早く腕のグローブを固定しているベルトを取り、左腕のグローブを外す。

「・・・」
露になる黒ずんだ腕。・・・俺がやる事は一つ。雛里にも、恋にも使った・・・闇の吸収。

「愛依!少しだけ我慢しろ!」

左腕だけを異形に変え、愛依に突き立てる。

「(これ、は・・・愛依だけじゃない・・・!?沢山の・・・闇が・・・)」

沢山の闇の波長。その中に愛依や・・・シィの闇もあった。

「(厳しい、な・・・)」

吸収する闇は愛依でもシィのでもない。・・・他の憎悪の闇。それさえ吸収できれば・・・

「ぐ・・・」

・・・だが、そう簡単にはいかなかった。それはあっさりと俺の許容範囲を越え、俺の精神を蝕んでくる。

「ウオオオオオ!!」

叫ぶ。こんなモノに負けてなるものか。きっと・・・恋が俺の闇を吸収した時も同じだった筈だ。・・・助けられてばかりじゃいられない。闇に関しては全て誰かに頼ってきた。

「(なら・・・!)」

いい加減、誰かに頼られてもいい筈だ。闇がなんだ。負の感情がなんだ。俺は俺だ。闇が増えようが記憶がなかろうが、俺はこうして存在し、生きている。

「お前も・・・まだ死にたくはないだろう?」

愛依に語りかける。そして・・・愛依はその場に倒れた。

「ハァ・・・ハァ・・・ぐ、あぁぁぁ・・・!」

闇を何とか鎮め、グローブを填め直す。

「タービュランス!」

ズガァァン!

「・・・くっ・・・」

ジェイドの譜術でシンクがラルゴの真横まで吹き飛ばされる。

「二人がかりで何やってんだ!屑!」

アッシュがそう言いながら斬りかかってくる。ルークはそれに立ち向かい・・・二人同時に双牙斬を繰り出した。

「今の・・・今のはヴァン師匠の技だ!どうしてそれをお前が使えるんだ!」

「決まってるだろうが!同じ流派だからだよ、ボケがっ!俺は・・・!」

「アッシュ!やめろ!」

何かを言おうとしたアッシュをシンクが止める。

「ほっとくとアンタはやり過ぎる。剣を収めてよ。さあ!」

シンクが近づいてくる。

「取引だ。こちらは導師を引き渡す。その代わりここでの戦いは打ち切りたい」

「このままお前らをぶっ潰せばそんな取引、成り立たないな」

ガイが言うが・・・

「ここが砂漠の下だってこと、忘れないでよね。アンタ達を生き埋めにすることもできるんだよ」

「無論こちらも巻き添えとなるが、我々はそれで問題ない」

「ルーク。取引に応じましょう。今は早くイオン様を奪還して、アクゼリュスへ急いだ方がいいわ」

「陸路を進んでいる分、我々は遅れていますからね」

「・・・わかった」

そしてイオンがやって来る。

「イオン様!心配しました・・・」

「・・・迷惑をかけてしまいましたね」

「そのまま先に外へ出ろ。もしも引き返して来たら、その時は本当に生き埋めにするよ」

俺は愛依を抱き抱える。

「・・・やっぱり似てる」

「ガイ・・・?」

ガイが何かを呟く。

「・・・あのような下賎な輩に命令されるとは、腹立たしいですわね」

「え?ああ、そうだな。でもナタリア、堪えてくれよ」

「わかっています。今の私は王女の身分を隠して旅をしているのですもの」

「・・・ナタリア?」

ラルゴが呟く。

「・・・なんですの?」

「ナタリア!行こうぜ」

「ええ・・・」

俺達はそのまま遺跡を出る。

「ふー。やっぱり暑くても砂だらけでほこりっぽくても外の方がいいっ」

「皆さん。ご迷惑をおかけしました。僕が油断したばかりに・・・」

「そうですよ、イオン様!ホント大変だったんですから!」

「ところでイオン様。彼らはあなたに何をさせていたのです?ここもセフィロトなんですね?」

「・・・はい。ローレライ教団ではセフィロトを護るため、ダアト式封咒という封印を施しています。これは歴代導師にしか解呪できないのですが、彼らはそれを開けるようにと・・・」

「なんでセフィロトを守ってるんだ?」

「それは・・・教団の最高機密です。でも封印を開いたところで何もできないはずなのですが・・・」

「んー、何でもいいけどよ。とっとと街へいこうぜ。干からびちまうよ」

「そうね。ケセドニアへ向かいましょう」

「賛成ですわ」

「ミュウもですの!」

「・・・ブタザルは黙ってろ。暑苦しい」

「みゅう・・・ごめんなさいですの」

そのままケセドニアまで行き・・・

「ようやくケセドニアまできたな」

「ここから船でカイツールへ向かうのね?」

「マルクトの領事館まで行けば、船まで案内してもらえる筈です」

その時、ルークが頭を抑える。

「・・・また・・・か!」

「ルーク!またか?頻繁になってきたな・・・」

「・・・大丈夫。治まってきた」

「いや、念のため少し休んだほうがいい」

「そしたら宿に行こうよ。イオン様のこともだけど、アイも休ませなきゃ」

「・・・わかった」

宿屋に向かい、入ろうとした瞬間。

「う・・・う・・・るさ・・・」



ルークの様子がおかしい。

「ご主人様!大丈夫ですの?」

「ルーク、しっかりして」

「黙れ・・・!俺を操るな・・・!」

いきなりルークがティアに剣を向ける。

「ルーク!どうしたの!?」

「ち・・・ちが・・・う!体が勝手に・・・!や、やめろっ!」

次の瞬間・・・ルークは倒れた。俺達はルークを宿屋に運び、俺は愛依と二人きりになる。

「・・・う、ああ・・・」

うなされる愛依を前にして、俺は思い出す。あの世界で闇が暴走し、恋と闇を分けあった時、俺は自分を責め続けた。もしあの時、恋と詠が俺を支えてくれなければ、俺はまた我を失っていた。・・・だから、精神的に脆いこの子は・・・きっと壊れてしまう。だから俺が支えてやる。ここしばらく共に過ごして・・・わかった事がある。破壊者としての愛依は演技だ。俺が怒りで我を忘れ、愛依を半殺しにした時・・・一瞬だが愛依の纏う何かが変わった。

「(何かの理由があって攻撃的な性格を演じていた)」

いや、きっと椿絡みだ。今まで闇が暴走しなかったのも、本当の自分を忘れ、あの闇にも負けない意志を保ち続けたから。だけど、今の愛依は違う。闇の受け流し方は、常に自分の意志を保つか、多少なりとも闇にあわせるか。前者は俺や恋。後者は亞莎が当てはまる。だが、今の愛依はどちらも出来ていない。つまり・・・

「(簡単な感情の暴走で闇に呑まれる)」

「う、ん・・・」

愛依が目を開き、跳ね上がって身体中を触る。そして俺を見て・・・

「あ、あああ・・・」

・・・やっぱりだ。

「わ、わた・・・わぷっ!?」

何かを言う前に枕を投げる。

「あー、自分を責めなくてもいいっつの」

「で、でも!・・・ぷわ!?」

今度は掛け布団を被せる。

「さっきから何をするんですか!?」

「・・・はぁ。・・・記憶はあるのか?」

その言葉に愛依の身体がビクッ、と跳ねた。

「・・・覚えてるんだな?」

「・・・はい」

「怖かったか?」

「はい・・・咲さんを助けようって思ったら・・・自分が自分じゃなくなって・・・」

「だろうな。俺も経験がある」


「・・・あ、あれは・・・」

「闇。人間に必ず存在するもの。そのなかでもその闇を具現できる奴もいる。・・・それが俺やお前だ」

「や、み・・・」

「ああ。まさに諸刃の剣さ。使いこなせば力になり・・・」

「・・・」

「呑まれれば、大切な人を傷つける凶器になる」

「・・・」

愛依がうつ向き、肩を震わせる。

「わた、し・・・もう咲さんに・・・ふみゃ!?」

愛依の頭にチョップを叩き込む。

「なんでそうなる?」

「だ・・・だって、またわたしの・・・闇が暴走したら、咲さんが・・・」

「だったら暴走する度にお前の闇を貰ってやる」

「そ、そんなの咲さんが持ちません!」

「持たせる。必ず。・・・俺はお前を守ってやると言っただろう?」

「う・・・」

愛依の瞳に涙が溜まる。

「安心しろ。俺はお前の・・・」

「・・・」

「お前の・・・味方であり続ける。間違ったことをしたなら叱ってやる。良い事をしたなら誉めてやる。悲しくなったら慰めてやる。俺はお前を支えてやるさ」

「う・・・うわぁぁぁぁん!わあああん!」

愛依が号泣し、俺に抱きつく。

「(これでいいのかな・・・恋、詠・・・)」

亮ならもっと上手くやれたのかもしれない。あのバカはああ見えて色んな世界で色んな奴に好かれている。それはあいつは常に全力で相手にぶつかるからだ。俺は・・・

「うあああん!・・・う、うう・・・ひっく・・・」


「(こんなに他人の身を案じ、すぐ泣く奴が破壊者に向くか?)」

于吉、左慈、言峰、ギルガメッシュ、色んな欠片が集まり出来たもう一人の俺や亮・・・全ての破壊者達は必ずしも何かしらの願望があった。だが、椿と愛依はどうだ?椿は人の死を見ただけで動揺し、愛依は今まさにこの状況だ。・・・なら、コイツらが破壊者になったのには・・・必ず裏がある。

「(予想できるのは・・・)」

世界を見る・・・神によるもの・・・だが、いくら神でもこんな破壊者に向かない奴を破壊者にはしないだろう。なら、神に近い力を持つ者。そして、椿と愛依が二人とも記憶喪失なのもそいつが原因に違いないだろう。・・・何故この二人を破壊者として恋姫の世界を襲わせた?そうだ。あの世界はもう続きはない筈だ。それをわざわざ・・・俺達とコイツらは何か関係があるのか?・・・くそ、情報は揃ってる。きっともう断言できる程に。なのに考えが纏まらない。何か・・・何かを見落としている。答えに必要な情報を何か抜かしている。パズルのワンピースだけが抜けている。

「咲・・・さん?」

「あ・・・」

愛依に声をかけられ、思考が中断。纏まっていた答えが四散する。

「・・・どうした?」

と言っても、あのままでは答えが出なかったので、愛依を責める気はない。

「いや・・・その・・・怖い顔をしていたので・・・」

「っと・・・悪い。考え事をしてたんだ」

俺は愛依の頭をぐしゃぐしゃに撫でる。

「・・・」

「愛依?」

「あ、いや・・・何か懐かしい気がして・・・」

「撫でられるのかが?」

「・・・気のせいですね。皆さんのところに行きましょう」

「・・・そうだな」

・・・結局、ルークは何事もなく、イオンは俺達と行動を共にすることになった。

「サキ。少しいいですか」

ジェイドに話しかけられる。

「あ?なに?」

「・・・彼女のことと・・・あなたのことです」

「・・・!」

やっぱりジェイドはそこを突き詰めてくるか・・・

「・・・それは・・・」

「いや、いいでしょう。ですが、わかっていますね?」

「お前に言われるまでもねーよ。・・・それに」

「・・・“手を出すなら容赦はしない”・・・ですね。・・・わかりました。私としてもあなたを敵に回すと厄介ですからね」

「・・・ふん」

愛依を見ると、女性陣と会話をしていた。

「アイ。あなた、そんな武器を使ってて重くないのですか?」

「え・・・あ、はい・・・大丈夫です」

「どれどれ・・・ってはぅあ!?重っ!?」

「た、確かにこれは女の子が使う武器じゃないわね・・・」

「そ、そうでしょうか・・・?」



・・・よかった。ちゃんと打ち解けてるみたいだ。そして、船を出してもらうためにマルクトの領事館に行き、ヴァンが先にアクゼリュスに向かったことを聞いた瞬間・・・

「ガイ!?」

いきなりガイがうずくまる。ルークが近寄ったら・・・ガイに弾き飛ばされた。

「いてて・・・!お、おい。まさか、おまえアッシュに操られてるんじゃ」

「いや・・・別に・・・幻聴は聞こえねぇけど・・・」

ジェイドがガイの腕を見る。

「おや。傷ができていますね。・・・この紋章みたいな形。まさか“カースロット”でしょうか」

「カースロット?」

ルークが聞く。

「人間のフォンスロットへ施す、ダアト式譜術の一つです。脳細胞から情報を読み取り、そこに刻まれた記憶を利用して人を操るんですが・・・」

「医者か治癒師を呼びますか?」

マルクトの人が言う。

「・・・俺は平気だ。それより船に乗って、早いトコヴァン謡将に追い付こうぜ」

「・・・大丈夫なのか?」

俺が言うと、イオンが答える。

「カースロットは術者との距離で威力が変わるんです。術者が近くにいる可能性を考えれば、ケセドニアを離れた方がいい」

・・・こうして、俺達はカイツールに向かう。

「おかしいな。ケセドニアを離れたらすっかり痛みがひいたわ」

「なんだよ。心配させやがって」

「悪い悪い!」

「じゃあやっぱり、カースロットの術者はケセドニアの辺りにいたのね」

「よかったですわね、ガイ。早めにケセドニアを出て」

「ああ、そうだな。そういや、この傷をつけたのはシンクだったけど、まさかあいつが術者かな」

「おそらくそうでしょうね」

イオンが答える。

「(ダアト式譜術をシンクが・・・)」

再び考えに没頭し・・・船はそのままカイツールへと向かっていった・・・





 
 

 
後書き
リョウ
「何か久々だな・・・」

サキ
「最近見なかったな」

リョウ
「はは・・・ちょっと大量のごま団子と戦っててね・・・」

サキ
「・・・勝敗は?」

リョウ
「勝った。・・・けど、しばらく甘いもんは食いたくない」

サキ
「お疲れさん。まあ、次の出番までゆっくり休んでろよ」

リョウ
「やることないからな・・・んじゃ、ここまでにすっか」

サキ
「次回の続・真似と開閉と世界旅行!」

リョウ
「次回もよろしく!」

 

 

崩落~

 
前書き
GW・・・また家でゴロゴロするんだろうな・・・ではどうぞ。 

 
アクゼリュスへ向かうため、カイツールから北東の位置にある・・・デオ峠を進む。

「ちぇっ。師匠には追い付けなさそうだな。砂漠で寄り道なんてしなけりゃよかった」

「寄り道ってどういう意味・・・!・・・ですか」

アニスがギリギリ踏みとどまる。

「寄り道は寄り道だろ。今はイオンがいなくても俺がいれば戦争は起きねーんだし」

「あんた・・・バカ・・・?」

遂にアニスが言ってしまった。

「バ、バカだと・・・!」

「ルーク。私も今のは思い上がった発言だと思うわ」

「この平和は、お父様とマルクトの皇帝が、導師に敬意を払っているから成り立っていますのよ。イオンがいなくなれば、調停役が存在しなくなりますわ」

「いえ、両国とも僕に敬意を払っている訳じゃない。“ユリアの残した預言”が欲しいだけです。本当は僕なんて必要ないんですよ」

よくもまぁ、ああ言われてこう返せるよな。そう思っていたらガイが言った。

「そんな考え方には賛成できないな。イオンには抑止力があるんだ。それがユリアの預言のおかげでもね」

「なるほどなるほど。皆さん若いですね。じゃ、そろそろ行きましょう」

「・・・この空気でよくあんな台詞がでるよな・・・愛依、行くぞ」

「は、はい」

「(だけどルーク。今のはかなりマズイ発言だな)」

そう思いながらどんどん峠を進んでいくが・・・


「はぁ・・・はぁ、はぁ」


「イオン様!」

イオンが息を乱していた。ティアがイオン様に近づく。

「大丈夫ですか?少し休みましょうか?」

「いえ・・・僕は大丈夫です」

「そんな真っ青な顔で大丈夫って言われてもな・・・みんな、休憩しよう!」

俺が言うが・・・

「休むぅ?何言ってんだよ!師匠が先に行ってんだぞ!」

「ルーク!よろしいではありませんか!」

「そうだぜ。キツイ山道だし、仕方ないだろう?」

「親善大使は俺なんだぞ!俺が行くって言えば行くんだよ!」

「あ・・・アンタねぇ!」

アニスがキレる前に・・・俺はルークの胸ぐらを掴んでいた。

「さっきから師匠師匠うっせーんだよ。お前はなんだ?アクゼリュスにヴァンと遠足でも行くのか?違うだろ。今のお前はアクゼリュスの人を救うより、ヴァンに追い付くのが前提条件になっている。・・・自分のことしか考えねーで親善大使なんて口にするんじゃねえよ」

「さ、咲さん!やめてください!」

「・・・チッ」

愛依に止められて渋々手を離す。

「では、少し休みましょう。イオン様、よろしいですね?」

「な・・・お、おい・・・」

「ルーク、すみません。僕のせいで・・・」

「・・・ちぇっ。わかったよ。少しだけだぞ」

「ありがとうございます」

しばらく休憩し、峠も下りに入る。そして、そのまま広い場所に出たら・・・

ダァン!

「止まれ!」

足元に銃弾が撃ち込まれ・・・上を見ると、魔弾のリグレットがいた。

「ティア。何故そんな奴らといつまでも行動を共にしている」

「モース様のご命令です。教官こそ、どうしてイオン様をさらってセフィロトを回っているんですか!」

「人間の意志と自由を勝ち取るためだ」

「どういう意味ですか・・・」

「この世界は預言に支配されている。何をするのにも預言を詠み、それに従って生きるなど、おかしいとは思わないか?」

「預言は人を支配するためにあるのではなく、人が正しい道を進むための道具に過ぎません」

イオンが言うが・・・

「導師。あなたはそうでも、この世界の多くの人々は預言に頼り、支配されている。酷い者になれば、夕食の献立すら預言に頼る始末だ。お前達もそうだろう?」

「そこまで酷くはないけど・・・預言に未来が詠まれているなら、その通りに生きた方が・・・」

「誕生日に詠まれる預言は、それなりに参考になるしな」

アニスとガイが言う。

「そうですわ。それに生まれた時から自分の人生の預言を聞いていますのよ。だから・・・」

「・・・結局の所、預言に頼るのは楽な生き方なんですよ。もっとも、ユリアの預言以外は曖昧で、詠み解くのが大変ですがね」

「そういうことだ。この世界は狂っている。誰かが変えなくてはならないのだ。ティア・・・!私達と共に来なさい!」

「私はまだ兄を疑っています。あなたは兄の忠実な片腕。兄への疑いが晴れるまでは、あなたの元には戻れません」

「では、力ずくでもお前を止める!」

「そうはさせませんわ!」

ナタリアが矢を放つが、リグレットは身体を捻りながら跳び、回避する。

「そこだ!」

そのまま空中で二丁拳銃を操り、乱射してくる。

「く・・・これでは詠唱できませんね・・・」

「リパル!今日は留守番!」

『まじッスか!?』

俺も二丁の銃を取り出し、撃つ。

「・・・はぁ!」

リグレットは遠距離武器を扱える俺とナタリアを中心に攻め始める。

「食らえ!ホーリーランス!」

「うおあ!?」

「きゃあ!?」

俺とナタリアはリグレットの譜術に吹き飛ばされる。

「くそ・・・!」

「咲さん!・・・やらせない・・・!」

愛依が偃月刀を振り回す。

「そんな大振りで・・・」

リグレットの蹴りが愛依に直撃する。

「ぐっ・・・!」

そのまま愛依は腹を抑えてうずくまってしまう。

「先にお前からか」

「させるか!」

回復した俺が接近、リグレットも反応が遅れ・・・

チャキ

・・・結果、俺とリグレット、双方の眉間にお互いの銃口が突き付けられた。

「・・・!」

その時、リグレットの目が見開かれた。

「お、お前は・・・」

「?」

「・・・くっ」

リグレットが離れる。

「ティア・・・その出来損ないから離れなさい!」

「出来損ないって俺のことか!?」

ルークが怒る瞬間、ジェイドの態度が変わった。

「・・・そうか。やはりお前達か!禁忌の技術を復活させたのは!」

「ジェイド!いけません!知らなければいいことも世の中にはある」

「イオン様・・・ご存知だったのか!」

俺達は完全においてけぼりだ。

「な・・・なんだよ?俺をおいてけぼりにして話を進めるな!何を言ってんだ!俺に関係あることなんだろ?」

だが、ジェイドはそれを無視する。

「・・・誰の発案だ。ディストか!?」

「フォミクリーのことか?知ってどうなる?采は投げられたのだ。死霊使いジェイド!」

一瞬目が眩む程の光が辺りを包み、次の瞬間にはリグレットが消えていた。

「・・・くっ。冗談ではない!」

「大佐・・・珍しく本気で怒ってますね・・・」

アニスが言うとジェイドが振り返る。

「ーーー失礼、取り乱しました。もう・・・大丈夫です。アクゼリュスへ急ぎましょう」


「愛依、平気か?」

「だ・・・げほっ・・・大丈夫・・・です」

「・・・ごめんな。守ってやるなんて偉そうな口を叩いておきながら・・・」

「わ・・・わたしが・・・わたしがしたかったから、咲さんを助けたんです。だから・・・謝らないで下さい・・・わたしも、足を引っ張りましたから・・・」

「・・・じゃあお相子ってことだな」

俺達は歩き出す。

「ふざけんな!俺だけおいてけぼりにしやがって。何がなんだかわかんねーじゃんか!」

「ご主人様、怒っちゃだめですの・・・」

「どいつもこいつも俺をバカにしてないがしろにして!俺は親善大使なんだぞ!」

「ご主人様・・・」

「師匠だけだ・・・俺のことわかってくれるのは師匠だけだ・・・!」

そのまま重い空気を引きずりながら・・・アクゼリュスに到着する。・・・だが、

「こ・・・これは・・・」

「想像以上ですね・・・」

あちこちから苦悶の声が聞こえてくる。ナタリアが近くの人に駆け寄る。

「お、おい、ナタリア。汚ねぇからやめろよ。伝染るかもしれないぞ」

「・・・何が汚いの?何が伝染るの!馬鹿なこと仰らないで!・・・大丈夫ですか?」


その時、アクゼリュスの人が話しかけてくる。

「あんたたち、キムラスカ側からきたのかい?」

「あ・・・あの・・・」

「私はキムラスカの王女、ナタリアです。ピオニー陛下から依頼を受けて、皆を救出にきました」

「ああ!グランツさんって人から話は聞いています!自分はパイロープです。そこの坑道で現場監督をしてます。村長が倒れてるんで、自分が代理で雑務を請け負ってるんでさぁ」

「グランツ謡将と救助隊は?」

ジェイドが尋ねる。

「グランツさんなら坑道の奥でさぁ。あっちで倒れてる仲間を助けて下さってます」


辺りを見てきたガイとアニスが戻ってくる。

「この辺はまだフーブラス川の障気よりマシって感じだな」

「坑道の奥は酷いらしいよ」

「辺りの様子を確認したら、坑道へ行ってみましょう・・・ルーク!」


「あ・・・ああ・・・うん・・・」

俺は辺りを見渡す。

「俺はこの辺りの人達を助ける。・・・いくら軽症でも放置は不味いしな」

「じゃ、じゃあわたしも手伝います」

愛依の言葉に頷く。

「わかりました。では、頼みますよ」

「ああ。・・・大丈夫ですか、しっかりしてください」

「す、すまない・・・」

「愛依、とりあえず自力で歩けそうな人は休憩所に行くように言ってくれ」

「は、はい!」

・・・その時、何となくだが感じた。何か違和感がある。・・・そうだ、救助隊が全然いないんだ。普通ならここにも誰かを置いていく筈・・・

「・・・まさか!」

ある答えに考え付き、走り出そうとした瞬間・・・

「グレイブ!」

「ッ!?」

咄嗟に身を捻り、地面より突き出てきた土の槍を回避する。

「・・・やっぱり気付いたみたいね」

目の前にローブを纏った・・・少女が現れる。その少女は右手に貴族が使うようなサーベル。左手に短い剣を持っていた。

「誰だ?」

「私はヴァン謡将に命じられ、アンタを監視していたのよ」

「なるほどな・・・これで確信したぜ」

ヴァンは何か企んでいる。前々から感じていた不快感は本能的にヴァンの危険性に気づいていたからだ。

「そこを通す気は・・・」

「あると思う?」

少女は構えを取る。・・・その構えはまるで、テイルズオブデスティニーのリオン・マグナスみたいだ。

「だろうな・・・リパル!分離だ!」

『わかったッス!』

左手にハンドアックス、右手にダークリパルサーを握る。

「魔神剣!」

少女はいきなり衝撃波を放つ。

「っと!」

それを跳んで避け、すぐに間合いに踏み込む。

「ラァッ!」

「くっ!」

カキャアン!

少女は一撃を防ぎ、回し蹴りを放つ。

「ふっ!」

それを受け止め、そのまま足を掴んで投げる。

「きゃっ!?」

「貰った!」

俺はそれを追撃するように攻めるが・・・

「タァッ!」

「なっ!」

明らかに不利な体制での一撃で間合いを開かれる。

「あれを凌ぐか・・・」

「やるじゃない。・・・けど・・・」

少女の姿が消える。

「飛燕連斬!」

「がっ!?」

連続斬りを浴び、俺は吹き飛ぶ。

「咲さん!?」

愛依が俺を見て走り出す。

「来るな!」

「・・・!」

「・・・そこまでだよ」



その時、シンクが現れる。

「エイ、時間稼ぎは充分だよ。・・・もうじきここは崩れる」

「そう。作戦は成功したのね」

「エイ・・・?」

少女は去ろうとする。

「ッ!待ちやがれ!」

咄嗟に空間から投擲ようナイフを取り出し、投げる。

「っ!?」

少女は避けきれず、ナイフはフードを弾き飛ばす。

「あ・・・」

その下にあった顔は・・・

「・・・くっ」

「・・・詠・・・」
あの世界で手を掴めず、目の前で消えた少女。それが今・・・敵という最悪な形で目の前にいた。

「・・・いくよ」

「ええ、わかってるわ」

「ま、待ってくれ!詠!」

「サキ・・・次に会ったら必ず倒す・・・!」

「ーーーー!」

そう言って詠とシンクは去っていく。

「・・・くそっ!くそっ!くそぉっ!」

「さ、咲さん!」

愛依に声をかけられ、ハッとなる。

「そうだ・・・ヴァン!」

「え?あ、咲さん!?」

俺は走り出す。このままじゃ取り返しのつかない事になる。


「ここか!?」

「さ、咲さぁん・・・はぁ・・・はぁ・・・」

愛依が息を荒げながら追い付いてくる。



「サキ!」

背後からジェイド達が走ってくる。

「ジェイド!ヴァンが・・・」

「わかっています!」

坑道の奥にある、遺跡のよう場所は既に崩れ始めていた。

「兄さん!やっぱり裏切ったのね!この外殻大地を存続させるって言っていたじゃない!これじゃあアクゼリュスの人もタルタロスにいる神託の盾もみんな死んでしまうわ!」

ティアが叫ぶが、ヴァンは魔物に飛び乗る。・・・この事を知らせてくれたのはアッシュらしいが、その姿はない。

「・・・メシュティアリカ。お前にもいずれわかる筈だ。この世の仕組みの愚かさと醜さが。それを見届けるためにも・・・お前にだけは生きていて欲しい。お前には譜歌がある。それで・・・」

ヴァンが飛び去っていく。

「まずい!坑道が潰れます!」

「私の傍に!・・・早く!」

俺達はティアの周りに集まる。


ーーーーー♪

譜歌が障壁となって俺達の身を守る。・・・一瞬、意識が飛んだ。次に目を開くと・・・辺りは、見渡す限り最悪な光景が広がっていた。

「なん、だよ・・・これ・・・」

アクゼリュスの人の・・・二度と動かないであろう死体が辺りに・・・転がっている。

「ひでぇ・・・」

「あ、あぁ・・・」

「愛依?」

愛依の様子がおかしい。

「みん、みんな、死、死んで・・・る」

「おい、愛依?」

「誰、誰も動、かない・・・わ、わたし、どうして・・・違・・・」


愛依が頭を抱え・・・

「アアアアアアアアアアアアアア!!!」

絶叫する。

「そう、だ・・・わたしは・・・オレは・・・」

そのまま愛依は倒れる。

「愛依!?」

愛依は気を失っていた。その時。

「・・・う・・・ぅ・・・」

「誰かいるわ!」

見ると障気の溢れる海に、板の上に乗っている絶命しているパイロープさんと・・・子供を見つけた。

「父ちゃ・・・ん・・・痛いよぅ・・・父ちゃ・・・」

「お待ちなさい!今助けます!」

走り出そうとするナタリアをティアが止める。

「駄目よ!この泥の海は障気を含んだ底無しの海。迂闊に入れば助からないわ」

「ではあの子をどうしますの!?」

「ここから治癒術をかけましょう。届くかもしれない」

「(迷ってる暇はない!)」

俺は闇を解放しようとするが・・・

「おい!まずいぞ!」


段々と板が沈んでいく。

「いかん!」

「母・・・ちゃん・・・助け・・・て・・・父ちゃん・・・たす・・・け・・・」

その言葉を最後に・・・完全にその姿を泥の海に消した。

「間に、合わなかった・・・畜生!」

俺は拳を地面に叩きつける。

「ここも、壊れちゃうの!?」

「タルタロスに行きましょう。緊急用の浮標が作動して、この泥の上でも持ちこたえています」

見るとタルタロスが近くに浮いていた。俺達は乗り込み・・・中の神託の盾の死体を片付ける。

「何とか動きそうですね」

魔界(グリフォト)にはユリアシティという街があるんです。多分ここから西になります。とにかくそこを目指しましょう」

ティアが説明する。

「詳しいようですね。この場を離れたら、ご説明をお願いいたしますよ」

俺は愛依を休憩室に寝かせ、甲板に出る。

「・・・」

「行けども行けども、何もない。・・・なあ、ここは地下か?」

ガイが呟くと、ティアが返す。

「・・・ある意味ではね。あなた達の住む場所は、ここでは外殻大地と呼ばれているの。この魔界から伸びるセフィロトツリーという柱に支えられている空中大地なのよ」

「どういう意味だよ?」

俺が聞く。

「昔、外殻大地はこの魔界にあったの」

「信じられない・・・」

アニスが呟く。

「二千年前、オールドラントを原因不明の障気が包んで大地が汚染され始めた。この時ユリアが七つの預言を詠んで滅亡から逃れ、繁栄するための道筋を発見したの」

「ユリアは預言を元に地殻をセフィロトで浮上させる計画を発案しました」

「それが外殻大地の始まり、か。途方もない話だな・・・」

「ええ。この話を知っているのは、ローレライ教団の詠師職以上と魔界出身の者だけです」

「じゃあティアは魔界の・・・?」


「・・・とにかく僕達は崩落した。助かったのはティアの譜歌のお陰ですね」

「何故こんなことになったんです?話を聞く限り、アクゼリュスは柱に支えられていたのでしょう?」

「それは・・・柱が消滅したからです」

「どうしてですか?」

アニスがイオンに聞く。・・・そして、全員の視線がルークを見る。

「・・・お、俺は知らないぞ!俺はただ障気を中和しようとしただけだ!あの場所で超振動を起こせば障気が消えるって言われて・・・!」

「あなたは兄に騙されたのよ。そしてアクゼリュスを支える柱を消してしまった」

「そんな!そんな筈は・・・」

「・・・ヴァンはあなたにパッセージリングの傍に行くよう命じましたよね。柱はパッセージリングが作り出している。だからティアの言う通りでしょう。僕が迂闊でした。ヴァンがルークにそんなことをさせようとしていたなんて・・・」

「・・・せめてルークには、事前に相談して欲しかったですね。仮に障気を中和することが可能だったとしても、住民を避難させてからでよかった筈ですし・・・今となっては言っても仕方のないことかもしれませんが」

「そうですわね。アクゼリュスは・・・消滅しましたわ。何千という人間が、一瞬で・・・」

「殆どの人は死ぬ事に気づかないで死んだんだろうな・・・」

「・・・お、俺が悪いってのか・・・?」

再び俺達はルークを見る。

「・・・俺は・・・俺は悪くねぇぞ。だって、師匠が言ったんだ・・・そうだ、師匠がやれって!」

とんでもない事を口にしだした。

「こんなことになるなんて知らなかった!誰も教えてくんなかっただろっ!俺は悪くねぇっ!俺は悪くねぇっ!!」

明らかな責任逃避。・・・始めにジェイドが歩き出す。

「・・・大佐?」

「艦橋に戻ります。・・・ここにいると、馬鹿な発言に苛々させられる」


「なんだよ!俺はアクゼリュスを助けようとしたんだぞ!」

「変わってしまいましたのね・・・記憶を失ってからのあなたはまるで別人ですわ・・・」

「お、お前らだって何もできなかったじゃないか!俺ばっか責めるな!」

「あなたの言う通りです。僕は無力だ。だけど・・・」

「イオン様!こんなサイテーな奴、ほっといた方がいいです」

「わ、悪いのは師匠だ!俺は悪くないぞ!なあ、ガイ、そうだろ!?」

「ルーク・・・あんまり、幻滅させないでくれ・・・」

ガイも去り・・・

「少しはいいところもあるって思ってたのに・・・私が馬鹿だった・・・

「・・・ど、どうしてだよ!どうしてみんな俺を責めるんだ!」
「・・・」

「サ・・・サキ・・・」

「・・・今のお前には話す価値もない」
その場を立ち去る。

『・・・ちょっと言い過ぎじゃないッスか?』

「・・・いや、あそこで甘やかす訳にはいかない。・・・あいつは気づかなきゃいけないんだよ。自分がしたことを・・・」

『でも、全員でああ言うのは・・・』

「・・・まあ、そうだな。それに、俺達にも責任はある。ヴァン以上の信頼をルークから得られなかったんだから・・・こんなんだからアリエッタを敵に回すのかな」

自虐的に笑う。

『咲さんは悪くないッス!それに、愛依さんは味方に出来たじゃないッスか』

「それはわからない。多分、愛依は・・・」

『え?』

「・・・何でもない。・・・情けない男だよ、俺は」

『咲さん?』

「守りたい奴全部敵にしてさ。やっと会えたってのに詠に言われたのは・・・“倒す”だってよ。・・・掴めない・・・俺は・・・また・・・このままじゃ・・・俺は詠やアリエッタと殺しあってしまう」

腕が震える程、手に力を籠める。

「俺は・・・破壊者に相応しいのかもな」

『馬鹿な事を言わないで欲しいッス!』

リパルが怒り始める。

「リパル・・・」

『そんな簡単に諦めないで下さいッス!咲さんは何度も世界を救って皆さんに笑顔を届けて来たじゃないッスか!?』

「・・・」

『破壊者はその笑顔を悲しみに変えるんスよ!?咲さんは本当にそれでいいんスか!』

「・・・だよな」

『咲さん・・・』

「こんなん霞達に聞かれたら怒られるな。悪いな、何度も何度も・・・こんなんでよく闇を扱えるよな・・・」

愛依を寝かせている部屋に入る。

「守・・・る・・・絶・・・対・・・」

愛依は何かうわ言を言っている。・・・こんなんじゃろくに寝れてないんじゃないか?

「リパル、悪いけど愛依を見ててくれるか?」

『いいッスけど・・・意味ないんじゃないッスか?』

「・・・察しろ」

俺はリパルを置いて甲板に出る。・・・ただ、一人になりたかった。

「・・・」

空を見上げる。

「・・・ウオオオオオオオオオオオオオォォォォーーーーーーーー!!!」

・・・叫んだ。悲しみや怒りを全て吐き出すように。

「・・・くっ、う・・・うぅ・・・あああ・・・!!」


・・・今は泣こう。これからは弱音を吐きたくない・・・いや、また吐くだろう。・・・だったらその時、受け止められるように今の内吐き出そう。・・・そのまま俺はユリアシティに到着するまで泣き続けた・・・
























































































「ふぇ・・・!これがユリアシティ?」

「ええ。奥に市長がいるわ。行きましょう」

・・・みんなが歩くなか、立ち止まっているルークを見てティアが足を止める。

「・・・いつまでそうしているの?みんな市長の家に行ったわよ」

「・・・どうせみんな俺を責めるばっかなんだ。行きたくねぇ」

「とことん屑だな!出来損ない!」

「・・・お、お前!」

アッシュがやって来る。

「どうしてお前がここにいる!師匠はどうした!」

「はっ!裏切られてもまだ“師匠”か」

「・・・裏切った・・・?じゃあ本当に師匠は俺にアクゼリュスを・・・」

「くそっ!俺がもっと早くヴァンの企みに気づいていればこんなことにはっ!」

アッシュがルークを睨む。

「お前もお前だ!何故深く考えもしないで超振動を使った!?」

「お、おまえまで俺が悪いって言うのか!」

「悪いに決まってるだろうが!ふざけたことを言うな!」

「俺は悪くねぇっ!俺は悪くねぇっ!俺は・・・」

「冗談じゃねえ!レプリカってのは脳みそまで劣化してるのか!?」

その発言にルークが顔を伏せる。

「レプリカ?そういえば師匠もレプリカって・・・」

「・・・お前、まだ気づいてなかったのか!はっ、こいつはお笑い草だな!」

「な、なんだ・・・!何なんだよ!」

「教えてやるよ。“ルーク”」

「アッシュ!やめて!」

ティアが叫ぶが・・・アッシュは止まらない。・・・そして、俺も止める気はない。

「俺とお前、どうして同じ顔してると思う?」

「・・・し、知るかよ」

「俺はバチカル生まれの貴族なんだ。七年前にヴァンて悪党に誘拐されたんだよ」

「・・・ま・・・さか・・・」

顔面蒼白になるルーク。

「そうだよ!お前は俺の劣化複写人間だ。ただのレプリカなんだよ!」

「う・・・嘘だ・・・!嘘だ嘘だ嘘だっ!」

ルークが剣を抜く。

「・・・やるのか?レプリカ」

「嘘をつくなぁっ!」

二人の剣がぶつかり合う。

「お前が俺なんて嘘だっ!」

「認めたくねぇのはこっちも同じなんだよ!」

・・・そして僅かに、ルークの予測できないほど滅茶苦茶な太刀筋にアッシュが苦戦する。

「こんな屑レプリカに俺が・・・!」

「・・・嘘だ・・・俺は・・・」

ルークはそのまま・・・倒れ込んだ・・・




































































「・・・つまり、アクゼリュスのセフィロトを刺激して、吹き上げる記憶粒子(セルパーティクル)をタルタロスの帆で受け・・・」

『その勢いでタルタロスを地上に送り出す・・・って事ッスか』

どうやらアッシュ達はヴァンの動向を探る為に外殻大地に向かうらしい。・・・俺は愛依を置いていく訳にいかず・・・結局俺と愛依、ティアとミュウ・・・そしてルークがユリアシティに残る事になった。

「・・・」

愛依を見る。きっと愛依は・・・

『・・・』

・・・受け入れよう。愛依の選択を・・・









 
 

 
後書き
サキ
「俺は悪くヌェ!」

リョウ
「・・・いきなりなんだよ」

サキ
「中の人もよくネタにするからさぁ・・・」

リョウ
「テイルズってそういうの好きだよな・・・アス兄もよく『守る!』・・・がネタにされてるし」

サキ
「色々パターンがあるからな・・・」

リョウ
「と、取りあえず、ルークや愛依はどうなるんだ?」

サキ
「それは色々とお楽しみさ。・・・それじゃ、次回の続・真似と開閉と世界旅行!」

リョウ
「次回もよろしくお願いします」

 

 

涙~

 
前書き
話の脈絡がめちゃめちゃなような・・・ではどうぞ。 

 
・・・あれからしばらく経った。愛依とルークは未だ目覚めず、俺自身も物思いに耽ることが多くなった。

「・・・」

『・・・また考え事ッスか?』

「・・・ああ。やることがないから、尚更・・・な」

何かやることは・・・愛依の様子・・・さっき見てきた。武器の整備・・・終わった。昼飯・・・食った。訓練・・・暇有らばやってるから集中力が持たない。
「・・・」

結論、ボーッとする。


「・・・」

『何を考えてるんスか?』

「元の世界の事だよ」

『それは・・・恋姫の世界ッスか?』

「ああ。・・・なあ、信じられるか?俺はずっとあの日本で毎日普通な暮らしを続けていくもんだと思ってた。それがどうだ?俺も外史の一部だ。家族も、趣味嗜好も全部創られたモノだったんだと」

『・・・』

「でも・・・今はそれでよかったと思ってる」

『何でッスか?』

「正史の存在じゃ恋姫の世界には行けなかった。俺が外史の人間のことも、俺や亮を選んだ神のジジイも・・・今は感謝してる」

『・・・色々あったんスね・・・』

「お前以上に生きてるしな」

俺は部屋に戻り、ベッドに横たわる。

「・・・」

このまま寝ると髪が乱れるので髪を上げてから、目を閉じる。









『お・・・父・・・さん』


『生きて・・・たの・・・逃げ・・・』

雨が降るなか、二つの声が聞こえる。
『俺・・・は・・・お前・・・殺・・・逃げ・・・』

よく声が聞こえない。

『いや・・・』

『わかるだ・・・人じゃ・・・』

『だっ・・・ら・・・わたし・・・』

何かの金属音。

『・・・悪い・・・おま・・・気にするな・・・』

『・・・さようなら、お父さん・・・!』

『生きろ・・・愛依・・・』

ズシャ・・・









「・・・ッ!?」

目を開く。・・・身体中汗びっしょりだ。

『大丈夫ッスか?ずっとうなされてたスよ?」



「あ、ああ・・」

・・・二時間位眠ってたらしい。

「あら、寝てたの?」

ティアが入ってくる。

「いや、今起きた。・・・ルークは?」

ティアは首を横に振る。

「・・・全然目を覚まさないわ。今はミュウが傍に」

「そっか・・・」

ふと気がつくと、ティアが俺を見ていた。

「・・・どうかしたのか?」

「あ、ご、ごめんなさい。誰かに似ている気がして・・・」

「似てる?誰にさ」

俺は髪を降ろし、一纏めに縛る。

「・・・いえ、気のせいね。忘れてちょうだい」

「ふーん・・・ま、いいか」

俺は立ち上がる。

「何処に行くの?」

「ちょっと愛依を見てくる」

俺はティアに一言そう言って、部屋に入る・・・瞬間、

チャキ

「・・・」

扉を開いた瞬間、偃月刀が首に突き付けられた。

「・・・目が覚めたのか。そんで・・・」

「・・・」

「記憶も戻ったんだな」

その言葉にピクッと愛依が反応する。・・・その気なら今の隙だけでも充分愛依を殺れたが・・・

「・・・ああ、破壊者・・・のな」

「今までの記憶は?」

「・・・ある」

俺はため息を吐く。

「・・・んで?どうするんだ?俺を殺すのか」

「・・・そうすればオレと椿の記憶が戻るんだ」

「・・・」

「椿を守るためなんだ。そのためにも・・・」

「じゃあ、聞くが」

「?」

「殺す気ならこんな会話は必要ない。さっさとその偃月刀で首を飛ばせばよかったんだ」

「う、うるせぇ!」

「それに」

俺は愛依を見る。その目にあったのは・・・迷い。

「オ、オレは・・・椿の・・・椿のために・・・」

愛依の手が震える。

「椿のためならなんだってやってやる!」

「・・・」

俺は・・・その言葉を聞いて・・・

「・・・おい」

「え・・・」

俺は偃月刀を・・・右手で・・・素手で刃の部分を掴む。

「ば、バカ野郎!何を・・・っ!?」

俺から偃月刀を引こうとした隙を狙い・・・そのまま首を掴み、壁に叩きつける。

「がっ・・・」

「お前・・・逃げてるだろ」

「なんだっ、て・・・」

「今のお前は“目的”を“言い訳”にしている。・・・違うか?」

「そ、そんな・・・」

「『椿のためなら何をしてもいい』・・・言い方は悪いが、それに近い考えの筈だ」

「ち、違う!オレは・・・オレは椿を・・・」

「ああ。きっと“椿を守りたい”という気持ちは本物だ。・・・だけど、お前は・・・幼すぎた。その意思はまだお前には重すぎたんだ」

「あ・・・」

俺は右手を愛依に見せる。・・・そこには一筋の傷から血が滴っている。

「さっき、偃月刀を掴んだ時、お前は慌てて偃月刀を引いた。・・・それは刃を掴まれて無力化させられると思ったからじゃない。・・・その刃で傷つけてしまうと思ったからだ。違うか?」

「う・・・」

「もう隠さなくてもいい。・・・本当のお前は・・・」

俺は手を離す。・・・愛依はそのままぺたりと座り込む。

「・・・オレは・・・もう・・・」

ポタリ

床に涙が落ちる。

「誰かを・・・傷つけたくない・・・!戦いたくない!」

一度零れてしまった涙は止まらない。

「最低だ・・・オレは・・・椿を言い訳にしてたんだ・・・卑怯者なんだ・・・」

俺はしゃがみ、愛依の頭に手を乗せる。

「・・・もういい」

「・・・う・・・ひっく・・・」

「自分で理解して、反省できたんだ。・・・それ以上自分を責めなくてもいい」

「・・・でも、オレは・・・」

「その口調も演技なんだろ?」

「・・・多分。記憶が・・・残ってないから・・・」

愛依は俯いたまま動かない。

「・・・あの、さ」

「・・・?」

「お前は破壊者・・・なんだよな。・・・なんで・・・俺達を」

「わからない・・・声がするんだ・・・世界を壊せって」

「その声が言ったんだな?・・・そして、記憶を戻すと」

「・・・(コクッ)」

「(・・・予想は大体合ってるか・・・?)」



愛依は泣き続ける。

「これから・・・どうする?」

「・・・もう、一緒にはいられない・・・オレは・・・」

「関係ない。お前はどうしたいんだ?」

「まだ・・・椿が見つかってない・・・それに・・・」

声のトーンが更に落ちる。

「一人は・・・嫌だから(ボソッ)」

その言葉を聞いて・・・俺は言った。

「俺がいてやる」

「え・・・」

「椿が見つかるまででも何時まででも俺はお前といてやる」

「なんで・・・オレは・・・!」

「お前は悪くない。・・・いや、お前には感謝しているんだ」

「どうして・・・」

「お前の能力のお陰で・・・俺はまだ、恋に会えるかもしれないんだ」

「あ・・・」

「あの能力は・・・なんなんだ?」

愛依が顔を上げる。・・・その目は真っ赤になっていた。

「この能力は・・・光線に当たった生物を、その世界から完全に抹消して・・・別の世界の人間にする」

「は・・・?」

それって・・・

「じゃ、じゃあ今詠は・・・恋姫の世界の人間じゃなく、アビスの世界の人間になってるってことか?・・・それ、転生・・・神と同等の能力じゃないか!?」

「・・・当たったらその存在だけがあれば・・・死体でも消せる。そして・・・また別の世界で蘇るんだ」

「・・・」

「その能力を理解できたから・・・オレは呂布や賈駆を・・・でも・・・それ間違いだった・・・!」

「・・・」

「どんな理由をつけてもオレは最低なことをしていたんだ・・・」

・・・愛依は、そう呟く。

「それに・・・この技にはデメリットがある」

「デメリット?」

「消した時・・・相手が受けているダメージの何割かがオレに返ってくる。だから・・・

愛依はそう言って胸元を見せてくる。・・・いきなりでビックリしたが、胸元には何かで貫かれたような跡が残っている。

「・・・死んだ周泰を消した時のだよ。・・・一応、椿はこの事を知らない」

「・・・」

当たり前だ。この事実を知ったら・・・椿は錯乱するだろう。

「・・・でも、椿を傷つけないようにってずっと我慢してた・・・オレの身体はあちこち傷だらけで、いつか椿にバレるんじゃないかって恐かった」

「愛依・・・」

「痛くて・・・怖くて・・・寝れなくて・・・」

「・・・」

俺は愛依を抱き締める。

「おわぁ!?なな、なにすんだよ!?」

「・・・大変だったな」

「・・・っ!」

「・・・ごめんな」

「・・・」

「俺は・・・よく考えてなかったんだ。浅はかだったんだ。・・・お前らの闇に気づくことが出来なかった。・・・本当ごめんな」

「なんで・・・謝るんだよ・・・謝らなきゃいけないのは・・・オレなのに・・・」

「・・・んなもん、許してやる。・・・いや、二つ条件がある」

「え?」

「一つ、その“オレ”ってのを止めろよ」

「・・・でも」

「女の子なんだから。・・・記憶無かった時のお前は可愛かったぜ?」

「か、かわっ!?」

愛依の顔が赤くなる。

「え、えっと・・・あ、アタ、シ?」

「・・・ま、いっか。・・・んで、もう一つは」

「・・・」

愛依の顔が真面目になる。

「全部終わったら恋姫の世界に来い。んで、一緒に暮らそうぜ。もちろん、椿も一緒にな」

「ふ、あ?ふぇ?」

予想外の言葉に愛依が混乱する。

「月や恋とのんびりしたり、詠に小言言われたり、霞と酒飲んだり、華雄の模擬戦に付き合ったり、ねねと遊んだり・・・何気ない日常はとても楽しいぜ?」

「・・・」

また愛依の目に涙が溜まる。

「泣くなよ。まったく、泣き虫だなぁ」

「う・・・うるさい・・・!」

愛依が目を逸らす。

「・・・よっし。そうと決まったらちゃっちゃとみんなを助けて、平和にするか!」

「ま、まだオレ・・・じゃなかった。アタシは一緒に暮らすなんて・・・!」

「はいはい、拒否権なーし。もちっと休んどけよ。じゃーな」

俺は軽い態度を取りながら部屋から出る。・・・そのせいで、後ろで愛依が頭を抱えていることに気づけなかった・・・









愛依~

『殺せ・・・』

「うあ、あぁぁぁ・・・!」

頭に声が響く。

「うるせぇ・・・!絶対に・・・絶対に負けるか・・・!」

『殺せ!』

「ーーーーーー!!」


アタシは立ち上がり・・・壁に思いきり頭を叩きつけた。

ガツン!

「黙れ・・・黙れ黙れ黙れぇ!!」

ガツンガツンガツン!

咲が気づかなくてよかった。

「・・・」

ここからいなくなることも考えた。・・・けど・・・

「一人は・・・怖いよ・・・!」

額から血が一筋流れる。

「助けて・・・助けてよ・・・!誰かぁ・・・!」









サキ~

何となくルークの様子を見に来たら・・・ティアの部屋の奥にある花畑に二人ともいた。・・・俺は聞き耳を立てる。

「ルーク・・・目が覚めたのね」

「ここは・・・花畑?」

「セレニアの花よ。魔界で育つのは夜に咲くこの花ぐらい・・・ここは外殻大地が天を覆ってるからほとんど日が差し込まないし・・・ところで、なんだか慌てていたみたいだけど」

ルークが顔色を変える。

「そうだった!外殻大地へ戻りたいんだ!」

「いずれは戻れるわ。だから・・・」

ルークはティアの肩を掴む。

「今じゃなきゃ困るんだよ!このままだとセントビナーが崩落するって、アッシュが・・・」

「(・・・なんだって?)」

その言葉に俺も驚く。

「・・・どういうこと?だってあなた、今まで眠っていたのに・・・」

「わかるんだよっ!あいつと俺は繋がってんだから!」

「・・・それが真実だとして、セントビナーの崩落をどうやって防ぐの?」

「あ、それは・・・」

「あなた、ちっともわかってないわ。人の言葉にばかり左右されて、何が起きているのか自分で理解しようともしないで・・・それじゃあ、アクゼリュスの時と同じよ」

「・・・はは・・・ホントだな」

ルークから・・・そんな言葉が飛び出してきた。

「ヴァン師匠が言ったから、アッシュが言ったから・・・ってそんなことばっかり言って・・・これじゃ・・・みんなが呆れて俺を見捨てるのも当然だ」

「知ってたの?みんなが外殻へ帰ったこと・・・」

「さっきも言ったろ?俺とアッシュは繋がってるんだ。あいつを通じて見えたんだよ。・・・やっぱ俺、あいつのレプリカなんだな・・・」

「ルーク・・・」

「俺、今まで自分しか見えてなかったんだな・・・いや、自分も見えてなかったのかも・・・」

「・・・そうね」

そしてルークはティアに意思を伝える。

「俺、変わりたい。・・・変わらなきゃいけないんだ」

「本気で変わりたいと思うなら・・・変われるかも知れないわ。でも、あなたが変わったところでアクゼリュスは元には戻らない。・・・何千という人達が亡くなった事実も」

ティアがルークの瞳を見る。

「それだけの罪を背負って、あなたはどう変わるつもりなの」

「わからねぇ。・・・だせぇな、俺。こんなことしか言えなくて。アクゼリュスのこと・・・謝って済むならいくらでも謝る。俺が死んでアクゼリュスが復活するなら・・・ちっと怖いけど、死ぬ。でも現実はそうじゃねぇだろ。償おうったって、償いきれねぇし、だから俺、自分にできることから始める。それが何かはまだわかんねぇけど、でも本気で思ってんだ。変わりたいって」

「やっぱりわかっていないと思うわ。・・・そんな簡単に・・・死ぬなんて言葉が言えるんだから」

「・・・すぐに信じてくれとは言わない。・・・ティア。確かナイフ持ってたよな」

「ええ、持ってるけど・・・」

「ちょっと貸してくれ」

そう言ってルークはナイフを受け取り・・・それ自身の長い髪に当てる。

「ルーク!」

そして一思いに髪を切った。

「・・・これで、今までの俺とはサヨナラだ」

切った髪が風に吹かれて散っていく。

「これからの俺を見ていてくれ、ティア。それで、判断して欲しい。・・・すぐには上手くいかねぇかも知れない。間違えるかも知れない。でも俺・・・変わるから」

「・・・そうね。見ているわ、あなたのこと」

「頼む・・・」

「ええ。でも気を抜かないで。私はいつでもあなたを見限ることができるわ。それよりセントビナーが本当に崩落するなら、それを食い止める手段を探さないと」

「・・・そうだな。でもどうすればいいんだろう」

「市長に聞けばいいだろ?」

「サキ!?」

俺はルーク達に近づく。

「サキ・・・お、俺・・・」

「ほら、早く行こうぜ」

「え・・・」

「外殻大地に行くんだろ?」

「で、でも・・・」

「・・・別に、反省して弱ってる子供を更に威圧する趣味はねーよ。・・・ま、次にあんなこと口走ったら・・・」

方天画戟を突きつける。

「叩きのめしてでも間違いだって教えてやるさ」

方天画戟を空間に投げ入れる。

「よし、行くか」

・・・途中、ティアに改めて譜歌のことを聞いた。譜歌は七つに別れていて、ティアが使ってるのは第一と第二の譜歌らしい。旋律を覚え、象徴を知り、意味を理解しなければ譜歌は発動しない。また、七つの譜歌を連続で詠うと、“大譜歌”となる。これは象徴を知らなくてもいいらしい。・・・大譜歌は所謂ローレライとの契約の証。その効果は、大譜歌とローレライの鍵が組み合わさると、ローレライが召喚できるらしい。だけど、ティアは第七の譜歌を知らず、更にローレライの鍵もないらしい。少し落ち込んだティアもルークに励まされて元気を取り戻した。

「おお、ティアか。そちらは、確か・・・」

市長のテオドーロさんがルークを見る。

「あ・・・は、はじめ・・・まして。俺、ルークです」

「ミュウですの!」

「お前は黙ってろって」

ルークが小声でミュウを黙らせる。

「えと・・・アクゼリュスのことでは・・・ご迷惑をおかけして、す・・・すみません・・・でした」

「きみがルークレプリカか。なるほどよく似ている」

「お祖父様!」

ティアが声を荒げる。

「これは失礼。しかしアクゼリュスのことは我らに謝罪していただく必要はありませんよ」

「ど、どういうことですか?」

「アクゼリュスの崩落は、ユリアの預言に詠まれていた。起こるべくして起きたのです」

「(また預言・・・か)」

「どういうこと、お祖父様!私・・・そんなこと聞いていません!それじゃあホドと同じだわ!」

「これは秘預言(クローズドスコア)ローレライ教団の詠師職以上の者しか知らぬ預言だ」

当然、ルークが一歩踏み出す。

「預言でわかってたなら、どうして止めようとしなかったんだ!」

「ルーク。外殻大地の住人とは思えない言葉ですね。預言は導守されるもの。預言を守り穏やかに生きることがローレライ教団の教えです」

「そ、それはそうだけど・・・」

「誕生日に何故預言を詠むか?それは今後一年間の未来を知り、その可能性を受け止める為だ」

「じゃあ聞くが、アクゼリュスの崩落は何故知らせなかった?」

「そうだ!それを知らせていたら死ななくて済む人だって・・・」

「それが問題なのです。死の預言を前にすると、人は穏やかではいられなくなる」

「そんなの当たり前・・・です!誰だって死にたくない・・・!」

「それでは困るのですよ。ユリアは七つの預言でこのオールドラントの繁栄を詠んだ。その通りに歴史を動かさねば来るべき繁栄も失われてしまう。我らはユリアの預言を元に外殻大地を繁栄に導く監視者。ローレライ教団はそのための道具なのです」

「じゃあ、未来の栄光の為に今の人には死ねって言うのか・・・?」

俺が言うとテオドーロさんが頷く。

「・・・だから大詠師モースは戦争を起こそうとした・・・?」

「ヴァン師匠も預言を知っていて俺に・・・?」

「その通りだ」

「・・・お祖父様は言ったわね。ホド消滅はマルクトもキムラスカも聞く耳を持たなかったって!あれは嘘なの!?」

ホド。よく耳にするそれはマルクトに存在していた街。

「・・・すまない。幼いおまえに真実を告げられなかったのだ。しかしヴァンは知っている」

「・・・じゃあやっぱり兄さんは、世界に復讐するつもりなんだわ。兄さん、言ってたもの。預言に縛られた大地など消滅すればいいって!」

「ティア、ヴァンが世界を滅亡させようとしているのはお前の誤解だ。確かにホドのことで、ヴァンは預言を憎んでいた時期もあった。だが今では監視者として立派に働いている」

「・・・立派?アクゼリュスを見殺しにしたことが!?おまえらおかしいよっ!イカれちまってる!!」

「ルーク!・・・落ちつけ」

「そうでもない。ユリアの預言にはこう詠まれている。・・・ルグニカの大地は戦乱に包まれ、マルクトは領土を失うだろう。結果キムラスカ・ランバルディアは栄え、それが未曾有の栄光の第一歩となる。未曾有の繁栄を外殻大地にもたらすため、我らは監視を続けていたのだ」

「でもお祖父様・・・兄さんは外殻大地のセントビナーを崩落させようとしているのよ!」

「セントビナーは絶対に崩落しない。戦はあの周辺で行われる。何しろ預言には何も詠まれていないのだからね」

・・・結局テオドーロさんの答えは変わらない。俺達は外殻大地に戻ることにする。・・・俺達は仕度を始める。

「愛依、起きてるか?」

「・・・ああ、どうかしたのか?」

愛依を見ると・・・デコに絆創膏が貼られていた。

「・・・何を貼ってるんだ?」

愛依が慌てて額を隠す。

「ちょ、ちょっと転んだんだよ!」

「室内で転ぶって・・・意外にドジなんだ」

「う、うっさいな!・・・そんで?」

愛依が立ち上がりながら聞いてくる。

「ああ、外殻大地に戻ることになった。・・・当然」

「行くよ。・・・その、アタシも咲といたいし・・・」

「あいよ。んじゃ、用意が終わったらいくぜ」

「・・・うん」

俺達は歩き出す。・・・セントビナーの崩落は止めなくちゃな・・・

 
 

 
後書き
ルーク(短髪)
「こ、今回は俺か」

アスベル
「君がルークか。俺はテイルズオブグレイセスの主人公、アスベル・ラントだ」

ルーク
「あ、初め・・・まして。一応テイルズオブジアビスの主人公のルーク・フォン・ファブレだ。よ、よろしく」

アスベル
「ああ、こちらこそ」

リョウ
「しっかし、決意表明で髪を切るなんて、蓮華を思い出すなぁ・・・」

サキ
「決意のレベルが違うけどな・・・」

ルーク
「同じ変わりたいでも蓮華って奴の方が上なんだよな・・・」

アスベル
「そんなのは関係ないさ。何かを守るという気持ちは同じだろ?」

ルーク
「そ、そうかな?」

アスベル
「ああ。俺はある少女を守れなかった。だから誓ったんだ。強くなって今度は守ると、二度と守れなくて悔しい思いをしないように守る力を・・・」

リョウ
「アス兄守る守るうるさい!今度から“守る”禁止!」

アスベル
「そんな!リョウは俺に喋るなと言うのか!?」

サキ
「他に話す言葉はないのかよ!?」

ルーク
「ま、まさか・・・俺が話を振ったから・・・い、いや、俺は悪くねぇ!俺は悪くねぇぞ!」

サキ
「お前も黙っててくれ!あと短髪バージョンで言うのはおかしい!」

リョウ
「とことんカオスだ・・・それじゃ、次回の続・真似と開閉と世界旅行!」

サキ
「次回もよろしくな!」 

 

帰還~

 
前書き
何とか第二部だ・・・ではどうぞ。 

 
・・・俺達はとある部屋に入る。

「この道を開くとバダミヤ大陸にあるアラミス湧水洞に繋がるわ。あそこは魔物の巣窟だけど、準備はいい?」


「ああ、いいよ」

「ボク、ドキドキするですの」

「大丈夫よ、ミュウ。さあ、道を開くわよ」

ティアが部屋の中心に行き、何かを唱えると身体を光が覆う。そして・・・









「みゅう~~~!?」

「うわっ、いきなり水の中かよっ!?」

「大丈夫。濡れたりしないわ」

「あ、ホントだ」

愛依が自分の足を上げて触る。

「どうなってるんだ?」

「セフィロトが吹き上げる力で、水が弾かれるらしいわね」

「セフィロトか・・・大陸を浮上させるなんてすげー力だよな。俺、そんなすげぇものを消滅させちまったのか・・・」

ルークが落ち込む。・・・俺が何か言う前にティアがルークに言った。

「落ち込んでいても何もできないわ。そうでしょう?」

「そうだな。それよりできることをやるんだった。・・・ダメだなー、俺」

「そんな簡単に変われるかよ。ま、気長にやろうぜ」

そのまま魔物を倒しながら進んでいくと・・・

「ようやくお出ましかよ。待ちくたびれたぜ、ルーク」

胡座をかいて座っていたのは・・・ガイだ。ガイは立ち上がりながら話す。

「へー、髪を切ったのか。いいじゃん、さっぱりしててさ」



「ガ・・・ガイ!」

ルークが駆け寄る。

「あん?どうした?」

「・・・お、俺・・・ルークじゃないから・・・」

「おーい、お前までアッシュみたいなこと言うなっつーの」

・・・そうだ。ガイとナタリアは少なくともアッシュ(ルーク)を知っていたんだ。

「でも俺、レプリカで・・・」

「いいじゃねえか。あっちはルークって呼ばれるのを嫌がってんだ。貰っちまえよ」

「貰えって・・・お前、相変わらずだな」

「そっちは随分卑屈になっちまったな」

「卑屈だと!」

ガイの一言にルークが怒るが・・・

「卑屈だよ。今更名前なんて何でもいいだろ。せっかく待っててやったんだから、もうちょっと嬉しそうな顔をしろって」

「・・・うん。ありがとう」

その言葉を聞いてガイが目を見開く。

「ルークがありがとうだって・・・!?」

「彼、変わるんですって」

そう言って近づいたら・・・ガイがティアを避けた。

「あなたは変わらないのね・・・」


「わ、悪いな・・・っと、アイも目が覚めたのか」

「す、すみません。迷惑をかけて・・・」

「(・・・あれ?)」

俺は愛依に近寄る。

「(なんでその口調なんだ?)」

「(・・・この話し方が癖になっちゃったんだよ)」

「(なんだったら俺にもその口調で話すか?・・・面白)痛あっ!?」

愛依が俺の足を全力で踏みつける。

「(お前には絶対使わねぇ!)」

愛依はプイ、と顔を背けて先に行ってしまう。その途中・・・

「どうして・・・俺を待っててくれたんだ?」

「友達だろ?あ、俺下僕だったわ。わりぃわりぃ」

「・・・俺はレプリカだぜ?おまえの主人じゃないんだぜ」

「・・・別に、お前が俺のご主人様だから仲良くしてた訳じゃないぜ」

「・・・え?」

「ま、お前はお前。アッシュはアッシュ。レプリカだろうが何だろうが、俺にとっての本物はお前だけってことさ」

そのまま進みながらガイが話を続ける。

「お前さ、覚えてる?誘拐された後だから、お前が生まれてすぐってことなのかな」


「何?なんかあったか?」

「記憶なくて辛くないかって聞いたら。お前『昔のことばっか見てても前に進めない』って言ったんだ。だから過去なんていらないって」

「「ッ!」」

その言葉に反応する俺と愛依。過去を見てたら先に進めない・・・か。

「ははは・・・ばっかだな、俺。過去なんかいらないんじゃなくて無いんじゃんな」

「・・・いや、結構真理だと思ったね。俺は」


ガイの話は続く。

「辛かっただろ。色々・・・」

「・・・そんなこと言えるかよ。俺のせいでみんな死んじまったのに」

「その一端は俺のせいでもあるな」

「お前は関係ないだろ?」

「記憶がなくてまっさらなお前をわがまま放題考えなしのおぼっちゃんに育てた一因は俺だぜ」

「・・・へ?」

「歩き方も覚えてなかった・・・つーか知らなかったお前の面倒を見たの、俺だからな。マジ反省した」

その時、ルークが立ち止まる。

「アクゼリュスのこと、どう償ったらいいんだろう・・・」

「難しいことだわ。ただ謝ればいい問題ではないし」

「だな。謝るってのも確かに大事なことだが、謝られた方は困るモンだしな」

「・・・!」

愛依の目に怯えが見られたので、俺は話しかける。

「(・・・俺は困らないからな?)」

「(べ、別にそんなこと思ってない!)」

「困る?どうして?」

ルークの疑問に答える。

「大事なモノを失ったら、人は誰かを憎まずにはいられない。・・・そうだろ?謝った方はすっきりしても、謝られた方がすっきりする訳じゃない。・・・むしろ、怒りの向けどころを見失うだけだ」

現に俺がそうだ。愛依の策略にハマり、俺は亮と殺しあいをしてしまった。シィ、剛鬼、リョウコウ・・・あいつらがいなかったら、共倒れだった。

「生涯忘れることなく責任を背負い続けること・・・かしら。ううん、漠然としてるわね」

「俺が・・・幸せにならないこと・・・とか?」

「そりゃ違うだろうよ」

ガイが苦笑する。

「そうなのかな。だってそもそも俺は生まれる筈のない命だろ。そんな奴がアクゼリュスを・・・」

「あーあーあーあー。後ろ向きなのはやめろ。うざいっての」

「ガイ!ルークだって真剣に考えて・・・」

「取りあえず人助けしろ。残りの人生全部使って世界中幸せにしろ」

「で、できるわけねーだろっ!」

「ンなことわかってる。それぐらいの勢いでなんとかしろってんだよ」

「・・・あ、ああ・・・わかったような、わかんないような・・・」

その時、愛依が走り出す。

「ありがとう、ガイさん。わたしも何だか吹っ切れた気がします!」

「うおわっ!?そ、そりゃよかっな・・・と、とにかく離れてくれないかっ?」

「あ!ご、ごめんなさい・・・」

愛依が下がる。

「愛依・・・?」

「ん、何か悩んでたのがバカらしくなった。・・・仲間っていいな」

愛依の笑顔を見て、俺も笑う。

「孤独の何倍もマシだからな」

そう言いながら洞窟を抜けると、いきなりジェイドが現れた。

「おわっ!?」

「ジェイド!?」

「ああ、よかった。入れ違いになったかと心配していました」

「大佐、どうしてここに・・・」

「アンタらしくないな。そんなに慌てるなんて」

「ガイに頼み事です。ここでルークを待つと言っていたので捜しに来たんですよ」

「俺に?」

ジェイドがガイを見る。

「イオン様とナタリアがモースに軟禁されました」

「何だって!?」

「おや、ルーク。あなたもいらっしゃいましたか」

「・・・いたら悪いのかよ」

「いえ、別に。それよりモースに囚われた二人を助け出さないとまずいことになります。近くにマルクト軍がいないので、ここはガイに助力をと・・・」

「まずいことって何が起きるんだ」

「アクゼリュスが消滅したことをきっかけに、キムラスカは開戦準備を始めたと聞いています。恐らくナタリアの死を戦争の口実に考えているのでしょう」

「そうだわ・・・外殻の人は何故アクゼリュスが消滅したかわかっていない・・・」

「イオン様もこれを警戒して教団に戻ったところ、捕まったようです」

「よし、ルーク。二人を助けよう。戦争なんて起こしてたまるか。そうだろう?」

「・・・ああ。ダアトへ行けばいいのか?」

「まあ、そういうことですね。・・・迷子になったりして、足を引っ張らないようにお願いしますよ」

ジェイドの態度には棘があった。

「ルーク。一度失った信用は簡単には取り戻せないわ」

「・・・わ、わかってるよ」

俺達はダアトに向かう。・・・その途中、丘に通りかかる。

「ご主人様!あれがダアトですの?」

「俺は知らないよ。そうなのか?」

「ええ、そうよ。・・・あの教会にイオン様とナタリアが軟禁されているのね」

「戦争をくい止めることができる可能性を持った二人ですからね。モースとしてもダアトから外に出したくないのでしょう」

「伯父上に軟禁のこと伝えたらいいんじゃないか?」

「ナタリアは多分、アクゼリュスで亡くなったと思われてる筈よ。難しいわ」

「それに、今からキムラスカに行ってる余裕があるかもわからないしな」

「わたし達で助けましょう!」

「アニスが教団の様子を探っています。街で落ち合えればいいのですが」

「アニスを捜すしかねぇな・・・」

俺達はダアトに到着し、探索する。

「(・・・?)」

何故か道が分かる。

「(俺は・・・ここを知っている?)」

そのまま迷うことなく俺は歩き、教会にたどり着く。・・・するとガイの真横からアニスが現れた。

「うおおおっ!?」

・・・当然、ガイが凄まじいリアクションを取ってルークの背後まで逃げた。

「アニス!」

「うわっ!アッシュ、髪切った?」

「お、俺は・・・」

「あ、違った。ルークだ。・・・えええ?なんでおぼっちゃまがこんなところにいるの!?てか、後ろにいるのは大佐達?わっは♪これってローレライの思し召し?」

「「「・・・」」」

「・・・けたたましいな」

「相変わらず変わらないですね、アニスさん」

「あ、アイ。元気になったんだ」

「アニス、取りあえずイオン様奪回のための戦力は整えました。お二人はどうされています?」

「イオン様とナタリアは教会の地下にある神託の盾本部に連れていかれましたっ!」

「勝手に入っていいモンなのか?」

ルークがティアに聞く。

「教会の中だけならね。でも地下の神託の盾本部は神託の盾の人間しか入れないわ」

「侵入方法は探そうぜ。・・・戦争なんて醜いだけだ」

もう戦争なんてたくさんだ。

「・・・ティア、第七譜石が偽物だったという報告はまだしていませんよね。私達を第七譜石発見の証人として、本部へ連れていくことはできませんか?」

「わかりました。自治省の詠師、トリトハイムに願い出てみます」

「トリトハイムって奴は中にいるんだろ?取りあえず行ってみようぜ」

・・・そしてトリトハイムに許可を貰い、神託の盾本部に入る。

「ここからどこへ行けばいいんだ?」

「分かんないよ。しらみつぶしに捜さないと・・・」

「んなことしてたら見つかっちまうぞ」

「なるべく目立たないようにするしかないわ」

「そうですね。敵に見つかったら新手を呼ばれないよう」

「・・・殺るしかなくなるな」

「・・・気が重いな」

「でも、戦争が起きたらもっと人が死ぬ・・・わたしはそんなのはもう嫌です」


・・・神託の盾を警戒しながら進み、見つかったのなら迅速に鎮圧する。・・・そしてその際にイオン達の居場所を聞き、その部屋に入る。

「イオン!ナタリア!無事か?」

「・・・ルーク・・・ですわよね?」

「アッシュじゃなくて悪かったな」

「誰もそんなこと言ってませんわ!」

「イオン様、大丈夫ですか?怪我は?」

「平気です。皆さんも、わざわざ来てくださってありがとうございます」

「今回の軟禁事件に兄は関わっていましたか?」

「ヴァンの姿は見ていません。ただ、六神将が僕を連れ出す許可を取ろうとしていました。モースは一蹴していましたが・・・」

「セフィロトツリーを消すためにダアト式封咒を解かせようとしてるんだわ・・・」

「・・・ってことは、いつまでもここにいたら総長達がイオン様を連れ去りに来るってこと?」

「そういうこった。さっさと逃げちまおうぜ」

俺達は急いで丘まで逃げる。


「追っ手は来ないみたいだな」

「公の場でイオン様を拉致するような真似はできないのだと思うわ」

「でもぉ、この後どうしますかぁ?戦争始まりそうでマジヤバだし」

「バチカルへ行って伯父上を止めればいいんじゃね?」

「忘れたの?陛下にはモースの息がかかっている筈よ。敵の懐に飛び込むのは危険だわ」

「私はセントビナーが崩落するという話も心配ですねぇ」

「キムラスカもダアトも駄目となると・・・」

俺が言うとイオンが頷く。

「ピオニー陛下にお力をお借りしてはどうでしょう。あの方は戦いを望んでおりませんし、ルグニカに崩落の兆しがあるなら、陛下の耳に何か届いているのでは」

「そ、それしかないと思います」

「んじゃ、行くか。・・・っと、船は?」

「アッシュがタルタロスをダアト港に残してくれました。まずは港へ向かいましょう」


・・・だが、マルクトの首都、グランコクマの港は閉鎖されているので、近くの陸から上がることになったのだが・・・

ドガァン!

「きゃあっ!」

「沈んじゃうの?」

「見てきます」

「俺も行く。音機関の修理なら多少手伝える」

二人は機関室に走っていく。

「ご主人様、ボクは泳げないですの・・・」

「・・・知ってるよ。大丈夫。沈みゃあしないって」


『・・・機関部をやられましたが、ガイが応急処置をしてくれて何とか動きそうです』

『一時的なモンだ。できれば何処かの港で修理したいな』

「ここからだと停泊可能な港で一番近いのはケテルブルク港です」

「じゃあ、そこへ行こう。いいだろジェイド」

『・・・まあ・・・』

「随分乗り気じゃないな?」

『・・・こちらにも事情があるので』

そう言った後、ケテルブルクに到着したらマルクト兵が話しかけてくる。

「失礼。旅券と船籍を確認したい」

「私はマルクト帝国第三師団所属、ジェイド・カーティス大佐だ」

「し・・・失礼いたしました。しかし大佐はアクゼリュスで・・・」

「それについては極秘事項だ。任務遂行中、船の機関部が故障したので立ち寄った。事情説明は知事のオズボーン子爵へ行う。艦内の臨検は自由にして構わない」

「了解しました。街までご案内しましょうか?」

「いや、結構だ。私はここ出身なのでな。地理はわかっている」

「わかりました。それでは失礼します」

「へー、ジェイドってここの生まれなんだ」

「気が進まなかったのも里帰りだからか?」

「・・・まあ、ね」

「あの、修理はどうするんですか?」

愛依が尋ねる。

「それも知事に報告して頼みましょう」

「よし、じゃあケテルブルクへ急ごう」

俺達はケテルブルクへ向かう。・・・ケテルブルクの空は曇と雪が支配していた・・・









ケテルブルク~

「・・・そろそろ来るか」

ケテルブルクのホテルの一室、呟いたのは独特な髪の色の中性的な少年。

「そ、そうですか・・・」

・・・一方、茶髪の少女は毛布にくるまりガクガク震えていた。

「・・・いつまでそうしてるんだよ、撫子」

「寒いものは寒いんです。・・・いきなり雪山に放り出されて・・・冬眠するかと思いました」

「お前は熊か?第一、ここは暖房効いてるし寒くないだろう」

「何で黒羽さんは平気なんですか・・・」

「そりゃ、色々・・・な」

「と、とにかく。私はここから動きたくありません。次に外に出たら本当に冬眠してしまいます」

その言葉に黒羽は呆れる。

「・・・まあ、咲が来るまでもう少しだろうし。あんまり急かす必要もないか・・・」

撫子は更に毛布を重ね、横たわる。黒羽も欠伸をしながらベッドに入り込んだ・・・

 
 

 
後書き
アニス
「アニスちゃん登場~!」

ソフィ
「わたしはソフィ。ソフィ・ラントだよ」

リョウ
「・・・待て。まさか・・・」

ソフィ
「うん、アスベルの“養子”になって、わたしはアスベルの娘なんだって」

サキ
「既にグレイセスfのストーリーが終わってるのな」

ソフィ
「アスベル父さん、シェリア母さん、ヒューバートおじさん、リョウおじさん」

リョウ
「おじ・・・!?」

アニス
「ぶーぶー、アニスちゃんを置いて話を進めないでよぅ」

ソフィ
「アニスっていうんだ。よろしくね」

アニス
「あ、うん・・・」

リョウ
「(グレイセスfだとアニスとナナリーの見合い写真がアス兄に届くんだよな)」

ソフィ
「わたしね、アニスの服を着たことがあるよ」

アニス
「ほえ?なんで?」

ソフィ
「“だうんろーどこんてんつ”っていうのでみんなが今までの歴代キャラの服を着れるんだよ」

サキ
「そんなのあったなぁ・・・」

アニス
「色々あるんだね。・・・版権料で稼げないかな(ボソッ)」

サキ
「アニス?」

アニス
「な、なんでもな~い♪それじゃ、次回の続・真似と開閉と世界旅行!」

ソフィ
「次回も見てね」

リョウ&サキ
「「全部持ってかれた・・・」」

 

 

雪降る街~

 
前書き
雪降る街にいるのは少しですが・・・ではどうぞ。 

 
俺達は知事の家に到着したが・・・

「・・・お兄さん!?」

・・・知事がジェイドを見てそう言うと、全員がビックリする。

「お兄さん!?え!?マジ!?」

「やあ、ネフリー。久しぶりですね。あなたの結婚式以来ですか?」

「お兄さん!どうなってるの!?アクゼリュスで亡くなったって・・・」

「実はですねぇ・・・」

ジェイドが事情を話す。

「・・・何だか途方もない話だけれど、無事で何よりだわ。念のためタルタロスを点検させるから、ピオニー様にお会いしてね。とても心配しておられたわ」

「おや、私は死んだと思われているのでは?」

「お兄さんが生きてると信じていたのはピオニー様だけよ。皆さんも出発の準備ができるまでしばらくお待ちください」

・・・どうやらネフリーさんは宿も取ってくれたみたいだった。・・・更に仰天。あのディストもここの出身らしい。あ、そうそう。ガイから聞いたのだが、フォミクリー・・・つまりレプリカ技術を生み出したのはジェイドらしい。・・・つまり、ルークが生まれたのは間接的とはいえ、元凶はジェイド・・・と言っても差し控えないらしい(もっとも、ルークはそれなりに感謝していたが)・・・とにかく、俺達はホテルに到着する。

「知事から承っています。ごゆっくりどうぞ」

「あ、俺ネフリーさんトコに忘れ物した。行ってくる」

ルークがやけに棒読みでそう言った。

「俺も行こうか?」

「ネフリーさん、女だぞ」

「美人を見るのは好きだ」

「ガイも男性ですものね・・・」

「年上の人妻だよ~?」

「や、違うぞ!変な意味じゃなくて・・・」

「ご主人様、ボクも行くですの」

「あーもう、うぜぇって!俺一人でいいよ!」

ルークはそう言って走り去っていく。

「・・・変な奴」

大方ネフリーさんに話を聞きにいったんだろうけど・・・

「俺達は休むか・・・な、愛依?」

「・・・あ、うん」

ぐるる~・・・

「・・・!」

愛依が顔を赤くして腹を抑える。

「・・・飯食いに行くか?」

「・・・(コクッ)」

俺達はジェイドに一言言ってからホテルのレストランに入る。

「いらっしゃいませ、こちらの・・・席・・・へ・・・」

いきなりウエイトレスが俺を見て固まる。

「・・・咲、さん?」

「え・・・あ、な、撫子!?」

服装や髪型が違うのでお互いに気づけなかった。

「何やってんだ。早く案内・・・って、あ」

奥から出てきたのは・・・黒羽だ。

「な、何で黒羽まで・・・」

「いや、咲の手助けをしようとしたら転移がズレてな」

「・・・凍えそうになりながら、ここに到着して、アルバイトをして宿代を稼いでいたんです」

「そうだったのか。まったく、ビックリ・・・愛依?」

振り向くと、愛依は両手で両腕を掴んでガタガタと震えていた。

「わ、わた・・・う、あ・・・」

・・・そうだ。愛依はこの二人とユエを消し、更にそれによって増長したシィの闇を奪ったんだっけか・・・

「・・・悪い、少し表に出れないか?」

「・・・わかりました」

「・・・ああ、もうすぐ休憩時間になるから、先に行っててくれ」

・・・俺達は外に出るが、愛依は変わらず震えていた。・・・寒いからではなく、恐怖と罪悪感で、だ。

「お待たせしました」

「ああ、悪いな」

「・・・ッ!」

愛依がゆっくり立ち上がり、撫子達を見る。

「ハッ、ハッ、フッ・・・」

胸元を抑え、過呼吸気味になりながらもしっかりと相手を見る。・・・そして・・・

「ご・・・ごめ・・・ごめんな、さい!」

・・・謝罪を口にした。・・・いくらガイの言葉で多少マシになったとは言え、その恨みを持たれる“ご本人”を見たのであれば、そういうわけにはいかない。

「わた、し・・・浅はかで・・・考えてなくて・・・傷、傷つけて・・・う、うぁ・・・ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」

遂には言葉が出なくなり、ただごめんなさいと言い続ける。・・・俺はこれ以上見ていられなくなり、愛依に話しかけようとしたら・・・先に黒羽が何かを渡した。

「ほら」

「え・・・」

それは魔法瓶だった。何かの飲み物のようだが・・・

「寒いだろ?俺が作った特製スープだ。暖まるぞ」

「どう、して・・・」

「別にあの時の事は気にしていない。・・・やられた俺達も俺達だからな」

「・・・で、でも」

「いいんです。こちらは許してるんですから」

「そ、それじゃあこっちの気が・・・」

すると黒羽がため息を吐く。

「・・・んじゃ、目ぇ閉じてくれ」

「・・・!」

愛依はそれを聞いて身体を強張らせながら目を閉じる。そして黒羽は手を上げ・・・

「・・・そら」
・・・愛依の額にデコピンをした。

パチン

「あた!?・・・え!?」

殴られると思っていたのか、愛依は唖然としていた。

「これであの時のはチャラな。・・・あ、撫子の分もあるか。・・・撫子」

「はい」

再び愛依の額にデコピンが炸裂する。

「あいた!?」

愛依が涙目になりながら赤くなった額を擦る。

「な、な・・・」

愛依も思考が追い付かず、ずっと黒羽と撫子を交互に見ている。

「さっさとスープ飲め。冷めるぞ?」

「え、あ・・・う、うん・・・」

愛依が慌てて・・・でもゆっくりとスープを口にする。

「あ・・・」

愛依の目にまた涙が溜まる。

「おい、しい・・・」

「だろ?・・・それに、腹も空いてるみたいだしな、特別にフルコースを作ってやる」

「・・・」

「・・・俺は咲や亮みたいに気を使える訳じゃないけどな・・・」

黒羽が頬を掻く。

「・・・とにかく、お前に関しては特に恨んでもないし、嫌いな訳でもない」

愛依は再びうずくまってしまう。

「愛依・・・」

「・・・ありがとう・・・」

「・・・泣き止んだらレストランに来いよ」

「・・・話は終わりましたか・・・」

しばらく黙っていた撫子を見ると、もの凄いスピードで震えていた。

「さ、さささ、寒いです・・・は、早く中に・・・」

「・・・く、くくく・・・」

俺は笑いながら中に戻る。すると、ジェイドがいた。

「おや、随分数が増えていますね。・・・もしかして、隠し子か何かですか?」

「あのな・・・まあ、確かに黒羽と撫子は小さいけど・・・それでも、隠し子な訳あるか!」

「そうですか。・・・ですが、そちらのお二人と知り合いに見えましたが・・・あなたは記憶が無い筈では?」

「・・・ッ!?」

僅かに反応してしまう。・・・当然、ジェイドがそれを見逃す筈がない。

「・・・愛依、先に行っててくれるか?」

「・・・わかった」

三人はエレベーターに乗る。

「・・・まったく、これは秘密で通そうとしたんだけどな・・・」

俺は話す。・・・全てを、真実を。当然、それに併せて俺の“力”についても。

「・・・にわかには信じがたいですが・・・それを真実だと認めざるを得ませんね。否定しようにも証拠がありすぎる」

「・・・何だ。アンタならイレギュラーは認めなさそうなもんだけど」

「いくらなんでも事実を否定する真似はしませんよ。・・・この事は秘密にした方がいいですか?」

「・・・ああ。アンタは理解してくれても、他がそうだとは限らないしな」

「・・・わかりました」

「・・・そんじゃ、次はこっちの番だ」

俺はジェイドを見る。

「この街の二人の出身・・・バルフォア博士とネイス博士ってのはジェイドとディストだな?」

「・・・その通りです」

「街の人が口にしていたが・・・この街にはゲルダ・ネビリムという先生がいたそうだな」

「・・・はい」

「ネビリムさんは街の子供達に様々な事を教え、街の人気者だった」

「・・・」

「・・・だけどある日、ネビリムさんの家が火事になり、ネビリムさんは亡くなった・・・」

「・・・」

「・・・確か、フォミクリーの技術を作り出したのはジェイドだったよな?」

「・・・その様子ですと、気づきましたか」

「ああ。ジェイド、アンタは何らかの形でネビリムさんを“造りだそう”としたんだ」

「・・・あなたは頭が良いですね。・・・私が最初にフォミクリーを・・・レプリカを生み出したのは九歳の時です」

「・・・そんなに早く」

俺は驚きを隠せなかった。

「ネフリーのお気に入りの人形が壊れましてね。・・・その時に」

「・・・それで」

「その時、ネビリム先生に出会ったのです。・・・あの人は第七音素が使えた。・・・尊敬していたんです」

「・・・」

「・・・ところがある日、私は素養が無いのに第七音素を使おうとしてしまった。・・・結果、制御不能の譜術が家を焼き払いました。・・・ネビリム先生は重傷を負った。その時何を血迷ったのか、私はこう考えてしまった」

「・・・」

「『今ならネビリム先生を生き返らせることができる』・・・とね」

「ッ!?」

「結果生まれたのはただの化け物でした。・・・今にして思えば、私はネビリム先生に許しを請いたいんでしょう。自分が楽になる為に・・・」

「ジェイド・・・」

「・・・ですが、どうしようと所詮レプリカはレプリカ。私は一生過去の罪に苛まれるのです」

「・・・悪かったな。話しづらい事を・・・」

「あなたも話しづらい事を話してくれましたからね」

「・・・俺、アンタのこと、ただのムカつく堅い軍人って思ってたけど・・・誤解してたみたいだ」

「いえいえ、私ほど柔らかい軍人はいませんよ?」
「よく言うよ。・・・んで、この事も秘密の方がいいよな?」

俺が聞くとジェイドは眼鏡を上げる。

「ええ、お願いします。・・・きっとルークもネフリーに話を聞いているでしょうから、ルークにも口止めしておきます」

「そっか。・・・ふぅ、重苦しい話で疲れた」

「・・・では、保護者はもう行った方がいいのでは?」

「は?保護者?」

「娘を一人にしても良いのですか?」

それで愛依のことだと気づき。俺はため息を吐く。

「誰が娘だっての・・・つーかアンタとアニスの方がよっぽど親子に見えるっつの?」

「おや、知らなかったのですか?私とアニスは実は親子・・・」

「は?嘘だろ!?」

「・・・だったら毎日騒がしいでしょうねぇ」

俺はずっこける。

「こ、このオッサンは・・・!」

「はっはっは。さて、そろそろ行ってみてはどうですか?」

俺はもう一度ため息を吐き、ジェイドに背を向ける。そしてレストランには“貸し切り”の文字。中に入ると・・・

「うわぁ」

思わずそう漏らす。何故なら大量の料理が並べられていたからだ。

「・・・黒羽、作りすぎじゃないか?」

キッチンに近づき、そう言うと黒羽が指差す。

「・・・あれ見てそう言えるか?」

真ん中の席には・・・尋常じゃないスピードで料理を食べる愛依の姿。

「・・・よく食べるな」

「俺も驚いた。チーフが材料を無料で使っていいって言ってくれたからな・・・許可された材料を見て多すぎだろ、なんて考えてたのがバカらしい・・・」

見ると愛依は食べながら撫子と楽しそうに話をしていた。

「・・・仲良さそうだな」

「最初はまだビクついてたけどな」

「愛依ー。あんまり食うと太るぜー」

すると愛依がすぐに言葉を返してくる。

「うるさい。いいんだよ、アタシは太らない体質なんだから!」

・・・そのまま時は流れ・・・次の日、撫子と黒羽も着いてくる。皆には意外にもジェイドが説得してくれた。

「・・・んで、グランコクマに行くためにはこの森を抜けるのか・・・」

テオルの森。グランコクマに行くにはここを抜けなくてはならない。

「何者だ!」

マルクト兵が身構える。

「私はマルクト帝国第三師団師団長、ジェイド・カーティス大佐だ」

「カーティス大佐!?大佐はアクゼリュス消滅に巻き込まれたと・・・」

「私の身の証は、ケテルブルクのオズボーン子爵が保証する。皇帝陛下への謁見を希望したい」

「大佐お一人でしたらここをお通しできますが・・・」

「えーっ!こちらはローレライ教団の導師イオンであらせられますよ!」

「通してくれたっていいだろ!」

アニスとルークが言うが・・・

「いえ。これが罠とも限りません。たとえダアトの方でもお断りします」

「皆さんはここで待っていて下さい。私が陛下にお会いできればすぐに通行許可を下さいます」

「それまでここに置いてけぼりか。まあ仕方ないさ」

「・・・ちぇっ」

ガイに言われてルークが引き下がる。・・・そのまましばらく経ち・・・

「・・・遅いな、ジェイド」

俺はぼやく。

「ただ待つのも結構大変ですわね」

バキィン・・・

「ぐわぁぁ・・・!」

俺達は一斉に立ち上がる。

「今のは・・・!?」

「悲鳴ですの・・・」

「行ってみるか」

黒羽がそう言うのと同時に俺達は走り出す。・・・その途中、マルクト兵が倒れていた。

「しっかりなさい!」

「神託の盾の兵士が・・・くそ・・・」

そう呟いてマルクト兵の首がガクンと下がる。

「神託の盾・・・まさか兄さん・・・?」

「グランコクマで何をしようってんだ?」

「まさかセフィロトツリーを消すための作業とか?」

「いえ、このあたりにセフィロトはない筈ですが・・・」

イオンの言葉にルークが返す。

「話してても拉致があかねぇ!神託の盾の奴を追いかけて取っ捕まえようぜ」

「そうですわね。こんな狼藉を許してはなりませんっ!」

「待ってください」

撫子が二人を止める。

「勝手に入ってマルクト軍に見つかったら不味いです」

「・・・じゃあ、見つからないように行くしかないと思う」

愛依がそう撫子に言う。

「かくれんぼか。イオン様、ドジらないで下さいね」

「あ、はい!」
そのまま森に入るが、やはりこの大人数だ。

「・・・厳しいですね」

撫子が呟く。

「何とか隙を作れればな・・・」

その時、黒羽と撫子が相談する。

「ナタリアさん、予備の服はありますか?」

「?ございますわよ。でも・・・」

「ちょっと貸してくれないか?」

「構いませんが・・・」

そして二人が俺を見てニヤリと笑う。

「え・・・な、なんだよ。何でジリジリ近寄ってーーーーーーーーーーー」









「・・・む、そこ!何故この森にいる!」

「す、すみません・・・道に迷ってしまって・・・」

「ここは立ち入り禁止だ。さっさと帰れ!」

「で、でも・・・魔物がいて・・・怖くて・・・」

「・・・」

「お、お願いします・・・森を出るまででいいので・・・一緒に来てくれませんか・・・?」

「・・・仕方ない。わかった」

「あら・・・首にゴミがついていますよ?」

「・・・特に気にすることでは・・・」

「いいえ、せめてものお礼です・・・ふっ!」

ガッ!

「ぐ・・・!?」

そう言って首に手刀を落とし、気絶させる。

「・・・くそっ!何で女装しなきゃなんねぇんだよ!」

「似合ってますよ、咲さん」

俺は今・・・ナタリアの服を着て、髪を下ろして女装していた。

「何で俺なんだよ!ナタリアやティアでもいいだろ!?」

「私では上手く気絶させられませんもの」

「私も演技は苦手だわ」

「じゃあアニスや撫子に黒羽でも同じだろ!?」

「私じゃ首まで手が届かないもん。気絶させる力もないし♪」

「その通りだな」

「そうですよ」

「黒羽はともかく撫子には影があんだろーが!?」

「すみません、つい忘れてました」

「嘘つけ!あと黒羽、今カメラ持ってたろ!」

「安心しろ。もうカメラはない。クレス達に送ったからな」

「何してくれとんじゃああああ!!ルークと愛依!んなあからさまに顔を逸らして笑いを堪えるな!」

「わ、わりぃ・・・で、でもよ・・・」

「笑うなって方が・・・む、むり・・・!」

「サキ、いっそ私のメイドになります?」

「何で執事でも召し使いでもなくメイドなんだよ!おかしいだろっ!」

「はは、大変だな、サキ」

「笑い事じゃねえよ・・・」

そう言ってガイに近寄ったら・・・ガイが逃げた。

「・・・ガイ?」

「あ、いや・・・つい」

「イオン・・・」

「似合ってると思いますよ」

「違う・・・女装の感想が聞きたいんじゃなくて・・・!」

その時、パシャ、っと音がした。

「・・・黒羽?」

「いや、今のは俺じゃ・・・」

みんなが首を振り・・・俺は隅に行ってリパルを取り出す。

「素直に白状しなければ折る」

『ごごごごごめんなさいッスーーー!?』

犯人はリパルだった。


「写真消せ。即行。OK?」


『わわ、わかったッス!・・・あ』

「・・・?」

『う、うっかりリョウコウさんの所に送信しちゃったッス・・・』

「・・・」

『・・・』

「・・・(ニコッ)」


『・・・(ホッ)』

「~~~~~~!!!!!」

『いだだだだだだだだ!?』

マジでへし折りそうな程全力でリパルに力を加える。・・・とにかく、俺は再び着替える。

「もうすぐ出口だぞ。神託の盾の奴、もう街に入っちまったのか?」

「・・・マルクトの兵が倒れていますわ!」

ナタリアが近づいた・・・瞬間、ラルゴが上から鎌を振り下ろしてくる。

「ナタ・・・!」

だがナタリアはすぐ反応し、後ろに跳びながら矢を放つ。

カキン!

「お姫様にしてはいい反応だな」

「おまえは砂漠で会った・・・ラルゴ!」

「侵入者はおまえだったのか!グランコクマに何の用だ!」

ルークがナタリアに近づき、剣を構える。

「前ばかり気にしてはいかんな。坊主」

「え?」

その直後、“ガイが”ルークに向かって刀を振り下ろした。ティアがルークを庇い、何とか避ける。

「ガイ!?」

「ガイさん!?どうしたんですか!」

愛依が偃月刀を構えながら混乱する。

「いけません!カースロットです!どこかにシンクがいるはず・・・!」

その間にもガイはルークに斬りかかる。

ガキィン!

「おっと、俺を忘れるなよ」

「させませんわ!」

ナタリアが矢を放つ。

「ふ、ふはははははっ!やってくれるな、姫」

そして遂にルークの剣が弾かれてしまう。・・・その時、地震が起きた。

「きゃっ、また地震!」

・・・その時、見えた。一本だけ落ちる葉が多い樹がある。

「撫子、上!」

「ッ!操!」


影が樹を貫き、シンクが落ちてくる。

「・・・地震で気配を消しきれなかったか」

「やっぱりイオンを狙ってるのか!それとも別の目的か!」

愛依は倒れたガイに駆け寄る。

「誰の指示だ!ヴァンか!?モースか!?」

俺の言葉にラルゴが返す。

「どちらでも同じことよ。俺達は導師イオンを必要としている」

「アクゼリュスと一緒に消滅したと思っていたが・・・大した生命力だな」

「ぬけぬけと・・・!街一つを消滅させておいてよくもそんな・・・!」

ナタリアが弓矢を構える。・・・その言葉にシンクが鼻で笑う。

「はき違えるな。消滅させたのはそこのレプリカだ」

「何の騒ぎだ!」

マルクト兵が近づいてくる。

「ラルゴ、いったん退くよ!」

「やむをえんな・・・」

二人が去っていく。


「何だ、お前達は!」

「カーティス大佐をお待ちしていましたが、不審な人影を発見し、ここまで追ってきました」

ティアが言う。

「不審な人影?先ほど逃げた連中のことか?」

「神託の盾騎士団の者です。彼らと戦闘になって仲間が倒れました」

「だがお前達の中にも神託の盾騎士団の者がいるな。・・・怪しい奴等だ。連行するぞ」

「・・・抵抗しない方がいいよな」

「当たり前でしょう」

・・・俺達はマルクト兵に従う。そしてグランコクマに入り・・・

「フリングス少将!」

「ご苦労だった。彼らはこちらで引き取るが、問題ないな?」

「はっ!」

「ルーク殿ですね。ファブレ公爵のご子息の」

「どうして俺のことを・・・!」

「ジェイド大佐から、あなた方をテオルの森の外へ迎えに行って欲しいと頼まれました。その前に森に入られたようですが・・・」

「すみません。マルクトの方が殺されていたものですから、このままでは危険だと思って・・・」

ティアが謝るが、フリングス将軍は首を振る。


「いえ、お礼を言うのはこちらの方です。ただ騒ぎになってしまいましたので、皇帝陛下に謁見するまで皆さんは捕虜扱いとさせて頂きます」

「そんなのはいいよ!それよりガイが!仲間が倒れちまって・・・」

「彼はカースロットにかけられています。しかも抵抗できないほど深く冒されたようです。どこか安静にできる場所を貸してくだされば、僕が解呪します」

イオンが言うとルークがイオンを見る。

「おまえ、これを何とかできるのか?」

「というより、僕にしか解けないでしょう。これは本来、導師にしか伝えられていないダアト式譜術の一つですから」

「わかりました。城下に宿を取らせましょう。しかし陛下への謁見が・・・」

「皇帝陛下にはいずれ別の機会にお目にかかります。今はガイの方が心配です」

「わかりました。では部下を宿に残します」

「私も残りますっ!イオン様の護衛なんですから」

「待てよ!俺も一緒に・・・!」

「・・・ルーク。いずれわかることですから、今、お話しておきます」

イオンが言いづらそうに話す。

「カースロットはけして意のままに相手を操れる術ではないんです」

「どういうことだ?」

「カースロットは記憶を揺り起こし、理性を麻痺させる術。つまり・・・元々ガイにあなたへの強い殺意がなければ攻撃するような真似はできない。・・・そういうことです」

「・・・そ、そんな・・・」

「解呪が済むまでガイに近寄ってはなりません」

そう言ってイオン達は歩いていく。

「・・・ちょっと一人にしてくれ」

俺達はルークを置いて街を回る。









「ガイさんは・・・どうしたんだよ」

愛依が聞いてくる。

「カースロット・・・か」

「でも、ガイさんはルークさんの使用人なんだろ!?だったら殺すチャンスはいくらでもあった・・・」

「愛依、やけに必死だけど・・・」

「・・・誰かの言いなりで誰かを傷つけるなんて・・・そんなの・・・」

愛依がうつ向いてしまう。

「愛依?」

「・・・何でもない」

愛依は海を眺める。

「海・・・か」

「どうした?」

「いや・・・懐かしい気がしてさ・・・椿と見た海が・・・っ!」

「愛依!?」

愛依が頭を押さえてうずくまる。

「・・・う、あああ・・・!」

「愛依!?しっかりしろ、愛依!」

「・・・もう、大・・・丈夫・・・」

愛依が立ち上がる。・・・その顔色は悪い。

「愛依・・・お前」

「大丈夫だからさ・・・」

「・・・おーい!サキー!」

「ルーク?」

・・・ルークとティアがやって来る。・・・どうやらティアがルークを励ましたらしく、ルークは立ち直って陛下に会いに行くと言った。俺達は合流して陛下に謁見する。

「よう、あんた達か。俺のジェイドを連れ回して返しちゃくれなかったのか」

「・・・は?」

「こいつ封印術(アンチフォンスロット)なんて喰らいやがって。使えない奴で困ったろう?」

・・・ジェイドはどうやら俺と合流する前・・・タルタロスに襲撃してきたラルゴに封印術を喰らって弱体化してるらしい・・・あれでか?

「いや・・・そんなことは・・・」

「陛下。客人を戸惑わせてどうされますか」

「ハハッ、違いねぇ。アホ話してても始まらんな。本題に入ろうか」

陛下の表情が真面目になる。

「ジェイドから大方の話は聞いている」

「このままだとセントビナーが魔界に崩落する危険性があります」

ルークが説明する。

「かもしれんな。実際、セントビナーの周辺は地盤沈下を起こしてるそうだ」

「では、街の住人を避難させなければ!」

「そうしてやりたいのは山々だが、議会では渋る声が多くてな」

「何故ですの、陛下。自国の民が苦しんでおられるのに・・・」

「キムラスカ軍の圧力があるんですよ」

「キムラスカ・ランバルディア王国から声明があったのだ」

玉座の近くにいる男が言う。

「王女ナタリアと、第三王位継承者ルークを亡き者にせんと、アクゼリュスごと消滅を謀ったマルクトに対し、強く抗議する。そしてローレライとユリアの名のもと、ただちに制裁を加えるであろう、とな」

「事実上の宣戦布告ですね」

「父は誤解をしているのですわ!」

「果たして誤解であろうか、ナタリア姫。我らはキムラスカが戦争の口実にアクゼリュスを消滅させたと考えている」

「我が国はそのような卑劣な真似はいたしません!」

「そうだぜ!それにアクゼリュスは・・・俺のせいで・・・」

「ルーク、事情は皆知っています。ナタリアも落ち着いてください」


「・・・問題はそこじゃないんですね?」

撫子がそう言うとピオニー陛下は頷く。

「そう、セントビナーの地盤沈下がキムラスカの仕業だと、議会が思い込んでいることが問題なんだ」

「住民の救出に差し向けた軍を街ごと消滅させられるかもしれない・・・そう考えてるんだな」

「そういうことだ」

ピオニー陛下は黒羽の言葉にそう答えた。

「ジェイドの話を聞くまで、キムラスカは超振動を発生させる譜業兵器を開発したと考えていた」

「少なくともアクゼリュス消滅はキムラスカの仕業じゃない。・・・仮にそうだとしても、このままならセントビナーは崩落する。それなら街の人を助けた方がいいはずだろ!・・・あっ・・・いや、いいはずです。もしもどうしても軍が動かないなら俺達に行かせて下さい」

「私からもお願いします。それなら不測の事態にも、マルクト軍は巻き込まれない筈ですわ」

「驚いたな。どうして敵国の王族に名を連ねるおまえさん達がそんなに必死になる?」

「敵国ではありません!少なくとも庶民達は当たり前のように行き来していますわ。それに困っている民を救うのが王族に生まれたものの義務です!」

「・・・そちらは?ルーク殿」

「俺は、この国にとって大罪人です。今回のことだって、俺のせいだ。俺にできることならなんでもしたい。・・・みんなを助けたいんです!」

「と、言うことらしい。どうだ、ゼーゼマン。おまえの愛弟子のジェイドもセントビナーの一件に関してはこいつらを信じてもいいと言ってるぜ」

「陛下。こいつらとは失礼ですじゃよ」

「セントビナーの救出は私の部隊とルーク達で行い。北上してくるキムラスカ軍はノルドハイム将軍が牽制なさるのがよろしいかと愚考しますが」

「小生意気を言いおって。まあよかろう。その方向で議会に働きかけておきましょうかな」

「恩に着るぜ、じーさん」


・・・というわけで俺達はセントビナーに向かうことになった。・・・問題が山積みになっていくが、まずは目の前のことを片付けていかなきゃな・・・

 
 

 
後書き
リョウ
「えー、咲がまた引きこもりました」

ティア
「まあ・・・彼もショックだったのね」

シェリア
「女装は厳しいわよね・・・あ、私はシェリア・バーンズよ。よろしくね」

ティア
「私は神託の盾騎士団所属の、ティア・グランツよ」

リョウ
「二人の共通点・・・武器&回復か」

シェリア
「ティアもナイフを使うの?」

ティア
「基本は杖だけど・・・それでもナイフはよく使うわ」

リョウ
「二人とも広範囲回復担当だしね。ハートレスサークルやリザレクションとか。・・・あと意外に火力も高い」

シェリア
「そうかしら?」

リョウ
「シェリアはディバインセイバーやインディグネイション使えるし、ティアもグランドクロスやジャッジメント使えるよね?」

ティア
「ええ、まあ・・・」

シェリア
「・・・そうだわ。後で色々聞かせてちょうだい。あなたの世界も興味あるわ」

ティア
「こちらもよ。・・・それじゃあ、次回の続・真似と開閉と世界旅行」

リョウ
「また見てください!」

 

 

救出~

 
前書き
来週テストだぜ!・・・ハァ。ではどうぞ。 

 
・・・宿屋に向かうと、解呪に成功したと報告を受けた。

「ガイ!・・・ごめん・・・」


「・・・ルーク?」

「俺・・・きっとお前に嫌な思いさせてたんだろ。だから・・・」

顔を伏せながらルークは言う。・・・そんなルークを・・・ガイは笑った。

「ははははっ、なんだそれ。・・・お前のせいじゃないよ」

ガイが目を閉じる。

「俺がお前のことを殺したいほど憎んでいたのは、お前のせいじゃない」

ガイは一呼吸置いてから言った。

「俺は・・・マルクトの人間なんだ」

「え?ガイってそうなの?」

アニスが驚く。

「俺はホド生まれなんだよ。で、俺が五歳の誕生日にさ、屋敷に親戚が集まったんだ。んで、予言士が俺の預言を詠もうとした時、戦争が始まった」

「ホド戦争・・・」

「ホドを攻めたのは、確かファブレ公爵ですわ・・・」

「そう。俺の家族は公爵に殺された。家族だけじゃねえ。使用人も、親戚も・・・あいつは、俺の大事なものを笑いながら踏みにじったんだ。・・・だから俺は、公爵に俺と同じ思いを味あわせてやるつもりだった」

ジェイドが近づく。

「あなたが公爵家に入り込んだのは復讐のため、ですか?・・・ガルディオス伯爵家、ガイラルディア・ガラン」

「・・・うぉっと、ご存知だったって訳か」

「ちょっと気になったので、調べさせてもらいました。あなたの剣術はホド独特の盾を持たない剣術、アルバート流でしたからね」


・・・慣れてるから違和感はないが、普通片手剣は空いた手に何かを持つ。・・・まあ、俺の知り合いに盾を使うのは全然いないんだが・・・

「・・・なら、やっぱりガイは俺の傍なんて嫌なんじゃねぇか?俺はレプリカとはいえ、ファブレ家の・・・」

「そんなことねーよ。そりゃ、まったくわだかまりがないと言えば嘘になるがな」

「だ、だけどよ・・・」

「お前が俺についてこられるのが嫌だってんなら、すっぱり離れるさ。そうでないなら、もう少し一緒に旅させてもらえないか?まだ、確認したいことがあるんだ」

「・・・わかった。ガイを信じる。いや・・・ガイ、信じてくれ・・・かな」

「はは、いいじゃねえか、どっちだって」

黙っていたイオンが息を吐いた。

「よかった。お二人が喧嘩されるんじゃないかってヒヤヒヤしてました」

「今のルークなら一方的にやられるんじゃないか?なあ?愛、依・・・?」

隣にいた愛依は頭を抑えていた。

「五歳・・・家族・・・笑いながら・・・」

「愛依?愛依!」

愛依の顔が上がる。

「どうしたんだ?」

「い、いや・・・ちょっと・・・な」

「まあ、少し休憩した方がよろしいのでは?」

ナタリアが愛依を気遣う。

「・・・大丈夫です。今はセントビナーに向かわないと・・・」

・・・アニスは止めたが、結局イオンも同行することになり、俺達はセントビナーに急ぐ。

「怪我人は言ってください!ある程度なら治療できます!・・・撫子、黒羽。そっちは?」

そして俺達は避難誘導を始めていた。

「こっちには誰もいないです」

「問題はないぜ」

・・・だが、何より張り切っているのは・・・

「ジェイド、移動は女と子供・・・あ、老人もか。それが優先だよな?」

「ええ」

「この人数なら馬車も必要だよな・・・怪我人や病人は率先して乗せるんだよな?」

「そうですね」

「よし。俺は逃げ遅れた人がいないか見てくるよ」

ルークが走っていく。

「ふえ~、アクゼリュスの時とは大違いですね」

「そうですねぇ。むしろ少々不気味ですよ」

「あの変わりようは誰でもそう思いますよね」

「ええ。彼の“変わりたい”という言葉は本物だったのでしょう」

「ちょ~~~~っと認めてあげてもいいかな。熱血バカっぽいけど」

「まあ、バカはバカですから」

「あはははっ」

「ジェイド、アニス!バカみたいに突っ立ってないで手伝ってくれよ!」

「おや、ルークにバカと言われてしまいました」

・・・そう、ルークが一番動いている。その時、上から砲撃と共に何かが降ってくる。

「な、なんだ・・・!?」

「ハーッハッハッハ。ようやく見つけましたよ、ジェイド!」

この高笑いは・・・ディストか!?

「この忙しい時に・・・昔からあなたは空気が読めませんでしたよねぇ」

「何とでも言いなさい!それより導師イオンを渡していただきます」

「断ります。それよりそこをどきなさい」

「へぇ?こんな虫けら共を助けようと言うんですか?ネビリム先生のことは諦めたくせに」

「・・・おまえはまだそんな馬鹿なことを!」

「さっさと音をあげたあなたにそんなことを言う資格はないっ!さあ導師を渡しなさい!」

そう言うと人形・・・カイザーディストが動き出す。

「ジェイド!お前は避難活動を続けてくれ」

「・・・すみません」

「撫子、黒羽、愛依。やれるな!?」

「もちろんです!」

「初戦闘だな・・・!」

「今まで迷惑をかけたからな・・・勝つ!」

愛依が走りだし、二本の偃月刀に闇を纏わせる。

「おらぁぁぁ!!」

ガキィン!

愛依の一撃はカイザーディストのドリルをへし折った。

「っしゃあ!」

「愛依さん、危ないです!」

カイザーディストの砲身が愛依を狙う。

「壁!」

・・・直後、撫子が作り出した壁が砲撃を防ぐ。

「撫子、ありがとう!」

「礼には及ばないです」

撫子が微笑んで返す。

「砲身が邪魔だな・・・リパル、鎌!」

『おいッス!』

方天画戟を鎌に変形させ・・・闇を武器に集中させる。

「いくぜ・・・!」

黒く巨大化した鎌を肩に担ぎ、一気に接近する。

「デスサイズ!!」

ヒュオンッ!

鎌が空気を切り裂き、一秒後に砲身が両断される。

「・・・カートリッジロード!」

黒羽は手に持つ刀・・・デバイスからカートリッジを排出しながら歩き出す。そして・・・

「・・・」

次の瞬間には黒羽が抜き身の刀を手に持ちながらカイザーディストの背後にいた。

「・・・終わりだな」

チン、と刀を鞘に納めた瞬間、カイザーディストが真っ二つになった。

「あああああ!私の可愛いカイザーディスト号がぁ!覚えてなさい!今度こそお前達をギタギタにしてやりますからねっ!」

「無駄だとは思うが、念のため追跡しろ」

「はっ!」

ズズズ・・・

「くそ!マクガヴァンさん達が!」

「待って、ルーク!それなら私が飛び降りて譜歌を詠えば・・・!」

「待ちなさい。まだ相当数の住人が取り残されています。あなたの譜歌で全員を護るのはさすがに難しい。確実な方法を考えましょう」

「わしらのことを気にするなーっ!それより街のみんなを頼むぞーっ!」

「くそっ!どうにかできないのか!」

「空を飛べればいいのにね」

「ッ!」

外史メンバー(愛依含む)が俺を見る。

「そう言えばシェリダンで飛行実験をやってるって話を聞いたな」

「飛行実験?それってなんなんだ?」

ガイは話す。

「確か、教団が発掘した大昔の浮力機関らしいぜ。ユリアの頃はそれを乗り物につけて空を飛んでたんだってさ。音機関好きの間でちょっと話題になってた」

・・・とにかく、セントビナーが完全に崩落するのはまだ先らしい。

「・・・ジェイド」

「はい?」

「・・・俺は残る」

「・・・あなたの力を使うんですね?」

ジェイドは一瞬で察してくれる。

「目の前で手が届かないのはもう嫌なんでね」

「・・・わかりました。皆さん、いきますよ」

「え?お、おい・・・」

ジェイドが歩き出すとみんなも戸惑いながらついていく。

「・・・咲」

愛依が俺を見る。

「無茶を・・・しないでくれよ」

「ああ。死なない程度に頑張るさ。・・・撫子、黒羽・・・愛依を頼む」

「「・・・(コクッ)」」

・・・そして、全員いなくなったのを確認してから闇を解放しようとするが・・・

「・・・!」

殺気。俺は背後に蹴りを放つ。

「ちっ・・・」

そいつはすぐに反応し、下がる。

「見つけたわ・・・サキ!」

「詠・・・!」

詠は殺気を放ちながら剣を構える。

「待て!早く助けないとセントビナーの人達が・・・」

「そんなのは関係ないわ!私はアンタを倒す!」

詠が踏み込んでくる。俺は左手だけを異形に変え、それを防ぐ。

「ッ!」

『な、なんで武器を構えないッスか?』

「この間は詠だって気づいてなかったからな・・・」

蹴りを放ち、距離を稼ぐ。

「体術は得意じゃねえけど・・・」

よく亮がやっていた真似だ。

「だぁぁ!」


跳んでからの回し蹴り。詠は少し身を逸らしただけで回避する。

「舐めんじゃないわよ!」

ガキィン!

「ぐっ・・・!?」

「ファイアーボール!」

ズガガガン!

「ぐああ!?」

「まだよ!」

詠が目の前に現れる。

「月閃光!」

シャキィン!

「がっ・・・は・・・」

俺は血を撒き散らしながら地面に倒れる。

「ぐ・・・」

『このままじゃ助けるどころか咲さんが死んじゃうッスよ!?』

「そうそう死なねーよ。・・・仕方ない」

俺は空間から刀を引き抜く。

「アークエネミー、ユキアネサ!」

「やっと真面目に戦う気になったようね・・・」

詠がニヤリと笑い、突撃してくる。

「ソラアッ!」

居合い一閃。詠は咄嗟に剣を交差させて受け止める。

「くっ・・・」

「やっぱり受け止めるよな!」

右。左。上段。下段。次々にユキアネサを振り回していく。

「く・・・調子に・・・乗るんじゃないわよ!」

詠が一撃の合間を縫ってタックルをしてくる。

「っと!?」

それを喰らい、体制を崩してしまう。

「ハァァァ!」

ズシャ

「ごふ・・・」

詠の剣が俺を貫き、蹴りを喰らってそのまま剣を引き抜かれる。

「く、そ・・・」

膝をつく。なんとかユキアネサを構え直す。

「・・・っ」

この身体はまだ闇に馴染みきっていない。だから身体はまだ人間のままだし、それなりに痛みも出血もある。


「ふふ・・・もうおしまいみたいね」

「・・・じゃ、冥土の土産に教えてくれよ。・・・何でヴァンに加担する?」

「ヴァン謡将は命の恩人よ。記憶が無くて、魔物に食べられそうだった私を助けてくれた。そして私に力と居場所を与えてくれたのよ!」

「だからってこの世界を滅ぼしていいってのか?」

詠は眼鏡を指先で上げる。

「目的のためなら手段を選ばない。当然でしょ?」


「・・・」

・・・ああ、本当に彼女らしい。反董卓連合の時も、月を助ける為なら手段を選ばないと言ったのを聞いた。・・・例え、自分の命を差し出しても・・・だ。

「はは・・・」

「何を笑っているの!」

「別に。・・・ただ、らしいなって思っただけさ」

「なんですって?」

「・・・」

「・・・アンタが私の何を知ってるかはわからないけど、ここで殺させてもらうわ」

詠が剣を振り上げる。

「(・・・まあ、目の前で消しちまったんだ。報いは軽くないよな)」

『何を諦めてるんすか!?』

「・・・お前、バカだな」

『え・・・』

「ラアッ!」

空間から暗器を飛ばす。

「くっ・・・!?」

詠はそれを弾きながら飛び退る。

「詠に殺されるのも、それはそれでいいさ・・・でもな」

脳裏に蘇る月とねねの泣き顔。

「約束してんだよ。必ず連れて帰るって。せめてアイツらの笑顔だけは・・・」

方天画戟を引き抜く。・・・迷うな。いくら傷つけようとも・・・最優秀なのは・・・

「守るんだ!」

・・・詠をブチのめしてでも連れて帰ることだ!

「オラァァァ!!」

全力で方天画戟を振る。

ガキャアアン!!

「っくあ!?」

詠は防ぎきれずに足下が滑る。

「こんのぉ!」

詠が力を籠めて前屈みになった瞬間・・・俺は方天画戟を引く。

「え・・・」

そのままバランスを崩した詠の足を払い、そのままの勢いで詠の腹に石突きを突き出す。

ゴキン

「アァァァァ!?」

嫌な音と感触、そして悲鳴が俺に伝わる。

「ぐ・・・げほっ!おえっ!」



逆流してきたものを吐き出しながらも、詠は俺を睨む。

「負けない・・・アンタなんかに・・・アンタなんかにぃぃ!!」

絶叫。そのまま突撃してくる詠に併せて膝蹴りを叩き込む。

「ぐ・・・う・・・」


「・・・やめとけよ。二回、優位に立てたのは不意打ちだったのと俺が本気になれなかったからだ」
「うっさいわ・・・よ・・・」

「・・・いい加減にしてくれよ・・・いつまで俺を苦しめるんだ・・・!!」

こんなことはしたくない。今すぐ詠を抱き締めたい。・・・けど、今の彼女は俺を敵として認識している。

「詠・・・頼むから・・・ッ!?」

「サンダーブレード!」

ズシャアッ!

「が・・・」

背後より飛来した雷の剣が俺を貫いた。

「・・・余計なことをするんじゃないわよ!」

「そんな言葉じゃなくて感謝して欲しいくらいだけどね。・・・ディストは帰ってきたのにアンタは来ないから見に来てみればこの様だ」

「お、まえ・・・シンク・・・」

「ああ、まだ生きてたんだ。意外にしぶといんだな」


「・・・っ」

「・・・シンク、さっさと止めを刺すわよ」

「そうだね。コイツが生きてるのはマズイらしいし・・・っ!」

突如、上空から影の槍が降り注ぎ、二人を襲う。

「・・・嫌な予感が的中しましたね」

「撫・・・子・・・?」

俺の影から撫子が現れる。

「・・・ふん。たった一人で僕らに勝てると思ってるのかい?」

「余裕です」

「ま・・・撫子・・・」

声が出ない。いくらなんでも二対一は・・・

「どうぞ、かかってきて下さい」

撫子が影から鎌を作り出す。

「シンク、いけるわね?」


「アンタこそ」

二人が撫子に向かって突撃する。

「壁!」

撫子は二人の一撃を容易く防ぐ。

「く・・・」

「行きます!」

怯んだシンクに鎌を振り下ろす。

「させないわよ!」

カキン!

「槌!」

鎌は左手に持ち、右手に巨大なハンマーを作り出す。

「やぁぁぁ!」

「ぐ・・・きゃああ!?」

バキィン!!

さすがにに抑えきれず、詠は弾き飛ばされる・・・が、その口には笑みがあった。

「・・・撫子、危ない!」

「あ・・・!?」

既にシンクが拳を振り上げ・・・地面に向かって振り下ろす。

「終りだ」

「撫子ーーーッ!」

咄嗟に飛び出し、撫子を抱き抱える。

「アカシックトーメント!!」

ズガァァァンッ!!

「う・・・」

撫子が閉じていた目を開き・・・その顔に、血が落ちた。

「無事・・・か・・・?」

「さ・・・咲さんっ!?」

咄嗟に闇を展開したが、それでもダメージを減らしきらなかった。

「咲さん!咲さんっ!?」

撫子が必死に俺の身体を揺する。

「・・・撫・・・逃げ・・・」

体の感覚が薄れていく。

「咲さんっ!こんな・・・こんなので終わるなんて・・・こんなので・・・!」

「シンク、やるなら今よ」

「そうだ・・・いや、撤退だよ」

「は?何でよ」

「・・・エイ、アンタは耳が悪いのかい?」

「な・・・あ」

「聞こえるだろ?・・・このままじゃこっちが不利になる。・・・今は退くよ」

「・・・仕方ないか・・・運がよかったようね。次は・・・必ず・・・」

二人の気配が無くなると同時に、何かの駆動音が聞こえてくる。・・・そして複数の足音。

「咲っ!?」

誰かが駆け寄ってくる。

「おい!咲!」

これは・・・愛依か?

「撫子!」

更に誰か・・・これは黒羽か。

「く、黒羽さん・・・咲さんが・・・わ、私を庇って・・・」

「だからって惚けている場合か!早くアルビオールに咲を乗せろ!」

アルビオール・・・?そうか・・・間に合ったんだな・・・

「咲・・・死ぬんじゃねえよ・・・一緒にいてくれるって言っただろ・・・!」

「・・・」

段々と暗くなる視界・・・そのまま俺は目を閉じる。・・・ったく・・・何回・・・死にかければ、気が・・・済む・・・んだ、か・・・


























 
 

 
後書き
リョウ
「咲・・・大変だな」

リチャード
「やはり君の友人なだけあって、なかなか無茶をするね」

ナタリア
「そうですわね」

リョウ
「そういや、意外にここは初だよな、リチャード」

リチャード
「そう言えばそうだね。僕はウィンドル王国前国王ファーディナンド四世が長子にして現国王リチャードだ」

ナタリア
「私はキムラスカランバルディア王国国王、インゴベルト六世の娘、ナタリア・L・K・ランバルディアですわ」

リョウ
「どっちも長いわっ!!」

リチャード
「君も確か名乗ってなかったかい?」

リョウ
「うぐ・・・」

ナタリア
「まあ、是非聞いてみたいですわ」

リョウ
「・・・」

リチャード
「知っているかい、ナタリア王女。彼が名乗ると敵は逃げるように退散するんだ」

ナタリア
「まあ。それは本当ですの、リチャード陛下!」

リョウ
「ちょ、リチャード・・・ああもう!・・・我は呉軍の将、甘寧の副将にして天の御遣い大澤亮!命が惜しくなければかかってこい!」

ナタリア
「まぁ・・・格好いいですわ!」

リョウ
「そんな目をキラキラさせて言われても・・・」

リチャード
「ふふ。さすがリョウだね。・・・そうだね、良いものを聞かせてくれたお礼に僕が気に入っている食事をご馳走しよう」

リョウ
「・・・何?」

リチャード
「卵かけご飯と味噌汁だよ」

リョウ
「めっちゃ庶民的っすねぇ!」

リチャード
「中々美味だよ。パスカルさんに教わったけど・・・手軽ですぐ食べれる。というのはとてもいい物だね」

ナタリア
「あら・・・これなら私でも作れそうですわ」

リョウ
「(もうやだ、この貴族コンビ・・・)次回の続・真似と開閉と世界旅行!」

ナタリア
「次回も是非見てください!」

リチャード
「今度は納豆も試してみようか・・・」

 

 

強化~

 
前書き
創立記念日か・・・暇だなぁ。ではどうぞ。 

 
『・・・やぁ!はぁ!』

『・・・そこまで!』

『く・・・はぁー!やっぱり姉貴は強いなぁ・・・』

『当たり前だ。そう簡単に負ける筈がない』

『相変わらず姉貴は息一つ乱さないし・・・』

『この位、団に入ればよくやることだ』

『うぇ、そりゃ大変だ』

『・・・とにかく、今日はここまでだ。・・・ふふ、頑張ったわね、サキ』

『へへ・・・何時かは姉貴と・・・■■■と肩を並べたいよ』

『お前なら何時かは並べられるわ。・・・その時が楽しみね』

『ふっふーん。■■■を守れるようになってみせるさ』

『・・・そうやってすぐ調子に乗るな』

『あははは』









「うん・・・」

目をゆっくりと開く。見たことのある天井・・・ユリアシティの天井と僅かに胸に重り・・・


「・・・撫子?」

撫子が椅子に座りながらベッドに上半身を載せ、眠っていた。

「・・・っ!?」

起き上がろうとしたら激痛が走った。・・・俺の身体はあっちこっちに包帯が巻かれ、どこも血が滲んでいた。

「・・・」

咲の身体じゃないからか、傷が治らない。

「くそ・・・」

撫子が来てくれなかったら・・・間違いなく死んでいた。

「くそ・・・!」

情けない。警戒してればシンクの気配だって気づけたはずだ。・・・つまり、俺は詠に意識を向けすぎていたのだ。

「・・・くそぉ!!」

「・・・!?」
俺の声に撫子が反応して目を開き・・・俺を見て固まり、飛び込んで来た。

ズキーン!

「いっでぇぇぇっ!?」

「ご、ごめんなさい!」


少しの間痛みに悶え苦しみ・・・

「咲さん・・・よかったです・・・目を覚まさないから・・・」

「悪いな。心配かけて・・・みんなは?」

「それは・・・」

・・・セントビナーは崩落した。だけど飛行音機関・・・“アルビオール”が間に合い、セントビナーの人達は全員助かったそうだ。それで、このままではセントビナーは泥の海に沈んでしまうらしいが・・・セントビナーから東のシュレーの丘にあるパッセージリングを操作してセフィロトツリーを再生すれば、一先ずセントビナーは沈まないらしい。・・・愛依、黒羽、撫子が残り、アビスメンバーがシュレーの丘に向かった・・・

「セントビナーの人は無事だったんだな・・・よかった」

気がつくと、撫子が顔を伏せていた。

「・・・私のせいです・・・私が、油断したから・・・」

・・・俺はため息を吐く。

「・・・確かに、そりゃ失策だったよな」

撫子が更に落ち込む。・・・だが俺は「けど」と続ける。

「少なくとも、撫子が来てくれて助かったのは事実だぜ」

「・・・」

「・・・それに俺は・・・」

「咲さん?」

「ずっと誰かを傷つけてたんだ・・・撫子を守れて・・・よかった・・・」

撫子にだけは手を届かせることができた。それはとても嬉しいことなんだ・・・

「ですが・・・」

「本人が気にすんなって言ってるんだよ。あんまりしつこいと怒るぜ?」

「・・・」

撫子が黙る。・・・と、その時・・・

カシャアン!

何か大きい音がする。

「さ、き・・・」

愛依が手に持っていた何かの皿を落とし、歩み寄って・・・手を振り上げる。

「(あ、叩かれる)」

何故かそう思った次の瞬間、頬に衝撃が走った。

「・・・ってぇ・・・」

「無茶すんなって言ったろ!」

「別に無茶じゃ・・・」

「言い訳すんな!」

「う・・・」

「アタシは嘘つく奴、嫌いだ!」

「・・・!」


『恋は嘘つく人、嫌い』


そう言われた記憶が呼び覚まされる。・・・あの時は・・・焔耶を助けようとして・・・

「・・・」

「あ・・・ち、違・・・本気で咲が嫌いなんじゃなくて・・・ただ勢いで・・・いや、アタシも人のこと言えないし・・・」

過去の思い出を思い返していた俺を、ショックを受けていると勘違いした愛依があわあわしながら何か呟いている。・・・今度は順番は間違えない。

「ごめん」

愛依に向かって頭を下げる。

「俺が悪かった。一人で残ったのが浅はかだったよ。・・・本当に、ごめん」

「え、あ、いや、い、いいよ!そ、そんなに頭を下げないで・・・」

・・・あれ、順番間違えなかったんになんか失敗した?

「お前はメリハリがないんだよ」

「黒羽?」

黒羽が部屋に入ってくる。

「身体、平気なのか?」

その言葉に思わず固まってしまう。・・・そして、それは俺にある決意をさせる。

「手を貸してくれないか?」

そう言って俺は広場に出る。

「・・・何をするんだ?」

「身体を咲・・・いや、それ以上の状態にする」

「・・・どういう意味ですか?」

「闇を侵食させるのさ」

その言葉に真っ先に反対したのは愛依だ。

「そんなのダメだ!」

「愛依・・・」

「ダメに決まってるだろ!そんなの・・・失敗したら・・・」

「呑まれるだろうな、間違いなく」

「そんな簡単に・・・!」

「簡単じゃない」

愛依を見る。

「この先何度も傷つくことはある。・・・その時」

自分の身体に手を当てる。

「すぐ回復しなきゃ先に進めない。・・・助けられないんだ」

俺は空間から方天画戟を取り出し、地面に突き刺す。

『咲さん・・・』

「念のためさ。・・・もし暴走して、手がつけられなかったら・・・」

方天画戟をダークリパルサーに変形させる。

「・・・俺を殺せ」
「咲・・・!」

愛依が俺を睨む。

「だから、もしって言ってるだろ?」

「・・・咲さん」

「撫子、申し訳ないって思ってるなら、せめて成功を祈ってくれないか?」

「・・・はい」

「・・・愛依、手伝ってくれ」

「あ、ああ・・・」

俺と愛依は向かい合う。

「愛依、お前と・・・シィの闇を俺に浴びせろ」

「え・・・」

「それを吸収する」
「ちょ、ちょっと待てよ!」

「愛依」

「う・・・」

「頼む」

「・・・わかった」

目を閉じ、俺に手を向ける愛依。

「ハァァァ・・・!」

そして愛依の手から闇が溢れだし・・・俺はそれを吸収する。

「う、グォォォォォォォ!!」

一瞬で意識を闇に蝕まれていく。・・・闇を受け入れる?・・・いいや、今回は違う。闇に打ち勝て。受け入れるんじゃない、闇を全て呑み込め。そして気がつくと、辺り一面が暗く、その真ん中には・・・

「・・・なるほどな」

黒い影でできたようなシィと愛依が武器を構えている。

「お前達を倒せばいいんだな・・・いいぜ・・・」

俺は手にベルヴェルクを持つ。


「いっくぜぇぇぇぇぇ!!」









愛依~

「グォォォォォォォ!!」

「咲!」

咲の見た目が禍々しく変わっていく。髪が銀髪に変わり、瞳の色も・・・

「ゴォォォォォ!!」

「愛依!」

黒羽がアタシを下がらせる。

「ダメか・・・暴走している・・・!」

「そんな・・・咲!咲ぃ!」

アタシは叫ぶが、咲は吼え・・・飛んでくる。

「!!」

「壁!」

咄嗟に撫子が壁を張る。咲はそれに防がれ・・・手に闇を溜め始めた。

「オオオオオオ!!」

「不味い!」

その手から闇の塊が放たれ・・・それは容易く撫子の壁を壊した。

「きゃああ!?」

「撫子!・・・くっ・・・な!」

ズガン!

「黒羽!?」

一瞬で黒羽が弾き飛ばされる。

「グゥゥゥ・・・!」

「あ・・・」

咲の獲物を見るような目がアタシを見る。

「う、うわぁぁぁ!」

咄嗟に偃月刀を振るが、簡単に避けられる。

「グアア!」

ズシャアッ!

「っ・・・!?」

爪が右肩を切り裂く。

「くぅ・・・」

カラン、と音を立てて右手に持っていた偃月刀が落ちる。アタシは慌てて左手に持った偃月刀を防御に構えた瞬間、衝撃が走る。

ガキィン!

「くぁ!?」

咲の一撃で吹き飛ばされ、突き刺さっていたダークリパルサーの近くまで転がる。

「ダーク、リパルサー・・・」

アタシはよろよろと立ち上がり、ダークリパルサーを手に持つ。

『ま、待ってくださいッス!』

「アンタ・・・リパルって呼ばれてたよな」

『そ、そうッス』

「・・・じゃあ、アタシもリパルって呼ばさせてもらう。・・・リパル、アタシは今迷ってる」

『・・・何をッスか?』

「剣を抜くか・・・抜かないか」

『・・・それは・・・』

アタシは息を深く吸う。

『とりあえず、抜いてみるッス。その後のことは、後に考えればいいッス』

「・・・だな」

アタシは力を籠めて、リパルを引き抜き、構える。左手に力を入れ、右手は添えるように。

「グルアアア!」

「・・・いっくぜぇぇぇぇぇ!」









咲~

「く・・・おおおお!」

ガキャアアン!

迫る愛依の一撃をベルヴェルクで弾く。

『・・・』

空中に浮かんでいたシィが大量の魔力弾を展開する。

「く・・・フェンリル!」

ベルヴェルクを併せてガトリングに形を変える。

ダダダダダダンッ!!

降り注ぐ魔力弾を片っ端から撃ち落としていく。

「く・・・」

だがダメだ。数が違いすぎる。

ドガァァンッ!!

「うわぁぁぁ!?」

ベルヴェルクを手放しながら吹き飛ぶ。

「くっそぉ・・・」

すぐに新たな武器を手に持つ。

「ユキアネサ!鳴神!」

二本の刀を構え、愛依の一撃を受け止める。

「ハァ!」

愛依を蹴り飛ばし、ユキアネサを地に突き刺す。


「煉獄氷夜!」


パキッ・・・

愛依の体が凍りつく。俺は鳴神を構え・・・

「ズェアッ!!」

ズパァァンッ!!

愛依を両断し、そのまま塵も残らず消える。・・・と、同時に身体に力がみなぎる。・・・つまり、愛依の闇が俺の物になったんだ。


「シィは・・・ってハァ!?」

上を見上げると、そこには強大な魔力を溜めているシィがいた。

「嘘だろ・・・」

前にスターライトブレイカーを喰らったことはあるが・・・これはそれ以上だ。

『・・・(ニヤッ)』

シィが笑った・・・瞬間、強力な魔力が放たれた・・・









愛依~

「う、あ・・・」

「く・・・くそ・・・」

「まさか、ここまで・・・」

「グアアアアア!!」

アタシ達は全員地に倒れていた。

「(咲・・・)」

アタシ達はなんとか立ち上がる。・・・アタシ達が三人がかりでやられている理由は相手が咲だから。

「オオオオオオ!」

「ッ!撫子!」

撫子に向かって突撃したと思った咲が・・・アタシの、目の前にいた。

「(フェイント!?)」

咄嗟に左手が跳ね、一撃を弾く。

「っあ!?」

片手では防ぎきれず、身体が浮く。そして咲が腕を振り上げる。

「(・・・死ぬ)」

驚く程にゆっくりと時間が進む。・・・ああ、どっかの外史で聞いたな。心拍数が高まると人の感覚は加速するとかなんとか・・・そんなことを考えていた矢先、いきなり視線がズレた。

「え・・・」

ズシャアッ

そして何かが切り裂かれる音。アタシじゃない、隣で鮮血を撒き散らしていたのは・・・

「な・・・」

「ふ・・・あ・・・」

「撫子ぉーーっ!!」

撫子がアタシを庇い、倒れた。

「撫子!ど、どうして・・・!」

「・・・助けたかったから・・・ですよ」

「あ、あぁ・・・また、また誰かが・・・アタ、アタシのせいで・・・」


そうパニックに陥りかけた時、頬に暖かい何かが触れた。・・・それは、撫子の手だった。

「愛依さんが気にすることじゃないです。・・・こうなるのは・・・私も覚悟してましたから・・・」

「でも・・・」

「・・・じゃあ、一つ・・・お願いしても、いいですか?」

「あ・・・ああ!」

「じゃあ・・・」

撫子がゆっくりと口を開く。

「私と・・・友達になりましょう」

「え・・・」

思いもよらない言葉に、アタシは戸惑う。

「ど、どうして・・・」

「友達になりたいのに・・・理由がいりますか?」

「・・・」

「愛依さんは・・・何処か寂しそうなので・・・」

「・・・アタシは・・・破壊者なんだぜ?」

「関係・・・ありませんよ」

・・・いいのかな・・・アタシみたいなのが・・・いや、もう自分に嘘はつきたく・・・ない。

「・・・こっちから・・・お願いしたいよ。アタシと・・・友達になってください」

撫子が微笑む。

「もちろんです・・・じゃあ、さっそく一ついいですか・・・?」

「・・・なに?」

「咲さんを・・・頼みます。少し・・・眠いので・・・」

「・・・ああ、わかった。・・・今はゆっくり寝ててよ」

「はい・・・」

撫子が目を閉じる。

「・・・」

「話は終わったか?」

傷だらけになりながらも、ずっと咲を抑えていてくれた黒羽がそう言う。

「うん。・・・ありがとう」

「そうか・・・最後の決断は・・・任せる」

「ああ・・・」

「頼、む・・・ぜ・・・」

黒羽が倒れ込む。

『愛依さん・・・』

「大丈夫。もう・・・やることは決めた」

アタシはリパルを振り上げ・・・地面に突き刺した。

『え!?』

そして身体を大きく開く。

「咲・・・まだ諦めてないだろ・・・?まだ戦ってんだろ!咲・・・!」









咲~

『・・・ッ』

俺は・・・五体満足で立っていた。

「悪いが負けられないんでな・・・」

俺は闇を具現させ、蛇のような形を作る。

「蛇翼!」

その一撃がシィを捕らえる。

『っ!?』

更に大剣を鎌に変形させる。

「ブラックオンスロート!」

ズガァァァンッ!

『・・・ッ!!』

まだ生きてるか・・・!俺は前に転がりながらベルヴェルクを拾う。

「ハァァァ!!」

それを連続で撃ち、シィの動きを止める。俺はベルヴェルクを真上にぶん投げ、手甲を装備する。

「オラオラオラオラァッ!!」

シィの懐に踏み込み、拳を連続で放ち・・・

「プラネット・・・クラッシャーーー!!」

アッパーでシィの顎を打ち抜く。

「まだだ!」

萬天棒を投げ、シィをもう一度怯ませる。

「ダララララ!」

飛び上がり、シィに連続で蹴りを叩き込み、もう一度シィを踏み台に跳び・・・急速落下をする。

「九蓮宝燈!」

飛び蹴りを叩き込む。そして墜落したシィを横目に、ベルヴェルクをキャッチする。

「オォォォォ!!」

更に弾を撃ち続け・・・ベルヴェルクを合わせる。

「これで・・・終われ!ヴァルキリーベイル!!」


視界を光が包んだ・・・









愛依~

「・・・!」

咲が突っ込んでくる。

『何をしてるッスか!このままじゃ死んじゃうッスよ!?』

「アタシは・・・アタシは!」


咲を見る。

「アタシは咲を信じる!」

咲が腕を振り上げる。

「何時まで暴れてるんだ・・・さっさと元に戻れよーーーー!!」

咲の腕が突き出され・・・アタシを・・・

「・・・?」

「・・・悪い、手間取った」

その腕はアタシを貫かず・・・聞きなれた声が耳に届いた。

「咲・・・!」

「よっ。・・・信じてくれて、ありがとうな」

そう目の前の男は笑った・・・









咲~

「撫子達は・・・」

俺は二人を寝かせてから部屋を出る。

「見た目ほど傷は深くなかったよ。ただ・・・」

俺はクレスから貰った薬を取り出す。

「残り四分の一か・・・」

大切に使わなきゃいけない。

「・・・にしても、同意だったとはいえ、気が引けるな・・・」

「アタシ達は気にしてないよ。それに・・・」

愛依が笑う。

「新しい友達もできたし・・・な」

「愛依?」

「ふふ・・・あはは!」

「な、なんなんだ・・・?」

俺は戸惑うばかりだった・・・









「サキー!」

しばらくすると、ルークが走ってきた。

「ルーク?セントビナーは・・・」

「それどころじゃねえよ!このままじゃ・・・」

ルークが慌てながら叫ぶ。

「このままじゃ、エンゲープまで崩落しちまう!」

「なんだって!?」

俺は驚く。すると愛依もルークに向かって言う。

「そんな・・・どうしてですか!?」

「それが・・・シュレーの丘のパッセージリングはエンゲープも支えていたんだ。つまり、支えのないエンゲープは・・・」

「・・・いずれ、落ちる」

「ああ」

「咲、急がないと!」

「あ、ああ。けど、黒羽達が・・・」

「俺達がどうしたって?」

「二人とも・・・!?」

黒羽と撫子は俺達の後ろに立っていた。

「私達なら問題なしです」

「・・・あー、その、さっきは・・・」

「そうですね・・・では、後でもう一度女装してもらいます」

「はぁっ!?無理に決まって・・・」

「・・・愛依さん、この人は私を傷物にしてこんなことを・・・くすんくすん」

「うっわ・・・咲、サイテーだな」

「うぐっ・・・こ、こいつら・・・わかったよ!すりゃいいんだろすりゃ!!」

俺は歩き出す。


「あ、そうだ・・・撫子」

「はい?」

「友達なんだから、アタシからも一つお願い」

「なんでしょうか?」

「友達なのに愛依“さん”はないよね?」

「え・・・」

「呼び捨て。いいよね?」

「・・・その、これは癖のようなもので・・・」

「なにリョウコウみたいなこと言ってんだよ」

「黒羽さんは黙ってて下さい。・・・えー、あ、愛依・・・」

「うん。これからもよろしくね、撫子」

・・・いつの間にあんな仲良くなったんだ?・・・ユリアシティの入口に金髪の女性が立っていた。

「君は?」

「紹介が遅れました。私はアルビオール二号機専属操縦士のノエルと言います」

「ああ、アンタが・・・よろしく、ノエル」

「はい。ルークさん、行きますか?」

「ああ、頼むよ」

俺達はアルビオールに乗り込む。・・・急がなきゃな・・・

 
 

 
後書き
サキ
「・・・」

ジェイド
「おや、随分と機嫌が悪そうですねぇ」

ヒューバート
「(気持ちが分かるから何も言えない・・・)」

サキ
「どうした?ヒューバート」

ヒューバート
「いえ・・・ぼくは前に“シェリ雪姫”という演劇をやらされた際に女性役だったので・・・」

ジェイド
「ふむ。どうやらここには色々な趣味を持つ方がいるようですね」

ヒューバート
「カーティス大佐、誤解を招かないように言っておきますが、ぼくにそういった趣味はありません」

ジェイド
「おや、そうでしたか。オズウェル少佐はそういう非現実的な物が好きなのかと」←漫画を持ってる

ヒューバート
「それはぼくの・・・!い、いえ、に、兄さんの忘れ物ですよ」

サキ
「裏表紙に思いっきり“ひゅーばーと・らんと”って書いてあるけど」

ヒューバート
「うぐ・・・!そ、それでは次回の続・真似と開閉と世界旅行!」

ジェイド
「逃げられてしまいましたねぇ・・・では、また次回」

 

 

開戦~

 
前書き
パーティー振り分けに悩んだ・・・ではどうぞ。 

 
・・・魔界から上がって見た光景は・・・ぶつかりあう、赤と青の軍。

「どうして・・・!どうして戦いが始まっているのです!?」

「これは・・・まずい。下手をすると両軍が全滅しますよ」

「・・・あ、そうか。ここって下にはもうセフィロトツリーがないから・・・」
ジェイドの言葉にアニスが納得する。

「これが・・・兄さんの狙いだったんだわ・・・」

「どういうことだ?」

ルークが聞く。

「兄は外殻の人間を消滅させようとしていたわ。預言でルグニカ平野での戦争を知っていた兄なら・・・」

「シュレーの丘のツリーを無くし、戦場の両軍を崩落させる。・・・確かに効率のいい殺し方です」

「冗談じゃねぇっ!どんな理由があるのか知らねぇけど、師匠のやってることは無茶苦茶だ!」

「戦場がここなら、キムラスカの本陣はカイツールですわね。私が本陣へ行って、停戦させます!」

「エンゲープも気になります」

撫子がそう口にする。

「二手に分かれたらどうだろう。エンゲープの様子を見る班と、カイツールで停戦を呼びかける班と」

「・・・エンゲープへは私が行くべきでしょうね。マルクト軍属の人間がいないと、話が進まないでしょう」

「となると・・・」

「私はカイツールへ向かいますわ」

「僕はどちらでも構いません。ちょっと考えがあるので」

「ルーク、お前はどうする?」

ガイが聞くと・・・ルークはしばらく考える。

「カイツールだな。俺だって一応王位継承者だ。なんか役に立つんじゃねーかな」

「分かった。なら組分けは・・・」

結果、以下のように決まった。


・エンゲープ班

ジェイド、アニス、ガイ、俺、黒羽


・カイツール班

ナタリア、ルーク、ティア、愛依、撫子


「イオン様は私と一緒に来てくださいね」

「・・・そう、ですね」

「まずカイツール付近でナタリア組を降ろしましょう。その後私達はアルビオールでエンゲープへ向かいます」

「それでいい。みんな、行こう」

そして俺達はナタリア組を送り届ける。

「愛依、気をつけろよ!」

「咲こそ!」

そう交わしてアルビオールは飛び立つ。・・・本当に気をつけてくれよ・・・










































































愛依~
アタシ達はセシル将軍を見つける。

「セシル将軍!」

「・・・お前達は先に行け!」


セシル将軍が近寄ってくる。

「・・・これは、ルーク様!それにナタリア殿下も!?生きておいででしたか」

「そうです。私達は生きています。もはや戦う理由はありません。今すぐ兵を退かせなさい」

「お言葉ですが、私の一存ではできかねます。今作戦の総大将はアルマンダイン大将閣下ですので」

「なら、アルマンダイン伯爵に取り次いでくれ!」

「それが・・・アルマンダイン大将は大詠師モースと会談なさるため、ケセドニアに向かわれました」

その言葉にアタシは驚いた。

「ケセドニア!?な、なんで戦争中に総大将が戦場を離れるんですか!」

「今作戦は大詠師モースより仇討ちとお認めいただき、大義を得ます。そのための手続きです」

「戦闘正統性証明は導師イオンにしか行えない筈です。導師はこの開戦事態を否定しておられます」

・・・こういう時は神託の盾関係の人がいると分かりやすい。

「教団内での手続きについては我が軍の関知するところではありません。とにかくアルマンダイン大将が戻られなければ、停戦について言及することはできかねます」

「ですが、このままじゃ戦場が崩落します!」

撫子が言うと、セシル将軍が眉を潜める。

「崩落?」

「アクゼリュスみたいに消滅するってことだよ!」

「マルクト軍がそのような兵器を持ち出しているということですか?」

「違いますわ!違いますけど、とにかく危険なのです」

「よくわかりませんが、残念ながら私に兵を退かせる権限はありません」

・・・結局何も解決しないままセシル将軍は行ってしまう。アタシ達は陸路でケセドニアに向かうことになった。・・・当然、それは戦場を横切ることを意味する。

「・・・ようやく夜営地まで来ましたわね」

気がつくと辺りは真っ暗になっていた。

「ケセドニアまでは・・・」

「まだ遠いですね・・・」

アタシはそうルークに言う。・・・その時、何かを感じた。

「誰かいるんですか!?」

撫子が叫ぶと、フリングス将軍が現れる。

「私です」

「フリングス将軍!?どうしてこんな所に!」

「そうですわ。この辺りにはキムラスカ軍が陣を布いていますのよ!」

「部下が皆さんの姿を発見して私に報告してくれたのです」

「それで、将軍自ら斥候ですか?それともナタリアの命を・・・」

ティアが警戒しながら尋ねる。
「どうか誤解しないで下さい。私はあなた達に危害を加えるために来た訳ではありません。偵察でもない。ただこの戦場を立ち去っていただきたいのです」

「どういう意味・・・ですか?」

アタシが尋ねる。

「このままですと・・・我々はあなた方を殺さなければなりません。あなた方はキムラスカ陣営の方ですから」

「でも、私達はケセドニアに行かなくてはならないんです」

「それは無茶です。これから戦いはますます激しくなる。私は部下にあなた方だけを攻撃しないようにとは言えません」

「・・・それはわかってる。俺達も将軍と戦いたい訳じゃない。これでもなるべく戦いを避けようとしてるんだ」

「わかりました・・・事情を知るものには皆さんを攻撃しないよう通達してみます」

そう言ってフリングス将軍は立ち去る。
「明日からはもっと気をつけて進まないとな・・・」


「そうですね・・・」

そして翌日、再び夜営地にたどり着いた。

「・・・うまくマルクト軍と遭遇せずに来れたな」

「(この後もそうありたいけど・・・)」

「ケセドニアまで後半分くらいですか・・・っ!?」

・・・再び感じる人の気配!

「誰!?」

「・・・セシル少将であります」

「どうしてここが・・・」

「部下から、皆さんのお姿を見かけたと報告を受けました。何故このような場所に・・・」

「言った筈ですわよ。この戦いをやめさせるためにも、アルマンダインに会うのです」

「無茶です!今ならまだ我が軍の勢力圏です。どうかカイツールへお戻りください。危険すぎます」

アタシはそれに反対する。

「そんなのダメです。このままじゃみんな死んじゃうんですよ!」

「我が軍は負けません」

「そうではありません。この戦場が危険なんです」

・・・結局、一個小隊を護衛につけるということで話は終わった。当然、まだ問題はあるわけで・・・

「ここが今日の夜営地ですわね」

「・・・待って、誰っ!」

ティアが二方向を見る。・・・するとフリングス将軍とセシル将軍が同時にやって来る。

「・・・キムラスカ軍!」

「マルクト軍かっ!」

二人が身構える。

「おい、二人ともやめろ!」

「セシル将軍。剣を収めなさい。この方は私達に危害を及ぼす方ではありません」

「しかし!」

「セシル将軍・・・?あなたがキムラスカ軍の・・・」

「貴公は何者だ」

「・・・アスラン・フリングス少将だ」

「フリングス将軍かっ!」

「二人とも。俺達は停戦の為にケセドニアに向かっている。その俺達の前で戦うことは許さないぜ」

・・・結局、マルクトはキムラスカの護衛を外さなければ、攻撃せざるを得ないという事らしい。セシル将軍は怒ったが・・・ナタリアやルーク、それに自ら命を差し出すと言ったフリングス将軍の言葉で何とか収まった。代わりに明日からはマルクト軍が襲ってこないらしい。

「・・・ホントだ」

翌日、本当にマルクト軍は襲ってこなかった。みんなアタシ達が見えないかのように素通りしていく。

「この調子ならすぐケセドニアまで・・・」

そこまで言った時、撫子が影を展開する。

「愛依、危ないです!」

「え・・・っ!?」

ガキィン!

突如飛来した矢を撫子が影で叩き落とす。・・・咄嗟にアタシは闇を右手に集め・・・放つ。

「やぁぁぁ!」

ズガンッ!

「ぐわ!?」

直撃し、気絶したのは・・・神託の盾騎士団だった。

「アイ、大丈夫か?」

ルークが心配そうに聞いてくる。

「まさか神託の盾まで・・・急がないといけないわね」

アタシ達は頷きながら先を急ぎ・・・ようやくケセドニアに到着した。

「ようやく到着か・・・」

「ルーク、ありがとう。あなたの確かな進路選択で無駄な争いをせずに済みました」

「いや、セシルやフリングス将軍のお陰だよ」

「別に謙遜する必要はないですよ」

撫子が言うとルークは頬を掻く。

「まあ、いいや。街に入ろうぜ。これからアルマンダインの説得っていう大仕事があるんだからさ」

「そうね」

ケセドニアの中に入る。・・・咲、大丈夫かな・・・



























































咲~

エンゲープに到着し、俺達はルークがお世話になったというローズさんの家に入る。

「大佐!戦線が北上するって噂は本当ですか?」

「そう容易く突破されはしないと思いますが、この村がきわめて危険な状態なのは確かです」

「どうしたもんでしょうか。グランコクマに避難したくても、もう首都防衛作戦に入っているらしくて・・・」

「ええ。グランコクマに入ることは不可能です。あの街は戦時下に要塞となりますから。そもそもこの大陸は危険です。いっそケセドニアまで避難したいところですね」

そう言うとガイが頷く。

「キムラスカに近い分、逆に安全かも知れないな」

「あそこはキムラスカもマルクトも関係ない貿易の街だからな・・・」

「ええ。アスターなら受け入れてくれるでしょう」

イオンが言うが・・・ジェイドの顔が少し渋る。

「・・・とはいえ、この街の全員をアルビオールに乗せるのは無理ですね。かといって徒歩で戦場を移動するのも危険でしょうし」

「年寄りと子供だけでもそのアルなんとかで運んでもらえませんか」

「じゃあ・・・」


結果、年寄りと子供をアルビオールに乗せ、俺達は残る徒歩組を護衛してケセドニアに向かうことになった。そのままキムラスカ軍に見つからないように夜営地に到達する。

「ここが今日の夜営地点か」

黒羽がそう言うとジェイドが言う。

「まあ、今日は上出来でしたね。敵と遭遇しませんでしたから」

「明日もこの調子ならなぁ・・・ちなみに、どれ位まで来たんだ?」

俺はジェイドに尋ねる。

「まだ半分にも満たないですよ」

・・・その時、エンゲープの男性がやって来る。

「あの・・・そちらの軍人さんはタルタロスに乗っていたそうですね」

「ええ。タルタロスを指揮していました。何かありましたか?」

「乗組員にマルコという兵士はおりませんでしたか?」

先に反応したのはアニスだ。

「マルコって大佐の副官さんでしたよねぇ」

「副官!そうですか!マルコはそんな出世を!あいつは私らの自慢の息子なんです!かかあも喜ぶぞ!」

その言葉にアニスはうつ向く。

「だけど・・・」

「それで、あいつは今どうしてますでしょうか?この戦いだ。前線に出兵させられたなんてこともあるんでしょうか」

口を開かなくなったアニスに代わり、ジェイドが口を開く。

「お父様には気の毒ですが、息子さんは敵の襲撃を受け、戦死なさいました」

「い、いつ!?いつですか!この間タルタロスがエンゲープに来た時は、あいつも元気で・・・!」

「その後です。導師を狙う不逞の輩に襲われ、名誉の戦死を遂げられました」

「すみません。僕の力が及ばず・・・」

「・・・そうでしたか。マルコは導師イオンを御守りして・・・マルコが産まれた時、ローレライ教団の預言士様に言われたんです。この子はいずれ高貴なお方の力になるって。だから軍人になるように言われて・・・」

また・・・預言か・・・男性は顔を歪め、去っていく。

「・・・馬鹿野郎め。いくら立派なことをしても、親より先に死んじまうとは・・・!」

「・・・平気か?」

黒羽がジェイドに聞く。

「持ち上げられるのも罵倒されるのも親に泣かれることも、軍人としてはよくあることです。お気になさらず」

「・・・」

俺は黙っていた。・・・当然ジェイドが言う。

「サキ、見知らぬ兵に同情しても、彼が帰ってくる訳ではありません」

「・・・言われなくても、そんなこと、とっくにわかってる・・・」


「・・・そうですね」



その次の日も敵に見つからずに進めた。

「やっと半分を越えましたね」

二人組の男女がやってくる。

「すいません。こちらに治癒術士か、或いは傷薬の予備はありませんでしょうか?」

「負傷者ですか?」

「いえ・・・私が足を痛めてしまって・・・」

ふと気づく。女性もできる限りはアルビオールに乗せるよう勧告した筈だ。

「ミリアムさん、自分はいいから他の人を運んであげて欲しいって聞かなくて・・・」

「無茶だ・・・」

ガイが呟く。

「いいんです。もちろん私も死ぬつもりはありませんけれど。ただ、私は主人も子供も亡くしてしまいましたから・・・」

「戦争のせいですか?」

「ミリアムさんの旦那さんはアクゼリュスで働いていたそうだよ」

『っ!?』

「丁度、息子が主人に会いたいとあの街に滞在している時に消滅事件が起きて・・・」

「お気の毒です。ですが、それならなおのこと、あなたは生き延びなければなりませんね」

「はい・・・」

「サキ、確かあなたは治癒術が使えましたよね」

「あ、ああ」

ジェイドが俺の近くに近寄り、耳打ちする。

「(余計なことは言わないように。・・・今は真実を伏せてください)」

「(・・・わかってるよ)」

ここで余計な混乱を招けば、大惨事に繋がる恐れがある。・・・俺はモヤモヤした気持ちを胸に抱きながら、ミリアムさんを治療し・・・その翌日。

「昨日はありがとうございました」

「あなたは・・・」

「お陰さまで足の調子がよくて、今日は無理なく歩けましたわ・・・あら、糸がほつれて・・・」

ミリアムさんがガイに近寄る・・・当然、

「う、うわぁっ!?」

「きゃあっ!?」

「あ!?す、すみません・・・」

「・・・あの・・・私、何か不愉快なことをしてしまいましたか?」

「い、いえ、違うんです。ただ・・・俺が・・・」

「あの・・・顔色が悪いですが・・・」

ガイが頭を抑える。

「・・・なんだ?何かを思い出しそうなのに・・・」

ガイが何かを呟く。・・・隣にいたせいで単語が聞こえてきた。・・・死臭、悲鳴、隠れている。・・・と。

「すみません。彼も疲れているのでしょう。お怪我はありませんか?」

「え・・・ええ。なんだか申し訳ありませんでしたわ」

「・・・いえ。私の方こそ、ご婦人を傷つけてしまうとは、自分が情けないです。本当に失礼致しました」

ガイが様になってるポーズで謝罪する。

「あら・・・おかしい人。まるでどこかの貴族みたいだわ」

「・・・そ、そうですね。すいません」

まさか、貴族です♪なんて言える訳がないだろう。ミリアムさんはそのまま立ち去る。

「ガイ、大丈夫?」

アニスが聞く。

「・・・ああ。だけど、どうしてこんなにびびってるんだろう」


「ここが戦場だからかもしれませんね。とにかく少し休みなさい」

「・・・そうさせてもらうよ。すまないな」

ガイも俺たちから離れる。

「平気なのか?」

黒羽が俺に聞いてくる。

「んー・・・どうも、ただの女性恐怖症に思えなくなってきたんだよな・・・」

そして更に翌日、何事もなくケセドニアに到着した。

「やっと到着か・・・」

「死傷者はありませんでした。まあ、転倒して怪我をした人などはいますがね」

「みなさん!ありがとうございます!」
エンゲープの人達にお礼を言われる。・・・俺達は街に入る。

「・・・ルーク!何故ここに?停戦はどうなったのですか?」

・・・なんと、ナタリア組までケセドニアに来ていた。

「総大将のアルマンダイン伯爵がモースと会談するってここに来てるらしいんだ。それで追いかけてきたんだけど・・・」

「それで戦場を抜けてきたのですか?危険な選択をしましたね」

「そっちこそ、てっきりグランコクマへ逃げてると・・・」

「グランコクマは要塞都市です。開戦と同時に外部からは侵入できなくなりました」

「それでケセドニアへ・・・」

俺は愛依に近づく。

「愛依、怪我はないか?」

「そっちこそ。また無茶したんじゃねーだろうな」

「む・・・」

「ん・・・」

俺達は顔を見合わせ・・・笑う。

「よし、行こうか」

俺達はお互いの兵が睨みあっている国境線に到着する。

「アルマンダイン伯爵!これはどういうことです!」

「ナタリア殿下!?」

「私が命を落としたのは誤報であると、マルクト皇帝ピオニー九世陛下から一報があったはずですわ!」

「しかし実際に殿下への拝謁が叶わず、陛下がマルクトの謀略であると・・・」

「私が早くに城へ戻らなかったのは、私の不徳の致すところ。しかしこうしてまみえた今、もはやこの戦争に義はない筈。直ちに休戦の準備にかかりなさい」

そしてルークが一歩前に出る。

「アルマンダイン伯爵、ルークです」

「生きて・・・おられたのか・・・!」

「アクゼリュスが消滅したのは俺がーーーー私が招いたことです。非難されるのはマルクトではなく、このルーク・フォン・ファブレただ一人!」

「此度の戦いが誤解から生じたものなら、一刻も早く正すべきではありませんか!」

「それに、戦場になっているルグニカ平野は、アクゼリュスと同じ崩落・・・消滅の危険があるんだ!」

「さあ、戦いをやめて、今すぐ国境を開けなさい!」

その時、アルマンダイン伯爵の隣にいたモースが口を開いた。

「待たれよ、御一同。偽の姫に臣下の礼を取る必要はありませんぞ」

「無礼者!いかなローレライ教団の大詠師と言えども、私への侮辱はキムラスカ・ランバルディア王国への侮辱となろうぞ!」

「私はかねてより、敬虔な信者から苦痛な懺悔を受けていた。曰く、その男は王妃野お側役と自分の間に生まれた女児を、恐れ多くも王女殿下とすり替えたというのだ」

「でたらめを言うな!」

ルークが言うが、モースは怯まない。

「でたらめではない。ではあの者の髪と目の色を何とする。古より、ランバルディア王家に連なるものは赤い髪と緑の瞳であった。しかしあの者の髪は金色。亡き王妃様は夜のような黒髪でございましたな」

・・・まさか、この世界は遺伝がしっかりした設定らしい。最近のそういった作品は遺伝を無視した髪の色が多いが・・・

「この話は陛下にもお伝えした。しっかとした証拠の品も添えてな。バチカルに行けば、陛下はそなたを国を謀る大罪人としてお裁きになられましょう」

「そんな・・・そんな筈ありませんわ・・・」

「伯爵。そろそろ戦場へ戻られた方がよろしいのでは」

「・・・む、むう。そうだな」

「おい、待てよ!戦場は崩落するんだぞ!」

「それがどうした」

『ッ!』

モースの野郎・・・!

「戦争さえ無事に発生すれば預言は果たされる。ユリアシティの連中は崩落ごときで何を怯えているのだ」

「大詠師モース・・・なんて恐ろしいことを・・・」

ティアが言うが・・・

「ふん。まこと恐ろしいのはお前の兄であろう。それより導師イオン。この期に及んで、まだ停戦を訴えるおつもりですか」

俺はイオンを見る。

「いえ、私は一度ダアトへ戻ろうと思います」

「イオン様!?マジですか!?」

アニスが真っ先に驚き、イオンを止める。

「帰国したら、総長がツリーを消す為にセフィロトの封印を開けって言ってきますよぅ!」

それでもイオンは譲らない。

「もし、力づくで来られたら・・・」

「そうなったら、アニスが助けに来てくれますよね」

「・・・ふへ?」

「唱師アニス・タトリン。ただいまを以て、あなたを導師守護役から解任します」

「ちょっ、ちょっと待ってください!そんなの困りますぅ!」

イオンはアニスに近づき、モースに聞こえないようアニスに話す。

「ルークから片時も離れず、伝え聞いたことは後日必ず僕に報告して下さい」

「・・・!」

「頼みましたよ。皆さんもアニスをお願いします」

・・・そしてイオンとモースは去っていく。・・・俺は、武器を握っていた。モースは生かしておいてはいけない。必ず何か悲劇が起こる。・・・だが・・・


「(・・・くそっ!)」

それでも、今はダメだ。俺は殺意を抑えながら空間から手を引き抜く。


「イオンの奴、何考えてんだ・・・」

「アニスをここに残したということは、いずれは戻られるつもりなのでしょう。それより・・・」

ジェイドがナタリアを見る。

「・・・私なら、大丈夫です。それよりもバチカルへ参りましょう」

ガイがルークに近づく。

「ルーク。しばらくはナタリアから目を離すなよ。心配だ」

「・・・ああ」

「・・・根暗ッタも・・・こんな気持ちだったのかな・・・」

「アニスさん?」

愛依が話しかけると、アニスが顔を上げる。

「あ・・・な、何でもないよ。さ、みんな急いでバチカルへ行こう~♪」


・・・一部、精神状態が不安定だが、それでもいかなくてはならない。

「(どうなることやら・・・)」

俺は空を見上げた・・・








 
 

 
後書き
サキ
「・・・パーティー分断ね」

ガイ
「まぁ、綺麗に男女比が逆だったな」

マリク
「ルークは両手に花と言うレベルではなかったな・・・」

サキ
「そういや、亮に聞いたんだけど、マリクって意外にモテモテってマジ?」

マリク
「ああ・・・それなら前に・・・」








バレンタインデー~

マリク
「流石は陛下。まさか亀車一杯のチョコが送られると」

リチャード
「・・・ふ、ヒューバートもそれなりに貰ったんじゃないか?」

ヒューバート
「いえ、ぼくは家の前に列ができる位です。マリクさんは一歩歩けばチョコが貰えるそうですね」

マリク
「まぁ・・・その分、次の月に恐ろしくなるが・・・」





















マリク
「・・・という会話を」

ガイ
「・・・(ガタガタ)」

サキ
「が、ガイ?どうした?」

ガイ
「い、いや・・・その日になると・・・」

サキ
「あー、うん。理解したよ」

マリク
「お陰でオレの財布はしばらく冬が来たぞ・・・」

ガイ
「どうして俺に寄ってくるんだ・・・恐ろしくて部屋から出られない・・・」

サキ
「・・・次回の続・真似と開閉と世界旅行。・・・また次回」

 

 

続く崩落~

 
前書き
なんかもう、色々と日々が嫌になってきた・・・ではどうぞ。 

 
俺達はアスターさんの屋敷に向かう。・・・封鎖されまくって先に進めないのだ。

「これはルーク様!ナタリア様も!お二方とも亡くなったとの噂が飛び交っておりましたから。こうして再開できて幸せでございますよ。ヒヒヒヒヒ」

ジェイドが口を開く。

「実はあなたに頼みたいことがあるのですが」

「エンゲープの住民を受け入れることでしたら、先ほどイオン様から依頼されました。ご安心を」

「よかった・・・」

「助かります。ありがとう」

「どういたしまして。イヒヒ」

・・・笑いかたはともかく、悪い人ではないようだ。・・・確か、前に来たときは別行動を取っていたからな・・・

「ところで、ザオ砂漠で何かあったのか?」

「これはお耳が早いことで・・・ちと困ったことになっております。地震のせいか、ザオ砂漠とイスパニア半島に亀裂が入って、この辺りが地盤沈下しているのです」

「それって、もしかしなくても!」

「崩落・・・!」

アニスの言葉に愛依が答える。・・・事情を話すと、アスターさんはすぐに俺達を信じてくれた。・・・ジェイドが言うには、上手くパッセージリングを操作して、昇降機のようにケセドニアを降ろす。俺達はパッセージリングがあるであろう・・・ザオ遺跡に向かう。

「・・・いてぇ・・・!」

ルークが頭を抑える。

「・・・オア・・・シ・・・ス?」

「また例の頭痛か?確かアッシュの声が聞こえるんだったな」

ガイが確かめるように聞くと、ルークは頷く。

「・・・ああ。俺、あいつのレプリカだから」

「アッシュ・・・!アッシュは何て言っていましたの?」

「え・・・うん・・・砂漠のオアシスへ来いって。話があるってよ」

「兄さんが裏で糸を引いているんじゃないかしら」

「それはどうでしょう。一概にヴァンの味方とは考えにくい」

「オアシスへ寄ろう。アッシュの話を聞いてからでも、セフィロトの制御は間に合う筈だ」

俺達は砂漠を進む。

「暑・・・」

愛依が流れる汗を拭う。

「平気か?」

「ああ・・・」

「また俺の影に入るか?」

すると愛依は顔を赤くして腕をブンブン振りだす。

「ぜってーヤダぁ!」


「そ、そんなにムキになるなよ」

「何やってるんだか・・・撫子?」

「・・・うー・・・」

黒羽が声を掛けるが、撫子はフラフラとゾンビのように歩いていた。

「撫子・・・暑いのもダメなのか?」

「・・・気温が偏ってるのは苦手です・・・」

「あはは・・・」

そんな会話をしている内に、オアシスにたどり着く。

「やっと来たか・・・」

アッシュが俺達を見つけ、話し出す。

「話ってなんだよ」

「何か変わったことは起きてないか?意識が混じり合って、かき乱されるというか・・・」

「はぁ?意味わかんねぇ・・・お前が俺との回線を繋いでこなければ、変なことは起きねぇし・・・」

「・・・そうか」

ナタリアがそんなアッシュを心配そうに見る。

「アッシュ。何かありましたの?どこか具合が悪いとか・・・」

「・・・別に」

「おい、それだけかよ」

ガイの言葉に耳を貸さず、アッシュは続ける。

「・・・エンゲープが崩落を始めた。戦場の崩落も近いだろう」

「何だって!?」

「このままでは戦場いる全員が・・・」

黒羽と撫子が言うが・・・

「馬鹿野郎。ここにいたらお前らも崩落に巻き込まれて死ぬぞ!」

「そんなことわかっています。ですから私達はセフィロトの吹き上げを利用して、ケセドニアを安全に降下させるつもりですの」

「・・・そんなことができるのか?」

「さあ?」

「おいおい、ジェイド・・・」

「食えない野郎だ」

俺が呆れてため息を吐くと、アッシュは話し出す。

「もし今の話が本当なら、同じ方法で戦場も降下させられるんじゃないか?」

「でも、シュレーの丘まで間に合うか・・・」

「間に合う。そもそもセフィロトは星の内部で繋がっているからな。当然、パッセージリング同士も繋がっている」


・・・アッシュが言うには、一度起動させれば、他のパッセージリングからでも操作ができる・・・つまり、ザオ遺跡のパッセージリングを起動すれば、シュレーの丘のパッセージリングも操作できるという訳だ。そしてアッシュは去ろうとして・・・

「アッシュ!どこへ行くのですか?」

「俺はヴァンの動向を探る。奴が次にどこを落とすつもりなのか、知っておく必要があるだろう。・・・ま、お前達が上手く降ろせなければ、俺もここでくたばるんだがな」

「約束しますわ。ちゃんと降ろすって!誓いますわ」

「指切りでもするのか?馬鹿馬鹿しいな」

「アッシュ・・・!」

「世界に絶対なんてないんだ。だから俺はあの時・・・俺は行くぞ。お前らもグズグズするな」


そしてザオ遺跡に到着して・・・

「パッセ~ジリング~♪パッセ~ジリング~♪」

アニスが走っていく。

「緊張感が皆無ですわね」

「はは、いいじゃないか。・・・それより、アッシュの言葉をそのまま信じて大丈夫なのか?」

「アッシュのことを信じられませんの?」

「いや。ただ罠じゃないかと思うことはある」

「確かに・・・可能性は否定できないわ」

「まあ、パッセージリングの性質を考えれば、正しいとは思いますよ。ただし、彼なりに私達を利用しているのも確かですがね」

「・・・今は外殻大地を無事に降ろすことだけを考えようぜ」

「(随分丸くなったことで・・・)・・・ん?」

その時、愛依が固まっているのに気がついた。

「怖くない怖くない怖くない・・・」

「・・・(キュピーン)」

止めればいいのに俺は余計なことを思いつく。

「暗くない怖くない暗くない怖くない・・・」

「・・・(そろー)」

ゆっくりと愛依の背後に近寄り・・・

「わっ!」

肩を叩きながら大きい声を出すと・・・

「きゃあああ!」

・・・そんな、予想外の悲鳴と共に愛依が跳び跳ねる。

「・・・」

「・・・さ、咲ぃ・・・!」

愛依が涙目になりながら睨んでくる。・・・いかん、マジで予想外なんだが。

「えー・・・あー・・・」

「・・・!」

「あ・・・あはは・・・随分可愛い悲鳴だったなー・・・なんて」

「・・・ッ!!!」

・・・直後、顔面に衝撃が訪れ、俺は星を見るはめになった・・・









「うぅ・・・」

赤く腫れた頬を擦る。

「今の行為はどうかと思うわ」

「もう少し女性の扱いを学んだ方がよろしくて?」

「サキ、さいってー」

「咲さん・・・愛依は本当に怖がってるんですよ?」

「・・・心の底からごめんなさい・・・」

アレだ、学校で女子に何かしたら、周りの仲の良い女子が乱入してくる・・・それを実感していた。

「軽はずみにちょっかい出すもんじゃないな・・・なあ、リパル」

『・・・』

「リパル?」

『・・・え?ああ、そうッスね・・・』
「んだよ、お前まで女子派かよ。こっちは愛依の恐怖を和らげようと・・・」

「・・・逆効果なんだよ・・・!このバカァ・・・」

俺の背後で愛依がマジ泣きしていた。・・・本気で罪悪感が・・・その時、いきなり地面が揺れた。

「はぅっ!?」

「橋が揺れてる?」

「・・・橋だけじゃないわ。この地下都市全体が揺れているみたい」

「・・・微弱ですが、譜術を感じますね」

「俺は特に感じねえけど・・・」

「罠か?それとも・・・」

「敵ですの?」

「だとしても進むしかない。せめて慎重に行こうぜ」

「おや、あなたらしからぬ台詞ですねぇ」

「どーかん」

「うるせっ」

俺とジェイドがルークを茶化す。

「帰りに橋が無くなってる。・・・なんてのはごめんだがな」

「が、ガイさぁん!」

「やなこと言わないでよ~!」

俺達はゆっくりと歩を進めていく。・・・そしてシンクやラルゴと戦った位置まで来たら、一際強く地面が揺れる。

「な、なんだ!?地震!?」

「違います。これは・・・!」


俺は左側から何かを感じる。

「危ない、愛依!」
俺は咄嗟に愛依を下げ、左腕の闇を解放する。

ガキィン!

「咲!?」

『大丈夫ッスか!?』

「っとぉ・・・大丈夫、防ぎきった」


腕を軽く振りながら痺れを取る。・・・目に入ったのは石でできた蠍・・・の上に、針の部分が恐竜の頭の骨のようなものになっている、所謂蠍恐竜。


「(ったく、こういうタイプは会話できねーしな・・・)」

俺が会話できるのは、利口な生物だけだ。・・・単純な肉食獣とかは相手の言葉がわかるが、相手が理解してくれない。

「来ますよ!」

「・・・!」

この相手じゃ物理ダメージは通らない・・・

「援護するわ。ホーリーソング!」

ティアの第三譜歌が俺達を強化する。

「カートリッジロード!・・・ハァァァ!」

黒羽が刀身に炎を宿し、魔物に斬りかかる。


ガキィ・・・ィン!

「堅い・・・!」

ブォン!

「ぐっ・・・!?」

ガキャン!

頭を振り、攻撃してきた魔物の一撃を何とか黒羽は防ぐ。

「だったらアタシが・・・!」

愛依が偃月刀に闇を纏わせる。

「ダァァァッ!」

そのまま偃月刀を振り降ろすと、闇は衝撃波になり、地を抉りながら魔物にぶち当たる。

ズバァンッ!

「(怯んだ!)」

俺は咄嗟に空間に手を突っ込み・・・楕円形の物体を取り出す。

「冒涜的な・・・手榴弾!」

ピンを抜き、それをぶん投げる。

ドガァァン!

派手な爆音と共に空気が震える。

「・・・咲さん!ここでそんなもの使ったら、生き埋めになるでしょう!?」

撫子に怒られる。・・・だってやってみたかったし。次は名状しがたいバールでも使うか。

「・・・って、手榴弾の直撃でも無事か」

多少は効いているみたいだが・・・

「なら、お任せください」

撫子はそう言うと、影を使って魔物の動きを封じる。

「ジェイドさん!」

「・・・上出来です」

ジェイドは既に詠唱を完了していた。

「燃やし尽くせ、灰塵の焔。・・・イグニートプリズン!」

ズガァァン!

その一撃で魔物は沈黙する。

「こいつは一体・・・?」

「創世記の魔物じゃないかしら。以前ユリアシティにある本で見たことがあるわ。ただ、こんなに好戦的ではなかったと思うけど・・・」

「ここは以前、神託の盾の六神将が来ていましたわね。彼らが刺激したのでは?」

「遺跡を守ってるだけかもしれないぜ」

「・・・ま、ここで議論しててもしゃーないか」

「同感ですね。では、行きましょうか」

そのまま中に入り、景色が一変する。

「ほわ~、ひろ~い!たっか~い!」

「・・・」

「どうしたの、ルーク」

ティアがルークに聞く。

「こんな物の上に暮らしてたなんて信じられねーやと思って」

「でも、これが事実よ。人間は自分の範囲にあるものしか目に入らないのね」

その言葉にジェイドが口を挟む。

「・・・しかし好奇心、知識欲は時として要らぬ事実を人に突きつける」

「外殻大地と同じだな」

「それでも、私達は見てしまったのですから、現実から逃げる訳にはまいりませんわ」

「それが俺達の責任・・・ってことか」

「急ごう。崩落は俺達を待ってくれねぇんだ」

そして、ティアがパッセージリングに近づくと、パッセージリングが起動する。

「・・・よかった。ここでも私に反応してくれたわ」

・・・後に聞いたが、何故か第七音素の使い手じゃないとパッセージリングは操作できない。また、起動するのはティアでないといけないらしい。

「やっぱり総長が封じてますか」

「そのようですね。しかし・・・セフィロトが暴走・・・?」

「なあ、赤いところを削り取るんだよな?」

・・・そして、ルークが超振動でヴァンが施した封印を消し去る。・・・どうやら夜な夜なティアと超振動の特訓をしていたらしい。

「この後は?」

「ああ、はい。光の真上に上向きの矢印を彫り込んで下さい」

・・・そのまま操作を進め何とか降下に成功する。


「・・・完全に降下したみたいだな」

「よかった。・・・へへ、何か上手く行きすぎて、拍子抜けするぐらいだな」

「あんまり調子に乗らない方がいいんじゃないですかぁ?」

「・・・う、それはそうかも」

アニスに言われるとルークが黙る。

「お、しおらしいな」

「調子に乗って、取り返しのつかねぇことすんのは・・・怖いしさ」

「・・・」

「ティア。んな顔しなくても俺、もう暴走しねーって」

「ううん。そうじゃないんだけど・・・」

「きっと疲れたんだよ。なんだかんだで降下に丸一日以上かかってるもん」

アニスがそう言った時・・・ティアの身体が揺れ・・・倒れる。

「おい、大丈夫か!?」

ルークがすぐに駆け寄る。

「ごめんなさい、大丈夫よ。・・・体調管理もできないなんて、兵士として失格ね」

「兵士だって体調を崩す時くらいあります。・・・大丈夫なんですか?」

愛依がティアに尋ねる。

「あ、ありがとう。でも本当に平気よ」

取りあえず確認の為、外に出る。

「間違いなく魔界だな・・・」

「けど、ここからどうやって外殻に戻るんだ?」


黒羽が言うとガイが頷く。

「そうか、アルビオールはまだ戻ってなかったな」

とにかく、俺達はケセドニアに戻る。・・・すると。

「皆さん!ご無事でしたか!」

ノエルが走ってきた。

「そっちこそ!いつケセドニアに着いたんだ?」

「この辺りが降下する少し前です」

「エンゲープのみんなは?」


「無事にここまで運び終えました」

「よかった~。お疲れさま」

「到着早々すみませんが、すぐに飛べますか?」

「もちろんです。私はアルビオールで待機しています。準備ができ次第、いらして下さい」

ジェイドが気になることがあると言い、アルビオールに乗り込む。

「うわっ、あのセフィロトツリー、おかしくないか?」

「まぶしくなったかと思ったら消えかかったり・・・切れかけの音素灯みたい」

「やはりセフィロトが暴走していましたか・・・」

「セフィロトの暴走?」

「ええ。恐らくなんらかの影響でセフィロトが暴走し、ツリーが機能不全に陥っているのでしょう。最近地震が多いのも、崩落のせいだけではなかったんですよ」

「・・・待った。てことは、外殻大地は・・・」

俺は嫌な予感を感じた。

「パッセージリングが耐用限界に到達と出ていました。パッセージリングが壊れれば、ツリーも消えて外殻は落ちます。そう遠くない未来にね」

「マジかよ!ユリアシティのやつらはそのことを知ってるのか?」

「お祖父様はこれ以上外殻は落ちないって言ってたもの・・・知らないんだわ」

「・・・イオンさんなら、この対処法を知っているんじゃ・・・」

みんなの視線が愛依に向く。


「あ、あぅ・・・そ、その、イオンさんなら導師だから、凄く秘密の預言も詠めるんじゃないかって・・・す、すみません。ちょっと浅はかですよね・・・」

「・・・ううん、アイ・・・そうかも」

アニスが考え込む。

「イオン様なら・・・ユリアシティの最高機密を知れるかも・・・」

「よし、ならダアトに向かおうぜ」

俺達はダアトに移動する。そこで、街の人々から戦争が休戦になったことを知った。俺達はローレライ教団に入り・・・

「イオンはどこにいるんだ?」

「ご自身の私室ではありませんか?」

「でも、導師のお部屋は教団幹部しか入れないわ。鍵代わりに譜陣が置かれていて、侵入者対策になっているの」

「そんなときは、導師守護役のアニスちゃんにお任せ♪」

「元、だろ」

「ぶー。“元”だけど、ちゃんとお部屋に続く譜陣を発動する呪文、知ってるモン」

・・・というわけで、アニスに案内されて俺達はイオンの部屋に入る・・・が。

「イオンの奴、どこに行ったんだ?」

「しっ、静かに。誰かくるわ!」

「ヤバ・・・ここは関係者以外立ち入り禁止だよぅ!」

「隠れよう!」

俺達は隣の空き部屋に入る。

『ふむ・・・誰かここに来たと思ったが・・・気のせいだったか』

『それより大詠師モース。先ほどのお約束は本当でしょうね。戦争再開に協力すれば、ネビリム先生のレプリカ情報を・・・』

この声・・・モースとディストか?

『任せておけ。ヴァンから取り上げてやる』

『ならばこの“薔薇のディスト”戦争再開の手段を提案させていただきましょう。まずは導師イオンに休戦破棄の導師命令を出させるのがよろしいかと』

『ふむ。導師は図書室にいたな。戻り次第、早速手配しよう』

気配が遠ざかる。

「・・・今の話を聞くと、モースとヴァンはそれぞれ違う目的の為に動いているようですね」

「ディストは二人とも利用している感じだけどな」

黒羽が言うなか、俺は考える。

「モースは預言通りにしたいだけ・・・じゃあヴァンは?」

「外殻大地を落として人類を消滅させようと・・・」


「・・・あんな男がただ殺戮してるだけ・・・?そうは思えない」

「そうですね。モースの方が目的が明確なだけに驚異は感じない」

「なら、まずは明確な敵を片付けましょう」

撫子の言葉にガイが頷く。

「まずはインゴベルト陛下に知らせないとな」

「ですが・・・お父様は私の言うことを信じてくれるのでしょうか・・・」

「ナタリア!当たり前だろ!」

「・・・私、本当の娘ではないのかも知れませんのよ」

『・・・』

「(どう思う?リパル)」

『・・・』

「(リパル!)」

『え、ああ・・・そうッスね・・・』

「(質問と答えが噛み合ってねーよ。・・・この間の一件から様子が変だぞ?)」

『ちょっと悩みごとッス・・・』

「(武器の悩みねぇ・・・ったく、どいつもこいつも悩みやがって)」

『・・・随分他人ごとッスね』

「(ああ?)」

『・・・何でもないッス』

「(おい、リパル。リパル!・・・んだよ、いきなり)」


人のことを無神経みたいに言いやがって・・・

「こっちだって悩みだらけだっての・・・」

「咲?」

愛依が心配そうに覗き込んでくる。

「ん・・・いや、何でもない。図書室に行こうぜ」

図書室に入ると、イオンが居た。

「皆さん!?どうしてここに・・・」

「イオン、外殻大地が大変なんだ!だから教えてくれ!ユリアの預言には、セフィロトの暴走について詠まれてなかったのか?」

イオンに事情を話す。

「・・・なるほど。それは初耳です。実は僕、今まで秘預言を確認したことがなかったんです」

「え!?そうなんですか?」

「ええ。秘預言を知っていれば、ルークが何者かすぐに分かった筈です。アクゼリュスのことも・・・」

・・・だからイオンはそれを詠む為にダアトに戻ったらしい。・・・そして、預言を再確認し・・・発覚したのはルーク(アッシュ)のことは詠まれていても、ルーク(レプリカ)のことは詠まれていない、ということだ。・・・その時、

「見つけたぞ、鼠め!」

「ヤバ!」

「リパル!」

俺は方天画戟を引き抜こうとしたが・・・

バチィ!

「『・・・え?』」

それは俺とリパル、お互いの戸惑いの声だった。

カラ・・・ン

方天画戟を掴んだ手が・・・弾かれた。まるで反発する磁石のように・・・

「リパ・・・ル?」

『ど、どういうことッスか・・・?』


「咲!?」

「ッ!?」

ガァァンッ!

「がっ・・・」

兵士の一撃に弾き飛ばされ、壁に激突する。

「咲!・・・この野郎!」

愛依は方天画戟を掴みながら、走り出す。

「(愛依は・・・弾かれない?)」

そして俺は悟る。

「(ああ・・・そうか)」

何処ぞの某漫画と同じだ。俺とリパルの波長がずれてるんだ。

「(元々闇と光だしな・・・)」

言ってしまえば水と油だ。むしろ、今まで何の問題もなく使えたのが奇跡なんだろう。

「皆さん、逃げてください!アニスも!」

「アルビオールへ戻りましょう」

「咲、平気か?」

黒羽が駆け寄って来る。

「あ、ああ・・・大丈夫だ」

「咲・・・」

愛依が不安そうに俺を見る。

「・・・愛依、しばらくリパル、持っててくれないか?」

『咲さんッ!?』

「咲・・・けど」

「今の俺とコイツじゃ・・・戦えない」

「・・・」

「サキ、急げ!」

俺達は急ぎ、逃げるが・・・一気に囲まれてしまう。

「大詠師モース!もうオールドラントは、ユリアの預言とは違う道を歩んでいます!」

「黙れ、ティア!第七譜石を捜索することも忘れ、こやつらとなれ合いおって!いいか、ユリアの預言通りルークが死に、戦争が始まれば、その後繁栄が訪れるのだ!」

ジェイドが詠唱を開始するが・・・

「抵抗はおやめなさい、ジェイド。さもないと、この女の命はありませんよ」

ディストが人質に取っていたのは・・・ノエルだ。

「はーっはっはっはっ!いいざまですね、ジェイド」

「お褒めいただいて光栄です」

「誰も褒めていませんよ!」

「この・・・屑共がぁ・・・!」

俺の闇が疼く。敵を殺せと囁いてくる。

「俺達をどうするつもりだ」

「バチカルへ連れていく。そこで戦争再開のために役立ってもらうのだ」

「テメエらぁ・・・ぐっ!?」

左手から闇が吹き出す。

「ぐっ、あぁぁ・・・!」

まさか・・・暴走!?

「咲、しっかりしろ!」

「大、丈・・・」

意識が黒ずむ。・・・足場が無くなるような感じがして、俺はそのまま意識を手放した・・・









 
 

 
後書き
リョウ
「あらら・・・」

一刀
「咲はどうしたんだ?」

リョウ
「・・・多分、左手だけは恋の闇もあるからね。咲の分、愛依やシィ・・・更に見知らぬ誰かの闇も吸収してるからな・・・とっくに許容範囲を越えてるよ」

一刀
「だけど、心までは呑まれていないぜ?」

リョウ
「そりゃそうさ。あのバカは恋や詠を救うまでは絶対に死なない」

一刀
「強いんだな・・・」

リョウ
「一刀だって愛紗達がそうなったら・・・必ず助け出すだろ?」

一刀
「当たり前だ!」

リョウ
「そういうもんさ。大切な者の為なら、人間頑張れるさ」

一刀
「ああ・・・それじゃ、次回の続・真似と開閉と世界旅行」

リョウ
「次回もよろしく!」

 

 

逃亡~

 
前書き
もう6月・・・一年も残り半分ちょいか・・・ではどうぞ。 

 
愛依~

アタシ達はタルタロスで連行される。

「うぅ・・・が、あああ・・・!」

咲がうめき声を上げる。

「ノエルは大丈夫でしょうか」

「ダアトは宗教自治区だもん。むやみに殺されるようなことはないと思うけど・・・」

「俺達はどうなるんだ」

「ルークは処刑されるのでしょうね。預言通りにするために」

その時、ルークさんが呟いた。

「・・・その方がいいのかもな」

「ルーク、何を言っているの!」

ティアさんが怒る。

「だってそうだろ?俺が生まれたから、繁栄の預言から外れたんだ。だから預言にないセフィロトの暴走も起きたんじゃないか」

「お前、何言ってんだ」

さすがのガイさんも声に怒りが混じる。

「そうとしか思えないよ。それにティアだって言っただろ。ユリアの預言には、俺が存在しないって」

「馬鹿!!」

怒声が響く。・・・その声の主は・・・ティアさんだった。

「ば・・・馬鹿とはなんだよ!」

「私はただ、あなたがユリアの預言に支配されていないのなら、預言とは違う未来も創れるって言いたかっただけよ!」

「・・・ティア・・・」

「あなた、変わるんじゃなかったの!?そんな風にすぐ拗ねて!もう勝手にしたらいいわ!」

「ティア・・・ごめん・・・」

「・・・」

ティアさんはそっぽを向く。

「・・・ごめん・・・」









咲~

ここは・・・何処だ・・・

「・・・」

敵が・・・来る。

「アアアアア!」

斬り伏せる。これで・・・もう・・・

『また・・・』

死体が起き上がり、その顔が露になる。

「ひっ・・・」

その血塗れの顔は・・・

『また・・・助けてくれなかったわね・・・』

詠の、そんな憎悪に歪んだ顔だった。









「うわぁぁぁぁっ!!」

「咲!?」

「く、来るな・・・来ないでくれぇぇぇ・・・!わああああ!?」

「咲!落ち着けって!」

「・・・はっ、はっ・・・愛、依・・・?」

「大丈夫か?ずっとうなされてたけど・・・」

「な・・・何でも、ない・・・」

身体が震える。俺はなんとか呼吸を整え、状況把握に移る。

「ここは・・・」

「バチカルの城の牢屋。みんなバラバラにされちゃって・・・」

ご丁寧に俺達には手錠と足枷がついていた。

「・・・とにかく、脱出しよう」

俺は後ろ手に回された状態から、指を振ろうとした時、愛依の異変に気付いた。

「愛依?」

「う、あぁ・・・咲、離れ・・・イヤァァァァァ!!」

愛依が仰け反りながら絶叫する。・・・そしてそのまま頭がガクンと落ちる。

「愛依・・・!?」

「・・・ガァァァァァ!!」

「なっ・・・!?」

いきなり愛依が飛びかかってきて、押し倒される。

「アアアアアアアアア!!」

「愛依!?どうしたんだ、愛依!」

愛依は俺の喉元に噛みつこうとしてくる。

「シネ・・・シュゴシャァァァーーーーー!!」


「く・・・開、け!」

ガチャンと音を立てて、手錠が外れる。俺はそのまま手を足に向かって振る。

「開け!」

足枷も外れ、俺は愛依を巴投げの要領で投げ飛ばす。

「ウグッ・・・オオオオオ!」


愛依が立ち上がる前に俺はその肩を掴む。

「愛依!しっかりしろ!自分を見失うな!」

愛依の身体が揺れ・・・その瞳に理性が戻る。

「あ、アタシ・・・今・・・!?」

愛依が恐怖で震え出す。

「アタ、アタシ・・・負け、負けて、咲を・・・咲を、殺・・・」

「愛依!」


「ッ・・・」

「大丈夫だから。俺はお前を嫌ったりはしない。だから、落ち着いてくれ」

「ふ、ふっ・・・」

「落ち着いたか?・・・一体、何が・・・」

「あた、頭の中に声が・・・殺せって・・・そしたら、ワケわかんなくなって、咲を・・・」

「そう、か・・・」

「もう、嫌だよぅ・・・咲を殺したいなんて・・・思いたくないよ・・・」

「愛依・・・」

俺は立ち上がる。

「とにかく、ここを出よう。・・・大丈夫、さっきだって正気に戻れたんだ。だったら暴走しそうな度に俺が呼び掛けてやるよ。・・・お前が俺を信じてくれたように、俺もお前を信じる」

「咲・・・」

「ほら、行こうぜ。早くしないと色々不味いだろ?」

「う、うん!」

愛依の手錠や足枷もはずしてから俺は牢を開き、脱出する。そして、反対側の通路からみんなが現れる。

「サキ!無事だったのか」

「そっちこそ。・・・でも、出口は反対・・・あ」

ナタリアの顔を見て判断する。・・・インゴベルト陛下に会うつもりか。俺は頷き、玉座に向かい・・・駆け込む。

「ナタリア・・・」

「お父様!」

「逆賊め!まだ生きておったか」

玉座の間に人は七人。インゴベルト陛下、騎士二人に、モースと女性。それにディストと・・・ラルゴまでいる。

「お父様!私は本当にお父様の娘ではないと仰いますの!?」
「そ・・・それは・・・わしとて信じとうは・・・」

「殿下の乳母が証言した。お前は亡き王妃様に従えていた使用人シルヴィアの娘、メリル。・・・そうだな?」

モースが隣の女性に聞く。

「・・・はい。本物のナタリア様は死産でした。しかし、王妃様はお心が弱っておいででした。そこで私は数日早く誕生しておりました我が娘、シルヴィアの子を王妃様に・・・」

「・・・そ、それは本当ですの、ばあや」

「今更見苦しいぞ、メリル。お前はアクゼリュスへ向かう途中、自分が本当の王女でないことを知り、実の両親と引き裂かれた恨みから、アクゼリュス消滅に加担した」

「ち、違います!そのようなこと・・・!」

「伯父上!本気ですか!そんな話を本気で信じているんですか!」

「わしとて信じとうはない!だが・・・これの言う場所から、嬰児の遺骨が発掘されたのだ!」

「んなのは関係ねえだろうがっ!!」

「さ、咲さん!落ち着いて・・・」

「落ち着いてられっか!陛下、それでもアンタはナタリアを娘として育ててきたんだ!その十八年間に嘘偽りも虚無もない!」

「・・・そのような問答は無用だ!こいつらを殺せ!」


俺達はすぐに逃げ出す。

「何をしているのです!ラルゴ!他の者の手にかかってもよいのですか?」

「・・・くっ、強引に連れてこられたかと思えば、こういうこととはなっ!」

その時、目の前にアッシュが現れる。

「アッシュ!丁度いい!そいつらを捕まえなさい!」


「ル・・・アッシュ・・・」

だが、アッシュはディストの前に立ち塞がる。

「せっかく牢から出してやったのに、こんなところで何をしてやがる!さっさと逃げろ!」

・・・どうやらアッシュもみんなの脱出に一枚噛んでいたようだ。俺達はそのまま走り出す。

「ルーク様!ご命令通り、白光騎士団の者がこの先の道を開いておりますぞ」

「命令・・・?」

ペールがファブレ家の騎士団を連れて立っていた。

「ん?御髪が・・・?やはり先ほどはカツラを・・・?」

「(アッシュか・・・)」

「ありがとう、ペール!お前は逃げろ!」

「いえ、微力ながら皆様の盾になります」

「危険です!お逃げなさい!」

二人を止めたのは・・・ガイだ。

「心配するな。ペール爺さんは俺の剣の師だ。後は頼むぜ、ペール」

「ガイラルディア様。ご無事をお祈りしております!」

・・・そのまま進むと、騎士団が敬礼してくる。

「この場は我らにお任せを!ルーク様、殿下をお願い致します。殿下は我が国の希望の星です」

「任せろ!」

街に降りると、騎士団だけではなく、街の人達もいた。

「ええい!待て!逆賊共!」

「(追い付かれたか!?)」

その時、街の人々が兵士の前に立ち塞がる。

「な、何をする!」

「ナタリア様、お逃げください!」

「な、何故私を・・・!」

「サーカスの連中から聞いたんです!姫様が無実の罪で処刑されようとしているって!」

「お顔は存じ上げませんでしたが、上の階から逃げてこられたってことは姫様でしょう」

「さあ、逃げてください!」


「行きましょう!ナタリア」

「え・・・ええ・・・」

ティアがナタリアに呼びかけ、再び走り出す。

「待て!その者は王女の名を騙った大罪人だ!即刻捕らえて引き渡せ!」

だが、それでも街の人々は止まらない。

「そうです!みんな、私は王家の血を引かぬ偽物です。私のために危険を冒してはなりません!どうか逃げて!」

ナタリアも、これ以上自分のせいで民が傷つくのが耐えられないのだろう。

「ナタリア様が王家の血を引こうが引くまいが、俺達はどうでもいいんですよ」

「わしらのために療養所を開いてくださったのはあなた様じゃ」

「職を追われた俺達平民を、港の開拓事業に雇って下さったのもナタリア様だ!」

「ええぃ、うるさい、どけ!」

男・・・ゴールドバーグ将軍は剣を引き抜く。咄嗟にルークが剣を抜きながら走り出す。

「やめろ!」

「ええいっ!うるさいっ!」

その時、アッシュがゴールドバーグを蹴り飛ばす。

「アッシュ・・・!?」

「・・・屑が。キムラスカの市民を守るのが、お前ら軍人の仕事だろうが!」

アッシュはナタリアを見る。

「ここは俺達に任せろ。早く行け、ナタリア!」

「アッシュ・・・」

「・・・お前は約束を果たしたんだな」

「アッシュ・・・“ルーク”!覚えてるのね!」

「行け!・・・そんなしけたツラしてる奴とは、一緒に国を変えられないだろうが!」

「っ!・・・わかりましたわ!」

「ルーク!ドジを踏んだら俺がお前を殺す!」

「・・・けっ。お前こそ、無事でな!」

「ザオ砂漠は消失しています。イニスタ湿原へ向かって下さい」


「わかった。ありがとう」

・・・それでも、兵の勢いは緩まない。

「操影術!」

「カートリッジロード!・・・落ちろぉ!」

撫子が影で敵を止めたり、黒羽が雷を落とすが・・・いかんせん数が違う。

「このままじゃ・・・」

そう呟いた時、目の前の兵士が吹き飛んだ。

「・・・え?」

間隔を開けながら、どんどん兵士が倒れていく。

「まさか・・・狙撃!?」

何とかその場を離れ、俺達は一息つく。

「・・・いるんだろ、知也」

「お、よく気づけたな」

物陰からライフルを背負いながら知也が歩いてくる。当然アビスメンバーは身構えるが・・・

「安心してくれ、俺の知り合いだよ」

「知也だ。よろしくな」

挨拶も済ませ、俺達はイニスタ湿原に入る。

「アッシュは無事でしょうか・・・」

「大丈夫よ。彼にはキムラスカの人達も味方をしてくれているわ」

「そうですわね。私のために、みんな・・・」

「感謝の気持ちは、オールドラントを救うことで表せばいい。今この大地に危険が迫ってるのを知っているのは俺達だけだ」

「・・・ええ」

ガイが言うと、ナタリアも頷く。

「この先は何処に繋がってるんですか?」

撫子が尋ね、アニスが答える。

「確かベルケンドだよね」

「なら、そこでアッシュさんと落ち合いましょう」

そのまま歩を進めるが・・・俺は気分が悪くなり、足を止める。

「咲?」

愛依が不安そうに聞いてくる。

「・・・嫌な気配がする」

「そう言えば、聞いたことがあるな」

ガイが言うには、この湿原にはタチの悪い魔物を封じ込めているらしい。その魔物はある花が苦手で、その花で湿原を覆って閉じ込めたとか・・・

「まさか、そんなのいるわけ・・・」

ルークが口にした瞬間、全員が固まる。遠くに、巨大な魔物がいたからだ。俺達は全力で逃げる。

「じょ、冗談じゃねーぞ!」

「あの魔物が・・・さっきの話の・・・」

「あの魔物と戦っても、此方に利益はありません。それに、今の私達では、まず倒せないでしょう」

「どうして倒せないって言い切れますの?」

「単純な強さだけで倒せるのなら、過去の討伐隊が倒しちまってるって!」

「そういうことです。今は逃げましょう」

ラフレスの花を上手く利用しないとな・・・

「・・・」

不意にナタリアが立ち止まる。

「どうした、ナタリア?」

「あ・・・いえ。何でもありませんわ」

「体調でも悪いのか?」

知也が聞いた時、例の魔物が現れた。

「きゃあっ!?」

「しまったわっ!」
「まずい!」

ティアが譜歌で怯ませ、ルークが斬りつける。

「アニス!ラフレスの花粉を!」

「はいっ!!」

魔物は逃げるように遠ざかっていく。

「今のうちにここを離れよう!」

そのまましばらく逃げるが・・・再びナタリアの注意力が散漫する。

「・・・ジェイド。休憩!」

それにいち速く気付いたガイがジェイドに言う。

「やれやれ。あなたもお人好しですね。さっきのこともありますから、周りには気を付けてくださいよ」

「ああ。こんなところでナタリアが怪我でもしたら、バチカルのみんなが泣くからな」

「そうだよねぇ。ナタリアって愛されてたんだぁってびっくりしたもん」

「ナタリアは公共事業を取り仕切ってるんだ。その収益を病気の人とかに施したりとか・・・尊敬されてんだよ」

「ルークが王子だったら、ただ王室で贅沢三昧だな」

「確かにな」

「・・・」

ガイと俺の言葉にルークが沈黙する。

「為政者も個人の資質が重要ってことね」

「そう。バチカルのみんなキムラスカの王女じゃなくて、ナタリアが好きなんだよな」

「でもお父様は・・・」

「陛下がどうしてもキミを拒絶するなら、マルクトにおいで。キミなら大歓迎さ」

「・・・あなた、よく真顔でそんなことを言えますのね」

ナタリアが顔を赤くしながら言う。

「おーい。ガイにたぶらかされて、マルクトに亡命するなよ!」

「それより、いっそナタリアが女王になればいいです」

「・・・ふふ」

ナタリアが顔を両手で抑える。

「・・・ごめん・・・なさい・・・いやですわ、泣くつもりでは・・・」

「いいんだよ。色々あって、びっくりしたよな」

ガイがナタリアを慰める。しばらくナタリアが落ち着くまで待つ。

「・・・ごめんなさい、みんな。もう大丈夫ですわ。ガイも・・・ありがとう」

「ナタリアの笑顔を取り戻す手伝いができて嬉しいよ」

再びナタリアが顔を赤くする。

「なんだか照れてしまいますわ」

ナタリアがガイに近づき・・・ガイが逃げる。

「・・・忘れてましたわ。ごめんなさい」

最後まで決まらないんだからな・・・そして、ようやく出口付近までたどり着く。

「なんとか湿原を抜けれそうだな」

「きゃー!」

魔物が現れ、アニスが分断される。

「アニスさん!」

咄嗟に愛依が方天画戟を構える。

『き、危険ッス!』

「危険でもやらなきゃ!鎌!」

愛依は物理は効かないと思ったのか、鎌に変形させる・・・が。

「くっ・・・刃が・・・!?」

闇で形成される刃が安定しない。・・・どうやら愛依は細かい闇の制御が苦手のようだ。

『危ないッス!?』

ガキャァァン!

「きゃあああっ!?」

愛依が弾き飛ばされ、沼をバウンドしながら岩場に激突する。


「愛依ッ!?・・・黒羽、愛依を頼む!」

「ああ、わかった!」

知也がトリガーマグナムを構える。

「狙い撃つぜ!」

だが、それよりも早く魔物の一撃が知也を襲う。

「ちっ!」

ガキャン!

トリガーマグナムに当たり、吹き飛ぶ。

「まだだ!」

知也は普通のマグナム二丁を取り出し、乱射する。

カキキキンッ!

「っ・・・やっぱり効かないか・・・」

「これでどうです!」

撫子が影を使い、動きを止めようとするが・・・敵は止まらない。

「・・・こうなったら!」

腕を交差させる。・・・解放するしかない。

「ウオオオオオオーーーーー!!」

身体を闇が包み、全ての闇を解放する。

『っ!?』

アビスメンバーが息を呑むのがわかる。俺の髪は銀に染まる。

「そうだな・・・この世界の名前を借りて、A(アビス)モードってとこか」

魔物が襲い掛かってくる。

「咲さん!?」

だが俺は・・・それを容易く受け止めた。

「クソ魔物が・・・」

そのまま片手でそれを持ち上げる。

「調子のってんじゃねぇ!!!」

そのまま放り投げる。

「お、おいおい・・・」

黒羽が絶句する。・・・そして俺は、一瞬で魔物の背後に立っていた。

「・・・バーン」

ズガァァァン!!

闇の一撃で魔物が吹き飛ぶ。

「・・・おら、立てよ」

魔物に歩み寄る。コイツは愛依を・・・仲間を傷つけやがった。

「死にやがれ・・・」

「サキ!もう充分です。逃げますよ!」

ジェイドがそう言ってくる。・・・魔物はその隙に逃げ出した。

「チッ・・・」



振り向いてAモードを解除した瞬間・・・目眩と脱力感に襲われた。

「え・・・」

何とか手をつき、踏ん張る。

「咲さん、どうしたんですか!?」

「大、丈夫・・・ちょっと・・・だるいだけ・・・」

しばらくすると、身体に力が戻る。

「愛依は?」

「アタシなら平気だよ」

愛依が肩を擦りながら歩いてくる。

「・・・ごめんな、リパル。アタシのせいで・・・」

『愛依さんのせいじゃないッス。オイラがサポートしなくちゃいけないのに・・・』

「ううん。リパルはとっても良い武器だよ。ただ、どんな武器も担い手がダメなら、武器もダメになる。・・・アタシ、リパルの足を引っ張ってる・・・」

『あの、その・・・お、オイラに足は無いッスよ!』

そう言うと愛依はしばらくポカンとして・・・笑い出す。

「ふ、ふふ・・・あはは!・・・気を使ってくれてありがと。・・・こんなアタシだけど、もうしばらくアタシに付き合ってくれる?」

『も、勿論ッス!』

「・・・でも・・・やっぱりリパルを使うのは・・・(ボソッ)」

「愛依?」

「な、なんでもねーよ!ほら、みんな待ってるって!」

愛依は走り出す。すると知也がトリガーマグナムを拾い上げる。

「あーあー・・・完全にオシャカだな」

トリガーマグナムはあちこちから火花が飛び散っていた。

「・・・これくらいなら直せると思うな。知也、それ貸してくれるか?」

「ん?・・・ああ、構わないぜ」

知也からトリガーマグナムを受け取り、空間に入れる。

「(さて、と・・・なんて説明すっかな・・・)」

ジェイドは理解してくれたが・・・いや、きっと大丈夫だろう。三国の民は俺を受け入れてくれた。だから・・・今回も・・・

「(迷ってたってしょうがない)」

こうなったら当たって砕けろだ。俺は皆に向かって足を踏み出した・・・





 
 

 
後書き
サキ
「・・・Aモード、か」

リョウ
「やっと名前ついたのな」

サキ
「ずっと前から出てんのに名前無かったからな・・・」

リョウ
「ちなみにブレイブルーとの関連性は?」

サキ
「ないない。やっぱBの次はAかなって」

リョウ
「パワプロかよ」

サキ
「まあ、細かいのは無しにして・・・それでは、次回の続・真似と開閉と世界旅行!」

リョウ
「次回もよろしく!」

 

 

逃亡中~

 
前書き
最近やけに天気が崩れるなぁ・・・ではどうぞ。 

 
・・・俺達は途中で夜営をする。

「・・・」

みんなが黙るなか・・・俺は口を開いた。

「・・・もう、隠せないな」

真っ先にガイが話しかけてくる。

「なんだありゃ。音素を身に纏った・・・って訳じゃなさそうだが」

「見た目が変わってホントびっくりしたよぅ」

アニスが頷く。

「・・・サキ、もう頃合いでしょう」

「・・・だな」

俺は頭を掻き、溜め息を吐く。

「全部話すか。この世界でのこと・・・別世界のこと」

ジェイドに話したように、みんなにも説明していく。・・・話し終わる頃には、みんなが難しい顔をしていた。

「・・・とても信じられないわ・・・」

ティアが呟く。

「・・・俺は信じる」

「ルーク・・・」

「サキは俺に色々教えてくれたし、何より・・・こんな冗談を言う奴じゃないよ」

「そうですわね・・・」

「根暗ッタのことは知ってたけど・・・頭がぐちゃぐちゃだよぉ・・・」

「・・・つーかジェイド。おまえさん、いつから知ってた?」

ガイがジェイドに聞くと、ジェイドは眼鏡を上げながら答える。

「・・・黒羽と撫子が合流した時に、サキから話を聞きました」

「なるほどな。あん時やけにサキをフォローしていると思ってたが・・・」

「すみません。私も多少なりともサキに口止めをさせていましたから」

「それで・・・本題だが」

みんなが俺を見る。

「この通り、俺は真っ向な人間じゃない。・・・魔物と同じだ。更に、俺の家族同然のアリエッタやエイは敵方・・・俺も心が揺らぐかもしれない。・・・もしみんなが望むなら、俺はパーティーから外れる」

「そんなことは微塵も思わない」

すぐにルークが返してくる。

「俺だってちゃんとした人間じゃないし・・・それに、そんなの関係無しにサキはサキだろ?」

「・・・」

「まあ、もしあなたが私達の障害になるようでしたら・・・」

「ああ、その時は本気でやってくれ」


「私もあなたを信じます。あなたはお父様に本気で怒ってくださいました。あの時・・・こんな私の為に必死になってくれて嬉しかった」

「そうね。怒ったり笑ったり迷ったり・・・とても人間らしいと思うわ」

「ナタリア・・・ティア・・・」

「友人に隠し事してたのはアレだが・・・正直に話したからチャラにしてやるか」

「うんうん。そういうのってなんか格好いいよね~」

「ガイ・・・アニス・・・」

「ま、心配しただけ損だったな?」

知也の言葉に苦笑で返す。

「まったくだ。・・・ありがとう、みんな」


そのまま夜は更けていく・・・










































































愛依~

「・・・」

みんなが寝静まった夜。アタシは一人起き上がり、消えかけた焚き火に木の枝をくべる。

「リパル・・・起きてる?」

『・・・はいッス』

アタシは方天画戟を隣に突き立てる。

「みんな・・・いい人だよ」


『そうッスね』

「だからこそ・・・アタシは嫌なんだ」

『?』

「何時かこの人達も壊してしまうかもしれない・・・そう思ったら、怖くて・・・」

『でも、咲さんがいるじゃないッスか。咲さんなら・・・』
「・・・見てなかった訳じゃないだろ」
『・・・』

咲に襲い掛かったあの時、アタシは何をしているのか、自分でも分かっていなかった。

「・・・ごめんね。アタシの愚痴に付き合わせて・・・」

『いや・・・構わないッス』

「ありがと。・・・アタシさ、このまま記憶が戻らなきゃいいなって思う時があるんだ」

『え・・・』

「・・・今が、楽しすぎて・・・みんな、優しくて・・・ずっと、ずっと色んな人に憎まれて来たから・・・」

今でも思い出せる罵倒や怒声。その一人一人の憎悪の表情・・・

『・・・さん!愛依さん!』

「・・・っ!」

気がつけば自分の腕に爪を立てていた。

「・・・」

『・・・だから、毎日よく眠れないッスか?』

「・・・気づいてたんだ」

『まあ、何となく・・・なんスけどね』

「・・・持ち主に似て鋭いね」

『・・・咲さんッスか?』

「うん。・・・多分ね、リパルは咲をちゃんと信じてないんじゃないかな?」

『・・・オイラが』

「だから咲とすれ違って・・・咲を弾いちゃったんだよ」

『・・・』


「これも多分だけど・・・リパルが悩んでるのってアタシのせいかな?」

『そ、そんなことは・・・!』

「いーよ、誤魔化さなくて」

『・・・オイラは・・・愛依さんが羨ましいッス』

「・・・」

『なんの迷いもなく、どんな時も・・・」

「違うよ」

『え?』

「アタシが咲を信じるのは・・・アタシが弱いから」

『どういうことッスか?」

「アタシは・・・誰かを頼っていないと、不安で・・・怖くて・・・だから、信じるしかないんだ。例えどんなことがあっても・・・」

『愛依さん・・・』

「今は悩んでてもいいと思うよ。・・・というか、悩みが無い奴なんか普通いないって」

『でも・・・』

「アタシもあんたも深く悩みすぎ。・・・後でゆっくり咲と話した方がいいよ。タイマンで」

『・・・』

「・・・アタシも寝るよ。・・・お休み、リパル・・・」

アタシは毛布を被って横になる。今日は、眠れるといいな・・・

































































咲~

こうしてベルケンドにやって来る。

「・・・よく考えたら、俺らってこの街来たことないよな」

「そう言えば・・・」

あの時はアクゼリュスが崩落して、ユリアシティにいて・・・

「ここはどんな街なんだ?」

「知らないのか、サキ!」

意外にもガイが大声を出す。

「ここは音機関の街として超有名なんだぜ!新旧様々な音機関があってだなぁ・・・」

「・・・」

・・・ガイが音機関マニアだって忘れてたよ。

「・・・(キラキラ)」

「愛依はこういうのが好きなのですか?」

撫子が愛依に聞く。

「うん!アタシ、何かを作ったりするのが好きなんだ」

「そうなんですか。意外ですね」

「あはは、椿にもよく言われたよ」

その時、神託の盾騎士団に囲まれる。

「バチカルでは派手にやってくれたそうですな、特務師団長!」

「・・・特務師団長?」

「ヴァン主席総長がお呼びです!出頭して頂きますよ。アッシュ特務師団長!」

「ヴァン謡将に会う絶好の機会です。ここは大人しく捕まりましょう」

・・・俺達は大人しく研究所まで連行される。

「アッシュ特務師団長を連行しました」

「兄さん!リグレット教官!」

「師匠!師匠はアクゼリュスで俺を・・・俺を・・・っ」

ルークとティアが先に飛び出る。・・・中にいたのはヴァンとリグレットと・・・

「っ・・・」

「アンタ・・・サキ!」

詠だ。彼女は剣に手をかける。

「やめろ、エイ」

「リグレット、だけど・・・!」

「エイ、今はいい」

「・・・はい」

ヴァンに言われ、エイは剣から手を離す。

「・・・とんだ人違いだな。閣下、下がらせますか」


「いや、構わん」

ヴァンが近づいてくる。

「兄さん!何を考えているの!セフィロトツリーを消して外殻を崩落させて!」

「そうだよ、師匠!ユリアの預言にも詠まれていない・・・」

「ユリアの預言か・・・馬鹿馬鹿しいな。あのようなふざけたものに頼っていては、人類は死滅するだろう」

「・・・お前が人のこと言えんのかよ」

「それがユリアの預言から解放される唯一の方法だからだ」

「死んでしまえば預言も関係ないですからねぇ」

「違うな。死ぬのはユリアの亡霊のような預言と、それを支えるローレライだけだ」

ローレライ・・・それは確か。

「ローレライって・・・第七音素の意識集合体?まだ未確認なんじゃ・・・」

アニスが言うが・・・

「いや、存在する。あれが預言を詠む力の源となり、この星を狂わせているのだ。ローレライを消滅させねば、この星は預言に縛られ続けるだろう」


「外殻が崩落して消滅したら大勢の人が死ぬ。そしたら預言どころの話じゃなくなっちまうよ!」

「レプリカがある。預言通りにしか生きられぬ人類などただの人形。レプリカで代用すればいい」

その言葉にガイが吐き捨てるように返す。

「フォミクリーで大地や人類の模造品を作るのか?馬鹿馬鹿しい!」

「ふ・・・では聞こうか。ガイラルディア・ガラン・ガルディオス」


「・・・!」

「ホドが消滅することを、預言で知っていながら見殺しにした人類は愚かではないのか?」

「それは・・・」

「私の気持ちは今でも変わらない。かねてよりの約束通り、貴公が私に協力するのならば、喜んで迎え入れよう」

ルークがそれを聞いて反応する。

「かねてからの約束・・・?ガイ、どういうことだ?」

「それは・・・」

「ガルディオス伯爵家は代々我らの主人。ファブレ公爵家で再会した時から、ホド消滅の復讐を誓った同志だ」

その時、何か物音が聞こえた。

「来たようです」

リグレットが言うのと同時にアッシュがやって来る。

「アッシュ!」

「ふふ・・・待ちかねたぞ、アッシュ。お前の超振動がなければ、私の計画は成り立たない。私と共に新しい世界の秩序を作ろう」


「断る!超振動が必要ならそこのレプリカを使え!」

「雑魚に用はない。あれは劣化品だ。一人では完全な超振動を操ることもできぬ」

「!」

ルークは絶句する。

「あれは預言通りに歴史が進んでいると思わせる捨てゴマだ」

「その言葉、取り消して!」

ティアが声を荒げる。

「ティア、お前も目を覚ませ。その屑と共にパッセージリングを再起動させているようだが、セフィロトが暴走しては意味がない」

ティアがナイフを構えると、リグレットとエイが前に出る。

「構わん、リグレット、エイ。この程度の敵、造作もない」

ジェイドがティアを止める。

「ティア。武器を納めなさい。・・・今の我々では分が悪い」

確かに。この狭い部屋では、逆に数が少ない方が有利だ。・・・結局、その場はお互いに退くことになった。部屋から出る時・・・

「サキ」

「・・・なんだ?」

ヴァンが話しかけてきた。

「以前言っていたな。“預言は下らない”と」


「・・・ああ。それがどうした」

「貴様も預言が憎いのなら、我々の同志になれ。貴様の実力なら資格は充分だ」

「・・・まさかの勧誘かい?」

「咲・・・」

愛依に手で“黙ってろ”と合図する。

「こちらにはアリエッタもいる。それに・・・どうやらエイについても何かあるようだな?」

「・・・!」

この野郎・・・シンク辺りから聞いたな?

「・・・どうだ?我が同志になるのならば、それなりの報酬を与えよう」

「・・・確かに俺は預言が嫌いだ。けどな、預言の滅亡=人類の滅亡なんて方程式が成り立ってる奴等に協力する気は更々ない」

「・・・その言葉、後々後悔するぞ」

「・・・」

俺はそれを無視して外に出る。

「アッシュ・・・バチカルでは助けてくれてありがとう」

「そうだ。お前のお陰だよ。ここまで逃げてこられたのは」

「勘違いするな。導師に言われて仕方なく助けてやっただけだ」

「(うわぁ、ツンデレ)」

「イオン様が!?」

「お前達に渡すものがある。宿までこい」

俺達はそれを聞いて宿に向かう。途中、ガイにさっきの話を聞いたが、今はヴァンと敵対する道を選ぶと言った。そして宿屋に入るとアッシュと・・・

「ノエル!無事だったのか!」

「はい。アッシュさんに助けて頂きました」

「アッシュに・・・?」

「よかったですの!」

「ただ、アルビオールの飛行機能はダアトで封じられてしまいました」

「・・・それでどうやって来たんだ?」

黒羽が聞くと、ノエルは答える。

「水上走行は可能だったので、それでなんとか」

・・・アルビオールは飛行に必要な部品を抜かれたらしく、今は船と変わらないらしい。また、イオンからローレライ教団の禁書・・・歴史書を渡されたらしい。ジェイドはそれを解読するのに一日かかると言ったので、一時自由行動になる。


「(じゃあ、今のうちに・・・)」

「咲、どこ行くんだ?」

知也が聞いてくる。

「“これ”を直すんだよ。ないと不便だろ?」

トリガーマグナムを見せると、知也が納得する。

「あ、アタシも手伝おうか?」

「んー・・・いや、いいや。せっかくだし、街を見てきたら?」

「え、でも・・・」

俺は撫子に目配せする。

「そうですね。愛依、一緒に行きましょう」

「でも・・・」

「気晴らしです。・・・それとも、私と出掛けるのは嫌ですか?」

「い、いや!そんなことない!」

「じゃあ決まりですね」

「・・・」

最後に愛依はこちらを見た後、撫子と一緒に宿を出た。

「・・・随分手際がよかったな」

黒羽が近づきながら言う。

「ま、ね。こないだ色々あったし、これで多少なりとも気分転換になりゃいいが・・・」

「なるほどな。んじゃ、俺も街に出るか」

「よし!なら俺が案内するぜ!」

ガイが物凄く興奮しながら黒羽に歩み寄る。

「ほら、知也も行こうぜ!」

「え?あ、お、おい!?」

黒羽と知也が引きずられていく。俺は空間の中を漁り、修理道具を探す。

「さて、始めますか」

ただ直すんじゃつまらないからな・・・











































愛依~

「うわぁ・・・」

工具店に置かれている様々な道具を前に、アタシはそんな声を出した。


「しかし、愛依は手先が器用なんですね」

「なんかね・・・記憶が無いから分からないけど、物を作ってると懐かしい感じがするんだ」

「そうなんですか?」

「うん。・・・椿の刀の鞘もアタシが作ったしね」

「壊れたんですか?」

「いや・・・刀が真ん中から折れててさ。抜き身で持ってたから・・・刀を直して、鞘も新しく作ったんだ」

「・・・凄いですね」

「単なる一つ一つの材料が集まって形を作る・・・そういうの、好きなんだ。でも・・・」

「愛依?」

「アタシは・・・そんな形がある世界を・・・何度も壊したんだ」

「愛依・・・」

「勿論、壊せなかった世界もあるけどね」

「例えば」

「そうだな・・・ある世界じゃ、加速世界って奴に干渉できなかったし、ある魔法少女には願いや祈りの力に負けたりもしたし。あとは・・・」

思い出せば出すほど、嫌な感情が思い出される。

「・・・もういいです。・・・言いにくいことを聞いてごめんなさい」

撫子まで暗くなったのを見て、アタシは慌ててフォローする。

「き、気にしないでよ。撫子は何も悪くないんだから・・・あ、ジュース買ってくるね!」

アタシはその場から走って離れ・・・路地裏に入る。

「う・・・ひっく・・・」

涙が溢れる。何で・・・こんな・・・

「嫌だよぉ・・・破壊者なんて・・・どうしてアタシ達が・・・」


『愛依さん・・・』

リパルが声をかけてくる。

「ごめん、ね。嫌かもしれ、ないけど・・・ぐす・・・少し、泣かせて・・・?」

『・・・誰だって泣きたいことはあるッスよ』

「ごめんね・・・ごめ・・・!」

その場にしゃがみこんで泣く。早く戻らないと・・・撫子が心配する・・・

「リパ、ル。みんなには・・・内緒にして?」

『・・・でも』

「お願いだよ・・・」

『・・・分かったッス』


ごめんね、リパル・・・

































































咲~

翌日、俺達はジェイドに話を聞く。

「・・・」

ジェイドが言うには、魔界の液状化の原因は地核にあるらしい。地核は記憶粒子が発生している惑星の中心部だ。・・・とにかく、地核が振動しているせいで、液状化しているため、なにかで振動を止めればいいのだが・・・それを止めるには、プラネットストーム・・・所謂発電所を止めなければならない。イオンが届けてくれた禁書には、プラネットストームを止めずに振動を止める方法が書いてあった。そしてガイの進言でヘンケンという研究者を探すことになった。・・・アッシュ?みんなにからわれて散歩と言って出ていった。

「知也」

「ん?もう直ったのか」

俺はトリガーマグナムと・・・五本のメモリを渡す。

「これは・・・“サイクロン”“ヒート”“ルナ”?・・・こっちの二本は・・・」

「オリジナル。ギジメモリで・・・」

『スナイパー!』

「と・・・」

『アサルト!』

「トリガーマグナムのスロットを一つ増やして、軽く能力を追加してみた」

「・・・なるほどねぇ」

「ま、完全に趣味に走った」

可変武器ってロマンだよな。・・・とにかく、俺達はヘンケンさんを見つけ、説明する。

「知事達に内密で仕事を受けろと言うのか?お断りだ」

隣にいる老婆・・・キャシーさんも言う。

「知事はともかく、ここの責任者は神託の盾騎士団のディストよ。ばれたら何をされるか・・・」

ダメかな・・・そう思った時、ガイが芝居かかった話しをし始めた。

「へぇ、それじゃあこの禁書の復元は、シェリダンのイエモン達に任せるか」

「な、何!?イエモンだと!?」

「冗談じゃないわ!またタマラ達が創世暦時代の音機関を横取りするの!?」

いきなり二人の態度が変わる。

「・・・よ、よし。こうなったら、その仕事とやら、引き受けてやろうじゃないか」

「何々?なんでおじーさん達、イエモンさん達を目の敵にしてんの?」

・・・どうやらシェリダンとこのベルケンドにいる人達は学生時代から争っている競争相手らしい。ベルケンド“い組”とシェリダン“め組”・・・俺はガイに耳打ちする。

「(おい、知ってたのか?)」

「(音機関好きの間では有名なんだよ。“い組”と“め組”の対立)」

・・・その後知事にも話をして、知事をこちら側に引き込むことに成功した。地核振動数を測る必要があり、そのためにはまだ崩落していないパッセージリングに行く必要がある。ので、振動計測装置を作る間、俺達はダアトに行くことにした。イオンがいなければパッセージリングのとこには行けないし、もしかしたらアルビオールの浮遊機関の場所を知っているかもしれない。俺達は外に出るが・・・

「・・・な、なんだ?」

いきなり誰かが走り出した。するとアッシュが近寄ってくる。

「今スピノザが逃げていったぞ」

・・・もしかしたらヴァンに密告されるかもしれない。スピノザはアッシュに任せ、俺達はダアトに向かう。・・・さーて、急ぎますか・・・ 
 

 
後書き
サキ
「さてさて、色々ありましてと」


「なんや、めっちゃええ仲間やん」

サキ
「ま、ね。でも、やっぱり霞達のことも思い出すよ」


「ウチ達のこと?」

サキ
「そ。大切な家族のことを・・・ね」


「咲・・・」

サキ
「帰り、待っててくれな」


「りょーかいや!」

サキ
「それじゃ、次回の続・真似と開閉と世界旅行!」


「次回もよろしく!」 

 

タタル渓谷~

 
前書き
ファイアーエムブレム覚醒を(3DSごと)友達から借りてしまった・・・しばらくはプレイできないけど。ではどうぞ。 

 
俺達はダアトにたどり着く。

「今度はモース達に見つからないようにしないとな」

「モースはきっとまだ、バチカルにいる筈ですわ」

「そうですね。でも六神将がここに残っているかも知れません」

「気を引き締めろってことか」

「・・・ごめん。パパ、ママ(ボソッ)」

アニスが何かを呟いた。

「ん?パパ?パパって言ったか?」

「う、ううん。パパ達に聞けば、六神将がどうしてるか分かるかもなぁ・・・って」

「・・・アニスさんの両親はここにいるんですか?」

愛依が聞くとガイが答える。

「ああ。ここに住み込みで働いているんだよ」

・・・俺達はアニスの両親に話を聞きに行く。

「やあ、アニス!聞いたよ。イオン様からお仕事を命じられて頑張っているそうじゃないか」

父親・・・オリバーさんが言う。

「パパ、ママ。六神将の奴等、どうしてるか知ってる?」

「まあまあまあ。そんな言い方よくないわよ、アニスちゃん」

母親・・・パメラさんがなだめる。

「ぶー」

「あははは。アニス、膨れっ面しちゃ駄目だぞ」

「そんなことより、六神将とか大詠師モースは?何してんの?」

「モース様とラルゴ様、ディスト様はキムラスカのバチカルに行かれたよ」

「リグレット様はベルケンドを視察中よ」

「シンク様はラジエイトゲートに向かわれたな」
「アリエッタ様はアブソーブゲートからこちらに戻られるって連絡があったわ」

「・・・もぬけの殻だな」

知也が言う。その内にイオンに会いに行くことにした。・・・のだが。


「・・・」

タトリン夫妻が俺を見る。

「・・・何か?」

「いえ、何処かで見覚えが・・・」

「・・・え?」


「でも、気のせいかもしれませんね。・・・すみません」

「あ、いや・・・平気です」

気を取り直してイオンに会いに行く。


「皆さん!ご無事でしたか」

「イオンがアッシュを寄越してくれたお陰でな」

「いえ、アッシュが迅速に動いてくれたからですよ。ところで何故またここに戻ってきたんですか?」

・・・ガイに説明してもらう。・・・そして・・・まだ封印を解放していないのは・・・タタル渓谷と呼ばれる場所だ。俺達は測定器を受取に向かおうとするが・・・アッシュから連絡が入り、スピノザを捕まえるのに失敗したらしい。結果、計画がヴァンに知られ、ヘンケンさん達はシェリダンに逃がしたそうだ。

「とにかく急がないと」

その時、パメラさんが立っていた。

「あらあらあら、アニスちゃん。アリエッタ様が戻っていらしたわよ」

「うげ!まず・・・」

「確かアリエッタ様を探していたのよねぇ?皆さんがいらしたこと、お伝えしておきましたよ」

「ぎゃー!ママ!なんてことすんのっ!」

「ママの仇っ!」

・・・その直後、アリエッタがライガを引き連れてやって来る。

「アリエッタ・・・」

「ちょっと、根暗ッタ!こんなトコで暴れたら・・・」

「アニスなんか大嫌いッ!ママ達の仇、取るんだから!サキも取り返すんだから!いけぇっ!」


ライガが走り出してくる。

「アニス!アイ!イオン様を!」

「「はいっ!」」

「イオン様は渡さないんだから!」

「くっ!?」

前に出た俺達は弾き飛ばされる。

「速い・・・!」

撫子達の攻撃もすり抜け、アニスと愛依に迫る。

「イオン様!危ない!」

ライガが放った雷が・・・

「きゃあっ!」

・・・イオンを庇ったパメラさんに直撃した。

「パメラ!」

「ママ!?」

・・・ジェイドがその間にアリエッタを拘束する。

「さあ、お友達を退かせなさい!」

「う・・・!だけど・・・」


「アリエッタ!!」

俺が怒鳴ると、アリエッタの身体がビクッ、と跳ねる。

「アリエッタ!パメラを捲き込むのは筋違いでしょう!」

「サキ・・・イオン様・・・みんな、やめて・・・!」

ライガが退いていく。

「ナタリア!パメラさんを!」

「わかりましたわ!」

その光景を見ていたガイが・・・急に倒れ、愛依も頭を抑える。

「思い・・・出したっ!」

「ガイ!?愛依!?」

「お、母さん・・・」

・・・その後、アリエッタは退き、パメラさんは軽い火傷で済んだ。・・・だが、ガイと愛依は落ち込んだ様子で何処かに行ってしまった。アビスメンバーはガイを。外史メンバーは愛依を捜す。

「愛依・・・どうしたんでしょうか」

「さあな・・・随分顔色が悪かったけど・・・」

撫子と黒羽が会話している時、俺の視界に長い赤毛が映った。

「愛依!」

「あ・・・みんな・・・」

愛依が俺達に近づき、うなだれる。

「どうしたんだ?」
知也が聞くと、愛依は答える。

「記憶が・・・ほんの少し、戻ったんだ・・・」

「ほんとか!?よか・・・」

よかったじゃないか。そう言おうとしたが、その言葉が間違いであることは愛依の態度を見れば明らかだ。

「愛依・・・?」

愛依の目から・・・涙が落ちる。

「・・・どこか、願ってたんだ。アタシ達の家族は生きてるって・・・けど」

愛依はその言葉を口にした。

「けど・・・アタシは・・・母さんが、庇って・・・目の前で・・・」

「愛依・・・」

「それに、父さんも、父さんもアタシが・・・!」

・・・前に見た記憶か。

「でも・・・顔はぼやけてたけど・・・二人とも、笑ってた。なんで・・・死ぬのに・・・」


愛依は完全に泣き崩れてしまう。

「愛依、泣かないでください。・・・咲さん、黒羽さん、知也さん。すみませんが、二人きりにしてくれませんか?」

「・・・ああ、わかった」

俺達は外に出る。・・・前に、愛依の頭に触れ、一瞬俺の中の愛依の闇と愛依自身の闇をリンクさせる。









『みんな・・・みんなどこぉ・・・?』

辺りが炎と悲鳴で埋まる中を、小さい愛依は走っていく。

『いやだぁ・・・怖いよぉ・・・!』

・・・その時だった。目の前から光の矢が迫ってきていた。

『ひっ・・・』

怖くて足がすくむ。その矢が自分を貫こうとした瞬間・・・

『・・・させない!』

矢が叩き落とされる。

『・・・愛依、大丈夫!?』


『お母、さん』

目の前に母親を見つけ、安心する。

『お母さん!』

『・・・』

母親に近づこうとした時、母親の気配が緊迫したものに変わる。

『・・・愛依!』

ドン、と母親に突き飛ばされ、地を転がる。何かしたのか、と思ったが、顔を上げた時・・・信じられない光景が目に入った。

『・・・ぐっ・・・』

『お母さん!?』

母親の腹に・・・さっきのと似たような光の矢が刺さっていた。


『う・・・』

母親の身体が揺れ・・・倒れる。

『お母さん!?お母さん!』

『大丈夫・・・だから・・・』

『・・・あ・・・!』

自分の両手は・・・母親の血で真っ赤に染まっていた。

『ああ、あ・・・ああああ・・・!』

恐怖で身体が震える。だけど・・・母親の手が頬に触れる。
『・・・逃げて・・・』

『で、でも・・・!』

『ーーーーーが守って・・・』

『ーーーー無理だよ!』

映像と声にノイズが走る。

「(まだだ・・・!まだ・・・せめて、愛依の母親の顔だけでも・・・!)」

愛依を助けた母親の顔・・・それを見れば・・・きっと愛依の正体だって・・・それに、愛依が破壊者になった理由も・・・


「ぐっ!?」

闇が暴れだそうとするのを感じて慌てて手を退く。

「・・・見たの?」

愛依が聞いてくる。


「・・・悪い」

愛依は首を横に振る。

「・・・母さんの顔・・・見えた?」

俺は首を横に振る。

「だよね・・・だって、アタシが覚えていないんだから・・・母さんだけじゃない。父さんの顔も・・・多分・・・妹もいたんだと、思う」

「愛依・・・」

「・・・記憶は取り戻したかった。・・・けど、こんな記憶・・・思い出したくなかった!」

「・・・」

「・・・咲さん」

「ああ・・・頼む」

俺はそのまま・・・その場を後にした・・・









愛依~

「・・・母さんね、アタシを庇って・・・それで・・・」

「はい。・・・それで・・・その時に?」

「分からない。破壊者になったのは・・・もう少し・・・あと・・・多分」

「ごめんなさい。慰めるどころか・・・傷つけるようなことを・・・」

「う、ううん。気にしないでよ」

アタシはゆっくりと立ち上がる。

「・・・大丈夫ですか?」

「大丈夫!・・・だから、行こ?」

「は、はい・・・」

「ほらほら、みんな待ってるから」

「・・・愛依・・・」

「・・・そんな悲しそうな顔をしないでよ・・・」

撫子の肩に触れている手が震える。

「みんなの前で・・・こんなの・・・見られたくないから・・・」

「愛依・・・」

「だから・・・だから、せめて・・・今まで通り・・・振る舞わせて・・・」


「・・・!」

「・・・」

アタシは撫子の肩を叩いて走り出す。


「・・・せない」

撫子が何かを呟いたのが聞こえた。


「必ず・・・黒幕を・・・!」









咲~

「・・・」

ガイからも話を聞いた。・・・キムラスカ兵に斬られそうになった時、姉やメイドがガイを庇ってくれた。・・・その後、ペールに助け出される前、死体の中で気絶していたこと。・・・ガイの女性恐怖症もその時のトラウマらしい。


「・・・」

話を聞いていた時、愛依が戻ってくる。

「愛依、平気か?」

「うん。大丈夫!・・・アタシよりガイさんは・・・」

「大丈夫さ。俺のことより、早く測定器を受け取りに行こう」

・・・俺達はイオンを連れ、シェリダンで測定器を受け取る。・・・そこでい組とめ組が揉めたが、ナタリア、イオン、アニスのお陰でお互いが振動を止める装置を作ることになった。その間に計測を済ませるため、タタル渓谷に向かう。

「前に来たときにはセフィロトらしい場所はなかったと思うけどな」

「あの時は夜だったから、見落とした場所があるのかもしれないわ」

ルークとティアの会話にアニスが突っ込む。

「あれぇ?夜中に二人でこんなトコにきた訳ぇ?あ~やし~い♪」

「・・・んまあ、ルーク!あなた、ティアとそんなことになっていましたの!?」

「ちょ、ちょっと待て!なんでそうなってんだよ!そうじゃなくて、前にバチカルから飛ばされた時に・・・」

「あり得ないから」

ティアがそう言って進む。

「何してるの?行きましょう」

「・・・なんかむかつく」

「きっつー・・・」

「容赦ねー・・・」

「そうですねぇ」

上からティア、ルーク、ガイ、俺、ジェイド。

「楽しそうだな、ジェイド」

知也が聞くと、ジェイドは答える。

「ええ、楽しんでいます」

「・・・嫌な奴」


進んでいき、奥に進むと・・・アニスが大声を出した。

「あ~~~~っ!?」

「どうしたの、アニス」

「あれは、幻の“青色ゴルゴンホドアゲハ”!捕まえたら一匹あたり四百万ガルド!!」

「おーい、アニス。転ぶぞ」

ガイが言うと、アニスは怒る。

「あのねっ!私のこと子供扱いするのはやめてくれないかなぁ・・・」

そこまで言ったとき・・・地震が起きた。

「きゃうっ!?」

アニスがバランスを崩し・・・崖から落下する。

「アニス!」

アニスはギリギリ崖に生えている草にしがみつく。

「く・・・」

「操影術・・・!」

俺はBモードの、撫子は影の用意をするが、それより早くティアがアニスの腕を掴み・・・ガイもアニスの腕を掴んだ。

「ガイ!?」

「・・・くっ!」

何とかアニスを引き上げる。

「ティア、ガイ・・・ありがとう」

「私は・・・それよりガイ、あなた・・・」

「・・・触れた・・・」

「ガイさん!頑張ったですの!」


「よかったな、ガイ!」

「偉いですわ。いくら過去のことがあっても、あそこでアニスを助けなければ見損なっていました」

「・・・ああ、そうだな。俺のせいでアニスに大事が無くてよかったよ」

「や~ん、アニスちょっと感動!」

「ガイはマルクトの貴族でしたねぇ。きっと国庫に資産が保管されていますよ」

「ガイ。いつでも私をお嫁さんにしていいからね」

「・・・遠慮しとくわ」

「アニスさん」

「アイ?」

「地震は仕方ないですけど・・・アニスさんも気をつけて下さい。・・・本当に、びっくりしたんですから・・・」

「あ・・・うん。気を付けるよ」

更に奥まで進むと、霧が出てくる。

「あれ、なんかいるぜ。魔物か?」

「みゅう~!みゅみゅう!」

ミュウが話しかけると、馬のような鳴き声が帰ってくる。

「この鳴き声は・・・」

「ユニセロス!」

「古代イスパニア神話に出てくる、“聖なるものユニセロス”ですか?」

イオンが聞くとアニスが興奮しながら頷く。

「そうです!幻のユニセロスですぅ!捕まえたら五千万ガルドは堅いですよっ!」



「それより、今の鳴き声・・・理解は出来なかったが、苦しみの感情が伝わってきた」

「ああ、そう言えば咲は魔物と会話できるんだったな」

黒羽の言葉に苦笑しながら返す。

「獣系限定だけどな・・・っ、何か来る!」

いきなり背後から一角獣・・・ユニセロスが突っ込んでくる。

「うわっ!ユニセロスってのは凶暴なのかよ!?」

「そんな筈ないよぅ。すっごく大人しくて人を襲ったりしない筈だよっ!」

「また来ますわ!」

「とりあえず気絶させて様子を見ましょう!」

ユニセロスは角を突き出しながら突進してくる。

「きゃっ!?」

カキン!

愛依が避けきれず、弾き飛ばされる。そして文字通り馬乗りにされ、前足が愛依の顔面に振り下ろされる。

「リパル、鎌!」

『でも!』

「早く!」

愛依は鎌に変形させ、制御なんてお構いなしに闇を注ぐ。

「・・・っ!」

すると飛び出た闇の刃が地面を押し、愛依は前足をかわしながら・・・ユニセロスに頭突きした。

ガンっ!

「どう、だ!」

愛依が頭を抑えてふらふらしながら下がる。

「(・・・痛そうだな)」


「私の番です!」

撫子は走り出す。するとユニセロスも駆け出してくるが・・・撫子は体制を低くしてスライディングをする。

「踏み潰されるぞ!?」

ガイが言うが・・・

「操影術!」

影がユニセロスの足を取り、ユニセロスのバランスが崩れる。

「槌!」

足の隙間に滑り込んだ撫子がハンマーを振り上げる。

ドン!

「はは・・・」

思わず笑ってしまう。そこにルークが踏み込む。

「烈破掌!」

掌底を叩き込み、ユニセロスが一際強く泣く。


「ティア!」

「ええ!ーーーーー♪」

ティアが譜歌を歌い、ユニセロスを眠らせる。

「・・・傷を癒すわね」

ティアが回復させる中、撫子が騒ぎ出す。

「あ、愛依!?どうしたんですか!」

見ると・・・愛依の額辺りから血が流れ出していた。

「お、おお!?愛依、動くな!」

「へ?・・・わわわわ!?こんなに血が出てる!?」

本人までパニックになる。・・・さっきの頭突きの時か。俺は愛依の前髪を上げ、回復譜術を唱える。

「あ、ありがとう・・・」

「まったく、心臓に悪い・・・」

「ご、ごめん・・・」


とにかく、回復したユニセロスと話す。

「・・・“障気”“嫌い”・・・“近づいてきた”」

「サキ、ユニセロスはなんて?」

「ユニセロスは障気が嫌いなんだと。そんで障気が近づいてきて、苛ついて思わず襲ったんだと」

「障気?この辺に障気なんて出ていないぜ」

「・・・待ってくれ。・・・え!?」

ユニセロスの言葉を聞いて驚く。

「・・・ティアが大量の障気を吸ってるって」

「!」

「思い当たる節があるのですか?」

「い、いえ・・・」

「・・・」

「よくわからないな。ティアが魔界生まれだってことに関係してるのか?」

ユニセロスは鳴きながらその場を去っていく。

「・・・“傷を治してくれてありがとう”だってさ」

「そう・・・」

そしてイオンに封印を解いてもらい、パッセージリングに到着する。

「んじゃ、やるか」

そのまま計測を終え、ついでに一編に降下が終わるようにルークに操作してもらう。

「じゃあ、シェリダンに向かおう」

俺達はシェリダンに向かう。・・・完成してればいいんだけど・・・ 
 

 
後書き
サキ
「愛依・・・いや、なんか椿以上に目立ってね?」

リョウ
「作者がなんか愛依にハマったらしい。自分で作ったキャラでツボるなよな・・・」

サキ
「作者の好みは緩いツンデレだからな」

リョウ
「なんじゃそりゃ」

サキ
「普段強気だけど、内面は凄く乙女チックな感じ。他にも真面目系クーデレ系・・・あた!?」

リョウ
「突如飛来した何かが咲に激突した!?」

サキ
「く・・・発言の修正力か・・・」

リョウ
「・・・なんか咲って厨二臭いのな」

サキ
「な・・・!」

リョウ
「それじゃ、次回の続・真似と開閉と世界旅行!」

サキ
「次回も・・・よろしく」

 

 

和平に向けて~

 
前書き
アビス・・・グレイセス以上に長いぜ・・・ではどうぞ。 

 
俺達はシェリダンにて、計測結果をイエモンさん達に渡す。・・・話を聞くには地核停止にはタルタロスを使うらしい。確かに、タルタロスは魔界に落ちても壊れなかったし、何より人殺しの兵器が人のために役立てるのはいいことだ。俺達はその時間潰しに外に出た・・・時、ルークが話してきた。

「なあ、ちょっといいか?」

「どうしたの?」

「ずっと考えてたんだけど、大陸の降下のこと、俺達だけで進めていいのかな?」

「どういうことだ?」

知也が尋ねる。・・・彼はかなり途中参加だったから解りにくいこともあるのだろう。

「世界の仕組みが変わる重要なことだろ。やっぱり伯父上とかピオニー皇帝にちゃんと事情を説明して協力しあうべきなんじゃないかって」

その言葉に返事をしたのは、やはりというべきか・・・ナタリアだった。

「・・・ですが、そのためにはバチカルへ行かなくてはなりませんわ」

「行くべきなんだ」

「ルーク・・・」

「街のみんなは命がけで俺達を・・・ナタリアを助けてくれた。今度は俺達がみんなを助ける番だ。ちゃんと伯父上を説得して、うやむやになっちまった平和条約を結ぼう。それでキムラスカもマルクトもダアトも協力しあって、外殻を降下させるべきなんじゃないか?」

「(・・・成長してるな)」

ルークの変わりようには驚かされる。

「ルーク・・・!ええ、その通りだわ」

「・・・少しだけ、考えさせて下さい。それが一番なのはわかっています。でもまだ怖い。お父様が私を・・・拒絶なさったこと・・・ごめんなさい」

ナタリアが去っていく。

「仕方ない。ナタリアが決心してくれるまで待つしかありませんね」

俺達は宿屋に向かう。・・・そして、相変わらず眠れずに寝返りを打ったとき・・・ルークが宿から出ていくのがわかった。

「・・・?」

怪訝に思いながら後を追いかけると、そこに、ナタリアとアッシュを見ているルークがいた。

「・・・盗み聞きか?」

「さ、サキ?」

アッシュが何かナタリアに伝え、去っていく。

「俺・・・帰るよ」

「ああ。そうだな」

宿屋に戻ると・・・ティアが立っていた。

「・・・立ち聞きはよくないわ」

「・・・俺は空気を読んで部屋に戻るかな。じゃな、お二人さん」



そして夜が更け、みんなが集まる。

「・・・ごめんなさい。私、気弱でしたわね」

「では、バチカルへ行くのですね?」

イオンが尋ねる。

「ええ。王女として・・・いいえ、キムラスカの人間として、できることをやりますわ」

「そうこないとな」

・・・ジェイドも色々根回しをしてくれて、問題点などを解決するには両国の同盟が必要だ。・・・さあ行こう。バチカルへ。



























































































「ナタリア殿下・・・!お戻りになるとは・・・覚悟はよろしいのでしょうな!」

城の前に立つ兵士が武器を構えるが・・・

「待ちなさい」

イオンが前に出る。

「私はローレライ教団導師イオン。インゴベルト六世陛下に謁見を申し入れる」

「・・・は、はっ!」

「連れのものは等しく私の友人であり、ダアトがその身柄を保証する方々。無礼な振る舞いをすれば、ダアトはキムラスカに対し今後一切の預言は詠まないだろう」

「導師イオンのご命令です。道を開けなさい」

アニスが言うと兵が立ち退く。

「・・・導師様が脅迫か?」

俺が笑いながら言うと、イオンも笑みを返してくる。

「非常時ですので」

「く、くくく・・・」

また余計な邪魔が・・・いや、その邪魔を成敗するためにもインゴベルト陛下の元に急ぐ。


「お父様!」

「ナタリア!!」

「へ、兵達はなにを・・・」

「伯父上!ここに兵は必要ない筈です。ナタリアはあなたの娘だ!」

「・・・わ、私の娘はとうに亡くなった・・・」

「この・・・!」

俺が踏み出そうとした時、愛依が俺を止めた。・・・それと同時にルークが叫んだ。

「違う!ここにいるナタリアがあなたの娘だ!十七年の記憶がそう言ってる筈です!」

「ルーク・・・」

「・・・へ。お前の受け売りだけどな」

ルークはティアを見て笑う。

「記憶・・・」

「突然誰かに本当の娘じゃないって言われても、それまでの記憶は変わらない・・・親子の思いでは二人だけのものだ!」

「・・・そんなことはわかっている。わかっているのだ!」

「だったら!」

「いいのです、ルーク」

ナタリアが迷いを捨てた目でインゴベルト陛下を見る。

「お父様・・・いえ、陛下。私を罪人とおっしゃるならそれもいいでしょう。ですが、どうかこれ以上マルクトと争うのはおやめ下さい」

「あなた方がどのような思惑でアクゼリュスへ使者を送ったのか、私は聞きません。知りたくもない。ですが私は、ピオニー九世陛下から和平の使者を任されました。私に対する信をあなた方の為に損なうつもりはありません」

イオンが言うと・・・そこにジェイドが付け足す。

「恐れながら陛下。年若い者に畳み掛けられては、ご自身の矜持が許さないでしょう。後日改めて陛下の意思を伺いたく思います」

「ジェイド!」

「兵を伏せられたらどうするんだ!」

ルークとガイが非難するが・・・

「その時は、この街の市民が陛下の敵になるだけですよ。先だっての処刑騒ぎのようにね。しかもここには導師イオンがいる。いくら大詠師モースが控えていても、導師の命が失われれば、ダアトがどう動くかお分かりでしょう」

「・・・私を脅すか。死霊使いジェイド」

「この死霊使いが、周囲に一切の工作なく、このような場所へ飛び込んでくるとお思いですか」


ジェイドが陛下に近づき・・・膝をつく。

「この書状に、今世界へ訪れようとしている危機についてまとめてあります」

「・・・これを読んだ上で、明日謁見の間にて改めて話をする。それでよいな?」

「伯父上、信じています」

「失礼致します・・・陛下」

俺達は街の宿屋に向かう。・・・ちなみに、あのジェイドの脅しはハッタリだ。















「なあ、愛依」

「なに?」

「さっき俺を止めたけど・・・」

「あ・・・うん。なんかさ、あそこは口挟まない方がいいかなって」

「・・・そうか」

「親子の記憶か・・・アタシにも・・・あるのかな。アタシは・・・父さんと母さんを・・・」

「あります」

「撫子・・・」

「愛依の母は愛依が大切だから守った。父はあなたを愛していたから死ぬ間際まで笑っていた。・・・愛依は・・・きっと愛されていましたよ」

「・・・!」

「そう言う意味でも“愛依”って名付けたんじゃないでしょうか。・・・よっぽど子煩悩だったんでしょうね」

「う・・・そう、かも」

「それに」

撫子が愛依を見上げる。

「愛依には私達がいます」

「・・・撫子」

「咲さんも黒羽さんも知也さんも・・・そして私がいます」

「そうだね・・・あーあ、アタシっていっつも支えられてばっか。・・・ここにいるみんなには、何をされても文句は言えない位酷いことをしたのに・・・」

「それは気にしてません」

黒羽や知也も口を挟む。

「むしろベクトル操作を破ったんに感心してるよ」

「俺もお前の友達の腕撃ち抜いちまってるしなぁ・・・それに、お前自身にはなんも被害を受けてないし」

「・・・俺は前にも言ったけど、感謝している。確かに原因を作ったのは愛依だけど、恋を殺したのは俺だ。・・・俺は・・・恋に恨まれていても・・・てぇ!?」

知也に頭を叩かれる。

「あのな、剛鬼が聞いたらキレるぜ?・・・最後に恋は何て言ってたんだよ」

「あ・・・」

『咲・・・大、好・・・き・・・・・・』


「・・・」

恋の言葉が脳裏に蘇る。

「・・・本当に恨んでんならそんなことは言わねーよ」

「ああ・・・そうだな」

「明日に響くし、そろそろ寝よう」

黒羽が言って、その場はお開きになった。そして翌日・・・

「そちらの書状、確かに目を通した。第六譜石に詠まれた預言とそちらの主張は食い違うようだが?」

「預言はもう役に立ちません。俺・・・私が生まれたことで預言は狂い始めました」

「・・・レプリカ、か」

「お父様!もはや預言にすがっても繁栄は得られません!今こそ上に立つ者の手腕が必要なのです。この時の為に私達王族がいるのではありませんか?少なくとも、預言にあぐらをかいて贅沢に暮らすことが王族の務めではない筈です!」

「・・・私に何をしろと言うのだ」

「マルクトと平和条約を結び、外殻を魔界に降ろすことを許可していただきたいんです」

「なんということを!マルクト帝国は長年の敵国、そのようなことを申すとはやはり売国奴どもよ」

アルバインが言い、モースも続ける。

「騙されてはなりませんぞ、陛下。貴奴ら、マルクトに鼻薬でも嗅がされたのでしょう。所詮は王家の血を引かぬ偽物の戯言・・・」

そこでイオンが怒りの声を出した。

「黙りなさい。血統だけにこだわる愚か者」

「生まれながらの王女はいませんよ」

俺はあの世界の・・・あの能天気な蜀王を思い出す。

「そうだ。民・・・いや、この世に生きる全ての者の為に努力した奴が王族と呼ばれるに相応しい品格や・・・力を得られるんだ」

「・・・サキの言うような品性が私にあるのかはわかりません。でも私は、お父様のお傍で十七年間育てられました。その年月にかけて私は誇りを持って宣言しますわ」

ナタリアはその言葉を口にする。

「私はこの国とお父様を愛するが故にマルクトとの平和と大地の降下をのぞんでいるのです」

「・・・よかろう」

その言葉に俺達は驚く。

「伯父上!本当ですか!」

「なりません、陛下!」

「こ奴らの戯言など・・・!」

「黙れ!我が娘の言葉を戯言などと愚弄するな!」

「・・・お父・・・様・・・」

「・・・ナタリア。お前は私が忘れていた国を憂う気持ちを思い出させてくれた」

「お父様、私は・・・王女でなかったことより、お父様の娘でないことの方が・・・辛かった」

「・・・確かにお前は、私の血を引いてはいないかも知れぬ。だが・・・お前と過ごした時間は・・・お前が私を父と呼んでくれた瞬間のことは・・・忘れられぬ」

「お父様・・・!」

ナタリアはインゴベルト陛下に抱きつき、泣き出す。そして、しばらくして・・・

「よかったな、ナタリア」

「いーや、まだまだこれからだぜ。もう一回、親子のやり直しをするんだからな」

ガイの言葉にナタリアは頷く。

「・・・そうですわね。何も知らなかった頃には戻れませんもの」


「・・・モースの野郎は?」

俺が聞くとイオンが答える。

「ダアトに引き上げたようですね。一先ず動くことはないと思いますが」

「ダアトに・・・」

・・・次に向かうはマルクトだ。多分、ピオニー陛下ならすぐに同盟を結んでくれるだろう。


「・・・そうか、ようやくキムラスカが会談をする気になったか」

ピオニー陛下が息を吐く。

「キムラスカ・ランバルディア王国を代表してお願いします。我が国の狼藉をお許しください。そしてどうか改めて平和条約の・・・」

「ちょっと待った。自分の立場を忘れてないか?」

「・・・?」

「あなたがそう言ってはキムラスカ王国が頭を下げたことになる。・・・止めないのも人が悪いな、ジェイド」

「おや、バレてましたか」

「ここはルグニカ平野戦の終戦会議という名目にしておこう。で、どこで会談する?」

「本来ならダアトなのでしょうが・・・」

「今はマズイですね。モースの息のかかっていない場所が望ましいです」

「ユリアシティはどうかな、ティア」

「え?でも魔界よ?いいの?」

「むしろ魔界の状況を知ってもらった方がいいよ。外殻を降ろす先は魔界なんだから」

・・・となると飛行譜石が必要だ。ディストに奪われたが・・・ダアトに置いてあればいいんだが・・・












































「ダアト・・・か」

その時、何かが飛んできてアニスの後頭部に直撃した。

「いったーい!誰だ、ボケぇっ!?」

「・・・アニスさん、口調が凄いことになってますよ・・・」

ルークがアニスに当たった何かを拾う。

「手紙だ。これは・・・ディストからだ!」

「なんて書いてあるんですか?」

「憎きジェイド一味へ」

「まあ、いつの間にかジェイド一味にされていますわ」

「飛行譜石は、私がーーーこの華麗なる薔薇のディスト様が預かっている。返して欲しくば、我らの誓いの場所へ来い。そこで真の決着をつけるのだ。怖いだろう、そうだろう。だが怖じ気づこうとも、ここに来なければ飛行譜石は手に入らない。あれはダアトにはないのだ。絶対ダアトにないから早く来い!六神将・薔薇のディスト。・・・なんかいかにもダアトにあるって手紙だな。アホだろ、こいつ」

「大佐、どうします?」

「ほっときましょう。ルークの言う通り、飛行譜石はダアトにありますよ」

「ですが、ディストは僕達に・・・」

「約束の場所というのは多分、ケテルブルクです。放っておけば待ちくたびれて凍り付きますよ」

「・・・少しだけ可哀想だと思った・・・」

「奇遇ですね、黒羽さん・・・私もです」

・・・まあ、結論から言えば飛行譜石はさしたる被害も受けずに回収できた。そして、どちらの国にも属さないケセドニアからもアスターを会談に参加させたいとイオンが言ったので俺達は復活したアルビオールでケセドニアに向かう。

「・・・う」

いきなり愛依が立ち止まり、頭を抑える。

「愛依?どうした?」

「何でも・・・ない」

愛依は軽く頭を振って俺を見る。

「・・・ちょっと散歩してくるよ」

「・・・ついていこうか?」

「・・・う、ううん・・・一人で平気・・・」

愛依はそう言ってふらふらと歩いていく。

「・・・咲さん」

「ああ、頼む」

「・・・はい」

撫子が愛依の後を追う。・・・声、だよな・・・


「(俺は・・・あいつの傍にいてやれないのか・・・)」

愛依は撫子やリパルに任せよう。





























愛依~

・・・アスターさんにも説明したけど・・・ノエルさんが両陛下をユリアシティに連れていくために、アルビオールは外殻に行ったので、一晩泊まることになった。・・・夜になって、こっそりとアタシはリパルを持って砂漠に出る。

「リパル、起きて」

『・・・?・・・え!?』

リパルが驚く。・・・そりゃそうか。

『な、なんで一人で砂漠に出てるッスか!?魔物が・・・』

「わかってるよ。・・・でも、少しでもリパルを扱えるようにならないと」

『でも・・・!』

「危なくなったらちゃんと逃げるよ」

『・・・!』

「それに・・・問答してる暇はなくなったよ」

魔物が迫ってくる。

「行こう。まずは・・・方天画戟から」

アタシはリパルを握りしめ、走り出す。

「やぁぁぁぁ!!」

ズバァァン!

魔物が一撃で吹き飛ぶ。

『右ッス!』

「OK!」

遠心力を利用して迫ってきた魔物を切り裂く。

「・・・リパルサー!」

『了解ッス!』

ダークリパルサーとハンドアックスに変形させる。

ガキン!

魔物の一撃を受け止め、空いているダークリパルサーで魔物を打ち倒す。

「・・・リパル・・・鎌!」

『・・・はいッス!』

鎌に変形させるが・・・やっぱり刃が安定しない。

「くっ・・・そ!」

魔物に向かって振るが、そういう時に限って刃が短くなり、空振る。

「やばっ・・・!」

魔物の口から吐き出された液体が着ていたローブにかする。

ピキ・・・

「えっ!?」

液体に当たった部分から石に変わっていく。

「うわわわ!?」

慌ててローブを脱ぎ捨てる。

『愛依さん!前!』

「え・・・わあっ!?」

ガキャアアンッ!

鎌が弾かれ、宙を舞う。

「この・・・!」

すぐに拾おうとするが・・・

バシィ!

「・・・へ?」

両手と両足に・・・魔物の触手が絡まった。

「わああぁぁぁーーーーー!?」



そのまま空中に持ち上げられる。

「た、高い怖いキモい!?降ろして降ろして降ろしてーーーー!?」

すると魔物の口が開き、ゆっくりとアタシの身体が近づいていく。

「た、確かに降ろしてって言ったけどぉぉぉ!?」

『愛依さん!?』

「り、リパル!?アタシ・・・ど、どうなっちゃうの!?」

『み、見たところ牙の類いはないッスから・・・多分、丸飲みされて消化されるかと・・・』

「・・・あわ、あわわわわわ・・・!」

こうなったらダメージがあるかも知れないけど・・・光線を・・・!

「(・・・でも)」

もし飛ばした先が戦う力を持たない人がいる世界だったら・・・

「・・・!」

じゃあ、闇を使うしか・・・!


「・・・まったく、何やってんだよ」

誰かの声が聞こえた瞬間、魔物が火に包まれる。・・・アタシは・・・

「ふぎゃ!」

頭から砂に落ちる。・・・頭を振りながら見たのは・・・

「大丈夫か?」

「黒・・・羽」

アタシの目に涙が溜まる。

「お、おい「怖かったよお!!」おうわっ!?」

アタシは黒羽に抱き着く。

「食べられるかと思ったぁ・・・うわぁぁぁぁん!」

「わか・・・分かったから離れてくれ!その・・・当たってるから・・・」




~~十分後~~

「・・・落ち着いたか?」

「・・・はい」

アタシは宿屋の一室で正座していた。

「えっ、と・・・」

「まったく、俺が気づいたからよかったものの・・・」

「う・・・ごめん」

「それにいきなり抱き着くか普通」

黒羽はぼそぼそと「シィや撫子に知られたらなんて言われるか・・・ブツブツ」とぼやいている。

「・・・あ、黒羽・・・助けてくれてありがとう」

お礼を言うと黒羽は頭を掻く。

「まぁ・・・撫子の友達だからな・・・俺もお前を“友達”だと思ってるんだが・・・」

「え・・・」

「友達なら助け合いは普通、だろ?」

「う、うん・・・そうだね」

「・・・もういい。咲や撫子には内緒にしといてやるから早く寝ろよ」

「あ、うん・・・ッ!?」

立ち上がろうとしてその場で停止する。

「どうした?」

「足・・・痺れたぁ・・・」

・・・結局、黒羽に運ばれて眠りにつく。・・・次の日、ローブを脱いでたのを忘れてて、咲達に服装を暴露することになったのは別の話・・・







 
 

 
後書き
サキ
「よかったな、ナタリア」

ナタリア
「ええ・・・凄く嬉しかったですわ・・・」

サキ
「陛下もやっぱり父親なんだな」

ナタリア
「サキは子が出来たらきっと親バカになりますわね」

サキ
「・・・う」


ナタリア
「ふふ」

サキ
「そういうナタリアも将来はアッシュとかい?」

ナタリア
「な、何を仰いますの!?」

サキ
「仲良さそーに話してたもんなぁ?」

ナタリア
「・・・あなた、自分の立場が分かっていまして?」←王族

サキ
「・・・調子乗ってました。すみません」←使用人



ナタリア
「わかればよろしいのです」

サキ
「うぅ・・・それじゃ、次回の続・真似と開閉と世界旅行・・・」

ナタリア
「次回もよろしくお願い致します」

 

 

会議~

 
前書き
台風がやかましい・・・ではどうぞ。 

 
・・・俺達はユリアシティにて会議を始める。

「・・・では、この書類にお二人の署名を」

テオドーロさんが出した書類に両陛下が名を書き込む。

「結構です。それではこれをもって平和条約の締結と致します」

「・・・ちょっと待った」

それに異議を立てたのは・・・

「おい、ガイ!」

「悪いな、ルーク。大事なことなんだ。少し黙ってろ」

ガイがインゴベルト陛下を睨む。

「同じような取り決めがホド戦争の直後にもあったよな。今度は守れるのか」

「ホドの時とは違う。あれは預言による繁栄を我が国にもたらすため・・・」

「そんなことの為にホドを消滅させたのか!あそこにはキムラスカ人もいたんだぞ。俺の母親みたいにな」

そしてガイは・・・刀をインゴベルト陛下に突きつける。・・・ガイが少し手を引けば簡単に首が飛ぶだろう。

「ガイ!何をするのです!」

「お前の母親・・・?」

「ユージェニー・セシル。あんたが和平の証としてガルディオス伯爵家に嫁がせた人だ。忘れたとは言わせないぜ」

その時、ファブレ公爵が立ち上がる。

「・・・ガイ、復讐の為に来たのなら、私を刺しなさい。ガルディオス伯爵夫人を手にかけたのは私だ。あの方がマルクト攻略の手引きをしなかったのでな」

「父上!本当に・・・」

「戦争だったのだ。勝つ為なら何でもする」

・・・その言葉を聞いて俺は歯を食い縛る。・・・反論ができない。

「・・・お前を亡き者にすることでルグニカ平野の戦いを発生させたようにな」

「母上はまだいい。何もかもご存知で嫁がれたのだから。だがホドを消滅させてまで、他の者を巻き込む必要があったのか!?」

するとピオニー陛下が口を挟む。

「剣を向けるならこっちの方かもしれないぞ。ガイラルディア・ガラン」

「・・・陛下?」

「どうせいずれわかることだ。ホドはキムラスカが消滅させた訳ではない。自滅した。ーーーーいや、我々が消したのだ」

それにはティアが困惑する。

「・・・どういうこと!」

「ホドではフォミクリーの研究が行われていた。そうだな、ジェイド?」

「戦争が始まるということで、ホドで行われていた譜術実験は全て引き上げました。しかしフォミクリーに関しては時間がなかった」

「前皇帝・・・俺の父は、ホドごとキムラスカ軍を消滅させる決定をした」

「当時のフォミクリー被験者を装置に繋ぎ、人為的に超震動を起こしたと聞いています」

「それで・・・ホドは消滅したのか・・・」

「父はこれをキムラスカの仕業として、国内の反戦論を揉み消した」

愛依が顔を伏せる。

「そんな・・・被験者の人が可哀想・・・」

「そうですね。当時11歳の子供だったと記録に残っています。ガイ、あなたも顔を合わせているかも知れません」

「俺が?」

「ガルディオス伯爵家に仕える騎士の息子だったそうですよ。確か・・・フェンデ家でしたか」

ティアが目を見開く。

「フェンデ!まさか・・・ヴァンデスデルカ・ムスト・フェンデ!?」

「ティア、知ってるのか?」

「・・・知ってるも何も、フェンデのとこの息子ならお前だって知ってるだろ」

「え?」

「ヴァンだ。ヴァン・グランツ。奴の本名がヴァンデスデルカ・ムスト・フェンデ」


その言葉に全員が驚く。

「そうか、だから封印した生物レプリカをヴァンは知っていたのか・・・」

「ガイ、一先ず剣を収めてはいかがですか?この調子では、ここにいる殆どの人間を殺さなくてはあなたの復讐は終わらない」

イオンが言うとガイはため息を吐きながら刀を収める。

「・・・とうに復讐する気はうせてたんだがね」

・・・その場は解散となり、その翌日、和平条約は無事結ばれた。俺達がやるべきことは、地核の震動を止めること・・・俺達はシェリダンに向かう。

「悪いな、ノエル。あっちこっち休みなく・・・」

ノエルに労いの言葉をかけると、ノエルは俺に笑みを返す。

「いえ、皆さんのお役に立てることが私にとって何よりの幸せですから」

「そっか。でも気を付けてくれよ。ノエルに何かあったら・・・」

「大丈夫です。そうならないようにちゃんと隙を見て休んでますから」

・・・と、会話をしている内にシェリダンに到着する。

「おお。タルタロスの改造は終わったぞい」

「そうか!流石だな」

ルークが言うとイエモンさんが笑う。

「ふぉふぉふぉ。年寄りを舐めるなよ。タルタロスはシェリダン港につけてある」

「あとはオールドラント大海を渡ってアクゼリュス崩落跡へ行くだけさ。そこから近くに突入するんだよ」

「ただ注意点がいくつかあるぞい。作戦中、障気や星の圧力を防ぐたむ、タルタロスは譜術障壁を発動する。これは大変な負荷がかかるのでな。約130時間で消滅してしまう」

「・・・随分半端だな」

・・・とにかく、ここからアクゼリュスまではタルタロスなら5日かかる。つまり地核突入から脱出までは10時間弱しか使えない。・・・譜術障壁は俺達がシェリダンを出た瞬間に狼煙を上げられ、港にいるアストンという人が起動する・・・という段取りだ。・・・とにかく、俺達は準備を整える。

「狼煙が上がりました!」

「港も準備完了のようじゃ。さぁ、見送るぞい」

「行きましょう、ルーク。今は一分一秒が惜しいわ」

「ああ」

俺達は外に出る。・・・すると・・・

「リグレット教官!?」

俺達は神託の盾に囲まれる。

「スピノザも言っていたが、ベルケンドの研究者どもが逃げ込む先はシェリダンだという噂は本当だったか」

「そこをどけ!」

「お前達を行かせる訳にはいかない。地核を静止状態にされては困る。港も神託の盾騎士団が制圧した。むだな抵抗はやめて武器を捨てろ!」

その時、イエモンさんが物陰から飛び出してきた。

「タマラ、やれいっ!」

「あいよ!」

タマラさんが火炎放射器を神託の盾に向けて発射する。

「今じゃ!港へ行けぃっ!」

「けど・・・」

「奴らにタルタロスを沈められたら、あたしらの仕事が無駄になるよ!」

「時間がない!早くせんか!」

「怯むな!狭い街中では死霊使いといえども譜術を使えない!」


俺達は迫る神託の盾兵を倒していく。

「狙い撃つ!」

知也が的確に、一発も逸らさず全て急所を撃ち抜いていく。

「カートリッジロード!燃えろ!」


「操影術!」

黒羽は撫子も頑張るが、いかんせん街の中だ。

「ジェイド!」

「無理です!味方識別(マーキング)のない一般人が多すぎる」

「きゃっ!」

銃弾がナタリアを掠める。それを抑えようとイエモンさんがリグレットに向かうが・・・

「邪魔だっ!」

「ぐおっ!?」

「イエモンさんっ!」

「あたしら年寄りのことより、やるべきことがあるでしょうっ!」

「さっさと・・・いかんかぁっ!!」

「・・・行きましょう!早く!・・・サキ、頼めますか!」

「ああ!」

俺は闇を解放して、Aモードを発動させる。

「シネェッ!!」

高速で立ち塞がる敵のみを爪で切り裂いていく。

「ルークッ!」

俺達は神託の盾に追われながらも逃げ出す。

「ここから先にはいかせん!」

「させるか!タルタロスには俺達の手も入ってるんだ!ルーク様、ナタリア殿下。北の出口が手薄です。そこから・・・ぐあっ!?」

街の人が斬り倒される。あれは・・・もう助からない。

「く、くそっ・・・!」

ルークは拳を握り締めて走り出す。

「無駄だぁ!」


するとシェリダンの女性が兵士を抑える。

「女だからって馬鹿にしないで!」

「危ないですわ!おやめなさい!」

「いいんです!それより時間がありません!早く!」

ナタリアは震える手を抑え、振り返る・・・直後。

ズバァ!

「きゃあっ!?」

「ああっ!?」

・・・その音と悲鳴が何を意味するのか、すぐに分かった。

「な・・・なんてことなの・・・っ!」

だが、止まる訳にはいかない。俺も兵士を蹴散らしながら進む。

「海に落としてやるわっ!」

「ここは俺達が!さあ早く!」

「・・・ごめんなさいっ!」

愛依が涙が溢れそうになるのを堪え、謝罪しながら走り出す。すると今度は・・・キムラスカ兵だ!

「な、何事ですか!?」

「ああ!良く来てくれました!」

「神託の盾が街のみんなを襲ってる!」

「街のみんなを頼みますよ!」

「了解!」

俺達は港へ走る。















































「“め組”と“い組”の最初で最後の共同作品じゃ・・・頼むぞ・・・ルーク・・・」

「坊やたち・・・しっかり・・・ね・・・」




































































「くそ!くそ!くそぉ!」

港に駆け込むと・・・何かの煙が充満していた。

「まずい!姿勢を低くして鼻と口を塞ぎなさい!」

「な、なんだ!?」

「これは譜業の催眠煙幕だわ」

「譜術で吹き飛ばします」

ジェイドが煙を吹き飛ばす。

「ふぅ・・・何とか息ができるな」

「よかった。あんた達まで寝ちまわなくて」

「やっぱり小さい子の方が効きが早いわね」

ヘンケンさん達の仕業らしい。

「神託の盾の連中がタルタロスを盗もうとしやがったんでな」

「奴ら、街にも行ったみたいだけど、タマラ達は・・・」

俺達の表情を見て、ヘンケンさんが顔色を変える。

「まさか・・・!?」

「呑気に立ち話をしていていいのか?」

背後から・・・声と同時に斬撃が俺を襲った。

「がっ・・・」

「咲!?」

「・・・せ、師匠」

「スピノザ・・・!俺達仲間より、神託の盾の味方をするのか・・・」

「・・・わ、わしは・・・わしは・・・」

リグレットが追い付いてくる。

「閣下!?」

「失策だな、リグレット」

「すみません。すぐに奴らを始末しま・・・ぐっ!?」

ジェイドがヴァンの注意が逸れた隙をついて譜術でリグレットを攻撃する。ルークも剣を抜こうとするが・・・

「ルーク!いけません」

「どうして!」

「今、優先するのは地核を静止することです。タルタロスへ行きますよ!」

「・・・くそっ!」

ヴァンの前にヘンケンさんとキャシーさんが立ち塞がる。

「危ないわ!逃げて!」

「そうはいかない。こんな風になったのは、スピノザが俺達“い組”を裏切ったからだ」

「こんな年寄りでも障害物にはなるわ。あなた達はタルタロスへ行きなさい」

「・・・どけ」

「馬鹿もん!どくんじゃ!」

「仲間の失態は仲間である俺達が償う」

「行きなさい!」

「く・・・」

「・・・ルーク!時間がありません!」

「兄さんに追い付かれると作戦が失敗するわ!・・・イエモンさん達の死を無駄にしたいのっ!?」

「わかってる・・・!ごめん・・・ヘンケンさん、キャシーさん、アストンさん・・・!」

俺は知也に支えられながらタルタロスに急ぐ。

「(あの太刀筋・・・どこかで・・・)」

「・・・老人とはいえ、その覚悟や良し」

ズシャア!


「・・・ごめんじゃない・・・ありがとう・・・だろ・・・が・・・」

「・・・そうねぇ・・・あの子達が帰ってきたら・・・言葉の選び方を・・・教えてあげましょう・・・ね・・・」







































































・・・俺達はタルタロスを発進させた。

「・・・なんでぇ・・・?イエモンさん達・・・関係ないのに・・・」

泣きじゃくるアニスの頭に手を載せる。

「私は・・・自分の国民も守ることができなかった・・・」

「・・・俺が非力だったからだ・・・くそぉっ!!」

ルークが涙を流しながら壁を叩く。

「落ち込んでいる暇はないわ。私達には地核を静止させるという仕事が残っているのよ」

ルークがその言葉を聞いてティアの胸ぐらを掴む。

「おまえっ!そんな言い方をしなくてもっ!」

「ここで泣いて悲しんでいても何も始まらないのよ。・・・大佐や黒羽達は作戦準備を進めているわ。それを忘れないで」

ティアがルークの手を払い、室内に入る。

「・・・彼女、瞳が潤んでたな」

「・・・え?」

ガイの言葉にルークが聞き返す。

「爺さん達を殺したのはティアの兄貴だ。この中で一番泣きたい気持ちなのは、誰なんだろうな」

ルークも涙を拭き、ブリッジに向かう。・・・そしてブリッジに入った時・・・アラートが鳴った。

「な、なんだ!?」

「侵入者よ!」

「まさかヴァンか!?」


・・・結局、地核に入ってから侵入者を迎撃することになった。

「咲さん、傷は大丈夫ですか?」

撫子が聞いてくる。

「ああ。Aモードを発動させていたし・・・何より浅かったからな。もう傷もダメージもない」

「そうですか・・・」

「愛依は?」

「少し一人にして欲しいと・・・」

「・・・だよな。あいつ、ずっと強気に振る舞いやがって・・・」

「・・・え・・・」

「演技だよ。アイツはまだ母親や父親のことを引きずってる」

「気づいて・・・たんですか?」

「身内のいざこざであんなすぐに元気になるもんかよ」

「・・・」

撫子が黙ってしまう。

「・・・どうせ愛依に頼まれたんだろ?」

「・・・はい。私は・・・友達などと言っておきながら・・・愛依の・・・」

「んなの気にすんな」

「ですが・・・」

「友達だからってホイホイなんでも解決するもんじゃない。・・・ただ、答えを出しやすいように支えてやることはできる」

「咲さん・・・」

「・・・ほら、地核に到着したみたいだし、早く・・・ぐっ!?」

「咲さ・・・あうっ!?」

身体がぶれるような感覚に襲われ、俺と撫子は床に倒れる。

「まさか・・・これが修正力か・・・」

「ちっ・・・彩雅の奴、こんなんでよく動けたな・・・」

見ると黒羽と知也も倒れていた。世界の・・・修正力?

「イレギュラーを排除しようとする力・・・です」

「それは知ってる・・・けど、俺達には修正力は働かないんじゃ・・・」

「・・・それ、は・・・この世界は・・・」

「サキ、どうしましたか!?」

「大丈夫・・・後から行くから、先に・・・」

「・・・わかりました。時間はありませんよ」

アビスメンバーが走っていく。・・・侵入者がいるなら俺達は邪魔だ。



「みんな・・・平気か」

「揃いも揃って這いつくばってんのを平気とは言えないぜ・・・」

知也が人の揚げ足を取りながらも何とか立ち上がる。

「(連続だけど・・・)」

Aモードを発動、無理矢理立ち上がる。

「みんな!」

愛依が駆け込んでくる。

「愛依・・・無事、なのか・・・?」

「少し身体が重いけど・・・今だけは破壊者で良かったよ」
「そうか・・・なら、みんなを頼む」

「咲は?」

「Aモードを発動したんだ。・・・多少なりとも戦わないと割に合わない」

外に出ると、いきなりガイが吹き飛んできた。

「ガイ!?」

「く・・・」

「弱いねぇ。もう終わり?」

そこにいたのは・・・烈風のシンク。

「シンク・・・!」

俺は空間から大剣を取り出す。

「・・・侵入者ってのはお前か」

よく見るとまともに立っているのはジェイドだけだ。

「ああ、まだいたんだ。・・・何人いても同じだけどね」

「ここにいたらテメエも死ぬぜ」

「構わないよ。アンタ達を道連れに出来れば十分」


こいつ・・・死ぬことに躊躇いがない。

「ウオオオ!」

時間がない。俺は大剣を振りかぶり、突撃する。

「甘いんだよ」

シンクは一撃を避け、蹴りを放つ。

ガッ!

「っつ・・・!」

それを片手で防ぎ、大剣を横薙ぎに払う。

「くそっ!」

シンクは真後ろに跳んで回避するが・・・

「・・・待っていましたよ。タービュランス!」

ジェイドの譜術がシンクを呑み込む。

「く・・・まだまだぁ!」

シンクが煙の中から突っ込んできて、俺の懐に飛び込む。

「昴龍轢破!」

ズガァン!

「あぐ!?」

炎を纏ったアッパーが俺を撃ち抜く。

「受けてみろぉ!空破爆炎弾!」

「ぐあああ!?」

「サキ!」

俺はすぐに立ち上がる。

「はぁ、はぁ・・・」

息が乱れる。身体が重い。視界がボヤける。

「(くそ・・・やっぱし連続は不味かったか・・・)」

俺は頭を振り、大剣を空間に放り込む。

「どうした?もうあきらめたのかい?・・・だったら死になよ!」

シンクが再び突っ込んでくる。そして拳を構えた瞬間・・・俺は一気に力を込め、シンクの真横を通り抜ける。

「なに!?」

「行くぜ!」

闇の力を更に解放する。

「闇の力・・・負の鎖から逃れられるかな?」

黒い魔方陣が浮かび上がる。

「邪悪なる力に打ち勝てるか!ダークネスバインド!!」

ドガァァァァ!!

秘奥義が炸裂し・・・シンクが膝をつく。そしてその拍子に仮面が外れ・・・

「お・・・おまえ・・・」

その顔は・・・

「嘘・・・イオン様が二人・・・!?」


・・・イオンと同じ顔だった。

「・・・くっ」

「やっぱり・・・あなたも導師のレプリカなのですね」

その言葉にガイが反応する。

「おい!あなたも・・・ってどういうことだ!」

「・・・はい。僕は導師イオンの七番目・・・最後のレプリカですから」

「レプリカ!?お前が!?」

「嘘・・・だってイオン様・・・」

「すみませんアニス。僕は誕生して、まだ二年程しか経っていません」

「二年って、私がイオン様付きの導師守護役になった頃・・・まさかアリエッタを解任したのは、あなたに・・・過去の記憶がないから?」

「ええ。あの時、被験者(オリジナル)イオンは病で死に直面していた。でも、跡継ぎがいなかったので、ヴァンとモースがフォミクリーを使用したんです」

「・・・おまえは一番被験者に近い能力を持っていた。ボク達屑と違ってね」

「そんな・・・屑だなんて・・・」

「屑さ。能力が劣化していたから、生きながらザレッホ火山の火口へ投げ捨てられたんだ。ゴミなんだよ・・・代用品にすらならないレプリカなんて・・・」

「・・・そんな!レプリカだろうと俺達は確かに生きてるのに」

「必要とされているレプリカの御託は聞きたくないね」

「そんな風に言わないで。一緒にここを脱出しましょう!僕らは同じじゃないですか!」

イオンが差し出した手を・・・シンクは弾いた。

「違うね」

そのままタルタロスの縁まで下がる。

「ボクが生きているのはヴァンが利用するためだ。結局・・・使い道のある奴だけがお情けで息をしてるってことさ・・・」

シンクはその身を・・・地核に投げ出した。

「あ・・・!」

・・・下を見ても。もう、シンクの姿はなかった。

「・・・イオン様、泣かないでください」

「僕は泣いていませんよ」

「でも涙が・・・」

イオンが目元を指で拭う。

「・・・本当だ」

「兄弟を亡くしたようなものですもの・・・」

「そうか・・・僕は悲しかったんですね・・・泣いたのは生まれて初めてです。そうか・・・そうだったのか・・・僕は大変な思い違いを・・・」

「いけません。もう時間がない!」

「だが、アルビオールが着陸するための譜陣はシンクに消されてるぜ」

「私が描きます。・・・ルーク、ティア。手伝ってください」

俺は息を吐いてAモードを解除・・・した瞬間、身体から力が抜けた。

「咲!?」

愛依が倒れた俺に駆け寄ってくる。

「愛・・・依・・・みんなは・・・」

「大丈夫。ちゃんと運んできたよ」

「そうか・・・ありがとう・・・」

俺は目を閉じる。

「咲・・・?」

「力を・・・使い、すぎた・・・少し・・・休ませて・・・も・・・ら・・・」

俺は眠るように意識を手放した・・・







 
 

 
後書き
サキ
「・・・」


「酷い・・・」

サキ
「俺が弱かったからだ・・・イエモンさん達が・・・くそぉっ!」


「咲さんは悪くありません。それに・・・可哀想」

サキ
「・・・え?」


「ヴァンさんも被害者だったんですよね?」

サキ
「だからって無関係な人を殺して言い分けない」


「そう、ですよね・・・」

サキ
「・・・次回の続・真似と開閉と世界旅行」


「次回も見てください」 

 

事実~

 
前書き
ヤッハー!期末テストが来週だぁー!・・・ではどうぞ。 

 
「く・・・」

目を開く。・・・見慣れない天井だった。

「(・・・ここは・・・)」

身体を起こす。

「・・・」

手を開いたり握ったりする。・・・少し気だるいような・・・

「なるほど・・・」

Aモードのデメリット。それは使用後一定時間の身体能力、及び体内機関の低下。・・・簡単に言えば使用するとAの能力がCに下がるくらいだ。


「咲?」

愛依が部屋に入ってきて・・・叫ぶ。

「みんな!咲が起きた!」

その言葉に外史メンバーが集まる。

「・・・ルーク達は?」

「・・・パッセージリングを操作しに行ったよ。それと」
黒羽から聞いたことは・・・ティアはパッセージリングを起動させると、障気に犯された第七音素を大量に吸収してしまうらしい。・・・一応ベルケンドの医者に診てもらい、ついでに気絶した俺もベルケンドの宿屋に寝かせたらしい。

「ま、連中もまた戻ってくるだろうし、今は休んどけよ」

知也の言葉に頷く。

「ふわ・・・」

「愛依?」

「愛依は付きっきりで咲さんを見てたんですよ」

「ば、撫子!」

「そっか・・・悪いな。愛依も寝ときなよ」

「う・・・うん、わかった・・・」

愛依が部屋から出ていく。

「んじゃ、お言葉に甘えてもう少し休むと・・・」

『随分と余裕ね』

「え・・・」

突如スキマが開き・・・八雲 紫が現れた。

「紫!?」

「久しぶりね、咲」

「久しぶり・・・って一年位顔を見せなかったじゃないかよ」

「・・・亮と似たような質問をしないでちょうだい」

その言葉に反応する。

「亮!?亮に会ったのか!?」

「ええ。そして・・・椿も、ね」

「本当ですか!?」

それには撫子が食いついた。

「本当よ。彼女は・・・リョウコウが逃がしたわね」

「なっ・・・んの馬鹿!何で逃がしてんだよ・・・」


「・・・“声”だろうな」

「“声”・・・あ」
牢屋で愛依が襲ってきた・・・

「紫、あっちの状況はどうなってる?」
「パーティーの一人が治療不可能の重症。そして亞莎が・・・敵方にいるわ」

「・・・!」

こっちと状況はほぼ同じか・・・

「・・・とにかく、貴方にも説明するわ。・・・この出来事の様々な情報を・・・」

俺達は紫に話を聞き・・・色々分かった。破壊者になる条件。黒幕の推測。・・・色々、と。


「・・・」

話を聞き終わった後、誰も口を開かなかった。

「(愛依や椿の世界を壊し・・・破壊者にした?)」

その中でも俺は思考をフル回転させている。

「(何故、あの二人なんだ?破壊者に向いている訳でもない・・・それに・・・)」

頭に何通りもの仮説を建てて同時に推理していく。

「(二人に怨みを持つ者・・・これは違うな。なら、椿か愛依が黒幕で記憶を上書き・・・これも無しだ。だったら・・・)」

「・・・ふざけないでください!」

「ッ!?」

いきなり響いた撫子の怒声で思考が中断される。

「どうして、どうして破壊者なんか必要なんですか!」

「外史の住人とは思えない発言ね」

「おい、撫子・・・」

「黒羽さんは黙っていて下さい。・・・ただ、平和な世界じゃダメなんですか・・・」

「外史はただ“視られる”存在よ。・・・ただの平和ボケした世界なんてすぐ人々の記憶から忘れ去られるわ」

「それは・・・」

「・・・まあ、私も作られた存在だから、そこまで偉そうにはできないけど・・・一つだけ言えるわ」

紫がスキマの中に消えていく。

『貴方達なら・・・きっとハッピーエンドを迎えられるわ・・・』

紫の姿が消える。

「・・・ま、なんつーか。ワケわからんというか」

知也が溜め息を吐きながら言う。

「・・・」

「撫子?」

「少し・・・外を歩いてきます」

「撫子・・・悪い、咲。俺も少し出るよ」

「・・・あー、俺も外の空気を吸ってくるか」

みんなが外に出た後・・・愛依が入ってきた。

「愛依・・・」

「全部・・・聞いちゃった」

愛依が苦笑する。

「・・・行きたいなら、行ってもいいんだぜ?」

「うん・・・そうしたい、けど」

愛依が俯く。

「怖いんだ・・・不安なんだ・・・アタシは椿を守れるのか・・・」

「・・・」

「ずっと・・・怖かったんだ・・・リョウコウや知也に椿がやられそうになった時・・・また、また失うかもしれないって・・・だから、頭の中真っ白になって、気がついたら逃げてて・・・」

「・・・そりゃ、そうさ」

「え?」

「俺だって詠に会う度に呼吸が止まりそうになる。・・・俺も怖がってるんだよ。また・・・この手で大切な人を手に掛けるかもしれない・・・そう思うと、な」

「咲・・・」

「だけど、頑張る。必ずみんな連れ帰る・・・何故なら・・・」

俺は月や詠・・・恋、ねね、霞、華雄・・・みんなの顔を思い浮かべる。

「また・・・あの笑顔を見たいから・・・みんなで幸せに暮らしたいから・・・」


「でも、アタシ達には帰る場所なんて・・・」

「無ければ作ってやる。・・・だから・・・必ず黒幕をぶっ潰す。愛依と椿の世界を壊し、俺達の世界にちょっかい出したクソ野郎をな」

俺は立ち上がる。

「・・・んで、愛依はどうする?」

「・・・まだ、怖いから・・・もうちょっとだけ・・・一緒に行っていいか?」

「当然」

俺は宿を出て空を見上げる。

「これが・・・この景色が全部作られたモノなんだな・・・」

こんなに綺麗な空なのに・・・これ、全部誰かの想像で生まれた世界なんだな・・・

「おい、サキ?」

「へ?」

振り返るとルークが立っていた。

「もう平気なのか?」

「あ、ああ。そっちは?」

「シェリダンのメジオラ高原と、ダアトのザレッホ火山のパッセージリングを操作してきたよ。あと・・・」

ルークから聞いた話は・・・アストンさんが生きてたこと。スピノザが全てに謝罪し、俺達に協力してくれること。残すパッセージリングはケテルブルクのロニール雪山にあるということ。んで、障気を何とかする方法をジェイドの案でスピノザに確認してもらってること。そして・・・ティアがいなくなったこと。

「ど、どういうことだよ?」

「分からない。ベルケンドに来て医者にまた診てもらっている間に・・・どうやらアッシュとワイヨン鏡窟にいったみたいだ」

「じゃあ・・・」

「ああ。すぐに出発する。みんなもうアルビオールに乗ってるよ」

俺は急いでアルビオールに乗り込み・・・ワイヨン鏡窟に到着する。

「何者だ!」

「アッシュ響士・・・いや、レプリカか!」

神託の盾騎士団が構える。・・・更に聞いた話だが、ヴァンと六神将はローレライ教団から行方を眩ましたらしい。それに伴いヴァンを慕っていた神託の盾も半数以上がヴァンの元に流れた。・・・つまり、この間のシェリダン襲撃は完全にヴァンの独断だということだ。

「待て!ヴァン総長は通せと仰っていた。奴らに構わず、作業に戻れ」

「「了解!」」

奥から・・・リグレットがやって来た。

「・・・どういうことだ?」

「言葉の通りだ。ティア達を捜しているのだろう?ここは見逃してやるから先へ進むがいい」

「すんなり通してくれるとはね」

「ヴァン閣下の意思を尊重したまでだ。どうせお前達はロニール雪山へむかうのだろう。その時に決着をつける」

リグレットが去り際に俺を見る。

「ヴァン閣下はまだお前を受け入れても構わないと言っている。・・・アリエッタもお前が仲間になるのを心待ちにしているぞ」

「アリエッタの名前を出せば俺が揺れるとでも?」

「ふっ・・・」

今度こそリグレットは去っていく。

「さあ、奥へ急ぎましょう」

奥へ進むと・・・ティアとアッシュ、それにヴァンがいた。

「・・・迎えが来たようだ。もう行きなさい。アッシュ、お前もだ」

「兄さん!このまま続ければ兄さんの体だって障気でボロボロになってしまうのよ!」

「それは些細なことだ。私は人類がユリアの預言から解放され、生き残る道筋がつくならそれでいい」

「師匠達はこんなところで何を・・・」

「こいつらはベルケンドを放棄して新しい研究場所へ移動するつもりなんだよ」

「師匠!どうしてレプリカ世界に拘るんだ」

「フォミクリーは大量の第七音素を消費する。この星全体をレプリカ化するには世界中の第七音素をかき集めても足りませんよ」

「こいつは地核の莫大な第七音素を・・・ローレライを利用するつもりなんだ」

アッシュが言うとヴァンが微笑する。

「地核の振動が激しくなれば、プラネットストームが強まり、第七音素の供給量も増す。お前達はそれを止めてしまったがな」

「だから地核の静止を嫌がったのか・・・」

「フォミクリーは不完全です。しくじれば、すぐに消滅するようなレプリカが生まれる」

「それは第七音素がレプリカから解離するために起きる現象だ。解離を止めればレプリカは消えぬ」

「無理です。そもそも音素は同じ属性同士で引き合う。第七音素も同じだ。物質から解離してプラネットストームへ戻っていく」

・・・ヴァンの目的はローレライの消滅らしい。そうすれば余剰な第七音素が消え、音素が解離する心配もなくなる・・・そこまで言ってヴァンは去っていった。俺達は今後の話をする為に近くの・・・シェリダンに寄る。

「ティア、話を聞かせてくれ」

「・・・ごめんなさい。私の体に障気が蓄積されているなら、パッセージリングを使っていた兄さんも同じだと思ったの」

「それで心配になったのか?」

「心配・・・そうね、そうだったのかも知れない」

ティアは・・・ヴァンと戦うことを決意したらしい。話終わった後、ティアの瞳は真っ直ぐだった。とにかく、俺達はケテルブルクに向かうことになった・・・









「ああ・・・またあそこに行くんですね・・・」

撫子が遠い目をしていた。

「あ、そっか。撫子、寒いの嫌いなんだっけ?」

「はい・・・愛依は平気なんですか?」
「うーん・・・今はやばいかも」

「今は?」

「あのローブに闇を通してたから、寒さも遮断してたし・・・何より、アタシ薄着だし・・・」

愛依の服装は下はショートパンツに黒のニーソックスで、上は白いシャツに黒のベストだった。

「・・・確かに雪山にいくには寒いわな」

とにかくネフリーさんに話を聞きに行く。

「お兄さん!丁度良かったわ!」

「どうしたのです?」

「サフィールが街の広場で倒れてそのまま寝込んでしまったのよ」

「サフィール?」

「ディストの本名です」

「へ!?なんでディストがこの街で倒れてんの?」

「お兄さん、サフィールと約束していたんでしょ?彼、うわ言でずっと“ジェイドはまだか”って言ってるわ」

「・・・確か、あいつから手紙を受け取ったよな」

「まあ、律儀にジェイドを待っていたのですね」

「・・・この寒い中を・・・ディストさんに同情します・・・」

「つか、馬鹿だろ」

「ええ、黒羽の言う通り、彼は馬鹿です。しかし丁度いい。叩き起こして、ロニール雪山のことを聞きましょう。奴はどこですか?」

「宿屋に部屋を取って、そこに寝かせているわ」

・・・ついでに憲兵を呼んで俺達はホテルに向かう。


「ジェイド・・・待ってよ・・・むにゃ・・・」

「・・・大佐と夢の中で追い駆けっこしてる」

「さて・・・ちょっと彼からロニール雪山について聞き出します。皆さんは外に出ていて下さい」

そしてしばらくして・・・

「・・・」

「・・・・・・ぎゃーーーーー!!」

『っ!?』

いきなり悲鳴が響き渡った。

「や、やめろ!やめて、死ぬーーー!!」

『・・・』

「ジェイド、ごめんなさーーーーい!!」

・・・数分が経過する。

「地震の影響で雪崩が頻発しているようです。それと、奥の方にかなり強い魔物が住み着いてしまったようですね。魔物達が凶暴化したのもそれが原因でしょう」

ルークがジェイドに尋ねる。

「う、うん。それはわかったけど、さっきの悲鳴・・・」

「ああ、何でもありませんよ。それより、そろそろ行きましょうか」

「う、うん・・・」

「いや・・・どうやら吹雪いてきたし、今日一晩は泊まろう」

「・・・急ぎたいところですが、仕方ありませんね」

その時、コックの格好をした人が走ってきた。

「おお、黒羽くん、撫子ちゃん。居てくれたのか?」

「チーフ?どうしたんですか?」

話を聞いて・・・黒羽が俺を見る。

「・・・どうやらシフトミスで人が誰もいないらしく、しかもこの吹雪だから色々連絡のしようがない・・・から、俺と撫子は食堂に行くよ」

「それでも三人じゃ・・・」

俺は少し笑いながら言う。

「んじゃ、俺も手伝うか?」

「ええ!?」

ルークが驚く。

「何でお前が驚くんだよ・・・料理ならお手のもんだし、接客も問題なしだ。キッチンもホールも何処でも来いだ」

「あ・・・じゃ、じゃあアタシもウェイトレスを手伝うよ」

「本当ですか?助かります」

・・・結局俺と黒羽がキッチンで撫子と愛依が接客をした。結果?愛依はナンパされるわ俺や黒羽は女に間違われるわ撫子はいちゃもんつけられるわで大変だったが・・・とりあえず給料が良かったので全て水に流そうかと思うのであった・・・



 
 

 
後書き
サキ
「くそ・・・なんで女に間違われるかな」

一刀
「間違いなく髪形と顔のせいだろ」

サキ
「髪はともかく・・・」

一刀
「そういやサキって筋肉とか全然ないし・・・なんか細いしな」

サキ
「しょうがないだろ?筋力には闇の力でブーストしてっしよ・・・亮の奴は気を使うってことはそれなりに鍛えてんだろうな」

一刀
「気・・・これか?」←一刀の手に光球が現れる。

サキ
「は?」

一刀
「いや、何時までも後ろにいたらダメだなって思って鍛えてたら・・・自然に気も高まって・・・」

サキ
「・・・本編共通?」

一刀
「ああ」

サキ
「あはは・・・それじゃ、次回の続・真似と開閉と世界旅行!」

一刀
「次回もよろしく」

 

 

更なる葛藤~

 
前書き
今回色々とオリジナル設定が加わります。ではどうぞ。 

 
・・・翌日、天気も安定して・・・ロニール雪山に向かう。

「以前六神将がここに来たときは魔物だけではなく、雪崩で大勢の神託の盾が犠牲になったそうです」

「雪崩は回避しようがないからな」

イオンの言葉にガイが納得する。

「必要以上に大きな物音を立てないように。いいですね」

「ああ」



俺達は雪山を登っていく。その時・・・

「風の音か・・・?」

「まるで女の人が泣いている声みたい」

「なんか怖いよぅ・・・」

「そうですね・・・」

「・・・」

「ジェイド?まさか、ジェイドまで怖いなんて言わねーよな」

「いえ・・・昔のことを思い出しただけです」

「昔のこと?」

俺が聞き返す。

「フフ、この山で亡くなった女性の亡霊の話ですよ。聞きますか?」

「まあ、私はそういうお話大好きですわ」

「以前俺やガイは百物語に付き合わされたな・・・」

「ば、馬鹿馬鹿しい!行きましょう!」

ティアがスタスタと先に進んでいく。

「あれ?おまえ・・・」

「全然怖くないわ。だからとにかく行きましょう!」

・・・そういうティアの声は裏返っていた。

「くくく・・・愛依、平気か・・・って」

「「・・・(ガクガク)」」

・・・愛依と撫子がそれぞれ違う理由で震えていた。

「ぼ、ぼぼぼ亡霊なんて、い、いるわけないだろ・・・」

「あ、愛依の背後に雪おん「いやぁぁぁ!?」なぐあ!?」


愛依が悲鳴と共に繰り出した裏拳にはっ倒された。

「いてて・・・撫子は?」

「さ、寒い・・・です・・・ああ・・・目の前に温かそうな料理が・・・」

「く、黒羽!?撫子が幻影を見出してるぞ!?」

「ああー・・・ななめ45度にチョップをかますと直るぞ」

「撫子は古いテレビかよ」

知也が端から突っ込んでくる。・・・そうお互いに軽口を叩きながら進むと・・・何かの声が聞こえてきた。

「・・・まただ。なんか俺もおっかなくなってきた」

「・・・おかしい。今のは・・・確か・・・」

「・・・ええ。人の声です。気を付けましょう。私達以外に誰かいます」

「六神将・・・か?」

「・・・多分、間違いないと思うわ」

「よし、気を引き締めていこう」

そして、かなり広い場所に出ると、そこに・・・リグレットが跳んできた。


「来たなっ!」

その時、何かがナタリアを吹き飛ばした。

「きゃああ!?」

「ナタリア!?」

見ると・・・ラルゴとアリエッタが立っていた。

「アリエッタ・・・僕は・・・」

アニスがそれを止める。

「イオン様!アリエッタなんかにお話しすることないんです!」

「アニス・・・」

「知らなくていいことだってあるんだから・・・」

俺はナタリアに駆けつけようとしながら・・・殺気を感じて直槍龍牙を取り出す。

ガキャアッ!

「サキィ!」

「詠、か・・・!」

何とか詠を弾き飛ばす。

「ティア。これ以上自分を犠牲にするな!そこまでする価値があるのか?」

「教官。私は兄の極論には着いていけません。それを止めることができない自分も歯痒いけど、止めようともしないあなたも・・・軽蔑します」

「・・・では、もう私も容赦すまい。閣下の敵は殲滅する!」

ナタリアが立ち上がり際にラルゴに矢を放つ。

「ぬ・・・お姫様は城で大人しくしていたらどうだ」

「私を侮辱しないで。私には父の代わりに全てを見届ける義務があるのです」

「・・・父ねぇ。どちらにしても相容れないなら力ずくで止めるしなねぇな!」

「・・・エイ、話した通りサキには手を出すな」

「・・・仕方無いわね。けど、これで少しでも状況が変わらなかったら・・・」

「ああ、その時は覚悟を決める」

それぞれが戦闘を開始する。

「ホーリーランス!」

リグレットの一撃が俺に迫る。

「っ、当たっかよ!」

それを前に転がりながら避け、龍牙を投げる。

ガキン!

リグレットがそれを弾く際に出来る隙を利用し、ベルヴェルクを取り出しながら接近戦に持ち込む。

ガッ!

ゴッ!

ビシィ!

ダン!

お互いに肘や足を叩き込み、隙あらば銃を撃つがそれすらも避ける。

「(この動き・・・“知っている”?)」

ふと思考に意識を回した瞬間、リグレットの回し蹴りが脇に直撃する。

バキッ!

「っ・・・!!」

そのまま転がり、雪にまみれて重くなったマントを脱ぎ捨てる。

「・・・やるな、あれだけ動いて息を乱さないなんて」

「これくらい、団に入ればよくやることだ」

「・・・?」

違和感。俺はベルヴェルクを持ち直し、構える。・・・他のみんなは・・・









「狙い撃つぜ!」

知也がライフルで詠の死角を狙うが・・・詠は振り返り、弾を弾く。

「なっ・・・」

「グレイブ!」

「く、お!」

知也は無理矢理身体を捻り、転がって避ける。

「やぁ!」

「たぁ!」

愛依と撫子が同時に仕掛けるが、詠はそれを冷静に弾いていく。

「リパル!剣行くよ!」

『了解ッス!』

手数を増やすが、それでも詠は怯まない。

「虎牙破斬!」

ガキャンッ!

「っく!?」

「撫子!?」

「余所見なんて随分余裕ね!」

詠が高速で詠唱を終わらせる。

「アイストーネード!!」

「うあああ!?」

愛依が吹き飛び、倒れる。









「・・・くっ」

黒羽やアニスもアリエッタに邪魔をされ、ルークやガイはラルゴに苦戦している。ジェイドやナタリアは援護しようにもアリエッタや詠に妨害されて動けない。

「光よここに来れ・・・レイジレーザー!」

「っと!?」

リグレットから放たれた光線を避ける。

「お返しだ!オプティックバレル!」

「・・・ぐっ!」


不意を突かれたリグレットが地を滑る。

「へ、どうだ!」

「・・・」

リグレットは構えを解き、俺を見る。

「?」

「サキ、離れて!」

そこでティアはナイフを投げるが・・・リグレットは身体を半身傾けただけでそれを避ける。

「狙いが甘いぞ、ティア」

「くっ・・・」

「・・・サキ」

「・・・なんだ?」

「お前は記憶がないんだな?」

「それがどうした」

「なら・・・」

リグレットはそう言って胸元から・・・ネックレスを取り出した。

「これに見覚えがあるか」

「ああ?そんな・・・の・・・?」

あれ・・・?なんで見覚えが・・・あれは、あれは・・・

「そして、お前はペンダントを持っていないか」

それを聞いて俺は空間からペンダントを取り出す。それを見たリグレットの顔が歪む。

「やはり・・・」

「どういうことだ!」

「このネックレスは・・・私の弟が私の誕生日にプレゼントしてくれたものだ」

「・・・!」

「そしてそのペンダントは・・・そのお返しとして、数日遅れの弟への誕生日プレゼントとして渡した物だ・・・」

頭が痛い。次々に何かが頭に響く。

「その、弟は・・・」

「弟は・・・その数日後・・・戦死した」

「え・・・」

「だが、私に届けられたものは弟の鎧と剣だけ・・・そんなもので納得できる筈が無かった」

「ま、待ってくれ・・・」

「その弟の名前は・・・サキ、だ」

「ーーーー!!!」

それを聞いた瞬間、全て・・・失われていた記憶が一瞬でフラッシュバックし、甦る。

「あ、ああ・・・あああ・・・!」

そして・・・リグレットを見て、俺は口にする。

「ジ、ゼル・・・ジゼル・オスロー・・・?」

「・・・やはり、お前だったのか・・・サキ」

「嘘だ・・・俺は、俺は・・・」

「お前はあの時、死の預言が詠まれていた。私は後でそれを知り、預言を滅ぼすことを決意したのだ」

「そん、な・・・リグレットが・・・ジゼル・・・姉貴・・・?」

「サキが・・・教官の弟・・・」

ティアも唖然としている中、リグレット・・・いや、ジゼルが手を差し出してくる。

「サキ、私と共に来い。お前はあんな預言に翻弄されてなお私達の敵になるのか」

「お、俺は・・・」

「サキ!」

その時、辺りが揺れる。

「しまった!今の戦闘で雪崩が・・・!」

「譜歌を・・・!」

「駄目だ!間に合わない!」

「・・・くっ!」

俺はティアを突き飛ばす。

「え・・・!?」

「撫子!頼む!」

「咲さん!?」

「咲!・・・リパル!」

撫子が影を使うのと同時にリパルが飛んできた・・・瞬間、意識が飛ばされた・・・









『ジゼル、お疲れ様』

『ああ、どうだった?』

『姉貴にとことんしごかれたからな。訓練が楽で楽で・・・さっきまで自主練してた』

『なるほど。なら、また空きが出来たら鍛えてあげるわ』

ジゼルの言葉が柔らかくなり、それが気を緩めている時だと俺は知っている。

『・・・あ、あと二ヶ月で姉貴の誕生日か』

『そういえばそうだったわね』

『何か欲しいものとかある?』

『ないわ。サキが祝ってくれるなら、それだけで十分』

『でもなあ・・・よし!姉貴も女なんだから、アクセサリーの類いを少しでも身に付けろよ!』

『・・・やめなさい。私には似合わないわ』

『そんなこと言ってると、婚期逃すよ?』

『な・・・!?』

『はは!それじゃ、ちょっと品定めに行ってきまーす!』

『サキ、待ちなさい!・・・まったく・・・』









『・・・さん!咲さん!』

「う・・・リパ、ル・・・?」

目が覚め、気づく。身体が・・・動かない。

『無理しないで下さいッス』

「俺、は・・・どうな・・・って・・・」

『あの高さから落下して・・・全身、滅茶苦茶ッス・・・』

「・・・」

目を閉じ、状態を確認。落下時に骨の半数以上が砕け、更に内臓も損傷。並みの人間なら即死だが・・・

「(完全回復まで・・・数十分ってとこか・・・)」

生憎、この程度では死ねない。

「は、ははは・・・」

『咲さん・・・?』

「何なんだろうな・・・何なんだろうな・・・畜生・・・」

涙が零れる。

「どんだけ敵を増やせばいいんだよ・・・ああ、そうかそうだったのか。ヴァンの後悔するぞってこのことか・・・アは、アはハハはハはは!」

『咲さん!?正気を・・・』

「正気?正気だぁ?なにが正気だよちょっと何かあればすぐ狂ってるってか?ああそうだよ俺は狂ってるよハハハハハ!」

もう止まらない。色んな感情が混ざりあって暴走してそれが口から次々に溢れ出てくる。

「平和にするとかほざいて!殺して殺して殺し尽くして!そんで平和になったと思ったらぶっ壊されて!それを直そうとしたらまた次々と直さなきゃならない場所が増えて・・・いたちごっこだよ、バカみたいだよなぁ!笑えよ・・・いっそ罵ってくれよ・・・うぅ・・・あああ・・・!」

『・・・何を拗ねてるッスか』

「何だと・・・」

『そんなの子供の駄々じゃないッスか!何としてでも笑顔だけは守るって言ったじゃないッスか!?』

「・・・知ったような口を聞くなぁ!お前に何がわかるんだ!」

『わかる訳ないじゃないッスか!オイラは咲さんじゃないじゃッスから、口で言ってくれないとわからないッスよ!』

「この・・・屁理屈野郎が!」

『屁理屈なのはどっちッスか!』

「リパルだろ!」

『咲さんッス!』

俺はリパルを睨み(多分リパルも睨んでるだろう)・・・しばらくして・・・息を吐いた。

「はぁ・・・ばっかみてー・・・」

『え・・・』

「何なんだかなぁ・・・本当に俺はぐちぐちぐちぐち・・・あはは・・・」

『咲さん・・・』

「悪いな、リパル。・・・でも、なんかスッキリした」

俺は座っていた状態から無理矢理立ち上がる。・・・激痛が走るが、すぐに楽になる。

『オイラも・・・咲さんを弾いてからなんかイライラしてたみたいッス・・・』

「なんだ、じゃあお互い様か」

『咲さんのこと・・・心の底から信じられないことが自分で腹立たしくて・・・』

「それがどうしたよ?」

『え』

「あのな、お前は生まれてまだそんなに経ってないだろ?俺だって恋達の信頼を得るのにも相当時間がかかったんだ」

『でも、オイラは武器ッスよ?武器は主を信じるもの・・・』

「んなもんリパルの価値観だろ?世の中にゃ武器を道具としか見てない奴や武器に振り回される奴だっている。それに・・・俺はお前を武器なんて思っちゃいない」


『そ、そんな・・・』

「勝手に落ち込むな。ちゃんと最後まで聞け」

俺は一回深呼吸をする。

「お前はそうやって笑ったり怒ったり落ち込んだりできる。ただの武器じゃない。俺はお前を人間と同じで見てるし・・・その、あ、相棒だと思ってる」

『え!?』

「んだよその反応・・・そんなに嫌か?」

『い、嫌じゃないッスけど・・・』

「俺はとっくにお前を信用してる。・・・でも、だからってお前が気負うことは何もない。お前はお前なりに俺を信じてくれればいい」

『咲さん・・・』

俺はリパルに手を伸ばす。

「そんじゃ、行こうぜ。・・・みんな心配してるし・・・ってか愛依の奴・・・リパルと話しさせる為にリパルを投げてきたな・・・」

そしてリパルを掴んでも・・・俺の手は弾かれなかった。

『オイラは・・・オイラなりに咲さんを信じてみたいッス』

「・・・そっか」

俺はBモードを発動させ、空を飛ぶ。・・・そういえば・・・六神将の面々はどうなったんだろう・・・近くに血痕は無かったが・・・






































































「あ・・・咲!?」

愛依が真っ先に俺に気づく。

「よっ。・・・何とか生きてたぜ」

・・・その時、ティアが近づいてくる。

「貴方が・・・教官の弟だったなんて・・・」

その言葉に聞いていなかった面々が驚く。

「・・・ああ、記憶もある程度戻ったしな・・・」


「・・・聞かせてもらって・・・いいかしら?」

「・・・」

「・・・ご、ごめんなさい。無神経だったわね」

「・・・いや、いいよ。話す。・・・みんなも聞いてくれ」

俺はジゼルについて話し・・・思い出したくない、サキ・オスローが死んだ日を思い出していく。












































『・・・ふぅ、この調子なら、すぐ帰れるな・・・』

早く帰ってジゼルの誕生日をしっかり祝わないと・・・俺は鎧を脱ぎ、剣を置く。

『・・・ああ、隊長に明日の日程を聞かなきゃな・・・』

俺は用意されているテントから出て、隊長の部屋を目指すが・・・何かおかしい。

『(静かすぎる・・・?)』

その時、殺気を感じてすぐに飛び退る。

ヒュン!

『な、なんだ!?』

『勘の良い奴だ・・・』

そいつは・・・かなり地位の高い神託の盾兵だ。

『な、なにをするんですか!』

『預言に詠まれていた。この部隊は全滅する・・・とな』

『な・・・!?』

『死ね!』

一撃を避けきれず、頬を掠める。

『う、うわ・・・うわあああ!』

俺は走り出す。殺される。怖い。死にたくない。・・・気が付けば、目の前は崖だった。

『ここまでだな』

『く、来るな!』

ガラッ

『・・・!?』

足場が崩れ、俺は崖から落下する。

『(姉貴・・・ごめん・・・!)』

・・・そこで意識が途絶えた・・・



































「・・・後は前話したのと繋がるよ」


「サキは神託の盾騎士団に入ってたのか・・・」

「まあね。・・・なんか変な感じだな」

とりあえず、サキと咲の記憶がバッティングすることはなさそうだ。



「・・・あーーー!!」

「・・・アニス、大声を出すとまた雪崩が起きますよ」

「どうしたんだ?」

「私、サキに会ったことあるかもしれない・・・」

「え?」

「私がちっちゃい時にダアトで迷って・・・」

俺は記憶を辿っていく・・・あ。


「もしかして・・・アーちゃん?」

「アーちゃんぅ?」

ルークが笑いを堪えながら聞き返してくる。

「ん・・・こいつ、なんかの仕事の帰り道で帰れなくなってたんだよ」

「普段行かない場所だったから・・・」

「そんで人形抱えて泣きべそかいてたのを訓練帰りの俺が見つけたんだよ」

あー、あの時は仲間にロリコンの誘拐犯扱いされかかったんだよなぁ・・・

「あ、だからアニスの両親は俺をジロジロ見てたのか」

「普通分からないよ。だってその時と見た目が全然違うもん」

「・・・さて、昔話もいいですが、そろそろイオン様を休ませませんか?」

・・・どうやら俺が落ちている間にパッセージリングは操作し終えたらしいが・・・ヴァンが罠を仕掛けており、記憶粒子が逆流し、地核が再び活性化しようとしているらしい。そこでイオンを休ませてヴァンの元に向かおうとしたが・・・

「アルビオールが飛べない?」

「はい・・・この寒さで機関部が凍りついてしまって・・・復帰には一晩かかってしまうそうです」

「長くケテルブルクに居すぎたか・・・」

ノエルが頭を下げる。

「すみません。必ず明日には万全にします。・・・では、失礼します」

ノエルが走っていく。・・・つまり、一晩フリーだ。

「・・・」

俺は一人、ケテルブルクの景色を眺めていた。


「・・・」

ペンダントを取り出す。その時、、背後から雪を踏む音が聞こえてきた。

「・・・何か用か?ルーク」

「う・・・何で分かったんだよ」

「足音と気配でな?・・・それで?」

「あ、ああ・・・サキがリグレットの弟だったなんてな・・・」

「それに関しちゃ俺が驚いてるよ」

「でも・・・六神将は・・・」

「ああ・・・そうか・・・そうだよな、あの高さだもんな・・・」

みんなは撫子が守ってくれたから無事だった。けど、離れた位置にいた六神将は・・・

「でも、なんでかな」

「?」

「俺は六神将が死んだとは思えないんだ」

「サキ・・・」

「ルークからしちゃ、単なる現実逃避に聞こえるだろうけど・・・」

もしあの場に六神将の誰のかでも遺体なり血痕なりあれば俺はきっと泣き崩れていたかもしれない。・・・けど、俺の間近にいたジゼルの姿すら見えないと言うことは・・・

「明日、勝とうぜ」

「サキ?」

俺は思考を打ち払ってルークにそう言った。

「ああ・・・必ず勝たなきゃな。外殻の人を死なせる訳にはいかないんだ」

「へぇ・・・変わったな」

「な、なんだよ。サキまで・・・」

「前のお前なら利用されてると知ってもヴァンに着いてっただろ」

「まあ、否定はしないけど・・・」

「でも今は対立してる。・・・人間本気で変わりたいって思えば変われるんだな」


「・・・でも、まだまだだよ。俺はまだ全然償えていないから・・・もっと頑張らなきゃいけないんだ」

「・・・くく、まあ頑張れよ。・・・俺も決着がつくまでは付き合ってやるさ」

「・・・そうか、サキも何時かはいなくなっちまうんだよな・・・」

「んな顔すんなよ。・・・さあて、さっさと寝ようぜ」

「あ、ああ」

俺はホテルに向かって歩き出す。

『咲さん・・・やっぱり・・・』

「ああ、姉貴達は死んじゃいない。・・・理屈じゃなくて、なんか分かる」

『そうッスね・・・』

「リパル、明日はコンビ復帰早々にボス戦だが・・・やれるな?」

『当然ッス!とことんやってやるッスよ!』

「はは、頼もしいな。・・・んじゃ、今日は爆睡するとしますか」

ヴァン・・・ジゼルやアリエッタ、それに詠を利用した男・・・

「・・・必ず、ぶっ倒してやる!」

俺は決意を露にして叫んだ・・・


 
 

 
後書き
サキ
「・・・」

ティア
「本当にびっくりね・・・」

サキ
「本来のリグレット・・・ジゼルの弟の名前は“マルセル”なんだけどな。なんか色々都合があって俺を割り込ませたらしい」

ティア
「・・・それで設定が食い違ったりしないのかしら」

サキ
「そんときはそんときだろ」


ティア
「・・・そうね。サキは神託の盾だったのよね?」

サキ
「ま、ね。あんまし長い間じゃなかったけど・・・まあ、楽しかった」

ティア
「教官はどんな人だったの?」

サキ
「そりゃ公私共に厳しい!・・・に見えるけど、結構面倒見がよかったな・・・俺が動きを覚えるまで付き合ってくれたり・・・」

ティア
「私も少し反抗して訓練を休んだのだけど・・・教官、一日ずっと部屋の前で待ってたのよ」

サキ
「うわ、姉貴らしい。・・・多分、ティアが出てくるまでずっといるつもりだったな」

ティア
「きっとそうね・・・」

サキ
「さて、次回で第二部完結(予定!)・・・それでは、次回の続・真似と開閉と世界旅行!」

ティア
「次回また会いましょう」 

 

決戦へ~

 
前書き
二部完結!・・・まあ、テイルズは大体三部構成だったりするので、次回からは第三部です。・・・ではどうぞ。 

 
・・・朝になり、俺達は集合する。

「アルビオールの修理は完了したそうですよ。ノエルは先に港で待っています」

「イオン様、体の方はどうですか?」

「はい。もう大丈夫・・・と言いたいところですが、多分ご一緒しては迷惑がかかると思います」

「そうか・・・」

「では、いよいよですね。ルーク、準備はいいですか?」

「ああ。みんなもいいか?」

「ばっちり♪イオン様の代わりに総長の計画を食い止めちゃうもんね」

「必ず止めて見せますよ」

アニスと撫子が言う。

「・・・そうね。たとえ命を奪うことになっても」

「ティア。それで本当によろしいんですの?」

「・・・ええ」

「ティアがそこまで決心したなら、俺達も覚悟を決めるしかないよな」

「相手に不足なしだ。・・・狙い撃ってやるぜ」

ガイと知也もやる気は十分だ。

「アブソーブゲートからの逆流を止めて外殻大地を降下させる。・・・師匠と戦うことになっても!」

「この勝負、負けられないよな」

「うん。必ず勝とう」

黒羽や愛依も気を引き締める。

「ヴァンの野郎をブチのめす。・・・覚悟は十分だ」

「ミュウも頑張るですの!」

「ははっ。頼むぜミュウ。・・・みんなも頼む」

ルークが息を吸う。

「行こう!アブソーブゲートへ!」

俺達は決戦の場へと向かう。



「すごい音素を感じるですの」

「ここは最大セフィロトの一つ、プラネットストームを生んでいるアブソーブゲートですからね」

「ノエルは一人でここに残るのか。毎度のことだが、心細くはないかい?」

ガイが聞くとノエルはすぐに返事をする。

「ありがとうございます。でも、私なら大丈夫です。私はここで、皆さんのご無事を祈っています。お気をつけて!」

「ありがとう。・・・行ってくるよ!」

俺達はアブソーブゲートの中に入る。

「ここがアブソーブゲート・・・」

ある程度進んだとき、足場がいきなり崩れた。


「はぅあ!?」

「うぉっとと・・・危なかった・・・」

「まさか、外殻が限界に近いんじゃ・・・」

黒羽が言うと撫子は頷く。

「はい。・・・急ぎましょう」


そのままどんどん奥へ進んでいく。


「随分進んだな・・・っ!?」

その時、地面がかなり揺れ始める。

「今度はでかいぞ!」


「気をつけろ、地面が・・・!?」

「きゃあ!?」


俺達が乗っている足場が崩れた。俺は愛依の腕を掴み、咄嗟に近くの足場に手を伸ばす。

「っぐぅっ・・・!?」


「咲!?」

普通の人間ならまず落ちるが、生憎こちらは普通の人間ではない。


「よっ、と・・・」

片手で這い上がり、愛依を引き上げる。

「愛依、平気か?」

「な、なんとか・・・」


愛依は立ち上がり、辺りを見渡す。

「・・・みんなとはぐれちゃったな」

「あいつらなら多分無事だろ。とにかく、先へ進もうぜ」

魔物を倒しながら進んでいく。

「あのさ、咲」

「ん?」

「アタシ・・・ヴァンを倒したら、椿のとこに行くよ」

「・・・そうか」

「うん。・・・止めたり、しない?」

「しないよ。愛依がやりたいようにやればいい。だけど、約束は守れよ」

「約束・・・うん、そうだね。まずは迷惑をかけたりした人にちゃんと謝って・・・」

「ああ」

「償えること全部償ったら・・・椿を連れて咲達と暮らす」

「・・・おっし。それでよし」

『オイラも愛依さんの味方ッスよ』

「ありがとう、リパル。アタシ、咲やリパル・・・撫子や黒羽とも友達になれてよかった・・・」

「友達じゃなくてだなぁ・・・」

『家族ッスよね』

「てめ、人の台詞取るんじゃねえよ!」

「あはは!」



下に降りていくにつれ、どんどん強大な力が近づくのが分かる。

「・・・」

愛依が腕を抑えて震え出す。

「愛依・・・」

「いる・・・近くに、恐い何かが・・・いる」

「・・・きっとヴァンだな。・・・愛依、準備はいいか?」

「当然。・・・ちょっと怖いけどね」

「リパル使うか?」

『確かに、愛依さんならオイラは扱えるッスけど・・・』

「・・・ううん。これで、いい」

愛依が偃月刀を取り出す。

「・・・わかった。リパル、お前もやれるな?」

『何時でもOKッス!』

「それじゃあ・・・行くぜ!」

俺達は光る床に乗り、転送される。

































































「・・・どうやら、一番乗りじゃないみたいだな」

目の前にはヴァンだけではなく、ルークとティアがいた。

「・・・何故お前がここにいる?ここに来るのは私と共に秩序を生み出すべきアッシュ・・・」

ヴァンが振り返る。

「ルーク・被験者だ。私の邪魔をするな、レプリカ風情が」

「・・・っ!だったら・・・だったら何で俺を作った!俺は誰で、なんの為に生まれたっていうんだ!」

ルークが叫ぶが、ヴァンは嘲笑うかのように言う。

「何かの為に生まれなければ生きられないというのか?だからお前はただのレプリカでしかないのだ。哀れなレプリカに教えてやろう。お前はユリアの預言を覆す捨てゴマとして生まれた代用品・・・ただ、それだけだ」

「・・・師匠。本当に俺はそれだけの存在なんですか?俺という存在のせいで、預言は狂い始めてるんでしょう?」

「お前ごとき歪みなど、ユリアの預言はものともせぬよ。枝葉が変わろうと樹の本質は変わらぬ。・・・預言は麻薬だ。東に向かって歩けば大金を拾うだろう・・・そんな預言を実行して、その通りになれば次の預言も信じたくなる。ユリアは二千年をかけて、人類を預言中毒にしてしまった」

ヴァンの言葉が強みを増していく。

「二千年にも及ぶ歪みを矯正するには劇薬が必要だ」

・・・今まで黙っていた俺が口を開く。

「レプリカが劇薬?・・・妄想もそこまでいけば大したもんだな」

「フ・・・妄想・・・それもよかろう」

「確かに預言の言いなりは歪んでいる・・・けどレプリカの世界もかなり歪んでいるってアタシは思う」

「それに、お前はティアと・・・妹と本気で殺りあうつもりなのか?」

「姉と殺しあいを繰り広げたお前がそれを言うか」

「っ・・・」

「メシュティアリカ。私も残念なのだ。お前がユリアシティで大人しくしていれば・・・そうすれば、お前だけは助けてやれたものを」

「兄さんはレプリカの世界を作ろうとしているんでしょう?なら私を殺して私のレプリカを作ればいいわ」


「・・・では、どうあっても私と戦うか」

ティアが杖を構える。

「・・・ええ。元々私はその為に外殻へ来たんだもの」

「師匠・・・いや・・・ヴァン!」

ルークが剣を握り締める。

「あなたが俺を認めなくても、俺は・・・」

そして、長らくルークが愛用してきたカトラスを構える。

「・・・俺だ!」

「戯言を」

ヴァンもゆっくりと剣を引き抜く。

「消えろ!」

・・・来る!

「兄さん!他にやり方はなかったの!?」

「愚か者め。これ以外に預言から解放される手段はない」

「どのみちルークがいる時点で預言は外れてるぜ!」

ガキャンッ!

方天画戟による一撃はヴァンに防がれる。

「その程度で解決できるものか。たがが一人増えただけではさしたる影響もない」

ガァン!

そこに愛依が偃月刀を降り下ろす。

「とにかく、アンタをぶっ潰す!!」

「潰れるのは貴様の方だ!」

ヴァンの足下に輪が拡がる。

「愛依!」

「くっ・・・」

「守護氷槍陣!」

ズバァァン!

「キャアアア!?」

「愛依!?・・・貴様!」

Bモードを発動。その間にルークが斬り込む。

「双牙斬!」

カキャアアン!

「未熟だな」

「まだだ!」

ルークの右手に音素が溜まる。

「魔神拳!」

ズバン!

「なに?」

更にルークの剣に炎が宿る。

「魔王絶炎煌!!」

炎の一撃がヴァンを薙ぎ払った・・・かに見えたが・・・

「まだ甘いな」

ルークの胸元に掌が当てられる。

「絶破烈氷撃!」

「ぐあああ!?」

ルークが吹き飛ぶ。

「ルーク!」

「くそ、ティア!援護頼む!」

「分かったわ!・・・響け壮麗の歌声・・・ーーーー♪」

ティアが譜歌を使うと、俺の身体が軽くなる。・・・身体強化系の譜歌か!

「オラァァァ!!」

グァァン!!

ヴァンを防御ごと押し切る。

「ふっ・・・あの時私の為に働きたいと言っていたお前が私に刃向かうとはな」

「・・・ああ、思い出したくはねぇが・・・そんなこともあった、な!」

横薙ぎに払った方天画戟をヴァンは後ろに跳んで避ける。そして剣を腰元に構え・・・突き出す。

「光龍槍!」

背後にはティアがいる。・・・避けられない!

「ぐ、おおおおお!」

ヴァンの一撃を弾き飛ばす。・・・だが、その一瞬でヴァンに背後に回り込まれる。

ズバァ!

「ぐあっ・・・!?」

「貴様を背後から斬るのはこれで三度目だな」

「三度、目・・・だぁ・・・」

今とシェリダン・・・あと一回は・・・



『アリエッタか?』

ズシャア

『・・・え・・・』

「・・・ッ!」

俺は目を見開く。

「お前だったのか・・・あの時、俺を斬ったのは・・・!」

「貴様が生きていたとは驚いたぞ。・・・あの時はまだリグレットは協力的ではなかったからな。それにアリエッタという思わぬ収穫もあった」


「・・・預言を滅ぼす・・・そんな理由で二人を利用していたのか・・・!」

「そうだ。・・・それに勘違いするな。リグレット達も利用されているのを承知で私に協力していたのだ」


「・・・ふざけるなぁぁぁぁぁ!!」

リパルを鎌に変形させて振るが、ヴァンは軽々と避ける。

「ちぃ・・・!」

「兄さん!」

「遅い。・・・グランドダッシャー!」

ズガァァン!?」

「「あああ!?」」


俺とティアは吹き飛ぶ。

「ぐ・・・ま、まだ・・・」

「滅びよ」

空から光が降り注ぐ。

「ジャッジメント!」

ズガガガガン!!

避けきれず、俺達は光の雨に晒される。

「ナメ・・・るな!」

Aモードを発動、一気に突撃する。


「ラァァァ!!」

「その程度か!」

Aモードのスピードに着いてきやがる・・・!

「では、終りだ」

大きく弾かれ、隙が出来る。

「(こうなったら一撃を貰ってでも・・・)」

そう考えた時、ヴァンの腕から血が吹き出した。

「ぬう・・・!?」

遠くからライフルを構えた知也がやって来る。

「やっと隙を見せてくれたな」

「知也・・・!」

「おのれ・・・」

ヴァンが詠唱しようとした瞬間、黒羽と撫子が飛んできた。

「そこです!」

「隙ありだ!」

二人の飛び蹴りがヴァンを吹き飛ばす。

「愛依!平気ですか!?」


「あ、あはは・・・撫子・・・随分格好いい登場だね・・・」



「ヴァン!」

回復したルークがヴァンに向かって走る。


「図に乗るな!」

しかし簡単に弾かれ、ルークが斬られそうになるが・・・

「真空破斬!」

ズバァァン!

「ガイ!?」

「私もいましてよ!スターストローク!!」

ズシャア!

ナタリアの矢がヴァンの肩を捉える。

「アニスちゃん参上!鷹爪襲撃!」

アニスが上から攻撃を仕掛けるが、ヴァンはギリギリでそれを防ぐ。

「アニス、引きなさい!・・・焔の檻にて焼き尽くせ。イグニートプリズン!」

ジェイドの譜術がヴァンを焼き払う。

「アニス・・・ジェイドも・・・」

「すみません。少々遅くなったようですね」

「遅すぎだ馬鹿。全滅したらどうすんだよ」

「あなた達なら必ず持ちこたえると思っていましたから」

「・・・はっ、よく言うぜ」

俺はリパルをぶん投げる。

『酷いッス~~!?』

ヴァンが弾いた隙に接近、闇を解放する。

「闇の鎖・・・抗えるか!ダークネスバインド!!」

「ぬお・・・」

「ルーク!」

「ああ!・・・うおおおおお!」

ルークが超振動を発動させる。

「これでも・・・喰らえぇぇぇぇ!!」

レイディアント・ハウル。ルークの秘奥義がヴァンに直撃し、ヴァンはふらつきながらも剣を地面に突き刺す。

「失敗作に・・・倒されるとはな・・・ふっふっふ・・・はっはっは・・・面白いでは・・・ないか」

ヴァンは笑いながら・・・その身体を地の底へ投げ出した。


「(・・・終わった・・・?)」


俺はAモードを解除し、その場に座り込む。

「サキ、私達はパッセージリングを操作しに行きます」

「ああ・・・後は任せた」

本来ならラジエイトゲートのパッセージリングも操作しなきゃいけないらしいが、時間がないので、アブソーブゲートのパッセージリングで無理矢理操作するらしい。・・・外史メンバーを残し、みんなが歩いていく。

「・・・」

愛依が一回顔を伏せた後・・・俺達から距離を取る。

「・・・行くのか?」

「・・・うん」

「え・・・どういうこと・・・ですか?」

「ごめんね、撫子。・・・アタシ、椿のとこに行かなきゃ」

「あ・・・」

「そっか・・・寂しく、なるな」

黒羽がそう言うと、愛依の目に涙が溜まる。

「二人とも、こんなアタシと友達になってくれて・・・ありがとう」

「いえ・・・」

「知也も、バチカルで助けてくれてありがとう」

「礼を言われる程じゃねえって」

「リパル、ずっと気を使ってくれて、ありがとう」

『愛依さん・・・』

「咲・・・アタシを許してくれて・・・ありがとう・・・」

「まだ許しちゃいねーよ」

「そうだね・・・ちゃんと帰ってこなきゃね・・・」

愛依の身体がゆっくりと透けていく。

「ありがとう・・・本当に、ありがとう・・・」

愛依の身体が殆ど見えなくなる。

『・・・行って・・・きます・・・!』

そして・・・愛依はこの世界から・・・いなくなった。

「ああ・・・行ってらっしゃい・・・」









































俺は知也の肩を借りてパッセージリングに行くと、ルークが膝をついていた。

「ルーク?どうしました?」

「ローレライが・・・いや、今はいい。それより成功したことをみんなに知らせないと」

「ええ。イオンもノエルも、お父様も・・・きっと心配していますわ」

「兄さん・・・」

「ティア・・・」

「・・・ごめんなさい、ルーク・・・これで・・・よかったのよ」

「わかった。・・・みんな、帰ろう!俺達の大地へ!」

今ここに・・・全ての大地が魔界に降下した・・・・・・

「(頑張れよ、愛依・・・)」


俺がこれからやること・・・それは既に決まっていた・・・







 
 

 
後書き
サキ
「勝った!」

音々音
「勝ったではなく、詠はどうしたのですか!?」

サキ
「あぁ、いや・・・それは・・・」

音々音
「それに恋殿は見つけたのですか?」

サキ
「あ・・・悪い、まだ・・・」

音々音
「怒りのちんきゅーきっく!!」

サキ
「ごはぁ!?」

音々音
「何をやっているですか!ねねは恋殿が心配で心配で・・・」

サキ
「・・・んだよ、俺は心配じゃないってか?・・・はは、なんてな」

音々音
「それは・・・咲殿なら必ず無事に帰って来ると信じているのです。だから、心配する必要はないのです!」

サキ
「ねね・・・ああ、必ず恋と詠を連れて帰るよ」

音々音
「当然なのです!」

サキ
「それじゃ、次回の続・真似と開閉と世界旅行!」

音々音
「次回も見るのですぞー!」

 

 

空白の一年、亮編~

 
前書き
はい、番外編です。咲編も急いで書きたいですが・・・間に合うかな? 

 
・・・とても辛かった時期がある。あれは・・・もう一人の俺達と決着をつけて・・・








「う、ぐぅ・・・!」

「・・・本当にこれ以上動かないか?」

俺の右腕に触れながら音無が聞いてくる。

「っ、ああ・・・っ・・・それどころか、感覚もほとんどねぇよ・・・」


鎌にぶった斬られた訳だしな・・・

「感覚も・・・」

音無が深刻そうに考え込む。

「・・・お、音無先生?・・・もしかして、再起不能?」

俺が聞くと音無はハッとなって首を横に振る。

「いや、クレス達のあの回復薬の効果なら・・・必ず動けるようになる。・・・ユイも今は腕くらいなら動かせるようになってるからな」

「そっか・・・」

日向から聞いた話しだと、やっぱりユイは首から下が動かなかったらしい・・・あと、ゆりから聞いたが、ユイはなんと・・・“日向”ユイになったらしい。・・・これには素直におめでとうと言うべきだろう。

「悪いな、音無先生」

「・・・その音無先生って止めてくれよ」

音無が苦笑しながら言う。

「はは。・・・奏と街を見回ったら?なんだったらお勧めデートポイントも教えて・・・」

「・・・い、いいって。・・・じゃあ、また後でな」

「ああ」

俺は動かない腕をぶら下げながら部屋を出る。

「・・・はぁ」

そんな時、ゆりと遠坂に睨まれながら正座をする士郎と日向がいた。


「・・・何やってんの?」

「あら、大澤くんじゃない」

「・・・んで?この二人は?」

「この二人は事もあろうに女子の更衣室を覗こうとしたのよ。・・・良いことを教えてあげるわ。あたし達と一緒に思春さんと春鈴ちゃんもいたわ」

「ほう・・・」



俺は殺気をみなぎらせて二人を見る。・・・まあ、あの二人は元々目のやり場に困るのだが(そもそも呉の武将はみんな目のやり場に困る)ほとんど下着姿みたいなもんだしな・・・

「ま、待ってくれ亮!俺は日向に騙されたんだ!」

「あ、士郎逃げる気か!?」

「なんでさ!騙したのは事実だろ?」

「・・・というか日向君。あなた嫁がいるのに普通覗きなんてする?」

「こ、心は少年のままなんだよ!ゆ、ゆりっぺだって別に見せるような男も・・・っ!?」

「ば、日向・・・」

・・・俺はゆりを見た。・・・そして居た。・・・般若が。

「日向くぅん・・・?」

その手に鈍く輝くゆりの愛銃が・・・

「ま、待ったゆりっぺ!ここはあの世界じゃねえんだぞ!?一発死んだら即ゲームオーバーだぜ!?」

「大丈夫よぉ・・・」

ゆりがにっこりと微笑む。

「・・・急所は外してあげるから♪」

「・・・ッ!?」

次の瞬間、足が痺れているだろうに日向は全力で走り出した。

「あ!・・・待てコラァァァ!」

更に、その隙をついて士郎がゆっくり逃げるが・・・

「衛宮くん・・・?」

「・・・な、なんでしょうか・・・」

「ちょっと・・・アーチャーの恨みを晴らさせてみる?」

「それって死ねってことですかーーー!?」

士郎も同様に全力で走り出した。・・・遠坂は指に宝石を挟みながら士郎を追いかける。

「・・・元気な奴」

この二人の仲を見たら・・・派手に殺しあいをした両方の親はなんて思うかねぇ・・・

「(いや、どこぞの叔父さんもびっくりだろうな)」

そんなことを考えながら俺は中庭に出る。

「いい天気だな・・・」


そう思いながら歩いていたら・・・

カキン!


「?」

音がした方を見ると・・・


「ガードスキル、ディレイ」

「はぁぁぁ!!」

奏と春鈴が戦っていた。・・・珍しい組み合わせだな。

「・・・大澤くん?」

奏が俺に気づいてハンドソニックを消す。

「春鈴も元気だよな」

「久々の出番ですよ」

「・・・は?」

「ああ、いえ。こちらの事情です。メタですよ」

・・・たまに春鈴が分からなくなる。

「んで?喧嘩って訳じゃないみたいだね」

「ええ、他世界の人と戦える機会なんてそうそうないんで。ちょっと鍛錬に付き合ってもらいました。どうです?亮さ・・・ま、も・・・」

春鈴がそこまで言ってしまった、と言った風に顔をしかめる。・・・普段は明るく振る舞おうとしているが、その実誰かが傷つくのが大嫌いなのだ。

「あはは、気にしないでよ。ま、今日はいいや。・・・それと奏、音無が捜してたよ?」

「そうなの?・・・じゃああたしも捜さないと・・・」

春鈴と別れを告げてから、またぶらつく。

「(やることないんだよなぁ・・・)」

仕事さえもしなくていいと呉王様にも言われたし。・・・いや、それよりも傷は癒えてもダメージがやたら残っているらしい、さすがにクレス達もお手上げらしい。

「(・・・気長にリハビリするか・・・)」

いつか必ずまた動くようになる。・・・そう思って一ヶ月・・・二ヶ月・・・そして三ヶ月目に入っても進歩が見られなく・・・俺は段々と荒み始めてきた・・・


「・・・」

「亮・・・今、空いているか?」

「・・・ああ?なに」

思春が声をかけてくるが、俺はダルそうに思春を見る。

「・・・そんなに睨む必要はないだろう」

「・・・うるさいな。別に睨んでる気はないよ」

「・・・すまない」

思春が申し訳なさそうに謝ってくる。・・・なんで思春に謝らせてんだ、俺は。

「・・・ごめん。今はあんまり・・・一人に、させてくれない?」

「・・・ああ・・・」

思春がそのまま去っていく。・・・俺は左手で壁を叩く。

「何で・・・動かないんだよ・・・!」

俺は外の空気を吸おうと部屋から出た・・・時、丁度蓮華と鉢合わせした。

「「あ・・・」」

俺は蓮華から顔を逸らして去ろうとする。

「ま、待って!」

蓮華が俺の左腕を掴んだ瞬間・・・

「近づくな!」

反射的に腕を振り払えば当然・・・

「きゃ・・・!?」

蓮華がバランスを崩す。俺は咄嗟に手を・・・手を・・・出せなかった。

「うっ・・・!」

蓮華がその場に尻餅をつく。・・・俺の右手は・・・仲間の手すら掴んでやれない・・・

「あ、あ・・・ごめ・・・蓮華・・・俺、そんなつもりじゃ・・・う、うわあああああ!!」

「りょ、亮!?」

俺は絶叫しながらその場から逃げ出した。・・・そして、気がついたら辺りは真っ暗だった。

「ここは・・・何処だっけ?」

少ししたら崖に辿り着き・・・遠くに城が見えた。

「何処まで走ってきたんだよ・・・」

俺は呆れ気味に笑いながら星空を見上げる。

「・・・」

片手が使えないだけで色々日常生活に支障を及ぼす。・・・剣で戦うにしても遠心力で右手がぶらぶらして邪魔で戦えない。俺はただ身体に付いているだけの右腕を見る。

「こんな腕なんか・・・!」

剣を引き抜き、振り上げる。

「・・・ッ!」

そして目を閉じ・・・全力で振り下ろした。

ガキャンッ!

「(・・・ガキャン?)」

ゆっくり目を開くと・・・俺の右腕の手前に、見慣れた刀があった。

「・・・」

ゆっくりと目を持ち主に向けると、真剣な眼差しを俺に向けた・・・明命だった。

「今・・・何をしようとしたのですか」

声を聞いて明命が怒っていることに気づく。・・・何時もの俺ならすぐに謝っただろうが・・・

「・・・明命には関係ないだろ」

「・・・!」

明命が拳を握り締める。

「心配・・・したんですよ。蓮華様から亮が飛び出したと聞いて・・・」

「・・・誰が心配してくれなんて言った?・・・余計なお世話なんだよ」

「う・・・」

・・・なに馬鹿なことを言っているんだよ、俺は。

「私は・・・私は亮が好きだから・・・心配で・・・」

「同情なんてごめんなんだよ・・・!お前なんて・・・お前なんて・・・!」

駄目だ。言うな。勢いに任せるな。

「お前なんて・・・嫌いだ!」

「あ・・・」

・・・なんで、こんな心にも思ってない事を口にしてるんだ。

「・・・そう、ですか」

明命を見ていられなくなり、俺は明命から顔を逸らす。

「・・・じゃあ、亮は私のことはどうでもいいって事ですか・・・?」

「・・・そ、そうだよ」

「・・・わかりました」

明命が俺から離れるのが分かる。・・・そのまま帰ってくれ。頼むから・・・これ以上酷い事を言いたくない。


ガラッ

「・・・え?」

咄嗟に顔を上げると・・・明命が崖っぷちに立っていた。

「ばっ、何を・・・!?」

「私は・・・亮が大切なんです。・・・それなのに亮に拒絶されたら・・・私は生きる意味がありません」

「ま、まっ・・・」

「さようなら」

明命がトン、と地面を蹴った。

「明命っ!!!」

俺は一気に飛び込み、左手で明命の腕を掴み・・・右腕をハンガーのように崖に引っ掛ける。

「ッッッッ!?」

無理矢理二人分の負荷がかかったことで右腕に激痛が走る。

「亮・・・私のことが嫌いなんじゃないのですか?」


「嫌いなのと・・・っ、居なくなって欲しいのは同じじゃないんだよ・・・うぐ、あああ!」


腕、が・・・

「亮、離して下さい。このままじゃ亮まで・・・」

「だったら飛び降りんな!俺が明命を命掛けで助けんの分かってんだろ!」

「嫌いなんでしょう?」

「・・・嘘に、嘘に決まってんだろ!俺は明命が好きなんだよ!ずっと・・・だから嫌いになんて・・・なれる訳ないだろ・・・」


「亮・・・」

俺は右手に力を籠める。動け・・・動け動けこの馬鹿腕!

「ぐ・・・おおおお・・・!」

痛みを無視して身体を引き上げていく。

「明、命・・・早く上に・・・」

「・・・はい!」

明命が上がった直後・・・俺が掴んでいた部分が崩れた。

「な・・・!」

落ちる。気も、魔力を練る時間もない。

「(ここで・・・死ぬ、のか?)」


俺は目を閉じる。

「(結局・・・蓮華や思春・・・明命にも・・・謝れなかったなぁ・・・)」

・・・いつ身体が砕け散るのか?そう思っていた直後、浮遊感を感じた。

「え・・・」

誰かに抱えられた?

「・・・亮、無事ですか?」

「み、明命・・・?」

「はい」

「ど、どうやって・・・」

「崖から駆け降りてきたのです」

「はぁ!?いや、だって元々飛び降りて・・・え?あれ?」

「・・・久しぶりに亮が私のことを好きと言ってくれましたね」

「ま、まさか・・・」

演技・・・?

「元サーヴァントなんですから、ちゃんと着地すれば、飛び降りた位じゃ死にませんよ」

「お、お前なぁ!?」

俺は飛び降りて明命の肩を掴む。

「それに・・・少しだけですけど、動いたじゃないですか」

「・・・あ・・・」

力を入れると指先が少しだけ動く。

「音無さんが言ってました。医学で言う“痛みの連鎖”に近い状態じゃないのか・・・って」

痛みの連鎖・・・何かの漫画で読んだ事がある。怪我や病気は治っているのに、脳が痛みを覚えてしまって、それを普通だと思い込んでしまう・・・って奴か。

「・・・痛みの、連鎖か・・・」

俺は明命を見る。

「・・・ごめんな、俺が・・・馬鹿で・・・」

「いいえ、私は亮のそんなところを含めて好きですから」

「・・・よく恥ずかしげもなくさらっと言えるのな」

「・・・一応、恥ずかしいのです・・・」

「んじゃ、俺も恥ずかしくなるか。・・・俺も、全部受け止めてくれる明命が大好きだよ」

「は、はぅぅ・・・」

しばらく赤面して・・・俺達は城に戻り・・・次の日、俺は全員に謝った。祭さんと雪蓮は酒で許してくれ、軍師ーズは普通に許してくれ、思春と春鈴、蓮華とシャオは一日付き合うことで許してくれて、他世界外史メンバーも様々な条件で許してくれたし・・・明命はとっくに許してくれた。・・・その、口付けをするていう条件で・・・ごほん!とにかく、この後は亞莎が作ってくれたリハビリ道具や、蓮華が幻想郷の八意 永琳から貰った万能薬をくれたり・・・その結果、祭りまでに腕は動くようになった。・・・この一連の出来事は、みんなの・・・仲間の有り難みを改めて知る出来事になった・・・









「・・・て事だよ」

「おうおう、いいねぇ少ね「少年言うな」おおっとぉ」


リョウコウが手を挙げて笑う。

「へぇ・・・そんな事があったんだね」

「通りでいきなり亮さんが元気になったと思いました」

シィとユエがうんうんと頷く。

「くそ、なんでこんなこと話さなきゃならないんだ・・・」

〈亮がリョウコウに負けたからだよね〉

「ぐっ・・・」

そう、リョウコウが『手合わせしねぇか?』・・・と言ってきて、やって来たシィ達が負けたら負けた方に秘密の話をさせる・・・それでノリノリになったリョウコウと負けるわけにはいかないと堅くなった俺・・・勝敗は明らかだった。そして話す内容はみんなが書いた紙を箱に入れて、くじ引きで・・・出てきたのは、ユエが書いた『リハビリしていた頃の出来事』・・・と限定されたのだ。・・・嘘をつこうにも彩雅が一瞬で見破ってくるので、泣く泣く事実を話したのだ。

「・・・負けたお前が悪いな」

彩雅の言葉が突き刺さる。

「く・・・くそ・・・シィ!勝負だ!こうなったらお前の恥ずかしい過去を暴露させてやる!」

「・・・そう言えば何時かのお礼がまだだったね。・・・いいよ、また亮の恥ずかしい話を聞いてあげる」

「上等!亞莎を助ける前に決着つけるぞ!」

俺とシィはお互いに構える。・・・そこでリョウコウが何かを取り出した。

「うんうん、最近のボイレコは性能いいな。ノイズ無しのフルで録音できたぜ」

「オイィィィ!?」

〈私も全部メモしたよ〉

「ちょ、えええ!?」

「・・・なるほど。俺も少し協力するか」

彩雅も立ち上がる。

「ちょ、ちょっと待って・・・」

「問答無用だよ!」

「わぁーーーー!?」

「皆さん楽しそうですね・・・」

「あなた達少しは静かにしなさい!!」

俺達は結局シェリアに怒られるのだった・・・







 
 

 
後書き

「あ、名前が・・・」


「戻った・・・?」

最後ですからね。では、終わりと言う訳で企画をやりますか。



「は?」

ファイアーエムブレム風に死亡時と退却時の台詞をあなた達にやってもらいます。


「ちょ・・・」

スタート!



退却~


「くっ・・・これ以上はやばい・・・みんな、ごめん!」


「っつぅ・・・回復が間に合わねぇ。一旦退かせてもらう!」


死亡~


「あ、れ・・・身体が、動かな・・・明・・・命・・・」


「がっ・・・は、はは・・・俺が、死ぬなんて・・・マジかよ・・・ごめんな・・・詠、恋・・・死ぬ・・・な・・・」


尺が余ったんであなた達も!

愛依
「ええ!?」

椿
「そんなぁ・・・」

退却~

愛依
「くそ、椿を残す訳には・・・退くぜ!」

椿
「うっくぅ・・・嫌だ・・・死にたくない・・・逃げないと・・・!」

死亡

愛依
「・・・父さん・・・母さん・・・暗いよ・・・恐い、よ・・・」

椿
「・・・そう、だよね・・・報い・・・なん、だね・・・今まで・・・ごめん・・・な、さ・・・」









はい!最後だから鬱にしまくります!

全員
「このアホ作者がぁぁぁぁぁ!!」

げふぅ!?・・・も、もしこの作品、このキャラでやってほしいと言う方がいたら、どうぞ申し上げて下さい・・・


「絶対いねーよ・・・」


「最後なのにネタがないんだろ」

そ、それでは、次回の続・真似と開閉と世界旅行!

椿&愛依
「また次回!」

 

 

空白の一年、咲編~

 
前書き
なんとか書けた・・・では咲編、どうぞ。 

 
・・・祭りから半年位経ち、外史メンバーは全員元の世界に帰った。俺は相変わらず人手不足(書類仕事的な意味)で忙しい毎日を過ごしていた。・・・つーか、書類仕事やるのが俺と詠とねねだけってどういうことだ・・・そんな忙しくも平和な日がしばらく続いた時・・・事件が起きた。

「・・・」

目をゆっくり開く。

「(朝か・・・)」

ゆっくり起き上がり、髪を縛ろうとして・・・空ぶった。

「(・・・え?)」

まだ寝ぼけているのかと思い、眼鏡をかけようとするが・・・眼鏡がない。

「???」

ふと腕が目に入る。・・・あれ?俺って日焼けしてたっけ。

「・・・」

取り敢えず起きて、着替えようとした時・・・鏡をチラッと見た。

「・・・!?」

そしてビックリ。鏡に写っていたのは・・・恋の姿だった。

「・・・!!(バッ!)」

すぐに下を見ると、男に存在してはいけない二つの山。

「・・・はぁぁぁぁぁぁ!?」


洛陽の城の中に“恋”の叫び声が響き渡った・・・


















































































「・・・頭が痛いわ・・・」

董卓軍全員が玉座に集まる。・・・そしてその席には、ムスッとしてがさつに座る恋と、きょとんとしてぽやーっとしてる俺の姿。・・・もう気づいてもらえたと思うが、本当にあり得ないが、人間の構造的に信じたくないが・・・俺と恋は入れ替わっていた。所謂俺があいつであいつが俺でって奴だ。

「ほ、本当に二人が入れ替わったのですか・・・」

ねねが俺と恋を交互に見て言う。

「・・・だったら、昨日ねねと食べたご飯を全部言う」

「俺はお前にちんきゅーきっくをやられた数を言ってやろうか?」

「いえ・・・いいのです・・・」

そもそもお互いの声で自分の口調なので違和感バリバリだが、今はスルーで。

「しかし、何故そんなことになったんだ?」

華雄が当然の疑問を投げ掛けてくる。

「・・・それがまったく心当たりはねぇんだよな・・・昨日は詠とねねと一日中仕事だったしな・・・恋は?」

「・・・ずっと川で遊んでた」

そう、珍しく昨日は俺と恋は一緒じゃなかった。だから闇の影響とかでもないと思うが・・・

「・・・」

「霞?」

「え?あ、いや、意外な事があるんやなーって」

「まあな・・・唯一救いなのは運動神経が同等でかつ記憶や知識は本人依存だってことだ。仕事面じゃ問題はないな・・・仕事面は、な」

そう、日常面が不味い。そりゃもう色々と。

「元に戻る方法はありますか?」

月の言葉に首を振る。

「さすがに手がかり無しはキツイ・・・とにかく、しばらくこのまま過ごすしかない。・・・ごめんな、恋」

「(フルフル)・・・大丈夫。むしろ・・・」

恋が・・・つか自分の顔が微笑む。

「むしろ・・・咲になれて嬉しい・・・」

「・・・」

顔が赤くなるのが分かる。

「と、取り敢えず仕事しよう!とにかく仕事を早く片付けて、考える時間を増やそう、うん!」

俺はさっさと自分の部屋に向かう。・・・そして、仕事を詠と共にするが・・・

「(あそこの曲がり角に新しい店か・・・ああ、その近くに軽いフリーバザーできる広場が・・・)」

書類に高速で目を通していく。・・・それでも全て頭に入るが。

「・・・」

「詠、手が止まってるぜ」

「・・・ごめん、集中できないわ」

「なんでだよ?」

「中身が咲だってわかってても、恋が仕事をするってのが信じらんないのよ」

「あ・・・」

た、確かに・・・恋の書類仕事は何時も俺とねねが受け持っていた。・・・霞と華雄も泣きつかれた時には手伝ってしまうけど。

「それに、なんで眼鏡なんかしてんのよ?恋って目は悪くないでしょ」

「あっと・・・これは、その・・・眼鏡が視界に入ってれば、多少は自分が恋の身体だって思わないかなーって」

当然だて眼鏡だが・・・取り敢えず効果はあった。詠に言われるまでは入れ替わってた事を忘れてた。


「でも、日常生活はどうすんのよ?その・・・厠とか・・・」

「・・・」

俺は頭を抱える。・・・本気で不味い。特に命が。俺の人間性が。亮に知られたらからかわれるだろうし、一刀に聞かれれば引かれるだろうし・・・何より剛鬼に知られたらやばい。あいつは絶対に・・・絶対に俺の命を刈り取りに来る。

「・・・(ガクガク)」

「ちょ、咲!?凄い震えてるわよ!」

「い、いいいや、大丈夫・・・詠、例え魂になっても俺は詠が好きだから・・・」

「いや訳わかんないから!いきなりそんなことを死地に向かう兵士みたいな顔と声で言わないでよ!」

恐怖で身体が震えながらも、仕事を終わらせ、外を歩く。

「(なんかスースーする・・・)」

当然履き慣れてないスカートやその・・・下着に違和感を感じながらも歩く。・・・やたらスカートが揺れるのが気になって手で抑えながら歩ったり・・・って、

「恥じらう女子か俺はぁぁぁぁ!!」

頭を抑えて絶叫する。落ち着け、何処かで聞いたじゃないか。落ち着きたいときには素数を数えろって。

「(・・・素数ってなんだっけ)」

冷静に考えれば素数なんてろくに習ってないことを思い出す。いくらなんでもやってないことを覚えるのは無理だ。

「む、恋・・・いや、咲か」

華雄が中庭から話しかけてくる。その手には戦斧が握られている。

「よっ、華雄。・・・鍛錬?」

「ああ。・・・一応私も仕事はしようとしてるのだが・・・」

「間違いが多くて詠かねねに怒られた・・・と」

「・・・ああ」

華雄が肩を降ろす。

「・・・と、とにかく、咲もどうだ?」

「俺?いいね・・・って言いたいけど、恋の身体だからなぁ・・・」

「恋が気にする訳ないだろう?」

「恋じゃなくて俺が気にするんだよ。・・・ほら、あんまり女の子を傷つけたくないし」

ここでわりとお前女を傷つけまくってるだろってツッコミはNGだ。こういうのは気持ちの問題なのだから。

「・・・一戦くらいいいだろう?」

華雄が捨てられた子犬みたいに見えてきた。

「・・・わかった、一本だけな」

俺は方天画戟を取り出し・・・って待て。何処にあったこれ。

「???」

開閉能力は使ってないし・・・そう言えば焔耶や愛紗もいきなり武器を取り出したり・・・四次元ポ●ット的な何かがあるのだろうか。

「と、とにかく行くぜ」

俺は飛び上がり、一回転して方天画戟を振り下ろす。

ズガァァァン!!

「ぬぅっ!?」

その一撃を受け止めた瞬間・・・地面が陥没した。

「ほわい!?」

「くっ・・・やるな咲!」

今、闇も魔力も使わなかったのだが・・・華雄の重い一撃を弾いていきながら蹴りを放つ。

「っ!」

それを左腕で受け止めた隙を突いて、そのまま足に力を籠めながら回転して回転斬りを放つ。

ガァァァァン!!

「うおお!?」

華雄は戦斧を突き立てながら地を滑る。

「ふ、ふふ・・・やはり咲はどの状況でも強い・・・私はその壁を越えてみせる!」

華雄が地を蹴り大きく振りかぶる。・・・渾身の一撃が、来る。

「(・・・そうだ)」

俺は方天画戟を腰元に構え、魔力を溜める。

「三割くらいまでに出力を絞って・・・」

方天画戟が輝き始める。俺はその名を叫ぶ。

「ーーー“戦場を駆ける一騎当千の将”(ホウテンガゲキ)ーーー!!!」

そのまま振りきると・・・物凄いごん太ビームが華雄の真横を通り、途中にあった木を“消滅”させながら天に消えていった。

「・・・」

「・・・」

振り切った状態の俺と振り上げた状態の華雄が揃ってフリーズする。


「・・・こ」

「こ?」

「殺す気かぁぁぁぁ!!」

「ご、ごめーーーんっ!?」

俺は華雄に謝りながらその場から逃走した。

「・・・何で三割であの威力なんだよ・・・」

しかも魔力全然減った感じしないし・・・全力で放ったら洛陽が消し飛ぶのではなかろうか。

「(・・・怖)」

人間核兵器になっての感想だった。あれ、じゃあライダーの時は・・・

「(・・・やめよう)」

そろそろ恋が怖くなってきた。その時、通路の向こうから俺・・・じゃなかった、恋が歩いてきた。

「・・・咲?」

俺は恋の肩に手を置く。

「今まで色々ありがとう」

「?・・・どういたしまして?」

恋が首を傾げる。・・・こうして自分を見ると、こんなに女っぽいのかと悲しくなる。・・・これ、最早髪型を変えても無理だな。

「咲、今日恋がお風呂」

「え?・・・あ」

さっき動いて軽く汗を流したので・・・確かに汗を流さなくては・・・恋を汗臭くするのは嫌だ。

「でもなあ・・・流石に裸は・・・」

「大丈夫、恋も脱げば・・・」

そう言って恋はいきなり服を脱ぎ始める。くどいようだが俺の体で、だ。

「待った待った待ったぁぁぁ!?」

「?二人で入れば自分の体だから恥ずかしくない」

「恥ずかしいから!」

「自分の身体を見るのが?」

「ちーがーうー!恋の身体を見ちゃうのがだよ!」

「・・・咲になら見られても・・・平気」

「俺が平気じゃなぁーい!?」


「・・・なにやっとるん?」

霞がやって来た。俺が事情を話すと・・・

「なんや、それやったらええ方法があるで?」

「え?」

ーーーしばらくしてーーー

































カコーン・・・

「背中洗うでー?」

「ああ・・・」

Qどうやって裸を見ずに風呂に入る?

A目隠しをして誰かに洗ってもらう。

「(まあ、脱ぐのも着るのも他人任せってのは・・・)」

初めて着替えに侍女を使った気がする。

「・・・どやー?」

「ああ・・・大丈夫」

・・・そういや、亮も愚痴ってた気がする。モーションキャプチャーは性別まで余裕で変わるって。

「・・・なあ、ホンマに中身咲?」

「なんだよいきなり?そうだよ」

「・・・むふふ~・・・そ・れ・な・ら」

むにゅ

「ひゃぁ!?」

「ほれほれ~」

「し、霞!?どこ触って・・・ふぁ!?」


「ふ、ふふふ・・・咲を虐めてるかと思うと・・・あかん、ウチ、新しい何かに目覚めそうや・・・)」

「霞ーーーッ!?」

怖い!目隠ししてて何も見えないから凄く怖い!

「あ~、あの恋ちんが顔を赤くして悶えて・・・しかも中身は咲・・・ゾクゾクするなぁ・・・」


「(け、汚される!俺と恋ダブルで!!)」

「さーて、次はー・・・」

霞の手が段々下がっていく。

「や、やめてぇーーー!!」

叫んだ瞬間・・・

カコォーン!

「はぴゅ!?」

何か桶のような音と何かが倒れる音。

「し、霞・・・」

「あの馬鹿ならぶん殴って退場させたわよ」

この声・・・

「え、詠・・・?」

「そうよ。恋から話を聞いて、凄く嫌な予感がしたから急いで来たら・・・案の定よ」

「詠・・・ありがとう!なんか色々汚されるところだったぁ!」

背後にいるであろう詠に抱きつく。

「ちょ、いきなり抱き着かないでよ!」
「だってさ・・・」

「とにかく、ボクがちゃんと洗ってあげるから、ほら、座りなさい」

「あ、ああ」

その後はちゃんと身体を洗ってもらい、外で涼む。

「・・・ふぅ」

何かもう、疲れた。

「・・・咲」

後ろから恋がやって来た。

「・・・恋か。座れば?」

「・・・(コクッ)」

恋が隣に座る。

「どうだった?俺の身体」

「・・・あんまり普段と変わらなかった。・・・でも、ねねが変だった」

「・・・だよなぁ。正直、なんでこんなことになったのやら・・・とんだ迷惑だ」

「・・・でも、普段咲の見ているものが見られた。街に出て、咲がどんなに慕われているかわかった」

「街に行ったのか!?」

よくその状態で街に行こうと思ったな・・・

「・・・それに、ドキドキした」

「え・・・?」

「咲になって・・・とても胸が苦しくて・・・暴れたい気持ちだった」

「あ、あはは・・・」

「・・・多分、恥ずかしかった」

「恥ずかしい?」

「咲になって・・・咲の闇から、咲が恋達をどう思ってるか分かったから・・・」

「なっ・・・!?」

しまった。闇は人の記憶を持っている場合がある。・・・まあ、つまりは俺もその気なら恋の記憶を探れた訳だが・・・

「咲の気持ちが恋に伝わって・・・とても恥ずかしくなった」

「う、うぅ・・・」

顔に熱が貯まっていく。

「・・・」

「・・・」

俺達は沈黙する。

「もし・・・もし戻れなかったらどうする?」

「・・・どうもしない」

「は?」

「だって咲は咲だから・・・」

「・・・そう、だな。俺は俺、恋は恋だしな・・・俺、この先どうなっても・・・恋が好きなのは変わらない」

「・・・!」

「共に生きて共に死ぬ・・・そうでありたいな」

「・・・うん。恋も・・・咲とずっと一緒にいたい」

「ああ・・・いよう」

二人で星空を見上げ・・・色んな事を話した。そして翌日・・・


「・・・」

目を開くと、枕元に見慣れた長い黒髪が散乱していた。

「・・・!」

跳ね起きて鏡を見る。そこには・・・ちゃんと“五十嵐 咲”の姿が写っていた。

「も・・・戻ったぁ・・・」

そして再び玉座に集まり・・・

「よ、よかったのです・・・」

「一時期はどうなるかと思いました」

ねねと月の言葉に苦笑で返す。

「う~ん・・・やっぱ効果は一日やったか・・・」

・・・霞の呟きをしっかりと聞いた。

「・・・霞?」

霞がギクリと反応する。

「あ、いや、ちょ、ちょっと事情が・・・」

「ほう・・・?」

「クレスからちょ~っと面白そうな薬を貰って・・・好奇心で・・・」

「くくく・・・」

「さ、咲・・・?目が笑ってへんで・・・?」

「くく・・・霞ぁぁぁ!!!」

「わぁー!?堪忍してーなー!!」

追いかける俺と逃げる霞。玉座の間はみんなの笑い声で充満した・・・







































「・・・これでいいだろ」

目の前にいる黒羽と撫子が笑う。

「はは、そんなことがあったのか」

「クレスさんも色んな薬を作りますね・・・ふふ」

「まったく・・・これで写真のメモリー消せよ」

「はいはい」

黒羽がカメラを操作する。・・・あの時シィ達に送信したなんて言っておきながら女装写真のバックアップを持っていたのだ。・・・そこで、それを問い詰めたら黒羽に脅された。・・・昔の面白い話をしろと・・・

「・・・いいか!これは絶対に知也と愛依には言うなよな!」

『(録音したなんて言えねーッス)』

「咲さん・・・」

撫子の手に何かが握られていた。・・・なんか、漫画で見たことあるような・・・

「盗聴器です」

「・・・は?」

「隣の部屋に待機してる知也と愛依の部屋に本体があるぜ」
・・・ってことは?

「全部筒抜けです♪」


「お前らぁぁぁぁ!?」

「うわ、咲がキレた!?」

「取り敢えず逃げるが勝ちですね!」

俺は二人を追い掛け回す。・・・結局二人が演技でガイとティアに泣きつき、逆に俺が怒られた。・・・コイツら・・・!



 
 

 
後書き

「俺と同じで前半ギャグ混じって後半真面目になるのな」


「俺の方がギャグ優先だけどな・・・」

おや、前回の企画にリクエストが・・・やりましょうか。

亮&咲
「・・・おい」









撤退~

明命
「・・・これ以上はいけません。・・・すみません、撤退します」



「・・・お腹空いた。・・・一旦退く」

死亡~

明命
「・・・後悔はしていません。最後まで・・・大切な人の・・・た、め・・・に・・・」



「恋は・・・恋はまだ戦える・・・まだ・・・ま・・・」

尺余ったんでヒロイン達を。

亮&咲
「こいつ・・・!」

撤退~

蓮華
「くっ・・・これでは呉王の名が泣く・・・退くしかないのか・・・」

思春
「ちっ・・・これ以上は持たないか。退くぞ!」

亞莎
「ここで死ぬわけにはいかない・・・撤退します・・・」

亞莎(ラムダ)
「おのれ・・・人間風情が・・・次はこうはいかんぞ!」

死亡~

蓮華
「・・・ごめん、なさい・・・亮・・・」


思春
「・・・ここまでか・・・蓮華様、ご武・・・運・・・を・・・」

亞莎
「っ・・・私、死んじゃうんだ・・・嫌・・・だ、なぁ・・・」



董卓(詠だけでは少ないので霞と華雄追加)

撤退


「く・・・ボクの戦略が間違いだったの!?ここは撤退よ!」

(アビス)
「ヴァン閣下の計画のため・・・ここで死ぬわけにはいかないのよ!」


「っつぅ~やるなぁ。何時かもう一度勝負や!」

華雄
「馬鹿な・・・私が負けただと!?いいだろう・・・次は負けん!」

死亡~


「ボク・・・最後まで、戦ったわ・・・咲・・・月を、お願、い・・・」

(アビス)
「何で・・・忘れてたの・・・?・・・さ・・・き・・・」


「は、ははは・・・アカン、なぁ・・・まあ、最後に強い奴に会えたから満足や・・・」

華雄
「・・・命尽きるか・・・ふっ・・・つまらない・・・幕引きだな・・・」



はい、鬱鬱(笑)

亮&咲
「(笑)じゃねー!!」

ぶべら!?


「最後の最後にやらかしやがって・・・」


「どう落とし前つけるか・・・」

怖いですよ?・・・それでは次回の続・真似と開閉と世界旅行!


「逃げやがった・・・」


「移動先でもよろしくなー!」

 

 

新章~

 
前書き
・・・というわけで、移転初投稿です。ではどうぞ。 

 

・・・あのヴァンとの死闘から1ヶ月が経過した。みんなはバラバラになり、それぞれが自由に暮らしている。手紙でのやり取りはあるものの、会う機会はまったくなかった。ルークは屋敷で無気力に過ごし、ガイは暇をもらってジェイドと共にピオニー陛下に振り回されているらしい。アニスは導師守護役に復帰して変わらずイオンの手伝い。ティアはユリアシティで様々な仕事をし、ナタリアは兵を連れて大陸中を訪問して回っている。黒羽や撫子はケテルブルクで再びレストランのアルバイト。知也もそれに付き合っている。・・・俺はというと・・・

「・・・寒」

一人、雪山に居た。いや、正しくは一人と一本なのだが・・・

『大丈夫ッスか?風邪引かないで下さいッスよ』

「わかってるよ・・・よっと」

俺はアリエッタやジゼル達と戦った場所に出る。

「・・・やっぱり何もなしか」

俺はため息を吐き、軽く身を震わす。

「・・・くっそ、マジでさみぃ」

『ここら辺にマント埋まってるんじゃないッスか?』

「雪崩に呑まれてるだろ。見つかんねぇって」

紅いマフラーに顔を埋めて寒さを防ぐ。

「・・・しゃーない。取り敢えず次行くか」

俺はBモードを発動して空を飛ぶ。


「・・・ふっ」

空を飛び、少し低空飛行気味に次の大陸に向う。・・・その途中だった。

ドガァァン!!

「っ!?なんだ!?」

『あっちッス!』

「・・・うおっ!?」

突然何かが高速で横切り、巻き起こされた乱気流に呑まれて落下する。

「ッッッッ!?」

あれは・・・カイザーディスト!?手に握ってるのは・・・モースか!?

「(バカな!あの二人はこの間の一件で捕まった筈じゃ・・・)」

『咲さん!このままじゃ海に落ちるッス!』

「くっ・・・!」

翼を羽ばたかせ、水面ギリギリで体制を立て直す。

「・・・セーフ」

遠くを見ると船から煙が上がっていた。

「・・・このままじゃ人が集まる。取り敢えず近くに降りないと・・・」

俺は地面を見つけ、そこに着地する。・・・そこはセントビナーの近くだった。・・・そう言えば、チーグルの森からライガクイーンの姿はなくなっていた。

『取り敢えずセントビナーに寄るッスか?』

「・・・だな」

セントビナーに入ると・・・見覚えのある奴がいた。

「・・・しっかり警戒しろ!」

『はっ!』

「・・・ジェイドじゃないか!?」

「・・・サキ?・・・久しぶりですね」

「あ~、大佐だ!?」

振り返るとナタリア意外のアビスメンバーが全員いた。

「あ!サキもいるー」

「どうしたんだ?」

「丁度いい。アッシュの奴が来なかったか?怪我をしてるんだ」

「いえ。見かけていませんね」

「同じく」

「・・・しかし凄い騒ぎだな。何かあったのか?」

ガイが聞くとジェイドが答える。

「我が軍のケセドニア方面部隊が演習中に襲われたのです。ただ、この街も復興中ですからね。今負傷者を首都に運ばせています」

「はぅあっ!?どこの誰がマルクトの正規軍を襲うんですか!?」

「そうなんですよ。少し前ならキムラスカだったのですが」

「・・・ナタリアがいたらボロクソに言われるぞ」

「内緒にしておいてください」

ジェイドが笑いながら答える。

「大佐って見た目は怖いですけど、中身は面白いですよね」

「「「中身だっておっかねーよ・・・」」」

男性陣は声を揃える。その時、マクガヴァンさんが走ってくる。

「大変じゃジェイド。フリングスが負傷したという情報が入ったぞ!」

「フリングス将軍が!?」

ルークが驚く。・・・フリングス将軍は首都にいるらしく、俺達はアルビオールで首都に向かう。・・・途中、第七音素が減少していること、それにより地殻振動が再び活発になってきていること。そして・・・

「それ・・・本当か・・・なあ!?」

俺はルークの肩を掴む。

「サキ、落ち着いて」

ティアが俺をなだめる。

「・・・本当だよ。俺達はパッセージリングでリグレットと会ったんだ」

「リグレット・・・ジゼルが・・・生きてた・・・」

「アッシュが言うには他の六神将も・・・ヴァン師匠も生きてるかもしれないって・・・」

「じゃあ・・・アリエッタや・・・詠も・・・」

俺は脱力して椅子に座り込む。

「はは・・・やっぱり生きてたんだ・・・よかった・・・本当によかった・・・!」


『咲さん・・・やっぱり』

「(ああ・・・不安だったさ)」

無事でいると思う一方で実は死んだのではないか。・・・正直、怖かった。・・・他にもディストとモースが脱走したことも聞いた。そしてグランコクマに到着して俺達は司令部に駆け込む。

「み・・・皆さん・・・」

「フリングス将軍、横にならなくていいのか?」

「いえ・・・今横になるともう二度と目を覚ませないですから」

「変なこと言うなよ!」

「軍の治療師は?」

「先程まで治療を受けていたのですが・・・もう手遅れだそうです」

「サキ」

ジェイドに言われ、俺はフリングス将軍を診るが・・・

「・・・これは・・・」

・・・ここまで致命傷でよく生きていられた。これじゃクレスの薬を使っても・・・

「そんな・・・」

「カーティス大佐。陛下にお伝えください。我が軍を襲った兵のことを・・・」

「・・・わかりました。この場で報告を受けましょう」

「我が軍を襲ってきたのは、キムラスカ軍旗を掲げた一個中隊程の兵であります」

「そんな馬鹿な!」

「奴等は爆弾を用いて自爆攻撃を決行してきました」

「・・・とても正規軍が行う用兵ではないわ」

「ええ。軍服を着用していたのは一部で、それ以外は軽装で・・・」

フリングス将軍が倒れそうになるのをルークが支える。

「・・・私を・・・修道院へお連れください」

「だけど・・・」

「連れていってあげましょう。彼の最期の頼みです」

俺達は修道院まで移動する。するとフリングス将軍が倒れ込みながらも呟く。

「私はここで預言を受けました。でも・・・魔界に落ちるとは・・・詠まれなかったな」

「・・・ユリアの預言から外れたからな・・・」

「預言に詠まれていない未来はこんなにも不安で・・・自由だったんですね」

「・・・自由?」

アニスが繰り返す。

「・・・ええ。・・・もう少し、この世界を生きてみたかった・・・」

フリングス将軍の身体から力が抜けていく。

「・・・あれは・・・私の軍を襲ったのは・・・キムラスカではないと思います。皆生気のない目をしていた・・・まるで・・・死人だ・・・」

ルークがフリングス将軍を抱え起こす。

「・・・うん。叔父上もナタリアも平和条約を破る真似はしない」

「ルーク殿・・・これ以上・・・キムラスカと争いにならないようお願いします」

「・・・わかった」

「・・・始祖ユリア・・・預言を失った・・・彼女に・・・祝福を・・・」

それが・・・フリングス将軍の最後の言葉だった・・・

「・・・ん?」

よく見るとフリングス将軍は何かを持っていた。それは手紙で・・・宛先は、セシル将軍になっていた。

「・・・そうか・・・」

フリングス将軍は・・・セシル将軍のことを・・・俺はそれをフリングス将軍の懐に戻す。

















「預言のない世界が自由・・・?不安なだけじゃん」

「それはアニスの見解だろ。少なくともフリングス将軍は預言のない世界で生きる術を見つけようとしていた」

ガイの言葉にティアが続ける。

「やっぱり兄さんは間違っていたんだわ」

「ああ・・・預言に縛られない人だっていたしな・・・」

『・・・』

俺達を重い空気で包まれる。

「・・・とにかく陛下に謁見しましょう」

事情を伝えに、ピオニー陛下の元に向う。

「・・・そうか。アスランは逝ったか」
様々な事を話している内に色んなことが分かった。アッシュは“ローレライの鍵”をローレライから受け取ったこと。ルークはあれ以来ローレライの声を聞いていないこと。・・・そして・・・

「ローレライは他には何も言わなかったの?」

「えっと・・・栄光を掴むものが私を捕らえようとしているとか・・・」

『!』

俺達は驚く。

「おい!そいつはかなり重要なことだぞ!どうして今まで言わなかった?」

「え・・・だって、意味がわからなかったから・・・」

「なんでぇ!?」

「・・・ルークに古代イスパニア語を教えなかったのが痛かったな・・・」

「・・・そうだった。日常生活に必要なことしか教えなかったんだったな」

世話係二名が頭を掻く。

「な、なんだよ?どういうことだよ」

「・・・栄光を掴むものは古代イスパニア語でヴァンデスデルカと言うのよ・・・」

「!」

「確かヴァンはプラネットストームに飲み込まれていきましたね。行き着く先は地核だ」

「ヴァン師匠がローレライを閉じ込めたってことか!?」

「だからアッシュは・・・」

しかし、ルークは鍵を受け取っていないらしい。取り敢えずバチカルに真意を訪ねに行く事になり、アニスがイオンに手紙を出すと言って走っていった。




「しばらく待つか・・・」

そして・・・

「はぅ~、みんな早~い!」


「もう手紙は出したのか?」

「ばっちり♪さ、バチカルへいこ・・・と。あれれ?ティアってば顔色悪いね?大丈夫?」

「あ、ごめんなさい。まさか兄さんまで生きているのかって気になってしまって・・・」

「ティア・・・」


「・・・嫌な妹よね、私。サキのように生きていてくれて嬉しいと思わなきゃいけないのに。兄さんのやろうとしてきたことを考えると不安なの」

「もし師匠が生きてるんだとしたら、今度こそティアの聞きたいことを聞けるチャンスだ。そうだろ?」

「人のことだとそうやって視点を変えられるんだな」

「・・・わ、悪かったな。いつまでもレプリカだって気にしてて」

「はあ?今更それで悩んでたのか」

俺が言うとルークが頬を掻く。


「ところでサキ。撫子達はどうしたのですか?」

「アイツらなら全員ケテルブルクでアルバイトしてるらしいけど・・・」

「そうですか。彼女達は今回の件は・・・」

「アイツらは別世界と交信する手立てがあるから分かるとして・・・リパル、どうだ?」

『オイラの通信も元の世界用ッス。撫子さん達には繋がんないッスね・・・』

「だよなあ・・・」

「仕方ありません。合流できたら合流しましょう。彼女達は貴重な戦力ですからね」

「ああ。とにかく、今はバチカルへ行こう」

俺達はバチカルへ向かう。・・・本当にキムラスカ軍じゃなきゃいいんだけど・・・ 
 

 
後書き
はい、久々で文がおかしくなって不安ですが・・・意見などありましたらどうぞ!それではまた次回!!
 

 

再来〜

 
前書き
区切るところおかしくないかな・・・?ではどうぞ! 

 
俺達はバチカルに到着する。

「やー、久々に帰ってきたな」

俺は街を見渡してそう言うと、ガイが反応する。

「なんだ、サキも帰ってなかったのか?」

「ファブレ公爵に頼み込んでね。この一ヶ月世界中飛び回ってたな」

『文字通り飛んでたッスね』

ルークがため息を吐く。

「ナタリアが戻ってると助かるんだけどな・・・」

「呼びまして?」

「うわっ!?」

いつの間にか背後にナタリアが立っていた。

「おまえ、なんでここに・・・」

「ケセドニアの視察を終えて戻ったところですわ。それよりも丁度いいところに!」

ナタリアがジェイドの胸ぐらを掴む。

「おや・・・!」

「ナタリア!?

「まあ、相変わらず涼しい顔で!どういうことですの!我がキムラスカ王国は平和条約に基づき、マルクト軍に対して軍事活動を起こしてはいませんのよ!」

「ああ、やはりそうでしたか」

「やはりそうでしたか・・・ではありません!ケセドニアでは、まるでこちらが悪事を働いたと言わんばかりに白い目で見られ、屈辱でしたわ!まさかマルクト軍の示威行動ですの?」

「まあまあ、落ち着けよ」

俺はナタリアを宥める。

「その話をしたくて来たんだ。非公式に陛下に取り次いでくれないか?」

・・・取り敢えずインゴベルト陛下の部屋で説明することになった。

「・・・なるほど。そういうことでしたの」

「私は、マルクトを攻撃するような命令を下していない」

「そうですわ。我が国は無実です」

「だが、こうなるとフリングス将軍を襲った奴等は一体何者なんだ?」

「・・・」

「サキ?」

「・・・いや、俺の世界でも似たようなことをされた覚えがあってさ・・・なあ、フリングス将軍は軍の奴は死人のような目をしていたと言ったよな」

「・・・ええ、私もあれが気にかかります」

「何か心当たりがあるのか?」

ルークが聞くと、ジェイドは答える。

「断定はできませんが、フォミクリー実験による症状に似た事例があるのです」

「・・・となると、レプリカによる人間爆弾って訳か」

「レプリカ・・・俺と同じ・・・」

「なんということだ。レプリカが我が国の名を騙ってなんの利がある」


考え込んでいたティアが顔を上げる。

「キムラスカとマルクトの関係を悪化させて、戦争を起こそうとしている?」

「それじゃまるでモースと同じじゃないか」

「・・・あ!」

俺が声を出すとガイが話す。

「そうか・・・ディストはモースを連れ去ってたな」

「モースならこれくらいやりかねない・・・か」

「お父様、私をダアトへ行かせて下さい」

「突然どうしたのだ」

「私、あの旅の後、預言のことを考えていましたの。世界はユリアの預言から外れた。にも拘わらず、まだ預言に縛られている者のなんと多いことか」

「そうだね。やっぱ不安なんだよ・・・」

「ですから、預言をどうしていくのか国際的な会議を開催するべきだと思うのですわ。理由はどうあれ、これ以上預言で愚かな真似をさせては駄目なのです。そのためには導師のお力が必要ですわ」

「まあ、悪くはないですね」

「了解。いい王族の風格漂ってんじゃないの?ナタリア」


「いいえ、私はまだまだ未熟ですわ」

「・・・まったく、どっかの呉王さんみたいに頭堅いな。・・・いや、能天気な蜀王よりマシか」

『後で伝えるッス』

「そしたらへし折る」

『すみませんッス』

その時、アニスが反対する。

「でも・・・手紙で知らせてあるから、ダアトに行くの、やめない?」

「なんだ?帰りたくないのか?」

「・・・ううん。そうじゃないけどさ」

「よし、ダアトに行ってみるか」

「ルーク、ナタリアを頼むぞ」

「あ・・・はい。陛下・・・」

俺達はナタリアを加え、ダアトに急ぐ。


「ダアトか・・・」

『咲さん?』

「ここは・・・姉貴と過ごした、大切な場所だからな・・・」

『あ・・・』

その時、ティアがバランスを崩し、ルークが支える。

「ティア!?」

「・・・ご、ごめんなさい。少し目眩がして・・・」


「私、イオン様を呼んでくる!」

「平気よ。薬が切れてしまっただけだと思うわ」

「でも・・・」

「おかしいですね。薬が切れただけならそれほど顔色は悪くなりませんよ」


「どういうことだよ。もしかして酷くなってるってのか?」

「いや・・・障気を吸わなきゃ進行しない筈だ」

「とにかく教会まで歩けるか?そうしたらアニスが休む場所を用意してくれてるだろうから」

ガイの言葉にティアが返す。

「ええ・・・大丈夫、ありがとう」

そして教会に入ると、イオンがいた。

「みなさん!ティアが倒れたと聞きましたが・・・」

「イオン様・・・大丈夫です。すみません、ご心配をおかけして」

「・・・ティア。とても大丈夫とは思えませんよ」

「・・・あれ?アニスは?」

俺が聞くとイオンが辺りを見渡す。

「あれ、先にルークのところへ戻ると言っていましたが・・・」

「来てないぜ」

「仕方ないですね。先に僕の部屋へ行きましょう」


イオンの部屋のベッドにティアを寝かせる。

「おかしいですね。新たに障気を吸わない限りは、ここまで消耗するとは思えません」

「プラネットストームには障気が混在している恐れもありますが、その程度なら音譜帯を抜けた後、大気圏外に離脱してしまいます。影響はないと思うのですが・・・」

「まさかプラネットストームの活性化で、また障気が発生してるとか・・・」

「やはりティアの体に蓄積した障気の除去を考えた方がいいのではなくて?」

「それは無理だって、ベルケンドで言われたじゃない」

「じゃあ俺が・・・」

「駄目よ。これ以上あなたに“闇”が溜まったら危険だわ。それよりナタリア。預言についての会議を提案するんじゃなかったの?」

「それはそうですけれど・・・」

そこでイオンが口を開いた。

「・・・あの実は、僕はティアの障気を無くす方法に心当たりがあるんです。ただ、それを行うには僕の・・・」


「イオン様!大変です!」

いきなりアニスが部屋に飛び込んでくる。

「アニス。どこへいっていたんです」

「それが、外が大変なんです!」

「外がどうしたんだ?」

「障気がばーんと出てきてマジヤバですよぅ!イオン様!来てください!」

アニスは止める間も無くイオンを引っ張っていく。

「私達も行きましょう!」

「ティア!あなたが倒れたのは、障気の復活を敏感に感じ取ったからかもしれませんわ。ここに残りなさい」

ティアは首を横に振る。

「障気が復活したのなら、どこにいても同じよ」

「無茶ばっかり言いやがって・・・」

「でも事実よ」

「・・・分かった。無理はするなよ」

「ええ、ありがとう」

ルークが折れ、ティアは立ち上がる。俺達は急ごうとして転送した瞬間・・・周りを囲まれた。

「なんだ!?」

ガイが驚く。

「動くな」

「リグレット教官!」

「あ、姉貴・・・!」

やっぱり生きていたのだ。だが、どう考えても感動の再開と言うわけにはいかないらしい。

「これはなんの真似だ!」

「今、お前達に動かれては迷惑なのだ。それにローレライの鍵についても聞きたいことがある。大人しくしてもらうぞ」

その時だった。突如ライガが現れ、神託の盾兵を吹き飛ばす。その隙にティアがナイフを投げるが、ジゼルは難なくそれを弾く。

「投げに移る動作が遅いと言っただろう!同じ扱いを二度犯すな!」

「・・・くっ」

・・・すると俺達とジゼルの間にライガを率いたアリエッタが現れた。

「・・・イオン様に何をさせるの。リグレット」

「アリエッタ!そこを退きなさい!」

「イオン様の第七譜石の預言を詠み直しさせるって本当なの!?」

「イオンに惑星預言を!?んなこと・・・」

「体の弱いイオン様は死んでしまう!アリエッタ・・・そんなの許せない!」

「モースを動かすには、それが一番簡単なエサよ。あなたが望むフェレス島復活のためには必要なの。わかるわね?」

「・・・ルーク!イオン様はアニスがここの教会にありセフィロトへ連れていった!」

「アニスが!?」

『裏切ったってことッスか!?』

「アリエッタ!裏切るの!?」

「ヴァン総長は、イオン様を殺さないって言ってたもん!裏切ったのはリグレットたちだよ!」

「ルーク!隠し通路へ行きましょう。確かにアニスの様子はおかしかった」

「わかった。アリエッタ、ありがとう!」

「ジゼル・・・アリエッタ・・・」

「サキ・・・イオン様を、イオン様を助けて・・・!」

「・・・ああ!」

俺達は再び急いで転送陣に向う。そして・・・

「待て!」

「ルーク!」

モース達を見つける。

「どうしてここにモースがいるんだ!それにアニス、これは一体どういうことなんだ?」

「・・・それは・・・」

「ぬぅ・・・リグレットめ。こんなガキ共すら足止めできんとは!・・・アニス!ここは任せたぞ!裏切ればオリバーたちのことはわかっているな?」

そう言ってモースは去っていく。オリバーさんって・・・アニスの父親じゃあ・・・

「おい、アニス!オリバーさん達がどうしたって言うんだ?」

ガイが聞くが・・・アニスは叫んだ。

「うるさいな!私は、元々モース様にイオン様のことを連絡するのが仕事なの!」

アニスはぬいぐるみをガイに投げつけ、逃げ出す。

「待ちなさい!」

すぐに転送して追いかけようとするが・・・

「駄目ですね。反応しません」


「他に道はないのか?」

俺が言った時・・・ガイがぬいぐるみから何かを見つけた。

「おい、これを見てくれ」


「手紙を持ってるな・・・“ザレッホ火山の噴火口からセフィロトへ繋がる道あり。ごめんなさい”」


「アニスからですわね。・・・それにしても、モースの口振りだと、まさかご両親を人質に取られているのでは」

「そのようですね。まあ、元々モースの回し(スパイ)だったのでしょうが」

「だけど行くしかない。ザレッホ火山に急ごう」

俺達はそのままアルビオールに移動する。

「アリエッタ達がいなくなってたな・・・」

「教官も・・・」

「相討ちでも死体は残りますからね」

「大佐!アリエッタは敵とはいえ、助けてくれましたし、リグレットはティアの教官で、何よりサキの家族なのですよ。もう少し言葉を選びなさい」

「これは失礼」

「いいよ、ナタリア。・・・もう慣れた」

付き合いが長くなると、わりとジェイドの発言にイラつきはないものだ。街を出ようとするが・・・

「な、なんだあれ!?」

「あ、あの人は・・・!」

「イエモンさん!?そんなバカな!」

たくさんの似たような服を着た集団が道を封鎖していた。

「・・・レプリカ・・・」

ジェイドが呟く。

「なに?」

「彼らはレプリカではないでしょうか。以前、レプリカを軍事転用するために、特定の行動を刷り込むという実験をしていました。彼らの目は、その被験者達によく似ています」

「標的発見。捕捉せよ」

奥から更に数人やってきて・・・ガイが絶句する。

「姉上・・・」

「姉上?ガイ、一体何を・・・」

「どうしてだ・・・どうして姉上がいる!?」

「ガイ!どうしたんだ!?」

「フリングス将軍もいるわ!確かにグランコクマで看取った筈なのに!」

「他にも・・・!彼らはレプリカに違いありませんわ!」

「モース様のご命令だ、殺せ」

「譜術では民間人を巻き込む恐れがあります。出口方向のレプリカだけを始末して、この場を・・・」

「待ってくれ!そこには俺の姉上が・・・マリィ姉さんがいる!」

「レプリカですよ!」

「分かってる!だが・・・!」

「それではモースの思うつぼですよ」

「だったら俺が・・・!」


その時、声が響いた。

「ーーーまさか、ここまで上手くいくなんてね」

「ッ!?」

ガキャン!

ガイが吹き飛ばされ、そこにいたのは・・・

「・・・詠!」

「久し振りね・・・サキ・オスロー!」


「くっ・・・」

「くそ!どうするんだ!」

「・・・私が、やるわ」

そう言うとティアは息を大きく吸う。

「ーーーーー♪」

「譜歌!?くっ・・・眠、気が・・・」

詠い終わるとティアが倒れる。

「ティア!」

「こんなに大勢を眠らせたことはないの。効果は長く続かないと思う。早くここを離れましょう!」

「あ、ああ・・・」

「逃が・・・さないわよ・・・!神託の盾兵!」

詠が叫ぶと兵士がやって来る。

「不味い・・・これ以上は・・・」

「伏せろ!」

『っ!?』


『アサルト!ルナ!マキシマムドライブ!』

「トリガーアサルトバースト!」

ダダダダン!!

「ジャスミン、カートリッジロード!」

シャキイン!

「操影術!行ってください!」

ズガガガン!

「え・・・と、知也!?撫子に黒羽まで・・・!」

「話しはアリエッタが手紙で教えてくれた!」

「そこからは私の影で超特急で駆けつけました」

「ここは任せて早く行ってこい!」

「・・・頼むぞ!」

俺達はアルビオールに駆け込む。・・・イオン、無事でいてくれよ・・・! 
 

 
後書き
サキ
「あー、問題が次から次に・・・」

リョウ
「忙しい奴」

サキ
「うっさい。ま、片っ端から片付けるとしますか」

リョウ
「空回りすんなよー?」

サキ
「しねぇよ。んじゃ、次回の真似と開閉と世界旅行!」

リョウ
「次回もよろしく!」 

 

救えない命〜

 
前書き
題名が不穏?気のせいです。ではどうぞ! 

 
俺達はザレッホ火山に到着する。

「・・・暑いな。息苦しい」

「当然ですわ。魔界に降りてからのザレッホ火山は、今まで以上に活性化しているそうですし・・・」

「そりゃ、モロに大地の力通してるからな・・・」

「とにかくパッセージリングのある方を目指せばいいんだよな」

「ボク、セフィロトの場所を感じるですの」

「迷ったら頼むぜ、ミュウ」

「はいですの!」

足元に注意しながら俺達は奥に進んでいく。

「しかし・・・暑いな・・・」

ガイが頭を掻く。

「火山の中ですからねぇ。息を吸うだけでも喉や肺が焼かれるようです」

「なんでジェイドは涼しそうなんだよ・・・」

ルークはジト目でジェイドを見る。

「いえいえ。暑くて死にそうですよ」

「・・・どの口が言ってんだか」

「・・・前に来たとき暑くなってる気がするわ」

「ミュウ。セフィロトはまだですの?」


「う~ん、もうちょっとですの~」

「辿り着く前にこの暑さにやられそうね」

「アニスの狙いはそれかもしれませんねぇ。私達を一気に始末する・・・」

「ジェイドッ!!」

「冗談です」

怒るルークを流すジェイド。さすがにルークもそれに毒気を抜かれたようだ。

「ったく・・・」


「ーーー半分は」

『・・・』

不意に真顔になるジェイドに一同は沈黙する。

「皆さ~ん、こっちですの~!」

「ご苦労様です。ミュウ」

「はいですの!」

「アイツ、無駄に元気だな・・・」

「ジェイドといいミュウといい、余計に疲れるな・・・」

「まったくだ・・・」

男性陣はため息を吐く。

「これじゃあケセドニアの砂漠が涼しく感じるぜ・・・」

「まったくだな・・・っ!?ルーク!」

ガイがルークに呼び掛けると、ルークの真横を火の玉が通った。

「うわっ!?何なんだ、一体・・・」

「あれだわ・・・」

遠くにいたのは・・・

「まあ!ドラゴンですわ!」

「火山の中に住んでいるとは、大した生命力だねぇ」

「このまま進んでいくと、彼との対決は避けられませんね。いや、彼女かな」

「あら、大佐。ドラゴンの性別がお分かりになるの?」

「ブレスの吐き出し方で・・・」

「すげぇ。ジェイドって何でも知ってるなー」

「・・・わかると面白いなーと思っただけです」


「・・・だと思ったよ・・・」

俺はまたため息を吐きながら進む。そして、ドラゴンに近づき・・・

「気をつけて!来るわ!」

「グオオオオオ!!」


「くっ!・・・隙を見て攻め込むぞ!」

ドラゴンがブレスを吐くのを止める。

「今だ!行くぞ!」

「リパル!いいな!?」

『もちろんッス!』

俺は空間から方天画戟を取り出し、構える。

「ビアシスライン!」

ナタリアが放った矢は・・・ドラゴンの鱗に弾かれる。

「・・・っ!」

「ナタリアは援護に回ってくれ!」

「・・・わかりましたわ!」

ナタリアが退き、ガイがそれを守る形で下がり、俺とルークが前、ティアとジェイドが後ろという陣形が完成する。

「瞬迅剣!」

ガキィン!

ルークが隙を狙うように高速で突きを放つが・・・

「かっ、てぇ!?」

「だったら・・・ウォラァァァァ!!」

飛び上がり、力を籠めて方天画戟を振り降ろす。

ガィィ・・・ィン・・・


「ッ・・・!?」

衝撃が体を突き抜ける。ば、バッカじゃねぇの!?どんだけ堅いんだよ!?

『咲さん!』

気づくとドラゴンが尻尾を振り回していた。・・・これは避けられない。

バァァン!

「くぅ・・・!?」

空中で勢いを殺せずに吹っ飛ぶ。

「サキ!」

ルークが叫ぶ。・・・俺は咄嗟に闇を籠め・・・

「・・・上等、だったら・・・」

闇を解放。Aモードを発動する。

「全力でぶちかます!!!」

俺は勢いよく飛び込む。

「リパル!鎌ぁ!」

『了解ッス!』

闇を限界まで鎌に溜め、鎌全体が漆黒に染まる。

「ーーーー♪ホーリーソング!」

そこにティアの身体強化がプラスされ、身体を捻り、バネのように全てを解放する。

「デス・・・サイズ!!」


ズバァァァン!!

「グォォォン!?」

ドラゴンの巨体が揺れる。

「ジェイド!」

「激しき水壊よ・・・スプラッシュ!」

弱点の水属性がドラゴンを襲う。

「止めだ!絶破烈氷撃!!」

音素の欠片を集めたルークの一撃で、ドラゴンが沈黙、そのまま溶岩に姿を消した。

「ちょっと可哀想ですの・・・」

「そうだな。・・・俺達が勝手にあいつの家へ侵入してるんだもんな」

「・・・イオン様が心配です。この先へ行ってみましょう」


「サキ、平気か?」

ガイがAモードを解除した俺に話しかけてくる。

「あ・・・ああ・・・大、丈夫・・・」

相変わらずの倦怠感。だが今はそれよりもイオンだ。

「俺はいい。・・・早く行こう」

俺達は走る。そして・・・声が聞こえてきた。

「・・・・・・やがてそれが、オールドラントの死滅を招くことになる。ND2019、キムラスカ・ランバルディアの陣営はルグニカ平野を北上するだろう。軍は近隣の村を蹂躙し、要塞の都市を囲む。やがて半月を要して、これを陥落したキムラスカ軍は玉座を最後の皇帝の血で汚し、高々と勝利の雄叫びをあげるだろうND2020要塞の街はうず高く死体が積まれ、死臭と疫病に包まれる。ここで発生する病は新たな毒を生み、人々はことごとく死に至るだろう。これこそがマルクトの最後なり」

これは・・・イオンの声!?

「以後数十年に渡り、栄光に包まれるキムラスカであるが、マルクトの病は勢いを増し、やがて、一人の男によって国内に持ち込まれるであろう」

そこで俺達が到着し、イオンがルークを支える。

「お、お前達・・・」

「やめろ、イオン!やめるんだ!」



イオンは倒れ込みながらも預言を読み続ける。

「・・・聖なる焔の光は、穢れし気の浄化を求め、キムラスカの音機関都市へ向う。そこで咎とされた力を用い、救いの術を見いだすだろう・・・」

奥を見るとアニスの両親が牢屋に閉じ込められていた。俺は素早くベルヴェルクを構え、撃つ。

「オプティックバレル!」

的確に牢屋だけを破壊し、ジェイドとナタリアに任せ、ガイはモースを睨み付ける。

「イオン!しっかりしろ!」

「ルーク・・・今のは僕があなたに送る預言・・・数あるあなたの未来の・・・一つの選択肢です・・・頼るのは不本意かもしれませんが・・・僕にはこれぐらいしかあなたに協力できない・・・」

「馬鹿野郎!今までだってたくさん協力してくれただろ!これからだって・・・」

「・・・ルーク。そんな顔をしないで下さい。僕の代わりはたくさんいます・・・」

「そんなことない!他のレプリカは俺のこと何も知らないじゃないか!」

ルークの瞳に涙が溜まる。


「一緒にチーグルの森にいったイオンはお前だけだ・・・」

「そうだ・・・アリエッタはどうするんだよ。アリエッタは、お前を・・・」

「彼女が慕っていたのは被験者イオンです・・・僕ではありません」

「でも・・・!」

イオンは首を横に振る。

「ティア、こちらに・・・」

イオンが差し出した手をティアが掴む。

「僕が・・・あなたの障気を受けとります」

「そんなことしたら導師が・・・」

「言ったでしょう。一つだけあなたを助ける方法があるって・・・第七音素は互いに引き合う。僕の第七音素の解離に合わせて、あなたの汚染された第七音素も貰っていきますよ」

「イオン!」

イオンの身体を光が包む。

「・・・いいんです。ほら・・・これでもう・・・ティアは・・・大丈夫・・・」

イオンが俺を見る。

「サキ・・・アリエッタに伝えてくれませんか・・・“騙していて、すみませんでした”・・・と」

「・・・!」

拳を握り締める。その一言に・・・どんな意味が籠められているか・・・!

「・・・イオン・・・さま・・・」

アニスが呟く。

「もう・・・僕を監視しなくていいんですよ・・・アニス・・・」

「ごめんなさい、イオン様!私・・・私・・・」

「今まで・・・ありがとう・・・僕の一番・・・大切な・・・」

・・・その言葉を言う前に、伸ばしたイオンの手が落ち、イオンの身体から力が抜ける。

「・・・イオン様っ!」

そして・・・無数の光となって・・・消えていった。


「く・・・一番出来のいいレプリカだったが、やはり正しい預言は詠めなかったか・・・」

その言葉に・・・ルークがキレた。

「預言預言預言!!馬鹿の一つ覚えみたいに!そんなものがなんだって言うんだ!」

「馬鹿を言うな。人類が存続するためには預言が必要なのだ」

「そんなものがなくたって、人は生きていける!!」

「預言の通りに生きれば繁栄が約束されているのだ!それを無視する必要があるのか!」

大量のレプリカ兵がやってくる。

「私は監視者だ!人類を守り抜く義務があるのだ!」

・・・今度は、俺が我慢の限界を越えた。

「いい加減にしやがれ・・・繁栄の為ならなんだってして言い訳じゃねえだろうが!!そんな繁栄くそくらえだ!決められたレールなんていらない!俺は・・・俺達は自分の力で生きていくんだ!!」


「ふん。愚か者が。貴様のような奴が人類を破滅に導くのだ」

そう言うとモースはレプリカを盾にして逃げ出す。・・・咄嗟にレプリカを倒すことが出来ず、モースを逃してしまう。俺達は取り敢えずアニスの両親を送り届けるが・・・

「アリエッタ様!動いては傷に障ります!」

アリエッタの目に・・・怒りと悲しみがあった。そのままアリエッタは近づき・・・アニスの頬を全力で叩いた。

「・・・イオン様を殺した!アニスがイオン様を殺したんだ!」

「お待ちください!アニスは、私どもがモース様に捕らわれたため・・・」

「パパは黙ってて!」

アニスは息を大きく吸い、アリエッタに言い放った。

「そうだよ。・・・だから何?根暗ッタ!」

「イオン様はアリエッタの恩人。ママの仇だけじゃない。アニスはイオン様の仇!アリエッタはアニスに決闘を申し込む!」

「お、おい!」

「・・・受けてたってあげるよ!」

「アニス!」

「いいの!こいつとは決着をつけなきゃいけないんだから」

「場所は後で立会人から知らせる。逃げたら許さないから!!」

そう言ってアリエッタは部屋から出ようとした時・・・俺とアリエッタの目があった。

「・・・ごめん・・・イオンを、助けられなかった・・・」

「・・・サキは悪くない。悪いのはイオン様を裏切っていたアニスだよ!!」

「それは・・・!」

「アリエッタは絶対にアニスを許さない!・・・絶対に・・・!!」

そう言ってアリエッタは走り去ってしまう。・・・今のアリエッタに、真実を伝える覚悟が・・・なかった。その時、

「待てよ、アニス!」

俺の横を通ってアニスも走り去る。

「サキ!アニスを追ってくれ!」

「あ、ああ!」


アニスを追いかけ、途中見失いながらも教会の隅で座り込むアニスを見つけることができた。

「アニス・・・」

「・・・イオン様は」

「え?」

「イオン様は・・・ある日アリエッタを導師守護役から解任して、何故か私を導師守護役に選んだ。・・・子供で大した実績もなかった私はいじめにあったりもした・・・」

「・・・うん」

アニスの隣に座る。

「それをどこかで聞いたイオン様はみんなの前で私のことで怒ってくれた。私が失敗しても、イオン様は笑って何も気にしなかった。私のやること全部に、イオン様は興味を持ってくれた」

「・・・そうなのか。でも、仕方ないよ・・・親を人質にされてたんだ」


「違うの!私は・・・私は最初からイオン様を裏切ってたの!モースに全部教えるように言われて・・・戦争を止めようとしたことも、ルークたちといたことも!モースは信じなかったけど、サキのことも・・・!」

「・・・そうだったのか」

じゃあ、ジゼル達は闇のことを知っているのか・・・詠のことも・・・

「だからっ!タルタロスが襲われたのも、六神将が待ち伏せしてたのも私のせいなんだよ!」

「・・・まさか、それも両親を?」

アニスは小さく頷いた。

「・・・パパ達、人がいいでしょ?私がうんと小さい頃、騙されてものすごい借金作っちゃったんだ。それをモースが肩代わりしたの。だからパパ達は教会でタダ働き同然で暮らしてたし、私も・・・モースの命令に逆らえなかった・・・」

「・・・」

ふとアニスと愛依が重なる。・・・愛依も、嫌なのに逆らえなくて・・・

「ずっと嫌だったよ・・・イオン様ってちょっと天然って感じで、騙すの辛かった・・・」

「・・・ああ」

俺ができるのは、アニスの言葉を聞いて、受け入れてやること。

「だけど私・・・パパもママも大好きだったから・・・だから・・・」

「・・・でも、我慢してたんだろ?・・・偉かったな」

遂にアニスは泣き出してしまう。

「偉くない!全然偉くない!私・・・私・・・イオン様を殺しちゃった・・・!イオン様・・・私のせいで・・・死んじゃった・・・!」

アニスが俺に飛び付いてきて、ひたすら、泣く。

「・・・アニス・・・そうだ。ルークから、これ」


俺はあの間にルークから預かった物を渡す。

「・・・これ」

「イオンが詠んでた譜石の欠片・・・」

「イオン様の・・・」

「・・・これから、どうする?」

「・・・一緒に行く。イオン様が生きてたら・・・きっとみんなに協力するから・・・」

「・・・ああ。イオンの分も・・・頑張らなきゃな」

「うん・・・」

俺は落ち着いたアニスを連れてみんなのところに戻る。

「・・・落ち着いたようですね」

ジェイドが優しく話しかける。

「はい、大佐。私、もう少しみんなと一緒にいて、考えたいんです。私がこれからどうしたらいいのか」

「アニス。気をしっかりね」

ナタリアがアニスを気遣う。

「これからどうしたらいいのかしら?預言の件は、教団内が再編されるまで難しいと思うし・・・アッシュを捜すにもどこを捜したらいいのか・・・」

「私・・・イオン様の最期の預言を活用してほしい」

「ベルケンドに・・・って奴か」

「それがいいと思います」

振り返ると撫子達がいた。

「・・・すみません。もっと早く到着していれば・・・」

「撫子達は悪くないよ。・・・悪いのは・・・」

アニスはそこまで言って首を振る。

「ううん。こんな考え方は駄目だよね。今は前に進まなきゃ・・・」

だけど、アニスの目には・・・深い哀しみだけがあった。いや、イオンだけじゃない。ルークや、障気を受け取らせてしまったティア。パーティー全体が暗くなっていた。

「(俺は・・・また救えなかったのか・・・畜生・・・なんど、なんど目の前で・・・)」

『咲さん・・・』

「・・・今回ばっかりは・・・」

『わかってるッス・・・でも、あまり自分を責めないでほしいッス・・・』

「ああ・・・善処するよ・・・」

俺達はイオンが残してくれた言葉を無駄にしないためにも、ベルケンドに向かった・・・ 
 

 
後書き
サキ
「・・・」

アニス
「私・・・イオン様を・・・」

サキ
「アニス・・・気にするな・・・とは言えないけど、間違っても自殺願望は止めてくれよ」

アニス
「うん・・・そんなことしたらイオン様に怒られちゃうから・・・」

サキ
「ああ。・・・それじゃ、次回の真似と開閉と世界旅行もよろしく!」 

 

変異〜

 
前書き
来週っから中間テストか・・・ではどうぞ。 

 
・・・俺達はアルビオールの中でただ、目的地に着くまで黙っていた。それぞれに思うことがあるのだろう。そしてベルケンドに到着した時・・・目の前にいた人が突然倒れた。

「(・・・え?)」

ティアとルークが駆け寄る。

「しっかりして!?・・・間に合わなかった?何故・・・」

その時、、バチカル兵がやってくる。

「・・・これで今日は三人目だ」


「どういうことだ?」

知也が聞くと兵士はため息を吐く。

「ここ数日、突然死が増えてるんだよ。どうもローレライ教団へ預言を聞きに行った直後に倒れる奴が多いみたいだな。治療師さんで助けられないとなると、怪我の類じゃなくて病気かねぇ・・・」

「変だよ。今教団では、預言の詠み上げを中止してるんだよ。イオン様がそう決めた筈なのに・・・」

「いや、この障気ってのが出てくるちょっと前から再開したみたいだぜ。旅の預言士が各地を回っててね。俺も詠んでもらったぜ」

「その預言士はどこへ行ったかわかりますか?」

撫子が聞くが、兵士は首を振る。

「さあ・・・バチカルの方へ向かったみたいだがな」

そう言って兵士は死体を担いで去っていく。

「今のはフォミクリーでレプリカ情報を抜かれたのかも知れませんね」

「どうしてそうだとわかる?」

ガイの言葉にジェイドは答える。

「実験では情報を抜かれた被験者が一週間後に死亡、もしくは障害を残すという事例もありました。先程の方と亡くなり方はよく似ています」

「・・・とにかく、その預言士を見つけて止めなきゃ不味いだろ」

「ああ。もう俺とアッシュみたいな関係は生まれない方がいいに決まってる」

「スピノザから話を聞いたら、旅の預言士を捜した方がよろしいですわね」

そして、研究所に向かい、スピノザと会話する。

「おお、今度はお前達か!しかし大変なことになってしまったな」

「やっぱりタルタロスじゃ抑えきれないほど、振動が激しくなってるのか?」

「うむ。このままでは再び大地が液状化するかもしれん」


「それじゃあ、また元の魔界に逆戻りじゃないか」

黒羽は頭を掻く。

「根本的に障気を消せないかしら・・・」

「それなんじゃが、ルークの超振動はどうじゃろうか」


「そんなこと出来ないんじゃないか?」

ルーク自身が言うが・・・

「超振動は物質を原原子レベルにまで分解する力がある。わしは超振動は専門ではないが、可能じゃろう」

「・・・そう言えば、先程の口振りでは先客がいらしたようですが?」

「ああ。アッシュじゃよ。外殻降下時の第七音素の流れとやらを調べているとか・・・」

「アッシュ!?アッシュがここに来ていたのですか!?」

さすが嫁。反応が速い。

「あいつは今どこに!?」

同位体も速い。

「ここで測定していたセフィロトの情報を見ていたが・・・ロニール雪山の情報じゃったな」

「!」

その瞬間、撫子が凍りついた。

「行ってみますか?」

「そうだな。バチカルは後回しにしてアッシュを追いかけよう」

「あ・・・」

みんながアルビオールに向かうなか、がっくり肩を落とした撫子の両肩を、それぞれ俺と黒羽が叩く。

「「どんまい」」

「・・・」

そして雪山・・・

「(がくがくがくがく)」

「・・・はぁ」

俺はマフラーを取ると、撫子の首に巻く。

「・・・え?」

「多少は寒さ凌げるだろ?・・・まあ、ボロいけど」

「ああ、いえ。ありがとうございます」

俺は前を歩くジェイドに話しかける。

「・・・なあ、ジェイド?」

「なんですか?」

「超振動で障気って・・・消せるのか?」

「・・・多大なコストがありますけどね」

「コスト?」

「まずアッシュが受け取ったというローレライの鍵。あれなら第七音素を集めるにはうってつけでしょう。・・・そう、大量の第七音素が必要なんですよ。数にするなら、素養があるものを入れても一万人の命があれば足りるかと」

「一・・・!?そんなの・・・」

「ええ。無理です。ルークにも忘れるよう伝えましたが・・・物覚えの悪い子供です」

「・・・なるほど」

俺は眼鏡の位置を直しながら聞く。

「・・・障気は負の存在。なら・・・」

「それこそ却下です。その闇・・・障気は間違いなくあなたの許容範囲を越える。個人の闇で暴走しかけたあなたでは・・・」

「・・・だよなぁ」

「別の方法を考えましょう」


ナタリアが口を開く。

「結局、ここで雪崩に巻き込まれた人間は、みんな助かったということですわね」

「・・・そういうことだな」

「ジゼル達はなんでモースに協力してるんだ?ジゼルの性格上アイツとは合わない気が・・・」

「ですが、以前から協力している節はありました。利害が一致している時は手を組む・・・」

「もしくはお互いがお互いを利用してるってことか?」

知也の言葉にジェイドは頷く。

「まあ、モースの思い込みだろうな。六神将は利用してるだけだろうし・・・」

その時、ルークが何か呟いていた。

「新暦1999年。我が娘メリル誕生の記念に・・・(ボソッ)」

「どうしたルーク?何か見つけたのか?」

「い、いや、ただのゴミだった」

「「・・・」」

それを怪しむ眼鏡二人。とにかくパッセージリングに行くと・・・

「・・・ここにも宝珠の気配はないか」

アッシュにルークが話しかけた。

「もしかして、その剣がローレライの鍵なのか?」

「またお前達か」

「アッシュ、教えて。ローレライはどこに閉じ込められていますの?それにヴァンは生きているのですか?」

「お前ならローレライと連絡が取れるんだろ?ローレライがどこにいるのか知ってるんだろ?」

「・・・いや、外殻大地降下の日からローレライの声は聞こえない。呼び掛けにも応じない」

「被験者のお前でも駄目なのか・・・」

「それならお前が知ってることを話してくれないか?」

「アッシュ、お願いですわ!」

ガイとナタリアに頼まれ、アッシュは渋々話始める。

「元々ローレライは、地殻からの解放を望んでいたようだ。俺やルークに接触したのも、地核に留まることでこの星に悪影響が出ると考えたためらしい」

「それならローレライが閉じ込められている場所は地核なのですか?」

「いや、今はいない。ローレライはお前達がヴァンを倒した後、地核から消えた」

「ならどこに・・・」

「奴は最期に言った。ヴァンの中に封じられた、とな」

「兄さんは生きているのね!」

「だけど、あの時のヴァンは相当重傷だったよな?」

黒羽の疑問に、アッシュは首を振る。


「そこまでは分からない。とにかくアイツはローレライを体内に取り込んだんだ。第七音素には癒しの力がある。それが幸いしたんじゃないか?」


・・・とにかく、ローレライの解放とはヴァンからの解放という訳で、その為には宝珠が必要らしい。ルークが受け取らなかった以上、どこかのパッセージリングに投げ出されたと考えたアッシュは各地のパッセージリングを回っているらしい。ルークは同行しようと言ったが、相変わらず口喧嘩をしてアッシュは去っていった。俺達はひとまず預言士がいるというバチカルに行くことになり・・・



「なんだか、随分慌ただしいね」

「おい、何かあったのか?」

ルークが近くの兵に尋ねる。

「ダアトから手配中のモースを発見して連行したんだ!」

「なんですって!」

「だが隙をついて逃走されてな。これから街を封鎖して捜索するところだ」

「ではまだモースはバチカルのどこかにいるのですわね」

「俺達もモースを捜そう!」

「悪人が逃げるなら・・・!」

「封鎖されていない港ですね!」

黒羽と撫子の言葉に俺達は走り出す。

「待て!モース!」

あっさりと見つかり。すぐに追い詰める。

「潔くローレライ教団の査問会に出頭し、自らの罪を認めなさい」

「冗談ではない!罪を認めるのはお前達預言を無視する愚か者共だ!私は正しい!お前達には何故それがわからぬのだ!」

「・・・上等!だったら俺が裁いてやる・・・!」

左手を異形に変え・・・

「いけません、サキ!」

『落ち着くッス!』

「ええい、裁かれるのは貴様だ!」

「この・・・!」

「そうですとも、モース様!」

その時、空からディストがやって来た。

「おお、ディストか!」

・・・冷静だったジェイドの目が光った。

「・・・ディスト。いっそのことず~っと氷付けにしておけばよかったかも知れませんねぇ」

「だ、黙りなさい!あなたは昔からすぐ約束を破って!卑怯じゃないですか!・・・さあ、モース様、こんな奴等は放っておいて、エルドラントへ参りましょう」

「待て、ディスト!わしはこの場で導師の力を手に入れる」

「よろしいのですか?エルドラントで厳かに行う方が・・・」

「世界のあるべき姿を見失っているこの愚か者共に、わしの新たな力を見せつけるのだ」

「それでは・・・遠慮なく!」


ディストがモースに何かをし始める。

「ディスト!何をしているのです!その技は・・・」

「おだまりなさい!」

「がはぁっ!?」

一瞬目が眩み・・・次の瞬間にはモースは人間の姿を留めていなかった。

「な、なんだあれは・・・」


「・・・私の目と同じです。体に音素を取り入れる譜陣を刻んで力を上げる。ただあれは・・・第七音素を取り入れる譜陣です」

「第七音素の素養がない人がそんなことをしたら全身の音素が変異します!」


「ぐふぅ・・・ディスト!?なんだ、この醜い姿は!」

「(元からだろ)」

「それは第七音素を暴走させないため、最も相応しい形を取ろうとしているまで。ご安心下さい。力は導師そのものでございますとも!」

「・・・おおお!これは・・・!確かに力がみなぎってくる!これは始祖ユリアのお力か!」


ラプソーンみたいになったモースが空を飛ぶ。

「わしはこのままエルドラントへ向かう。お前も後で来るがいい」

モースが飛び去っていく。

「人間があんな姿になっちまうのか・・・」

「・・・」


俺は思わず黙る。

「素養の無い第七音素を取り込めばいずれ第七音素との間に拒絶反応が起こり、正気を失います」

「モースは導師の力を欲しがっていましたから、本望でしょう。ま、私は実験ができれば誰でもよかったのですがね」

ディストも去っていく。

「・・・しまった、逃がしたか」

・・・とにかく訳が分からないことが多すぎる。今までのことを、テオドーロさんに報告することになった。・・・のだが。

「ごめん。バチカルに来たついでに陛下に挨拶していきたいんだけど・・・」

ルークが提案する。

「あら、そうですわね。参りましょう」

「あ・・・」

「ルーク、行きますわよ」

「う、うん・・・」

歯切れが悪いルーク、んで・・・

「あ、あのさ。俺一人で陛下に会いたいんだけど・・・」

「まあ、どうしましたの?私達が一緒では不都合でもありますの?」

「そ、そう言う訳じゃないけど・・・」

ガイがニヤリと笑った。

「ははは、馬鹿だなあ。お前は嘘が下手なんだから正直に話しちまえよ」

「ガイ!?」

「実はねナタリア。こいつはピオニー陛下から私的な手紙を預かってるんだ」

「まあ、それならどうして隠しますの?」

そしてジェイドもニヤリと笑った。

「実はここだけの話ですが、陛下はあなたを王妃にとご所望なんですよ」

「わ、私!?私にはルークが!あ、でもアッシュが・・・この場合どうなるのでしょう」

うわーい。見事な位天然姫様だー。

「・・・知也、どう思う(ボソッ)」

「・・・嫌いじゃない空気だな。・・・ほら、相方がクールなもんで(ボソッ)」

「・・・ああー」

なんだかんだでナタリア以外が城の中に入る。

「おい、お前ら!」

「ごめんなさい。なんだか成り行きで・・・」

「お前、ロニール雪山でロケット拾ってたよな。それのことか?」

「う、うん・・・なんだ。ばれてたのか」

「そりゃ深刻な顔してロケット見てれば気になるさ」


「ええ。野次馬根性です」

「「で~す♪」」


「「あはは・・・」」


「・・・ふっ」

開き直る女子二名と顔を逸らす野郎二名、笑いを堪える男一名。

「・・・ナタリアには黙ってろよ」

そして・・・

「どうしたルーク?おや、ナタリアの姿が見えないが・・・」

「陛下。これを見てください」

「これは!」

ロケットを見て目の色を変える。・・・そしてアニスも固まる。

「俺、赤ん坊のナタリアってわかりません。でも陛下なら」

そこに写っているのは赤ちゃんだ。

「・・・これはナタリアだ。どこでこれを?」

「ロニール雪山です。六神将と一緒に雪崩に逢った場所でした」

「それ・・・前に見たことあるかも。チラッとだけど、確かラルゴが・・・」

「本当か!?」

「・・・ナタリアの乳母が暇をもらったそうだ。今はケセドニアのアスターの元で働いていると聞いた。行ってみるといい」


「わかりました」

「・・・ナタリアに、言うのか?」

「陛下はどう思いますか?」

「・・・わからん。知らせてやった方がいいのか・・・しかし、相手がラルゴなのだとしたら・・・」

陛下は俺を見る。

「はっきりした答えが出たら、一度陛下のところへ伺います」

「頼む。・・・しかしルーク。どうしたのだ。陛下などと、お前らしくない」

「・・・俺、レプリカですから」

「それはいらぬ気遣いだ。わしにとってお前も甥には違いないのだぞ」

「・・・はい」


・・・当然微妙な空気が流れる。

「驚きましたね。ナタリアがあのラルゴの娘とは」

「まだ決まった訳じゃない」

「・・・だけど、あの場にいたのは姉貴とアリエッタと詠・・・どう考えても当てはまんねーよ」


ナタリアの歳を逆算してもラルゴしかあり得ない。・・・・・・ラルゴ、だよな?

「(姉貴・・・隠し子とか止めてくれよ・・・)」

内心嫌な汗をかいていると、黒羽が話す。

「でも、それが本当なら・・・辛いな」

それに撫子が頷く。

「それにどうしますか?ケセドニアに行くのも・・・下手をしたらナタリアさんにバレてしまいます」

「リパル。案出せ」

『いきなりッスか!?・・・えっと・・・じゃあ、目的の預言士がケセドニアにいるという情報を得た・・・じゃダメッスか?』

「・・・いや・・・ナイスだ。流石だな、相棒」

『あ、ありがとうございますッス!』

俺はそれを皆に伝える。

「うん。それならナタリアも納得しそうだな」

「だけど・・・いつかナタリアに話すんでしょ?ナタリア・・・傷つくんじゃないかな」

アニスがチラッと俺を見る。

「・・・そうね。血の繋がった家族が敵になるのは辛いと思うわ・・・」

「・・・まあ、な」

「うん。特にナタリアはあれで脆いところがあるから心配だな」

「・・・」

ナタリアの心配をするルークに、ティアがムッとした。

「・・・まったく。どんだけ身内争いなんだか・・・」

俺は頭を掻く。敵の内半分が関係者ってなあ・・・

「お、おかえりなさい。あのお父様はなんて・・・?」

あ、そっか。天然姫は違う事情を話したんだ。

「いや、アッシュがいるからって言ってたけど・・・」

「アッシュが?お父様はアッシュと私をと考えていますの?ではあなたは・・・」

「あー、いや、だから、俺かアッシュかってさ」

とにかく、ジェイドに嘘を伝えて貰う。

「・・・大佐ってホントに嘘が上手ですよね。しれっとしてますもん」

「いえいえ。心苦しくて仕方ありません」

「どの口が言うんだか・・・」

取り敢えずユリアシティは後にして、今はケセドニアに向かうことになった・・・

 
 

 
後書き
サキ
「いやはや、身内争いってやだね」

リョウ
「爺臭いぞ、言い方が」

サキ
「うるせえ。いいだろ別に」

リョウ
「ふーん・・・ま、いいや。それじゃ、次回もよろしく!」

サキ
「人の台詞を・・・」 

 

浮島〜

 
前書き
ちーきゅうはこんーなにー・・・っとすみません。現実逃避してました。ではどうぞ。 

 
ナタリアに嘘をついてアスターさんのいるケセドニアに到着したのだが・・・

「あちらに人だかりがありますわ!行ってみましょう!」

ナタリアが走っていく。

「この隙に話を聞きにいったらナタリア怒るだろうな・・・」

「・・・ルーク、待って!何か様子が変よ」

人だかりの中心から声が聞こえる。

「さあ、預言を求める者はボクと共に来い。そこで預言を与えよう!」

「・・・嘘から出た真ってか」

「行ってみるか」

俺と知也もナタリアに着いていく。

「待ちなさい!ローレライ教団は預言の詠み上げを中断しています!その預言士は偽物です!」

アニスが言うが・・・

「これ心外だね、アニス。これから預言を詠むのはローレライ教団の預言士じゃない。・・・モース“様”が導師となって新たに拓かれた、新生ローレライ教団の預言士だよ」

そこにいたのは・・・

「イオン様・・・じゃない。アンタは・・・まさか・・・」

「シンク・・・やはり生きていたのか!?」

「やれやれ。これで六神将は全員生存確定ですか」

「・・・となると、ヴァンさんが生きてるのも事実ですね」

「そこまでわかっているなら真剣にローレライの宝珠を探した方がいいんじゃない?」

「お前らも見つけてないんだろ?」

黒羽の言葉にシンクは鼻で笑う。

「見つからない分にはこっちに有利だからね」

「相変わらずふてぶてしい!」

アニスがシンクを見据える。

「・・・シンク。新生ローレライ教団って、何?モースが導師って、どういうこと」


「モースはアンタに話してなかったのかい?裏切り者さん」

「・・・私は好きでモースの言いなりになってた訳じゃない!」

「安心しなよ。こっちも好きでモースを担いでいる訳じゃないさ。・・・さあ、邪魔が入ってしまったが、預言を望む者はついてこい」

その言葉に街の人が着いていく。

「待ちなさい!」

「俺達は預言が知りたいんだ!」

「そうだそうだ!」

「だけど・・・」

「アニス。ここは見逃して下さい。あなたならわかってくれますね」

「っ!・・・イ・・・オン・・・様」

シンクは卑劣にもイオンの真似をする。

「あははは!ボクと戦うってことはイオンと戦うことさ。忘れないでよね!」


「貴様・・・!」

「咲、ここには一般人が多すぎる」

「く・・・」

そのままシンクは去っていく。

「あいつ!酷いことを・・・」

ルークも怒りを露にしていた。

「アニス。気にしては駄目よ。シンクとイオンは違いますわ」

「そうさ。ルークとアッシュが違うようにね」

「・・・う、うん。大丈夫!全然気にしてないモン!ぜ~んぜん平気!」

「アニスさん・・・無理はいけませんよ」

撫子が声のトーンを落としながら言う。

『・・・』

リパルも同様だ。

「無理なんて・・・」

「ナタリア。すみませんがアニスを連れて気晴らしにバザーにいってください。私達は預言士に気を付けるようアスターに伝えてきます」

「わかりましたわ。アニス、参りましょう」

二人が去っていく。

「うまいなぁ、ジェイド」

ガイが感心する。

「でもダシにされてアニスが怒ってたわ」

「責任はジェイドが取ってくれるだろ」

「・・・まあ、落ち込んでんのはマジだしな・・・」

「責任はさておき、アスターのところへ行きましょう」

「ジェイドみたいな大人にはなりたくないな」

黒羽が呆れながら言うと、未成年組が頷いた・・・いや、成人組もだ。・・・そして・・・

「・・・わかりました。今後預言士には細心の注意を払いましょう」

「頼むよ。それで・・・」

「ナタリア様の乳母でございますね?イヒヒ。今呼びましょう」

アスターさんが手を叩くと女性が入ってくる。

「これはルーク様!」

「あなたに見せたい物があります」

ルークがロケットを見せると・・・

「これは、バダックの!?」

「バダック?」

「メリルの父親・・・シルヴィアの・・・私の娘婿です」

「・・・詳しく教えてくれるか?」

俺が聞くと頷き、話し出す。

「バダックは砂漠越えをするキャラバン隊の護衛を生業にしていました。気の置けない仲間には砂漠の獅子王と呼ばれていたとか。身の丈が大きくて心の優しい人でしたよ」

「獅子王・・・黒獅子・・・それに巨体か・・・共通点はあるな」

「間違いなさそうですね」

「それでバダックさんは今・・・?」

「娘のシルヴィアが亡くなってから姿を消してしまいました。それきり会っていません」

「・・・ありがとうございます。もう十分です」


アスターにお礼を言ってからアニス達と合流する。

「あら、もうよろしいんですの?アスターさんにお話しは伝わりました?」

「ああ、一応ね」

「・・・ルーク。後でちゃんと報告してよね」

アニスが不機嫌そうにルークを見る。

「わかってるよ。ごめんな」

「変なの。大佐じゃなくてルークが謝るなんてさ」

「やー。助かりますよ、ルーク」

「・・・嫌な大人です」

「なんのお話ですの?」

「いや、な、なんでもないよ」

「そうですの?それにしても新生ローレライ教団のことはきになりますわね」

「とにかくお祖父様に相談しましょう」
「となると、ユリアシティだな。俺はあの街が好きなんで、嬉しいね」

ガイの言葉にティアが嬉しそうに反応する。

「あら、そうだったの。でもどうして?」

ルークが横から言う。

「音機関。音機関」

「ああ・・・」

「・・・なんだよ。その冷たい声は。まあいいや。行こうぜ」


・・・と、言うわけでテオドーロさんに全部話して・・・

「・・・わかりました。まずは早急にローレライ教団の立て直しを図らねばなりませんな。教団のことはお任せ下さい。トリトハイムを中心に、なんとかしてみます」

「お祖父様。モースはエルドラントがどうとか言っていたわ。何か心当たりはある?」

「エルドラントというと、古代イスパニア神話に出てくる栄光の大地くらいしか・・・」

・・・するとテオドーロさんが、気になることを教えてくれた。第七音素が異様に消費されている場所があるらしい。一つは第八セフィロト付近の海中。もう一ヶ所は追跡中・・・そう、場所が移動しているらしいのだ。・・・基本海上を移動しているらしいので、アルビオールで捜すことになった・・・






































「・・・あれ!?島が動いてないか?」

「浮島?物理的にありえない・・・」

ガイが顔をしかめる。

「あの島・・・見覚えがある気がするんだが・・・」

「降りてみませんこと?もしかしたら何かわかるかもしれませんわ」

「そうだな・・・ノエル。降りられるか?」

「はい、大丈夫です」

島に降りると・・・

「やっぱり、見覚えがあるんだが・・・」

「フェレス島ではありませんか。ホド消滅の影響で津波に潰された・・・」

「そうだ!ホドの対岸にあったあの島だ!」

「フェレス島?」

ルークがガイに聞く。

「ホド諸島の島だよ。ホドがあった頃は交流が盛んだったんだ」

「でも・・・いくら津波に流されたからって陸が浮島になるなんて・・・」

取り敢えず先に進むことになる。


「・・・先程から同じような建物が続きますわね」

「そういえば、確かにそうだな。ガイ、なんでだ?」

「ん?ああ・・・俺も詳しく知らないんだが、この街は一人の建築家が全てを監修したって聞いてるな。その建築家の名前がそのまま島の名前につけられたんだ」

「ふーん・・・亮がいなくてよかった」

「?何でですか?」

撫子が聞いてくる。

「アイツ、方向音痴なんだよ。同じとこ数回行かないと道覚えないしよ」

「・・・本当か?」

黒羽も食いついてくる。


「ああ、物覚えが悪いんだろうな・・・」




















亮~

「はっくしょん!」

「風邪ですか?気を付けてくださいよ、リョウ兄さん」

「風邪・・・かなぁ?」

「リョウ、風邪なの?」

「んー・・・誰か噂でもしたんじゃないかな~?」

「顔色は悪くないから、そうかもしれないわね」

「体調管理も騎士の必須科目だからな」

「ああ、本当に大丈夫か?リョウ」

「平気平気。アス兄は心配性だなあ・・・(誰が噂したんだか・・・)」













咲~


・・・ある程度進んだ時、声が聞こえてきた。

「誰かいるわ」

「その声は・・・!」

アニスが駆け出す。

「・・・アニス!」

アリエッタだ。隣に座っていたライガが戦闘態勢に入る。

「ここはアリエッタの大切な場所!アニスなんかが来ていい場所じゃないんだから!」

「フェレス島が大切な場所だって?どういうことだ」

「ここは・・・アリエッタが生まれた街だから。アリエッタの家族は、みんな洪水で死んじゃって、アリエッタのことはライガママ達が助けてくれた。サキがいなくなって、寂しかったけど、ある日ヴァン総長がきてアリエッタを仲間にしてくれたの。沈みかけてたフェレス島を浮き上がらせて、アリエッタのための船にしてくれた」

「・・・」

「ヴァン総長も六神将のみんなも、ここを基地にするって何度も遊びに来てくれた」

「兄さん達はここを本拠地にしていたのね」

「それならフォミクリー施設もありそうですね」

「レプリカの機械ならあるよ」

アリエッタはそう言った。

「だってヴァン総長が、アリエッタの街を復活させてくれるって約束してくれたもん」

「・・・アリエッタ、お前の親は死んでるんだ。レプリカじゃ単なるまやかしだ」

「なんでそんなこというの!そこにいるルークだってアッシュの代わりじゃない!」

俺の言葉にアリエッタが反論する。

「イオン様もアリエッタのことわかってくれた。ヴァン総長に協力してた!イオン様が変わっちゃったのは、アリエッタの代わりにアニスが導師守護役になったから!」

俺はそれに真実を口にしようとした。

「それは違う!お前はヴァンに騙されてるんだ!イオンは・・・お前が慕っていた本当のイオンは・・・」

「サキ!黙ってて!」

「アニス・・・!?」

「なのにアニスはイオン様を裏切った!」

「何?ここで決闘するって言うの?」

「場所は立会人のラルゴが決めてくれる。ラルゴからアニスに連絡が行く」

アニスはライガに乗り込む。

「アリエッタはイオン様とヴァン総長のために戦ってた。だけどもうイオン様はいない。仇を取るためにも、アリエッタは負けないから!そして、サキと・・・みんなとまた一緒に暮らすんだ!!」

そう言ってアリエッタは去っていく。


「馬鹿みたい・・・あの子騙されてるのに・・・」

「アニス・・・どうして・・・」

「だって・・・」


「・・・ここで問答は無駄です。とにかく、この中に入ってみましょう」

アリエッタの背後にあった建物に入る。そこには・・・

「ビンゴ、だな」

知也が装置を見上げる。

「しかもこれ、動いてないか?」

「では、ここでレプリカを・・・」

「止めましょう。第七音素の減少が多少はマシになるかもしれません」

「ああ。これ以上レプリカを増やしちゃ駄目だと思う。レプリカなんて・・・俺一人でたくさんだ」

「ルーク・・・」

その時だった。上からレプリカ・・・マリィさんがいた。

「やめろ!どうしてそんなことをする?我々の仲間が誕生するのをどうして拒む」

更にイエモンさんのレプリカもやってくる。

「我々はやがて天の大地に新しい住処を与えられる」

「我々の邪魔をするな」

「あなた達はそれでいいんですか。望まれて誕生した訳じゃないんですよ」

「そんなことはない。我々はモース様に求められて誕生した」

「・・・姉上。あなたがそう仰るなら、そうなのかもしれません。でもあなた方が住むと言う大地が完成したら被験者は殺される」

「我々を望まぬものが殺されようと我々は知らぬ」

「馬鹿なことを言うな!被験者がいなければ、俺達は・・・レプリカは誕生しないんだぞ!」

「だからどうだというのだ。生まれた以上、被験者に遠慮をすることなどない」

「ルーク。あなたは彼らを少しは見習った方がいいわね」

「・・・え!?」

ティアの言葉に驚くルークに、ガイが付け足す。

「自信だよ。アッシュがお前に苛つくのも、そいつが欠けているからだ」

「傲慢なまでの生存本能・・・と言ってもいいわね。・・・もっとも昔のあなたにはあったものよ」

「我々を傲慢だと言うのか」

「ええ。そうよ。あなた達の言葉。いつかあなた達自身に跳ね返るかもしれないわ。その時も同じことが言えるのかしら」

場を沈黙が支配したその時・・・

ズズン・・・!!

辺りが揺れる。

「大変だ!モース様が我々を残したまま計画を」


俺達は外に出る。

「どうなってるんだ!あれは一体・・・!」

「モース様。我らも新生ホドに迎えてくださる約束では・・・」

空に浮かぶ大地・・・それがホド?

「新生ホド?じゃああれはホドなのか!?」

ガイが驚く。

「我々はどうしたらいいのだ」

「レムの塔へ向かおう。必ずモース様は迎えに来て下さる」

レプリカ達が去っていく。

「どうすんだジェイド。アイツらは・・・」

「まあ、私がモースなら見捨てますね。レプリカ情報さえあれば彼らの代わりは無限に作れる」

「・・・なあ、あの空に浮かぶ島は本当にホドなのか?だとしたらアレはヴァンの計画していたレプリカ大地ってことになるぜ」

「上陸してみればわかるんじゃない?」


「危険な気もしますが・・・まあいいでしょう」

俺達はアルビオールに戻る。・・・まったく、何がどうなってんだ・・・ 
 

 
後書き
サキ
「レプリカ多いんだよ!!」

リョウ
「いきなりなんだよ・・・」

サキ
「いや、作者が叫んでた。レプリカみんなしゃべり方同じで書き分けらんないって」

リョウ
「いいよそんな裏話・・・」

サキ
「それじゃ、次回もよろしくなー!」

 

 

到来〜

 
前書き
原作ブレイクってレベルじゃねぇぞ!?・・・ではどうぞ。 

 
俺達はノエルに頼み、エルドラントに近づくよう言ったが・・・


「・・・これ以上は近づけません。プラネットストームの防御壁を突破するのは不可能です!」

「ってことは、プラネットストームがある限り、近づけないってことかよ・・・」

「仕方ありません。グランコクマへ行きましょう。軍本部にホドの情報が保管されています」

「わかった。だけど本当にレプリカ大地だとしたら、どうしたらいいんだろう」

「さあな・・・とにかく行こうぜ」

俺達はグランコクマに降り、軍本部に向かうが・・・途中、俺の体に異変が起きた。


「う・・・!?」

突然視界が揺れ、膝を着く。

「咲さん!?」

撫子と黒羽が俺を覗き込む。

「なん、だ・・・?急に・・・目眩が・・・」

ドクン

「ぐっ・・・」

闇が安定しない。暴走する程ではないが・・・

「・・・もしかしたら、障気のせいかも知れませんね」

ジェイドが言う。

「障気・・・が?」

「ええ。闇の源が“負”なら、障気も負の存在です。・・・知らず知らずにあなたの闇は障気を引き寄せていたのではないですか?」

「・・・いや、どっちかと言うと、俺の闇が引っ張られる感じだな・・・」

目眩も収まり、俺は立ち上がる。

「おい、平気か?」

知也の言葉に頷き、答える。

「・・・だけど、顔色が悪いな。サキ、休んでた方がいいんじゃないか?」

ルークが心配そうに声をかけてくるが・・・

「いや・・・俺だけ休んでる訳にもいかないからな・・・」

「なら、せめて室内にいた方がいい。サキはピオニー陛下に知らせてくれないか?俺達は軍本部に向かってから行くぜ」

「・・・わかった」

ガイの提案を受け入れる。

「では、撫子、黒羽、知也。サキに着いていって下さい」

「はい」

「「ああ」」

俺達は別れ、ピオニー陛下の元に向かう・・・時だった。

『聞け!預言を忘れし愚かな人類よ!』

いきなり声が響き渡る。この声・・・!

「モースの声か?」

『我が名は新生ローレライ教団の導師モースである。ひゃは、ひゃはははっ!今や世界は魔界に呑まれ、障気に包まれ滅亡しようとしている。それは何故か!キムラスカとマルクトが始祖ユリアの預言を蔑ろにしたためだ』


その後、モースはキムラスカやマルクトを批判し続け、預言通りの世界が正しいと述べた。・・・これは・・・

「不味いですね・・・」

「ああ。間違いなく市民は混乱する」

「そしてそれが何れは暴動に繋がる・・・か」

ピオニー陛下の元に到着し、しばらく話した時・・・ルーク達がやって来た。

「色々話しは聞いた。・・・ホド諸島の一部が消滅したとか」

「(・・・なんだよ、それ)」

「(推測ですが、エルドラントの周囲の第七音素同士で超振動が発生したのだと思われます)」

その話はルークの頭を悩ませる。

「さっぱり意味がわかんねぇ・・・」

「つまり、レプリカ大地が誕生すると、超振動が起きて被験者の大地が消滅してしまうのよ」

「じゃあ止めないと大変なことになるじゃないか!」

「レプリカ大地を作っているフォミクリー装置はどこにあると思う?」

「エルドラントでしょうね。大地の情報を抜き取るには相当の時間がかかります。今ならまだ食い止められる」

「貴公らに任せていいか?我々には空を飛ぶ術がない」

「もちろん、やれるだけのことを致しますわ」

「地上の警戒はマルクト軍で行おう」

「我がキムラスカも協力致します」

そして、タイミング的にもちょうどいいので、預言のことを話す・・・預言会議について説明する。

「・・・よし、承知した。何時でも日程を空けよう。場所はダアトで構わないのか?」

「はい。それがいいと思います」

「インゴベルト陛下は事情をご存知だから、次はテオドーロさんに確認だな」

「ええ。ユリアシティに行きましょう」

外に出ると・・・

「ここにいたのか・・・」

「ラルゴ・・・!!」

「ようやくのご登場ですのね。会いたくはありませんでしたけれど」

「ははは。そういやなことを言うな。アリエッタはチーグルの森でお前達を待つそうだ」

「アリエッタ・・・本気で決闘する気なんだね」

「僕たちの森で戦うですの?」

「どうして・・・」

「・・・ライガクイーン」

俺はポツリと呟いた。

「そうだ。あの森はアリエッタの母親が亡くなった場所だからな」

「立会人はあんただったよね」

「アリエッタが負けたら、次はあなたが相手という訳ですか」

「俺は立会人の仕事しかせんよ」


・・・ラルゴは不敵な笑みを浮かべる。

「それにアリエッタが負けるとは思っていないのでな」

そう言ってラルゴは去っていく。


「・・・よーし。じゃあアリエッタの奴に引導を渡すか」

「アニス・・・無理、してるんじゃないか?」

「そうだぜ。大丈夫か?」

俺とルークの言葉にアニスは返してくる。

「・・・サキはともかく、ルークは他の人に気を使った方がいいんじゃないの?」

「誰に?ナタリアか?」

「この間から、すっごい傷つけてるの気づいてないんだ」

「そういうとこは成長してないからな」

「なんだよ、はっきり言えよ!」

「その内にな」

・・・俺達はチーグルの森へ向かう。

『咲さん・・・いいんスか?』
「・・・いい訳ないだろ。決闘なんて・・・必ず、アニスかアリエッタが死ぬ」

『じゃあ、どうするッスか?あえて決闘を受けないで、恨みを持たせ続けるのはアニスさんが・・・』

「それは本人が否定している。・・・俺は、真相を伝えたい」

『でも・・・』

「混乱するかもしれない。もしかしたら壊れてしまうかもしれない。けど・・・」


『咲ィィィィッ!!』

『亮ォォォォッ!!』


頭によぎるあの争い。

「それでも・・・真実を伝えて・・・俺は・・・」


『サキ・・・アリエッタに伝えてくれませんか・・・“騙していて、すみませんでした”・・・と』

「・・・イオンの最後の言葉を伝えなきゃいけないんだ」

『・・・』

そしてチーグルの森・・・


「みんなはここで待ってて」

「・・・アニスさん、まさか一人で・・・」

「うん、これは私の問題だから・・・」

「違う!」

アニスをルークが止める。


「イオンは俺達の仲間だった。イオンのことなら俺達の問題だ。・・・それにアニスだって仲間だろ」

「・・・私が?ずっとみんなを騙してたのに?」

「それは仕方がなかったのでしょう?」

「アリエッタには魔物の友達がついている筈だ。アニスには俺達がついていかないとな」

「イオン様は私の身代わりになってくださった。決闘なら、私も行くべきだわ」

「やれやれ。仲間・・・という言葉が正しいかどうかはわかりませんが・・・まあ、腐れ縁であることは認めますよ」

「大佐らしい言い方」

「私達だって、アニスさんを仲間と思っています」

「仲間の仲間はまた仲間・・・ってな」

「狙い撃つ相手が同じなら、仲間って言葉もあながち間違いじゃないのかもな」

「アニス、俺には・・・やらなきゃいけないことがある。だから俺も行く、行かせてくれ」

「・・・うん。わかった。みんなにも着いてきてもらう」

「よし、決まりだな」

そのまま森の中心部まで進む・・・いた。アリエッタだ。

「・・・待ちかねた、です!」

「・・・やるならとっとと始めようよ」

アリエッタはライガに跨がり、アニスもトクナガに乗る。

「ライガ!」

ズガン!

ライガの雷が俺達とアニスの間に落とされ、間が開く。

「みんな、来て!」

そして俺達を囲むように魔物の群れが現れる。

「アニス!奥で一騎討ち!」

「・・・いいよ!相手してあげる!」

「ま、待て、二人とも・・・!うわっ!?」

ライガの一撃がルークを掠め、アリエッタ達は奥へ姿を消す。・・・くそ!

「咲!お前は行け!」

知也がトリガーマグナムとメモリを二本取り出す。
『アサルト!サイクロン!マキシマムドライブ!」

「吹き飛ばす!トリガー、アサルトサイクロンバースト!!」

ズバババババ!!

まるで雨のように打ち出された風が道を切り開く。

「今だ!!」


俺は間を抜けるように走る。すぐに隙間は塞がれ、背後の様子は不明だが・・・

「(止まる訳には・・・いかねぇ!)」

走る。ただ走る。・・・だが、どうやら俺の身体は空気を読んじゃくれないようだ。

ドクン

「ぐぅ・・・!」

よろめき、膝に手を置く。・・・たった一瞬、ほんの数秒意識が逸れたことで俺は背後の殺気にも、リパルの声にも反応することをできなかった。

『咲さん!後ろッス!!』

「な・・・」

ドスッ・・・

「ーーーー!?」

「・・・随分とあっさりね」

「・・・え、い・・・?」

振り返った視線のすぐ下に・・・詠がいた。ただ、一瞬何故だか理解ができなかった・・・彼女は・・・

「・・・ごふっ・・・」

自らの剣で、俺を貫いていた。

「・・・はぁ!」

ガン!

「がっ・・・」

蹴り飛ばされ、同時に剣も引き抜かれて俺は倒れる。

「運良く一人になってくれてよかったわ。ヴァン総長にはアンタを殺せって言われたから・・・」

詠は不気味な笑みを浮かべる。

「・・・いつ殺せるか、待ちかねていたわ」

「ぐ、え・・・い」

「・・・ふん」


ドンッ!

「ぐぁ・・・!」

傷を深くするかのように、詠は傷口を踏みつける。

「く・・・そ!」

詠を払いのけ、闇を集めようとするが・・・

「それは使わせないわよ!」

ヒュオン!

「・・・っ!」

素早く詠が肉薄し、二本の剣を振るってくる。避けることに意識を回したせいで、闇が四散する。

「くっそ・・・!だったら!」

空間から武器を出そうとした瞬間・・・

「フリーズランサー!」

ズシャア!

「ぐわぁぁぁ!?」

氷の槍が腕を貫き、背後の木に縫い付けられる。

「みすみす能力を使わせると思った?」

不味い・・・不味い不味い不味い!手の内を読まれている!亮と違い、俺には戦闘の際に若干のタイムラグがある。武器を取り出したり、闇を使用するタイムラグが。アニスから得た情報を詠は的確に生かしている。どうする・・・どうすーーーー

ズル・・・

「随分と余裕ね」

胸元に、剣が刺さっていた。

「が、ぁぁぁぁ!?」

ズル・・・ズル・・・

徐々に剣が埋まっていく。

「ほら・・・さっさと死になさい!」


死ぬ・・・死ぬ、のか・・・?詠は右手に持った剣を振り上げる。

「流石に首を落とせば死ぬわよね?」

ああ・・・死ぬのか。こんなにアッサリと。・・・不意に視線を落とした時、剣を握る詠の指が視界に入った。

「あ・・・」

それは、俺がプレゼントしたあの指輪。
「そう、だ・・・」



『・・・これ、大切にするわ』

『ああ。似合ってるからな。・・・大切にしてくれ』

「約束・・・したもんな」

俺は左手を異形に変化させ、無理矢理腕を動かし、氷の槍を引き抜く。

「なっ!?」

更に一撃を放ち、詠を吹き飛ばす。

「約束したんだ・・・!詠、お前とずっと一緒にいるって!思い出してくれ、詠!俺との・・・約束を!あの花火の下でした約束を!!!」
「・・・約、束」

・・・その瞬間、詠に異変が起きた。

「約束・・・?ボク・・・私・・・違う・・・私は、六神将の・・・董卓・・・あ、あぁぁ・・・ワアアアアアアアア!!!」

詠は絶叫し、頭を抱えながら飛び去ってしまう。

「詠!?詠ーーーッ!!」

『咲さん!今は・・・』

リパルの言葉で我に戻り、右腕にも刺さった氷を引き抜きながら奥に進む。・・・そこには・・・

「アニスがイオン様を殺した!殺したんだ!」

「そっちだってタルタロスのみんなを殺したでしょ!こっちもみんなの仇だよ!」

アニスとアリエッタはお互いに防御を考えず、ただ全力でぶつかり合っていた。

「アニスなんか・・・死んじゃえ!」

「決着・・・つけるよ!」

そして二人に大量の音素が集まる。

「荒れ狂う殺劇の宴・・・!」

「いなくなっちゃえ・・・!」

「・・・!」

考えている暇はない。俺は闇を集中させ・・・走り出した。

「殺劇舞慌拳!!」

「イービルライト!!」

開閉能力は間に合わない。見たところアニスは近接、アリエッタは遠距離の秘奥義だ。距離を開いたら、アニスが死んでしまう。なら・・・

「閉じろ!」

閉じたのは・・・“俺”と“二人”の距離。俺は二人の間に割り込み・・・

ズガァァァァン!!!













「・・・え?」

「どう、して?」

俺は・・・二人の秘奥義をまともに喰らった。

「ぐ・・・ぅ・・・」

膝をつき、倒れそうになるのを手をついて耐える。

「サキ!?どうして・・・」

「サキ!?サキ!?しっかりして!」

ライガから飛び降りたアリエッタが駆け寄ってくる。・・・俺は朦朧とする意識に耐えながら、アリエッタの肩を掴む。アリエッタは今までの真っ黒な服ではなく、白を基準とした決闘装束を見にまとっていた。だからこそ、アリエッタの服に俺の血が目立つが・・・

「アリエッタ・・・俺は・・・俺はお前に伝えなきゃならないことがある・・・」

「サキ!まさか・・・」

アニスの言葉に返事をする余裕はなかった。

「あの時・・・あの時俺がいなくなったのは・・・」

俺は話す。ヴァンが俺を斬ったこと。アリエッタを利用していたこと。アニスは両親を人質にとられていたこと。そして・・・アリエッタが慕っていた被験者イオンは二年前に亡くなっていることを。

「そん、な・・・」

アリエッタの瞳から光が消え、その場に座り込んでしまう。

「イオン様は・・・もう・・・死んでた・・・じゃあ、アニスと一緒にいたイオン様は・・・」

「・・・レプリカだ。導師イオンの・・・な」

「嘘・・・嘘だ・・・」

「アリエッタ・・・」

「そんなの・・・イオン様が死んでたなんて・・・嘘・・・」

「嘘じゃない・・・真実、なんだ」

「じゃあ、わたしが導師守護役を解任されたのも・・・」

「記憶の矛盾・・・いや、それ以前にレプリカとバレない為の保険・・・」


「あ、ああ・・・」

「・・・」

「いやぁぁぁぁ・・・!!」

アリエッタが泣き叫ぶ。

「じゃあ、じゃあ・・・わたしは、わたしは・・・!ずっとみんなに騙されて・・・サキがいなくなったのも、イオン様がいなくなったのも全部・・・!」

「アリエッタ・・・」

アリエッタは俺の手を振り払う。

「もうやだ!誰も・・・誰も信じられない!!」

・・・こうなることは予想できた。ここからは言葉のミスは許されない。

「アリエッタ!」

「・・・っ!」

「どうして・・・どうしてお前が導師守護役を解任させられるだけだったか・・・分かるか?」

「え・・・?」

「ヴァンなら・・・アイツなら、目的の障害になりそうな者は排除するだろう。だけど、そうしなかったのは、被験者イオンが頼んだからじゃないか?」

「イオン、様が・・・」

「導師守護役解任を言い渡したのも導師なら、きっとアリエッタの助命を言い渡したのも導師の筈だ」

「どうして・・・」

「少なくとも・・・被験者イオンは、アリエッタに“生きて”欲しかったんじゃないか?」

「生きて・・・」

「もし導師なら、きっと自分が死ぬ定めを知っていたんだろう。だからこそ・・・自分が生きられなかった世界をアリエッタに生きて欲しかったんじゃないか?」

「・・・イオン様・・・」

「・・・それに、レプリカのイオンからも伝言がある。“騙していて、すみませんでした”・・・って。アイツも・・・最後の時もアリエッタのことを気にかけていた・・・」

「・・・う・・・」

「・・・だから・・・」

「でも・・・でも!ルーク達はママを殺した!それだけは・・・それだけは変わらない!!」

「・・・」

その時だった。俺の背後から・・・ライガクイーンが姿を現した。

「・・・え・・・?」

アリエッタの目が見開かれる。

「ライガクイーン!?」

アニスも驚いているようだ。

「ライガクイーンは死んじゃいない・・・だから、お前は俺達と戦う理由はないんだよ」

「え・・・え・・・」

アリエッタの思考は追い付いていないようだ。・・・当たり前か。俺だって混乱するだろう。

「・・・なあ、アリエッタ」

「・・・」

「また・・・みんなと再開できたな」

ライガにライガクイーン、そしてアリエッタと俺・・・

「あ・・・ああ・・・」

アリエッタの目に涙が溜まる。


「ずっと言えなかった、言葉を言わせてくれないか?」

「サ、キ・・・」

俺はアリエッタの頭に手を乗せる。

「ただいま、アリエッタ」

「・・・う、ぁぁぁぁ・・・!!わぁぁぁん・・・!!」

アリエッタは泣きながら俺に抱き着いてくる。

「アリエッタ・・・お前は・・・どうしたい?」

「離れたくない・・・ずっと、ずっとみんなと一緒にいたい!もうサキと・・・敵対したくない!」

「・・・そうか」

「・・・やれやれ、困ったな」

ずっと隅で様子を見ていたラルゴが近づいてくる。

「結果を報告しなければならんが・・・このままじゃ俺はアリエッタを裏切り者と報告しなければならなくなる」

するとラルゴは大鎌を取り出す。

「・・・っ、貴様・・・!」

「どけ、小僧」

「退くかよ!もう目の前で・・・俺の家族はやらせねぇ!」

だが・・・流石に限界を越えていたようだ。立ち上がろうとした瞬間・・・俺は地に伏していた。

「あ・・・ぐ・・・」

「サキ!?・・・やめて、サキに手を出さないで!」

「なら大人しくしてるんだな」

アリエッタに大鎌が突き付けられ・・・

「やめろ・・・やめてくれ・・・!」

アニスも間に合わない。そして・・・

シャキィン!

「・・・え?」

アリエッタが唖然とする。ラルゴの手には・・・半分ほど切られたアリエッタの髪があった。

「遺体は音素乖離したと報告すればいいだろう」

「ラルゴ・・・どうして?」

「もうお前は六神将の妖獣のアリエッタじゃない。そこの小僧の家族だ。・・・あばよ。せっかくの幸せを捨てんなよ」

「待て!」

ルーク達が走ってくる。・・・どうやら全員無事みたいだ。

「・・・お前はいいのか・・・バダック」

ルークがその名を呼ぶ。

「・・・その名はとっくに捨てたよ。妻の眠るバチカルの海にな」

ルークがロケットをラルゴに渡す。

「なるほど。お前が拾っていたのか」

「名乗らないのか?」

「名乗ってどうなる?敵は敵。それだけのことだ。坊主は甘いな」

ラルゴは背を向ける。

「次に会う時はお前達を殺す時だ」

ラルゴの姿は森林へと消えていく。

「ルーク。どういうことですの?」

「ごめん。今は話せないんだ」

「・・・それなら、何時かは話して下さいますのね」

「・・・ああ。必ず」


その時、ルークの表情が固まる。

「ら、ライガクイーン!?」

「・・・!」

ジェイドが身構える。

「待て・・・ジェイド・・・!」

俺はジェイドを止める。

「ライガクイーンに争う意思はない・・・そうだろ?」

ライガクイーンは“そうだ”と返してくる。そして更に・・・

「ライガクイーンは・・・チーグルとの共存を望んでいる。・・・全て、謝罪すると言っているよ」
「みゅうう・・・悪いのは僕ですの。ごめんなさいですの」
「ぐるるる・・・」

「『気にしてない』ってさ。・・・代わりにチーグルの長と話がしたいって・・・」

「わ、わかったですの!」

俺は意識を失いかける。

「悪い・・・限界、みたいだ・・・休ませて・・・も、ら・・・」

俺は目を閉じる。・・・まったく・・・この世界に来て・・・一番のダメージ・・・だな・・・

 
 

 
後書き
リョウ
「へぇ・・・やるじゃん」

サキ
「ああ・・・なんてか、アリエッタは死なせずに済んだ」

リョウ
「原作じゃここで死ぬもんな」

サキ
「そうなったら本当に嫌だな・・・それじゃ、次回も楽しみに待っていてくださいっと」

リョウ
「また次回会いましょう!」 

 

レムの塔〜

 
前書き
生存させたものの、アリエッタのキャラわかんないよ〜(泣)ではどうぞ。 

 
「う・・・」

ゆっくり目を開く。ここは・・・

「ファブレ家の屋敷・・・?」

俺は起き上がり、体を見渡す。・・・どうやら傷は治ったみたいだ。

「サキ!」

すると、不意に誰かが飛び込んできた。

「あ、アリエッタ?」

「目が覚めてよかった・・・サキ、大丈夫?」

「あ、ああ。もう平気。・・・あの後・・・」

「えっと・・・ユリアシティで何かの話をして、それでバチカルに来ることになって・・・よく分からない」

「分からないって・・・」

「アリエッタ、ずっとサキといたから・・・」

「・・・そっか」

アリエッタの頭を撫でる。アリエッタは笑顔になりながら俺の胸元に顔を押しつける。

「アリエッタ・・・」

その時、扉が開いて撫子が入ってきた。

「あ・・・」

すると撫子は不機嫌そうになり、俺に近づくと・・・

「無茶しすぎです!!」

・・・大声で怒鳴った。俺はしばらく撫子に説教される。

「ーーーーーなんです。聞いてますか!?」

「は、はい・・・ごめんなさい・・・」

「愛依がいたらもっと長引くでしょうが・・・ここまでにします。ですが、次にまた無茶をしたら・・・」

「したら・・・?」

「シィさん達に女装写真をばらまきます」

「心の底からすみません!!」

取り敢えず、アリエッタを降ろして俺も立ち上がる。

「(ビキキッ)ーーーーー!・・・ふぅ」

筋を伸ばして今度は曲げる。

「詳しい情報を頼めるか?」

「分かりました」

・・・撫子が言うには、大量に作られたレプリカが世界中に現れ、混乱を起こしているらしい。だが、そのレプリカ達は全員レムの塔へ向かい始めている。そしてインゴベルト陛下にラルゴのことを話し、今は会議のスケジュールを合わせる為にみんなが別行動を取って、ルーク等はここで一晩過ごすようだ。

「なるほどな。んじゃ、今はフリーな訳か・・・まあ、取り敢えず外に出るか」
「そうですね」

そう言って歩き出そうとした時・・・アリエッタが俺の裾を掴んだ。

「え、えっと・・・」

「・・・よし」

俺はアリエッタの脇に手を回し、首もとに乗せる。

「高い高ーい」

「さ、サキ!?」

「ほら、しゅっぱーつ!」

「・・・ふふ」


アリエッタが笑った。俺はそのまま外に出て・・・後悔した。


「咲・・・誰だよ、お前」

「ロリコン・・・いや、シスコンだったか・・・」

黒羽と知也が冷たい目で俺を見ていた。そりゃもう、冷や汗がでる位に。

「・・・か、家族は大事だよね・・・」

『咲さん・・・視線が逸れてるッスよ・・・』


それが、俺が唯一発した言葉だった・・・






































































・・・ルーク達と合流し(アリエッタは中庭で遊んでいる)入り口で話していたら、アッシュがやって来た。どうやらルークが呼んだらしい。

「お前がここに足を踏み入れるとはな・・・」

「二度とここに戻ることはないと思っていた」

「アッシュ、ローレライはどうだった?」

「ローレライとは繋がらなかった。やはりヴァンの中に取り込まれ、交信不能にされているんだろう」

「じゃあローレライの宝珠がどこにあるかは・・・」

「わからない。だが、ローレライは地核からセフィロトを通じて鍵を流した。お前が受け取っていないなら、セフィロトの何処かに辿り着いている筈なんだ」

「だけどセフィロトはアッシュが探したんでしょ?もしかして探し損ねてるとか」

「俺はそんな間抜けじゃない。こいつじゃあるまいし」

「どういう意味だ」

「剣と宝珠は反応しあうそうだわ。見つけられない筈はないと思うけど・・・」

「宝珠が見つかんなきゃ、ヴァンの思うつぼだな」

俺が言うとアッシュは舌打ちをする。

「ちっ。八方塞がりか・・・障気のせいで、街の奴等も新生ローレライ教団よりだしな・・・」

「障気か・・・」

ルークは少し考え込む。

「アッシュ・・・超振動で障気を中和できるって言ったらどうする?」

「・・・何を言っている?そんなこと出来る訳ないだろう」

「できるんだよ!ローレライの剣があれば!・・・命と引き替えになるけど・・・」

それにティアが反応する。

「ルーク、それはどういうこと?」

「そんなの初めて聞いたよぅ」

「「・・・」」

「・・・それで?お前が死んでくれるのか?」

「お・・・俺は・・・」

「レプリカはいいな。簡単に死ぬって言えて」

「・・・」


ルークは黙ってしまうが・・・

「・・・俺だって死にたくない」

「ふん、当然だな。俺も・・・まだ死ぬのはごめんだ」

アッシュはそう言って去ろうとする。

「ま、待てよ!」

「話は終わった。それに、俺にはやることができたからな」

「俺は終わってないっ!あと十分、いや五分付き合え!」

ルークがアッシュの肩を掴む。

「は、離せっ!」

「付き合ってやれよ、アッシュ」

ガイが言うと・・・

「・・・わかった」


そのままアッシュを連れてルークが向かった先は・・・ファブレ夫妻の部屋だった。

「ルーク!・・・ルーク!?」

「・・・お前は!」

「・・・」

「・・・父上、母上。本物のルークを連れてきました」

「貴様!何を考えて・・・」

「俺達、庭にいますから!」

アッシュが何か言う前にルークは部屋を出る。

「なるほどね。パパとママをアッシュに会わせるってことだったのか」

「でも、ルーク。よかったの?あなたはアッシュがこの家に来るのを・・・」

「・・・怖がってた。その通りさ。だけど・・・俺はやっぱりレプリカだし・・・あいつは本物だし・・・いつか、いらないって言われるなら・・・」

「止めとけ、ルーク」

「ガイ・・・?」

「おかしいと思ってたんだ。この間から妙に考え込んでたのは、自分を殺して障気を消すなんて馬鹿なことを考えてたせいだろ」

その言葉にティア達が驚く。・・・ちなみに、アリエッタは離れた位置で黒羽と撫子と話している。というより、俺が頼んだ。

「ルーク!馬鹿なことを考えるのはやめて!」

「自分はレプリカだ、偽物だなんて卑屈なこと考えるから、いらないって言われることを考えるんだ。そんなこと意味のないことだろうが」

「だけど俺、自分がレプリカだって知ってから、ずっと考えてきたんだ。俺はどうして生まれたんだろう。自分は何者で、何のために生きてるんだろうって。俺は・・・レプリカは本当はここに居ちゃいけない存在なんだ」

「いい加減にしろ!」

ガイが怒鳴ったその時・・・

「全くだ」

アッシュが歩いてくる。

「俺はもうルークじゃない。この家には二度と戻らない。・・・馬鹿なことを言う前にその卑屈根性を矯正したらどうだ。・・・苛々する!」

アッシュはそう言って去っていく。俺はルークの肩に手を置く。

「色々あって疲れてるんだよな。・・・とにかく、今は休め」

「・・・うん・・・」

ルークは自分の部屋に戻っていく。

『ルークさん・・・大丈夫ッスかね・・・』

「さあな・・・こればっかりはレプリカじゃない俺達が何を言っても無駄だしな・・・」

「サキ、ルーク・・・どうしたの?」

アリエッタが聞いてくる。

「悩み事だよ。・・・自分の存在とか・・・色々」


「イオン様も・・・悩んだの、かな?」

「・・・多分な。・・・そりゃそうだ。“自分が何か”なんて例えレプリカじゃなくても答えづらい。それなのにルークは答えを出そうとしてる・・・」

「・・・」

「事態はややこしくなるな」

黒羽の言葉に頷く。

「俺達もそろそろ休むか」

「ああ、そうしよう」






・・・翌日・・・

「喜んで下さいませ。プラネットストームを止める方向で合意しましたわ」

「こちらもです。実際の協議はダアトで行われます。我々も行きましょう」

プラネットストームを止める・・・プラネットストームは全ての音素を産み出す発電機のような物。それを止めることはすなわち、音素の衰退を意味する。・・・だけど、未来の不便より今の生存だ。俺達はダアトに向かう・・・筈だったのだが。

「おお、よかった!すれ違いにならなかったか!」

スピノザが走ってきて・・・話した内容は驚きだった。アッシュが障気を消すと言ったのだ。一万人の第七音譜術士の代わりにレプリカを、しかもアッシュは媒体であるローレライの剣を持っている。・・・だが、いくら条件を満たそうと絶対に実行者の体が持たず、音素乖離を起こして死に至るらしい。俺達はそれを止める為にレプリカが集まる・・・レムの塔に向かう。

「これは一体・・・!」

そこにいたのは・・・

「レプリカの方がこんなにいっぱい・・・」

そのレプリカ全員が生気のない目をしていた。

「ルーク。私、ルークとこの人達が同じなんて思えないよ・・・」

「イオン様とも・・・違う」

アニスとアリエッタが一歩後退りをする。

「彼らには個性がないんだわ・・・」

「刷り込み教育のためでしょう。レプリカは赤ん坊と同じ状態で生まれます。歩き方一つ知らない」
「そのせいでこうなった・・・と?」

撫子の言葉にジェイドは頷く。

「何だか気分が悪い・・・レプリカって・・・一体何なんだ!」

その時、漆黒の翼がやって来た。

「坊やたち!丁度いい!」

「お前!漆黒の翼の・・・!どうしてこんなところに!」

「あたし達はアッシュに雇われているからね」

「それではやはりアッシュはここに!」

「ああ!アッシュは障気を消すためにレプリカと心中するつもりなんだよ!」


漆黒の翼の他のメンバーがアッシュを追っているらしい。昇降機はレプリカに埋め尽くされているので、俺達は階段をかけ上がる。


「あんたらか!」

漆黒の翼のメンバーが集まる。

「アッシュは!?」

「そうかあんたらも、アッシュの旦那を捜しに来てくれたか」

「この辺りにはいないようでゲス」

「アッシュ・・・どうして自分を犠牲にしてまで・・・」

「そりゃあ、お姫様、あなたのためでしょう」

「・・・え・・・?」

「アッシュの旦那は、あなたとあなたの国が障気にまみれて沈むのを見たくないんですよ」

「だからって自分が死んじまったらナタリアが悲しむとは思わないのかねぇ、あの馬鹿は」

ガイが苛立ちながら頭を掻く。

「それなんでゲスがね。旦那は二言目には時間がないだのなんだのって、今回も無駄に死ぬくらいなら障気と一緒に心中するってんですよ」

「死にたくないって言ったくせに・・・ いつは馬鹿だ!」

「この辺りにいないとなると・・・もっと上か・・・」

「そうだな。急ごう!」

知也の言葉にルークが返し、走り出す。のだが・・・

「はぁ・・・はぁ・・・」

「アリエッタ?」

「大・・・丈夫・・・」

明らかに大丈夫ではない。俺はアリエッタを背負う。

「サキ!?」

「(軽・・・)喋るなよ、舌噛むぞ!」

「ちょっと根暗ッタ!なに楽してんの!?」

「根暗じゃないもん!アニスの馬鹿っ!」

「背中で喧嘩すんな!」

「ライガとか呼べばいいでしょ!」

「みんなチーグルの森に残しちゃったんだもん!それにぇ、~~~~~!」

「ほら舌噛んだ!だから黙ってろってのに!アニスもアリエッタ煽るな!ややこしい!」

「は~い・・・」


「はい・・・」

「お前は幼稚園の先生か」

知也のツッコミは軽くスルー。

「いやー、楽しそうですね」

「今ほどアンタの軽口が腹立つ時はないぜ・・・」

『楽しそうッスね』

「空間の中の圧力って変えれたっけな」

『ごめんなさいッス』

「・・・はぁ」

そしてついに行き止まりにぶち当たる。

「・・・階段もなにもないな・・・」

「ふむ・・・なら昇降機のガラスを割りましょう」

ジェイドが突拍子もないことを言い出した。


「昇降機が壊れてしまいます」

「ええ。ですから昇降機を覆うガラスだけを壊すんです」

「だったら・・・」


知也がマグナムを取り出して撃つが・・・少しヒビが入る程度だ。

「強化ガラスかよ・・・トリガーマグナムじゃ壊すかもしんないしな・・・」

「だったら俺がやるよ。アリエッタ、一旦降りてくれるか?」

「うん」

アリエッタを降ろしてBモードを発動させる。

「よし・・・リパル!」

『了解ッス!』


空を飛んで方天画戟を思いっきり叩きつける。

ガシャアアン!!

ガラスが砕け散る。

「・・・すげぇ!」

「さすが便利屋」

「便利屋言うな!・・・っと、昇降機が来るぞ!飛び乗れ!」

「え、で、でも」

アニスがトクナガを巨大化させる。

「・・・乗りなよ」

「え・・・」

「根暗ッタはおっちょこちょいで危ないから、これに乗りなって言ってるの」

「・・・とう」

「なに?何か文句でもあるの?」

「・・・ありがとう・・・」

「あ・・・う、うん・・・」

「ほら、来るぞ!急げ!」


全員が飛び乗り、見るとレプリカ達がいた。

「お前たちか・・・」

「あ、姉上!?」

「・・・我はお前の姉ではない。我は8―027だ」

「どうして来たんです?モースの救いの手を待ってるんですか!」

「そうだ。地上には我らレプリカの住処はない。街の外に暮らすには我らの仲間は知識を持たず、街の中は被験者の世界だ」

「我々は恨まれている。この地上には済む場所がない」

レプリカ達の意思は堅い。

「被験者の為に死ねと言う奴がいる程だ」

「だ、誰がそんなことを!?」

「お前と同じ顔の男だ。我らの命を使って障気を消すことに同意すれば、まだこの塔に辿り着いていない大勢のレプリカ達に、住む場所を与えると取引を持ちかけてきた」

「そんなに死にたければ一人で死ねばいい。我々にはホドがあるのだ」

「我々はホドを目指す。モース様はきっと受け入れてくださる!」

その時・・・何かが飛んできた。

「ふははははっ!何万年待とうと、そのようなことあり得ませんよ!」

ディストだ。どうやらカイザーディストに乗っているらしいが・・・その時、カイザーディストの機関銃が動いた。

「不味い!ティア、撫子!」


俺は闇を解放する。

「ダークバリア!!」

「ーーーー♪」

「影よ!」


カキキキキン!!

大体の弾は防いだが、レプリカの何人かは撃ち抜かれ、落下していく。

「・・・ディスト、やめて!」

「・・・おや、アリエッタ。あなたは死んだと聞かされましたが・・・なるほど。裏切り者という訳ですか」

「ーーーーー!!」

アリエッタが視線を落とす。そんなアリエッタの頭に手を載せ、言う。

「アリエッタ、あんな奴の言うことは気にすんな。・・・レプリカの人達を頼む」

「・・・わかった」

「撫子、ティア、頼めるか?」

「はいです!」

「ええ、解ったわ!」

「しかし、ここで始末しないと、ネビリム先生復活の作戦に着手できませんからねぇ」

「・・・監獄から逃げ出したと思えばまだそんな愚かなことを。もう諦めなさい!」

「そうは行きません!ネビリム先生を蘇らせれば、あなたも昔のあなたに戻るでしょう。先生と共に、もう一度あの時代を・・・!」

知也がメモリを取り出す。

『スナイパー!ルナ!』

トリガーマグナムが変形し、銃口が伸び、スコープやその他のパーツも追加される。

「・・・狙い撃つぜ!!」

バシュンッ!

知也が放った弾は、知也の射撃センスとルナの補正も相まって、カイザーディストのプロペラに直撃する。

「ぬわぁぁぁ!?」

カイザーディストが目の前に落ちる。ジェイドはゆっくりと槍を構え・・・

「・・・今まで見逃してきた、私が甘かったようですね。さようなら、サフィール」

「・・・本当に私を見捨てるんですね!ならば・・・ならば私も本気で行きますよ!レプリカ共と一緒に滅びるがいい!!」


こんなに狭いと遠距離型と、堅い装甲で近接型が不利になる。なら譜術(魔力)も近接も平気な俺と黒羽。ジェイドとアニスで行くしかない。

「黒羽、行きますよ」

「ああ!!」

ジェイドが譜術を使う。

「サンダーブレード!」

「更に雷追加だ、ジャスミン!!」

二人が放った雷はカイザーディストを捉えるが・・・

「ははははは!甘い甘い!」

「光の鉄槌!リミテッド!」

「ダークファイガ!!」

「ぬ・・・!」

そりゃ機械だから雷に強くしたんだろうが・・・

「俺の攻撃手段は雷だけじゃないぜ!燃えろぉぉ!!」

黒羽の炎がカイザーディストを包み込む。


「あちちち!?」

「グランドダッシャー!!」

ジェイドの譜術がカイザーディストを弾き飛ばす。

「調子に乗るんじゃありません!!」

カイザーディストはドリルを振り回す。

「リパル、剣!」


『はいッス!』

変形させ、左に持ったハンドアックスでドリルを弾き、体を捻り、その反動を利用してダークリパルサーで突きを叩き込む。

ズガァァン!

「ヴォーパル・ストライク・・・なんてな」


カイザーディストの巨体が揺らぐ。

「サキ、離れてください」

ジェイドが構える。

「・・・わかった」

ジェイドの周りに音素が集まる。

「・・・旋律の戒めよ、死霊使いの名の元に具現せよ!!」

カイザーディストの周りに強力な譜術が発動される。

「ミスティックケージ!!」

ズガァァァン!!

カイザーディストは倒れ、中にいたディストも力なく倒れる。

「・・・どうせ、モースは永遠に迎えになど来ない・・・エルドラントの対空迎撃装置が起動すれば、塔ごと消し炭にされる・・・ククク・・・はーっはっはっ」

ディストが何かのボタンを押し、アラームが鳴る。

「ネビリム先生・・・今そちらに向かいます!」

こいつ、自爆する気か!?

「させるか!」

ルークが走りだし、掌底を繰り出す。

「烈破掌!!」

ガァン!

そのまま吹き飛び・・・空中で大爆発を引き起こした。

「・・・我らに居場所はないのか・・・」

「俺達は・・・この時代に存在してはいけない生き物なんだ」

「違うわ!だってここにいて息をしているじゃない!あなた達を受け入れられない世界がおかしいのよ!」


「だが、レプリカが誕生したことで死んだ人もいる。全てを受け入れられるほど、人の心は単純じゃない・・・」

ガイの言葉でティアが黙ってしまう。


「そうだ。だから取引だと言っただろう。どうする?もうお前たちの居場所はないぞ」

「考えさせてほしい。割我と同じく自我の芽生えた者たちと話し合って決めたいのだ」

「アッシュ!馬鹿なことを言うな!死ぬ気はないって言ったのはお前だぞ!」

「・・・だったら障気はどう解決するつもりなんだ!俺の代わりにお前が死んで障気を消してくれるとでも言うのか」

「そ、それは・・・」


その後、アッシュはダアトに向かうといい、戻ってくるまでに意見を決めておけといい、去っていく。俺達はアッシュを止めるためにダアトへ向かうのだった・・・ 
 

 
後書き
リョウ
「シスコン」

サキ
「うっせぇ。家族大事にして何が悪い」

リョウ
「絵面が悪いんだよな・・・あ、姉妹みたいか」


サキ
「・・・てめぇ。いまなんつった」

リョウ
「・・・ナンデモナイヨー」

サキ
「露骨に顔逸らしてんじゃねえよ」

リョウ
「また次回もよろしく!」

サキ
「逃げんなこの野郎!」

 

 

生と死〜

 
前書き
だから切り所が・・・ではどうぞ。 

 
・・・ダアトに到着すると、既に三勢力のトップが集まっていた。

「お前たちか!今、アッシュからの手紙を見ていたところだ」

「アッシュからの手紙!?アッシュ本人はどこに行ったんですか?」

ルークの問いにテオドーロさんが答える。

「ローレライの宝珠を探すとかで、セフィロトへ向かった」


「手紙にはなんて?」

「障気を中和する方法を発見したと書いてある。それに従ってレプリカに協力を依頼する代わりに、彼らの保護をしろと言ってきているな」

「あいつ・・・自分が死ぬことは書いてないんだな」

「どういうことだ?」

「ガイ、説明をお願いします」

「・・・また俺かよ。まあいいや、実は・・・」

ガイが事情を説明する。

「アッシュは何を考えているのだ。何千というレプリカと共に心中するとは!」

「当然、許可しませんよね?そんなの駄目ですよね?」

テオドーロさんにアニスが言う。

「レプリカとはいえ、それだけの命を容易く消費する訳にはいかん・・・しかし・・・」

「お父様!しかしではありませんわ!」

「・・・ジェイド。お前は何も言わないのか?」

「私は・・・もっと残酷な答えしか言えませんから」

その言葉にティアが目を見開く。

「・・・大佐。まさか!」

そしてルークが・・・

「・・・俺か?ジェイド」

辺りに沈黙が漂い・・・最初にジェイドの胸ぐらを掴んだのは・・・ガイだった。

「てめぇっ!アッシュの代わりにルークに死ねって言うのか!ふざけるな!」

当然ナタリアも反対する。

「駄目ですわ!そのようなことは認めません!私はルークにもアッシュにも生きていてもらいたいのです!」

俺はガイを落ち着かせる。

「ガイ、この状況で頭に血を上らせんなよ」

「・・・そうだな」

ガイが手を話す。ジェイドは眼鏡をあげ・・・

「私だってそうです。ただ、障気をどうするのかと考えた時、もはや手の施しようもないことは事実ですから」

「俺は・・・」

その時、ティアが叫んだ。

「みんなやめて!そうやってルークを追い詰めないで!ルークが自分自身に価値を求めていることを知っているでしょう!安易な選択をさせないで・・・」

「失礼。確かにティアの言う通りですね」

「・・・少し、考えさせてくれ」


ルークはそう言って一人で歩いていく。

『咲さん、止めないッスか?』

「・・・俺には、説得力がないからな。・・・それに、世の中には本当にどうしようもないことだってある」

『咲さん・・・』

「ま、そこはアイツ次第だな」

知也がそう言ってその場から去る。

「ルークさんの判断を・・・待ちましょう」

「・・・そうだな」

撫子と黒羽も、他のみんなもその場からいなくなる。・・・俺はアリエッタを連れて二人きりになる。

「・・・どうしたの?」

「アリエッタ、今から言うことを怒らずに聞いてくれ」

「え・・・」

「・・・アリエッタ、お前はダアトに残るんだ」

「・・・!?ど、どうして・・・」

「・・・これ以上、お前を連れていく訳にはいかない」

「あ、アリエッタが迷惑かけたから・・・?だったら、だったら謝る!だから、アリエッタを置いていかないで、捨てないで!」

・・・俺は目の高さをアリエッタに合わせ、頭を撫でる。

「・・・別に迷惑な訳じゃない。それに、俺がアリエッタを見捨てるわけないだろ?」

「じゃあ、どうして・・・」

「裏切り者」

「・・・っ」

俺の言葉にアリエッタが絶句する。

「・・・ほらな。この先、きっとまた六神将と戦う時がある。その時・・・堪えられないだろ?」

「・・・がまん、する。リグレットが相手でも、ラルゴが相手でも・・・」

「シンクは?」

「・・・シンク?どうして・・・」

ああ、アリエッタは知らないんだ。俺は意を決してアリエッタに話す。

「シンクの正体は・・・イオンレプリカの・・・一人だ」

「・・・!!」

「もし、アイツがイオンの真似でもして、“裏切り者”・・・なんて言われて・・・堪えられるか?」

「あ・・・あ・・・」

何か言いたそうに口を開くが、声にならず、アリエッタは俯いてしまう。そして・・・

「・・・なさい」

「・・・」

アリエッタの足元に雫が溢れる。

「ごめん、なさい・・・」

「・・・うん。仕方ないよ」

「だけど、サキが心配で、アリエッタも・・・」

俺は空間からあるものを二つ取り出す。

「アリエッタ、後ろ向いて」

「うん・・・」

俺はアリエッタの髪を優しく掴み・・・まとめて縛る。

「ほら、完成」

「え・・・?」


「ラルゴの奴、雑に切ったから髪がバサバサでウザいだろ?だから、俺の予備の髪止めで縛った」

「・・・」

「んで、これ」

俺はアリエッタに、眼鏡を手渡した。

「・・・これ、サキがつけてる・・・」

「そ、眼鏡。まあ、俺の代わりに・・・お守りってことで」

「・・・エイも同じようなの身に付けてた」

「ああ・・・アリエッタは、アニスの報告を聞いたか?」

「・・・よく、わからなかった」

「だろうなぁ・・・んじゃ、ちゃんと説明するよ」

俺は全てを話す。色んな世界のことを・・・

「・・・」

アリエッタは難しい顔をしていた。

「・・・やっぱり、信じられないよな」

「・・・信じる」

「アリエッタ・・・」

「エイの眼鏡と形が似てるのって・・・」

「・・・ああ。アイツに眼鏡を譲ってもらってな。流石に何年も使ったから、ガタが来て始めのは元の世界に置いてきてるけど・・・大体はそれに近い物を選んでるな」

「・・・サキにとって、エイも大切な人なの?」

「・・・ああ。目の前でいなくなってしまった・・・大切な、人だ」

「・・・アリエッタ、待ってる」

「え・・・?」

「もし・・・もしサキが帰っちゃっても、また会えるよね?」

「・・・ああ、必ず。絶対に会いに来る。ここは・・・“サキ・オスロー”の故郷なんだから」

「・・・うん。約束、だね」

「ああ、約束だ。嘘ついたら・・・どうするか?」

「いらない。だって絶対サキは守ってくれるもん」

「・・・そっか」

アリエッタは笑顔を俺に見せる。

「行ってらっしゃい、サキ」

「・・・ああ、行ってきます」

俺は立ち上がる。

「またすぐに戻ってくるよ」

「・・・うん」


そしてみんなと合流しようとした時・・・アッシュと話すみんなを見つけた。

「どうしても死ぬつもりなのか?」

「そんなことはどうでもいい。結局セフィロトを全部回ってもローレライの宝珠はなかった。このままでは、ローレライを解放できない。お前は宝珠を探すんだ」

「お前っ!自分が死ぬってことがどうでもいいことな訳ないだろ!大体宝珠が見つかってもお前がいなきゃ、ローレライは解放できねぇだろーがっ!」

「お前こそ馬鹿か?おまえは俺のレプリカだぞ。こういう時に役立たなくてどうする」

「そんな言い方はやめて!」


「お前は引っ込んでろ!」

アッシュに怒鳴られ、ティアは黙る。

「お前がやれ、ルーク!俺の代わりにな!」

「アッシュ!待てよ!お前を死なせる訳には・・・いや、死なせたくないんだ!」

アッシュがルークを振り払い、立ち上がる前に剣を突きつける。

「くどいっ!!」

「アッシュ・・・」

「もう、これしか方法がねぇんだ!他の解決法もないくせに勝手なこと言うんじゃねぇよ!」

「だったら・・・だったら俺が!俺が代わりに消える!」

「ルーク!?」

「馬鹿言うんじゃない!」

ティアとガイが動揺する。

「代わりに消えるだと・・・?ふざけるな!!」

アッシュが剣を振り下ろし、ルークが防ぎ・・・空間が揺らぐ。

「やめなさい!消すのはダアトの街ではない。障気です!」

「ふん・・・いいか、俺はお前に存在を喰われたんだ!だから、俺がやる」

「アッシュ・・・本当に他の方法はありませんの?私は・・・私達はあなたに生きていて欲しいのです!お願いですからやめてください!」

「俺だって死にたい訳じゃねぇ。・・・死ぬしかないんだよ」

アッシュが去っていく。

「駄目だ!あいつを失う訳にはいかない」

「ルーク!!」

バキィ!

ガイがルークを殴った。

「・・・ってぇ・・・」

「・・・死ねば殴られる感触も味わえない。いい加減に馬鹿なことを考えるのはやめろ!」

「・・・ガイ」

ルークは目を逸らす。

「・・・・・・ごめん」

「ルーク・・・」

ルークは立ち上がる。

「もう、決めたんだ。怖いけど・・・だけど・・・決めたんだ」

「ルーク!あなたという人は・・・」

「・・・ルークもイオン様みたいに消えちゃうの?」

「・・・」

ルークは黙る。

「あなたが本気で決心したなら、私は止めません。ただレムの塔に向かう前に、陛下達への報告だけはしていきましょう」

「・・・みんな・・・ごめん」



・・・俺は黙って遠くからそれを見ていた。


「・・・いいのか?」

いつの間にか背後に外史メンバーがいた。

「・・・さあ、な。俺に・・・あいつを止める資格なんてない・・・ほら、行こうぜ」

そして、俺達は集合する。

「・・・俺。俺・・・やります。俺が命と引き替えに、障気を中和します」


「・・・決心は変わらぬのか?」

「・・・はい」

「生き残る可能性はあるんだろう?」

「・・・いえ、殆どないと思います」

「・・・では、我々は・・・死ねと告げねばならぬのか・・・」

「お祖父様!」

テオドーロさんは続ける。

「このままでは・・・どのみちみんな死んでしまう。新生ローレライ教団のレプリカ大地にかけるという話も出たが・・・この世界を受け入れてくれるとも思えぬ」

「恨んでくれてもいい。人でなしと思われても結構、だが俺達は、俺達の国民を守らなけりゃならない」

「わしは・・・正直なところ、今でも反対なのだ。しかし他に方法が見当たらない。頼んでもいいだろうか・・・ルーク・・・」

「・・・は・・・はい・・・」

「しかし皮肉だ・・・レムの塔がある場所は元は鉱山の街。もしルークが成功すれば、ユリアの預言が成就する」

『!』

「ND2018、ローレライの力を継ぐ者、人々を引き連れ鉱山の街へ向かう」

「そこで若者は力を災いとし、キムラスカの武器となって街と共に消滅す・・・?」

ジェイドとアニスが預言を思い出す。

「ヴァンは言っていたよな。ユリアの預言は歪みを物ともしないって・・・」

「・・・やめて!」

ティアの言葉でその話題は途切れる。・・・そして、ルークが意思を見せた結果、三国同盟、プラネットストーム停止、エルドラントへの進行・・・全ての会議が終了した。





























「アッシュはまだ来てないのか・・・」

俺達は再びレムの塔に到着する。・・・そこに、倒れているレプリカを介抱するマリィさんの姿があった。

「この人は・・・」

「・・・北の街で人々に追われ、奴隷のように扱われながらこの塔に辿り着いた同士だ。・・・なぜお前が来たのだ?我らと共に死に至る道を進むのはお前か」

「じゃあ、あなた達は命を・・・?」

・・・マリィさんは撫子の言葉に返してくる。

「・・・それしかない。そう悟った。決めたのだ」

「いいのかよ?アンタらは被験者の為に消えても」

知也が言うが、マリィさんは首を振る。

「・・・被験者の為ではない。まだ辿り着いていない多くの仲間達が、住む場所を見つけるためだ。我らは我らの屍で国を作る。お前達も我らの死を求めているのではないか?」

「・・・それは・・・」

「俺がやると言っただろう!何故ここに来た!?」

昇降機でアッシュが上がってきた。

「アッシュ!!だからそれは俺が・・・」

「レプリカ共。俺が心中してやる。来い!」

レプリカ全員がアッシュを中心に集まる。

「アッシュ!馬鹿なことはおやめになって!」

「そうだアッシュ!やめるんだ!」

「偉そうにぐだぐだ言ってないで、てめぇはさっさとどこかに失せろ!お前もレプリカだ。ここにいれば捲き込まれて消えるんだぞ!そうなったら誰がローレライを解放するんだ!」

「ローレライの解放はお前がやれ!この場は・・・俺がやる!」

「そんなに死にたいのか!?」

「・・・違う!俺だってお前と同じだ!死にたくない!だけど俺はレプリカで、能力が劣化してる。ローレライを解放するには、宝珠を預かることもできなかった俺じゃなくて、お前が必要なんだ。それならここで死ぬのは・・・いらない方の・・・レプリカの俺で充分だろ!」

「いい加減にしろ!いらないだと!?俺は・・・いらない奴のために全てを奪われたっていうのか!!馬鹿にするな!!」

アッシュがローレライの剣を掲げた時、ルークが飛びかかる。

「離せっ!」

「駄目だ!お前を死なせる訳にはいかない!」

ルークが剣を掴むと、うっすらと光だす。

「・・・これは?剣が反応している。宝珠がどこかに・・・?」


アッシュが油断した隙に、ルークが蹴り飛ばし、アッシュはジェイドに拘束される。

「離せっ!」

「私はルークの意見に賛成です!・・・残すなら、レプリカより被験者だ」

ルークが剣を掲げる。


「ルーク!止めて!!」

「・・・みんな。俺に命を下さい。俺も・・・俺も消えるからっ!!」

ティアがルークを止めようと駆け出す。

「来るなっ!」

そのティアを止めたのは・・・ガイだった。ルークは掲げた剣を床に突き刺す。

「・・・ガイ。・・・ありがとう・・・」

「・・・馬鹿野郎がっ・・・」


全てのレプリカの第七音素が集まるが・・・ルークが膝をついてしまう。

「だ、駄目か・・・」


「おかしい・・・集まりかけた第七音素が拡散していきます。このままでは障気は消えない!」

「・・・宝珠か!宝珠の拡散能力が邪魔してやがるんだ。くそ!あの馬鹿が宝珠を持っていることに気付いていなかっただけか!」

アッシュがジェイドの拘束を解いてルークに駆け寄る。

「どこまでも手のかかるレプリカだ!」

・・・アッシュも協力する。・・・だけど、それだけでいいのか?今ここで手札を余らせてどうする。・・・使えるなら・・・全て使ってしまえ!

「・・・あー、くそっ!性分は変えられねえな!!」

「っ!咲さん、何を!」

「少し無茶をしてくる!・・・悪いな、撫子。説教は短めにな」

「ま、待ってくださ・・・!」

撫子を黒羽が止める。

「アイツが無茶するのは何時ものこと・・・だろ?」

「んで失敗は少ないからな。・・・待ってやろうぜ」

二人に言われたら、撫子も頷くしかなかった。俺はローレライの剣を掴む。

「サキ!?どうして・・・!」

「苦戦してるみたいだからな。・・・俺の闇を利用して、障気を一辺に集める!だからお前達は第七音素の制御に集中してくれ!」

「サキ・・・アッシュ・・・」

俺はAモードを発動。思い切り闇を解放し、それに呼応させるかのように障気を集める。・・・範囲を絞れば、ルークとアッシュの負担は少なくなる。・・・いや、代わりに俺の負担が大きいか。

「・・・言っておくが、心中する気はない。少し超振動の力を貸してやるだけだ。消えるなら一人で消えろ」

「・・・ありがとう・・・アッシュ・・・サキ・・・」


ローレライの剣は宝珠とあれば鍵にもなる。・・・鍵使いは、俺の十八番だ。次の瞬間には視界が光に包まれ・・・その次には全てが終わっていた。

「くぅ・・・!?」

「う・・・っ!?」

「っ・・・!?」

「・・・約束だ。生き残ったレプリカ達に生きる場所を与えてくれ。我々の命と引き替えに・・・」

「私が!キムラスカ王女であるこのナタリアが、命をかけて約束しますわ!」

「俺もだ。レプリカ達を見殺しにはしない。姉上と同じあなたの命のために」

「わ・・・私だって・・・あなた達とイオン様は同じだもん・・・」
マリィさんは光に包まれ・・・消えた。

「俺・・・生きてるのか?どうして・・・」

ティアが笑顔になる。

「よかった・・・!私、もうあなたが消えてしまうと思ってた・・・」

その時、ルークの手に何かが現れた。

「こ、これは・・・?」

「・・・ローレライの宝珠だ」

「これが!?どうして?どこ探してもなかったんでしょ!?」

「こいつは宝珠を受け取っていたんだよ。ただ後生大事に、宝珠を形成する音素を自分の中に取り込んじまってたのさ。体が分解しかけるまでそのことに気づかなかったとは、とんだ間抜け野郎だぜ」

アッシュが去ろうとするが・・・

「お待ちになって!どこへ行きますの!?鍵は揃ったのですわ。一緒に・・・」

「・・・一緒にいたら、六神将に狙われる。ヴァンの居所を突き止めて、直前までは別行動だ」

「ルーク」

ジェイドがルークにベルケンドで検査を受けるよう進める。

「・・・なんとかなったか・・・!?」

一瞬、ほんの一瞬だが、俺の手が透けて見えた。体から何かが抜けるような・・・・・・ああ、そうか。

「(俺も・・・第七譜術士だったな・・・はは・・・)」

どうやら、受け持った負担は予想外にでかそうだ。


「(・・・ったく、この世界の最後まで持てよ。俺の体・・・)」


俺は障気の消えた青空を見上げて、そう思った・・・


 
 

 
後書き
リョウ
「・・・無茶しやがって」

サキ
「無茶すんのが主人公の役目なんだよ。つか文句はワンパターンしか思い付かない作者にいえ」

リョウ
「あのなぁ・・・ま、いいか。それじゃ、次回もよろしく!」 

 

運命〜

 
前書き
再び原作ブレイーク!これ、批判喰らわないかな・・・ではどうぞ。 

 
俺とルークはベルケンドで検査を受けることになったが・・・

「みんなでずらずら来ると俺ガキみたいじゃねえか!外、出てくれよ」

「何言ってんだ。みんな心配してるんだぞ」

「いいからっ!」

「・・・仕方ないですわね」

「ではルークは保護者に任せましょうか」

「・・・それ、俺か?」

ジェイドがニヤリと笑うと部屋から出ていく。

「じゃあ、私達は宿で待ってるね」

そしてアニスの言葉で全員が出ていく。そして検査を受け・・・当然の結果が返ってきた。

「・・・結論から申し上げます。今すぐ、ここに入院なさって下さい」

「・・・やっぱりか?」

「サキさんの細胞同士を繋ぐ音素が乖離現象を起こし、極端に減っています。そう遠くはない未来、細胞崩壊を起こし、亡くなられる可能性が高い」

「サキは・・・って俺は?」

「ルークさんは細胞を繋ぐ音素は脆くなっているだけの状態です。危険なことに代わりはありませんが、普通に生活する分には平気です」

「・・・んで、入院したら治るのか?」

「いえ、消滅の日を遅らせることができるだけです」

「・・・要するに、余命宣告ってわけか。・・・言い渡されると意外にぐっ、とくるなあ」


「サキ・・・」

俺は椅子から立ち上がり、部屋から出ようとする。

「・・・この事は黙っててくれ」

「ですが・・・!」

「この時期にみんなに余計な気を使わせたくないんで」

「・・・わかりました」

宿に向かう途中、ルークは黙りっぱなしだった。

「サキ・・・」

「ん?」

「・・・ごめん」


「・・・なに謝ってんだよ。お前は障気を消して、しかも生還した英雄だ。もっと明るく・・・」

「出来るわけないだろ!俺が・・・俺が消える筈だったのに、どうしてサキが・・・!」

俺は頬を掻く。

「・・・んなこと、気にすんなよ。助けに入ったんも俺の意思だし、こうなったのも俺の自業自得だ。・・・それに」

「・・・?」

「ルーク、あの一瞬。・・・お前は何を思った?」

「・・・生きたい。そう思った。死にたくない・・・もっとこの世界で生きたい・・・って」

俺はルークの胸元を軽く叩く。

「だったら生きろ。もうじき消える俺の分まで・・・な」

「サキ・・・」


「ほれ、もう宿屋だ。上手くやってくれよ?」

「あ、ああ・・・」

宿に入るなり、ティアがルークに詰め寄る。

「どうだったの?」

「う、うん。ちょっと血中音素が減ってるけど、平気だって」

「そうかぁっ!よかったな!」

「咲さんは?」

「同じく、問題なーし」

「ルークもサキもしぶとーい!」

言葉とは裏腹にアニスは笑顔で嬉しそうだ。

「安心しましたわ」

「・・・まあ、取り敢えずは安心ですね」

ジェイドの提案で報告と休息がてらバチカルに行くことになった。そしてぞろぞろと宿から出ていき、残ったのは俺とルーク、ジェイドだ。
「・・・」

ジェイドがこちらを見てくる。

「・・・なんだよ」

「あなた達は悪いですねぇ。また嘘をついて」

「・・・バレてたか」

「危ないのはどちらですか?」

「俺。ルークは音素が脆くなっている程度だってさ」

「・・・あなたの嘘に私も乗せられておきます。でも無理は禁物ですよ」

「・・・ジェイドに隠し事はできないな」

ルークが諦めたかのように笑う。

「あなた達が下手なんですよ。それと忠告しておきます。ルークは超振動を、サキは音素を使う全ての譜術は禁止です。闇は音素とか関係ないので平気でしょう」

「・・・ああ。わかった」

「ありがとう、ジェイド」


・・・そして、バチカル・・・

「陛下への報告は明日でいいでしょう」

「私は城に戻っていますわ。明日、謁見の間へいらして下さいませ」

「わかった。他のみんなは屋敷で自由にしてくれよ。俺は部屋で休ませてもらうから」

「そうだな。俺も休むか」

俺は自分の部屋に入り、溜め息を吐きながらベッドに座り込む。

『咲さん・・・』

俺は方天画戟をベッドに立て掛ける。

「・・・初めてだな。どう足掻いても死ぬってのは」

『あ、諦めたらダメッスよ!』

「いや。余命宣告されて生き残る確率は低い。しかも病とかならまだしも、音素関係だ。・・・手詰みさ」

『・・・』

「・・・お前にだから、話すけどよ。俺は怖い」

『・・・』

「初めてだよ・・・こんなに死に恐怖したのは・・・」

『・・・誰だって、死ぬのは怖いッス』

「ああ・・・そうだな。俺が平気過ぎただけか」


俺はそのまま背後に倒れ込む。

「参ったなぁ・・・まだまだやることは山積みだってのに・・・」

気持ちが落ち着かない。鼓動が安定しない。

「・・・畜生。・・・考えが全然纏まらねぇ・・・」

『咲さん、今は休みましょう。すぐに死ぬ訳じゃないッスから・・・』

「ああ・・・そうだな」

次の日・・・なんと、城に新生ローレライ教団を名乗る者が来たらしい。俺達も城に行くと・・・

「ラルゴ!?使者っておまえだったのか・・・」

「新生ローレライ教団の使者として参った。導師モースへの返答はいかに?」

「我がキムラスカ・ランバルディア王国は預言を廃することで合意した。よって申し入れは断る」

「それはすなわち。新生ローレライ教団に対する宣戦布告と取ってよろしいのか?」

「我々に戦う意思はない。しかし、我が国の領土と民が侵されるのであれば、直ちに報復行動に出ると心得られよ」

「・・・わかったか。ローレライの力を継ぐ坊主。お前がレムの塔でレプリカを消したことで新たな戦いが始まろうとしている。預言とは恐ろしいものだ」

それに反対したのはファブレ公爵だ。

「それは詭弁だ。第一我が息子は二人とも生きている」

「・・・父上・・・」

「どうかな。お前達も知っているだろう。第七譜石には滅亡の預言が詠まれていることを」

「俺達は生き残る未来を選び取ってみせる。世界を滅ぼさせたりしない」

「それはこちらとて同じだ」

「同じではありませんわ!あなたは預言に固執するモースに味方しているではありませんか!」

「私にとって剣を捧げた主はただ一人。それを忘れるな」

ラルゴは立ち去ろうとした時・・・

「・・・小僧」

「あ?」

俺に話しかけてきたラルゴは少し黙り・・・言った。

「・・・アリエッタはどうしてる?」

「・・・別に、問題はないよ。・・・何でだ?」

「いや、大した意味はない」

ラルゴは立ち去る。・・・取り敢えず、インゴベルト陛下に障気について報告する。

「ルーク・・・障気のことはすまなかった。しかし死を賭したそちの心意義にわちも胸を打たれたぞ」

「い・・・いえ・・・」

「めはや新生ローレライ教団との戦いは避けることができまい。後ほどナタリアと共にわしの部屋に来てくれ。・・・今こそ真実を告げる時だと思う」

「陛下・・・」



そして・・・部屋でナタリアに陛下は話し始める。母親のこと・・・そして。

「お前の父はバダックという傭兵らしい」

「・・・傭兵・・・そうですの。でも何故今になって・・・」

「バダックの行方が判明したのだ」

「生きてらっしゃいますの?」

「そうだ。ナタリア、気を強く持って聞いてほしい。この事態だからこそ、話さねばならぬと思ったのだ」

「・・・な、なんですの?」

「バダックは今、新生ローレライ教団にいる」

「そんな!?何故!?何かの間違いでは!?」

「・・・いや間違いない。ルークが調べてくれた。現在では、黒獅子ラルゴと名乗っている」

ナタリアの目が見開かれ、一歩後退る。

「う・・・嘘・・・」

「ナタリア・・・」

「ルーク!何かの間違いでしょう!?そうですわよね!?」


「ナタリア・・・本当なんだ・・・本人にも確認した」

ナタリアは・・・いきなり走り出す。


「ナタリア!!どこへ行くの!」

「ラルゴを問い詰めますわ!急げば追い付ける筈。私は認めません!」

「ナタリア!」

「追いかけよう!ナタリアが何をしでかすかわからない」

ルーク達が走りだし、俺達も続くが・・・

「・・・!」



不意に体の力が抜け・・・躓いたようにその場でふらつく。

「サキ!?」

「いいから行け!」


アビスメンバーが行ったとき・・・体が透けた。

「え・・・」

「しまっ・・・」

それを外史メンバーに見られてしまった。俺は立ち上がり・・・

「・・・どういう事ですか」

「・・・見間違いじゃなさそうだな」

「・・・」

もう隠せない。俺はそれを話す。

「・・・俺の体の音素が乖離を始めてる。近い未来・・・俺は死ぬ」

「随分と穏やかじゃないな」


知也が呆れながら言う。

「どうして・・・どうして黙っていたんですか!」

撫子が怒りを露にする。

「おいおい。お前ってそういうキャラだったか?」

「誤魔化さないで下さい!」

「・・・あんまり、こういうの話したくないしな」

「でも・・・黙っていたら対応のしようがありません・・・!」

「対応のしようがないからな」

「咲さん!私は心配して・・・」

「撫子」

「黒羽さん・・・」


「・・・死を宣告されて、一番辛いのは咲だろ?」

「・・・そう、ですね。すみません、咲さん・・・」

「・・・いや。黙ってて、ごめん」

何とも言えない空気が場を支配する。

「・・・」

「・・・あの、さ。撫子・・・」

「はい・・・」

「対処法が・・・ないわけでもないんだ」

「本当ですか!?」

「仮設だけど・・・今まで通りでいいと思うんだ」

「どういうことだ?」

知也が聞いてくる。

「俺が死ぬ前に世界を終わらせて世界から消える。そうすりゃ修正力で音素云々が消えれば消滅することもない筈だ」

「・・・ですが、間に合うのですか?」

「聞くなよ撫子。・・・何時も通りって言ったろ?」

「?」

俺はニッと笑う。

「・・・間に合わせるんだよ」

その言葉に全員が笑う。

「だな。それが俺達だ」

「さっさとヴァンを撃ち抜いて終わらせるか」

「・・・私達も頑張ります」

ナタリア達と合流すると、やはり間違いがないことがわかった。ラルゴが遠征から帰ってきた時、既に家に妻と娘はいなかった。数日後、海に浮かぶ妻を見つけ、娘は奪われたことを。自暴自棄になって放浪していたところをヴァンに拾われたこと。そして・・・

「お父様・・・私・・・」

「辛かったであろう?だがもういいのだ。もうこれ以上、新生ローレライ教団との戦いにおいて、最前線に立つ必要はない」

「お父様!何故です!」

「お前は預言の処置について使者として旅立った。もう使命はすんだ筈。何故血を分けた親子が戦う必要があるのだ?」

「・・・血を分けた親子だからこそ、越えねばならぬこともあると思います」

「ナタリア!」

「それに・・・サキもリグレットと争っております。いえ・・・私は一人ですが・・・サキは家族と呼べる人と三人も敵対しているのです」

「ナタリア・・・別に、俺の影響で決める必要はないんだぜ?」

「急ぐ必要はないわ。ゆっくり考えましょう」

「残ってもいい、ついてきて考えるのでいい。どうする?」

ガイが聞くとナタリアが答える。

「・・・私、着いていきますわ。そこで考えさせて下さい」

「・・・わかった。ナタリア、くれぐれも気をつけるのだぞ」

次はプラネットストームを停止するためにユリアシティにて情報を得る。


「(なるほどね・・・)」

プラネットストームを止めるには、その軸となる譜陣を止める必要がある。それに宝珠を使用するので、宝珠の使用方法を調べる間、自由時間になった。

「・・・」

どうしても一人になりたくなってしまう。いや・・・

『平気ッスか?』

絶対に一人にはなれないな・・・有り難いんだか、迷惑なんだか分からない。

「まあ・・・平気じゃねえな。いきなり死の宣告ってどこのRPGだよ」

『さっきの仮説は本当ッスか?』

「正直・・・自信ない」

『え!?』

「・・・なんだろ、何時もみたいな自信が出てこない。現実味がないっつーか・・・」

『いったいどうしたッスか!?咲さんらしくないッス!』

「・・・いや、これも俺だよ。・・・何時か言ったけど、闇を使うコツは内面ネガティブ外面ポジティブ・・・今は・・・外面までネガティブになってんだろうな・・・」


『・・・』

「・・・なんか悪いな。愚痴聞かせてばっかで・・・」

『大丈夫ッス。話してくれない方が辛いッス』

「・・・ホント、よく出来た性格だな」


「サキ、ここにいましたか」

「ジェイド?」

「体は平気ですか?」

「まあ・・・今のとこは」

「・・・何かあったらすぐに言ってください」

「・・・優しいとキモいな、お前」

「失礼ですねぇ。私は常に優しいですよ?」

「どの口が言ってんだか・・・」

「ああ、そうそう。やはり宝珠にはプラネットストームを止める能力がありました。今からプラネットストームを止める為にアブソーブゲートに向かいます」

「分かった。行こう」

今はやるべきことを優先しよう。そう思って俺は不安な気持ちを無理矢理感情の隅に追いやった・・・ 
 

 
後書き
サキ
「・・・」

リョウ
「お前、いつもいつも・・・」

サキ
「あー・・・あっはっは。まあ、その、なんだ・・・」

リョウ
「まあ、俺も近い宣告は聞いたけどね」

サキ
「ルークの代わりに俺だな。まあ、原作ブレイクが特徴の小説だしなぁ・・・」

リョウ
「まあ、ねぇ・・・では、また次回もよろしく! 

 

封印〜

 
前書き
リアルで心が挫けそうに・・・ではどうぞ。 

 
アブソーブゲートに辿り着いた俺達はプラネットストーム停止に向かう。

「またここに来るなんてな・・・」

ルークが空を見上げる。

「あれから、また沢山の人が死んじゃったね・・・」

「もう、終わりにしたいな。こんなことは・・・」

「終わりにする為に来たのですわ。そうでしょう?」

「そうね。・・・だけどここに来たのは私達だけではないみたいだわ」

海に船が寄せられていた。あれは・・・

「神託の盾の船か。・・・ま、大丈夫だとは思うがな」

知也が銃のセーフティを解除しながら言う。

「行きましょう」

ある程度進むと、ルークが確認するかのように言う。

「プラネットストーム・・・こいつを止めるんだよな」

「ジェイド、どうやって止めるんだ?」

黒羽の言葉にジェイドは答える。

「収縮点のある最深部まで降りましょう。そこにプラネットストームを制御する譜陣がある筈です」

「パッセージリングの更に下ですね」

「わかった」

そして・・・

「・・・この先には神託の盾の誰かがいるのですわね」

「リグレットかラルゴかシンクか・・・」

「全員という可能性もありますね」

「・・・ジゼル」

「ラルゴ・・・私は・・・」

「二人とも・・・大丈夫か?」

「ナタリア、顔色が真っ青だ。無理をしない方がいい」

ガイの言葉にナタリアが苦笑する。

「すみません。こんなに動揺するなんて、自分が情けないですわ。ーーーーでも大丈夫です。参りましょう」

「咲さん・・・」

「・・・平気さ。大丈夫」


もしかしたら詠もいるかもしれない。外史メンバーはそこも考慮にいれていた。その奥には・・・

「イオン様!?」

ガキン!

「レプリカ!何故ここに来た!・・・くっ!」

背後でアッシュとラルゴが戦っている。

「アッシュ!!ラルゴ!!」

六神将が揃っている。その時だった。横から吹き荒れる力に吹き飛ばされたのは。


「・・・ようやく形を保てるようになったか」

「その声は・・・」

あぁ・・・最悪だ。本当に生きてやがった。

「・・・ヴァン!」

「おお!ヴァンか!今までの命令違反は水に流してやろう。さあ、ひゃははっ、早く第七譜石を私に!」


するとヴァンが何かをモースに渡す。

「・・・これが地核に沈められていた第七譜石の欠片だ」

「ごれで・・・ごれでようやぐ第七譜石の預言を知ることがでぎる・・・ひゃはははははっ!!」

それをイオン・・・いや、イオンレプリカに渡す。

「待ちなさい!」

俺は前に出るティアの腕を引く。

ダン!

足下に弾が撃ち込まれる。

「師匠・・・」

「私を倒すとは・・・レプリカとはいえ、見事であった」

「兄さん・・・!ローレライは・・・」

「レイ ヴァ ネゥ クロア トゥエ レィ レィ」

「それは・・・ユリアの譜歌・・・」

「・・・消えると思った時、この譜歌を口にした。それが契約の言葉だった。ユリアの譜歌に応え、ローレライが反応した」

「なるほどな。ローレライの力で乖離しかかってた音素を呼び戻して再構築したってことか」

黒羽が刀を握りながらヴァンを睨む。

「そうだ。だが・・・存外扱いが難しい。暴れるローレライを眠らせて、ようやくプラネットストームから抜け出すことができた」

「閣下。そろそろモースが騒ぎ出す頃では?」

「待て!くたばりぞこないが!俺がここで引導を渡してやる!」

ガキィン!

アッシュの一撃をラルゴが防ぐ。

「ようやく総長が戻られた。これでローレライを・・・星の記憶を消滅させることができる。お前に邪魔をさせぬ!」

「くそっ!図体ばかりでかくて邪魔だったらねぇ!」

「この・・・!」

俺は走り出そうとするが・・・

「ライトニング!」

「っ!?」

飛来してきた雷を避ける。

「・・・く、外した・・・!」

詠が悔しそうに睨んでくる。

「アッシュ、私と共に来い。お前の超振動があれば、定められた滅亡という未来の記憶を消せる。人は解き放たれる」

「・・・断る!」

「ではルーク、お前はどうだ?私はお前を過小評価していたようだ。お前にも見るべき点がある」

「・・・俺は・・・お断りします」

「フ・・・そうでなくてはな。では君はどうかな?」

ヴァンが俺を見る。

「・・・答えは変わらねぇよ」

「そうか」

ヴァンは短くそう言うと転送譜陣に乗って転送される。ルークはラルゴに斬りかかる。

「アッシュ!師匠を!」


リグレットや詠も転送され、アッシュがそれを追う。

「・・・ラルゴ。武器を収めませんか」

ナタリアが弓矢を構える。

「・・・この世界は腐っている」

「そんなことはありません」

「寝ても覚めても預言預言・・・そのためにどれだけの命が見殺しにされてきたか!」

「あなた達がやろうとしていることも、結局は同じですわ!」

「そうだ。ヴァンの・・・俺達の計画はネジが飛んでいるからな。だが、それほどの劇薬でもなければ世界はユリアの預言通り滅亡する。被験者が残っている限り、星の記憶の残滓も残るのだからな」

「今を生きる人達を全て見殺しにするのはおかしい」

「レプリカ共を喰らうように殺した男の台詞とは思えんな」

「・・・そうだ。俺はレプリカの命を喰らって、被験者の世界を存続させる道を選んだんだっ!」

「よく言った。それでこそ倒しがいがあるというものだ。行くぞ!」

俺達は構える。

「ダァァァ!」

「そこだっ!」

俺とガイが挟み込むように突っ込む・・・が、ラルゴは巨大な鎌を一振りしただけで俺とガイを弾き飛ばし、ルークと黒羽を巻き込みながら吹っ飛ばす。

「ぐっ!?わ、悪い、黒羽!」

「いや、いい・・・ってうわっ!?」

黒羽が慌てて転がり、その場に鎌が叩きつけられる。

「・・・はぁ!」

撫子が影で生成した鎌を振る。

ガキャアン!

「な・・・!?」

撫子の鎌が砕ける。

「へ、壁・・・!」

「ぬぅん!」

ズバァ!

「あっ!?」

撫子の腕を切り裂き、撫子は地を転がる。

「撫子!」

「当てやすい的だぜ!」

知也は2丁拳銃を乱射するが・・・

ガキキキン!


「・・・随分と物騒な衣替えだな」

ラルゴの鎧に全て弾かれてしまった。

「だったら私達が!」

ティア、アニス、ジェイドが詠唱を始めるが・・・

「譜術は使わせん!火竜爪!!」

ズガァァン!

三人が炎に呑まれ、吹き飛ぶ。

「・・・この人数差で圧倒されるなんて・・・」

「参ったね・・・」

「く・・・!」

ナタリアが矢を放つが容易く弾かれる。

「どうした。まるで勢いがないぞ?」

「ナタリア、下がってろ!リパル、鎌!」

『はいッス!』

「全力・・・デスサイズ!!」


使用できる闇を全て腕と武器に回す。そして放たれた一撃は・・・

「オラァァァァ!!」

「ぬぅ!?」

ラルゴを押す。このまま押しきろうとした瞬間・・・

「まだだぁっ!」

「なぁ・・・!?」

ラルゴが押し返して来た。な、なんつー馬鹿力!?

「おおおお!!」

ガァァン!

「ぐあああ!?」

遂にはラルゴに押し負けてしまう。

「く、くそ・・・駄目か・・・?」

「ーーーいや。上出来だぜ、咲」


『ヒート!マキシマムドライブ!』

ラルゴの背後に・・・知也が立っていた。

「更に・・・」

『トリガー!マキシマムドライブ!』

「ま、待て知也!あくまでそれは変形させる為で、ツインマキシマムは・・・!」

メモリスロットに二つとも攻撃用のメモリを入れたら・・・!

「撃たせん!」

ラルゴが振り向きながら鎌を振るうが、知也はその足下を潜り抜けるように滑り込み、背中にトリガーマグナムを突きつける。

「この距離なら鎧も意味ないよな?」

「知也っ!!」

「トリガーハイパーバースト!!」

ガガガガガガン!!

「ぬああああ!?」

ラルゴの鎧が砕け散る。だが・・・

「へっ・・・ざまあ・・・みろ」

知也が反動で倒れる。

「知也!・・・ティア!」

「ええ!」

「ふ・・・ははは!やるな!」

「こいつ、まだ・・・!」

「・・・」

ナタリアが音素を集める。

「・・・行きますわ!」

ナタリアが空高く矢を放つ。

「降り注げ聖光!アストラルレイン!!」

空から降り注ぐナタリアの秘奥義がラルゴを飲み込む。

「な・・・に・・・?」

ラルゴが膝を着くが・・・最後の力を振り絞り、ルークに斬りかかる。

「一緒に逝って貰おう!」

「・・・くぅっ!」

誰も間に合わない・・・!そう思った時だった。

ズシャ

「ぐおっ・・・」

ラルゴを・・・一本の矢が貫いていた。

「・・・・・・いい腕だ・・・メリル・・・大きくなったな・・・」

「ラルゴ・・・俺達は同じように預言から離れようとしてるんじゃないのか?どうしてこんな風に争わなきゃならないんだ?」

「同じじゃないんだよ・・・いいか・・・坊主。これはお互いの信念をかけた戦いなのだ・・・」

「信念をかけた戦い・・・」


「我々は・・・この世界は滅び・・・生まれ変わるべきだと・・・考えた。お前達は・・・もう一度やり直すべきだと・・・考えた・・・結果は同じでも・・・違うのだ・・・」

ルークはラルゴに手を伸ばすが・・・

「敵に・・・情けはかけるな・・・そんな生半可な思いでは・・・あいつは・・・倒せぬ・・・ぞ・・・さらば・・・メリル・・・」

ラルゴの体がゆっくりと傾き・・・倒れる。

「・・・お父様・・・っ」

ラルゴの遺体が音素乖離で消え、ナタリアはその場に膝を着いてしまう。

「ナタリア・・・」

「・・・酷なようですが、私達はラルゴを倒す為にここに来たわけではありません。アブソーブゲートを閉じるために来たのです」

「けど、ジェイド・・・」

「ナタリアはここで待ってた方がいい。・・・無理はしない方がいい」

俺は言うが・・・

「いえ・・・いえ・・・一緒に参りますわ・・・」

「そうか・・・立てるかい?」

ガイが言うとナタリアは立ち上がる。

「ナタリアさん、無理はしないほうが・・・」

「いえ。行きます」



「・・・しっかし、死ぬかと思ったぜ」

知也がゆっくりと立ち上がる。

「知也!平気か?」

「・・・真似して無茶をしてみたけど・・・やっぱ無茶は性に合わないな」

「だろうな。・・・撫子、腕は?」

「大丈夫ですよ、擦り傷です」


「よかった・・・」




その後はルークが宝珠を使い、どういう訳かアッシュと繋がったことでルークは状況を知り、俺達はすぐに上に向かう。




「・・・シンク・・・っ!」

シンクは分が悪いと思ったのか、素早くその場から逃走する。

「アッシュ!師匠は!?」

「外だ。モースがイオンのレプリカに第七譜石の預言を詠ませてるのに立ち会っている」

「行きましょう!」
外に出ると・・・

「・・・かくしてオールドラントは障気によって破壊され、塵と化すであろう。これがオールドラントの最後である」

「ひゃはっひゃはははっ!でだらめを・・・詠むなぁ!ヴァーーーン!この欠片わ本当に第七譜石の欠片なのが!?」


「勿論」

「やめろ!」

その場に俺達が駆けつける。

「ぬぅ!じゃまだぁあああ!!」

「やめろぉっ!」

ルークが叫びながら接近した時・・・モースに異変が起きた。


「ぐあっ!?わだじのがらだがぁぁぁひゃああーーー!?どうじだごどが?いじぎが・・・もうろうど・・・すこあを・・・すこあを・・・ひゃーっはっはっはっ・・・や・・・めろ・・・!ぐおっ、がふっ!?」

そのままモースは何処かに飛び去ってしまう。

「超振動か!?しかしそれで精神汚染が進むとは・・・」

「・・・いや、違う。私の中のローレライが一瞬ざわついた」

ヴァンが接近した時・・・ヴァンが目を見開いた。

「ローレライの宝珠か!?ぐぅ・・・しまった。ローレライが・・・暴れる!」


「兄さん!?」

「閣下!お体が・・・」

「うおおおおおっ!」

辺りが激しく揺れる。激しい力の渦に巻き込まれ、吹き飛ぶ。

「・・・じょ、冗談じゃねえ!今の力は一体・・・」

「ローレライだ・・・ヴァンが制御しきれずに・・・」

「閣下!ローレライは・・・!?」

「大事ない。もう・・・抑え込んだ」

「ですがここはエルドラントに戻りましょう」

シンクが呼んだ魔物が全員を連れて飛び立つ。

「待て、ジゼル!詠!」

「サキ・・・次は容赦しないぞ・・・!」

「次こそアンタを・・・アンタを殺してやるわ!」

・・・辺りが静かになり、アッシュが歩き出す。

「これでローレライの鍵がどこにあるのか奴等に知られたって訳か。気をつけろ、ヴァンは全力でそれを奪いに来る」


アッシュはそれを言って去っていく。

「ねぇ、みんな。この子・・・ダアトに連れて行ったら駄目かな?この子・・・どこにも行き場がないと思うんだ・・・」

アニスがイオンレプリカを見ながら言う。

「・・・そうだな。ダアトへ送っていこう」

ダアトにイオンレプリカを送りに行く。・・・まあ、当然。

「こ、このお方は・・・!!」

トリトハイムは混乱するが、ティアが説明する。

「・・・ダアトにお預けするのが一番いいと思って連れてきました」

トリトハイムは頷く。イオンレプリカはアニスの背中に隠れるようにトリトハイムを見ている。

「分かりました。お預かりしましょう」

アニスがイオンレプリカに優しく話しかける。

「大丈夫だよ。ここの人達はあなたに預言を詠むように強制したりしないから」

「・・・アニスは・・・残らないの?」

「うん。やらなきゃいけないことがあるから」


「大丈夫だって。時々様子を見に来るからさ」

「ところで、彼はなんとお呼びすれば宜しいのでしょうか?イオン様では・・・」

「うーん・・・」

「アニスが名付けてあげたら?アニスになついているもの」

アニスは少し考えて・・・

「・・・フローリアン」

「フローリアン?」

「無垢な者という意味です」

「フローリアン、また来るから。・・・イオン様・・・」

その時、人の気配を感じて振り返った時・・・腹に衝撃が走った。

「サキ、おかえりなさい!」

「ぐふっ!?あ、アリエッタ?」

「うん。アリエッタ、ちゃんと待ってた・・・よ・・・」

アニスがイオンレプリカ・・・フローリアンを見て固まる。

「イオン・・・様・・・?」

「・・・アリエッタ、この子はフローリアンって言うんだ」

「フローリアン・・・」

「君・・・誰?」

フローリアンがアリエッタを見て尋ねる。

「・・・えっ、と・・・ア、アリエッタ・・・」

「アリ、エッタ?」

「そ、しばらくコイツと一緒にいるんだよ」

アニスがそう言うとフローリアンは微笑む。

「よろしくね・・・アリエッタ」

「・・・!う、うん・・・」


「じゃあよろしくな、アリエッタ」

「・・・また行っちゃうの?」

俺は笑ってアリエッタの頭をポンポン叩く。

「またすぐに来るよ。・・・だから、待っててな?」

「・・・わかった。行ってらっしゃい」

・・・アブソーブゲートの次はその真反対にある、ラジエイトゲートの譜陣を閉じる。・・・さあて、行きますか・・・

 
 

 
後書き
リョウ
「シ・ス・コ・ン!シ・ス・コ・ン!」

サキ
「ブラコンが何言ってやがる!」

リョウ
「ブラコンじゃないしー」

サキ
「・・・随分と今回は煽るな・・・」

リョウ
「うっせ。別に大した意味はない」

サキ
「大した意味なくて煽んなよ・・・それじゃ、また次回」 

 

ラジエイトゲート〜

 
前書き
何故だろう。書いていて違和感しか感じない・・・ではどうぞ。 

 
ノエルに頼み、アルビオールでラジエイトゲートに向かうが・・・

ズガガガガガ!!

神託の盾の船が砲撃してくる。

「くそ!ゲートを閉じさせないつもりか!」

「強行着陸します!」


「頼む!」

ノエルは驚くような操縦で弾を全て避け、ラジエイトゲートに着地する。

「・・・お空でぐるぐるしてフラフラですのぉ~~~」

「ミュウ、しっかりして」

「それにしても、さすがノエルだな。助かったよ」

ルークが言うが、ノエルは首を振る。


「いえ・・・兄ならもっと上手く突入できたと思います。私はまだ未熟です」

「謙遜はいらないって。見事な操縦テクだったぜ」

「・・・もしかしたら敵が来るかもしれないので、危険だと思ったら退避してください」

「ありがとうございます。皆さん、気をつけて」

奥に進むと・・・

「これって、パッセージリングだよね?やっぱりここにもあるんだね」

「まあ、当然ですね。本来ならここにも来る筈でしたし」

「・・・ここでアッシュが助けてくれましたのよね」

「・・・ああ。俺、ホントあいつに助けられっぱなしだな」

「当然だわ」

「え?」

ルークの言葉にティアが即答する。

「大地を降ろしたのよ。二人でやれただけでも大変なことだわ」

「アッシュ一人でも無理だったかもな」

「・・・やはり、人は力を合わせることが大事です」

黒羽、撫子がそう言うが・・・

「ま、時には個人の力で大惨事になるけどな」

「知也~」

アニスが空気読めと言わんばかりに知也を見る。

「・・・でも、分かるよ。俺は・・・」

「でもま、力は使いようだと思うぜ。な?咲」

「俺を見るなっつの。まあ、そうだけどさ」

「大丈夫。今のあなたは力の怖さも知っている。驕らずに、的確に力を使いましょう」

「・・・ああ」


そして最深部に到着すると・・・

「何か・・・来る!」

「くそ!敵か!?急いでゲートを閉じないと・・・」

「早く早く!間に合わないよぅ!」

ルーク、ティアとアニス、そして俺が真ん中に近寄り、ルークが宝珠を使用する。

「上です!」

ジェイドの声に反応し、見上げると・・・

「すこあを・・・!ひゃははははっ!?すこあをまもるために・・・!おまえたちぃ・・・」

モースだ。モースが目の前を飛び回る。

「まだ意識があるのね・・・」

「ひゃはーっはっはっ。ぐぉっ!?私は監視者として・・・世界を繁栄に・・・っひゃあっ!?」

アニスは悲しそうにモースを見る。

「・・・イオン様を殺したのはこいつなのに・・・!なのに・・・なんだか・・・可哀想」

「大詠師モース!お願いです!正気に戻って・・・!」

ティアの呼び掛けに答えず、モースは攻撃してくる。

「モース様!」

「・・・うらぎりものぉををををを!?ふおっ・・・世界はめづぼうざぜばじな・・・っ!?」


「・・・戦おう!このままでいい訳がない!」

「しねぇーーー!?ひゃーはははは!」

その時、背後から神託の盾兵が走ってきた。

「く・・・サキ!そちらは頼みます!」

「あいよ!行くぜリパル!」

方天画戟を構える。

『何時でも準備OKッス!』



俺は改めてモースと向き合う。

「力の暴走ねぇ・・・ったく、嫌な親近感だぜ・・・!」

相手が空を飛んでいるなら、こちらも飛ぶしかない。俺はBモードを発動し、飛び上がる。

「オオオオ!!」


全力で放った一閃はモースを切り裂く。

「へっ、大したことねぇな!」

『・・・待ってくださいッス!敵損害箇所が修復されてるッス!?』

「ああ!?」

確認すると、先程切り裂いた傷はみるみる内に修復していた。

「ひゃはははは!」

『熱源反応・・・!上ッス!』

「っ!」

火の譜術、エクスプロードの爆風に呑まれ、地面に叩きつけられる。

「ぐっ・・・!?」

「サキ!?・・・アニス、ティア!行くぞ!」


『咲さん!?』

「平気・・・だ。ったく・・・無詠唱とは恐れいったな・・・」

俺は方天画戟を空間に投げ入れる。

『さ、咲さん・・・?』


「リパル、お前は常に周りに気を配ってくれ。正直、探知と制御の同時で行くより、今は探知に絞ってくれた方がいい」


『わ、分かったッス!』

空間からはベルヴェルクを取り出し、再び飛ぶ。

「ルーク!飛んで!」

「ああ!」

ルークがトクナガを足場にして、モースに接近する。

「飛燕瞬連斬!」

ルークが蹴りと斬りを連続で放つが・・・

「きかぬきかぬーーー!!」

「くそっ・・・回復しちまう!」

「ルーク、下がって!・・・ホーリーランス!」

光の槍がモースを貫くが、それすらもモースを倒すには至らない。

『どうすれば・・・』

「んなの簡単だ!」

俺はモースの真下に潜り込む。

「開け!」

俺の空間が現れ、それを放置して更にモースの周りに空間を開き続ける。

『咲さん!雷、水、氷、風、炎、来るッス!』

「多いんだよくそっ!!・・・Aモード!」

闇を解放して全ての譜術を回避する。

「くっ・・・まだだ!まだ足りない!」



ベルヴェルクで牽制しながら空間を開き続ける。

「はぁ・・・はぁ・・・!」

亮の真似と同じだ。連続の能力使用は負担が大きい・・・けどな。

「こんなのでつまづく訳にはいかねぇんだよ!」

大量に空間を開き、離れた位置に着地する。

「三人共下がれ!」

三人が退いたのを確認して、俺は力を籠める。

「・・・リパル、捲き込まれんなよ!射出(ショット)!!」

全ての空間から俺が貯蔵している全ての武器を射出する。・・・そして、以前の女の俺も使った・・・射線上に空間を開くことで射出した武器を収納、再利用する。

「ぐおおおお!?」

「ぐっ・・・!?」

ブシャア!

身体から血が吹き出る。・・・能力の使用過多だ。だが・・・

「止まれるか・・・!」

俺は能力を維持しながらベルヴェルクを合わせる。

「フェン・・・リル!・・・ウアアアアアアアアアッ!!!」

叫び、ガトリングを撃ち続ける。


「うぎゃあああ!?」

「・・・おおお!」

ベルヴェルクを投げ捨て、走り出す。そして空間から方天画戟を鎌に変形させながら取り出し、Aモードに使用している分の全ての闇を鎌に回す。

「デスサイズ!!」

ズバァァン!!


「す・・・こあ・・・が・・・ユリア・・・よ・・・世界を繁栄にぃーーー!?」

そう絶叫すると、まるで溶けるかのようにモースは消滅した。

「やっ・・・たか・・・」

俺はその場に倒れてしまう。

「咲さん!」

撫子が駆け寄ってくる。

「何故こんな無茶を・・・!」

「何で・・・だろうな」


・・・いや、何となく分かる。アニスやアリエッタを悲しませる原因を作った相手に怒りがあった。どうせ死ぬからと自棄になっている部分もあった。・・・要するに、自分を見失っていた。

「・・・まったく・・・俺らしくない・・・」

『咲さん・・・』

「・・・少し、休むか・・・」

Aモードを使った副作用もあってか、俺はあっさりと意識を手放した・・・















































「・・・はぁ」

目が覚めてなんとなく溜め息を吐きたくなった。

『起きたッスか?』

「・・・ああ。あのさ・・・怒ってるか?」

『・・・もう怒る気も起きないッスよ。咲さんに無理するなって言うのが無理ッス』

「・・・悪い」

ここは・・・ダアトか。

「あれからどうなった?」

『特に変化はないッス。後はエルドラントの対空放火をどうするかなんスけど・・・』


「対策練るのにゃここじゃ無理ってか?」

『ダアトが近かったので・・・』

やべ、俺めっちゃ足手まといだ。

「・・・で、アリエッタに・・・バレた?」

『ずっと看病してたッス』

「あっちゃー・・・」

俺が怪我した・・・なんてアリエッタからしたら心配以外の何物でもない。

「あー・・・撫子も怒るだろうし・・・どうし」

ガチャ

「咲さん、目が覚め・・・って何やってるんですか?」

俺は反射的に正座をしていた。

「・・・この度は多大な無理をしたことを心より反省致しますので、どうか寛大なお心で処罰を・・・」


「・・・ぷっ、はははは、何ですかそれ」

撫子が笑って溜め息を吐く。

「別に怒ってはいませんよ。それより、皆さん待っています」

「あ、ああ」

「・・・体は大丈夫ですか?」

「ん。もう回復した」


自分自身もこの回復速度はビックリだ。

「いっそ速度と防御捨てて攻撃特化にしようかな・・・」

『無意味ッス』

「・・・最近うちのリパルが反抗期なんだけど」

「咲さんは常に反抗期じゃないですか」

「ぐ・・・」

何も言い返せない。

「・・・と、とにかく行こうぜ」


俺は部屋から出てみんなと合流しようとした時・・・なんか騒いでいた。

「アニス、大変だよ!大変!」

「ど、どうしたの?フローリアン」

「いたずら悪魔がいないんだ!」


「どうしたんだ?」

「サキ、もういいのか?」

ガイの言葉に手を振りながら言う。

「生憎、頑丈さが取り柄でね」

「しかし・・・いたずら悪魔とはなんですの?」

「悪魔ならここに一匹凄いのが・・・」

「何か?」

ルークがちらりとジェイドを見る。

「・・・“いたずら”なんて可愛らしいもんじゃねえな・・・」


その時、パメラさんがやって来た。

「・・・あらあらあら!アニスちゃん、丁度いいわ」

「ママ。どうしたの?」

「実はね。身寄りのない子供達の為に劇をすることになったんだけど、意地汚い、いたずら悪魔の役が熱を出してしまったのよ」

「おや、アニスにぴったりの役どころじゃないですか!」

「大佐・・・それって失礼じゃありませんか・・・」

「それに、ユリア役の人も連絡がつかなくて・・・」

「だったらティアがやればいいんじゃね?」

「わ、私は無理よ。人前で演技する自信がないわ」

ルークの発言にティアは拒否する。・・・その時だったのだ。撫子が直下型爆弾を落としたのは。

「だったら咲さんがやればいいんじゃないですか?」


「はぁ!?」

「おお、それはいいな」

「私は以前見られませんでしたしね」

「ちょちょちょ、ちょっと待て!ユリアって女だろ!?」

「咲さんの演技力は見ていますし、髪色とかはカツラで誤魔化せばいいです」

「け、けど・・・!」

「咲さん、以前の約束を忘れたのですか?」

「ぐ、~~~~~!?」

そう言えばそんな約束をしてしまった覚えがある。

「アニス、サキ。お願い!アリエッタも出るから、一緒にやろう!」

・・・俺は悪どい策略より、子供の純粋な願いの方がキツイことを知った・・・




























































・・・そして、劇が始まる。

「わははは。ボクはいたずら悪魔だぞ。みんなの大好きなお菓子をぜーんぶ独り占めだい!」

やばい。悪魔衣装が似合ってる上に、お菓子をお金に変えると違和感が消える。

「みんなのお菓子を返してよ!アニ・・・悪魔のいじわる!」

一方アリエッタは真っ白なワンピースに天使の羽とベタな服を着ていた。まあ、可愛いけど。

「アリ・・・じゃない。天使なんかが口挟むなー!」

そして、二人とも地が出かかっている。


「そんなことをしてはいけません」

初代導師役のフローリアンが登場。一瞬二人は固まったが、演技は続く。

「なんだ、お前は。このお菓子はぜーんぶボクのだぞ!」

「導師様、こんないたずら悪魔にはお仕置き・・・です!」

「いけませんよ、優しい天使。あなたはそんなことを望む天使ではない筈です」

「・・・(よし)」

特に大きなハプニングもなく、劇は進んでいく。そしてクライマックス・・・

「導師よ、死ね!」

「危ない、導師様!」

「・・・えい!」

アニスが暗殺者役とフローリアンの間に立ち、そのまま倒れ込む。

「いたずら悪魔さん。何故、僕を庇ったのですか?」

「ボクの初めての友達だからだよ。導師のお陰でボクは友達ができた。だからボクのお菓子は導師にあげる。ああ、こんなことなら、天使と喧嘩しないで、みんなにお菓子を分けてあげればよかった・・・」

「ああ、星よ。ユリアよ、ローレライよ。このいたずら悪魔さんを助けてあげて下さい」

『咲さん、出番ッスよ』

「別にユリアじゃなくてローレライで事済んだんじゃねえの・・・?ああ、くそっ!」

俺は半ば自棄になりながら階段を使い、上から現れる。

「いいえ、それはできません。それは死に逝く命を冒涜するのと同じなのですから」

白いドレスに栗色のカツラ。さらに女性陣によって施されたメイクによって、俺を男と気づく人間は少ないだろう。

「ですが、このままでは悪魔も天使も・・・あなたも悲しみが残るでしょう。・・・私がその子に、新たな命を与えます・・・」


俺が照明に合図を送り、一瞬暗くしたあと・・・

「チーグルですの!こうしていたずら悪魔はチーグルになって、ローレライ教団の聖獣になったですの!」

・・・何とか劇は拍手喝采で終わった・・・

「みんなハマり役だったぞ!」

ルークの言葉に溜め息を吐く。

「何処がだよ・・・」

アニスも頬を膨らませる。

「そうそう、最後はどっちかっていうと私よりミュウに拍手行ってたし」

「照れるですのー」

「でもボクはアニスが守ってくれて嬉しかったよ」

「あれは劇のお話じゃん」

「でも、嬉しかったよ」

「・・・ちゃは。まあいいか」

「サキ、アリエッタの演技、どうだった?」

「ああ。とっても良かったよ。服も可愛かったし」

アリエッタの頭を撫でるとアリエッタは笑顔になる。

「「「シスコン」」」


「誰だっ!」

俺が見ると即行で顔を背ける外史メンバー。

「サキも綺麗だった!」

「いや・・・あんま嬉しくないんだけど・・・」

アリエッタは素直に答えてるんだろうこど・・・俺の精神はガリガリと削れている。

「・・・とにかく、着替えてくる」

「おや、別にそのままでもよろしいのでは?」

「いい訳ねーだろ!」

「いえいえ、そのままリグレットと対峙すればどんな反応を示すか興味がありまして・・・」

「ドン引かれされるだけだ!つか姉貴にこんなん知られたら俺が悶え死ぬっつーの!」

「まあ、いいじゃないですか。写真は取りましたから」

「撫子ぉぉぉ!?」

「そして送信しました」

「やっぱり怒ってるだろ!無茶したこと怒ってるだろ!」

『・・・』

「・・・お前は?」

『大丈夫ッス!写真は全然撮ってないッスよ!』

「・・・嘘はついてないみたいだな」

『(動画は撮ったッスけどね。・・・送信ッス)』


「・・・早く着替えて目的地に行こうぜ・・・」

エルドラントの対策を考える為にグランコクマの軍部で話し合うらしい。

「サキ・・・気をつけてね」

ちなみに、アリエッタにはちゃんと心配かけたお詫びと、看病してくれた感謝を伝えた。

「ああ、また行ってくるよ。フローリアンと仲良くな」

「僕とアリエッタはとっても仲良しだよ!一緒に寝たりもするし」

「あ、ああ・・・そう」


何故だろうか。何か不安になる。そ、そうだよな、何れはアリエッタも好きな男ができたり・・・

「もう、シスコンってか親馬鹿の領域だよな」

知也の言葉に全員が頷く。・・・とにかく、グランコクマに向かうことにした・・・


 
 

 
後書き
リョウ
「うわあ・・・」

サキ
「うるせえ。余計なこと言うなよ」

リョウ
「・・・あー、なんだ・・・別に、俺は気にしないからな?」

サキ
「なんだよその知っちゃいけないことを知っちゃった感じは!?」

リョウ
「大丈夫。霞達には黙ってるよ。・・・女装したっていいよな」

サキ
「趣味じゃねーよ!!テメエわざとだろ!」

リョウ
「はい?」

サキ
「こ・・・この野郎」

リョウ
「いい感じに咲を怒らせたので、今回はこれまで。また次回ー」

 

 

突入〜

 
前書き
くっ・・・説得は、苦手だ・・・!ではどうぞ。 

 
・・・というわけで、グランコクマの軍本部にて、ゼーゼマンから話を聞く。

「待っていたぞ。エルドラントはプラネットストームという鎧を失った」

「キムラスカ・マルクト連合軍はプラネットストーム停止と同時に出兵準備に入った。貴公らに助力するためだ」

「ありがとうございます」

・・・そして、エルドラントの対空砲火には発射から充填までにタイムラグがあるらしい。・・・つまり、ノエルが弾を回避しきり、そのタイムラグの間にエルドラントに突入する・・・という算段になった。

「地上部隊はこちらの突入にあわせて下さい」

「うむ。しかし優先すべきはヴァンだ」

「ええ。分かっております」

連合軍はケセドニアに集まっているらしい。俺達も向かおうとした時・・・

「アッシュ・・・!」

「・・・プラネットストームが止まったようだな」

「よかった!そのことをお前に伝えようと思ってたとこだったんだ」

「いや、すぐにわかった。だから俺はお前・・・」

ルークが駆け寄り、手を出したアッシュに・・・宝珠を渡した。

「なんだこれは・・・」

「前に言っただろ。ローレライを解放できるのは、被験者のお前だけだって」

「・・・」

「俺はみんなと一緒に全力でお前を師匠の元へ連れていく。お前はローレライを・・・」

「・・・ろう」

「・・・え?」

「馬鹿野郎!!誰がそんなことを頼んだ!」

「何を怒ってるんだよ。一緒に師匠を止めないっていうのか?俺がレプリカってことがそんなに・・・」

「うるせぇっ!大体何時までも師匠なんて言ってるんじゃねえっ!」

「・・・アッシュ」

「しかもこの期に及んでまだ止めるだぁ?何時までもそんなことを言ってる奴に、何が出来る!お前甘過ぎなんだよ!あの人は・・・本気でレプリカの世界を作ろうとしている。それが正しいと思ってる。・・・確信犯なんだよ。俺が馬鹿だった。もしかしたら・・・こんなレプリカ野郎でも協力すれば奴を倒す力になるかもしれねぇって」

アッシュはどんどん捲し立てる。

「お前は俺だ!そのお前が自分自身を劣ってるって認めてどうするんだ!俺と同じだろう!どうして戦って勝ち取ろうとしない!」


アッシュの怒りは全然収まらない。

「どうして自分の方が優れているって言えない!どうしてそんなに卑屈なんだ!」

「違う!そんなつもりじゃない。第一、俺とお前は違うだろ」

「・・・な、何・・・」

「俺はお前のレプリカだ。でも俺は・・・ここにいる俺はお前とは違うんだ。考え方も記憶も生き方も」

「・・・ふざけるな!劣化レプリカ崩れが!俺は認めねぇぞ!」

「お前が認めようと認めまいと関係ない。俺はお前の付属品でも代替え品でもない」

アッシュはルークに宝珠を投げる。

「アッシュ!何をする・・・」

「おもしれぇ!ならばはっきりさせようじゃねえか!お前が所詮はただの俺のパチモンだってな!」

「アッシュ、俺はお前と戦うつもりはない!」

「うるせぇっ!偉そうに啖呵を切っておいて逃げるつもりか?お前はお前なんだろう?それを証明して見せろ!でなけりゃ俺はお前を認めない!認めないからなっ!」

ナタリアの静止も聞かず、エルドラントで待つと言ってアッシュは去る。


「・・・ここに来て立場逆転か・・・」

ルークは死を目前にして、人になった。だがアッシュは自立したルークを認められず、衝突した。・・・この戦いは避けられない。・・・そしてケセドニアに到着。

「作戦決行は明日。マルクト・キムラスカ連合と合流した後になります」

「ってことは今日1日は時間があるよな」

「ええ。出兵前の兵士には24時間の自由行動が与えられますからね。その間は暇があります」

「じゃあ、私達も自由行動しようよー!」

「構いませんよ。ですがケセドニア付近からあまり離れないように」

「は~い♪じゃあ撫子、黒羽、ナタリア、行こう!」

「は、はい」

「ああ」

「よろしいですわ」

「知也、君の銃を見せてくれないか?前から気になってたんだ」

「ああ、構わないぜ」

みんながそれぞれ散っていく中、ルークとティアはノエルに連れられて何処かに行った。















「んで、俺はアンタに付き合ってる訳だが・・・」

俺とジェイドは酒場にいた。

「もう少し気の効いた場所で飲みたかったですけどね」

「なあ、ジェイド。この一件が済んだらどうする?」

「私は軍人ですからね。普通に軍生活に戻るだけですよ。ただ・・・」

「ただ?」

「おかしいですね。私は帰ったら改めてフォミクリーの研究を再開したいと思っているんです。レプリカという存在を、代替え品ではない何かに昇華するために」

「・・・変わったな」

「変わったのは私達全員ですよ。・・・ところで、いいのですか?アリエッタは・・・」

「・・・勝っても負けても消えるのは変わらないんだ。それに・・・どうもアリエッタにそういうこと言えなくてな・・・」

「・・・最初の頃から、あなたはアリエッタが絡むと判断がおかしくなりましたね」

「正しくは家族が絡むと・・・だ」

「では、リグレットとエイは平気ですか?」

「・・・」

「間違いなく彼女達はエルドラントで待ち受けているでしょう。あなたは・・・」

「・・・殺させない。二度と家族は失いたくないんだ」

「それはリグレットも同じでしょう。彼女はあなたを失い、預言の真実を知ってヴァンに加担した」

「・・・だったら俺が生きている時点でその加担する理由はないぜ。・・・姉貴ってさ、昔から一度決めたら意見を変えない頑固な人でさ。だから恋人もできないし、部下からも鬼教官って恐れられるわ・・・」

「ははは。思わぬ情報ですねぇ」

「・・・だからこそ。俺だけが本当の姉貴を知ってたんだ。厳しいけど・・・本当は優しい人だって」

「だったら意地でも説得しなさい。もし駄目なら・・・汚れ役は私が引き受けます」

「・・・じゃあ、ジェイドに出番はないな」

「そうですか。なら結構です」

・・・こんな話をしながら、時間は過ぎていく。そして翌日・・・


「よし、ルーク。最後だし、号令かけてよ」

「お、俺が?」

「だってもうあなたがリーダーのようなものよ」

ルークはみんなを見渡したあと・・・

「わかった。みんな、必ず俺達の世界を守るぞ!!」

アルビオールはエルドラントの下で待機。あとは軍隊が援護してくれるまで・・・


「な、なんだ?」

いきなりアラートが響く。

「ルーク!あれっ!?」

ティアが焦りながら上を見ると・・・なんとエルドラントが突っ込んできた。

「お・・・おいおい!?」

なんとか対空砲火も回避する。

「なんとか逃げられたけど・・・」

「まさかあちらから飛び込んでくるとは・・・しかもエルドラントは特攻する推進力を得るために記憶粒子を逆噴射した。おそらく地核のタルタロスは完全に破壊されたでしょうね」

ズガン!

「・・・くっ!エルドラントが落下しても対空砲火は生きているようです」

「・・・いえ、待ってください。エルドラントの左翼・・・と言っていいのか、とにかく左の対空砲火が死んでいます!」

「了解!そこに着陸します!」

ノエルは勢いを殺さずに安全地帯に着陸する。・・・そして・・・

「あれ、アストンさんのアルビオールだろ!?」

「そう言えば三号機はアッシュが乗り回していたな」

大破したアルビオールの中からギンジさんが歩いてくる。

「お兄さん!?あの対空砲火を潜り抜けたの!」

ノエルがギンジに駆け寄る。

「危険だが、そうするよりなかった。迎撃装置の死角から飛び込んでアルビオールの船体をぶつけたんだ」

「無茶をする・・・」

ギンジはノエルに任せ、俺達は内部に入る。


ダン!

「来たか・・・」

「ローレライの鍵、渡してもらおう」

やっぱりジゼルか・・・

「みんな、下がってくれ」

「咲さん・・・」

俺は空間からベルヴェルクを取り出す。

『咲さん・・・』

「悪いな。今回は・・・ジゼルと同じ武器で行きたい」



『分かったッス・・・気をつけて』

「ああ」

俺はジゼルの前に立つ。

「・・・どうあっても私の邪魔をするのか」

「それはこっちの台詞だよ。ジゼル、なんでヴァンに加担する?」

「預言を滅ぼす為だ。預言が存在していたら、人の意思など存在しないも同然だ」

「・・・じゃあジゼルの意思は?ジゼルだって振り回されてるんじゃないのか?」

「私は自分の意思で閣下に協力している。あの方は私を孤独から救ってくれた」

「・・・ったく、姉貴も変な奴に惚れたもんだ。相変わらず男の見る目がないな」

「・・・戦場で無駄口は死に繋がる。分かっているだろう」

「・・・ちょっと怒ったみたいだな。・・・なあ姉貴・・・俺に色んなことを教えてくれたよな」


「・・・」

「戦術や戦法・・・だけど俺はどう足掻いても姉貴に一度も勝てなかった」

「当たり前だ。私が簡単に負ける訳ないだろう」

「ああ。だから俺は不安になった。姉貴に認めてもらってない。姉貴の中じゃ俺は弱いままなんだって」

「・・・」

「だから・・・もう話し合いはいらない」

ベルヴェルクを構える。

「今日こそジゼルから一本取る!そんで俺達の意思を知ってもらう!」

「・・・やれるものならやってみろ!」

「・・・認めさせる!俺が・・・俺が力を得たかったのは・・・!」

ジゼルが撃つ弾を避けながら、俺もベルヴェルクを撃つ。

「ダァ!」

弾を避け、前に転がりながら蹴りを放つが、それをジゼルは防ぎ、銃口を向けてくる。

「・・・っと!」

それを再び転がって避け、膝を立てながらベルヴェルクを撃つ。

「くっ・・・まだ甘い!」

ダァン!

弾が腕を掠める。

「まだだ!」

背後に飛び、空中でベルヴェルクを乱射し、弾幕を張る。

「その程度で!」

ジゼルは華麗な身のこなしで弾を全て避けきる。

「ちっ・・・」

オリジナルのベルヴェルクなら全弾当てるのも可能なのに・・・!



「それで終わりか」

ジゼルが銃を構える。

「トール!」

ミサイルを発射。爆風で視界が見えなくなる。

「なに!?」

「アサルトスルー!」

肩から相手にタックルをぶちかます。ジゼルは吹っ飛ぶ・・・かに見えたが、

「・・・ふっ!」

自ら体を仰け反り、手を付き・・・そのまま反動で俺の頭を足で挟む。

「しま・・・」

「・・・せいっ!」

ジゼルが勢いで仰け反り、俺の体もそのまま脳天から叩きつけられる。

「ぐっ・・・お・・・」


揺れる視界を気にせず、すぐに飛び退ると俺がいた箇所に銃弾が撃ち込まれる。

「・・・ふー・・・」

「・・・なるほど。確かに強くはなっている。だが・・・」

ジゼルの頭上に火の玉が出現する。

「・・・その程度で勝てると思うな!」

火の玉が打ち出される。・・・避ける余裕はない。

「バレットレイン!」

ズガガガガガ!

「フェンリル!」

ドドドドドン!

「ちぃ・・・もう一度トール!」


ズガァァン!!

遂に火の玉を撃ち破った・・・瞬間だった。

ズガァ!

「ごは・・・」

ジゼルの膝蹴りが直撃していた。

「注意力が足りない」

「・・・!!」

すぐに距離を取る。

「その選択は安易過ぎたな」

ジゼルの周りに音素が集まる。・・・しまった!秘奥義か!?

「これで終りだ!プリズムバレット!!」

光線が俺を貫く。

「があっ・・・!」
『咲さん!!』


また・・・負け・・・?・・・いや!

「勝つんだ・・・今日こそ!」

足を踏ん張り、硬直しているジゼルに向かって踏み込む。

「なんだと!?」

「ウオオオオ!」

全弾ジゼルに叩き込み、身体を捻りながら飛んで更に撃ち込み、ベルヴェルクを合わせる。

「ヴァルキリーベイル!!」


ズガァァン!!

ジゼルの体がゆっくりと崩れる。

「・・・ジゼル!」

俺はジゼルを抱き抱える。

「・・・初めて、初めて姉貴に勝った・・・」

「・・・ええ、強くなったわね・・・」

「・・・なあ、姉貴。預言なんて単なる可能性の一つなんだ。それに、みんな預言を必要としなくなってきてる・・・」

「・・・そうじゃないわ。少なくとも・・・預言は存在するだけで・・・駄目なのよ」

「でも、俺は生きてる」

「・・・」

「止めよう、ジゼル。姉弟で殺しあいなんて馬鹿げてる」

「ここまで来て・・・今更ジゼルに戻れないわ・・・」

「ならリグレットのままでもいい。俺はただ・・・これ以上家族を失いたくないんだ」

「サキ・・・」

「預言を無くす方法なんて山ほどある。だから・・・帰ってきてよ」

「・・・私は・・・」

「・・・また、やり直そうよ。ちゃんとお互いの誕生日を祝おう。空白の数年間を・・・新しい思い出で埋めよう」


「・・・サキ」

ジゼルが微笑む・・・が、次の瞬間、急に顔を強張らせて俺を突き飛ばした。

『咲さん!背後に・・・!』

「え・・・?」

その直後だった。・・・雷の刃がジゼルを貫いた。

「嘘・・・だろ・・・」

再び・・・ジゼルの体が崩れ落ちた。

「あ、姉貴ーーーーッ!!!」


「ーーー駄目じゃないかリグレット。ヴァンを裏切ろうとしちゃあ」

「シンク・・・!」

「この!」

知也がシンクを撃つが、シンクはそれをかわす。

「悪いけど、まだ分が悪いからね。もっと奥で待たせてもらうよ」

シンクが居なくなるが・・・そんなのどうでもいい。

「ジゼル!ジゼル!しっかりしろ!」

「サ・・・キ・・・ごふっ・・・」

「ジゼル!あ、あぁ・・・血が、血が止まらない・・・」

頭の中が真っ白になる。

『咲さん!薬ッス!まだクレスさんの薬が残ってる筈ッス!』

「っ!!」

俺は慌てて空間を開き、薬を取り出す。

「ジゼル、これを飲んで!速く!」
何度も吐き出しながらも、ジゼルに薬を飲ませる。

「ティ、ティア、ナタリア・・・お願いだ、姉貴を、姉貴を・・・!」

「ええ!教官を死なせはしないわ!」

「任せてください!」


・・・本来なら、自分の術で助けたかった。・・・だけど、今は・・・二人に任せるしかない・・・

「・・・傷が」

やはりクレスの薬の効果は凄まじい。みるみる内にジゼルの顔色が良くなる。

「ジゼル・・・!」

ジゼルはうっすらと目を開く。

「・・・サキ・・・これを・・・」

ジゼルは自身が使っていた銃を差し出してくる。

「・・・」

「あなたが私より強くなった・・・記念よ・・・」

「・・・ジゼル」

「行きなさい。・・・必ず、戻ってきて来なさい」

「だけど・・・」

「・・・知ってるわ、体の事は・・・だからこそ、帰ってきなさい。あなたの姉として・・・やり直したいから・・・」

「・・・」

「・・・行ってきなさい。私は・・・平気よ」

俺は頷き・・・立ち上がる。

「・・・わかった。行って・・・きます」

「・・・ふふ」

ジゼルは微笑み・・・その目を閉じた。

「ジゼル!?」

「大丈夫、眠っただけよ」

「ここに放置するのは不味い。アルビオールまで運ぼう」

「わ、分かった」

俺はジゼルを抱え上げ、アルビオールに運ぶ。・・・待っていてくれよ、姉貴。必ず終わらせて・・・帰ってくるから。

 
 

 
後書き
サキ
「ふー・・・」

リョウ
「三連チャンス行くか?」

サキ
「詠を助け出せたら三連確定だぜ・・・」

リョウ
「・・・お前は大変だな。相手多すぎだろ」

サキ
「まったくだ。作者は俺に恨みでもあんのかね・・・ま、それじゃまた次回!」

 

 

悲願〜

 
前書き
誰か・・・誰か僕に言語力を・・・!二話連続説得は辛すぎる・・・!・・・ええー、あらかじめ言っておきます。今回は微妙です(泣)ではどうぞ。 

 
俺達は決着をつけるため、急いでヴァンの元へ向かう。

「・・・アッシュは何処だろう」

「アルビオールの様子を見るには、あまり時間は経っていない。すぐに追いつくでしょう」

「そうか・・・アッシュ・・・」

ルークが走る速度を上げる。

「おいルーク!あんまり先ばし・・・」

俺がルークの近くまで寄った時・・・地面の感覚が消えた。

「うおっ!?」

「落とし穴ぁ!?」

「咲さん!」

撫子が影を伸ばしてくるが・・・それより速く入口が消滅し、影が途絶える。そのまま落下していき・・・

ドサッ!

「っ・・・」

俺とルークは何処かの広間に落ちた。

「おまえは・・・」
声がした方向を見ると・・・

「アッシュ!おまえ、どうしてここに・・・」

「フン、こっちの台詞だ。・・・ファブレ家の遺伝子ってのは余程間抜けらしいな」

つまり、コイツも落とし穴に落ちたのか・・・

『・・・間抜けッス』

「お前が言うな」



「レプリカまで同じ罠にかかるとは・・・胸くそ悪ぃ」

「・・・そんな言い方をするなよ!・・・ここを出る方法はないのか?」

ルークが聞くとアッシュはひろまの中央にある紋章に音素を流し込む。すると奥の扉が開くが、アッシュが手を離すと、扉は閉まる。・・・完全に隙間もないため、俺の開閉能力では開くことができない。

「誰か一人はここに残るって訳だ」

それを聞いてルークはアッシュに宝珠を差し出す。

「・・・なんの真似だ」

「どちらか一人しかここを出られないなら、お前が行くべきだ。ローレライを解放して・・・」

「いい加減にしろ!!おまえは・・・俺を馬鹿にしてやがるのか!」

「そうじゃない。俺はレプリカで超振動ではお前に劣る。剣の腕が互角なら、他が有利な奴がいくべきだろう」

「・・・ただの卑屈じゃなくなった分、余計にタチが悪いんだよ!」

「アッシュ・・・」

「他の部分で有利だ?何も知らないくせに、どうしてそう言える。どちらかが有利なんてわからねぇだろうが!」

「だけど俺は・・・」

「黙れ!」

アッシュは剣を引き抜く。・・・その時だった。反対側の入口が開き、一人の少女・・・詠が歩いてきた。

「・・・私の命令は、ローレライの鍵を始末すること・・・」


「詠・・・」

詠は俺を睨み付ける。

「アンタは・・・アンタは一体何なのよ!!」

「・・・」

「私はヴァン総長に助けて貰った!だからヴァン総長の為に戦うと決心したのに・・・アンタを見てると、私がわからなくなる!決心が薄れてしまう!」

「・・・お前、記憶の・・・」

「あの人・・・月って誰よ!?この間からずっとその名前と顔が浮かんで気分が悪いのよ!・・・こうなったのもアンタが・・・アンタがいるから・・・」

詠はサーベルと小太刀を構える。

「アンタを倒せば・・・この苦しみから逃れられる!!」


「・・・いいかレプリカ。これは俺達の存在をかけた戦いだ」

「どっちも本物だろ。俺とお前は違うんだ!」

「黙れ!理屈じゃねえんだよ・・・過去も未来も奪われた俺の気持ちがわかってたまるか!俺には今しかないんだよ!」

「・・・俺だって、いや・・・生きる全ての奴にだって今しかねえよ」

「詠・・・いいぜ、相手をしてやる」

俺はダークリパルサーを、ルークはカトラスを同時に構える。

「奪われるだけの過去もない。それでも俺は俺であると決めたんだ。お前がどう言おうと、俺はここにいる」

「もう説得しても無駄なのは分かった。だけど諦めるつもりはない。全力でぶつかって、必ず思い出させてやる!」

俺とルークが走り出す

「・・・それがお前の言う強さに繋がるなら、俺は負けない!」


「・・・ショック療法だ。一発ぶん殴って直してやる!」

「よく言った。その減らず口、二度と利けないようにしてやるぜ。行くぞ!劣化レプリカ!」

「うるさいうるさいうるさい!倒す・・・必ず倒す!」

ダークリパルサーとサーベルが甲高い音を立てて弾きあう。

『さ、咲さん!いいんスか!?』

「前にも言っただろ。・・・例え傷付けてでも連れて帰るって」

『でも、万が一・・・』

「・・・そん時は、そん時だ。・・・今は最悪を想定する訳にはいかない」

「何を一人でぶつぶつと!」

サーベルと小太刀の連続攻撃をダークリパルサーで弾く。・・・太刀筋が鋭くなってる。

「はぁぁっ!」

「なっ!?」

剣にばかり意識が向いていたせいで、詠が放つ回し蹴りに反応出来ずに蹴り飛ばされる。

「っ・・・!体術まで覚えやがったか」


「・・・アンタを、倒すためよ。私は・・・強くなりたかった」

ガキィン!

詠の一撃を弾き・・・返す剣で斬るが、それは小太刀で軌道を逸らされる。

「だけど、だけど・・・!」

詠の剣に迷いが生じる。

「アンタを倒すために強くなる度に私は思った・・・“私は、誰?”・・・って」


「ふっ・・・!」

カァン!

「そこでアニスがモースに報告したのを聞いた。そして混乱した」

「そう、か・・・!」

「私を知る男がいる。けど、そいつは敵だった。でもリグレットやアリエッタとも知り合い・・・もしかしたら、こちらに来るかもしれない・・・そう思った」

「だけど俺は仲間にならなかった。ヴァンを倒すと決めていたからな」

「私は諦めたわ。記憶なんていらない、今は命を救ってくれた恩を返せればいいって」

「・・・!」

話しながらもお互いに剣を振る手は休めない。

「そしてアリエッタとアニスが戦っていたあの時・・・アンタの言葉で・・・!」

「・・・記憶の混乱が起きた訳か」

「・・・なんなのよ、アンタはサキ・オスローじゃないの!?」

俺は一旦離れ、ダークリパルサーを両手で構える。

「・・・ああ。俺は五十嵐 咲。そしてお前は董卓軍、軍師・・・賈駆文和、真名を・・・詠」

「・・・っ!」

カラン、と小太刀を落として頭を抑え・・・

「くっ・・・また、また気持ち悪い・・・!私に、変なことを・・・言うなぁぁぁ!!」



詠は剣を構えて走り出す。

「虎牙破斬!」

ガキキン!」

「しまっ・・・」

二連撃で防御を崩される。

「終わりよ!」

「く・・・闇よ!」

俺と詠の周りに力が集まる。

「ダークネスバインド!」

「私の目の前から消えろ!魔神・・・煉獄殺!」

ズガガガ!!

二つの秘奥義が激しい衝撃波を生み出す。

「どうして・・・どうして私の邪魔をするのよ!」

「邪魔?・・・あえて言うならお前を連れ帰るためだ!」

「・・・どうしてアンタはそんなに私に拘るのよ!」

「・・・一生傍にいるって約束したからだ!!」

ズガァァン!!

「ぐあ・・・!?」

「きゃあ・・・!?」

お互いに突き飛ばされ、詠が俺より速く立ち上がる。

「どうして・・・どうして・・・」

ヒュオン!


詠が突きを放ってくる。

『咲さんっ!!!』

俺と詠の距離が零になり・・・しばらく、時が止まった。





「・・・どうして・・・」

不意に詠と目が合った。・・・その目には・・・涙が、あった。

「どうして・・・ボクは・・・咲とこんなことをしているのよ・・・」

詠の突きは、俺の脇を通りすぎていた。

「詠・・・お前・・・」

記憶が・・・

「咲・・・ボク、気付いてた・・・だけど、咲を殺そうとした事実を認めたくなくて・・・」

本能的に本来の記憶を封じてた・・・か。

「ボク・・・さ、咲に剣を向けて・・・あんなに酷いことを・・・う、ぁぁ・・・!」

俺は詠を・・・抱き締めた。

「・・・俺も、ごめん。そもそも俺に力があれば・・・詠の手を離さずに済んだんだ・・・」

「咲・・・!ボク、ボク・・・会いたかった・・・!」

「ああ、俺もだ・・・!」



ガキャン!

音がした方を見ると、ルークがアッシュにカトラスを突き付けていた。

「くそ・・・被験者が・・・レプリカ風情に負けちまうとはな・・・」

アッシュがそう言ってルークにローレライの剣を投げる。

「そいつを持っていけ」

「アッシュ・・・俺は・・・」

ルークが何か言いかけた時、神託の盾騎士団が大勢やって来る。

「ここは俺が食い止める!早く行け!」

すると詠は涙を拭い、アッシュの隣に立つ。

「ボクも残るわ!」

「詠!?何を言って・・・」

「俺も一緒に戦う!」

「ざけんじゃねぇ!今大事なことはここの奴等を一掃することか?違うだろうが!」

「止めてくれ、詠・・・俺はもうお前を失いたくない・・・!」

詠は微笑み、俺に指を向ける。・・・その指には指輪が付けられている。

「大丈夫。もう離れないわ。・・・咲、ヴァン総長を・・・止めて」

「詠・・・」

「さっさと行け!」

ルークがアッシュにカトラスを投げ渡し、ローレライの剣を持って走り出す。

「・・・約束しろ!必ず生き残るって!でないとナタリアも俺も・・・悲しむからな!」

「うるせぇっ!約束してやるからとっとと行け!」

「詠、気を付けろよ!」

「ええ、また後で!」

俺もルークを追って走り出す。そしてしばらく先で・・・

「ルーク!サキ!」

「みんな!」

仲間達と合流する。

「無事だったのね!」

「ああ・・・アッシュとエイが助けてくれた」

「アッシュが!?それで彼は・・・」

「敵を食い止めてくれてる」

「詠さんが・・・?咲さん、それって・・・」

「ああ、詠は記憶を取り戻した」

「だったら急ごうぜ。あの二人が何時まで持ちこたえるか分からない」

黒羽の言葉に頷くが・・・

「助けに行きませんの!?」

ナタリアの言葉にジェイドが返す。

「どうしてアッシュが憎んでいるルークを行かせたんです?何か事情があるのでしょう」

「・・・そうですわね・・・でも・・・なんだか嫌な予感がしますの」

「ナタリア・・・」

「気のせいですわよね。ごめんなさい、行きましょう」


詠・・・頼むから死ぬなよな・・・!

 
 

 
後書き
リョウ
「お疲れ。つかおめでとう」

サキ
「ああ!これで後は恋だけだ!・・・っと、もちろん思春と明命もな」

リョウ
「いや、それは・・・」

サキ
「なに今更遠慮してんだよ。俺の“全員連れ帰る”には呉も入ってんだぜ?」

リョウ
「・・・ああ、ありがとう」

サキ
「おう。それじゃ、また次回!」

 

 

憎悪〜

 
前書き
・・・なんかジェイドって戦闘してるっけ?ではどうぞ。 

 
・・・皆と合流し、俺達は奥へ進んでいく。どうやら先程まではレプリカ大地を支える外側だったようで・・・


「うわー!」

「大地が・・・生まれようとしている」

よく見通しが聞く場所にでると、一つの大陸があった。

「まだ生成途中のようですね」

「ホド・・・か。姉上のレプリカを見た時と同じだな。レプリカだってわかってても情が出ちまう」

「ま、それが当たり前なんだろうな」

知也が遠くを見ながら言う。

「ガイ。大丈夫か?」

「・・・ああ、大丈夫だよ。俺は迷わないさ。俺の故郷はもう俺の記憶の中にしかないんだ」

奥には何か色々な瓦礫があり、ガイは辺りを見渡している。


「ここは・・・」

ガイが目を見開く。


「ガイさん?」

撫子の言葉に答えるかのようにガイが呟く。

「ここは・・・俺の・・・」

「え?」

ガイは端にあった部屋のような場所に駆け寄る。

「やっぱりそうだ。・・・俺の屋敷跡だ」

「そうなのか?」

「・・・でも、ホドのレプリカだし、おかしくはないか」

俺が言うとガイは頷く。

「そうか、ここは本当にホドなんだな」

「・・・師匠と戦うの、嫌か?」

「違うよ。もう二度と戻れないと思ってた。だから、不思議な気持ちなんだ」

それを聞いてティアが辺りを見る。

「そうね。私も・・・初めて自分の故郷に来たのよね・・・」

「私、フォミクリーという技術を嫌いになれませんわ。使い方次第では素晴らしいことができそうですもの」

「なんでもそうだと思いますよ。全ての道具は素晴らしいことにもくだらないことにも使える」

「預言だっておなじだよな」

「ルーク・・・うん、そうだと思うよ。ユリア様は預言通りに進めばいいなんて思ってなかったんじゃないかな」

「でも、ユリアは破滅が詠まれた第七譜石を隠してたな」

黒羽の疑問にティアは推測で答える。

「人は死の前では冷静ではいられない。だからかもしれないわ」

「・・・」

俺は頬を掻く。

「ユリアは預言を覆して欲しかった・・・?」

「・・・そうか。七番目の譜歌は・・・」

「ティア?」

「・・・思い出したの。私が兄さんから初めて譜歌を習った日のことを」


ティアは考え込むようにうつ向く。

「兄さんは言っていたわ。ユリアは・・・預言を覆して欲しいと願っていた。ユリアは世界を愛していた。・・・譜歌は世界を愛したユリアがローレライに捧げた契約だって・・・」

「ヴァンは世界を新たに創ることでユリアの願いを叶えようとしたのか・・・」

「・・・でもローレライは兄さんに賛同していない」

その時ジェイドが何かに気付いたようだ。

「そうか・・・譜歌がユリアとローレライの信頼の証だとすれば、ローレライは譜歌の旋律で目覚めるかもしれません」

「そうすればヴァンさんはローレライに意識を向けます」

「その隙にルークがローレライを解放すれば・・・」

「ティアの譜歌に掛かってるってことか」

外史メンバーの言葉にティアは戸惑う。

「で、でも七番目の譜歌も今思い出したばかりで・・・旋律も感情も言葉も正しいのか・・・」

「今までの譜歌だって、ティアは正しく思い出せていたじゃないか。大丈夫、詠えるよ」

ルークの言葉に頷く。


「・・・悩んでいる暇はないものね。やってみる」


「よし・・・え?」

ルークが背後を振り返る。

「アッシュ・・・?」











































詠~

「魔神剣!」

ズバァ!

「お前らで、最後だ・・・!」

ボク達は全ての敵を打ち倒した。

「はぁ、はぁ・・・」



ボクは乱れる呼吸を整えようとして・・・息を大きく吸う。・・・そして気付いた。アッシュの背後で倒れていた兵が起き上がり、走り出していた。


「・・・アッシュっ!」

「・・・っ!?」

「覚悟!」

間に合わない。そう思ったボクは咄嗟にアッシュを突き飛ばし・・・

ドスッ

「・・・ぁ」

ズシャ、ザシュ

三本の剣に身を貫かれた。

「・・・こ、このぉーーーー!!」

力を振り絞り、兵士達を切り裂く。

「ぐ・・・あ・・・」

足に力が入らず、その場に座り込んでしまう。

「馬鹿野郎!何で庇った!?」

「・・・知ら・・・ないわよ・・・まったく・・・油断、してんじゃ・・・ごふっ」

「おい、エイ!」

ボクは丁度真下に有った装置に音素を流す。

「早く、行って・・・アンタもヴァン総長を・・・」

「・・・」

「早く行きなさいって言ってるのよ・・・!」

「・・・おい、死ぬんじゃねぇぞ。庇われて死なれたら夢見が悪いからな」

アッシュはそう言って走り出す。

「・・・バカね・・・どのみち、ボクは・・・」

視界が揺れ、自分が倒れたのだと気づく。視界の隅に見える自身の手が光に包まれる。

「(死に際に世界がボクを異端者と判断したのね・・・)」

感覚が薄れていく。思考や視界が白に染まっていく。

「咲・・・ずっと・・・一緒、にーーーーーー」




















































咲~


「ルーク?どした?」

「いや、何でもないよ」

ルークが俺を追い越して走っていく。・・・その時、俺は不意に空間から指輪を取り出した。

『咲さん?』

「・・・」

取り出したものの、何故自分が指輪を出したのかよく分からなかった。・・・その時、


『咲・・・少し、休むわ・・・』


「え、い・・・?」

空を見上げると、光が降り注ぎ・・・それが指輪に集まり、指輪が一際強く輝いた。

「・・・詠、ここに・・・いるんだな」

『咲さん、それって・・・』

「・・・ああ、詠はここにいる。・・・理論とかは解らないけどな」

俺は右の指に指輪を填める。

「一緒に行こう。そして・・・帰ろう」
「咲、置いていくぞ」

「・・・っと、ああ!今行く!」

黒羽に呼ばれ皆を追いかける。



「・・・まったく冗談じゃないね」

最深部に続く階段に・・・シンクが立っていた。

「ここで大人しく鍵を渡してヴァンの下に降るか、さっさとくたばるか選んでよ」

「・・・どっちもお断りだ!俺はローレライを解放する。その為にはヴァン師匠も・・・お前も倒す」

「シンク。あなたもイオン様と同じレプリカでしょ!どうしてこんな計画に荷担するの!」

「同じじゃない。そんなことはお前だってわかってるだろ?イオンは・・・七番目は甘ちゃんだった。預言は未来の選択肢の一つだって信じてさ。だけど結局は抗えなかった。導師イオンは死ぬ。それが星の記憶・・・あいつは犬死にだった」


「今の言葉、取り消して!」

アニスが激怒するが、シンクは鼻で笑う。

「取り消さないよ。事実だからね。でもヴァンのやり方なら第七音素・・・預言も真の意味で消える」

「お前はそんなにも預言を恨んでいるのか・・・」

「ボクは導師イオンが死ぬという預言で誕生した。・・・一度は廃棄されたことも知ってるだろう」

「だから・・・預言を恨んでいる?捨てられたから?」

「違うよ。生まれたからさ!お前みたいに代用品ですらない、ただ肉塊として生まれただけだ。ばかばかしい。預言なんてなければ、ボクはこんな愚かしい生を受けずに済んだ」

アニスがシンクに向かって尋ねる。

「・・・生まれてきて、何も得るものがなかったっていうの?」



「ないよ。ボクはからっぽさ。だが構わない。誰だってよかったんだ。預言を・・・第七音素を消し去ってくれるなら!」

俺達は階段を駆け上がり、構える。

「劣化してるとはいえ、導師と同じ第七音素の力・・・本気で戦えばアンタ達もただでは済まない!試してみようよ。アンタ達と空っぽのボク、世界がどっちを生かそうとしてるのかさぁっ!」

「リパル、行くぜ!」

俺は一気に進もうとするが・・・

『了か・・・!?咲さん!右ッス!!』

「え・・・ぐっ!?」

不意に右から訪れる衝撃。咄嗟に方天画戟を出したが、そんなので受けきれる訳がなく、俺は吹き飛ばされ、壁に激突する。

「かはっ・・・!」

肺から空気が押し出される。

『咲さん!咲さんっ!しっかりして下さいッス!』

「・・・ぐ、・・は・・・き、聞こえて・・・ゲホ、ゴホッ!」

上手く呼吸が出来ない。一体誰だ・・・

「・・・ぐ・・・!」

顔を上げると・・・そこには黒いローブで全身を隠した誰かがいた。

「咲さん!・・・操影術!」

バシィ!

撫子の影がローブの腕を拘束する。

「一体何者・・・ですか!」

だがローブの人物は答えず、思いきり腕を引いた。

「・・・なっ!?」

するとあっさりと影が音を立てて切れる。

「そ、そん・・・がっ!?」

一瞬で踏み込み、右の拳が撫子を捉え・・・吹き飛ばす。

ズガァァン!!

「あ、あ・・・あ・・・!!」

撫子が腹を押さえ、もがき苦しむ。

「撫子!・・・こいつ!」

「ま、待て黒・・・」


ズシャア!

「ぐあ・・・」

一瞬で武器を弾かれ、鮮血が舞う。

「く、くそ・・・」

・・・よかった。どうやら浅かったようだ。黒羽はすぐに後退り、撫子の傍による。だが、それよりも問題は・・・

『さ、咲さん・・・アレは』

「ああ・・・」

その人物の腕から伸びている黒い刃・・・アレは。

「・・・闇」

『ルナ!マキシマムドライブ』

「関係ないぜ。ただ・・・狙い撃つ!」

知也がトリガーマグナムで撃った予測不可能な弾を・・・全てそいつは弾き飛ばした。

「・・・技で駄目なら力だ!」

『ヒート!マキシマムドライブ!』

「トリガーエクスプローション!」

巨大な火の玉を打ち出す。


「ーーーー」

ローブの人物が何かを呟く。すると・・・それよりも巨大な炎がローブの人物より放たれた。

「な・・・ぐあああ!?」

知也が炎に呑まれ、吹き飛ぶ。

「知也!・・・この・・・調子にのんな!」

方天画戟を全力で振り下ろす。・・・ローブの人物は刃で受け止め・・・

「・・・!?」

片手で弾き飛ばされ、繰り出された拳を防いだが・・・完全に隙ができたところに蹴りが炸裂する。

「くぅ・・・!?」


そのまま転がり、俺は立てなくなる。

「・・・うう・・・」

『だ、大丈夫ッスか!?』

「・・・くそ、誰なんだ・・・お前は・・・!?」

・・・その時、ローブの人物が空を見た気がした。

「・・・戦力低下、確認。・・・任務、完了」

・・・女の、声・・・?これは・・・



「・・・」

ローブの人物から視線を感じたが・・・すぐにその場からいなくなってしまう。

「く・・・みんな、無事か?」

「は、はい・・・」

「なんとかな・・・」

「ったく、ヒート使うとロクな目にあわねぇ」

それぞれダメージを受けてるみたいだが、なんとか平気みたいだ。・・・そうだ、シンクは!?

「そらそらそらぁ!」

シンクの連撃をアニスが受けていく。

「しつ、こい!」

アニスの一撃を避け、シンクは笑う。

「連撃行くよ!」

シンクの音素を纏った蹴りと拳がアニスを襲う。

「疾風雷閃舞!!これで止めだぁ!!」

「はうああ!?」


アニスが吹き飛び、ティアに受け止められる。

「アニス、しっかりして!」

「勝てるわけないだろ?次はお前だ!」

「させませんわ!」

ナタリアの矢がシンクを掠める。

「チッ・・・」

「今だ!」

ルークが踏み込み、剣を突きだす。

「雷神剣!」

「くぅ!」

「下がれルーク!断空剣!」

「ぐぁ!?」

ガイに音素が集まり、火を纏う。

「気高き紅蓮の炎よ、燃え上がれ!鳳凰天翔駆!!」

ガイの秘奥義でシンクが吹き飛び、そのまま動かなくなる。

「シンク・・・」

アニスが近寄ろうとするが・・・

「ヴァン・・・この歪んだ世界を・・・」

・・・シンクはそう言うと、音素乖離を起こし・・・消滅した。




「・・・ホント、馬鹿だよ・・・」

「アニス・・・」

「もう、イオン様が死ぬところは見たくなかったよ・・・!」

「・・・ですが、アニス」

ジェイドが何かを言おうとしたが、アニスは首を振る。

「分かってます。・・・総長を止めないと・・・」

「・・・そうです。行きましょう。・・・サキ、動けますか?」

「・・・なんとか」

立ち上がり、方天画戟を空間に投げ入れる。・・・待ってろヴァン。・・・決着をつける! 
 

 
後書き
リョウ
「・・・いよいよ、だな」

サキ
「ああ。・・・ヴァン必ず倒してやるぜ!・・・それじゃ、次回アビス編最終回、よろしく!」

リョウ
「じゃあまた!」

 

 

幕引き〜

 
前書き
ようやくアビス編終了だ〜・・・ではどうぞ。 

 
シンクを退け、俺達は遂に最深部に到着した。

「・・・!」

一瞬闇が疼いた。・・・この先に、強い力がある。

「力を・・・感じる」

「ああ。俺にもわかる。ヴァン師匠が・・・いる。この先に進めば後戻りは出来ないんだろうな」

「後戻りする必要はありませんよ。ヴァンを倒して終わりにしましょう」

「簡単に言うなよ・・・」

ジェイドの言葉にルークは呆れるが・・・

「難しい話ではありませんよ。あちらは星の記憶が定められた未来であることを信じ、それを消そうとしている」

「・・・そして俺達はそれを・・・未来は変えられると信じている」


黒羽の言葉にジェイドが頷く。

「もう、話し合いでは解決しませんね」

撫子の言葉にティアが返す。

「そうね。兄さんはローレライを取り込んでいる。ローレライが消滅すれば、世界は第七音素補充のためにバランスを崩してしまうわ。ルーク、私達はそれを止めるために来た。以前とは違うわ」

「俺達はヴァンのやることを理解して、その上で認められないと思っている。・・・だろ?」

知也がライフルを背負い直して笑う。

「そうだよ。何もかも消してやり直すなんて無責任だもん。本当は預言を守って滅びるなら、それを受け入れるのが人間の責任なんだと思う。・・・でも私達は、途中でそれを回避するために努力しようって気づいたんだから」

「・・・だから最後までそれを貫き通して生きる。俺達は俺達の道を進む」

「私、ずっと思っていましたの。アッシュがキムラスカに戻ってきて、ルークと二人でお父様を支えてくださればいいのに・・・と」

ナタリアは胸の前で手を組む。

「でも私は間違っていたのですね。あなたとアッシュにはそれぞれの生きる道があった。それを私が無効となった約束で縛り付けていたのですわ。・・・ルーク、あなたはあなたですものね。ですから、あなたはあなたの思うままに生きてください」

「・・・お前はまだ自分の足で歩き始めたばかりだ。しかも背中には数え切れない命を背負っている。喰らった命の分、生き続けなきゃ嘘だよな」

ガイの言葉にルークは目を閉じる。

「・・・そうだな。俺、たった七年の間に血塗れになっちまったもんな」


ルークに俺が声をかける。

「・・・そうだな。けど、だからこそ生きて生きて生き抜いて。恨み、憎しみ、悲しみ、怒り・・・全部受け入れていかなきゃならないんだよ。・・・俺もお前の荷物を背負ってやりたい・・・けど」

ルークが首を振る。

「・・・いや、俺にはサキだけじゃない。沢山の仲間がいる。・・・みんなで歩けば、どんな荷物も苦にならない」

「ルーク・・・よし、行こうぜ!この世界の未来を作るために!」

「ああ!」

『決戦ッスね・・・!』

「なんだ?緊張してんのか?」

『そ、そんなことないッス!』

「・・・お前が緊張してても、俺はお前を振るう。・・・応えてくれるな?リパル」

『・・・もちろんッス!!』

俺達は階段を駆け上がる。そして景色が開き・・・そこにヴァンが正座をして待ち構えていた。

「大したものだな。本来ならここに辿り着いているのはアッシュだった」

ルークはローレライの剣を握る。

「アッシュもいる。俺に力を化してくれた」

「ローレライの剣か・・・見事だ。お前は被験者を越え、真の人間となった訳だ」

ヴァンは立ち上がり、歩み寄ってくる。

「おまえは全ての屍を踏み越えてきた。さあ、私と共に来い、ルーク。星の記憶を消滅させ、ユリアが残した消滅預言(ラストジャッジメントスコア)を覆すのだ」

「お断りします」

「ほう、何故だ」

「やっとわかったんです。俺は何をしたかったのか」

ルークはヴァンを見据える。

「俺はあなたに認めて欲しかった。レプリカではなく、人間として」

「そうだ。そしてお前は人間になった」

「・・・でもそれじゃ、駄目なんだ。あなたは言いましたね。『何かの為に生まれなければ生きられないのか?』と。誰かの為に生きている訳じゃない。いや、生きることに意味なんてないんだ。死を予感して、俺は生きたいと思った。そのことを俺はしっている。ただそれだけでよかったんだ。だから俺にはもうーーーあなたは必要ない。俺はここにいる。こうして生きているんだ。あなたが俺を認めようと認めまいと」

ヴァンが振り返り、笑いだす。

「・・・フ・・・フフ・・・なるほど賢しい知恵をつけたな」

「兄さん!人は変われるわ。ルークと同じように・・・もう一度考え直して!」


ティアはヴァンに訴え続ける。

「兄さんの言うように星の記憶は存在するのかもしれない。けどそれは絶対なの?ルークがここにいるのは星の記憶に定められたからじゃない。彼が選んだからだわ。未来を選ぶのは・・・人よ」

「それもまた絶対ではない。選んでいるのではなく、選ばされているのかもしれないぞ」

「ならお前も、星の記憶を消すのを“選ばされている”のかもしれないぜ」

ガイの言葉にヴァンが笑う。

「少なくとも預言を知らなければ、自分の意思で未来を作ったことになる」

「それは詭弁だな、綾瀬黒羽。どうやって預言を知らずに済むと言う?人がいる限り預言は消えない」

「だから被験者で一度預言を終わらせ、レプリカで新しい世界を作る・・・」

「それではホドを見殺しにした人たちと変わりませんわ。だからアッシュもあなたを否定したのです」

撫子の言葉をナタリアが繋げる。

「結局、あんたも個人の憎しみで動いてた訳か」

「・・・そうだな。しかし手段は選んではいられぬのだ。星の記憶という絶対的な道を破壊するためにはな」

知也にそう返したヴァンに・・・ジェイドは自身の眼鏡を指で回しながら言う。

「あなたのような賢明な方が不思議なものですね。人も星もいずれは消滅する。星の記憶があろうとなかろうと、それだけは決まっているのです。あなたの言う絶対的な道があったとして、それでも、消滅に至る道は人に選択権が与えられているのだと思いますよ」

「あなたらしい考え方だ、死霊使い。そう、いずれ全ての命は消滅する。早いか遅いかの差だ。だが星の記憶はそれを早くに設定している。私はあなたのように、早くに滅びることを良しとはしない」

「でも総長は被験者を星の記憶以上に早く滅ぼそうとしています。総長は預言を憎みすぎて、誰よりも預言に縛られているんです!」

「フ・・・或いはそうかもしれぬな。私も、いや私もお前達も預言という得体の知れない未来に縛られている」

「・・・だが、少なくとも俺はこの世界に・・・星の記憶には存在していない」

「確かに・・・だが、サキ・オスローという人間はこの世界に詠まれていた。そしてお前は今、預言通りに死を迎えるのだ」

ルークがローレライの宝珠を取り出す。

「俺達は未来が選べると信じている」


「私は未来が定められていると知っている。・・・やはり・・・互いに相容れぬようだな」

ヴァンが剣を引き抜く。

「剣を抜け。まとめて相手をしてやろう」

「ヴァン・・・覚悟!!」

ルークが宝珠と剣を融合させ、ローレライの鍵を作り出す。


「リパル、いいな!」

『覚悟は決まったッス!』

方天画戟を振り回し、構える。

「デヤァァァ!」

横薙ぎに方天画戟を払う。

ガキャアン!

「中々いい一撃だ」

それをヴァンは容易く受け止める。

「ガイ!」

「ああ!」

「アニスちゃんも!」

四人で囲み、攻撃するが・・・

「甘い!守護氷槍陣!!」

『うわぁぁぁ!?』

ヴァンの広範囲攻撃に吹き飛ばされ、陣形が崩れる。

「操影術!・・・行きますよ黒羽さん!」

「頼む!」

影が黒羽を掴み、勢いをつけて黒羽を投げ飛ばす。

「カートリッジロード!・・・おおおお!」

刃に雷を纏わせ、ヴァンに突撃する。・・・ヴァンはそれを弾き飛ばそうとするが、雷がヴァンの足止めをする。

「そこ!」

黒羽が刀を突きだした瞬間、ヴァンはニヤリと笑う。


「その音素を利用させてもらおう。襲爪雷斬!」

ズバババッ!

「ぐあああ!」

黒羽がそのまま吹き飛ばされる。

「狙い撃つぜ!」

『スナイパー!サイクロン!』

「さあ、行きますよ。プリズムソード!」

後方からの支援をヴァンはかわしている。

「チッ、すばしっこい・・・」

俺は舌打ちをしながら、空間から・・・ジゼルから受け取った銃を取り出す。

「・・・リパル、剣!」

『了解ッス!』

空間にハンドアックスを射出し、左に剣、右に銃を持つ。

「エンブレススター!」

ナタリアが広範囲に矢を射ち、ヴァンはそれを回避しようと体制を変える。

「・・・今だ!タイトバレット!」

乱射した弾がヴァンに当たる。

「ぬ・・・!」

「ティア!」

「ーーーー♪」

ティアが譜歌を詠おうとした瞬間・・・
「・・・ぬおおおおお!」

ヴァンがローレライの力を少量発動し、衝撃波でティアを怯ませる。

「・・・譜歌か。確かにその旋律はローレライを目覚めさせる。だがお前は、譜歌に込められた本当の願いを知らない。私には・・・効かぬぞ」

「いいえ・・・兄さん。・・・私にはわかるの。ユリアがこの譜歌に込めた想いがわかるような気がするのよ」

「・・・それが真実なら見事詠いきってみせよ、メシュティアリカ!」

ヴァンが剣を構え直す。

「体制を立て直させるか!」

「そうだよ!」

黒羽とアニスが突っ込む。

「・・・やはり子供か」

ヴァンが笑う。・・・不味い!

「二人とも!」

「危ないです!

撫子が二人の前に立ち、影を使おうとするが・・・

「滅びよ!星皇蒼破陣!!」

ドガァァァンッ!!

「きゃああ!?」

展開が間に合わず、防ぎきれずに撫子を含め三人が倒れ、動かなくなる。

「アニス!黒羽!撫子!」

「よそ見をしている暇があるのか?」

「・・・ッ!」

ヴァンが踏み込んでくる。

「そうは行くか!」
ガイが間に割って入り、ヴァンの一撃を受け止める。

「・・・この一撃を止めるとはな」

「俺も何時までもあんたにお守りされる訳にはいかないんでね」

ヴァンはガイに手を当てる。

「だが、一歩届かなかったな。烈破掌!」

ズン!

「がは・・・」

ガイが壁に叩きつけられる。

「ガイ・・・!」

「こちら私がなんとか致しますわ!」


「・・・頼むぜ!」

ナタリアにガイ達を頼む。

「ティア!もう一度頼む!」

「ええ!」

ティアの譜歌で力を高めたルークがヴァンに切りかかり・・・腕の装甲を破壊する。

「・・・やはり・・・強くなったな」

「ヴァン・・・」

「私が・・・ここまで追い詰められるとは・・・結局、この疎ましい力を解放せねばならぬようだな」

「・・・来る!」

ヴァンの姿が一変する。

「とうとうその力を使ってきましたか。・・・それでも勝つのは私ですが・・・!」

「く、負けませんことよ。私の矢であなたを奈落の底へ追い落として見せますわ!」

「へっ、撃ちがいがあるぜ。弾切れなんか気にしてられないな!」

「ジゼルを、アリエッタを・・・そして詠を利用していた奴に負ける訳にいくかよ!!」

『その通りッス!オイラと咲さんのコンビは無敵ッスよ!』

「心強い仲間がいるな」

「そうです。みんなはこんな俺をずっと助けてくれた・・・みんなの為にも負けられない!いや、俺という存在にかけて負けない!」

「兄さんがローレライの力を使うとき、隙ができる。それをわかっていて使わざる状況に追い込んでいるのはルークよ。兄さんがずっと認めようとしなかったルークなのよ!ルークは・・・いいえ。私達は負けないわ!」

「・・・確かに、私にこの力を使わせたことは褒めてやろう。だが、それもここまで」

ヴァンが更に力を溜める。

「さらばだ・・・ルーク!」

「Aモード・・・解放!」

俺は闇を高め、姿を変える。

「ハァァァァ!」

カキキキン!

ダダン!

ガッ!

ヴァンと高速で斬りあい、銃を撃つが、ヴァンはそれをことごとく回避していく。

「ぬん!」

「っ!?」

ガキキン!

それどころかどんどんと俺が押されていく。・・・これがローレライの力・・・!

「だったら・・・ウオオォォォ!!」

闇を一気に解放する。

「ダークネスバインド!」

ヴァンはそれに合わせ、力を解放する。

「ローレライの力・・・受けてみよ!エンシェント・レクイエム!!!」

ガガガガッ!

力と力のぶつかり合いは・・・ローレライの力が圧倒的だった。

「がぁぁっ!?」

力に呑まれ、地面を転がる。


「ぐ、く・・・なんて、力だ・・・」

「サキ!しっかりしなさい!」

「大丈夫だっつの・・・くっ・・・」

何とかAモードは解除せずに済んだか・・・

「・・・」

俺は銃を見る。

「みんな・・・力を貸してくれ・・・!」

俺はジェイドから使うなと言われていた・・・譜術を使用する。

「(アリエッタ・・・!)これで・・・イービルライト!」

闇の光線がヴァンに当たる。

「なに!?」

「まだだ!」

ジゼル・・・頼む!

「プリズムバレット!オオォォォォォ!」

続いて光の光線。俺は銃を空間に投げ入れ、ユキアネサを取り出す。

「(詠・・・一緒に、行こう!)・・・ラスト!魔神・・・煉獄殺!!」


ズバァァン!!

完全に力を出しきった一撃。Aモードが解除されながらも、俺はヴァンを見る。

「フ・・・ハハハ・・・今のは危うかったな・・・!」

ダメージは負っているが・・・足りない!

「大した意味も無かったな。・・・死ね!」

ここまでか・・・その時、ジェイドの声が聞こえた。

「ーーーいいえ、充分意味はありました」

「・・・なんだと!?」

見るとヴァンを囲むように、ナタリアが回復させたみんなが力を溜めていた。

「時間稼ぎとしては合格です」

「離れろ、サキ!」

「・・・!」

力を振り絞り、その場から飛び退く。

「天光満る所に我はあり、黄泉の門開く所に汝あり。・・・いでよ神の雷!これで終わりです!インディグネイション!!!」

ズガァァァン!

「続けていくよ!十六夜転舞!とっどめ~!!」

ジェイドとアニスの一撃でヴァンが仰け反る。

「ぬ、ぐ・・・」

「神速の斬り、見切れるか!閃覇瞬連刃!」

「譜の欠片よ・・・我が意思に従い、敵を撃て!ノーブルロアー!!」

更にガイの連続斬りとナタリアの音素による射撃がヴァンの体力を削る。

「カートリッジロード!・・・撫子、やれ!」

「・・・はい!」

撫子が影を伸ばし、それに黒羽が雷をプラスする。

バチチチ!

「・・・!」

影がヴァンを捉え、雷がヴァンを翻弄する。

「知也さん!」

『アサルト!ヒート!マキシマムドライブ!』

「準備はいいぜ・・・トリガーアサルトエクスプローション!!」

ゴガァァン!!

「・・・今なら!ーーーーー♪」


ティアが再び譜歌を詠い始め、ルークが走る。

「ウオォォ!これでも・・・喰らえぇぇぇ!!」

ルークの超振動がヴァンを呑み込んだかに見えたが・・・

「舐めるなぁ!!」

「なっ・・・」

ヴァンが驚異的な底力でルークを吹き飛ばす。

「メシュティアリカ!覚悟!」

「ーーー♪・・・!」

「詠うのを止めてんじゃねえ!」

ガキィン!

ヴァンの一撃を防いだのは・・・アッシュだ。

「アッシュ!無事でしたのね!」

ナタリアが嬉しそうに声をかける。

「アッシュ・・・」

「ルーク!手間取ってんじゃねぇ!・・・俺の力を使え!」

ルークとアッシュがローレライの鍵を握り締める。・・・すると二人の体が輝き出し・・・

「まさか・・・第二超振動か!?」


「行くぞ、アッシュ!」

「ドジるなよ、ルーク!」

ローレライの鍵に力が集まる。

「響け!」

「集え!」

「「すべてを滅する刃と化せ!!」」

その剣を・・・振り下ろした。

「「ロスト・フォン・ドライブ!!!」」



「馬鹿な・・・この、私が・・・」

ヴァンが膝をつく。

「・・・ヴァン師匠!」

「来るな!・・・この期に及んで、まだ私を師と呼ぶか・・・愚か者が・・・」

ヴァンの体が光に包まれる。

「許せよ・・・我が同士達・・・よ・・・」

そして・・・無数の光となって消えた。

「・・・ルーク、ローレライの鍵を」

「え・・・?」

俺は立ち上がり、ルークに近づく。

「ローレライは俺が解放する。だからお前達は脱出を・・・」

解放されかかっているローレライの影響で、既に辺りが崩れ始めていた。


「なに馬鹿なこと言ってやがる。ローレライは俺かルークじゃねえと・・・」

「生憎、俺の能力は綻びがあれば充分でね。・・・どのみち、限界だしな」

その言葉を聞いて、ルークは俯きながらローレライの鍵を渡してくる。

「・・・」

「咲さん・・・」

「ありがとな、三人共。・・・なんとか詠を助け出せることが出来た」

「いや、それは咲自身の力だと思う。俺らは少し協力しただけだ」

「・・・でも、ありがとう」

「ま、次はもっと大物を撃たせてもらうかな・・・っと!?」


その時、外史メンバーの足元にスキマが開き、落ちていく。・・・紫か?

「サキ」

「ん・・・」

ジェイドが手を差し出してくる。・・・それが握手を求めていると理解して、俺も手を差し出してジェイドの手を握る。

「きちんと帰ってきて下さい」

「ジェイド・・・」

「こんどはゆっくりと呑みたいですからね。・・・それと、健闘を祈りますよ」

「・・・ありがとな、ジェイド。・・・なんだかんだ世話になった」

「・・・こちらもです」

ジェイドが離れた時、頭に衝撃が走った。

「いって!?」

見るとガイが笑いながら拳を握っていた。

「ったく、何すんだよ」

「今のは友人に対して隠し事してた罰だ」

「隠し事って・・・」

「次帰ってきたらその根性叩き直してやるよ。だから・・・このまま消えるのは許さないからな」

「・・・気付いてたのか?」

「当たり前だ。・・・いいな?絶対に帰ってこいよ」

「・・・ああ」

次に来たのは・・・アニスだ。

「私もね。なんとなくおかしいなって思っていたんだ」

「・・・アニス」

アニスは俺から離れ、笑顔を作る。

「アリエッタのことは任せてよ。だからサキは安心して行ってね」

「・・・ああ、アリエッタにごめんって言ってくれるか?あと、また必ず来る・・・とも」

「うん・・・必ずだよ」

「サキ」

「ナタリア・・・」

「必ずまた戻ってきて下さい」

「・・・」

「私はまだ一人では至らない部分があります。ルークやガイ、それにアッシュやあなたに支えて貰えたなら私は何処までも頑張れますわ」

「・・・必ず、帰ってくる。その時は使用人として・・・かな?」

「いいえ、仲間として・・・ですわ」

「・・・わかった」

ティアがやって来る。

「サキ・・・教官には・・・」

「必ず帰ってくるってことだけ・・・あ、いや」

「?」

「もう一度ちゃんとお互いの誕生日を祝おうって言っておいてくれるか?あと、いい加減嫁の貰い手探せともな」

「くす・・・ええ、わかったわ」


「サキ、俺はずっと待ってるからな!必ず、必ず何時までも・・・」

「・・・サンキュな。アッシュもルークともめんなよ」

「ふん、大きなお世話だ・・・」

「じゃあ・・・行くよ」


俺はローレライの鍵を振り下ろす。

「・・・開け」


俺の視界は光に包まれた・・・







































『・・・まさか預言を覆すだけではなく、ルークとアッシュでもないお前が私を解放するとは・・・』


「・・・アンタがローレライか・・・悪いな。シナリオ通りに行かなくて」

『だが・・・これも一つの未来か・・・さらばだ』

ローレライの光が遠ざかっていく。

「(さて、と・・・)」


リパルの声も聞こえないしな・・・

「・・・あ・・・」

体が軽くなる感覚。音素乖離が目前だ。このまま消えるのか、それともギリギリで世界がイレギュラーに気づくか・・・

『・・・いいえ、どちらでもないわ・・・』

「・・・え?」

紫の声が聞こえた瞬間、俺の意識は途絶えた・・・



 
 

 
後書き
ルーク
「お疲れ」

サキ
「ああ・・・長かったな」

ガイ
「まあ、途中色々あったからな」

ナタリア
「ですが、無事に物語を終わらせることができてよかったですわ」

アニス
「もう、まだだよナタリア」

ティア
「ええ、まだサキ達の物語は続くわ」

ジェイド
「私達は裏方で楽しむとしましょうか」

サキ
「・・・気楽なことで・・・ま、いいや」


「どうせ無茶するだろうし・・・ボクも手伝うわよ」

ジゼル
「弟を頼むぞ、エイ」

アリエッタ
「・・・気をつけてね、サキ」

サキ
「ああ。また必ず会おうな・・・それじゃ、最後は全員で・・・せーっの!」

全員
「今までありがとうございました!これからもよろしくお願いします!!」

 

 

息抜き〜

 
前書き
切り所を見失った結果がこれだよ!前後編にすればよかったと思ったのも後の祭り。ではどうぞ。 

 
亮~




「・・・ん・・・」

ゆっくりと目を開く。そこには天じょ・・・

「・・・」

「・・・」

・・・ではなく少女がいた。俺と目が合い、数秒固まったのち・・・

「ら、藍様ー!目を覚ました、藍様ー!」

・・・凄い勢いで部屋から飛び出していった。

「・・・えーっと」

取り敢えず辺りを見渡す。やたら懐かしい和式の部屋・・・んで

「・・・すー・・・」

少し離れた位置に、俺と同じように布団で寝ている親友がいた。

「・・・えい」

俺は自身の布団を咲に被せる。・・・数秒後・・・

「・・・ぶっはぁ!?」

汗を流しながら布団の中から飛び出してきた。

「あ、起きた」

「起きた。じゃねーだろ!暑ぃだろうがよ!・・・つか」

咲が俺と同じように辺りを見渡し・・・

「ここ、どこだ?」

まったく同じ疑問を抱いたのだった。

「ここは紫様の家だ」

声がした方を見ると、やたら尻尾に目が行く女性が現れた。

「あんた、確か・・・」

「八雲 藍だ。こっちは私の式の橙だ」

「初めまして!」

「・・・いや、一回助けてくれたろ。ネギまの世界で」

「なんだ、覚えていてくれたのか」

「当然。なあ、亮?」

「あ、ああ・・・」

・・・実はちょっと曖昧だったのは伏せておこう。

「・・・えっと。藍さん、紫は・・・」

「さんはいらない。・・・紫様は今野暮用で出掛けている。取り敢えず居間に来てくれ」


藍に言われ、居間に移動する。

「・・・さて、君達は世界の最後を覚えているか?」

「・・・紫が作ってくれたスキマに飛び込んで・・・」

「俺は死ぬかと思ったらいきなりだったな」

藍は頷くと空中に手をかざす。

「・・・ああ。テイルズオブグレイセス、並びにテイルズオブジアビスの世界は問題なく進んでいる。・・・どうやら異端による影響はなかったようだ」

「そうか・・・ん?俺達って同じ“テイルズ”の世界に行ったのか?」

「だね。シリーズが違うみたいだけど・・・」

「・・・取り敢えず、君達の媒体を出してくれ」

「媒体?」

咲が訪ねると藍は咲の指を指す。

「君達の仲間が光となって必ず何かに宿ったはずだ」

「・・・」

咲は指輪を取り出し、俺は葬解を取り出す。すると藍は何かを呟き・・・

「う・・・わ!?」


突然、葬解と指輪が輝きだし、視界を白に染める。

「・・・う」

そして光が収まり、目を開くと・・・

「亞莎!?」

「詠!?」

亞莎と詠が現れていた。二人はゆっくりと目を開き、周りを見る。

「これは・・・?」

「ボク、死ななかったの・・・?」


二人も大分混乱しているようだった。

「・・・一応、私が二人を元の世界の存在に戻した。これならあの世界にも帰れる」

「そんなことができるのかよ?」

「紫様に預かっていた力だ。・・・一応私も傍観者だからな」

感心していると、スキマが開き、紫が現れる。

「紫様、如何でしたか?」

「・・・一足遅かったわ。彼女達の保護には成功したけど・・・彼女達以外は全滅したわ」

その言葉と同時に新たなスキマが開き、三人の傷だらけの女性が落ちてくる。・・・あれ、こいつって・・・

「高町・・・なのは?」

「・・・ええ。そうよ。それに、あなた達と面識がある・・・ね」


「・・・!?」

藍が三人を部屋に運ぶのを亞莎達が手伝う。俺達は紫に向き直る。

「・・・どういうことだ?」

「それはこちらが聞きたいわね。始まりはいきなりだったわ。今までにあなた達と関係を持った世界がいきなり襲われ始めたの」

「えっ!?」

俺は驚く。それって・・・

「今私はFate、ネギま、Angel Beatsの世界の人間を全て一つの世界に集結させ、対抗しているわ。だけどまさかなのはの世界にまで手が及ぶとは思わなかったわ・・・」

「・・・それで何かやつれてんのか?」

「・・・久々に全力を出したわよ。多大な被害を出したけど、高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやての救出には成功したから・・・あの世界自身は消滅の心配はないわね」

「なんだってそんなこと・・・」

「それも私が聞きたいわ。・・・それに、どうやらあなた達の世界にも何かが起きたようね」

その言葉に俺と咲は同時に立ち上がる。

「それ、ホントか!?」

「それで、みんなは・・・!」

「落ち着きなさい。そちらにはリョウコウが向かったわ。・・・きっと程なく解決すると思うから・・・あなた達には再び世界に飛んで貰うわ」

「・・・だけど、分かるのか?残りの三人を見つけるなんて・・・」


「私を誰だと思っているの?・・・ただ、少し時間は貰うけど」

「それは構わないけど・・・その間俺達は」

「そうね。息抜きもかねて幻想郷を巡ったらどうかしら?」

「・・・そんな呑気な・・・」

俺は呆れるが、隣で咲は「面白そうだな」と言っている。

「亮さん、幻想郷に行くんですか?」

亞莎が背後からやって来る。

「ん、ああ・・・」

「でしたら紅魔館に行きませんか?」

「紅魔館・・・レミリアか」

「はい。私、一時期彼処にいましたから」

「ボクも興味深いわね」

「・・・つっても俺は特に知り合いが要るわけでもないんだが・・・」

「適当に廻るだけでも息抜きになるわよ。ほら、行くわよ」

「・・・しょうがねーな」

すると咲がいきなり右下辺りを見る。

「・・・お前もわりと行きたいだけだろ。正直に言えよ」

「?」

「・・・だから、別にデートとかじゃないっての。変なこと言ってんじゃねえよ!」

「お前・・・どうした?」

闇の使いすぎで頭がおかしくなったのか・・・?すると咲はしまった、という風な表情を作り、方天画戟を取り出す。

「お前ら、取り敢えずコレに触ってくれ」

「あ、ああ・・・」

俺達は全員方天画戟に触れる。・・・すると。

『初めましてッス!』

「うおわぁっ!?武器が喋ったぁ!?」

思わず手を引いてしまう。

『そ、そんなに驚かれるとショックッス・・・』

「アビスの世界で出来た俺の相棒。ダークリパルサーって言うんだよ」

『どうぞリパルと呼んでくださいッス!』

「・・・よ、よろしく」

亞莎と詠なんて完全に絶句してるし・・・すると紫が咳払いをする。

「そろそろ飛ばすわよ」

紫がスキマを開き、俺達はその中に入る。


























「・・・おー」

スキマを通り抜けた先は森の中だった。そしてすぐ目の前に屋敷が会った。

「・・・あれが紅魔館です」

亞莎が俺の隣に立ち、説明してくれる。・・・どうやら咲達は別の場所に飛んだみたいだ。


「とにかく行ってみるか」

俺は歩き出し、門を通ろうとする。

「あ!亮さん、待っ・・・」


「せやぁぁ!」

「うわっ!?」

いきなり拳が飛んできて、俺は跳んで避ける。

「ちょ、なに!?」

「珍しく私が起きてる時に来たのが運の尽きですね。・・・不法侵入者は追い返します。覚悟!」

「わわわっ!?」

状況が掴めないままに女性が拳を放ってくる。

「ま、待ってください!」

亞莎が間に入り、女性が宙を飛んだ。

「「・・・へ?」」

投げられた本人と見ていた俺が同時に呆けた声を出す。

ズガン!

「ふむっ!?」

女性が落下してようやく亞莎が投げ飛ばしたのだと理解する。

「あ・・・す、すみません美鈴さん!大丈夫ですか!?」

「あ、あはは・・・相変わらず、凄いですね・・・亞莎さん・・・」



・・・数分後。


「すみません。つい侵入者かと思って・・・」

「ああ、いや。俺が勝手に入ろうとしたのが悪かったから・・・ごめん」

「と言うより美鈴さん。さっき珍しく起きてたって言いましたよね?・・・また咲夜さんに怒られますよ?」

「えと、実はさっき怒られたばかりで・・・」

「・・・だから起きてたんですね・・・」

「あはは・・・それにしても」

美鈴は俺を見る。

「な、なに?」

「この人が亞莎さんの恋人ですか。先程も不意を突いたつもりが避けられてしまいましたし・・・中々強いようですね」

「・・・あのさ美鈴。俺、アンタと一度会ったことあるんだけど」

「・・・はい?」

俺は一から説明する。

「あー・・・そう言えばそんなこともありましたねぇ」

「・・・軽いね。俺、恨まれてるのかと思ったけど」

「いえ、特に気にしてませんよ。・・・あ、でもパチュリー様は少し怒ってましたね」

「・・・そうですね。次に会ったら捕まえて実験台にするって・・・冗談ですから逃げようとしないでください」

「今のは冗談と思えなかったんだよ!」


「・・・とにかく、お嬢様にお取り次ぎしましょうか?」

「あ、はい。お願いします」

俺達は屋敷に通される。

「こちらがレミリアさんの部屋です」

「・・・よく迷わないな」

「お手伝いをしてれば覚えますよ。レミリアさん、起きてますか?」

「ええ、起きてるわ」

部屋の中はやたら広がった。

「久しぶりね、亞莎。それに、亮」

「・・・相変わらずみたいだね」


「そういうあなたは変わったわね」

「・・・そうかな。自分じゃよくわからないけど・・・」

レミリアは相変わらず見た目に似合わない妖しい笑みを浮かべる。似合わなそうなのに似合うとはこれ如何に。

「事情は聞いているわ。随分苦労しているようね」

「・・・ま、実力が足りなかったからね・・・もう少しでも強ければ・・・」

するとレミリアは俺に近づいて来る。

「・・・だったら強くなればいいわ」

「・・・え?」

「ここは幻想郷。常識なんてないこの世界では、限界なんて言葉もないわ」

「・・・」

思わず唖然とする。

「投擲術なら咲夜。体術なら美鈴。魔術ならパチェに習えばいいわ」

「・・・凄い教師だ・・・」

「私も手伝います」

亞莎が微笑みながら言ってくれた。

「そう、だな・・・よし!」

俺はレミリアに礼を言って、外に出る。・・・その時だった。

「亞莎ーーっ!!」

「えっ!?・・・フ、フラン!?」

少女が凄い勢いで亞莎にタックルをかます。・・・ちなみに亞莎はタックルされる瞬間に上手く腰を引き、衝撃を逸らしていた。


「亞莎!また来てくれたの?」

「うん。ちょっとだけだけどね。フランは寝てなかったの?」

ああ。吸血鬼って夜行性だったか。

「さっきまで寝てたけど、咲夜が教えてくれたんだよ!だから早起きして急いで来たの!」

「そっか。じゃあちょっと遊ぶ?」

「うん!」

亞莎が申し訳なさそうにこちらを見る。

「いいよ。遊んであげなよ」

「は、はい。すみません・・・」

俺は亞莎と別れて・・・しばらくしてから一人で屋敷を歩いたことを後悔するのだった・・・












































咲~

「・・・」

「・・・咲」

「・・・なに?」

「ここ何処よ」

「・・・さっぱり分かりません」

「・・・はぁ!?」

俺達は当ても無くさ迷っていた。

「ちょっと!ここのこと知ってるんじゃないの!?」

「知り合いがいてもその世界を知ってる訳じゃないんだよ。・・・幻想郷なんて始めてだし」


「ろくに地理も知らないのにただ歩いてたわけ?」

「・・・いいだろ別に。・・・それに」

俺は少し顔を逸らす。

「・・・詠と二人きりなのって久しぶりだしさ・・・」


「咲・・・」

『(すっごい居づらいッス・・・)』

「・・・でも、確かにこのままじゃ不味いよな。なんか辺りが森になってるし」

「本当にここの地理どうなってるのよ・・・」


俺は闇を集中させる。

「取り敢えず空から眺めて見るよ。・・・ふっ!」

Bモードを発動した瞬間・・・

「うっわ!?どけどけぇ!」

「へ?・・・どわぁ!?」

高速で飛んできた何かと激突し・・・お互いに墜落した。

「いっつー・・・」

「ちょっと咲!?大丈夫なの?」

「お、俺よりもう一人は・・・」

少し離れた位置に倒れていた金髪の少女がゆっくりと立ち上がる。

「いたた・・・急になんなんだ・・・」

俺は急いで少女に駆け寄る。

「わ、悪い!大丈夫か?」

少女はとんがり帽子を叩きながら俺を見る。

「ん?・・・ああ、平気平気。私も普段より飛ばしてたからな」

「あ・・・」

俺は少女を見て思い出す。いくら最後に東方をやったのが遥か昔でも、コイツは忘れない。

「・・・済まなかったな。えっと・・・」

「霧雨 魔理沙だぜ」

だと思った。

「なあ魔理沙?なんでそんな急いで・・・」

「ああ、ちょっと知り合いの所にな。何でも新しい人形がどうとか・・・んで、代わりに珍しいキノコくれるらしいから、急いでたんだぜ」

「そうだったのか。こっちもちゃんと確認すればよかったな」

「まあ済んだことは気にしないで行こうぜ。んじゃ、私は行くからな」

魔理沙が箒に跨がり、飛ぶ。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!ここから近くに村か何かないか?」

「あー・・・とにかく森を南に抜ければ人間の里があったような・・・」

「サンキュな。あんま飛ばすなよ」

「忠告どうも・・・あー」

「咲、五十嵐 咲だ」
「縁があったらまたな、咲」


そう言って魔理沙は凄い勢いで飛んでいく。・・・忠告無視かい。

「・・・と言うわけで歩くか」

「・・・仕方ないわね」

そうしてしばらく歩くが・・・

「・・・」

「・・・」

お互いに沈黙が続く。・・・物凄く長い時間が経った気がするんだが・・・

「・・・咲」


「・・・ああ、俺も同じこと思ってた」

「「人間の里まったく見えないんだけど!」」


俺と詠は同時に叫んだ。

「くそ・・・よく考えたら魔理沙の奴、自信無さげに言ってたしな・・・」

「いい加減足が痛いわ・・・」

俺も足に違和感があったので、既に詠は限界だろう。

「・・・しゃーない。また誰かに激突しそうで嫌だったんだが・・・」

俺は再びBモードを発動する。

「・・・ってリパル!お前レーダーかなんかないのか!?」

『・・・あるにはあるッスけど・・・幻想郷の地図はインプットされてないッス。それに生体反応も辺りに数多くあって・・・」

「使えないわねぇ」

『うぅ・・・』

「ま、まあそう言ってやるなって」

俺は羽ばたき、少し浮く。

「詠、ちょっとそのまま」

「え?・・・ちょっ!」

俺は詠を抱き抱える。

「な、何すんのよ!」

「こうしないと詠も連れてけないだろ?」

「だ、だからってこんな恥ずかしい・・・!」

「まぁいいだろ?詠にも空を飛ぶ楽しさを教えてやるさ」

そう言って一気に空高く飛ぶ。

「わっ、わっ!?」

詠が慌て、俺にしがみつく。

「・・・ほら、見てみろよ」

「・・・?あ・・・」

意外に幻想郷の眺めはよかった。・・・まさに幻想的と言うべきか。

「・・・あ、あった。なんだ、あながち間違いでもなかったか」

遠くの方に町並みっぽいものが見える。

「よっし。飛ばすからしっかり掴まってろよ」

「わ、わかっ・・・!?」

詠が言い切る前に勢いよく飛ぶと、詠が悲鳴と怒声を同時に出すという器用なことをしたのだった・・・
























































亮~

「はっ!」

ドゴォ!

「ぐあっ!?」

美鈴の肘打ちが背中に辺り、うつ伏せに滑る。

「痛っつぅ・・・」
「平気ですか?」

美鈴の手を借りて立ち上がる。

「・・・参ったなぁ。あんなにあっさりやられるとは思わなかった」

「それなりに鍛錬しましたから。簡単に負けるわけにはいきませんよ」


「ねえ、さっきの動きを詳しく教えてくれるかな?」

「ええ、構いませんよ。今のはまず・・・」

俺と美鈴が体術について話している隣で・・・

「最近練習はしているの?」

「いえ、ちょっと訳ありで・・・でも力は鈍ってはいませんよ。また投げ方を教えてくれますか?」

「ええ、いいわよ。ナイフは・・・」

「ちゃんと持ってます」

あっちは亞莎と咲夜が色々やってた。つか門番とメイド長が席を外していいのだろうか。

「・・・こうか?」

「・・・そうですね。出来るなら常に気を回すのではなく、当たる直前に纏わせる感じで・・・」

「こう?」

「そうです。・・・それにしても飲み込みが早いですね」

「美鈴の教え方が上手いんだよ。昔の俺ってバカだから“習うより慣れろ”がメインだったしね」

「亮さんももう少し勉強会に参加してくれればよかったんです」

「あはは・・・ごめん」

俺は亞莎から顔を逸らす。

「でも、大分経つけどこんなにお世話になってていいのかな?」

「構わないわ。お嬢様も妹様もいい暇潰しになっているようだし・・・何より美鈴が寝ないのは有り難いわ」

咲夜のジト目に美鈴は口笛を吹きながらそっぽを向く。

「・・・でもパチュリーの態度には傷ついた・・・図書館に入った瞬間睨むんだからな~・・・」

「いえ、私ほどじゃないですけど、パチュリーさんはわりと目付きが悪い方なんですよ。ですから偶然・・・」

「明らかに回避不可なスペルを撃たれたんだけど」

「ご愁傷様ね」

咲夜の言葉に肩を落とす。・・・その時だった。

『・・・用意ができたわ』

「紫?」

『咲にも連絡をするから、用意をしてなさい』

「ああ、わかった」

俺は美鈴を見る。

「・・・て訳でごめん。行かなきゃいけないんだ」

「そうですか・・・今度は真剣勝負をしましょう」

美鈴が差し出した手を握る。

「また何時か来ます。咲夜さん」

「今度はゆっくりお茶を飲ませてあげるわ」


俺達はレミリアとフランドールに挨拶をしに向かう。さて・・・いよいよ、だな。








































咲~

「・・・凄いわね」

俺達は人間の里に到着し、カフェに入る。

「・・・里って言うくらいだからもっと小ぢんまりしてるのかと思ったわ」

「・・・まあ、確かに。結構賑わってるし・・・」

俺は注文していたクレープを一口かじる。

「・・・意外に近代的なお菓子もある」

詠もケーキを口に入れる。

「確かに美味しいわね。・・・でも、こんなのんびりしてていいの?」

「俺の場合、気が使える訳でもないし、ましてや何かしら武術に長けてる訳でもない。俺は・・・」

手の平に闇を球体状に出す。

「・・・コレに長けてる。こればっかは鍛えられないからな。それに、やっぱりまた詠とのんびり過ごしたいって思ってたから・・・」

「・・・余裕がある今だけは気を緩めたいって訳ね」

「・・・そうそう。・・・詠は嫌か?」

「・・・ボクが咲のすることに嫌なんて言うと思う?」

「・・・う」

思わぬ不意打ちに顔に熱が溜まる。

「・・・ま、まあ。それならいいけど・・・」

『咲、聞こえるかしら?』

「・・・紫か?」

『ええ。用意が出来たわ。そっちはいいかしら?』

「ああ、構わない。・・・いいか?」

「もちろん。・・・それと、ボクも着いて行くわよ。・・・待ってるだけはもう嫌よ」

詠がまっすぐに俺を見る。

「・・・わかった。けど、危ないと思ったら・・・」

「危なくならなければいいんでしょ?」

「・・・頼りになる台詞だな。・・・分かった、行こうか。リパルもいいな?」

『当然ッス!』



俺達は食べ掛けの菓子を食べ、立ち上がる。さあて、いきますか・・・




























亮~

「・・・」

「悪いけど、あなた達の記憶は封じなければならないわ」

「・・・マジ?」

「反応があった世界も介入の必要がない世界・・・やっぱり世界の壁が厳しいのよ。一応傍観者の知り合いに誤魔化すよう頼んだけど・・・」

「じゃあボク達も・・・」

「二人は何とかそのまま行けないかやってあげるわ。亮と咲はすぐ行くのね?」

「ああ」

「当然」


紫は頷くと俺達に手をかざす。

「・・・目を閉じなさい」

「「・・・」」

俺達は言われた通りにする。

「じゃあ、行くわよ」


紫の言葉を最後に、意識はゆっくりと消えていった・・・










































愛依~

「・・・やっぱり何もなかったね」

椿が辺りを見渡しながら言う。

「あるのは廃墟だけ・・・何の世界なんだろ、ここ」

アタシは頭を掻きながら言う。・・・椿と合流した後、アタシ達は“声”から逃げる為に色々転移していた。

「・・・ふふ」

椿が嬉しそうに何かを見ていた。

「それ、なに?」

椿は顔を赤くする。

「あ・・・うん。わたし、一度危ないことしてあの人達に看病と監視をされてたんだけど・・・リョウコウって覚えてる?」

「・・・あの偃月刀持った怖い人?」

「そんなに怖くないよ。・・・その人、わたしの話を聞いてくれて、色んな悩みも相談に乗ってくれて・・・その時にこれを貰ったんだよ」


椿がネックレスの先にあるクリスタルのような物を見せてくる。

「アタシもね、撫子っていう友達が出来てね。それに黒羽も友達になってくれて・・・」

アタシ達は笑い合う。・・・何時以来だろう。こんなに楽しく笑えたのは。・・・だけど、それを不意に壊す声が聞こえた。

「ーーーやれやれ。君達は呑気だねぇ」

「「っ!?」」

振り返ると、白い布で全身を覆った人がいた。声から男とわかるが・・・

「誰だ、あんた・・・」

「誰って・・・酷いなぁ。僕は何度も君達に話しかけているのに」

「あなたみたいな人・・・知らない!」

「・・・がっかりだなぁ。じゃあ、思い出させてあげるよ」

男はわざとらしく大きく息を吸う。

「ーーー“殺せ”」

「「なっ・・・!!」」


忘れる訳もない。この声・・・!

「あ、アンタが・・・」

「そう。君達を操ってた黒幕って訳さ・・・っと」

「はぁっ!」

椿が放った暗器は容易くかわされる。

「危ないなぁ・・・こういう時だけは素早いね、君は」

「くっ・・・あなたを倒せば全部終わりになる・・・だからここで倒す!」

「・・・はぁ。どうやら何か勘違いしてるみたいだね」

男が手を上げると、更に二人の人間がやって来る。

「君達、軽く遊んであげてよ」

「・・・了解」

「・・・戦闘、開始」


片方の闇の刃を受け止めようと偃月刀を構えた瞬間・・・アタシの体は弾き飛ばされていた。

「ぐっ・・・!?」

「愛依!?・・・っ、はやっ・・・きゃあ!」

椿はアタシの近くまで転がってくる。

「椿!」

「・・・愛依」

椿は小声で話す。

「(何とか転移できない?)」

「(・・・隙が出来ないと危ないよ)」

「(だったら作るよ)剛鬼の記憶を再生・・・発動!」


椿は立ち上がり、刀を構える。

「飛天御剣流・・・九頭龍閃!!」

同時に放たれる九つの斬撃が二人を襲い。二人は飛び退る。

「・・・今だよ!」

「・・・ああ!」

アタシは転移を開始する。

「・・・まったく、このままじゃ逃げられちゃうじゃないか。・・・仕方ないね、死にかけでもいいか」

男がそう言って手を振ると・・・光の矢が現れた。・・・あれ、は・・・

「お母さんを・・・殺した・・・」

あの時のことが頭に嫌でも浮かぶ。

「あ・・・あ・・・」

「じゃ、行くよ」

光の矢が放たれる。・・・避けなきゃいけないのに、足が、体が動いてくれない。

「愛依!」

その時、何かに突き飛ばされた。それのお陰で当たらずにすんだ・・・だが。

「・・・っ」

「椿!」

椿は片腕を押さえていた。そこからは血が流れ・・・

「大丈夫、掠り傷だから」

「椿・・・は、速くこっちに!」

もう転移が完了してしまう。・・・その時気付いた。目の前にさっき椿が見せてくれたクリスタルが輝きながら浮いていた。

「リョウコウと結衣咲シィの記憶を再生・・・」

椿の体が雷に変わる。

「椿!何を・・・!」

景色が揺らぐ。・・・全ての感覚がずれる中、椿の口が動いた。


ーーーごめんね。必ず逃げてーーー


「椿・・・嫌だ!アタシ一人なんて・・・椿、椿ーーーーッ!!」

目の前に伸ばした腕は届かず・・・ただ無情にクリスタルが何かを告げる声と同時にアタシの視界と意識は遠くへ飛ばされた・・・



 
 

 
後書き

「名前が戻った・・・」


「どうせまた変わるんだろうな・・・」


「さてさて、次はなんの世界やら」


「もう決まってるらしいけどな。・・・それじゃ、また次回もよろしく!」 

 

ゲーム、スタート〜

 
前書き
新しい世界。・・・ですが説明が・・・・・・説明が長い・・・!!抜けてる設定がないか不安ですが・・・ではどうぞ。


 

 
「うおおっ!」

ガキン!

曲刀と曲刀がぶつかり合う。だが向こうは怯まずに二発目を放ってくる。

「・・・っ」

それが頬を掠め、俺の左上に表示されている青い横線(ライン)が減少する。・・・“HPバー”と言う名の命が削れたと言うわけだ。敵であるトカゲ人間・・・リザードマンロードと呼ばれるそれは曲刀を構え、その剣にライトエフェクトを纏わせる。

「!」

それに合わせて俺も同じ構え・・・単発重攻撃技《フェル・クレセント》という突進技を同時に放つ。

ガァン!

だがあくまでも武器を逸らし、ダメージを回避するだけ。お互いに背を向けた状態で俺は曲刀、擬音を納め、背中に背負った刀・・・迷切(めいせつ)を引き抜き、振り向き際に振るう。


ーーーカタナ用ソードスキル《一閃》

ズパァン!

技の出が何より速く、威力も高いこの技はリザードマンロードを振り向かせることもなく。そのHPをゼロにする。

「グルアァァッ!?」

大きい叫び声を上げ、その体は無数のポリゴンとなり、ガラスを割るような音と共に爆散する。

「・・・ふぅ」

俺、大澤 亮・・・いや、PCネーム“コウハ”は息を吐き、迷切を鞘に納める。

「レベルアップ・・・と」

目の前に表示される文字を眺めながら、俺はこの世界の始まり・・・二年前のあの日のことを思い返していた・・・































































「はああっ!」

ソードスキル《リーバー》が当たり、イノシシのモンスターの体力をゼロにした。

「よっし!」

大分ソードスキルの扱いにも慣れてきた。


「・・・ホント、店に並んだ甲斐があったなぁ・・・」

俺は大きく広がる青空を見てそう呟く。・・・実はこれ、ゲームなのだ。ゲームと言ってもテレビの前でコントローラーを持つのではなく、“意識そのもの”をゲームに飛ばしている・・・と言うべきか。


“ナーヴギア”

それが、まったく新しいゲームジャンルを開拓したゲームハードの名前。ディスクとか入れているのではなく、ヘルメットのような形をしたそれを被り、本来脳が体に送る信号を全てナーヴギアが受け取り、それをゲーム世界に反映すると言う、初めて聞いた時は誰しも理解に苦しんだと思う。

「・・・風が気持ちいいな・・・」

そのまったく新しい技術のナーヴギアを使用したまったく新しいゲーム・・・それがこのVRMMORPG(仮想大規模オンラインロールプレイングゲーム)“ソードアート・オンライン”だ。ナーヴギアによる接続は、完全(フル)ダイブと呼ばれ、多くのプレイヤーが感動した事だろう。ただ、最初の頃は微妙過ぎるソフトばかりで、俺はナーヴギアは持っていたが、棚で誇りを被っていた。その時に兄がこのソードアート・オンラインのベータテストに当選したと聞いたのだ。

「(最初は興味なかったけど・・・)」

毎日兄がウキウキしながら話す内容に段々と俺もその仮想世界に惹かれ、学校をサボってまで数日間ゲームショップに並び・・・初回ロット僅か一万であるそのゲームを手に入れることが出来たのだ。俺は兄のように機械に精通している訳でもなく、妹のように剣道に打ち込んでいる訳でもない。そんな中途半端な俺がやってみたいと思ったこのゲーム・・・これで中途半端な自分と別れられると感じたのだ。だからこそ、この世界で強くなる。そして兄妹の度肝を抜いてやると意気込んでいたのだ。

『これは、ゲームであっても遊びではない』

それがこのゲームの開発ディレクター茅場 晶彦の言葉。茅場 晶彦については兄から、弱小ゲーム会社のアーガスを急成長させた男・・・位しか聞いてない。だが、その男が偉大であるのは自分でも分かる。



「・・・」

俺はカトラスを見る。そう、このゲームに魔法の類いは存在しない。戦闘で頼りになるのはセンスと・・・

「・・・はっ!」

ビュンッ!

剣技(ソードスキル)だけだ。しかもスキルは多々あり、鍛冶系や製造系、果ては料理とか釣りとか日常的なスキルもあるらしい。金さえあれば武器も防具も、家だって買えるし。昔流行った某狩りゲーがパワーアップしたようなものだ。・・・先程言ったが、兄が当選した稼働試験・・・ベータテストは、僅か千人のみが選ばれ、更に正式版の優先購入権まであると特しかないものだった。しかもその兄はベータテスト中暇さえあればダイブしていて、学校位でしか話す機会がないという・・・まさに筋金入りのゲーマーだったのだ。そして二〇二二年十一月六日の日曜日。正式サービスが開始。俺はわくわくしながら数十分も前からスタンバイし、この世界を見て感動した。俺ははやる気持ちを抑え、マニュアルを見て、やり方をしっかり学んでからフィールドに出て・・・今に至る。

「・・・そろそろ一回落ちて飯食べようかな・・・」


視界の端に表示されている時刻は午後五時ちょいを記していた。

「メニューメニュー・・・っと」

右手の人差し指と中指を揃え、一度掲げてから真っ直ぐ振り下ろす。この世界でプレイヤーが許される魔法かもしれないメニューを呼び出すアクション。すぐに鈴が鳴るような音と共に紫色の半透明な板が出てくる。


「えーっと・・・あれ?」

思わず声が出る。何故なら・・・“ログアウトボタンがなかった”から。

「・・・バグ?」

最初ならこんなバグもあるか。だが少々困った。ナーヴギアにはログアウト以外に自発的にフルダイブを解除する方法はない。つまり、家族がいない人や一人暮らしでピザの注文してた人なんかは涙目な事になるだろう。・・・その時だった。


リンゴーン リンゴーン


「・・・っ!?」

突如大きなサウンドが鳴り、思わず耳を抑える。・・・そして体に目が行ったとき、体が青色の光に包まれていた。

「なっ・・・」

一瞬景色が揺らぎ、すぐに視界が戻り、石畳が広がる広間が目に入る。

「ここ・・・“はじまりの街”?」

ログインした時に訪れたはじまりの街。そこの中央広場に俺は立っていた。

「うわ・・・」


周りには沢山の人。明らかに一万近くはいる。つまり、皆同じように転移されたのだ。周りの人はざわめき、段々と荒れた声も聞こえてくる。

「あっ・・・上を見ろ!」

不意に誰かの大声が響き、空を見ると空は真紅に染まり、英語で何かが表示されていた。

「ワー、ニン・・・グ。システム・・・アナウ、ンス」

情けない程英語が苦手な俺は苦労しながら英語を読む。・・・読み終わった瞬間、空からまるで血のように赤い液体が滴り、球体を作った後、赤のフード付きのローブを着た巨大な人影に姿を変える。・・・フードの中に顔は無く、少々不気味なそれをGM(ゲームマスター)だと思い、俺は何か言うのを待つ。


『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ』

「・・・は?」


理解が追い付かず、それに答えるかのように声は響く。

『私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』

「・・・!?」

茅場晶彦・・・!兄の話ではこういった表舞台には上がらない人物らしいのだが・・・

『プレイヤー諸君は、既にメインメニューからログアウトボタンが消滅していることに気づいていると思う。しかしゲームの不具合ではない。繰り返す。これは不具合ではなく、“ソードアート・オンライン”本来の仕様である』

「仕様・・・だって?」

『諸君は今後、この城の頂を極めるまで、ゲームから自発的にログアウトすることはない』

城。というのは恐らくこのゲーム・・・SAOの舞台である百層からなる石と鉄で出来た・・・“アインクラッド”の事だろう。茅場はまだ言葉を繋いでいき、次の言葉に戦慄を覚えた。


「・・・また、外部の人間の手による、ナーヴギアの停止あるいは解除もあり得ない。もしそれが試みられた場合ーー』

・・・僅かな間。

『ーーーナーヴギアの信号素子が発する高出力マイクロウェーブが、諸君の脳を破壊し、生命活動を停止させる』

「・・・!」

・・・茅場はつまり、無理矢理ログアウトしようとしたプレイヤーを殺す、と宣言したのだ。そして俺は思い出す。兄が言っていた事を。ナーヴギアの重さの三割がバッテリセルだと。その気になれば脳内電子レンジになるなと俺は前に笑ったが・・・洒落にならないことを理解すると、昔の自分を殴り倒したくなった。



『ーーー警告を無視してナーヴギアのーー』

しばらく呆けていた間に茅場の話は続いていた。

『ーーー残念ながら、既に二百十三名のプレイヤーが、アインクラッド及び現実世界からも永久退場している』

どこからか悲鳴が聞こえた。・・・俺が無事、という事は兄も無事である確率は高いだろう。

『諸君が、向こう側に置いてきた肉体を心配する必要はないーーー』

茅場の声は既に頭に入らなくなっていた。だが再び、茅場の一言が俺に衝撃を与えた。

『・・・今後、ゲームにおいて、あらゆる蘇生手段は機能しない。ヒットポイントがゼロになった瞬間、諸君のアバターは永久に消滅し、同時に』

俺は嫌な予感を振り払おうとしたが、すぐに茅場の声がそれを遮る。

『諸君らの脳は、ナーヴギアによって破壊される』

「ーーーーー!!」

俺は左上に表示されているただ三國志が好きだから、という理由でコウハと名付けたPCネームの上にあるHP(ヒットポイント)バーを見る。この数字が俺の命で・・・

「体力がゼロになれば・・・死ぬ・・・!?」

茅場が淡々と百層までクリアすれば全員解放するだの言っているが、俺の思考回路は既にオーバーヒート寸前だった。事実だと思う一方でゲームの演出か何かだと考え・・・

『それでは、最後に諸君にとってこの世界が唯一の現実である証拠を見せよう。諸君のアイテムストレージに、私からのプレゼントが用意してある。確認してくれたまえ』

俺は言われるままにメインメニューを開き、アイテム欄を確認する。・・・そこに表示されたリストの一番上にそれはあった。

「・・・手鏡?」


俺は戸惑いながらアイテム名タップし、浮き上がった小ウィンドウからオブジェクト化のボタンを選択する。すると効果音と共にただの装飾もない手鏡が現れる。それを覗き見ると俺が設定したアバターの顔が映るだけだった。・・・その瞬間、

「わ・・・っ!?」

突然白い光に包まれ、少しして視界が晴れた時・・・違和感を感じた。

「え・・・」

そして気付いた。周りにいた全てのプレイヤーの・・・背丈や顔が一気に変わっていた。

「あ・・・!」

俺も慌てて手鏡を見る。・・・そこには、兄や妹と三人でいないと兄妹と分からない程どちらにも似てない顔。手なんか加えた事のない黒髪。・・・“コウハ”の顔ではなく、リアルの・・・“亮”の顔がそこにあった。

「な、な・・・」

手から鏡を落とし、破砕音と共に鏡が砕け散る。・・・そうだ。確かナーヴギアは顔全面を覆っていた・・・つまり、脳からの信号だけでなく、顔の形まで把握できる・・・

「しかも・・・」

初起動の際に、ナーヴギア側からの登録作業で体のあちこちを触った覚えがある。あれを利用すれば体の可動範囲をナーヴギアに記録させデータ化させる事も可能になる。現に周りのプレイヤーは顔だけでなく、体格や背丈、終いには性別まで変わっている者もいた。

『諸君はなぜ、と思っているだろう。なぜ私はーーSAO及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのか?これは大規模なテロなのか?あるいは身代金目的の誘拐事件なのか?と』

・・・わかってる。ここまでしといてそんな容易く考え付く答えではない位・・・

『私の目的はそのどちらでもない。それどころか、今の私は、すでに一切の目的も、理由も持たない。なぜなら・・・この状況こそが、私にとっての最終的な目的だからだ。この世界を創り出し、鑑賞するためにのみ私はナーヴギアを、SAOを造った。そして今、全ては達成せしめられた』

何処と無く籠っていた感情が消え、茅場は再び無機質な声で喋る。

『・・・以上でソードアート・オンライン正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君のーーー健闘を祈る』

その言葉と共に茅場は消えていき・・・ゲームに付き物のBGMが聞こえてきた時、全てのプレイヤーが事態を理解した。


「嘘だろ・・・なんだよこれ、嘘だろ!」

「ふざけるなよ!出せ!ここから出せよ!」

「こんなの困る!このあと約束があるのよ!」

「嫌ああ!帰して!帰してよおおお!」

耳を塞ぎたくなるような叫びを出せる程の絶望。だが俺は未だその事実を夢のように感じていた。・・・そしてしばらくすると、何人かが人混みを避けて街の出入口に向かうのが見えた。この状況で真っ先に外へ向かうものは、このゲームのことを知っている・・・即ちベータテスト参加者だと言うことがわかった。・・・どうする。彼等を追えば確実に他のプレイヤーより早めにスタートを切れる。けど・・・

「やだ・・・嘘よ・・・」

「お姉ちゃん、しっかりして!お姉ちゃん!」

・・・多分、人が一斉に動き出したらこういった人物は人波に呑まれ、離ればなれになってしまうかもしれない。・・・こんな時程、自分のお人好しな性格が嫌になったことはなかった。

「・・・すみません!そこで立ち止まっていると危ないですよ!」

「け、けどお姉ちゃんが・・・」

栗色の髪の少女がうずくまっているもう一人の少女を見る。
「無理矢理にでも腕を引っ張って宿屋か何処かに向かってください。・・・早く!」

「は、はい!」

少女は無理矢理姉と思わしき人物を引っ張って行く。

「他は・・・」

よく見ると大人に混じって小さな子供もいる。俺は急いでその子供達も助けていく。

「君達、ここにいたら危ない!取り敢えず人混みから離れて!」

子供も誘導し、ひたすら残っている人はいないか探す。そう、ひたすらーーーーーーーー

































































リザードマンロードが落としたアイテムの確認を終え、俺は溜め息を吐く。

「(あの時の行動は・・・間違ってたかな)」

俺はそう考えて首を振る。

「いや・・・こんな考え方してたら、勝手に名前使った彼女に怒られるよな・・・よっし、帰るか!」

俺は来た道を引き返していく。・・・新しいこの世界での・・・物語は始まった・・・

 
 

 
後書き
コウハ
「新しい世界〜」


「名前が分かりにくいだろうが」

亮←戻した。
「まあそう言うなって。久々のメインなんだしさ」


「俺もちゃんと出るっつーの」


「さて、この世界の俺は何 亮なんだろうな」


「最初は記憶が戻ってるんだろ?」


「ああ。だから大澤って言ったけど・・・実際の名字は違うよ」


「それはいつ公開?」


「隠すことでもないから、次回にでも」


「ふーん・・・それじゃ、また次回もよろしく!」

 

 

壊れた心〜

 
前書き
こんなに・・・こんなに長くするつもりはなかったんだ・・・ではどうぞ。 

 
・・・キリトがパーティーに入ってからは安定した狩りが続いた。それにサチの指導にも加わり、キリトは瞬く間にギルドに溶け込んでいった。

「兄貴は友達とか出来たのか?」

「なんだよ急に・・・」


「いやさ、兄貴って他人に踏み込むの苦手じゃん?だから、逆に踏み込んできてくれるような人とかに会ってないのかなーって」

そう言うとキリトは顔を逸らす。

「まぁ・・・そういう奴はいたよ。ゲーム始めた直後に俺を捕まえて、コツを教えて欲しいって図々しく言ってきた奴がな」

「はは、凄い人だね。・・・その人は?」

「・・・デスゲームが始まって、はじまりの街から出るときに・・・置いてきた」

「あ・・・」

「そいつ、友達がいるからって言って・・・俺は全員を守りきれないと・・・」

「いいよ、言わなくて。・・・ごめん」

「・・・」

長い沈黙が訪れ・・・先に口を開いたのはキリトだった。

「あのさ、亮・・・」

「ん?」

「もし俺とお前が本当の兄弟じゃないって言ったら・・・どうする?」

「は?・・・いきなり、何言ってんのさ」


てっきり場を和ませるジョークかと思ったが、キリトの表情が重いままなので・・・改めて聞き直す。

「・・・どういうこと?」

「・・・それは」


キリトはゆっくりと話し出す。


「俺はーーー」


聞かされた事実には正直驚いた。俺はずっとキリトと妹の三人兄妹なのだと思っていた。だけど違った。キリトは母さんの姉・・・つまり俺と妹の伯母にあたる人の子供・・・即ちキリトは本来なら俺達の従兄なのだ。だが、キリトの両親はまだキリトが一歳に満たない内に事故で亡くなってしまった。奇跡的に一命を取り止めたキリトを母さんが引き取った。

「・・・何の偶然か俺と亮は年も誕生日も血液型も同じだった」

「だからこそ俺達は疑問を持たなかった・・・」

更に驚きなのはキリトはそれを十歳の頃、住基ネットの抹消記録に自力で気付き、母さん達に聞き出したらしい。

「・・・流石兄貴・・・」

「俺は・・・ずっと兄貴面して、お前やーーー」

「だから?」

「・・・!」

「俺にとっては兄貴は兄貴だし・・・きっと、直葉だって・・・」

直葉。それが妹の名前・・・しばらく口にしていなかった名前だから、まるで他人の名を呼ぶような感覚に捕らわれた。

「・・・兄貴が誰の子とかそんなの関係ないよ。それとも、兄貴は俺等の兄ってのは嫌か?」

「そ、そんな訳・・・」

「ならよし。これからもよろしく、兄貴」

「・・・ああ」



キリトが加入してから驚く位に月夜の黒猫団は急成長した。たったの一週間で狩場を一フロアあがり・・・更に少し経った頃には攻略組との差は五にまで縮まった。そして前からケイタが画策していたギルドホームの購入。それも現実に近付きづつあった・・・けど・・・



「だから、そこで踏み込まないと反って危ないんだってば」

「だ、だけど・・・」

「コウハ、サチにそんな責めるように言うなよ」

「・・・そう、だね。ごめん、サチ。・・・前線は怖いしな・・・」

「う、ううん・・・コウハは悪くないよ。悪いのは・・・」

そう、サチの戦闘スタイルの移行だけが上手くいかなかった。・・・でも、それは必然かもしれなかった。例えばホラー映画を見てる際、不意に幽霊など不気味なものが現れると驚くだろう。SAOはそこから更にその対象に近づき、恐怖をリアルに感じてしまう。・・・要するに、怖がりなサチはお世辞にも前衛に向いているとは思えなかった。そして周りが順調に進む中で何も進歩がないサチは、それだけで多大なプレッシャーを身に受け・・・ある日、宿屋からサチは姿を消した。

「僕達は迷宮区に急ぐよ!」

「俺は一応街中を捜してみる。・・・兄貴は?」

「・・・フィールドにも幾つかメンバーリストから居場所を追跡できない場所がある。俺はそこを捜してみるよ」

俺達はそれぞれ散らばり、走り出す。

「・・・索敵なら・・・」

ソロの時に使っていた索敵。だがまだ熟練度が低いそれでは、沢山の関係ない反応を拾ってしまって俺は索敵を諦める。

「くそ・・・!サチ、何処に・・・!」

その時だった。フィールドを捜すと言ったキリトがいたのだ。

「(兄貴・・・?)」


そのままキリトは歩いていき、街の外れにある水路に入っていく。

「どうしてこんな所に・・・」

入口まで近づいた時に、声が聞こえた。

「・・・ねえ、キリト。一緒にどっか逃げよ」

「(・・・サチ?)」


「逃げるって・・・何から」

「この街から。黒猫団のみんなから。モンスターから。・・・SAOから」

「それは・・・心中しようってこと?」

「・・・!」

俺は飛び出そうとしたが、飛び出したところで何か出来る訳でもないと思い、踏み止まる。


「・・・私、死ぬのが怖い。怖くて、この頃あんまり眠れないの」

・・・初めてサチと会った時、その目に浮かんでいた感情・・・それをようやく理解した。はじまりの街で皆を誘導した時に、特に子供達に共通していた感情・・・恐怖、不安、混乱。

「・・・」

それに気づかず、俺はサチに無理矢理戦えと強要していたのだ。

「(・・・畜生)」

俺はその場から立ち去る。

「・・・君は死なないよ」


そのキリトの声を背にしながら・・・






























































・・・その日から、俺はサチに対してよそよそしくなった。今までやっていた特訓も止め、普段もサチとは距離を置いた。・・・これじゃ、現実とも大差がないと理解していても、サチの前に立つと上手く言葉が出ず、結局黙ってしまう。・・・そして夜な夜な、眠れないサチがキリトの部屋に行っている事も知っていた。少なくともサチはキリトに心を開いている。・・・だから、キリトに任せておけばいいと思っていた。・・・そんなある日、遂に目標額に達したのでケイタがギルドホームを買いに行った時、テツオの提案で家具を揃える為に金稼ぎをすることになった。・・・そこで稼ぎがいい迷宮区・・・最前線から僅か三層下の場所に行くことになった。レベル的には安全だったので、瞬く間に十分な額を稼ぎ、帰ろうとした時・・・メンバーの一人が小部屋の中の宝箱を見つけた。

「へへ、ラッキーラッキー」

だが俺は嫌な予感がしていた。何と言うか・・・ただ宝箱を置くだけにしては、部屋が広すぎる気がしたのだ。

「なあ・・・別にいいんじゃないか?それ位」

「ああ?なんでだよコウハ。もしかしたらすっげぇお宝かもしんないじゃん?」


「俺も・・・何となく嫌な予感がする」

キリトも言うがシーフ役のメンバーは聞く耳持たずに宝箱を開ける。・・・その時だった。

ビーー!!ビーー!!

「・・・アラームトラップ!」

キリトが焦りながら言う。すぐに数個あった部屋の入口からモンスターが押し寄せてくる。


「嘘だろ・・・!!」

「転移結晶を使えっ!」

キリトの声に反応してメンバーは転移結晶を取り出すが・・・

「て・・・転移できない!」

「まさか・・・クリスタル無効エリア!?」

そこで俺達は全員パニックに陥った。悲鳴、そして破砕音。誰かが死んだ。

「うわああああ!!」

俺は半ば無意識に戦っていた。その視界の隅で、見たこともないソードスキルを乱発するキリトを見つける。

「くそっ・・・くそぉぉぉ!!」

モンスターが武器を振り上げる。

「ーーーホント、世話が焼けるわね」

ズバァン!

「えーーー」


モンスターが消し飛び、その背後には眼鏡をかけ、サーベルを片手に持った少女がいた。

「はぁぁぁっ!」

少女はみるみる内にモンスターを斬り倒していき・・・

「・・・魔神剣!」

衝撃波が未だ鳴り続ける宝箱を粉砕した。

「誰・・・だ?」

「余所見してんじゃないわよ!」

「あ・・・っ!」

迫り来るモンスターに対応出来ない。モンスターが槍を構え・・・

「ダメ、コウハ!」

・・・サチが俺とモンスターの間に割り込む。・・・その瞬間だった。

『・・・亮』

フラッシュバック。共に世界を駆け抜けた・・・黒髪の少女。

「明・・・命・・・」

彼女は自分を庇い・・・自らその命を散らした。

『・・・リョウ』

家族同然の紫髪の少女。自分達家族を助ける為に自らを犠牲にした。


「コウハ・・・」

そして今、また自分のせいで一人の命が消えそうになる。

「明命も・・・ソフィも・・・それで今度はサチか・・・?ふざけんな・・・届け・・・届けぇぇぇぇ!!」

俺は必死に手を伸ばす。そしてサチを無理矢理引き戻し、モンスターの槍を身を捻ってかわす。

「亮!受けとりなさい!」

少女・・・詠から投げられた手甲、葬解を受け取り、メニューから素早く装備を整え、葬解を装着する。

「呼びなさい!アンタが助けたアイツの名を!」


『亮さん・・・私を・・・!』

「・・・来い」

俺が呟くと葬解が輝きだす。

「来い!亞莎ェェェ!!」

光が放たれ、その光が人を形作り・・・

「呂子明、参ります!」


光より現れた亞莎の拳がモンスターを粉砕する。


「亮さん、下がっていてください!」

「今のアンタじゃ足手まといよ!」


俺はサチを守るように壁際に近寄る。・・・その僅か数分後には、大量にいたモンスターは姿を消していた・・・










「・・・亮さん!大丈夫ですか!?」

「・・・亞莎・・・」

「記憶、戻ったんですね」

「まだ頭の中ぐちゃぐちゃだけどね・・・けどどうやって・・・」

「この世界の傍観者さんと紫さんの力で、私達は“データ”として活動できるようになりました」

「ここのプログラムからしたら、ボク達はモンスターやNPCと大差ないのよ」

「そうなのか・・・ところで、どうして詠が・・・?」

「・・・咲に頼まれたのよ。アンタの監視をしろって」

「咲が・・・?」

「咲はゲームが始まって数週間で記憶を取り戻したわ。そのタイミングでボクは傍観者達の力でドロップアイテムの中に潜んだの。葬解も咲がドロップした物よ」

「・・・時間、掛かったんだな・・・」

「・・・ねぇ、コウハ・・・」

背後の声に振り替えると、サチがその場に座り込んでいた。

「みんなは・・・みんなはどうしたの・・・」

「・・・」

・・・ここにいるのは五人。つまりーーーー
俺の沈黙で察したのか、サチの肩が震える。

「どうして・・・どうしてなの・・・!なんで私だけ・・・酷いよ・・・こんなのないよ・・・!」

「サチ・・・まだ、まだケイタがいる。・・・立てる?」

サチは首を横に振る。俺は立ち上がり・・・キリトを見た。

「あ・・・コウ、ハ・・・」

「・・・先に行ってケイタに報せておいて、“キリト”」

「・・・あ、あぁ・・・」

キリトはこの場から逃げるように立ち去る。

「亞莎、詠、護衛頼めるか?」

「もちろんです」

「・・・断れるわけないでしょ」

サチが落ち着くのを待ってから俺達は街に戻る。

「ケイタは・・・」

「あ・・・あそこ」

サチが指差す方向を見ると、外周の近くでケイタとキリトを見つけた。・・・そして二人に近付いた時・・・ケイタの声が聞こえた。

「・・・ビーターのおまえが、僕達に関わる資格なんてなかったんだ」


そうケイタは言って外周の柵の上に上がる。

「ま、待てケイタ!全員が死んだ訳じゃ・・・」

「ケイタ・・・!」

サチが叫ぶ。・・・だが、その声は届かずに・・・

「ぁ・・・」



その姿が・・・消えた。

「・・・っ!」

俺はすぐに外周に駆け寄り、下を見るが・・・そこに、ケイタの姿はなかった。

「・・・俺がビーターだって話して・・・メンバーがトラップに掛かってしまったことを言った時に・・・」

キリトが俺の隣でそう言う。

「・・・嘘・・・ケイタ・・・?」

サチがその場に崩れ落ちてしまう。

「サチ・・・」

「飛び降り・・・死、死んじゃった・・・みんな・・・みんな・・・あ、あぁぁぁ・・・!」

サチは頭を抱え、何か呟き・・・

「嫌・・・嫌ァァァァァァァァッ!!!」

「・・・っ・・・」

耳を塞ぎたくなるような悲鳴。亞莎や詠がサチを落ち着かせようとした時・・・まるでスイッチを切ったかのようにサチの悲鳴が止まった。

「サ・・・チ?」

俺は恐る恐る近づき、話しかけるが反応がない。

「サチ?・・・サチ!サ・・・っ!?」

肩を揺らし、その勢いで首がガクンと上がり、目と目があい・・・絶句した。

「・・・」

「サ、チ・・・?」

「・・・」

死人の目。例えるなら人形のような・・・その瞳からは何の感情も読み取る事が出来なかった。

「おい・・・サチ、しっかりしろ。返事をしてくれ・・・なあ・・・」

「・・・」

「亮さん・・・」

俺は物分かりの悪い子供のように、しばらくの間、何度もサチの名を呼び続けた・・・











































「・・・一応、寝かせてきました」

宿屋にサチを運び込んだ亞莎が言う。

「・・・サチは?」

亞莎は首を横に振る。

「・・・あの目に、見覚えがあります。覚えていますか?亮さんが真似能力を酷使して、自らを失った時の事を・・・」

「・・・それって・・・サチの心は・・・“壊れた”ってことか?」

「・・・多分、そうです。目の前でお友達があんなことになってしまったんです。・・・それで耐えられる精神を持つ方はそういません」

「・・・ああ」

明命達が消えた時。俺も消えてしまいたいと思ったことがある。けど俺にはまだ蓮華や呉のみんながいた。けれどもサチは・・・部活仲間を、大切な友達が死ぬ場面を目の前で見てしまった。・・・普通の女の子がそれに耐えられる訳がないのだ。


「・・・りょ、亮・・・」

顔を上げるとキリトがそこにいた。俺はほぼ無意識に口を動かしていた。

「・・・嘘、ついてたんだな」

「・・・!」

「最初に聞いたよな?何か隠してないかって。それに見たんだよ。フィールドを捜しに行くって言ったキリトが水路に入っていくのを。多分、それなりに上級なスキルでサチを見つけたんだよね」

「そ、それは・・・」

「答えろよ・・・!」

「・・・」

俺から目を逸らしたキリトの胸ぐらを掴む。

「答えろって言ってるんだよ!」

「りょ、亮さん!止めてください!」

「うるさい・・・!黙ってろ!」

「っ・・・亮、さん・・・」


「どうなんだ・・・どうなんだよ!」

「・・・お前の言う通りだ・・・本当は俺は攻略組で・・・それに、あの区域の宝箱にはトラップが仕掛けられている確率が高いのも知っていた・・・」

「・・・っ!」

ガン!

気がつけば俺はキリトを殴っていた。犯罪防止コードが働く圏内なので、拳は途中で不可視の障壁に止められるが、多少の衝撃が抜けるのでキリトは少し仰け反る。

「知ってた・・・?知ってて宝箱を開けるのを止めなかったのかよ!?」

「止めようとした!けど・・・!」

「言い訳するな!この・・・この卑怯者!」

ガンッ!

「・・・っ!」

顔に衝撃が走り、キリトが殴ってきたのだと分かった。

「俺だって好きで黙ってた訳じゃない!!ただ・・・怖かったんだ・・・!彼らが俺をビーターと蔑むのを・・・」

「そんなの・・・分からなかったじゃないか!」

「分かりきってる!・・・現にケイタは俺を・・・!」

「そんなのずっと騙してたからだろうが!」

「じゃあお前なら言えたのか!?」

俺とキリトがお互いに殴りかかろうとした時・・・煌めく剣に吹き飛ばされた。

「がっ・・・」

「ぐっ・・・」

「・・・アンタら、騒ぎすぎよ。周りの迷惑も考えなさい」

どうやら詠が俺達を弾き飛ばしたようだった。

「・・・今更過ぎたことを言ってもしょうがないわよ。そんなことをしても死んだ人は帰ってこない。亮・・・アンタは一番それを知ってるんじゃないの?」

「・・・」

俺は黙り込んでしまう。・・・俺もそこまでキリトを責める気はなかった筈なのに・・・何故か口喧嘩に発展してしまった。



「亮さん・・・」

「あ・・・」

「それにアンタ、さっき亞莎に怒鳴ったでしょ。いくらなんでも最低よ」

・・・本当に、何をやってるんだ。

「・・・ごめん、亞莎・・・」

「い、いえ・・・気にしないで下さい」

「・・・とにかく、ボクは咲に報せなきゃならないし、帰るわよ。・・・それと、アンタがこの世界に来た理由を忘れないでよね」


詠はそう言って宿屋から出ていく。

「・・・」

「・・・」

後に残るのは気まずい沈黙。・・・そして、俺は口を開く。

「・・・キリト」

「・・・なんだ?」
遂に俺はキリトととも目を合わせずに口にした。

「・・・効率のいい狩場・・・知ってる?」


「・・・っ」


今、やらなきゃいけない事。それは・・・強くなること。今のレベルでは誰かを助けるなんて夢のまた夢。・・・その日から、俺はあり得ないレベル上げに身を投じることになった・・・

















































































































ーーーーそれから更に数ヶ月が経過して、現在ニ〇ニ三年、十二月。

「ウオオオオオッ!!」

「はあああああっ!!」

俺とキリトは大型の昆虫モンスターのHPをゼロにする。

「ふっ!」

曲刀・・・“擬音”を上段に構え・・・振り抜く《アクセルスラッシュ》を使用し、その隙を埋めるように体術スキル《月閃》を使い、回し蹴りを放つ。・・・この組み合わせはこの世界の出身であろうリョウコウの真似・・・ソードスキルから体術スキルで隙を無くす方法はこちらでも使用可能だった。お互いに体制が整う前にメニューを開きショートカットを選択、僅かコンマ数秒で装備変更を終えて背負った長刀・・・“迷切”を鞘から引き抜く。

「せやああっ!」

突進型ソードスキル《飛龍翔》で数体のモンスターをまとめて刺し貫く。

「コウハ、次に離脱だ」

「・・・ああ」

一段落ついた時に俺達はその場から撤退する。

「・・・レベル・・・上がったか」

俺は自身のステータスを見てそう呟く。ここは現在、最も経験値を稼ぐのに最適な場所。攻撃力はあるが、HPと防御が低い上に大量に出現するので、高威力のソードスキルを持っていれば大量に経験値が稼げる。


「・・・あと少しか・・・キリト、俺はまた行くからな」

「あ・・・コウハ・・・」

「・・・何だよ」

「・・・いや・・・何でも、ない」

キリトとはあれから気まずくなる一方だった。今回一緒なのは偶々狩場が重なり、一人づつやると時間がかかるので、二人がかりでやる事になった。パーティーは組んでないので、自分が倒した分の経験値はそのまま入る。

「・・・よっ、亮。・・・いや、今はコウハか」

「サキか・・・」

キリトと別れた直後に男・・・サキが現れた。

「随分と熱心なレベル上げだな。・・・何日寝てない?」

「・・・今日で三日になるな」

それを聞いてサキが溜め息を吐く。

「・・・この世界は今までと違う。俺達は今まで意地や根性で死地を潜り抜けてきた。普通なら動けなくなる傷を受けようと立ち上がってきた。・・・けどこの世界じゃそれは通用しない。一度でも体力がゼロになれば死ぬだけしか・・・」

「命がけなのは今までと変わらないだろ。いいから並ばないなら退けよ、邪魔だから」

「・・・ったく、普段突っ走る時の俺はこんな感じなんかねぇ」

『近いものがあるッスね』

「・・・なんか泣けるな。つかコウハ・・・お前がそこまでレベル上げに拘るのは・・・“背教者ニコラス”か?」

「っ!」

俺が僅かに反応したのを確認したサキは続けて言う。

「・・・死者蘇生アイテム。・・・けど、そんなのこのゲームが普通のお遊びだった時の名残だろ。今は死んだら数十秒で脳が焼ききられて死ぬ・・・だろ?」

「・・・そんなの分からないだろ。少なくとも、それを確認した奴はいない」

「・・・お前、そこまでバカだとは思わなかったぜ。死者は帰って来るわけが・・・」

「うるせぇよ。お前に何が分かる。また・・・また目の前で助けられなかったんだぞ・・・!?」

「だからってそれを後悔してたら何にもならないだろって言ってんだよ」

「・・・ちっ・・・お前と話すだけ時間の無駄だ。さっさとそこを退け」

「おい・・・!」

サキが俺の前に立ち塞がる。

「悪いけどな、亞莎から無理させんなって頼まれてんだ。意地でも通さねぇぜ」

・・・亞莎にはサチを看てもらっている。・・・なるほど、ここにサキがいるのは亞莎の差し金か。


「コウハ・・・もう自分を責めるなよ。あのギルドが全滅したのだってお前が悪い訳じゃ・・・」


「いや、本来なら俺は彼処にいない筈なんだ。俺がこの世界に来たから・・・」

「・・・あのなあ・・・!」

「・・・やる気が失せた。・・・今日は帰る」


「おい、コウハ!・・・亮!」




サキの言葉に耳を傾けずにただ歩き続ける。・・・クリスマスに現れるフラグMob“背教者ニコラス”そいつを倒せばプレイヤー蘇生アイテムが手に入るという情報を耳にした俺はひたすらレベル上げに挑んだ。せめて黒猫団の誰かを蘇生させればサチもきっと・・・・・・そして遂にその日がやって来た。俺は深紅のコートを羽織り、耐久値をフル回復させた擬音や迷切を背負い、葬解を拳に填める。



「・・・行こう」

多数の情報屋から集めた情報、自らの足で得た情報。それらを目安に俺はあるフィールドに来たが・・・

「・・・どうやら、正解みたいだな」

「コウハ・・・」

先客がいた。キリトだ。

「どうせ目的は同じだろ?・・・サンタクロースさんのプレゼント狙い・・・でしょ」


「・・・ああ。せめてサチのために誰か一人だけでも・・・」

「・・・まった。・・・誰だ!」

俺が振り向いた先に現れた集団は、十人位。先頭の男は侍のような装備を身に付け、バンダナを巻いていた。

「・・・尾けてたのか、クライン」

クライン。それはキリトがゲーム開始初日に会った人物。それくらいしか知らないが、人目でお人好しであるだろうと分かる。

「まあな。追跡スキルの達人がいるんでな」

クラインは必死にキリトを止めようと話している。俺はそれを無視して進もうとするが・・・不意に新たな集団が現れた。数はざっと見て三十位。

「お前らも尾けられたな、クライン」

「・・・ああ、そうみてェだな・・・」

クラインの隣にいた男が囁く。

「あいつら、《聖竜連合》っす。フラグボスのためなら一時的オレンジ化も辞さない連中っすよ」



・・・オレンジとは、俺達プレイヤーには頭上にプレイヤーであることを示すカーソルがあり、普段はグリーンだが、圏外でプレイヤーを攻撃したり、犯罪行為を行うとカーソルの色が犯罪者を示すオレンジになる。・・・これは厄介だな・・・そう思った時だった。

「いやぁ~、随分沢山いるなぁ」

拍手が聞こえ、生い茂る木の上から誰かが降りてくる。

「・・・!そのボロボロの黒マント・・・!貴様“漆黒”か!」

「し、漆黒・・・」

「あの死神とも言われてる・・・」

「一部じゃプレイヤーじゃない少女を使う死霊使いとも・・・」

聖竜連合のメンバーのその言葉を聞いて男・・・サキは笑う。

「はっ、漆黒や死神は知ってたけど死霊使いなんてな。まさかジェイドと同じ二つ名か・・・」


サキは方天画戟を振り回し、構える。

「最近色々あって鬱憤が溜まっててな。ほら、誰でもいいから俺にデュエル申請しな。もしくはそのまま来てもいいぜ。こっちも一時オレンジになっても構わないんでな」

「サキ・・・どうして」

サキが俺を見て溜め息を吐く。

「・・・なんつーか。止めろって言われてお前が大人しく止める訳ないって思ってな・・・だから」

サキが聖竜連合を見据える。

「好きなようにやってこい。腐れ縁って事でフォローしてやるよ」

「サキ・・・」


「行けッ、キリト!ここはオレらが食い止める!お前は行ってボスを倒せ!だがなぁ、死ぬなよ手前ェ!オレの前で死んだら許さねェぞ、ぜってぇ許さねェぞ!!」

「「・・・っ!」」

俺達は積もっている雪を蹴り、走り出す。そして・・・












































「・・・ここか」

目の前には巨大なモミの木があった。そして時計が零時になった時・・・鈴の音と共に何かが降ってくる。

「・・・!」

・・・正直、サンタと言うかサタンだった。腕は長いわ前傾姿勢だわ目が赤く輝いているわ・・・しかも頭陀袋に斧と・・・俺とキリトは武器に手をかける。

「メリークリスマス。さあ、プレゼントを寄越しな!」

ニコラスは何かを口にしようとするが・・・

「うるせえよ」

キリトがそれを遮り、駆け出す。・・・さあ、行くぜ・・・










































































































「・・・キリト・・・生きてるか?」

「ああ・・・なんとかな・・・」

どれぐらい時間が経過したか解らないが、とにかく俺達はニコラスを倒した。俺もキリトもHPは危険域に突入していた。


「・・・あった」

アイテム欄にあったのは・・・《還魂の聖晶石》・・・これだ。だが、そのアイテムの解説を見て・・・俺は唖然とした。

「『このアイテムのポップアップメニューから使用を選ぶか、あるいは手に保持して』・・・っ!消滅するまでの間・・・およそ十秒間・・・!?」

「なん・・・だって・・・?」

「なんだよ・・・畜生、畜生ぉぉぉぉ!うわぁぁぁぁぁ!!」

・・・しばらく俺も・・・キリトも叫んでたと思う。・・・冷静になった時、俺達はお互いに仰向けで空を見ていた。

「・・・なあ・・・キリト・・・」

「・・・ああ・・・」

「・・・ごめん」

「え・・・」

「何かさ・・・思い詰めてたモノが亡くなったって言うか・・・ただ謝りたかったんだ。キリトが俺達を助けてくれたのは事実だし、俺も多少の仲違いを覚悟してキリトを問い詰めてれば、キリトだって正直に話してただろ?」

「だからってコウハが・・・亮が悪いんじゃない。悪いのは・・・」

「そう。俺達は互いに自分が悪いって思ってる。だからあの時に謝れば俺はキリト・・・兄貴とこんなにすれ違わずに済んだんだ。だけど喧嘩になったのは・・・意地があったんだろうな」

「意地・・・?」

「何て言うか・・・兄弟だから素直に謝れなかったって言うか・・・兄弟だからこそ苛立ちをぶつけちゃったって言うか・・・」

「・・・そうかもな。俺もそうだったのかもしれない。だから・・・」

「兄貴」

「・・・どうした?」

「・・・やっぱり、死んだら二度と蘇らないんだよね・・・」

「っ・・・!」

「だから・・・だからこそ、せめて生きているサチを現実に帰したい」

「亮・・・」

「だけど・・・俺一人じゃ・・・無理みたいだ。兄貴・・・いや、和人・・・協力、してくれる?」

久し振りに・・・俺はキリトと目を合わした。キリトは俺と目を合わせたことを驚き・・・答えた。

「ああ・・・それが俺の唯一出来る罪滅ぼし・・・だな」


俺達はサキ達がいる場所に戻ってくる。

「コウハ・・・色々解決したか?」

サキが俺に聞いてくる。

「まあ・・・今のところは・・・な」

サキはキリトを見て・・・すぐに目を逸らす。

「・・・ま、何かあったら言えよ。あと忘れてたけど・・・」

サキがメニューを開き、操作すると目の前にフレンド申請が現れる。

「最近のお前、近づき難かったし、機会も逃しまくってたからなぁ」

『まるでキレた咲さんみたいッスよね』

『確かにそうよねぇ』

「・・・またそれを言うか・・・」

俺は・・・久々に笑った。

「は・・・ははは!ああ・・・改めてこれからよろしく、親友」

「おうよ、相棒一号」

「一号?」

「二号はリパルさ」

『光栄ッス!』


フレンド登録している傍らで、キリトは渡しておいた結晶をクラインに渡していた。


「じゃあ・・・亞莎にも謝んなきゃだし、帰るよ」

「ああ・・・なあ、コウハ・・・死ぬなよ」

「お前もな、サキ」

俺は進む。俺がやる事は皆を捜すこと・・・そして、

「必ず・・・」

サチを現実世界へと帰還させること。一歩歩く度に聞こえる擬音にくくりつけられた鈴の音がやけに耳に響いた・・・

 
 

 
後書き

「・・・」


「なんつーか、一応原作ブレイクなんだが・・・」


「・・・本当に余計な存在だよな、俺」


「あのな、少なくともお前の両親はお前が生まれて喜んだに決まってるだろ」


「うん・・・」


「それじゃ、次回もよろしく」

 

 

似た者同士〜

 
前書き
あかん・・・キリトが空気過ぎる・・・!ではどうぞ。 

 
・・・あれから二ヶ月が経過した。クリスマスの一件からは俺は攻略組の一角となり、ゲームクリアを目指している。そんな俺達だが今は・・・


「・・・なあ、兄貴」

「どうした?亮」

「・・・ここどこ」

似たような景色が続くここは・・・中層である三十五層に存在するサブダンジョン《迷いの森》・・・攻略組である俺とキリトがどうしてこんな場所にいるのかと言うと、事情があるのだが・・・

「うがー!苦手なんだよこういうのー!」

ここ、迷いの森は碁盤上に別れているエリアに一分以上いると、東西南北が入れ替わってどんどん迷う仕組みだ。・・・つまり、ここを抜けるには一分以内にエリアを駆け抜けるかここの層の主街区に売っている地図アイテムを使うしかないのだが・・・無駄に高価だし、そもそも俺達は迷ってもそこまで支障がないので買ってない。しかも転移結晶を使ってもこの森の何処かにランダムに飛ばされる・・・肝心な時に役に立たない結晶だな。


「・・・あー!どうすんだよ!餓死とかはないけどこのままじゃ・・・」

「くく・・・」

「・・・兄貴?」

「い、いや・・・お前ってこの手のモノって苦手だよな。五歳位に迷路から出られなくなったり・・・」

「ど、どんだけ昔の話ぃ!?つかそんなの思い出させないでよ!」


「また迷って泣くかもな」

「冗談になってないって。くっそぉ・・・地図買っておきゃよかった・・・」

「くっ・・・ははは!ほら、亮」

「え・・・わっ!?」

目の前に何かが投げられ、受けとると・・・地図だった。

「ちゃんと買ってあるよ。二つ分な」

「・・・からかってたのか」

「まあな。・・・でも、気を付けろよ。このゲームじゃ僅かなミスが死に繋がる」

俺は黙ってしまう。たまにこう言ったミスをやってしまうのだ。桐ヶ谷 亮の迂闊さが残っているのか・・・

「・・・でも、兄貴も気付いたなら言ってよー」

「悪かったって」

・・・ここまで茶化しあえるようになったのが、あの時から進めている部分・・・だと思いたい。

「ところで、本当にここにいるのかな?」

「・・・一応情報ではここで間違いないみたいだな」

俺達は何となく索敵を使い・・・緊張感が走る。

「・・・コウハ!」

「ああ、行くぜキリト!」

その反応はモンスター、三。プレイヤー、一。モンスター・・・なのだがプレイヤーの近くにいて何もないので、使い魔モンスターだと思われるのが、一。



「・・・ふっ!」

何故こんな森に一人でいるのか・・・それよりも急がなくては。俺達は敏捷パラメータをフル発揮して走る。しばらくすると景色が開き・・・少女プレイヤーが三匹の猿人型モンスターに襲われているのが見えた。・・・間に合うか・・・!?

「・・・え?」

次の瞬間、あり得ない光景が目に入った。少女の使い魔がモンスターの攻撃を庇い・・・殴り飛ばされた。使い魔にはそんなに高度なAIは積まれておらず、十種程の命令やたまに主人を援護する程度・・・だが、その身を挺する使い魔など聞いたことがない。
・・・説明が遅れたが、使い魔とは通常のモンスターの中に、稀にプレイヤーに攻撃してこないモンスターもいる。そこでそのモンスターが好む餌を与えて飼い慣らし(テイミング)に成功すれば、晴れて使い魔になる。・・・話が逸れた。少女は吹き飛ばされた使い魔に駆け寄り、抱き抱えるが・・・使い魔は消えてしまう。


「ウワアアアァァッッ!!」

少女が絶叫し、使い魔を倒した・・・少女にとっては殺したモンスター目掛けて突進する。モンスターの攻撃を腕で受け、ダガーの一撃はモンスターを暴散させるが・・・あんな戦い方じゃ持たない。

「キリト!一匹に一撃必殺!」

「分かってる!」

俺とキリトは少女よりも早く剣を引き抜き、モンスターを一撃で粉砕する。・・・ただ、少女は俺達を見て後ずさる。そしてキリトが口を開いた。

「・・・すまなかった。君の友達、助けられなかった・・・」

少女はその言葉で起きたことを理解してしまい、短剣を落とし、泣きながら跪いた。

「お願いだよ・・・あたしを独りにしないでよ・・・ピナ・・・」

地面に落ちてそう言う少女に・・・自分の姿が重なった。

ーーーー似ている。大切なものを失い、怒りを爆発させ・・・悲しみに飲まれる。俺はしゃがみこみ、少女と目線を合わせる。

「・・・ごめんな。もっと早く気付いていれば・・・」

少女は首を振る。

「・・・いいえ・・・あたしが・・・バカだったんです・・・ありがとうございます・・・助けてくれて・・・」

「・・・なあ、キリト・・・」

俺が使い魔が残した羽根を指差すとキリトが頷く。

「その羽根だけどな。アイテム名、設定されているか?」

少女が羽根のアイテム名を確認して・・・再び泣きそうになったので、俺が慌ててフォローする。

「ま、まって。心アイテムがあるなら、蘇生できるかも知れない」


少女の目が見開かれる。


「ほ、ほんとですか!?」

「・・・まあ、そう言った種類の情報を集めてた時にね。四十七層の南に《思い出の丘》ってフィールドダンジョンがあるんだけど・・・難易度はそこそこあるけど、そこに咲く花が使い魔蘇生用のアイテムがあるって・・・」

俺の言葉を聞いて少女が俯く。

「・・・四十七層・・・」


ここを狩り場にしてるなら、少女のレベルは大体四十代だろう。安全マージンの目安は雑に言えばその層の数字+10必要だ。

「・・・俺が行ってもいいけど、使い魔を亡くしたビーストテイマー本人が行かないと花が咲かないらしくて・・・」

「いえ・・・情報だけでも、とってもありがたいです。頑張ってレベル上げすれば、何時かは・・・」

「あ・・・」

言い淀んだ俺の代わりにキリトが答える。

「それがそうも行かないんだ。使い魔を蘇生できるのは、死んでから三日らしい。それを過ぎるとアイテム名が“心”から“形見”に変化して・・・」

「そんな・・・!」

俺はキリトに耳打ちする。

「(・・・ごめん、兄貴・・・)」


「(・・・分かってる。お前が見捨てる訳ないよな)」

「(・・・本当にごめん。亞莎を呼ぼうか?)」

「(いや、大丈夫だ。・・・俺こそ、押し付けるような形になって・・・)」

「(・・・止めよっか。懺悔大会やってる訳じゃないし・・・何かあったらすぐメッセージ送って)」

「(ああ。・・・気を付けて行けよ)」

キリトはその場から立ち去る。・・・俺はメニューを開き、目の前の少女とトレードを行う設定をして・・・少女が扱えそうで、尚且つ性能の高い装備を選択していく。

「あの・・・」

少女が戸惑いながら声をかけてくる。

「この装備で数レベルは底上げ出きるよ。俺もついて行けば危なくはないと思う」

「えっ・・・」

少女は唖然としながら立ち上がり、俺を見る。

「なんで・・・そこまでしてくれるんですか・・・?」

明らかに警戒しているようだ。・・・当たり前だ。少女にとっては俺は“アメあげるからついておいで”と言う誘拐犯と同レベルだろう。

「・・・結構ベタな理由って言うか・・・笑わないでよ?」

「笑いません」

俺に似てるから・・・では警戒心は解けないだろうから、こう口にする。

「知り合いに・・・似てるから、かな」


少女はポカンとしてから・・・笑い出した。

「・・・笑ったなー」

俺は少女の頭を撫でる。


『すごいぞー、すぐは。年上にかつなんて』


『えへへー。もっとほめて、りょう!』

・・・今度は妹の姿が重なる。・・・この子は色んな人に似ているなぁ・・・一方少女は頭を撫でられたことが意外だったのか、唖然としていた。

「あ・・・ご、ごめん!つい癖で・・・」

どうも撫で癖があるみたいだ。少女は再び笑い・・・ぺこりと頭を下げた。

「よろしくお願いします。助けてもらったのに、その上こんなことまで・・・」


少女がメニューを操作し、全財産と思われるコルを提示するが・・・

「お金なんていらないよ。装備なんて俺が使えない余り物だし・・・近々整理しようと思ってたからね。俺のちょっとした用事のついで・・・と思ってくれればいいよ」

「すみません、何からなにまで・・・あの、あたし、シリカっていいます」

そう言えば名乗ってなかった。俺は右手を差し出しながら言う。

「俺はコウハ。よろしくね」

俺達は握手を交わす。地図を取りだし、見ながら森を出る。

「ところで・・・さっきのもう一人の黒い人は・・・」


「ああ・・・あれ、俺の兄貴でね。用事があったから先に行かせたんだよ」

「お兄さんなんですか・・・」

「っと、着いたよ」


三十五層の主街区は所謂農村といった感じで、結構治安は良さそうだった。辺りを見渡していると、何人かのプレイヤーが駆け寄ってきた。どうやらシリカは中層クラスでは有名人らしく、パーティーによく誘われるみたいだが・・・

「あ、あの・・・お話はありがたいんですけど・・・」

シリカがちらりとこちらを見て言う。

「・・・しばらくこの人とパーティーを組むことになったので・・・」



プレイヤー達は不満な声を上げ・・・その矛先はやっぱりこちらに向いた。

「おい、あんた・・・」

シリカを熱心に勧誘していた男が口を開く。

「見ない顔だけど、抜け駆けはやめてもらいたいな。俺らはずっと前からこの子に声かけてるんだぜ」

・・・まあ、俺にも否があるので、機嫌を損ねないように外面を作る。

「いや、すみません。少々事情がありまして・・・安心して下さい、少しの間だけです」

プレイヤー達の怪訝な視線が集まる。・・・当然だよねぇ・・・



「あの、あたしから頼んだんです。すみませんっ!」

シリカが頭を深々と下げ、俺のコートの袖を引っ張る。

「・・・す、すみません。迷惑かけちゃって」

「あはは、気にしない気にしない。・・・人気なんだね」

「・・・そんなことないです。マスコット代わりに誘われてるだけなんです、きっと。それなのに・・・あたしいい気になっちゃって・・・一人で森を歩いて・・・あんなことに・・・」


「・・・分かるよ」

「え・・・?」

「俺もそうだったから・・・」


天の御遣いだとか、戦乱を平和に導いたとか・・・平和に身を任せていた結果が・・・明命達の死だった。

「コウハさん・・・?」

「あ・・・ごめんごめん。ところでシリカのホームはここかな?」

俺は重い空気を払う為に話題を変える。

「あ、いえ・・・本当は七層なんですが、今はここに・・・コウハさんは?」

「この間五十層に移ってね。部屋はそこそこ広いし・・・本当はサ・・・いや、ちょっとした事情で綺麗なとこがよかったんだけど、大体物価が高くて高くて・・・あ、ごめん」

思わず愚痴ってしまったので謝ったら、シリカは笑う。

「ま、まあ今日はここに泊まろうかな」

「そうですか!」

シリカが胸の前で両手をパン、と合わせる。・・・その仕草が明命の仕草と似ていて。思わず表情が固まる。・・・本当にこの子は俺の懐かしい思い出を呼び起こしてくれる。

「ここのチーズケーキがけっこういけるんですよ」

「へぇ・・・いいね、チーズケーキ」

その時、四、五人の集団が道具屋から出てきて・・・その一人が振り返った時、シリカが息を呑むのが伝わった。

「あら、シリカじゃない」

真っ赤な髪をカールさせた女が話しかけると・・・明らかにシリカは嫌悪感を露にしていた。

「・・・どうも」

「へぇーぇ、森から脱出できたんだ。よかったわね」

そう言って女は悪役のような笑みを浮かべる。

「でも、今更帰ってきても遅いわよ。ついさっきアイテムの分配は終わっちゃったわ」

「要らないって言った筈です!・・・急ぎますから」

アイテムの分配・・・つまりシリカはこの女を含むさっきの団体はパーティーを組んでいた。様子を見るにシリカは女と揉め、シリカが飛び出した・・・といったとこか。


「あら?あのトカゲ、どうしちゃったの?」

・・・笑みを見るにこの女はわざとシリカに聞きやがった。通常使い魔はストレージに格納も、誰かに預けることも出来ない。それは殆どのプレイヤーが知っていた。

「あらら、もしかしてぇ・・・?」

「死にました・・・でも!」

シリカが女を睨み付ける。

「ピナは、絶対に生き返らせます!」

女の顔が、獲物を見つけた獣になった。

「へぇ、てことは思い出の丘に行く気なんだ。でも、あんたのレベルで攻略出きるの?」


「できるね」

俺はシリカを庇うように前に出る。

「そんなに強いモンスターもいないしな」

女は俺を値踏みするように見る。

「あんたもその子にたらしこまれた口?見たトコそんなに強そうじゃないけど」

・・・シリカが再び泣きそうになるのが分かった。・・・少々釣り針を垂らしてみるか。こういうのは得意じゃないが・・・

「まあ、確かにアンタみたいなオバサンよりはシリカみたいな若くて可愛い子と組んだ方がいいよなぁ」


「なっ・・・!」

「コウハ、さん・・・!?」

「ああそうか。ヒガミって奴だよね。いやー、年取ると色々劣るからやだね」

「な・・・なんですって・・・!」

女がわなわなと体を震わせる。・・・こういうのはサキの方が得意なのだが・・・効果はあるみたいだ。

「じゃあ、可愛い子と楽しく行くとするかなー・・・シリカ、行こうか」

「は、はい・・・」

シリカを連れて宿屋に入る。・・・背後から“このガキがぁ・・・”という恐ろしい声が聞こえたが、スルーした。

「ご飯食べようか」

チェックインを済ませ、色々設定をして宿屋・・・《風見鶏亭》一回にある広いレストランの席にシリカと相向かいに座る。

「あの・・・さっきの・・・」

「え・・・あ」

そう言えばさっき、演技とはいえ、結構変態チックなことを言ったような・・・

「あ、あれは嘘で・・・!あ、いや、シリカが可愛くない訳じゃないけど、ただまあ・・・あと・・・」

言葉に詰まる俺をシリカは微笑みながら見てる。・・・だがやがて、シリカは暗くなりながら呟いた。

「・・・なんで・・・あんな意地悪言うのかな・・・」

俺は一回咳払いをして、真面目に尋ねる。


「・・・シリカってこの手のゲームって・・・」

「初めてです」

「そっか・・・俺もちょこっとかじったぐらいだけど、こう言ったゲームをプレイすれば必ず人格が変わるプレイヤーが多くなる。・・・世間体とか気にしなくて済む現実と関わりが少ない世界だからね・・・けど」

俺は両手を組み、顔の前にやる。

「このゲームは違う。確かに一致団結をするのは無理だってわかってる。けど・・・他人の不幸を楽しむ奴、アイテムを奪う奴・・・終いには殺しをする奴まで・・・多すぎるんだ」

シリカは俺をじっ、と見詰めてくる。

「ここで悪事を働く奴は、現実でもまともな奴じゃないと思ってる」


シリカが気圧されているのに気付き、謝る。

「・・・ま、俺もあまり人のこと言えないかもな。初日に混乱するプレイヤーを助けたりしたけど、それは事故満足だし。・・・助けられた筈の人を助けられなかったこともある」

「あ・・・」

それを聞いてシリカが俺の顔を見ながら目を見開いた。だがすぐに何かを呟き、首を振る。

「コウハさんは、いい人です。あたしを助けてくれたもん」

俺はシリカが組んでいた俺の手の上に覆うように手を被せてきた。

「あ、あはは・・・慰める気が慰められちゃったな・・・ありがとう」

シリカが一瞬で赤くなり、慌てながら身を退いた。

「シリカ・・・?」

「な、なんでもないです!あ、あたし、お腹空いちゃったなー!すみませーん!」

シリカのお勧めメニューを食べ、シリカ絶賛チーズケーキ(中々の味だった)を食べ、部屋に向かう。シリカと別れ、部屋に入り、武装解除してベッドに身を投げる。

「ふぅ・・・」

少し、怖かった。これ以上シリカと話し、彼女と親しくなるのを。俺はネガティブな考えを打ち払い、キリトにメッセージを送る。

「“とりあえず餌を巻いて釣り針を垂らしたよ”・・・っと」

コンコン

不意にドアがノックされる。宿屋とかは基本完全防音だが、ノックをしてからの三十秒の間は防音が解除される。・・・とにかく、俺は返事をしてドアを開けると・・・同じく武装解除したシリカが立っていた。

「どうしたんだい?」

「あの・・・ええと、その、あの・・・よ、四十七層のこと、聞いておきたいと思って!」


・・・使い魔・・・ピナという名前らしい。きっと眠れないのかもしれない。俺は頷き、笑顔で答える。

「ああ、下に行く?」

「いえ、あの・・・よかったら、お部屋で・・・・・・あっ、あの、貴重な情報を誰かに聞かれたら大変ですし!」

「あ・・・ま、まあ確かに・・・けど・・・まあ、いいか・・・それにしても、シリカって結構慌てん坊で活発なんだな」

そう言うとシリカが小さくなる。とりあえずシリカを部屋にいれ、椅子に座らせる。

「ええと・・・お、あったあった」

アイテム欄から小箱を実体化させ、中から水晶玉を取り出す。

「きれい・・・それは何ですか?」

「《ミラージュ・スフィア》って言って・・・まあ、立体的な世界地図かな」

「うわあ・・・!」

起動させるとシリカが目を輝かせて地図に見入る。俺は微笑ましく思いながら、色々説明していく。

「そうしたらここの橋をこえて・・・っ」

何か・・・いる気配が・・・シリカに合図を送り・・・素早く駆け、ドアを開く。

「誰だっ!」

・・・だが相手の逃げ足は早かった。既に逃げられてしまった。

「な、何・・・!?」

「・・・話を聞かれていたようだな・・・」

「え・・・で、でもドア越しじゃあ・・・」

「聞き耳スキルが高いと防音が効かないんだ。そんなの上げてるアホがいるなんてな・・・」

聞き耳スキルの上げ方は・・・伏せていこう。正直あんな上げ方は精神がもたないからな・・・


「でも、なんで立ち聞きなんか・・・」

「良い感じに餌に食い付いたんだろうな。ちょっと待ってて、釣れたのを報告しないと」

俺はキリトに再びメッセージを打つ・・・あ、そろそろ亞莎にも連絡しないと不安がるかな・・・ようやくメッセージを打ち終わった。

「ごめんごめん。じゃあ・・・あ」

振り替えると、椅子からベッドに座り直していた筈のシリカは・・・

「すー・・・」

・・・落ちてしまっていた。俺は苦笑しながら掛布団を掛け、俺は椅子に座って机に突っ伏して寝ることにした・・・ 
 

 
後書き

「新キャラかぁ」


「まあ、原作では空気化が進んで・・・げふん」


「本人聞いたら泣くぜ・・・」


「あはは・・・それじゃ、次回もよろしく・・・」

 

 

大切なもの〜

 
前書き
一話一話が長い・・・かといって切ると話数が多くなりそう・・・あと、最近バイオ6だのエクシリア2だののプレイするゲームの大体に鬱エンドが存在してて困る。・・・それでは! 

 
・・・夢を見た。あれは俺が八歳位のころ・・・


『すぐはー、危ないからいいよ・・・』

『だめ!あたしが怪我させたんだもん。えっ、と・・・ここかな・・・』

妹が転び、それを庇ったら膝を怪我してしまった。妹は自分が消毒すると言って家にある棚の上にある筈の救急箱を、椅子に登って探していた。

『あっ、あった!・・・んぅ・・・!』

妹は色々な荷物が置かれている中から救急箱を引っ張り出そうとしている。

『危ないよ!俺はへいきだから・・・』

『やだ。あたし、りょうが痛そうにしてるのやだもん』

『すぐは・・・』

だが、妹が力を籠めて引っ張った時、すこしつっかかってから救急箱が抜けた。

『きゃ・・・』

『すぐは!』

当然勢い余って妹は体制を崩し、椅子から落ちそうになる。・・・しかも、支えを失った荷物もそのまま落下してくる。

『あぶない!』

妹を庇うように飛び込み・・・


ガタタタン!!









『・・・いたた・・・りょう、大丈・・・っ!?』

妹が息を呑む。何故なら・・・

『ああああ!!目・・・目が・・・!うああああ!!』

耐え難い痛み。俺は右目を押さえながら叫ぶ。

『りょ、りょう!?ねぇ、りょう!だいじょうぶ!?りょう・・・!』

妹が必死に呼び掛けてくるが・・・

『いたい・・・!!目がいたいよぉ!!うああああ!!』


『スグ!どうし・・・りょう!?』

声からして多分兄だと思われる。

『りょうが・・・りょうがぁ・・・』

『ま、まってろ!すぐ母さんをよんでくるから!』



『りょう・・・りょう・・・!』

妹が泣きながら呼ぶ。・・・呼ぶ・・・


















「・・・さん、コウハさん、朝ですよー」

「へあ・・・?」

目を開くと目の前には妹・・・ではなくシリカがいた。

「あ・・・ああ、ごめん。随分気持ち良さそうに寝てたから、つい起こせなくて・・・変なことはしてないから安心してよ」

「ふふ、コウハさんはそんなことをする人じゃないですよ。・・・でもごめんなさい。ベッド占領しちゃって・・・」

「あはは、平気平気。ここじゃ寝違えも筋肉痛もないし」

とは言うものの癖で首を捻ったり体を曲げたりする。

「あ・・・言い忘れてた・・・おはよう、シリカ」

「あ、おはようございます」


俺達は朝食を取り、転移門まで移動する。

「あ・・・あたし、四十七層の街の名前、知らないや・・・」

それを聞いて俺はシリカに手を伸ばす。

「大丈夫。俺が指定するから」

シリカはゆっくりと俺の手を握る。

「転移!フローリア!」

一瞬、体の感覚が消え、視界がぶれる。・・・次の瞬間には転移は完了した。

「うわあ・・・!」

シリカが歓声を上げる。何故なら、四十七層の広場は無数の花々で溢れかえっていたから。

「ここは通称《フラワーガーデン》って呼ばれてるんだ。街だけじゃなくてフロアまで花だらけ・・・今度時間があったら色々案内するよ」

・・・本当はここら辺りをホームタウンにしたかったが・・・物価はそこそこ・・・しかし部屋が空いてなかったのだ。
「はい。また今度のお楽しみにします」

ふと気付いた。俺はまたシリカに会う気でいることに。・・・本当はこの件が終わったら会うつもりはなかったのに・・・

「・・・なんでだろう」


考えていると、花を見ていたシリカが近付いてきた。

「さ・・・さあ、フィールドに行きましょう!」


「あ、ああ」

シリカは勢いよく歩き出す。・・・俺は苦笑しながら着いていく。シリカと足並みを合わせて歩くと、シリカが聞いてきた。

「あの・・・コウハさん、すぐは・・・って誰ですか?」

「え・・・!?な、なんで・・・」

「す、すみません。その・・・寝言を聞いてしまって・・・気になっちゃって。コウハさんの恋人・・・ですか?」

一応、アインクラッドでは現実世界の話を持ち込むのはタブーだ。色々理由はあれど、一番はこの世界も現実だという事実を認められなくなる為・・・ただ、シリカが悪意を持って聞いたのではない位、簡単に分かったので答える。

「ううん、妹だよ」

「妹・・・もしかして、あたしに似ている知り合いって・・・」

「ああ・・・確かに妹にも似ているよ。・・・ただ、仲は良くなかったけど」

「・・・」

「俺ん家、祖父が厳しくてね。俺と兄貴、そして妹は俺と兄貴が八歳の時にほぼ強制的に剣道場に通わされたんだよ。・・・俺や妹は剣道にハマったよ。俺は自分が強くなって、相手を倒して家族に褒められるのが嬉しかったんだ。・・・けど」


「けど・・・?」

「剣道始めて一年半くらいの時だったかな。妹を庇って右目をやっちゃってね。リアルじゃ右目が殆ど見えないんだ」

「・・・!」

「薬品が目に入ったか何かの荷物が目を潰したか・・・今となってはどうでもいいこと。・・・だけど、たがが九歳の子供が距離感を乱されて対応できる筈がない。俺は右目の視力を失ったことで一度も試合に勝てなくなった」

眼鏡やコンタクトを使っても大した改善にはならなかった。

「だけど俺が悲しかったのは勝てなくなったことじゃなくて、勝てなくなった俺を見て苦しむ妹だった。これ以上妹が苦しむのを見かねて、俺は剣道に馴染めないで辞めたがってた兄貴と一緒に剣道を辞めるって祖父に言ったんだ。・・・兄貴は即効殴られたけど、俺は理由を聞かれた。・・・俺はただ、勝てないから辞めると言ったんだ。・・・直後にグーが飛んでさ、ぶっ飛ばされた。・・・今考えれば爺さんは俺が嘘をついたのを見抜いたのかもしれないな」


俺は溜め息を吐く。

「妹は大泣きして、お兄ちゃん達の分頑張るから殴らないで・・・って爺さんにずっと言ってた。・・・俺は妹を傷つけたくないと思ってやった行動が更に妹を苦しめているなんて想像もしたくなかった。・・・それから、俺は妹を避け出した。妹も今までは名前を呼んでくれたけど、今じゃよそよそしく“お兄さん”って呼ぶようになった。きっと妹は・・・直葉は俺を怨んでると思う。本当は直葉だってやりたい事があるんじゃないかって、俺のせいで剣道を辞められなくなったんじゃないかって・・・本当はこのゲームの話を持ち掛けて、時間をかけてでもまた昔みたいに戻したいと思ってたんだ。けど・・・」

「このゲームが始まった・・・」

「ああ。・・・はぁ・・・俺はもしかしたら、シリカを直葉に見立ててるのかもしれない。罪滅ぼしのつもりで助けてるのかもしれないね・・・ごめんな」


シリカは首を振ってから言った。

「・・・妹さん、コウハさんを恨んでいなかったと思います。何でも好きじゃないのに頑張れることなんかありませんよ。きっと」

「・・・はは、慰められてばっかだね。ありがとう、シリカ。・・・後で兄貴にも言ってあげてくれる?兄貴も妹と色々あって・・・」

「・・・はい!」


そうこうしてる内にフィールドの手前まで来た。

「・・・いよいよ開始だけど・・・」

「はい」

俺はコートの内側にあるポーチの中から水色の結晶・・・転移結晶を取り出す。

「その装備とレベルなら平気だと思うけど、何が起こるか解らない。だから、俺が逃げろって言ったらすぐにこの転移結晶でどこかに跳んで。いい?」

「で、でも・・・」

「これだけは譲れない。・・・俺は一度パーティーを・・・ギルドを壊滅させてしまった事があるんだ。・・・もう二度と誰かが死ぬのを見たくない」

シリカはゆっくりと頷く。・・・それを見て俺は笑顔を作る。

「よし、行こう!」

「はい!」


頼もしい返事。きっとこれなら問題はないと思った。ーーーこの時までは。





































ーーーー数分後。

「ぎゃ、ぎゃああああ!?なにこれーーー!?き、気持ちワルーーー!!」

シリカが悲鳴を上げる。フィールドを出て初のモンスターだが・・・

「や、やあああ!!こないでーーー!」

ようは歩く花のモンスターだが・・・まあ、少々、いやかなり女性には受け入れられない姿をしていた。口あるし触手生えてるし。

「やだってば!」

シリカが半ば錯乱しながら短剣を振り回す。

「お、落ち着いて。そいつはかなり弱いから、あの花の下にある白っぽい部分を狙えば・・・」

「だ、だって、気持ち悪いんですうううーーー!」

「いや・・・このあと見た目的によろしくない奴は沢山いるよ?ラフレシアっぽいのが大量についた奴とか食虫植物とかもっと触手がうねうねしてる奴とか・・・」

「キエーーーー!!」

シリカが悲鳴(ほぼ奇声)を発しながらソードスキルを発動するが、見事に絡まり・・・触手に捕らえられて・・・

「わ!?」

逆さまに持ち上げられる。

「わわわ!?」

重力に従い落ちるスカートを抑え、触手を切ろうとするが体制が悪いので上手く切れない。・・・あー、ズボン型の装備渡しておけばよかったなー・・・

「こっ、コウハさん助けて!見てないで助けて!!」


まあ、そうだよね。俺は懐から手裏剣を取り出す。

「合図するよ!イチにの・・・サン!」

シリカを避けるように飛んだ手裏剣が触手を切り裂く。シリカは上手く体制を整え・・・落下しながらソードスキルをモンスターに叩き込み、爆散させた。

「・・・見ました?」

シリカがスカートの裾を抑えながら聞いてくる。

「大丈夫、見えてないよ」

というか見えたとして、だからなんだと言う話だ。

「(呉は色々目に毒だったからなあ・・・)」

慣れてしまったので気にしなかったが、あれって普通に逮捕物ではなかろうか。裾短いわ露出高いわそもそも本人達(主に雪蓮と穏)が見せつけて来るわ・・・

「コウハさん?どうしたんですか?」

「まともな服装っていいよね」

「は?」

「・・・何でもない」

その後もしばらく戦闘を重ねていく。・・・事あるごとにシリカは精神的ダメージを負ったが、とりあえず無事だ。小さな橋を渡り、しばらくすれば目的地が見えてきた。

「あれが思い出の丘だよ」

「見たとこ、分かれ道はないみたいですね」

「だけどモンスターの量が多い。・・・もう一踏ん張りしようか」

「はい!」

目に見えてシリカのテンションが上がっているのが分かる。・・・とりあえずモンスターを片付けながら丘を上り・・・

「うわあ・・・!」

頂上にある花畑を見てシリカは歓声を上げる。

「到着・・・だね」

「ここに・・・その、花が・・・?」

「ああ。真ん中辺りの岩に・・・」

シリカは俺が言葉を言い切る前に走り出す。


「ない・・・ないよ、コウハさん!」

岩の上や周りを見ていたシリカが泣きそうな声で叫ぶ。

「そんなはず・・・あ、いや、見なよ」

「あ・・・」


ゆっくりと岩の上から芽が伸びてきた。どうやらプレイヤーを判別してから咲くので、ラグが発生していたのだろう。やがてそれは綺麗な花が咲かせた。

「これで・・・ピナを生き返らせられるんですね・・・」

シリカが花をそっと掴みながら言う。

「うん。心アイテムに花の雫を振りかければいいんだよ。ただ、モンスターが多いから帰ってからにしようか」

「はい!」

今までで一番の笑顔を浮かべながらシリカは歩き出す。

「・・・」


このまま済めば良かったが・・・そうは行かないようだ。

「~~~♪」

橋に差し掛かった辺りで俺はシリカを引き留める。シリカは振り返り、固まる。

「・・・そこで待ち伏せてるの、出てこい」

「え・・・!?」

索敵に引っかかった反応にそう告げると、やがて・・・昨日の女が現れた。その手には細い十字槍を持っている。

「ろ・・・ロザリアさん・・・!?なんでこんなところに・・・!?」

女・・・ロザリアは俺を見て唇の片側を吊り上げて笑った。

「アタシのハイディングを見破るなんて、中々高い索敵スキルね、剣士サン。侮ってたかしら?」

ロザリアはシリカに視線を移す。

「その様子だと、首尾よくプネウマの花をゲットできたみたいね。おめでと、シリカちゃん」

ロザリアはやっぱりと言うべきか・・・呆れる言葉を出してきた。

「じゃ、さっそくその花を渡してちょうだい」

「・・・!?な・・・なにを言ってるの・・・」

俺はシリカを後ろに押しやり、口を開く。

「そうは行かないんだよね。ロザリアさん・・・いや、犯罪者(オレンジ)ギルド《タイタンズハンド》のリーダーさん?」


ロザリアの顔から笑みが消えた。・・・どうやら魚は完全に釣れたみたいだ。

「え・・・でも・・・だって・・・ロザリアさんは、グリーン・・・」

シリカが疑問を口にするが・・・俺は答える。

「別にオレンジギルドと言っても全員がオレンジじゃない場合が多いんだよ。グリーンが獲物を見つけ、パーティーに紛れ込んでギルドメンバーが待ち伏せしている場所に誘導する・・・宿で盗み聞きしてたのも仲間だろうな」

「そ・・・そんな・・・じゃ、じゃあ、この二週間、一緒のパーティーにいたのは・・・」

ロザリアは再び人を苛立たせる笑みを浮かべる。

「そうよォ。あのパーティーの戦力を評価すんのと同時に、冒険でたっぷりお金が貯まって、美味しくなるのを待ってたの。本当なら今日にもヤッちゃう予定だったんだけどー」

シリカを見ながら舌で唇を舐める。

「一番楽しみな獲物だったあんたが抜けちゃうから、どうしようかと思ってたら、なんかレアアイテム取りに行くって言うじゃない。プネウマの花って今が旬だから、とってもいい相場なのよね。やっぱり情報収集は大事よねぇ」


そこでロザリアは俺に視線を向ける。

「でもそこの剣士サン、そこまで解っていながらノコノコその子に付き合うなんて、馬鹿?それとも本当に体でたらしこまれちゃったの?」

シリカが怒りで爆発しそうなのを横から感じ、シリカの肩を掴んで落ち着かせる。

「別にそうじゃないさ・・・」

俺はスイッチを入れる。ここからは・・・遊びは抜きだ。

「俺もアンタを探してたんだよ、ロザリア」

「・・・どういうことかしら?」

「・・・十日前、三十八層で《シルバーフラグス》っていうギルドを襲ったよな。リーダーだけが脱出に成功し、他のメンバーは・・・」

「・・・ああ、あの貧乏な連中ね」

「そのリーダーはな、毎日ずっと朝から晩まで最前線のゲート広場で泣きながら仇討ちをしてくれる奴を探してたんだ」
俺はその場が凍り付くような声を発する。

「でもな。そいつは俺に向かって、お前らを殺せと言わなかった。黒鉄宮の牢獄に入れてくれと、そう言ったんだ。ーーーーーその人の気持ちが分かるか?」

「解んないわよ」

面倒臭そうにロザリアは答える。

「何よ、マジんなっちゃって、馬鹿みたいな。ここで人を殺したって、ホントにその人が死ぬ証拠ないし。そんなんで、現実に戻った時罪になるわけないわよ。だいたい戻れるかどうかも解んないのにさ、正義とか法律とか、笑っちゃうわよね。アタシそういう奴が一番嫌い。この世界に妙な理屈持ち込む奴がね」

「奇遇だなぁ。俺もアンタみたいなタイプの人間はーーーーー」

俺はかなりの殺気を宿しながら口にする。

「ーーー殺したいほど嫌いだぜ」


「ふん・・・で、その死に損ないの言うこと真に受けて、アタシらを探してた訳だ。ヒマな人だねー。ま、あんたの撒いた餌にまんまと釣られちゃったのは認めるけど・・・でもさぁ、たった二人でどうにかなるとでも思ってんの・・・?」

ロザリアが合図を出し、それで次々と木立から人が出てくる。・・・十人くらいか。

「こ、コウハさん・・・人数が多すぎます、脱出しないと・・・!」

俺はシリカの頭をポンポンと叩き、もう一歩前に出る。

「大丈夫さ。俺が逃げろと言うまでは見てればいいよ」

更にもう一歩。シリカが叫ぶ。

「コウハさん・・・!」


その言葉が聞こえたのか、賊の一人が眉を潜めた。

「コウハ・・・?」

そして目を見開く。

「深紅のコート・・・身の丈を越える太刀、鈍く光る手甲・・・そして鈴がくくりつけられた曲刀・・・こいつ、まさか“鈴の音”・・・!?」
「・・・」

この装備だ。やたら目立つし噂になるに決まってる。シリカにも一度聞かれたが、ただ見映えをよくしたいだけと誤魔化していた。

「や、やばいよロザリアさん。こいつ・・・こ、攻略組だ・・・」

その場にいた全員に緊張が走るのが分かる。

「こ、攻略組がこんなとこをウロウロしてるわけないじゃない!どうせ、名前を騙ってびびらせようってコスプレ野郎に決まってる。それに・・・もし本当に“鈴の音”だとしてもこの人数でかかればたった一人くらい余裕だわよ!!」

その言葉に賊の一人が叫ぶ。

「そ、そうだ!攻略組なら、すげえ金とかアイテムとか持ってんぜ!オイシイ獲物じゃねえかよ!!」

それを皮切りに全員が抜刀する。

「コウハさん・・・無理だよ、逃げようよ!!」

俺はそのまままっすぐ歩み続けるま。

「オラアアア!!」

「死ねやアアア!!」

半円形に取り囲んでくる賊の連続攻撃。

「いやあああ!!」

シリカの絶叫が聞こえるが・・・


ヒュン!

フォン!

・・・だが、誰の一撃も当たらない。全ての攻撃を避ける。

「は、はえぇ・・・」

「なんで当たらないんだよ・・・!」


「遅いな。手加減してるのか?」

俺は首を回して・・・笑う。

「仕方ねぇな。ほれ、全員一発当ててきな」


俺は両手を広げ、もう一度笑う。

「な、舐めんなぁぁぁぁ!!」

全員のソードスキルを炸裂し、再びシリカが悲鳴を上げるが・・・

「・・・残念だったな」

俺のHPは全く変わっていなかった。いや、少し削れたが・・・すぐに全回復する。


「アンタらの総攻撃の威力よりも、俺の戦闘時回復(バトルヒーリング)スキルの回復量の方が多いみたいだな」

戦闘時回復スキルは十秒ごとに一定のHPを回復するスキルで・・・習得する方法は簡単。・・・HPを危険域に落としまくればいい。


「・・・一回は一回・・・だよな」

俺は擬音を構え・・・ソードスキル無しで横一文字に薙ぎ払う。



ズバァァン!!

「ぎゃあああ!?」


全てのオレンジプレイヤーのHPが一撃で危険域に突入する。

「・・・悪い悪い。半分くらいに止めるつもりが・・・」

俺は手前の一人に擬音を突き付ける。・・・俺にとっては心地の良い鈴の音も、コイツらには死神の呼び声に聞こえるだろう。

「・・・危うく殺しちまうとこだったよ」


ちなみに既にオレンジのプレイヤーを攻撃してもこちらがオレンジになることはない。

「まあ・・・一人くらい殺しても、うっかりで済むよな」

俺は本気だ。これ以上抵抗するのなら・・・容赦はしない。

「ひ・・・ヒィィィィィ!?!?」


次々に悲鳴を上げて賊が逃げようとするが・・・

「・・・逃がすかよ」


跳躍し、賊の目の前に着地する。

「逃がすと思ったか?」

「あ・・・あぁぁ・・・」


その時、背後にいたロザリアが転移結晶を取り出したのが見えた。

「転移ーーー」

クナイを投げようとしたが・・・それよりも早く、ロザリアが持つ転移結晶を弾き飛ばした奴が現れた。

「逃げられたらどうするんだ?コウハ」

「いやあ。来ると思ってたよ、キリト」

「キリト・・・!?・・・く・・・《黒の剣士》まで・・・!」

キリトはロザリアの襟首を掴んで引き摺ってくる。

「は・・・離せよ!!どうする気だよ畜生!!」

俺はストレージから転移結晶よりずっと濃い青色の結晶を取り出す。

「これは依頼してきた人が全財産をはたいて買った回廊結晶だ」

回廊結晶とは予め設定した場所に転移できる物だ。・・・ただ、転移結晶の何倍も高い。

「これで牢屋(ジェイル)に飛べ。そうすりゃ軍の連中が面倒見てくれるさ」

ロザリアはいくらなんでも殺しはしないのだろうと思ったのか、笑みを浮かべる。

「もし、嫌だと言ったら?」

「「全員殺す」」

・・・こう言う時は兄弟の意思は合いやすいものだ。・・・ただ、キリトは溜め息を吐き、短剣を取り出す。


「と、言いたいとこだけどな・・・仕方ない、その場合はこれを使うさ」

「麻痺毒か」

「ああ。食らえば十分は動けないぞ。全員放り込むのに、そんだけあれば充分だ。自分の足で入るか、投げ込まれるか、どっちでも好きな方を選べ」

「斬り殺されるって選択肢もあるけど?」

「コウハ」

「はいはい・・・」


結晶を使用すると、目の前に青い光の渦が出現する。

「畜生・・・」

一人が諦めて入ると、他の面々は次々に渦に飛び込み・・・残るはロザリア一人になる。

「・・・やりたきゃ、やってみなよ。グリーンのアタシに傷をつけたら、今度はあんたがオレンジに・・・」

俺はそれを全部聞く前に襟首を掴み・・・喚くロザリアを無視して渦に放り込んだ。

「・・・」

そして辺りが沈黙し、俺はシリカから・・・目を逸らした。代わりにキリトが口を開く。

「ええと・・・シリカさん、かな?」

「あ・・・し、シリカで構いません。えっと・・・コウハさんのお兄さん・・・ですよね?」

「ああ、俺はキリトだーーーー」

キリトが説明しようとするが、俺はキリトを止める。

「・・・自分から話すよ」

「・・・いいのか?」

俺は頷き、口にする。

「・・・ごめん。俺達の目的はさっき言った通りで、結果的にシリカを利用したようなものだよね・・・言おうとは思ったけど、もう会わないと思ったから言えなかったんだ。・・・本当にごめん」

シリカは首を横に振る。・・・俺は再びシリカから目を逸らす。

「・・・とりあえず、街まで送るよ」

「あ、あの・・・」

シリカに呼ばれ、振り返ると・・・

「あ・・・足が、動かないんです」

「・・・はは」

思わず笑い、俺は手を差し出す。シリカは俺の手を掴み・・・少しだけ笑った。
「さあ、行こう」

帰り道、俺とシリカは殆ど無言だった。代わりにキリトがシリカと話し、キリトはシリカに慰められたことを笑った。・・・そして宿屋に戻ってきて・・・

「コウハさん・・・行っちゃうんですか・・・?」

俺はゆっくりと頷く。

「・・・かなり長い間前線から離れたからね・・・すぐに戻らないと」

「・・・そう、ですよね・・・」

シリカが俯く。

「・・・あ・・・あたし・・・」

・・・シリカが何を言いたいかは何となく分かった。・・・だけど、それを聞くわけにはいかない。

「シリカ、レベルの差なんてこの世界だけの話さ。・・・あのさ、シリカが教えてくれたチーズケーキ、美味しかったよ。・・・だから、今度は俺がお菓子をご馳走するよ、リアルで。だから・・・また会おうな?」

「はい。きっと・・・きっと」


更にシリカは少し確認するように言う。

「あの・・・コウハさんは初日に人助けをしていたって言ってましたよね・・・?」

「え?・・・うん」
「・・・それって、混乱した人達を宿屋に避難させたこと・・・ですか?」

「・・・!?なんでそれを・・・あっ」

そこまで言われて気付いた。シリカが知ってる理由なんて・・・


「あたし、あの時混乱してて・・・ずっと泣いてて・・・その時でした。あたしをあの人混みから・・・ある人が助け出してくれたんです。その人は言いました。『必ずこの世界から解放される。俺も頑張るから・・・君も死なないように、生き延びるんだ』・・・って」


「シリカ・・・君はあの時の・・・」

「あたし、ずっと助けてくれた人にお礼を言いたかった。あのままあそこにいたらどうなっていたか・・・想像したくもありません」

シリカは俺の目を見つめる。

「・・・ありがとうございました。あたしを・・・助けてくれて・・・」




・・・シリカは俺を慕ってくれている。ここまで来てそう思った。・・・こんな子がいてくれるなら・・・信じてくれる人がいるなら、まだ俺は頑張れる。

「さ、ピナを呼び戻そうか」

「はい!」

シリカは少々慌てながら花と羽根を取り出す。

「じゃあ、雫を羽根に振り掛けて」

「はい・・・」

雫を受けた羽根は輝きだし、やがてーーーーーー
































































・・・宿屋から出ると、キリトが待っていた。

「お疲れ様、亮」

「そっちもね、兄貴」

「・・・彼女、素直な子だったな」

「あんな子もいるんだよ。・・・このデスゲームには」

「・・・必ずクリアしないとな」

「・・・うん。・・・さ、帰ろう!亞莎も・・・サチも、待ってる」

「・・・ああ」


俺は何となくフレンドリストを見る。エギル・・・キリト・・・クライン・・・サキ・・・サチ・・・そして・・・シリカ。

「・・・」

段々と増えていくフレンドリストを見る度に、気が引き締められるのが分かる。・・・せめて、これ以上誰かが消えるのは見たくない・・・そんなこと・・・二度と・・・俺はその考えを振り払い、キリトを追い抜くように走り出す。

「競争スタート!負けたら晩飯奢りね!」

「な!?いきなりずるいぞ、亮!」

夕方で静まる街中に、兄弟の笑い声が響いた・・・ 
 

 
後書き

「シリカ編終了!」


「早ぁっ!?」


「いやまあ・・・色々とねぇ・・・」


「シリカでこれじゃ・・・アイツはどうなるんだ・・・」


「あはは・・・」


「とりあえず、次は俺が主役だ!お楽しみに!」


「出番なしかー」

 

 

圏内事件〜

 
前書き
明日からは期末テストだー・・・アハハーー・・・はぁ・・・ではどうぞ。 

 
咲~

「・・・いない」

俺は頭を抱える。・・・何故か?今日は迷宮区を攻略するとアスナに言われたのに・・・そのご本人がまったく集合場所に来ない。

「・・・リパル、アスナは?」

『一応、反応はあるッスから街にはいるかと・・・』

『・・・それでかれこれ一時間経ってるわね』

「・・・よし、捜そう。詠、念のため残ってくれるか?」

『・・・仕方ないわね』

周りに誰もいないのを確認してから、詠は具現化する。

「・・・っと。ほら、行ってきなさい。こっちに来たらメッセージ送るわ」

「ああ、頼む」

・・・実は俺はちょいとズルをしていて、リパルにマップデータ及びプレイヤーの位置データを担当してもらっている。・・・ただ、下手するとサーバーにイレギュラーと判断されてリパル自身が危ないが、そこら辺は既に相互理解済みなので問題なし。

「・・・まったく、何処にいるんだか・・・」

『・・・反応は転移門周辺にあるッス。そこから動いてないッスね・・・』



「もしかしたら、タチの悪いナンパに・・・いや、KoBの副団長をナンパするなんて度胸のある奴はいないか」

『あはは・・・もう少しで到着ッスね』

「ああ・・・?」

なんか人がざわついている気がする。それに釣られてそちらを見ると・・・

「・・・っ!?アスナ!?」

遠くてよく解らないが、見慣れた紅白の制服を来た女性・・・多分アスナが横たわっているのが見える。近くには黒いコートを来た誰か・・・俺は方天画戟を手に取り、走る。

「・・・そこのお前!」


「へ・・・!?」

方天画戟を突き付けられ、男は慌て・・・って。

「お前、キリト・・・!?」

「・・・サキ・・・だったか?」

キリトは俺を見て一歩下がる。

「アスナに何をした。事と場合によっては・・・!」

『咲さん、咲さん』


「まさかコウハの兄貴がこういった奴なんてな。人は見かけに・・・」

『咲さーん』

「(んだよ!さっきから!)」


『アスナさん、寝てるだけッス』

「・・・え?」

ここで初めてアスナに目を向け・・・


「・・・むにゃ・・・」


・・・熟睡してる副団長さんを見たーーーーーーーーー












































「・・・で、軽はずみに昼寝に誘ったらガチ寝したと」

「まあ、そういうことになるかな」


「~~~~っ!!」

顔を覆い、呆れる。・・・まあ、最近アスナは不眠気味だったから分からなくもないのだが・・・

「(・・・取りあえず、詠にメッセージを飛ばすか・・・)」

一応詠や亞莎も通常プレイヤーに近いメニューを使用出きる。とにかく、起こしてもよかったが・・・あえて寝かせる。これを期に少し休めばいいのだ。・・・そんなこんなで六時間後・・・

「・・・うにゅ・・・」


アスナが謎の言語を発し、目を開いて数回瞬きをして・・・あちらこちらを見渡して、顔を瞬時に様々な色を変え・・・

「な・・・アン・・・どう・・・」

おそらく“なんでアンタがどうして”辺りを言いたかったのだろう。次の瞬間にはアスナはキリトを睨み、細剣に手をかけるが・・・ゆっくりと息を吐き、手を引く。ちなみに俺は離れた位置にいたため、アスナの視界に入っていない。

「・・・ゴハン一回」

「は?」

「ゴハン、何でも幾らでも一回奢る。それでチャラ。どう」

それを聞いてキリトがニヤッ、と笑う。

「57層の主街区に、NPCレストランにしてはイケる店があるから、そこ行こうぜ」

「・・・いいわ。・・・今、少しメッセージを・・・」

「それを送る相手はこっちにいるよ」

アスナが俺を見て目を見開く。

「サキ・・・!?ちょ、ちょっと!起こしてくれても・・・!」

「人との約束すっぽかして爆睡してたのは誰でしょうかね?」

「う・・・ごめん」

「ま、いいけど。・・・俺も着いていくよ。・・・コイツと二人きりにさせるの何か危ないし」


「え・・・でも」

「本人がいるのに何だけど、俺はコイツをまだ信用していない。アスナを守るフリをして睡眠PKする気だったのかもしれないしな」


「・・・俺は構わないぜ。言いたい事は理解できるからな」



睡眠PK・・・要するに“圏内”に置けるルールを破る方法。まず第一にプレイヤーが熟睡している場合。現実と違い、一定の刺激を与えなければ起きることはない(もしくは自然に起きるか)そこでその熟睡してる相手にデュエル・・・これも種類があるが、その内の一つ《完全決着モード》を申し込み、相手の指を使ってOKボタンを押させ・・・後の説明は不要だろう。更に圏外まで運び出す方法も存在する。基本プレイヤーはシステムコードによって他者が強引に動かすことは出来ない。しかし担架(ストレッチャー)系のアイテムに乗せてしまえば後は・・・・・・これらは全て犯罪者・・・殺人者(レッド)プレイヤーによって起こされた事実であり、今では殆どのプレイヤーが鍵をロック出来るプレイヤーホームや宿屋で寝るのが当たり前だ。・・・ただ亮はピッキングスキルが存在するかもしれないと思い・・・サチという少女の看護兼護衛で亞莎を自宅に残しているらしい。・・・そしてアスナの睡魔を誘発させたこの男は寝転ぶ前に索敵スキルを使い、接近警報をセットしてうたた寝程度に止めていたらしい。・・・何はともあれ、俺達は第57層主街区《マーテン》に到着する。・・・ここ最近、プレイヤーもこのゲーム本来の楽しみ方を知ったのか、結構プレイヤー達は戦闘ではなく生活を楽しむことが多くなった。それが街の人並みに反映され・・・街中は人でごった返している。アスナと共にキリトが歩いてるのを見て驚くプレイヤーが何人かいた。・・・アスナはファンクラブが存在すると噂まである名花・・・その隣にラフレシアが並んでいたらみんな驚くだろう。

『キリトさんへの態度悪くないッスか?』

うるせぇ。

「ここ?」

人に注目されるのが嫌だったのか、アスナがほっとしながらキリトに聞く。

「そ。お勧めは肉より魚」

スイングドアを開けて俺達は店に入る。取りあえず席について注文する。

「・・・」

アスナがゆっくりと囁く。

「ま・・・なんていうか、今日は・・・ありがと」

「へっ!?」

「ありがとう、って言ったの。ガードしてくれて」

「あ・・・いや、まあ、その、ど、どういたしまして」

俺は会話に口を挟まずに届いたフルートグラスに口を付ける。


「なんだか・・・あんなにたっぷり寝たの、ここに来て初めてかもしれない・・・」

「そ・・・そりゃいくらなんでも大袈裟じゃないのか」

「・・・嘘はついてないよ。・・・アスナは長くても三時間位しか寝ないからな」

「それは目覚まし(アラーム)で起きてるんじゃなくて?」

「・・・じゃなくて」

「不眠症って程じゃないけど・・・怖い夢見て、飛び起きたりしちゃうの」

「・・・そっか」

一瞬キリトが視線を落としてから、口を開く。

「えー・・・あーっと・・・なんだ、その、また外で昼寝したくなったら言えよ」

「流石に今度は俺が見てるけどな」

「そうね。また同じくらい最高の天候設定の日がきたら、お願いするわ」

アスナが微笑みながら言うとキリトが絶句する。・・・ちなみに、この世界にも気候が存在する。しかも馬鹿正直なコンピュータなので、冬は寒いし夏は暑い。大体がバランスを取られていてほぼ全ての天候が好条件になる日は少ない。・・・そこもまたアスナが爆睡した理由だろう。その時にNPCがサラダを持ってきてくれたので、俺達はそれを食べる。

「サキ、食べ方が汚いわよ」

「ええー?別に汚れる訳じゃないし、いいだろ」

「考えてみれば、栄養とか関係ないのに、なんで生野菜なんか食べてるんだろうな」

「えー、美味しいじゃない」

レタス(っぽいもの)を咀嚼してからアスナが答える。

「まずいとは言わんけどさぁ・・・せめて、マヨネーズくらいあればなあー」

さすがにそれは同意だ。

「他にはソースとか・・・」

「ケチャップ、それに・・・」

「「「醤油!」」」

日本人なら誰でも思い付く調味料。思わず答えが揃って俺達は吹き出した・・・瞬間だった。

「・・・きゃああああ!!」

「・・・悲鳴!?」

二人が立ち上がる時には・・・俺は駆け出していた。

「サキ!?」

悲鳴は外から聞こえた。更にもう一度聞こえた悲鳴に向かって走り出すが・・・すぐに二人に追い付かれた。

「く・・・」

「お前、筋力値に振ってるのか?」

「・・・そんなとこかな!」

「わたし達は先に行きましょう!」


若干遅れる形になり・・・円形広場に到着した時、信じられない光景があった。

「な・・・っ!?」


広場には教会らしい建物があり、そこの二階の飾り窓から一本のロープが垂れ、その先端に、男がぶら下がっていた。分厚いフルプレート・アーマーに大型のヘルメットを被っている。この世界に窒息死はないので・・・プレイヤー達が悲鳴を上げている理由は別にあった。


「あれは・・・」

男の胸を貫いている・・・黒い短槍(ショートスピア)・・・その貫かれている部分からは赤いエフェクト光が吹き出している。アレはダメージを受けている証だ・・・となると、あの男は圏内にいながらダメージを受けていることになる。

「早く抜け!!」

キリトの叫ぶ声が聞こえる。俺は一気に踏み込み、跳ぶ。

「キリト、肩貸せ!」

「え、うおわっ!?」

キリトの肩を踏み台に更に跳ぶ。・・・微妙に距離が届かないので、教会の壁に足を付け・・・

「・・・ふっ!」

力強く蹴り、男がぶら下がっているロープを掴む。

「・・・今すぐに切り・・・」

ロープを掴むと同時にマントの懐を漁る。男のHPを見てる余裕はない。亮から貰ったクナイを・・・

ドン!

「・・・なっ・・・!?」

いきなり男が暴れだし、俺は蹴り飛ばされ・・・地面に落下する。

「ぐっ・・・!!」

痛みはないが、衝撃が体を駆け抜ける。

「サキ!」

「俺はいいから!」

アスナは頷き、走りながらキリトに言う。

「きみは下で受け止めて!」

「わかった!」

改めて俺は男を見る。どうやら混乱からか自力で槍を抜く行動が上手く行かずに槍は全然動いていない。・・・ちなみに、あれは貫通系武器にだけ存在する継続ダメージを与える槍らしい。

「ちっ・・・もう一回・・・」


俺が上を見上げたその時・・・男の視線が一ヶ所に留まった。あの位置はHPゲージがある筈・・・


ガシャアアン!!

「・・・あ」

一瞬男が硬直し・・・次の瞬間、破砕音を経てて・・・男は散った。


「・・・!」

そして自らが支えていた物を失ったロープが壁面にぶつかり、その後すぐに凶器である黒い短槍が音を立てて石畳に突き刺さる。それと同時に俺とキリトはすぐに辺りを見渡す。

「どこだ・・・」

俺達が探しているものは“デュエル勝利者宣言メッセージ”街中でプレイヤーが死ぬには完全決着モードのデュエルを承諾し、敗北すること以外あり得ない。どの形式のデュエルであれ、名前や試合時間が表示されるウィンドウが現れる筈だ。

「みんな!デュエルのウィナー表示を探してくれ!!」

キリトの意図をプレイヤー達は気づいたのか、すぐに辺りを見渡す。・・・だが、誰も見つけられない。その時、アスナが二階から身を乗り出した。

「アスナ!!ウィナー表示あったか!?」

「無いわ!システム窓もないし、中には誰もいない!!」

「中にある家具とかの中は!?」

俺は叫ぶが、アスナは首を横に振るだけだ。

「・・・だめだ、三十秒たった・・・」

プレイヤーの中からその声が聞こえた。・・・三十秒、それが本来ウィンドウが表示される時間だ。・・・取りあえず俺達は凶器を回収してアスナの元に行く。

「教会の中には、他には誰もいない」

どうやらキリトは索敵スキルを使用していたらしい。・・・俺も持ってはいるが・・・とある事情のせいで俺はスキルの上昇が上手く行かない。


隠蔽(ハイディング)アビリティつきのマントで隠れている可能性は?」

アスナが聞き返すが、キリトは首を振る。

「俺の索敵スキルを無効化するほどのアイテムは、最前線でもドロップしてないよ」

「しかも教会の入り口には目撃者全員に立ってもらってる。透明化も誰かに接触すれば解除される。・・・裏口もないし、逃げ道はないはずだ」

一応リパルにも索敵してもらったが効果はなかった。

「ん・・・解った。これを見て」

アスナが指差したものは“座標固定オブジェクト”・・・要するに動かせない物であるテーブルを指差す。その中の足にロープが結わえられていた。・・・これ自体は至って簡単でロープをポップアップしてからウィンドウをちょいと操作すれば簡単にロープを固定できる。後は荷重か刃物による攻撃でしかほどける事はない。

「うーん・・・どういうことだ、こりゃ?」

キリトが首を捻る。

「ま、普通に考えりゃ・・・槍を刺してからロープを首にかけて窓から落とした・・・ってことか」

「・・・なんでそんなこと・・・見せしめのつもり?」

「それ以前に謎なのはウィナー表示が無かったことだっつーの。デュエルの表示はすぐ近くになかった・・・くそっ、判断ミスった。槍を抜こうとすれば・・・」

「なんで彼処でロープ切ろうと思ったんだ?」

「あの位置じゃ体制悪いし、抜けなかったら不味いからな・・・下に降ろしてお前と引き抜くつもりだったんだよ。最悪抜けなくても回復アイテムを使おうとしたけど・・・」

「ううん、サキは悪くないわ。とにかく、このまま放置は出来ないわ。・・・もしデュエルではなく、“圏内PK技”みたいなものを誰かが発見したのだとすれば・・・」

「早めに仕組みを突き詰めて対抗手段を公表しないと被害者が増える・・・」

「・・・俺とあんた達の間じゃ珍しいけど、今回ばかりは無条件で同意する」

キリトはよく俺やアスナと攻略方針で揉めたりするので・・・確かに意見が一致するのは珍しい。アスナが手を出し、俺に視線を送る。

「・・・わかったよ」

俺はアスナの手に自分の手を重ねる。

「なら、解決までちゃんと協力してもらうわよ。言っとくけど、昼寝の時間はありませんから」

「してたのはそっちじゃないか・・・」

キリトはブツブツ言いながら手を重ねる。・・・さーて、探偵家業を始めるとしますか・・・

 
 

 
後書き

「やっと俺視点か・・・」


「出番少ないしな」


「うるせぇよ。そういや、亮はこのタイミングで何してるんだ?」


「え?ああ・・・その日はサチと亞莎といたかな・・・たまにサチに俺が体験した出来事を話したりしてあげるんだよ。・・・そうやって話しかけていれば、いつかきっと・・・」


「・・・そうか」


「お前こそ詠はどうしたんだよ?」


「この時期・・・つか基本俺は詠の存在を秘密にしてるから、今は俺のホームにいると思う。一応遅くなるから先に帰っててくれってメッセージ送ったし」


「ふーん。・・・それじゃ、ネクストコ○ンズヒント!」


「“死亡時刻”!」


「次回は迷探偵の出番だぜ!」


「漢字が違うぞ漢字が!」


「次回もお楽しみに!」


「・・・あれ?この流れって何処かで見たような・・・」

 

 

探索開始〜

 
前書き
テスト終わって気が緩んだのか、風邪を惹いてました〜・・・ではどうぞ。 

 
俺達はロープを回収してから外に出る。

「すまない、さっきの一件を最初から見てた人、いたら話を聞かせてほしい!」

キリトが大きな声で呼び掛けると、しばらくして一人の女性が人混みから姿を現す。装備からしてここには観光目的で来たプレイヤーだろう。真っ黒な俺達が怖いのか、少々怯えている女性にアスナが話しかける。

「ごめんね、怖い思いをしたばっかりなのに。あなた、お名前は?」

「あ・・・あの、私、ヨルコって言います」

この声の感じ・・・

「もしかして、さっきの悲鳴もアンタが?」

「は・・・はい」

軽くウェーブしている濃紺の髪・・・言い忘れたが、この世界では髪型と髪色なら自由に変えられる。俺も少し弄っているのだが・・・まあいいか。とにかくヨルコというプレイヤーは頷く。

「私・・・私、さっき・・・殺された人と、友達だったんです。今日は、一緒にご飯食べにきて、でもこの広場ではぐれちゃって・・・それで・・・そしたら・・・」

取りあえず教会の中に移動し、ヨルコさんを座らせる。

「・・・すみません・・・」

「ううん、いいの。いつまでも待つから、落ち着いたらゆっくり話して、ね?」

「はい・・・も・・・もう大丈夫、ですから」

・・・割りと気丈なのか、ヨルコさんは顔を上げて話し出す。

「あの人・・・名前はカインズっていいます。昔、同じギルドにいたことがあって・・・今でも、たまにパーティー組んだり、食事したりしてたんですけど・・・それで今日も、この街まで晩御飯食べにきて・・・」

一度目を閉じ、震えの残る声で話を続ける。

「・・・でも、あんまり人が多くて、広場で見失っちゃって・・・周りを見渡してたら、いきなり、この教会の窓から、人・・・カインズが落ちてきて、宙吊りに・・・しかも胸に、槍が・・・」

「その時、誰かを見なかった」

アスナの問いかけに一度ヨルコさんは黙り込む・・・そしてゆっくりと頷いた。

「(・・・?)」

「はい・・・一瞬、なんですが、カインズの後ろに誰か立ってたような気が・・・しました」

「その人影に見覚えはあった?」

「・・・」

ヨルコさんは何かを考えるかのように唇を引き結ぶ。・・・さて、やりますか・・・


「案外、その人影ってのはアンタかもな」

「え・・・!?」

ヨルコさんの目が見開かれる。

「同じ元ギルドメンバーだったら腕試しだのなんだので一番細工しやすいし・・・何より第一発見者ってなあ・・・」

「そ、そんな・・・」

「おい、サキ!」

キリトが詰め寄ってくるが・・・続ける。

「そうだなあ・・・“元”ギルメンってことは、身内の揉め事でもあったか?その際の何かの出来事で・・・」

「いい加減にしろ!」

「サキ、いくらなんでもやり過ぎよ」

二人の怒りが頂点に達したのを感じて、俺は渋々口を閉じる。・・・結局情報は得られず、ヨルコさんを宿屋に送り届けて、プレイヤー達にも事のあらましを説明して・・・取りあえず次は・・・

「まあ、現場検証が終わったら次は凶器だよな」

「・・・そうだな」

キリトは俺を睨みながらアスナに振り向く。

「・・・となると、鑑定スキルが要るな。おまえ、上げて・・・るわけないよな」

「当然、きみもね。・・・ていうか・・・」

アスナがじろっとキリトを見る。

「その“おまえ”っての止めてくれない」

「へ?・・・あ、ああ。じゃあ、えーと・・・“貴女”?“副団長”?・・・“閃光様”」

「普通に“アスナ”でいいわよ。さっきそう呼んでたでしょ」



『咲さん・・・』

「(どうした?)」

『何でさっきあんなやり方をしたんスか?カマ掛けにしては・・・』

「(やっぱりお前は分かってたか)」

『当然ッス。咲さんはそんな軽はずみに人を刺激したりしないッス』

「(そうでもないけどな。・・・だってよ、怪しくないか?わざわざ特徴も特にないプレイヤーを大胆に殺害し、しかも第一発見者が都合よく知り合い・・・犯人ならもうちょい同様すると思ったんだけど・・・)」


『目の前で知り合いが死んだらショックッスよ・・・』

「(そうなんだが・・・それにしては落ち着いてたっていうか・・・普通知り合いが宙吊りになったら、しばらくは宙吊りになってる人を凝視しないか?)」

『・・・でも、何処から宙吊りになったか見るかもしれないッスよ?』

「(そうなんだが・・・こっそりヨルコさんの居た位置を聞いてそこに立ったんだけどね。あの位置じゃ少なくとも視界の切り替えに数秒かかる。犯人だって見られたら不味いんだし、普通は姿を隠す。つまり犯人を見るには・・・)」


『最初から見ているか、それとも・・・』

「(犯人、ないしは共犯者ってことだ・・・そもそも、最大の謎が・・・)」

『圏内PK・・・ッスよね』

「(可能なのか?)」

『システム上は不可能の筈ッス』

「(だよなぁ)」

「サキー?いくわよー」

「え?あ、うん!・・・あ」

変に高い声を出してしまい・・・

「・・・ふ」

「キリト?今笑ったろ」

「・・・気のせいだろ?」


俺はキリトを横目で見ながらアスナに近づく。

「何処に行くのさ?」

「取りあえず武器とロープを調べないと」

「じゃあリズ・・・は今は忙しいか」

「うん。だから彼の知り合いのとこに行くの」

「知り合い・・・エギルか」

「そうよ」


アスナは一度息を吐き、腰に手を当てながら言う。

「それと、さっきみたいに自分から汚れ役を引き受けるのも止めて」

「・・・あれ、バレてた?」

「わたしはサキの事なら何でも分かるわよ。・・・何かわたしに隠し事してるのも・・・」

「アスナ・・・」

アスナには“俺”のことは言ってない。亮はキリトに少しだけ伝えたらしいが・・・それでも、今までと違い、魔法も何もない“現実”がある以上、別世界とかの話は控えている。

「二人とも?どうしたんだ?」


「ううん、何でもないわ。・・・サキ」

「・・・はーい」


そんなこんなで俺達は第50層主街区のアルゲードに転移する。・・・ここは相変わらず結構騒がしい。

「あれ、確かりょ・・・コウハってここにいるんだよな?この件を知らせなくていいのか?」

「・・・いや、知らせる訳にはいかない。もし圏内PKが可能だなんて情報がコウハに入ったら、アイツは・・・!」

詠から話を聞いている為、事の流れは知っている。もし亮がこの件を知ったら・・・アイツはどうなるのだろうか。

「・・・そう、だな。じゃ、気まぐれでコウハが散歩に来ない内に済ませようぜ」

「・・・ああ」


キリトはアスナの方を見る。

「おい、急ごうぜ・・・って・・・な買い食いなんかしてんだよ!」

アスナは屋台から串焼き肉を買い、大きく口を開き食べていた。

「・・・先ほど俺に食い方云々言ってたくせに・・・」

「それは時と場合によるのよ。うん、これ、結構イケるよ」

そう言ってアスナは左手に持った二本の串焼きを差し出してくる。

「へ?くれるの?」

「だって、今日は最初からそういう話だったでしょ」

「あ・・・ああ・・・」

「ありがたく戴きまーす」

肉を食べながら歩き、綺麗に食い終えたところで目的地に到着する。

「うーっす。来たぞー」

「・・・客じゃない奴に“いらっしゃいませ”は言わん」

店主・・・エギルは溜め息を吐きながら言う・・・その時だった。

「あれ・・・?咲さん?」

「うん・・・?・・・亞莎?」


背後に見知った顔が立っていたーーーーー


























































「・・・なるほど、圏内PK・・・ですか」



取りあえず亞莎には事情を説明する。

「軍師から見てどう思う?」

「あり得ません」

「・・・」

即答だった。

「・・・と、言いたいんですけど、正直圏内が本当に安全かどうかはこのゲームのプログラマーしか知らない筈です。例えば特定の場所、特定の武器等の条件が揃った場合にのみコードが解除される・・・」

「まさか・・・」

「また、断定できるのはこの一連の出来事は予め計画してあったと言うことです」

「それは俺も同感だ。突発的なやり口じゃないしな・・・」

「ええ。そして咲さんの考え通り、元ギルドメンバーが怪しいですね。ヨルコさんは・・・」

「・・・」

「・・・主犯の確率は低いでしょう。わざわざ殺害現場に残る必要がありませんし・・・多分、犯人側だとしても彼女自体は殺人に関与していないでしょう」

「騒ぎを広める役割・・・」

「ただ、それはヨルコさんを犯人側と仮定しての話です。彼女は本当に無実で、目の前で仲間を・・・」


「・・・」

亞莎の目に悲しみが宿るのが分かった。

「咲さん・・・私、許せないんです。確かに私は何人もの命を奪ってきました・・・けどこんな・・・こんな残酷なことをする人が咲さんや・・・亮さんと同じ天の御遣いだなんて・・・!」

「亞莎・・・」

「あ・・・す、すみません。・・・やっぱり亮さんには内緒にした方が・・・」

「ああ、頼む。何とか対処法か犯人を見つけないと、亮のバカはまた自分を追い詰めるからな・・・」

「私もアルゲード付近で情報を集めます。・・・あの、無理はしないでください」

「俺もここで死ぬわけにはいかないしな。まだ恋姫・・・いや、この世界にだってやり残したことはあるからな」


「・・・分かりました。それでは私は行きますね。さようなら、咲さん、リパルさん」

「ああ」

『ッス!』



亞莎と別れ、俺は店に戻る。

「(仮定できるのは二通り。ヨルコさんとカインズさんが入っていたギルドに関係した殺人。もしくは圏内PKを編み出した殺人者プレイヤーによる大々的な見せしめ)」


『大きく分けてもその二つッスね・・・』

「(でも、やっぱり後者は低いんじゃないか?・・・言いたくはないが、殺人者プレイヤーは“殺す”ことを楽しみにしている。・・・せっかく編み出した方法に対策が立てられちゃ面白くないだろう)」


『確かに・・・でも、怯える人を見たかったのかもしれないッスよ?』

「(それもそうだが・・・怯えさせたいなら胆が座った攻略組が多い前線近くじゃなくて、中層辺りの方が効果あるんじゃないか?)」

『そもそも快楽で人を殺す人に理論が当てはまるッスかね・・・?』

「(それ言われたら何にも言えなくなるだろ・・・)」

「サキ、話は終わった?」

見るとアスナとキリトが店から出てきていた。

「ああ、うん。それで、結果は?」

「ロープ自体は普通に売られている物だったわ」

「それは予想通り・・・で、武器は?」

俺が聞くとキリトがぶっきらぼうに言う。

「・・・PCメイドだ。制作者は・・・“グリムロック”」


「PCメイド・・・!」



武器や防具には大まかに二つ種類がある。まずは普通に倒したモンスターからゲットできるのをドロップ品。プレイヤーが作成したのがPCメイド品と言う訳だ。一応俺の方天画戟や亮の重武装も俺がドロップした武器だ。・・・とにかく、一つ気になった事がある。

「わざわざ貫通武器を作る鍛冶屋・・・?」


この手の武器はモンスターには効きにくい。プレイヤーなら、カインズさんのように恐怖で力が入らず、中々抜けずに貫通ダメージを受け続け・・・となるが、モンスターにはその手の感情を持たないため、刺したらすぐに抜かれて遥か彼方にぽーいと投げられておしまいだ。また、ここまでの武器を作るなら少なくとも中層クラスの人間・・・そこまでの人間ならこの槍の使用目的くらい判断できそうだが・・・

「・・・あんまり対面したくない人だな」

「・・・それは俺も同感だな」

「ちなみに、この武器の名前は?」

「“ギルティソーン”・・・意味は」

「罪のイバラ・・・か」

基本的に武器名はゲームシステムがランダムに選択する。多分数多くの単語を並べているだけだが・・・この状況では、この名前に何かを感じてしまう。・・・俺達ははじまりの街に移動する。

「着いたか・・・」

理由は簡単。生命の碑を見てグリムロックが生きているかどうかを確認するためだ。


「・・・なんかやな空気だな」

はじまりの街は、何となく荒涼とした雰囲気に覆われていた。

「随分陰湿だな」

軍が市民の夜間外出を禁じたと言うが・・・マジなのかもしれない。しかもさっきから軍の連中が俺らを見つける度に近づいてくるが、その度にアスナに一睨みされて退散する。

「あくまで噂だけど・・・課税もやるって話もあるんだよなぁ」

「へ!?税金!?・・・嘘だろ、どうやって徴収するんだよ」

「さあな。ドラマみたいに借金取りが取り立てに来るんじゃないか?」


そんな話をしていたが、黒鉄宮に足を踏み入れると自然と口をつぐんだ。夜中に来たお陰か、他のプレイヤーはいない。・・・一度、石碑を見て泣き崩れたプレイヤー達を見たが・・・正直、気分のよいモノではなかった。確かに恋姫の世界でもそんな人々を見たことがあったが・・・

「じゃあ、俺は一応カインズさんを見るから、二人はグリムロックさんを頼む」

アルファベット順に並ぶ名前からカインズさんの名前を探す。聞いた綴りは“Kains”

「K・・・K・・・あった」

『・・・やっぱり亡くなられてるッスね・・・』

Kainsの文字にしっかり横線が引かれていた。

「サキ、どう?」

俺は首を横に振る。

「・・・グリムロックさんは?」

「生きてるわ。それで・・・」

「ああ、死亡時刻は(サクラ)の月二十二日、十八時二十七分・・・俺達が食事してたのと一致してるよ」

「そう・・・」


俺達は取りあえず外に出て、転移門まで移動する。

「・・・グリムロック氏を探すのは、明日にしましょう」

「そうだな・・・」

俺は息を吐く。

「じゃ、今日は解散か。明日は?」

「明日は、朝九時に57層転移門前で集合しましょう。寝坊しないでちゃんと来るのよ」

まるで姉のようにアスナはキリトに言う。・・・姉のように・・・か。

「解ったよ。お前こそちゃんと寝とけよ。何なら、また隣で見てて・・・」

「いりません!」

「・・・ハラスメントコードで捕まっちまえ」

俺とアスナは位置を指定してから転移門に飛び込む。

「サキはどうするの?家に来る?」

「いや、今日はまっすぐ家に帰るよ」

「そう・・・じゃあ、気をつけて帰ってね」

「アスナもね。何なら送っていくけど・・・」

「そうしたらサキが遅くなるし・・・わたしは大丈夫よ」

「そっか・・・うん、わかった。また明日」

「ええ、お休み」



















































































「ただいまー・・・」

「遅いわよ」

「う・・・」

家に帰ると詠が椅子に座って待っていた。

「もしかして・・・怒ってます?」

「いきなり飯食いにいくから先帰ってろ・・・なんてメッセージでボクが納得すると思ったの?」

「あはは・・・」

「それと、その後にも事件が起きた・・・って・・・とにかく説明してもらうわよ」

「・・・リパル、頼む」

『うええ!?ま、まあいいッスけど・・・』


話をしてしばらく・・・

「・・・明日はボクも行くわ」

「・・・まあ、いいけど」

「ちょっと気になるのよ。ボクも軍師だし、たまには軍師らしいことしないと」

『最近戦闘タイプッスもんね・・・』

「・・・でも、強くなれたのは嬉しい気がするわ」

「え?」

「恋の気持ちが分かる気がするのよ。・・・咲と肩を並べられることの嬉しさが・・・」

「詠・・・」

「ボクは軍師だから・・・ずっと策を考えながら、咲や恋・・・みんなの無事を待つことしかできないのが悔しかった・・・」

「でも、詠やねねの策で被害が減ることだって・・・」

「鈍いわね。・・・ボクは・・・」


詠はそこまで言って顔を逸らす。

「・・・言わせんじゃないわよ、バカ」

「えぇー・・・?」

『相変わらず難儀ッスね』

「だからこそ一緒にいられるのよ」

『なるほどッス』

「・・・と、とにかく今日は寝よう。明日は寝坊できないからな」

「はいはい」

『了解ーッス』

さてと、この事件はどう転ぶやら・・・ 
 

 
後書き

「圏内PKか・・・」


「もしそうなら、サチが危ない・・・」


「亞莎が見てるんだろ?」


「そうだけど、状態異常系の道具を使われたら・・・」


「・・・ま、安心しろって。俺達が必ず解決すっからな」


「・・・参加できないのが歯痒いな・・・」


「朗報を待ってろよ。・・・それじゃ、また次回!」 

 

追求〜

 
前書き
遅れに遅れて申し訳ありません!!事情はありますが、それは置いといて・・・冬休みに入ったので、これからは早く更新出来ると思います。もう一度申し訳ありませんでした!それと早いですがメリークリスマス!ではどうぞ。 

 
「DDAが?」

翌日、57層にあるカフェテラスにて、先日あの後にキリトが槍を巻き上げられたことを知らされた。

『DDA。ディヴァイン・ドラゴンズ・アライアンス・・・聖竜連合のことね』

「(正解。・・・あーやだ。俺ってあのギルドに嫌われてんだよねぇ)」


『クリスマスの時ッスね』


そう。クリスマスの一件の際、デュエルで片っ端から聖竜連合をボコしたのを知られ、あちらさんのブラックリストに載せられているのだ。ちなみに凶器をキリトから巻き上げたのはシュミットと呼ばれるプレイヤーだそうだ。

「あー、いたわねそんな人。でっかいランス使いでしょ」

「そそ。高校の馬上槍部主将って感じの」

「そんな部活日本にないだろ」

キリトのくだらない洒落を一蹴する。

「・・・実はそいつが犯人、てセンはないわよね」

「断定はできないけど、まずないよ。わざわざ凶器を回収する必要が分からない。犯人なら最初から凶器を残さないだろうし・・・」

「俺はあの槍は、犯人のメッセージなんじゃないかと思う」

『・・・確かに』

キリトの言葉に対して詠が呟く。ちなみに指輪と同化?している詠の声は俺や亮といったメンバーにしか聞こえない謎仕様だ。亞莎も同様だが・・・何故だろう。

「しっかし、これは過去に何かあったと考える方がいいんじゃないか?」

「そうね。カインズ氏、グリムロック氏、シュミットの間には何かがあった」

「つまり、殺人動機は快楽とかではなく、復讐、もしくは制裁ってことだよな。犯人はギルティソーンという名前を持った槍を用いての公開処刑を決行した。・・・カインズ氏が過去に何か罪を犯して、それに対する罰として殺したとアピールしているのか」

「じゃ、シュミットはどちらかと言えば狙われる側ってことか。カインズさんと何かしらの関係があり、“何か”をした。・・・カインズさんが殺されたことでシュミットは焦りだした・・・」

「その何かが判れば、自動的に復讐者も判る気がするな。・・・ただこれが全部、犯人の演出に過ぎない可能性もある。先入観は持たないようにしないとな」

「そうね。特に、ヨルコさんに話を聞くときはね」



『まあ、今の情報からなら・・・』

『そッスね。となると・・・』

頭の中に響く推理の嵐に頭痛を覚えながらも俺はふとアスナを見た。

「(・・・むー)」

朝に会ってから気になってたのだが、アスナの服装が何時もの紅白服ではなかった。ピンクとグレーの細いストライプ柄のシャツに黒レザーのベストを重ね、ミニスカートもレースのフリルがついた黒。足にはグレーのタイツに靴はピンクのエナメル、頭に同色のベレー・・・うん。かなり本気でお洒落に力を入れてる。つかこれ、かなり値が張ると思うのだが・・・気付けばキリトもアスナをぼんやりしながら見ていた。

「・・・何見てるの」

「えっ・・・あ、いや・・・」

そこでキリトは素直に感想を告げればいいのに・・・

「えーと・・・そのどろっとした奴、旨い?」

アスナは自身が食べていた謎のポタージュを見て、もう一度キリトを見て、微妙な表情を向けたのち、溜め息を吐いた。・・・それと同時に、この服装はキリトの為に着てきたのだと言う知りたくない事実まで知ってしまった。俺は無言でキリトの足を踏みつけた。

「な、何すんだよ」

「・・・うっせーよバーカ」

アスナは咳払いをして、表情を戻す。

「わたし、昨夜ちょっと考えたんだけどね。あの黒い槍が発生させた貫通継続ダメージだけど・・・」

「うん?」

「例えば、圏外で貫通属性武器を刺されるじゃない?そのまま圏内に移動したら、継続ダメージってどうなるのか知ってる」

俺とキリトは首を傾げる。

「試したことはないけど。毒や火傷とかの継続ダメージは圏内に入れば消えるし・・・貫通ダメージも同じじゃない?」

「でも、そしたら刺さってる武器はどうなるの?自動で抜けるの?」

「・・・うわ」



「それもなんだか気持ち悪いな。・・・よし、まだちょっと時間あるし、実験しようぜ」

その言葉にアスナは目を丸くする。

「じ、実験!?」

「百聞一見」

「論より証拠って訳か」

・・・という訳で俺達はフィールドに向かう。門を出た途端、目の前に“OUTER FIELD”の文字が表示された。・・・つまり、ここからはダメージが通るという事だ。・・・俺は降りだしていた雨を鬱陶しく思いながらキリトに聞く。

「実験って何をするんだ?」

「こうするんだよ」

キリトはそういってベルトからスローイングピックを取り出す。・・・そうそう、SAOに置ける武器には属性のようなモノがあって、斬撃(スラッシュ)刺突(スラスト)打撃(ブラント)貫通(ピアーズ)に分かれている。ちなみに俺の方天画戟は万能で、当て所によってその判定が変化する。・・・ちなみに亮の迷切は主に刺突、もしくは斬撃。擬音は斬撃。葬解には打撃の判定がある。


「・・・」

キリトは装備の耐久値を減らしたくないのか、身に付けていたグローブを外し、手の甲に狙いを定め・・・

「ちょ・・・ちょっと待って」

・・・アスナがそれを止めた。見ると高価な治療クリスタルを取り出していた。

「大袈裟だなぁ。こんなピックが手に刺さったぐらいじゃ、総HPの一、二パーセントくらいしか減らないよ」

「バカ!圏外じゃ何が起きるか分からないのよ!さっさとパーティー組んでHPバー見せて!!」

「別に普通に視認できるHPでも・・・」

「パーティー組んだ方が色々分かりやすいでしょ。ほら、サキも」

「・・・へーい」

俺とアスナはキリトにパーティー要請を飛ばし、左上のHPバーにアスナとキリトのHPバーが追加される。それを眺めていたら・・・

「・・・なに?」

不意にアスナが声を出した。どうやらキリトがアスナをまた見ていたらしい。

「いや・・・なんつうか、こんなに心配してくれるとは思わなくて・・・」

言った直後、アスナは顔を赤く染めながら雷を落とした。

「ち・・・違うわよ!いえ、違わないけど・・・もう、さっさとしてよ!!」

「じゃ、じゃあ、いきます」


キリトはそう言って、大きく息を吸ってから・・・ピックを手に向かって放った。

「・・・っ」

キリトが僅かに顔をしかめる。俺はすぐに左上を見上げる。


「(ざっと三パーセント位か・・・問題は)」

数秒後、キリトの手から赤いエフェクト光が血のように吹き出す。それと同時にHPが少し削れる。・・・これがカインズさんの命を奪った貫通ダメージ・・・

「・・・早く圏内に入ってよ!」

アスナに言われ、再び門を通る。表示された文字を横目に、キリトのHPバーを見つめるが・・・

「止まった、な」

そしてキリトの手を見ると、変わらずに赤いエフェクト光を撒き散らすピックの姿があった。

「武器は刺さったまま、でも継続ダメージは停止、か」

『じゃあどうしてカインズは死んだのよ。まさか転移結晶使ったとか?一撃でHPを・・・いえ、無理ね。話の通りにアーマーを着込んでいたなら、そんなにダメージは通らない』

『亞莎さんから聞いた特定下に置けるコード解除ッスかねぇ』

「(うーん・・・そもそも、あれってカインズさんだったのか?)」

『はあ?ちょっと、昨日確かめたんじゃないの?』

「(・・・まあな。スペル違いがないかとKの欄は全て調べたし・・・でもなぁ、あんなに鎧着込んでたら外見でカインズさんって言われてもなぁ)」

『じゃあ咲さんはヨルコさんが嘘をついてるって言うッスか?』

「(いや・・・ただ、何か隠してるんじゃないかとは思う・・・)」

『そうよね。第一、復讐が目的なら身の回りの人間も殺さない?この場合ヨルコさんも・・・って意味だけど』

『昨日言ったじゃないッスか。ヨルコさんには知り合いだからこそ、事件を広める役割を・・・』


『だから、それはーーーーー』

『でも、やっぱりーーーー』

「(お前ら・・・推理すんのは勝手だが、ボリューム下げろ。頭に声が響いて気持ち悪い・・・)」

ふと、その言葉で愛依を思い出した。

「(・・・大丈夫かな)」

『愛依さんなら平気ッスよ』

「(人の思考を勝手に読むなっつーの)」

『言っとくけど、普段から筒抜けよ?』

・・・マジか。

「・・・キ、サキ、聞いてる?」

「え?あ、ごめん。何?」

「ヨルコさんに話を聞きにいくわよ」

「あ、ああ。もうそんな時間?」


昨日からリパルと詠は推理合戦してるし・・・案外仲良いんだよな、この二人は。


「(亞莎から連絡は・・・特にないか)」


取りあえず昨日の内に決めておいた時間に宿屋に向かう。そして宿屋前にいるヨルコさんを発見して、近寄る。

「悪いな、友達が亡くなったばっかりなのに・・・」

「いえ・・・いいんです。私も、早く犯人を見つけて欲しいですし・・・」

そう言いながらアスナに視線を向け、目を丸くする。

「うわぁ、凄いですね。その服全部、アシュレイさんのお店のワンメイク品でしょう。全身揃ってるとこ、初めて見ましたー」

その言葉にキリトは首を傾げる。

「・・・それ、誰?」

「知らないん「知らないのかお前は!」っ!?」

ヨルコさんの言葉を遮るように俺は叫んでいた。

「アシュレイさんって言ったらアインクラッドでいち速く裁縫スキルを完全習得したカリスマだ!最高級のレア生地素材を持参しないと作ってもらえないが、当然その分見映えもいい!現にアスナ・・・は・・・」

気付いた。周りの空気が絶対零度と化していたことを。俺はゆっくりと下がる。

「・・・って、ア、アスナからよく聞かされて・・・」

「にしては饒舌だったような・・・」

「(のワの)」


「こっち見ろよ」

「うるせぇ!どうせリアルじゃしま○らの服しか着てないんだろ!だからこういうのに疎いんだ!」
「な・・・確かに服には拘らないが・・・」

「何やってるのよ・・・」

ふとキリトがアスナを頭から爪先まで見る。するとアスナは何を思ったのか・・・

「ち・・・違うからね!」

・・・何となく何が違うのかは分かったが・・・とにかく昨夜訪れたレストランに入り、奥に座る。ちなみに個室を使わない理由は、個室の防音設備が完璧でない為。亮から聞いた話では、聞き耳スキルを上げていれば防音を無視できるらしい。それよりもこうやって雑談に見せかけた方が情報が漏れにくい・・・らしい。

『咲、ちょっとは考えて発言しなさい』

『今のはちょっと危ないッスよ』

「(へーい・・・)」

ヨルコさんから得た情報は・・・多かった。まず第一に、聖竜連合のシュミット並びに鍛冶屋グリムロックはヨルコさんやカインズさんが昔、所属していたギルドのメンバーだということ。第二に・・・犯行動機の候補が出てきたこと。


「それ、詳しく聞かせてもらえないか?」

・・・ちなみに俺は先日のアレがあるので、一席離れた位置にいる。とにかく、聞いた話は・・・まず、所属していたギルドの名前は《黄金林檎》・・・宿屋代や食事代を稼ぐための・・・所謂“生きるため”のギルドだったらしい。そんなある日、サブダンジョンに潜って、見たこともないモンスターに遭遇した。一目でレアモンスターと判断したメンバーは全員で追いかけ・・・ラッキーで倒せたらしい。そしてドロップしたのは指輪アイテムで・・・なんと敏捷力が二十も上がるらしい。

『・・・でも、このギルドでそんなレアアイテムが出たら・・・』

そうだ。案の定、ギルドで使用する派と売って儲けを分配する派に割れたらしい。結果はギルドメンバー八人中五人が売却。・・・そして中層の商人では扱えないだろうとギルドリーダーが前線の街まで持っていき、売るということになったらしい。皆はわくわくしながら帰りを待った。・・・だがーーーーー



ーーーーーリーダーは帰ってこなかった。



生命の碑を確認し、そのリーダーの名には・・・斜線が引いてあり、死亡時刻はリーダーが上層にいった日の深夜一時過ぎ。死因は・・・貫通属性ダメージ。

「そんなレアアイテムを抱えて圏外に出る筈がないよな。てことは・・・睡眠PKか」

「(・・・ゲス、だな)」


『半年前ならまだ手口が広まる前ッスから・・・』

『きっと資金節約でドアロックできない公共スペースを使ったのかもしれないわね』

俺は溜め息を吐く。・・・更にヨルコさんから情報を得ていく。売却に反対したのはカインズさん、シュミット、並びに・・・ヨルコさん。カインズさんとシュミットは自分が使いたいからという理由。ヨルコさんは・・・当時カインズさんと付き合っていたかららしい。その関係はギルドの解散に伴い自然消滅したらしい。更に驚きなのは・・・

「それで・・・グリムロックですけど・・・」

「・・・彼は黄金林檎のサブリーダーでした。そして同時にギルドリーダーの“旦那さん”でもありました。もちろんSAOでの、ですけど」

「え・・・リーダーさんは女の人だったのか?」



・・・グリムロックさんは何時も笑顔を絶やさない人だったらしいが、妻が死んでからは荒み、消息を絶ったらしい。

「(・・・)」

『咲さん?』

「(いや・・・もし、もし本当に詠や恋と二度と会えなくなっていたら・・・どうなっていたんだろうかなって)」

『・・・そんなの想像しないでよ。もし咲に二度と会えないかもしれないなんてことがあったら・・・考えたくもないわ』


『・・・でも、そんな外史もあるッスよね・・・?』

「(ああ、外史は選択の数だけ増えていく。前に言われたけど、俺と亮は外史の“基点”らしい。俺と亮が存在する外史は全て俺達の外史が中心にある)」


『つまり?』

「(簡単に言うなら、延長コードにいくらコンセントを刺していても、延長コード自体のコンセントを抜いたら全部止まるだろ?)」

『分かりにくいようで分かりやすいわね』

『ようするに、もしここにいる咲さん達の外史が“消滅”したら、他の咲さん達の外史も消滅するってことッスか?』


「(そういうこった)」

「・・・サキ?どうしたの?」

「(っと・・・)いや、何でもないよ。話は終わった?」


「ええ」

俺達は外に出る。

「(しっかし、得た情報が全部グリムロックさんが犯人だと結びつけるものばかりだな・・・露骨過ぎて怪しいような・・・)」

その時、キリトがわざとらしく咳払いしながらアスナを見た。

「うほん、いや、えーーーと。その・・・よ、よく似合ってますよ、それ」


・・・俺は盛大に溜め息を吐き、アスナは若干顔を赤くしながら指をキリトの胸に突きつける。


「うー!そーゆーのはね、最初に見たときに言いなさい!!」

アスナは着替えてくると言って最寄りの無人家屋に入って・・・見慣れた騎士団服に身を包んでいた。取りあえず次にやることはカインズさん殺害の手口の検討をつけること。だが・・・

「でもな・・・もうちょっと、知識のある奴の協力が欲しいな・・・」

「そうは言っても、無闇と情報をばら撒いちゃヨルコさんに悪いわ。絶対に信頼できる、それでいて私達以上にSAOのシステムに詳しい人なんか、そうそう・・・」

「・・・・・・あ、いるじゃん。あいつ呼び出そうぜ」

「誰?」

キリトにアスナが尋ねると、凄まじい名前が飛び出した。

「ヒースクリフ」

「「えぇぇぇ!?」」

俺とアスナは同時に声を上げる。ヒースクリフとはKoBの団長・・・つまりアスナの上司に当たる。

「ま・・・まった!俺は行かないからな!」

「なんでだよ?お前だって何回かは・・・」

「攻略ならいいけど、プライベートであの人に会うのはな・・・」

「・・・そ、そうよ。それに呼べるわけ・・・」

「昼飯おごるとか言えば来るんじゃないか?ほら、試しに」

「・・・無理だと思うけど」

アスナがヒースクリフにメッセージを送り・・・返信メッセージを見たとき、フリーズした。

「・・・やっぱダメか?」

「いえ・・・来るって」

気のせいかアスナは冷や汗をびっしりかいている気がした。

「・・・お、俺は別で情報を集めるから・・・そ、それじゃ!」

「あ!待ちなさい、サキ!」

俺は逃げるようにその場から去り、路地裏に入る。

「・・・詠」

『・・・来ると思ったわ』

指輪が光り、詠が実体化する。

「・・・で、話を聞いてくればいいの?」

「ああ、頼む。・・・ごめんな」

「いいわよ。ボクは咲と月の為なら何でもするつもりだから。・・・でも、キリトには何回か顔を見られてるのよねぇ」

「だったらフード被れば」

「・・・それしかないわね」

詠はメニューを開き、少し操作して黒いローブを装備し、フードを深々と被る。

「じゃ、行ってくるわね」

「ああ、気をつけて」


詠はそのまま路地裏から出ていった。

『オイラ達はどうするッスか?』

「んー・・・リパル、お前の耐久値幾つだ?」

『今・・・60%を切ったッス』

「じゃあ整備を兼ねてアイツのとこに行くか。・・・ああそうだ、亞莎に新しい情報を・・・」

まったく・・・これは長引きそうだな・・・ 
 

 
後書き

「独り言多いなぁ・・・俺」


「あはは。にしても出番ない・・・な」

シリカ
「・・・」←MOREDEBAN看板を捧げている。



「・・・ごめん」

シリカ
「・・・ぐすっ」



「まあ・・・ちゃんと出番は考えてあるらしいから・・・頑張れ」


「(俺的にはクラインの方が空気のような・・・)」


「そ・・・それじゃあ、次回もよろしく」 

 

散策〜

 
前書き
次回は早めに投稿すると言ったな?アレは嘘だ。・・・ごめんなさい!!話思い付かなくて・・・ではどうぞ! 

 
・・・俺がやってきたのは48層主街区《リンダース》・・・ここにやって来たのには事情があり・・・

「よし、ついた。リパル、こっからは俺だけに声が聞こえるよう調節しとけ」

『(了解ッス!)』

俺は水車が緩やかに回っている店・・・《リズベット武具店》のドアを開く。

「いらっしゃ・・・あれ、サキじゃない?」

「やっほ、リズ」

店に入るとピンクのショートヘアの少女がいた。彼女はリズベット。鍛冶屋を営んでいて、俺とアスナの友人・・・尚且つ俺達は彼女のお得意様でもある。

「今日はどうしたの?珍しくアスナと一緒じゃないみたいだし・・・」

「ああ、うん。ちょっと整備をお願いしたくてね」

俺はそう言って方天画戟を取り出し、リズに渡す。

「っと・・・まだ余裕あるじゃない。ちょっと早くない?」

「知ってるだろ?俺は耐久値は半分切る前に整備しときたいんだよ」

「・・・ま、いいか」

「今は忙しくないのか?」

「うーん・・・まあ、少し仕事はあるけど・・・」

「・・・じゃあ、後でもいいよ?」

「んー・・・いいわよ。これくらいならすぐ終わるから」

「ありがとう。お礼に後でパフェおごるよ」

「何時もの奴ね」

「もちろん」

店の奥に入り、リズは方天画戟を台に乗せる。・・・そう、リパルに音声調節を頼んだのは、彼女が方天画戟に触れてしまっているから。詠や亞莎と違い、リパルだけはその体・・・方天画戟、鎌、ダークリパルサーのいずれかに触れば声が聞こえるようになる。・・・いきなり武器の言葉が聞こえたらリズも仰天するし、説明もややこしくなるので、リパルには気をつけろと言ってある。

「取りあえず座ってていいわよ」

「うん」

俺は置いてある丸椅子に座る。リズは既にがっちり装備を整え、研磨を始めている。俺はそれを見ながら・・・

「なあ、リズ」

「なにー?」

「一撃でHPバーを削りきる貫通武器って造れる?」

「はぁ!?(ギャリィッ!)ああ!?」

『(ぎゃーッス!!)』

反応したリズの手がぶれ、方天画戟が削られる。

「あ・・・ご、ごめんリズ(あとすまん、リパル)」

『(うう・・・だ、大丈夫ッス)』


「焦ったぁ・・・で、何よいきなり」


「いやさ、リズならそんな装備も造れるかなーって」

「・・・無理よ。貫通ダメージ持った武器なんて大体低ダメージよ。前に一度作ったけど・・・・・・微妙だったわよ」
「じゃあ・・・その貫通ダメージ自体の底上げは?」


「それも高が知れてる。・・・一体どうしたの?いきなりそんなこと・・・」

俺は苦笑して首を振る。

「・・・ううん、何でもない。作業の邪魔してごめん」

「?う、うん・・・」


しばらくして、リズが方天画戟を持ち上げる。

「・・・よし、これでどうよ」

リズから受け取り、軽く体の周りを動かすように方天画戟を回す。

「・・・さっすがリズ。心なしか別物みたいだよ」

『(生まれ変わった気分ッス~)』


「(何回生まれ変わってんだよ・・・)」

俺はメニューから整備のお代を数割増しにして払う。

「ちょ・・・多くない?」

「情報提供と順番優遇の気持ちさ。・・・あ、ちゃんとパフェもおごるからな?」

「あたしはそんなにがめつくないってば」

「あはは・・・んじゃ、後で時間が開いたらメッセージを送って。俺は基本ソロだから何時でも大丈夫さ」


「ん、了解。・・・あ、そうだ。そろそろそのマントも耐久値が下がってるでしょ。前に頼まれたの、作っておいたわよ」

「お、サンキュー」

そんなこんなで俺は外に出る。

「やっぱりあり得ない・・・か」


『いいんスか?リズさんに事情を話さなくて・・・』

「・・・リズ、あの店買うのに凄い努力をしたんだよ」

『・・・?そ、そうッスね』


「だけど、もしこの圏内事件の話が広まったら、客足だって遠くなる。客がいなくなったらリズがやって来た事が無駄になるかもしれない。そんなのは・・・」

『・・・でも、人の命には・・・』

「分かってるよ。でももう・・・親しい人の悲しい顔は見たくないんだよ、俺は」

一応リズには戸締まりをしっかりするようには伝えた。

「・・・ったく、何で俺がいく世界には死が付きまとうんだ・・・一回くらい、死と無縁だっていいじゃないか・・・」

『咲さん・・・』

「・・・悪い、ちょっとヘタレたな。さて・・・っと」

既に夕方の空を見上げた時、メッセージが届いた。

『・・・詠さんからッスね』


「何々・・・『ヒースクリフとの対談は無事終わり、結論としては全ての推測はヒースクリフによって否定されたわ。ただ・・・彼の言葉で情報を集めることになって、キリトから槍を取ったシュミットに話を聞きにいって・・・シュミットをヨルコに会わせることになったから、サキも来て』・・・また何でいきなり」
『情報が間違ってないかどうかじゃないッスか?もし情報が食い違えば・・・』

「ヨルコさん、もしくはシュミットが怪しくなるわけか。・・・場所はヨルコさんのいる宿。急ぐぜリパル」


俺達は再びマーテンに到着し、見慣れた顔を見つけた。

「詠!」

「あ・・・来たわね」

「ああ。みんなは」

「宿屋よ」

詠はそう言って指輪と同化する。

『お疲れ様ッス!』

『ええ。そっちも咲のお守りお疲れ』

「(お守りって・・・)」

宿屋に入るとすぐにアスナ達がいた。

「アスナ」


「あ、サキ」

「貴様は・・・」

端にいた男・・・シュミットが俺を見るなり顔を険しくする。

「どーも。俺のことはご存知で?」

「・・・聖竜連合のメンバーは五人連続で打ち負かし、妨害工作を行なった男」

「・・・間違っちゃいないな」

「“漆黒”と“閃光”とは・・・」

「お前、何処に行ってたんだ?」

「ちょっと野暮用ついでに、な。遊んでた訳じゃねえから安心しな」



取りあえず武器を持たせず、二人を会わせる。リパルには宿屋内に不審人物がいないかサーチさせ、俺達三人も三方向から見渡せる位置にいた。シュミットはフルプレートを着込み、ヨルコさんは俺と同じように着れるだけ着込んでいた。やはりお互いに不安は拭えないようだ。しばらくは普通の世間話をしていたのだが・・・やはりお互いに犯人はグリムロックだと思っていたのか、どんどん感情が籠っていく。

「グリムロックはどうして今更カインズを・・・売却に反対した三人を全員殺す気なのか?オレやお前も狙われているのか!?」

・・・その言葉に有ったのは・・・恐怖。だが対称的にヨルコさんは冷めていた。

「リーダー自身の復讐なのかもしれないじゃない?圏内で人を殺すなんて、普通のプレイヤーにできるわけないんだし」

「(・・・?)」

「な・・・」

シュミットは口を開くが、言葉は出ずに金魚のようにパクパクさせるだけだ。

「私、ゆうべ寝ないで考えた。結局のところ、リーダーを殺したのはギルメンの誰かであると同時にメンバー全員でもあるのよ」

ヨルコさんはちらりと左右にいる俺とキリトを見てから、椅子から立ち上がり、窓に向かって後ろ歩きをする。


「あの指輪がドロップした時、投票なんかしないでリーダーの指示に任せればよかったんだわ。ううん、いっそリーダーに装備してもらえばよかったのよ。剣士として一番実力があったのはリーダーだし、指輪の能力を一番活かせたのも彼女だわ。なのに、私達はみんな自分の欲を捨てられずに、誰もそれを言い出さなかった。いつかGA(ゴールデンアップル。黄金林檎の略称)を攻略組に、なんて口で言いながら、ほんとはギルドじゃなくて自分を強くしたいだけだったのよ」

そのままヨルコさんは窓枠に腰掛けるようにしながら、付け加える。

「ただ一人、グリムロックさんだけはリーダーに任せると言ったわ。あの人だけが自分の欲を捨てて、ギルド全体のことを考えた。だからあの人には、多分私欲を捨てられなかった私達全員に復讐して、リーダーの敵を討つ権利があるんだわ」



「(・・・復讐する権利なんか・・・誰にもねぇよ・・・)」

俺は顔を逸らす。あまり長く話を聞く気になれなかった。

「・・・・・・冗談じゃない。冗談じゃないぞ。今更・・・半年も経ってから何を今更・・・」

シュミットは叫び始める。

「お前はそれでいいのかよ、ヨルコ!今まで頑張って生き抜いてきたのに、こんな、わけも解らない方法で殺されていいのか!?」

その言葉にヨルコさんはなんて返すか・・・そう思った時。

トン

「・・・え?」

乾いた音がして、顔を上げると・・・ヨルコさんも目を見開き・・・その身体が大きく揺れ、窓枠に手をかけた時・・・信じられないモノが目に入った。

「な・・・!」

ヨルコさんの背中に何か・・・黒い棒のようなものが刺さっていた。すぐにダガーの柄だと理解したが・・・一体どこから!?

「あっ・・・!」

アスナが声を上げる。再びヨルコさんの身体が揺れ・・・窓の外に消えた。キリトがすぐに駆け寄るが・・・

「ヨルコさん!!」

カシャアン、と破砕音が聞こえた。・・・何の音かなんて・・・嫌でも判る。その時、宿屋の窓から離れた屋根の上に・・・漆黒のフーデットローブが付いた黒衣にに全身を包んだ人影があった。

「・・・んの野郎っ!!」

俺はキリトを避けるように窓枠に足をかけ、跳ぶ。

「サキ、ダメよ!」

アスナの制止を振り切る。くそっ、あそこまでリパルのサーチは届かない!

「ふざけやがって・・・!」

『ちょっと!下手に深追いして咲までやられたらどうするのよ!』

『そうッス!ここは・・・!』

「逃がせるかよ・・・!方法はどうあれアイツはヨルコさんを・・・!くそっ、近くにいながら情けない・・・」

『だけどアイツは圏内の防止コードを抜いたのよ!?しかもHPを一撃で0にした・・・危険よ!』


「当たらなきゃいいんだろ!」

二つの漆黒の人影が屋根を駆ける。目撃したプレイヤーは何かのイベントかと勘違いするだろう。

「くっ・・・」

足の速さは同じ・・・いや、俺の方が遅い。

「だったら・・・」

俺は細い路地に飛び込み・・・壁を三角飛びのように連続で蹴る。色々重力無視だが、今は野暮なツッコミは無しだ。ある程度近づき、捕まえようとした時、人影が懐に手を入れた。

「・・・!」

またあのダガーかと思ったが・・・人影の手に握られていたのは・・・転移結晶。

「なろっ・・・!」
俺は咄嗟に亮から貰ったクナイを取り出し、投げる。プロテクトに弾かれようと、少しビビってくれれば追い付ける・・・!


ガキン!

・・・だが、人影はまったく動じない。直後に飛来してきたピックも弾かれる。・・・どうやらキリトも追ってきてたようだ。

「たぁっ!」

壁を強く蹴り、空中で前転しながら屋根に飛び乗る。ならせめて転移先でも・・・!



ゴーン・・・ゴーン・・・


「・・・!」


だが耳に飛び込んできたのは鐘の音。今午後五時を告げる鐘がなったのだ。そして・・・目の前から人影が消え失せた。何も聞こえる事はなく・・・

「くそがっ!」

俺は男が消えた位置に拳を振り下ろす。

「リパル!プレイヤーデータもしくは転移先は!?」

『だ、ダメッス!どちらも取得前に逃げられたッス!』

「・・・!!みすみす・・・目の前で・・・!」

「・・・サキ」

「・・・」

俺は立ち上がる。

「・・・とにかく、ヨルコさんが・・・やられた位置にダガーが落っこちてるだろうから・・・回収して戻るぜ・・・」

「・・・ああ」


どうなってるんだ・・・ヨルコさんには通ってあの人影には通らなかった。俺は混乱しながら宿屋に戻っていった・・・

 
 

 
後書き

「まだ終わらないのか・・・」


「つか、何でリズベット出たんだよ・・・」


「MOREDEBANの効果か、もしくは作者の贔屓か・・・」


リズベット
「贔屓とか言うな!」


「あ、いたんだ」

リズベット
「いたんだ・・・ってあんたねぇ」


「ちなみに作者は詠と口調が被りそうで最初の会話で挫折しかけたらしい」


「なんじゃそりゃ・・・」


「・・・出番欲しいな」

シリカ
「・・・(ワクワク)」←看板二枚持ち。


「・・・あそこまでしなくていいかな」

「はは・・・それじゃ、また次回!・・・いい加減圏内事件終わんないかな」

 

 

全ての真実〜

 
前書き
1日遅れのハッピーニューイヤー!!・・・なのに出来が悪いこと悪いこと・・・しかも長いし・・・と、とにかく今年もよろしくお願いします!ではどうぞ! 

 
・・・俺とキリトは道に降り、宿屋に戻る。・・・そして宿屋の前に落ちている漆黒のスローイングダガーを拾う。

「・・・本当に・・・死んだのか・・・」

「ああ・・・俺は見ていた。目の前で、ヨルコさんは・・・」

「・・・」

部屋に戻ると、レイピアを握っていたアスナは息を吐いて鞘に収める。・・・直後に。

「ばかっ、二人とも無茶しないでよ!」

アスナは続けて聞いてくる。

「・・・それで・・・どうなったの?」

顔を逸らした俺に代わってキリトが告げる。

「だめだ、テレポートで逃げられた。顔も声も、男か女も分からなかった」

・・・グリムロックさんだったら男だろう。SAOでは同性婚は不可能だが・・・確証はない。

「・・・違う」

シュミットが震えながら呟いた。

「違うんだ。あれは・・・屋根の上にいた黒ローブは、グリムロックじゃない。グリムはもっと背が高かった。それに・・・それに」

そのまま続けられた言葉には息を呑まざるを得なかった。

「あのフードつきローブは、GAのリーダーのものだ。彼女は、街に行くときはいつもあんな地味な格好をしていた。そうだ・・・指輪を売りに行く時だって、あれを着ていたんだ!あれは・・・さっきのあれは彼女だ。俺達全員に復讐に来たんだ。あれはリーダーの幽霊だ」

そのまま狂ったように笑いだす。

「幽霊ならなんでもアリだ。圏内でPKするくらい楽勝だよな。いっそリーダーにSAOのラスボスを倒してもらえばいいんだ。最初からHPが無きゃもう死なないんだから」

そのまま笑い続けるシュミットの胸ぐらを掴む。そして眼前に先程のダガーを突きつける。

「ひっ・・・」

「少し黙れ・・・幽霊は武器なんざつかわねーんだよ・・・この武器はほんの数行のプログラムコードで書き込まれたただのデータだ。あんたがかっぱらった槍と同じでな」

『咲・・・』

「それに幽霊が出るなら、今までに死んだプレイヤーはどうなる?俺は今までこの世界で幽霊に出会ったことはない。あり得ないんだよ・・・!いいか!お前が言っているのは・・・」

「サキ!・・・少し落ち着けよ」

「そうよ・・・何か変よ、サキ」

「・・・ごめん」

俺は胸ぐらから手を離し、部屋から出る。

「今日はもう帰るよ。・・・本当にごめん」

「サキ・・・一人じゃ危ないから・・・」

「大丈夫、一人じゃ・・・ないから」


俺は外に出る。

『どうしたのよ、さっき・・・』

「・・・色々、思い出しちゃってな・・・」

『何をッスか・・・?』

「詠と恋が居なくなった時・・・幽霊でも何でもいいからもう一度声が聞きたい・・・なんてバカなこと考えてな」

『・・・』

「なんつーか、自分を思い出して混乱したってとこかな。シュミットには悪いことをしたかもなぁ」
『でも・・・会えたじゃない。ボクは・・・こうして咲といる』

「・・・そうだな」

俺はホームに帰り、ソファに身を預ける。方天画戟をテーブルに立て掛け、詠が実体化する。

「・・・さて、どうするの?休みたいなら後はボクとリパルが情報を纏めておくけど?」

「いや、俺もやるよ。・・・正直こんな状況じゃ休めないし・・・と」

その時、アスナからメッセージが届いた。


「・・・」

「誰から?」

「アスナから。・・・シュミットからグリムロックがよく行っていた店の場所を聞いたらしい。・・・二人はそこで張り込むってさ」

『いいッスか?二人きりッスよ』

「う・・・」


俺は葛藤するが・・・

「か・・・帰るって言っちゃったからな・・・ま、まあ何かしたらキリトを外周から投げ捨てるだけだ」

「ほんと、アスナが絡むと見境ないわねぇ」

『きっとアスナさんだけじゃなく、詠さんでもッスよ』

「・・・ほ、本当?咲」

「・・・そりゃ、好きな奴の為なら何でもできる・・・ぜ」

「咲・・・」

『(一瞬で居づらくなったッス)」

俺は咳払いをして、ダガーを取り出す。

「こいつがヨルコさんの命を奪った凶器だ」

「・・・見た目はただの黒いスローイングダガーね」

「・・・」

俺はダガーを手に持ち・・・左手を広げ、そこに・・・

「ちょっと!何するつもり!?」

詠が俺の腕を掴む。

「・・・まあ、試しにちょっと・・・」

「バカじゃないの!何が起こるか解らないのに!!」

『そうッス!幾ら何でも軽率ッス!』

「お前らは親か・・・大丈夫だって、手に刺す程度で・・・」

「たった一撃でヨルコの命を奪ったのよ?手に刺しても・・・」

「・・・解ったよ」

俺はダガーをテーブルに乗せる。

『・・・そう言えば、やけにシュミットさんが怯えてたッスね』


「ああ・・・そりゃ、殺されるかもしれないって思ったら・・・」

「でも、武器を掻っ払ったってことはかなり最初から怯えてたって訳よね。ヨルコは・・・」

「そう言えば・・・」

最後の会話・・・ヨルコさんは落ち着きすぎてた気がするし、シュミットは怯えすぎてた気がした。

「・・・」

「・・・あ」

「詠?」

「ふと思ったんだけど・・・結婚のシステムってどうなっているのよ?」

「ええと・・・リパル」

『ッス!方法は基本的にパーティーを組むのと似ているので割合するッス。結婚するとお互いのアイテムストレージやコルが共通化されるッス』

「隠し事はできない訳ね。まあ、そこは問題じゃないと思うけど」

「・・・離婚とかあるのか?」

『双方同意の場合・・・一方的に離婚したい場合はアイテム分配を自分ゼロの相手百にすれば一方的な離婚が可能ッス』

「それ、一人のストレージに入るの?」

「まず入らないな。容量を越えたアイテムはその場に全部ドロップ・・・だったかな」

「ふうん・・・」

「だから、離婚されそうな・・・ああ!」

俺は一つ気づいてしまった。

「自分がゼロで・・・相手が百になる方法がある」

『それは・・・?』

「“死別”だよ。その場合もその割合が適応される筈だ。・・・つまり、黄金林檎のリーダーさんが殺された時、アイテムは全てグリムロックに移動した筈なんだ・・・!だけど指輪事件の犯人は見つかってない・・・いや」


俺は口にするのを躊躇ったが・・・

「犯人はあの人だ・・・それなのに、この圏内事件の犯人はまるでその人が犯人だろうと思われる情報が沢山あった・・・」

「・・・ヨルコね?」

「そうだ・・・ヨルコさんは目的があったんだ。ヨルコさんは・・・あの日の事件の犯人を追っていた・・・」

俺はダガーを掴み、詠やリパルに止められる前に手に突き立てる。

ガッ!

『咲さん!?』

「あ・・・」

「やっぱり・・・な」

俺の手はコードによって守られ、ダガーは通らなかった。

「圏内PKなんてありゃしないんだ・・・」

「・・・でも、明らかにカインズとヨルコは・・・」

俺は方天画戟を掴み、家のドアを開き・・・

「咲?」


耐久値が限界のマントを路面に投げる。そして・・・

カシャアン!

・・・アイテムは地面に置くと自然に耐久値が減少する。

「詠、リパル、見たか?」


『見たッスけど・・・』

「今の・・・プレイヤーが死んだ時と似てないか?」

「・・・!」

「これに転移結晶を合わせりゃ・・・」

『さもHPがゼロになって消えたように見える・・・』


「じゃあ、ヨルコとカインズはコレを使って・・・?」

「ああ。カインズさんの時は結晶を使えばいい。ヨルコさん、厚着してたろ?アレはダガーを予め刺してあったのを誤魔化す為だったんだ。あの時は俺はよそ見してたけど・・・きっと床を蹴るなりなんなりして音を演出したんだ」



「何でそんなことを・・・」

「犯人を炙り出す為だよ。周りの人間が消されれば犯人は焦り出す。・・・この場合・・・」

「シュミット・・・ね」

「アイツは恐怖で幽霊の存在を信じている。そんな奴が死に物狂いですることは?」



『許しを乞う・・・』

「・・・ああ、となりゃカインズさんとヨルコさんはそこを待ち伏せして真相を聞き出す。・・・それで終わ・・・ん?」

ふと違和感に気付いた。

「あの槍造ったのは・・・グリムロック、だよな」

「そうね。きっとヨルコとカインズが依頼をして・・・」

「となるとこのダガーも・・・だよな」

「そう・・・よ」

「・・・待ってくれ・・・俺は、今・・・」

『咲さん・・・?』

「・・・っ!!」

俺は方天画戟を掴み、走り出す。

「ちょ、咲!?」


「・・・嫌な仮定立てちまったんだよ。今からちょっと向かう。リパル、シュミットのプレイヤーデータはあるな?現時点で何処にいる」

『ちょ、ちょっと待って下さいッス・・・今は19層のフィールドに・・・』

「そこにリーダーさんの墓があるようだな・・・」

じゃないとわざわざこの状況で下層に行く理由が分からない。


「取りあえず向かおう。嫌な予感がする」

「待って!ボクも・・・」

「詠には今からお願いしたい事があるんだ」

「え・・・?」


詠に伝え、俺は転移門まで走り、19層に転移する。

「はっ・・・はっ・・・」

SAOでは息切れなどは起きないが、無意識に呼吸をしてしまう。その時、あるモノが目に入った。

「う、馬!?この世界に・・・」

「よお、そこのアンタ!このじゃじゃ馬が気になるかい?」

NPCが話し掛けてくる。・・・コレを使うか。

「おっと、だが君は身体が細・・・」

「それ借りるよ!」

会話を中断。速攻表示されたイエスかノーにイエスと答え、金を払う。

「よっ、と・・・へへ、どんな馬だろうとなぁ・・・」

馬を走らせる。

「翠の馬達に比べりゃ余裕なんだよ!」


そのままリパルにサーチさせ、馬を走らす。


『・・・本来、扱うのが難しい筈なんスけど・・・』

「恋姫でどんだけ馬に乗ってると思ってるんだよ。しかも指導者には霞や翠がいたんだぜ」

『・・・そうッスね』

「・・・待て。・・・見えた!」


人影は・・・六。後二人はヨルコさんとシュミット・・・後一人は多分カインズさんだろう。残りの三人は・・・こちらは最悪だった。


「・・・やっべーな」

見るとシュミットは倒れている。・・・きっと麻痺か何かにやられたのだ。俺は馬を止め、その反動で飛んで一回転して着地する。

「・・・俺、参上。ってな」

俺は黒いポンチョを着た男を見る。

「・・・相変わらず悪趣味な格好だな、PoH?」

「・・・貴様も似たようなものじゃねぇか」

確定。コイツらは殺人ギルド《ラフィン・コフィン》・・・笑う棺桶とは洒落た名前だ。

「・・・」

ラフコフのリーダーで、ポンチョを見にまとい、その右手には中華包丁のような形状の、赤黒い刃を持つ大型のダガーを装備しているのが、リーダーの“PoH”。エストックをカインズさんに突きつけ牽制しているのが“赤目のザザ”。毒ダガーを握っているのが“ジョニー・ブラック”・・・わお、トップスリー勢揃いだ。

「随分暇なんだな、ラフコフも」

「ンだと!この状況分かってんのかよ!」

「まあ待て。なあサキよ」

「・・・なんだよ」

「・・・お前、人を殺したいと思うか」

「・・・はっ、勧誘?おあいにく、興味ないな」

「・・・」

「ヘッドぉ!さっさとやっちゃいましょうよぉ!」

この二人もそうだが、さっきから沈黙を保っているザザにも恐怖を覚える。

「(この世界じゃなかったらなー・・・)」



この世界の俺は一回りも二回りも弱い。

「・・・ま、時間稼ぎ位にはなるさ」

『ま、待ってくださいッス・・・あと少し・・・』


「・・・」

ラフコフの三人がコチラを見据える。・・・その時だった。

「・・・そこまでです」


「動いたら首を飛ばすわよ」


ジョニーとザザの背後に詠と亞莎がローブを身にまとって、武器を首に突きつけ、立っていた。

「隠蔽スキルを最大まで上げてるプレイヤーはそういないわ」

「そこに装備で底上げして、極限まで高めました」


・・・詠に頼んだのは、亞莎に連絡して欲しいと言うものだ。多少の事態には対応できる筈だが・・・ラフコフは予想外だったのだ。

「さあ、首を落とされたくなかったら退きなさい」



・・・その時、PoHの口に笑みがあった。・・・そうだ!狙われる立場であるコイツらが簡単に背後を取られる訳が・・・!

「詠!亞莎!下がれ!」

「「え・・・!?」」



ジョニーが毒ダガーを亞莎に向かって投げる。

「くっ・・・!」

「こいつ・・・!」

亞莎がクナイで弾き、詠が首を斬ろうとするが・・・一人、フリーになってしまった。


「詠っ!」

「・・・!」

PoHがそのダガー・・・友切包丁(メイトチョッパー)を詠に振り下ろす。詠はソードスキルを発動させるが・・・

ガキャアアン!

「っ!」

詠が打ち負け、隙が出来る。PoHは笑い、今度は返すように振り上げる。

ズバァ!

「・・・ぐっ・・・!」


詠は咄嗟に左手を出し・・・その腕が飛ばされた。詠はバックステップで下がり・・・

ドスッ

「う、あ・・・」

注意がそれたタイミングで・・・亞莎の身体をエストックが貫いていた。

「・・・は、ぁっ!」

蹴り飛ばし、亞莎はヨルコさん達を庇うように前に経つ。

「詠ッ!」

俺は詠に駆け寄る。

「・・・ごめん、咲。油断したわ・・・」

「それよりもHPは!?」

「平気。まだ七割あるから。・・・腕も利き手じゃなくて助かったわ」

部位欠損。ようは攻撃が深く入るとその部位が数分間使えなくなる。


「亞莎!平気か!」

「・・・はい。問題はありません」

だが二人とも顔をしかめている。軍師である二人が一手取られたのは余程の屈辱だろう。

「さて・・・イッツ・ショウ・タイムと行くか」

「・・・上等!」

方天画戟を構える。


『咲さん、状況は悪いッス。シュミットさんの麻痺を解いて何とか・・・』

「(結晶を使う余裕がないんだよ。それに・・・)」

俺はPoHを睨み付ける。

「・・・詠を斬ったアイツだけは逃がさねぇ。ぶっ殺してやる」

「・・・ボクの事で冷静さを失わないで、咲。今はこの場を切り抜けないと・・・え?」

その時だった。何かが聞こえてきて・・・段々音が大きくなる。

「これは・・・?」

この音は・・・!・・・馬が走ってきて、嘶く。その拍子に・・・

「いてっ!」

・・・乗馬していた男が尻から落ちた。

「ギリギリセーフかな。タクシー代はDDAの経費にしてくれよな」

「キリト・・・!?」

「まったく、アスナが心配してたぞ?こんなところに向かってるって知ってから落ち着きがなくなるし・・・」

「・・・うるせぇ」

「・・・ようPoH、久し振りだな。まだその趣味悪い格好してんのか」


「貴様に言われたくねぇな」

「・・・キリト、状況は解ってるよな?」

「ああ。もう少し待てば増援が来る。いくらアンタらでも、攻略組三十人を三人で相手できると思ってるのか?」

「・・・Suck」



そうPoHは呟き、後ろに下がる。すると緊張が解けたのかヨルコさんとカインズさんが膝をつく。

「・・・《黒の剣士》そして《漆黒》。貴様らだけは、いつか必ず地面に這わせてやる。大事なお仲間の血の海でごろごろ転げてやるから、期待しといてくれよ」


「・・・はっ、とっくに転がったさ。お前こそ、詠の腕の代金・・・高くつくぜ」

そう言ってラフコフは去っていくが・・・只一人、エストック使いのザザだけがコチラを見た。

「格好、つけやがって。次はオレが、馬でお前を、追い回してやるからな」

それにキリトが答える。

「・・・なら、頑張って練習しろよ。見た目ほど簡単じゃないぜ」

「(落馬したくせに・・・)」

そうしてラフコフが去った後、俺は詠に近づく。

「詠、平気か?ほら、飲んどけ」

俺は詠にハイポーションを渡す。

「・・・何が咲と肩を並べるよ・・・これじゃあただの足手まといじゃない・・・」

「詠は悪くない。・・・済まなかった。俺がもっと警戒していれば・・・」


『いいじゃないッスか。オイラ達は全員で一人前で』

「いきなりちょーし良いんだよ、オメーは」


「くす・・・ま、気を使ってくれたお礼は言っておくわ」



・・・そして、ヨルコさん達から色々話を聞く。


「・・・」

まず、キリトとアスナが最初に気付いたのは、メンバーの生存情報を知るために、シュミットにメンバーの名前を書いてもらった洋紙を見たときだった。カインズさんのスペルが間違っていたのだ。一文字だけならまだしも三文字も違っていたため、キリトは全てに気づいたらしい。そしてラフコフ・・・ないし殺人プレイヤーが来ると思ったのは更に犯人に気付いたからだ。ヨルコさんやカインズさんの手口は大体は推理通りで、防具の耐久値と転移結晶を利用した死亡演出の再現だ。そして・・・

「・・・グリムロックさんは、最初は気が進まないようでした。帰ってきたメッセージには、もう彼女を安らかに眠らせてあげたいって書いてありました。でも、僕らが一生懸命頼んだら、やっとあの二つ、いえ三つの武器を作ってくれたんです。届いたのは、僕じゃないカインズさんの死亡日時のほんの三日前でした」

そう、カインズさんは全ての条件を揃えて別のカインズさんの死亡時刻に合わせたのだ。最初からグリムロックさんを犯人じゃないと考えた二人は、グリムロックさんを犯人と思うように俺達のミスリードを誘った。・・・実際にシュミットはあくまで大金を得たいが為にリーダーさん・・・グリセルダさんと言うらしい。グリセルダさんの寝床に回廊結晶のマーキングをしただけだ。


「・・・残念だけど、グリムロックがアンタ達の計画に反対したのは、グリセルダさんの為じゃないよ。《圏内PK》なんていう派手な事件を演出し、大勢の注目を集めれば、いずれ誰かが気づいてしまうと思ったんだ。結婚によるストレージ共通化が、離婚ではなく死別で解消されたとき・・・アイテムがどうなるか」

「え・・・?」

「・・・簡単に言えば、普通に殺しても指輪は手に入らない。何故ならストレージアイテムは全てグリムロックさん・・・いや、グリムロックに転送されるからだ。シュミット、多額の金を受け取ったんだろ?」

シュミットは頷く。


「そんな金を用意するには指輪を売却しないといけない。つまり、金を手に入れられたのは・・・」


「じゃあ・・・グリムロックが・・・?あいつが、メモの差出人・・・そしてグリセルダを圏外に運び出して殺した実行犯だったのか・・・?」

「・・・多分直接じゃなく、レッドプレイヤーに依頼したんだろうな。・・・腐った野郎だ」


更に聞けばグリムロックには予め計画を話していたらしい。だからこそ、このチャンスを利用した。ラフコフにDDAの幹部がいると情報を流せば、きっと食らい付く。

「・・・グリムロックが何でそんなことをしたかは分からない・・・」

「だから、本人に聞こう」

その言葉には俺も驚いた。すると・・・更に人影が二人やって来た。

「アスナ!?」

「サキ!・・・よかった。無事だったんだね」

「あ、うん・・・ごめん」

取りあえず目についたのはもう一人。長身の男性だ。革製の服に唾の広い帽子、更に眼鏡とよく人相が分からない。

「やあ・・・久しぶりだね、皆」

「グリムロック・・・さん。あなたは・・・あなたは本当に・・・」

ヨルコさんが聞くが・・・

「・・・誤解だ。私はただ、事の顛末を見届ける責任があろうと思ってこの場所に向かっていただけだよ。そこのお姉さんの脅迫に従ったのも、誤解を正したかったからだ」

・・・ここで否定するか。するとアスナが鋭く反駁した。


「嘘だわ!あなた、ブッシュの中で隠蔽してたじゃない。わたしに看破されなければ動く気もなかったはずよ!」

「仕方がないでしょう。私はしがない鍛冶屋だよ。このとおり丸腰なのに、あの恐ろしいオレンジたちの前に飛び出していけなかったからと言って責められねばならないのかな?」

・・・なるほどね。まあ筋は通ってるな。俺はキリトに目配せする。

「・・・初めましてだな、グリムロック。俺はサキ、こっちはキリト。・・・確かに百歩譲ってそれを信じても・・・指輪事件には必ずあんたが関わる・・・いや主導した筈だ」

「・・・何故かな?」

それにキリトが答える。

「何故ならグリセルダさんを殺したのが誰であれ、指輪は彼女とストレージを共有していたあんたの手元に絶対に残ったはずだからだ。それを明らかにせず、指輪を換金してシュミットに半額を渡した。・・・これは犯人にしか取り得ない行動だ」


「それなのにアンタは圏内事件に関わった。つまり目的は・・・過去を闇に葬ることにしかならない。違うか?」

「なるほど、面白い推理だね、探偵君。・・・でも、残念ながら、一つだけ穴がある」

「なに?」

「確かに、当時私とグリセルダのストレージは共有化されていた。だから、彼女が殺された時、ストレージに存在していたアイテムは私の手元に残った・・・という推理は正しい。しかし」

鋭い視線をこちらに向け、グリムロックは続ける。

「もしあの指輪がストレージに格納されていなかったとしたら?つまり、オブジェクト化され、グリセルダの指に装備されていたとしたら・・・」

「あっ・・・」

アスナが声を漏らす。

「・・・くっ」

俺も同じだ。穴に気づいてはいたが・・・さすがに勢いで白状してはくれないか・・・

「では、私はこれで失礼させてもらう。グリセルダ殺害の首謀者が見つからなかったのは残念だが・・・シュミット君の懺悔だけでも、いっとき彼女の魂を安らげてくれるだろう」

「待ってください・・・いえ、待ちなさい、グリムロック」
去ろうとするグリムロックを止めたのは・・・ヨルコさんだった。そしてここで新たに情報が入った。ギルドで会議した時、みんなはリーダーに装備するよう進めたらしいが・・・

「それに対して、リーダーがなんて答えたか、私は今でも一字一句思い出せるわ。あの人は笑いながらこう言ったのよ。ーーーSAOでは、指輪アイテムは片手に一つずつしか装備できない。右手のギルドリーダーの印章。そして・・・左手の結婚指輪は外せないから、私には使えない。いい?あの人がこっそり指輪を試すなんてことをする筈がないのよ!」

・・・俺は指輪に目を落とす。そうだ・・・片手に一つだけ・・・そしてグリムロックは証拠がないと言い張るが、ヨルコさんは墓の前の泥を掻き分け・・・何かを取り出した。

「あっ・・・“永久保存トリンケット”・・・」

アスナが呟く。永久保存トリンケットとは、耐久値無限のアイテムだ。だが大きくても十センチ四方なのが限界だ。だがアクセサリーなら・・・幾つか入る。


「これは、リーダーがいつも右手の中指に装備してた、黄金林檎の印章。そしてこれは・・・彼女が何時だって左手の指輪に嵌めてた、あなたとの結婚指輪よ、グリムロック!」

その指輪が存在しているということは・・・グリセルダさんは指輪を装備しながら殺されたことになる。ヨルコさんは涙を溢しながら指輪を突き付ける。

「その指輪・・・たしか葬式の日、君は私に聞いたね、ヨルコ。グリセルダね結婚指輪を持っていたいか、と。そして私は剣と同じく消えるに任せてくれと答えた。あの時・・・欲しいと言ってさえいれば・・・」

グリムロックはその場に膝をついた。完全に泣き崩れてしまったヨルコさんに代わって俺がいう。

「何でだグリムロック。妻を殺してまで・・・金が欲しかったのか」

「・・・金、金だって?」

するとグリムロックは革袋を取り出し・・・それを投げる。

「これは、あの指輪を処分した金の半額だ。金貨一枚だって減っちゃいない」

そして話し始める。

「グリムロック、グリセルダ・・・頭の音が同じなのは偶然ではない。私と彼女は、SAO以前にプレイしたネットゲームでも常に同じ名前を使っていた。そしてシステム的に可能ならば、必ず夫婦だった。何故なら・・・何故なら、彼女は現実世界でも私の妻だったからだ」

その言葉に全員が驚愕した。

「私にとっては一切の不満もない理想的な妻だった。夫唱婦隋という言葉は彼女のためにあったとすら思えるほど、可愛らしく、従順で、ただ一度の夫婦喧嘩すらもしたことがなかった。だが・・・共にこの世界に囚われたのち・・・彼女は変わってしまった・・・」

俺は拳を握り締める。何を言う気だ・・・

「強要されたデスゲームに怯え・・・恐れ、怯んだのは私だけだった。全てにおいてグリセルダ・・・いや、“ユウコ”は私を大きく上回っていた。そして私の反対を押しきり、ギルドを結成し、鍛え始めた。彼女は遥かに生き生きとし・・・充実した様子で・・・その様子を見ながら、私は認めざるを得なかった。私の愛したユウコは消えてしまったのだと。たとえゲームがクリアされ、現実世界に戻れる日が来ても、大人しく従順なユウコは永遠に戻ってこないのだと」

「な・・・」

一体・・・何を言ってるんだコイツは・・・!?

「・・・私の畏れが、君達に理解できるかな?もし現実世界に戻った時・・・ユウコに離婚を切り出されでもしたら・・・そんな屈辱に、私は耐えることができない。ならば・・・ならばいっそ、まだ私が彼女の夫であるあいだに。そして合法殺人が可能な、この世界にいる間に。ユウコを、永遠の思いでのなかに封じてしまいたいと願った私を・・・誰が責められるだろう・・・?」

俺は・・・何かが限界に達した。

「屈辱・・・?ふざけるな・・・ふざけるなよ・・・!変わったから・・・自分の理想じゃなくなったから殺した・・・?お前・・・お前ぇぇぇぇっ!!!」

方天画戟を握りしめ、走り出す・・・

「ダメ、咲!」

「いけません!」

・・・前に詠と亞莎が俺を止める。

「離せ!コイツは・・・この屑野郎はぁ・・・!!」

『咲さん、駄目ッス!』

「・・・そんな理由で大切な人を・・・グリセルダさんは・・・皆を助けようと強くなった筈なのに・・・それなのに・・・!」

俺はその場にしゃがみこんでしまう。

「そんな理由?違うな、充分すぎる理由だ。君にもいつか分かる、探偵君。愛情を手に入れ・・・それが失われようとしたときにね・・・」

「・・・!」

今度こそ我を忘れそうになった時・・・

「いいえ、間違っているのはあなたよ、グリムロックさん」
・・・アスナの言葉で踏み止まった。



「あなたがグリセルダさんに抱いていたのは愛情じゃない。ただの所有欲だわ。まだ愛してるというのなら、その手袋を脱いでみせなさい。グリセルダさんが殺されるその時まで決して外そうとしなかった指輪を、あなたはもう捨ててしまったのでしょう」

その言葉でグリムロックは沈黙する。・・・結局グリムロックの事は身内で判断することになり、元黄金林檎のメンバーは去っていく。

「咲・・・大丈夫?」

「ああ・・・はは。さっきは俺が心配してたのに・・・」


キリトとアスナは何かを話しているようだが・・・正直耳に入ってこない。

「・・・咲は、ボクや恋が変わったら・・・どう思う?」

「それ、聞くか?第一、とっくに変わったのを見ただろ?神託の盾騎士団所属のエイを、な」

「あ・・・」

「それで俺が詠を捨てたか?嫌ったか?・・・言っとくけど一度好きになったら何があっても愛せるさ。・・・だろ?」

「・・・本当に、ボク達に舞い降りた御遣いが咲でよかったわ」

「・・・亮さんは、どう思うのでしょうか」


「同じだよ。亮の奴だってな・・・闇を持った亞莎もちゃんと受け入れたろ?」

「あ・・・」

『咲さん自身も変わってきてるッス』

「あはは・・・そう言うリパルもな」

『ッス!』


俺は立ち上がり、前を見て・・・固まった。既に夜明けで日が上り、その光の中に・・・綺麗な女性が立っていた。それはこちらを見て微笑み・・・瞬きをした瞬間、いなくなった。


「咲さん・・・今のは・・・」

キリトとアスナが固まっているのを見ると、二人も見えていたのがわかる。

「・・・グリセルダさん。あなたは・・・恨んで、ないんですね・・・」

あの顔に・・・負の表情は感じられなかった。きっとグリセルダさんは、グリムロックを・・・

「・・・せめて、この世界から解放してみせます。だから・・・」

俺は振り返り、歩き出す。後味の悪さは多少残ったものの・・・それでもこの事件は幕を閉じた。・・・ただ、帰ってからアスナに先行したことを数時間説教され、亞莎や詠との関係をキリトに聞かれたり(詠とはフレンドで通し、亞莎は亮の紹介で知り合ったことにした)・・・色々大変だったな・・・あはは・・・


 
 

 
後書き

「1日遅れのハッピーニューイヤー!」


「おっせー・・・」


「作者に言えよ・・・」


「ったく・・・ついでに圏内事件も解決だな」


「作者が知恵熱出したしな・・・」


「うわ・・・んで、次回も俺の出番だな!」



「また・・・また出番ないのか・・・?」←MORE看板


「・・・結局受け取ったのか」


「シリカには・・・勝てなかった・・・」


「はは・・・えと、今年もよろしく!」


「よいお年をー、ですね」


 

 

尾行〜

 
前書き
圏内事件に比べて短いよリズベットさん・・・これが僕の出来る限界の長さです。ではどうぞ! 

 
「・・・すー・・・」


窓から差し込む朝日。

「ううん・・・」

その光を受け、光から逃げるように毛布を被る。

「・・・なさいよ、ほら・・・き・・・」


詠の声が聞こえてくる。

「う・・・ぅん・・・あと五分・・・」

「・・・・・・わよ」

「ん~・・・」

キュィィ・・・ン

そして耳にソードスキルの発動音が・・・ソードスキル?


「虎牙破斬!!」

ズガアアン!!

「ぎゃああああ!?」

寝惚けている頭に衝撃が走り、一瞬で意識が覚醒した。

「・・・起きた?」

「起きた、じゃねーよ!一瞬焦ったわ!」

「何よ。今日は用事があるから時間に起こせって言ったのは咲じゃない」

「だからってソードスキルは・・・あ」

「別に当たる訳じゃないから平気でしょ。・・・どうしたの?」

時刻を確認・・・約束の時間まで、後十分。

「ーーーーーっ!?」

俺は立ち上がり、立て掛けてある方天画戟を掴み、走り出す。

『さ、咲さん!?』

「ちょ、ちょっと!」

「悪い詠!遅刻しそうだから行ってきます!!」

「あんま急ぐとこけるわよー!」

「大丈夫ー!行ってきまーす!」

俺は急いで転移門に走る。


「やばいやばい・・・」

あの圏内事件から二ヶ月が経過した。六月に入り、大分気温も上がった時期に・・・全力疾走しているもの一名。


『なんでアラームをセットしなかったんスか・・・?』

「こっちの世界ぐらい時間に縛られずに寝たいんだよ・・・」

『とにかく急いだ方がいいッスね』

俺は転移門に向かって跳ぶ。

「転移!リンダース!」

身体が青の光に包まれ・・・

「・・・っとぉ!」

そのままの勢いで転移を完了し、再び走り出す。そして目当ての店に駆け込み・・・


「ギリっギリセーフ!!」

「うわっ!」

ガキョン!

見るとリズがハンマーを振り下ろしているとこだった。

「あ・・・ごめん」

するとリズはため息を吐きながら・・・

「まったく、アスナといいアンタといい・・・」

「あれ?アスナ来てたのか?」

「え?知らなかったの?何か誰かに会うから装備を綺麗にしにきて・・・」

「・・・?今は攻略に手間取ってる時期なのにな・・・あっ、と・・・これ、お願いできる?」

俺は背負っていた方天画戟をリズに渡す。

「しっかし、この武器もよく持つわねぇ。初めて会った時も持ってなかった?」

「あの時か・・・リズも地味だったよなぁ」

「地味で悪かったわね。あと、五分前行動を心掛けた方がいいと思うわよー」

「あはは・・・ごめん」

そう、約束とは方天画戟の整備で、要するに予約していたのだ。


「最近、収入が安定してるって?」

「最初に比べればね。常連さんも増えたし・・・」

「ま、いきなり美少女が店オープンしたら人気になるよな」

「はいはい、お世辞をどうも」

俺とリズは笑いながら談笑する。

「はい、完了」

「どーも」

リズから方天画戟を受け取り、お金を渡す。

『~~~♪』

リパルは嬉しそうに鼻唄を歌う。・・・鼻ないけど。

「そうだ、リズ」

「なに?」

「今度友達連れてきていい?そいつ、やたら武器使うんで整備代が高くなるんだと」

「うーん・・・んじゃ、明日連れてきなさいよ。そいつの武器は?」

「刀と曲刀」

「・・・スキル上げ面倒じゃない?」

まあ、曲刀とカタナを同時に上げる奴は少ないとは思うが・・・


「ま、いいや。あ、何だったら用事ないなら明日飯でも食いに行くか?」

「へぇ、あんたから言い出すなんて珍しいじゃない」

「たまにはね。俺の場合、ここの整備代と結晶アイテム分の資金があれば事足りるし」


「それじゃあ考えときますか」

「うん、そうしといて。・・・と、何か片手剣でいいのないかな?」

そう言えば詠がそろそろ武器を変えたいと言っていたのを思い出した。

「じゃあ、これは?」


リズが一本の持ち手と柄が緑色の片手剣を渡してくる。

「一応、ウチの片手剣の中じゃ最高よ」

俺は何回か振ってみる。

「軽いし使いいやすいな。・・・でも、お高いんでしょう?」


俺がニヤリと笑うとリズもニヤリと笑う。

「じゃあ・・・ご飯奢りなら三割引にしてあげましょうか」

「買った!」

「売った!」

取りあえずお金を支払い、剣をストレージに仕舞う。


「毎度あり~♪」

「そんじゃ、今日は帰るよ。また明日」

そうして、俺は家に帰ってくる。

「ただいま」

「お帰り」


詠はパンと目玉焼きをテーブルに置く。

「ほら、朝ごはん食べてないでしょ?」

「お、サンキュー」

俺は食事を取る。

「なんか悪いわね。こんなのしか用意出来なくて・・・」

「いやいや、充分充分」

シンプルイズベスト。普通に美味いのでOK。


『まるで夫婦みたいッスね』

「夫・・・っ!?」

詠の顔が一瞬で真っ赤になる。

「ななな、何言ってるのよ!?ふ、ふふ、夫婦!?咲と!?・・・そそそそ・・・」


「(可愛い・・・)・・・じゃなくて!おいコラ、リパル!地雷を踏み抜くな!」

『す、すみませんッス!』

「ほら、詠も落ち着けよ、な?」

「あ、あぅぅ・・・」


しまいには涙目になってガタガタ震え出してしまう。

「詠・・・マジで大丈夫か・・・?」

「・・・ふ、ふー・・・だ、だだ大丈夫に決まってるじゃない・・・」

「・・・そっか。はは・・・」

「わ、笑うんじゃないわよ!」

「いや・・・なんか可愛くてさ・・・くく」

「な・・・!なな・・・」

あ、そろそろ詠の思考回路が切れる。


「そういえばさ。詠、そろそろ剣変えたいって言ってたろ?ほら」

詠にトレードで剣を渡す。

「え・・・?わ、わざわざボクの為に・・・?」


「プレゼントさ。たまにはいいだろ?」

「・・・あ、ありがとう」


「どういたしまして。・・・そだ、何なら試し切りに行くか?」

「え?・・・えっ、と・・・ま、まあ咲が行きたいなら・・・」

「はいはい。行こうぜ」

『・・・ご馳走様ッス・・・』


そんな感じで一日を過ごしたのだった・・・
























































亮~


・・・朝日が差し込む中、俺は自分の家のある部屋に入る。

「おはよう・・・サチ」


「・・・」


相変わらずサチは虚空を見つめ・・・何も発しようとしない。

「・・・やっぱり、現実は変わらない・・・か」

「亮さん・・・」

「亞莎・・・はは、弱気だよね、俺」

「いえ、亮さんは優しいから・・・そうやって皆を心配できるんですよ。それに、本当に弱気ならこんな世界にまで私達を助けに来てくれません」

「・・・ありがとう、気が楽になったよ」


「いえ・・・亮さんの助けになれたのなら、嬉しいです」

「・・・ん?」


その時、誰かが入り口を誰かがノックした。

「誰だ・・・?はーい!」

ドアを開くと・・・

「よっ」

「咲?どうしたんだいきなり」

「いや、前に整備代が掛かるって言ってたろ?だから俺の友達のとこに連れてこうかなってな」

「へぇ・・・あ」

亞莎を見ると・・・

「私は構いませんよ。行ってきて下さい」

「あ、うん。分かった・・・」

俺は用意すると言って、サチの前に立つ。

「・・・ごめんな。行ってきます」

「・・・」

俺は装備を整え、家を出る。


「お前・・・街中位フル装備じゃなくても・・・」

「うっせ。いいだろ別に」


俺は頭を掻きながら尋ねる。

「どんな友達なんだ?」

「普通の女の子だよ。わりと話しやすいし、お前も多分、意気投合すると思うぜ」

「ふーん。そういや、アスナはどうしたんだ?」


咲といたり、キリトといるとアスナと話す機会も多くなり、普通に名前を呼ぶようになった。

「いんや、今日は攻略に行くって」

「珍しいな、着いてかないのか?」

「・・・俺、“漆黒”だの“死神”だの“死霊使い”だの言われてるから、あちらさんに嫌われてるんだよ。つってもアスナと団長さんは事情を知ってるから、ただ単にKoBのメンバーといると空気が重くて重くて・・・」

「なるほどなぁ」

「そっちこそ、アホ兄貴はどうしたんだ?」

・・・何か知らんが咲はキリトが嫌いだなぁ。


「そういや・・・特に聞いてないな。俺はお前と違って常に一緒にいないし・・・」

「・・・あっ、そ」

そんな感じでやって来たのはリンダースだ。ここはそこそこのどかだ。

「へぇ、こんな場所が有ったんだ」

「まあな。わりと緑も多いし、結婚いい所だ・・・おっと」

咲が立ち止まる。

「ここさ」

“リズベット武具店”・・・そう書かれていた。


「リズー?」


「いらっしゃいませ」

「あれ?」


咲が首を傾げる。

「あれが友達?」

「いや、NPCだろどう見ても」

咲は頭を掻く。

「・・・っかしーな。約束はしたからな・・・」

「すっぽかされたとか?」


「リズはそんなことしないよ。・・・っと?」

咲がメニューを開き、何かを見る。

「何々・・・『ごめん!ちょっと用事が出来ちゃって・・・早く帰ると思うけど、ゆっくりしてくれていいから』・・・用事?」

「鍛冶屋なんだし、素材集めじゃね?」

「んー・・・リパル、リズの位置は?」

『今は・・・55層にいるッス』

「・・・そこって何かアイテムあったっけ」

俺が聞くと、咲は指を顎に当てる。

「・・・一応、クエストが一つ。ただ、攻略方が見つからなくて・・・って待てよ?リズのレベルじゃ一人で言ったとは・・・あれ?昨日ここにもう一本剣があったような・・・売れたのか?・・・うむむ・・・」


しばらく咲は唸ったあと・・・

「よし、追い掛けてみよう」

突拍子もないことを言い出した。

「はぁ!?」

「リズ一人だったら心配だし、変な野郎がいても心配だ。と言うわけで付き合え」

「・・・はいはい」

まったく・・・俺達は転移門に向かって歩いた・・・

 
 

 
後書き

「おお、出番きた」


「本当は俺一人らしかったけど、あまりにも短くなるんで亮を混ぜたんだと」


「どうだか・・・」


「さて、今回は殆どオリジナルだったわけで・・・」


「新婚夫婦やっただけだろ、咲」


「さあな?んじゃ、次回もよろしく!」


「・・・またな」 

 

剣〜

 
前書き
こ、今度は長すぎた・・・ではどうぞ! 

 
・・・何故こうなったのだろう。

「なあ、咲」

「んー?」

「どこだここ」

咲はため息を吐く。

「55層」

「知ってるよ。俺が言いたいのは、なんでこんなにフィールドを歩き回ってるのかって意味だ」

「仕方ないだろ?リズの反応はこっちからだし、何よりイベント起こす為には北にある村に行かなきゃならんし」

「はぁ・・・っと」

背後から襲ってきたモンスターを切り捨てる。


「ま、ここらのモンスターなら安全マージン余裕で取ってるし、大丈夫・・・よっ」

咲が真っ正面のモンスターを切り捨てる。


『息をするようにモンスターを倒すッスね』

「ここらじゃ楽勝だしよ。・・・まあ、状態異常とかがあるかもだから油断はできないけどな」


咲とリパルの会話を聞きながら、辺りを見渡す。ここの層は・・・かなり寒い。一応コートは着ているが・・・

「建業はこんなに寒くない・・・」

「洛陽は基本寒いぜ?」

「同じ中国でも気温違うしなぁ」

「蜀ら辺は安定してるよなぁ・・・でも、亮んとこは海あるし・・・マシじゃね?」


「まあなぁ・・・あと、亮じゃなくてコウハな」

「・・・忘れてたぜ」


こいつ、何時か俺の本名喋るんじゃなかろうか。


「気を付けろよな・・・そう言えば長年の付き合いだけど、俺達が一緒にいるの珍しいよなぁ」

「・・・だな。Fateは士郎の家。ネギまじゃ刹那や真名の部屋・・・まあ、俺はエヴァの家にいたりしたが・・・Angel Beatsは相部屋だったけど・・・それ以降はお互いバラバラだったしな」

『・・・凄い旅だったんスね』

「・・・ああ。あの時は俺も亮・・・コウハも地雷持ちだったし・・・何より、俺は死を受け入れてなかった」

『え・・・?』

「初めて人を殺した時・・・多少ブルッたけど・・・一瞬で慣れちまった。人の命を軽んじてる訳じゃないけど、それでも俺は・・・」

『でも、その時って咲さん達は15だったッスよね?そんなの・・・』

俺は口を開く。

「・・・そんな簡単じゃないさ。俺は錯乱して、結果的に思春に迷惑をかけて、明命を傷付けた・・・あの事は今でも鮮明に思い出せるよ」

殺意の塊。初めて人に突き立てた刃の感触。兜から覗く憎悪の表情・・・

「・・・」

「・・・平気か?真っ青だぜ・・・?」

・・・まったく、SAOはここら辺が細かすぎる。

「・・・気のせいだろ。演出がオーバーなだけさ」

『・・・すみませんッス。オイラが余計なことを言って・・・』


「リパルが謝る必要なんてないよ。俺は仲間の・・・いや、自分自身の為に剣を振るい、他者を殺し、生き延びてきた。・・・その事実は変わらないから」

『そんなの・・・!』

「だからこそ。俺は生きるよ。正直人を殺すのに戸惑う時はある。けど、俺は生きる為なら・・・仲間と・・・愛する者の為になら俺は・・・挫けない・・・必ず皆を・・・」

「ほれ、そこらにしとけ」

ぽこんと咲に頭を叩かれ、俺は前を見る。・・・目の前には親友のニヤリと笑った顔。

「回りくどいんだよ。単純に好きな奴、大切な家族の為に戦う・・・これでいいだろ」


「けど、それは・・・」

「人殺すのに明命達を引き合いに出すのは嫌ってか?・・・んなこと言ってたらキリないぜ?」

「・・・」

「あのな。結局、殺しは殺しだっての。・・・悩んでたら、死ぬぞ?」

「・・・そう、だな」

・・・たまにこいつのクールさが羨ましくなる。・・・ただの友達だったのに、いつの間にこんなに差がついたんだろ・・・

「ていや」

「はぐっ!?」

ズビシ、と咲に叩かれる。

「な、何すんだよ!?」


「お前、また何かウジウジしてたろ。顔で分かる」

「う・・・」

「・・・ったく。お前、頭良くないんだから下手に考えるとドツボにハマる・・・って前にも言ったな、これ」

「はは・・・そう、だな」


「・・・なあ、本当に平気か?」

「・・・何が?」

「お前の負担が大きい気がするんだよ。明命達の一件もそうだし、その・・・蓮華襲ったり・・・ごほん、それにテイルズでも相当だったらしいし・・・この世界じゃサチさんのこともある」

「・・・」

「不安なんだよ。俺は今、沢山の人に支えて貰っている。アスナやリズ・・・それに詠やリパルも・・・」

『咲さん・・・』

「だけどお前、必要以上に人との付き合いを避けてるそうじゃないか。フレンドリストだって十いってないんだろ?」

「そ、それは関係ないだろ。てかどっからそんな情報手に入れてんだよ!」

「お前の恋人から色々な」

「亞莎か~~・・・!」


顔を覆っていると・・・咲に肩を叩かれた。

「ま、何が言いたいかと言うとだな。何でもいいから悩み事あったらすぐ俺達に話せってこった」

「あ・・・」


「溜めるよりかは吐き出した方が幾らか楽になんだろ?」

「咲・・・」

「お前は一人じゃない。・・・それだけは忘れんなよ」

『咲さん、珍しく格好いいこと言ってるッス』

「珍しく、ってなんだ珍しく、って!」

「・・・」

俺は頬を掻く。

「・・・その・・・ありがと、な」

小さく呟くと、咲は笑った。

「どういたしまして。・・・にしても、ここら辺は意外に危ないな・・・」

よく見ると通路が崖っぷちだったり。気を付けないと落下しそうだ・・・

「・・・雪山か・・・」

「・・・そっちも思うとこあるのか?」

咲に言われ、そっちを見る。

「・・・ああ。テイルズの世界で雪山・・・の中の洞窟みたいな場所で椿に会ったんだ。そこで初めて、アイツと話せたんだ。好き好んで破壊者をやってる訳じゃないことも・・・」


「そうか・・・俺は二重の記憶喪失でな。五十嵐咲の記憶はあれど、アビスのサキの記憶はなくしたままだった。・・・だけど、敵の幹部と雪山で戦って・・・その時、記憶が戻って、更に相手の幹部が・・・実の姉だった・・・ショックが強かったな・・・あ、それとリパルと仲直りした場所でもあるな」

『あの時は、大変だったッスね』

「・・・じゃあ、この雪山には何があるんだろうね」

「・・・この世界には何処だって“何か”あるだろ」


「はは・・・まあな」


その時、咲が何かあったのかメニューを開く。

「あ・・・そう言えば詠に言ってなかったな・・・」

「(・・・亞莎に知らせておくか)」

俺もメッセージを亞莎に送る。返事は・・・“気を付けてください”の文字が目立って見えた。

「(・・・あ)」

待つのは・・・とても辛い事だ。それなのに俺は・・・何時も待たせてばかりだ。今だって・・・亞莎はこうして知らせられても・・・蓮華達は・・・

「・・・咲、必ず皆を連れて帰ろうな」

「へ?・・・あ、あぁ」

きょとんとする咲よりも速く進んでいく。頑張ろう、帰る場所へ帰る為に。約束を果たす為に。






















































咲~

あれからしばらくして、村に到着した。・・・なんか、途中から亮が色々考えが纏まったのかめっちゃ勢い良かったんが・・・

「んで、フラグ立てはどうするんだ?」

亮が聞いてくる。それに対して・・・

「・・・知らない」

「はぁ!?」

「し、仕方ないだろう?俺は武器系の素材いらないし・・・」

リパルが居れば基本的に事足りる。あくまで“ある”情報を得ているだけなので、フラグ立てまで興味が行かなかった。

「村長から話を聞けばいいのか、それとも+アルファで何か必要なのか・・・」

俺が考えながらリパルに聞く。

「リパル、リズの位置は?」

『今・・・フィールドに出てるッスね』

「・・・入れ違い?」


『・・・そうッスね。経歴は・・・まっすぐ村長の家に向かってるッス』

「よし、話を聞こう」

「はいはい・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・







「・・・よし!雪山に向かうか!」

「何事もなかったかのように言うなっ!!」

「・・・いや、まさかフラグ立てがあんな面倒だとは・・・」

何せ数時間も村長の武勇伝を聞かされたのだ。そりゃ色々やる気が削げる。

「・・・どうする?明日にしとくか?」

もう辺りは真っ暗で、てか数時間もすりゃ夜が明けるだろう。・・・どんだけ長話したんでしょうかあの村長はよ。

「いや、行こうぜ・・・フラグ立てしたんならドラゴン見にゃ気が済まない・・・」

明日にしたらリズも帰ってくるだろうし、ドラゴンと戦う理由はなくなる。


「・・・ここまで遅くなるなんてな・・・亞莎、心配してないかな・・・」

亮がメッセージを飛ばしているのを見て俺も詠にメッセージを飛ばす。

「よし!改めて行くぞ!」

「もう好きにしてくれ・・・」


「貫徹余裕だろ?コウハは」


「・・・そりゃ出来るけどさぁ・・・何度もやりたくねぇよ・・・」

・・・と言うことで山登りスタート。

「・・・オッルァ!!」

亮が刀を振り回し、モンスターを蹴散らしていく。

「おーい、ここら辺突きは効きにくいぞー・・・って聞いてないか」

クイックチェンジするのも面倒なのか、亮はイライラをぶつけるように刀で無双していく。・・・お陰で俺は楽なのだが。



「・・・ふぅ。リパル、リズの反応は?」

『はいッス!・・・・・・あれ?』

「リパル?」

・・・まさか。

『そ、その・・・追跡出来なくなったッス・・・』

「!!」

俺はすぐにメニューを開き、フレンドリストを見る。リズの名前には・・・・・・連絡不可の、グレー色。

「・・・嘘、だろ」



「咲、どうし・・・!?」

「リ、ズが・・・違う、まさかそんな・・・だ、だってさっきまで・・・あ、あ・・・」




「咲・・・!?おい!咲!」

亮に肩を掴まれ、我に返る。

「どうしたんだ?いきなり・・・」

「リズの・・・リズの反応が・・・どうしよう・・・どうしよう・・・」

「咲・・・?と、とにかく、もしかしたら追跡不可エリアに入ったのかもしれないだろ?」

「か、確認に・・・!」

転移結晶を取り出して・・・亮に腕を掴まれた。

「落ち着けって!わざわざ黒鉄宮に行くだけで転移結晶を・・・」

「俺にとっては大事なことなんだよ!リズは・・・リズは大事な友達なんだ・・・!」

「・・・分かった。じゃあキリトに頼もう。・・・あ・・・!?」


亮が小さく声を上げる。

「・・・どうした?」

「・・・キリトも、連絡不可だ」


「・・・」

頭が混乱して思考が纏まらない。亮の声も、リパルの声も聞こえない。

「・・・」

その時だった。メッセージが・・・アスナから届いた。

「アス、ナ・・・?」

メッセージの内容は・・・リズと連絡が取れないこと。俺が何か知らないかと言うこと。そして・・・黒鉄宮には、まだ斜線は引かれていない・・・ということ。

「・・・生き、てる・・・」

俺は息を吐いて・・・その場に座り込んでしまう。

「咲!?」

亮がすぐに俺を見てくる。

「・・・大丈夫・・・捜そう、きっとここら辺にいる筈だから・・・」

・・・ったく、亮に色々言っておいて・・・情けない。


「・・・咲!」

亮が叫び・・・曲刀を手にする。・・・そしてすぐに巨大なドラゴンが舞い降りてきた。

「コイツが・・・!」

こんな時に・・・!俺は方天画戟を手にとる。

「ダラッ!」

俺は槍単発ソードスキル《クレイモア》を発動し、叩き付ける。

ガキャア!

「くっ・・・」

だが大したダメージは通らない。

「だったら・・・!」

亮が跳び、連続で二回蹴ってから逆手に持ち直した曲刀を叩き付けた。

「どうだ・・・体術剣術複合ソードスキル《ビーストファング》の威力は・・・」

こちらは効いたようで、ドラゴンのHPバーが目に見えて減少した。


「・・・待て。このドラゴン、大分HPが減ってないか?」

「・・・そう言えば・・・っと!」

ガキィン!

鈎爪の一撃を弾き、亮は着地する。

「・・・ってことはリズか・・・?いや、違う・・・」


その時だった。不意にドラゴンがブレスを吐いてきたのだ。

「くっ!」

方天画戟を回転させ、それを弾く・・・するとドラゴンは咆哮し、空を飛ぶ。

「うわっ・・・モン○ンやってる気分だ・・・」

「コウハ、それと比にならないから、これ」

ドラゴンが飛び去っていく。それを見詰めていると光が視界を染めた。・・・夜明けだ。

「アイツ、何処いく気だ?」

「ドラゴンは夜行性って聞いたから・・・巣に戻った・・・とかかな?」



取りあえず追ってみて・・・ドラゴンは巨大な穴に入っていった。

「ここが・・・巣?」

「きっと幾ら倒されてもこっから復活するんだろーな・・・」

とにかく、帰ってくれたならそれでいい。リズを探しに・・・

「・・・咲?」

「・・・ん?」

「さっきのドラゴン・・・凄い勢いで戻ってくるんだけど」

「・・・え゛」

ビュオオオオン!!

「うわああああ!?」

風圧で吹き飛ばされ、頭から雪に突っ込んだ。

『さ、咲さん!大丈夫ッスか!?』

「あ、ああ・・・一割削れた・・・」

「着地くらいしろよな」

亮は涼しい顔で立っていた。一言文句を言ってやろうとした時・・・

「イエーーー!!」

空から声が聞こえた。見上げると・・・

「・・・リズ!?」

「・・・兄貴!?」

行方不明者二名が空を飛んでいた。

「お、親方!空から女の子が!」

「誰が親方だ!!つか行くぜ!」

二人は雪の上を滑走し、着地した。

「キリト!」

「・・・コウハ!?」

「リズ!・・・よかった、無事だったんだ」

「サキ!?え、どうして・・・」

そのまま俺達は帰る・・・途中。

「まったく・・・心配したんだからな」

「たはは・・・ごめんごめん。ちょっとドラゴンの巣に落ちちゃってさ・・・」

「・・・つかリズ。何でキリトと一緒にいるんだよ」

「え?ああ、そのオーダーメイドを頼まれてね。クリスタライト・インゴット・・・金属を取りに来たのよ」

「・・・なるほどね。アイツに変なことされなかった?」

「変なことされてたら、今頃キリトはここにいないと思うけど?」

「・・・仰る通りで。・・・ま、リズにちょっかい出す気はないだろ。リズもアイツに惚れたりすんなよー」

「惚・・・!?」

リズの顔が赤くなる。・・・え?

「・・・マジ?」


「・・・(こくり)」

「(・・・う、嘘だろ・・・)」

いや、だって。言いたくないが、アスナも最近会話の主語に“キリト君”が多い。つまり・・・アスナも・・・ってことは何か?修羅場か?鈍感一名に対するアタック?まてまてまてまて、落ち着け。・・・なんて思考を混乱させている内にリズの店に到着し・・・俺は店に入らず立ち尽くす。

「(ど、どうする?リズに言うか?いや、でもそうしたらリズが・・・でも結局どっちかはキリトに・・・ああああ!?)」

『咲さん!ストップ、ストップッス!思考回路がショートしてるッスよ!』

「うぐぐ・・・」

「サキ?」


「え・・・」

振り返ると・・・アスナがいた。

「ア、アスナ・・・」

「お店が開いてる・・・よかったぁ、リズ帰ってきたんだ」

アスナは店に入ろうとする。

「あ、ちょっ!」

止めるのも間に合わず、ほぼ駆け足でアスナは奥の工房に行く(亮は店の武器を眺めていた)

「アスナ、まっ・・・」

「リズ!!心配したよーー!!」

「あ、アスナ・・・」

・・・間に合わなかった。二人が会話していて・・・

「リズが一人でダンジョン!?」

「ううん、あの人と・・・」

「き、キリト君!?」

「ええ!?」


あああ、最悪だ。

「や、アスナ。久しぶり・・・でもないか。二日ぶり」

「う、うん。・・・びっくりした。そっか、早速来たんだ。言ってくれればわたしも一緒したのに」

・・・そしてリズは見てしまった。キリトと話すアスナの顔を。笑顔で、少しだけ赤くなっているその顔を・・・一瞬、悲しげな表情をリズは浮かべたが・・・アスナに話し掛けられるとすぐ笑顔に戻る。


「・・・」

するとリズはアスナを連れて裏通りに向かっていった。俺はキリトを睨み・・・

「・・・何でお前は何時も・・・このアホ!」

「な、なんでいきなり罵倒するんだよ」

それに答えずに俺は、裏通りにあるオープンカフェに向かい、二人を発見する。

「・・・どうしたの、リズ・・・?」

カフェの陰からそのまま二人の会話を聞く。・・・聞き耳スキルなんて持ってないので不安だったが・・・平気なようだ。

「あの人なんでしょー」

リズの明るい声。だが、さっきの顔を見たせいで・・・それが演技にしか聞こえなかった。

「え、ええ?」

「アスナの、好きな人!」

「あ・・・・・・・・・うん」


・・・

『痛いッス!咲さん、両手は不味いッスー!』

「(あ・・・悪い)」

気がついたらリパルをあの二つに割るアイスの要領で握り締めていた。

「確かに、変な人だね、すごく」

「・・・キリト君、なにかした・・・?」

「あたしの店一番の剣をいきなりヘシ折ってくれたわよ」

余罪判明。あの野郎・・・ガチでシバくか。リズはとにかく明るい声で経緯をアスナに説明していく。そして・・・

「まあ、ヘンだけど悪い人じゃないわね。応援するからさ、頑張りなよ、アスナ」

「う、うん、ありがと・・・」

「・・・あ、いっけない!あたし、仕入れの約束があったんだ。ちょっと下まで行ってくるね!」

走り出す音。俺は反射的に飛び出していた。

「え、サキ?」

「ちょっとリズを追い掛けるよ。一人じゃ心配だし」

「あ、うん。・・・って今の話を聞いてたの!?」


「え・・・あー・・・その話は後で!」

「ちょっと、サキ!?」

・・・ああ、こりゃ盗み聞きした罰は説教かな。そう思いながら俺はアスナの視界から逸れる・・・カフェの死角の場所に急ぐ。そこに・・・


「うぐっ・・・うっ・・・」

・・・リズがいた。物陰に隠れるように、泣いていた。

「リズ」

声をかけるとリズの身体がビクッ、と反応する。

「サキ・・・何で来たの・・・こんなの、見られたくないのに・・・」

「友達を放ってはおけないよ」

俺はリズの隣に座る。

「・・・あたし、ね。キリトに・・・牽かれたの。一日あいつと一緒にいて・・・」

「・・・うん」

「でもね、アスナもあの人が大好きで・・・あたし、頭が真っ白になっちゃって・・・う、うぅ・・・」


「いいよ、俺で良かったら幾らでも吐き出して」

「う・・・うわぁぁ・・・!わぁぁん!」

リズが俺に飛び付き、泣きじゃくる。・・・そして・・・


「・・・落ち着いたか?」

「・・・うん」

リズは少しだけ笑う。

「・・・何かすっきりした。ありがとね、サキ」

「いや・・・まあ、あれだ」

「?」

「どうせリズはアスナが傷つくから・・・とか思ってるんだろうけど・・・そうだな、アニメだかゲームだかで聞いたんだけど、“友情で壊れる愛情は真の愛情じゃないし、愛情で壊れる友情は真の友情じゃない”」

「・・・え?」

「要するに、親友なら遠慮すんなってこった。それともキリトへの恋は勢いの恋か?」

「それ、は・・・」

すぐに否定しない・・・ということは完全に惚れたのだろう。・・・相手がキリトなのはアレだが。

「ま、失敗したらドンマイで。リズならもっとモテるだろうしな」

「変な慰めね。・・・でも、ありがとう、サキ」



俺は立ち上がり、背伸びする。

「・・・どうする?」

「もう少しだけ・・・気持ちを落ち着かせなきゃ、アスナやキリトに会えないよ・・・」

「・・・そっか。じゃあ俺は戻ってるから。落ち着いたら飯食いに行こうぜ」

「・・・うん」

俺はその場から離れた・・・時、目の前に元凶がいた。

「げ・・・」

俺を見るなりキリトはそう言う。

「げ・・・とはご挨拶だな。・・・リズなら向こう、用があるならとっとと行け。あと・・・」

俺はキリトに近づき一言。

「次、余計なことしたら・・・アインクラッドから放り捨てるからな」

「わ、わかった」


そのまま行こうとするが・・・ふと、気付いた。

「そういや、リズに何を造って貰ったんだ?」

「あ、ああ・・・」

キリトはメニューを操作し、一本の剣を取り出した。

『「あ・・・!」』

俺とリパルは同時に声を出す。だってその剣は・・・

「ダーク、リパルサー・・・」

「え、何で知ってるんだ?」

そりゃ、ずっと前からその武器を知ってるからだ。リパルと違い、その刀身や柄は白く輝いている。そうだ・・・あの時も・・・こんなに輝いていたな・・・

「・・・どうした?」

「いや・・・何でもない」

今度こそ俺は離れる。

「リパル・・・あれ、お前だよな」

『そうッスね・・・オイラと同一の剣。暗闇を払うもの・・・』


「・・・やっぱり、リパルはこの世界が故郷でもあるんだな」

『そうッスかね・・・』

「ま、アレがダークリパルサーなら性能はいいだろ。ほら、行くぜリパル」


『ッス』


・・・それから、盗み聞きした罰でアスナと約束でリズとに飯を奢って帰った。・・・・・・・・・そして・・・時は今・・・ゲームスタートから二年・・・始まりへと戻っていく・・・



 
 

 
後書き

「随分パニクったね、今回」


「うるせぇ。つかお前のアホ兄貴を何とかしろっての」


「・・・無理」


「おい・・・」


「だって俺らも人のこと言えないし」


「うぐ・・・」


「それじゃ、次回もよろしく!・・・ようやく一巻に戻るな」

 

 

デートしてくれま・す・か〜

 
前書き
やっと一巻に戻ってきました・・・タイトルに深い意味はありません。ではどうぞ! 

 
・・・・・・回想ついでに昔話もして、俺達は時間を潰した。


「色々あったな」

咲がそう呟く。リパルと詠も同感のようだ。


「サキー?コウハ君ー?ご飯出来たよー」

アスナの声が聞こえ、俺達は食事の席に着く。


「それじゃあ・・・頂きます」

「「頂きます!」」

「この兄弟は・・・頂きます」


とか言いつつも咲は咲でガツガツとラグー・ラビット入りのブラウンシチューを食べていた。そしてあっという間にシチューを食べつくし、後には空の鍋と皿だけ。・・・今日ほど味覚再生エンジンに感謝した日はないだろう。


「ああ・・・今まで頑張って生き残っててよかった・・・」

「アスナ・・・」

満足げなアスナに咲は苦笑する。キリトはキリトでうんうんと頷いている。俺達はアスナからお茶を貰う。


「不思議ね・・・なんだか、この世界で生まれて今までずっと暮らしてきたみたいな、そんな気がする」


「・・・俺も最近、あっちの世界のことをまるで思い出さない日がある。俺だけじゃないな・・・この頃は、クリアだ脱出だって血眼になる奴が少なくなった」

「・・・確かに、ね。みんな、この世界に馴染んできているんだと思う」

俺はそう言いながらも・・・色々と考えていた。

「でも、わたしは帰りたい」

アスナは微笑みながらそう言う。

「だって、あっちでやり残したこと、いっぱいあるから」

「ああ、必ず・・・帰らないとな」


するとキリトは何か言おうとアスナを見た時・・・

「あ・・・あ、やめて」

「な、なんだよ」

「今までそういうカオした男プレイヤーから、何度か結婚を申し込まれたわ」

「なっ・・・」

アスナの不意打ちにキリトは何も言えず、ただ口をぱくぱくさせる。そんなきりを見てアスナは笑う。

「その様子じゃ他に仲いい子とかいないんでしょ君」

「女性のフレンドなんてシリカとリズくらいだもんね、兄貴」

「悪かったな・・・いいんだよソロなんだから」

「兄弟揃って友達少ないのな。・・・一応MMORPGやってんだし、友達作ればいいのに」

そんな時・・・アスナがふと口にした。

「君達は・・・ギルドに入る気はないの?」

「え・・・」

「・・・っ」

キリトが言葉を詰まらせ、俺は思わずびくっ、と身体が跳ねた。

「アスナ」

「え・・・どうしたの、サキ?」

アスナを真剣な表情で見てから・・・サキは息を吐いた。

「コイツら引きこもり組じゃん?自分からじゃなくて、誰かに引き取ってもらわないと」

「サキ・・・」

あの出来事を知っているサキは・・・俺たちを庇ってくれたのだろう。

「そうそう。それに、パーティーメンバーってのは、助けよりも邪魔になることのほうが多いし、俺の場合」

キリトはそのまま話題を終わらせようとしたのだが・・・一言多かった。

「あら」

ヒュン、と目の前を何かが通り、キリトの目の前にアスナが突き出したナイフがあった。・・・ろくに反応出来なかったんだけど。

「・・・解ったよ。あんたは例外だ」

「そ」


アスナはそのままナイフを指で回しながら・・・キリトと咲にとってはとんでもない事を言い出した。

「なら、しばらくわたしとコンビ組みなさい。ボス攻略パーティーの編成責任者として、君がウワサほど強いヒトなのか確かめたいと思ってたとこだし。わたしの実力もちゃんと教えて差し上げたいし。あと今週のラッキーカラー黒だし」

「「な、なんだそりゃ!」」

キリトとサキがそう叫びながら・・・

「んな・・・こと言ったってお前、ギルドはどうするんだよ」

「うちは別にレベル上げノルマとかないし」

「じゃ、じゃああの護衛二人は」

「置いてくるし」

「さ、サキだって黒・・・」

「明日リズと用事があるんだって」

「あ・・・」

サキがそれを聞いて顔をしかめる。コイツとしては一日だけでも二人きりは避けたいのだろうか。

「最前線は危ないぞ」

キリトが口を滑らせ・・・まあ、再びナイフが煌めいて、キリトは了承せざるを得なかった。

「・・・素直にデートして下さいって言えばいいのに(ボソッ)」

「・・・っ!?」

ガツン、とアスナに脛を蹴られる。・・・今の勢い、現実でやられたら数分悶えていただろう。

「・・・」

ふと思った。・・・茅場晶彦はこんな世界を作りたかったのだろうか・・・分からない。そして翌日・・・
















































「・・・んで、何をやってんだ?咲」

咲に朝早くたたき起こされ、キリトとアスナの待ち合わせ場所(から離れた位置)に連れてこられて来た。


「つか、リズと用事あったんじゃないのか?」

「・・・まあ、事情を話したら了承を得られたよ」

「・・・ったく。こっちはシリカと約束があるんだけどな・・・」

シリカとは珠にメッセージを飛ばしあう・・・所謂メル友みたいな感じになっていた。

「メッセージなんて何時でも飛ばせんだろー?」

「・・・まあ、こっちも平謝りして許してもらったから、今日はフリーだけどさ」


『ほんと、アスナが関わると面倒ね・・・』

『まあ、仕方ないッスよ・・・』

二人も苦労しているようで・・・っと?

「あ・・・」

何故か転移門からアスナが飛んできて、転移門の前に立っていたキリトと激突。・・・そしてラッキースケベ。

「・・・(イラッ)」

隣にいる親友の苛立ちが高まるのが見ずとも分かった。・・・ん?

「あれってアスナの・・・」

「クラディール?何でアイツが・・・」



紅白の服を来た男がアスナを追い掛けて来たのか転移門から現れる。そしてやや乱暴気味にアスナの腕を掴み・・・

「・・・こりゃ、出てった方がいいかな。咲・・・あれ?」


背後にいた筈の咲がいない。

「(ひそひそ)なあ、あのプレイヤー物陰で何やってるんだ?」

「(ひそひそ)街中であんな重装備で・・・オレンジギルドの連中かしら?」

「え・・・ちょ」

何故・・・こうなった。





























咲~

「聞き分けのないことを仰らないでください・・・さあ、本部に戻りますよ」

アスナの腕を無理矢理引いて連れていこうとするクラディールの腕を・・・キリトと同時に掴んだ。
「「あ」」

思わず行動が被ってしまい、キリトと俺は固まるが・・・すぐにキリトが口を開く。

「悪いな、お前さんのトコの副団長は、今日は俺の貸し切りなんだ」

「貴様ァ・・・!」

化けの皮剥がれるのはぇーなコイツ。

「取りあえずその汚い手をアスナから離せよ、クラディール」

「・・・!貴様・・・何時もアスナ様に付きまとっている漆黒の!」

「いいから離せっつってんだよ。・・・それと、前々からアスナの後付けてたんもお前か」


「・・・貴様こそ、アスナ様の身の回りを彷徨き・・・!」

「悪いけど俺がアスナといるのはアスナ本人とおたくの団長の合意なんでね。てか、アスナの周りをチョロチョロと・・・アンタはまるで餌に集るゴキブリか何かか?」

「なにぃ・・・?」

クラディールは離れるとメニューを操作し・・・俺にデュエルを挑んできた。

「・・・ったく、口で返せないから実力行使・・・ってガキかよ」

「黙れ!すぐにその減らず口を塞いでやる!」

「おい、サキ。ギルドのメンバーは・・・」

「平気だよ。団長には俺から伝えとく。・・・リパル、やれるな?」

『何時でも!』

「ふっ・・・いい返事だ」

俺はデュエルを受け、クラディールから離れた位置に立って方天画戟を構える。周りには騒ぎを嗅ぎ付けたギャラリーが大勢集まってきた。

「さて、と」

眼前には試合開始までのカウントダウン。クラディールはやたら装飾が綺麗な両手剣を構えている。デュエル形式は“初撃決着モード”・・・簡単に言えばクリティカルを当てたもん勝ちという事だ。


「・・・」

『咲さん、どうするッスか?』

「アイツの鼻っ柱へし折る。・・・いいよな?」

『咲さんに身を任せるッス』

「OK。・・・始まる」


カウントがゼロになると同時にクラディールは勢い良く突進系のスキルを使用してくる。

「(・・・単調)」

それをかわすが、スキルによって距離を開いたクラディールが再び同じスキルを使用してくる。・・・あの距離を詰めるなんて、便利だな。

「っと」

それもかわすが、軸足がぶれる。

「貰ったァ!!」

横目で見たクラディールの顔はやたら狂気に歪んでいた。

「(・・・おあいにく様)」

俺は地面についている方の片足に力を籠め・・・跳んだ。

「・・・っ!?」

勝ちを確信していたクラディールは、一撃が空を切った事に同様して・・・反応がおくれた。

「上だ、ばーか」

「っ!?」

空中で後ろに一回転。そのまま両手で逆手に持った方天画戟を振り下ろしながら落下する。

ガァァァン!!

クラディールの防御ごと吹き飛ばし・・・強攻撃の判定が入り、俺の勝利が決まる。

「《ムーン・クレーター》・・・まさか単純に引っ掛かるとはな」

簡単に言えば某RPGのジャンプと同効果だ。

「同じスキルを二回使って、俺を倒せると思ったか?・・・護衛ってのは弱くても務まるんだな」

「ぐ・・・き、貴様・・・この・・・」

おーおー、怒ってる怒ってる。俺はキリトをちらっと見て・・・

「じゃあ、チャンスをやるよ。そこにいるキリトに勝てたら・・・今の勝負もお前の勝ちでいいし・・・土下座でもなんでもやってやるよ」

「は!?俺!?」

「そ。負けたら・・・分かってるよな?」

「勝手に賭けといてなんだよそれ・・・」

・・・と言いながらキリトもやる気満々のようだ。

「おい!今度はあのキリトとやるみたいだぞ!」


「マジ!?さっきの漆黒も凄かったよな!」

「ああ!黒いのが連続だ!もっと凄いのが見られるかもしれないぜ!」

ギャラリーが倍近い人数集まる。最前線の層だ。観光客だって大量だし、攻略組もいる。大体は攻略組が有名人の戦いを見に来て、野次馬根性抜群の観光客が集まる・・・んで、その場で二連続で負けたら・・・しばらく立ち直れないだろう。


「(・・・でも、キリトで平気かな)」

キリトは俺よりレベルは高いが・・・対人戦なら数レベルの差は埋められる(モンスター相手でもそうだが)・・・と思ったが杞憂だったようで、キリトはクラディールの武器を“武器破壊”で壊し、クラディールを降参させた。それでさえ屈辱なのに、アスナに護衛解任を言い渡され・・・凄い表情を見せて本部に帰っていった。

「いや、予想外にナイスだな、キリト」

「・・・サキ?」

背後から声をかけられ、固まる。

「・・・どうしてここにいるのかしら?」

「・・・め、目元が笑ってませんが・・・」

久々だよ、笑ってるのに笑ってない表情。

「リズとの約束は?」

「事情を話して納得して貰いました・・・」

「何で着いてきたの?」

「その、心配でして・・・」

「何か言う事は?」

「・・・ごめんなさい」


アスナの迫力に圧され、逃げようとしたら・・・

「さぁ~きぃ~・・・!」

・・・亮が凄い表情で来た。

「先に行くなよ!不審人物扱いされたろ!?運悪く俺の事知らない観光客ばっかだったし!」


「あはは・・・いや、悪い悪い」

「あのな・・・!」

「コウハ君も・・・?」

亮の顔が強張る。

「わ、悪いアスナ。咲に無理矢理連れてこられたんだ!」

「あ、テメ!なに逃げて・・・!」

アスナは・・・ため息を吐いた。

「・・・えと、ごめん」

「・・・もう、いいよ」

結局俺達も着いていく事になったが・・・まあ、距離は置く事になりました・・・








































亮~

なんだかんだで迷宮区。・・・それなりに苦戦するかな、と思ったが・・・

「やあっ!」

アスナの連撃で骸骨のモンスターのHPが減少する。しかも攻撃を全て回避するなど、二年前まで一般人だったことを考えると凄い能力だ。

「キリト君、スイッチ行くよ!!」

「お、おう!」

一言で言うなら“美しい”といった感じか。まるで思春を見てるようだった。キリトも若干見惚れながらもアスナと協力してモンスターを倒す。・・・解ってくれたと思うが・・・

「・・・暇だな」

「・・・ああ」

俺らの空気具合が酷い。着いてくる必要は絶対なかったと思う。アスナにとっちゃ俺達はお邪魔虫に近いだろうし。


「(・・・まあ、でも)」

お隣の御友人の心配性っぷりが素晴らしいので、付き合うことになったのだ。・・・やれやれ。・・・そんな感じで進んでいたら、大きな扉が目に入った。

「・・・これって、やっぱり・・・」

「多分そうだろうな・・・ボスの部屋だ」




「・・・どうする?覗いてみる?」

俺の言葉に咲が頷く。

「入ってすぐ逃げれば大丈夫だと思うから・・・俺達が先に行くぜ。いざって時は転移結晶使えばいいしな」

ボスモンスターはその自身が存在する部屋からは出ない。・・・取りあえず俺達は転移結晶を手に持ち、扉を開く。

「開けるよ・・・」

・・・先の空間は真っ暗。何も見えない・・・と思った時だった。いきなり炎が灯り・・・俺達の数倍は巨大な・・・デーモンのようなモンスターが姿を現した。名前は・・・えと・・・


「グリーム・・・アイズ・・・」

・・・ええと、輝く目、か。・・・次の瞬間、恐ろしい程のスピードでグリームアイズは走ってきた。

「「「うわああああ!」」」

「きゃあああ!」

その迫力に揃って悲鳴をあげ・・・一人だけ足が遅い咲を無視して走り続けた・・・・・・

「置いてくなーーーッ!!」

まあ、部屋からは出たから大丈夫だろう。・・・ガチで死ぬかと思ったよ・・・


 
 

 
後書き

「一巻よ、私は帰ってきたぁぁぁ!」


「・・・いきなりどしたよ」


「ガンダムの格好いい敵の一人」


「いや、知ってるよ」


「俺、ワンオフ機より量産機の方が好きなんだけど、ガトーはワンオフ機でも違った良さがあるよね」


「あー、お前ってガンダムよりもジムとかザクが好きなんだよな」



「そ。グフとか格好良いよね」



「・・・なんでいきなりガンダム対談?」


「作者がガンダム好きだから」


「00までしかみてないのにな」



「しまいには一時期ガンダムの二次書こうとしてたし」


「挫折したんだな・・・」


「作者のお勧めは08小隊だそうだ。あとポケットの中の戦争」


「一年戦争かい・・・」


「友達にガンダム好きが少ないんだと。だから染めてるらしい」


「・・・後少しで高三になる奴が何を・・・」


「では、また次回もよろしくー」


「いきなり終わったな・・・では!」 

 

明かされた事実〜

 
前書き
あっはは・・・やっちゃったぜ(笑)ではどうぞ! 

 
俺達は一心不乱に安全エリアまで駆け抜けた。・・・そして座り込むとお互いに笑いだす。

「あはは、やー、逃げた逃げた!」

「・・・三人揃って人を置いてきやがって」

「敏捷度上げなかったお前が悪い」

「・・・」

俺が言うと咲は俯く。

「こんなに一生懸命走ったの久しぶりだよ。まぁ、わたしよりもキリト君の方が凄かったけどね!」

「確かに。兄貴が一番速かったよね」

「・・・」

俺達はそこで真面目にさっきのモンスター・・・グリームアイズについて考察する。

「武器は大型剣・・・だけだったよね・・・てことは特殊攻撃あるよな・・・」

「前衛に重装備集めるっきゃないな。全力防御なら死ぬ可能性も低いだろ」


「盾装備の奴が十人は欲しいな・・・まあ、当面は少しずつちょっかい出して傾向と対策って奴を練るしかなさそうだ」

「盾装備、ねえ」

キリトの言葉にアスナが反応し、キリトを見る。


「な、なんだよ」

「君、なんか隠してるでしょ」

「いきなり何を・・・」

「だっておかしいもの。普通、片手剣の最大のメリットって盾持てることじゃない。でもキリト君が盾持ってるとこ見たことない。わたしの場合は細剣のスピードが落ちるからだし、スタイル優先で持たないって人もいるけど、君の場合はどっちでもないよね。・・・あやしいなぁ」

・・・確かにキリトは盾を装備しない“理由”がある。アスナはそこで追求を止めて、お昼にしようと言い出した。


「て、手作りですか」

「兄貴。・・・意地汚い」

「う・・・」

アスナは大きな紙包みをキリトと・・・俺達に渡してきた。

「へ?俺達の分も?」

「多めに作ってきたから、遠慮しなくていいよ」

「さっすがアスナ。いっただきまーす」

紙包みを開くと、中にはパンをスライスして焼いた肉や野菜を挟み込んだハンバーガーのようなサンドイッチが入っていた。


「(・・・流石料理スキルをマスターした人だよ・・・)」

一口かじると・・・懐かしい味がした。

「う・・・うまい・・・」

キリトもそう言いながら更にかぶり付く。・・・あれだ、ランランルーなファーストフード点の奴と似た味だ。


「・・・アスナ、どうやってここまで再現を・・・」


俺が聞くとアスナは自信満々に答える。

「一年の修行と研鑽の結果よ。アインクラッドで手に入る約百種類の調味料が味覚再生エンジンに与えるパラメータをぜ~~~んぶ解析して、これを作ったの」

「おぉ・・・」

話を聞くにアスナはソース、マヨネーズ、醤油まで“もどき”を作り出していた。キリトはそれをべた褒めしてアスナを照れさせたりして・・・咲に睨まれていたりした。




「・・・っ、誰か来る」

俺達は身構えるが・・・現れた人影は見慣れた人物だった。

「おお、キリト、コウハ!しばらくだな」

「まだ生きてたか、クライン」

「元気そうで何よりだよ」

「相変わらず兄弟で態度がちげぇよなぁ・・・お、珍しく連れがいるの・・・か・・・」

俺と同じくカタナ使いのクラインは背後にいた咲とアスナを見て固まった。

「あー・・・っと、ボス戦で顔は合わせてるだろうけど、一応紹介するよ。こいつはギルド《風林火山》のクライン。こっちは《血盟騎士団》のアスナ・・・とサキだ」

「人をオマケみたいに・・・」

クラインはフリーズから解けると同時に必要ない自己紹介(年齢込み)をして、風林火山の面々もアスナに近寄り自己紹介・・・の前に咲に睨まれ一歩下がる。

「ま、まあ悪い人では・・・ないよね?」

「ああ、リーダーの顔はともかくな」

そんな事を言ったキリトの足をクラインは踏みつける。・・・まあ、色々アスナがキリトとパーティー組むだのなんだの言ってクラインが噴火しかけたり・・・そんな時だった。

「キリト君、《軍》よ!」

すると二列縦隊の重装軍団が現れた。先頭にいた男が“休め”と言うと残りの十一人は倒れるように座り込む。・・・誰だ、こいつ。

「私はアインクラッド解放軍所属、コーバッツ中佐だ」

「は・・・」

まさか、《軍》は揶揄的につけた呼称だったのだが・・・何時からか正式名称になってたようだ。しかも中佐だ。・・・思わず笑いそうになってしまう。

「君らはもうこの先も攻略しているのか」

「・・・ああ。ボス部屋の手前まではマッピングしてある」

「うむ。ではそのマップデータを提供して貰いたい」



・・・キリトの言葉にラグなしでコーバッツはそう言った。それにはクラインが真っ先に反応した。

「な・・・て・・・提供しろだと!?手前ェ、マッピングする苦労が解って言ってんのか!?」

マップデータはかなり高額で取引されている。何があるのか知っていると知らないのでは生存率が段違いだからだ。

「我々は君ら一般プレイヤーの解放の為に戦っている!諸君が協力するのは当然の義務である!」

「・・・だったら普段から攻略しろよな・・・(ボソッ)」

咲がコーバッツに聞こえないように呟く。爆発しそうになったアスナとクラインをキリトが抑え、結局マップデータを渡した。


「協力感謝する」

「ボスにちょっかい出すならやめといた方がいいぜ」

「・・・それは私が判断する」

・・・キリトの忠告を聞かない気か。

「あに・・・キリトの言うとおり、ありゃヤバイよ。それに・・・仲間も疲れてるじゃないか」

この世界に肉体的疲労はなくても、精神的疲労はある。・・・軍の面々は全員疲れはてていた。

「・・・私の部下はこの程度で音を上げるような軟弱者ではない!」

「うわ・・・バカだこいつ」

「貴様らさっさと立て!」

文句の一つも言いたいだろうに、兵達はのろのろと立ち上がる。そして再び規則正しく前進していく。

「・・・大丈夫かよあの連中・・・」

「いくらなんでもぶっつけ本番でボスに挑んだりしないと思うけど・・・」

クラインとアスナは軍の事が心配なようだ。
・・・まあ、確かにあの勢いじゃなあ・・・

「・・・一応様子だけでも見に行くか・・・?」

キリトがそう言うと全員頷く。キリトは苦笑しながら装備を整え歩き出す。

「あー、そのぉ、アスナさん。ええっとですな・・・アイツの、キリトのこと、よろしく頼んます。口下手で、無愛想で、戦闘マニアのバカタレですが」

「あ、うん。弟からも頼むよ。兄貴にもしっかりした人がいないとねー・・・ぐぇっ」

勢い良く戻ってきたキリトにコートを引っ張られる。

「な、何を言っとるんだお前らは!」

「だって・・・」

「・・・なあ?」

全員がにやにやと笑い、キリトはそのまま口をひん曲げて歩き出す。・・・アスナは俺達に任されました、と言って歩き始める。
























































「・・・く・・・」

運悪くリザードマンの集団に遭遇してしまい、結局俺達(風林火山のメンバーを含め)十人が最上部に到着した時には既に三十分が経過していた。・・・その時だ。

「あぁぁぁぁぁ・・・」

悲鳴だ。俺と咲が一足早くスタートを切るが、あっさり咲はキリトとアスナに抜かされ、三人が先行する形になった。・・・そして、先程見た扉が開いているのを見て・・・

「バカッ・・・!」

アスナが悲痛な叫びを上げ、更に速度を上げる。俺達はシステムアシストギリギリの速度で走り、扉の前で火花を散らしながらブレーキをかける。・・・ブーツの耐久値がかなり削れただろうが、気にしてはいられない。

「おい!大丈夫か!」

キリトが叫びながら半身を乗り入れる。内部は・・・地獄だった。グリームアイズは巨剣を振り回していた。そのHPはまったく減っていない。その向こうで必死に逃げる小人・・・軍だ。・・・数は、さっきより二人足りない。そして一人が巨剣に凪ぎ払われ、HPが危険域に到達した。

「何をしている!早く転移アイテムを使え!!」

キリトの叫びが聞こえてこちらを見るが・・・


「だめだ・・・!く・・・クリスタルが使えない!!」

「な・・・」

まさか・・・“結晶無効化空間”!?迷宮区なら稀に存在するが・・・まさか、ボス部屋にまで・・・

「くそ・・・肝心な時に使えないな・・・畜生!」

思わず悪態をつく。

「何を言うか・・・ッ!!我々解放軍に撤退の二文字はあり得ない!!戦え!!戦うんだ!!」


「バカ野郎!とっとと逃げろ!」


「全員・・・突撃・・・!」

「やめろ・・・っ!!」

叫びは届かず・・・無謀な攻撃は蹴散らされた。当たり前だ。味方にソードスキルが当たりそうでろくに使えない。だが相手は一体でしかも巨剣・・・すぐに誰かが俺達の目の前に弾き飛ばされた。・・・コーバッツだ。HPバーは・・・存在していない。


ーーーあり得ない

そう口を開き・・・コーバッツは消滅した。当然リーダーを失った団体は脆い。全員逃げ惑い、攻撃を受けていく。

「だめ・・・だめよ・・・もう」

・・・アスナの声が聞こえた。

隣にいたキリトは目を見開き、止めようとするが・・・遅かった。

「だめーーーーッ!!」

「アスナッ!」


グリームアイズに一撃を浴びせ、注意を自身に向けさせる。

「兄貴っ!」

「分かってる!」

俺達も突っ込もうとした時・・・何かが横切った。

「ラァァァァッ!!」

咲だ。咲はグリームアイズに向かって方天画戟を振るが・・・

ガキャアン!

「っ・・・」

グリームアイズに弾かれ、構えを崩される。すぐに二撃目が咲を・・・

『・・・しょうがないわね!!』

詠が具現化し、剣を構え、防御しようとするが・・・

ガァァァン!

「きゃあああっ!?」

「うわあああ!?」

詠は弾き飛ばされ、背後の咲と共に吹き飛ぶ。

「サキっ!?」

「詠っ!」

「くっ・・・詠、大丈夫か!?」

「ええ・・・咲、無理よ、貴方じゃ・・・」

そのタイミングでクライン達も追い付き、戦闘に参加してくる。・・・やるしかない!





「・・・ここまでか・・・」

咲が呟き、立ち上がる。


『まさか・・・咲さん・・・』

「ああ・・・出し惜しみなんてできない・・・出来ることなら・・・隠し通したかったけど」

「・・・いいのね?」

「悩んでる暇はない。リパル!防具を可能な限り解除!そしてモードチェンジ、モード《ダークリパルサー》!」

『・・・了解ッス!』

「え・・・?」


咲がマントや鎧・・・更にコートの類いまで全て装備を解除し、質素なシャツと黒いズボンだけになり・・・方天画戟が黒の混じった白い剣に変形する。

「あの剣は・・・!?」

キリトがグリームアイズの一撃をかわし、唖然とする。・・・いや、何より・・・男ではあり得ない・・・胸元の膨らみがある・・・え?

『・・・完了ッス』

「・・・ああ。久々に・・・行くぜ!」

再びアスナに一撃が迫る。・・・今度は俺もキリトも間に合わない・・・!

「下がって、お姉ちゃん!」

・・・いや、咲だ。咲がさっきとは比べ物にならないスピードでアスナを突き飛ばし、更に一撃もかわす。

「サキ・・・あなた・・・」

「・・・お姉ちゃん、ごめん。“わたし”は・・・もう隠せない。力を出さないで・・・目の前で人が死ぬのは嫌だから!」


咲は飛び上がり、グリームアイズの攻撃を避けながら突撃する。

「はぁっ!」

あのスピードはアスナにも劣らない。咲は顔を斬りつけ、更にグリームアイズにある蛇の尻尾を使って斜め下に落下しながら胴体を着る。

「そっ・・・らぁ!」

そして着地と同時に身を翻し、股下を潜り抜けるように足を斬る。

「すげ・・・」

だが、それでも足らない。・・・俺はキリトを見る。少しの攻防だけで俺達のHPバーも半分近く削られている。


「・・・ああ。十秒だけ・・・頼めるか?」

「・・・お任せ!」

俺はグリームアイズに向かって走る。

「咲!アスナ!クライン!十秒だけ持ちこたえるよ!」

グリームアイズの横薙ぎが迫る。俺は迷切を真上に投げ、スライディングして潜り抜け・・・擬音を掴む。

「・・・っ!」


曲刀ソードスキル《アッパースラッシュ》を使って飛び上がりながら擬音を手放し、迷切を左手に持ち、素早くクイックチェンジ・・・!そのまま一回転して一気に振り下ろす。

「《龍舞斬》!」

ズシャア!

落ちてきた擬音を手に取り、背後に跳ぶ。アスナ達もスキルで注意を惹き付け・・・


「いいぞ!!」

キリトの声を聞いて俺達は撤退する。

「イヤァァァ!!」

アスナの全力の突きがグリームアイズの一撃と弾き合う。

「スイッチ!!」

仰け反ったアスナの前にキリトが割り込み・・・背に新たに装備していた剣を掴み、“二刀”でソードスキルを発動する。しかもその剣は咲のと同じ形状だった。キリトはそのまま・・・全てを放出する。

「スターバースト・・・ストリーム・・・!!」

キリトは舞うように左右の剣を振り、突き、押していく。

「うおぉあああ!!」

更に加速。そのスピードは止まらない。

「・・・ぁぁぁあああああ!!」

そして・・・最後の一撃と思わしき十六撃目・・・それはグリームアイズの胸の中央を貫いた。

「ゴァァァアアアア!!」

グリームアイズが一際強く雄叫びを上げ・・・青い欠片となって、散った。

「・・・終わった・・・?」


キリトは剣を納め・・・倒れた。

「キリト君っ!」

アスナがキリトに駆け寄る。・・・あっちは任せるとして・・・

「・・・さて、と・・・」

俺は咲を見る。咲は俺を見るなりバツが悪そうに目を逸らし、頬を掻く。


「・・・色々聞きたいけど・・・場所を変える?」

「・・・ああ。そうしてくれ」

意識を取り戻したキリトに一言伝え、次の層の転移門のアクティベートはクラインに任せ・・・

「・・・どうする?俺の家に・・・」

「いや、亞莎にも聞いてもらった方がいいだろ?てなわけで俺の家に行くぞ」

俺達は自宅に戻り・・・






























「・・・」

遅い。詠が咲を奧に連れていってからかなり経過していた。

「・・・ほら!諦めて早く出なさい!」

「だ、だけど・・・」

『もう覚悟を決めた方がいいッスよ・・・』

「うう〜・・・」

詠に引っ張られて出てきたのは・・・

「・・・誰?」

髪はアスナと同じ色で、腰までスラリと伸びている。服装はピンク基準のシャツとスカート。・・・顔を赤くして俯くのは・・・

「・・・俺だよ」

・・・親友だった。


「ほ、本当に咲さん・・・ですか?」

亞莎も同様が隠せずに唖然としていた。

「・・・まあ、ね」

咲がソファに座る。

「じゃあ、話すか。まず始めに・・・この世界の俺は・・・女だ」

「・・・」

「それでお姉ちゃん・・・アスナの妹なんだよ。しかも名前もサキはサキでも・・・早いに貴族の貴で早貴(サキ)だ」

「・・・」

完全に唖然。アスナの・・・妹?女?

「んで・・・男装してた理由だけど・・・色々ある」

「・・・た、例えば?」


「実は・・・記憶同士の激突と言うか・・・二重人格って程じゃないんだけどな・・・」


「・・・ようは五十嵐 咲と結城 早貴の人格が上手く合わなかったのよ」

名字、結城だったのか。・・・て、合わなかった?

「そのせいで記憶が戻ってもしばらくは五十嵐 咲の人格じゃなかったのよ」


「・・・俺自身は頭がおかしくなったんじゃないかってスルーしててな・・・お姉ちゃんと同じステータスにしてたんだよ」

『それでオイラ達をドロップした時に、ようやく人格が安定したッス』

「つっても言うほど安定はしてなかったからな・・・色々やって“俺”を保つ方法を見つけたんだ」

「・・・それは?」

「思い込むこと」

「・・・は?」


「そこで男装なんだよ。今までと同じ服装をすれば・・・ってな」

「そうしたら驚きよ。あっさりと人格を固定出来たんだから」

「そうですか・・・」


「他には女二人組じゃなにかと危ないし、変な虫がついたら追い払えるし・・・な」

「・・・この事を知ってるのは?」

「お姉ちゃんと団長・・・ヒースクリフと・・・リズかな」

「あとはボク達位よ」

「そっか・・・」

「最初は困ったよ。敏捷度よりのステータス振りでさぁ・・・方天画戟も持てなかったんだぜ?今だってギリギリの筋力だし・・・正直そこから筋力に振ったら中途半端なステータスになるから・・・敏捷度にあえて振り続けたのさ」

「あんなに厚着してたのも・・・」

「女の体系を隠す為かな・・・お陰でスピードがた落ちでさ・・・今までの経験と努力で何とかやって来たんだよ」

・・・そこで俺は聞いてみた。

「・・・何で女なんだろうな」

「知るかよ・・・今度紫に会ったら小一時間問い詰めたいよ」

「はは・・・」

「はあ・・・明日からどうしよ」

「え?何でさ」

「・・・あんだけ人がいたんだ。嫌な噂の絶えない“漆黒”が女で、しかも“閃光”の妹・・・なんて知られたら・・・明日には情報がアインクラッド中を駆け抜けるだろうよ」


「わあ・・・大変だな」

「お前の兄貴もな」

「あ・・・」

咲は足を組んで聞いてくる。

「今度はこっちが聞こうか。あのスキルは・・・何だ?」

・・・隠さなくてもいいかな。

「・・・エクストラスキルだよ。《二刀流》」

「そんなスキルが・・・」

「条件もわからないし・・・こんな世界だと何言われるか解らないからね。兄貴も隠したかったんだよ」

「・・・なるほどな。ま、人のこと言えないから何も言わねぇけど」

そこで俺は閃く。

「なるほどねぇ・・・お前が兄貴を嫌う理由は・・・アスナが取られるかもしれないからか?」

「なっ・・・ち、違う!ただアイツは・・・!」

『咲さん・・・慌てすぎッス・・・』

「・・・う、うるさい!」

「あはは・・・」

亞莎は最早笑うことしか出来ないようだ。

「じゃ、じゃあ・・・ここまでにしようぜ」

咲は立ち上がる。

「帰るのか?」

「ああ・・・」

咲は・・・サチがいる部屋を見る。

「・・・変わらないのか?」

「・・・ああ。サチは・・・ずっと・・・」

「・・・大丈夫。人の心は強い・・・だろ?」

「・・・ああ。必ず、必ず現実に返してあげないと・・・」

俺は咲と詠を見送り、家に戻る。

「・・・驚きましたね」

「まったくだよ・・・色々有りすぎて頭痛くなってきた・・・」

「そうですね・・・まさか咲さんが女性になってるなんて・・・」

「アスナそっくりだったよなぁ」

「はい・・・」

取りあえず今日は休もう。・・・明日はどうなることやら・・・ 
 

 
後書き
早貴
「・・・な、名前が・・・てか身体が・・・」

リズ
「あーらら。バレちゃったわね」

早貴
「むー・・・わたしにとっては笑い事じゃないんだよ?」

リズ
「まあいいじゃない。吐き出して楽になったんだから」

早貴
「亮に知られるのは嫌だったよ・・・さっき笑われたもん」

リズ
「ま、諦めなさい。この後も散々弄られるでしょうし」

早貴
「他人事だと思って・・・」

リズ
「はいはい。それじゃ、また次回もよろしく!」

 

 

神聖剣~

 
前書き
しまった・・・一週間こえてしまった・・・ではどうぞ! 

 
・・・さてさて、翌日、俺達はエギルの店の二階に来ていた。

「・・・あう〜・・・」

「引っ越してやる・・・どっかすげえ田舎フロアの、絶対見つからないような村に・・・」

ダウンしてる親友と苛々してる兄。


「おっじゃましまーす・・・うわ」

上がってきたのはリズベットだ。部屋に入って早々顔をひきつらせる。

「あんた達、平気?」

「リズ~・・・聞いてよ。朝起きたら家の前に数十人もいたんだよ?よってたかってさあ・・・敏捷度に物言わせて壁蹴りに壁走りに屋根走り使って転移門に飛び込んで・・・」

「・・・壮絶ねぇ」

「でしょ?もう、有名人にたかりたいなら団長にたかればいいのよ・・・」


まあ、家の兄貴も同じで、終いには転移結晶まで使う羽目になったそうだ。・・・しかも。


「(俺も・・・だからなあ)」


弟である俺も当然被害にあい・・・騒がしい輩には家の前から退場願いました。下手に騒がれるとサチに悪影響だ。

「こっちとしちゃユニークスキルよりもサキに驚きだがな」

エギルがサキを見ながらそう言うと咲は苦笑する。

「わたしとしては隠したかったんだけどね・・・あーあ」

ちなみに亞莎並びに詠は自宅待機だ。


「ねえ、リズ。今日泊めてよ」

「ええ?そしたら今度はこっちまで・・・」

「いい感じに客寄せになるよきっと。・・・ね?」

「はぁ・・・ただ出張整備しに来ただけなのになぁ・・・ま、いいわ。今晩ウチに来なさいよ」

「ありがとうリズ!やっぱり持つべき物は友達だよね!」


咲は笑顔でリズに飛び付く。

「・・・」

「あはは・・・あ」

咲が唖然とする俺を見て離れる。

「・・・違うからな?」

何がだ。

「にしても、遅いなアスナ・・・」

キリトがそう天井を見上げながら言う。・・・そう、昨日アスナはしばらくKoBを休むことにしたらしい。それで団長にそれを言いに行ったらしい。

「・・・お姉ちゃん、確かに遅いよね・・・」

エギルが粗方俺達の余分なアイテムの鑑定を終えた頃、慌ただしい音と共にアスナが入ってきた。

「お姉ちゃ・・・ん?」

「よ、アスナ・・・」

二人が口を閉じた理由は・・・そのアスナが顔を蒼白にしていたからだ。



「どうしよう・・・キリト君・・・」

そう、泣き出しそうな声で言った。

「大変なことに・・・なっちゃった・・・」





・・・話を聞くに、アスナの一時脱退を認めるには条件があり、キリトと立ち会いたいと言ってきたらしい。アスナは何度か説得したらしいが・・・聞かなかったようだ。


「でも・・・珍しいな。あの男が、そんな条件出してくるなんて・・・」


そうだ、KoBの団長、“ヒースクリフ”は、何処か謎めいているが、そのカリスマは本物で殆どのSAOプレイヤーの心を掌握している。何度か攻略で一緒になったが・・・凄かったとか言いようがなかった。ヒースクリフに関する逸話は数えきれない程存在するし・・・そして何より、キリトと同じ・・・もう一人のユニークスキル使いなのだ。その名も“神聖剣”。剣と盾を自在に操り、攻防一体とするスキルだ。


「(正直・・・真っ向からやりたくない相手だよなぁ・・・)」


とにかく普段、ヒースクリフは攻略などの指示は出さないのだが・・・とにかく俺達四人はKoBの本部がある55層の主街区グランザムに向かう。


「・・・相変わらず、嫌な空気・・・」

咲がそう呟く。グランザムは基本石造りな主街区の中で唯一と言っていい程全てが鋼鉄で作られている。・・・あまり長居したいとは思わない場所だ。



「ともかく、一度本部まで行こう。俺が直接談判してみる」

「ん・・・ごめんね。迷惑ばかりかけちゃうね・・・」

アスナに対してキリトは言葉を探しているようだ。

「何でもするさ。大事な・・・」

「・・・」

「・・・攻略パートナーの為だからな」

「・・・はぁ・・・ふふ」

アスナが不満そうにしたが・・・笑った。

「・・・(ドスドス)」

「な、なんだよサキ。肘打ちするなよ」

「・・・ふん、だ」

俺は空気を変えようと話題を出す。

「にしても、ほんとアスナと咲って似てるよね」

正直、今の咲はアスナを一回り小さくした感じだ。

「・・・そ、そうかな?でも、そう言うコウハ君とキリト君はそこまで似てるって程じゃないよね・・・」

「「あ・・・」」

しまった。地雷を避けて地雷源に突っ込んでしまった・・・

「あ、あは、ははは・・・そ、そうだね・・・確かに似てないなぁ・・・」

「そう、だな」

「?」

「・・・」

あはは・・・素晴らしく空気が重い・・・


「任務ご苦労」

アスナが先程とは百八十度うって変わったビシッとした態度で入り口の衛兵に挨拶する。やたら長い階段を上がり、鋼鉄の扉の前で立ち止まる。

「ここか・・・?」

「うん・・・」

中には、巨大な机が置かれ、五人の男が座っている。左右四人はそれなりの立場のプレイヤーだろうが見覚えはない。中央は・・・噂のヒースクリフだ。

「お別れの挨拶に来ました」


それを聞いてヒースクリフは苦笑する。


「そう結論を急がなくてもいいだろう。彼と話させてくれないか」

キリトは一歩前に出る。

「君とボス攻略以外の場で会うのは初めてだったかな、キリト君」

「いえ・・・前に、67層の対策会議で、少し話しました」

ヒースクリフは軽く頷き、両手を組み合わせる。

「あれは辛い戦いだったな。我々も危うく死者を出すところだった。トップギルドなどと言われても戦力は常にギリギリだよ。ーーーーなのに君は、我がギルドの貴重な主力プレイヤーを引き抜こうとしているわけだ」

「貴重なら護衛の人選に気を使ったほうがいいですよ」

キリトのその言葉に右端にいた男が血相を変えるが・・・ヒースクリフが抑える。

「クラディールは自宅で謹慎させている。迷惑をかけてしまったことは謝罪しよう。だが、我々としてもサブリーダーを引き抜かれて、はいそうですかという訳にはいかない」

「でしたら、わたしがおね・・・姉の代わりに入団します。実力もほぼ同じですので、戦力の低下はありません」

「・・・残念だが、アスナ君は副団長・・・そして君は先日まで悪名の絶えないプレイヤー・・・それでここのメンバーが納得すると思うのかな?」

「くっ・・・」

咲がちらりと周りを見る。そう、この部屋に入った時から、咲は既に四人の敵意を受けていたのだ。

「・・・だが、もし君の力をもう一度見せれば、団員も納得するだろう」

「・・・?」

「そうだな・・・同じ攻略組に勝てば丁度よいだろう」

今度は俺を見る。

「君なら充分だろう、コウハ君?」

「・・・」

「そしてキリト君。・・・アスナ君が欲しければ、剣で・・・二刀流で奪いたまえ」

「・・・負けたら、血盟騎士団に入れ・・・と」

それにヒースクリフは笑みで答える。


「団長、わたしは別にギルドを辞めたいと言ってるわけじゃありません。ただ、少しだけ離れて、色々考えてみたいんです」

「それに、わざわざキリトが戦わなくても、わたしが実力を証明できれば・・・」

そんな姉妹の言葉を遮り、キリトは口を開く。

「いいでしょう、剣で語れと言うなら望むところです。デュエルで決着をつけましょう」






















































・・・場所は戻り、エギルの店二階。エギルとリズベットには避難してもらい・・・


「もーーーー!!ばかばかばか!!」

他ーにやることまーだまーだあるーんじゃない♪・・・なんて歌詞が続くわけなく、アスナはキリトをぽかぽか叩いてくる。

「わたしが頑張って説得しようとしたのに、なんであんなこと言うのよ」

「ほんと信じらんない!!なんであなたはやることなすこと全てが裏目なのよ!?」

咲も怒り心頭のようだ。

「だいたい、何時も何時もお姉ちゃんの側にいるし!しかも無自覚に傷つけるし!何がしたいのよーーー!!」

「お、おい?咲?」

「うるさい!コウハは黙ってて!」

・・・あれ?俺は小声でリパルに話し掛ける。

「(リパル、もしかして・・・)」

『頭に血が登って結城 早貴の人格が固定されてるッスよ・・・多分、しばらくは元に戻らないッス・・・』

うわぁ、めんどくさい。

「悪かった、悪かったって!つい売り言葉に買い言葉で・・・」

キリトも必死で二人をなだめている。

「・・・ま、いいじゃん。俺なんて一言も発しないで決められたし」

「「「あ・・・」」」

本当に俺はこの数ある外史の基点・・・主人公なのだろうか。実はこの外史を知ってる人は俺の役割をなんだと思っているんだろうか・・・

「(・・・今度シィ達に聞けたら聞こ)」

シィや剛鬼、リョウコウなら気を使わず言ってくれるだろう。・・・笑われる可能性もあるのだが。

「・・・コウハ?」

「っと・・・落ち着いたか?咲」

「あ、ああ・・・悪い」

口調とトーンが何時もの咲に戻る。

「・・・でもどうするの?負けたらわたしがお休みするどころか、キリト君がKoBに入らなきゃならないんだよ?」

「考えようによっちゃ、目的は達するとも言える」

「え、なんで?」

「その、俺は、あ・・・アスナといられればそれでいいんだ」

・・・“あの”キリトからそんな言葉が発せられた。

「う、嬉しいけど・・・(ボソッ)二人の前で言うかな普通・・・」

「え・・・あっ」

「く・・・あはははは!いやー、凄いね兄貴!直葉と話そうとする話題が一つ増えたよ」

帰ったら真っ先にすること。それは決めてある。妹と・・・仲直りしたい。


「わ、笑うなよ!」

「だってさぁ・・・ははは・・・は・・・」

咲を見て思わず固まった。咲は俯き、その表情は髪とその影で見えない。

「・・・やっぱり・・・」

咲が呟き、立ち上がる。

「さーて、わたしは帰ろっかな」

「サキ?」

「そろそろ野次馬もいなくなるかもしれないし・・・それじゃね、お姉ちゃん」

咲はそう言って部屋から出ていく。

「・・・じゃ、俺も帰るか」

「何か用事があるのか?」

「いや、特には。・・・でも、ま・・・お邪魔虫かもしれないしね。ね、アスナ?」


「えっ、ちょ・・・!」

アスナは顔を赤くする。俺は笑いながら下に降りる。


「ちょっと、コウハ」

「・・・?どうしたのさ、リズ?」

「さっき凄い勢いでサキが走っていったんだけど・・・何かあった?」

「・・・いや、まさか・・・焼きもち?」

「え?」


「ん・・・ま、しょうがないと言うか・・・」

「??」

「・・・人間関係って複雑だね」

「???」


























































・・・それからしばらくして・・・


「・・・」

新しく解放された75層の主街区《コリニア》は古代ローマ風の作りで・・・その中央には今回のイベントにピッタリな建物・・・コロシアムが存在している。・・・だが・・・


「火噴きコーン十コル!十コル!」

「黒エール冷えてるよ~!」

・・・あの、すみません。これって単なる試験的な話だったよな。まるで何かのスポーツ球場みたいに賑わってるし、何か商売してるし。

「コウハさーん!」

「へ・・・?・・・し、シリカじゃないか!?」

ずっと前に色々あってフレンドになったビーストテイマーのシリカ。

「キュル!」

「ピナも元気そうだね。・・・で、シリカ。この騒ぎについて何か知ってる?」

「え?これってKoBの方々が開催しているイベント・・・ですよね」

・・・はい?

「それにコウハさんが参加するって噂で聞いて・・・見に来ちゃいました♪」

「・・・誰だ情報漏らしたのは・・・」



「あの・・・会いに来て迷惑でしたか?」

「え?あ、いや。全然迷惑じゃないよ」

「そうですかぁ・・・」


シリカがホッとして笑う。

「じゃ、俺は行くから。まあ、ゆっくりしていってね・・・あ」

俺は少し離れた位置からあるものを買ってくる。

「ほい、観戦用の飲み物と食べ物」

「え!?あ、そ、そんな悪いです!」

「気にしないでよ。久々に会えたんだし」

「・・・お前、亞莎に嫉妬されるぞ」

「おぅわっ!?さ、咲!?」

背後からジト目の咲が現れた。

「えっ、と・・・」

咲は笑顔をシリカに向ける。


「初めまして。わたしはサキ。・・・コウハからあなたの話を聞いたことがあるの」

「は、初めまして!シリカ・・・です」

「ふふ、そんな緊張しなくても・・・」


咲はチラッとこっちを見る。

「(ほれ、先行ってろ。お前が話すと余計なフラグが建つ)」

「(なんだよフラグって・・・)」

一言シリカに行ってコロシアムに入り、用意する。




「さて・・・と」

俺と咲はどうやら前哨戦らしく、一番手のようだ。俺と咲はコロシアムに中央で向かい合う。

「さて・・・お前と戦るのは久々だな」

「・・・まあね。さて、俺も易々負ける気はないよ」

「ああ。とにかく俺が勝って幸先良くしないとな。・・・すぅ」

咲が息を吸うと・・・目付きが変わる。

「わたしは負けない・・・リパル!」

『どうぞっ!』


俺は擬音と葬解を武装解除して迷切を構える。・・・早貴はスピードタイプ。とにかく最高速度がよく分からない以上、こちらも出来る限り軽くしてスピードを上げないと・・・!」

目の前でデュエル開始までのカウントが・・・ゼロになった。

「・・・やぁっ!」

「・・・消え・・・っ」


直感・・・!砂埃からして・・・左!

ガキィン!

「っ・・・しゃあ!」

「くっ・・・」

咲が再び姿が見えなくなるほど加速するが・・・

キィン!

「速いけど・・・!」

カァン!

「もっと速い奴を知ってるん・・・だ!」

全てギリギリ防いでいく。とにかく耐えろ・・・咲が苛つくまで・・・!

「面白くない相手ね・・・!」

咲・・・いや、早貴がどんどん苛ついてきた。この調子で・・・

『咲さん!一旦時間を取るッス!』

「っ!わかった!」

「なぁ・・・っ!?」

ありかそんなの!?ほぼ二対一じゃないか!?


『咲さん、相手のペースを作られないように、一定のタイミングで攻めるッス』

「うん・・・わかってる。“俺”ならまだしも“わたし”だと・・・」


「(ずるい・・・)」

俺は迷切を構え直す。あの素早さじゃ安易にソードスキルを使えないしな・・・使うとしても隙が少ないスキルを・・・

「隙あり!」

「やべ!」

隙作らないように考えて隙を作るとか本末転倒だ。

「ゼェェイッ!!」

足元を狙う一撃。それを防ぎ・・・咲がハンドアックスを振りかざす。

「な・・・!」

二刀流を持ってないのに・・・!?

「ダメージを与えるだけならスキルなんていらないのよ!」


・・・そうか。このデュエルは一撃決着・・・咲は強攻撃ではなく、俺のHPを半減させて勝つつもりだ。

「させるか!」

メニューを開き、クイックチェンジで擬音を装備してハンドアックスを防ぐ。・・・これで俺も完全にソードスキルが発動できなくなった。


「ちぃ・・・!」

「くうっ・・・!」


お互いにつばぜり合いをする。このまま力で押せば・・・!

「たぁっ!」

不意に咲が跳んだ。そのまま俺を飛び越え・・・


「てやっ!」

ガスゥ!

「でっ!?」

後頭部に蹴りを入れられ、前のめりになる。

「こん、の!」

迷切を地面に突き刺し、あえて勢いに任せて一回転。一瞬だが咲の姿が見え・・・ソードスキルを発動しているのが見えた。

「(・・・の野郎!ハンドアックスいつの間にか投げ捨ててやがる!)」


ならこっちも・・・今システム上装備してるのは擬音・・・俺は迷切から手を放し、振り向き際に出の速いソードスキルを発動させる。

「「はぁぁぁぁっ!!」」


一撃が交差すると思った瞬間・・・咲の姿が消えた。

「え!?」

「残念。俺なら正面上等だけど・・・」

背後からの声。俺は・・・動けなかった。

「わたしはそんなの向いてないのよ!」

ズパァン!

衝撃。そして・・・咲の名が表記されたウィナー表示。

「・・・負け、か」

「・・・ふぅ」

咲が一回俯き・・・次に顔を上げた時はまた目付きが変わっていた。

「危なかった。正直俺なら負けてたな」

「いや・・・最後まで押されてたし・・・最後のソードスキルもやられた」

「威力の低い明命の宝具って感じかな。一応判定は強攻撃だし・・・ま、ガチ勝負なら俺の負けさ。勝負に強くて試合に弱いのがお前だろ?」

「人が気にしてることを・・・」

今になって観客の声が耳を支配していた。俺達は取りあえず控え室に戻る・・・途中。

「亮、残念だったな」

「兄貴」

「キリト、わたしは勝ったんだからキリトも勝ってよね」

「あ、ああ」

「・・・言っとくけど、団長は強い。お姉ちゃんからある程度の情報は貰ったんだろうけど・・・」

「ああ、そんな付け焼き刃じゃきっと勝てないな。・・・だから、俺は自分の反射神経を信じるよ」

「・・・ならいいけど」

「兄貴、頑張って」
「おう。弟の仇を取ってやるさ」

「勝手に殺すな勝手に・・・」


さて、俺達はシリカやリズがいる観客席に座る。


「リズ・・・なんでいるの・・・?」

「だって暇だし・・・」

「キリトを見てみたいとか?」

「そうそ・・・って違う!」

「むぅ・・・リズって隠し事しない方がいいよ?」

「う・・・」





「・・・はは。しかし、派手に負けたんだよな・・・冷静になるとこんな大勢に見られてる中で負けたのって相当恥ずかしいな・・・」

「いえ、格好よかったですよ。コウハさんってやっぱり強いんですね」

「あはは・・・はぁ」


さてさて、続いてはキリトとヒースクリフの試合だ。ヒースクリフは俺のコートと似たような真っ赤な色のサーコートを身に付けていた。巨大な十字盾に十字をかたどった柄の剣・・・


「・・・始まる!」


カウントがゼロになり。すぐに凄まじい攻防が繰り広げられる。盾にも攻撃判定があり、二刀流による手数の圧倒は不可能のようだ。つか・・・

「(目まぐるしく動きすぎだ・・・!)」

若干遠いし観客邪魔だし・・・動きが追えない。その時だった。キリトがあの技・・・《スターバースト・ストリーム》を発動する。

「あれなら・・・抜ける」

咲がそう呟き・・・最後の一撃がヒースクリフの盾を抜け・・・と思った瞬間。

ガキィン・・・

「「・・・え?」」

“防いだ”ただそれだけだが・・・あんなの、俺が知ってるどの世界の人間だって防げやしない。それほどの一撃だったのに・・・

「あ・・・っ!」

キリトも以外だったようで、次のヒースクリフの一撃に対処出来ず・・・敗北した。

「・・・」

俺達は・・・ただそれを黙って見ていた・・・




 
 

 
後書き

「・・・なんだこれ」

早貴
「・・・紙?」


「・・・えっと・・・作者からだ。久々に中の人合戦するんだってさ・・・」

早貴
「ほんとに久々だな・・・」






















ヒースクリフ
「いきなり何をするんだ君は!」

ナタリア
「雨の日は無能なんですから下がっててください、大佐!」

ガイ
「あ、そうか。こう湿ってちゃ火花出せないよな」

鋼の錬金術師(一期)~




アスナ
「セーブしよーーーっ!!」

ソフィ
「煌めくステージに・・・私も、立ちたい?」

リチャード(幼少)「ぎゃおおおんっ!」


キリト
「黒りんには悪いけど・・・ここまでこじれちゃね・・・」

須郷(早いけど)
「ふん、いつかこの私が正しかったと思う日が来るだろう」

アイドルマスター~


サチ
「フリット・・・生きるのって、難しいね・・・」

ケイタ
「ユリーーーンっ!!」

ガンダムAGE~


ティア
「ピザはないのか?」

アスベル
「答えろゼロ!何故俺に“生きろ”というギアスをかけた!?」


ヒューバート
「兄さんは・・・嘘が下手だね・・・」

コードギアス~



「・・・本当はもっとやりたいけど、ネタ切れるからまた今度やることなくなったら・・・だって」

早貴
「変に出し惜しみすんなよ・・・まあいいや、また次回もよろしく!」 

 

狼の本性~

 
前書き
譚・騾ア縺ォ縺ッ繝?せ繝医°繝サ繝サ繝サ鬆大シオ繧峨↑縺?→縲ゅ〒縺ッ縺ゥ縺?◇? 

 
さて、キリトが敗北してからしばらく。すっかり溜まり場と化したエギルの店二階にて・・・

「な・・・なんじゃこりゃあ!?」

「何って、見た通りよ。さ、早く立って」

アスナがキリトに無理矢理装備させたのは、今までのキリトのイメージと真逆の純白な服だった。・・・要するにKoBのユニフォームだ。

「・・・じ、地味な奴って頼まなかったっけ・・・」

「これでも十分地味なほうよ。うん、似合う似合う」

「そうかなぁ・・・亮、どう思・・・って笑うなよ!」


「い、いや・・・ははは・・・」

黒いイメージが植えついてたので、ギャップのインパクトで俺は笑ってしまった。

「なんだったら亮君も着てみる?」

「いや・・・遠慮しとくよ・・・」

ちなみにアスナやシリカとかには他に知らないプレイヤーがいなければ亮と呼んでくれと頼んだ。・・・うん、いい加減“コウハ”と呼ばれると咄嗟に反応出来ないんです。

「あ、ちゃんと挨拶してなかったね。ギルドメンバーとしてこれからよろしくお願いします」

アスナがぺこりと頭を下げるとキリトも慌てて背筋を伸ばす。

「よ、よろしく。・・・と言っても俺はヒラでアスナは副団長様だからなあ」


キリトが人差し指でアスナの背筋を撫でる。

「こんなこともできなくなっちゃったよなぁー」

「ひやあっ!」

アスナが何か言おうとした瞬間・・・目の前を風が通った。

「お姉ちゃんにぃ・・・何してんのぉーーーー!!」

ズガァン!

「がふっ!?」

全力疾走から放たれたドロップキックはキリトを壁に叩き付ける位の威力があった。

「おーい・・・兄貴、生きてるかー・・・?」

「あ・・・あぁ・・・なんとか・・・」

「さ、サキ!やり過ぎ!」

「いいの!この男にはこれ位しないと!」

ちらっと咲を見ると、隣で着替えたのかアスナのと似ている騎士団服を着ていた。

「サキ、とっても似合ってるよ!可愛い!」

「そ、そうかなぁ・・・?お姉ちゃんのとちょっと違うデザインにしてみたんだけど・・・」

キリトが立ち上がり、ベッドに腰かける。

「ふぅ・・・ギルドか・・・」

それが聞こえたのかアスナがちらりとキリトを見る。

「・・・なんだかすっかり巻き込んじゃったね・・・」

「いや、いい切っ掛けだったよ。ソロ攻略も限界が来てたから・・・」

「そう言ってもらえると助かるけど・・・ねえ、キリト君」

アスナがまっすぐにキリトを見つめる。

「教えてほしいな。なんでギルドを・・・人を避けるのか・・・ベータテスターだから、ユニークスキル使いだからってだけじゃないよね。キリト君優しいもん」

その言葉にキリトは・・・俺を見た。

「・・・俺は構わないよ。アスナには知ってもらっておいた方がいいだろうし・・・兄貴が話したいなら・・・いいよ」

キリトは俯き・・・話し出す。

「・・・・・・もうずいぶん昔・・・一年以上前かな。一度だけギルドに入ってたことがある・・・」

そこからはあの・・・サチ達《月夜の黒猫団》の話をアスナにする。キリトは全てを話していく。サチに親近感を覚えていたことも・・・そして、あの悲劇も・・・


「・・・サチは心が壊れて・・・今、亮の家にいる」


「・・・」

「・・・そう、だったんだ」

「・・・ごめん、お姉ちゃん。わたしは知ってたんだけど・・・安易に話していい内容じゃなかったから・・・」


アスナは首を横に振る。

「だから・・・怖いんだ・・・また誰かを殺してしまうんじゃないかって・・・」

そこまで言ったとき・・・アスナがキリトの顔を両手で包み込む。

「わたしは死なないよ。だって、わたしは・・・わたしは、君を守る方だもん」

「・・・」

俺はそれを微笑みながら見ていた。きっと・・・アスナがキリトを支えてくれる。そう思った。ただ・・・

「・・・お姉ちゃん・・・」


ただ一人・・・咲だけが微妙な表情をしていた・・・
















翌日。今日から勤務開始となるキリトと咲を見に、俺もギルド本部まで付き添う。・・・そこで待ってたのは・・・

「訓練・・・?」

「そうだ。私を含む団員四人のパーティーを組み、ここ55層の迷宮区を突破して56層主街区まで到達してもらう」


そう、大男がいった。確かヒースクリフの近くにいた男だ。ってことはそれなりの立場か・・・?

「ちょっとゴドフリー!キリト君とサキはわたしが・・・」

「副団長と言えど規律をないがしろにして戴いては困りますな。実際の攻略時のパーティーについては了承しましょう。ただ、一度はフォワードの指揮を預かるこの私に実力を見せて貰わねば、例え副団長の妹やユニークスキル使いと言っても、使えるかどうかはまた別」

「あ、あんたなんか問題にならないくらい二人は強いわよ・・・」

「お、お姉ちゃん落ち着いて・・・大丈夫だよ、かなり安全なレベルだし・・・」

「ああ、見たいと言うなら見せるさ。ただ、こんな迷宮区で時間を潰すのはごめんだな。一気に突破するけど構わないだろう?」

ゴドフリーは不機嫌そうに口をへの時に曲げ、集合時間を告げて去っていく。

「なあにあれ!!」

アスナは怒りながら傍らの鉄柱を蹴飛ばす。

「お姉ちゃん・・・怖いよ・・・」


「ごめんね、キリト君。やっぱり二人で逃げちゃったほうがよかったかなぁ・・・」

「そんなことしたら、俺がギルメン全員とサキに呪い殺されちゃうよ」

「呪いじゃなくて実力行使だけどね」

「お前も十分怖いよ、咲・・・」

俺とアスナはギルド本部でお留守番・・・と言う訳だ。さてと・・・のんびりしますか・・・





































早貴~

さて、待ち合わせ場所にいたのはゴドフリーと・・・

「え・・・」

「・・・どういうことだ」

そう、ゴドフリーの隣には・・・クラディールの姿があった。

「ウム。君らの間の事情は承知している。だがこれからは同じギルドの仲間、ここらで過去の争いは水に流してはどうかと思ってな!」

・・・流れればいいんだけどね・・・

「・・・」

何とも言えない空気に場が支配され・・・かけた時、クラディールが頭を下げた。

「先日は・・・ご迷惑をおかけしまして・・・二度と無礼な真似はしませんので・・・ゆるしていただきたい・・・」

「あ・・・ああ・・・」

「わ、わたしも・・・ごめんなさい・・・」

つい、反射的に謝ってしまう。正直不気味で・・・怖い。


「よしよし、これで一件落着だな!!」

ゴドフリーが笑いながらそう言う。

「(リパル・・・どう思う?)」


『さ、さぁ・・・オイラにもよく分からないッス・・・』

リパルもかなり困惑しているようだった。そして出発しようとした時・・・

「・・・待て、今日の訓練は限りなく実戦に近い形式で行う。危機対処能力も見たいので、諸君らの結晶アイテムを全て預からせてもらう」

「・・・転移結晶もか?」

当然、と言わんばかりに頷く。転移結晶は大事な生命線でもあるのに・・・そもそも結晶アイテムの使用も対処能力に入るのでは?・・・そう思ったが、クラディールがすぐに渡したので、わたし達も渋々渡す。

『なんか・・・無茶苦茶ッスね・・・』

「(昭和型の人だよね・・・嫌いじゃないけどねぇ・・・)」


それも時と場合によると思う。理想としては昭和の人みたいに厳しく、平成の人みたいに柔軟な考え・・・は幾らなんでも求めすぎか。


「ウム、よし。では出発」

ここの迷宮区は殆ど荒野で、丁度崖下のような場所に入る。

「よし、ここで一時休憩!」


ゴドフリーから包みを渡され、昼食になる。中には質素な固焼きパンと水の瓶。

「・・・はぁ」

わたしはスカートを上手く持って座る。水を飲もうと瓶を口に運び・・・ふとクラディールが目に入った。

「(・・・なに?この悪寒・・・)」


クラディールの視線、目付き。そしてまったく包みには手を触れずに・・・っ!

「!!」

わたしとキリトが口につけた瓶を放り投げるのは同時だった。・・・だが・・・

「・・・っ」

『咲さんっ!?』

一歩・・・遅かった。わたし達は全員その場に倒れる。右上のHPバーは・・・

『麻痺・・・!?そんな・・・』

「クッ・・・クックックッ・・・」

不意に、クラディールの甲高い笑い声が聞こえた。

「クハッ!ヒャッ!ヒャハハハ!!!」

堪えきれなというふうに天を仰いで大笑いする。

「ど・・・どういうことだ・・・この水を用意したのは・・・クラディール・・・お前・・・」


「ゴドフリー!!速く解毒結晶を使え!!」

キリトの声でゴドフリーは腰のパックを漁り出すが・・・

「ヒャーーーッ!!」



クラディールは奇声を上げながらゴドフリーの左手をブーツで蹴飛ばした。その手から結晶が溢れ、他にもパック内の結晶を自分のポーチに入れる。

「クラディール・・・な、なんのつもりだ・・・?これも何かの訓練なのか・・・?」

「バァーーーカ!!」

クラディールはゴドフリーの口を思いきり蹴飛ばす。

「ぐはっ!!」

ゴドフリーにダメージが通ったとこでクラディールのカーソルはオレンジになるが・・・この状況じゃなんの意味もない。この場所を通りかかる人なんて・・・いないから。その時、何かを言っていたクラディールは両手剣を逆手に持ち・・・

「ま、まてクラディール!く・・・訓練じゃないのか・・・?」

「うるせえ。いいからもう死ねや」

・・・その剣を振り下ろした。HPバーが大きく減少し、ゴドフリーは悲鳴をあげ始める。だがクラディールは動きを止めず・・・ゆっくりと剣を沈めていく。

「ぐああああああ!!」

「ヒャハアアアア!!」

そして・・・ゴドフリーのHPは・・・消滅した。クラディールは大剣を引き抜き・・・ゆっくりとわたしに近寄ってくる。

「リパ、ル・・・麻痺解除まで・・・何分・・・」

『ま・・・まだ全然あるッス・・・』

クラディールがわたしの髪を掴み、無理矢理立たせられる。

「安心しな・・・てめえは殺さねえからよぉ」

・・・今なら、少し指を動かせばハラスメント行為で・・・そう思った時。

「おぉっとぉ!」

「あうっ!」

壁に叩き付けられる。

「あんまり動かれちゃ困るからよ・・・」

クラディールはその大剣を・・・わたしのお腹に刺した。

「あ!?あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

不快な感覚。それは壁に刺さり、更にクラディールは短剣を取り出し、わたしの手を持つ。

「ヒャッハーーーー!!」

今度は短剣を・・・まるで画ビョウか何かのように・・・刺した。

「イヤァァァァ!!」

「ほおら、もう一、本っ!!」

左手も刺された。

「アアアアアア!!」

「更にオマケだぁ!」

両足の太股にも剣が刺さる。

「うぁ・・・あ、あ、あ・・・!!」

『咲さんっ!!!』

「いいぜぇ・・・その顔・・・この間の仕返しってことだ」


HPバーは危険域で、だけど麻痺と身体中張り付けられ、動けなくて・・・・・・恐い、恐い、恐い。もう咲なんて何処にもいない。ただの臆病な早貴だけが残されていた。

「やだ・・・やだぁ・・・」

恐い、恐い、恐い恐い恐い。あと少しだけでも剣が刺されば、もしこの剣に貫通属性があったら・・・わたしは、死ぬ。

「嫌だぁ・・・死にたくない・・・」


『咲さん!?咲さん!』

誰、わたしを呼ぶの・・・やだ、恐い。外を見たくない。



「ヒヒッ・・・いいかぁ・・・?俺達のパーティーはァー、荒野で犯罪者プレイヤーの大群に襲われェー、優先空しく二人が死亡ォー、一人が拐われるも俺は無事生還しましたァ、ってのが俺のシナリオなんだよぉ!」

クラディールは新しい武器を装備してキリトに近づく。

「よぉ」

「・・・お前みたいな奴がなんでKoBに入った。犯罪者ギルドの方がよっぽど似合いだぜ」

「クッ、決まってんじゃねぇか。あの女だよ」

・・・それがアスナのことだと気付くのに時間が掛かった。

「貴様・・・!」

「そんなコエェ顔すんなよ。心配すんな、おめぇの大事な副団長さまは俺がきっちり面倒してやるからよ。色々便利なアイテムもあることだしなァ」

「ひっ・・・」

クラディールがこちらを見る。更に・・・クラディールはインナーの袖を捲り・・・そこには、そこには・・・

「「・・・!!」」

そこにあったのは・・・ラフコフの、タトゥー。しばらく前に討伐され、壊滅した。その時にわたしとキリトはラフコフのメンバーを・・・殺した。そしてクラディールは笑いながら・・・剣をキリトの右腕に突き立てた。

「・・・っ!」

クラディールが悦に入りながらキリトに何かを言い続ける。そして後少しでHPバーが全損するという時・・・キリトは目を見開き、麻痺しているにも関わらず腕を動かし、剣を掴んだ。

「お・・・お?なんだよ、やっぱり死ぬのは怖えェってかぁ?」

「そうだ・・・まだ・・・死ねない・・・」


「カッ!!ヒャヒャッ!!そうかよ、そう来なくっちゃな!!」

だが今の状態でクラディールに勝てる訳はなく、再び剣がキリトの体に沈んでいく。

「キリ・・・トォ・・・!!」

わたしは叫んだ。どうにもならないけど、黙ってるのは無理だった。

「死ねーーーーッ!!死ねェェェーーーーッ!!」

金切り声でクラディールが絶叫する。・・・その瞬間、何かがクラディールを吹き飛ばした。

「な・・・ど・・・!?」


「・・・間に合った・・・間に合ったよ・・・神様・・・間に合った・・・」

その場に現れたのは・・・アスナだった。

「生きてる・・・生きてるよねキリト君・・・」

「・・・ああ・・・生きてるよ・・・」

そしてアスナはすぐに辺りを見渡す。

「サキ・・・!サキはどこ・・・!?」

「お姉・・・ちゃん・・・」

「・・・っ!!」


アスナはわたしを見て、息を呑んだ。そして細剣を構え直し、わたしの前を横切って歩き出す。

「・・・!」

一瞬見えたアスナの目は・・・完全にキレていた。

「あ、アスナ様・・・ど、どうしてここに・・・い、いや、これは・・・」

ヒュオン!


「ぶぁっ!!」


・・・クラディールの言葉に耳を貸さず、アスナの突きが口を切り裂いた。オレンジにいくら攻撃してもアスナが犯罪者になることは、ない。


「このアマァ・・・調子に乗りやがって・・・ケッ、ちょうどいいや、どうせオメェもすぐにやってやろうと・・・」

だが、それすらもアスナは無視してすぐに突撃する。クラディールは防ごうとするが・・・相手が悪すぎた。

「ぬぁっ!くぁぁっ!!」

あっという間に危険域に突入。するとクラディールは剣を投げ出し、命乞いを始めた。

「わ、分かった!!わかったよ!!俺が悪・・・ぐぁ!?」

アスナが更に一撃、クラディールが転がる。

「お姉ちゃん・・・?」

お姉ちゃんは・・・クラディールを殺す気でいる。だってさっき見たその瞳には、殺意しかなかったのだから。

「お姉ちゃん!止めて!」

「も・・・もうギルドは辞める!あんたらの前にも二度と現れねぇよ!!だから・・・!」

アスナは細剣を逆手に持ち、クラディールの脳天に狙いを定める。

「だめ!お姉ちゃん!!」

アスナを、アスナを人殺しにさせたくない・・・!

「ひぃぃぃぃっ!死に、死にたくねぇーーーっ!!」

「・・・」

アスナは何も答えず、その刀身を・・・

「お姉ちゃぁぁぁぁぁん!!!」

「・・・っ、さ・・・き・・・?」

アスナの動きが止まった・・・瞬間だった。


「ッヒャアアア!!」

ギャリイン!

「あっ・・・!?」

クラディールがいつの間にか握り直していた剣でアスナの細剣を弾き飛ばした。

「アアアア甘ぇーーーーんだよ副団長様アアアア!!」


キリトは麻痺が解除されたのか走り出す。間に合う・・・?


ズパァァン!!

「「「・・・え?」」」

その場にいた全員がそう発した。何故ならクラディールが、真っ二つに裂け・・・消滅したから。そして散り行くポリゴンの背後にいたのは・・・

「・・・くたばってろ、ゲスが・・・」

擬音を振り下ろした亮の姿だった。亮はわたしに駆け寄ってくる。

「平気か、咲!?」

亮は回復結晶でHPを回復してくれてから剣を引き抜いてくれた。

「う・・・」

「咲!」

「どう・・・して・・・?」

「アスナのお陰だ。アスナがリストの追跡でゴドフリーが死んだのに気付いて飛び出して・・・お陰で少し遅れたけどな」

「お姉ちゃんが・・・」

亮はキリトを見る。

「アスナ、兄貴を任せるよ。咲は俺が担当するよ」

「え・・・」

「・・・兄貴、俺は先に戻るから」

「・・・ああ。・・・亮、お前人を・・・」

「気にしないで。・・・じゃあ」

転移をしてわたしは亮の家に連れてこられた。少ししたら亮から知らされた詠が焦りながら家に飛び込んできて・・・泣いた。そこでようやく“俺”に戻れた。

「ごめん・・・詠・・・」

「・・・咲・・・ボク・・・」

「・・・まあ、無事でよかったじゃないか」

「はい。・・・生きていれば、まだ先はありますから・・・」

『でも・・・オイラは何も出来なかったッス・・・』

「リパルは悪くない。俺が・・・俺がもっと早くアイツの正体に気づければ・・・」


それから夕食にして・・・しばらく話をしていた時・・・
アスナからメッセージが届いた。

「え・・・?」

亮も何か届いたのかメニューを開く。

「えっ、と・・・“早貴へ、わたしね、キリト君と・・・”」

「“亮へ、俺さ、アスナと・・・”」

「「“結婚します”・・・え・・・!?」」


同時に驚き・・・そして、唖然。

「お姉ちゃんが・・・結婚・・・キリトと・・・?」

「咲・・・」


「あれ・・・何でだろう」

頬を何かが伝う。

「良いことなのに・・・何でだろう・・・涙が、止まらないや・・・」

せっかく俺になったのに、またわたしになってしまった。

「そっか・・・お姉ちゃん、結婚・・・するんだ」

「・・・あの鈍感兄貴がな・・・」


「あはは・・・お祝い、しなきゃ・・・」

「咲、平気?」

詠に聞かれ・・・

「・・・分からない・・・ごめん、亮。帰る・・・」

「・・・ま、混乱するよな・・・ゆっくり休めよ」

「うん・・・ありがとう」

『咲さん・・・』

「今はそっとしといてやりなさい」

わたしは詠と一緒に帰る。・・・何となく空を見上げ・・・再び涙が一筋、頬を伝った・・・

 
 

 
後書き
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姪っ子誕生!?~

 
前書き
うがー!?テストが・・・テストがー・・・!?というわけでテスト期間なので遅れました。・・・明日の数学大丈夫かな・・・ではどうぞ! 

 
キリトとアスナの電撃結婚から数日。二人は下層に存在している森の中に引っ越してのんびり休暇を取っているだろう。あのクラディールの事件をヒースクリフに報告し、一時休暇を受け入れてもらったり・・・咲は血盟騎士団に残り続け、全力で攻略に当たっている(噂ではリズベットとやけ酒を煽っていたとか・・・)俺も何時もと変わらずに適度に攻略やレベル上げに精を出していた・・・そんなある日、亞莎が買い出しに行っている時に、来客があった。

「おっす」

「あれ、どうしたんだよ、咲?」

「一応ボクもいるわよ」

「詠まで・・・」

「あのさ、団長から頼まれて二人の様子を見に行くことになったんだ。だから亮も行こうぜ」

すると詠が小声で呟く。

「(・・・最近咲のペースが激しいから、団長なりの気遣いみたいね)」

「(・・・なるほどね)・・・あー、けど悪い。今亞莎がいないんだ。サチを一人には・・・」

「・・・だったら連れていけばいいんじゃないか?」

「な・・・!?はぁ!?」

いきなり何を言ってるんだ・・・!?

「こんな空気の悪そうな場所じゃなくてさ、自然豊かな場所に連れていけば精神のケアになるんじゃないかと思ってな」

「む・・・」

『それに、ずっと籠りっぱなしなのもそれはそれで駄目じゃないッスか?』

「ま、まあな・・・」


「・・・ああ、サチさんを運ぶ手段なら・・・」

咲がそう言ってメニューを操作して・・・

「じゃじゃーん!リズ特製車イスー!」

「・・・そんなアイテムあるんだ」

でもまあ、ストレッチャーとかあるんだから車イスもあるか・・・

「それにお姉ちゃん達が引っ越した22層はモンスターが出ないから、命に関わることは多分起きない」

「・・・わかった、わーかったよ」

俺はサチの部屋に入り・・・抱き抱える。

「そうだよな・・・たまには外出もしたいよな」

「・・・」

相変わらず何も答えないサチ。俺はサチを車イスに乗せ、歩き出す。・・・そして転移門の前に来たとき・・・亞莎が転移門の影から現れた。

「亞莎!?なんでここに・・・」


「えっと・・・咲さん、上手くいったんですね」


「ああ、まあな」

「え・・・まさか亞莎!」

「う・・・す、すみません。咲さんが様子を見に行くよう言われたのは本当ですが・・・その、自然に囲まれるのもサチさんにいいかと・・・勝手なことしてすみません・・・」

「あ・・・いや、亞莎を責めている訳じゃないよ。・・・うん、確かに亞莎に言う通りだよ」

「亮さん・・・」

「ほら、軍師がおどおどしてんじゃないわよ」

「は、はい!」


・・・気を取り直し、五人で22層に向かう。

「・・・こんな層があったのか・・・」

「ここはレベル上げに向かないからな。亮、お前も気付かずに飛ばしたんじゃないか?」


「まあ・・・あの頃はかなり差がついてたし・・・」

層を飛ばし飛ばしなんてよくやったからなあ・・・


「辺りが森や湖ばかりですね・・・」

「この世界だと平和なのは良いことよ。・・・むしろ違和感を感じそうね」

「ところで咲、二人の場所は?」

「ああ、聞いてるよ。えっと・・・こっちだな」

森の中をどんどん進んでいく。

「・・・たまにここが仮想世界か疑うよね」

「・・・まあ、ボク達は幻想郷とかもっと非現実的なとこも見てるし・・・」

「ま・・・まあそうですね・・・」


「あはは・・・サチ、どう?」

「・・・」

「・・・やっぱりすぐには変わらないよね・・・」

「・・・ほれ!」

咲が頭を叩いてくる。

「キリトやお姉ちゃんに会った時に、そんな顔してたら心配されるぜ。・・・サチさんを見たらキリトも色々思い出すだろうし、お前がフォローしてやれよ」

「あ・・・ああ・・・ところで咲?」

「ん?」

「・・・めっちゃ女の子っぽい服着てるのな」

「ほっとけ!制服でふらふら下層を歩けるか!」

「前の黒い服は?」

「・・・お姉ちゃんが男のフリはもう必要ないって・・・禁止された」

「うわ・・・」

「わたしは嬉しいけど俺は複雑だよ・・・」

そんな話をしていたら、一つの家が目に入った。

「ここ?」

「・・・うん、そうだな。・・・行こうぜ」

咲が家のドアをノックする。しばらくすると何かが走る音が聞こえ、ドアが開いた。

「・・・あれ?」

だがそこには誰も・・・

「・・・おねえちゃんたち、だれ?」

・・・下から声が聞こえ、下に視線を向けると・・・女の子がいた。

「・・・あれ?家間違えたかな・・・」

咲が首を傾げたその時、背後から二人の人影が・・・


「ユイちゃん、勝手に出たら危ないよ・・・って」

「アスナ、誰が来たんだ・・・っと?」

「あ、パパ!ママ!」

「・・・・・・へ?」


咲がフリーズ。ちなみに俺も・・・今の言葉を整理していた。パパ?ママ?キリトとアスナが?・・・って。

「「えええぇぇぇぇ!?!?」」


亞莎や詠も唖然とし、俺や咲は驚きの大絶叫を出した。

「おね・・・お姉ちゃんがママ・・・?え、だって・・・あふぅ・・・・・・」

「ちょ、咲!?」

『咲さんっ!?』

咲が倒れそうになり、背後にいた詠が慌てて咲を支える。

「・・・えっ、サチ!?」

「え、えぇぇ!?」

キリトもサチに気づき混乱。アスナも咲とサチを交互に見てあたふたしている。・・・その場を収拾するのには数十分を必要とした・・・







































































・・・さて、気を失った咲を室内に運び、お互いに説明しあう。この黒髪の女の子の名前はユイ。二人がこの層にある森の中で発見したそうだ。・・・だが、記憶喪失だったらしく、“ユイ”という名前だけしか憶えてなかったのだ。そしてキリトやアスナをパパママと呼ぶ理由は、単に“キリト”と“アスナ”と上手く発音出来ず、好きな風に呼んでいいと言ったら・・・こうなったのだ。サチについても説明をして・・・


「・・・そっか。この人が・・・初めまして、サチさん。わたしはキリト君の妻のアスナです」

「・・・」

「・・・亮君、今までずっとこうなの・・・?」


「・・・ああ。何があろうとサチは反応しない」


「そうなんだ・・・でも亞莎さんも毎日お世話してるんだもんね・・・きっといつか・・・」

・・・アスナは亞莎と直接会ったことはなかった筈。色々説明はしたけど・・・

「・・・はっ!」

そこでぐったりしていた咲が飛び起きた。

「お、おおおお、お姉ちゃん!どういうことーー!?まさかキリト、あんたお姉ちゃんに手を出したんじゃ・・・」

「・・・(ふいっ)」


「なんで顔逸らすのよ!・・・はぁぁぁぁ・・・」


咲はその場に座り込む。

「・・・?」

するとユイが咲に近寄り・・・頭を撫でる。

「だいじょうぶ?どこか痛いの、おねえちゃん」

咲はゆっくり顔を上げ・・・目をうるわせて・・・

「ありがとうーーーー!」

ガバッと抱きついた。

「うう・・・こんないい子がいるんだね・・・」


「あー、咲さん?取りあえず説明したいんだけど・・・」

・・・というわけで咲にも説明。


「・・・そうだったんだ」

「おねえちゃんって・・・ママのお友達?」


「あ・・・えっと・・・わたしはお姉ちゃん・・・ユイちゃんのママの妹だよ。サキって言うけど・・・好きなように呼んでいいよ」

「・・・うん!おねえちゃん!」

「・・・かわいいなぁ」

「咲、お前・・・あ、俺は・・・あー、亮だよ。こっちも好きなように呼んでいいよ」

「えっと・・・」

「伯父さん伯父さん(ボソッ)」

「何言ってんだこら」

咲が何かをユイに囁く。


「・・・おじさん?」

「げふぅ!?」

ま、まあ確かに伯父ではあるけど・・・何かなぁ・・・

「ご、ごめんユイちゃん・・・せめて別の呼び方で・・・」

「うーん・・・おにいちゃん?」


「ああ・・・うん。それでいいよ」


「・・・」

「・・・これ、ボク達も名乗った方がいいの?」

「まあ、そうですよね・・・」

「ま、いいわ。ボクは詠よ」

「えい・・・エイおねえちゃん!」

「ふと思ったけどいいやすいよな、詠って真名」

「そ、そう?」

すると亞莎は・・・こう言った。

「私は・・・どうしまょう」

「あ?・・・あー」

確かにアーシェって言いにくいような・・・あ、そうだ。

「この子はアーちゃんって呼んであげな」

「りょ、亮さん!?」

「アーちゃん?」

「え・・・えっと、はい。ユイちゃん」

「良かったな亞莎。一番友達っぽいぞ」

「・・・でも、何だか嬉しいですね。フランといるみたい・・・」

・・・そ、そうなんだ。

『何だか凄いッスね・・・』

「・・・?」

ユイが辺りをキョロキョロと見渡した。

「ユイちゃん?どうしたの?」

アスナが聞くとユイは首を傾げた。

「いま・・・なにか聞こえた」

「・・・え?」

咲が驚く。いや、まさか・・・

『お、オイラの声が聞こえてる訳じゃないッスよね・・・?』


「・・・っす?」

「い、いや・・・聞こえてるみたい・・・」

「な、なんで・・・?」

この子はリパルには触れてない筈・・・どういうことだ・・・?


「・・・」

咲の目付きが変わる。

「リパル、プレイヤーデータの取得だ(ボソッ)」

『(え?で・・・でも)』

「頼む」

『(りょ、了解ッス・・・)』


しばらく沈黙が続き・・・

『(あ、あれ?)』

「どうした?」

『(そ・・・それが、詠さんや亞莎さんと同じデータッス)』

「・・・は?それってプログラム・・・プレイヤーじゃないのか?」

「他に情報は?」

『(・・・駄目ッス。プロテクトが・・・オイラじゃこれ以上はシステムに引っかかるッス)』

「そうか・・・わかった。無理はしなくていい」

『(すみませんッス・・・)』


「気にするな。・・・まさかこの子・・・いやまさかな・・・」

咲がぶつぶつ呟き出す。それを見てアスナが咲を覗き込む。

「サキ、どうしたの?」

「え?あ、な、何でもないよお姉ちゃん」

咲が思考を中断し、素早く性格を切り替える。






「そう?・・・それでね、今から丁度“はじまりの街”に行こうと思ってたの」
「あ・・・もしかして出かけるタイミングでわたし達が来ちゃった」

「むしろ丁度よかったんじゃないか?」

キリトが言うと咲がちらっと見る。

「・・・それじゃ、普段の夫婦仲はどんなのものかしっかり見せてもらおっかな」

「う・・・なんか姑みたいだぞ・・・」

「姑で結構です!お姉ちゃんの夫ならそれなりの人じゃないと!」

「くす・・・」

「ちょ、笑わないでよお姉ちゃん・・・」

「ううん。ただ、嬉しいなって」

「え?」

「この世界に来て良かったこと・・・そのひとつは早貴が明るくなってくれた事だな・・・って」

「お姉ちゃん・・・」

「(咲・・・?)」

一瞬だが、咲が顔を歪めた。

「じゃあ、行こうか。・・・あ、サチは・・・」

キリトが頬を掻く。はじまりの街は“軍”のテリトリー・・・何が起こるかわからない。だからこそキリトは言いよどんだ。

「・・・でしたら私達はここに残ります」

「ま、もうお約束よね」

「・・・悪いね。亞莎、詠」

「構いません。散歩したりしますので」

「大丈夫だと思うけど・・・咲、気をつけて」

「ああ、行ってくる」

アスナがユイに話し掛ける。

「さ、じゃあお出掛けしようね」
「うん。パパ、だっこ」

キリトは照れて苦笑しながらユイを抱き上げる。


「・・・いいなー・・・キリト、次わたしにも抱っこさせてー」

「え?あ、ああ。ユイ、どうだ?」

「うん!もう少ししたらおねえちゃんにだっこしてもらう」

「えへへ・・・ほんとに妹が出来たみたい・・・」



そう咲が笑う。今のは、咲じゃなく早貴の・・・?その時だった。ユイの目線がサチに向いていた。

「・・・暗闇・・・深くて・・・暗い・・・光の差さない・・・」

「・・・!?」

「ん?ユイ、何か言ったか?」

「・・・?」

ユイは首を傾げる。キリトは意識してなかったからよく聞こえなかったようだが・・・

「(今のは・・・どういう・・・)」



なんだか、この一件はただでは終わらない。そんな予感がしていた・・・・・・ 
 

 
後書き
早貴
「ユイちゃんか・・・」


「・・・(みたい)はアリエッタがいるだろ?」

早貴
「俺はね。でもわたしは末っ子だし。いつもお姉ちゃんやお兄ちゃんに頼ってたし・・・」


「・・・ふーん」

早貴
「・・・つか最近作者。作者なのに俺の脳内ボイスが思い付かないらしいし・・・俺のキャラどんどんおかしくなるな」


「あはは・・・それじゃ、次回もよろしく!」 

 

はじまりの地~

 
前書き
だぁぁぁ!めっちゃ遅れてすみません・・・しかも水曜日から修学旅行でまた遅れるかも・・・ではどうぞ! 

 
・・・さて、俺達は第1層・・・はじまりの街に到着する。

「さ、行こっかユイちゃん」

「うん、おねえちゃん!」

咲がユイを抱っこして歩く。

「・・・なあ、アスナ」

「え?なに、コウハ君」

そこで俺は気になったことを聞いてみた。



「咲・・・リアルじゃどんな奴だったんだ?何でこのゲームをプレイしたのかもわからないし・・・あ、言いにくいなら構わないよ」

アスナは少し考えてから・・・口を開いた。

「・・・ううん、コウハ君にも・・・キリト君にも聞いてほしい。サキだけじゃなくて、わたしにも関係する話だから・・・」

それにキリトが頷き、答える。

「ああ、どんな話でも聞くよ」

「・・・このゲームが始まる前のわたし達は・・・自分で言うのは嫌な感じだけど、エリート人生って言うのかな・・・決められたレールが敷かれてたの」

「・・・」

「常に親が望む成績、決められた友達、複数の習い事・・・まるで鳥籠に閉じ込められたみたいだった」

「そうなんだ・・・」

「・・・サキはとても気が弱くて、何時も両親や親戚にも怯えて、必死にわたしや兄に追い付いてきて・・・笑顔なんて、本当に小さい時までしか見られなかった」

「あいつが・・・」

今の咲・・・早貴の人格を知っていても驚きだ。

「それでもストレスが貯まっちゃったのかな・・・お母さん達に内緒でサキはナーヴギアを買ったの。理由は・・・“全部忘れられるから”・・・あの時のサキの顔も・・・覚えてる」

アスナはどんどん話していく。


「そんなサキがSAOの話を兄から聞いて・・・興味を持たない筈がなかったの。兄に頼み込んで、ソフトを手にいれてもらって・・・わたしは丁度出張でプレイできない兄の代わりにせっかくだから1日だけプレイしようとナーヴギアを被って・・・この世界に来た」

アスナは俯く。この話は本当に聞いていいのだろうか・・・

「それでわたしは最初、頭の中が混乱して・・・多分サキに宿に運んでもらって、数日間パニックになってた」

「(普通・・・そいだよな)」


「親の蔑み、ライバルの哀れみ・・・色んな黒い感情が爆発しそうになったある日、サキがいったの」

「?」

「『お姉ちゃんは必ずわたしがリアルに帰すから。何時までもお姉ちゃんの背中に隠れていないで・・・わたしもお姉ちゃんを助けたい』・・・そう言ったの。・・・その時わたしは何でこんなつまらないことを考えてパニックを起こしてたんだろうって思ったわ。・・・いつの間にかわたしはサキに追い抜かれて・・・今もずっとサキに頼ってる・・・ダメだよね、わたし?あの子のお姉ちゃんなのに・・・」

「・・・そうでもないよ」

「キリト君・・・」

「サキの気力はアスナがいてこそなんだ。アスナが側にいるだけでサキはあそこまでやれる・・・」

「そうだよ。それに、アスナだって助けた数多くの人がいる筈だよ。アスナが攻略に参加したから犠牲を防げた時だってあった筈なんだから」

「・・・ありがとう、二人とも」

つまり昔のサキの性格はかなり暗かった。・・・ゲームが始まった直後はまだ咲の記憶はない・・・つまり、早貴は自分で変わりたいと、アスナを守りたいと思った・・・ややこしいなあ。


「俺だってアスナに助けられた。アスナがいなかったら俺もここにはいなかった。・・・俺はアスナに会えてよかったと思ってるよ」

「キリト君・・・うん、わたしもだよ・・・」

「・・・ひゅーひゅー」

なるほどね。最初はサキの話を聞くだけだったけど・・・キリトとアスナの仲も深まったようだ。



「パパー、ママー、おにいちゃんー、早くー!」


遠くからユイの声が聞こえ、俺達は笑いながら二人を追いかける。



「・・・にしても・・・」

俺は辺りを見渡す。咲も何かに気づいたのかキリトに聞く。

「ここって・・・何人のプレイヤーがいるんだっけ?」


「うーん、そうだな・・・生き残ってるプレイヤーが六千、軍を含めると三割くらいがはじまりの街に残ってるらしいから、二千弱ってとこじゃないか?」

「・・・そのわりには人気がなくない?」

「そう言われると・・・マーケットのほうに集まってるのかな?」

・・・だが、街の市場エリアに入っても街は閑散としていて、NPCの声だけが寂しく聞こえた。それでも大きな木の下に座り込むプレイヤーを見つけ、話し掛ける。

「あの、すみません」

「なんだよ」

「あの・・・この近くで、尋ね人の窓口になっているような場所、ありません?」



それを聞いて男はアスナに視線を向け、じろじろ眺める。

「なんだ、あんたよそ者か」

「え、ええ。あの・・・この子の保護者を探してるんですけど・・・」

男はユイを見ると一瞬目を丸くした。

「・・・迷子かよ、珍しいな。・・・東七区の川べりの教会に、ガキのプレイヤーがいっぱい集まって住んでるから、行ってみな」

「あ、ありがとう」

アスナがぺこりと頭を下げる。・・・俺はふと気になって聞いてみた。

「こんなところで何をしてるんですか?人もいないみたいですし・・・」

「企業秘密だ、と言いたいとこだけどな。よそ者なら、まあいいや・・・ほら、見えるだろ?あの高い枝」

見上げると街路樹の枝に黄色い果実が生っているのが見えた。

「もちろん街路樹は破壊不能オブジェクトだから、登ったって実はおろか葉っぱの一枚もちぎれないんだけどな・・・一日に何回かあの実が落ちるんだよな・・・ほんの数分で腐って消えちまうんだけど、それを逃さず拾えば、NPCにけっこうな値で売れるんだぜ。食っても上手いしな」

「へえええー」

どうやら料理スキルを極めたアスナには食材アイテムに興味があるようだ。

「幾らくらいで売れるの?」


「・・・これは黙っててくれよ。一個、五コルだ」

「・・・」

・・・五コル?それじゃ、まるでこの労力と釣り合わない。少し戸惑いながら咲が口を開く。

「え、えっと・・・それよりフィールドでワームとかを倒せば三十コルくらいにはなりますよ・・・?」

すると男は頭がおかしいんじゃないかと言わんばかりの視線を咲に向けた。

「本気で言ってるのかよ。フィールドで、モンスターと戦ったりしたら・・・死んじまうかもしんねえだろうが」

「あ・・・・・・」

咲は口を閉じ、うつ向いてしまう。・・・そうだ。何がどうあれHPがゼロになれば死ぬ。そこには必ず何%の可能性の死亡確率も含まれている。・・・更に驚きなのは人がいないのは軍の徴税・・・体のいいカツアゲにあうのを恐れて室内に隠っているかららしい。

「酷いな・・・キリト、早く教会に・・・」

「・・・」

・・・そこには真剣に実を奪おうとする兄の姿があった。

「「・・・」」

がつん。

俺と咲は無言でキリトにクロスボンバーを叩き込んだ。

「おぐっ!?お、お前ら、何するんだよ!?」

「意地汚いよキリト君・・・」

「いい?ユイちゃん。ああいういやしい行動はしちゃだめだよ?」

「うん!」

「何だよその良い返事は・・・」


「ほら、キリト君行くよ」

「・・・はぁい」


しばらく歩くと、ユイが寝てしまい、咲はキリトにユイを渡す。ユイを抱き上げてもう少ししたら・・・教会が見えてきた。

「・・・もし、あそこでユイちゃんの保護者が見つかったら、ユイちゃんを・・・置いてくるんだよね・・・?」

「お姉ちゃん・・・」


「まあ、そうなるよね・・・」

「アスナ、別れたくないのは俺も一緒さ。何て言うのかな・・・ユイがいることで、あの森の家が本当の家になったみたいな・・・そんな気がしたもんな・・・でも、会えなくなるわけじゃない。ユイが記憶を取り戻したら、きっとまた訪ねてきてくれるさ」

「ん・・・そうだね」


・・・俺達は二階建ての割と小さな教会の扉を開き、アスナが上半身だけを差し入れ、声を出す。

「あのー、どなたかいらっしゃいませんかー?」

残響エフェクトの尾を引きながら声が消えていくが・・・誰も出てこない。

「誰もいないのかな・・・」


キリトがそれを否定する。

「いや、人がいるよ。右の部屋に三人、左に四人・・・二階にも何人か」

「・・・索敵スキルって壁の向こうの人数まで解るの?」

「・・・熟練度980からだけどね。まあ、キリトといるならアスナが上げる必要はないっしょ。修行地味だし・・・」


「確かに・・・」

まあ、俺の場合、恋姫の世界でやってた鍛錬と似ていたからそこまで苦でもなかったけど・・・すると咲が中に足を踏み出す。

「すみませーん、人を探してるんですけどー」

その声が聞こえたのか、扉がゆっくり開き、女性の声が聞こえてきた。

「・・・軍の人じゃ、ないんですか?」

「違います。上の層から来まして・・・」

流石に軍を刺激したくないので、俺達は装備を外していた。・・・リパルに至ってはユイに声が聞こえるので、咲だけに声が届くようにしてるみたいだ。その証拠に咲はたまに頷いたりしている。

「ほんとに・・・軍の徴税隊じゃないんですね・・・?」

奥から出てきたのは晴青色のショートヘアで、黒縁の眼鏡をかけた女性だった。その手には小さな短剣が握られている。


「ええ、わたし達は人を探していて、今日上から来たばかりなんです。軍とは何の関係もないですよ」

そうアスナが言った途端・・・

「上から!?ってことは本物の剣士なのかよ!?」

あちこちのドアが開き、大量の子供達が俺達に駆け寄ってきた。

「こら、あんたたち、部屋に隠れてなさいって言ったじゃない!」

だが好奇心満載の子供を止められる訳がなく・・・

「なんだよ、剣の一本も持ってないじゃん。ねえあんた、上から来たんだろ?武器くらい持ってないのかよ」

俺はあたふたしているキリトを横目で見ながら、子供に答える。


「ふっふっふ、そんなに見たいなら見せてあげようか?」

確か何本かあまり武器があった筈だ。それで俺達は余剰な武器を全てオブジェクト化して、子供達に渡すと、目を輝かせながらあちこち見渡す。・・・これ、親が見たら卒倒ものだよな。

「・・・すみません、ほんとに・・・」

「構わないで下さい。子供の相手は慣れてますから」

「まあ、な」

俺の言葉に咲が端で頷いていた。俺達は女性に招かれてお茶を頂いた。

「それで・・・人を探していらっしゃるということでしたけど・・・」

「あ、はい。ええと・・・わたしはアスナ、そして妹のサキです。それでこの人がキリトと、その弟のコウハといいます」

「あっ、すみません、名前も言わずに、私はサーシャです」

女性・・・サーシャさんが頭を下げると、俺達も頭を下げ合う。

「で、この子がユイです」


未だ寝ているユイの頭を撫でながら、アスナが話す。

「この子、22層の森の中で迷子になってたんです。記憶を・・・なくしてるみたいで・・・」


「まあ・・・」

サーシャさんに説明をして、また、ここには小学生から中学生に至るまでの20人くらいの子供達がいることを教えてもらった。


「私、ゲーム開始から一ヶ月くらいは、ゲームクリアを目指そうと思ってフィールドでレベル上げしてたんですけど・・・ある日、そんな子供達の一人を街角で見かけて、放っておけなくて宿屋で一緒に暮らし始めたんです。・・・そうしたら、殆どの子供達が宿屋にいて・・・ビックリしました」

「あ・・・」

思わず俺は声をだしていた。

「それで色々あって今の状態に・・・私は、皆さんみたいに、上層で戦ってらっしゃる方もいるのに、私はドロップアウトしちゃったのが、申し訳なくて」


「そんな・・・そんなこと」

言葉に詰まったアスナを助けるように、俺は口を開く。

「いいえ、サーシャさんは凄いです。中途半端な俺よりも、ずっと・・・」

そうだ・・・俺はあくまでその場凌ぎで人助けをした気になって・・・


「ありがとうございます。でも、義務感でやってるわけじゃないんですよ。子供達と暮らすのはとっても楽しいです」

他にも色々話してくれた。この二年、毎日あちこち困っている子供がいないか探していること。年長組がなんとか生活費を稼いでくれること。・・・つまり、お金をここにいる他のプレイヤーよりもかせいでいること。

「だから、最近目を付けられちゃって・・・」

「・・・誰に、です?」

サーシャさんが口を開こうとしたその時。

「先生!サーシャ先生!大変だ!」

部屋の扉が勢いよく開き、子供達が雪崩れ込んできた。

「こら、お客様に失礼じゃないの!」

「それどころじゃないよ!!ギン兄ィたちが、軍のやつらに捕まっちゃったよ!!」

「・・・場所は!?」

サーシャさんがすぐに立ち上がり、少年から場所を聞く。

「解った、すぐ行くわ。・・・すみませんが・・・」

俺達は見合わせて頷き合う。

「俺達も助けに行きます。・・・お茶を頂いたお礼です」

「俺たちも行くよ!兄ちゃん、さっきの剣を・・・」

俺は子供に目線を合わせ、やや雑に頭を撫でる。

「残念だけど君達じゃ装備できないんだ・・・けど、助けたいって気持ちは充分解った。だから俺達に任せてくれ。君の大切な仲間は俺達が助ける」

子供はしばらく考えたのち、小さく頷いた。


「サーシャさん、行きましょう。・・・軍は何をするかわかりません」

咲の言葉にサーシャさんは頭を深く下げた。

「・・・ありがとう、お気持ちに甘えさせて頂きます。・・・それじゃ、すみませんけど走ります!」

『はい!』

俺達は一斉に返事をして、走り出す。寝ているユイは今度はアスナが抱いて、走る。さっきの子供が何人か引き留めたみたいだが、数人が追いかけてきていた。そしてしばらく走ると細い通路を塞ぐ10人くらいの鎧・・・軍だ。サーシャさんの姿を確認した軍のプレイヤーがにやりと笑う。

「おっ、保母さんの登場だぜ」

「・・・子供達を返してください」

「人聞きの悪いこと言うなって。すぐに返してやるよ、ちょっと社会常識ってもんを教えてやったらな」


「そうそう。市民には納税の義務があるからな」

品のない笑い声。サーシャさんは拳を固く握り、震わせている。

「ギン!ケイン!ミナ!そこにいるの!?」

すると少女の怯えた声が返ってくる。

「先生!先生・・・助けて!」

「お金なんていいから、全部渡してしまいなさい!」


「先生・・・だめなんだ・・・!」

今度は少年の声。

「くひひっ、あんたらずいぶん税金を滞納してるからなぁ・・・金だけじゃ足りないよなぁ」

「そうそう、装備も置いていってもらわないとなァー。防具も全部・・・何から何までな」

その言葉を聞いて・・・咲が低い声で言った。

「・・・お姉ちゃん・・・わたし」

「うん・・・行こう」

俺はキリトを目を合わせる。そして、俺達は一斉に地面を蹴り、空を跳んだ。

「うわっ!?」

そして悠々と壁の役割をしていたメンバーを飛び越え、子供達の前に着地する。

「もう大丈夫よ。装備を戻して」

アスナが言うと子供達は慌てて装備を拾う。

「おい・・・オイオイオイ!!」

ようやく我に返った軍の一人がわめき声をあげた。

「なんだお前らは!!軍の任務を妨害すんのか!!」

「まあ、待て」

リーダー格と思わしき男が止める。


「あんたら見ない顔だけど、解放軍に楯突く意味が解ってんだろうな?何なら本部でじっくり話を聞いてもいいんだぜ」

男がブロードソードを引き抜き、わざわざぺちぺち手のひらに当てる。・・・薄っぺらい武器だ。

「それとも圏外行くか、圏外?おぉ!?」

それを聞いて・・・写真に納めたい程、姉妹の行動は一致した。

「・・・キリト君、ユイちゃんをお願い」

「これ・・・正当防衛・・・だよな」

「過剰防衛になるなよー?」

キリトも予想してたのか、ユイを受け取る際にアスナの細剣を渡す。そして二人を武器を持ってゆっくりとリーダー格に歩いていく。

「お・・・お・・・?」


そして・・・綺麗に揃った動きで全力の一撃を叩き込んだ。爆音、そして男は吹き飛ぶ。・・・どちらか片方だけなら尻餅をつく程度で済んだろうに・・・

「そんなに戦闘がお望みなら、わざわざフィールドまで行く必要はないわ」

慌てて立ち上がった男に・・・アスナの追撃。そして咲が大きくリパルを振りかぶる。

「安心してね。HPは絶対に減らない・・・けど、永遠に続けるけど」

ガゴン!と再び爆音。圏内における攻撃は全て防がれるが、衝撃がある程度抜ける。

「お前らっ・・・見てないで・・・何とかしろっ・・・!!」


そうして軍メンバーは全員走り出すが・・・素晴らしい程に蹴散らされていく。

「(遠坂と桜より恐い姉妹だよ・・・)凄いのがお嫁さんだね、キリト」

「お前も凄いのと友達だよな、コウハ」

その時、一人がこちらに向かってくる。

「じゃ、久々に俺もやるか」

俺は葬解を装備する。

「武器も持たないで・・・!」


怒り心頭といった風に剣を振りかぶる。

「ほっ」

スパン

「がっ・・・」

その隙だらけな“殴って下さい”と言わんばかりな顔面に一撃を与える。

「き、きさ・・・ぐっ!?」

続いて二発目。流石に男も顔の前を防御するが・・・

「顔だけ防いだって意味ねえよ」

俺は思いきり足を上げ、回し蹴りを頭に叩き込む。

「ぐぇ・・・」

男の身体が左に揺れる。すぐに蹴りに使った右足を軸に、少し跳ねて縦回転。そのまま叩き落とすように左足を落とし・・・男は顔面から地面に叩きつけられた。

「・・・もう終わりか?精進が足りないな」


「お見事だな」


「いやいや。軽い軽い」

三分もすれば辺りには数人のプレイヤーが転がり、後は逃げたらしい。

「ふう・・・」

見るとやはり心配だったのか、子供達が全員来ていた。


「あ・・・」


アスナが一歩下がる。・・・さっきまでの怒りの姿を見られたからだろうか。だが子供達は・・・目を輝かせていた。



「すげえ・・・すっげえよ姉ちゃんたち!!初めて見たよあんなの!!」

「だから約束したろ?必ず助けるって」

キリトがアスナの肩に手を置くと、アスナは照れながら笑う。全員が笑った・・・その時だった。

「みんなの・・・みんなの、こころが」

「(え・・・!?)」

いつの間にか目覚めたユイが、何もない場所に視線を向け、手を伸ばしていた。

「みんなのこころ・・・が・・・」

「ユイ!どうしたんだ、ユイ!!」


キリトが叫ぶとユイはきょとんとした表情を浮かべる。アスナが駆け寄り、ユイの手を握る。

「ユイちゃん・・・何か、思い出したの!?」

「・・・あたし・・・あたし・・・」

ユイが俯く。

「あたし、ここには・・・いなかった・・・ずっと、ひとりで、くらいとこにいた・・・」

「ユイちゃん・・・?」

咲がそれを聞いて顔をしかめる。

「うあ・・・あ・・・あああ!!」

いきなりユイが体を仰け反らせ、高い悲鳴を上げた。

「な・・・!?」

そしてSAOでは初めての・・・ノイズじみた音が聞こえ、まるでバグったかのようにユイの身体が振動する。

「ゆ・・・ユイちゃん・・・!」

「ママ・・・こわい・・・ママ・・・!!」

アスナがユイを抱きしめ・・・しばらくすると、ユイの身体から力が抜けた。

「何だよ・・・今の・・・」

「ユイちゃん・・・まさか・・・いや、そんなわけ・・・」

ただ、静寂に支配された場に、キリトと咲の呟きがよく聞こえた・・・
 
 

 
後書き

「・・・ユイってなんなんだろ」

早貴
「ユイにゃん♪」


「それ違うし、今のお前がやっても違和感はないが、似合わないぞ」

早貴
「・・・ひっで。まあ、ユイちゃんは・・・ねえ?」


「なんか気づいたのか?」

早貴
「さあ?それじゃ、次回もよろしく!」
 

 

Yui-MHCP001~

 
前書き
修学旅行より帰還して初投稿です。・・・今回、説明も長くてしんどかったです。ではどうぞ! 

 
・・・ユイの謎の現象から1日・・・

「ミナ、パンひとつ取って!」

「ほら、余所見してるとこぼすよ!」

「あーっ、先生ー!ジンが目玉焼き取ったー!」

「かわりにニンジンやったろー!」


・・・巨大な長テーブルの上で、食事と言う名の戦争を子供達は繰り広げていた。

「騒がしいけど・・・楽しそうだね・・・」

「毎日こんな感じなんですか?」

咲が聞くとサーシャさんは笑いながら答える。

「ええ。いくら静かにって言っても聞かなくて」

「子供、好きなんですね」

サーシャさんは照れながら微笑んだ。・・・それからサーシャさんは現実では教職課程を取っていたり、この世界で子供と過ごして色々違うことを知った・・・などと教えてくれた。

「ユイ、ゆっくり食べなよ?」

「うん、おにいちゃん」

・・・ユイはあの発作のあとすぐ目を覚ました。ただ、かすかに戻ったらしい記憶によれば、はじまりの街も、ましてや保護者と暮らしていた覚えもない・・・そんな時、索敵スキルに誰か引っ掛かった。

「誰か来るぞ。一人・・・」

サーシャさんと、念のため着いていったキリトに連れられて来たのは、長い銀髪をポニーテールに束ねた女性だった。・・・ただ、その装備は“軍”のユニフォームだったが。

「・・・」


「キリト、この人は・・・?」

警戒の色を見せる咲に代わり、おれが尋ねる。

「ええと、この人はユリエールさん。どうやら俺達に話があるらしいよ」

するとユリエールと言われた人は頭を下げて口を開いた。

「はじめまして、ユリエールです。ギルドALFに所属してます」

「ALF?」

アスナが聞くと、ユリエールは小さく首をすくめた。

「あ、すみません。アインクラッド解放軍、の略称です。正式名はどうも苦手で・・・」

ユリエールの声は、落ち着いた艶やかなアルトだった。・・・まるで誰かに似てるような・・・

「(楓、楓)」

「ああ・・・」

咲が咳払いをして口を開く。

「はじめまして、ユリエールさん。わたしは血盟騎士団のサキです」

「ええと・・・わたしは一時脱退中ですが、同じく血盟騎士団のアスナと言います。この子はユイ」

「・・・俺だけなんかやだな。ソロのコウハです、はじめまして」

「KoB・・・なるほど、道理で連中が軽くあしらわれるわけだ」


「・・・つまり、昨日の件で抗議に来たってことですか?」

「いやいや、とんでもない。その逆です。よくやってくれたとお礼を言いたいくらい」

「・・・」

ユリエールは姿勢を正し、こちらの目をまっすぐ見る。

「今日は、皆さんにお願いがあって来たのです」

「お、お願い・・・?」

アスナが聞き返すとユリエールは頷く。

「はい、最初から説明します。軍というのは、昔からそんな名前だったわけじゃないんです・・・軍ことALFが今の名前になったのは、かつてのサブリーダーで現在の実質的支配者、キバオウという男が実権を握ってからのことです」

「キバオウ・・・」

「“なんでや”・・・の人だったっけ?」

「?」

キリトと咲の会話の意味がよくわからないが、とにかく続きを聞こう。


「最初はギルドMTDという名前で・・・聞いたこと、ありませんか?」

「えーっと・・・」

「《MMOトゥデイ》の略だ、コウハ」

「あ・・・ああ。確か日本最大のネットゲーム総合情報サイトだっけ。ん・・・確か管理者がそのままギルドを結成して・・・名前が・・・」

「シンカー」

咲がその名を口にすると、ユリエールの顔がわずかに歪んだ。・・・それからユリエールは軍について色々話してくれた。元はただの生きるためのギルドだったのに、シンカーが放任主義なのをいいことに、ある日からキバオウが同調する幹部プレイヤーと共に様々な出来事を起こしていった。名前を変え、狩場を変え、そして徴税を行い出した。だがゲーム攻略をないがしろにしたことでキバオウ派に不満が起き出した。そこでキバオウは十数人近いプレイヤーによる攻略・・・そう、グリームアイズの一件で死んだコーバッツ達のことだ。当然結果は散々なもので、あと少しでキバオウを追放できると思ったのだが・・・

「三日前、キバオウがシンカーさんを騙し、回廊結晶を使って脱出不可能なダンジョンの最深部に取り残してきた・・・」

転移結晶も持っておらず、しかも非武装だ。一応生存しているので、ダンジョン内の安全地帯にはたどり着けたようだ。このままではシンカーが生きていようとギルド内で権利を持つキバオウにいいようにされてしまう。そこでユリエールはシンカーの副官として・・・助けに行くために、俺たちを頼ってきたのだろう。

「お会いしたばかりで厚顔きわまると思いでしょうが、どうか、私と一緒にシンカーを救出に行ってくださいませんか」

ユリエールの瞳には・・・焦りがあった。・・・ほんと、SAOのエフェクトはリアルだな。

「・・・」

だが、アスナもキリトも動けない。当然だ。これ自体が“罠”の可能性だってあるのだから。だが、咲は違った。

「わかりました。わたしの力で良ければ、お貸し致します」

「サキ!?」

アスナがガタッ、と椅子から立ち上がる。

「・・・ユリエールさん、あなたにとってシンカーさんは大切な人ですか?」

「・・・はい。今も、生命の碑にいつシンカーの名前に横線が刻まれるかと思うともうおかしくなりそうで・・・」


瞳を潤ませ、拳を握りしめたユリエールの手を咲が包んだ。

「その言葉が聞ければ充分です。大切な人と離ればなれになるなんて・・・あってはいけないんですから・・・」

俺も装備を身に付け、立ち上がる。

「一人で格好つけんなよ。・・・俺も行かせてもらう」

「コウハ・・・」

「それに、俺たちより早く信じてた子もいるしな?」

俺が首を振って咲に教える。

「ユイちゃん?」

ユイはにっこり笑う。

「だいじょうぶ、この人、うそついてないよ」

「ユイは人を見る目があるね」

そう言った後、キリトも立ち上がった。

「疑って後悔するよりは信じて後悔しようぜ。行こう、きっと何とかなるさ」

「相変わらずのんきな人ねぇ」

アスナはユイに一言謝り、食事を終えてから出発する。


「はあ、また亞莎に心配かけるなぁ・・・」

「まあ、話を聞く限り、俺達ならなんとかなるだろ」

『(・・・うーん)』

「・・・どした?リパル」

『(いえ・・・やっぱりユイさんのプロテクトが突破できなくて・・・)』

「・・・だから無理すんなって。下手にデリートされると俺が困る」

『(・・・ッス)』

ちなみにそのダンジョンはここ、はじまりの街の地下にある。キリト曰くベータテストの時にはなかったらしいが・・・そこはなんと60層相当のモンスターが出るそうだ。しかもボスもいるとか・・・さて、到着すると。

「ふーん・・・随分暗そうだな。ユイ、平気か?」

本当はユイを置いてきたかったのだが・・・それを素直に聞く子供ではあるまい。案の定ユイは着いてきた。

「ユイ、こわくないよ!」

ユリエールはそれでも心配そうだ。その不安を逃す為に、アスナが言う。

「大丈夫です、この子見た目よりずっとしっかりしてますから」

「うむ。きっと将来はいい剣士になる」

「こら、ユイちゃんを物騒な道に連れてかないでよ」

俺達は笑い、それを見てユリエールは大きく頷いた。

「では、行きましょう!」




ーーーーーさて、ダンジョンに潜り込んだのだが・・・

「ぬおおおお!!」

「やああああ!!」

ずぱーん、どかーん、と小気味がいいくらい敵が吹き飛んでいる。

「パパー、おねえちゃーん、がんばれー」

「仕事ないなあ・・・ね、アスナ?」

「うーん、でも、二人のストレス発散には丁度良いんじゃないかな?」

「・・・」

ユリエールは唖然としていた。合計三本の剣は敵をまったく討ち漏らさず、俺達はただ歩くだけだった。


「な・・・なんだか、すみません、任せっぱなしで・・・」

「いえ、あれはもう病気ですから・・・やらせときゃいいんですよ」

「確かに・・・」

「なんだよ、ひどいなあ」

「わたしをこれと同じにしないでよ」

「サキも“これ”はないだろ・・・」

「ふーんだ、キリトなんか知らないよーっだ」

「・・・なんだかんだ仲良いよね」

「そうね・・・」


「・・・」

「キリト、なんかレアアイテムとか出た?」

俺が聞くとキリトは頷き、何かの赤黒い肉を取り出した。・・・姉妹がそろって顔をひきつらせる。

「な・・・ナニソレ?」

「カエルの肉!ゲテモノなほど旨いって言うからな、あとで料理してくれよ」

「絶、対、嫌!!」

アスナが共通ストレージから肉を全て捨てる。

「あっ!あああぁぁぁ・・・」

「バッかじゃないの!?ほんとキリトって何考えてるのよ・・・!」


そんなやり取りを見て、ユリエールは腹を抱えて笑いを漏らす。それを見たユイは、

「お姉ちゃん、はじめて笑った!」



・・・そういや、ユイって笑顔に反応するな・・・

「さあ、先に進みましょう」


・・・ダンジョン初期は水中生物がメインだったが、階段を降りて奥に進むと、ゾンビとかゴーストとかの幽霊系統に変化した。姉妹揃ってそれ系が苦手なのは知ってたので、俺とキリトが前に出る。そして・・・僅かに通路の奥に光が見えた。


「あっ、安全地帯よ」

「奥にプレイヤーが一人いる。グリーンだ」

「シンカー!」

もう我慢の限界だったのか、ユリエールは名前を叫び、走り出す。


「ユリエールさん!」

俺達も後を追いかける。そして前方に大きな十字路がある、その先の小部屋に人影があった。

「ユリエーーーール!!」


男の声。つまりあれがシンカー・・・

「シンカーーー!!」

ユリエールが走る速度を速める。

「・・・?」

だが、何か嫌な予感がする。まさか・・・その時だった。

「来ちゃだめだーーーっ!!その通路は・・・っ!!」

その声を聞いて・・・咲の目付きが変わった。

「・・・ダメだ!」

咲がユリエールさんが通ろうとする十字路の右側の死角を見ながら走る。

「せめてタゲを・・・!?」

次の瞬間・・・咲の身体が吹っ飛んで、壁に叩き付けられた。

「かっ・・・はっ・・・」

「咲!?」

ユリエールは完全に止まってしまい、あのままでは次のターゲットになってしまう。

「・・・くっ!」

俺は走り、ユリエールさんを突き飛ばす。そして擬音を構え・・・

「(こいつ・・・!?)」

それは今までの敵とは違った。一言で言うなら・・・巨大な死神。その死神は大鎌を振り上げ。

「・・・!」

今からじゃ避けられない、せめて相殺を・・・!

「はぁぁぁ!!」

ソードスキルで対抗しようとした瞬間・・・視界が変わっていた。

「(え・・・)ぐぁっ!?」

衝撃。それでようやく自分が吹き飛ばされたのだと理解した。地面を転がり、勢いが衰えずに壁にぶち当たる。・・・危うく意識を持っていかれるところだった。HPは・・・危険、域・・・!?


「亮!!」

「早貴!!」

薄暗い視界から、誰かがユイを連れて安全地帯に行ったこと、俺と咲の目の前に二人の人間が立っているのを理解する。


「兄・・・貴・・・」

「うぐ・・・」

だが、次の瞬間には二人がかりでも防ぎきれず、キリトとアスナも吹き飛ばされた。

「く・・・そ・・・」

咲がゆっくりと、立ち上がる。

「お姉ちゃんは・・・絶対に守る・・・!キリト、時間を稼ぐから・・・結晶で、お姉ちゃんを・・・」

「何を言って・・・!?」

その時、足音が聞こえた。何とか目を見開き、見えたものは・・・咲よりもモンスターの近くに立っているユイの姿だった。

「ばかっ!!はやく、逃げろ!!」

俺達は急いで立ち上がろうとするが・・・

「だいじょうぶだよ、みんな」

次の瞬間・・・ユイの身体が“浮いた”文字通り、ふわりと・・・アスナが絶叫する。そしてその大鎌がユイを・・・・・・切り裂かなかった。

「え・・・」


表示されたのは、破壊不可オブジェクト・・・不死存在。プレイヤーが絶対に得られない能力。そして、更にユイの手を中心に炎が巻き起こった。その炎は凝縮し、長い刀身を作り出した。ユイが身に付けていた服が燃え落ち、白い質素なワンピースだけになる。だが、それ以外は炎による悪影響はないようだ。そしてユイはその剣を大きく振りかぶり・・・防御に回した大鎌ごと、モンスターを断ち切った。

「っ・・・」


思わず目を閉じ、次に開いた時には・・・そこにはユイだけがたっていた。

「ユイ・・・ちゃん・・・」

「ユイ・・・」

キリトとアスナの声にユイは振り返る。微笑んではいたが・・・その目には、涙があった。

「パパ・・・ママ・・・ぜんぶ、思い出したよ・・・」

















































・・・安全エリアは正方形で、真ん中に立方体の石机があるくらいだった。ユリエールとシンカーには先に戻ってもらった。取りあえず、聞かなければならないことは山程あった。

「ユイちゃん・・・思い出したの・・・?今までの、こと・・・」

ユイはしばらくしてから・・・頷いた。

「はい・・・全部、説明します・・・キリトさん、アスナさん、コウハさん、サキさん」

・・・その言葉を聞いて、俺は複雑な気持ちになった。


「・・・」

ユイが話したのは、この世界は《カーディナル》と呼ばれる巨大なシステムが制御しているということ。カーディナルは二つのコアプログラムが相互にエラー訂正を行い、人によるメンテナンスを不要とするらしく、ここの通貨やモンスター、NPCのAIも全てカーディナルが制御しているのだ。
ただ一つだけ、カーディナルは・・・人間の精神性によるトラブルだけは管理出来なかった。そこで・・・

「・・・カーディナルの開発者達は、プレイヤーのケアすらもシステムに委ねようと、あるプログラムを試作したのです。ナーヴギアの特性を利用して、プレイヤーの感情を詳細にモニタリングし、問題を抱えたプレイヤーのもとを訪れて話を聞く・・・《メンタルヘルス・カウンセリングプログラム》MHCP試作一号、コードネーム《Yui》それがわたしです」

「プログラム・・・?AIだっていうの・・・?」

アスナが掠れた声で言うと、ユイは悲しそうな笑顔のまま、頷いた。

「プレイヤーに違和感を与えないように、わたしには感情模倣機能が与えられています。・・・偽物なんです、全部・・・この涙も・・・ごめんなさい、アスナさん・・・」

・・・俺はソフィを思い出していた。彼女も、俺達とは違うと、自分は人間じゃないと・・・そう苦悩していた。

「AIに・・・記憶喪失なんて・・・あるの?」

咲が聞くと、ユイが説明していく。曰く、カーディナルがユイにプレイヤーに対する干渉を一切禁止したのだ。それによりユイはモニタリングだけを続けた。そこにあったのは恐怖、絶望、怒りといった負の感情・・・役割を果たせず、義務があるのに権利がない矛盾した中でエラーを起こしていき、ユイというプログラムは崩壊していった。そんな時だった。


「ある日、いつものようなモニターしていると、他のプレイヤーとは大きく異なるメンタルパラメータを持つ二人のプレイヤーに気づきました。喜び・・・安らぎ・・・でもそれだけじゃない・・・この感情はなんだろう、そう思ってわたしはその二人のモニターを続けました」

その二人がキリトとアスナ・・・そうだったのか。

「(俺や詠達にそう言ったのがなかったのは・・・)」

「(多分、亞莎達はプログラムだから・・・きっと)」

二人に何の脳波パターンがあったのかは既に理解していた。きっと俺らも感じたことのある感情だろうから。

「キリトさん、アスナさん・・・わたし、ずっとお二人に・・・会いたかった・・・森の中で、お二人の姿を見た時・・・すごく、嬉しかった・・・おかしいですよね、そんなこと思えるはずないのに・・・わたし、ただの、プログラムなのに・・・」

「違うよ・・・ユイちゃんはただのプログラムじゃない・・・」

「サキさん・・・」

咲は泣いていた。

「そうやって色んなことを考えて・・・感情があって・・・」

『咲さん・・・』

「ほら、聞こえるよね・・・?ここにもこうやって・・・作られたものだけど、立派に人間と同じ奴がいるんだよ・・・?」

『・・・自分じゃよく分からないッスけど・・・でも、オイラの考えや思いは本物ッス』

「・・・」

ユイがリパルを見て少しだけ頷いた気がした。


「とにかく・・・ユイはただのプログラムじゃない・・・もう俺達と同じだよ。自分の好きなように行動できるんだ・・・」

「コウハさん・・・」

そして・・・キリトがゆっくりと話し掛ける。

「ユイの望みはなんだい?」

「わたし・・・わたしは・・・」

ユイはその細い腕をキリトとアスナに向けて伸ばした。

「ずっと、一緒にいたいです・・・パパ・・・ママ・・・おにいちゃん・・・おねえちゃん・・・!」

・・・俺も、涙を抑えることは出来なかった。キリトとアスナはユイを抱き締め、咲はその場に泣き崩れてしまった。

「ずっと、一緒だよ、ユイちゃん」

「ああ・・・ユイは俺達の子供だ。家に帰ろう。みんなで暮らそう・・・いつまでも・・・」

・・・だが、ユイは・・・首を横に振った。

「え・・・」

「もう・・・遅いんです・・・」


「なんでだよ・・・遅いって・・・」

そもそもユイが記憶を取り戻したのは、この部屋にある石机に触れたからだそうだ。これはGMがシステムに緊急アクセスするためのコンソールだそうだ。実体化したさいのバクで記憶を無くしたユイが記憶を取り戻したのもコンソールからデータを受け取ったから・・・そしてさっきのはオブジェクトイレイサー・・・つまりは何でも消せるプログラムをモンスターに使った・・・それで破損した言語機能も復元できたのだが・・・カーディナルはユイを異物と捉えたのだ。

「酷い・・・なんで・・・」

「なんとか・・・ならないのか・・・!」

「・・・みんな、ありがとう。これでお別れです」

「嫌!そんなのいやよ!!」

「そうだよ!まだ・・・まだ思い出を作ってないよ・・・詠だって亞莎だって待ってるよ・・・」

「暗闇の中・・・いつ果てるとも知れない長い苦しみの中で、パパとママの存在だけがわたしを繋ぎとめてくれた・・・おにいちゃんやおねえちゃんにも詠お姉ちゃんやアーちゃんにも・・・色んな人と繋がれた・・・」

「ユイ、行くな!!」

「嫌だ・・・俺の目の前で・・・また・・・!ユイ・・・!」

「おにいちゃん・・・サチさんのことも・・・助けてあげて・・・」

「・・・!」

「サチさんは今・・・とても暗い場所にいる・・・けど、“光”もある・・・おにいちゃんがきっと光・・・」


「ユイ・・・」

「おにいちゃんならきっと助けられる・・・だっておにいちゃん優しいから・・・」

「う、あ・・・あぁぁ・・・!」


「おねえちゃんもありがとう・・・一緒に歩いたり、ご飯食べたり・・・楽しかった・・・」

「わたしもだよ・・・妹ができたみたいで・・・嬉しくて・・・楽しくて・・・う、うぅ・・・」

ユイの身体が光に包まれ、消えていく。

「パパたちの側にいると、みんなが笑顔になれた・・・わたし、それがとっても嬉しかった。お願いです、これからも・・・わたしの代わりに・・・みんなを助けて・・・喜びを分けてください・・・」

「やだ!やだよ!!ユイちゃんがいないと、わたし笑えないよ!!」

泣き叫ぶアスナにユイは笑顔を向け・・・

ーーーママ、わらって・・・



・・・その姿を光に変え・・・消えた。

「うわああああ!!」

アスナの泣き声が響く。

「まただ・・・!同じ過ちを、俺は・・・!」

耐えきれなくなり、俺は膝をついて泣く。

「・・・るな」

咲が何かを呟いた。

「ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなあっ!!何時も・・・何時も全てを奪えると・・・思うなぁ!!」


咲がコンソールに駆け寄り、リパルを真横に突き刺す。

「リパル!システムアシスト!キリト!手伝って!!」

「サキ・・・何を・・・」

「・・・そうか!それなら・・・!」

『・・・了解ッス!!』

俺は二人が何をしているのか解らなかった。ただ現れたホロキーボードのキーを叩き、流れる文字を読み取り・・・次の瞬間、二人は弾き飛ばされた。

「キリト君!?」

「咲!?」

咲はすぐに立ち上がり、キリトに駆け寄る。

「キリト!」

「・・・ああ、成功だ」

そう言ってキリトはアスナに涙の形をしたクリスタルを手渡した。

「こ、これは・・・」

「ユイが起動さた管理者権限が切れる前に、どうにかプログラム本体をシステムから切り離してオブジェクト化したんだ・・・」

「だから、それはユイちゃんだし、リアルに戻れれば時間はかかるけど・・・またユイちゃんはわたし達に会える」

「じゃあ、ユイは・・・無事なのか・・・?手を離しちゃ・・・いないのか・・・」

「ユイちゃん・・・そこに、いるんだね・・・わたしの・・・わたしたちの・・・ユイちゃん・・・」

俺は涙を拭い、明るく声を出す。

「・・・さあ、帰ろう!ユリエールさん達も心配してるだろうし、亞莎達にも伝えなきゃ!」

「ああ・・・そうだな」

「うん・・・」

「・・・リパル、行こう」

『分かったッス・・・』


また・・・またゲームをクリアしなくてはならない理由が増えた。その理由は俺に力を貸してくれる。蓮華との約束もある。俺は・・・負けるわけには、折れるわけにはいかないんだよな・・・







『みんな・・・頑張って・・・』


ユイの声が聞こえた気がした・・・




 
 

 
後書き

「ユイ・・・」

早貴
「二度と会えない訳じゃないよ・・・それよりキバオウは?」


「一応次回でも触れるけど、今回の件で完全にキバオウ派を壊滅できたらしい。これからは軍の資産ははじまりの街の住人と分け合うそうだよ」

早貴
「そっか・・・うん。SAOも大分クライマックス。これからもよろしく!」


「それじゃ、また次回!」

 

 

ヌシ釣り~

 
前書き
くっそぉ・・・また悪い癖で体調を崩してました。昨日から書いてましたが大丈夫かな・・・ではどうぞ! 

 
早貴~

・・・ユイちゃんの件からしばらくが経過した。わたし達はまだアスナの家に居候していた。・・・本来ならすぐ前線に戻ろうとしたが、きっと気をつかってくれたのだろう。アスナやキリトがもうしばらく休んだ方がいいと進めてくれた。

「・・・リパル、キリトの位置は?」

『ここから東の方角にまっすぐッス』

「サンキュ」


それから少し進めば、大きな湖に糸を垂らす見慣れた後ろ姿があった。

「やってられるか・・・」

「何がやってられないの?」


「っ・・・な、なんだサキか」

「調子はどう?キリト」

「・・・全然」

わたしはスカートを正してから座る。

「そんなとこまで兄弟そっくりなんだね」

「へ・・・?」

「亮も苦手なのよ、釣り」

「あー・・・道理で誘っても渋い顔する訳だ・・・って、なんでサキがそんなこと知ってるんだ?」

「ま、色々付き合いが長いから・・・」

「へぇ・・・じゃ、サキは亮を・・・」

「それはありえないから。彼にはただの信頼関係しかないわ」

「そ、そっか」



・・・結城 早貴のままだったらフラグを立てられたのだろうか。・・・なんか嫌だな。

「それにしても、大分冷えてきたね」

「もう現実なら冬間近だからな・・・」

「この間まではまだ暖かい方だったよね」

・・・そうそう。軍はキバオウ派を追放して一掃したらしい。それからシンカーさんは軍の資材をはじまりの街の住人達と分け合うらしい・・・そんな考えに耽っていたら・・・

「釣れますか」

「きゃっ・・・」

悲鳴を上げてしまい、顔が熱くなるのを感じながら見上げると・・・釣竿を持った五十代超えであろう老人がたっていた。もしかして・・・

「NPCではありませんよ」

わたし・・・わたし達の思考を読んだのか、苦笑しながらそう答えた。

「す、すみません。まさかと思ったものですから・・・」

「いやいや、無理はない。多分私はここでは突出して最高齢でしょうからな」

失礼します、と言いながらキリトの傍らに腰を下ろし、釣りの用意をする。

「私はニシダといいます。ここでは釣り師、日本では東都高速線という会社の保安部長をしとりました。名刺が無くてすみませんな」


「あ・・・」

確か東都高速線はアーガスと提携していたネットワーク運営企業・・・じゃあ。

「俺はキリト、こっちはサキといいます。最近上の層から越してきました。・・・ニシダさんは・・・やはりSAOの回線保守の・・・」

「一応責任者ということになっとりました」


本来ログインする必要はなかったらしいが、自分の仕事を自分で確認しないと気が済まない性分だそうで・・・今に至るそうだ。更にニシダさんは釣り好きらしく、色々な層のポイントを探しているそうだ。

「どうです、上のほうにはいいポイントがありますかな?」

「えと・・・61層は全面湖・・・というよりは海ですけど、相当な大物が釣れるようですよ」

「ほうほう!それは一度行ってみませんとな」

その時、ニシダさんが垂らしていた糸の先のウキが勢いよく沈み込んだ。間髪いれずニシダさんの腕が動き・・・

「うおっ、で、でかい!」

「凄い・・・」

あっさりと魚を釣り上げたニシダさんに向かって拍手をする。

「お見事・・・!」

「凄いですね、ニシダさん!」


ニシダさんは照れたように笑う。

「ただ、釣れるのはいいんだが料理のほうがどうもねえ・・・煮付けや刺身で食べたいもんですが醤油無しじゃどうにもならない」

「あー・・・っと・・・」

キリトが迷っているのがわかった。

「いいんじゃない?この人になら」

「・・・そうだな。あの、醤油にごく似ている物に心当たりがありますが・・・」

「なんですと!」


・・・というわけで帰宅。

「ただいま、お姉ちゃん」

「おかえり。キリト君のお迎えご苦労様。・・・お客様?」

「ああ。こちら、釣り師のニシダさん。で・・・」

キリトがそこまで言ってからアスナが続ける。

「キリトの妻のアスナです。ようこそいらっしゃいました」


ニシダさんはしばらく唖然とした後・・・

「い、いや、これは失礼、すっかり見とれてしまった。ニシダと申します、厚かましくお招きにあずかりまして・・・」

頭を掻きながらニシダさんが笑った。

「・・・あれ?コウハは?」

「コウハ君なら亞莎達と一緒にサチさんを連れて散歩に行ったわよ」

「あ、そうなんだ」

亮達には悪いけどわたし達はアスナの手料理を満喫する。うん、中華もいいけどたまには和食もいいよね。・・・食事を終えて、談笑を始める。

「キリト君はろくに釣ってきたためしがないんですよ」

「女はひょいひょい釣り上げるのね」

「おいサキ、誤解を招くこと言うなよ」

「ふふっ、だってほんとじゃない。お姉ちゃんっていう特大物を釣り上げたし」

「「サキ!?」」


「・・・でも、キャッチ&リリースはなしだからね」

そう言うとキリトは頷いた。・・・大方何時までも一緒にいると言いたいんだろう。・・・そうだね・・・親が決める相手より、お姉ちゃんが選んだ人がいいんだ。キリトはこの先アスナを何度も困らせるだろうけど、何度も笑顔にしてくれる筈だ。

『咲さん?』

「(ん・・・まとまった。こう何日も新婚生活を見せられちゃな・・・)」

『咲さんも大概ッスけどね・・・(ボソッ)』

「(え?)」

『な、何でもないッス』


「・・・でも、ほんとに釣れないよね。キリトって釣り下手?」

「このへんの湖は難易度が高すぎるんだよ」


「いや、そうでもありませんよ。難度が高いのはキリトさんが釣っておられたあの大きい湖だけです」

「な・・・」

「・・・釣り下手じゃなくて場所を選ぶのが下手なんだね」

わたしが呆れて言うとアスナはお腹を押さえて笑った。

「なんでそんな設定になってるんだ・・・」

「実は、あの湖にはですね・・・」


ニシダさんは声を潜めるように言う。

「どうやら、主がおるんですわ」

「「「ヌシ?」」」

ニシダさんが言うには、村の道具屋に一つだけ値の張る釣り餌があること、それがあの湖で使うものだと知ったこと、そして・・・ヒットしたが力負けして竿ごと取られたこと。

「わあ、見てみたいなぁ!」

話を聞いたアスナは目を輝かせて言う。

「物は相談なんですが・・・キリトさんは筋力パラメータのほうに自信は・・・?」

「う、まあ、そこそこには・・・」

ニシダさんが発案したのは釣竿の“スイッチ”・・・できるのかと悩むキリトにアスナは言う。

「やろうよキリト君!面白そう!」

「奥さんの期待に応えないとね?」

・・・実はわたしもわくわくしているのは内緒だ。

「・・・やりますか」

そう言うとニシダさんは笑う。・・・そして、その日の夜のリビングにて・・・

「・・・って話があってさ」

「はは・・・兄貴も面白いことするね」
「亮はどうするよ?」

「ま、見には行くよ。・・・釣りにはいい思い出ないけど」

「死んだ世界の時か?」

「それだけじゃないけどね。つかずりーよ、アスナの料理美味いのに・・・」

「その代わりに飯作ってもらったろー?居候なんだから飯喰わせてもらうだけありがたいだろ」

「・・・それ、そっくり返してやるよ」


「・・・それにしても、さ」
「ん?」

「やっぱり・・・こうやって普通に暮らしてる人もいるんだよな」

「・・・ああ」


「昔からそうだったのに・・・忘れてたな。力を持ってる者は戦えない人の分まで戦う・・・」

「戦乱時代から・・・そうだったな。世の中には戦いたくても戦えない人間は沢山いる。・・・あの時と変わらない。あの世界には、戦乱の集結を望んで俺達に期待してる人が沢山いた。そんで・・・」

「この世界にはゲームクリアを俺達に期待してる人がいる・・・」

俺の言葉に亮が頷いた。


「・・・俺さ、釣りが終わったら攻略に戻るよ」

「・・・奇遇だな。俺もだ」

現在の75層攻略に苦戦していることは知っていた。本来なら俺達はいない存在・・・なら俺と亮がやれば、本来のこの外史の主役格であろうキリトとアスナは戦わなくて済む。・・・俺は話題を変えようと口を開く。

「なあ、亮」

「・・・なんだ?」

「この世界にいるのって・・・きっと思春だよな」

「・・・やっぱりそう思うか?」

「ああ。俺達が外史・・・誰かに作られた物なら、そこには“お約束”って奴があるだろ?今までだって・・・」

「・・・そうだな。ま、俺達の行動がある程度“お約束”に当てはまってるだけかもしれないけど・・・誰がいても関係ない」

「ああ、その通りだ。必ず全員連れ帰る・・・だもんな」
「・・・最後は大団円で迎える為にも・・・頑張ろう」

「・・・おう。さて、寝るか。釣り、楽しみにするか」


「ああ、お休み」

俺は用意された部屋に入り、眠りにつく。・・・・・・そして・・・・・・


























































「参ったなぁ。・・・どうする、アスナ・・・」

ニシダさんから連絡が来たのは三日後。ただ釣り仲間にも連絡したらしく、ギャラリーが沢山くるらしい。

「う~ん・・・」

この世界にもマスコミ的なのは存在する。騒がれないようにここの層に来たので、アスナとしてはあまり好ましくない状況だろう。


「・・・あ、じゃあわたしみたいに変装するってのはどうかな?」

「当然、サキもね」

「へ?」

「あなたも相当有名よ?」

「・・・はーい」

・・・というわけでわたしとアスナはお互いにスカーフを目深に巻き、さらに地味なオーバーコートを着込む。

「・・・主婦っぽいね」

「ああ、生活に疲れた農家の主婦っぽい」

キリトの言葉にアスナは苦笑する。

「・・・それ、誉めてるの?」

「もちろん。俺達はまあ武装してなければ大丈夫だろ」

「だね」

「ボク達も後ろから見てるわね」

「あまりサチさんを人目に晒すのはよくありませんからね」

・・・で、数分後・・・



「・・・盛り上がってるなー・・・」

どうやらニシダさんが事前に景気付けとして釣りコンペをやっていたそうで、場が盛り上がっていた。

「えー、それではいよいよ本日のメイン・エベントを決行します!」

するとギャラリーは大いに賑わう。・・・ふと、ニシダさんの竿に目がいった。その先には・・・

「ひゃ・・・」

なんか凄い鳥肌が立つデカイトカゲだった。

『咲さん、本当に女の子ッスね』

「うるせっ」

くっそぉ・・・リパルに筒抜けかと思うと恥ずかしいなあ・・・人が騒いでいるせいで声は聞こえないが、どうやらヒットしたようだ。ニシダさんが竿をキリトに渡した。

「頑張れよ、兄貴ー」

隣で亮が声を出す。キリトは全力で竿を引っ張り、ゆっくりと後退していく。

「あっ!見えたよ!!」

アスナが身を乗り出して水中を指差す。俺達も観客に紛れて覗き込む・・・と?

「・・・やば」

亮がポツリと呟く。うん、やばいね。

「・・・」

観客を含む俺達全員は一斉に逃げ出す。キリトは訳も分からずに唖然としていたが・・・


「兄貴ー、前、前」
「キリトくーん、あぶないよーーー」


二人の声に振り返るキリト。その目の前には・・・魚が“立ってた”・・・うわぁ。

『魚・・・スか?』

「(足が六本あって自立可能なのが魚類なのかねぇ・・・)」

俺が知ってる魚と違う。


「な・・・」

魚が咆哮すると同時にキリトは全速力でこっちまで来て全力で抗議し出した。


「ず、ずずずるいぞ!!自分達だけ逃げるなよ!!」


「いや・・・だってあそこまで大きいと思わないし・・・」

うん、仕方ないよね。わたしの方は生々しいの嫌いだし。

さらに凄い勢いで魚がどすどす走ってきた。

「おお、陸を走っている・・・肺魚なのかなぁ・・・」

「キリトさん、呑気なこと言っとる場合じゃないですよ!!早く逃げんと!!」

ニシダさんが慌てて叫ぶ。一部には腰を抜かしている人もいるようだ。

「はあ・・・仕方ないか」

俺はダークリパルサーを装備して鞘から引き抜く。

「サキ、わたしがやろっか?」

「んー、いいよ。お姉ちゃんは見てて」

「お、奥さん!妹さんが、妹さんが危ない!!」

「いえ、サキなら大丈夫ですよ」

「何を言うとるんですか!!こ、こうなったら私が・・・」

「まあまあ、ニシダさん落ち着いて」

亮やアスナの声を背後に聞きながら、巨大な魚を見据える。

「リパル、危険度は?」

『ゼロッス。咲さんなら問題はないッス』

「OK。じゃ、行くぜ!」


鬱陶しいスカーフとオーバーを脱ぎ捨て・・・突っ込む。

「でぃぃりゃあああ!!」

・・・義兄に見せてやるか。俺はリパルをグッと引き、溜めてから放つ。

「(ヴォーパル・・・ストライク!!)」


スパァァン!と気味のいい音と同時にポリゴンの砕ける音。

「・・・あれ、一撃?」

俺はリパルを鞘に納める。

「お疲れさん、咲」

「余裕さ。一撃でいけるなんて思わなかった」

「・・・いや、これは驚いた・・・サキさん、ず、ずいぶんお強いんですな。失礼ですがレベルは以下ほど・・・」

やべ、目立ちすぎたか?

「そ、それより今のからアイテムが出ましたよ」

俺はそう言ってからさっき出たアイテム・・・白銀に輝く釣竿を渡す。

「お、おお、これは!?」

よし、これで誤魔化し・・・

「あれ・・・もしかして、血盟騎士団のサキさん・・・?」

「・・・っ!?」

一人のプレイヤーが俺の・・・わたしの顔を覗き込んだ。

「やっぱり!ニュースや写真で有名になったサキさんだ!」

「え?じゃあ・・・こっちの人はアスナさん!?」

し・・・しまったー!?そこまで情報が拡がってたのか・・・!

「か、感激だなぁ!アスナさんに会えるなんて・・・そうだ、サ、サインお願いしていいで・・・」

そこでぴたりと止まった。そう、さっきニシダさんが叫んでいた・・・つまり。

「け・・・結婚、したんすか・・・」

・・・まあ、その後の収集に手間取ったのは事実でした・・・・・・





































亮~


「さて、行くとするか」

「お姉ちゃん、準備は?」

「大丈夫だよ。・・・ほら、いつまでもくよくよしてない!」

アスナの言葉にキリトは俯きながら返す。

「だってまだ二週間なんだぜ」

俺は少し懐かしくなってた白黒の男女を見ながら笑っていた。・・・昨日の夜、ヒースクリフからの参加要請が来たのだ。断る気でいたのだろうが・・・既に被害が出ていると聞いて二人は決断したのだ。

「・・・亮さん、お話があります」

「亞莎?」

「ボクもよ、少しいいかしら」

「ん?ああ」

というわけでキリトとアスナには先に行ってもらう。

「・・・それで?」


「あの・・・今回、私達もついていきたいんです!」

「へ?」

「被害が出ている・・・ってことは相当な相手でしょ?ボクは・・・もう待てない」

「詠・・・けど」

「サチを一人にする訳には・・・」

「・・・そうですけど・・・それでも・・・!」

「お願い、ボク達を連れていって!」

俺と咲は目を見合わせる。どうする・・・?

「・・・そうだ・・・」

一人だけ、当てがあった。・・・よし。

「わかった。今からサチを代わりに見てくれる人を呼んでみる。その人が了承してくれたら・・・一緒に行こう」

「は・・・はい!」

俺はある人にメッセージを飛ばす、そして・・・

「亮さん!」

「来てくれたか・・・シリカ」

俺の数少ないフレンドの一人、シリカ。

「あの、大事なお話があるって・・・さっきキリトさんにも会いましたし・・・」

「説明するよ。さ、座って。ピナは何か食べるのかい?」

「きゅる!」

「今は平気みたいです。・・・えっと・・・」


「・・・そうだね、本題に入ろうか。・・・君といったフラワー・ガーデン、覚えてるか?」

「はい・・・」

「そこで俺は一度ギルドを壊滅させたって・・・言ったね?」

「そうですね・・・覚えています」

「実は・・・一人だけ、生きてるんだ」

「え・・・!?」

俺は立ち上がり・・・奥から車椅子を押してサチを連れてくる。

「その人・・・」

「その生き残りが彼女なんだ・・・名前はサチっていう」

「あ・・・は、はじめまして・・・」

「・・・」

・・・シリカが返事を返さないサチにおろおろし始める。

「あの日からずっとこうなんだ。全ての親しい人の死を見て・・・サチは壊れてしまった。彼女は何にも反応しない・・・」


「・・・」

「・・・それで、本題なんだけど・・・シリカにサチを見てて欲しいんだ」

「えっ!?あ、あたしにですか!?」

「ああ。シリカなら信用できるし・・・」

「えっと・・・い、今までは・・・?」

「普段サチを見てくれる人がいるんだけど・・・俺はその人と攻略に行かないといけなくて・・・」

「・・・そんなに、危険なんですか?」

・・・嘘をついても仕方ないよな。

「・・・うん。もう被害も出ているらしいから・・・正直、今回は何時も以上に厳しい攻略になると思う」

「・・・」

「・・・」

沈黙。先に口を開いたのは・・・シリカだった。

「約束・・・してください」

「え・・・」

「必ず帰ってきて下さい!あたし・・・あたしずっと待ってます!」

「シリカ・・・」

「亮さん・・・あたし、応援しかできないですけど・・・」

俺はシリカの頭を撫でる。

「・・・ありがとう。シリカやサチをこのゲームから解放する為にも・・・攻略に手間取る訳にはいかないな」

俺は装備を確認する。

「じゃあ行ってくるよ。・・・彼女を頼む」

「はい!行ってきて下さい!」

「ああ。・・・サチも、行ってくるな」

俺はしゃがみ込み、目を合わせる。やっぱりサチは何も・・・

「・・・・・・行って・・・・・・らっ、しゃい・・・・・・」


「・・・え?」

今・・・サチの口が・・・動いた?

「サチ・・・?」

「・・・」



聞き間違い・・・?いや、違う。今確かにサチは・・・


「・・・分かった。行ってきます」

もう一度そう言ってから・・・俺は家を出た。・・・思わぬタイミングでやる気を貰ったものだ。・・・生きて帰る・・・絶対に・・・

































































































「・・・話は終わったか?」


「咲。・・・ああ、話は終わった。・・・シリカも引き受けてくれたよ」


「そうですか・・・行きましょう。キリトさん達が待ってます」


「まだ25層も上にあるんでしょ?・・・ったく、今まで以上に面倒な世界ね」

「はは・・・」

一体・・・どんなボスが待ってるんだろうか・・・ 
 

 
後書き

「何故シリカ?」

いや、やっぱり・・・なんとなく?

早貴
「ゲームやった影響だろ」

まあ・・・うっかりリズベット連れている時にサチのメッセージを再生するというワケわからんことしたり・・・面白いゲームですよ。


「(だから体調崩したんじゃないのか・・・)」

早貴
「はあ・・・それじゃ、また次回もよろしく」 

 

真の敵~

 
前書き
今回、わりと中途半端に終わります。続き、早めにあげたいな・・・ではどうぞ! 

 
「偵察隊が、全滅ーーー!?」

グランザムのKoB本部にてヒースクリフから知らされたのは、衝撃的な事実だった。

「昨日のことだ。75層迷宮区のマッピング自体は、時間は掛かったがなんとか犠牲者を出さずに終了した。だがボス戦はかなりの苦戦が予想された・・・」

咲が頷き、喋る。


「25層、50層も前の層と比べものにならないくらい強かった・・・となるとクォーター・ポイントには強力なボスがいる可能性が高い・・・」

「・・・そう。そこで我々は五ギルド合同のパーティー20人を偵察隊として送り込んだ・・・が」

様子見で10人が部屋に入ると扉が閉じてしまい、中に入れず・・・次に扉が開いた時には何も“なかった”そうだ。脱出も出来なかったとなると・・・

「結晶無効化空間か・・・!」

忌々しく言うとヒースクリフは小さく首肯した。


「アスナ君の報告では74層もそうだったということだったから、おそらく今後全てのボス部屋が無効化空間と思っていいだろう」

「バカな・・・」

キリトが嘆息する。・・・そして、今回の攻略にはトッププレイヤーの大部隊を結集、全力で当たるとのことだ。攻略までに三時間の猶予が与えられた。




「・・・三時間か」

「テイルズじゃ1日あったけどな、猶予」

「・・・あの、私達はどうすれば?」

「冷静に考えたら、ボク達がいきなり出てきたら混乱するわよね・・・」

俺達は本部にある一室で話していた。

「・・・キリト、まさかお姉ちゃんに待ってろ・・・なんて言うつもりじゃないだろうな」

「ああ、言いかねないな、兄貴なら」

「それを言いたいのは“わたし”だってのに・・・でも、お姉ちゃんは退かないな」

「わかるわ。アスナって咲に似て頑固そうだし」

「あ?別に俺は頑固じゃないっての」

『めちゃくちゃ頑固じゃないッスか』

「っぐ・・・リパル、遠慮しねぇよな・・・最近」


『咲さんに気遣いは不要だと気付いたッス』

「そうよ。咲は甘やかすと無茶するんだから、ビシッと言ってあげなさい」

「ほんと、仲いいよなお前ら・・・」

「はは・・・」

「あの、亮さん」

「ん?どうしたんだ?」

「えっと・・・私、亮さんの役に立ててますか?」

「え・・・?いきなりなに?」

「あ、その・・・ただちょっと気になって・・・」

俺は笑って亞莎の頭を撫でる。

「りょ、亮さん!?」

「・・・役に立ちまくり。こうやって一緒にいられる事が、何よりも俺の力になるんだから」

「・・・」

「亞莎の気持、よくわかるよ。俺もよく呉の役に立ててるか不安だったし」

「そ、そんな!亮さんは呉の発展に大いに役立って・・・!!」

もう片方の手の指を亞莎の口の前に当て、止める。

「・・・な?自分じゃ上手くやれてるかわからないんだ。そこら辺、似てるよな」

「・・・そうですね。私、変におどおどしちゃって・・・」

「俺もさ。結構不安性でね・・・」


「・・・で、話を戻すけど・・・ボク達はどうするのよ?」

「んー・・・指輪に待機してもらって、危なくなったら登場。・・・でいいんじゃないか?」

「・・・それしかありませんね」

「ま、不意打ち系の警告は頼むぜ、リパル、詠」

「当然よ」

『もちろんッス!』


「亞莎も、よろしくね」

「は、はい!」

そんな感じで三時間が過ぎて・・・俺達は75層の転移門前の広場に来た。そこには既に攻略チームとおぼしきプレイヤー達が集まっていた。中にはやって来た俺達に敬礼する者もいる。

「ほら、キリト君はリーダー格なんだからちゃんと挨拶しないとだめだよ!」

「んな・・・」

「ほらほら、兄貴もやりなよ」

俺は癖でウィンドルの騎士学校式敬礼をしていた。咲やアスナは日頃のお陰か様になった敬礼をしていた。・・・肝心のキリトは凄くぎこちない敬礼だったが。

「よう!」

キリトが肩を叩かれ、振り返るとエギルとクラインの姿があった。

「なんだ・・・お前らも参加するのか」

「なんだってことはないだろう!今回はえらい苦戦しそうだって言うから、商売を投げ出して加勢に来たんじゃねえか。この無私無欲の精神を理解できないたぁ・・・」

「あ、じゃあ無欲なエギルは今回の戦利品の分配から外していいよね?」

「いや、そ、それはだなぁ・・・」

俺が言うとエギルは戸惑い、それを見て皆が笑う。その笑いは他のプレイヤーの緊張も解していった。・・・そして、午後一時丁度にヒースクリフを含む血盟騎士団のメンバーが現れ、再びプレイヤー達に緊張が走った。

「欠員はないようだな。よく集まってくれた。状況はすでに知っていると思う。厳しい戦いになるだろうが、諸君の力なら切り抜けられると信じている。ーーーー解放の日の為に!」

その言葉に全員が答える。

「(この感じ・・・懐かしいな)」

『そうですね・・・あの頃を思い出します』

ヒースクリフが軽く片手を上げた。

「では、出発しよう。目標のボスモンスタールーム直前の場所までコリドーを開く」

そう言ってヒースクリフは濃紺色の結晶・・・回廊結晶を取り出し、使う。あれ、実際はドロップか迷宮区の宝箱のいずれかでしか手に入らないので、貴重なアイテムなのだ。だがヒースクリフは戸惑いなくそれを使った。

「では皆、ついてきてくれたまえ」


俺達は光の中に入り、迷宮区へと転移する。

「空気が重い・・・」

「そうだな・・・」

俺は擬音を引き抜き、持っておく。咲もダークリパルサーを既に手にしていた。

「こんだけ人がいると、何処に誰がいるのやら・・・」

どうやらキリト達とはぐれてしまったようだ。そしてヒースクリフが一言告げ・・・全員が開かれた扉へと走り出す。



「・・・」

「・・・」

内部は相変わらずの広いドームのような場所だ。だが・・・そこにボスの影はない。

『・・・っ!咲さん!』


『上です!亮さん!』

「「っ!?」」

「上よ!!」

全員がアスナの声で上を見ると・・・“何か”がいた。

「ムカデ・・・か?いや・・・!」

骸骨で出来たムカデ・・・名前は、スカル・・・リーパー・・・骸骨の刈り手。

「固まるな!距離を取れ!!」

ヒースクリフの声で全員が我に返る・・・と同時にスカルリーパーは天井から降ってきた。殆どが慌てて避けるが、何人かが落下地点を予測出来ずに立ち止まっている。

「こっちだ!!」


キリトが叫ぶと逃げ遅れた三人が走り出すが・・・スカルリーパーが落下した際に振動で足を取られ、そこにスカルリーパーの両腕にある鎌が横薙ぎに振るわれた。


「あ・・・!」

三人が纏めて斬り飛ばされ・・・そのHPは・・・一瞬で消滅した。

「ーーーっ!?」

アスナが息を呑む。

「一撃・・・?そんな・・・!?」

咲も驚きを隠せないようだ。

「こんなの・・・無茶苦茶だわ・・・」


更にスカルリーパーは雄叫びを上げ、新たな一団目掛けて突進した。

「わあああーーー!!」

その方向にいたプレイヤーが悲鳴を上げる。


「やばい!」

だがそのスカルリーパーの一撃を・・・ヒースクリフがその盾で防いだ。だが鎌は二本ある。もう一本の鎌はプレイヤー達を狙う。

「させるか!」

俺は飛び出し、擬音で受け止める。

「(重・・・い・・・!)」

すぐに右手で迷切を引き抜き、鎌を横から叩き、擬音で滑らせて軌道を逸らした。HPを見ると、僅かに身体に届いた鎌のダメージでイエローまで落ちていた。

「(後一撃でも・・・やばい!)」

当然モンスターが待ってくれる筈もなく、すぐにもう一撃が・・・!

「コウハ、下がれ!!」


俺の前にキリトが剣を交差させて飛び込んだ。

ギャリィィ!!

「ぐぅ・・・!!」

「やあああ!!」

アスナが細剣で鎌に一撃を加え、浮いた一瞬でキリトが押し返す。

「二人同時に受ければーーーいける!わたし達ならできるよ!」

「ーーーよし、頼む!」

もう一度迫る一撃。今度は完璧にシンクロした動きで鎌を弾き返した。

「大鎌は俺達が食い止める!!みんなは側面から攻撃してくれ!」

「・・・わかった!気をつけろよ、二人とも!」

キリトとアスナはその言葉に笑みで返してきた。見ると咲を含むプレイヤー達が攻撃を仕掛けていた。

「うわあああ!!」

目の前で何人かが薙ぎ払われる。・・・足にも攻撃判定があるのか・・・!

『亮さん!接近する前に回復を!』

「わかってる!」

すぐにハイポーションを飲み干し、擬音だけを持って走る。


「でりゃあああ!!」

ソードスキルを発動、撃ち込むが・・・まったくHPバーは減らない。

「ちぃ・・・!」

「はぁぁぁ!」

咲がヴォーパル・ストライクを撃つが、こちらも効いているか分からない。

「迷切・・・!龍舞斬!」

飛び上がり、一気に振り下ろす。

「岩を相手にしてる気分だ・・・!」

「簡単に砕ける分、岩の方がマシだっつの!」

「そう、だけど!」

ガキィン!

『ランダム攻撃、来るッス!』

「・・・!っぁ!」

咲は寸前で骨を回避する。



「くっ・・・鬱陶しいぜ・・・」

「だけど、ゲージは減ってる。・・・守るな・・・攻めるぞ!」

「おうよ!」

ヒースクリフやキリトとアスナが鎌を受け、俺達が攻める・・・その戦闘は一時間にも及んだ。

「うらぁぁぁ!!」

「せぇぇぇい!!」

渾身の一撃を放ち・・・その巨体が・・・爆散した。

「や・・・やったか・・・」

『敵、完全消滅・・・勝利ッス・・・』

俺と咲はそれを聞いてその場に座り込む。

「久々に・・・しんどかったな・・・」

「まったくだ・・・ま、詠達の力を借りなくて済んだけどな・・・」

『大丈夫ですか?亮さん』

『生きてるけど・・・HPは平気?咲』

俺も咲もさっきポーションを飲んだのに、HPはイエローに入っていた。

「何人・・・やられた・・・?」

同じようにしゃがみこんでいたクラインがそう問い掛ける。キリトはマップを呼び出し、人数を数える。

「・・・14人、死んだ」


「・・・うそだろ・・・」

エギルの疲れた声が聞こえる。・・・攻略組は数百人くらい・・・このままじゃ100層に着く頃にはどうなるのか・・・ふと、ヒースクリフが目に入った。彼は沢山倒れたり座り込んでいるプレイヤーのなかで唯一立っていた。そのHPは減ってはいるがイエローには入っていない。しかもその顔に消耗はなく、まるで戦っていないかのようだ。

「・・・?」

その顔を見て疑問を抱いた。なんだ・・・?あの顔を何処かで・・・まるで、全てが自分の予想通りというか・・・神のような・・・

「于吉・・・ヴァン・・・」

「咲・・・?」

咲はダークリパルサーを握り締め、ゆっくり立ち上がる。・・・いや、咲だけじゃない、キリトもだ。

そして・・・二人は同時にヒースクリフに向かって走り出した。ヒースクリフは咲に気付き、咲の一撃を弾いた・・・時にキリトの存在に気付いた。

ガァァン!

キリトが突きを放ちヒースクリフを・・・貫かなかった。

「キリト君、何をーーー」

アスナがヒースクリフを見て立ち止まった。そこには、イモータル・オブジェクト・・・そう表示されていた。つまり・・・不死。俺とアスナはキリトと咲の横まで駆け寄る。

「システム的不死・・・?・・・って・・・どういうことですか・・・団長・・・?」


「どうも何もこういう事だよ、お姉ちゃん」

「これが伝説の正体だ。この男のHPはどうあろうとイエローにまで落ちないようシステムに保護されているのさ」

「・・・そうなれば、消去法で不死存在であるのは・・・」

「ああ。・・・この世界に来てからずっと疑問に思っていたことがあった・・・彼奴は今、どこから俺達を観察し、世界を調整してるんだろう、ってな。でも俺は単純な真理を忘れていたよ。どんな子供でも知ってることさ」

キリトはヒースクリフをまっすぐに見据え、言う。

「《他人のやってるRPGを端から眺めるほどつまらないことはない》・・・そうだろう、茅場晶彦」

その言葉で周りは沈黙に支配された。ヒースクリフは無表情のまま、咲とキリトを見ていた。最初に口を開いたのは・・・アスナだった。

「団長・・・本当・・・なんですか・・・?」


それに答えずにヒースクリフは言った。

「・・・なぜ気づいたのか参考までに教えてもらえるかな・・・?」

「最初におかしいと思ったのは例のデュエルの時だ。最後の一瞬だけ、あんた余りにも速すぎたよ」

「やはりそうか。・・・サキ君は?」

「わたしは・・・デュエルもそうですが・・・ただ、あなたのような表情をする人を知っていた。自分が神で・・・全て思い通りになっているような・・・そんな表情を・・・」

それに茅場は笑みを返した。

「予定では攻略が95層に達するまでは明かさないつもりだったのだがな」

プレイヤー達を見渡し・・・制限した。

「ーーー確かに私は茅場晶彦だ。付け加えれば、最上層で君たちを待つはずだったこのゲームの最終ボスでもある」

・・・仲間だと思っていたら敵だったは・・・どうやらこの世界もそうだったようだ・・・一体、どうなるんだ・・・?

 
 

 
後書き
早貴
「ラスボス降臨・・・」


「なるほど、于吉ねぇ」

早貴
「ああ。于吉もヴァンも、今思えば世界は自分が支配しているって感じだったし・・・神みたいに振る舞ってたしな」


「納得。・・・さてと、次回もお楽しみに!」

早貴
「またな!」

 

 

紅の王~

 
前書き
キツイ・・・!戦闘が短いのと色々説明不足が・・・!ではどうぞ! 

 
ヒースクリフの正体が茅場晶彦・・・


「・・・趣味がいいとは言えないぜ。最強のプレイヤーが一転最悪のラスボスか」

「なかなかいいシナリオだろう?盛り上がったと思うが、まさかたかが四分の三地点で看破されてしまうとはな」

ヒースクリフ・・・茅場は薄い笑みを浮かべる。

「・・・最終的に私の前に立つのは君だと予想していた。全十種存在するユニークスキルのうち、二刀流スキルは全てのプレイヤーの中で最大の反応速度を持つ者に与えられ、その者が魔王に対する勇者の役割を担うはずだった・・・」

その時だった。血盟騎士団の一人がゆっくりと立ち上がる。あれは幹部の・・・

「貴様・・・貴様が・・・俺達の忠誠ーーー希望を・・・よくも・・・よくも・・・」

巨大なハルバードを握り締め、走り出した。

「よくもーーーッ!!」

・・・だが、茅場の動きの方が早かった。ウインドウを操作したかと思うと、男はそのまま音を立てて倒れる。そのHPバーにはグリーンの枠・・・麻痺だ。茅場は次々と操作していき・・・

「あ・・・キリト君・・・っ」

「お姉ちゃん!?」

アスナも・・・気がつけば俺達三人以外は全て倒れていた。キリトがアスナを抱え起こし、茅場を睨む。

「・・・どうするつもりだ。この場で全員殺して隠蔽する気か・・・?」

「まさか。そんな理不尽な真似はしないさ」

茅場は笑みを浮かべたまま首を振る。

「こうなっては致し方ない。予定を早めて、私は最上層の《紅玉宮》にて君たちの訪れを待つことにするよ。90層以上の強力なモンスター群に対抗し得る力として育ててきた血盟騎士団、そして攻略組プレイヤーの諸君を途中で放り出すのは不本意だが、何、君たちの力ならきっと辿り着けるさ。・・・さて、そろそろいいかな」

茅場がそう言うと・・・

「が・・・」

「キリト!?」

キリトがアスナに覆い被さるように倒れた。

「か・・・茅場・・・!」


「ここまでがきっと正しい“物語”・・・ならば多少のズレは修正されまい」

「団長・・・何を言ってるんですか・・・!」

「ふ・・・その話し方は辛いのではないかね?五十嵐 咲君?」


「な・・・!」

「そして、大澤 亮君」

「どうしてその名を・・・!」

「なに、聞いただけさ。・・・君の仲間からね」

・・・!なんだって・・・!

「まさか・・・まさか・・・!!」

「確か・・・甘寧と言ったかな?」

「ーーーー!!」

息が、止まった。甘寧・・・その名は・・・

「思春が・・・思春がいるのか!?この世界に・・・!」

「ああ、いるとも。彼女には感謝しているよ。彼女のお陰で“夢”が更に鮮明になったのだからな・・・」

咲がそれに向かって叫ぶ。

「何を訳のわからねぇ事を言ってやがる!アンタ・・・知ってるのか、外史を・・・!」


「ああ。私が物語の中の登場人物でしかない・・・そういうことだろう?」

「そうさ・・・アンタが作ったこの世界も、誰かが考えた世界って事さ」

咲が嫌味を混ぜて言うが、それでも茅場の笑みは消えない。

「例えそうだとしても、“自我”とやらが芽生えればただの登場人物ではなくなるのだろう?」

「・・・そこまで思春に聞いていたか・・・」

「君達を断定するのには苦労したがね。まあ、半分は勘だった訳だが」


「随分いい勘してるな・・・」

「設定を変えておかなければ二刀流は君達のどちらかに渡るだろう。ただ、それではこの物語からかけ離れる恐れがある」

「・・・」

「さて、無駄話もここまでにしておこうか」


「・・・何をする気だ?」


「簡単な話だ。私と二対一でのデュエルだ。君達が勝てばクリア・・・全てのプレイヤーを現実に帰そう。・・・当然、私の不死属性も解除する」

「へぇ・・・二人がかりでいいのかよ?」

「私は“君達”と戦いたい。・・・それ以上の理由が必要かな?」

「・・・わかった。わかりやすいのはいいね。ただ・・・俺達が勝ったらもうひとつ聞きたい事がある」

「ほう、なにかね」

「・・・簡単だよ。思春の居場所さ」

「ふ・・・いいだろう」

「待て・・・コウハ!」

「サキ・・・ダメだよ!」

キリト達が・・・麻痺でもあるに関わらず、立ち上がっていた。


「・・・これは驚いた。システムによる現象を覆すとは・・・これも人の意思の力かな」

しかし、ヒースクリフが更にウインドウを弄ると、再びキリト達は倒れる。

「ぐ・・・」

俺と咲はキリト達に近づき、話す。

「安心してよ、和人。俺は負けない勝って・・・帰らなきゃね」


「亮・・・」

「まあ・・・万が一の時は兄貴に任せるよ。シリカやサチ・・・直葉にも謝っておいて・・・」

「やめろ・・・!いくな亮!」



「サキ・・・五十嵐 咲って・・・」

「ごめんね、今まで黙ってて。・・・お姉ちゃん、わたしは約束したよね?お姉ちゃんを必ず現実に帰すって・・・」

「ダメ・・・それでサキが・・・早貴がいなくなったらわたし・・・」

「大丈夫。必ず帰ってくるから」

俺達は・・・茅場に向き直る。

「おっと・・・悪いがギャラリーには下がっていてもらえるかね?」

『『・・・!』』

「いいかな?二人とも」


「・・・亞莎、出てきてくれ」

「詠、下がってろ」

『ですが・・・!』

『でも・・・!』

「いいから早く・・・!」

「詠、頼む・・・!」

『・・・くっ』

『・・・分かりました』


亞莎と詠は実体化し、下がる。

「・・・彼女達も“武将”なのかな?」

「いや・・・軍師だよ」

「なるほど・・・」


茅場は心から笑っているようだ。

「三國志の武将、軍師、転生・・・どうやら思っていたより世界は広いようだ」

茅場はそう言ってウインドウを操作する。すると茅場を含む俺達のHPが全て均等・・・レッド手前のクリーンヒット一発でケリがつく数値にまで変更され、不死属性も解除された。そして剣を引き抜き、茅場は一歩下がった。

「咲・・・いけるな?」

「誰に言ってんだ?俺とお前が組ゃ、殆ど負けねえよ」

『そこは絶対が欲しいッス・・・』

俺は擬音を逆手に持ち、右手に迷切を握る。彼奴がこの世界を作ったのなら、ソードスキルは全て把握されていると考えていいだろう。

「(上等・・・元々は技なんかよりも、剣術を集中して磨き上げたんだ・・・)」



「必ず・・・勝つぜ。リパル、いいな?」

『何時でも!』

「では、始めようか」

「ならお先に!」

咲が装備してハンドアックスを投げる。

ガキィン!

「ふっ!」

盾で防いだ隙に咲は茅場を飛び越える。茅場が一瞬、注意が逸れる。

「そこぉ!」

迷切での突刺。

「・・・ふっ」

だが防がれる。

「らぁっ!」

負けじと擬音で切り上げるが、茅場は盾を少し動かしただけでそれを防いだ。その体を捻った体制から後ろ回し蹴りを放つが、それすらも弾かれる。


「盾の範囲広すぎだろ・・・!」


「だったら二対一の利点を活かすまでよ!」

咲が反対側からリパルを振るが、そちらは剣で対処される。

「ハァッ!セェイッ!」

「オオァ!ダラァッ!」


お互いの連続攻撃も弾かれ、しかも・・・

ヒュン!

「っ・・・!」



反撃する余裕まである。・・・どうやら茅場自体の能力もかなり高いようだ。


「その程度かね?守護者とやらの力は!」

「まだまだこれからだ!」

「油断してっと死ぬぜ!」

俺達は同時に突きを放つが、剣と盾で受け流される。

「く・・・あっ・・・!」


咲が振り返り、剣を振ろうとした時・・・リパルが光った。

『は、発動モーションの誤認!ソードスキル発動ッス!』

「くっ・・・そぉ!」

当然弾かれ、隙が出来る。

「・・・!」

「させるか・・・!」

俺が間に入り、茅場の一撃を防ぐ・・・が、盾による一撃が俺と咲を吹き飛ばした。

「っ・・・!」


「亮・・・平気か」

「まあな・・・!」

咲が再び突っ込むが、簡単にいなされる。


「セヤァッ!」

擬音、迷切を交互に繰り出していくが、茅場はやはり焦ることなく弾いていく。

「おおおらぁっ!!」


咲が跳び、斬るが茅場はそれを見ずに防いだ。

「ふっ!」

ガァン!

「っあ・・・」

咲が吹っ飛び、茅場は俺の方に意識を集中させる。

「くそ・・・」

その時、茅場が盾によるプッシュで俺に当ててきた。一瞬・・・一瞬だが意識が逸れた。

「しまっ・・・」

振り下ろされる剣。俺は咄嗟に避けるが・・・

ガスッ

「ーーーー!!!」

右腕に感覚、喪失感。HPバーは減り、そこには・・・部位欠損の文字。

「ッッッッ!!」

すぐに擬音を振ろうとするが・・・

ゴッ!

茅場の盾が俺の手首を捉えた。その衝撃で力が抜け、擬音が手から離れる。・・・これで、チェックメイト。

「・・・さらばだ」

茅場が剣を突き出す。終わり・・・?いや、違う・・・!

ズシャ!

「・・・!」

初めて、茅場の顔から笑みが消えた。確かにその剣は一人のプレイヤーを貫いた。だがそれは俺ではなく・・・


「わりぃな・・・この世界の俺は速いんだよ・・・!」

そう、咲だ。その素早さで間に飛び入り、茅場の剣を自らの体で受け止めた。当然そのHPはなくなったが・・・ここで初めて茅場は隙を見せたのだ。

「やれ・・・亮ーーー!!」

咲の手からダークリパルサーが落ちる。俺は左手でそれを取り、一気に突き出す。


「俺の・・・」

「俺達の・・・」


「「勝ちだぁぁぁ!!!」」


その瞬間・・・茅場は笑った気がした。少しすれば二つの破砕音が聞こえた。俺の目の前には誰もいない・・・


「咲・・・嘘・・・」

「え・・・?早貴・・・そんな、いや・・・イヤァァァ・・・!!」

・・・俺は振り替えろうとした時・・・システム音声が聞こえた。

『アインクラッド標準時 11月 7日 14時 55分 ゲームは クリアされました』


それを聞いて完全に気が緩んだのか・・・意識が・・・落ちて・・・・・・


















































































































「・・・」


ここは・・・?辺りは夕暮れで・・・足元に分厚い透明の板があるだけ・・・辺りを見渡すと・・・咲が座ってた。

「咲・・・?」

「亮か」

「ここは・・・」

「さあな・・・確かに茅場のHPが無くなったんは確認して・・・俺の意識も無くなって・・・さーて、賭けは上手く行くかな」

「賭け?」

「ああ・・・っと」

咲が俺の背後を睨む。振り返ると・・・白衣を着た男がいた。

「茅場・・・」


「なかなかに絶景だな」

「アレのことか?」

咲が指差した先にあるのは・・・鉄の城、アインクラッド。それは下層から段々崩れていっていた。

「・・・アレはどういうことだ?」

「比喩的表現・・・と言うべきかな」

茅場が言うには今、SAOのデータの全消去を行っているらしい。そして生存者も全てログアウトに完了したそうだ。

「なあ、茅場。俺がここに、亮といるって事は賭けは成功か?」

「・・・」

「ああ、そうだ。賭けって・・・」

「簡単だよ。ナーヴギアが脳を焼く前にクリアする」

「それ・・・」

「どんなに優れてても死亡判定からでもラグはあるからな。その間にクリアすれば焼かれる前にログアウトできるかな・・・っと思ったんだが?」


「ふ・・・その推理はともかく、君は生きているよ、咲君」

「そか。なら帰ったらやる事はお姉ちゃんと詠に平謝りだな」

「茅場・・・俺は聞きたいんだけど」

「何かな?」


「思春と話して夢が鮮明になった・・・って言ってたけど、あんたの夢って・・・?こんなことをする程の・・・」

「そうだな・・・私も長い間忘れていたよ。フルダイブ環境システム・・・いや、それよりずっと前から私はあらゆる枠や法則を超越した世界を創り出すことだけを欲して生きてきた・・・そして、それを知ることが出来た・・・」

「・・・」

「子供は次から次へと色々な夢想をするだろう。空に浮かぶ鉄の城の空想な私が取り付かれたのは何歳の頃だったかな・・・その城に行きたい・・・長い、長い間、それが私の唯一の欲求だった。私はね、亮君。まだ信じているのだよーーーどこか別の世界には本当にあの城が存在するのだとーーー・・・」


「あるさ。人の想像の数だけ外史は生まれる。きっとあんたの城も・・・何処かに」


そこでふと俺は思い出した。一番聞かなくてはならないことを。


「そうだ・・・!」

「甘寧君の事だろう?」

「そうだ・・・思春は!」

「彼女も先程“ログアウト”したよ」

「え・・・?」

「・・・何年前の話だったか。彼女は道端に倒れていた。私の興味を引いたのは彼女の持つ独特の空気だった・・・予想は当たっていたよ」


「思春の話が嘘だと思わなかったのか?」

「嘘にしては話が凝っていた。・・・あの状況で嘘を言う必要もないだろう」

「・・・」

「いきなり人が増えれば周りも怪しむ。そこで私は彼女を親戚と偽った。・・・多少のリスクがあろうとも私は彼女の話が聞きたかったのだろうな・・・ある日、彼女は私の計画を知ってしまった。流石は武将だ。私を止めると言ってナーヴギアとSAOを手に入れ、ダイブしてきた」

「思春・・・」

彼女らしいと言うか・・・猪突猛進というか・・・

「だが、彼女にはきっとヒースクリフが私だと気づくだろう。そう思って私は下層のプレイヤーが寄り付かないような村に彼女の動きを制限した」

下層・・・余裕がなかった時だ。寄り道なんかしてる暇はなかった・・・


「驚いたのは彼女は諦めずに熟練度やレベルを上げていた事だよ。・・・おっと、そろそろ時間のようだ」

「待ってくれ!思春は何処に・・・」


茅場の姿が消えていく。

「・・・時間切れだ。言い忘れていたな。ゲームクリアおめでとう、コウハ君、サキ君」


茅場の姿は・・・消えた。


「亮・・・」

「大丈夫・・・思春はいるんだ・・・探してみせるさ」


「そっか。時間がないからあんまり茅場と話せなかったな」

「もっと理由が聞きたかったけど・・・夢か」

「俺らにアイツを責める権利はないよなぁ・・・俺らも夢の為に人を殺してきたんだ」

「まあ、な・・・そう言われると返せない」


その時、辺りが白く、霞み始める。

「リアルか・・・あんま帰りたくねえなぁ・・・」

「何でだよ。俺は、早く妹に会いたいかな」

「・・・まだ、終わらないかな、この物語は(ボソッ)」

「え?なんか言ったか」

「・・・いや、何でもない。・・・ゲームクリアお疲れさん、相棒」

「そっちこそな、親友」

拳をぶつけ会うと辺りが完全に白に包まれた・・・・・・
































































































































・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「・・・う」

目を、開く。白い光を感じ、反射的に閉じるが・・・再び開く。

「・・・」

天井だ・・・しかも人工的で・・・よく周りを見ると、空調装置などの機械が沢山ある。・・・そこまで見て・・・やっとこの考えに至った。

「(帰って・・・きたんだ・・・)」


起き上がろうとしたが・・・身体に力が入らない。当たり前か・・・二年間も寝たきりだったのだから。その時、看護婦が入ってきた。そして俺と目が合うと、手に持っていたクリップボードを落とした。

「き、桐ヶ谷さん!?せ、先生!先生ーーー!?」

慌ただしく出ていく。耳を済ませば廊下からざわめきが聞こえて来てる。

「(・・・みんな・・・無事なんだ・・・)」


ゆっくり目を閉じる。頭にあったのは家族に会ったときなんと言おうか・・・そんなことだった・・・

 
 

 
後書き

「決着」

早貴
「正直、二対一って言われた時点で身体を張る気はあったんだよね」


「(俺もそうだったなんて言えないな・・・)」

早貴
「茅場も驚いてくれてラッキーだったぜ。にしてもなあ、正体がバラされると思って思春を軟禁するなんてな」


「思春もそういう勘は鋭いからなぁ・・・」

早貴
「何にせよ、次回から新章だな!」


「正直SAO編だけでかなり手間取ってるけどね・・・テイルズ編越えるだろ、これ」

早貴
「まあな・・・それじゃ、また次回!」 

 

新たな我が家~

 
前書き
新章ですね。いや、段々キャラの動かし方が難しく(笑)ではどうぞ! 

 
・・・ゆっくり、目を開いた。広がる天井はこの世界では見馴れた・・・自分の部屋の天井。

「・・・よし」

SAOから帰還してから二ヶ月位が経過した。病院からも退院して、今は家で過ごしている。

「コンタクトは・・・」

右目にコンタクトを入れる。無いよりはあった方がマシだ。・・・着けていてもかなりボヤけるが。


「起こさないように」

ちなみに現在一月中旬の朝4時。当然外は暗い。何でこんな時間に起きるのかと言うと・・・


「一二・・・三四・・・」

外に出て準備体操。そして身体が解れたら家の周りをランニングする。

「(ペースを一定に保って・・・持続させるように・・・)」


軽く三周してから、家の庭に戻る。

「何時見ても広い庭・・・」



いや、ラントの庭も相当だったが、ここは日本・・・ある意味フルダイブシステムを除けば大体は俺がいた日本と同じなのだ。なのにな・・・これ、元の俺の家の庭の何倍だ?

「とと・・・身体が冷える前に・・・」

軽く足踏みをしてから・・・ダッシュ!

「ふっ・・・!」

そして庭の端まで言って、壁に触れてからまたダッシュで戻る!

「・・・っ!」

戻ったらまた壁までダッシュを数十往復して、ペースと息が乱れ始めたので走るのを止める。

「チッ・・・この程度で、息切れか・・・」

まあ、ここまでやれば分かったと思うが、二年間も寝たきりだったので、身体を鍛え直しているのだ。食事のカロリー計算、筋肉の付け方、運動方法・・・俺にしては珍しく色々考えていた。

「・・・」

結局・・・あれから思春の行方は掴めていない。よく考えたら彼女はこの世界の戸籍とかないし・・・ああくそ、もっと話題を詰めて茅場に問い詰めりゃよかった。


「すぅ・・・はぁ・・・っ」


息を整え、もう一度ダッシュ。最初は歩くこともしんどかったが、繰り返していく内に走るのまで問題は無くなった。

「・・・そう言えば」

ちょっと止まって目を閉じる。

「(・・・やっぱり、あることにはあるんだよな)」

長年の感か、集中すると恐ろしい程微弱だが“気”が流れているのを感じる。

「(だけど表には出せない・・・)」

思い切り溜めれば出せるかな?そう思って右手で左腕を掴み、思い切り・・・

「亮お兄ちゃん、何してるの?」

「わひゃあっ!?」


背後から声をかけられ、思わず飛び上がる。

「な、なんだ、直葉か・・・あれ、もうそんな時間?」


「うん、もう7時だよ。亮お兄ちゃんも凄い早起きだよね」

彼女は妹の桐ヶ谷 直葉。眉の上と肩の上でばっさり切った青みがかった髪に勝ち気な瞳は二年経っても変わりなかった。・・・二ヶ月前、直葉は目覚めた俺と兄の和人を見るなり大泣きした。その後、ぎこちなかったが色々話して今ではやっと普通に会話が出来るようになった。呼び方も“お兄さん”から“亮お兄ちゃん”にしてくれた。・・・流石に呼び捨てにまでは戻らなかったが。

「胴着まで着るなんて律儀だね、直葉は」

「うーん・・・やっぱり気合いが入るからかな」


さてさて、ここでこの世界の俺の家族・・・桐ヶ谷家について説明する。桐ヶ谷家は埼玉県南部のとある城下町の中でも昔の街並みを残した地域に建つ古い日本家屋だ。・・・まあ、当然・・・ベタだが祖父はバリバリの頑固者で、若い頃は剣道で鳴らし、長年警察に奉職したらしい。祖父の息子・・・つまり俺と直葉の親父は同じ道を進むことを期待していたが、親父は高校まで剣道を続けたのだがすぐにアメリカの大学に留学、そのまま外資系の証券会社に就職、日本支社に転属したのち、母さんである(みどり)と結婚した。だが親父はその後も太平洋を行ったり来たりで家に中々帰ってこれず、その熱意は俺達三人に向けられた。その結果は以前話した通りだ。直葉はずっと剣道を続け、なんと中学最後の大会では全国の上位まで進出して、しかも有力高校への推薦入学も決まってるそうだ。


「(大会、見たかったな)」

「はい、タオル。汗びっしょりだよ?」

「お、ありがとう。んじゃ、直葉の自主トレを見させてもらうかな」

俺は縁側に腰掛けて汗を拭う。直葉は準備体操をしてから、竹刀を振る。リズムよく、風切り音が聞こえてくる。

「(体制も綺麗。太刀筋も真っ直ぐ。・・・相当鍛錬したんだろうな・・・)」

その時、頬に冷たい感覚。

「でっ・・・!?」

不意打ちにビックリして、後ろを振り返ると、ニヤリと笑ってる兄の姿があった。

「和人~~~」

「はは、そら」

和人はそう言ってミネラルウォーターを渡してきた。それを受け取り、飲む。



「亮もよくやるよな」

「兄貴はもう少し鍛え直した方がいいぞ?」

「ちゃんとジム行ってるだろ?」

「・・・よく考えたら、元々細身だしな・・・」

直葉といると和人は姉妹に見られることもあるそうだ。・・・てか面白い話、俺達は三人いてようやく兄弟に見えるとか。


「でもま、兄貴は元々体力と筋肉ないしな。今くらいで丁度いいか」


「逆に亮は鍛えすぎじゃないか?」

「まあ、癖っていうか・・・日課って言うか・・・」

基本的に鍛錬は欠かさずやらないとウズウズする。大怪我した時とか完治するまで何もできないから、凄い苛々するし。


「あ・・・」

そこで直葉が和人に気付いた。

「おはよう」

和人はそう言ってもう一本持ってたミネラルウォーターを放る。

「お、おはよ。・・・やだなぁ、見てたなら声かけてよ」

「いやあ、あんまり一生懸命やってるからさ」

「そんなことないよ。もう習慣になっちゃってるから・・・」

和人とも普通に会話出来るようになったし・・・うん、やっぱり家族は仲いい方がいいよな。ひねくれなかっただけマシかな。



「そっか、ずっと続けてるんだもんな・・・」

和人が直葉の竹刀を握り、軽く振って首をかしげる。

「軽いな・・・」

「ええ?」

和人の隣に座った直葉が和人を見る。

「それ真竹だから、けっこう重いよ。カーボンの奴と比べると五十くらい違うよ」

「あ、うん。その・・・イメージというか・・・比較の問題というか・・・」

・・・そりゃ、あの世界で剣を振ってりゃ軽くも感じるよな・・・

「でも、こう見てるとなあ・・・直葉、ちょっと試合やらない?」

「え?亮お兄ちゃんと?」


「お、いいな。面白そうだ」

「道場に防具あるだろ?直葉の見てたら試合したくなっちゃったよ」

「け、けど・・・目・・・」


「あ・・・」

そっか・・・直葉は、まだ・・・

「・・・」

俺は右目を親指で指差す。

「こんくらいハンデだハンデ。そんくらいないとなぁ。いっひっひ」

「む・・・」

直葉はムッとして俺を見る。

「ほほう、全中ベストエイトのあたし相手にハンデだなんて、随分余裕ですこと」

「ははっ、んじゃ行こうか」

俺達は敷地の東側にある道場目指して歩き出す。

「・・・」

道場に一礼してから上がり、支度をする。防具を着込んでから竹刀を握る。

ヒュン!

・・・よし、感覚は覚えてる。俺は両手で握り、中段に構えた。直葉も同じだ。

「直葉、そういや百本勝負なんてやってたよな」

「あ・・・よく覚えてたね、亮お兄ちゃん」


「戦績は俺の47勝48敗3分・・・後二回勝負だ」

「そ、そこまで覚えてたの・・・?」

「負けず嫌いだからね、俺。・・・兄貴、よろしく」


「ああ。それじゃ、一本勝負・・・始め!」


先手必勝!俺は素早く踏み込み、竹刀を打つ。

「ーーー!」



直葉が驚くのが分かった。だが長年の積み重ねか、驚きながらも回避された。

「やぁぁぁ!!」

直葉の動きが変わった。ちらりと面から瞳が見えた。・・・マジになったか。

ビュン!

「っとぉ!」

鋭い小手打ち。ギリギリ竹刀で払う。

「(思ってたより・・・早い!)」

そのまま攻防を続ける。小手、胴、面。


「(埒があかないな・・・)」

・・・まぁ、さっきから距離感を計れずに掠り始めてるが・・・一本を取られる程じゃない。

ヒュン!

「(やべっ!)」

反応が遅れ、直葉の竹刀が面に・・・

「・・・っ!」

その時、直葉の動きが鈍った。身体が今までの積み重ねからか勝手に動き、直葉の面に一撃を与えた。

スパン!

「一本!そこまで!」


俺は面を外す。直葉も面を外すが・・・その顔は暗い。

「・・・いやー、直葉は強いな!」

「え・・・わっ!?」
直葉の頭を撫でる。

「驚いたよ。一撃一撃が早いし鋭い。持久戦になってたら負けてたな」

「亮お兄ちゃん・・・で、でも亮お兄ちゃんも凄いよ。かなりブランクがある筈なのに・・・」


「身体に動きが染み付いていたのかもね」

「そっか・・・って何時まで頭撫でてるのー!?」

「おっと・・・はは、悪い悪い」

直葉が顔を赤くして暴れるので、笑いながら離れる。

「そだ、兄貴もやる?」

「俺もか?・・・そうだな、二人のを見てたら興味が沸いた」


「んじゃ、俺と交代ね。・・・直葉、二連戦平気か?」

「あ、うん。大丈夫だよ」

「じゃ、俺は汗を流してくるよ。あ、今日の料理当番俺か・・・何かリクエストは?

「亮か・・・亮の中華は美味しいけど・・・」

「朝から食べたらその・・・太っちゃうし・・・(ボソッ)」

・・・こういうの聞くと直葉も年頃なんだなあ、と思う。

「オッケ、じゃあシンプルに野菜炒めにしとくよ」



俺は防具を脱ぎ、家に戻ってシャワーを浴びてから、下ごしらえに入る。

「さてと・・・」

冷蔵庫を見て・・・

「挽き肉、もやし、人参、キャベツでいいかな」

適当に切ってからフライパンで炒め・・・塩コショウで味付けーの、皿に盛り付けーので完成。ついでにコンソメスープも用意。

「・・・まだやってんのかな」

俺は二人を呼びに行く。

「兄貴ー?直葉ー?」



「あ、亮お兄ちゃん・・・」

「もうできたのか?」

「ああ。・・・直葉、どうした?」

「え・・・う、ううん。何でもないよ」

「そうか?・・・兄貴、今日見舞いに行くんだろ?早く飯食べなよ」

「・・・そうだな。悪いスグ、シャワー先借りるな」

「うん、いいよ」



「取りあえず汗だけでも拭いときなよ?」

「・・・ねぇ、亮お兄ちゃん」

「・・・ん?」

「あたし・・・ううん、やっぱり何でもない」


「うん?・・・まあ、何かあったら俺か和人に言いなよ?家族なんだから」

「うん・・・ありがとう」



その後、和人はご飯を食べてから病院に向かう。

「じゃ、行ってくるな」

「おう。・・・ってそのバッグは?」

「ちょっと頼まれてな、組んだんだよ」

組んだ・・・ってサイズ的にノートパソコンか?でもなんで・・・ああ、そうだ。誰に見舞いかって?それは・・・
















































































早貴~

「・・・ん・・・」

目を開くと、自分がベッドに突っ伏して寝ているのを思い出した。

「あ・・・昨日このまま寝ちゃったんだ・・・」

ここは、埼玉県所沢市の郊外に建つ最新鋭の総合病院。そこの最上階にわたしはいる。わたしが入院している訳ではなく、ベッドに寝ているのは・・・

「お姉ちゃん・・・」


ベッドには、未だナーヴギアを身に付け、目を覚まさない姉、明日奈の姿があった。・・・あの日、ゲームがクリアされてから続々とプレイヤー達は目を覚ました。だけど、明日奈を含む約三百人のプレイヤーは目を覚まさなかった。・・・ちなみにその情報は《総務省SAO事件対策本部》の人から得た。その組織はSAO事件後すぐに結成されたのだが、やはり安易に手出しができなかったらしい。彼らに出来たのは、被害者の病院受け入れ体制を整えたこと、僅かなプレイヤーデータをモニターすること、だった。わたしやキリトといった攻略組は何があったのか事情聴取に来たのだ。わたしは話す代わりに現状を教えてもらった。一方・・・

ピッ

「・・・?」

ドアが開くと、そこにはキリト・・・桐ヶ谷 和人の姿があった。

「あ・・・」

「・・・おはようございます、桐ヶ谷さん」

「あ、ああ」

和人は中に入ってくる。わたしは丸椅子を差し出す。

「いや、いいよ。立ったままで・・・」

「いえ、わたしだけ座っているのもあれですので・・・」

「・・・ああ、そうだ。コレ」

和人がそう言ってバッグを渡してくる。

「ありがとうございます。・・・お金は足りましたか?」

「充分すぎる程に。・・・でもなんで・・・」

「わたしには組み方がよく解らないので、桐ヶ谷さんなら詳しいと聞いて・・・」

「まあ、それなりには・・・なあ・・・えっと、結城さん」

「くす・・・わたしに合わせなくてもいいですよ?」

「そ、そうか・・・サキも今まで通りに接してくれれば・・・」

「・・・すみません。リアルじゃ誰かに見られると思うと、敬語癖が出てしまって・・・」

「・・・」

「そうですね・・・では亮と被るので、和人さんとお呼びします」

「あ、ああ。構わないよ」

そんな感じで話していたら、正午になっていた。

「じゃあ、俺は帰るよ」

「何時もありがとうございます。きっとお姉ちゃんも喜んでいると思います」

SAOメインサーバー・・・初期化される筈が、何故か不可侵のブラックボックスとして存在している。きっと明日奈も未だに・・・その時、またドアが開いた。

「おお、来ていたのか桐ヶ谷君。度々済まんね」


入ってきたのはわたしの父親・・・結城 彰三だ。


「こんにちは、お邪魔してます、結城さん」


「いやいや、いつでも来てもらって構わんよ。この子も喜ぶ」

実はお父さんは総合電子機器メーカー《レクト》のCEOだ。

「おや、早貴も来ていたのか」

「はい。・・・実は昨日そのまま寝てしまって・・・看護婦さん達も見逃してくれたようです」

その時、お父さんの背後に誰かがいた。

「桐ヶ谷君は、彼とは初めてだな。うちの研究所で主任をしている須郷君だ」

「ーーーー!」

須郷、信之。父が気に入っている人物でわたしや明日奈やお兄ちゃんも小さな頃から接している・・・その上で言えば、わたしはこの人が苦手だ。何を考えているのかわからない・・・人を値踏みするような・・・とにかく、苦手だ。そうこうしてたら和人と須郷の挨拶も終わり・・・ふと気になる会話をしだした。


「ああ、社長、来月にでも、正式にお話を決めさせて頂きたいと思います」

「・・・そうか。しかし、君はいいのかね?まだ若いんだ、新しい人生だって・・・」

「僕の心は昔から決まっています。明日奈さんが、今の美しい姿でいる間に・・・ドレスを着せてあげたいのです」

「・・・!?」

どういう・・・こと!?

「お父さん、何の話なんですか・・・!?」

「む・・・この話は家でしよう。時間がないのでな」

「お父さん!」

お父さんはそのまま部屋から出ていく。

「・・・桐ヶ谷君、君はあのゲームの中で、明日奈と暮らしていたんだって?」

須郷が明日奈の髪をつまみ上げながら言った。

「・・・ええ」

「それなら、僕と君はやや複雑な関係ということになるかな」

須郷の顔を見たとき・・・悪寒が走った。とても嫌な、気持ち悪い表情。

「さっきの話はねぇ・・・僕と明日奈が結婚するという話だよ」

ニヤニヤと笑いながら言った須郷の言葉に、わたし達は絶句した。

「そんなこと・・・できるわけが・・・」

「確かに、この状態では意思確認が取れないゆえに法的な入籍はできないがね。書類上は僕が結城家の養子に入ることになる。・・・実のところ、この娘は姉妹そろって僕のことを嫌っていてね」

「・・・!」

「この状況は非常に都合がいい。当分眠っていてほしいね」
須郷の指が明日奈の唇に近づく。

「やめろ!」

和人が須郷の腕を明日奈から引き離す。

「須郷さん、お姉ちゃんの昏睡状態を利用する気なんですか!?」

須郷はニイっと笑う。

「君がそんなに強気で迫るなんて、初めてじゃないか?・・・それに利用ではなく正当な権利だよ。早貴なら知ってるだろう?《アーガス》がどうなったか」

「・・・開発費に事件の補償による負債を抱えて解散したと聞きました」

「そう、そしてSAOサーバーの維持を委託されたのがレクトのフルダイブ技術研究部門・・・僕の部署だよ」


「じゃあ・・・」

「・・・明日奈の命は今やこの僕が維持していると言ってもいい。なら、僅かばかりの対価を要求したっていいじゃないか?」

「そんなこと・・・わたし、報告します」

「誰に?今までろくに意思表示もしなかった君が、誰に何を言うんだい?二年間ゲームに閉じ込められた君と真面目に生きてきた僕。周りの人間はどっちの言葉を信じるかな?」

「っ・・・」

・・・言い返せない。誰も、きっと信じてくれない。母や父でさえ・・・むしろ精神異常を起こしていると考えるかもしれない。それほどまで・・・今までの人生を悔やんだ。

「・・・うぅ・・・」

その場に座り込んでしまう。涙が零れ、止まらない。

「泣き虫なのは変わらないようだね。さて、桐ヶ谷君、君がゲームの中で何を約束したかは知らないけどね、今後ここには一切来ないで欲しいな。結城家との接触も遠慮して貰おう」

和人が拳を握り締めるのが分かった。

「式は来月この病室で行う。君も呼んでやるよ。それじゃあな、せいぜい最後の別れを惜しんでくれ、英雄くん。そして早貴も、長らくお世話になるよ」

須郷はそう言って病室から出ていった。

「う・・・わぁぁぁ!!」

泣いた。防音を抜けるんじゃないかと思う位に。和人が何かを言った気がするが・・・わたしには、それを聞く余裕はなかった・・・






















































































亮~

「・・・」

夜。和人は夕方に帰ってきたようだが、それから部屋に閉じ籠ってしまった。

「お兄ちゃん、どうしたんだろ・・・」

「さあ・・・夕飯も食べてないし・・・」

「あたし、ちょっと様子を見てくる」

「・・・ああ、頼む」


直葉はそう言って二階に上がっていく。・・・多分、アスナに何かあったのか・・・俺はそう考えながら、色々と後片付けを始めた・・・




 
 

 
後書き

「咲、大丈夫か?」

早貴
「リアルじゃ咲の要素がないから・・・早貴のまんまなんだよ」


「なるほどね・・・」

早貴
「お前こそ、連絡したりしてるのか?」


「・・・まあ、シリカ・・・綾野さんには連絡したよ。心配もかけたし・・・」

早貴
「サチさんは・・・?」


「連絡先は教えて貰ったけど・・・一回電話して・・・」

早貴
「話したのか?」


「出なかった。それで怖くなっちゃって・・・」

早貴
「連絡はなしか・・・」


「綾野さんとはこまめにやり取りするんだけどね・・・」

早貴
「わたしも、リズと連絡取ってないなぁ・・・」


「さて、それじゃ、次回もよろしく」


早貴
「またね」 

 

動き出す者達~

 
前書き
遅くなって申し訳ありません!!しかも短いし・・・何とか間を見つけないと・・・ではどうぞ! 

 
「・・・起きてるかな?」


翌日になってから、俺は何時ものトレーニングを終え、和人の様子を見に行く。

「兄貴ー、起きてるー?」

部屋の扉を押し開いた・・・瞬間、扉が戻ってきた。



「は・・・?」

ガン!ゴン!

「ったぁ!?」

「いたっ!?」


ドアが丁度中間位で止まり、その両側には額を抑えた兄妹がいた。

「っつー・・・って直葉?」


「あ・・・えっと、あう・・・ごめんね、亮お兄ちゃん!」

そうして立ち上がると直葉は自分の部屋に飛び込んでいった。

「・・・?兄貴、何かあったのか?」

「まあ・・・色々とな」

「そっか。・・・取りあえず、昨日何が起こったかは聞かないでおくよ。・・・ただ」

「?」

「悩んでるなら相談してよ?俺達は家族なんだからさ」

「・・・ああ」

「とにかく、シャワー浴びてきなよ。昨日帰ってきてそのまんまっしょ?」

「わかった。じゃあ着替えを・・・ん?」

その時、和人のPCから電子音が響いた。・・・しっかし、パソコンっつーか電化製品全般が進化しているなあ、この世界。・・・なんて考えていた時、モニターを見ていた和人の目の色が変わった。

「兄貴?どうかした?」

「・・・」

和人はモニターを指差す。それに釣られて画面を見ると・・・

「・・・!」

何かのスクリーンショット・・・だが、それに写っていたのは・・・

「アスナ・・・?」

鳥籠のような場所で、憂いの表情を浮かべるそれは・・・

「おい、この写真はなんだ!!」

怒声に驚きながら振り返ると和人が誰かに電話していた。メールの差出人からして、相手は・・・エギルだろう。

「ああ、すぐに行く」

和人は携帯端末を片付け、俺に言う。

「悪い、亮。俺、今から・・・」

「俺も行くよ」

「え・・・」

「もしこれがアスナなら・・・俺にも関係がある」

「・・・いいのか?」

「当然。和人の嫁さんだしなぁ。俺にとっちゃお義姉さんにもなるし」

「・・・そうか」

「よし、ならとっととシャワー浴びてこい。おにぎり作っとくから」

「・・・ああ!」


さてと・・・何がどうなるやら・・・


































早貴~


「早貴」

早朝から母・・・結城 京子にわたしはリビングにて色々言われています。

「あなた、一昨日連絡も無しに病院にいたでしょう?」

「・・・すみません。以後、気を付けます」

「ええ。同じ失敗は二度しないことよ。いいわね?」

「・・・はい」

「それと、こちらが本題なのだけど」

そう言って京子はタブレットを渡してくる。

「・・・編入試験、概要?」

「お母さんのお友達が理事をしている高校の編入試験を受けられるようにしたわ。あなたは頭がいいから、今から試験勉強を続ければ合格できる筈よ。

「ま・・・待ってください・・・なんでいきなり・・・」

「いきなりじゃないわ。あなたは二年間も人生を無駄にしたのよ。その分まで取り戻さないと・・・」

その言葉に反応し、唇を噛む。あの世界・・・SAOが無駄と言われて、あそこであったこと全てが否定された気がした。

「でも、まだお姉ちゃんも・・・」

「明日奈を言い訳に使うのは止めなさい。昔からの悪い癖よ。そろそろあなたも自立して・・・」

わたしは立ち上がる。

「早貴?まだ話は・・・」

「・・・編入試験のこと、理解しました。・・・少々考えを纏めたいので、失礼します」

・・・わたしは・・・母が苦手だ。そして中途半端に咲があるせいで、余計な口論になりそうになる。

「・・・」

自室に入り・・・渡されたタブレットをベッドに投げつける。

「・・・時間がない・・・」

わたしは昨日和人から預かったノートPCを起動させる。

「・・・よし」

やることは一つ。須郷の悪事を解き明かすこと。

「久々だけど・・・やれるよね」

父のIDに偽造し、レクトのプログラムを探っていく。一歩間違えばすぐにバレるが・・・捕まらないようにステータスの高いPCを和人に組んでもらったのだ。

「・・・あった!」

須郷が保管しているプログラム・・・だが。

「プロテクトが抜けられない・・・」

これ以上進んだら・・・捕まる。わたしはやむ無く退いた。

「くっ・・・!あと少しなのに・・・なら!」

レクトに直接乗り込む!・・・それしか、ない。

「その前に・・・」
わたしはクローゼットの奥から・・・ナーヴギアを取り出す。


「あまり見たくはなかったけど・・・」

ナーヴギアとPCを繋ぎ、ナーヴギア内に残るデータを復元していく。


「・・・あった。とにかくリパルと詠を・・・」

修復作業を開始するが・・・大分時間がかかりそうだ。

「(なら後回し・・・)」


近くのショルダーバッグを取り出し、ノートPCや色んな物を放り込む。多分・・・この家に帰ってくることはない。

「行こう・・・」

わたしは立ち上がり、京子に何か言われる前に家を飛び出した・・・


































































亮~

二人で自転車を飛ばし、着いたのは裏路地にある黒い木造の店。そこのドアを押し開け、中に入る。

「よぉ、早かったな」


「・・・相変わらず不景気な店だな。よく二年も潰れずに残ってたもんだ」

「うるせぇ、これでも夜は繁盛しているんだ」

「はいはい、相変わらずだね」

「お、コウハもいたのか、丁度いい」

「?」

和人がエギルと連絡を取ったのは先月の末。総務省のお偉いさんからみんなの連絡先を聞いていたのだ。和人はみんなまだ現実に慣れるのに大変だからと連絡してないらしい。・・・ただ、俺はシリカ・・・綾野 珪子とは連絡を取った。サチとは・・・まだ取っていない。

「で、あれはどういうことなんだ」

エギルこと本名アンドリュー・ギルバート・ミルズは現実でもこういった店を開いていた。血筋こそアフリカン・アメリカンだが親からの江戸っ子だそうで、住み慣れたここに喫茶店兼バーを開いたそうだ。客にも恵まれ、美人の奥さんも貰って・・・そんな時にSAOに囚われた。エギルは店を諦めていたらしいが、なんと奥さんがのれんを守り抜いたのだ。・・・さて、そんな彼は和人に言葉ではなく何かを渡してきた。

「・・・ゲーム」

「聞いたことないハードだな・・・」

・・・英語が並んでいてよく読めないが・・・《アミュスフィア》って読むのか?これ。・・・案の定、読み方はあっており、エミルはこれをナーヴギアの後継機・・・と教えてくれた。・・・何でも完全に安全らしい。信用しづらいが。

「・・・ん?じゃあこれもVRMMOなの?」

「ああ。アルヴヘイム、オンライン。・・・妖精の国、っていう意味だとさ」

「妖精・・・なんかほのぼのしてるな。まったり系のMMOなのか」

「それが、そうでもなさそうだぜ。ある意味えらいハードだ」

・・・聞くにはまず“レベル”が存在しないらしい。戦闘もプレイヤーの能力依存、簡単に言えばソードスキルなしの魔法ありのSAOらしい。しかもPK可能と来た。様々な種族間でのPK・・・荒れそうだと思ったが・・・

「飛べる・・・?」

「妖精だから羽根がある。フライト・エンジンとやらを搭載してて、慣れるとコントローラなしで自由に飛び回れる」

・・・そりゃ素晴らしい。・・・そして和人は取りあえず話を戻す。

「・・・あの写真は何なんだ」

エミルは印刷したあの写真を和人の前に置く。

「どう思う」

「似ている・・・アスナに・・・教えてくれ、ここはどこなんだ?」

「その中だよ。アルヴヘイム・オンラインの」

・・・この樹は世界樹と言うそうだ。円形の世界の真ん中にあり、プレイヤー達の目標。プレイヤー達には滞空時間があり、無限には飛べない。だがこの頂上に辿り着くとその種族にはなにかあるらしい。・・・ここまで聞けばある程度想像つくが・・・とにかく、なんと多段ロケット式で頂上を目指すという馬鹿なのか頭良いのか解らない奴らがギリギリで取ったのが・・・これだ。

「・・・あ、そうだ。さっき俺がいて丁度いいって言ったよね?」

「ああ・・・お前、このゲームをプレイしてないよな?」

「してるも何も、初めて知ったんだよ、それ」

「そうか・・・この話に続きがあってな。なんでも飛んでる途中、鈴の音が聞こえたそうだ」

「・・・え?」

「鈴と聞いたらお前が浮かんでな。何か関係あるのかと思ったが・・・」

鈴・・・まさかな・・・

「エギル、このソフトって売ってるか?」

「・・・言うと思ったぜ。安心しな、コウハの分もある。それとコイツはナーヴギアでも動くぞ。アミュスフィアはあくまでアレのセキュリティ強化版だからな」

俺はパッケージを受け取り、急いで走り出す。

「サンキュー、エギル!次来たらたっぷり注文するよ!」

「あ、おい、亮!?」

「兄貴も急げって!」

「な、なんだいきなり・・・」




















































早貴~


「・・・」

須郷が勤めているレクトに到着した。わたしはそのまま中に入る。

「すみません、父はいますか?」

受け付けのお姉さんとは何回か話した事がある。


「いえ、今は外出しておりますが・・・急用でしょうか?」

「・・・ちょっと忘れ物を届けに来ただけなので・・・中に入ってもいいですか?」

「・・・では、結城様にご連絡致します」

「あ、はい。・・・失礼します」

・・・つまり、父と連絡がつき、嘘がバレるまでがタイムリミット・・・わたしは小走り気味に急ぐ。


「確か、フルダイブ技術研究部門・・・だったわよね」

以前に来た事があるから道には迷わない。しばらくすれば部屋が近付いてくる。

「(人が全然いない・・・)」

特に気にせずわたしは須郷のPCに駆け寄る。バッグの中からUSBを取り出し、データのコピーを始める。

「・・・これは?」

PCを弄ると色々とデータが出てきて・・・その中に気になるモノがあった。

「アルヴヘイム・オンライン・・・・・・IDオベイロン・・・」

アルヴヘイム・オンライン?何かのゲームだろうか・・・

「とにかく急がないと、見つかったら・・・」

「どうなるんだい?」

「・・・っ!?」

顔を上げると、目の前に須郷が立っていた。

「・・・僕のPCで何をやっているのかな?」

「いえ、起動してあったモノですから・・・」

「下手な嘘はいらないよ。君の行動は監視カメラを通して僕に筒抜けだからね」

「・・・なるほど、最初から手の上で踊ってたんですね、わたしは」

「・・・まぁ、流石にここまで来るとは思わなかったけど・・・さて、どうしようか」

わたしはチラリとモニターを見る。・・・データも大体コピー出来た。

「・・・」

「このまま君の行方を消すことも出来るけど・・・自宅に閉じ込めて貰うのが一番かな?」

わたしは・・・思い切り書類の束を薙ぎ払った。

「・・・!」

一瞬だが須郷が怯み・・・その脇を一気に駆け抜ける。

「(抜いた・・・!)」

だが一瞬見えた須郷の顔は・・・・・・


「・・・!?」

・・・・・・笑っていた。


「・・・くっ!」

だが、止まる訳にはいかない。わたしはそのまま一気に走り、会社から出る。

「はっ・・・はっ・・・」

そして近くのトイレに駆け込み、個室に入る。

「・・・」

・・・自分の身体をを見下ろす。多少の膨らみ、お嬢様みたいな服、長い栗色の髪。・・・これがわたし。

「・・・ふぅ」

呼吸を整えて、上着とスカートを脱ぎ捨てる。そしてバッグからフード付きの黒いパーカーと紺のジーンズを取り出し、着替える。ヘアゴムを使って髪を一纏めに括り、最後にだて眼鏡を付ける。

「さてと・・・」

再び自分を見下ろす。大きめのパーカーで胸の膨らみは解りにくい、まるで都会にでもいそうな服装、慣れ親しんだ一纏めの髪に眼鏡・・・

「今からは・・・俺の番だ」

気持ちを切り替える。少しでも気が緩めば早貴に逆戻りだ。

「覚悟しやがれ、須郷・・・必ず、アスナを・・・!」

俺はバッグを背負い、走り出した・・・


 
 

 
後書き

「何か久々だな・・・」

早貴
「作者が書かなかったからな」

ごめんなさい。


「ま、次からは新しいゲームがスタートか・・・」

早貴
「俺はしばらく逃げなきゃだけどな・・・」


「それじゃ、次回もよろしく!」 

 

リンクスタート~

 
前書き
長くなっちゃった・・・あと超無理矢理展開・・・ではどうぞ! 

 
早貴~


・・・さて、着替えたのはいいとして、この後の行動を考えないとな・・・

「(リパルや詠の復元はまだ終わらないし・・・須郷のデータを見ようにもレクトが近いからな・・・)」

よし、まずは安全な場所まで逃げよう。あの時の須郷の顔はどうも気になる。・・・俺はトイレから出て小走りを始める。・・・全力で走らないのはまだ医者からは運動を止められてるし、自分でもすぐにバテるのが解ってるからだ。


「(電車に乗って・・・かなり離れた位置に行ってから・・・)」

「おい」

「!?」

ふと前を見ると、数人組みの男が俺を囲んでいた。

「・・・何かご用で?」


「あんた、結城 早貴か?」

「・・・人違いだよ。俺は・・・」

顔を逸らした方向にいた男と目が合う。


「送られた写真とそっくりだぜ!一応連れていって突き出そうぜ!」

「おう!なああんた、ちーっと付き合ってくれっか?俺らの小遣いの為にさぁ」

「間違ってたらそん時はそん時だなぁ」

「・・・!」

今の会話で、須郷が何かしたのは分かった。

「ほらほら、とっとと行こうぜ~?」

数は五人。突破するなら・・・コイツか。

「何だったら縛り上げ・・・げはっ!?」
全力で平手打ちを放つ。

「て、てめ・・・がはっ!?」

頭を掴み、膝を出して顔面に叩き込む。

「(・・・今だな!)」

囲みが外れ、俺はその隙間から逃げ出す。

「あ、待てこらぁ!」

「てめぇ、何女にやられてんだ!」

「あ、あいつ本当は男だろ・・・」


正解。・・・つーか不味い。さっき写メ撮られた。つまり、正体バレバレだと言うことだ。

「ひゅー・・・ひゅー・・・」

まだ少ししか走ってないのに呼吸が乱れる。・・・あーくそ!不便な身体だな!

「・・・ふっ!」

路地裏や人混みを利用して何とか逃げる。・・・いい加減体力がヤバイが。


「・・・!あそこの建物・・・!」

公共施設っぽい場所に入る。そこには大量の本が並んでいた。

「図書館・・・?」

何にせよ、落ち着くには好都合だ。・・・あ、そうだ。もしかしたら明日奈を何とかできるかもしれないし・・・本を漁ってみるか。

「(コンピュータ関連・・・かな?)」

いや、医療関係も拾ってみるか。そう思って本に手を伸ばしたら・・・

「「あ・・・」」


誰かの手と重なった。

「す、すみません」

「い、いえ、こちらこそ・・・」

相手の顔を見て・・・俺は驚いた。

「・・・あれ・・・サチ、さん・・・?」

「え・・・?どうして名前を・・・」

思わぬ再開。・・・一度わたしに戻してから席に座って話す。

「ええと・・・わたしはサキ・・・結城早貴って言います」


「あ、はい。私は・・・二ノ宮 紗智(にのみやさち)・・・って言います。あの、結城さんは私を知ってるんですか?」

「ええ、まあ。・・・あ、わたしの事は早貴って呼んで下さい」

「あ、じゃあ私も紗智で構いません」


「えと、それじゃあ紗智さん。その、わたしは亮・・・コウハからあなたのことを・・・」

そこまで言った時、紗智が首を傾げた。

「・・・あの、コウハって・・・?」

「・・・え?」

あれ・・・亮は確かに紗智と同じギルドにいたって・・・

「あの、本当に知らないんですか?二年近く前の話しなんですが・・・」

「・・・ごめんなさい。実は私・・・二年間ずっと眠っていたんです・・・交通事故にあって・・・」


「・・・事故・・・?」

「・・・部活の友達と帰っている時に・・・みんなまとめて轢かれたそうです。私だけが生き残って・・・二年間近く眠っていたってお母さんに聞かされて・・・」

「・・・あ・・・ご、ごめんなさい。嫌なこと思い出させてしまって・・・」

「(ふるふる)・・・いえ、大丈夫です」


わたしと紗智はしばらく他愛の無い話をする。そしてお互いに打ち解け始めた。
「紗智さんは医者を目指しているの?結構沢山、医療関係の本を持っているけど・・・」

「うん。私は死ぬかも知れなかったのに、奇跡的に助かった・・・だから、私も誰かを助けたいって思って・・・」

「そっか・・・」

「・・・ねぇ、早貴ちゃん」

「はい?」

「・・・二年前、私達が事故を起こした時・・・もう一つ事件があったんだよね」

「・・・!」

・・・きっと彼女の両親は嘘をついたんだ。どうやら紗智にはSAOにいた記憶がないようだし・・・多分それほどショックを受けたんだと解釈した親が嘘をつき・・・嘘に嘘を重ねて今に至ってるんだろう。

「早貴ちゃんは・・・その事件について知ってる?」

・・・わたしはゆっくりと紗智を見る。

「・・・覚悟は、ありますか?」

紗智は頷く。

「・・・最近、夢を見るんだ。誰かが私を呼ぶ夢・・・暗闇で逃げ続ける私に呼びかけてくれる声・・・でも、私はその人のことを知ってる筈なのに・・・誰だか解らない・・・」

・・・その気持ちは解る。わたし・・・俺もそうだから。わたしはノートPCを開き、色々操作して、一本のUSBを差し出す。

「これは・・・?」

「真実。もしあなたがわたしの知ってるサチさんなら・・・きっとコレが全てです」

中にあるのはSAOに関する全ての情報。


「だけど、今のままでいいならこれは見ないで。・・・真実を知るのは・・・時には最悪なことだから・・・」

「・・・ううん、覚悟は・・・できてるよ。ここで逃げたら・・・ケイタ達に笑われちゃうから。・・・ありがとう、早貴ちゃん」

「そんな、お礼を言われる程じゃ・・・むしろわたしは紗智さんに酷いことを思い出させようと・・・っ!?」

入口を見ると、さっきの男達が入ってきていた。・・・明らかに俺を探している。

「・・・ごめん、紗智さん。わたし、行かないと」

俺はバッグから紙とペンを取り出し、少し書いて紗智に渡す。

「これ、わたしの番号とメアド。・・・もし何か思い出したら連絡して」

「う、うん」

「じゃあ、また!」

俺は裏口から逃げ出す。体力は回復してる。ここで撒ければ・・・!



















亮~

家に帰ってきて、和人が先に自転車をしまいに行った時・・・

「うぐ、うぐ~~!」

・・・なんか妹が窒息しかけていた。

「おいおい」

和人が駆け寄って近くにあったパックジュースにストローを突き刺して口に突っ込む。

「ぷはっ!し・・・死ぬかと思った・・・」

「そそかっしい奴だなぁ。もっと落ち着いて食え」

「成長したなぁ、って思ってたのに・・・ドジなのは変わらないんだな」

「うう~」

どうやらチーズマフィンを食べてたようで・・・

「そうだ、スグ、昨日のことだけど・・・」

「あ、それ。結局直葉は兄貴に何言ったの?」

「べ、別に亮お兄ちゃんには関係ないでしょ!」

「・・・どうしよう兄貴。妹が反抗期だ」

「ああ、ショックだよな。いきなり隠し事とか」

「無駄に仲良すぎ!別に隠すことでもないけど・・・その、恥ずかしいっていうか・・・」

「なるほど。例えば兄貴に抱きついたとかか?いい子いい子、みたいな」

「・・・」

「・・・(ボッ)」

「兄貴、目を逸らさないで。直葉、顔を赤くしないで。ごめん、正解だなんて思わなかった」

「・・・もう、亮お兄ちゃんは変なとこで鋭いなぁ」

「と思ったら鈍かったりな」


「兄妹で板挟みデスカ」

「・・・くくっ」

三人で笑う。・・・やっぱり家族っていいな・・・



「・・・ああ、遅れたけど、スグ・・・昨日はサンキューな」

「え・・・」

「スグのお陰で元気出たよ。俺、諦めない。絶対にアスナを助け出してみせる」

「・・・」

「(・・・ん?)」

一瞬だが直葉の表情が・・・気のせいかな。

「うん・・・がんばってね。あたしもアスナさんに会ってみたいもん」


「あはは、直葉ならすぐ仲良くなれるよ」



「ああ。・・・亮」

和人の目を見て頷く。

「さてと、部屋に戻るかな。また後でな」

俺は自室に入り、エギルから貰ったゲーム・・・《アルヴヘイム・オンライン》を取り出す。・・・本来のゲーマーなら事前情報で効率のよい戦闘方とかサブイベントとか調べるんだろうが・・・そんな余裕はない」

「・・・まさか、また被る羽目になるなんて」

棚で埃を被ってたナーヴギアを取り出し、ケーブルを繋ぎ、ゲームカードをスロットに入れてそれを被る。

「(準備完了っ・・・と)」

ベットに横たわり、あの言葉を口にした。

「・・・リンク・スタート!」

目を閉じ、すぐに光が消える。それから感覚が消えたり戻ったりしながら、全ての神経の接続を完了する。

「(・・・そろそろ・・・)」

暗闇の中を落下するような感覚。現れた虹色の光の中にあるリングを潜ると、俺は半回転して着地する。

「これがALOのアカウント登録か・・・」

取りあえずキャラを作ろう。IDとパスワードはSAOでも使ってた慣れたものを流用。・・・基本的なタイプのゲームは課金方法の選択があるが、ALOには1ヶ月の無料プレイ期間があるらしい。キャラクターネームは・・・

「コウハのままでいいよな・・・」

素早く“Kouha”と打つ。・・・茅場の一件で、プレイヤー達の個人情報は一切公表されていない。まあ、大人の事情って奴だ。ただALOに“コウハ”を知ってる奴はいないだろうし、和人の“キリト”と違って誰かがそっくりな名前をつけるかもしれない。それにこの名前なら和人と向こうで合流しやすいだろう。

「・・・っと、次は・・・」

キャラクターの作成、といってもどうやらALOはSAOと違い、容姿は完全ランダムなようだ。変えたきゃ課金しろって訳だ。ここで俺が選択するのは種族だ。まずは適当に流し見る。

「サラマンダー、シルフ、ノーム、ウンディーネ・・・ここらはお約束だな」

残りは・・・あまり聞かない種族だ。・・・どうせプレイするなら変わったのがいい。

「トレジャーハントと幻惑に優れたスプリガン・・・真っ黒で兄貴が好きそうな色だ。楽器演奏と歌唱に優れたプーカ・・・戦闘向きじゃないなぁ、ムードは良くなりそうだけど」


どんどん見ていこうっと。

「武器生産と細工に秀でたレプラコーン・・・似合いそうなのが知り合いにいるね。暗中飛行と暗視に長けたインプ・・・これ、俺向きかな?次が・・・テイミングと敏捷に長けた猫妖精ケットシー・・・猫、か」

取りあえず最終候補はインプかケットシーだ。

「うーん・・・」

出来れば和人と種族のダブりは避けたい。PK推奨とはいえ、和人と争う事はないし、別々の種族なら手札は増えるし・・・となると今の和人が勢いで選びそうな黒いスプリガンとインプは却下・・・つまり。

「ケットシー・・・だな。・・・ははっ」

思わず笑う。

「猫好きの恋人。壊滅させてしまった月夜の黒猫団・・・どんだけ猫に縁があるんだか」


全ての設定が終わり、人工音声が種族のホームタウンに飛ばすと言ってきた。そして身体は再び落下を始める。

「二ヶ月ぶりだな・・・」

目の前に迫る街・・・だが、不意に・・・全ての景色がフリーズした。ポリゴンがかけていく。

「な、なんだぁ!?」

さっきよりも早く暗闇に落下していく。

「くっそぉぉぉ!ホント落下に縁あるなちくしょおおぉぉぉ・・・!!」

俺の声がむなしく響いた・・・





























































早貴~

「・・・まいったな」

携帯端末にて大型情報サイトのスレの一つにこんなのがあった。

“この女を捕まえたら賞金だってよwww”


そこに張られていたのは・・・わたしの・・・結城 早貴の写真。


“新情報、どうやら服を変えてるらしい。ソースはこれ”

・・・更に今の服装まで張られている。

“マジ?ここ家の近くじゃん。捜してみよっかなw”

“女の子と鬼ごっことか何かの番組じゃね?”


“テレビでれんじゃんwやろうぜやろうぜwww”

「・・・不味いな」

ホント、ネットはやばい。こういったアホな奴がいるし・・・多分、須郷が情報を広めたんだろう。取りあえずこの辺りから・・・

「あ!そこの君!」

「・・・!」

話しかけて来たのは・・・警察官だ。何かと俺を見比べているようだが・・・

「・・・うん。君、結城 早貴さんだね?捜索願いが出されているから、ちょっと来てくれるかな?」

「ーーーーー!」

捜索願い・・・って母さんか!?いや、今の服装で即バレってことは母さん・・・もしくは須郷・・・?何より捕まる訳にはいかない。連れていかれ、須郷の元なら終わり。母さんの元なら説教の後に家に軟禁・・・どのみち終りだ。

「さ、こっちにおいで」

「・・・ごめんなさい」

俺はそう言って、足元の砂を蹴りあげた。

「な、ぐあっ!?」

「ここで捕まる訳には行かないんだ・・・!」

「ま、待ちなさい!誰か、誰かーーー!」

路地裏に逃げていく。・・・くそっ、チンピラだけじゃなく警察にまで・・・極悪犯になった気分だな・・・!



















































亮~


「わぁぁぁぁ・・・あだぁっ!?」

長い長い落下のあと、顔面から地面に落下した。・・・新しい世界で不時着って、今回が初じゃなかろうか。

「とと、ここは・・・」

辺りを見渡すと夜の森だった。そりゃもう迷いそうな程。本物みたいな手触り、獣や鳥の鳴き声。植物の香り・・・

「・・・また来たんだな。仮想世界に・・・」

・・・俺はちょっとさっきのバグに恐怖を覚えながら、SAOと逆手の・・・左手を振ってメニューを出す。


「あるよな・・・あるよな・・・?」

俺が探しているもの・・・ログアウトの表示はすぐに見つかった。

「ほっ・・・」



取りあえず地図を見ないと・・・そう思った時、スキル欄に目が行った。

「なぁ・・・!?」

そこにはスキル名が沢山ある。・・・いくらなんでも初期スキルにしては多すぎる。詳細を見ると・・・全て見覚えのあるスキルだ。

「これ・・・SAOと同じスキル・・・?じゃあここはSAOなのか・・・まさか・・・」

そう言いながら立ち上がった時、違和感があった。

「んあ?」

なんかかさばるというか・・・

ぴょこん

「・・・」

頭に手を乗せる。何か二つ柔らかい何かがある。髪を伝う、腰まである。その腰から・・・尻尾が生えていた。


「な・・・な・・・」

更に力が入ったら・・・翅まで出てきた。

「か、髪長ぁ!?猫耳!?尻尾!?翅ぇ!?」

いかん、ランダムとは聞いたがここまで容姿って変わるのか。てか耳と尻尾にまで感覚があるなんて・・・

「ロン毛ってレベルじゃないね・・・どこぞのテイルズ主人公かよ」

とにかくマップマップ・・・

「・・・うわっ!?」

いきなり目の前が光り・・・武器が飛び出してきた。

「これ・・・擬音に葬解に迷切・・・なんで・・・」

更に葬解が輝き・・・光が収まった時に、一人の少女が立っていた。

「・・・亞莎!?」

「う・・・あ、りょ、亮・・・さん・・・?」

「そりゃ疑問系だよね、この姿じゃ・・・」

「あ、あの!私、一体・・・それにそのお姿は・・・あ!茅場さんは・・・!」

「お、落ち着け!今説明してあげるから!」


俺は亞莎に説明する。あれから無事現実に帰れたこと。それから二ヶ月経ったこと。未帰還者のこと、このゲームのこと・・・全て。

「・・・なるほど、そうですか」

「流石軍師どの。もう状況把握か?」

「内心混乱していますよ・・・あれ?」

「亞莎?」

「ちょっと待ってください・・・これは・・・」


「どうしたんだ?」

「いえ、どうやらこの世界では私に役割があるみたいです」

「役割?」

「はい・・・」


すると亞莎が光だし・・・目の前から消えた。

「え、あ、亞莎!?」

「ここですよ~」

下を見ると、亞莎はめちゃくちゃちっちゃくなってた。ファンタジーな衣装に翅に・・・正に妖精だ。

「どうやら私はアルヴヘイム・オンラインのプレイヤーサポート用の擬似人格プログラム・・・“ナビゲーション・ピクシー”というのと同じプログラムで構成されていました。しかもリパルさんみたいな補助が可能です」

「へぇ・・・!」

「また、どうやらこの世界はSAOとほぼ同じプログラムが使われているみたいです。亮さんの武器や私が出てこれたのはそのお陰みたいですね」

なるほど。つまりSAOのセーブデータを違法的に引き継いじゃった訳だ。

「どれどれ・・・うわっ、文字化けしてる」

「それらはエラー検出プログラムに引っ掛かりそうですから、全て破棄した方がいいですよ」

「なるほどね。スキルはどうしよう・・・」

「確認されなければ平気だと思います。GMも暇ではないと思いますし・・・」

「そうか・・・よし。まずは何より街を目指そう。なんでこんな場所に落ちたんだか・・・」

「混線でもしたんですかね」

「あー、ありえる」

和人とほぼ同時にやったから・・・あり得ない話じゃない。

「んで、翅で空を飛ぶと・・・」

「コントローラを使いますか?」

「いや・・・」

前に咲に聞いた話だと・・・翅を筋肉の延長線と思って・・・

「・・・はぁっ!」

思い切り力を入れた瞬間、視点が一点した。

「うーーーわぁぁぁぁぁぁ!?」

空中で切り揉み回転。

「りょ、亮さん!?大丈夫ですか!?」

「あ・・・あはは・・・ビックリしたぁ・・・」

亞莎が俺の肩に座る。

「力を抜いてください。ゆっくり、泳ぐように・・・」

「・・・すぅぅ・・・」

・・・今度はちゃんと真っ直ぐ飛べた。


「うっわぁ・・・!飛んでる・・・!はは、俺飛んでるんだ・・・」

「嬉しそうですね、亮さん」

「こうやって翅で飛ぶのは夢だったからね・・・咲が羨ましくて羨ましくて」

「ふふ・・・あ・・・亮さん、向こうでプレイヤーの反応です。追われてるようですが・・・」

「・・・よし、野次馬に行こう。どっちかに場所を聞かなきゃな」

「向こうの方です。行きましょう!」

「ああ!しっかり捕まってろよ!」

さーて・・・新しいゲームのスタートだ! 
 

 
後書き

「指名手配犯かお前は」

早貴
「うるさい。・・・ちなみに紗智さんの名前の由来は?」

“二ノ宮”はサチ好きの友人の頼みにより、友人の名字をお借りしました。紗智については・・・その、適当なんです。


「はぁ!?」

最初はシンプルに“幸”で行こうかと思ったら見辛くて・・・そこで色々やって紗智になりました。完全に僕の趣味になってます。


「サチファンに怒られろ・・・んでケットシーは?」

これも悩みました。色ならサラマンダー。シナリオならキリトと同じスプリガン。暗殺者ならインプ。・・・と候補は沢山・・・ケットシーにしたのはやっぱりヒロインが猫好きだからかなと」

早貴
「俺の種族は?」

もう決めてあります。登場は大分後になるかもしれませんが。


「ふーん・・・」

ほかにも何かありましたらどうぞご自由にお聞きください。

早貴
「それじゃ、次回もよろしく」

 

 

行動開始~

 
前書き
っしょい!テスト終わったぁ!てなわけで反動でか書きすぎたような・・・ではどうぞ! 

 
早貴~

「・・・はぁ・・・はぁ・・・」

胸を押さえて呼吸を整える。・・・アレからもずっと追われ続け、今は裏路地に身を潜めている。

「須郷のデータを見る余裕もないな・・・はぁ・・・」

どうやって電車に乗って遠くに行こうか。・・・こうなったら一か八か・・・行くか。


「いきなり遭遇は勘弁な・・・」

左右を確認・・・OK。俺は小走りで駅に向かう。








































「・・・わお」

見事に駅前に溜まっている集団。・・・参ったな、警察も呼べないし・・・だったら。

「・・・」

落ちていた空き缶を拾い、入り口の右側によって・・・思い切り空き缶を投げる。

カコン!

『!?』

全員が音がした方に気を取られる。俺はその間に走り抜ける。

「あ・・・ま、待ちやがれ!」

・・・今だけは女の身体に感謝だ。細い身体は人並みをすいすい縫うように進める。・・・だが背後の男たちは構わずに人を突き飛ばしながら走ってくる。

「やりたい放題だな・・・!」

目の前に改札が迫る。俺はパスを通し、タイムロスを防ぐために改札口が開く前に飛び越える。


『・・・番線に・・・行きの列車が・・・』


聞こえるアナウンス。・・・ナイスタイミングだ。俺は電車に駆け込む。・・・外は既に日が傾いていた。

「一日中とか・・・逃○中もビックリだ」

電車が動き出し、一息つく。・・・と、その時、電車内にいた男が携帯を見た後、辺りを見渡し始めた。

「(おい・・・まさか・・・)」

俺は咄嗟に身体を伏せ、乗客に紛れ込む。男はしばらく見渡したあと、別の車両に向かって歩き出した。

「勘弁してよ・・・少しは休ませろって・・・」

どうせ戻ってくるだろうし・・・俺は反対側の車両まで急ぐ。

「(早く・・・早く・・・!)」

こうなったら次の駅で降りるしかない。・・・そう思った時、視界にさっきの男が写った。

「(やべ・・・!)」

電車が停止を始める。あと・・・あと少し・・・

「・・・!」

・・・男と目が合った。すると男はまっすぐにこちらに向かってきた。そして俺を掴もうと手を伸ばした時・・・扉が開き、俺は人の波に流された。


「(あ、危な・・・)」


俺は駅を出ようとするが・・・また怪しい集団がたむろっていた。

「いくらなんでも・・・全力過ぎませんかねぇ・・・」

きっと前の駅で撒いた奴らが連絡でもしたのだろう。・・・だけど、止まるわけにはいかない。俺は全力で走り出す。

「ん・・・?おい、来たぞ!」


一人が気づいて周りに向かって叫ぶ・・・が、余所見をしたのが運の尽きだ。俺はショルダーバッグを手に持ち、思い切り・・・振り抜いた。

ガキャアッ!

「ごあっ!?」

そのまま間を抜ける。・・・今日だけで人の間を走り抜けるのは何度目だろうか。


「待てコルァ!」

「ナメてんじゃねえぞ!」


「チッ・・・」


また路地裏で撒くか・・・そう思って俺は路地裏に逃げ込み、曲がろうとした瞬間・・・

ゴン!

「(・・・え・・・)」

後頭部に衝撃。視界が揺れ・・・そのまま倒れ込む。

「な・・・あ・・・」

倒れたと同時に金属音。視線を動かすと・・・金属バットが転がっていた。

「・・・ストラーイク」

「お前凄ぇじゃん。綺麗に後頭部に当てるとかよ」

男たちが集まってくる。逃げようにも頭が揺れて立ち上がれない。一人の男が俺を掴み、立たせる。

「やっと捕まえたぜ・・・手間かけさせやがっ、て!」

バキィ!

頬を殴られ、再び地面に倒れる。

「逃げれねぇようにしてやる」

そう言って男は金属バットを・・・思い切り俺の右足に振り下ろした。

「ぎーーーーあぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」

激痛。だが男たちは止まらない。

「よう、さっきはやってくれた、な!」

ドスッ!

「ごふっ・・・ぅぇ・・・」

鳩尾を蹴られ・・・顔も蹴り飛ばされる。

「う・・・ぐ・・・」

「ちょっとやり過ぎじゃね?」

「あん?別に平気だろ。人間って地味に頑丈だしな」

「この際だし、この嬢ちゃんには世間の恐さを教えてやるか」



「・・・げほ・・・ぅ・・・」

身体が・・・動かない。このままじゃ・・・・・・



「あ、あんた達何してんのよ!」

「(え・・・?)」

女性の声・・・

「お、お巡りさん!こっちです!」

「やべぇ、逃げるぞ!」

「女は!?」

「放っとけ!」

蜘蛛の子を散らすように逃げ・・・誰かが近付いてくる。

「大丈夫ですか!?」

俺は・・・両手で身体を起こす。

「今・・・警察が・・・逃げないと・・・」

「それは嘘よ。偶然通りかかって・・・咄嗟にああ言って・・・」

俺は顔を上げ、相手の顔を見る。・・・あれ?この顔・・・

「あれ?何処かで・・・」

この声・・・顔立ち・・・髪色は違うけど、もしかして・・・

「リズ・・・リズベット・・・?」

「え・・・もしかして、サキ・・・?」

「どうして・・・うっ・・・」

立ち上がろうとして・・・視界が歪んだ。

「(あ・・・これ、ダメだ・・・)」

力が入らず、身体から感覚が消え・・・意識を手放した・・・




























































































亮~


「~~~♪」

「楽しそうですね」

「まあね。ある意味違うけど、自力で飛んだ訳だし・・・にしても、兄貴にも負けないくらい真っ黒だなあ」

いわゆる黒猫だ。・・・何か皮肉を感じる。

「亞莎、反応は?・・・と、いや・・・見えた」

「え・・・まだ距離がありますが・・・」

「ケットシーはどうやら視力がいいみたいでね。こっからでもバッチリだ」


「あ、そう言えば明命も目がよかったですね」

「ああ。アイツはよく城壁の見張りや斥候やったりしてたしね。・・・猫好きだと目がいいのかな?」

「それはないと思いますが・・・」

亞莎が苦笑いを浮かべる。

「・・・しかしまあ、一人を三人がかりか。ゲーム的には不利な方を助けるのがセオリーだよな」

「ふふ、そうかもしれませんね」

遠くで一人の方が一撃を貰い、落下していく。・・・いや、自分から降りてるのか、あれは。

「亞莎、飛ばすぜ!」

「どうぞ!」



俺はスピードを上げ、どんどん近付いて・・・三人のプレイヤーを追い抜き、翅を広げて地面に着地する。・・・思ったより難しいな、着地。

「な、なんだ!?」

三人の方は全身真っ赤な装備・・・サラマンダーだ。

「な、なんなの・・・?」

一方背後にいたのは金髪の少女で・・・この装備は色的にシルフかな?まあ、色は変えれるけど・・・

「・・・どうも、弱気者の味方です。初めまして、サラマンダーの皆さん?」

腰に差してある擬音を握り締める。

「さて、さっそく・・・っ!?」

・・・不意打ちだった。いきなり誰かが森の中から吹っ飛んできて・・・俺を巻き込んで草村の中に突っ込んだ。

「っつー・・・」

「うう、いてて・・・着地がミソだなこれは・・・」

「あのなぁ、着地できないで突っ込んだのかアンタは・・・」

「はは、悪い悪い。よっ」

突っ込んできたのは全身真っ黒な男。翅の色は灰色。・・・スプリガン?

「コウハさん、平気ですか?」

「ああ、何とかな」

ポケットから顔を出した亞莎を見るとスプリガンの男が目を丸くする。

「あれ、君は・・・」

「アーちゃん!それにお兄ちゃんです!」

「へ?」

男のポケットからピクシーが顔を出す。・・・って、その顔と呼び方・・・

「え・・・ユイ・・・?じゃあ・・・」

「まさか・・・」

俺達はお互いを指差す。

「和人か!?」

「亮か!?」

なんたる偶然。まさかこんなに早く合流するとは・・・

「おら!さっさと出てこい!」

サラマンダーの声が聞こえる。俺達は一度お互いを見て、頷く。そして草むらから出て、再びシルフとサラマンダーの間に入る。

「な・・・何してるの!早く逃げて!!」

どうやら俺達の防具などで初心者と判断したのか、シルフの少女が叫ぶ。だが俺達は軽く笑っていた。

「重戦士三人で女の子一人を襲うのはちょっとカッコよくないなぁ」

「なんだとテメエ!!」

「ダメじゃないか、本当のこと言っちゃあさあ」

「んだとぉ!?」

「上等だ・・・ニュービーだろうと容赦しねぇ、狩ってやる!」

サラマンダーのランス持ち二人が構える。

「さて、このゲームってPKアリだよね?」

「ああ、そうだったな」

「じゃ、担当は一人一体だね。よろしく、“キリト”」

「こちらこそ、“コウハ”」


擬音を引き抜き、構える。くくりつけられた鈴がチリン、と鳴る。久々にアレを言うか。

「鈴の音は・・・黄泉路を誘う道しるべと思え!」

「ほざけ!」

ランスを構え、相手は突進してくる。

「・・・遅いぜ」

それを身を捻ってかわし・・・そのまま擬音をがら空きのボディに向かって振り抜く。

「斬っ!!」

ズシャアッ!

一撃でHPを削りきり、サラマンダーは赤い炎に包まれる。見るとキリトも一撃で終わらしたようだ。


「・・・手応えないなぁ」

「(亮さん・・・何時もより太刀筋が鋭いような・・・)」

そりゃ、死人が出ないなら剣も真っ直ぐ振れるさ。俺とキリトは剣を残ったサラマンダーに向ける。

「んじゃ、お約束の問いかけだね」

「どうする?あんたも戦う?」

サラマンダーが苦笑した気がする。

「いや、勝てないな、やめておくよ。アイテムを置いてけというなら従う。もうちょっとで魔法スキルが900なんだ、死亡罰則(デスペナルティ)が惜しい」

「正直な人だな」

キリトが笑う。俺は背後を見る。

「シルフさんはどうする?あの人とやりたいなら止めないけど・・・」

「あたしもいいわ。今度はきっちり勝つわよ、サラマンダーさん」

「正直君ともタイマンで勝てる気はしないけどな」

サラマンダーはそう言って飛び去っていく。残っていた赤い炎も消え、シルフはこっちを見る。

「・・・で、あたしはどうすればいいのかしら。お礼を言えばいいの?逃げればいいの?それとも戦う?」

キリトは剣を左右に切り払ってから背中の鞘にしまう。俺も擬音を軽く回してから腰に納める。

「うーん、俺的には正義の騎士が悪漢からお姫様を助けたっていう場面なんだけどな」

「・・・登場の仕方的には主人公を助けに来た脇役二人・・・だけどね」

「そうか?お姫様が涙ながらに抱きついてくる・・・とかお約束じゃないか?」

アソコまでダサい登場して(しかも巻き込まれた)感動するお姫様って変わりもんだろ・・・

「さっきから何バカみたいなこと言ってるのよ!」

「ははは、冗談冗談」

「俺的にはもう少し悪のりしてもよかったんだけどね」


「この・・・!」
「十分悪のりが過ぎますよ、コウハさん」

「そうです!それにハパにくっついていいのはアーちゃんや詠お姉ちゃん達を入れたわたしの家族だけです!」


「ぱ、ぱぱぁ!?」

亞莎とユイを見てシルフが驚く。・・・キリトがアタフタとするが・・・

「ねえ、それってプライベート・ピクシーってやつ?」

「へ?」

「あれでしょ、プレオープンの催促キャンペーンで抽選配布されたっていう・・・へぇー、初めて見るなぁ」

俺は咄嗟にそれに便乗する。

「そうそう。昔アカウント取ってて・・・偶然手に入ってさ。んで、最近始めたんだよ。今まで他のやってたからさ。だから装備もまだしょっぱいし・・・」

「へぇー」

シルフはそう返してから俺らを見る。

「・・・それにしても、ケットシーは隣領だから分かるとして、なんでスプリガンがうろうろしてるのよ。領地はずうっと東じゃない」

「み、道に迷って・・・」

「迷ったぁ!?」

項垂れたキリトを見てシルフは笑う。

「まあ、ともかくお礼を言うわ。助けてくれてありがとう。あたしはリーファっていうの」

「・・・俺はキリトだ。この子はユイ。それでこっちが・・・」

「コウハだよ。コイツは亞莎」

ユイと亞莎は頭をペコリと下げる。・・・そしてシルフ・・・リーファがお礼に一杯奢ると言い出した。俺とキリトは情報が欲しかったのでそれに乗り・・・シルフ領の首都“スイルベーン”に向かうことになった。・・・んで、キリトにもコントローラなし・・・随意飛行のやり方を教える。・・・ちなみにキリトはロケットになりました。



































「・・・酷いよリーファ・・・」

「あはは、ごめんごめん」

「いやー、最高に笑ったよ」

リーファの後ろを飛びながら、リーファに聞こえないように話す。

「兄貴、もしかしてバグみたいなの起きてフィールドに落下しなかったか?」

「ん?ああ・・・もしかしてコウハもか?」

「うん。・・・じゃあ兄貴と混線したのかな」

「そうかな・・・まぁ、そうだろうけど。それより・・・亞莎、何だよな」

「はい、そうです」

「・・・やっぱり人間じゃなかったのか?ユイと同じ人の心を持った・・・」


「・・・この世界では同じ扱いでいいでしょう」

「この世界って・・・やっぱり茅場が話してたのは・・・」

「・・・それについてはリアルで話そっか。リーファに聞かせる必要もないしね。・・・ユイのことも後で聞かせてよ」

「二人とも何を話してるの?」

「いや、なんでも」

俺達はその後に競争するように高速で空を飛ぶ。すると明るい光点と塔が見えてきた。

「お、見えてきたな!」

「真ん中の塔の根本に着陸するわよ!・・・って・・・」

リーファの表情が固まった。

「キリトくん、コウハくん・・・ランディングのやりかた解る・・・?」

「・・・俺はさっきので何となく・・・」

俺とリーファはキリトを見る。すでに顔は強ばっていた。

「・・・解りません・・・」

「えーと・・・」

もう塔との距離はあまりない。

「ごめん、もう遅いや。幸運を祈るよ」

「・・・グッドラック」

そう言って俺とリーファは翅を広げて制動をかけながら降下していく。

「そ・・・そんなばかなああぁぁぁーーーーーー」


ビターーン!!

派手な音を聞きながら俺は地面を滑りながら着地する。

「・・・とと、あと一、二回やれば慣れるかな」



数秒後に潰された虫みたいにキリトが落ちてくる。

「うっうっ、ひどいよリーファ・・・飛行恐怖症になるよ」

「くく・・・はははは・・・」

「笑うなよぉ。大体コウハも知ってたなら教えてくれよ!」

「・・・そう言えば君たちって知り合い?仲いいけど・・・」

・・・別に話しても平気かな。

「ああ、キリトと俺はリアルじゃ兄弟なんだよ、こっちが兄貴で俺が弟」

リーファが目を見開く。

「へぇ・・・兄弟なのにバラバラな種族を選んだんだね」

「まあね・・・」

「・・・てかキリト、HP平気か?」

「え・・・うわっ、大分削れたなぁ」

「じゃあ回復(ヒール)してあげるから」


リーファがそう言って何かの単語を呟くと青い雫がキリトに降りかかり、HPが回復する。

「お、すごい。これが魔法か」

「高位の治癒魔法はウンディーネじゃないとなかなか使えないんだけどね。必須スペルだから君達も覚えたほうがいいよ」

「ええと、ケットシーはテイムとか・・・身体強化もあったな」

「そう。視力を強くしたりとか足を速くしたりとか・・・」

「スプリガンは?」

「トレジャーハント関連と幻惑魔法かな。どっちも戦闘に不向きなんで不人気種族ナンバーワンなんだよね」

「うへ、やっぱり下調べは大事だな」

「ていうか説明文出てたような・・・」

「え、マジ?」

「マジ」

「・・・お、おお!ここがシルフの街かぁ。綺麗なところだなぁ!」

「(話逸らしたな・・・)」

「でしょ!」

そう言いながら街を歩くと・・・誰かやって来た。

「リーファちゃん!無事だったの!」

シルフの少年が手を降りながら近づいてくる。


「あ、レコン。うん、どうにかねー」


「すごいや、アレだけの人数から逃げ延びるなんてさすがリーファちゃん・・・って・・・」

レコンと呼ばれたシルフが俺を見てからキリトを見ると唖然とする。

「ケットシーと・・・スプリガンじゃないか!?なんで・・・!?」

後で聞いたのだが、リーファ曰く、ケットシーとシルフは代々仲が良いのだとか。その内同盟も組むとかなんとか・・・ちなみに逆にシルフとサラマンダーは仲がよろしくないらしい。


「あ、いいのよレコン。この人達が助けてくれたの」

「へっ・・・」

リーファがレコンを指差し、言う。

「こいつはレコン。あたしの仲間なんだけど、キミ達と出会うちょっと前にサラマンダーにやられちゃったんだ」

「そりゃすまなかったな。よろしく、俺はキリトだ」

「ええと、こいつの弟のコウハだよ」

「あっ、どもども・・・・・・いやそうじゃなくて!」

忙しい子だな。

「だいじょぶなのリーファちゃん!?スパイとかじゃないの!?」

キリトをずっと警戒しているレコン。

「(俺、スパイよりヤバイ事の副隊長だけどね・・・)」

「(あはは・・・)」

亞莎が苦笑する。

「あたしも最初は疑ったんだけどね。スパイにしてはちょっと天然ボケ入りすぎてるしね」

「あっ、ひでぇ!」

「はっはっは。兄貴はどっか抜けてるしねぇ」


「うっわ、酷い挟み撃ちだ・・・」


俺達が笑っているとレコンが咳払いする。

「リーファちゃん、シグルドたちは先に《水仙館》で席取ってるから、分配はそこでやろうって」

「あ、そっか。うーん・・・」


リーファはしばらく悩んだ後・・・

「あたし、今日の分配はいいわ。スキルに合ったアイテムもなかったしね。あんたに預けるから四人で分けて」

「へ・・・リーファちゃんは来ないの?」

「うん。お礼にキリト君達に一杯おごる約束してるんだ」

「・・・・・・」

レコンが俺たちを警戒しながら見る。・・・ははーん。

「なるほどな。大丈夫だよ少年君、そういった心配はないからさ」

「え・・・」

「レコンはリーファのこと・・・まあ、これ以上言うと背後から斬り捨てられかねないから、言わないけどね」

「・・・」

「コウハ君、今何を言おうとしたの?」

「いや?べっつにー」

「?・・・まあいいや。次の狩りが決まったらメールしといて。行けそうだったら参加するからさ、じゃあ、おつかれ!」

「あ、リーファちゃん」

ささっとトレードを済ませてリーファは歩き出す。俺はレコンとリーファを見て軽く笑ってから後を追った・・・









































早貴~

「っ・・・」

鈍い痛みで目が覚めた。辺りを見渡しても見覚えがない。自宅でもなければ病院でもないし、謎の実験室という訳でもなさそうだ。・・・その時だった。

「あ、目が覚めたわね」

「あ・・・」

そうだ・・・俺は・・・わたしは囲まれて・・・

「ええと・・・リズ・・・だよね?」

「ん?そうよ。まあ、こっちでその名前を呼ぶ奴はいないけど」

「ご、ごめん。・・・えっと・・・本名は?」

「別に謝るようなことじゃ・・・まいっか。里香よ、篠崎
里香。アンタとあたしの仲だし、普通に里香でいいわよ」

「うん、わかった。わたしは・・・まあ本名も早貴だけどね・・・一応フルネームで結城 早貴だよ。改めてよろしく、里香」

里香はわたしを見る。

「取りあえず、出来る限りの治療はしてあげたから。服もあたしのを適当に着せたけど・・・サイズ平気?」


・・・ほんとだ。服装が変わってる。サイズは・・・胸廻りが若干余ってるというか・・・なんというか・・・

「・・・ってこんなことしてる場合じゃない!行かないと・・・つっ・・・!?」
ベットから降りた瞬間激痛。里香が慌ててわたしを支える。

「ちょ、無茶しないの!早貴、警察沙汰はダメだったようだし、病院に連れてってないんだから!しばらく安静よ!」

「そういう訳には・・・いかないわよ・・・」

「・・・一体何があったのよ・・・」

「・・・」

わたしは話す。明日奈のこと、須郷のこと、追われている理由を・・・

「・・・何よ、それ」

里香の声が震えていた。

「そんなの・・・最低よ・・・!早貴にこんな怪我させてアスナを・・・」

「里香・・・だから行かないと。わたしがここにいたら里香も危ないよ」

「あのねぇ、あたしが友達を見捨てる程の女に見える?」

「そういう問題じゃないのよ。もし捕まったら里香も何をされるか・・・」

「じゃあ早貴が何をされるか分かったもんじゃないわよ。・・・今、丁度親もいないし、ここを隠れ家に使いなさい」

「・・・」

「いい?あんたは一人じゃないんだから、少しは頼りなさい。・・・これでも少しだけ早貴よりお姉さんなんだしね」



「里香・・・ありがとう・・・ありがとう・・・!」


あの時と逆・・・わたしが里香に泣き付き、里香がわたしを慰めてくれた。しばらくして・・・

「里香・・・わたしのバッグは?」

「あるわよ。これでしょ?」

「うん」

里香から受け取り、PCを起動させる。・・・正直動くか不安だったが、その心配はなさそうだ。USBを差し込み、須郷のデータを漁るが・・・あまり入っていない。どうやらここまで須郷に読まれていたようだ。

「・・・ALO・・・なに、これ」

「ああ、それ?最近流行ってるらしいのよ。SAO並だとか・・・」

「・・・ふーん・・・」

・・・待てよ?IDオベイロン・・・わたしはネットでALOについて調べる。

「“最初に世界樹に辿り着き、妖精王オベイロンと謁見したものがアルフと・・・”・・・はっ」

わたしは笑う。

「何がオベイロンよ・・・ふざけないで、須郷・・・伸之・・・!」

更に誰かが上げたスクリーンショットを見た時・・・衝撃だった。

「これ・・・お姉ちゃん!?」

「え!?どれよ!?」

里香も覗き込む。・・・見間違える筈がない。あれは・・・明日奈だ。・・・どうやら、やることは決まったようだ。

「里香・・・お願いがあるんだけど・・・」

わたしは・・・行くしかない・・・









 
 

 
後書き
亮←ケットシー状態「うっわ・・・」

早貴
「・・・女・・・っぽくはないかな・・・ユーリ・ローウェルみたいだな」


「まあいいけどね・・・尻尾と耳まであるし・・・」

早貴
「明命がいなくてよかったな」


「いたら・・・やばいだろうね」

早貴
「ははは・・・それじゃ、次回もよろしく」

 

 

世界樹へ~

 
前書き
うう、更新が遅い・・・就職ってこんなに大変なのか・・・とと、ではどうぞ。 

 
俺達はリーファに着いていって街中を歩いていく。

「さっきの子は、リーファの彼氏?」

「コイビトさんなんですか?」

「はぁ!?」

・・・親子が切り込むとリーファが慌てて転びそうになる。

「ち、違うわよ!パーティーメンバーよ、単なる」

「でもまあ、仲はいいよね」

「リアルでも知り合いって言うか、学校の同級生なの。でもそれだけよ」

「ふーん。知り合いが同じゲームにいるって・・・どんな感じ?」

「・・・うーん・・・気が楽な時もあるけど、宿題とか思い出したりしてプラマイ0なんだよね」

「・・・なるほどね」

さっきから通りかかるシルフはキリトを見るなり目を見開くが、リーファと俺を見て怪訝そうにしながら去っていく。・・・よく見たら少数だけどケットシーがいる。商売だろうか?

「ついたよ」

リーファが建物の中に入る。どうやら時間帯的にはまだ混んでないようだ。

「さ、ここはあたしが持つから何でも自由に頼んでね」

「じゃあお言葉に甘えて・・・」

「あ、でも今あんまり食べるとログアウトしてから辛いわよ」

・・・そうそう。本来ならそうなのだ。仮想空間で得た満腹感はログアウトしてもしばらく消えないらしい。それで衰弱死だのなんだので事件も多いらしい。

「俺はこの木の実のタルトにしようかな・・・」

「わたしはチーズクッキーが食べたいです」

「俺、チーズケーキがいいな。亞莎・・・は・・・」

「・・・!」

「・・・ごま団子で」

注文し、香草ワインも頼んで俺達は乾杯する。

「改めて、助けてくれてありがと」

「いやまあ、成り行きだったし・・・それにしても、えらい好戦的な連中だったな」

「シルフとサラマンダーが仲悪いのは知ってるけど・・・何か事情が?」

俺が聞くとリーファは考え込む。

「もともと狩り場とかで領が隣だからよく出くわしてたけど、集団PKが出るようになったのは最近だよ。きっと・・・近いうちに世界樹攻略を狙ってるんじゃないかな・・・」

「それだ、その世界樹について教えてほしいんだ」


リーファが言うには、世界樹への到達は全プレイヤーのグランドクエストであるそうだ。最初に妖精王オベイロンに謁見した種族は“アルフ”に生まれ変わり、滞空制限なしに自由に飛び回れる・・・らしい。ただ、内部から侵入するのだが、ここにはガーディアンがいて、これがかなりの強さらしい。システムの改善を求めても運営は知らんぷり・・・お決まりの返しが来たそうだ。

「じゃあ、何か難易度が下がるキークエストを見落としている、もしくは・・・単一の種族じゃ絶対に攻略できない」

キリトが言うとリーファは笑う。

「へぇ、いいカンしてるじゃない。クエスト見落としのほうは、躍起になって検証中だけどね。後の方は・・・絶対に無理」

「無理?」

「兄貴、考えても見なよ。最初に到達した種族だけなのに、わざわざ協力しあうと思う?・・・何時の時代だってそんな理由で争いは起こるんだね・・・」

あの戦い・・・自らが世界を統一する乱世・・・誇りと力がぶつかりあう世界・・・

「・・・じゃあ、世界樹を登るのは・・・不可能ってことなのか・・・」

「あたしはそう思う。まあ、楽しみ方は人それぞれだし・・・でも諦めきれないよね・・・たとえ何年かかっても、きっと・・・」

「それじゃ遅すぎるんだ!」

不意にキリトが叫んだ。その形相には様々な感情が浮かんでいる。

「パパ・・・」

「兄貴、落ち着いて」

キリトの身体から力が抜けた。

「・・・驚かせて、ごめん。けど俺、どうしても世界樹に行かなきゃいけないんだ・・・」

「なんで、そこまで・・・?」

「人を・・・探してるんだ」

「ど、どういうこと?」

「簡単には説明できない・・・」

キリトはリーファにお礼を言って別れようとしたが、リーファはアルンまでの道案内を申し出てくれた。リーファにお礼をいい、明日も来ると約束する。そしてリーファはログアウトし、後には俺らだけになる。

「・・・なんか巻き込んじゃったかな」

「いいんじゃない?リーファも親切で言ってくれてるんだし。ただ惚れられないようにね」

「は?なんだよ、まるで俺が普段から・・・」

「その手の言い訳はいいです。なあ亞莎?」

「・・・(もぐもぐ)」



「・・・」

「・・・(もぐもぐ)」

・・・あの、すみません。隣で一心不乱に身の丈ほどのごま団子を目を輝かせながら食べてる妖精がいるんですけど・・・

「・・・亞、莎?」
軽く指先で頭を叩くと、亞莎はハッとなって慌てる。

「あ、あの、これは・・・!じ、自分の体と同じ大きさのごま団子を見て・・・その・・・嬉しくて・・・ちょ、ちょっと夢でしたし・・・(ごにょごにょ)」

「・・・」

もはや中毒の部類なのではなかろうか。・・・まぁ、可愛いっちゃ可愛いんだが。

「アーちゃんはごま団子が好きなんですか?」

「あ、はい。・・・以前亮さんが買ってきてくれて、それから・・・」

「はは・・・懐かしいね・・・」

亞莎も初めは俺を避けてたしなぁ・・・


「・・・」

・・・思い出したら明命には刀を抜かれかけるし、蓮華には怪訝な目で見られるわ思春には殺気ぶつけられるわ・・・散々だったなぁ。

「・・・んん・・・」

今の関係が嘘みたいだ・・・

「亮さん?」

「あ・・・な、何でもないよ」

チーズケーキの最後の一切れを食べる。

「じゃ、俺は部屋に行くよ」

「ああ、また向こうでな」


「ユイ、またね」

「はい・・・また明日です、お兄ちゃん」



宿の一室に入ると、亞莎が元の姿に戻る。

「・・・ふぅ、満足です・・・」

「おいおい・・・」

俺はベットに腰かける。

「・・・って、亞莎はここに残らなきゃいけないのか・・・」

「ええ、まあ、亮さんの携帯端末に移動したりもできますが・・・」

「それは前任者がいるな・・・」

「あはは・・・でも、きっとユイちゃんも残るでしょうし、一緒にいます」

「あ、そっか・・・ユイもリアルに来れないもんな・・・」

・・・何かのゲームであったように、現実に仮想の身体を作り、それに精神を乗っけたりとか出来たらいいのに・・・

「やっぱ、人間の進歩はゆっくりだねぇ」

「私達からしたら驚きの連続なのですが・・・」

「・・・なんかよく分かんないね。三國行ったりファンタジーな世界行ったり死後の世界行ったり未来行ったり・・・」



「・・・」

「まるで根なし草だ。恋姫の世界で根を張り続けたいけどね・・・」

「・・・あの、亮さん」

「ん?」

「その・・・聞きたいのですが・・・明命と、その、交わったんですよね・・・」

「ごふっ・・・!・・・い、いいいいきなり何を!?」

思わずむせてしまう。いや、だって・・・ねぇ?

「あ、あの、別に深い意味ではなくて、そのただ・・・」

亞莎が飛び付いてくる。

「ちょ・・・亞莎!?」

「ご、ごめんなさい・・・けど、私は・・・もっと亮さんと側にいたいんです。亮さんが危険な目にあってる時、私はいつもそこにいなくて・・・思春さんや明命だって・・・」

「・・・いつか遠くに行くんじゃないか・・・って?」

「・・・はい。だから、明命が羨ましいです。誰よりも亮さんを感じたから・・・側にいるから・・・」

「・・・でも、今は亞莎が側にいる」

「・・・!」

「今は誰よりも亞莎が支えてくれている。・・・それに、みんなを連れて帰ればみんなが側にいる。距離の差なんてない・・・」

「・・・亮さん・・・」

亞莎が離れる。

「すみません・・・やっぱり、寂しいのかもしれませんね・・・あはは・・・」

「・・・うん、ごめん。亞莎が何時も俺の心配をしてくれてたのは知ってたのに・・・」

「・・・大丈夫です。さあ、行ってください」


「ああ、また戻ってくるよ」

俺はそう言って横になる。・・・リーファに聞いたのだが、無条件ですぐにログアウトできるのは種族のテリトリー内で、それ以外では脱け殻が数分間放置されるそうな。だからテリトリー外ではテント系アイテムを使ったり宿屋を使ったりしなければいけない。そしてこちらはキリト情報だが、ログアウトした時に、五感のギャップがあると大変らしい。立ったままから寝た状態の場合、目眩がしたり・・・飛行系ゲームで墜落したりするともうヤバイそうだ。そこで理想的なログアウトが“寝落ち”だそうで、俺はそれを試すべく眠りにつく。

「では、また明日・・・」

亞莎の声が聞こえながら・・・意識を暗闇に放り込んだ・・・

























































































早貴~

「・・・買ってきたわよ」

「うん、ありがとう。お金足りた?」

「充分にね。あんたどんだけ金持ってんのよ・・・」

「ふふ・・・その分色々面倒だけどね・・・いたた」

右足に痛みが走る。後頭部にも鈍い痛みがあるし、口の中も切ってるようだ。

「さて・・・と」

里香に買ってきてもらったアミュスフィアを取り出し、ケーブルとパソコンを繋ぐ。

「詠とリパルのデータを移植して・・・ALOは・・・うん、やっぱり基本的なシステム構造がSAOと同じだ・・・だったら詠たちのシステム変更はいらなくて・・・」

「はぁー・・・早貴って頭いいのねぇ。あたしには何が何だか・・・」


「そう?・・・まぁ、これしか取り柄ないしね・・・」

「・・・何か暗くない?」

「家じゃもっと暗いよ?・・・素のわたしを見たら二度見するんじゃないかしら?」

「そこまで?・・・まったくイメージできないわ」


「(・・・ていうか自分でもどれが自分だか分からなくなってるけどね・・・)」


データのインストールを完了させる。

「・・・なんだかノートPCのわりに性能高くない?」

「え?ああ、これは和人さん・・・じゃない、キリトに作ってもらったの」

「キリトに?」

「・・・元からネットを漁る気でいたし、どうせなら持ち運びできる方がいいしね。あ、ルータも持ち歩いてるよ」

「ふーん・・・」

「さて、と・・・じゃあ、行ってみますか・・・」

「うん、気をつけなさいよ?」

「こっちの台詞よ。・・・もし奴らが来たら・・・迷わずわたしを差し出して」

「・・・ちょっと、それはさっき・・・」

「反論は聞かない。・・・お願い、本当に・・・里香までアイツの手にかかるなんて、わたしは耐えられない・・・だから・・・」

「・・・ま、考えとくわ」

「・・・里香・・・!」

「ようはチンピラとか来たら差し出せって言うんでしょ?分かったわよ」

「うん・・・お願い」

わたしはカードを入れてアミュスフィアを被る。

「よし・・・・・」

「まあ、怪しいセールスとかは普通に追い返していいんでしょ?」

「は?・・・そうだね・・・なんで聞くの?」

「何でもないわよ」


ベットに横たわり、目を閉じる。

「行ってくるね。・・・リンク・スタート!」

意識がずれる感覚の中、里香が何かを言った気がした。

「・・・ま、チンピラとセールスの区別は勝手にするからね(ボソッ)」





















































亮~



俺はログアウトしてから和人と話し合う。

「なるほどね、SAOとALOは構造プログラムがほぼ同じ・・・だからユイも復活できた」

「・・・で、お前は外史っていう世界を回ってる・・・ってか?」

「さすがに信じられないよね・・・」

「・・・いや、亞莎を見ればある程度理解はできるし・・・茅場も言ってたしな」

「はは・・・そうだったね」



「しっかし・・・そうなると本当に漫画みたいだなぁ」

「実際漫画みたいだけどね・・・巡った世界的にも・・・」

「・・・じゃあさ、俺達のこの世界も何らかの形で正史ってのにあるのか?」

「え?あぁ・・・多分ね。・・・ただまぁ、よく覚えてないけど・・・」


「ふーん、気になるな。・・・あ、そろそろ晩飯の支度するか?」

「そだね。今日は何作ろっかなー」

「和洋中ってやってみるか?」

「あ、面白そう。そんでついでにカロリー多めにして直葉を狼狽えさせてやろう」

「ははは、直葉に聞かれたら怒られるぜ?」

「怒って見せましょうか?」

「「・・・」」

俺はフリーズする。

「ええと、直葉さん・・・何時からそこに?」

「二人が晩御飯の相談をしてるとこからだけど・・・亮お兄ちゃん?」

「・・・はい」

うん、外史の話しは聞こえなかったのか・・・じゃなくて、やばい。

「・・・あたしがカロリーとか気にしてるの知ってるでしょーー!?」

「うわ、ごめん!ごめんってば!つーか別に直葉は太ってる訳じゃないんだから少しくらい・・・」

「その油断で人は太るの!それに最近体重増えてきて・・・!亮お兄ちゃんの悪魔!鬼!」

「いや、それは多分違う部分が成長・・・じゃなくて落ち着けって!兄貴も止めてーーー!」


「ははは・・・」


直葉を宥めるのに大分時間がかかり・・・今度デザートを奢ることで許してもらった。・・・それこそ太るんじゃないかと思うが・・・ま、いいや。結構直葉のデザート食べてる時の顔も見物だし。・・・さてさて、そして翌日になって約束の時間に再度ログインする。


「・・・ふぅ」

何となく髪と耳を触る。・・・うん、慣れた。まあ、この世界での身体だし、愛着を持たないとね。あの世界と同じで俺も一領民な訳だし。

「・・・と、来たか」

キリトが実体化し、リーファも店に入ってくる。

「よっ、コウハ。リーファも早いね」

「ううん、さっき来たとこ。ちょっと買い物してたの」

「あ、そうか。俺も色々準備しないとな」

「まず装備だよね・・・」

俺は武器はいいとしてまず防具だ。

「そうだね。キミたち、お金ある?なければ貸しておくけど」

キリトがメニューを開き・・・固まった。


「・・・このユルドっていう単位がそう?」

「そうだよー。・・・ない?」

「い、いや、ある。結構ある」

「・・・?・・・!?」

俺も気になって自分のを見たら・・・なんかもう、やばいくらい桁が並んでた。・・・え?これもSAOから引き継いでんの?もう強くてニューゲームってレベルじゃないぞ?


「・・・と、亞莎、いるか?」

声をかけると、胸ポケットから亞莎が顔を出す。

「・・・おはようございます、コウハさん」

「うん、おはよう。・・・もう昼過ぎだけど」

地味にゲーム内とリアルで時間差があるんだよなあ・・・
さてさて、防具はあっさりと決まったが・・・キリトが時間をかけ、大分武器で悩んだ末に身の丈ほどの大剣を選んだ。


「コウハさん、似合いますよ」

「そう?この姿に紅いコートが合うか心配だったんだけど・・・」

もはや何猫かわからんね。

「そんな剣振れるのぉー?」

「問題ない」

さてと、装備も整えて俺達はこの街のシンボルである塔に向かう・・・途中、キリトが渋い顔をする。

「出発する前に少しブレーキングの練習しとく?」

「・・・いいよ。今後は安全運転することにしたから」

「その言葉がフラグじゃなきゃいいけどね」

ちなみに塔から出発する理由は高度が稼げるかららしい。そして塔に入り、エレベーターに乗ろうとした瞬間・・・複数のプレイヤーに進路を塞がれた。・・・なんだ?

「・・・こんにちは、シグルド」

・・・そう言えばレコンがシグルドがどうとか言ってたような・・・

「パーティーから抜ける気なのか、リーファ」

「うん・・・まあね。貯金もだいぶできたし、しばらくのんびりしようと思って」

「勝手だな。残りのメンバーが迷惑するとは思わないのか」

「ちょっ・・・勝手・・・!?」

何も知らない状態じゃシグルドの方が正論に聞こえるが、リーファの反応を見るに、どうやら相当こいつは理不尽なことを言ってるようだ。

「お前はオレのパーティーの一員として既に名が通っている。そのお前が理由もなく抜けて他のパーティーに入ったりすれば、こちらの顔に泥が塗られることになる」

「・・・・・・」

・・・確定。こいつ、人間的に嫌な奴だ。・・・やだなぁ、こういった人間は・・・

「仲間はアイテムじゃないぜ」


「え・・・?」

キリトだ。キリトはリーファとシグルドの間に割って入る。

「なんだと・・・?」


「他のプレイヤーを、あんたの大事な剣や鎧みたいに、装備欄にロックしとくことはできないって言ったのさ」

「きッ・・・貴様ッ・・・!!」

「おっとと、落ち着いて」

俺はそう声をかける。

「なんだ貴様、このスプリガンの知り合いか」

「知り合いってか兄弟ですね。まあ、兄貴がド直球ですみません」

「ふん、このような葛スプリガンの兄がいるとは、ケットシーの品も落ちたものだな」

「・・・お言葉ですが、ケットシーを纏めて一括りというのは極論では?」

「別に問題あるまい。ケットシーはその通り猫かぶりの可能性が高いからな、安易に想像がつく」



・・・チッ。

「・・・だから一括りに決めつけんなって言ってるだろ」

「なに・・・!」

「俺には嫌いなことがあってね。その一つに誇りを傷つけることってのがあるんだよ」

「コウハくん・・・?」

「でさ、俺の経験上じゃあ他人の誇りとか嘲笑える奴って人としての品格がない気がするんだ」

「貴様・・・何が言いたい?」

「は?まだ分からないか?・・・じゃあ単刀直入に・・・アンタが人間として屑ってことさ」

「・・・!!」

・・・やばい、口が止まらなかった。・・・これ、怒るよなぁ、絶対。


「・・・貴様ァ・・・!そうか・・・貴様ら、領地を追放された《レネゲイド》だな!?」

レネゲイド・・・確か領地を捨てたり追放されたものの呼称か。・・・追放とかなにも、一度も領地に行ったことないんだが・・・とにかく、その後は売り言葉に買い言葉。リーファがヒートアップして領地を出るとまで言い出した。シグルドが完全にキレて剣を抜いたが・・・部下達に止められてそのまま去っていく。

「・・・ごめん、リーファ!最初は場を納めようとしたんだけど、ついアイツの言葉にカチンと・・・」

「ううん、気にしないで」

「こっちも悪い・・・火に油注ぐような真似しちゃって・・・いいのか?領地を捨てるって・・・」

「あー・・・」

リーファは言い淀み、俺達の背中を押して塔を上がっていく。そして広がる景色は・・・凄かった。
「広いなぁ・・・まるで・・・」

「呉にいるみたいですね・・・」

「ああ、城壁からの景色は最高だったよな・・・」

ふとリーファとキリトの会話が耳に入った。

「・・・でも、なんだか喧嘩別れみたいな形にさせちゃって・・・」

「あの様子じゃ、どっちにしろ穏便には抜けられなかったよ。ーーーなんで・・・」

リーファが呟く。

「なんで、ああやって縛ったり縛られたりしたがるのかな・・・せっかく、翅があるのにね・・・」

「フクザツですね、人間は」

ユイがそう答えた。

「ヒトを求める心を、あんな風にややこしく表現する心理は理解できません」

「求める・・・?」

「他者の心を求める衝動が人間の基本的な行動原理だとわたしは理解しています。ゆえにそれはわたしのベースメントでもあるのですが、わたしなら・・・」

ユイはキリトの肩に乗り、頬にキスをする。

「こうします。とてもシンプルで明確です」

「・・・ユイ・・・」

「でも、そんなに真っ直ぐ表現できないのが人間ですよね・・・」

亞莎がそう呟く。・・・俺も今でこそ亞莎やみんなに真っ直ぐ好意を伝えられるけど・・・その時、レコンが走ってやってきた。

「ひ、ひどいよ、一声かけてから出発してもいいじゃない」

「ごめーん、忘れてた」

レコンががくりと肩を落とす。

「リーファちゃん、パーティー抜けたんだって?」

「ん・・・その場の勢い半分だけどね。あんたはどうするの?」

「決まってるじゃない、この剣はリーファちゃんだけに捧げてるんだから・・・」

「えー、別にいらない」

「(うっわぁ・・・)」

似た言葉を言ってる自分としては、拒否されたら辛いと思う。・・・てな訳でレコンはまだ気になることがあるらしく、しばらく調査を続けるらしい。余計なことを言いかけたレコンをリーファが黙らせ、リーファは飛ぶ。・・・レコン、どんまい。そして俺達は空を飛び・・・アルンへと向かっていく・・・ 
 

 
後書き
早貴
「あー・・・ったく・・・頭痛い・・・」


「それはどっちの意味で?」

早貴
「物理的に」


「オッケー、把握」

早貴
「ていうかさ、今回俺の被害ひどくね?」


「・・・一応今までよりはダメージ少ないけど」

早貴
「まあ、斬られると殴られるじゃ違うけどよ・・・」


「さて、俺って“らしい”って言いすぎな気がするな・・・ま、いいか。それじゃ、次回もよろしく」 

 

合流~

 
前書き
連休でもないのに風邪惹くとか・・・だれだ、バカは風邪ひかないなんて言ったの(笑)ではどうぞ。 

 
アスナ~

・・・わたしは今、狭い檻に閉じ込められている。現在の状況を簡単に説明すればそういう表現が一番だと思う。

「キリトくん・・・早貴・・・」

ただ、長い間ここに閉じ込められていて、分かったこともある。わたしを閉じ込めているのは妖精王オベイロン・・・須郷伸之だということ。彼の目的はフルダイブシステムによる人の精神操作。

「・・・」


今、リアルではわたしを含め一部のプレイヤーが目を覚まさないらしい。それも須郷が実験のためにその精神を閉じ込めた。わたし以外の人たちがどうなっているか・・・想像するのも恐怖を覚える。


「(・・・更に)」

須郷は結城家の養子となり、レクトを乗っ取る気だ。だけど・・・悪いことばかりじゃない。須郷はわたしの心を折るつもりだったのだろうが・・・結果的にキリトくんや早貴たちは無事に現実に帰れているのがわかった。・・・そして、また今日も・・・

「やぁ、ティターニア」

「・・・」

無言で須郷を睨む。だが、須郷は上機嫌だ。

「・・・随分と機嫌がいいのね」


「ん?ああ、紹介しようか。こっちに来たまえ」

そう言った須郷の背後から一人の少女が現れた。

「・・・お初にお目にかかります、ティターニア様」

「・・・?」

「彼女の名前は・・・そう、ロビン・グッドフェローと言うべきかな・・・」

「NPCか何かなの?また・・・」

「くっくっく・・・」

「?何が可笑しいの?」

「彼女は人間だよ、れっきとしたね」

「・・・まさか・・・!」

「そう。僕の実験の記念すべき第一号だ。ご覧の通り、実験は成功。彼女は僕に忠実な部下となったんだよ」

「そんな・・・酷い・・・」

見れば少女の目に力はなく、表情も無表情のままだ。

「さてと、残念ながら今日はこれから用事があるのでね。今回は彼女の紹介に来たという訳だ。それじゃあ」


少女・・・ロビンは頭を下げて振り返る。・・・見ると腰に曲刀がある。

「(あれ?どこかで・・・)」

チリン、と曲刀に巻き付けられた鈴が鳴って・・・

「(あ・・・!)」

コウハ・・・亮くんから聞いたことがある。自分と似ている武器を使ってて・・・そうだ、聞いていた特徴と一致している部分も・・・

「待って!」

ロビンがこちらを見る。

「あなた、コウハ・・・ううん、亮って名前に聞き覚えある!?」


「コウハ?・・・亮?・・・・・・っ、うぅ・・・!!」

ロビンが頭を抱えてうずくまってしまう。

「・・・どうやら調整が甘かったようだな。ほら、こっちに来い」

「待って!待ちなさい!・・・須郷!」

だが須郷はロビンを引っ張っていってしまう。・・・そんな・・・まさか亮くんが探していていた人まで・・・・・・このままじゃわたしも・・・





































亮~


「てぇぇりゃぁあああ!!」

勢いよく突っ込んでモンスターを切り裂く。

「(やばい、空中戦楽しい)」

さっきから俺とキリトがズバズバ倒していく。リーファはキリトや俺が漏らした相手を魔法で止めを刺している。・・・ただまぁ、やたらキリトが被弾しまくるので色々メンドイが。

「兄貴・・・少しは避けなよ。リーファが大変だろ?」

「確かに・・・普通はコウハくんみたいに避けることを意識しながらヒットアンドアウェイを繰り返すんだけど・・・」

「兄貴のはヒットアンドヒットだよなぁ・・・」

「その分早く片付いていいじゃないか」

「あのなぁ、さっきから弱体化系や毒とかの状態異常くらいまくってるだろ?もしこれが攻撃魔法だったら・・・」

「狙い撃ちの全弾命中でもれなくワンキルだね」

「・・・魔法ってのは回避できないのか?」



リーファの説明では種類があり、威力重視の直線軌道の奴は避けられるが、ホーミングや範囲魔法は無理だそうだ。しかし・・・

「リーファって何か武術やってる?」

「え?なんで?」

「いや、さっき少しだけ剣を使っただろ?そん時・・・太刀筋が綺麗だったんだよね」

「へぇ、コウハくんってそういうのがわかるの?」

「あはは、まぁ色々とね」

今までに数えきれないくらい剣を交えてきた。太刀筋を見ればある程度実力がわかる。


「一応剣道やってるんだよ。こうみえても中々強いんだから」

「そうなんだ。そりゃ太刀筋が綺麗な訳だ」


そんな雑談を交わしながら、休憩をするために着陸する。


「ふふ、疲れた?」

「いや、まだまだ!」

「右に同じく」

「お、頑張るわね。・・・と言いたいとこだけど、空の旅はしばらくお預けよ」

「ありゃ、なんで?」

「見えるでしょう、あの山」

「・・・もしかして、あれより高く飛べないのか?」

「正解。山越えには洞窟を抜けないといけないの。・・・それで大分長いらしいんだけど・・・二人とも、今日はまだ時間だいじょぶ?」

キリトがウィンドウを出したので俺も覗き込む。

「リアルだと夜七時か。俺は当分平気だよ」

「こっちもね。ガンガンいけるよ」


「そう、じゃあここで一回ローテアウトしよっか」

「ろ、ろーて?」

「・・・それ、なに?」

「ああ、交代でログアウト休憩することだよ。中立地帯だから、即落ちできないの。だからかわりばんこに落ちて、残った人が空っぽのアバターを守るのよ」


「なるほど、了解。リーファからどうぞ」

「じゃあ、お言葉に甘えて。二十分ほどよろしく!」

リーファがメニューを操作すると、目を閉じて方膝をついた。

「・・・ふぅ、久々のダイブは変な感じだよね」

「そうだな。・・・けど、俺にとっては“戻ってきた”って感じもするな」

「・・・そうかもね。もしSAOがなかったらクラインやシリカ達に会えなかったし、兄貴だってアスナやユイと出会わなかった」

「私も亮さんに会えなかったかもしれませんし」

「・・・わたしはパパやみんなに会えてよかったです」

「・・・なんか、色々むず痒い話に為りそうだな・・・なあ、亮。お前、魔法のスキル上げってやってる?」

「え、うん。・・・と言っても初期の奴と何となく目に入った奴だけだけど・・・和人は?」

「俺は初期魔法だけ・・・ケットシーってどんなのがあるんだ」

「えーと、足早くしたり爪生やしたり・・・ああ、今ならスライム相当ならテイムできるね」

「スライム相当って・・・いらないんじゃないか?」

「いやぁ、最近のスライムって侮れないよ?大分昔にスライムが主人公張ったりしたからね」

「ああ・・・」

そんなどうでもいい会話を繰り返して時間を潰す。

「・・・じゃあ亮もログアウトしろよ。そろそろリーファも帰ってくるだろうし」

「あ、そう?じゃあ悪いね。お先!」

俺はウィンドウを操作してログアウトする。

「・・・ふぅ」

ナーヴギアを外し、首を回す。


「(やることは汗を流すのと何か腹に入れること・・・っと)」

俺は服を引っ張りだし、下に降りる。

「あれ?ベーグルサンド・・・」

誰かが食べた食器・・・直葉かな?

ガチャ

「ん・・・なっ!?」

「へ・・・!?」

俺は驚いた。いやだって、いきなり直葉が風呂場から出てきたんだもん。・・・・・・タオル一枚で。

「りょ、亮お兄ちゃん・・・」

「や・・・やぁ・・・」

「・・・き」

「(・・・あ、終わった)」


「きゃあああああ!!」

バチーーーン!!























・・・・・・


「・・・ごめん、亮お兄ちゃん・・・」

「まぁ、うん・・・気にしないでよ」

俺は着替えてきた直葉と椅子に座っている。・・・頬が痛い。ちなみに往復されてます。


「一応、声をかけたんだけど・・・寝てると思ったから・・・」

「いや、気にしないでよ。・・・まぁ、兄妹とはいえ・・・風呂上がり見ちゃったわけだし・・・手も出るって」

「・・・」

「・・・」

「(き・・・気まずい・・・!!)」

やばい、久々だぞこの空気・・・

「あ・・・あはは、にしてもごめんな。晩飯作らなかった上に直葉に作ってもらっちゃって・・・」

「あ・・・ううん・・・あんまり大した物じゃないし・・・」

「そ、そっか・・・うん・・・」

「・・・」

「・・・」

「(・・・だぁぁぁぁぁぁ、もぉぉぉ!!)」


「・・・ねぇ、亮お兄ちゃん」


「な、なに?」

「・・・・・・あたしのこと、恨んでる?」

「・・・え?」

「・・・だって、だってあたしのせいで亮お兄ちゃんは目を・・・剣道を・・・」

「・・・」

「お兄ちゃん達が目を覚ました時・・・少し怖かった。二年間ずっと・・・一人で考えてたから・・・亮お兄ちゃんがあたしのこと・・・恨んでるんじゃないかって・・・」

・・・そっか。今こうやって俺を叩いて落ち込んでるのも、勝負した時に動きが止まったのも・・・俺にそう思われてるって思ってたのか・・・


「・・・恨んでる」

「・・・!!」

「・・・なんて言う訳ないだろ。第一、なんで直葉を恨む必要があるんだよ」

「だって・・・!あたしのせいで亮お兄ちゃんは剣道を止めちゃって・・・っ!?」

俺は直葉の頭に手を置く。

「だから、んなことぐらいじゃ恨む程じゃない。あんなのただの事故だ。俺の運が悪かっただけなんだからな」

「・・・そんな、簡単に割り切れないよ・・・」

「・・・俺としてはお前に恨まれてるんじゃないかって思ったけどね(ボソッ)」


「え・・・?」

「何でもないよ。・・・とにかく、この話しは終わり。今が良ければそれでいいんだしさ」

「・・・うん」

直葉が立ち上がる。

「じゃあ・・・お休み」

「ん。・・・また明日な」

一人になって静まり帰ったキッチンで直葉が作ってくれたベーグルサンドを食べる。

「(・・・俺が恨んでる・・・か)」

・・・まさか、直葉にそう思われてたなんてな・・・

「はぁ・・・ヒューとアス兄より厄介だよ・・・」

食べ終わり、食器を片付けてシャワーを浴びて二階に上がった時・・・和人が部屋から出てきた。

「あ、リーファ帰ってきたの?」

「ああ、さっきな。亮は戻るのか?」

「うん。あ、直葉がベーグルサンド作ってくれてたよ」

「わかった。じゃあ後でな」


部屋に入り、ナーヴギアを被る。そして・・・


「・・・」

「コウハくん、お帰り」

「ああ、ただいま・・・何か話してたのか?」


「はい、お兄ちゃん。わたしとパパについてです」

「それと、“好き”という言葉についても・・・」

「わーーーー!!」

リーファが顔を赤くする。

「・・・あー、ガールズトークの邪魔しちゃったか?」

「ううん、むしろ助かったかも・・・この子達ホントにプライベート・ピクシーなのかな・・・」

「あはは・・・」


なんて時、キリトが立ち上がる。

「早いな、キリト」

「そうだね、ごはんとか大丈夫なの?」

「うん、家族が作り置きしといてくれたから」

「・・・?」

俺は何となく違和感を感じて背後を振り返る。

「コウハさん?どうかしましたか?」

「いや・・・亞莎、近くに誰かいる?」

「・・・・・・いえ、プレイヤー反応は私たち三人だけです」

「そうか・・・亞莎は何か感じないか?」

「・・・すみません、この世界ではモンスターの反応も混ざってしまって・・・」

「・・・わかった」

「・・・コウハも感じたのか?」

「キリトも?・・・ま、気のせいならいいんだけど・・・」

この世界じゃそういった感知はできない筈なんだけど・・・長年の癖かな?

「もしかしたらトレーサーが付いてるのかも・・・」

「そりゃ何だい?」

「追跡魔法よ。大概ちっちゃい使い魔の姿で、術者に対象の位置を教えるの」

「それは便利だね。解除は?」

「こんなフィールドじゃ見つからないだろうし・・・無理かも」

「じゃ、進むしかないか」

そのまま飛び、洞窟に入る。わりと広く、戦う分にも幅の心配はいらないようだ。そこでキリトが聞く。

「・・・この洞窟、名前はあるの?」

「《ルグルー回廊》って言うのよ、確か。ルグルーってのが鉱山年の名前」

「ふうん。・・・そういえば昔の、とあるファンタジー映画にこんな展開が・・・」

「それ、俺とみた奴だよね。・・・ええと」

「・・・あたしも知ってるわよ。でかい悪魔に襲われるんでしょ。あいにくだけどここに悪魔型モンスターは出ませんから」

「そりゃ残念」

そのまま進むと一気に暗くなる。

「うへー・・・咸掛法が使えりゃな・・・」

「もしくは松明ですよね・・・」

するとリーファがキリトに使える魔法を尋ねる。キリトはユイに教わりながら術を唱えると・・・俺達に暗視能力が追加される。

「おお、見やすい」

「わあ、これは便利ね。スプリガンも捨てたもんじゃないわね」


「あ、その言われ方なんか傷つく」

「まぁまぁ、元々戦闘向きじゃない種族選んだの兄貴なんだし、使える魔法があるだけよしとしようよ」

「全然フォローになってないぞ・・・」


そのまま進み、数時間が経過する。モンスター自体はユイや亞莎の警告で強襲はないし、三人がかりならまず手間取らない。ちなみにキリトはずっと魔法を使うのに必要なスペルワードを練習している。俺?・・・まぁ、詠唱なら慣れてるので差し支えはない。・・・その時だった。

「パパ、接近する反応があります」

「モンスターか?」
「いえ・・・プレイヤーです。多いです・・・十二人」

「じゅうに・・・!?」

リーファが絶句する。・・・ということはその人数は普通ではあり得ないのだろう。

「ちょっとヤな予感がするの。隠れてやり過ごそう」

「どこに?身を隠せそうな場所は・・・」

「ま、そこはオマカセよん」


リーファは俺たちを壁際に寄せ、詠唱する。すると緑の空気の渦が巻き起こり、身を包んだ。

「喋るときは最低のボリュームでね。あんまり大きい声出すと魔法が解けちゃうから」

「了解。・・・シルフも便利な魔法があるんだね」

「あと二分ほどで視界に入ります」

俺達は岩肌に身体を押し付ける。

「・・・ん?」

遠くで何か見えた。俺は二人に聞く。

「おい、アレなんだ?」

「え、どれ?」

「・・・?・・・見えた。あの小さいコウモリのことか?」

「!?」

「ああ、アレって・・・ってリーファ!?」

リーファが飛び出し、素早く詠唱を開始する。

「お、おい、どうしたんだよ」

詠唱を完了させ、緑の針を乱射しながらリーファが答える。

「あれは高位魔法のトレーシング・サーチャーよ!!潰さないと!!」

コウモリが串刺しになり、消える。

「街まで走るよ、二人とも!!」


「もしかして、潰したのもバレるのか!?」

「そうよ!きっとこの辺でもう一度サーチャーを使う筈・・・それに、さっきのは火属性の使い魔なの」

「じゃあ、今来てるパーティーは・・・」

「サラマンダーか!」

キリトがそう言って顔をしかめる。俺達は全力で走り出す。


・・・ちなみに、洞窟内・・・というか光がない場所では空を飛ぶことができない。シルフが本来アルンに行く際には俺が選んだ種族・・・ケットシーがテイムした騎乗動物を使うらしいが、遠回りになってしまう為にわざわざこちらのルートを選んでくれたのだ。・・・と、目の前に巨大な地底湖が見えた。


「お、湖だ」

そしてルグルーへと通じる一本橋に入る。

「どうやら逃げ切れそうだな」

「油断して落っこちないでよ。水中に大型のモンスターがいるから」

「うわ、それは怖いな」

短いやり取りを交わしながら走り続ける。・・・その時だ。頭上を光が通過していき、目の前に着弾する。すると巨大な土の壁がせりあがり、行く手を封じられた。

「やばっ・・・」

「な・・・」

「ちっ・・・」

俺とキリトはスピードを緩めずに武器を構え、壁に叩きつける。

「あ・・・だめ!」

ガキャァン!

俺達は弾き返され、尻餅をつく。

「・・・ムダよ」

「もっと早く言ってくれ・・・」

「コウハさん、この壁は物理耐性があって、魔法でなければ破壊できません。しかし・・・」

「そんな余裕はない・・・か」

振り返るともうサラマンダー達は橋のたもとにいた。

「飛ぶのは無理・・・湖に飛び込むのはアリ?」

リーファは首を横に振る。

「ナシ。さっきも言ったけど、ここには水竜がたモンスターが住んでるらしいわ。ウンディーネの援護なしに水中戦するのは自殺行為よ」

「じゃあ戦うしかないわけか」

「それしかない・・・んだけど・・・サラマンダーがこんな高位の土魔法を使えるってことは余程の手練れが混ざってるんだわ・・・」


俺は再び擬音を構える。するとキリトが・・・

「君の腕を信用してないわけじゃないんだけど・・・ここはサポートに回ってくれないか?」

「え?」


「俺の後ろで回復役に徹してほしいんだ。その方が俺も思いきり戦えるし・・・」

リーファは頷く。・・・大剣を使ってる以上、人がいれば邪魔になる。

「コウハも・・・」

「キリト、俺は視界にいれなくていいよ」

ぽかんとした後、キリトはニヤリと笑う。


「・・・避けきれるか?」

それに俺もニヤっとしながら返す。

「余裕だよ」

俺は一気に駆け出す。三人のサラマンダーが前に出る。

「ハァ!」

ランスとぶつかり、すぐに身を翻して蹴りを放つ。

「・・・っ!」

右手で地面を弾き、右のサラマンダーにドロップキックを放つ。そして相手の身体を利用してバック転をする。地面が視界に入ると、黒い影が疾走し・・・唸りをあげながら大剣を横薙ぎに払う。

「(決まったか・・・?)」

だがサラマンダーは慌てず・・・三人とも巨大な盾を構えた。

ガァァ・・・ン!

「「・・・!」」

威力を完全に殺され、サラマンダーのHPは僅かに減るが・・・すぐに背後から回復魔法を使われ、回復する。

「くそ!」

着地してすぐに駆け出す。狙いどこは脇だ・・・そう思い横に向かった時・・・目の前から火の玉が迫ってきた。

「なに・・・!」

この体制で良ければ、手前のサラマンダーに一撃を貰ってしまう・・・俺は武器を前に出し、防ぐ。

ドォォン!!

「うぁぁ!?」

「コウハ!・・・ぐぁ!?」

キリトも飛来してきた火の玉に呑まれ、吹き飛ばされる。

「キリト君!!コウハ君!!」

「くっそ・・・嫌らしい作戦だな・・・」

俺は立ち上がり、頭を振る。

「コウハさん・・・」

「大丈夫、まだやれる」

リーファが回復してくれながら、俺は考える。・・・どうやら完全に対策が立てられているらしい。残念ながらあの鎧では俺の威力は届かない。キリトなら行けるが、それは三人がかりによるガードで弾かれる。・・・残りの九人は全てメイジ。隙あらば炎の雨を放ってくる・・・素晴らしいフォーメーションだ。・・・けど。

「(攻めるしかないよな・・・!)」


再び突っ込む。目の前まで迫り、スライディング。そのまま蹴りあげ、盾を上げるも、すぐにランスが迫る。

「っと!!」

右の葬解で弾き、立ち上がりながら擬音を振るが、既に盾は戻されて防がれる。そこで背後から気配を感じ、伏せる。その頭上を大剣が通るが・・・再び三枚盾に防がれ・・・火の雨。そこからは繰り返しだ。いくらガードを弾こうとしても届かない。むしろこっちの回復が間に合わない。フィードバックによる不快感に支配されかけた時、リーファが叫んだ。

「もういいよ!またスイルベーンから何時間か飛べば済むことじゃない!取られたアイテムだってまた買えばいいよ、もう諦めようよ・・・」

「嫌だ」

その声は・・・SAOの黒の剣士、キリトのものだった。

「俺が生きてる間は、パーティーメンバーを殺させやしない。それだけは絶対嫌だ」

「・・・」

・・・そうだ。俺達が負ければリーファだって・・・それに・・・

「(どんな事だって・・・もう二度と手を離さないって決めたじゃないか・・・!)」

そうと決意すれば・・・身体はいくらでも動く。

「「うおああああ!!」」

俺達は吼え、突進。キリトは盾を左手でこじ開け、剣を隙間に差し込む。俺は擬音を全力で叩きつけようとする。

「く、来るな!」

サラマンダーのランスを弾くが、僅かに体制がぶれる。更にすかさず二発目のランス。

ガキィン!


「っ・・・」

それも弾くが俺も飛ばされ・・・下に足場はなかった。

「しまっ・・・」

「コウハ!!」




俺は咄嗟に亞莎を掴み、投げる。

「コウハさん!?」

そして・・・水中に落下した。


「(くそ・・・!)」


すぐに水面に上がろうとするが・・・見てしまった。巨大なモンスターが迫ってくるのを・・・

「(おいおいマジか・・・!)」

このままじゃパックンされるだろう。・・・呉の民が水の中で死ぬなんて・・・

「(そんなこと・・・あってたまるか!)」

擬音を構える。抵抗するだけ抵抗してやる・・・!こんなとこでやられる訳にはいかないんだよ・・・!


グォォォォ!!

「(・・・来る!)」

その瞬間・・・何かがモンスターを吹き飛ばした。

「・・・!?」

動揺していると不意に何かに腕を引っ張られた。

「・・・!」

それは水中を優雅に泳ぐ・・・人魚のようだった。そして水面から飛び上がる。
「はは・・・」

俺の腕を掴んでいた・・・少女が口を開いた。

「たまには飛ぶじゃなくて泳ぐのもいいな。・・・なぁ、亮・・・いや、コウハ?」

「・・・!?咲・・・なのか・・・!?」

そのままの勢いで咲は橋の上に着地する。

「・・・な・・・コウハ・・・?」

「え、誰・・・?」

今の咲は水色の髪をサイドテールに縛っていて、青い水着のような服にライトブルーのスカート・・・まるで前に会った女版のサキみたいだ。


「初めましてサラマンダーの皆さん。わたしはウンディーネのサキっていいます」

「・・・」

ざわめきが広がる。・・・そりゃそうか。


「・・・ちょっと咲、唐突過ぎるんじゃないの?」

プライベート・ピクシー・・・詠が咲に言う。

「そうか?奇襲は兵法においても重要じゃん?」

『それとこれは違う気がするッス・・・』

俺や咲に聞こえる・・・ダークリパルサーの声。

「さて、と・・・それじゃ」

咲が白黒の剣・・・ダークリパルサーを構える。

「パーティーと行こうか!」

咲が突撃し、剣を一閃。・・・だがさすがと言うべきか、サラマンダーは咄嗟に盾で防いだ。

「あらら、いい反応だね」

『咲さん!詠唱確認!魔法が来るッス!』

「オーケイ!魔法には魔法ってね!」

咲がバク転をして詠唱する。

「危ない!」

リーファが叫ぶ。詠唱が完了し、火の玉が・・・

「・・・舞い上がれ水よ!」

・・・と、当たる前に咲が出した水の壁が火の玉を飲み込んだ。

「更に・・・!」

続けて詠唱。すると水の壁から水の針が打ち出される。

「ぐあああ!」

「すげぇ・・・」

「コウハさん!」

亞莎が飛んでくる。

「亞莎・・・」

「酷いです!いきなり投げるなんて・・・!」

あ、そこを怒って・・・当たり前か。昨日あんなに話したのに・・・

「あはは・・・ごめん、つい反射的に・・・」


「もう、やめてください・・・あんなこと・・・私は生きるのも死ぬのも亮さんと共がいいんです・・・」

「バカだなぁ、本当に死ぬ訳じゃ・・・」

「目の前で消えたら死んだと思ってしまいます・・・そんな気持ちは・・・」

「あ・・・」

その気持ちも知ってるじゃないか。・・・何やってんだ、俺。


「パパ、今です!」

ユイの声が響いた。するとキリトが呪文を詠唱する。そしてそれが完了した時・・・凄まじい姿に身を変化させた。まるでSAOのグリームアイズみたいだ。

「主役の登場か・・・頼んだわよ、キリト」

咲がそう言って俺達の近くまで飛んでくる。

「咲・・・なんだよな?」

「詠とリパルがいんのに、他の誰かだと思うか?」

「・・・だよな。いや、だってよ」

「格好には突っ込むな・・・初期からこんなんなんだよ」



とか会話をしていると、巨大なモンスターになったキリトはもうちぎっては投げちぎっては投げ。実際あれは幻惑魔法らしく、ステータス等は変わらないらしい。しばらくすれば・・・一人を残して全滅していた。

「・・・おー・・・まるでB級映画だな・・・」

「スプラッター過ぎるよ・・・」

さて、リーファがキリトを止めて、キリトは元の姿に戻る。んで、そいつにはキリトが勝って得たアイテムを全部引き渡す代わりに情報を聞く。それは・・・

「ええと、ジータクスさん・・・あ、さっきのメイジ隊のリーダーなんだけどさ、その人から収集がかかって、たった三人を十何人で狩るって・・・イジメかよオイって思ったけど、カゲムネさんをやった相手だっつうからなるほどなって・・・」

「そのカゲムネって・・・」

「俺らが倒したサラマンダーの一人じゃないか?」

「そうそう」

んで、どうやらサラマンダーの上のほうで動きがあるらしい。凄い人数が北に飛んだとか、今は世界樹攻略の資金集めに必死だとか・・・そんな情報を得た。

「さて・・・サキだよな?」

「そうだよ、キリト」

「あ、ええと・・・」

リーファを見てサキが俺らをジト目で見る。

「・・・どっちが建てたの?フラグ」

「違うって!」

俺は否定する。

「・・・ま、キリトは違うか(ボソッ)・・・えっと、わたしはサキ。キリトとコウハの友達なの。よろしくね」

「あ、う、うん・・・あたしはリーファっていうの」

「そっか、リーファっていうんだ」


「てか咲、お前どうやって・・・」

「んー?簡単だぜ。詠とリパルにお前達を探させて全力飛行&疾走したんだよ」

「目が覚めたボク達をいきなりコキ使うとか・・・」

『咲さんらしいッスよ・・・』

「あ!詠お姉ちゃん!」

「あら?ユイじゃない。なんで・・・」

「へ・・・ユイちゃん?・・・あー、ホントだ!」


咲がユイに顔を近づける。

「ユイちゃん!久しぶり、わたしのこと覚えてる?」

「はい!お久し振りです、お姉ちゃん!」

「ユイちゃーん!」


頬と頬をすりすり擦る咲。・・・相変わらずユイが関わると変わるな・・・

「・・・ってサキ。お前がいるってことは・・・」

キリトの言葉に咲が頷く。

「うん、見たよ・・・あの画像を」

「そうか・・・」

「・・・ねぇ、わたしもついていっていい?」

「俺は構わないけど・・・リーファ?」

「あたしも平気だよ。よろしくね、サキ」

「(大分カラフルなパーティーになったなぁ・・・)」

シルフにスプリガン、ケットシーにウンディーネ・・・ここにノームかサラマンダーがいればバランスが良さそうだな・・・なんて考えてる場合じゃないか。

「そういや、さっき大分暴れてたよね、兄貴」

「え・・・?あぁ、結構キレてて頭が真っ白になってたけど」

「うわ、こわっ」

「サラマンダーも食べてたよね?ねぇねぇ、味とかあった?」

「・・・ちょっと焦げかけの焼肉の風味と歯応えが・・・」

「いい、言わないで!」

さっきのスプラッター具合を思い出したのか、リーファはぶんぶん腕を振る。するとキリトはニヤリとしてリーファの腕を掴み・・・

「がおう!!」

唸ってキリトはぱくりとリーファの指をくわえた。

「ギャーーーーーッ!!」

リーファの悲鳴と、なんかさっき聞いたような音とともにキリトが殴られた・・・

 
 

 
後書き
早貴←ウンディーネ 「出番きた!」


「しかし、リパルと詠まで連れてくるなんてな」

早貴
「データを移植したからな。まぁ、バレたらアカバンだろうけど」


「ふーん・・・ちなみにALOの俺らのイメージは以前出た女版の俺達のイメージらしいよ」

早貴
「そうなのか・・・それにしてもカラフルパーティーだなぁ」


「はは・・・それじゃ、次回もよろしく」 

 

同盟会談~

 
前書き
ええと・・・申し訳ないのですが、トンキーのお話はカットしようかなと思っています。トンキー好きの方、申し訳ありません!ではどうぞ。 

 
「うう、いてて・・・」

キリトがリーファに思いきり叩かれた頬を擦る。

「さっきのはパパが悪いです!」

「キリト、前にわたしにドロップキックされたの忘れた?」

「殺伐とした戦闘のあとの空気を和ませようというウィットに満ちたジョークじゃないか・・・」

「次やったらぶった斬るからね」

「スプリガンの生け作りか・・・不味そうだ」

なんて言いながら俺達はルグルーに入る。

「へええー、ここがルグルーかぁー」

リーファがあちこちを見る。

「リーファは初めてくるの?」

「へ?ああ、うん。今回は二人を案内してきたから」

「ふうん。ここって結構品揃え良さそうだね」

「見たところレプラコーンもいるみたいだし・・・掘り出し物とかありそうね」


「ガールズトーク・・・ね」

「コウハさんは見ないんですか?」

「うん。回復アイテムは充分だし、武器と防具は充分・・・」

「・・・あ、ごめん。ちょっとレコンと連絡を・・・一旦落ちるね」

どうやらゲーム内にはいないようだ。リーファが近くのベンチに座り、ログアウトした。・・・それを確認した咲の目付きが分かる。

「キリト、亮。大事な話がある」

「・・・大事な・・・」

「・・・話・・・?」

「ああ。リーファはこの件に関係ないみたいだし。・・・、お前達には今の内に話しておいた方がいいからな」

咲が話す内容とは・・・

「このゲームの製作会社、知ってる?」

「えーと・・・レクト・・・だよな」

キリトが言うと頷く。

「じゃあ製作者はわかる?」

「・・・いや」

俺は首を横に振る。

「製作者は・・・須郷伸之だよ」

「なんだって!?」

「・・・誰だ?」

『それはオイラが説明するッス』

リパルが須郷について説明してくれる。・・・分かったのはクズ野郎だということ。

「多分、このゲームの構造がSAOと似ているのは偶然じゃないと思う」

「須郷がSAOのデータを盗んだ・・・?」

「ボク達はそう思ってるわ。少なくともアイツが今回の件の主犯よ」

咲の肩に座りながら話す詠にキリトが聞く。

「なんでそこまで知ってるんだ?」

それには咲がため息を吐きながら答える。

「文字通り命懸けで情報を手に入れたんだよ。・・・つまり、お姉ちゃんを含め目覚めていない三百人も全部アイツの仕業だと思う」


「くそ・・・須郷の奴・・・」

「パパ・・・」

「・・・でも、平気なのか?」

「あ?何がさ」

「お前だよ。危ない橋渡ってるみたいだし、こうやってダイブしてて平気なのか?」

「う・・・まぁ、なんとかな」

一瞬だが咲が渋い顔をした。

「あ・・・そうだ」

咲が俺を見て何か言おうとするが・・・

「あー・・・悪い、やっぱり何でもない」

「は?変な奴」

「今のお前に悩み追加すんのもアレだしな・・・(ボソッ)」


その時だった。リーファが勢いよく立ち上がった。

「うわっ、びっくりした!」

「どうかしたの?」

「・・・みんな、ごめんなさい」

「え、ええ?」

「あたし、急いで行かなきゃいけない用事ができちゃった。説明してる時間もなさそうなの。たぶん、ここにも帰ってこられないかもしれない」

キリトは暫くリーファを見て、頷く。

「そうか。じゃあ、移動しながら話を聞こう」


リーファはキリトの言葉が意外だったのか驚いたが、すぐに切り替えた。そして走りながらリーファに話を聞く。レコンの情報らしいが、シグルドがシルフを裏切り、サラマンダーと内通していたらしい。それにより情報が漏れ、今サラマンダーの集団が極秘に同盟を組もうとしているシルフとケットシーの集まりに奇襲をかけようとしてるそうだ。当然、そこには両国の領主がいる・・・

「なるほどね・・・領主を討つと特典はあるのかしら?」

咲が聞くとリーファは答える。

「まず最初にシルフとケットシーの同盟を妨害できる。シルフ側の情報の漏洩ならケットシーが黙ってないし、ヘタしたら戦争になるかもしれない」

「はぁ、同盟国の争いねぇ・・・もううんざりよ」

『・・・』

詠の言葉に俺や咲達は沈黙する。

「それに、領主を討つだけで凄いボーナスがあるの。蓄えられた資金の三割を無条件で入手できるし、十日間街を占領状態にして自由に税金をかけられる・・・」


「じゃあ、もしこの奇襲が成功した場合、サラマンダーの戦力は・・・」

「たぶん、トップになるでしょうね」

「サラマンダーに対抗するための同盟でサラマンダーが勢いついたら意味がありません・・・」


「・・・だからね、みんな」



リーファがうつ向く。

「これはシルフのあたしの問題だから・・・君たちの目的が世界樹なら、むしろサラマンダーについた方がいいと思う。スプリガンなら傭兵として雇ってくれそうだし、コウハくんとサキもレネゲイドって言い張ればなんとかなると思う。だから、今あたしを切り捨てても・・・恨まないよ」


・・・それに対する返事は既に決まっていた。

「所詮ゲームだから何でもありだ。殺したければ殺すし、奪いたければ奪う」

キリトがそう言ってから・・・続けた。

「そんな風に言う奴には嫌って言うほど出くわしたよ。確かにそれも真実かもしれない。・・・けど違うんだ。仮想世界だからこそ、どんなに愚かしくても守らなきゃならないものがある。俺はそれをーーーー大切な人に教わった・・・」

「兄貴・・・」

「俺・・・リーファのこと、好きだよ。友達になりたいと思う。たとえどんな理由があっても、自分の利益のためにそういう相手を斬るようなことは、俺は絶対にしない」

「キリト君・・・」

「んで、リーファはさらっと俺をハブいたけど・・・これはシルフのリーファだけの問題じゃない。ケットシーの俺の問題でもあるんだ」

「・・・」

俺は口を開く。

「俺は誰であれ、主を討たせやしない。それに・・・恨み辛みはもう沢山なんだ」

そして咲が笑う。

「安心して、リーファ。ここはお人好しの集まりだから。・・・もちろんわたしも、ね。リーファを斬るくらいならサラマンダーを斬るよ」

「二人とも・・・」
リーファが立ち止まり、顔を上げる。

「・・・ありがとう」

キリトが照れたように頬を掻く。

「ごめん、偉そうなこと言って。悪い癖なんだ」

「それで何人落としたのかしらねぇ?」

「おい、サキ。人聞きの悪いこと言うなよ・・・」

「うふふ・・・じゃ、さっさと助けに行きますか!」

「え?」

リーファがきょとんとする。・・・あぁ、手伝ってくれるとは思わなかったのか。

「リパル、位置は?」

『サーチ済みッス。ここから北西の方向に多数の反応があるッス』

「ナイス、仕事早いね。・・・キリト、コウハ」

俺達は頷き、キリトがリーファの手を掴む。

「ちょっと手を拝借」

「え、あのーーー」

「亞莎、ポケットに隠れてな」

「はい、わかりました」


「じゃ、よーい・・・」

咲がクラウチングスタートの構えを取る。

「え、え・・・?」

「ドン!!」


次の瞬間、俺達は・・・全力で走り出した。そりゃもう絶叫マシン並のスピードで。



「わあああ!?」

キリトに掴まれたリーファが悲鳴を上げる。すると目の前にオークの群れが見える。

「あの、あの、モンスターが」

当然・・・全力で突っ切る。

「わぁーーーーーっ」

再びリーファの絶叫。モンスター達は雄叫びを上げながら迫って来る。そして・・・一気に洞窟から飛び出した。


「ゴール!」


俺たちは翼を広げ、羽ばたく。背後を見ると凄まじい量のモンスターがぎっしりと出口を埋めていた。

「・・・寿命が縮んだわよ!」

「わはは、時間短縮になったじゃないか」

リーファが何かブツブツと文句を言う。・・・あ。

「・・・あれは・・・」

遠くに見える巨大な樹木・・・あれが・・・

「世界樹・・・か」

「ぷはっ」

亞莎がポケットから顔を出す。

「お、大丈夫か?」

「はい。コウハさんは足が早いですね」

「猫だからね・・・」


さてと・・・急がないと・・・













































サキ~

俺は若干みんなと離れた位置を飛んでいる。

『咲さん』

「ん?」

『良かったんスか?亮さんに今の状況を言わなくて・・・』

「・・・言ってもどうにもならないさ。ヘタしたら亮やキリトまで捲き込むことになる・・・」

「確かに、ここで亮たちまで妨害を喰らうのは良い案とは言えないわね・・・ごめん、咲。ボクが守れれば・・・」

「気にするなよ。どうしようもないことだってあるさ」

『・・・肝心な時、オイラたちは何もできないッス・・・』

「気にすんなってば。それに、二人には現在進行形で役に立ってもらってるしよ」

「え?」

「索敵&俺の精神安定役でな。二人がいなかったら弱い“わたし”のままだったから・・・二人がいれば“俺”でいられる」


「サキー!急ぐぞー!」

「りょーかーい!」

キリトに呼ばれ、俺は水色の翼を羽ばたかせる。間に合わせないと・・・






































「それにしても、モンスターを見かけないないなぁ?」

「あ、このアルン高原にはフィールド型モンスターはいないの。だから会談をわざわざこっち側でするんじゃないかな」

「そっか。大事な話を邪魔されたくないもんね。・・・でも残念だなぁ」

「どういうこと?」

リーファが俺に聞いてくる。俺はニヤリと笑いながら・・・

「んー、さっきみたいにモンスターを引き連れてアタックしようかなって」

「・・・よくそんなこと考えるわねぇ」




「あ、プレイヤー反応です!」

ユイの声で前を見る。

「・・・いた!あそこだ!」

亮が指を指す。もう少しすると黒い影が見えた。アレがサラマンダー・・・更にその奥には白い長テーブルのようなものが見える。この距離は・・・

「・・・間に合わなかったね」

リーファが呟く。

「ありがとう、みんな。ここまででいいよ。キミたちは世界樹に行って・・・短い間だけど、楽しかった」

リーファが先に行こうとするが・・・キリトがその手を掴み、不敵な笑みを浮かべる。

「ここで逃げ出すのは性分じゃないんでね」

そう言ってキリトは最大全速でダイブする。

「ちょ・・・ちょっとぉ!?」

「キリトもしょうがないなぁ・・・じゃあわたしも!」

「兄貴は諦めって言葉を知らないからね・・・当然、俺もだけど!」

俺と亮も降下。リーファも何かを言いながらついてくる。そして襲撃に気付いたシルフたちとサラマンダーの間に・・・飛び込んだ。そしてキリトは大きく息を吸い・・・

「双方、剣を引け!!」

リーファが背後に来て、和服美人な女性と話をしている。アレがシルフの領主さん・・・?妖精なのに和服とは面白い組み合わせだ。

「指揮官に話がある!」

するとサラマンダーの中から大柄な男が現れた。一目で周りとは違うと把握できる装備と佇まいだ。

「・・・スプリガンがこんなところで何をしている。どちらにせよ殺すに変わりないが、その度胸に免じて話だけは聞いてやる」

「俺はキリト。スプリガン=ウンディーネ同盟の大使だ。この場を襲うからには我々四種族との全面戦争を望むと解釈していいんだな?」

「・・・はい?」

え、ウンディーネとスプリガン?・・・するとキリトがこちらを見て笑う。あ、あの野郎・・・捲き込みやがった・・・!

「ウンディーネとスプリガンが同盟だと・・・?」

だがすぐに指揮官は表情を戻す。

「・・・護衛の一人もいない貴様がその大使だと言うのか」

・・・これ、行かなきゃ駄目だよな。俺はキリトの横に立つ。

「どうも、わたしはウンディーネの代表であるサキと言います。この場にはシルフ・ケットシーとの簡易交渉に来ただけですので、護衛は必要ありませんでした」


俺は必死に頭の中で言葉を組み合わせる。

「・・・しかし、もし会談が襲われるというのなら、わたし達は四種族で同盟を結び、サラマンダーに対抗する所存です」

まだ・・・足りないか?するとキリトが助け船を出してくれた。

「我々が繋がりをもっているのは共に来たシルフとケットシーが物語っているだろう」

あ、リーファと亮も捲き込んだ。だが男は・・・

「大した装備ももたない貴様らの言葉をにわかに信じるわけにはいかないな」

「ーーーオレの攻撃を三十秒耐えきったら、大使と信じてやろう」

男は大剣を引き抜いた。赤い刀身が鮮やかに光る。

「じゃあ、わたしがお相手します」

ダークリパルサーを鞘から引き抜く。

「おい、サキ・・・」

「少しくらい役に立たせてよ。それに空中戦なら・・・誰よりも経験があるから・・・ね?」


そう言って俺は飛び上がる。

「詠、下がってて」
「・・・分かったわ。リパル、フォロー任せたわよ」

『了解ッス!』

「じゃあ・・・行きます!」

俺はまず一気に近付き、一閃。

ガキァン!

「ほう・・・」

アッサリと防がれ、一撃が迫る。

「よっ・・・!」

それを斜めに降下してかわす。

「馬鹿め。その角度では追撃を喰うだけだ!」

俺は・・・翅を素早く動かし、“直角”に曲がった。


「なに・・・!?」

「らぁぁぁ!!」

ガァン!



僅かに押された男が下がる。・・・逃がさない。再び直角飛行を行い追尾する。

「空中戦は十八番なのよ!」

連撃。しかし男は合間を縫って剣を振ってくる。

「っと・・・!」

それを弾こうと剣を構える・・・。

『駄目ッス、咲さん!回避を!!』

「っ!?」

剣と剣が当たる瞬間・・・男の刀身がこちらの刀身を“すり抜けた”そして迫る斬撃は俺の胸元を切り裂く。

「きゃあああ!?」

吹き飛ばされるが、なんとか空中で立て直す。


「どういうことなのよ・・・リパル、あれ何なんだ!?」

さっきから咲と早貴が安定しない・・・!

『データ取得したッス!あのサラマンダーの名前はユージーン。武器は魔剣グラムッス!』

「グラム?」

『このゲームにはレジェンダリーウェポンという武器の種類があるッス。その中の一本が魔剣グラム。能力は《エセリアルシフト》盾や剣をすり抜ける効果ッス』

「わお・・・素晴らしい公式チートだこと」



だったら全部避けなきゃ駄目か・・・


「てかそれより・・・」

俺は声を上げる。

「もう三十秒経ったんじゃないんですか!?」

「悪いな、やっぱり斬りたくなった。首を取るまでに変更だ」

「くっ・・・この変態!」

俺は高速軌道で再び斬りかかる。

「ふっ、せい!」

「腕はいいようだが・・・」

ビュン!

「っ、危な・・・」

身を捻り、そのまま回し蹴りを放つが、足を掴まれる。

「やばっ・・・」

「ぬん!」

投げられ、追撃される。

「ちぃ!」

片方の翅を動かし、一気にその場から離れる・・・が、振りきれない!

「こん・・・のぉ!」

斬られる前にこちらから斬りつける・・・が、ここでミスを犯した。咲だったのなら力で押しきれただろう。だが今は早貴・・・素早さが売りだったのだ。そう、今俺は・・・痛恨の人格ミスをしてしまったのだ。

ガキィン!

「っ・・・!」

鍔迫り合いの状況から弾かれ・・・無防備になったところを・・・斬られた。

ズシャア!

「あぁぁぁ!?」

『咲さん!』






































































亮~

「咲!」

咲が斬られ、回転しながら落下する。このままだと落下ダメージで咲のHPはゼロになる・・・!だが、キリトが素早く走り出し・・・咲を受け止めた。

「うぅ・・・」

「サキ!大丈夫か!?」

「キリ・・・ト?・・・ごめん・・・でも、まだ戦え・・・」



再び飛ぼうとした咲をキリトは抑える。

「いや、後は俺がやる。サキは無理しないでくれ」

「そんな・・・!途中で押し付けるなんて・・・」

「押し付けじゃないさ。それに・・・これ以上君を傷付けたら彼女に怒られるしな」

「・・・ズルいよ・・・お姉ちゃんを出したら・・・反論出来ないじゃん・・・」

サキは立ち上がり、キリトの背中をポンと叩く。

「じゃあ・・・任せるね」

「ああ」


「咲!」

詠が咲に向かって飛んでいく。

「咲、大丈夫なの!?」

「大丈夫だよ。この世界に痛覚とかないし。・・・斬られた感触はあるけどね」

『すみませんッス。もう少しアドバイス出来れば・・・』

「アイツの情報を教えてくれただけで充分さ。敗因は俺の判断ミスだしさ・・・」


咲がため息を吐く。

「くそ・・・この世界の俺のアドバンテージが“飛行”しかないじゃないか・・・」


咲がこっちに来る。

「わり、負けた。・・・キリト、勝てると思うか?」

俺は既に打ち合ってるキリトを見る。


「わからないけど・・・兄貴なら何とかできるさ」

「へぇ~、キミはケットシーなのにお兄さんはスプリガンなんだ?」


小柄な少女が話しかけて来た。見るからにケットシーで装備は三本爪のクロー。

「ええと、君は・・・」


するとリーファが説明してくれる。

「コウハくん、この人はケットシーの領主、アリシャ・ルーさんだよ」

「ふーん・・・領主・・・領主!?」

俺は慌てて少女・・・アリシャを二度見して、方膝をついて頭を下げる。

「す、すみません!!領主様だなんて知らなくて・・・」
「アハハ、気にしなくていいヨ、そういうの」

「そ、そうですか・・・」

・・・いや、何度も王に仕えた身としては結構ヒヤヒヤものなんだが・・・

「えっと・・・ほんとすみません。俺、始めたばかりなので・・・」

「だからいいってば~」

ガキィン!

「・・・っと」

振り返るとキリトは吹き飛ばされていた。

「やはり厳しいか・・・」

シルフの領主、サクヤが言う。



「おいおい・・・頼むぜ・・・」

咲の情報からアイツは相当なプレイヤーであることは分かった。・・・ていうかサクヤが言うにはALO最強らしいが・・・その時、吹き飛ばされたキリトが右手を突き出した。どうやら詠唱をしていたようで、辺りを黒い煙が覆った。

「うわ・・・!!」

あっという間に側にいた筈の面々も見えなくなる。

「リーファ、ちょっと借りるぜ」

「わっ!?」

キリトの声とリーファの声が聞こえた後、ユージーンが叫び、魔法で煙を吹き飛ばした。・・・しかし、そこにはキリトの姿はなかった。

「あれ・・・?」

背後のケットシーが呟く。

「まさか、あいつ、逃げ・・・」

「そんなわけない!!」

それを真っ先に否定したのはリーファだ。・・・ま、だろうね。だって・・・

「・・・」

俺は上を見上げる。ほら、やっぱり。

「・・・!!」


キリトが全速でユージーンに向かって突っ込んでいく。そしてユージーンもキリトに気づき、突進する。そこで気付いた。キリトの左手にはリーファの刀が握られていた。アレはキリトの使っていたスキル・・・二刀流だ。・・・だが、きっと通常は扱える訳がないとユージーンは踏んだのだろう。更に加速していく。そしてキリトより早く剣を振るい、防御に回した大剣をすり抜け、キリトに当たる瞬間・・・左手の刀が弾いた。

「お・・・おおおあああーーーー!!」

そこからはキリトの独壇場だ。左右の刃が鮮やかに光り、ユージーンを押していく。そして・・・遂に一撃が決まった。

「な・・・」

「ら・・・あぁぁぁぁ!!」

そしてそのまま連続斬りを放ち・・・ユージーンの体が爆発した。

「・・・」

誰も声を出さなかった。シルフもケットシーも、サラマンダーも・・・それほどの戦いだった。

「見事、見事!!」

その沈黙を破ったのはサクヤだ。両手を打ち鳴らしながら声を出す。

「すごーい!ナイスファイトだヨ!」

アリシャに続いてケットシーもシルフも・・・なんとサラマンダーも歓声を挙げていた。キリトは四方に一礼して、リメインライトを差し出した。

「誰か、蘇生魔法頼む!」

「解った」

サクヤが頷き、近づく。

「回復ならお前の方がいいんじゃないか?」

咲に聞くと咲は頬を掻く。

「いや・・・まだ蘇生魔法のスペル暗記してないんだよな・・・攻撃と回復なら覚えたんだけどよ・・・」

「あ、そう」


・・・まぁ、確かに俺もまだ全部暗記してないからどっこいどっこいか。




「・・・見事な腕だな。俺が今まで見た中で最強のプレイヤーだ、貴様は」

「そりゃどうも」

それを見て咲が前に出る。

「あの、わたし達の話を信じてくれますか?」

「・・・」

ユージーンは沈黙し・・・口を開いた。

「スプリガンとウンディーネか・・・ふ、そういうことにしておこう」

そう言ってキリトに向き直る。

「確かに現状で事を構えるつもりはない。この場は退こう。・・・だが貴様とはいずれもう一度戦うぞ」

「望むところだ」

「わたしも負けっぱなしじゃ終わりません。・・・いずれ再戦を」

「貴様の飛行能力には見るものがある。こちらとしても再戦願いたいものだ」

そう言ってユージーンたちサラマンダーは去っていった。残った俺達はサクヤたちに説明をし、かつシグルドについても聞いた。どうやら彼はサラマンダーに遅れを取っているシルフが嫌になり、そこでサラマンダーのプレイヤーに今度導入される転生システムでサラマンダーに転生させてやると言われ・・・口車に乗った訳だ。


「欲に目が眩むのは人間の性か・・・」

俺は呟き、ため息を吐く。

「・・・一生、そんな人間は消えないだろうな・・・」

なにせ欲を持たない人間はいないわけだから。

「それで・・・どうするの?サクヤ」

リーファに聞かれ、サクヤはアリシャを見る。

「ルー。たしか闇魔法スキルを上げてたな?」

アリシャは耳を動かし、肯定の意を表す。

「じゃあ、シグルドに《月光鏡》を頼む」

・・・なんだそれ?アリシャが詠唱すると、辺りが暗くなり、サクヤの目の前に鏡が現れた。そこに写っているのはシグルドだ。

「シグルド」

サクヤが声を出すとシグルドは跳び跳ね・・・こちらと目があった。

「さ・・・サクヤ・・・!?」

「ああ、そうだ。残念ながらまだ生きている」

「なぜ・・・いや・・・か、会談は・・・?」

「無事に終わりそうだ。条約の調印はこれからだがな。そうそう、予期せぬ来客があったぞ」

「き、客・・・?」

「ユージーン将軍が君によろしくと言っていた」

「な・・・」

そしてシグルドが俺達を見て・・・状況を理解したようだ。・・・サクヤがウィンドウを操作すると、シグルドの目の前にメッセージウィンドウが出現する。

「貴様ッ・・・!正気か!?俺を・・・この俺を追放するだと・・・!?」

「そうだ。レネゲイドとして中立域をさ迷え。いずれそこにも新たな楽しみが見つかることを祈っている」

「う・・・訴えるぞ!権利の不当行使でGMに訴えてやる!!」

「好きにしろ。・・・さらばだ、シグルド」

そして・・・シグルドは姿を消した。さてさて、アリシャとリーファがサクヤをフォローした後・・・話題はキリトに移った。

「ねェ、キミ、スプリガンとウンディーネの大使・・・ってほんとなの?」

それにキリトは自信満々に答える。

「勿論大嘘だ。ブラフ、ハッタリ、ネゴシエーション」

「なーーーー・・・」


絶句する二人。

「・・・ウンディーネのキミも知ってて嘘ついたの?」

それに咲はひきつった笑顔で答える。

「いいえ、事前の打ち合わせなしで捲き込まれました・・・!」

キリトを軽く睨む。しばらく様子を見ていると・・・アリシャがキリトにくっついた。

「フリーなら、キミ・・・ケットシー領で傭兵やらない?弟くんもいるし、三食おやつに昼寝つきだヨ」

「「なっ・・・」」

口元をひきつらせる女子二名。


「おいおいルー、抜け駆けはよくないぞ」

と、サクヤもキリトの反対側に絡み付く。

「彼はもともとシルフの救援に来たんだから優先交渉権はこっちにあると思うな。キリト君と言ったかな・・・どうかな、個人的興味もあるので礼も兼ねてこの後スイルベーンで酒でも・・・」

ぴきぴき。・・・と、更に音が聞こえた。やばい、胃が痛くなりそう。

「あーっ、ずるいヨサクヤちゃん。色仕掛けはんたーい」

「人のこと言えた義理か!密着しすぎだお前は!」

完全にキリトも困ってしまっているようだ。・・・先に動いたのは・・・リーファだった。

「だめです!キリト君はあたしの・・・」

三人がリーファを見る。

「ええと・・・あ、あたしの・・・」

その時、咲がいなくなってるのに気がついて振り替えったら・・・真横を突風が突き抜けた。

「この・・・アホォォォォォ!!」

「げはぁ!?」

咲の飛び蹴りがキリトに炸裂し、キリトは吹っ飛ぶ。

「(あれ、デジャヴ?)」



崖から落ちながら体制を立て直すが、咲が追撃の右ストレート。

「おいおい・・・」

キリトは必死に避け続けている。俺はため息を吐いて二人を追いかける。近づくと会話も聞こえてきた。

「この馬鹿!変態!たらし!女の敵!」

・・・あぁ、考えるまでもなく“早貴”で固定されてるよ、あれ。

「お姉ちゃんとリズならまだしも他の女にデレデレと・・・!」

「ちょっとまて!なんでリズが出てくる!?」

「うっさい!この浮気者ぉ!」

「そうです!浮気はダメですよ、パパ!」

「ちょ、ユイまで・・・!」


「あはは・・・」


もう笑うしかないね、この状況。とりあえずリパルと詠に咲を止めてもらい、戻ってからアリシャとサクヤに説明する。すると彼女たちも世界樹を目指しているらしく、今回の同盟もそのためらしい。しかしまだ資金が足りないそうなので・・・俺達のユルドを殆ど渡す。・・・その額に二人は固まったけど、協力を約束してくれた。さてと、先を急がないと。世界樹は目の前に近づいていた・・・・・・ 
 

 
後書き

「なんか、二対一多くね?」

早貴
「勝てばよかろうなのだーー!!」


「・・・あ、そう・・・さて、ソードアート・オンラインの世界もあと少しかな?」

早貴
「さてな。一波乱あるかもよ?・・・ではまた次回もよろしく!」 

 

兄妹発覚~

 
前書き
やばい・・・マジでスランプかもしれない・・・話が思い付かないし・・・大丈夫かな・・・ではどうぞ。 

 
アスナ~

「・・・ティターニア様、ここを抜け出されては困ります」

「く・・・」

わたしは須郷の隙をついて一度は篭から脱出したのだが・・・後少しというところで須郷の部下に見つかってしまった。それで今はロビンがわたしを監視している。

「分かったとは思いますが、ここから抜け出すのは不可能です。無意味なことはやめ、諦めて下さい」

「・・・」

いや・・・無意味ではなかった。わたしの手の中には、一枚のカードがある。それはアイツらの研究室のコンソールから持ってきたカード・・・少しでも意味はある筈だ・・・








































亮~

「・・・でかいな・・・」

目の前には大きな世界樹が立っていた。アレからしばらく飛び、様々なハプニングがありながらも俺達は無事に目的地であるアルンに到着した。様々な種族が街を歩き、活気が伝わってくる・・・どこか懐かしい感じだった。

「麻帆良のとどっちが大きいのかなぁ・・・」

咲もそう呟く。・・・するとアナウンスが入り、メンテナンスが始まるようだ。というわけで俺達は宿屋に泊まる。またメンテナンスが終わった時にログインすることにしてログアウトした・・・



























































































「ふぅ・・・」

軽く一睡して、朝になってから下に降りると和人が庭の水道で顔を洗っていた。

「おはよう、兄貴」

「おう、亮も洗うか?」

「俺は平気。、目も覚めてるし」

その時、背後からやけに眠そうな直葉がやって来た。

「おはようさん」

「んー・・・おはよう、亮お兄ちゃん」
やけにふらふらしながら和人の近くにまで行く。

「やけに眠そうだな。昨日は何時に寝たんだ?」

「うーっと、四時くらいかなぁ」

「マジか。直葉がそんなに夜更かしするなんて・・・何かやってたの?」

「えーっと・・・ネットとか・・・」

・・・え?直葉が・・・ネット?・・・驚いたが・・・不思議でもないか。二年も経ったんだし、直葉が何かをやったり興味を持ったっていい訳だし・・・っと、その時に和人がニヤリとした。

「おいスグ、後ろ向いてみ」

「・・・?」

直葉が首を傾げながら後ろを向く。すると和人が手に水を汲み、直葉のジャージの襟首を引っ張り、露になった背中に水を・・・冬場のほぼ氷に近い水を投下した。

「ぴぁーーーーっ!!」

次の瞬間、聞いたことのない悲鳴を上げながら直葉が飛び跳ねた・・・・・・

































































早貴~

「ううん・・・」

やば・・・アミュスフィア付けたまま寝ちゃった・・・

「あ、起きたの?」

「里香・・・うん、メンテがあるからログアウトして・・・そしたらうっかり感覚が戻った後も寝ちゃった」


「あはは。・・・朝ごはん何がいいー?」

「軽いのでいいよー」

「了解ー」

里香がそう言って部屋から出ていこうとした時・・・チラリと・・・袖から白い何かが見えた。

「・・・里香!」

わたしは痛む足を無視して立ち上がり、里香に近寄る。

「へ?・・・ちょ、無理に動い・・・!?」

里香の肩を掴んでから、腕を持って袖を捲り上げた。・・・そこには白い包帯が巻かれていた。


「・・・どうしたの」

「・・・何でもないわよ。ちょっと転んだ・・・「嘘でしょ」・・・っ」

「そんなありがちな言い訳で騙せるわけないわよ」

すると里香はわたしの腕を振り払う。

「なんでもないってば!早貴には関係ないでしょ!?」

だがわたしはそれにカチンと来て、里香の両肩を掴んで壁に押し付けた。

「嘘だよ!絶対わたしに関係があるんでしょ!」

ここまで躍起になるのも、里香の反応からだった。もし最初の時点できょとんとしたり、冗談混じりだったらわたしもスルーした。けど・・・里香はさっきからわたしの目を見てはいなかった。それは隠し事をする子供のようで・・・要するに、分かりやすかった。

「里香!」

わたしが怒鳴ると・・・やがて里香は観念したのか口を開いた。

「・・・昨日、早貴の手当がしやすくなるように薬局にいったのよ。・・・そうしたら途中で変な集団に絡まれて、『あの女の知り合いだな?』って・・・知らんぷりしてたら無理矢理連れてかれそうになった」

「・・・っ!?」

「一応大声で助けを呼んだらアイツら逃げていったけど・・・その時の揉み合いで怪我しちゃって。・・・あ、安心して。早貴のことは話して・・・」

「そんなのどうでもいい!!」

「・・・っ」

「わたし言ったよね!?何かあったら引き渡してって・・・!もしかしたらお姉ちゃんと同じようになっちゃったかもしれないんだよ!?」



「う・・・うるさいわよ!そんなこと言ったら早貴だって同じでしょ!」

「く・・・でも二人捕まるのと一人だけじゃ差が大きいよ!」

「差ぁ!?友達売るかどうかに差なんてないわよ!」


「・・・!」

そこまでヒートアップして・・・わたしは座り込んでしまう。

「早貴・・・?」

「・・・なの・・・」

「え・・・」

「もう・・・ヤなの・・・わたしの近くで誰かがいなくなるの・・・ヤなのぉ・・・!」

涙が溢れる。本当に・・・わたしは泣き虫だ。

「・・・」

里香がしゃがみ、ハンカチでわたしの目元を拭った。

「・・・ごめん。そこまで思い詰めてるなんて思わなかった・・・」

「・・・ひぐっ・・・うっ・・・」

「ほら、泣くんじゃないの。・・・今度から気をつけるわ」

「・・・(コクッ)」

頷くと里香が肩を貸してベッドに座らせてくれた。

「・・・わたしもごめんね・・・なんか怒鳴っちゃって・・・」

「んー?そんなの気にしないわよ。とりあえずもう少し仮眠取りなさいよ。ご飯作ったら持ってきて起こしてあげるから」

「・・・うん」

里香が部屋から出た時、わたしはそのまま身をベッドに投げ出す。

「・・・はぁ・・・」

お姉ちゃん・・・待ってて・・・




















































































亮~

「まったく・・・」

しばらく直葉は機嫌を損ねていたが、後で和人がスイーツを奢ると約束したらあっさり機嫌が直った。今は三兄妹で朝食を作っている。

「お兄ちゃん、今日はどうするの?」

「うーん、昼過ぎからちょっと約束があるんだけど・・・午前中は病院に行ってこようかと思ってる」
「そう・・・」


和人を見るとその目には焦りが見えた。・・・待ち遠しいのだろう。もちろん俺もだが・・・野菜を切り、ボウルでドレッシングと共に混ぜ合わせてると、直葉が言った。

「ねえ、お兄ちゃん。あたしも、一緒に病院に行っていい・・・?」

「え・・・」

「・・・」

和人が戸惑う。一応直葉にはアスナのこととかは話してあったが・・・それ以上は直葉が知りたがらなかったから俺達のプレイヤーネームも何も教えてなかった。


「ああ・・・いいよ。きっとアスナも喜ぶよ。・・・亮はどうする?」


「・・・ごめん、パス。・・・辛いから・・・さ」


「・・・そうか」

寝たきりで返事もしない・・・なんてサチを思い出してしまう。・・・正直に言えば、怖かった。普通に話していた人が・・・物言わぬ人形となってしまう・・・

「(俺も・・・だからな)」

俺が“壊れた”とき・・・呉の皆も俺と同じ気持ちを味わったのかな・・・

「はぁ・・・」

本当に弱い人間だ、俺は。

「・・・学校はどうなるの?」

ふと気づくと直葉が和人と話していた。

「ええとな・・・」

これは俺も説明を聞いた。都立校の廃校を利用してSAOから生還した中高生向けの臨時学校を作るそうだ。入試なし、卒業後の大学受験資格もくれるそうだ。


「ただ、上手すぎる話には裏がある」

「うん・・・なんか変だね」

直葉も気づいたようだ。多分、お偉いさんの考えは二年のサバイバルが精神にどのような影響を与えたか・・・何かあるかもしれない以上、一ヶ所に集めた方が対応しやすいのだろう。モルモット的なアレだろうか。

「ま、行くなら行ってきなよ。俺は留守番してるからさ」

・・・てなわけだ。部屋に戻ると、携帯が震えていた。

「?」

見慣れない番号だ・・・

「はい、もしもし?」

『お、もしもし。亮か?』

この声・・・

「咲か?」

『正解。よく考えたらお前に俺の携帯端末の番号教えてなかったし・・・』

「よく分かったな?」

『そこら辺はシークレットで』

「んで?かけてきたのは何でだ?」

『ん・・・ああ。ちょっとな。ネットで調べたんだけど・・・鈴の音、確定らしい』

「・・・!」

やっぱり・・・思春がALOに・・・


『色んなサイトを巡っても同じ情報がある。・・・ただ』


「?」

『いや・・・何でもない』

「そうか・・・ま、ありがとな。知らせてくれて」

『どういたしまして。・・・まぁ、それは建前で、実際はお前に番号知らせるのが目的だけどな』

「連絡は取れた方がいいしな・・・あれ?そういや、お前何処から・・・」

『あ、悪い。ちょっと・・・また後でな』

「あ、おい(ブツッ)・・・なんだよ・・・と、また着信・・・綾野さんか」

そんな感じで約束の時間になっていった・・・
























































































「・・・」

メンテが終わったALOにダイブし、目を開く。すると・・・

「・・・キリト君・・・」

・・・ちょっと唖然とした。何故ならリーファが泣きながら頭をキリトに預けていたから。

「あ、コウハ・・・」

「・・・あー、悪い。間が悪かった?」

するとリーファは目を拭い、こっちを見る。

「うう、ん・・・何でも、ないの・・・」


「・・・何か辛いことでもあったの?」

「・・・」

リーファは小さく頷いた。・・・と、その時、咲がやって来た。

「・・・どういう状況なの?これは・・・」

説明をして・・・終わる頃にはリーファも泣き止んでいた。

「・・・もう大丈夫。ありがとう、キリト君。優しいね、キミ」


「その反対のことは随分言われたけどな・・・」

さてさて、亞莎達も起こしてから俺達は世界樹に向かっていく。街中は全ての種族が仲良さそうにしている。





「しかし広いな、っと」

「早く世界樹に行こうよ」

咲がみんなを急かす。・・・まぁ、そりゃそうか。
・・・ちなみに、さっきリーファが泣いてた理由はリアルで失恋したからだそうだ。それをキリトが慰めた所に俺と咲が来たようだ。・・・並のドラマなら失恋直後の女性は落ちやすいそうなので、惚れられるなよ?と咲がキリトをどついていた。そんなこんなで世界樹の根本付近に着いた時・・・ユイが空を見上げた。

「お、おい・・・どうしたんだ?」


「ママ・・・ママがいます」

「な・・・」

「え・・・」

咲とキリトの表情が強張る。

「本当か!?」

「何処に・・・何処にいるの!?」

「間違いありません!座標は・・・まっすぐこの上空です!」

それを聞いた二人の表情は形容しがたいものになり、次の瞬間・・・

バン!!

・・・二人の姿は地上から消えていた。

「お、おい、二人とも!!」

「ま、まってよキリト君!!」


俺とリーファは慌てて二人を追いかける。・・・って速いな!?


「なんだあのスピード・・・!」

「気をつけて、二人とも!!すぐに障壁があるよ!!」


その忠告はあまり意味がないものだと解った。凄まじい衝撃音が響き、二人が跳ね返される。だがすぐに意識を戻し、また突撃。その時には俺とリーファも追いつき、二人を止める。

「やめて、キリト君!!無理だよ、そこから上にはいけないんだよ!!」

さっき聞いたのだが・・・肩車作戦の話を聞いたGMが対策でこの見えない壁を用意したとか・・・

「落ち着けよ、咲!お前らしくもない・・・!」

『咲さん!やめて下さいッス!』

「放してよ、コウハ!」

「行かなきゃ・・・行かなきゃいけないんだ!」

その時、ユイが飛び出した。だがナビピクシーのユイでも障壁は拒んだ。だがユイは諦めなかった。

「警告モード音声なら届くかもしれません・・・!ママ!!わたしです!!ママー!!」

ユイが叫ぶその間にも、キリトと咲は剣を引き抜きそうになるが・・・しばらくした時、何かが見えた。


「・・・?」

それをキリトが掴む。それは・・・

「カード・・・?」

アイテム・・・?にしては木から振ってくるカードって・・・するとユイがカードに触れ・・・

「これ・・・これは、システム管理用のアクセス・コードです!!」


「・・・じゃあ、これがあればGM権限が行使できるのか?」

「いえ・・・ゲーム内からシステムにアクセスするには、対応するコンソールが必要です。わたしでもシステムメニューは呼び出せないんです・・・」

ユイが呼び掛けて・・・きっとアスナが気づいたんだ・・・それでカードを・・・

「きっとママがわたし達に気付いて落としたんだと思います」

「・・・」


世界樹を見上げた・・・その時だった。

チリィ・・・ン・・・


「・・・!」

「こ、コウハさん・・・!」

「ああ・・・聞こえた・・・」

何度も耳にした・・・鈴の、音。

「いるのか・・・思春・・・!!」

俺も焦りで正気じゃなくなりそうだったが・・・ふとしたことでそれはなかった。何故なら・・・俺より冷静さを欠いた奴がいたからだ。


「リパル、中へ進む道は?」

『そ、それは根本のドームみたいなとこッスけど・・・』

「わかった。キリト、行こう」

「ああ」

「お、おい!」

俺は止めようとするが・・・

「もう限界なんだ・・・お姉ちゃんがどんな目にあっているか想像しただけで・・・ごめん、コウハ」

そして咲とキリトは再び猛スピードで飛んでいった。

「・・・リーファ、二人だけでいけると思う?」

「む・・・無理だよ。ガーディアンがいて、どんな大軍団でも突破したことないんだよ・・・」

「・・・絶対無理・・・か。どうする?今から追いかけても俺達は巻き込まれるだけだけど・・・」

「・・・行くよ。キリト君を見殺しに・・・できないから」

「・・・わかった。じゃあ急ごう」

「・・・うん!」































































早貴~

「・・・」

目の前には世界樹の内部へと続く道があった。

「咲・・・本当に行く気なの?」

詠の言葉に頷く。

「・・・そう、そうよね・・・家族の為に戦うのがボクたちだったわね・・・」

「へぇ、詠がそんなこと言うなんてな」

「正直かなり恥ずかしいわよ。けど・・・悪くは、ないわ」

「はは・・・じゃ、隠れてて。・・・リパル、いい?」

『何時でも』

「・・・何時もありがとう」

俺はキリトを見る。

「キリト・・・」

「ああ、分かってる」

「パパ、お姉ちゃん・・・がんばって」

ユイの頭をキリトが撫で、キリトは剣を抜き放った。クエストに挑戦する為に軽いメッセージを見て、進む。中へとても広い円形のドーム上。遥か上には扉が見えた。あれが・・・ゴール。

「・・・行けッ!!」

キリトが叫び、飛ぶ。俺も続くように真上に向かって飛んだ。
しばらく飛べば無数に張り巡らされた光の窓から白銀の鎧を纏った騎士が現れた。

「あれが・・・邪魔だぁぁぁぁぁ!!」

『か、数が多すぎるッス・・・』

「分かってる!!リパルは最短ルートを頼む!!」

『・・・っ!・・・了解!』


無茶なのは分かってる。でも・・・もう俺を維持できない程にわたしは焦っていた。

「・・・わぁぁぁぁぁ!!」

直線軌道でAIを混乱させ、死角から剣で切り裂く。空中戦なら・・・負けない!!

「うああああ!!」

絶叫。キリトを見る余裕なんてない。ただひたすら、飛び、斬り、突き、蹴り・・・どんどん凪ぎ払う。



「負けない・・・わたしはぁ!」

次々迫る騎士を目についたものから剣を振るう。・・・横からも斬撃の音。・・・キリトもまだ無事なようだ。・・・その時だった。

『!?・・・更に反応増大!十・・・百・・・それ以上ッス!』

「・・・!?」

リパルの言葉通り、すぐに大量の騎士が生み出される。

「・・・っ!」

今なら退けるかもしれない。けど・・・わたしは逃げない・・・二度と!


「わぁぁぁぁ!」

「うぉぉぉぉ!」

こちらが硬直しないように的確に回避し、一撃で仕留める。だが・・・遂に、というべきか・・・仕留めきれず、剣を弾かれた。ダークリパルサーを離しはしなかったが・・・多くの騎士がわたしに狙いを定めた。不味い・・・!



「しょうが・・・ないわね!」

詠がわたしのポケットから飛び出し・・・その身を光が包んだ。

「はあぁぁぁ!!」

光が消えると詠は人の姿になり、仕留めそこなった騎士を剣で両断する。

「ふっ・・・!」

そして騎士が消滅する前にその体を蹴り、勢いを付けてわたしの背後にいた騎士を切り裂く。そして体を蹴って・・・を繰り返す。・・・そうだ、詠には翅がない。だから“跳ぶ”ことはできても“飛ぶ”ことは出来ない。

「さっさと行きなさい!!」

「・・・ごめん!」

「謝罪なんかほしくない・・・わ・・・」

ザシュ

「ーーーー!」

背後から聞こえたさっきの鎧を砕く音とは違う音・・・わたしは振り返ることが出来なかった。

「ったく・・・串刺しに縁あるわね・・・ボクは・・・」

それを最後に、背後からの音は消える。

『・・・咲さん・・・』

「・・・わぁぁぁぁぁぁぁ!!」

全てを振り払うように叫び、また突き進む。守らなきゃいけない・・・わたしの大切な人を・・・

「・・・!」

・・・だけど、それは俺の守りたいものを・・・詠を犠牲にしてまで・・・わたしは・・・わたしは・・・!


『咲さん!回避を・・・!』

「え・・・」

ドスッ!

「・・・!」

光の矢が・・・刺さっていた。けど怯む程じゃない。愛依の記憶にあった光の矢はもっと大きく・・・もっと殺意があった・・・!

「っ・・・ぁぁぁああああ!!」



翅を震わせ・・・もっと高く・・・高く!・・・見上げればあと少しというところにゴールはあった。もしかしたら距離感が狂っているかもしれない・・・けど・・・届く距離に確実にアレはある。

「・・・っ!」


大量の矢が降り注ぐ。弾き、かわすがもう何発かは当たろうが気にしない。

『咲さんッ!!』

リパルの声が響いた瞬間・・・何かに身を貫かれた。

「あ・・・れ・・・?」

振り替えればそこには剣を投げたであろう騎士の姿・・・その兜はまるで笑っているかのような・・・

ドスッ、ガスッ

「ーーーーー」

動きが止まり、四方八方から剣が放たれる。・・・HPを確認するまでもなかった。わたしの体は水色の炎に包まれ・・・目の前には《You are dead》の文字。・・・死んだんだ。わたしは・・・

(お姉・・・ちゃん・・・)

体の感覚はなく、既にわたしは消えるのを待つだけになった。少し上には灰色の炎・・・キリトもやられたようだ。

(無理なんだ・・・わたしなんかじゃ・・・)

騎士達はそのまま退こうとするが・・・動きが止まった。

(・・・?)

下を見ると・・・二つの影が凄まじいスピードで飛んできた。近づくにつれ・・・それは・・・

「咲!」

「キリト君!!」

亮と・・・リーファだ。亮はわたしのリメインライトを掴み、叫ぶ。

「リーファ!撤退!」

「うん!」

そのまま二人は何発も被弾しながらギリギリ逃げ切り、殆ど転がるように着地した。そしてリーファが何かのアイテムを使うと・・・再び体に感覚が蘇った・・・









































亮~

「ふぅ・・・間に合ってよかったよ」

俺はため息を吐きながら自分も回復させる。

「詠さん、平気ですか?」

「ええ・・・最っ高の気分よ・・・」

人の姿に戻った亞莎が詠に肩を貸していた。詠は入口付近で倒れており、亞莎に任せたのだ。

「・・・ええっと、亞莎ちゃんに詠ちゃん・・・なんだよね?」

リーファが怪訝そうに聞く。

「そうよ。それ以外の何かに見える?」

「見えてると思いますよ・・・」

その時、キリトが立ち上がった。

「ありがとう、リーファ。でも、あんな無茶はしないでくれ。これ以上迷惑はかくたくない」

「迷惑なんて・・・あたし・・・」


キリトはすぐにまた内部に進もうとする。

「おい、兄貴・・・!」

「き、キリト君!!まって・・・無理だよ!」

「そうかもしれない・・・でも、行かなきゃ・・・」

そう言ったキリトにリーファは・・・抱きついた。

「もう・・・もう止めて・・・いつものキリト君に戻ってよ・・・あたし・・・あたし、キリト君のこと・・・」

・・・その言葉・・・リーファはもしかしてキリトのことを・・・

「リーファ・・・ごめん・・・あそこに行かないと、何も終わらないし、何も始まらないんだ。会わなきゃいけないんだ、もう一度・・・」

キリトは息を一度吸ってから続ける。

「もう一度・・・アスナに・・・」

その時だった。リーファが目を見開き、後退った。

「・・・いま・・・いま、何て・・・言ったの・・・」

キリトはリーファを見て言う。

「ああ・・・アスナ、俺の捜している人の名前だよ」

「でも・・・だって、その人は・・・」

リーファが震えながら・・・口にした。

「・・・お兄ちゃん・・・なの・・・?」

「え・・・?」

「・・・?」

そしてハッとした表情でリーファは俺を見る。

「じゃあ、じゃあ・・・亮お兄ちゃん・・・?」

「ーーーー!」

それで察した。その呼び方をする奴なんて・・・この世界には一人しかいないから。

「スグ・・・」

「直葉・・・なのか・・・?」

リーファがそれを聞いて更に後退る。

「・・・酷いよ・・・あんまりだよ、こんなの・・・」

そう言ってリーファは・・・直葉はウィンドウを操作し・・・ログアウトした。

「お、おい、スグ!?」

キリトが慌てて追いかけるようにログアウトする。俺もウィンドウを操作する。

「亞莎、咲、詠。悪い、少しログアウトする!」

「は、はい」

「・・・」

座ったままの咲を横目に俺はログアウトボタンを押した・・・・・・










 
 

 
後書き

「更新遅いなぁ・・・」

早貴
「1ヶ月は経ってるぞ・・・絶対失踪したと思われてるよ」


「さて、と・・・ALOもあと少しかな・・・それじゃ、次回もよろしく!」 

 

兄妹喧嘩~

 
前書き
っらぁ!気合いで素早く書きました(笑)ではどうぞ。 

 
早貴~

「・・・」

わたしは亮がログアウトした後も座り込んでいた。

「・・・」

『咲さん・・・』

「・・・」

「ちょっと、咲」

詠が話しかけてくる。

「回復してない訳じゃないんでしょ?次はどうやって突破するか考えて・・・」

「・・・無理だよ」

「・・・え?」

「無理だって言ったの。わたしなんかの力じゃ無理・・・」

(無理なんかじゃない・・・!不可能なんてない!)

意識と思考が分離し、離れていく。俺の考えは最早わたしとは真反対にあった。

「・・・ふざけんじゃないわよ。なにヘタレてんのよ!」

「うるさい!もうやだ!なんで何時もわたしばっかり!わたしが何か悪いことしたの!?ただ普通に生きてただけなのに!なんでぇ・・・!」

「・・・(ギリッ)」

「やだぁ!返してよ!お姉ちゃんも何もしてないのに!おかしいよぉ!」

「・・・甘っ・・・たれるなぁ!!!」

パァン!


「あ・・・」

詠に・・・叩かれていた。

「なんで・・・なんで叩くのよ!」

パン!

咄嗟に反撃。詠も負けじとまた叩き、わたしを無理矢理立たせる。

「甘ったれんなって言ってんのよ!なんでわたしばっかりですって!?別にあんただけが辛い訳じゃないでしょ!?キリトも亮も!今はきっとリーファだって!いや、そもそもSAOに巻き込まれた人だってそうよ!醜いこと言ってんじゃないわよ!」

パァン!

「さっきからパンパンパンパン・・・いったいのよ!」

痛覚なんてないけど、何故か平手が痛かった。わたしは詠と叩き合いの取っ組み合いを始める。

「え、詠さん!咲さん!」

『止めて下さいッス!』

亞莎とリパルが止めに入るが・・・止まる筈がない。

「あんたみたいな我が侭な妹がいてアスナも大変だったでしょう、ね!」

「なんですってぇ!?この、人が苛立つことばっかり口にして!」

「軍師なんだから相手の心理くらいわかるわよ!そんなことも解らないのかしら!?」

「・・・こんのぉ!」

平手と平手がどんどん相手の頬を叩く。きっと現実だったらお互いの頬は真っ赤だろう。

「とにか、く!諦めてんじゃ、ないわよ!」

「なん、で!あなたがそんなこと、決めるのよ!」



「アンタは“サキ”なんでしょ!?ボクの知ってる“咲”はねぇ、どんな壁にぶち当たっても、心が折れそうになっても最後は必ず突き進んだ!勝ち取った!あんたもサキなら・・・こんな壁くらいでへこたれてんじゃないわよ!!!」

ガツン!

平手ではなく、拳が飛んできて殴り飛ばされた。

「っぅ・・・!?」

「はぁ・・・はぁ・・・咲は・・・わざわざ別世界にいたボクを迎えに来てくれた・・・けど早貴・・・あんたの姉は同じ世界にいるんでしょ・・・?ボクに比べたら全然近くにいるでしょ?アスナが助けを求めて手を伸ばしてるのに、アンタが手を伸ばさなくてどうすんのよ」

「・・・」

・・・全部吐き出したからか、それとも叩き合いをしたかなのか解らないが、心は落ち着き、分離していた意識が一つに戻っていく。

「・・・詠」

「・・・何よ。まだ文句でも・・・」

俺は詠を見て・・・笑った。

「もう少し手加減して殴ってもいいんじゃねぇの?」

「え・・・」

立ち上がり、再び詠の目をまっすぐ見る。

「俺のこと、そんな風に見ていてくれて・・・そして・・・」

わたしに切り替え、違う笑みを浮かべる。

「わたしを俺じゃなく・・・ちゃんとわたしとして見てくれたんだね、詠・・・」


詠はそっぽ向いて頬を掻く。

「・・・ま、当然でしょ。咲とアンタは違うんだから」

「そっか。・・・ありがとう、俺の愛する人。そしてわたしの大切な友達」

「・・・ふん」

「あぁ・・・よかったです。端から見てて凄い怖かったです・・・」

『亞莎さんより間近にいたオイラの方が恐かったッス・・・』

「あはは・・・悪い、リパル。亞莎もな」

「いえ・・・元の鞘ならそれで・・・」
「いや・・・お姉ちゃんを助けてからじゃないと。それに・・・次は桐ヶ谷家を何とかしないと」


「亮さん達・・・ですか?」

「・・・だってさ、普通だったら実は兄妹でしたー、なら笑って済むレベルだろ?それなのにリーファはあんなリアクション・・・まぁ、失恋した相手ってのはキリト・・・和人さんだろうね・・・まったく、俺の妹が~って奴か」

『若干違うッスけどね・・・』

「さて、じゃあ様子を聞いてくるよ。しばらく待っててくれ」

「ええ、わかったわ」

俺はログアウトボタンを押す。・・・一波乱あるよな、これ・・・












































亮~


ナーヴギアを外し、俺は急いで直葉の部屋に向かう。和人も部屋から出てきて、一緒に直葉の部屋の前に立つ。

「おい、直葉・・・」

「スグ、いいか?」

「やめて!!開けないで!」

ドアの向こうから直葉が叫んだ。

「一人に・・・しておいて・・・」

「どうしたんだよ直葉・・・確かに驚いたけど・・・もしかしてナーヴギアを使ったのを怒ってるのか?」

「・・・だとしたら謝るよ。どうしても必要だったんだ」

「違うよ、そうじゃない」

不意にドアが開いた。そこには涙を流す直葉がいた。

「直葉・・・」

「あたし・・・あたし・・・あたし、自分の心を裏切った。お兄ちゃんを好きな気持ちを裏切った」

その言葉に俺達を驚いた。その表現は兄妹愛での“好き”じゃなかったからだ。

「全部忘れて、諦めて、キリト君のことを好きになろうと思った。ううん、もうなってたよ。・・・なのに・・・それなのに・・・」

「好き・・・って・・・だって、俺達・・・」

和人の疑問は最もだが・・・続く直葉の言葉を聞いて、納得した。

「知ってるの」

「・・・え・・・?」

「あたしももう、知ってるんだよ」

それが何かなんて聞く必要もなかった・・・

「あたしとお兄ちゃんは、本当の兄妹じゃない。あたしはそのことを、もう二年も前から知ってるの!!」

・・・そうか、そうだったんだ。それなら・・・きっと直葉の感情はおかしくない。血は繋がっていても、本当の兄妹じゃない異性。ましてや直葉は年頃だ。・・・気になって、“恋”に発展するのもあり得なくないんだ。・・・ふと、直葉が俺を見た。

「亮お兄ちゃん・・・知ってたんでしょ・・・お兄ちゃんのこと・・・」

「・・・うん、SAOで教えて貰った・・・」

「そっか・・・」

続く直葉の言葉に・・・俺は絶句した。

「亮お兄ちゃん、内心で笑ってるんでしょ?」

「え・・・」

いきなり、何を・・・

「愉快だもんね。こんな状況・・・笑っていいんだよ?」

「な、何言ってるんだ。こんな状況で・・・」

「だってそうでしょ!?」

「・・・!?」

「この間はああ言ってたけど・・・嘘だよ!“亮”は絶対にあたしを恨んでるんだ!目を見えなくしちゃって、剣道も続けられなくなっちゃって・・・!」


「そんな訳ないだろ!直葉を恨む必要なんて・・・!」

「あたしの目を見ようとしなかったのに!?」

「・・・!?」

「亮・・・剣道を止めてから、あの世界に閉じ込められちゃうまで・・・一度も目を合わせてくれなかったじゃない!それなのに帰ってきてくれてからいきなり話しかけてきて、優しくなって・・・怖かった・・・!この人は何を考えてるんだろうって・・・久し振りにまっすぐに見れたのに・・・別人みたいだった・・・」


「それは・・・」

あの世界でいろいろあったから、ただ仲直りしたくて・・・だがそれを言う前に直葉が言った。

「亮の・・・亮のことをそんな風に疑うんだったら・・・今まで通りでよかった!!あたしをずっと無視してくれればよかったのにっ!!」

「あ・・・」

きっと、直葉も頭の中が混乱しているんだと思う。そうだ、そうなんだ。だから急いでフォローしないと・・・そう思って俺は下がっていた視線を上げる。・・・あ。

「・・・」

「ーーーーー」

直葉の顔は・・・あの時と・・・俺が目を潰してしまった時と同じ顔をしていた。そして気付いた。また俺は・・・直葉から目を逸らしていたことに。

「う・・・あ・・・」

言葉が出ない。周りの景色や、音が、遠ざかっていく。・・・気付くチャンスは、あったんだ。直葉の・・・リーファの異変に気付くチャンスなんて幾らでもあった筈なんだ。だけど俺はそれをあえて気にしなかった。また、崩れてしまうのが怖かったから。その行動がひび割れを大きくしていき・・・今、とてつもないほど・・・直すのが困難な程に崩れてしまった。直葉が何かを和人に言うが・・・俺の耳には届かない。

「・・・もう、放っておいて」

直葉はその言葉を最後に・・・ドアを閉じた。俺はそのままよろめき、壁にぶつかって座り込んでしまう。

「亮・・・」

多分、和人も同じ風に座り込もうとしたのだろう。だが先に俺が崩れたから・・・和人は崩れなかった。

「・・・最悪な・・・兄だ、俺は」

「亮・・・違う、お前は・・・」

「普通・・・兄は妹を守らなきゃいけないのに・・・笑顔にしなきゃいけないのに・・・それなのに・・・!」

俺は和人を見る。ふと、涙が零れた。

「俺はまた、直葉から笑顔を奪ったんだ・・・!それだけじゃない、俺は、俺はサチも・・・」

「亮!」

「・・・!」

「お前だけのせいじゃない。俺だって同じなんだ。直葉があんな風に俺を思っていてくれたのに、俺は無神経に何度もアスナの話を出した。・・・笑顔を奪ったのは、お前じゃない・・・」

「・・・だけど・・・」

自分を許せなかった。

「何が・・・みんなを助けるだ・・・妹の笑顔すら守れないで・・・!」


~~~~♪

「・・・亮、お前の携帯じゃないか・・・?」


「・・・」

出たくなかった。俺にかけてくるのは今は綾野さんか咲しかないからだ。どっちにも・・・今の俺を隠せそうになかった。すると和人が取ってきたのか、携帯を渡してきた。

「・・・」

表示された番号は・・・咲のものだ。

「出ろよ。きっと心配してるだろうから・・・」

「・・・」

俺はゆっくり携帯を耳に当てる。

「・・・」

『もしもし?亮、聞こえるか?』

「・・・ああ」

『・・・一波乱、あったみたいだな』

「・・・」

『解りきってたさ。物語に波乱は付き物だからな・・・リーファは?』

「・・・部屋で・・・泣いてる」

『わかった。じゃあ・・・“わたし”に話をさせてくれない?』

「え・・・?」

『女同士なら吐き出せるかもしれないし・・・それに』

「・・・」

『逃げる訳にはいかないんだろ?』

「でも、もう・・・」

『考えんな。何度も言ってんだろ?ドツボにハマるんだから、考えるなって。お前には言葉じゃなくてもまっすぐぶつけられるもんがあるだろ?』

「それは・・・」

『当たって砕けろよ。そっちの方が気持ちは伝わるぜ』

「・・・砕けちゃ、駄目だろ」

『はは、そうだな。・・・んじゃ、よろしく』

「・・・ああ」

俺は立ち上がり、部屋のドアを叩く。

「直葉、咲から電話が来てる」

「・・・話したくない」


「いいから出ろ。・・・待たせてんだからさ」

・・・しばらく間があってからドアが開いた、直葉は俯きながら、手を出してくる。俺は携帯を手渡しながら言う。

「直葉、電話が終わってからでいいから・・・“向こう”で、待ってる」

向こう、という言葉を理解したのか直葉はぴくん、と反応する。そして俺は自分の部屋に向かう。

「じゃあ、先に話をつけてくるよ、兄貴」

「ああ、俺もすぐに行く」

部屋に入ってナーヴギアを被り・・・

「リンク・スタート!」



次に目を開いた時にはケットシーのコウハになっていた。

「亮さん」

「ん・・・ああ」

亞莎と詠がいた。・・・と?

「詠?頬を擦ってどうしたんだ?」

「え?・・・別に、ちょっとした戦闘しただけよ」

「ふーん・・・」

「あの、リーファさんは・・・」

「・・・まだ解決はしてないよ。これから・・・」

背後から・・・リーファがやって来た。

「・・・話をするんだ。亞莎、詠。ここで待っていて」

「・・・分かりました」



俺はリーファを見る。視線を逸らさないように・・・まっすぐに。

「場所、変えよっか」

「・・・」

俺達は飛び、ちょっとした通路みたいなところに移動する。

「うん、ここなら誰も来ないか」

俺は大きく息を吸う。

「・・・百本勝負、覚えてる?」

「え・・・」

「確かお互い同点で、後一戦残ってたよね」

「そ、そうだけど・・・」

俺は武器を外し、迷切を構える。

(迷いを切る・・・か。今の俺にはピッタリな武器だよ)



「リーファ・・・ごめん。確かに目が見えなくなったことには多少意識してた。けど、それは恨みとかじゃない・・・って言っても信じてくれないよな」

「・・・」

「言葉じゃきっとお前は納得しないよね。だから・・・剣で示す。剣の道を歩んだお前だったら・・・きっと理解できる筈だ」

「亮、お兄ちゃん・・・」

「俺は逃げない。俺はお前とまっすぐ向き合う。だから・・・お前も全力で来い。最初で最後の・・・本気の兄妹喧嘩だ」

「・・・わかった。あたしも・・・そうする」


リーファも剣を構えた。

「リーファ・・・いや、直葉。あん時の決着、つけようぜ」

子供の頃に競いあった・・・お互いの意地をかけた試合。

「うん・・・いくよ!」

ガキャアン!

お互いが取った行動はまったく同じ・・・真っ正面からの縦斬りだ。リーファがすぐに刀を返し、胴を狙うが、俺は半歩後退りをしてそれを回避。その隙を狙って突きを放つが、勢いに任せて回転斬りを放った刃に弾かれる。・・・お互いに飛ぶ気はなかった。いや、そんな余裕はなかった。

「らぁぁぁぁ!!」
「やぁぁぁぁ!!」

動きの予測なんてしない。ただ振るわれたら防ぎ、振るったら防がれる。お互いの反射神経をフル活用しての斬り合いだった。もし他人がいれば演舞か何かだと思うだろう。それほどまでにお互いの力は拮抗していた。

「ふっ!」

「っ!?」

リーファの突きが頬を掠った。だが怯まずに横に振るう。・・・リーファの腕を浅く斬った。決定打こそないものの、徐々に・・・徐々にお互いのHPと集中力を磨り減らしていく。

「っおお!」

「たああ!」

得意の体術は使わない。あくまで俺の目的は迷いの無い太刀筋でリーファに・・・直葉に後ろめたい気持ちがないことを証明すること・・・

「(ただ・・・まっすぐに!)」

体が軽くなり、更に速度を上げる。周りの景色が消え、リーファだけが視界に映る。

「ずぇぇぁぁ!」

ヒュン!

「・・・っく!?」

突きを避けたリーファの体制が崩れた。

「らぁっ!」

全力の縦斬り。

ガキィン!

「っ・・・あ・・・!」

さすが、というべきかリーファはすぐに防御に刀を回し、防いだ。だが・・・ラッシュは終わらない。


「ややややっ!!」

斜め、横、縦。可能な限りの斬撃がリーファに迫るが、リーファはそれを的確に捌いていく。

「(凄いよ直葉・・・今の俺は本気なのに・・・!)」

別世界の人間と遜色のない戦闘能力。ここで油断をすれば流れを持ってかれる。

「たぁぁ!」

ビュン!

「っ!?」

攻めに転じていた俺はリーファの一撃を避けきれずに胴に掠るが・・・どうやら、先に集中力を切らしたのはリーファだったようだ。

「っおぉぉああっ!」

思いきり切り上げる。

ザシュ!

「っ・・・!?」

リーファは当たる直前に後ろに跳び、直撃は避けたようだが・・・

「逃がすか・・・!」

ここで決めなきゃチャンスはやってこない。俺は足に力を籠め、思い切り地を蹴った。

「これが・・・俺の思いだぁぁぁぁ!!」

すれ違いざまに・・・全力で迷切を振り抜いた・・・


「・・・」

「・・・」

時が止まった。全てが止まった中・・・金属音と何かが倒れる音で再び時が動いた。

「ふぅ・・・」

振り返り、仰向けに倒れるリーファに向かって口を開く。

「・・・百本勝負は俺の・・・勝ちだな」


「・・・あーあ」

リーファは一度ため息を吐いてから・・・笑った。

「・・・負けちゃった」

しばらく、二人で笑いあってから・・・・・俺はリーファに手を差し出した。

「ほら」

「ん・・・ありがと」

俺はリーファを見る。

「・・・気持ち、通じた?」

「・・・うん。とってもまっすぐだった。まっすぐで・・・強かった」

「・・・じゃあ、今の内に俺が直葉に対して今まで感じていた気持ちを白状しとくよ。実はさ・・・俺、直葉に恨まれてると思った」

「え!?」

「俺が剣道を止めたせいで直葉は他にやりたいことがあってもやれなかったんじゃないかって・・・」

「そ、そんなこと・・・!」

「ああ、なかった。それは普段の直葉や、今の太刀筋を見れば充分伝わった。・・・好きで剣道続けたんだなって。・・・きっと俺の不安を直葉は勘違いしちゃったんだと思う。当然、俺も勘違いしてた訳だけど」

「・・・」

「でもさ、こうやって本気で戦ってお互いの気持ち吐き出して・・・スッキリした。なんて下らなかったんだろうってね」
「亮お兄ちゃん・・・」

「・・・スッキリついでに、言うよ」


俺は手をもう一度差し出す。

「もっかいやり直そっか。今度は後腐れなく、後ろ髪引かれることもなく・・・誰が見ても仲良しな兄妹に・・・戻ろっか」

リーファは・・・俺の手を掴んだ。

「うん。また一杯剣道の話しとかして、変なことで笑って、今までの分亮お兄ちゃんと・・・仲良しになろう?」

・・・さて、と。後は・・・

「しかし、直葉が和人のこと好きなんてな・・・」

「ぶはっ!・・・な、なな何でこの空気で言うかなぁ・・・」

するとリーファはバツが悪そうに下を見る。

「やっぱり・・・変かなぁ」

「いや、いいんじゃないか?・・・まぁ、マジな兄妹なら止めに入るけどな・・・本気で好きなら全力でぶつかれ。撃沈したら好きなだけ泣いて次の恋を探せ・・・人間だし、どんな恋愛をしてもいいんじゃないか?」


「・・・そう、かな」

「ライバルが強すぎるけどな。とんでもなく強敵だぞ」

「でも・・・やっぱり諦められないよ」

「そこまで決意が強いなら行ってこい。・・・兄貴とも話をつけるんだろ?」

「うん。じゃあ、行ってくるね」

「おう。頑張ってな」

リーファはそう言って飛んでいく。俺はそれを見送ってから座る。

「はぁ~~~~・・・」



力が抜けた。なんか、ホッとしたのだ。まだ思春もアスナも助けてはいないが、まず一つ・・・山を越えた。・・・あ・・・

「リーファを回復させんの忘れてたな・・・ま、リーファが自分でやるか」

しばらく休んでから再び内部入り口の前に移動すると・・・

「あ・・・」

「あれ、君は・・・」

シルフの・・・レコンだ。どうして・・・

「どうしてここに?」

「ええと・・・」

・・・聞けば苦笑してしまった。彼はシグルドたちに捕らえられていたらしく、シグルドがいない隙に麻痺解除でシグルドと通じていたサラマンダー二人を毒殺。シルフ領にシグルドがいなかったので仕方なくアクティブなモンスターをトレイン(引き連れ)しては他人に押し付けを繰り返し・・・ここに辿り着いたそうだ。完全にマナー違反だが・・・少しその手際がウチの部隊に欲しいと思った。軽いアサシンの資質がある、うん。

「リーファと会ったのかな?」

「あ、はい。・・・勢いで告白してドつかれました・・・」

「え?・・・はは」

少し笑ってしまった。そっか、直葉のクラスメートだったな、こいつ。

「君はリーファとリアルでも友達なんだよね?彼女のことが好きなのか?」

「は、はい。そりゃもう・・・」

「彼女のためなら何でもすると?」

「はい!リーファちゃんが望むなら・・・何でも!」

「くく・・・頑張りたまえ、少年」

なるほどねぇ・・・少年言われるのは嫌いだが・・・言いたくなる気持ちは分かる気がする。

「コウハさん、その様子ですと無事解決したんですね?」

「ああ。無事にね」

会話が終わるまで待ってくれていた亞莎が喋ると・・・レコンが目を丸くした。

「あ、あれ?NPCじゃない・・・?」

あ、そっか。亞莎と詠の姿って今は普通の人間と同じなんだ。・・・その時、サキがやって来た。

「よっ」

「・・・解決したんだな」

咲がそう言って俺に耳打ちする。

「(直葉ちゃん、凄く泣いてたぞ)」

「(・・・解決したのにそんなこと言いますか・・・)」


咲は嫌みっぽく笑った。レコンがおずおずと話しかけてくる。

「あの、あなたは・・・」

あー、咲が合流したのは遅かったな。

「ええと・・・」


「レコンって言ってリーファの友達なんだよ」

「ああ・・・」

咲がレコンを見て、手を差し出しながら微笑む。

「初めまして、レコン。わたしはサキっていうの。よろしくね」

レコンは頷きながら咲が差し出した手を両手で掴み、鼻の下を伸ばす。

「こ、こここちらこそ、はじ、初めまして!」

「リーファ一筋じゃないのかぁ・・・?」


そう言うとレコンは慌ててシャキッとなる。

「そ、そうだ。僕にはリーファちゃんが・・・!」

「くす・・・面白いね、キミ」


・・・その時、リーファと・・・キリトが飛んできた。


「・・・ぶつかったか?リーファ」

「うん・・・文字通りに・・・ね」

俺はあえて何があったか深く聞かなかった。さて、俺達は再び世界樹に挑もうとする。間近で全ての戦闘を見続けたユイとリパルに話を聞くと、どうやら騎士の強さはあまり無茶なものではなく、一、二撃で倒せるらしい・・・が、ゴールに近づくにつれ、ポップする量が増え・・・最終的には秒間十二体だそうだ。普通に考えれば攻略不可だが・・・そこでSAOのデータを引き継いだ俺達の出番だ。二人が言うに瞬間突破力ならいけるかもしれないそうだ。・・・そして、猶予がないかもしれないと判断したキリトの意思で、急いで内部に行く。

「亞莎・・・いいのか?」

人解を装着した亞莎が頷く。

「はい。足手まといかもしれませんが、微力ながらお手伝いします」

「詠・・・無茶はすんなよ」

「何回同じこと言うのよ。ボクが咲に言っても無茶するくせに」

「む・・・」

「サキ、助けたいと思ったんなら、必ず助けなさい。いい?」

「・・・わかった」

翅を持たない二人は上手く跳んでやるらしい。基本的に亞莎と詠とレコンとリーファが援護、俺達三人が突っ込む。


「・・・行くぞ!!」


キリトの掛け声で俺達は一気に地を蹴る。リーファとレコンは地面近くで回復に専念。俺達は真っ正面から迫る騎士を・・・一撃で斬り伏せる。確かに一匹一匹は強くないようだ。だが・・・

「マジかよ・・・」

既に大量の騎士が出現していた。ふと意識が逸れた瞬間に横から騎士が・・・!

ストン!

「っ!」

「亮さんたちの邪魔はさせません!」

壁を蹴って暗器を投げ、動きを止めた騎士に向かって・・・亞莎は拳を突き出した。

ガシャァン!

鎧を粉砕。亞莎は騎士の残骸で跳ぶ。・・・すげぇ。・・・その時。

「レコン、逃げて!」

「ーーーー!」

気づけば騎士の大半が俺達ではなく、レコンにタゲが向いていた。・・・どうやら気づかぬ内に騎士は回復の二人を狙っていたようだ。

「くっ、間に合わない・・・!」

詠が歯を食い縛る。・・・いや、間に合ったとしても・・・この状況、誰も助けにいけない。少しでもタイムロスをすれば新しい騎士に道を阻まれ、クリアは不可能だ。それを理解したからこそ、レコンはあえて弱いが広範囲に放てる魔法でできる限り自分にタゲを集めていた。

「・・・っ!」

そして、ついにレコンが追い詰められたと思った時・・・彼の身の回りに紫の魔方陣が展開した。

『あれは・・・闇魔法ッス!』


この状況で何を・・・そう思った瞬間、光が視界を埋め尽くした。続いて爆音。・・・光が収まった時・・・大量にいた騎士が消滅していた。


「すご・・・」

咲が呟く。だが・・・その後には緑色のリメインライトが浮いていた。


『・・・自爆魔法ッス。かなりの威力ッスけど、代償に何倍ものデスペナルティが課せられるッス・・・』


「・・・」

俺達は言葉が出せなかった。

「レコン・・・」

今までの努力が犠牲になる技・・・だがそれをレコンは使った。・・・彼にも意地があった。覚悟があった。それは、俺達を奮い起たせるには充分だった。

「うおおおお!!」

「はああああ!!」

「やああああ!!」


だが、だがそれでも・・・無慈悲にも騎士は生み出される。ふと上を見れば、詠唱を行う騎士がいた。不味い・・・焦りが見えた時に・・・背後から大声が聞こえた。

「っ!?」

振り返ると、そこには大量の竜がいた。驚きながらリーファを見ると・・・その傍らにシルフとケットシーの領主・・・サクヤとアリシャがいた。二人とも、助けに来てくれたのだ。

「はは・・・」

ケットシーの一人が俺の間近に飛竜を連れてきた。

「アリシャ様がこれを使えと仰っていた!」

「は、はい!・・・アリシャさん、一匹借ります!」

それが聞こえたのかアリシャはブンブンと手を振ってきた。

「ーーーーーー!」
スペルを詠唱。一応テイムのスキルは上げている。飛竜も乗りこなせるくらいには鍛えた。

「亞莎、詠!乗れ!」


二人が飛竜に飛び乗る。


「ファイアブレス、発射ぁ!」

俺の乗る飛竜が紅蓮の業火を吐き出す。・・・凄まじい威力だ。背後からも炎や緑色の雷が次々に騎士を葬る。・・・だが、まだだ。まだ足りない。


『・・・咲さん!これを使って下さいッス!』

すると咲の手に小瓶が現れた。

「なんだ、これ・・・?」

『いいから早く!』

「あ、ああ!」

咲が小瓶の蓋を外す・・・瞬間、音が流れ出した。

「え・・・?」

音楽だ。とても綺麗な・・・聴いているだけで、力が湧いてくるような・・・

「・・・」

キリトやリーファ、詠や亞莎にも同様の効果があったようだ。・・・その時、混雑した空間の中に・・・男がいた。パッと見ではサラマンダーと思う程に真っ赤な男。だがそいつが持つ笛が、奏でる音楽が彼をプーカだと証明する。男は笛を口から離し、こっちを見て不敵に笑った。


ーーーとっとと行けよ、少年たち?ーーー





・・・そう言って男の姿は消えた。あれが誰か・・・なんて考える必要もなかった。


「・・・っとに、お節介な奴が多いなぁ、俺の仲間には・・・」

咲がそう言って、上を見る。

「キリト!!コウハ!!一気に行くぞ!!」

「ああ!!」

「おう!!」

音楽の効果は知らないが、きっと・・・絶対に俺達を強くしてくれた。飛竜の火力に頼るまでもない。

「亞莎、飛竜頼む!」

「え、ええ!?そ、そんな・・・」

「大丈夫、簡単だから!」

「う、うぅぅ・・・わ、分かりました・・・」

飛竜を踏み台に、飛ぶ。蹴りと斬りを使って騎士を蹴散らす。


『・・・!?咲さん、騎士とは違う何かの反応が上から・・・!』

「何っ!?」

「咲、危ない!」

俺は咲に襲い掛かった斬撃を擬音で防ぐ。

チリン、チリン

「ーーーー!!」

鈴の音が聞こえた。それも俺の擬音だけじゃない、相手の曲刀からも、だ。俺はゆっくりと相手の顔を見た。

「あ、ああぁぁ・・・!!」

見た目は妖精だった。けど、その顔には見覚えがあった。見間違える訳がなかった。

「・・・思、春・・・!」

力が緩み、一気に弾かれた。

「ぐうっ・・・!」

「亮!」

「構わず行け!!」

少なくとも俺の目標・・・捜した人は目の前にいる。俺は思春を見た・・・・・・







































早貴~



弾き飛ばされた亮を横目に、俺とキリトはすぐに突撃を再開する。数に押されかけるが・・・横からリーファが突っ込み、薙ぎ払った。

「スグ・・・援護頼む!」

「任せて!」

流石兄妹と言うべきか、見事な連携で敵を打ち倒す。タゲがどんどん集まり・・・

「(今か・・・!)リパル、ハンドアックスを頼む!」

『了解ッス!』

一気に飛び、ゴールに向かって突っ込む。右のハンドアックスと左のダークリパルサー。二つの斬撃がさっきよりも手早く叩き落とす。

「届く・・・あと少し・・・!」



だが、あり得ないスピードで騎士が出現してくる。くそっ・・・諦められるか・・・その時、

「キリト君!!」

リーファがキリトに向かって刀を投げる。それをキリトは受け取り、大剣を合わせて二刀流で突っ込んだ。

「う・・・おおおおおおーーーー!!」

爆発的なスピードでキリトが突き進む。

「最高だよ、お義兄さん・・・!」

俺も便乗し、突き進む。

「行けるよな、リパル!」

『いけるッス!この勢いなら・・・抜けるッス!』


そして・・・騎士の群れを、突き抜けた。


「よし・・・!」

目的地のゲートに着地するが・・・

「・・・開かない・・・!?」


「ええ!?」

「ユイ、どういうことだ!?」

「リパル!」

ユイがゲートに触れる。

『これは・・・!』

「この扉は、クエストフラグによってロックされているのではありません!単なるシステム管理者権限によるものです」

「そ、それって・・・!」

『この扉はプレイヤーが開くことは不可能ッス・・・!』

「不可能・・・ってそんな・・・開けられないなんて・・・!」

キリトは俺の言葉を聞いて歯を食い縛ってから・・・何かを思い出したかのようにポケットを探り、カードを取り出した。

「ユイ、これを使え!」

ユイは大きく頷き、カードに触れる。

「コードを転写します!」

するとゲートが発光する。

「・・・転送されます!!パパ、お姉ちゃん、捕まって!」

キリトがユイの手を掴み、キリトが差し出した手を俺は掴む。そして一瞬、意識が空白に呑まれた・・・・・・



 
 

 
後書き

「思春・・・」

早貴
「もうすぐだ・・・もうすぐアスナに会える・・・」


「お互い全力を尽くそうぜ」

早貴
「ああ、それじゃ、次回もよろしく」 

 

奪われた者、奪い返す者~

 
前書き
今回は僕の精神状態的に内容の保証ができません(笑)ちなみに須郷がおかしいと感じるのはアニメ仕様だからです(爆)あと、後書きで下らないことをやっています。ではどうぞ。 

 
突如現れた思春の一撃で俺は地面近くまで弾き飛ばされた。

「く・・・思春、思春なんだろ!?解らないのか!?俺だ、亮だ!」

「知らん、私はロビン・グットフェローだ!」

ガァン!

「っ・・・またこのパターンかよ・・・!!」




もう一撃によって俺は地面に叩き付けられる。

「亮さん!」

「亮お兄ちゃん!」

「来るな!!」

亞莎とリーファを止める。

「はぁっ!」

振り下ろされた鈴音を首を捻って避け、そのまま腹に蹴りを入れる。

「っ・・・」

そして急いで跳ね起き、思春から距離を取り、離れる。


「じゃあ・・・お前は何者だ」

「私はロビン・グットフェロー。妖精王オベイロン様の部下だ」

「・・・!」

俺は息を吐き、気持ちを落ち着かせる。

「なるほどな・・・今回は洗脳系か・・・だったら・・・」

対処法なんて何時も一つだ。迷うことはない。

「全力で・・・ぶつかる!」

この世界ならお互いが死ぬことはない・・・!




















































早貴~

「大丈夫ですか?パパ、お姉ちゃん」
「ああ、ここは・・・」

「リパル、分かる?」


『それが・・・どうやらここの情報はないみたいッス』

「そっか・・・」

「アスナのいる場所は判るか?」

「はい、かなり・・・かなり近いです。上の方・・・こっちです」

俺達は元の姿に戻ったユイのナビを頼りに走り出す。辺りを見渡すとまるで何かの研究所みたいな通路・・・


「この先です!」


途中の別れ道にも迷わず、一気に走り抜け、行く手を塞ぐドアを開け放つ。すると・・・太陽が見えた。

「・・・!」

足元や周りは太い樹の枝だらけ・・・だが・・・

「無いじゃないか・・・空中都市なんて・・・」

ああ、あの男がやりそうなことだ。餌をちらつかして、遊ぶ。

「最低だ・・・」

小さく呟く。そしたらユイが不安そうに俺達の裾を引っ張った。俺とキリトはお互いに目をあわせ、頷いてからまた走り出す。しばらくして見えたものは大きな鳥籠のようなもの。アレには見覚えがあった。アスナの目撃情報にあった鳥籠だ。

「(あと・・・少し・・・!)」

そして鳥籠が目の前に迫り・・・一人の少女が目に入った。・・・一目見ただけではただの妖精かもしれない、けど俺達が見間違える筈がなかった。

「・・・アスナ」

「ママ・・・ママ!!」

ユイが叫び、腕を振ってアスナを閉じ込めていた格子を吹き飛ばした。


「ママーーー!!」

ユイが手を離し、手を広げて叫ぶ。アスナもまた、立ち上がり、ユイを抱き締めた。

「ーーーユイちゃん!!」

二人は抱き締めながら涙を流す。

「ママ・・・」

「ユイ・・・ちゃん・・・」

そしてアスナの視線は、キリトに止まった。

「・・・キリトくん」

「・・・アスナ」

キリトもアスナとユイを抱き締める。
久し振りに見る家族の再開・・・

「・・・ごめん、遅くなった」

「ううん、信じてた。きっとーーー助けに来てくれるって・・・それに」

アスナが俺を見て微笑んだ。

「早貴も、きっと来るって思ってたよ・・・」

「お姉ちゃん・・・わたしってわかるの?」

「もちろん。わたし、お姉ちゃんだもん」


・・・積もる話しは後にして、今は脱出を優先する。アスナをログアウトさせる為には専用のコンソールがいるらしい。というわけで俺達は脱出しようとするが・・・

「・・・!」

「・・・キリト?」

キリトに近寄ろうとした瞬間だった。まるで鳥籠が水中に水没したかのように景色が黒く塗り潰されていく。

「・・・な、なに!?

アスナが叫ぶ。しかも・・・体が動かない。何かにまとわりつかれたように体が重い。・・・更に・・・

「ユイ!?」

突如ユイが悲鳴を上げた・・・だけではなかった。

「リパル!」


『ま、不味いッス・・・!プロテクトが・・・咲さん、逃げーーーーー!』


「みんな・・・気をつけて!何か・・・よくないモノがーーーー!」

言葉が終わる前にユイと腰に下げたダークリパルサーが跡形もなく消滅した。

「ユイちゃん!?」

「リパル!?」

そして直後に凄まじい重力がかかり、わたし達はそのまま倒れ込んだ。

「ぐ・・・うぅ・・・」

立ち上がろうとした時・・・声がした。

「やあ、どうかな、この魔法は?次のアップデートで導入される予定なんだけどね、ちょっと効果が強すぎるかねぇ」

この話し方・・・覚えがあった。幼い頃から何度も聞いた人をバカにしたような声・・・

「・・・須郷!!」

キリトが叫ぶが須郷は笑う。

「チッチッ、この世界でその名前は止めてくれるかなあ。君らの王に向かって呼び捨ても頂けないね。妖精王オベイロン陛下と・・・そう呼べッ!!」

そう須郷は高々と叫んだ・・・


















































亮~



「たぁ!」

迷切を振りかぶり、斬りつけるが思春はそれを避ける。逆手に鈴音を持った思春がそれを逃さずに首を狙うが、それはそのままの勢いで前転して避け、肩を狙って踵落としを放つ、だがそれは左手に掴まれる。

「げっ・・・わっ!?」

そのままぶん投げられ、空中で体制を立て直す前に飛び蹴りを食らった。

「がはっ・・・」

そして思春は右から鈴音を振ってくる。

「くっ!」

ガァン!

それを防いだのだが、無理な体制だったため、迷切が手から離れてしまった。

「く、この!」

バック転をしながら蹴り、距離を取ろうとするが・・・彼女がそれを許す筈がなかった。

「ふっ!」

「っく・・・」
蹴りに怯まずに思春は突っ込んでくる。俺は素早くスペルを詠唱する。

「ーーーー!」

「くらえ!」

ガキィン!

・・・思春の一撃は、俺の腕から伸びた光の爪で防がれた。腕と足にそれぞれ光の爪が現れている。

「ビーストアーム、ビーストレッグ・・・獣双剛爪激の代わりだ」


そのまま腕を引っ掻くように振るがそこは素早く身を引き、思春は回避した。だがここで余裕を与える訳にはいかない。俺は踏み込んで回し蹴りを放つ。

ズガァ!

「・・・!」

爪で切り裂こうと思ったのに、今度は前に出て自らダメージを減らした。・・・ああ、ここまで思い通りにいかない戦闘は懐かしい。何時も彼女との鍛錬はそうだった。こっちの技が直撃することなんて稀だった。正直に言えばトータルの勝率や技の当て具合は彼女に完敗しているのだ。

「(だからって今回も負ける気はないけどな・・・)」

蹴りと拳のラッシュも全て打点をずらされて捌かれてしまう。その繰り返しは、俺の魔法の効果が切れると同時に終わった。光の爪が点滅して消滅する。

「あっ・・・!」

「そこだ!」

咄嗟に腕を交差させて葬解で防ぐ。

ガギン!

「っとぉ・・・」

わざと後ろに吹っ飛び、今度はきちんと間を取る事ができた。

「ああ・・・ホントに、思春は強いな・・・」

左手で擬音を握り締める。

「洗脳されても思春は思春だな・・・」

あの動き・・・隙あらば確実に首を狙いに来る技・・・この世界じゃ首に当たった位じゃ死なないのに。それを分かってる筈なのに・・・

「(体が覚えてるってことか・・・)」

ほんの少しだけ、嬉しくなった自分がいた。二度と会えないと思っていた少女が目の前にいる。俺はずっと鍛錬をしていた時を思い出していた。

「・・・」


彼女の洗脳は今までのに比べれば楽な部類だろう。彼女の記憶に訴えかけるような戦いをすれば・・・きっと・・・

「頼むぜ・・・擬音・・・」

チリン、鈴がなる。この鈴音に極限まで似せた擬音を使えば・・・極限まで思春の真似ができる筈だ。


「キャプチャー・・・コンプリート」

ゆっくり呟く。世界の修正力で能力は発動しなかっただろうが・・・己に気合いを入れる言葉には充分過ぎるものだ。俺は擬音を逆手に持って引き抜いた。

「鈴の音は・・・黄泉路を誘う道標と思え!!」

「・・・!!」

俺は思春に向かって踏み込んだ・・・











































早貴~


須郷がニヤニヤしながらキリトを踏みつける。姿こそ妖精王のモノかもしれないが、そんなのものは関係なかった。アイツは須郷で間違いない。するとアスナが叫んだ。

「あなたのした事は、全部この眼で見たわ!!あんな酷いことを・・・許されないわよ、絶対に!!」

「へぇ?誰が許さないのかな?君かい?それとも神様かな?残念ながらこの世界には神はいないよ、僕以外にはねぇっ!!くっ、くっ」

須郷は更に強くキリトを踏みつける。

「やめない、卑怯者!!」

アスナの言葉を無視して、須郷はキリトから大剣を抜く。それをくるくる回して遊びながら口を開く。

「・・・それにしても桐ヶ谷君、いや・・・キリト君と呼んだ方がいいかな。まさか本当にこんな所まで来るとはねぇ。勇敢なのか、愚鈍なのか。まあ今そうやってへたばってるんだから後の方かな。ククッ。まさか小鳥の巣にゴキブリともう一匹の小鳥がグルになって来るとはね!・・・そう言えば、妙なプログラムが動いてたな・・・・・・逃げられたか。あれは何だい?そもそもどうやってここまで登ってきたのかな?」

「飛んできたのさ、この翅で」

「・・・じゃあ早貴、君に聞こうか。どうやって来たんだい?」

「アンタに話すことはないわ・・・!」

わたしがそう言うと須郷はキリトから足を離し・・・わたしを蹴り飛ばした。

「早貴!!」

「君はいつからそんな口を利くようになったんだい?ま、いいか。君達の頭に直接聞けばいいことさ」

「なん・・・ですって・・・」

「君たちはまさか、僕が酔狂でこんな仕掛けを作ったと思ってるんじゃないだろうね?」

須郷は気持ち悪い笑みを浮かべながら続ける。


「元SAOプレイヤーの皆さんの献身的な協力によって、思考・記憶操作技術の基礎研究はすでに八割がた終了している。しかも試作型の実験も成功している。かって誰も為し得なかった、人の魂の直接制御という神の技を、殆ど我が物にしている!そして更に新しい実験体も手に入れたわけだ!いやあ、楽しいだろうね!!君達の記憶を覗き、感情を書き換えるのは!!考えただけで震えるね!!」



「ば・・・馬鹿げてる・・・」


「そんな・・・そんな事、許さないわよ須郷!!」

アスナが叫ぶ。

「キリトくんと早貴に手を出したら、絶対に許さない!!」

「小鳥ちゃん、君の憎悪がスイッチ一つで服従に変わる日も近いよ」

須郷は笑みを絶やさずに指を宙に向ける。

「さてぇ!君たちの魂を改竄する前に、楽しいパーティーと行こうかぁっ!!」

パチン、と指を鳴らすと上空から鎖が降ってきた。須郷はそれを取ってアスナに近づく。

「須郷・・・!何を・・・!」


須郷はその鎖についた手枷をアスナの両手首に填める。そして指をまた鳴らすとゆっくりとアスナが釣り上げられた。

「くくく・・・ハイッ!」

須郷が両手を広げるとアスナに重力がかかり、アスナの顔が苦悶に歪む。


「ひひっ、いい!いいねぇ!やっぱりNPCの女じゃその顔はできないよねぇ」


須郷が笑いながらアスナの髪を取り、匂いを嗅ぐ。

「すぅ・・・いい香りだ。現実のアスナ君の香りを再現するのに苦労したんだよ・・・病室に解析機まで持ち込んだ僕の努力を評価してもらいたいねぇ」

なにこいつ・・・気持ち悪い・・・!

「やめろ・・・須、郷・・・ッ!!」

キリトが重力に逆らい、立ち上がろうとするが・・・

「やれやれ、観客は大人しく・・・這いつくばっていろぉぉぃっ!!」


須郷が思い切りキリトを蹴り飛ばす。そして手に持ったキリトの剣を・・・背中に突き刺した。

「ぐっ・・・!?」

「キリト!!」

「システムコマンド!ペイン・アブソーバをレベル10から8に変更」

「ぁぐ・・・ぅああ・・・!」

今の名前、キリトの表情・・・須郷が何をしたかはすぐに分かった。

「くくく、痛いだろう?段階的に強くしていくから楽しみにしていたまえ。もっともレベル3以下にすると、現実の肉体にも影響があるようだが・・・さて」


須郷がまたアスナに近づき、腹部から胸にかけて指でなぞった。

「須郷・・・!お姉ちゃんに触るな・・・!」

「やめろっ・・・須郷!」

わたしも寝ているわけにはいかない。体を必死に起こそうとした時・・・

「・・・大丈夫だよ二人とも。わたしは、こんなことで傷つけられたりしない」

「くっ、ひひひっ、そうでなくっちゃねぇ。君がどこまで誇りを保てるか・・・三十分?一時間?なるべく長引かせてくれたまえよぉっ!!」

そう言って須郷はアスナのワンピースの胸元のリボンを掴み・・・服ごと引き裂いた。白い肌が露になり、アスナの顔が歪む。

「ーーーー」


一瞬、思考が白くなった。


ーーーー■■ーーーーー


「クッ、クッ、今僕が考えていることを教えてあげようか」

須郷がアスナにささやく。

「ここでたっぷり楽しんだら、君の病室に行く。大型モニターに今日の録画を流しながら君ともう一度楽しむ。君の本当の体とね・・・ひひひひっ・・・ひゃははははは!!」

アスナの眼から涙が零れた。アスナを・・・泣かせた。


ーーーー■せーーーーー


「須・・・郷ぉぉ・・・ぁぁぁああああ!!」

わたしは立ち上がり、思い切り拳を突き出した。

ガァ・・・ン!

だが、須郷の目の前で拳は阻まれ、拳から痛みが突き抜けた。

「無駄なことをするねぇ・・・それとも仲間にいれてあげようかい!?」

ゴォン!

「っあ!?」

衝撃波に吹き飛ばされる。空気が押し出されるような感覚に襲われながら、須郷を見た。

「そう言えば君、何処かに隠れているんだろう?だけどもうすぐ僕の部下が君を見つけ出す。そうそう、情報が漏れないように君に関わった人間も僕の研究の一部にしないとね」


それを聞いた瞬間、“白”に染まっていた思考がーーーー



ーーーー殺せーーーーー



ーーーー“黒”に塗り潰された・・・・・・






























































亮~

「ぉおらっ!」

ヒュン!

「っ!」

思春は身を捻って一撃を避ける。間髪入れずに蹴りを放ち、怯んだのなら擬音を振る。相手の隙を自ら作り、打ち倒す戦闘スタイル。これが俺の・・・思春の戦い方だ。その時、詠が上を見上げた。

「え・・・!?」


俺も思春を蹴り飛ばしてから上を見る。・・・そこには空から振ってくる剣があった。アレは・・・ダークリパルサー!?

「リパル!!」

詠が叫び、ワイバーンから飛ぶ。そして騎士達を踏み台にして、リパルを掴んだ。

「リパル!?どうしたの!?」

『(ジ・・・ジジジ)・・・詠・・・(ジジッ)・・・さん・・・』



ノイズ混じりの声が聞こえる。


「ちょ、ちょっと・・・!?」

詠を騎士が囲む。既にシルフとケットシーが撤退に入っているので、必然的に詠にタゲが向いたのだ。

「やるしかないわね・・・!」

詠が剣を逆手に持ち、ダークリパルサーを右手に持つ。そして落下しながら騎士達の攻撃を弾く。

「神託の盾の時といい、ホント囲まれるわね・・・串刺しになる気はないけど!!」

次々に迫る騎士を詠は全て斬り倒す。そして亞莎が詠を援護する。

「飛竜さん、お願いします!」

飛竜の上に詠が着地する。

「リパル!返事をしなさい!」

『(ジジ・・ジ)だ・・・大丈夫ッス・・・何とか』


「何よ・・・心配して損したわ・・・」

『心配してくれたッスか?』

「む・・・わ、悪い?じゃなくて、何があったのよ」

・・・あちらを見てたけど、もう余裕がない。詠とリパルが無事なのを確認して俺は思春に意識を戻す。


「はぁぁぁ!」

「っ!」


思春が斬りかかってくる。それを受け、逸らして蹴りを放つが、同じタイミングで蹴りが出され、防がれる。そのまま反動を利用して回転して横薙ぎに擬音を振るが、それもほぼ同じ軌道の一撃で逸らされた。

「・・・何故だ」

「何がだ?・・・っと!」


「何故私はお前の動きがわかる。何故私はその戦い方を知っている?」

「簡単な話だよ。この戦い方はお前の・・・誇り高き呉の将、甘 興覇の戦い方だからだ」

「違う・・・私は・・・」

「違わない。お前は俺の憧れた・・・俺の好きな・・・甘寧・・・思春だ!ロビン・グットフェローなんかじゃない!!」



「ぅ・・・!?う、あああああ!!」

思春が頭を抑え、叫んだ後・・・鈴音を構えた。

「でやぁぁぁぁ!!」


「・・・おおおお!!」

俺は全力で当たろうとして・・・擬音を宙に投げた。

「っ!」

そして思春の一撃を避け、擬音をつかーーーー


ガァン!

「・・・!」

・・・手に取る筈だった擬音は遥か遠くに飛ばされていた。見れば思春は空振った状態から一回転して擬音を蹴り飛ばしたみたいだ。・・・普通なら面喰らって擬音を弾こうって発想は出ない筈だが・・・


チャキ

「・・・二度、同じ手は通じない」

「・・・どうかな?」

首に鈴音が突き付けられるが・・・敗けではない。何故なら・・・

「俺の腕を見なよ」

「何・・・?」


俺の亮腕からは光の爪が伸びていた。さっきのすれ違い様に詠唱しておいたのだ。右の爪は鈴音を弾ける位置に、左の爪は思春の首もとを捉えていた。

「・・・なるほど、また私の負けか・・・亮」

・・・さっきの台詞からまさか、とは思ったけど・・・


「思春・・・もしかして・・・」

「ああ・・・すまない、全て思い出した・・・亮の声が、私を目覚めさせてくれた」

「思春・・・!」

爪を消し、俺は思春を抱き締めた。

「なっ!?お、おい!何を・・・」

「よかった・・・!」

「・・・亮・・・」

「よかった・・・思春だ・・・また、こうやって話してるし・・・触れてるんだ・・・また会えて嬉しいよ、思春」

「・・・ああ、私もだ。亮・・・」



「・・・すまないが、そろそろ戦線が持たない。撤退をしたいのだが・・・」

「うぇ!?あ、す、すみません!」

サクヤに言われ、俺と思春は慌てて立ち上がる。そして擬音と迷切を回収して外に出ようとした時・・・再び詠が天井を見た。

「なに?この感じ・・・どこかで・・・まさか!」


『や、闇ッス・・・!この世界では使えない筈なのに・・・しかも・・・!』

「咲の闇と似てるけど違う・・・じゃあ誰の・・・」

『駄目ッス・・・その精神状態じゃ駄目ッス!“早貴”さん』


リパルが天井に向かって叫んだ・・・

































































早貴~

「グ、ァァァァアアウゥガ!」


(まさか・・・闇!?不味い、呑まれーーーー)




わたしの中から邪魔な何かが消えた。そしてそれと同時にドス黒い何かが身を包み、わたしを変えていく。

「さ、早貴・・・!?」

「な、なんだ?こんな魔法、僕は知らないぞ・・・」

「ガァァァ・・・!!」

アスナが泣いている。キリトが苦しんでる。誰が悪い?・・・・・・




ーーーーコ イ ツ ダーーーー



水色の髪は銀に、白い肌は禍々しい黒の鎧に包まれ、息が荒くなる。・・・凄かった。力だ。力が・・・みなぎる。

「・・・ハ」

「・・・?」

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

簡単な答えに行き着いた。邪魔な荷物は退かせばいい。じゃあ邪魔な人間は?・・・コロセバイイ。

「キャハハハハ!!スゴウ・・・スゴォォォォォ!!」

目の前の男の名を叫ぶ。今なら奴に痛みを与えられる。今までのお返しが出来る。ああ、楽しいな、きっと楽しいな。


「アハ!アハハハハッ!シンジャエッ!」

踏み込み、爪を突きだす。

「くっ・・・」

ガギン!

・・・見えない壁に阻まれた。須郷はまだニヤニヤ笑ってる。・・・キモチワルイ。

「どんな魔法か知らないけどねぇ。僕には効かないんだよ!それとも見た目で「・・・ザイ・・・」な・・・?」


「・・・・・・ウザイ」

ガゴォン!

「だ、だからムダなんだ・・・」

「ジャマ、ウザイ、ドイテ、キエテ、クダケテ」

ガン!

殴る。

ガン!

殴る、殴る、殴る。

ガン!ガン!

殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る。

ピシッ・・・

ヒビが入った。

「ッッッォォアアァァァァアアア!!」

ガシャァン!!

割れた。

「ば、バカな・・・こ、この障壁は絶対壊れないようプログラムされ・・・」

「アハッ、コワレタ・・・♪タノシイネ・・・ネェネェ、ツギハオマエヲコワシテイイ?」



ここで初めて・・・目の前の男の顔に恐怖が宿った。

「く・・・来るな!この・・・!」

須郷が手を振るとワタシの体が少し重くなる。

「・・・コレ、ヤメテヨ。ウゴキニクイジャン」

ワタシは止まらずに体を揺らしながら歩く。

「くそ、なんで・・・何で止まらないんだよ!?」

「・・・テイ」

ビュオン!


腕を適当に振ったら・・・須郷の顔を掠めた。

「いつっ・・・ぺ、ペインアブソーバ・・・」

「・・・ダーメ」


須郷を蹴り飛ばす。

「セッカクイタミガアルノニ・・・ケシタラモッタイナイヨ・・・ネ?ウフ、ウフフフフ、キャッハハハハハ!!」

あんなに、あんなに余裕そうにしていた男がワタシに怯えてる。嬉しい・・・楽しい・・・もっと・・・もっと悲鳴が聞きたい・・・レベル3から現実に影響が出るみたいだけど、頭をゆっくり握り潰したらレベル8でも凄く痛いかな?それとも体をバラバラにした方がいいかな?それとも、それとも・・・

「(ニタァ・・・)」

「ひっ・・・」

笑いが、止まらない。この感じならリアルでも使えそう。そうすれば誰にも左右されないで・・・アア、ソウゾウガトマラナイ・・・♪

「ば、化け物・・・来るな!」

「ワタシネ・・・イッパイ、イーッパイオレイガシタイノ・・・」

「あ・・・ああ・・・」

ログアウトして逃げればいいのに・・・逃がさないけど。

「ジャア・・・イクヨ・・・?」

手を振り上げる。アバターってどんな感じ潰れるんだろ。せーの・・・

「早貴!止めて!!」

・・・動きを止め、アスナを見る。アスナは・・・泣いていた。・・・アア・・・

「マッテテ・・・スグオワラセルヨ・・・」

「違う・・・だめ、だめよ・・・」

「・・・ナニガ・・・?」


「よく、よく解らないけれど、その力はだめ。早貴が・・・早貴じゃなくなっちゃう!」


「ヘンナ、オネエチャン・・・ワタシハ、ワタシダヨ・・・?」

「違う!早貴はそんな・・・人を傷付けて笑うような子じゃない!だから止めて!」

「・・・ヤダ」

「早貴・・・!」

「ヤダ。ダッテ、コレガアレバオネエチャンヲマモレルモン」

「・・・!」

「オネエチャンハ、ワタシガマモルノ。オネエチャンガワラッテレバ、ソレデイイヨ。・・・ウレシイデショ?」


「・・・しくない」

アスナが・・・叫んだ。

「そんなの嬉しくない!!ふざけないで!!」

「エ・・・」

「妹にそんなことさせて喜ぶ姉なんかいないわ!!それに、それに・・・!」

「・・・オコッタ?・・・ワタシヲ?・・・ナンデ・・・?」


「怒るわよ!間違った事を正すのが家族なんだから!!今の早貴は間違ってる!わたしは・・・わたしはただ、早貴が傍にいれば・・・元気に笑ってくれればそれが一番嬉しい、だから・・・!」


「ウ・・・」

「そんなモノ、使わないで・・・元の早貴に戻って・・・お願い・・・」

また、泣いた。誰が泣かした?誰が・・・・・・あ。

ーーーーワタシだーーーー


「あ・・・あ・・・」


(落ち着け・・・闇に呑まれるな・・・コレに身を任せちゃいけない。コレを度を越えて使えば・・・全てを滅ぼす・・・)


「が・・・ぁ・・・」

視線が落ちて、醜悪な腕、手、指・・・そして今の状態に不似合いな綺麗な指輪が目に入った。

(咲・・・咲、止めて・・・!)

(咲さん、自分を抑えて・・・負けちゃだめッス・・・!)

二人の、声。それが聞こえた時・・・全てが、戻った。

「・・・は、ぁっ・・・!」

身に纏っていた黒い何かが四散し、わたしの体は元に戻る。そして・・・倒れた。

「う、うぅ・・・」

体が・・・動かない。指一本すら・・・

「く、くくく・・・いやぁ、いい芝居だったよ・・・」

余裕を取り戻した須郷が笑いながら立ち上がる。

「さっきの魔法は解らないが・・・とにかく、お仕置きをしなくちゃね」

須郷が手を天にかざすと・・・わたしの体に電流が流れた。

「イャァァァァァァァ!!!」

痛い。苦しい。突き抜ける痛みが思考を纏めさせてくれない。

「あ、う・・・ぁぁ・・・あ・・・」

体が痙攣し、視界が揺らぐ。リアルだったらもっと悲惨なことになっていたかもしれない。


「いい悲鳴だねぇ・・・じゃあもう一度・・・」

「そこまでだ・・・!」


なんとか焦点を合わせると、キリトが立ち上がっていた。

「やれやれ、どうやら余計なバグがあるみたいだ、ね!」

須郷が殴り飛ばそうとするが・・・キリトはその腕を掴んだ。

「お・・・?」

「システムログイン。ID《ヒースクリフ》!」

キリトが何かのパスワードを言い終えると、キリトは須郷を睨む。

「な・・・なに!?何だそのIDは!?」

須郷が飛び退り、メニューを開こうとするが・・・


「システムコマンド。管理者権限変更、ID《オベイロン》をレベル1に」


「な・・・ぼ、僕より高位のIDだと!?あり得ない!僕は支配者、創造主だぞ!この世界の王・・・神!」

「そうじゃないだろ」

「ぬ・・・!?」

「お前は盗んだんだ。世界を、そこの住人を。盗み出した玉座の上で一人踊っていた泥棒の王だ!」

キリトの言葉に須郷はわなわなと肩を震わせる。

「こ、このガキ・・・僕に・・・この僕に向かってそんな口を・・・システムコマンド!!オブジェクトID《エクスキャリバー》をジェネレート!!」

・・・だが、須郷の声は虚しく空間に響くだけだった。


「い、言うことを聞け、ポンコツが!神の・・・神の命令だぞ!!」

キリトがわたしの近くまで近づき、小声で言った。

「悪いな、サキ。・・・今度は俺に任せてくれ」

「キリト・・・」

「あの時は亮とお前に任せてしまったけれど・・・アスナだけは俺の手で助けたいんだ」

わたしは・・・笑った。

「妹に・・・それ言うかな・・・でも、いいよ。キリトになら・・・お姉ちゃんを、お願い・・・」

「・・・ああ」


わたしだってアスナを助けたいけど・・・今は、キリトに任せるしかなかった。そしてキリトはアスナを見る。アスナは微笑み、小さく頷く。キリトも頷き返し・・・叫んだ。

「システムコマンド!オブジェクトID《エクスキャリバー》をジェネレート!!」


するとキリトの目の前に黄金に輝く剣が現れた。

「コマンド一つで伝説の武器を召喚か・・・」

キリトはそれを・・・須郷に投げ渡した。そして自らの大剣を拾い上げ、突き付ける。

「決着をつける時だ。泥棒の王と鍍金の勇者の・・・・・・システムコマンド、ペイン・アブソーバをレベルゼロに」

「な・・・なに?」

「逃げるなよ。あの男は、どんな場面でも臆したことはなかったぞ。あの・・・茅場晶彦は!」

須郷がその名を聞くと顔を歪めた。

「か・・・かや・・・茅場ぁぁぁぁ!!そうか・・・あのIDは・・・なんで、なんで死んでまで僕の邪魔をするんだよっ!!アンタはいつもそうだぁ!何もかも悟ったような顔しやがってぇ!!僕の欲しいものを端から浚ってぇっ!!」

「須郷、お前の気持ちも解らなくはない。俺も・・・あの男に負けて家来になったからな。でも、俺はアイツになりたいと思ったことはないぜ。・・・お前と違ってな」



「この・・・ガキがぁぁぁ!!」

須郷は声を裏返しながらもキリトに斬りかかる。だがキリトはそれを容易く避け、浅く須郷の顔に剣をかすらせる。


「いたっ・・・!」

今、須郷にはさっきとは比にならないくらいの痛みがあるだろう。肉を斬られる痛みはわたし・・・俺はよく知っていた。

「痛いだ・・・?お前がアスナに与えた苦しみは、こんなもんじゃない!!」

キリトの一撃が須郷の剣を持つ腕を撥ね飛ばした。


「アアアァァァァ!!手が・・・僕の手がああぁぁああ!!」

キリトは更に須郷の胴を薙ぎ払う。

「グボァァァァ!!」

両断された胴が床に転がる。キリトは須郷の髪を掴み、持ち上げる。そして真上に投げ、剣を構えて・・・その顔目掛けて、突き出した。

「ギャアアアアア!!」


絶叫が響いた。須郷の体が白い炎に包まれ、消えた。


「・・・キリト」


「平気か?サキ」

キリトがわたしを抱き抱える・・・

「さっき、ヒースクリフって・・・」

「ああ・・・あの時、俺は茅場と・・・」

わたしはそこまで聞いて首を振った。

「ううん、今はそんなことや、わたしのことよりお姉ちゃんを・・・わたし、ログアウトして先に病院に向かうから・・・」

「・・・わかった」

キリトがわたしを起こしてからアスナに向かって走り出す。・・・ユイちゃんも無事だし・・・リパルもきっと・・・

「・・・」

ログアウトをする瞬間、見えたのはアスナを抱き締めるキリトと・・・こっちを見て微笑む白衣の男の姿だった・・・・・・・・・ 
 

 
後書き

「はぁ・・・」

早貴
「なんかなぁ・・・また暴走か」


「さて、じゃあ気分転換に恒例行くか」

早貴
「また作者からの無茶振り?」


「今回は・・・格ゲーの勝利台詞をやってみよう・・・だって」

早貴
「なんだそれ・・・前にやらなかったっけ?」


「さあ?今回は俺とお前だって。じゃあ行くか」







亮~

VS蓮華


「呉の誇り・・・感じたよ、蓮華」

「なんで蓮華と戦わなくちゃいけないんだ・・・!」


VS思春

「俺の勝ちだよね、師匠?」

「くそ、これで何度目なんだ・・・ごめん、思春」


VS亞莎

「・・・軍師ってさ、普通そんなに強くある必要ないよな・・・?」

「亞莎・・・まさか、闇の暴走・・・?」

VS明命

「よし、勝った!彼女に負ける彼氏じゃ格好悪いからね!」

「明命・・・ごめん、俺、明命を傷付けて・・・くっ」




「・・・あー、明るいのと暗いのね。なるほど」









咲~

VS霞

「っとと、どうやったら偃月刀でそんな素早い突きが出せんだよ・・・」

「・・・グァァァァ!邪魔をするなら、霞でも容赦はしない・・・!」


VS詠

「強くなったなぁ・・・月を守るのが物理的になるよな、それ」

「詠・・・俺は・・・俺は・・・!」



VS華雄


「つーかさ、武器の扱い以外記憶喪失って・・・どんだけ戦闘狂なんだよ・・・」

「力だけで、俺を止められると思うなよ、華雄・・・!!」

VS恋

「っしゃ、俺の勝ち!じゃあ約束通り昼飯はラーメンで・・・ってんな悲しそうな顔するな!明日は好きなとこに連れてくから!」


「恋・・・俺は、俺は取り返しのつかないことを・・・」












「・・・ええと、このキャラを対称にやって欲しい!や、前回のファイアーエムブレムの撤退&死亡も受け付けておりまーす」

早貴
「作者、シミュレーションと格ゲーとRPG好きだな・・・」


「最近ファイアーエムブレム覚醒ばっかやってるけどね。スパロボとテイルズの完全新作待ってるとか」

早貴
「あっそ・・・それじゃ、次回もよろしく!」

 

 

着けるべきケリ~

 
前書き
火曜日に就職試験があるエミルです(笑)もしかしたら更新また遅れるかも・・・ではどうぞ。 

 
早貴~

「・・・」

アミュスフィアを外し、周りを見るが、里香の姿は無かった。一瞬焦ったが離れた位置から音がするので、夜食でも作ってくれてるのだろうか?

「・・・里香、ごめんね」

わたしは物音を立てずに玄関まで行き、靴を持ってから部屋の窓から出る。里香に話しても止められる・・・けど一刻も早くわたしはアスナに会いたかった。荷物も持たずに右足を引きずるように走り出す。ここからなら病院は遠くない筈だ。

「はっ・・・はっ・・・」

足が痛い。よく見れば雪も降ってきた。・・・余りにも薄着で来すぎたのかもしれない。とても寒かった。

「お姉ちゃん・・・お姉ちゃん・・・!」


でも、寒さを気にしてる余裕はなかった。足は勝手に進んでくれる。確実にわたしはアスナに近づいている。・・・ああ、だからだ。焦らないで、ゆっくりと進みながら周りを見れば気付けたんだ。


ーーーわたしに向かって突っ込んでくる車にーーー


「・・・!!」

ドンッ!

視界が、消えた。一瞬、意識が飛んだ。



























「う・・・あぁ・・・」

わたしは道路に横たわっていた。・・・ガードレールとか、歩行者と自動車を隔てる壁がないところを突っ込まれた。でもスピードはあまりなかったようだ。死ぬ感じはあまりしなかった。


「・・・ぐ・・・」

でも、ダメージは深刻だった。頭が揺れ、体が動かない。視界も歪み、焦点が合わない。その時、車から誰かが降りてきて、わたしの髪を掴んだ。

「いっ・・・」

そのまま引きずられ、路地裏に引き込まれる。

「・・・待ってたよ、早貴」

声がした。この声は・・・

「須・・・郷・・・?」


必死に顔を上げる。よくは見えないが、スーツの柄と顔立ちで何となく判別する。

「まったく・・・参っちゃうよねぇ・・・余計なことしてさ」

何かがおかしい。須郷の様子が・・・

「桐ヶ谷君も酷いよねぇ。お陰で痛みが全然消えないよ・・・」

ああ、ペイン・アブソーバのフィードバック・・・多分、片腕、胴、目に後遺症が残ってるのかもしれない。

「・・・ざまぁ、みろよ・・・自業自得・・・因果応報、よ・・・」

笑いながら言ってやると須郷がわたしを見た。

「・・・どうやら調子に乗ってるみたいだね。少し君は自覚し直した方がいいよ」

「なに、がよ・・・」

「君は泣き虫で、臆病で、何もできない弱虫だってことをね」

須郷がわたしに馬乗りになり、何か銀色に輝く物を取り出した。

「・・・!!」

目を凝らさなくても理解した。ナイフだ。刃渡りはよく解らないが、わたしを殺すには充分だ。

「・・・さあ、またお仕置きだ」

「ナイフで・・・殺すつもり・・・?わたしを殺したら、貴方は終わるわよ・・・!」


だが須郷はニヤニヤと浮かべた笑みを消さない。

「残念だけどね。僕は捕まらないよ。例え君を殺してもね。僕はアメリカに行く。あの実験のお陰で僕を欲しいという企業はあるんだ。少なくともこの国のアホな警察じゃ僕は捕まえられないさ」

「・・・!」

・・・狂ってる。頭にウジが湧いてるのか花畑が咲いてるのか・・・何にせよ、コイツは口じゃ止まらないし、止める気もない。

「・・・でも、君は殺さないよ。それ以上に利用価値があるからね」

須郷がナイフをわたしに近づけ・・・

ビリィ!

・・・着ていたシャツを、上から下まで引き裂いた。

「・・・え」

思わず思考が止まる。そして・・・須郷が何をしようとしているか理解した時、わたしは恐怖に支配された。

「っ!きゃあああああああああ!!!」

思い切り悲鳴を上げる。必死に須郷を押し退けようとするが須郷はビクともしない。

「悲鳴を上げても無駄だよ。ここは住宅街からは離れてるし、この時間は交通量もない。安心して君を汚せるのさ」

「やだっ、やだぁっ、どいて!」


「いいねぇ、いい表情だよ。君を壊して明日奈に見せたらどんな反応をするかなぁ?」


「い、いや・・・止めて・・・お願い・・・」

「くく・・・さぁ、もっといい声を聞かせてよ・・・」

須郷の手がわたしのズボンにかかる。わたしは恐怖で目を閉じた。・・・だが、耳に届いたのは須郷の声じゃなかった。

「ーーーーそこまでにしとけよ、変態野郎」

ゴッ、と音がして重みが消えた。恐る恐る目を開くと・・・

「咲!無事か!?」

・・・親友がいた。わたし・・・俺を抱き起こし、呼び掛けてくる。

「りょ、う・・・?どうして・・・」

「・・・話しは後にしよう。今は・・・」

亮はそう言うと立ち上がり、うずくまる須郷の胸ぐらを掴む。

「ぐ・・・!?」

「あんたが須郷か・・・思春やアスナのこと含めて色々あるが・・・取りあえず」


亮の左拳に力が籠められ、思い切り振りかぶる。

「・・・一発、ぶん殴らせろォッ!!!」

ゴォン!!

左腕を振り抜き、凄まじい音が響く。須郷はそのままよろめき、乗ってきた車にぶつかる。

「くそ、どいつもこいつも・・・おい!」

須郷が叫ぶと車の中から黒いスーツを来たゴツい男が数人、降りてくる。

「いいか?コイツらを捕まえろ。僕は病院に向かう」

「なっ!」

亮の表情が変わる。多分、和人が向かってるのだろう。だが須郷はそのまま車に乗り込み、行ってしまう。

「ちっ・・・邪魔をするな!」

亮は右隣に積まれていた鉄パイプを蹴りあげ、左手で掴む。対する男たちは全員ナイフを持っていた。

「時間がないんだ・・・一本で決める」

男が向かってきて、ナイフを突きだす。だが亮はそれを避け、鉄パイプを振り下ろす。

「面!」

ゴキャン!

「ぐぁ・・・」

・・・あっという間に一人を沈黙させる。続く二人目も・・・

「小手!」

手を叩き、ナイフを落としてから・・・

「胴ぉ!」

鉄パイプを腹にめり込ませた。これで、二人。車から出てきたのは四人・・・あれ?亮が対峙してるのはあと一人・・・と、そこまで考えた時、髪を引っ張られ、痛みが走った。

「そこまでだ!」

亮が三人目を打ち倒すと同時にわたしを拘束した男が叫ぶ。

「コイツがどうなってもいいのか!?」

「・・・お前、アホだろ。自分より力がある奴への人質は二人以上で初めて効果が出るんだ。無意味なことは止めろ」


亮が言うが、男の様子はおかしい。

「ど、どうせ失敗したら須郷様に実験道具にされるんだ・・・ならいっそ道連れに・・・」

「・・・っ」

亮の顔が歪む。コイツは本気だ。下手に刺激すればわたしを刺し殺す気でいる。それほどまでに須郷に恐怖を抱いているのだ。

「お、大人しく武器を捨てろ!」

亮が鉄パイプを投げ捨てる。

「よ、よし、動くなよ・・・」

・・・わたしのせいだ。わたしが、足を引っ張った。わたしは掴まれている髪の毛を見た。アスナに憧れて、アスナみたいになりたくて真似をして伸ばした、髪。その真ん中辺りを男は持っている。

「(・・・)」

よく考えれば私服のセンスも、好物も、アスナと同じだ。須郷が言った通り、わたしは“自分”を主張してこなかった。・・・じゃあ、今からやればいい。弱くない、みんなを見返す強いわたしを主張すれば・・・

「・・・っ!」

「な!?は、離せ!」

わたしは男のナイフを掴み、それを髪に近づけ・・・自らの髪を、切り裂いた。

「!?」

男の拘束が解かれ、前のめりに倒れる。亮がそれを見逃す筈がなく・・・

「っ、はあっ!」

ズン!

鳩尾に拳を叩き込んだ。そして亮はまたわたしを抱き抱える。

「・・・ほんと無茶するな。髪は女の命じゃないのか?」

「うる、さい・・・散髪に行く手間が省けた・・・だけ」

そこで気になる事を聞いてみた。

「どうして・・・ここが?」

亮はそれを聞くと笑いながら携帯を取り出した。それを受け取ると・・・

『咲さん!大丈夫ッスか!?』

『ちょっと、ボロボロじゃない!平気なの!?』

「あ・・・」

リパルと、詠の声。

「あの後思春がいきなりログアウトしてな。取りあえず兄貴を待って病院に行こうとしたんだけど・・・詠とリパルがいきなり人ん家の回線通って人の携帯の中に来て、『嫌な予感がする』って言ってきてな」


「・・・」

「リパルと詠はネットでお前が追われてるのを知ってたからな。目覚めてすぐに外を出歩くって解ってたんだよ。だから護衛係として俺が派遣されたんだ。凄かったぜ?まずお前の携帯のGPSを辿って貰ったら家の前で泣きながらお前の名前を呼ぶ篠崎さんがいてさ」

・・・里香に、バレちゃったんだ。後で謝んなきゃ・・・



「聞けばお前を匿ってて、少し目を離した隙にいなくなったって。あたしがちゃんと見てなかったせいだ。って泣き崩れてたぞ。んで、そっからは病院までのルートを二人に検索してもらって、全力で来たら悲鳴が聞こえたんだ。そこに向かって・・・今に至る」


『気持ちはわかるけど無茶し過ぎッス!』

『でも、間に合ってよかった・・・』


「・・・ごめん、二人とも・・・」


ふと亮がわたしを見て、顔を逸らしながら自分が来てたコートを差し出した。

「・・・とにかく、前隠せ」

ここでわたしは自分の身体を見た。シャツは真ん中を綺麗に割かれていて・・・わたしは、下着をつけてなかった。

「・・・変態」

「男に興奮する趣味はございません」

「身体は女ですが?」

「俺の親友は男です。心が」


コートを着て、亮の肩を借りながら歩くと自転車が会った。

「取りあえず後ろに乗れ」

「・・・2ケツッスか?」

「仕方ないだろ。急がないと」

渋々後ろに乗り、亮に掴まると亮は漕ぎ出した。・・・物凄いスピードで。

「ちょ、亮!?路面凍って・・・滑っ・・・」


「百も承知!飛ばすから落ちんなよ!」

・・・わたしは絶叫マシンに乗ったことはないけど、分かる。これは絶叫マシンよりも恐い。2ケツでドリフトとかなんなんだ。カーブのスピードが直線と変わらないって理論がわからない。だが、代わりにすぐに病院に到着した。再び亮に肩を借りて移動した時・・・ふと誰かがいた。

「あ・・・」

それは車に背中を預け、倒れていた。その男は・・・

「須郷・・・」

数センチ離れた位置にナイフが突き刺さっていて、須郷は白目を剥いて泡を吹いていた。


「・・・状況からして兄貴に返り討ちにあったんだろうな。ま、一発ぶん殴ったから良しとするか・・・」

多分、違う世界ならわたしも亮もコイツを殺したかもしれない。けどこの世界はどんな悪であれ、殺してはいけないのだ。

「・・・」

ふと思った。外史が可能性の塊なら、須郷の目論見が上手く行ってしまう世界もあるんじゃないかと。その時、アスナとキリトはどうなってしまうのか・・・いや、今はそんな想像はいい。今は・・・アスナに会いたい。気付けばわたしは病室の前にいた。知らずの内に亮に任せっきりだったようだ。


「・・・」

耳を済ませば、和人と明日奈の声が聞こえた。無事なんだ。それを理解した瞬間、張り詰めていたものが切れ・・・倒れた。

「咲!?おい、咲!?おいっ!」

ふと目の前に・・・“俺”がいた俺はわたしに向かって呟く。


“まだ終わりじゃない”

それを聞いて・・・わたしはゆっくり目を閉じた・・・・・・














































???~


・・・どこかの世界の荒野。そこで四人の少女が戦っていた。

「まったく・・・休む暇もないわね・・・」

「霊夢!口動かすより手を動かそうぜ」

「その言葉、貴女にも言えるわよ、魔理沙」

「ま、まぁまぁアリスさん・・・」

「次!右から来るわよ、早苗!」

彼女達に無数の光の矢が降り注ぐ。

「秘術『グレイソーマタージ』!」

「魔符『アーティフルサクリファイス』!」

東風谷 早苗、アリス・マーガトロイドの技が光の矢を消していく。



「こっちも行くぜ!恋符『マスタースパーク』!」

「蹴散らしてやるわ!霊符『夢想封印 散』!」


霧雨 魔理沙と博麗 霊夢もそれに続く。みるみる矢の数が減り、遂には全てなくなった。

「ま、楽勝ね。スペルカードもまだあるし・・・」

「しっかし、紫はなんでこんなとこまで連れてきたんだ?」

魔理沙の言葉に霊夢は溜め息をつく。

「“異変”だって言ってたでしょ?最近、種族を問わずに忽然と“消える”ことがあるらしいのよ」

早苗が頷く。

「人間の里でもその話題で持ちきりです。それに・・・」

「知ってるわよ。慧音とか、文も連絡が取れないんでしょ?」

アリスは人形の様子を見ながら呟く。

「・・・変ね。そんな異変聞いたことないわ」

「ていうか異変の殆どが聞いたことないわよ。レミリアの時といい幽々子の時といい・・・」

「・・・っと、お喋りは後だぜ。・・・次が来た」

再び無数の矢が空から迫る。

「私たちなら大丈夫です。次も・・・」

だが、霊夢は叫んだ。

「っ、違う!早苗、前!矢は囮よ!」

「え・・・!?」

早苗の目の前に黒い服を着た二刀流の男が迫る。

「バーチカル・スクエア!」

「きゃあ!?」

四連撃を防げずに切り裂かれ、早苗が吹き飛ぶ。

「な・・・」

「アリス、左だ!」

今度は白い服を着た男だ。

「上海!蓬莱!」

人形を使うが、間を縫われ、接近を許す。

「白夜殲滅剣!」

「ぐっ・・・!?」

そして・・・吹き飛ばされた少女二人に矢が降り注ぎ・・・その身を串刺しにした。

「奇跡が・・・起こらな・・・かっ、た・・・」

「私が、こんな・・・とこで・・・」

そして・・・二人とも無数の光となって、“消滅”した。


「早苗!」

「アリス!」

二人は叫びながらも背中を預け合う。

「おいおい・・・まさか今のが異変の正体か・・・?」

「そうっぽいわね・・・まったく、面倒臭いったらありゃしないわね」

再び矢と男達が迫ってきた時、声が響いた。

「アクセルシューター!」

「ハーケンセイバー!」

「バルムンク!」


魔法の攻撃が全てを纏めて吹き飛ばした。

「霊夢さん!無事ですか!?」

「え・・・あ、あんたもしかしてなのは?なんか色々デカくない?」

高町 なのはは少し笑う。

「外史間での時間の流れは共通ではありませんから・・・」

「なのは、時間がないよ。急がないと」

「うん、わかってるよ、フェイトちゃん」

なのはは霊夢に向き直る。

「霊夢さん、力を貸してください。このままじゃ幻想郷だけじゃなくて外史が危ないんです!」

「・・・外の世界にまで関わる気は・・・」

「お賽銭、入れますから」

「・・・仕方ないわね」

「軽っ!?えらい手の平返しやなぁ・・・」

「霊夢は金が命みたいなもんだからな・・・」

「・・・行きましょう。必ず勝たないと・・・必ず、ヴィヴィオ達の仇を・・・」

「なのは、落ち着いて」

「せや、敵討ちをしたいんはなのはちゃんだけやないんやで」

「うん、大丈夫。取り乱したら、相手の思う壺だから・・・」

「とにかく、どうやって外の世界に行くんだ?」

魔理沙が訪ねるとまた新しい声がした。

「・・・私たちが連れていくわ」


空間が開き、現れたのは身の長を越すかもしれないライフルを抱えた水色の髪の少女と、剣を腰に下げた紫がかった長い黒髪の少女だ。

「・・・誰よ、アンタたち」

「そうね。まずは自己紹介から」

ライフルを降ろしながら少女は言う。

「私は今、大澤 亮と五十嵐 咲がいる世界・・・ソードアート・オンラインの世界の傍観者、シノンよ。それでこっちが・・・」

「ボクはユウキだよ、よろしくね!」


「はぁ、長い1日になりそうだぜ・・・」

魔理沙のぼやきには誰も答えなかった・・・・・・




 
 

 
後書き

「ええと・・・終わり?」

早貴
「いや、SAO篇はもう一話あるよ」


「なんか、長いようで短いような・・・」

早貴
「ま、終わりは必ず来るからな。それじゃ、次回もよろしく!」 

 

終わり行く世界~

 
前書き
就職試験が終わった・・・結果が気になる。ではどうぞ。 

 
「はい、今日の授業は終わりです。課題ファイルを転送するので、来週までにアップロードしなさい」

わたしは端末に課題を見て軽く息を吐き、とっとと片付ける。

「ねぇ、早貴ちゃん。ご飯食べる?」

近くの席の女子が話し掛けてきたが、わたしは謝る。

「ごっめーん。今日はもう約束してて・・・明日でいい?」

「うん。わかったよ~」


・・・わたし、結城 早貴はあの後すぐに入院することになった。まあ、骨をやってなかったので、復活は早かった。ちなみにここは所謂“学校”だ。それも元SAOプレイヤー用の、だ。まあ、亮が話しただろうから説明は割合して・・・わたしはここの生徒として日々を過ごしている。

「・・・ここで、この数式を・・・」


ちなみに驚きなのがわたしの知り合い全員は電車で一駅二駅くらいしか家が離れていない。なんという奇跡なんだろう。

「反意語・・・同意語は・・・よしっ」

課題を手早く終わらせ、端末をバックに放り込み、教室を出る。目指すはカフェテリア・・・食堂だ。



「あー、キリトの奴、あんなにくっついて・・・けしからんなあもう、学校であんな・・・」

「覗きもどうかと思うけど?里香」

わたしが声をかけると窓の下を見ていた篠崎 里香がこっちを向いた。

「あ、早貴さん!」

「こんにちは、珪子ちゃん」

シリカ・・・綾野 珪子に笑顔で挨拶する。里香の隣に座り、集中する為に縛っていた髪をほどき、だて眼鏡を外す。首にまとわりついた髪を軽く手で払う。

「にしても、随分イメチェンしたわねぇ」

里香がわたしを見る。

「そう?髪短くしただけなんだけど・・・里香や珪子ちゃんは変えたりしない?」

「あたしはロング似合わないからなぁ」

「あたしもこれと言った髪型がなくて・・・」

「珪子ちゃんは髪降ろすだけでもいいと思うけどね。里香も、案外ロング似合ったりして」

「ないない。てかさ、少し遅かったみたいだけど・・・もしかして、また?」

「うん、課題終わらせてきた」

その言葉に珪子が目を丸くした。

「ええ!?それって毎回授業の最後に出される奴ですよね!?あたしのも凄い量があるのに・・・」

「あたしもよ・・・」



「あはは・・・まぁ、解らない所があったら教えてあげるよ。ちなみにさ」

ピラフを食べている珪子を尻目に、乙女にあるまじき音を立てながらパックジュースを飲む里香に聞く。


「さっき何を覗いてたの?」

「ああ・・・あんたの姉のデートよ」

「・・・なるほどね」

身を乗り出してガラスの外を見ると、和人と明日奈が肩を寄せてイチャイチャしていた。

「ま、一ヶ月イチャイチャさせようって言ったのは里香なんだし、諦めも肝心よ?」

「早貴だって了承してたじゃない・・・」

「だってわたしは和人さんがお義兄さんでも構わないし」

「ははは・・・」

わたしは席を立つ。

「わたしも何か買ってこよっと。チャーハンにしようかなぁ・・・」

そう言った時、背後から声がした。

「悪い、ちょっと授業が長引いてさ・・・」



「亮さん、こっちです」

珪子が嬉しそうに亮を呼ぶ。見れば亮と共に二人の少女がいる。


「まったく・・・わざわざ待ち合わせをしなくとも・・・」

「まぁまぁ、春音(はるね)さん・・・」


片方には髪を団子ヘアーで纏めた思春。・・・一応この世界では“春音”という名前があるが。ちなみに名字は亮から借りて大澤である。情報改竄は楽じゃなかったけど。そしてもうひとりは・・・二ノ宮 紗智さんだ。

「サチ、なんか食べたいものとかあるか?」

「あ・・・うん。何か食べようかな・・・」

「思春は何食べる」

「・・・何でもいい。ここの食事に外れはないからな」



・・・入院して数日、紗智から連絡が入ったのだ。“思い出した”と・・・当たり前だが彼女の精神は少し不安定になった、けど亮が震える身体を抑えて会いに行き、お互い話し合ってなんとか今の状態になった。思春の方はどうやら事前に亮が聞いていたらしく。すぐに迎えにいったらしい。住む場所がない彼女は桐ヶ谷家の居候になり、暮らしているそうだ。




「(まぁ、わたしも・・・)」

わたしも家に帰れず、里香の家に居候している。明日奈曰く母はわたしの話題は微塵も出さないらしい。・・・ほぼ絶縁状態かな。里香の両親には事情を話してある。ただ、これは罪悪感があった。里香の両親は納得してくれたけど・・・まあ、断ったらわたしは何処に行くんだって話になる。

「・・・はぁ」

代わりにバイトを初めてお金を入れようとも思ったけど・・・里香に止められた。

「さて、と・・・」

みんな揃って昼食を買い、席に座る。


「にしてもさ、お姉ちゃんって酷いんだよ?会っていきなりノロケ話始めたりしてさ・・・」


「んなこと言ったら俺はアスナや直葉に挟まれるんだからな?」

「え?どうして?」

紗智が聞くと亮は溜め息を吐く。

「まずアスナには俺しか知らないような兄貴の事を聞かれるだろ?んで直葉にはデレデレな兄貴を見て愚痴られる」

「ほほう・・・キリトの秘密は興味あるわね・・・」

里香の目が光る。

「勘弁してよ篠崎さん・・・あ、珪子さん、頬っぺに米ついてるよ」

亮が珪子の頬に着いた米を取って食べる。彼氏かお前は。案の定、珪子は真っ赤になる。

「あ、そ、そそ、そう言えば、あたしの家にいつ来ますか?」

「何時でもいいよ。猫のピナにも会ってみたいし。あ、そうだ。チーズケーキ持ってくよ」

どうやら前から約束してたみたいだ。そして亮は紗智を見る。

「そうだ、この前医学の本を多く取り扱ってる書店を見つけたんだ。今度連れていこうか?」

「え、いいの?ありがとう、亮」


「冷静に考えたら凄いハーレムよねぇ」

里香が呟く。ホントだ、男が亮しかいない。

『オイラはどっちッスか?』

「(剣に性別・・・あるか、干将・莫耶が夫婦剣だし)」

ちなみにリパルと詠はわたしの携帯端末にいる。亞莎も同様に亮の携帯にいるのだ。理論は面倒だから省略。ちなみにこの会話を聞いて鋭い目を更に鋭くしたもの一名。

「・・・」

ガツン!

「でっ!?し、思春・・・脛は痛いよ、脛は・・・」

「知るか。だらしないお前が悪い」

「・・・何で怒ってるんだよぉ・・・」

亮が涙目になりながら訴えるが思春はそっぽを向く。


「察してやれよ、亮。思春も二人っきりでいたいのにその相手が美少女に囲まれて嫉妬してるんだよ」

「な・・・!だ、誰が嫉妬しているだと!?」

思春に迫られるがあまり怖くない。

「ところでさ、咲。レクトはどうなったんだ?」

「ん?・・・ああ、殆ど更地状態だよ。父さんも結構落ち込んでたけど・・・ま、すぐに元気になるでしょ」

「ふうん・・・」

あの後、須郷は逮捕された。醜く足掻いていたが、今度はリパルにハックしてもらい、証拠を洗いざらい提示してあげた。ただまあ、お陰でレクト本社、並びにVRMMOというゲームジャンルは痛恨な痛手を被った。レクトは色々刷新して乗りきり、VRMMOも和人が茅場から託されたとあるプログラムで解決させた。・・・そうそう、茅場のことだが、やはりSAOクリア時に死亡していたそうだ。そこ辺りはわたしも和人から聞いた程度なのでよくは知らない。けど、和人は、わたし達は確かに茅場に助けられた。それだけでいい。

「(外史で規格外な事が起こるのはおかしい事じゃないからな・・・)」

「ところでさ、今日のオフ会はどうするの?」

里香が聞くと亮は答える。

「ああ、行くよ。直葉も来るけどいいよな?」

「全然構いませんよ。リーファ・・・直葉ちゃんとオフで会うの初めてだから楽しみです」

「サチと思春も来るよな」

「あ、うん。お邪魔じゃなかったら」

「ああ、参加させてもらう」

「早貴も来るでしょ?」

「当然。エギルのとこでしょ?」

その時、チャイムが鳴った。

「やべ、話に夢中で全然食ってない!ガツガツ・・・んぐ!?」

お約束と言うべきか、亮が慌てて食べて喉を詰まらせる。

「りょ、亮!?」

「い、今水を!」

紗智と珪子が慌てるが、丁度コップに水がなかった。紗智は対処法を頭に思い浮かべているのか何かを呟くが・・・思春が立ち上がり・・・

「はっ!!」

ドン!

「っぐ!?・・・げっほ!・・・ありがとう、思春」

思春が背中から一撃を与えて亮は呼吸困難から解放された。

「覚えておけ、二ノ宮。時には荒療治も必要だ」

「う、うん・・・春音さん、凄いね・・・」



「てか食べ終わってないの亮だけじゃん。わたし達は先に行くからね?」


「・・・次の講師に言い訳はしておいてやる」

「ちょ、みんな待ってよ・・・はぁ・・・」


























































亮~


その日の授業が終わり、一度家に帰ってから桐ヶ谷家と思春と明日奈でエギルの店に行く。


「ーーーそれで酷いんだよ、いきなり脛蹴ってさぁ」

「それは亮お兄ちゃんが悪いよ」

「ええ~?」


「そうだよ、亮くん。春音ちゃんの気持ちも分かってあげないと」

「むぅ・・・多少は分かる気がするんだけど・・・」

「だったら今私が考えていることを当ててみろ」

「・・・うーん・・・あ、お腹空いた?」

「・・・(ガンッ!)」


「あだぁっ!?ま、また脛・・・ジョークなのに・・・」

「はは、亮は乙女心が解らないんだな」

「うっわ、一番兄貴に言われたくねぇ」

そんな会話を繰り返し、エギルの店、ダイシー・カフェに到着した。扉には“本日貸切”と書いてあった。

「スグはエギルと会ったことあったっけ?」

「うん、向こうで二回くらいいっしょに狩りしたよ。おっきい人だよねぇ~」

「言っておくけど、リアルと大差ないからね、アレ」

取りあえず扉を開くと・・・歓声&口笛が聞こえてきた。

「・・・おいおい、俺たち遅刻はしてないぞ」

和人が言うと里香が歩いてきて言う。

「へっへ、主役は最後に登場するものですからね。あんた達にはちょっと遅い時間を伝えてたのよん。さ、入った入った!」

店の奥に和人達が連れられ、里香が喋る。

「えー、それでは皆さん、ご唱和ください。・・・せーのぉ!」

「キリト、SAOクリア、おめでとー!!」

・・・全員の声が重なる。・・・ちなみに、SAO自体をクリアしたのは俺達だが・・・やっぱり主人公に譲ってあげないとね。少なくとも、アスナ姫を救い出した勇者なのだから。さて、ここにいるのは俺達が出会ったSAOプレイヤーほぼ全員がいた。・・・俺はふと、輪から外れた紗智を見つけ、近づく。

「よっ」

「あ、亮」

「隣、いいか?」

「うん」


座ると紗智は飲み物を渡してくれた。

「ありがとう」

「・・・」

俺は少しして・・・口を開いた。

「・・・楽しいか?」

「・・・うん、みんないい人だし・・・あのね、亮」

「ん?」

「あの世界で・・・守ってくれてありがとう」

「・・・お礼を言われる権利は俺にないよ。俺がもっと上手くやれてれば、ケイタ達も・・・」

「亮は悪くないよ。・・・仕方なかったから・・・」

「・・・随分、割り切れたんだな・・・」

「ううん・・・全然。でもね、結局私は生きてるから・・・みんなの分まで生きないと、って・・・頑張れるんだよ」

「・・・そっか。・・・サチの夢は・・・」

「色んな人を助けてあげること・・・だよ」

「それが“医者”になること・・・か。なれると思う?」

「難しいけど、諦めない。・・・何年かかっても」

「じゃ、約束するか」

「え?」

「サチがみんなを助けるなら・・・サチ自身は俺が助ける。二度とお前を暗闇に落とさせない・・・絶対にね」

「・・・亮・・・」

「今度こそ・・・お前をちゃんと守らせてくれ。あんな思いは沢山だ。・・・だから、それを約束。何があっても俺はサチを見捨てない。だからサチも誰も見捨てないで」


「・・・わかった。約束だよ」


紗智と俺は指切りをする。

「(約束・・・増えたな)」




離れた位置では思春と直葉が話していた。

「お前はあの中に入らないのか?」

「あ、春音さん・・・うん、なんか場違いな気がして・・・」

「場違い・・・か」

思春が直葉の隣に座る。

「だとしたら私もだな」

「え?」

「私はあの世界で・・・ここにいる誰とも面識はなかった」

「それって・・・攻略しなかった・・・ってこと?」

「しなかった、というよりは出来なかった・・・と言うべきか。だが亮を通して話しは出来る。お前も和人を通して話をしてみればどうだ」


「・・・ううん、無理だよ・・・お兄ちゃん、たった二年なのに・・・凄く遠くに行っちゃって・・・いつか手の届かないとこに行っちゃうんじゃないかって・・・」

「・・・」

思春はそれを聞いて・・・少しだけ笑った。

「・・・そう、たった二年だ」

「?」

「違う世界で暮らしてたったの二年だ・・・と言った。・・・少し話をするぞ。私はある方を守る為に生きていたのだが・・・」

思春は話す。軽い、作り話のような昔話を。

「そいつはいきなり現れ、たったの一年で
皆の信頼を得て、世界を平和に導いた。そしてそいつは・・・旅立ってしまった」

「旅立った?」

「ああ。使命があったんだ。私は長い年月、そいつと会えなかった」

「それは・・・」

「使命を終え、私たちの元にそいつは帰ってきたが・・・今度は私がいなくなってしまった」

「春音さんが・・・」

「だが、そいつは追ってきた。昔の私は追えなかった・・・無理だと思ったのに、そいつは私に会いに来た。二年以上だ。それでもアイツは・・・変わってなかった。何時もの能天気な、それで真剣な明るいアイツのままだった。・・・アイツがそうだったからな、安心しろ。お前の兄も何も変わってはないさ」

「・・・あの、春音さん」

「なんだ?」

「もしかして・・・それって亮お兄ちゃんのこと・・・?」

「・・・!・・・何故、そう思う?」


「何となくだけど・・・今の話をしてるときの春音さん、亮お兄ちゃんと話してる時と同じ顔してたから・・・」

「・・・そこは好きに考えろ。とにかく、和人と話せ。離れるのが嫌なら掴んでおけ、いいな?」

「う、うん・・・」

気のせいか思春は顔を赤くしながらその場を離れ・・・た瞬間に里香に捕まって人混みに引き込まれた。


「ほらほら~、アンタも飲みなさいよ~」

「篠崎・・・!?まさか、酔っているのか?っ、離せ、私は悪酔いするのは苦手なんだ・・・!というか貴様は未成年だろう!?この世界では・・・」


「ただのジュースよ~!いいからこっちに来なさいっての!」

「や、止め・・・」



・・・思春の悲鳴が聞こえた気がする。多分、蓮華の“アレ”がトラウマなんだろうな~。



























早貴~

わたしはカウンターにいる和人達を見つけ、和人に後ろから抱きつく。

「か・ず・と・さん、楽しんでる?」


「おわっ!?い、いきなりなんだよ」

「もう、お姉ちゃんの恋人ならわたしとのスキンシップにも慣れなよ~」

「・・・以前見た塩らしいお前はなんだったんだ・・・」

「アレは忘れてね。黒歴史にするから」

「おうおう、抱き着くならこっちにもイイ男がいるぜ?」

言ったのは和人の隣で酒を飲んでバンダナを巻いた・・・クラインだ。

「クラインなら五分抱きついて千円でいいよ」

「金取るのかよ!?」

「はっはっ。いいじゃねえかクライン。小遣いでもくれてやれ」

「如何わしい店とかわんねえぞ、おい・・・」

エギルの言葉にクラインは肩を落とす。わたしは左隣にいた人に声をかける。

「あ、それと・・・ユリエールさんとご結婚おめでとうございます、シンカーさん」

「はは、ありがとうございます」


シンカーさんは今、新しいMMOトゥデイを作成しており、わたしも良く見ている。

「そう言えば和人さん、なんの話をしてたの?」

「いい加減離れろって。・・・《種》の話だよ」


「あ・・・」

以前聞いた。あの時茅場晶彦から託されたプログラムがあったと。それは“ザ・シード”冠せられたプログラム・パッケージだったそうだ。・・・つまりだ、回線の太いサーバとそのプログラムがあれば簡単に一つの仮想世界が誕生するそうだ。実際前のVRゲームは全て茅場が開発したものを元にしていて、ライセンス料はそれは素晴らしいモノだったらしい。アーガスが消え、レクトに権利が移行し、またレクトも解散し新しい引き受け先を求めたが・・・金額の大きさやVRゲームの社会的不安等もあってどの企業も手を出せなかったが・・・そこで権利フリーなザ・シードの出番だ。これを使えば危険がないことも証明され、今や凄い数の企業が手を出している。復帰は不可能と思われていたアルヴヘイム・オンラインもいくつかのベンチャー企業の関係者が共同出資で新たな会社を立ち上げ、レクトからほぼ無料の額でALOのデータを買い取り・・・新しいALOが誕生した。プレイヤーデータも引き継がれ、殆ど以前とは変わってない。技術が発達し、今ではキャラのゲームからゲームへのコンバートできる仕組みも出来つつある・・・凄かった。


「・・・なんか、凄い勢いで時代が変わるね。今じゃ普通のゲームが嘘みたいだよ」

「俺達にとってはVRゲームが普通になってるけどな」

「全くだね。・・・あのさ、和人さん」

「ん?」

わたしは和人の耳に口を近づけ、囁く。

「お礼、ちゃんと言ってないよね?・・・お姉ちゃんを助けてくれて・・・ありがとう」

「・・・よせよ、俺だけじゃないさ。亮やスグ・・・お前だって頑張ったじゃないか」

「こういうのは素直にお礼を言われればいいの。ありがとうございました」

「あ、ああ・・・どういたしまして・・・」


・・・笑顔があった。誰が見てもハッピーエンドな展開。物語の終焉。そう・・・


ーーーガチャン


・・・・・・何かが割れた音。この世界が、終わった・・・・・・

 
 

 
後書き

「一応SAO篇終わり」

早貴
「そう、次回からはクライマックス!それじゃ、よろしくな!」 

 

世界、崩壊~

 
前書き
23日をもって遂に、18歳になりました・・・さて、久々のフルオリジナルで頭大混乱(笑)ではどうぞ。 

 
ガチャン!

・・・誰かがグラスを落としたようだ。俺は気になって立ち上がった時・・・身体が、重くなった。

「ーーーーー!?」

次の瞬間には俺は地面に倒れていた。いや・・・俺だけじゃない。立っている人間は一人もいなかった。


「な・・・んだ・・・!?」

この感覚は知っている・・・世界の修正力の圧迫と似ていたが・・・けどなんで?俺や咲だけでなく、みんなまで・・・

「う・・・あああ!?」

珪子が悲鳴を上げた・・・瞬間、身体が光に包まれ、四散した。


「珪子さん!?」

「あ、ああ・・・!?」

隣にいた紗智も・・・同じように消えた。

「サチ・・・!?」

それを皮切りにどんどん消滅していき・・・

「キリ・・・トく・・・」

「ア・・・ス・・・」


・・・遂に、俺と咲以外の全員が消滅した。その段階で圧力も消え、俺達は立ち上がる。

「お姉ちゃん!里香!・・・な、なんなんだ・・・」

「・・・あ!・・・亞莎!いるか!?」

・・・返事はない。

「リパル!詠!」

咲も同様だ。・・・と、その時、地震が起きて・・・“空間が割れた”

「な・・・!?」

「くっ・・・亮、とにかく出るぞ!」

店から飛び出して外を見渡すと・・・唖然とした。

「なんだよ、これ・・・」

辺り所々ひび割れて暗闇が広がっていた。人の気配もしない・・・何が起こってるんだ。


『・・・ょう!咲!』

頭に声が響いた。この声は・・・

「紫!?」

『・・・から、逃げ・・・さい!スキマ・・・開い・・・!』

「なんだって?聞こえないぞ!」

『亞莎たち・・・無事・・・!迎え・・・とにかく、逃・・・』

ブツン、と声が消えた。

「逃げろ・・・って言ってたよな」

咲の言葉に頷く。

「とにかく進もう。止まってて・・・も?」

その時、空中が光った。目を凝らすとそれは・・・光の矢だった。

「おい・・・あれ・・・!」

「やばい・・・走れ!」

俺と咲は走り出す。少しすれば背後から光の雨が降り注ぐ。

「っ・・・!当たるなよ、亮!」

「ったりまえだ!」


半身で後ろを見ながら矢を回避していく。・・・だが、いかんせん数が多すぎる。このままじゃ・・・そう思った時・・・声が響いた。

「ジェットザンバー!!」

ゴォォォン!!

俺と咲の間に強力な魔力が叩き込まれ、背後の光の矢が全て薙ぎ払われた。

「・・・ふぅ、二人とも大丈夫?」

目の前に金髪の女性が降りてきた。

「君は・・・確かフェイト・T・ハラオウン・・・?」

「フェイトでいいよ。亮くん、咲くん」

「どうして・・・」

「紫に頼まれて・・・一番早い私が来たんだよ。ここは私が引き受けるから、君たちは先に行って」

「け、けど・・・」

「大丈夫。ある程度したら私も退くから・・・あ、亮くん」

フェイトが俺に・・・携帯を渡してきた。

「これ・・・」

「紫から預かってきた君の携帯。今の世界の状況なら能力は使える筈だって」

「悪い・・・ここは任せた!」


「うん、任せて。スキマの近くにはやてがいる筈だから」



「わかった、サンキュな!」

俺と咲が走り出すと再び前から矢が・・・


「サンダーレイジ!!」

・・・瞬く間に落とされた。・・・すげぇ。フェイトが飛んできた方向に向かって走り続ける。

「そうだ・・・モーションキャプチャー!射命丸!」

東方の鴉天狗・・・それに姿を変え、咲を抱えて飛ぶ。

「うおっ!?」

「こっちのが速いだろ!」

「安全運転な!」

高所を飛ぶと光の雨に晒されるので、建物の間を縫うように飛ぶ。・・・と、ふと何かが聞こえた。

ガキン・・・カァン・・・


「この音・・・」

「金属音・・・か?」

一体どこから・・・そう思った時、目の前でコンクリートの壁をぶち破って建物に激突する何かが通った。

「「!?」」

思わず着地し、通った何かを確認する。砂ぼこりが引いて現れたのは・・・


「あ・・・」



「うぅ・・・あ・・・」


「愛依っ!!」

それは破壊者・・・愛依だった。咲が駆け寄り、話しかける。


「おい、愛依!しっかりしろ!」

「う・・・」

どうやら気絶してるようだ。・・・って!


「危ない!」

咲に向かって飛んできた魔力弾を弾いた・・・瞬間に高速で何かが飛んできた。

「っ!」

繰り出された何かを弾き、離脱しようとするが・・・振りきれない!?

バキィン!

「がっ・・・!?」

壁に叩き付けられ、真似が解除される。

「亮!」

「く・・・だ、誰だ・・・!」


目の前に三人の人影・・・・・・いや、コイツは・・・!

「あれ・・・誰かと思ったら」

「・・・お前たちか」


「シィ!?剛鬼!?」

「こんなとこで会うなんてな奇遇だな?少年」

「リョウコウ・・・!?」


どうして彼女達が・・・そう思った時、衝撃的な発言を聞いた。

「じゃ、そこ退いて。破壊者を殺すから」

「なっ・・・」

「何を言ってるんだよ、シィ!彼女達を殺す必要は・・・」

「ある。コイツは恋を傷付けた」

「そうだけどよ・・・だけど愛依は罪を償うと・・・」

「あー、んな面倒な御託はいいからよ。とっとと退けや」

「リョウ!」

どうなってる?愛依のことはシィもリョウコウもあの場にいたじゃないか。剛鬼だって彩雅の話が行った筈なのに・・・!


「・・・ほら、早く」

「・・・やだね」

「・・・」

三人の顔色が変わった。冷たい・・・ゴミを見るような目。

「おいおい、その言葉が何を意味するか分かってンのか?」

「ああ。とにかくお前らが何処かおかしいってのをわかってて言ってるよ」

「ならば・・・死ね!」

剛鬼が突っ込んでくる。真似は・・・間に合わない!

「亮!使え!」

咲が愛依の持っていた偃月刀を投げ渡してくる。それを受け取り、構える・・・が。

ガキャン!


「っ・・・くぁ!」

大きく跳ねあげられ、返す刀が・・・

キィン!

それをギリギリ持ち手の部分で弾く。すぐに次の一撃を防ぐが、また弾かれる。

「くっそっ・・・」

視界がボヤけて太刀筋が見えない・・・!


ガキン!

「・・・なるほど、わざと弾かれ、すぐに武器を戻せる場所に敵の一撃を誘う。よくある戦法だな」

「っ!?(もうバレたか・・・!)」

「ふん!」

「ぐぁぁ!?」

吹き飛ばされ、地面を転がる。


「ありがとう、剛鬼。じゃ・・・咲ごと吹き飛ばしちゃうね」


シィが大量の魔力弾を展開する。

「させるか・・・モーションキャプチャー!ファイズ!」

携帯がファイズフォンに代わり、ベルトが腰に現れる。すぐに5を三回プッシュし・・・エンターを押す。

『スタンディングバイ』


「変身!」

ベルトにファイズフォンを差し込む。

『コンプリート』


ベルト・・・ファイズギアから強化スーツからフォトンブラッドと共に強化スーツが現れ、仮面ライダーファイズに変身する。そしてすぐに手首のファイズアクセルのアクセルメモリーを抜き、ベルトにセットする。

『コンプリート』

アクセルフォームになる。そしてアクセルギアのスイッチを押す。

『スタートアップ』


これは十秒間だけ千倍のスピードで動ける力・・・俺はファイズエッジを握り、咲と愛依の前に出て全ての弾を弾き飛ばす。

「(シィは・・・)」

「ここだよ」

気が付けば目の前にシィが現れていた。・・・嘘だろ!?

「くっ!」

シィの剣と俺の剣がぶつかりあい、火花を散らす。

「ふふ・・・」

「ナメ・・・んな!」

蹴り飛ばし、そのまま回り込んでファイズエッジで切り裂く。

『3・・・2・・・1・・・』


「ハァァァァ!」

思い切り突きを放ち、シィを吹き飛ばした。

『タイムアウト。ディフォメーション』

時間切れで元のファイズに戻った・・・瞬間・・・背後から声がした。


「よう、随分はえぇんだな」

「・・・っ!」

振り向き際にファイズエッジを振る。

カァン!

「割れろ!」

「く・・・!」

リョウコウだ。だがこの姿なら力負けは・・・

パキ・・・

「な・・・」

「砕けな!」

パキャアアン!

「うあああ!?」

ファイズエッジが砕け、更に斬られる。

「ちっ・・・生身なら死んでたぞ・・・」

すぐにファイズエッジに使っていたミッションメモリーをファイズショットに差し込み、手に装着する。所謂メリケンサックだ。そしてファイズフォンを開き、エンターを押す。

『エクシードチャージ』

「はぁぁぁぁ・・・オラァァ!」

走り出し、リョウコウに向かって拳を放つ。

「グランインパクト!!」


「真っ向勝負上等だ。そらよ!」



ガァァァン!!

辺りに衝撃波が飛ぶ中・・・リョウコウの顔から笑みが消えることはなかった。

「・・・見た目のわりに拍子抜けだな。・・・ほいっと」

ガキン!

ファイズショットも砕かれ、怯んだところに突きを喰らい、変身が解除された。

「・・・つ、強すぎる・・・」


ここまで差が出るなんて・・・

「まったく・・・亮も酷いなぁ、少し痛かったよ」

唯一ダメージを与えたシィも余裕綽々といった感じだ。

「・・・」

目を閉じる。ここまでか・・・


「あのさ、人の姿で私の友達を傷つけないでくれる?」

「・・・え?」

目を開ける。すると・・・シィが二人いて・・・片方のシィがもう片方のシィに手を当てていた。

「・・・な、お前は・・・!」

「千の雷」

バシィィン!!

片方のシィが消滅し、残ったシィが一瞬で俺の隣に移動してきた。


「亮!咲!」

「・・・味方か?」

咲が言うとシィは苦笑する。

「私は何時でも亮達の味方だよ。・・・立てる?」

「あ、ああ・・・」

シィの手を借りて立ち上がる・・・と目眩がした。

「(二回でここまで消耗するなんて・・・)」

「シィ・・・アレは一体・・・」

「多分、私たちの偽物だよ。何でかは分からないけど・・・とにかく、あの二人は私が引き受けるよ」

「けど・・・」

「いいから急いで。・・・もうすぐこの世界は崩壊するかもしれない」

「・・・平気か?」

「死にたくても死ねないから平気だよ。何回も死ぬのはごめんだから死ぬ気はないけど」

俺と咲は頷き会い、愛依を抱き抱えて立ち上がる。

「行くぞ、咲」

「ああ!」


シィは二人に向かって行く。

「悪いけど・・・雑魚に構っている暇はないよ!!」




俺達は再び駆ける。

「あ・・・こっちや、こっち!」


向こうで女性が手を振っている。八神はやてだ。

「よし・・・彼処まで行けば・・・!」

「・・・!アカン、上や!」

「!?」

「あぶねぇ!」

咲に突き飛ばされ、前のめりになる・・・瞬間、背後に風が通った。

「バルムンク!」

はやてが魔法を使うが、弾かれたのが背中越しでも分かった。


「今度は誰だ・・・!」

振り返るとそこにいたのは・・・


「あーあ・・・何で避けちゃうかな・・・せっかく苦しまないように一撃で殺してあげようとしたのに」

「な・・・」

この声は・・・顔を見て、何度目か分からない衝撃を味わった。

「つ・・・椿?」


露出高めの服を身に纏い、妖しい笑みを浮かべていたのは・・・椿だった。当然、一目でおかしいと分かる。


「椿・・・?椿、だよな」

「そうだよぉ?破壊者の椿・・・だよ」

「な、何を言ってるんだよ、なぁ・・・」

一歩近づいた時・・・椿の目付きが変わった。

「近寄るなぁ!!」

ビュン!

「わっ・・・」

「わたしに近づくな・・・壊されちゃう・・・わたしが壊されちゃう・・・!」

「・・・?」


「・・・そうか・・・お前が・・・お前がお父様とお母様を殺したんだ・・・」

「一体どうしたんだ!お前の両親なんて知らな・・・」

「惚けるなぁぁぁあああ!!」

「く・・・咲、愛依を頼む!」

「あ、ああ」

携帯を操作する。

「椿にはツバキだ!モーションキャプチャー、ツバキ=ヤヨイ!」

ブレイブルーのキャラ、術式兵装十六夜を使う少女に姿を変える。

「死ねぇぇ!」

ペン型の剣で椿の一撃を逸らす。

「突っ込む!」

光を纏って突撃。椿の防御ごと弾き飛ばす。

「チャージ!・・・ラァッ!」

蹴り上げと同時に現れた羽根が椿を巻き込む。

「ぐっ・・・やっぱりわたしを壊す気なんだ・・・」

「椿!落ち着け!俺が分かってないのか・・・!?」

そのまま戦闘が長引くに連れ、辺りのひび割れが拡がっていく。

「とにかく大人しくさせる・・・!アストラルヒート!」

俺は姿を変える。

「白き羽は潔白の印。黒き羽は原罪の咎」

そのまま椿に体当たりをして上に舞い上がる。


「我ら神の代理となりて、罪を裁き刑を執行する者なり!結審、瞬きの間に・・・全ての罪に断罪を!!」

背後から放たれた強力な力が椿を飲み込む。そして着地すると同時に・・・視界が歪む。

「っ・・・余計なもんまで真似したか・・・でも、流石に椿も・・・」

「ちょいまち!まだ終わってへん!」

「え・・・」

ズシュ!


「・・・!」

腹に・・・刀が刺さっていた。・・・まさか、刀を投げてくるなんて・・・

「亮!」

「大、丈夫・・・」

刀を抜き、放り投げる。不味い・・・今真似が解除されれば間違いなく気絶する・・・!

「はぁ・・・はぁ・・・壊す・・・わたしを壊すものは全部こわす・・・!」

「凄い・・・執念だな・・・」



「ーーーーまったく、とことん使えないね、君は」

「ーーーー!」

聞きなれない、声だ。それと同時に背後に気配があった。

「そうだ、君も仲間に入れてあげようか」


「危ない!」

はやてが杖を振るが、背後から気配が消え、杖が空振りをした。


「おっと・・・君が代わりかい?」

急いで振り返ると・・・はやての背後にローブを着た男がいた。

「はやて!後ろだ!」

「・・・っ!」

慌てて振り返ろうとするが・・・それよりも早く男に捕まれた。

「っ、離・・・あぁぁぁぁぁぁ!?」


黒い靄が吹き出す。あれは・・・闇か!?

「ふむ・・・君にも適正があるね。僕に対する憎しみで一杯だ」

「な、何、を・・・」

「ヴォルケンリッター・・・はは、凄いね。全部君を守って消えたんだ」

「・・・!!!」

「安心しなよ。すぐに会えるからさ。僕がやれば・・・」

「大きな・・・お世話や!!」

裏拳一発。男は転移して距離を取る。

「悪役は・・・好きやないんよ・・・!!みんなの痛み・・・思い知って・・・や・・・!」

魔方陣が展開される。

「響け・・・終焉の笛!!ラグ・・・ナロクゥゥッ!!!」

強大な魔力が男を飲み込む。・・・そして、光が消えるとそこには何もなく・・・それを見たはやてが座り込む。

「やったよ・・・みんな・・・」

「・・・と、思ったかい?」

「・・・!?」

顔を上げたはやて・・・その胸元を、光の矢が貫いた。

「あ・・・あ・・・なん、で・・・」

そう呟いて、はやては倒れた。

「へぇ、意外に死なないもんだね」


「貴様・・・!」


「おっと、まあ落ち着きなよ」

「何が落ち付けだ・・・ふざけるな!」

「やれやれ・・・熱いねぇ」


「お前が今回の黒幕か・・・」

咲の言葉に男は笑う。

「まあ、そんなところかな?さて、と・・・君達も僕の仲間にしてあげようか?それとも今ここで死ぬかい?」


こいつ・・・!突っ込もうとした時・・・また聞き覚えのない声が聞こえた。

「それを決めるのはアンタじゃないわ」
ダン!

「おおっと」

何かが障壁に当たる。見るとスキマからライフルを構えた少女が現れていた。

「・・・はやて!しっかりしなさい!」

「う・・・シノ・・・ン・・・」


「・・・致命傷じゃないようね。これを飲みなさい」

シノンと呼ばれた少女がはやてに瓶に入った液体を飲ませる。


「やれやれ、邪魔が入るのは嫌いなんだよ」

「奇遇ね。私も邪魔されるのは嫌いだわ」

再び光の矢がシノンに向く。

「そんな銃じゃこの数は捌けないだろう?」

シノンはそれを笑って・・・ライフルを投げ捨てた。

「私の武器は一つじゃない」

そう言って取り出したのは何かの筒だ。それを軽く振ると・・・黒い刀身が現れた。

「長い間傍観者をやってると暇だから、色々身に付くのよ」


シノンは走り出し、光の矢を弾きながら接近。男に迫り・・・身を捻った。

「喰らいなさい・・・!ヴォーパル・ストライク!!」

ガァン!

「くく・・・なるほどね。君が傍観者になった理由は・・・」

「・・・!」

「残念だったね。正史でなら起こった奇跡が君には起こらなかった。身を挺して君を守った彼はもがきながら君の目の前で・・・」

「黙りなさい!!」

「彼の亡骸の前で泣き崩れる彼女と妹。君はどんな目で見られたかな?」


「・・・!」

「それを後悔してるからその剣を使ってるのかい?くく、くくくく」

「この・・・!」

「どうやら図星のようだねぇ?僕は“可能性”を言ってみたけど・・・ビンゴだったんだね!?あははは!」

シノンはゆっくりこっちを見る。

「大澤 亮!五十嵐 咲!早くはやてとその破壊者を連れてスキマに入りなさい!」

「お前は!?」

「足止めよ!少しすればフェイト達が来る!」

「・・・わかった。咲、行くぜ」

「ああ・・・亮はともかく、俺は足手まといにしかならないからな・・・亮、傷は?」

「真似が解除されればある程度治るよ。さ、行くぞ!」

はやてを抱え、愛依は咲に任せる。そして空間に向かって飛び込んだ。

「・・・!?」

以前飛び込んだ時と何かが違う気がした。

『逃がさないよ・・・ふふふ』


それを聞いた時・・・意識が暗闇に沈んでいった・・・

 
 

 
後書き

「はぁ・・・」


「どうした?」


「作者のテンションが地味に高い。ココノエプレイアブル化にアイマス映画化にテイルズに・・・」


「・・・ああ、そう・・・さて、次回もよろしく!」


「後書きのネタがないよー!」 

 

お遊び~

 
前書き
結果が・・・結果が来ない・・・!!積んであったガンプラやゲームを消化する日々が続きます。ではどうぞ。 

 


「・・・う・・・」

目を開き、俺は慌てて立ち上がる。

「ここは・・・!?」

辺りを見渡すが、ただ平原が拡がるだけだ。

「どこだ、ここ・・・」

そこで気付いた。周りには誰もいなかった。隣にいた咲も、支えていたはやても。


「おーい!!誰かいないのかー!?」

更にハッとなった。俺の身体が・・・

「元に・・・戻ってる?」

恋姫での身体・・・大澤 亮の姿だった。ただ違うのは・・・しっかりと擬音や迷切に葬解を身に付けていた。


「どうなってるんだよ・・・」

最早溜め息しか出ない。・・・どうやら気も魔力も元に・・・いや、増えてるか?

「二つの世界の分が蓄積されたのかな?とにかく動こう。立ち止まっててもいいことはなさそうだしね」


俺は歩き出す。何かないかと辺りを見渡し続けるが、見えるのはただの平原。景色に変化も見られない。


「・・・」


これじゃ砂漠を歩いてるみたいだ。人の気配もまったくしないし・・・いっそ真上に気弾を撃つのもイイかもしれない・・・そう思った時、殺気を感じた。

「っ!」

振り返ると・・・そこには数十人の鎧を着た兵士。

「・・・どうやらお話する空気じゃないな・・・」

全員が俺を見ている。殺気が籠った瞳で・・・だ。

「いいぜ、かかってきな」

兵士達が一斉に襲いかかってくる。俺は擬音を引き抜き、跳ぶ。

「まず一つ!」

剣をかわし、横一文字に切り裂く。すると・・・切り裂いた兵士が黒い霧になって四散した。

「(人間じゃないのか!?)っと、二つ!」


気を取られて注意が逸れたが、難なく回避して気を纏わせた蹴りで鎧ごと粉砕する。

「数が多い・・・!」

俺はバク転をして距離を取り、気を溜める。


「久々に行くぜ!猛虎獣衝撃!」

ドォォォン!!

半数の兵士が虎に呑まれ、消し飛ぶ。残った兵士を見て魔力と気を混ぜ合わせ、擬音に注ぐ。

「これで決まりだ・・・」

走り、すれ違い様に光の刃を叩き込み・・・砕け散った光の欠片が全ての兵士に降り注ぐ。

「鈴音罰殺斬!!」



ガァァァン!!

・・・遂に兵士は一人残らず、消滅した。

「ふぅ・・・にしてもなんだったんだ一体・・・」


闇・・・とは違うっぽいし・・・考えてても分からない。とにかく進もう・・・と思ったら・・・

「・・・ん?」

目の前に人がいた。いや・・・人と言うべきか、人形に黒い靄がかかってて辛うじて人っぽいと分かる程度だ。

「今度はなんだ・・・?」

そう呟いたら、二つの影は剣を構えた。

「!?」

そして・・・迷うことなく突っ込んできた。

「マジか・・・!?」

擬音と迷切を同時に抜き、両方の斬撃を受け止める。


「ぐっ・・・らぁっ!」

気合いで押し返し、片方の影を蹴り飛ばし、一対一に持ち込む。

「おい!何なんだお前は!」


「・・・」

「・・・喋れないのか答える気がないのか・・・」




とにかくあっちが敵対心剥き出しなら応戦せざるを得ない。擬音と迷切を交互に繰り出し、手数で押す。


「押し切ってやる・・・!」

・・・だが、影が退いた。代わりに背後からさっき蹴り飛ばしたもう一人の影が剣を二本持って突撃してきた。

「二刀流か!」

敵の連撃を裁き、打ち合う。・・・ふと感じたが・・・何処かでこの動きを・・・


「(ギャリィッ!)うっ・・・と!」


二人がかり、計三本の剣が迫る。葬解も防御に使って防ぐが・・・ちょっと体力がなくなりそうだ。

「(咸掛法を使う余裕もないしな・・・)」

どのみちこのままじゃじり貧だ。・・・一発に掛けるか。

「そ、ら!」

相手の身体を蹴って背後に跳び、擬音を地面に突き刺し、迷切の鞘を手に持って刀を鞘に収める。

「最悪でも一人は沈める・・・!」


刃に気を流し込み、わざと反発するように魔力を鞘に流す。まずは厄介な二刀流を潰す!

「ふぅぅぅ・・・」

息を吐き、極限まで集中。射程圏内に入ったら全力で切り捨てる・・・!そして影達が振りかぶり、突撃してくる。俺は腕に力を籠め、迷切を・・・



「まって、お兄ちゃん!!」

「兄さん、そこまでです!!」



カキン!!

・・・不意に誰かが割り込み、影の動きを止めた。・・・その誰かは・・・

「ヒュー!?」

「まったく、世話が焼けますね・・・」

ヒューバートだ・・・じゃあこっちの金髪の少女は・・・

「リーファ・・・直葉か!?」

「うん、そうだよ」

「どうして二人が・・・って余所見をするな!そいつらは・・・!」

「リョウ兄さん、よく見てください。本当に彼らは敵ですか?」

「何を言って・・・」

その時、“影”が喋った。

「ヒューバート、リョウって・・・」

え・・・この声は・・・

「アス、兄・・・?」

そう認識した瞬間、靄が消え去り、相手の姿は鮮明になる。そこにいたのは・・・

「あ・・・リョウ!?」

「あ、アス兄!?それに、和人!?」

「亮・・・!?」


「やっぱり。遠目で三人が戦ってたからおかしいと思ってたんだ」

「・・・スグ、これはどういう・・・」

「ていうか兄貴はなんでSAOのアバターなんだ?なのに直葉はリーファだし・・・」

「待ってください。まずは落ち着いて、僕とリーファさん、兄さんとキリトさん、そしてリョウ兄さんの順番にここに来るまでの経緯を話して行きましょう。でないと話が纏まりません」

「そうだな。ヒューバート、頼む」


「はい。では・・・」

俺達は一度、話し合うことにした・・・























































咲~


「っ・・・どう、なった・・・?」

起き上がろうとしたら・・・視界に黒い髪が映った。

「え・・・まさか」

立ち上がってからシャツの中を見る。・・・平らだった。つまり・・・

「男に戻った・・・?」

よく見れば左手も黒ずんでいて、闇も使える。・・・完全に五十嵐 咲の身体だ。

「何が起こった?スキマに飛び込んで・・・ここに?」

辺りは所々ひび割れた荒地だった。

「転移ミスか?いや・・・だったらすぐに紫が来るはず・・・じゃあ、考えられるのは・・・っ!?」
上を見上げると大量の鳥型のモンスターとそれに掴まるゴブリンが目に入った。

「解りやすくて助かるぜ。どうやらまだ俺達の命は諦めてないらしいな」

俺は身構える。

「リパル!・・・っていないのか・・・しょうがない、久々に一人でやるか」

久しぶりに使うあの能力。

「開け!」

腕を開くと空間が開き、俺はそこから青龍偃月刀と黒のマントを引っ張り出す。

「来な」

ゴブリンが降り立ち、近付いてくる。

「ダークファイガ!」

黒い炎を打ち出し、動きを止める。そして駆け寄りながら左手の指先に闇を集め・・・振る。

「ラッシャア!!」


戦闘の数匹が五等分になり、四散して消える。

「偽物のシィ達と同じ技法らしいな・・・っとらぁっ!」


振り向き際に闇を籠めた偃月刀を振り、武器ごと両断する。

「第一段階、行くぜ。・・・Dモード!」


身体が黒い闇に覆われ、鎧・・・というかスーツのような装備に包まれる。

「さて、と」

地を蹴り、数体のゴブリンを纏めて蹴り飛ばす。

「地上戦はこれで締めだ。はぁぁぁぁ・・・」

闇を偃月刀に籠め、偃月刀が闇に包まれる。そのまま勢いよく回し・・・全力で投げた。

「オォリャアッ!!」


ドゴォォン!!

闇が炸裂。全てのゴブリンを巻き込んで破裂する。


「・・・っ」

その瞬間、鳥が火を吐いてきた。俺は後ろに跳び、更に闇を高める。

「Bモード・・・やるぜ!」

今度は全身が刺々しいデザインに代わり、背中に羽根が生える。髪と瞳も金色に染まって、端から見たら痛い中2デザインだ。

「第二ラウンドと行こうか」

空間から姉・・・ジゼルから渡された拳銃を取り出す。

「・・・ふっ!」

羽根を羽ばたかせ、飛ぶ。そして手始めに一匹の背中に飛び乗り。

「ばーん!」


脳天を撃ち抜いた。四散する前に蹴り、そのまま後ろに一回転して背後の鳥に蹴りを叩き込んだ。・・・当然、頭は潰れた。

「タイトバレット!」

横薙ぎに弾を放ち、敵を硬直させる。すると一匹が弾を避け、接近してくるが・・・遅い。

「空中戦で勝とうなんざ百年・・・いや、一生無理なんだよ!」

身体以上に異形と化した左手で頭を掴み、力づくで頭部を粉砕する。そして身体に闇を纏わせ・・・

「これで終わりだ。・・・ダークオーラ!!」

闇を纏った体当たり。硬直していた全てのモンスターを吹き飛ばす。辺りに何もないのを確認してから俺は着地して、Bモードを解除する。

「・・・よし、感覚は鈍ってねぇ。呑まれる事もない・・・」


さて、取りあえず進もう。近くに亮か愛依、はやてがいるかもしれない。ただ、やっぱり襲撃に備えた方がいい。何時何時襲われるか解らないのだ。


「(大声を上げるのも不味いな)だったら・・・飛ぶか」

もっかいBモードを使う。そして低空飛行。


「(リパルがいれば周りのチェックがしやすいのに・・・!)」


辺りを注意深く見渡して飛んでいたら・・・


ドン・・・

「っ、あれは!」

空に向かって放たれた黒い物・・・それを見たら一瞬、身体が疼いた。

「これは・・・愛依の闇か?そうか・・・俺も愛依の闇を持っているから・・・とにかく、急ごう!」



その方向に向かって飛ぶと・・・激しい物音が聞こえた。

「きゃあああ!?」


視界に吹き飛ばされ、岩肌に叩き付けられる愛依が映った。

「うっ・・・げほ・・・え、えぁ・・・」


『愛依さん!しっかりするッス!』


・・・しかも、愛依の手には黒と白が入り交じった方天画戟・・・リパルが握られていた。見ればゴツいゴーレムが愛依に向かって歩いていた。

「愛依!!」

「ぅぇ・・・?・・・さ、咲・・・」

「リパルを渡せ!」

「う、ん!」

愛依が思い切り方天画戟を投げる。俺はそれを受け取り・・・全力でゴーレムに向かって振り下ろした。

バキャアン!


「ひゅう」

一発で粉砕に成功した。


「リパル、愛依。何があったか分かるか?」


『それが・・・』

「アタシもついさっき目が覚めたんだ。そしたら近くにリパルが落ちてて・・・」

『オイラも愛依さんに回収されて目を覚ましたッス・・・』


「立場は変わらないか・・・リパル、ここらのデータは?」

『サーチしたッスけど、意味不明ッス。土地に統一感がなくて・・・』

「パッチワークみたいに継ぎ接ぎってか?」

『そうッス』

「なるほどな。大体分かった」

「ええ!?マジ!?」


「多分、あのローブの男の仕業だな。俺は前に一度于吉が同じ手段を使ったのを覚えている。世界同士を混ぜて異なる世界を産む・・・そして男の目的は俺と亮の抹殺」

「な、なんでそこまで?」

「んなもん、何回も狙われたからに決まってるだろ。ただ謎なのはさっきみたいにシィ達の偽物が作れるならそれを差し向ければいいのに、何故か弱いモンスターを差し向けてきた。強い力は複製に時間がかかるのか、もしくはこっちを舐めてるのか・・・」



「ーーーー随分と余裕そうね」

知らない声が聞こえた。俺は咄嗟に方天画戟を構え、左手に闇を集める。


「誰だ?」

見上げると崖の上に少女が立っていた。ダークブルーのコンバットスーツを着て、手には・・・確か、キャリコと呼ばれている短機関銃が握られていた。


『あ、ヤミさん!?』

・・・え、知り合い?


「リパル、知ってるのか?」

『はいッス!リョウコウさんの世界の人ッスよ!』




「ええ、私は闇風。貴方達を助けに来たわ」

「・・・待ちな。まだ動くな」

『咲さん!ヤミさんは味方・・・』

「悪いなリパル。俺は偽物のリョウコウ達に襲われてるんだ。コイツが本当に味方かなんて分からねぇ」

「・・・そう、賢明な判断ね。ただ、私がリパルの声を聞いてる時点で証明になってると思うけど?」

「む・・・」

確かにそうだ。リパルとは“リンク”が出来てないと声は聞こえない。だから、リパルの声が聞こえる時点で何かしらの繋がりがあるんだ。



「・・・」

どうする?信じるか?味方であればリョウコウの世界の人間だ。かなりの戦力になる。だが逆なら・・・かなりの脅威になる。

「・・・分かったわ。なら私が一番前に立つ。おかしな動きをしたらすぐにその刃で貫けばいい」

「・・・悪いな。信用仕切れなくて」

「まあ、仕方ないわね。一応見てたから、疑う気持ちはわかるわ」


「じゃ、よろしくな・・・ヤミ。俺のことは咲でいい」

「あ、アタシは愛依・・・です。」

「よろしく、咲、愛依」




「じゃあ、ヤミはどれぐらいこの事を知ってる?」

「正直咲達と変わらないわ。あくまで私達が見れるのは一部だけだから」

「だよな・・・リパル、一応周囲をサーチしてくれ」

「え?どうして?」

「少なくとも雨風を防げる建物が必要だろ?継ぎ接ぎの世界なら何処かに建物があるかもしれない」

「あ、そっか」


『・・・あれ?』

「何かあったの?」

『いえ・・・これは、生体反応ッス!しかも二人!』


「っ!位置は!?」


『ここから南西ッス!』

「オッケー。愛依、ヤミ、行くぞ」

「う、うん!」

「ええ」


俺達は走り出す。驚いたことに闇風は足が物凄く早かった。リョウコウの世界は確かSAO・・・じゃあ・・・

「ヤミ、あのさ・・・お前ってSAO生還者?」

「・・・そうよ。それが?」

「いや、リョウコウと同じ世界、って言ってたからさ・・・SAOに銃あったっけ?」

「あるわけないでしょ。これは違うゲームのアバター」


「・・・フルダイブ型FPS?」


「単純に言えばね」

「そりゃ面白そうなこった・・・そうだ、愛依。お前、何でソードアート・オンラインの世界にいたんだ?」

「・・・・・・それは・・・」

愛依はゆっくり話してくれた。椿といたらあのローブの男に襲われたこと、椿が身を挺して逃してくれたこと。次に意識が戻ったら既に壊れかけた世界にいて、歩き回っていたら偽物に襲われたそうだ。

「・・・大変だったな」



「でも・・・椿がどうなったか心配で・・・もし椿に何かあったらアタシ・・・」

「・・・」

言うべきなのか?椿はおかしくなって・・・俺達に襲い掛かってきたと。・・・俺には、言えない。今それを知ったら愛依は動けなくなる。・・・俺は愛依と縁がある。逆に椿は亮と縁がある。他力本願になってしまうが、亮に賭けるしかない。椿と愛依が接触する前に亮が椿を元に戻してくれれば・・・

『咲さん・・・』

「(・・・笑いたきゃ、笑えよ。真実を打ち明けられない臆病者をさ)」

『(・・・オイラもッスよ。同じことを考えてたッスから・・・咲さんに判断を委ねます)』

「・・・すまない」


「・・・近いわよ」

闇風の声でハッとなる。風切り音と・・・発砲音?

「彼処だ!」


崖っぷちの目の前で止まり、下を見る。目を凝らすと・・・二人の人影が争ってた。


「くそ、思ったより高いな・・・愛依は?」

「ごめん、無理・・・」

「そうか・・・ヤミは・・・ってヤミ?」

振り返ると闇風は離れた位置にいた。

「・・・何やってんだ?」

「・・・べ、別に?崖っぷちに三人も立ったら、く、崩れるかもしれないじゃない?」


・・・ああ、なるほど。

「高所恐怖症か・・・」

「な・・・」

「気持ちは解るよ。俺も昔尖端恐怖症だったしな。・・・分かった。ヤミと愛依はここにいてくれ。・・・俺が降りる」

そう言って俺は闇を手と足に籠め、ブレーキをかけながら壁を滑り出す。



「アレは・・・!」

争ってる二人は・・・!

「ジゼル!アスナ!」

二人はお互いに鬼気迫る表情だ。


「一体どうして・・・!」

俺は思い切り飛んで、二人の間に割って入る。


「何をやってるんだ!!」

「「!?」」


「ジゼル、明日奈・・・どうして二人が」

「お前は・・・」

「あなた・・・一体・・・」



そこで気付いた。今の容姿はサキ・オスローでも結城 早貴でもない。二人からしたらまったくの別人だ。



俺はジゼルから受け取った銃と方天画戟を取り出す。

「信じてくれないかもしれないが、俺はサキだ。この武器が証拠と言うべきか・・・」

「・・・確かにそれはサキに渡した物だ」

「白黒の武器・・・あっ、その格好・・・」

そうだ。髪型や体型が違えど、一度はこの黒マントは身に纏っていた。当然そこまで行けば二人も・・・


「早貴・・・なの?本当に・・・」

「ああ、そうだよ」

「・・・こんなところで再開とはな・・・」

「こっちも驚きだよ、ジゼル」


そこまで言った時・・・お互いがハッとなる。

「人・・・!?」

「え?影が・・・消えた?」



「何を言ってるんだ?さっきから争ってたんだぞ?」

「ええ!?」

「・・・なんだと?」


・・・?その時、愛依が闇風を支えながら滑り降りてきた。




「咲!」

「・・・こんなの二度とごめんだわ・・・」



「愛依、ヤミ・・・」


とにかく一度話し合ってみた。ついでにアスナに外史について詳しく説明する。

「・・・つまりお互いがお互い、靄がかかったような姿に見えて、警戒しあったらそのまま戦闘・・・ってことか?」

「ああ、そうだ。・・・すまない、アスナ。私らしくもないミスだ」

「あ、いえ!わたしの方こそ・・・」

「はいはい。ジゼルもアスナもそれ位に」

「えっと・・・ジゼルさんは違う世界の早貴のお姉さん・・・でいいのよね?」

「ああ。そろそろ婚期が過ぎそうな・・・って姉貴、冗談だから睨むなって」

「場を弁えないからよ」

「あーい・・・」

「・・・ではアスナもお前の姉に当たる・・・と言うことか?」

「そうだ。・・・さて、と・・・お互いにこの世界に来た経緯を話そう」


「えっと、わたしは・・・」


・・・あまり状況は変わらなかった。アスナはあの後目覚めたらこの世界にいたと言うし、ジゼルも身体が重くなった瞬間に・・・後はアスナと同じだ。



「・・・うーん、情報が少ないけど・・・完璧に俺と亮のせいだよな」

『な、なんでッスか?』


「紫も言ってたろ?俺らに関わった世界が襲われたって。てことは何かしら俺達に個人的な何かがあるってこった」

「・・・驚いた。意外だけどやっぱり頭の回転は速いのね、咲」

闇風さん、何気に酷くない?


「ただな、実は極端に脅威な訳でもないんだ」

「え?」

愛依が首を傾げる。

「ヤミ、リパル。リョウコウの世界に何か襲撃はあったか?」

「ないわよ。それが?」

『・・・あ!』

「シィや剛鬼の世界も何もなかった。つまりあの男は“俺達の物語でしか動けないんだ”」



「それだとどう違うの?」

「簡単だよ。アイツはただ俺達の物語に組み込まれている悪役に過ぎないってこと・・・つまり、倒せない相手じゃないんだ。一見理不尽な強さに見えるが・・・そんなもん、物語じゃよくあることだ」

「・・・ほんと、面白い考え方するのね」

「俺達が基点ならば、全力を尽くせばハッピーエンドは迎えられる筈・・・その為にも今は戦力を集めるのがいいかもしれない」


「戦力?他に誰かいるのか?」

「ていうかいるだろうね。言い方悪いけど本来敵役のジゼルがここに来てるのに・・・主人公のルークがいないのはおかしいだろう?それに、ああいうムカつくタイプは俺達の仲間を全員苦しめる気だろうし・・・だが厄介なのは・・・」

「わたしとジゼルさんみたいに・・・」

「潰し合う可能性がある・・・か」

「そこも奴の狙いだろうな。・・・ってよく考えたら・・・愛依、お前、声は・・・?」

「え?・・・あっ!?」

愛依がハッとして上を見上げる。

「そう言えば・・・全然聞こえない。え、何で・・・」



「・・・はーっ、くそ、考えすぎて頭こんがらがってきたな。一度纏めるか・・・」

『さ、咲さん!上ッス!』

「は・・・?」

上を見上げると空に何かスクリーンが現れ・・・ローブの男が映った・・・・・・













































亮~


「・・・つまりみんな目が覚めたらこの世界にいて、それぞれ偶然出会って行動を共にした・・・か」

しかも驚きなのはキリトやリーファはアバターだが生身と同じというよく分からない事になってるらしい。基本的な纏めはヒューバートに任せ、色々考える。

「しかし、どっちの世界でも次男だな・・・」

「何となくだけど、お兄ちゃんとアスベルさんって似てる気がするね」

「そりゃ、アス兄も兄貴も鈍感だしなぁ・・・」

「なるほど、似た者兄弟と言う訳ですね」

「っておい、それだと俺まで・・・」

「では試しにリーファさんとぼくでリョウ兄さんがやったことを羅列しましょうか?」

「あ、それ面白そうだね、ヒューバート君」


「勘弁してくれ・・・」


・・・と、その時。空を見たらローブの男が映ったスクリーンがあった。



『やあ、ご機嫌いかがかな?どうやら二人ともプロローグはクリアしたようだね』


「プロローグ・・・だと?」

『君達を殺すのは実に簡単だ。だけどそれじゃあつまらない。君達には苦しんでもらわないとね』

男のスクリーンの横に・・・咲達が映った。

「アスナ!?」

キリトが叫ぶ。向こうも叫んでるみたいだが・・・聞こえない。

『そこで、簡単なゲームをしようじゃないか』

「ゲームだって・・・!?」


『ルールは簡単。僕の元に辿り着けばいい。ただし・・・それなりに障害もあるけどね』


つまり、キリトやアスベルも“障害”だったと言うわけか・・・気に入らない。

『ああ、そうそう・・・愛依、君も参加者側だ。しばらく干渉を止めて上げるよ。だけど・・・賢い咲くんなら分かるよねぇ?愛依は必ず敵になる。始末するタイミングを考えておきなよ?』


咲が男を睨み付け、不安そうな顔をした愛依の頭にポンと手を置く。


『それと・・・あまりやる気を無くされても困るからね。光になった人間がいるだろ?アレは一応今までに消した人間の殆どは僕の特殊な空間で預かってるよ。当然君達も死んだら仲間入りさ』

・・・死者はいないってことか?

『ゲームクリアの報酬は今までに消した人間を全て戻して上げる・・・でいいかな?』


「ふざけやがって・・・」

『さてと、じゃあ始めようか。せいぜい楽しんでよぉ?』


そう言って男の顔が消えた。

「・・・馬鹿げていますね」


「・・・もしかして」

「どうしたんだ、キリト」

「いや・・・もしかしたら、アイツは直接世界は消せないんじゃないか?」

「え・・・?」

「何となくなんだが・・・アイツ、亮の話を聞いた限りじゃチートに聞こえるが・・・何で直接手を下さない?」

「俺を苦しませる為・・・とか?」

「だからそれを自分でやればいいだろって話になるんだよ」

アスベルは頷く。

「キリトの言う通りかもしれないな・・・」

「・・・確かに、明確な殺意はアイツから受けたことないな・・・」

何時も俺を襲ってきたのは・・・愛依や椿。グレイセスではローブを着た謎の少女・・・SAOでも来たが・・・そこでは椿を差し向けた。アイツがやったのはシノンとはやてを挑発して・・・


「でも・・・それも遊んでるだけかもしれないよ?」



「とにかく解っているのは倒すべき相手が解っていると言うことです。ぼく達がいるならパスカルさんやシェリア達もいるかもしれません」

「じゃあシリカやリズも・・・」

「気をつけて進もう。少なくともあの男自体は手を出さないみたいだからな」

「分かったよ。必ずあいつを倒そう!」

ここに一つのお遊びが始まった・・・・・・

 
 

 
後書き

「やばい・・・混乱してきた・・・」


「作者が既に混乱してるからな・・・風呂敷を拡げ過ぎたとか・・・」


「アホだ・・・」


「クライマックスも考えてあるけどそこまでの道筋が思い付かないらしい。・・・さて、次回もよろしく!」 

 

進行~

 
前書き
すみません、最近慌ただしくて・・・落ち着くのが大分遅くなりそうで・・・でも、更新を途切れさせるつもりはないので、安心してください。ではどうぞ! 

 

俺達は取りあえず探索を始める。

「しかし・・・さっきまで平原だったのにいつの間にかジャングルに・・・」

「もしかしたら気候も偏るかもしれません。体調にも気を付けましょう」

「・・・キリト達は平気なのか?」

アスベルの言葉にキリトは返す。

「うーん・・・一応、影響あるかもな・・・」


「痛覚はあるから・・・あくまでアバターは外見だけなのかな・・・」

「だけど身体能力はゲームと同じだ。・・・よくわからないな」

俺はそれを聞きながら周りを見渡す。

「・・・不気味だな」


「何がですか?」

「いや・・・動物の声も何もしないからさ・・・」

「確かに・・・草を歩く音もぼく達だけのしか聞こえません。・・・あの人物はぼく等を消すつもりだと思ったのですが」

ヒューバートの言葉にキリトが口を挟む。

「いや、もしかしたらアイツは俺達を迷わせるのが目的かもしれない」

「餓死を狙う・・・ということですか」

「ああ」

その時、リーファが立ち止まった。

「・・・ねえ、亮お兄ちゃん」

「ん?」

「何か・・・臭わない?」

「え・・・?・・・っ!?」

後ろを向いた瞬間・・・辺りに火が走った。


「火・・・!?」

それは一瞬で植物に燃え移り、俺達は囲まれる。

「どうやら餓死じゃなくて焼死がお好みらしいな・・・!」

「ーーーーー!」

リーファが詠唱し、真空の刃で木々を薙ぎ倒し、道を作る。

「直葉、ナイス!」

「後ろはぼくが引き受けます!アクアバレット!」


「みんな、急げ!」

俺達は必死に走る。そして再び道が閉ざされて・・・

「猛虎獣衝撃!」

・・・いるのは俺が薙ぎ払う。すると・・・光が差し込んだ。


「彼処だ!」

俺達は光に向かって飛び込んだ。するとそこは・・・まるで基地のような通路だった。


「・・・訳が解らないね」

俺はぼやく。背後を見るとすぐそこまで火の手が迫っていた。

「まったく・・・火は勘弁だっつの・・・」

蓮華やマリク教官やサラマンダーに焼き殺されかかったのは軽くトラウマだ。どうも俺は火と縁があるらしい。




「皆さん、怪我はありませんか?負傷があったら言ってください」

「ま、見た限り平気そうだ。回復も俺とヒュー、直葉が使えるからね」



「まったく・・・迷宮区より複雑だぞ・・・」



キリトの言葉に頷く。小休止を挟んでから再び進むと、三方向の別れ道があった。

「うっわ、面倒な・・・」


俺達は別れ道を確認する為に近づく。

「・・・っ!皆さん、上です!」

見上げると上からシャッターが落ちてきた。俺は咄嗟に前に跳び、後ろを見ると・・・道は塞がれていた。


「っ!?・・・アス兄!ヒュー!兄貴!直葉!」


最初に右側から声がした。

「ぼくは平気です!」

「俺もなんとかな・・・」


ヒューバートとキリトの声・・・続いて左から。


「リョウ!無事なんだな!」

「あたし達も平気だよ!」


アスベルとリーファの声。・・・全員無事か。


「くそっ、分断されたか・・・破れるか?」

俺は葬解に気を籠め、亞莎の闇を発現させる。

「はぁぁぁぁ・・・オラオラオラオラオラオラァッ!!」

シャッターを連続で殴り、勢いが弱まったら気を左手に集める。

「葬牙乱舞!!」

ズドン!!


派手な音と裏腹に・・・シャッターには傷一つつかなかった。


「マジか・・・」


「覇動滅封!!」

「ヴォーパル・ストライク!!」


派手な音が両方から響くが・・・やはりビクともしない。

「・・・無理ですね。仕方ありません、このまま進みましょう」


「・・・それしかないみたいだな」


「ええと、よろしくね。アスベルさん」

「ああ、援護を頼む。・・・リョウ、お前は一人だから、無茶はするな」

「キリトさん、ぼく達も行きましょう」

「わかった。亮、また後で合流しよう」

「オッケー、兄貴達も気をつけて」


俺は通路を走り出す。しばらく殺風景な通路が続いたが・・・開けた場所に到着した。

「実験室みたいだな・・・」

中央まで進んだ時・・・背後のシャッターが閉じた。


「・・・お約束、か。じゃあ何が来る?」


向かいのシャッターが開き・・・そこから入ってきたのは・・・見覚えのある人間だった。

「お、お前は・・・!」

「・・・」

赤い髪。そこから出るアホ毛。見た目の可愛さに似合わないゴツい・・・方天画戟。・・・咲の大切な人・・・呂布こと・・・恋だった。


「な、なんでここに・・・もしかしてここに転移・・・っ!?」

恋がゆっくりと方天画戟を向けた。

「・・・大澤、亮?」

「・・・それ以外の誰かに見えるか?」

「じゃあ・・・死ね」

「っ!?」

繰り出された方天画戟を腕を交差させて葬解で防ぐ・・・が、吹き飛ばされた。

「がはっ・・・」

壁に叩きつけられ、軽くむせる。

「れ、恋!いきなり何を・・・」

恋の顔がほんの少し歪んだ。

「真名を呼んでいいのは・・・月達と、剛鬼だけ・・・!」

「っと!」

振り下ろしてきた方天画戟を横に飛んで避ける。

「剛鬼・・・?お前、まさか剛鬼の世界の・・・!・・・そういうことか!!」

あの時と・・・シィ達の偽物の時と同じだ。もしかして、シィ達の知り合いの偽物まで出せるのか・・・!?



「(本当に剛鬼の世界の恋の確率は低い・・・つうかしっかり“俺”を確認してから攻撃してきたし・・・間違いなく偽物だろ)」

擬音を引き抜き、身構える。


「・・・!」

恋が再び迫る。だが・・・!

ブオン!

横薙ぎを身を伏せてかわす。そのまま前転し、すぐに起き上がってからがら空きの背中を・・・!

「・・・させない」
不自然な体制から蹴りが飛んでくる。それを防いだ時には・・・斬り込む隙はなかった。

「ふぅ・・・魔力も闇もないだろうに・・・やっぱり恋は強い・・・!」

いくら見た目が少女だろうと、彼女はあの天下無双の呂布の名を持っているんだ・・・強くない訳がない。


「はぁ!」

更に数合打ち合う。だが真正面からはいかない。気を使えば恋に力負けはしないだろうが、何が起こるか分からない以上気の消費は避けたい。


「(とは言っても・・・加減してやられたんじゃな・・・)」


俺は携帯を取り出す。

「モーションキャプチャー、シグナム!」

リリカルなのはのヴォルケンリッターの将・・・しかもアギトとユニゾン済みのシグナムを真似する。


「レヴァンテイン!」

鞘から引き抜き、衝撃波を放つ。

「っ・・・!」

恋がそれを弾き飛ばし、迫る。

「来たな、カートリッジロード・・・はぁぁぁぁぁ・・・」

魔力を炎に変換、武器に灯す。

「紫電・・・一閃!!」

ゴガァァン!

恋が吹き飛ぶ。今がチャンスだ。俺はレヴァンテインの鞘を持ち手に取り付け、弓矢に変える。

「シュツルムファルケン・・・!」


矢を引き・・・・・・放つ。

「駆けよ、隼!!」

放たれた矢は恋を貫き・・・爆裂した。

「・・・やった、よな?」

恋が倒れ・・・黒い霧になって四散した。・・・よかった、やっぱり偽物か。

「ふぅ・・・」

真似を解除して息を吐く。


「・・・よし、行こう」

見れば恋が入ってきた入口が開いていた。そこを進み、また歩く。





「ここは何の世界だったんだろうか・・・」

世界の繋ぎ合わせが雑なのか、無機質の通路に植物が生えてたり・・・っと。

「・・・」

擬音を抜き、曲がり角を睨む。

「・・・ででこい」

俺が低い声で言うと、曲がり角から弓矢を構えた金髪の少女が姿を現した。

「・・・」

「・・・動かないで。不審な動きをしたら私の矢で貫きますわ」

「・・・一つ聞きたい。お前も俺を狙いに来たのか?」

「・・・?何を仰っていますの。私をこのような場所に拉致したのは貴方たちでしょう!」


「・・・え」


・・・まさか。

「あの・・・もしかして、いきなり身体が重くなって、気が付いたらここにいた・・・とか?」

「まあ!何で知っていますの?」

「・・・ああ~」

俺は理解して擬音をしまう。

「えっと・・・俺は大澤 亮。取りあえず君の敵じゃないみたい」

それを聞いた少女の目が見開かれた。

「オオサワ リョウ・・・サキのご友人と同じ名前ですわ」

「サキ?咲を知ってるのか?」

「ええ、私の大事な友人です。・・・申し訳ありません、知らぬ事とはいえサキの友人に矢を向けるなどと・・・」

「いや、気にしないで。この状況じゃ仕方ないからね」


「あ・・・紹介が遅れました。私、キムラスカ・ランバルディア王国王女、ナタリア・ルツ・キムラスカ・ランバルディアと申します」

「でっ・・・お、王女様!?」

そ、そういや咲がそれっぽい事を言っていたような・・・

「あ・・・えっと・・・ナタリア様は・・・」

「私のことはナタリアで構いませんわ。ところでリョウ、この状況を説明して下さりますか?」

「・・・あ、うん。簡単に説明すると・・・」


ナタリアに説明すると、ナタリアは険しい顔をした。

「・・・私、アイとは共に旅をした事がありますの」

「・・・」

「とても可愛らしく、素直な子で・・・そんな子を己が欲の為に利用するとは・・・許されがたき諸行・・・!リョウ、是非私も戦わせて下さい!」

「・・・うん、とても頼もしいよ。よろしく、ナタリア」


仲間も増えて、俺達は進む。アスベル達、無事かな・・・















































咲~


「さて・・・どうするか」

俺達は全員岩肌に隠れていた。何故かと言われると・・・襲撃されていたのだ。しかも飛び道具ばかりもった敵だ。

「数が減らないな・・・」

ジゼルが半身を岩から出し、銃を撃つ。

「数が分からないと飛び出す訳にもいかないわね」

空になったマガジンを捨て、リロードしながら闇風が言う。
アスナと愛依は後方待機だ。

「よし、なら・・・」

俺はベルヴェルクを合わせ、ガトリングにする。

「フェンリル!オオオオオラァッ!!」

身を乗り出し、思い切り掃射。当然俺も銃弾や矢を喰らうが・・・ダメージにはならない。俺はある程度吹き飛ばしたらまた岩に身を隠す。

「さ、早貴!?大丈夫なの!?」

アスナが顔を蒼白にしながら言う。一方俺は腕に刺さった矢を引き抜きながら答える。

「ん?ああ、平気平気。これくらいならすぐに治るしさ」



というかもう塞がった。

「え、ええぇ・・・?」


「そういう体質なのよ、コイツは」

『だからって無理はしないでほしいッス・・・』


「もう諦めてるでしょ?アタシ、咲は無茶してるイメージしかないし」


『そうッスね・・・』


「さて・・・咲、敵はどうだった?」


闇風に聞かれる。
俺は頷き・・・

「ああ、流石に全滅とまではいかなかったけど・・・見た感じじゃあと十数人・・・また増えるかもしれないけどな」
「道はあった?」

「ああ、上手く隠れながら行けば遮蔽物から遮蔽物に移動できる。足場も悪くない」

「・・・そう」

闇風がチャキ、と銃を構えて・・・

「なら私の独壇場よ」


・・・岩から飛び出した。




「あ、おい!?」


普通なら俺のように蜂の巣にされるだろう。慌てて俺も飛び出そうとするが・・・

『ヤミさんなら平気ッスよ』


「へ?」

よく見れば闇風は尋常じゃない速度で走り、敵の攻撃が着弾する頃にはその場にはおらず・・・

「・・・」

バララララ!!

相手は律儀に横並びだ。アレなら狙いを定める必要もない、走りながら撃ってもも余裕で当たる。現に闇風に撃たれ、殆どがその姿を四散させていた。

「凄いな、おい・・・」


アレなら最初から任せばよかったんじゃ・・・

「闇風、上だ!」

ジゼルが叫ぶ。見れば上から敵が剣を振り下ろしてきて・・・

「・・・私に接近戦なんていい度胸じゃない」

不意打ちにも動じずに闇風は身を捻ってかわし、コンバットナイフを取り出して・・・相手の首元を切り裂いた。




「・・・いや、お見事」

敵がいなくなったのを確認してから、俺は拍手をしながら闇風に近づく。

「やっぱリョウコウの世界から援軍に来ただけはあるな。・・・あんなスピード戦闘が得意なんてよ」

「SAOでも短剣使いとしてそれなりにやってきたから。私にとってはああいう方がやり易いのよ」

「・・・キャリコの弾は?」

「まだ余裕はあるけど、何故?」

「いや、暇があったら作っとく。ちとずるいがそこらの鉄を魔術で弾丸にする。火薬は空間に入ってる奴を使えばいい。

「・・・便利な能力ね」


まったくだ。気のせいか空間も更に広くなった気がする。

「・・・待て、何か聞こえないか?」

ジゼルに言われ、俺達は耳を済ます。

「・・・金属音!」

「もしかしてわたし達以外の誰かが・・・?」

「向かってみよう!仲間なら助けないと!」

愛依の言葉に頷き、走り出す。そして広い場所が見えると・・・

「どうしたよ?遅すぎンぜ!?」

「お前、切り刻む」


「うあ・・・!?」

紫色の髪の少女が何かに肩を貫かれ、倒れる。

「ソフィさん!」

「ユイ、来ちゃだめ・・・!」

少女に駆け寄ったのは・・・

「ユイちゃん!?」

アスナが驚く。しかも相手は・・・

「ラフィン・コフィン・・・!」

闇風が呟く。・・・と、背後から今度は兵隊が迫る。

「ジゼル、愛依!後ろは頼む!アスナ、ヤミ!行くぜ!」


アスナは短剣使い、ジョニー・ブラックへ、闇風は銃を撃ちながらエストックを持った赤眼のザザへ。




「・・・!」

そして俺は・・・ラフコフのリーダー、PoHへと。

「Bモード、発動!リパル!」


『どうぞ!』

全力で方天画戟を振り抜くが、流石と言うべきか・・・PoHは即座に反応、しかも受け止めるのではなく回避した。


「チィッ・・・」

「おいおい・・・誰だオマエ?」


「あ?忘れたとは言わせねぇぞ。アンタには詠の腕を斬られた借りがあんだよ」

「・・・知らねーなぁ。オマエみたいな黒づくめの知り合いなんか一人しかいねぇ」

「・・・?」

この感じ・・・本当に知らない?・・・いや、待て。思い当たる節は・・・ある。パズルのピースは揃っている。

「・・・PoH、リョウコウって名前に聞き覚えあるか?」

「Wow・・・意外な名前が出たな」


知り合い・・・!そうか、そういうことか。シィ達の偽物、よく見ればシィの状態が違った。彼女は創造主と同化して服装を変えた。だがあの彼女は私服だった・・・そしてシィ、剛鬼、リョウコウ・・・全員がある技を喰らった。それは・・・


「理解したぜ・・・!」

コイツらの出所は三人の記憶。椿の能力だった筈だ。今、椿はローブの男に操られている・・・能力が強化されるなりなんなりして殆どそのままに人物が扱える。


「(つまり、このラフィン・コフィンはリョウコウの記憶から生み出されたもの・・・!)」

『咲さん!来るッス!』

「っ!?」

ガァン!

一撃を防ぎ、方天画戟を振る。それを受け止めたPoHは地面を滑る。

「加減なんかいらねぇか・・・Aモード、解放!」

髪と瞳が銀に染まり、髪がほどける。体の部位は更に刺々しく・・・

「グォォォアアァァァッ!!!」



直角飛びで距離を詰め、蹴り飛ばす。そして思い切り方天画戟を振り下ろすが、PoHはそれを左手を犠牲に避けた。

「Huu・・・!どうやら殺しに躊躇いは・・・」

「少なくとも、アンタよりは殺してるぜ。躊躇いなんて殆どねぇよ。・・・リパル、鎌」

『了解ッス!』

闇を鎌に集め・・・刃を強化する。

「デス・・・サイズ!!」

PoHを武器ごと両断する。

「・・・(ニヤッ)」

嫌な笑みを残し・・・消滅した。


「・・・流石のアンタも、“闇”っていうチート能力にゃ勝てなかったようだな・・・」


同じ土俵なら・・・俺が負けてたかもしれない。って、

「アスナとヤミは・・・!」



俺は振り返る。そこに・・・


「赤眼のザザ・・・死銃・・・!」



闇風は銃を撃つが、ザザは隙間を縫うように走り、エストックを突き出す。それをナイフで捌きながら、隙を見て銃で狙うが・・・それよりも速くザザは走り出す。


「ちょこまかと・・・」


段々と狙いを定めていくが・・・何かに気づいてナイフを振った。

キィン!


「おいおい、こっち忘れてんじゃねーよ」


「あなたの相手はわたしよ!闇風の邪魔はさせない!」

「おおう!KoBの副団長様じゃん!コイツは殺り甲斐があるぜ!」



「・・・」


正直、闇風は本気で走り回ればザザに捉えられることはないだろう。だがここは遮蔽物もないし、広間と言っても極端に広い訳ではない。あり得ないが万が一仕留め損なってユイや消耗している少女を人質に取られたら眼も当てられない。だからアスナと闇風はユイ達を背にして相手を引き離すように戦っているのだ。


「手札を切るしかないわね・・・」

闇風は目を閉じ・・・叫んだ。

「チェンジアバター、フェアリー!」


その言葉と共に闇風の身体が光に包まれ・・・姿を一変させた。服装が変わり、鎧を身に付け、頭に耳、後ろに尻尾が這えて・・・そう、ALOのケットシーの姿になった。武装もキャリコとナイフではなく、腕に装着されたクローのようだ。


「アスナ、一発で決めるわよ!」

「う、うん!」

闇風は翅を羽ばたかせて飛び、アスナを掴み・・・空中で離した。


「は!?」

「何処を見てるのよ」

アスナを話してから大きく宙返りをして、高速でジョニーに一撃を与える。

「うお、ンの・・・!?」

「やああああ!!」

上から振ってきたアスナが空中で横に一回転して刀身を光らせ・・・連続で突きを叩き込んだ。

「ん、んなバカな・・・」


「あなたも終わりよ、ザザ」

「・・・!」

闇風は再び体当たり。不意を突かれたザザだがすぐに振り返り・・・が、そこに闇風の姿はなかった。


「見失ったわね。上よ」

ザザは上を見上げるが・・・遅い。闇風の一撃はザザの身体を切り裂いた。

「・・・なん、だと・・・」


ジョニー、並びにザザは消滅した。ちなみにこれは俺とPoHが戦っているのとほぼ同じ時の戦いであるため、俺は傍観してた訳じゃないと念のため言っておく。


「ヤミ!・・・なんだその姿?」


「ALOの姿よ。PCNはアウィン・・・だけど今まで通り闇風でいいわ」


「ああ、そう・・・」



「サキ、無事か?」

「こっちは片付いたよ」

ジゼルと愛依が走ってくる。

「そっちもご無事なようで・・・っと」

俺は少女に近づく。

「君、大丈夫か?辛いなら回復を・・・」

「大丈夫・・・自分でできるから」

少女は身体を光で包ませる。

「ファーストエイド」

少女の傷が塞がっていく。

「あの・・・」

ユイが話し掛けてくる。

「もしかして、お姉ちゃん・・・ですか?」


「・・・俺が解るのか?」

「はい!少し変わってますけど・・・それでもお姉ちゃんだってわかりました!」

「ユイちゃん!」

「ママ!」

アスナが駆け寄り、ユイを抱き締める。・・・少し落ち着いてから話し出す。どうやらユイも気が付いたらこの世界にいたそうだ。

「・・・それで、襲われた時に助けてもらったんです」

「そうなんだ。ええっと、あなたは・・・」

「わたしはソフィ・ラント」

「ソフィちゃん・・・ソフィちゃんも気が付いたら?」

「うん。アスベルとシェリアといたんだけど、いきなり身体が重くなって・・・」

アスナがそれを聞き返す。

「アスベルとシェリア・・・ってソフィちゃんの家族?」

「・・・うん、わたしにとって、お父さん、お母さんになってくれた人」

「?」

その言い方だと本当の親じゃない・・・?と、そう言えば亮からこんな子がいるって聞いたような・・・


「もしかしてさ、亮って名前に聞き覚えあるか?」

「・・・!リョウを知ってるの?」


「ああ、アイツの友達なんだ、俺は」

「そうなんだ・・・わたしもリョウの友達なんだよ」

「お姉ちゃん、ソフィさんはわたしと似ています。色々話を聞いて・・・」

「・・・すまない、口を挟むようで悪いが・・・お姉ちゃん?」

ジゼルが聞くとユイは元気よく返事をする。

「はい!早貴お姉ちゃんです!」

「・・・サキ、どういう意味だ?」

「言っとくけど、女装とかじゃなくてアスナの世界じゃ女だったんだよ、俺は」

「・・・少し見てみたかったな」

『愛依さん、後で録画したの見るッスか?』

「おいコラそこの二人」


「私も見てもいいかしら?」

「ヤミ・・・悪乗りすんなって・・・」

ちなみにソフィも人間とは違うらしいが・・・ま、ユイと同じだ。心がありゃ人間と同じだ。・・・そして俺は自分の考えを告げる。

「多分、今までの敵は椿の能力を利用したローブの男の仕業だろう。愛依、椿が持ってる記憶は?」

「え?・・・壊した世界のは捨ててるから・・・今はシィ、剛鬼さん、リョウコウさんの記憶だけかな」

「オッケー、辻褄が合った。ソードアート・オンラインで襲ってきた三人も今のラフコフも全部そうか・・・」

「でも、何で椿の力を・・・」

・・・隠してもしょうがない・・・か。

『オイラが話しましょうか・・・?』

「いや、いい。・・・愛依、気を確かに聞けよ」


「え・・・」

「椿は・・・敵の手先になってる」

「・・・!」

「俺達にも襲い掛かってきた。お前は気絶してたから見てないかもしれないが・・・」

「そんな椿が・・・アタシを逃がそうとして・・・捕まったんだ・・・」

「・・・戦えるか?無理なら・・・」

「戦わない」

「・・・だよな。分かった、お前は後ろに・・・」

「ううん・・・戦わないで助ける。アタシも一度“声”に負けたけど・・・咲はアタシを正気に戻してくれた。だからアタシも椿を元に戻して見せる!」

「愛依・・・」

「椿は大事な親友なんだ・・・椿がいてくれてアタシは何度も救われた。アタシも・・・椿を救いたい」

「・・・ごめん、どうやら俺はお前を甘く見ていたようだ。分かった、その時は協力する」

息を吐いて空を見上げる。そこには今の状況に似合わないほどの青空が広がっていた・・・・・・ 
 

 
後書き

「お前、前話で愛依に話さないとか言っといて・・・」


「あ、突っ込むのそこ?いや、だって黙ってるのムリだしよ・・・」


「ま、いいけどね。それじゃ、次回もよろしく」


「またな!」 

 

対する影~

 
前書き
大分間が空いてしまってすみません!べ、別にブレイブルーをやってた訳じゃないからね!・・・ごほん、ではどうぞ。 

 
施設のような通路を抜けると・・・ビルが立ち並ぶ街に辿り着いた。

「まぁ・・・どういうことですの?」

「・・・正直こっちが聞きたい」



チラリと周りを見ると、コンビニが目に入った。

「・・・」

俺は自動ドアをこじ開け、中に入る。

「ここは何です?」

「コンビニエンスストア。・・・まぁ、食料とか売ってる場所だよ」


俺はパンを手に取り、一口かじる。

「・・・うん、毒はないね」

俺は違うパンをナタリアに投げ渡す。

「え?」

「休憩も兼ねて食事にしよう。かれこれ数時間歩いてるし・・・場合によっちゃ今日はここら辺のエリアで寝泊まりすることを考えなくちゃ」

「先に進みませんの?」

「それでもいいんだけど・・・下手に進んで平地とかで夜を過ごすのは愚策だから。人数がいれば交代で見張りができるけど・・・」



「・・・それもそうですわね」

「うん。それにここなら食料の調達に困らないし・・・」

俺は適当に飲み物を掴み、食事を済ませる。


「・・・取りあえずカロリーメイトくらいは持っておこう。この先食料が手に入るか怪しいからね」

上着の内ポケットにカロリーメイトを入れ、コンビニから出る。


「では、ここでは何をするのですか?」

「次のエリアの入口の確保と・・・寝床探しかな」

「承知しました」


俺とナタリアは襲撃を警戒しながら街中を歩く。

「人の気配がしない街並みはこんなにも不気味なのですね・・・」

「確かに・・・だけど逆に言えば誰かがいるのか分かりやすいってことだよ」



「そうですわね・・・っ!リョウ!」

「アレか・・・!」

ナタリアが指差した方には何かがいた。それは空を飛んでいてゆっくりこちらに・・・って。

「ナタリア、射つな!!」

「え!?」

ナタリアの前に立ち、俺は飛んできた影をもう一度見る。

「・・・ピナ!?」


SAOでシリカが何時も連れていた・・・よく見たらピナはボロボロで、俺を見た瞬間ピナはスピードを上げてこっちに来た。

「キュル・・・」


「ピナ!珪子さん・・・シリカは!?」

そう言うとピナは俺の背中をつつき、俺を押そうとする。

「ま、まさか・・・」

「リョウ、この魔物は・・・?」

「この子はピナって言って・・・とにかく、嫌な予感がする。ピナ、俺を連れていきたいんだろ?案内してくれ!」

ピナを回復させてから俺達を走り出す。ピナに先導してもらい、目的地に向かうが・・・


「リョウ、前を!」

「チッ・・・さっきまで静かだったのに・・・!」


目の前に魔物が現れ、行く手を阻まれる。・・・その時、魔物が持っている武器に目が行った。そこには・・・

「なーーーー」

血が、付いていた。しかも乾いてこびりついた血じゃない。今さっき付着したような真っ赤な・・・そこまでで思考が止まった。

「ーーーー!!!」

擬音と迷切を引き抜き、邪魔な魔物を切り裂いていく。

「邪魔だテメェラァァァァ!!!」


「な、無謀です!」

「おぉぉぉるぁああああ!!」

気を武器に練り上げ、回転斬り。衝撃波が纏めて魔物を吹き飛ばした。

「はぁ、はぁ・・・」


気を無計画に使ったせいか息が乱れる。

「っ・・・」

上から生き延びていた一匹が跳んできた。

「くっ・・・!?」


不味い・・・!

「ビアシスライン!」

ズパァン!

ナタリアが放った矢が魔物を貫き、魔物が消滅する。

「・・・無闇に突撃するところはサキと似ていますのね」

「ナタリア・・・ごめん、助かったよ」


「いえ、それよりも・・・」

「っ、そうだ・・・!」


足下を見ると血が点々と続いていて、それは裏路地に続いている。そして裏路地には・・・

「・・・あ、ああ・・・」


血の海に沈む、シリカの姿だった。


「シリカっ!!」

駆け寄り、抱き抱える。腹部を何度も刺されているみたいで、出血が酷い。

「ナタリア!治癒術は使える!?」

「ええ!」

俺とナタリアがシリカに治癒術をかける。傷は塞がり、出血も止まるが・・・

「呼吸も正常ですが・・・顔色が悪いですね」

「なくなった血を戻すほど治癒術は万能じゃないからね・・・」

でも、死ぬほどではないはず・・・

「キュウ・・・」

ピナが不安そうにシリカの頬を舐める。

「・・・どうやら早急に寝床を探さねばなりませんね」

「だね。シリカを連れ回すのは得策じゃないよ」

辺りをぐるりと見渡すと、病院が眼に入る。

「この大きな建物は・・・?」

「ん・・・診療所、かな?」

「まぁ、なら宿泊施設もあるのでは?」

「・・・日も沈んできたし・・・ここしかないか」


俺はシリカを背負い、病院に入る。

「・・・暗いな」

「そうですわね・・・」

「さっきのコンビニには冷蔵庫の電源は入ってたんだけど・・・まずは電源探しか。ナタリア、暗いから周りに気をつけて」

「はい」

実際、スイッチはすぐに見つかった。それを押せば電気が付き、明るくなる。

「・・・うん、これでいいか」

後は適当な病室を・・・


カツン・・・


「・・・リョウ」

「ああ、聞こえた。誰かいるのかな・・・」


「確認しましょう。味方ならよし、敵なら・・・」

「文字通り寝首を掻かれる訳だ・・・」

辺りを警戒し、ゆっくり歩き・・・ナースステーションに差し掛かった時・・・人影が見えた。

「誰だ!?」

それはゆっくり立ち上がった。普通なら駆け寄るが・・・流石に・・・・・・血塗れで顔が包帯で隠れているナースに駆け寄る勇気はない。しかも、その手には鈍く光る・・・

「ナタリアっ!走れ!」

ダン、ダン!

俺とナタリアは目の前の曲がり角に飛び込み、左右それぞれに隠れる。

「な、なんでナースが拳銃を持ってるんだよ!?」

「そ、そのような世界だったのでは・・・」

「どんな世界だ!・・・うお!?」

チュン!


「調子に・・・乗るな!」

シリカを壁に寄りかからせ、俺は擬音を持って走り出す。

バン!

「甘い!」

カン!

擬音で銃弾を弾き・・・ナースを両断した。

「・・・死んだ、よな?」

ふと振り返ると・・・大量のナースがいた。当然殺意溢れる武器を持って。

「・・・どーなってんだこの病院の勤務体制・・・」

流石にこれを相手にするのは・・・

「リョウ、ここは逃げましょう」

「・・・だな。ふっ!」

天井や壁に向かって気弾を撃ちこみ、瓦礫で道を塞ぐ。

「取りあえず病室に・・・」

離れた位置の病室に入り、扉につっかえ棒を挟む。シリカをベッドに寝かせ、俺は違うベッドに腰を落とす。

「ふぅ・・・」

「先ほどのは何だったのでしょうか・・・」

「俺、あんなホラゲー知ってる・・・」

「え?」

「いや・・・にしても忙しいな・・・ナタリアは体力、大丈夫?」


「ええ、体力には自信があります」


ちょっと失礼して病室の冷蔵庫を開けると・・・飲み物多数。


「ほっ・・・飲み物があれば最低限は平気かな」


「さて・・・どうしましょうか」

「ナタリアは寝なよ。交代で休息を取ろう」

「よろしいのですか?では、失礼します」

そして数時間が経過した時・・・


ドォン・・・!

「・・・!」

「・・・っ、今の物音は・・・!?」

ナタリアが起きてきて、窓を見る。

「爆発・・・!?」

ある一帯から爆発しているのが見えた。

「・・・ナタリア、シリカを頼む」

「もしや一人で行くつもりですか!?」

「ここにシリカを置いていけないし、それに俺一人なら罠でも逃げやすい。・・・シリカを頼むよ」

「・・・承知しました。・・・ご無事を祈ります」

「ありがとう」

窓を開き、俺は飛び降りる。結構高いが気を使えば大丈夫だ。彼処に誰がいるのか・・・襲われているのか、それとも戦っているのか・・・急ごう。

















































早貴~

「・・・別れ道、か」

俺はそう呟く。綺麗に二つ道が別れていて、お互いがどうなってるかは不明だ。

「・・・人数も多いし、別けようか」

「別けて平気なのか?」

「こんな道だと人数多いとつっかえるしな。メンバーは右側が俺と・・・」

「アタシ、行くよ!」

「ここで別れたらここに来た理由もないしね」

「・・・分かった、愛依、ヤミ。一緒に行こう。アスナとジゼル、ユイとソフィが左を頼む」

「お姉ちゃん、気をつけて下さい!」

「ユイちゃんもな。もし行き止まりだったら戻ってもう片方の道を進むって事で」


「・・・わかった」


「・・・あ、念のため・・・アスナ!」

俺は空間からある物を投げる。

「わっ!?こ、これなに?」

「無線機。調整はしてあるからそこのスイッチを押すだけで会話できるからな」

「う、うん」

「ま、無線が届くかは賭けだけど・・・念のため、な。じゃあ、行こうぜ」




メンバーを分けた俺達はそれぞれの道を進む。

「リパル、定期的にサーチ頼むな」

『お任せッス。今のところは反応はなしッス』



「ところで咲。貴方、Aモードを使ったのに平気?」

「え?ああ、やっぱり元の身体だからか闇が馴染んでてよ。少し休んだだけで気だるさはなくなったぜ」

「そう」

「なんだ?心配してくれるのか?」

「当然でしょ。もう私たちは仲間だから。仲間の調子を把握しないと勝てる勝負も勝てないわ」

「おおう、クールだねぇ」

「・・・ねえ、ここってどんな世界なのかな」

愛依が聞いてきたので考える。

「さあな・・・こんなに景色が岩だらけだと、クラディールの一件を思い出すな・・・」

「クラ・・・?」

「ああ、いや。・・・っと、向こう見ろよ。景色が全然違うぞ」


『恐らく、別の世界かと・・・』

「進むしかないとはいえ・・・躊躇いがあるなぁ」

一歩踏み込んだ先は・・・・・・ファンタジーチックな街だった。

「・・・街、か」

「人の気配はしないわね・・・」

「なんか不気味・・・」

『・・・咲さん、生体反応があるッス!』

「ホントか!?」

『ただ、誰なのか何処にいるのかは分からないッス・・・このエリアにいるのは確かなんスが』

「いや、それが分かるだけでもかなり助かる。探してみよう、それを片付ければこのエリアを寝床にする」

「了解よ」

再び建物の隙間を歩きながら辺りを見渡す。

「・・・なあ、愛依。お前、闇は何処まで使える?」

「え・・・ぶ、武器に纏わせる程度だけど・・・」

「そうか・・・いや、それほど闇が馴染んでないって事だから良いことなんだけどさ」

「いきなりなんで?」

「いや、せめて羽根が生やせれば三人共飛べるからさ・・・空から探した方が早いかなーってさ」

「そ、そっか・・・ごめん、アタシ足を引っ張って・・・」

「あ・・・いやいや、こっちも馬鹿みたいなこと言って悪い」


「二人とも、話してるのはいいけど周り見てる?」


「ああ、当然」

「あ!・・・ご、ごめん・・・」

「・・・はぁ」

「うぅ・・・」

闇風のため息に愛依が肩を落とす。


「・・・!」

俺は何かを感じ、叫ぶ。

「何か来るぞ!」

「「っ!」」

『上空より熱源ッス!』

「散開!」

闇風の言葉を合図に俺達はバラバラに跳んで建物の影に身を隠す。直後に爆発。

「不意打ちか・・・!」



「・・・ふっ!」

上から何かが振ってきた。俺は咄嗟に左腕を異形化してその一撃を防ぐ。


「なろっ・・・!」

そのまま勢いよく広場に弾き飛ばす。

「・・・!」

「動くと撃つわよ」

「逃げ道はないぜ!」



闇風と愛依が武器を突きつける。俺は一息付いてから人影を・・・って。

「おま、ジェイド!?」

「おや?もしかしてサキですか?すみません、髪の色が違うので気づきませんでした」

こちらにニコニコ笑顔を向けてきたのはアビスの世界での仲間・・・ジェイドだ。

『・・・本物ッスか?』

「明らかに俺を認識してるし・・・多分本物だろ。つかジェイド、愛依がいるんだから気付いてたろ」

「おや、バレましたか?」

「・・・なるほど、こういう人間なのね」

闇風が呆れながら銃を降ろす。

「ジェイドさんは変わらないなぁ・・・」

「私はルークと違って大人ですからね。ハッキリ変われないんですよ」

「せいぜい仲間意識が強くなった位か?」

「元から私は仲間思いですよ」

「どの口が言ってんだか・・・」

「・・・さて、そろそろこの状況について説明願えますか?流石の私も情報がなくては纏めようがない」

「だろうな。・・・丁度いい、そこの民家を寝床にしよう。そこで今日起きた事を纏める。リパル、頼めるか?」

『ッス!今までに得た情報は纏め済みッス!』

「サンキュー」

・・・というわけで説明すること数十分・・・




「・・・まったく、貴方と知り合ってから毎日が退屈しないですねぇ」

「だけど理解したんだろ?」

「ええ。リパルの情報が分かりやすかったお陰もありますが」

・・・ああ、ちなみに仲間になったメンバー全員にリパルは触らせてある。



「サキと愛依の実力は知っていますが・・・闇風、でしたか?貴女はどうでしょう?」

「・・・実力なら次の戦闘で見せるわ。なんならここで試す?」

「遠慮しておきます。私も無傷ではすみませんから」

「その台詞だと私に勝つのが前提に聞こえるけど?」

「そうですが、それが何か?」

「・・・ふぅ、ほんとひねくれた人間なのね」

「おや、もう気付きましたか。からかいがいがありませんねぇ」

「まずジェイドさんは初対面の人をからかう癖を無くした方がいいと思う・・・」

「・・・同感」


「しかし、リグレットまでいるのは驚きでしたね。サキ、アリエッタもいるかもしれません」

「・・・かもな。間違いなく俺達のパーティーはいるとして・・・問題はどこまで来るかだ」

『と、言うと?』

「ソードアート・オンラインの世界で言うならシンカーさんとかサクヤさんとか・・・少しの間だけ関わった人間も来てしまうのかってこと」

『うーん・・・でも今のところは咲さんと亮さんに深く関係ある人だけッスよね?』

「まあ・・・確かに」

「・・・人質として使う可能性もあるわ」

「アイツはゲームとして楽しんでる。アタシはそれはしてこないと思う」

「これ以上はいくら考えても推測の域を出ないでしょう。討論はここら辺にして、本日は休みましょう」

「好都合なことに食材もあるから、晩飯を作ってくる」

「あら、楽しみね。みんなから絶品だって好評よ」

「あ?・・・あぁ、別の俺な」


先が見えないってのは腹立つが・・・ま、最後に勝つのは俺達さ。そして外史を守る・・・


































亮~



「ここら辺だったよな・・・」

壁を見れば焦げ跡があったり、色々悲惨なことになってた。辺りは暗く、光のない街は不気味だった。

「・・・」

葬解を付け直し、壁を背に歩き出す。


「ふー・・・」

ただでさえさっきホラーを味わったんだ。ゾンビとかいてもおかしくない。まったく勘弁してほしいものだ。

「・・・」


そのまましばらく歩いた時・・・


カツ・・・

「誰だ!?」

「リョウ!後ろだ!!」

「その声、教官!?・・・うあ!?」

現れたのはマリク教官で、それと同時に気弾が飛んでくる。
「この・・・」


俺は気弾が飛んできた方向に走り、拳を放つ。相手も同時に拳を繰り出し・・・

ガァン!!


腕まで衝撃が突き抜ける。・・・あれ?この拳に籠められた気は・・・


「・・・え?亮さん?」

「あ・・・め、美鈴?」



「なに?リョウ、知り合いなのか」

マリク教官が近付いてくる。

「はい、俺の仲間で、良い人です」

「人じゃないですけどね・・・」

ふと見たら美鈴の左腕は力なく下がっていて、血が滴っていた。

「美鈴、腕・・・!!」

「あ、いえ、その人にやられたんじゃなく、その前に一般人と思って近付いた少女に一突き貰っちゃいまして」

「とにかく、腕を出せ。治すから」

美鈴に治癒術をかける。

「いやあ、すみません」

マリク教官が美鈴に頭を下げる。

「すまない、度重なる襲撃で冷静さを失っていたようだ」

「いえ、仕方ないですよ。・・・取りあえず自己紹介を。私は紅 美鈴。紅魔館の門番をやっています」

「オレはマリク・シザース。ウィンドル共和国の騎士だ」

「二人とも俺の師でもあるからね・・・そう言えば美鈴だけ?咲夜とかレミリアは・・・」

「・・・実は居眠りしてて状況がわからなかったんですよねー・・・なんとなく穴に落ちた感じがして・・・」

「穴?」

「ああ、はい。最近幻想郷で人や妖怪が失踪する事件が相次いでおりまして・・・それにあちこちに“穴”が開いたり・・・」

「じゃあ美鈴は偶然・・・?」

「そうなりますねぇ・・・」

「リョウ、オレにはよくわからんが・・・ひとまずこの状況を説明してくれるか」

「はい。俺の仲間がこの先の建物で待っています。その仲間と合流してから話します」


話をしながら戻ると・・・

「あれです。あれ・・・が・・・!」

ナタリア達がいる部屋・・・その窓が割れていた。俺はそれを見て瞬動を使いながら窓まで飛び付く。

「くっ・・・」

中にはシリカを守るように立ち、血が流れる右肩を抑えるナタリアの姿、そして手前の二人の人影は・・・

「・・・チッ、もう来たのか。亮、速くしないからだ」

「・・・俺のせいじゃないだろ。咲だって戸惑った癖に」

「な・・・!」

俺と・・・咲!?

「リョウ!やはり、貴方達は偽物でしたのね・・・!」

「・・・自分が相手なら、まだ楽か」

もう一人の俺が呟く。


「ああ、先に殺るぞ」

そう言うともう一人の俺と咲は気弾と闇を放ってくる。

「うわ!?」

それを慌てて飛んで避けて地面に着地する。それに続いて二人も来る。

「何処の世界の俺かは知らないけど・・・」

「元の世界の為だ・・・消えてもらうぜ」

そう言うと二人は構える。

「咸掛法!」

「Bモード!」

「さあ、行くぞ!」

二人相手かと思ったが・・・

「一人は引き受けます!」

「行け、リョウ!」

「美鈴、マリク教官・・・頼みます!」

「はぁ!」

ガァン!

「・・・?」

そのまま俺は俺と斬り合うが・・・遅い?

「あの時の俺は・・・こんなに弱かったのか・・・?」

「なんだと!?」

間違いなく全力だ。それなのに・・・

「・・・はは」

「何を笑って・・・!」

「・・・この程度で・・・だから明命を守れなかったんだ・・・」

「お前、何て・・・!!」

擬音を払い、もう一人の俺の武器を吹き飛ばす。

「・・・ありがとよ。お前のお陰で、この旅が無意味じゃないって分かったよ」
そう言って俺は両断した。


「がっ・・・明・・・命・・・」



黒い霧となって四散した。

「よかった・・・俺は強くなれているんだ・・・」

あの頃と変わらなかったら、勝てない。・・・アイツも馬鹿だ。俺の偽物を使って俺のモチベーションを上げたんだから。

「今度は・・・守る・・・!」



その時、背後から爆音。見れば美鈴とマリク教官が咲を倒していた。

「ちっ、くしょうが・・・」

咲も消え、辺りは静寂に包まれる。

「二人とも、お疲れ様」

「亮さんこそ。いやー、偽物で助かりましたね」

「本物と殺り合うことなんて勘弁だって・・・」




「リョウ!何処ですか!?」

見るとナタリアが窓から身を乗り出して見回していた。

「とにかく、部屋に入ろう。・・・窓からだけど」

「入口からは入れないのか?」

「入ったらもれなくホラーが始まります・・・」

「?」


そんな訳で更に仲間が二人増え、俺達は事情を話し合う。そして交代で仮眠を取りながら見張りをすることにした・・・


 
 

 
後書き

「作者から・・・何々?イメージソング・・・?」


「俺らの曲ねぇ・・・」


「所謂処刑用BGMか・・・」

大澤 亮

「Ride The Wind」


五十嵐 咲

「POWER to TEARER」



「何故両方ライダー・・・」


「イメージに合う曲が特撮に集まるんだと・・・他にもテイルズだったりSAOだったりガンダムだったり・・・そこら辺はまた次回だな」


「余裕があったら聞いてみて下さいね・・・また、『これも合ってるよ!』って曲があったら教えて下さい!」


「それじゃ、次回もよろしく!」 

 

高すぎる壁~

 
前書き
最近一気に寒くなりましたね。体調管理には気を付けましょう。ではどうぞ。 

 
咲~

「・・・何事もなく朝・・・か」


「確かに拍子抜けですねぇ」

その時、偵察に出てもらっていた闇風が帰ってくる。

「空からも見たけど異常無しよ」

「そうか。じゃあそろそろ出る準備を・・・」

「ふわ・・・あ、も、もしかしてアタシが最後・・・?」

「ええ。あと五分で目覚めなければ置いていくつもりでした」

「えええええ!?」

「ジェイド、冗談は止めろって」

一瞬泣きかけた愛依が俺を見る。

「・・・冗談?」

「ええ。咲は見張り番で、ジェイドと私はただ早く目が覚めただけ」

「も・・・もう!ジェイドさん!?」

「いや~、すみません。つい・・・」

「あなたのついは酷いです・・・」

『咲さん、サーチにも何も引っ掛からないッス』


「よし、じゃあ行くか」


雲ひとつない空を見上げ、俺はため息を吐く。

「事態に反して平和な空だな・・・」

少なくともエリアを移動しないと・・・っ!


「・・・リパル、サーチ・・・したか?」

『え?そりゃ・・・っ!?反応増大・・・!』

「私が見たときは何も・・・」

「なら今さっき出したんだろうよ!」


『ま、待ってくださいッス・・・これは、不味い・・・反応が増え続けてるッス!』

「・・・本当ですか?」

「アタシ達で倒しきれるの・・・?」

『もうすぐ目視可能な距離に・・・』


「うわ・・・」

最早魔物の波・・・


「さ、流石に無理だよ・・・」

「・・・確実に弾切れ起こすわね」

「・・・逃げるが勝ちか」

「そうですね」

俺達は魔物の群れに背を向けて走り出す。

「愛依、ジェイド!先に行け!

「え!?で、でも・・・」

「俺とヤミの速さならすぐ追い付ける!」

いざとなったら空を飛んで逃げられるし・・・

「・・・で、なに?何をすればいいの」

「いや、あのペースじゃ追い付かれそうなんで足止めをな・・・」

「二人であの数を?」

「・・・時間を稼いでくれるか?」

「あの数を一人で?」


「二分・・・いや一分でいい」

そう言って俺はベルヴェルクを闇風に投げ渡す。

「弾が不安ならそれを使ってくれ」

「使い慣れてない銃を渡されてもねぇ・・・」

「ほら、ガンゲーならよくコラボ企画あるし、その銃を使ってると思えば・・・」

「GGOにコラボ企画なんてあったかしら・・・ま、いいわ。速くしなさい」


「了解!」

闇風が走っていき、俺は力を集中する。

『咲さん、何を・・・』

「久々にアレをやるんだよ」

闇風はしばらく持ちそうだし・・・安心して力を・・・


「ふぅぅぅ・・・」




「っとに・・・どっから涌いてるのよ・・・」

闇風が銃を乱射して魔物の動きを止める。今にも攻撃が当たりそうなその時・・・

「いいぞ!下がれ!」

「OK!」

俺は手を高く上げ、振り下ろす。

「開け!!」

俺の背後の空間が大きく開き・・・大量の武器が出現する。
「久々の大盤振る舞い・・・いけぇ!!」


大量の武器を射出。物凄い勢いで魔物が減っていく。

『咲さん!』

「ああ・・・ヤミ、逃げるぜ!」

ついでに爆弾系もばら蒔いたし、すぐには追ってこられないだろう。


「思ったより楽勝だな」

「調子に乗ると痛い目見るわよ」

『・・・っ!?二人とも危ないッス!』

「え?・・・うわ!?」

いきなり辺りが揺れ出した。

「な、なんだ!?」

『空間が不安定になって・・・このままじゃ消滅するッス!』

「うえ!?まさか、俺のせい・・・?」

「違うと思うわよ。だったら・・・きゃっ!?」

突如闇風の足下の空間が揺らぎ、何もなくなる。そして闇風は重力に従い、落下する。

「ヤミ!!」

Bモードもアバターチェンジも間に合わない。俺は咄嗟に穴に飛び込み、闇風の腕を掴む。

「馬鹿・・・!なんで・・・」

闇風が何か言うが無視して抱き寄せる。そして一瞬身体が捻れるような感覚に襲われる。



『空間転移・・・!?跳ばされます、咲さん!!』



どうやら消滅という事態は免れそうだ。不意に空に投げ出されたので、俺は自分の身体を下にする。

ドォン!

そして落下。衝撃が身体を突き抜ける。

「・・・っつ・・・」

「ヤミ・・・重い・・・」

「・・・!」

ゴン

「っ、違・・・ヤミが重いんじゃなくて・・・んな装備してれば普通重いって・・・」

「・・・自分から抱き締めておいて退けなんて随分な態度ね」

「仕方ないだろ、あの状況じゃあよぉ・・・」

「万が一私は死んでもアイツの空間に跳ばされるだけでしょ。だけどアンタと亮が死んだらそこでゲームオーバー。・・・これからは行動に気を付けなさい」

「・・・あいよ。善処はする」

「・・・でも、まぁ助けてくれたことには感謝するわ」


『ツンデレッスね』
「は?」

『・・・すみませんッス』

「ツンデレには縁あるなぁ・・・」

『詠さんとか・・・』

「馬鹿な話をしてないでまず今の状況を把握しなさい」

「はいはい。・・・リパル」

『・・・近場にさっきまでの街はないッス』

「マズッたな・・・愛依はジェイドが付いてるから平気だと思うけど・・・」

「私達が生きてるかどうか、向こうは分からない・・・ってことね」

「ああ。・・・っと、そうだ無線・・・」


無線を出すが・・・まったく応答しない。

「ま、だよな・・・しょうがない。歩くか」

『どっちに行くッスか?』

「困ったら左にしとくか」

「曖昧ね・・・ああ、そうそう」

闇風がベルヴェルクを投げ渡してくる。

「返すわ。やっぱり私は“こっち”がいいみたい」

キャリコを取り出しながら闇風は微笑する。

「そっか。ま、必要な武器があったら言ってくれ。ミリタリーからファンタジーまで揃ってるからさ」

「私も欲しいわね、その能力」

そんな会話をしながら俺達は再び進む。






































亮~


俺達は全員無事に朝を迎えた。そしてシリカも目を覚ましたが・・・

「う・・・あ、あたし・・・」

「シリカ?」

「亮、さん・・・?」

状況を説明するが・・・

「・・・」

シリカは自分の腹を抑えて震え出してしまう。・・・そりゃそうだ。串刺しにされて、本当の死の恐怖を味わったのだから。



「う・・・うぅ・・・」

「リョウ、どうする?」

「・・・置いていく訳にはいきません」

「ああ・・・だが、見た限りこの少女は恐怖心に囚われている。・・・戦うことはできないだろう」

「はい、分かっています。・・・シリカ」

俺はしゃがんでシリカの目線に合わせる。

「りょ、亮さん・・・あたし・・・怖い・・・怖い、です・・・」

「・・・ああ、その気持ちは分かるよ。SAOとは違う、別の恐怖がある・・・でも安心して」

「・・・」

「俺がいる限り、シリカには絶対に手を出させない。あの時と同じようにシリカを守る。だから・・・俺を信じてついてきてくれないか?」

「あ・・・」

「・・・」

まっすぐシリカを見つめ・・・やがて、シリカは頷いた。


「あたしには・・・ピナも、亮さんもいます・・・だから、頑張って、みます・・・」

「・・・亮さんだけではありませんよ」

「ええ、私達も貴女を守ります」

「・・・ありがとう、ございます・・・!」



俺達は一度見合わせてから窓に手をかけ・・・

タァン!

「っとぉ!?」

あまり身を乗り出してなかったお陰か、すぐ真横に何かが弾着した。俺は慌てて病室内に転がる。

「っぶねぇ・・・!」

「どうした!?」

「スナイパーです!俺の知り合いなら・・・知也か!?」


「そうすると窓からは出れませんね・・・」

「となると・・・またあの面妖な人々の中を通りますのね・・・」

「あ、あの・・・何がいるんですか・・・?」

「血塗れのナース」

「え・・・え?」

「・・・見れば分かるよ」

俺は扉のつっかえ棒を取る。


「じゃ、行・・・」

扉を開いた瞬間・・・血塗れのナースが飛び掛かってきた。



「うわああああああ!?!?」

大絶叫。そのまま押し倒されそうになるが・・・

「ざ・・・けんなっ!」

逆に勢いを利用して巴投げ。綺麗にナースは窓から外に落ちていった。

「リョウ、平気か?」

「は、はい・・・た、たく・・・!お約束なことしてんなよ・・・!!」

マジでビビった。まさかこんなタイミングでホラゲーの主人公の気持ちを知れるとは・・・ああ、心臓が凄いバクバクしてる・・・

「どうやら彼女たちは生者じゃないみたいですね・・・気を感じ取れませんでした」

「俺もあの距離でまったく気が付かなかったよ・・・幾らなんでも酷いって・・・」

「亮さん・・・あれが?」

「ああ、でもあんまり強くないから平気だよ。シリカは真ん中に。両方の襲撃に備えて俺が先頭、美鈴が殿を頼む」

「は、はい」

「お任せを」

「ナタリアとマリク教官はシリカの前後に。状況に応じてお願いします」

「承知しました」

「わかった」

「今度こそ行こう!」



俺達は通路を走る。・・・上手く陣形が噛み合ったのか特に被害が出ることもなく進めた。・・・流石にシリカの精神状態が不味いが。

「うぅ・・・」

斬り倒した時の血の臭い、マリク教官の術で吹き飛んだナースの肉が焦げた臭い。俺らでさえ不快感を感じていたのに・・・

「後少しだ。頑張れシリカ!」

「う、は、はい!」

入口にたむろするナースの集団に向け・・・葬解の闇を解放する。

「お・・・らぁっ!」

ズゴォン!!


闇が爆発してナースを薙ぎ払う。

「外に出ても立ち止まらないで、物陰に隠れるんだ!」

入口を駆け抜け、裏路地に入ろうとするが・・・

ダン!

「あっ・・・」

ナタリアの足から血が吹き出し・・・倒れる。

「ナタリア!!」

「止まってはいけません!私を置いて行きなさい!」

「そういう訳にもいきませんって」

美鈴がナタリアを抱き抱えて走る。後少し遅ければナタリアの頭は撃ち抜かれていただろう。俺とシリカとマリク教官はいち速く物陰に隠れ、少し遅れて美鈴とナタリアも違う物陰に隠れた。


「美鈴!ナタリア!」

「私たちは無事です!」

「ふぅ・・・この裏路地を抜けて合流しよう!」

「はい!」

俺達は路地裏を通り・・・広場に出る。

「ここは狙撃されないよな・・・シリカ、平気?」

「な、なんとか・・・」

「キュウ・・・」

「マリク教官は・・・」

「オレがこの程度で疲れると思うか?」


「ですよね。・・・ん?」


広場の中央・・・そこに立ちすくむ少女の姿があった。あの後ろ姿は・・・・・・

「サチ・・・?」

それが聞こえたのか少女はゆっくり振り返る。・・・うん、顔はよく見えないけどサチだ。

「サチ!」

俺はサチに歩み寄る。

「サチも来ていたのか。でもよかった・・・怪我とかしてな・・・サチ?」

「・・・りょ、う・・・」

「どうした?まさか何か・・・」

「逃げ、て・・・!」

「え・・・?」

「亮さん!退いてください!!」

いつの間にか合流した美鈴が叫ぶ。俺は振り返り、聞き返す。

「退く・・・って」

「彼女なんです!私が攻撃された少女っていうのは!」

「な・・・!」

慌ててサチを見ると・・・金色の、殺意が溢れる目がこちらを見ていた。

「・・・・・・っ!!」



サチはいつの間にか手に持っていた槍を俺に向かって突き出した。

ガキン!

「っ・・・」

咄嗟に葬解で防ぐが・・・

「ァァ・・・ァァアアアアアア!!」

「っぐ!?なん、だ、この力・・・ぐあ!?」

押しきられ、俺は吹き飛ぶ。

「くぅ・・・」

「リョウ!」

「アレは・・・まさか」


ナタリアが呟く。

「サキと同じ・・・闇・・・!」

「闇・・・って何で・・・」

「来るぞリョウ!」

マリク教官が剣を構え、突撃する。そして俺は携帯を取り出す。

「美鈴、協力してくれ!」

「え?は、はぁ・・・わかりました!」

「イレギュラーキャプチャー!」

「うえ!?わわわ!?」

携帯の光が美鈴を包み、俺と一体化する。髪が赤く、服もチャイナ服になる。

『な、なんですかこれ!?』

「俺の能力だよ。・・・そういや見せたことないっけ」

『真似能力くらいしか知りませんって・・・』

「とにかく、俺と美鈴は一体化して、美鈴の得意分野が俺の能力にプラスされたってことさ」


しばらくサチと打ち合っていたマリク教官だが、力に押されて怯んでしまう。そしてサチは左手に闇を・・・あの構えは・・・!

「マリク教官、避けて下さい!」

「ラァァァァ!」

「ぬおっ!?」

闇の炎に吹き飛ばされ、マリク教官が壁に叩き付けられる。

「マリク教官!?・・・この!」


擬音と迷切を地面に刺し、瞬動で間近に接近する。

「ふっ!」

長物なら接近戦に弱い筈。予想は当たってサチは槍で捌けなくなる。

「美鈴、気を!」


『はい!』

サチに気を流して気絶させる!

「気功破!」


ガアン!

「・・・!」

手応えで分かった。気が・・・通ってない!

「・・・ガァァァ・・・!」

俺の手はサチの腕に阻まれていたが・・・その腕は、異形のモノに変わっていた。

「アアアアアア!!」

「っ!うあ!?」

突然の衝撃波に吹っ飛ばされ、地面を滑る。

「おい、嘘だろ・・・!」

サチの身体を闇が包み・・・その姿を異形に変えていく。

「侵食が早い・・・っ!が、な・・・」
高速で飛来した闇の槍が、俺の身体を貫いた。外傷はないが、体力を根こそぎ持っていかれた感じがして・・・イレギュラーキャプチャーが解除された。

「く・・・あ・・・」

「う・・・ぐ・・・」

俺と美鈴はその場に倒れる。


「くっ・・・身体が・・・」

「・・・」

身体をBモードのように変異させたサチがシリカを見る。

「ひっ・・・」


「シリカ・・・!逃げろ・・・!」

「ひ・・・ぁ・・・」

ダメだ!完全に恐怖に呑まれている!

「・・・シリカ、私の後ろに」

ナタリアが片足を引きずりながらシリカの前に立つ。

「な、ナタリアさん、そんな怪我で無茶です!」
「無茶など当たり前です。上に立つ者が目の前の人一人救えなくてどうするのです?」

「ナタリアさん・・・」

「例え私の身を盾にしても貴女を守り抜きます!」

「・・・!」

シリカはうつ向き・・・ダガーを取り出してナタリアの前に出た。

「あたしだって・・・守られてばっかは嫌・・・あたしだって!わあああああ!!」

シリカが叫ぶと身体から白い光があふれでる。

「あれは・・・!!」

「“気”です!まさかシリカさんも・・・?」


・・・そうか!気は身体を鍛えさえすれば誰でも使える。今のSAOメンバーはアバターのステータスに生身の身体・・・つまり“身体が鍛えられた状態”というわけだ。・・・てことはキリト達も今は気を使える・・・

「やああああ!」

シリカがそのまま全力で突きを放つ。サチの闇と激突し・・・シリカが押される。


「くぅ・・・!うぅぅ・・・!」



「ダメだ・・・気の練りが甘い・・・あれじゃあ・・・」

何とか意地でも身体を動かそうとするが・・・それよりも速く声が響いた。

「下がってください!」

「キュル!」

ピナがシリカを押し、サチの一撃から遠ざけ・・・直後、雷がサチに直撃した。

「な・・・!」

「はあああ!」

上空から緑色の髪と服を来た少年が飛んできてサチに近づく。繰り出された闇は少年の両手に握られた短剣で軌道を逸らされる。

「あ、アレも亮さんの仲間ですか・・・?」

「い、いや・・・」
見た目的にはALOのシルフみたいだけど・・・あんな戦い方をする人、いたか?



「ルアアア!」

「っ!」

大振りの一撃をしゃがんで避け・・・ダガーを身体に叩き込んだ。

「ガァ!?」

「・・・毒が効いてない・・・!なら・・・」

少年は距離を開き、詠唱を始めた・・・時だった。

『・・・けて』


「・・・!」

俺はサチを見た。その瞳には・・・涙。

『助けて・・・助けて・・・!』


「サ・・・チ」

まだ・・・まだ呑まれていない!?俺は少年に向かって叫ぶ。

「止めてくれ!サチは・・・サチはまだ自我がある!」


「え!?あれがサチさん・・・!?」

少年が動揺した瞬間・・・サチが飛び去っていった。

「あ・・・!・・・逃げられた・・・」

「・・・」


とにかく、全員の体力が回復するまで待ってから少年に話を聞く。

「君は?・・・シルフ、ってことはALOをやっていたのか?」



「え、ええっと・・・はい」

・・・コイツ、どっかで会ったことあるような・・・」

「あ、あの、僕はリョウコウさんの世界から来ました、レコンって言います!」

「へ・・・?レコン?」

「は、はい」

レコンって・・・直葉に片思いしてたあの・・・

「・・・ごめん、髪型が違うからすぐ気付けなかった。リョウコウ・・・の世界から来たのか・・・となると、そっち・・・レコンはかなり強いんだな?」

「自分じゃよくわかりませんけど・・・でも、お役には立てると思います」

「リョウが送ってきたんだ。強いに決まってるさ。元々根性はあったからな・・・取りあえずよろしく、レコン」

「はい、こちらこそ!」

全員が休む中・・・俺はレコンに聞く。

「なあ、レコン・・・」

「はい?」

「サチのこと知ってるみたいだけど・・・リョウの世界のサチってどうなってるんだ・・・?」

「ええと・・・僕が知ってるのはリョウコウさんがサチさんを助けて、今は毎日楽しく暮らしています」

「そか・・・リョウもサチを助けたんだ・・・」

「あの、亮さん?」

「ん・・・いや・・・レコン、俺は約束があるんだ」

「約束?」

「ああ、サチとした約束・・・サチは俺に助けを求めていた。だから・・・」

「助けたい・・・ですか?」

「・・・ああ。それにも協力してくれるか?」

「もちろん。サチさんを見殺しにしたらリョウコウさんに斬られちゃいますから」

「うん・・・頼む」

この事は皆にも話さないと・・・俺はそう思って足を向けた・・・ 
 

 
後書き

「作者はサチに恨みでも?」

むしろ好きな部類です。


「出番があるだけマシか・・・」


「だからってアレはないだろ・・・ま、次回もよろしく」

 

 

懐かしい再開~

 
前書き
久々過ぎてキャラの動かし方を忘れた前作キャラ(笑)・・・ではどうぞ。 

 


「・・・みんな、大丈夫?」

「何となく身体がダルい気がしますね・・・」

美鈴が腕を軽く振って言う。


「マリク教官は?」

「打ち身程度だ。動けない程じゃない」



「ナタリア、足は?」


「レコンが治してくれました。彼はとても頼もしいですね」

「え!?そ、そうですか?あは、あははは・・・」

「顔緩んでるぞー・・・シリカは?どこか痛いところは・・・」

「あ、だ、大丈夫です。ただ・・・なんか凄く疲れて・・・」

「全力で気を放出したからだろうね。あんなサイヤ人みたいな気を出したら・・・」


普通はバテるよ、うん。

「あの・・・気って・・・」

「ああそっか。せっかくだし使い方を教えた方が・・・美鈴、頼める?」

「私ですか?」

「うん。美鈴の方が教え方上手いし」

「そりゃ、気は私の取り柄ですからね。・・・ではシリカさん、気についてご教授します」


「はい!よろしくお願いします!」


歩きながら美鈴が気について説明し、シリカがそれを真剣に聞く。レコンはマリク教官やナタリアに質問攻めに合っていた。俺は・・・

「(サチ・・・)」

彼女は・・・美鈴を攻撃したってことは殆ど意識を闇に蝕まれていたんだろう。ああ、そうだ。あんな悲しみを味わって、闇が発現しない方がおかしいんだ。・・・サチは何て言った?逃げて?そして・・・


[助けて]


助けてと・・・サチは俺に言った。なら・・・

「リョウ、どうした」

マリク教官の声でハッとなる。

「あ・・・いえ、少し考え事を・・・」

「あの少女のことか」

「・・・はい」

「助けるつもりか?」

「・・・はい!」

「無理だったら、斬れるのか?」

「今は・・・そんなことを考える余裕はありません・・・それに」

「・・・」

「・・・必ず助けるつもりですから・・・!」


「・・・そうか」


マリク教官はしばらく考え込む。

「オレはそれに力は貸すつもりでいるが・・・万が一の時はオレがケリをつけよう」

「っ!!」


「お前ではあの少女は斬れない。・・・このパーティーではオレがやるしかないだろう」

マリク教官は・・・本気だ。俺の恨みを受け止める気もある。・・・だからこそ、必ずサチを助けるという気持ちが強まった。

「・・・すみません、マリク教官」

「・・・謝る必要はない。ただ、やけに一人で気負っている気がしてな」

「う・・・ははは・・・」


ふと周りを見渡す。

「・・・と、こんな風に体内から絞るように・・・」

「こ、こうですか・・・?」

「・・・おお、上手ですね。じゃあ次は手のひらに球体状に・・・」






「まぁ、レコンには恋人がいるのですか!?」

「こ、恋人と言うか・・・片思いです・・・」

「それでも人を愛するのは素晴らしきことです。・・・私も・・・」

「ナタリアさんもですか?」

「ええ、彼はこの世界に来てるのでしょうか・・・」


・・・こんなにも味方が・・・いるんだよ。・・・ああもう、この何時も一人で考える癖、直らないなぁ・・・なんて考えて俺は苦笑した・・・
























咲~


「・・・しかし、ここって変だな」

「・・・確かに」

『何がッスか?』

「簡単だよ。もう一時間近く歩いてるのに、世界が変わらない・・・」

『あ・・・でも、もしかしたらただ世界が長いだけじゃ・・・』

「そうなんだけどよ・・・ここって見事に荒野だろ?綺麗過ぎてさ・・・」


「今まで岩壁に鉄があったり、鉄から草が生えてたこともあったわね」

『・・・そうッス・・・ね?・・・!咲さん!』

「どっちだ!?」

『敵ッス!これは・・・囲まれてるッス!』

「マジか・・・!」


辺りから突如影の化物が現れる。

「動き的に人間じゃあないな・・・」

「飛んで逃げる?」

「見たとこ羽根を持った奴が多い。・・・さっきよりは少ない。殲滅しよう」


「・・・了解」

俺は空間からベルヴェルクを取り出す。

「来な!」


俺は走り出す。そして構え・・・

「ブルームトリガー!」

連弾。そこから化物を蹴り飛ばし、背後から迫る化物にぶつける。

「オプティックバレル!」


闇風は平気か・・・?

「ふっ!」

闇風は一撃をバク転で回避し、着地と同時に射撃。振り向きざまにナイフで化物を斬り、真上から飛び掛かってきた化物を撃ち抜く。

「チェンジ!フェアリー!」

ケットシーに姿を変え、空から火球を射つ化物をクローで切り裂く。

「ならこっちも・・・フェンリル!」

左腕を異形化させ、フェンリルを片手で持ちながら方天画戟を取り出す。

「デヤァァァァ!!」


自身が回転しながら弾を乱射。そして二週回ったらベルヴェルクを空間に投げ込み、闇を高める。

「Bモード、発動!」

闇風と同様に空を飛び、手に闇を集める。

「ダークファイガ!」

ズドォン!


闇風が空を、俺は地上を制圧する。

「リパル、鎌!」

『了解ッス!』


闇を鎌に注ぎ込む。そして闇を纏い・・・

「ダークオーラ!からの・・・!」

急降下で突撃し、鎌を振り回す。

「デスサイズ!!」

その一撃で地上の敵は全滅する。

「はぁぁぁ!」

闇風が連続で五体の化物を切り裂き・・・俺達は元の姿に戻りながら着地する。

「全部・・・か?」

「やろうと思えばできるものね」

『そうッス・・・っ、ま、まだッス!反応再び・・・!』


「な・・・!」

さっきの倍はあろうかという数・・・

「・・・流石に弾切れ起こすわよ・・・」

「やるしかないけどな・・・」

覚悟を決めたその時・・・声が響いた。

「ベルレフォーン!!」

「神鳴流奥義・・・斬魔剣!!」


ズガガガン!!


周りの化物が吹き飛び、俺達の前に現れたのは・・・

「無事ですか?サキ」

「ら、ライダー・・・?」

「お久し振りです、咲さん」

「刹那まで・・・」

Fateの世界のライダー。ネギまの世界の刹那・・・彼女達がどうして・・・


「積もる話は後です」

「彼方に向かって下さい!仲間がいます!」

「で、でも・・・」

「ご安心を。天馬があれば逃げ切れますから」

「囲まれる前に速く!」

「・・・わかった。頼む!」

俺達は走り出す。

『あの咲さん、あの人達は・・・』

「一体誰よ?」

「・・・そっか、二人は知らないよな。彼女達は前の旅で出来た仲間だ。とても頼れる・・・な」


しばらく走ると声が響いた。

「こっちよ!二人とも!」

少女の声が聞こえ、そこに走り込むと・・・テントがあちこちに張り巡らされた拠点みたいな場所に入った。

「ここは・・・」

「あたし達の拠点よ」


「お前・・・ゆり!?」

「ゆりっぺだけじゃないぜ?」

「日向まで・・・」

ライフルを持った男女はAngel Beatsの世界のゆりと日向・・・

「随分懐かしいわね。・・・と」

ゆりが無線機を取り出す。

『ゆりっぺさん。敵の進行が止まりました。第2、第3拠点に被害はありません』

「そう・・・ご苦労様、遊佐さん。引き続き警戒に当たって」

『了解しました。それでは』


俺はゆりに尋ねる。

「みんながどうしてこの世界に・・・」

「・・・来たのはあなた達の方よ」

更に声が聞こえ、スキマが開く。

「紫・・・」

「ラッキーだったわ。まさかあの世界から脱け出せるなんて・・・」

「え・・・?」

「来なさい」

「そっちのあなたはこっちに来て。その銃の弾薬を補充するから」

「・・・ええ、分かったわ」

闇風はゆりに連れてかれ・・・俺は紫に着いていき・・・拠点の外れにまで行く。そこに合ったのは・・・

「なんだ・・・あれ」

真っ黒な巨大な玉。惑星みたいなそれは、宙に浮かび・・・周囲の物を飲み込んでいってる。

「あなたはあの中にいたのよ」

「え・・・」

「あそこは入るのこそ簡単だけれど、出るのは難しい・・・しかも次元の壁を破れる化物が生み出されている・・・」

「どうして俺達は外に?」

「私がやったのよ。何故かあなた達が一瞬世界から外れた。その隙を狙って転移させた・・・」

あの時か・・・

「私達がやっていることは化物を他の世界に通さないよう討伐をすること。あの球体を囲むように三つの拠点を作り、対抗しているのよ」


「なるほどな・・・」

「出来れば私が出向きたいのだけど・・・私も利用される恐れがあるもの」

「闇・・・か?」

「ええ。幻想郷に手を出され・・・今すぐにでもアイツを消し炭にしたい・・・」

チラリと紫を見たが・・・背筋が凍るような表情を浮かべていたので、視線を逸らす。

「・・・あなたはここに待機しなさい・・・と言っても聞かないでしょうね」

「ああ。行かなきゃいけない。まだ助けてない人も・・・」

「出来る限りの人間はこちらでも確保したわ。・・・ほら」

「咲!」

背後から来たのは・・・詠だ。

「詠!」

詠が抱き着いてくる。

「よかった・・・無事だったのね・・・ボク、凄く不安で・・・」

「ごめん・・・でも俺は生きてるから」

「・・・ふーん、男って言うのは本当だったのね」

詠の背後にいたのはピンクの髪の二人組。

「リズ・・・アリエッタ・・・」

「サキ、また会えた・・・」

「男でも他人を泣かせるのは変わらないわねぇ?」

「うるさい。好きで泣かせてる訳じゃないっての・・・」

女泣かせなのは認めるけどさ・・・

「取りあえず戻るにしても今日は休んでおきなさい」

「そんな暇はねぇよ。こうしてる間にも・・・」

「安心しなさい、こっちとあっちの時間は同一ではないから」

「・・・そうなのか?」

「嘘はつかないわよ」

「ふーん・・・わかった。体力回復に務めるよ」

「よろしい。じゃあ私はまた各地の様子を見てくるわ」

紫は姿を消す。俺は一回息を吐いてから頬を掻いた。

「いざ休めと言われてもな・・・」

「じゃあ、遊ぼ!」

「ちょっとアリエッタ。こんな時に・・・」

「う~・・・エイの意地悪・・・」

「まあまあ、いいじゃないの。お互い息抜きしなさいな」

・・・意外に面白い組み合わせだな。



「取りあえず拠点を案内してくれないか?どこに何があるか・・・」


「ええ、分かったわ」

「・・・」

「・・・アリエッタ」

「?」

俺はアリエッタ招き寄せ・・・肩車をする。

「わ・・・」

「よし、行くか!」

「うん!」

「仲のいい兄妹みたいねぇ」

「ボクが神託の盾にいた時は暗かったのに・・・」

「ま、暗いよりは明るい方がマシよ」

「そりゃそうね」

「詠ー、リズー、案内してくれよー」

「「はいはい」」




あちこちを案内してもらい、内容を把握する。

「詠達も化物と戦ってるのか?」

「どちらかと言えば本分の軍師をやってるけど。そうね、人手が足りなければボクも出てるわ」

「あたしもね、基本は武器の手入れだけど出るときもあるかな」

「アリエッタも音素で・・・」

「そっか・・・」

「あの中ってどんな感じなの?」

「そりゃ、あっちらこっちらぐちゃぐちゃで・・・」

「・・・アスナやキリトも向こうにいるんでしょ?」

「ああ・・・」



「・・・ねえ、咲」

「ん?」


「明日には・・・また行っちゃうのよね・・・」

「・・・ああ、うん」

「・・・ボク、は・・・」

詠はそこまで言ってから首を振り・・・頬を叩いた。

「・・・何でもないわ」

「詠・・・」

「生憎ボクは忙しいの。ここから離れられない・・・だから、だから・・・」

詠の瞳から・・・涙が溢れた。

「精、々・・・勝手に頑張り・・・なさい・・・」

「・・・久々のツンデレをどうも。・・・まったくツンを出せてないけどな」

「・・・うるさい・・・!」

「・・・詠、ごめんな。お前が俺といたいのは知ってるのに・・・」

「大丈夫・・・でも、必ず帰ってきなさいよ・・・」

「当然。まだ恋も見つけちゃいないんだ。くたばってたまるか・・・!」

「・・・で、何時まであたしは黙ってればいい?」

「あ・・・わ、悪い」

「あたしよりアリエッタに謝った方がいいわよ?」

「う・・・ご、ごめん」

「ううん、平気」


『咲さん・・・大変ッスね・・・』


「はは・・・確かにな」

「?・・・ねえ、今の声・・・」

あ、そっか。リズに説明してないっけ。というわけで説明。アリエッタにも話を聞いてもらう。

「・・・ははは、まさか武器に意思が・・・」

『何時も丁寧に磨いでくれてありがとうッス!』

「あ、うん・・・どういたしまして・・・」

リズが小さく「まさか武器にお礼言われる日が来るなんて・・・」と呟く。

「てかあたし、一回思いっきり削っちゃったような・・・」

『気にしてないから平気ッス・・・』

「あれ、悪いの俺だしな・・・」


そして懐かしい面々と会話をしながら一日が過ぎていく。

「そうか、桜は魔術を?」

「はい、私も少しは姉さんや先輩の役に立ちたいので・・・」

「兄の様子は?」

「何と言いますか・・・曲がってるようなまっすぐなような生活をしています・・・」

「はは・・・」

Fateの世界では士郎は人助けの日々。セイバー、凛や桜がそれを手助けする毎日だそうだ。


「夕映はこれからの進路とかは?」

「ネギ先生のお手伝いを考えてるです。今は魔法世界の学校に留学しながらネギ先生・・・いえ師匠に色々習っています」

「あのネギが弟子かぁ・・・」

「咲さん、その・・・恋さんの話は聞きました」

「ん・・・そうか。魔法世界じゃ一緒だったもんな」

「ええ・・・コレット達には話していませんが・・・あの、咲さん。恋さんをお願いします」


「ああ・・・」

ネギは魔法世界と現実世界の壁をなくそうと頑張ってるらしい。麻帆良のみんなも進路を考えて・・・大学だったり仕事についたり・・・



「それでよ、ユイがギターを買ってさぁ」

「へぇ・・・つか日向、もう制服って年じゃないだろ?」

「これは勝手になったんだよ。んなこと言ったらゆりっぺなんて二十歳越えであの制服はキツイだろ」

「あはは、確かに」

「ふぅん・・・楽しそうねぇ・・・」


「「・・・」」

「あーあ、知らないわよ」

「や、ヤミ・・・助けて・・・」

「ゆり、存分にやりなさい」

「ヤミはそっち側かよ!?」

「ゆりっぺ・・・落ち着け、話せばわかる、な?」

「ええ、話し合いましょうか。・・・肉体言語で」

「「ひぃぃぃ!?」」




音無と奏は日向とユイに続いて結婚。結婚式には元戦線メンバーを呼んだのだが、肝心のリーダーはブーケすら取れずに拗ねたそうだ。ちなみにブーケを取ったのは岩沢だったようだが、本人曰く相手はいないとのこと。






















「それでね、フローリアンと一緒に遊んだんだよ」


「へぇ、仲よくやってるんだな」


夜、アリエッタが一緒に寝たいと言ったので同じ布団に入る。・・・けど、正直寝付けないのでアリエッタの話は有りがたかった。

「それでね、ルークとアッシュは交代で入れ替わってるの」

「はは、双子がよくやるなぁ」

ジェイドやジゼルに聞く暇もなかったアビスの世界の話を聞く。ルークやナタリアは国の代表としてマルクトとの親睦の象徴になってるそうだ。ガイはジェイド共々ピオニー陛下に振り回されながらたまにルークに会いに行ってるそうだ。アッシュとも新しい関係を始め、アッシュもそれを受け入れている。ちなみにアッシュとルークは仲良い兄弟に見えるとか。アニスはダアトで教会の立て直しを頑張る毎日。フローリアンの面倒は主にアニスとアリエッタが。兵士の訓練はジゼルが行っている。

「・・・みんな凄いな・・・」

「・・・すぅー・・・」

「あ・・・」

気が付けばアリエッタが眠っていた。

「少し髪伸びたか?・・・髪止め、使ってくれてるんだな・・・」

ふと見ればポケットから俺が渡した眼鏡が出ていた。・・・毎日大切にしてくれているのが分かった。

「・・・」

アリエッタの頭を撫でる。リパルもとっくにスリープモードなので、寝床には静寂が訪れる。

「・・・」


亞莎や思春もそれぞれの拠点で戦っているそうだ。

「・・・」

ふと眠気が来て・・・それを逃せば眠れない気がして・・・俺は瞳を閉じた・・・















































・・・翌日。俺と闇風は球体の近くに立っていた。



「闇風さん、また会いましょう」

「ええ、次はゆっくりしたいわね」

「咲・・・負けんじゃないわよ!」

「ああ。何時も通り勝ちをもぎ取ってやるさ!」


「・・・準備はいいみたいね」

「紫・・・」

「・・・行く前に彼らも連れていきなさい」

「え?」

スキマから現れたのは二人の男女。

「よっ、狙い撃つ為に来たぜ」

「知也・・・」

剛鬼の世界のスナイパー、知也。そして・・・

「どうも、咲様。この凌統、遅れながら馳せ参じました」


「春鈴・・・」

思春の副将である春鈴。どうして・・・

「あなた、銃を使うのね」

「そういうアンタもな。腕はどうだ?」

「それは戦闘で見てもらおうかしら?あなたの腕も・・・ね」

「いいぜ。どんな奴も狙い撃つぜ」

「じゃあ私は乱れ撃つぜ・・・と言った方がいいかしら?」

おうおう・・・この二人は・・・

「しかし春鈴がなんで・・・」

「もう待つだけでは嫌・・・ということです。紫様のお陰で様々な世界で経験を積めました。私も・・・黒幕を殴りたい一人だと言うことです」

「分かった。二人とも頼む」

「残念だけどさっきの場所に飛ばせない・・・完全に運任せになるわ」

「・・・ああ、やってくれ」

紫が新たにスキマを開く。

「行きなさい。私はまだ奥の手の準備をしなくちゃいけないから、援護に期待しないで」


「いや、援軍がいるだけで十分だ」

「そう・・・それと、気をつけなさい」

「え?」

「・・・なのはよ」

「なのは?なんで・・・」

「あの世界で・・・フェイトとシノンはほぼ再起不能なほどやられてしまったわ」

「本当か!?」

「シノンは傍観者で死ぬことはないからしばらくすれば回復するわ。フェイトも回復魔法で安定した・・・けど、なのはの怒りを今まで食い止めていた二人がやられたことで・・・」

「完全にぶちギレちまった訳か・・・」

「ええ・・・勝手にあの球体に飛び込んだわ。一応霊夢とユウキに追ってもらったけど・・・」

「とにかく、なのはを止めろって?」

「ええ。・・・奴に利用される前に・・・(ボソッ)」

「?」


「いえ・・・じゃあ、行きなさい」

「ああ、行ってくるぜ!」

俺達はスキマに向かって飛び込んだ・・・ 
 

 
後書き
春鈴
「出番ーーー!!」


「嬉しそうだな・・・」

春鈴
「だって久しぶりですし・・・」


「まあ、よかったな」

春鈴
「そりゃもう!バッシバシ活躍しますよ!」


「はは・・・それじゃ、次回もよろしく!」 

 

共闘~

 
前書き
ちょっと中途半端な終わり方に・・・ではどうぞ。 

 


「なかなか次の道が見つからないな・・・」

「それほどこの世界が広いんでしょうね」

俺の言葉に美鈴が返す。

「キュル!」

「?どうしたの、ピナ」

「何かを伝えたいようだが・・・」

マリク教官が言ったその瞬間・・・

ズズ・・・ン・・・!

『!?』

全員が気付いた。遠くから爆発、そして伝わる振動。

「だ、誰かが戦っているんでしょうか?」

「ええ、その確率が高いでしょう」


レコンとナタリアが話す中・・・更に爆音が聞こえた。

「とにかく行ってみよう!!」


俺達は音に向かって走り、音に近付いた時・・・とんでもないものを目にした。

「なんだよ・・・これ」

建物は倒壊。あちこちにクレーター。そして・・・

「う・・・あ・・・」

「・・・ぅ・・・」

ボロボロな少女が二人、倒れていた。片方は博麗霊夢だがもう片方の少女は見たことがない。インプのようだが・・・

「大丈夫ですか!?」


美鈴が霊夢に駆け寄る。

「あん、た・・・紅魔館の・・・き、来ちゃダメ・・・!」

「え・・・」

直後・・・美鈴の姿が視界から消えた。

「あぐっ・・・!」

「美鈴!?」

何かに吹き飛ばされ、美鈴が壁に激突する。

「うぅ・・・」


空を見上げると・・・白い服を身に纏った・・・高町 なのはがいた。

「また・・・敵・・・!倒さなきゃ・・・全部・・・!」


彼女はこちらに向け・・・大量の魔力弾を放ってきた。

「マジかよ・・・!くそ!」

俺は咄嗟に気を手に集め、気弾を連射する。だが全ての魔力弾は落とせず・・・

「くっ・・・回避!」


俺達は全員跳んで回避するが・・・土煙に視界を奪われる。

「きゃああ!?」

「ぐおお!?」

「ナタリア!?マリク教官!?・・・この!」

気を体外で破裂させ、生まれた風圧で土煙を吹き飛ばす。・・・鮮明になった視界には、倒れるナタリアとマリク教官の姿があった。

「二人とも・・・!」

「亮さん、後ろです!」

シリカの声で背後を向くが・・・すでに一本の桃色の光線が迫っていた。

「しまっ・・・」


「駄目ぇぇ!!」

シリカが咄嗟に気弾を放つ。練りが甘く、簡単に弾かれたが・・・僅かに軌道が逸れたお陰で右肩を掠める程度で済んだ。

「っ・・・!」

「亮さん!」

「大丈夫!ありがとう、助かったよ」



俺は構え直し、なのはを見る。

「邪魔しないで・・・!どうして出てくるの・・・!」


・・・あの様子じゃ正気じゃないか・・・多分。最初と同じ・・・なのはには俺達が黒い影に見えてる筈だ。

「厄介なことで・・・」


「・・・」

こっちに残ってるのは俺とシリカとピナ。そして・・・

「・・・あれ?」

レコンが・・・いない?その時、なのはが空を見た。それに釣られて上を見ると・・・

「あれは・・・!」

「・・・っ!」

レコンが飛んでいた。ただ・・・とんでもない魔力を放出していたが。

「なあ、シリカ・・・ALOにあんな魔法あったか・・・?」

「い、いえ・・・知りません・・・」


「亮さん!皆さんを衝撃から守ってください!」

「っ、いきなりだなおい!」

瞬動を使って美鈴と霊夢と黒髪の少女を一ヶ所に集める。
「・・・レイジングハート。カートリッジロード」

なのはの足元に魔方陣が展開される。

「・・・ダメだ。最低限の詠唱しか出来ないけど・・・!」



「ディバイン・・・バスター・・・!」

「ランス・オブ・オーディン!!」



巨大な雷の槍と桃色の特大な魔力。一目で分かった。・・・防ぎきれない。

「シリカ!俺に気を流せ!」

「ええ!?で、でも美鈴さんが・・・他人の気は上手く同化させないとダメだって・・・」

「同化は俺がやる!シリカはとにかく思いっきり気を流してくれ!」

「は、はい!」

シリカが俺の背中に手を当て、気を流してくる。それが体内に染み込む前に変換、自分の気にする。

「はぁぁぁぁ!!」

気を練り上げ、それを膜として何層も重ね挙げ・・・障壁を展開する。そして・・・二つの力は激突する。


ズガァァァァン!!

「・・・ッッ!!」



一瞬衝撃で障壁にヒビが入ったが、すぐに気を流して修復する。


「くぅぅ・・・!」

しばらくするとシリカからの気の流れが弱くなる。

「シリ、カ・・・!限界なら無茶をしないで・・・!」

「無茶・・・しないといけないんです・・・!そうしないとみんなが・・・」

「・・・すまない・・・!」


見れば雷の槍が押している。このままなら・・・

「終われない・・・!まだ仇も討ててないのに!!」

なのはが更にカートリッジをロードし・・・・・・双方が爆発した。

「ーーーー!!」

障壁がその衝撃で破れていく。最後に薄皮一枚残ったタイミングで・・・衝撃が収まった。


「くっ・・・はぁ、はぁ・・・」

「う、ぅぅぅ・・・」

シリカが座り込む。俺も少し脱力して方膝をつく。

「し、しんどいな・・・」

何とかみんなを守りきれた・・・けど。

「まさか、相殺されるなんて・・・」


「危なかった・・・でも、まだ・・・!」

さーて、どうしようか・・・
























































咲~


・・・一瞬、視界が閉ざされた後・・・俺達は空に投げ出された。

「ーーーーーー!!」

闇風が声にならない悲鳴を上げる。

「あはは!まさかいきなりダイビングなんてな!」

「笑ってる場合ですか知也様ぁ!?」

「あんの紫タヌキ・・・!みんな掴まれ!」

俺はBモードを発動して羽ばたく。そしてゆっくりと着地する。

「平気か?」

「まあな」

「お陰様で」

「・・・」

「・・・ヤミ?」

「っ!・・・え、ええ。問題ないわ」



春鈴の目が光る。

「ほほう、闇風様は高所恐怖症ですか」

「・・・何の根拠があって・・・」

「リョウコウさんから聞いたんですよ」

「な、嘘でしょ!?」

「はい、嘘です」

「・・・」

「・・・」

「・・・(チャキ)」

「いやいや!そんな本気なツッコミをしなくても!」

「あんた・・・人をおちょくり過ぎよ・・・!」

「軽い冗談じゃないですかぁ!?初対面だから距離を縮めようと・・・」

「余計なお世話よ!縮めたいなら戦いを通じてにしなさい!」

「分かりましたからそれは降ろして下さいって!」

「いやー、なかなか楽しいなぁ。な、咲?」

「軽すぎんだろ・・・ま、暗いよりはマシだけどよ」


軽くため息を吐いてから周りを見回すと・・・

「日本・・・か?」


「みたいだな」

見慣れた町並み・・・何処と無く空気も・・・

「・・・とにかく、誰かにでも合流しねぇと・・・っ!?」

「・・・どうした?」

「闇が・・・来る!」


直後、空から闇が雨のように降り注いできた。

「くそが!」

俺達は闇や武器、気を用いて闇を弾く。そして目の前に・・・異形な人形が現れた。

「・・・これは・・・」

「・・・おいおい、まさかよ・・・」

「ああ・・・完全に闇に呑まれてる。しかも異形化してるってことはそれほど闇の浸食が進んでる・・・!」

所々刺々しくて原型がよくわからないが・・・あの顔・・・髪型・・・

「紗智・・・さん?」

「ええ!?サチさん・・・ってあの・・・」


「・・・嘘でしょ。麻野さんが・・・」

この二人はサチをしってるようだが・・・

「来るぜ!先手必勝だ!」

『ルナ!』

トリガーマグナムから放たれた追尾弾がサチに当たるが・・・ダメージが入った様子はない。

「おいおい・・・」

「弾幕を張るわよ。合わせなさい」

「あいよ、闇風さんよ」

『アサルト!』

ダダダダダ!!


だが・・・その弾すら全て弾き、サチは突撃してくる。

「チィッ!」

Bモードを発動してあったのが功を成して、すぐサチの一撃を防ぐ。



「サチさん!・・・今闇を・・・!」

左手の異形化を更に禍々しく、闇を奪いやすいように変え・・・サチの胸元に手を突き立てた・・・瞬間。


『■■■■■■■■■■■■■■■■』

「ーーーーっ!?ウワアアアアアアア!?」



尋常じゃない負の感情。それが流れ込んできて、俺は思わずサチさんを弾き飛ばした。

「うっ・・・くぅ、あああああ!?」

むしろ俺の闇が暴走を引き起こしかけてしまう。

「おい咲!どうした!」

「あれ、は・・・サチさんの闇じゃない・・・!あんなの・・・とても一人が生み出せる闇じゃ・・・」



「咲!」

「ゴァァァ!」

サチが知也を無視して俺に突っ込んできた。・・・闇に牽かれたのか!?

「リパ・・・がぁっ!?」

方天画戟を取り出す前にサチに組み着かれ・・・

「ガゥゥゥ!!」

腕に噛みつかれ、更に、首をもぎ取ろうとしてくる。

「いってぇ・・・!!」


『咲さん!とにかく空間を開いて下さいッス!』

「とにかくって・・・こっちは首持ってかれないようにするのが手一杯だっての・・・!」


・・・と、Aモードを発動しようとしたその時。

「十字鎌鼬!てりゃあ!」


突如横からの一撃でサチが吹き飛ばされる。

「ご無事ですか、咲様?」

「なんとかな・・・」

後少し遅ければ腕を食い千切られたかもしれないが・・・

「咲様、ここは私にお任せを」

そう言うと春鈴は・・・以前とは違う、紅いトンファーを取り出した。

「それは・・・?」

「亮様から頂いた武器を元に改良した・・・私の誇り、“烈火”です。そして・・・!」

春鈴が気を放出する。すると気が空中で集まり・・・具現化していく。

「着装!!」

それが胸当て、肩のプロテクター、脚部に武具・・・


「・・・はっ!」

最後に額当てが巻かれ、春鈴が構える。

「足甲“冷滅(れいめつ)”・・・これが私の鍛錬の成果の一つです!」

「まるで特撮だな・・・」

春鈴は大きく息を吸い、ステップを踏む。

「違う世界のサチさんですが・・・呉はあなたに救われました。そんなあなたが誰かを傷付けるのをよしとはしませんよね・・・」

・・・そう言えば、リョウコウが恋姫の世界に行ったって紫が言ってたな・・・

「さぁ・・・行きます、よ!」


春鈴が踏み込み、サチの懐に入る。

「せやっ!」

トンファーによる一撃。鈍い音が響くが、サチは微動だにしない。

「あらら・・・固いです、ね!」

更に蹴りを入れるがまったく効果はない。サチはお返しとばかりに爪を振るうが、春鈴は跳んで回避する。

「十字鎌鼬・・・はさっきので効かないのは分かりましたからねぇ・・・手札を一枚切りますか」

春鈴がトンファーを振ると刃が現れ・・・

「・・・燃えなさい、烈火!」


気で光った刀身が次の瞬間、燃え盛る。そして春鈴は飛び上がり、腕を交差させて振り、×の形の炎が出来上がる。そこから空中で一回転、炎に向かって気を籠めた両足を突き出す。

「紅蓮・・・鎌鼬ィ!!」




打ち出された炎が回転しながら進み・・・サチに当たり、そのまま押されて壁に激突した。

「お、おおう・・・」

「やりましたか?・・・と言ってはいけませんよね」


「グルルル・・・」

「・・・ですよね」

春鈴は軽く息を吐き、刃をしまう。

「・・・私としても、あなたを傷つけるのはいい気はしません・・・だから」

ジャリ、と春鈴が足を開き、右腕を引く。

「・・・次で決められるよう、善処します」


見ただけで大技を繰り出そうとするのが分かる。


「援護を・・・」

「あ!いえ、援護しなくて平気です!」

「何言ってるのよ?技出すにも・・・」

「いい感じに敵意がこちらに向いてます。死なないように撃ち抜くなら、向かってきてくれた方がいいです」


「・・・自信あるねぇ」

「自信が無ければ戦えませんよ」


「ガァァァァ!!」

サチが突撃してくる。春鈴は静かに、長く息を吸い・・・

「冷滅・・・固定」

足甲から気で出来た爪のような物が現れ、地面に突き刺さる。

「烈火、装填」

一瞬眩く烈火が光ったが、すぐに光が収縮され、サイリウムのような感じになる。

「装填完了・・・!」

サチが迫り、横凪ぎに爪が振るわれるが、春鈴が右の烈火で防ぐ。そしてがら空きのボディに・・・烈火を突き付ける。

破射(パイル)・・・爆火(バンカー)!!」

キュオオン・・・!!

光が、サチを貫いた。そして、音が消えた次の瞬間・・・

ドォォォン!!

「ギアアアア!?」

サチが物凄い勢いで吹っ飛んだ。春鈴は構えを解き・・・大きく息を吐いた。

「手応えアリ・・・!」



「・・・スゲーな、おい」


「まだ手札はありますが・・・こんなに使ってしまうとは思いませんでした」

「あーあ、俺ら出番なかったな?」

「・・・なくてもいいでしょ、別に」

「とにかく、サチさんを・・・って」

「グルゥ・・・」

「おい・・・普通に立ったぞ」

「・・・手応えはあったんですが・・・どうやら闇の力は思ったより凄まじいみたいですね」

「・・・ガァ!」

サチは飛び上がり、俺達から逃げるように飛んでいった。

「あ・・・!」

「ま、待て!」

俺達はサチを追い掛けていく・・・
































亮~


「強すぎるんだよ・・・!」

「魔力・・・無尽蔵なんですかね・・・」



「はぁ・・・ふぅ・・・」

俺とレコンはなのはに苦戦を強いられていた。なのははあの一撃以降レコンに狙いを集中させ、俺も接近しようとするが弾幕がそれを許さない。シリカはさっきので気を使い果たしたせいでろくに動けず、なのはが稀に撃つ魔力弾を避けるのが必死だ。


「アクセルシューター!」

「くそ!」


俺は避けようとしたが・・・

「・・・あ・・・!」

背後に、気絶したみんな。・・・畜生!

「オラララァ!」

再び気弾を撃つが・・・一部の弾が曲がり、俺の気弾を避けていく。

「(障壁・・・間に合うか!?)」



気を練り直したその時・・・何かが全てを吹き飛ばした。

「!?」

「ガグァァァァ!」

「サチ・・・!?」


「また・・・新手・・・!」

なのはとサチがそのまま戦い出す。そして遅れて背後から・・・


「あれは・・・なのは!?」

「え・・・あ、咲!?」

「っと・・・!亮!?」

「お前、どっから「亮様ーーー!!」うわ!?」

いきなり不意打ちで飛び付いてきたのは・・・

「しゅ、春鈴!?なんでお前が・・・!」

「亮様を助けるために決まってるじゃないですか!」


「バカップルだねぇ・・・」

「呆れるわ・・・」

「知也と・・・誰?」

「アウィンさん?」

「あら、レコン」

知り合いってことは・・・

「リョウコウの世界の・・・」

「ええ。闇風よ、よろしく」

「そして高し(チャキ)分かりましたよぉ・・・」

「んで、状況確認なんだけど・・・やってる暇あるか?」

咲が上を見る。サチとなのはが戦っているが・・・

「しばらくは平気そうですね・・・今の内に対策を練りましょう」

レコンの言葉で、俺達は手短に情報交換を行う。



咲~




「・・・まず、あの二人を地上に降ろそう。今空を飛べるのは俺とヤミとレコン。亮と春鈴は地上で待機。知也とシリカは気絶してるみんなの避難と護衛を頼む」


「了解」
「はい!」


「待機か・・・」

「私たちは飛べないから仕方ありませんよ」


「ま、仕事はキッチリやるさ」

「が、頑張ります・・・」


「リパル、行くぞ!」


『ッス!』


方天画戟を取り出し、Bモードを発動。闇風も姿を変える。そして突撃してまずはサチに一撃を与える。

「頼むぜ、亮!」

ガキィン!

「雑だな、おい!」

「来ますよ!」

あっちはあれでいいとして・・・こっちか。

「ヤミ、レコン!取りあえず高速で撹乱!」

「はい!」

「ええ!」

三人でなのはの周りを飛び回る。話を聞く限り、怒りで我を忘れてるならその負の感情を吸収すれば・・・

「やぁぁ!」

「はぁぁ!」

レコンと闇風の一撃をなのははかわし、魔力弾を放って二人を引き離す。

「(・・・ここだ!)」


隙の出来た身体に向かって左手を突き出す・・・が。

『咲さん!駄目ッス!魔力反応が・・・』

「なぁ・・・!?」

ガキン、と障壁に阻まれ・・・更に、

「かかった・・・」

桃色のバインドが身体に巻き付いてくる。

「バインド・・・!?チッ・・・」

間近でなのはが魔力を溜める。

「またやられてたまるかよ・・・!」

俺は指を振る。

「閉じろ!」

閉じるのは・・・地面との距離。桃色の光線が髪を擦り・・・更に地面に激突したが、直撃を貰うよりはマシだ。

「って~・・・」

『咲さん、平気ッスか?』

「俺の状態は俺以上に分かるだろ?問題ないよ」

とにかく、力任せにバインドを破る。・・・ったく、堅いバインドだな。



「・・・」

なのははすぐに俺に向かって構えを取る。

「させません!」

「よそ見なんていい度胸ね!」


よそ見?・・・いや。

「二人とも!罠だ!」

どこに隠していたのか、あちこちから魔力弾がレコンと闇風を囲む。・・・避けきれない!

「うわあ!?」

「くぅ!?」

それでも直撃を避けたのは流石と言うべきか。二人はバランスを崩し落下するが地面スレスレで体制を直す。

「シュート・・・!」

俺に向かって放たれる光線。それを防ごうとした瞬間・・・何者かが間に入った。

ガァァン!

「・・・っ!?」

煙が舞い・・・晴れた時、青い髪の少年が目に入った。

「誰だ・・・?」

少年はチラリとこちらを見る。

「・・・大丈夫、ですか?」

「ん・・・あ、ああ・・・」

『クラナさん!?』

「リパル、知り合い?・・・っていうかリパルの知り合いならリョウコウの知り合いか」


『はい。クラナさんと言って・・・』



『どうやら話している余裕はないようですよ』

「え?・・・っと!」

魔力弾を飛んで回避する。

「だ、誰だ?」

『初めまして。相棒のデバイス、アクセルキャリバーと申します。愛称はアルです、よろしくお願いします』


「お、おう・・・日本語喋るデバイスはシィのキリエ以来か・・・」

「咲!悪い、そっち行った!」

「は?うわっ・・・てめえ、代わりになのはの相手をしろよ!?」

サチの一撃を回避して、そのままサチに向き直る。

「ヤミ、レコン、手伝ってくれ!」

「はい!」

「人使い荒いわね・・・」

















亮~

「厄介な奴を・・・春鈴、お前は下がって知也達を手伝ってやれ」

「平気ですか?」

「信用できないか?」

「そう言われたら信じるしかないじゃないですか」


春鈴はそう言って下がる。俺は少年に駆け寄り。

「ちらっと話が聞こえたけど・・・クラナでいいんだよな?」

「・・・ええ」

「リョウコウの知り合い?」

「・・・はい」

「俺達の援軍に?」

「・・・そうです」

「・・・」

さ、彩雅並みに会話が続かない・・・

『申し訳ありません。相棒は些かコミュニケーション能力に問題がありまして』

「・・・アル」

『・・・というわけでこちらも協力します』

「ああ。便りにするよ、クラナ。・・・さて、と」

俺は携帯を取り出す。

「親には娘だ。モーションキャプチャー、高町ヴィヴィオ!」

俺の姿はなのはの娘、ヴィヴィオの大人モードに姿を変える。

「・・・!!」

「ん?どうしたクラナ」

「い、いえ・・・」


クラナが唖然としてるみたいだが・・・とにかく、俺はなのはを見る。

「高町ヴィヴィオの戦い方はカウンターヒッター・・・けど、攻めるしかないか・・・」


『失礼ですが、どうやって彼女を止めるおつもりで?』

「とにかく気絶させる。後は咲に負の感情を吸ってもらって・・・落ち着かせる」

一応これはさっき咲と話した内容だ。


「・・・わかりました」

クラナが構えを取る。・・・格闘型・・・よく見たら足にも武器があり、そこにあった十の突起の二つが開いている・・・


「・・・ははぁ」

とにかく俺は飛び上がる。

「オオリャア!」

不意打ちのお陰もあって特に妨害もなく拳が障壁にぶち当たる。

「う・・・らぁ!」

そのまま勢いよく地面に向かって弾き飛ばす。

「クラナ!」

「・・・まさかヴィヴィオに・・・」

『呼び捨てにされる日がくるとは思いませんでしたね、相棒?』

「うるさい。行くぞ、アル」

『どうぞ。ギアは二つで?』

「場合によっては四つまで行くよ」

『了解』



なのはが振り向きながら狙ってきた・・・が、させない。

「ソニックシューター!」

単発の虹色の魔力弾を放ち、一瞬隙を作る。

「ふっ・・・」


クラナが踏み込み、拳を撃ち込む。

ダダダン!

「・・・ストライクアーツ?」


なのはがレイジングハートで捌きながら呟く。俺は背後からなのはに殴りかかる。


「オオラァ!」


ガガッ!

・・・だが、アッサリと障壁で防がれた。

「こんの・・・!」

正面をクラナが、背後を俺が攻める。だが・・・

「この・・・!」

障壁が薄いところを抜こうとするが、なのはは的確に障壁を張り直し、防ぐ。クラナの拳や蹴りもレイジングハートで弾いていく。

「アル!デバイス通し、レイジングハートと話せないか!?」

『試してはいますが、どうやら私の声も聞こえないようです!』


「チッ・・・駄目か」


「・・・」

『ヴィヴィオさんが舌打ちしてショックですか?』

「・・・無駄口叩くな」


「エクシードモード・・・」

「「!?」」

魔力による風圧で距離が開いてしまう。

「くっ・・・」

「アクセルシューター・・・フルパワー!」


大量の弾幕が展開され、俺は咄嗟に空を飛ぶ。そしてなのはを視界に捉え・・・拳を構える。

「一閃必中!セイクリッド・・・ブレイザァァァァ!!」

放たれた光線は弾を呑み込み、なのはに迫る。だがなのはは慌てず・・・

「・・・!!」


・・・なんと、レイジングハートを構えながら光線の中を突き進んで来た。


「マジかよ・・・!」

すぐに魔力の放出を止め・・・一か八かの策に出る。


「エクセリオンバスターA.C.S・・・ドライブ!」

右拳を引き・・・穿つ。

「アクセルスマッシュ!」

ガァァァァン!!

「っっっ!?」

「うわぁぁぁ!?」

なのはの砲撃の直撃を貰い、落下する。だがカウンターで顎に決めた・・・!

「ぐっ・・・うぁ・・・」

・・・体制が立て直せない。このままじゃ地面に激突・・・

「ヴィヴィオ・・・!」

・・・が、間一髪のところをクラナが受け止めてくれた。

「ふぅ・・・」

「いや・・・クラナ?助けてくれたのはいいけど・・・」

流石にお姫様抱っこはないと思う。

「あ・・・すみません・・・」

「いや、ありがとう」

なのはは・・・身体を揺らしながらもこっちを見続けていた。・・・もはやホラーだ。


「カウンター決めたのに・・・クラナ、次で決めよう」

「・・・どうやってですか?」

「君も必殺技の一つや二つはあるだろ?挟み込んで同時に撃つ」

「・・・わかりました」


・・・と、その時、なのはが・・・構えた。しかも辺りの魔力が収縮されて・・・っておい!?」



アレはスターライトブレイカー!?こんな場所じゃ・・・!

「アル!」


『Third gear Fourth gear unlock』

瞬間・・・クラナの姿が消えた。


「(速い!?)」

なのはの目の前に現れ、拳を振りかぶる。

「一拳撃滅!」

『Impact!!』

ガァン!

なのはを撃ち抜き、落下する・・・と思いきや、なのはは落ちながらレイジングハートをクラナに向ける。

「シュート!」

クラナはそれを避けようとせず・・・

「っ!」

『Absorb』

・・・クラナの手に触れた砲撃が、消滅した。そしてクラナは俺を見る。




「亮さん、行きます・・・!」

「あ・・・ああ!」

俺は走り、なのはを挟み込める位置に移動する。そして俺達は拳を握り締め・・・

「「ディバイン・・・バスター!!」」

『Discharge』

虹色と桃色がぶつかる境目・・・そこに挟まれたなのはは・・・成す術もなく、光に呑まれた。

ズゥゥゥ・・・ゥン!


「・・・!!」

ゆっくりと・・・服装が普通なモノに戻ったなのはが落下していく。

「やべ!・・・っ!」

ダメージと魔力消費で膝をついてしまう。だが、なのはは再びクラナがキャッチした。俺は真似を解除しながら近寄る。

「なのはは!?」

『脈拍、ならびに呼吸に異常は見られません。命に別状はないでしょう』

「「はぁ・・・」」

俺とクラナはため息を吐いた・・・直後、物音。・・・まだ、終わってない。

「次はサチだ・・・」

「俺も・・・」

「いや、クラナはなのはを頼む。・・・お前にとって大事な人なんだろ?」

「・・・え・・・」

「態度見りゃ分かるよ。違う世界のなのはでも必死に助けようとした・・・それに、俺を一回“亮”じゃなくて“ヴィヴィオ”って呼んでたしな」

つまり咄嗟に名前が出るほどの関係・・・

『なるほど、どうやら自分に向けられる気持ちには鈍くても、そう言った気持ちや思いに鋭いという情報は間違いではないのですね』

「・・・情報源に心当たりがあるけど・・・とにかく、行ってくるよ!」

俺は走り出す。待ってろサチ・・・! 
 

 
後書き

「・・・同士討ちの被害が甚大すぎる」


「・・・確かに」


「・・・とにかく次回はサチだ」


「ああ、次回もよろしく。それじゃ、次回もよろしく!」

 

 

闇の中で~

 
前書き
ただ倒せばいいのなら楽に考えられるのですが・・・ではどうぞ。 

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

俺はしばらく走って息切れを起こす。

「(さっきのダメージが・・・体力も気も足りなく・・・)」

「亮様!」

「・・・春鈴!?」

「話はクラナ様・・・というかアル様に聞きました!」

「・・・でも・・・」

「あ、いえ、わかってます。サチさんはご自分の手で助けたいんですよね?だから私は・・・」

春鈴が俺の手を両手で握り締め・・・気を流してきた。ご丁寧に俺に合った気に変換してある。



「私の有り余ってる気を持っていって下さい。それに、相手が空を飛べる以上、私はお役には立てませんから・・・」

「いや・・・大助かりだよ。ありがとう、春鈴」

春鈴の頭を撫でると、春鈴は俯いてしまう。

「・・・もう、無意識に・・・」

「え?」

「何でもありません!・・・行ってください!」

「ああ!」


春鈴のお陰で気に余裕が持てた。そしてまたしばらく走ると・・・四つの塊が空中でぶつかり合っているのが見えた。

「空か・・・」


携帯を取り出し、上を見る。

「モーションキャプチャー、オーズ!」

勝率の高いライダー・・・現れたベルトに三つのメダルを入れ、スキャンする。

「変身!」

『タカ!クジャク!コンドル!タ~ジャ~ドル~!!』


「ふっ!!」


空を飛び、腕に装備したタジャスピナーから炎を撃ち出す。

ドドドン!


「!?」


サチがそれを避け、距離を開く。

「みんな、無事か!?」

「・・・亮か?」

「ああ。状況は?」

「良いとは言えねぇな。レコンやヤミが何発入れてもすぐに回復しちまう。・・・なのはは?」

「気絶させた。早めに闇を吸収しないと・・・」

「OK。プランは分かるな?」

「ああ」

まずサチを動けなくする。話はそれからだ。

「いくら闇とはいえ、波状攻撃で大ダメージを与えればすぐに回復しない筈だ」

「説得力あるな、お前が言うと」


『来るッスよ!』

サチが闇を放ってきたので俺達は散開して避ける。

「容赦ないな!だったら・・・!」


俺は再びメダルをスキャンする。


『スキャニングチャージ!』

「プロミネンスドロップ!」

足の爪が開き・・・挟むようにサチにキックを放つ。

ガァァァン!

「ガァァァ!」

怯んだ。

「隙有りよ!」


闇風がクローを突き刺し、アバターの姿を変える。

「零距離・・・食らいなさい!」

ダララララ!

弾を全て使う勢いで闇風が銃を乱射する。そしてサチを蹴ってバック転して・・・

「オマケ!」

グレネードを投げる。直後に爆発するが・・・傷が既に治り始めている!?

「させません・・・!ランス・オブ・オーディン!!」


なのはの時よりも巨大な槍がサチを呑み込む。

「リパル、鎌だ!」

『了解ッスー!』


咲が鎌に闇を注ぎ・・・振り切る。

「デスサイズ!」

ズパァァァン!

「どうだ!?」

「ぐ・・・がぁ・・・」

「まだ動けるのか!?」

くそ、これ以上サチを傷つけるのは・・・!頼む、これで決まれ!


「はぁぁぁ!」

サチに向かって火を放ち、怯ませる。そしてタジャスピナーにメダルを入れ、スキャンさせる。

『タカ!クジャク!コンドル!ギン!ギン!ギン!ギガスキャン!』

身体が鳥を模した炎に包まれる。

「マグナブレイズ・・・!」

そしてサチに突撃。サチも闇を放射するが・・・

「セイヤァァァァッ!!」

それに打ち勝ち、サチを吹き飛ばす。

「アアアア!?」

そのまま地面に激突。沈黙する。

「ふぅ・・・ぐっ・・・」

負担で真似が解除され、俺は地面に落ちる。

「おい、亮!?」

「だ、大丈夫・・・それより・・・」

見るとサチはゆっくりと起き上がり・・・

「させない!」

「いい加減止まりなさい!」

闇風とレコンがそれぞれの武器を突き刺しながらサチを押さえ付ける。

「よし・・・後は内側からサチさんの心を引っ張り出せば・・・!」

そう、プランとはサチの心を外に出すこと。咲が言うにはアレにはサチの闇ではなく、他者の闇が含まれているらしい。そしてサチは、自我が残っていた。咲の賭けとして、そこまで意識が残っていたなら、本人次第だが精神を引っ張り上げれば闇を押さえきれるかもしれないらしい。どうやってサチの精神を引っ張り出すかと言うと・・・


「雛里の時と同じ・・・リパル、留守番頼むな」

『・・・ッス』


単純だ。咲が自身の心を闇としてサチの中に入る。そしてサチの心を見つけ出し、目覚めさせる。これは闇が使える者しかできない方法だが・・・

「咲・・・俺もサチの中に行けないか?」

「はぁ!?そんなの無理・・・って訳でもねぇけど・・・でも、あの中は攻撃的な闇で埋め尽くされてる。俺は闇に耐性があるけど・・・」

「・・・俺に闇が扱えないのは分かってる。でも約束なんだ!サチとの・・・大事な・・・!」

「・・・ったく」


咲が頭を掻き・・・俺を見た。

「覚悟、あるんだよな?」

「・・・ああ」

「はぁ・・・俺とお前がこの物語の生命線ってのも・・・」

「分かってる」

「だからこそお前か俺を残したいんだが・・・ま、いいか。両方生き残ればいい話だ」

咲はサチの元に走り出す。俺も後を追い・・・

「亮!俺の腕掴め!」

「あ、ああ!」

咲が差し出した右腕を掴む。そして咲は左手をサチに突き出す。

「さっきので要領は分かった・・・行くぜ!」

瞬間、意識が飛ばされた・・・









































































「・・・い、亮!」

「・・・っは・・・!」



目を開くと、辺り一面黒に覆われていた。

「ここが・・・」

「サチさんの精神だ。・・・闇のせいで殺風景極まりないがな」

「ふーん・・・でも身体に違和感は特に・・・」

「そりゃそうだ。お前の精神は俺の闇で覆ってある。それがある限りお前が闇に浸食されることはないぜ」

「そうなのか・・・あ、サチは・・・」

「とにかく潜ろう。ただ、俺から離れるなよ」

「・・・そうだな。ここではぐれたら迷子どころの話じゃ・・・」

「それだけじゃない。近くにいなければ俺の闇が消えて・・・お前が闇に呑まれる」

「・・・ハードだな。急ごう」


しばらく進んでいくと咲が顔をしかめる。

「咲?」

「いや・・・気にするな。それよりも・・・来るぜ」

「え・・・?っ!?」

辺りの闇から黒い影が現れた。

「コレは・・・?」

「異物を取り込もうとしてんだよ。負けんなよ、亮」

「お、おう・・・」


俺は身構えて・・・気付く。

「そう言えば精神なのに武器が・・・」

「記憶が造りだしてんだよ。俺も開閉能力とか使えるし」



「っと・・・来るぞ!」


迫ってきた影を切り裂く・・・が、手応えがない。

「これ本当に倒してるか!?」

「いいや、あくまで一時的に吹き飛ばしてるだけだ!すぐに復活する!・・・だからひたすら進め!」

「チッ・・・!」

気弾をばら蒔いて俺達は逃げる!

「・・・そういや、なんか疲れないな・・・」

「そりゃ良いことだ。ここで疲れるってことは精神が磨り減ってるってことだからな」

「うへぇ・・・お前は馴れてんなぁ」



「人に入った回数は数えるくらいだけどな・・・つか馴れたくもねぇっての」

影を吹き飛ばし、逃げるを繰り返す。

「こう殺風景だとなぁ・・・」

「まあ気持ちはわかる。ただ、ここで気が滅入ると・・・」
「わかってるよ・・・」



想像したくもないが・・・って。

「なんだこれ・・・」

「入口・・・だな」

「・・・!これ・・・覚えてるぞ。ここは・・・」

腕が震える。だってここは・・・

「テツオ達が・・・死んだ場所だ・・・」

咲がハッとなって俺の肩を掴む。

「バカ!思い出すな・・・がぁっ!?」

「咲!?」

咲が闇の塊に吹き飛ばされ・・・直後、部屋の中から無数の影が伸びてきて俺を掴んだ。

「なっ・・・」

「くそ、負の感情に牽かれたか・・・!?」


慌てて擬音で闇を振り払うが、既に室内で・・・

「亮!!」

咲が駆け寄るが・・・途端に入口が塞がれた。

「くっ・・・あっ」

辺りを見渡した時、奥の壁に黒い何かが広がっていて・・・そこに下半身が埋め込まれているサチの姿があった。

「サチ!!」

駆け寄ろうとしたが、殺気を感じて横に飛ぶ。

「・・・な・・・」

「なんで避けるかな・・・」

そこにいたのは・・・目の色が金色の、サチ。

「まったく、まさか亮がここまで来るなんて思わなかったよ」

「・・・」


「覚えてる?ここでみんな死んじゃったんだよ?亮とキリトのせいで・・・」

「黙れ。サチの声でベラベラ喋ってんじゃねえぞ」

「・・・酷いなぁ。確かに私は闇の一部。けどこの子の記憶を借りてるから、表面はサチだよ?」

「表面は、な!」

踏み込み、擬音を振るが槍で防がれる。

「サチはこんなに反応よくないと思うが・・・?」

「そうよ。流石にそこまで真似をする必要もないから」


「そうかい!」

サチの偽物を蹴り飛ばす。


「ったいな・・・酷いよ亮。私を蹴るなんて・・・」

「うっせ。偽物を蹴るのに戸惑いなんかあるかよ」

「冷たいね。悲しい感情がよく分かるよ」

「・・・」

大丈夫。本物のサチは背後にいる。相手の目だけを見て・・・


「・・・っ!?」

『シネ』


「な・・・が・・・!?」

『シネバイイノニ。イキテル、ズルイ。ナカマニナロウ?』
「な、なんだ・・・これ・・・」

「・・・おかしいと思った。なんでこの世界で平気なのかな・・・って」

「(そうか・・・咲と離れたから、闇の膜が・・・)」

負の感情が叩き付けられて気持ち悪い。早めに決めないと・・・

「ふふ・・・亮も一緒になろうよ。“私”もそれを望んでるみたいだし」

「おあいにく様。俺といるのを望んでるんじゃなくて、助けてもらうのを望んでるんじゃないかな?どっちも傍にいるって意味だし」

「・・・つまんない。もういいよ、潰すから」

サチの偽物の姿が異形化する。

「時間掛けてる余裕はないんだ・・・一気に行く!」

瞬動で背後に周り、斬るが・・・

「だから・・・痛いなぁ!」

怯まず、すぐに槍を水平に振ってくる。

「!?」


葬解で防ぎ、そのまま殴り飛ばす。

「大技だ・・・!」

擬音に気を溜め、光の剣を生み出す。

「鈴音罰殺斬!砕けろぉ!」


斬りつけ、破片を飛ばし・・・光に包まれた。

「・・・」

サチの姿は・・・ない。俺は急いでサチを壁から引っ張り出す。

「サチ!しっかりして・・・サチ!」

呼び掛けるとサチがゆっくりと目を開いた。

「・・・りょ、う・・・」

「ほっ・・・よかっ」


ザシュ

「あ・・・?」

「ひっ・・・」

腹から、槍が生えていた。

「ダメだよ、しっかり倒したか確認もしないでさぁ・・・」

「くっ・・・」

槍が引き抜かれ、俺は崩れ落ちる。

「亮!?」

「う・・・く、くそ・・・!」

身体が・・・重い・・・頭に声が響く・・・!!


「諦めてよ。ねえ私?このままなら亮といられるよ?だから取り込んじゃおうよ」

「・・・」

「っ・・・」

「・・・嫌」

「サチ・・・」

「・・・ずっと、あなた達の感情の中で・・・ただ、怖いってだけしか思ってなかった。けど・・・」

サチがゆっくりと偽物に向かって歩く。

「亮が来てくれて、今こうやって起きてあなたと話して・・・わかったの」

「・・・何が?」

「恨みとか、怒りとか・・・それよりも、寂しい・・・んだよね?」

「はぁ?何を・・・」

「だって、今私の中にある感情は誰かをずっと求めている。同じ苦しみを持つ人、その苦しみを理解してくれる人」

「・・・ワケわかんない。いきなり語り出して・・・そんな陳腐な理由で・・・」

「陳腐じゃないよ。・・・だって、同じだから」

「は?同じ?」

「私の記憶にあるでしょ?私もずっと苦しんでたから・・・それと似てたから、だからあなた達の気持ちが分かったんだよ」

「・・・分かったとしてなんなのよ。アンタが何をするのよ!!」

「・・・何もしてあげられない。ただ、苦しみを理解して、慰めることしか・・・私には出来ない」

「あんたバカ!?ここに何種類の闇が・・・負の感情があると思ってんのよ!」

「解らないけど。でも全員慰めて上げる。苦しみを共有してあげる。絶対に一人も見捨てない。それが・・・約束だから」

「サチ・・・」

サチがニッコリと笑う。


「亮、約束守ってくれたね。だから、今度は私が約束を守る番」



サチが、もう一人のサチを抱き締めた。

「・・・今まで、こんなに苦しかったのに・・・偉かったね。ずーっと頑張ってたんだよね」

「な・・・何よ・・・何で・・・」

もう一人のサチの目には・・・涙。

「何時も・・・何時も拒絶されたのに・・・闇は・・・あってはいけないのに・・・」

「私は拒絶しないよ。全部受け止めるから・・・」

「う・・・うぁぁ・・・ぁぁぁ・・・!!」


もう一人のサチが泣き・・・消滅した。

「サ・・・チ!」

気合いで立ち上がり、サチに近づく。

「亮・・・」

「・・・凄いな、サチ。カウンセラーに向いてるんじゃないのか?」

「・・・ううん。今のは、偶々私が苦しいのを理解できただけだから・・・」

「他人の苦しみを分かってやれるのは普通に凄いよ。・・・っと、状況は・・・」

「大丈夫。あの子が今までの出来事を教えてくれたから・・・みんなに謝らないと」

「・・・それもまずは目覚めてからね。えっと・・・」

その時、入口が開いて咲がやって来た。

「亮、無事か!?・・・ってサチさん!」

「あ、早貴ちゃん?・・・咲くん?」

「呼びやすい方でいいよ。さて、と・・・もしかして全部終わった?」

「大体は」

「そか。ここまでサチさんの意識がハッキリしてるなら平気かな・・・闇も落ち着いてるし・・・」

「なあ咲、どうやって帰るんだ?」

「ああ、目を閉じてくれ」

「?」

目を閉じると咲に腕を掴まれ・・・意識がぶれた。

「・・・ッ!?」



「あ、起きました!」


「春・・・鈴?」


『こちらも目が覚めたようですよ!』

「アルか・・・」

咲が起き上がってきた。

「ここは・・・」

「闇風達が運んで来たんだよ」

知也が俺を見て言う。

「闇風さんが・・・」

「アンタ達二人はレコンが運んで来たのよ」


「そうか・・・肝心のレコンは?」

「俺と交代でシリカのとこに行ったぜ」

「そうか・・・サチは?」

「・・・こっちです」

クラナが指差した方にサチが元の姿で横になっていた。

「そうか・・・よかった・・・」


そう言って立ち上がった時・・・


『やれやれ、こうもイレギュラーがいてはゲームとして面白くないね』

『!?』

あの男の声・・・!全員が空を見る。

『丁度オリジナルばかりだし・・・少し本気を出させてもらうよ』

すると空中に黒い塊が現れ・・・俺たちを吸い込み始めた。

「踏ん張れない・・・!?吸い込まれる!」

「はっ、サチ!」

「なのはさん・・・!」

俺とクラナがギリギリで手を掴むが・・・直後、全員黒い塊に吸い込まれた・・・・・・









 
 

 
後書き

「とにかく、前回も言ったけど同士討ちの被害が凄い」


「作者はまったく・・・」


「まぁ、シィの記憶からラカンだのナギだの出されたら積み出し・・・」


「チートは出さない方向で・・・」


「突っ込まれるな・・・それじゃ、次回もよろしく」 

 

飛ばされた先に~

 
前書き
今回珍しく戦闘がありません。ではどうぞ。 

 
「・・・つぅ・・・」

目を覚ますとそこは砂浜・・・いや、海があった。

「ここは・・・あ、みんな・・・!」

辺りを見渡すと吸い込まれた全員が倒れていた。サチとなのは以外はみんな起き上がってきた。

「なんだここ・・・」


咲が頭を振りながら呟く。

「・・・アル」

『地質は先ほどとは違いますね。ただ、便りになる情報にはなりえませんが』

「リパルは?」

『アルさんと同じッス・・・後はここが孤立した無人島ってことぐらいッスか・・・』

「マジかよ・・・」

「あの、咲様・・・なのは様の闇を・・・」


「あ!やばいやばい・・・」

咲がなのはに近づいて左手を近づける。

「感情を吸いすぎないように・・・」

なのはの身体が黒く光り、それが咲に移っていく。

「・・・よし」

咲が立ち上がり髪を掻きあげる。

「・・・平気か?」

「ん・・・まぁ、またぶちギレる可能性はあるが・・・目覚めた直後は落ち着いて話せると思う」

「そうか・・・」

「あの・・・ありがとうございます」

クラナが頭を下げるが、咲は手をヒラヒラ振って・・・

「いいって、気にすんな。俺はただ力が上がった位にしか思ってないからさ」

「それで、これからどうするのよ?」

「確かにな。どうやらレコンたちともはぐれたようだしよ」

闇風と知也の言葉に咲は考える。

「・・・取りあえず、この島を探索しよう。・・・最悪、脱出する時は真似した亮と俺とヤミで飛んでみんなを配達・・・になるけど」

「分担しますか?」

「連絡手段がない上になのはとサチさんを運ばなきゃいけないから分担は無しで」

「分かりました」

「じゃあ俺がサチを、クラナはなのはを頼む」

「はい」


「中心部は森林で襲撃されたら不味い。まずは外側から見ていくってプランでいいかな?」

咲の言葉に全員が頷いた。

「しかし無人島とはな・・・」

『生体反応がないから間違いなしッス』

「・・・ただ、なんでこのメンバーなのかな」

俺が呟くと春鈴が首を傾げる。

「・・・と言いますと?」

「いや・・・サチとなのはは巻き添えだったけど・・・なんていうか・・・今のメンバーってオリジナルっていうかさ・・・本来はいない存在なんだよ」

「え?」

「春鈴だって俺の記憶が正しければ恋姫にはいないし・・・」

「ただ単にお客さんが邪魔なんじゃねえの?」

知也の言葉にうなずく。

「かもね。面白くないって言ってたし・・・」


「・・・おい、あれ!」


咲の声に反応して前を見ると・・・

「船・・・?」

「しかも木造型か・・・」

中の様子を咲に見てもらって・・・

「・・・どうだ?

「所々に破損があるけど、材料があれば充分直せるレベルだ。工具は持ってるから・・・」

「材料を取ってこい・・・か?」

「察しがよくて何より」


・・・というわけでメンバーを割り振る。


咲の方には男手が必要なのと、アバターなので疲れないという理由からサチとなのはの護衛兼修理係に知也と闇風。素早さ重視で探索するので、俺と春鈴とクラナがそれぞれ別れる。

「人数を割いても問題なしな状況で助かったな」

「まったくだね。・・・春鈴、クラナ、行こう」

そう言って行動を開始する。まずは頑丈な木材選びだ。

「アル、質のいい木材とか分かる?」

『そうですね・・・基本的にこの辺りの木の性質は大差がありません』

「じゃあ、あまり悩む必要はないんですね」

「・・・」

すると春鈴が近くの気に近づき・・・

「せい!」

・・・烈火で木を切り裂いた。

ズズ・・・ン


「・・・おいおい」

「ぁ・・・」


クラナでさえ唖然としていた。普通いきなり切り落とすかねぇ・・・



「どうですか、亮様?」



春鈴は“えっへん”と言わんばかりに胸を張る。



「あ、うん・・・凄いね」

「えっへへ・・・」

・・・この子、こんなキャラだったっけ。

『やはり女性は強し・・・ですね、相棒?』

「・・・うん」


そんな感じで俺達は木材を拾い集めた・・・




































咲~




取りあえず俺たちは直せる範囲で船を修理する。

「とにかく沈まなければいいのよね?」

「ああ。あと、食料を頼んでいいか?すぐそこに貝とかバナナとか会ったからよ」

「了解よ。知也は?」

「なのはとサチさんを任せてる。俺は鉄で補給できる場所を探すよ」



俺は武器を空間から取り出し、魔術変換で元の鉄に戻す。

「(木製武器も作っときゃよかったな・・・)」


なんて考えながら作業をしていると・・・上から知也がやって来た。

「おい、咲。・・・なのはの目が覚めたぜ」

「!」

俺は作業を中止して船の中にあった一室に入る。

「なのは・・・」

「あ、咲くん・・・」

「・・・意識は?」

「にゃはは・・・しっかりしてるよ」

よく見ればなのはは憔悴仕切っていて目にも隈があった。

「・・・さっきまでの戦いは・・・」

「うん、おぼろげだけど・・・覚えてる。・・・ごめんね」

俺は椅子を置いて座る。

「まあ、落ち着いて話が出来るようで何よりだ。・・・悪いが、お前の闇を吸った時・・・記憶を覗かせてもらった」


「・・・!」

「・・・あれはぶちギレて当たり前だ。正直・・・キツい体験をしたな」

誰にも言わなかったが・・・正直、なのはの闇は俺の闇すら引っ張りかけたほど強かった。

「・・・最初は」

「うん?」

「最初は・・・スバル達が行方不明になったって聞いて・・・少し不安になってヴィヴィオを早めに迎えに行ったら・・・そうしたら・・・!」

なのはがうつむき、肩を震わせる。

「目の前で、目の前でヴィヴィオの友達ごと光の矢で・・・!」

・・・それは記憶を見ていたから知っていた。俺はなのはの肩に手を置く。

「それ以上は言わなくていい。・・・それで闇が完全に発現しなかっただけ、凄いさ」

「う・・・うぅ・・・!」




・・・なのはの悲しみ、怒りは簡単に理解できた。家族を失う悲しみは・・・正気じゃいられないから・・・

「(俺もそうだったからな)」

『・・・咲さん、亮さん達が戻ってきたッス』

「そうか・・・なのは、身体は平気か?」

「・・・大丈夫。・・・って言いたいけど・・・」

なのはがゆっくりと宝石・・・レイジングハートを取り出す。

「無理をし過ぎたみたい。身体は上手く動かないし、リンカーコアもレイジングハートも・・・少し、休まないと・・・ごめん」


「いや、気にするな。ただ、いざって時に・・・」

俺は横で寝かせているサチを見る。

「・・・サチさんを守ってほしい。・・・頼めるか?」

「・・・うん、任せて」

「・・・あの野郎にムカついてるのは俺も同じだ。・・・協力して奴を倒そう」

「うん!」

「・・・ま、出発にはまだ次回があるから、取りあえず寝ときなよ」

「でも、寝れないよ・・・」

「大丈夫。睡眠魔法あるからさ」

というわけで睡眠魔法を掛けて(効果が切れるアラーム付き)亮達を迎える。

「うわ・・・」

なんか大量に木を担いでるし。

「こんだけあれば足りるか?」

「むしろ余るぜ、これは・・・」


てな訳で修理を完了させ、闇風に集めて貰った食料を積み、飲料水も確保して・・・

「んじゃ、亮頼むわ」


「俺?」

「水上は呉の専売特許だろ?」

「・・・まあな。水上なら三国最強と言っても過言じゃないね」

「・・・天照に惨敗したって聞きましたけど」

「うぐ・・・と、とにかく出航!!」



船を動かし、俺達は無人島を脱出した・・・


































亮~

俺は船縁に立って海を眺めていた。・・・雲ひとつなく、風も波も穏やか。・・・順調過ぎる。何かしら襲撃があると予想したんだが・・・


「あの・・・」

「ん?」

振り返ると、クラナが立っていた。

「どうした、クラナ?」


「あ、いえ・・・その、凌統さんは・・・?」

「凌統・・・って春鈴だよな?なんで・・・」

『相棒はさっきから人数に欠員がいないかチェックしてるんですよ。心配性なんですから』

「・・・」

クラナが無言で睨むとアルは黙る。


「そうなんだ、わざわざ悪いなクラナ」

「いえ・・・」

「んで春鈴なら・・・今、裏側で吐いてると思う」

「え・・・?」


『もしかして、船に弱いのですか?』

「・・・多分、トラウマから来る乗り物酔いだと思う」

「・・・トラウマ?」

「あれ、知らないのか?」

『まだその頃は相棒は全然この世界を知りませんでしたからね』

「・・・アルもだろ」


「ま・・・みんな知ってるから言うけど・・・春鈴は水上戦で父親を亡くしてるんだ」

「!?」

「思春が春鈴の父親を討ち取ってな・・・最初の時はスッゴい思春と春鈴って険悪でさ・・・春鈴がかなり思春に怒鳴ったらしいからな」

『らしい?』

「・・・まあ、気絶してたんだよ、俺」

「あの・・・」

「ん?」

「凌統さんと甘寧さんって・・・仲、良かった・・・ですよね」


「・・・ああ。ま、色々あったんだよ」

「はぁ・・・あ、失礼します」

そう言ってクラナは反対側に向かっていったので・・・こっそり後を着いていく。



「おえぇぇ・・・げほっ、ぅぅ・・・」

春鈴が苦しそうに海に吐いていた。

「・・・えっと・・・」

「・・・あ・・・クラナ様に・・・アル様・・・すみません、見苦しいところを・・・」

春鈴が青ざめた顔で苦笑している。

「あの・・・その・・・」

「・・・何か、有りましたか?」

「う・・・」

『少々踏み込んだ質問を致しますが、船は苦手何ですか?』

それを聞くと春鈴は何かを察したのかハッとなる。

「・・・なるほど、その様子ですと、亮様から聞きましたか?」

「・・・はい。すみません・・・」

「気にしないで下さい。むしろ全員に知れ渡ってると思ってましたから。・・・クラナ様が聞きたいことはなんですか?」

「・・・凌統さんは、恨んでないんですか?その・・・甘寧さんを・・・」

「恨んでましたよ。そりゃもう自分の真名が嫌になるくらい」

「え・・・」

「今は違いますけどね。今の私にとって思春は・・・越えるべき壁です。仲間でもありますが」

「で、でも・・・父親を・・・」

「・・・そうですね。今でもお父さんのことは忘れられません。けど、覚悟しなければいけなかったんです」

『覚悟、とは?』

「いつ戦が起きてもおかしくない・・・勝たなければ死ぬだけ・・・そんな世界に産まれた、だから・・・“誰かが死ぬ”その事実を受け止め、覚悟しなければいけないんです」

春鈴はそこまで言ってからクラナを見た。


「・・・失礼ですが、もしかしてクラナ様も・・・大事な方を亡くされたのですか?」

「・・・!」

『相棒・・・』

「・・・それで、あなたは誰か恨んでる人がいて、それを解決したいから私に話を聞いた・・・とか?」

「・・・半分、当たりです」
「・・・すみません。踏み込み過ぎましたね。・・・あなたの大切な人はまだいますか?」

「・・・はい」

クラナの肯定。それに春鈴は微笑む。

「なら大丈夫です。支えてくれる人がいれば・・・後は時間が解決してくれます」

「時間が・・・」


春鈴がそう言ったあと視線を逸らして頭を掻く。

「・・・なんて偉そうに言いながら、私は海を克服出来てないんですけどね」

『そう言えば・・・海が苦手ですか?』

「今度はアル様の質問に答えます。・・・正直苦手です。海は・・・私の大切な人を二度も奪っていきましたから」

『それは・・・』

「海は・・・私にとって死神も同然なんです。何時も・・・私がいない時に奪っていく・・・!」


「凌統さん・・・」

「・・・春鈴でいいですよ。二人とも」
「・・・けど」

『“真名”と言うのはとても大切なものだと・・・』

「真名は命と同じです。それを呼ばせると言うことは、その人に命を託すということ・・・クラナ様たちには私の命を預けるに値する人間だと言う意味です。・・・まぁ、亮様の知り合いの方々は皆預けるに値してるんですが・・・あはは」

「だったら・・・」

「はい?」

「・・・俺も、様を付けるのは・・・止めてください」

『出来れば私も・・・』

「あ・・・す、すみません。癖で・・・分かりました、クラナさん」

「・・・えっと、改めて・・・お願いします、春鈴さん」

「はい。・・・えと・・・その・・・すみませんが・・・」

笑顔を浮かべた春鈴だが・・・徐々に顔色がまた青ざめていく。

「気が紛れたかと思いましたが・・・す、すみませんっ!!」

再び春鈴は海の方を向いて吐き出す。

「・・・」

クラナが近づき、春鈴の背中をゆっくり擦った。

「す・・・すみま・・・うぇぇぇぇ・・・」


アレだけ吐いたらもう胃液ぐらいしかないだろうに・・・その時、嫌な気配がした。瞬間・・・

ダァン!

・・・発砲音!?

「おい、敵だ!!」

知也の声。春鈴とクラナが顔色を変え、走り出す。・・・やっぱり来たか。俺は葬解を填め直して駆け出した・・・ 
 

 
後書き

「なんという春鈴回」


「色々あって作者が春鈴を使いたくなったらしい」


「主人公・・・だよな・・・俺ら」


「多分な。それじゃ、次回もよろしく!」 

 

水上戦~

 
前書き
4日遅れですが明けましておめでとうございます!今年も真似と開閉と世界旅行をよろしくお願いします!!

では、本編をどうぞ! 

 
俺は海に向かって銃を構える知也に近づく。


「何があった!?」

「この状況で把握してくれると助かる」

「襲撃か・・・!」

見ると水面に所々ヒレが見える。魚人系か・・・!?

「どうした!?」

船内から咲と闇風が駆け上がって来た。

「襲撃?」

「ああ。・・・てか咲、二人が出てきたら船の操縦は・・・」

船の操縦には交代で全員が行っている。だから、人がいないと船が止まることはないものの、正しい方向に曲がれないのだが・・・

「目を覚ましたなのはに代わってもらったよ。呑み込み速いんで助かったぜ」

「亮様!大変です、前からも・・・!」

囲まれたか・・・!なら・・・

「闇風さんと知也は船首と船尾でそれぞれ迎撃!咲と俺が横を担当するから船上に上がられたらクラナと春鈴で迎え撃ってくれ!特に船内には絶対に入れるな!」

「御意!」

春鈴が烈火を取り出し、返事をする。

「海の上の指揮は任すぜ、亮」

肩を叩いて咲が言う。

「あくまで俺は多人数の指揮担当だっつの・・・ただ、呉の民が二度も海で負けるわけにはいかないから、みんな協力してくれよ」

「好んで負ける奴なんかいねぇよ」

知也がそう言いながらも魚人を射ち倒す。

「リパルとアルは周りの状況を常に探知してくれ。島があったらすぐそこに向かおう」

『了解ッス!』

『お任せを!』


俺は気を練り、指から気弾を撃ち出す。

「ちょっとまて、いくらなんでも・・・!」

数が多すぎる・・・!こんなの・・・

「咲ィ!この船に大砲とかないのか!?」

反対側から怒鳴り声が響く。


「あるように見えたかっ!?武器は俺たちが持ってる奴で全部だよ!!」

「・・・だよな・・・!」



そんな中、数匹が気弾を潜り抜け、船上に上がってくるに。手にはお約束のトライデント・・・

「十字鎌鼬!」


「・・・はぁ!」

『impact!』


背後から激しい音。

「・・・ダメか、仕方ない」

俺は叫ぶ。

「咲!俺達も迎撃に向かうぞ。変に分散するのはかえってしんどい!」

「ヤミと知也の負担が増えるんじゃ・・・!」

「二人なら大丈夫だ!俺らより強いだろうしな!」

俺はそう言って擬音を魚人に向かって振り抜く。


「確かに撃ち落とすより楽だ、な!」

咲も方天画戟を振り回して数匹纏めて吹き飛ばす。


「装着!」

春鈴が防具を身に纏って蹴りを叩き込む。

「中には行かせない・・・!」

クラナもすでに三つほど加速を高めているようだ。闇風と知也もよくやってくれて一気に数が増えることはない。

「・・・っと!」

ガキン!

背後からの攻撃を背負った迷切の鞘で払う。そのまま迷切を抜きながら背後の敵を薙ぎ払う。

「キリがない・・・!」

「気もまだ余裕はありますが・・・」

「・・・春鈴、後ろ!」

「・・・っ!」


春鈴は防御の構えを取る・・・が。

キィィン!

「っ・・・!・・・あ・・・」



その身体が吹き飛ばされ・・・船の外に投げ出された。

「ひっ・・・」

「しゅ・・・」

そのまま視界から春鈴が消え・・・水の音。


「春鈴っ!!」

すぐに船縁に駆け寄り、海上を見る。春鈴は・・・!

「げほ、がは!・・・たす・・・ごぼっ、ぁ・・・!」

溺れる春鈴の姿。やっぱり泳げないのか・・・!

「くっ・・・」

俺が縁に足をかけた時・・・

「・・・俺が行きます」

「え?おい、クラナ!」

クラナが真っ先に飛び込んだ。俺は舌打ちをして・・・

「咲、足場!」

俺も迷切を鞘に収めながら身を踊らせる。咲は何か言いながらも詠唱を開始する。

「フリーズランサー!」

氷の矢が海に突き刺さり、表面が凍って広い足場が完成する。更に俺も詠唱を行い・・・!

「ウィンドカッター!」

氷の表面をかき氷のように削り・・・その上に着地する。よし、滑らない。

「クラナ!」

俺は春鈴を抱えるクラナを引き摺りあげる。

「二人とも平気か?」

「はい、俺は・・・」

「げほっ!げほっ!・・・う、うぁぁ・・・」

春鈴が震え出してしまう。

「春鈴・・・」

『大変です、来ます!』

「・・・!クラナ、数分でいい・・・頼む!」

「・・・はい!」


氷の上に上がってきた魚人をクラナに任せ、俺は春鈴の肩を掴む。

「春鈴!」

「こ・・・怖い・・・やだ・・・連れてかれる・・・!」

「・・・春鈴・・・!」

俺は春鈴と気を同化させ・・・荒れる春鈴の気をなだめる。

「あ・・・」


「春鈴、聞いて。君は誰にも連れていかれない、いかせやしない。俺が絶対に守る。必ず・・・!」

「亮・・・様・・・」


春鈴がまっすぐ俺を見る。そして・・・涙を流す。

「すみ、すみま・・・!私・・・みんなの足を・・・うぐ、役に立たなくちゃ・・・なのに・・・」

「・・・役には立ってるよ。誰にも得意不得意はあるし、不得意で失敗したなら得意で挽回すればいいじゃあないか」

「得意・・・」

「ここの氷の広さならそうは落ちない。・・・落ちてもすぐ俺が引っ張りあげてやる。だから思いきり暴れようぜ」

春鈴は涙を拭き・・・何時ものニヤリ顔を浮かべる。

「・・・格好いいこと言いながら私を助けたのクラナさんじゃないですか」

「うぐ・・・」

「でも・・・その言葉、信じますからね!」

春鈴は大きく息を吸って走り出した。俺も武器を拾い、駆ける。

「すまないクラナ、人任せで・・・」

「・・・いえ」

『しっかり数分ですから、問題ありませんよね、相棒?』



「・・・」


目の前で春鈴がトライデントを弾き、空いたボディに烈火を叩き込んだ。

「春鈴、下がって!」

「・・・!」

春鈴が退くと同時に気を練り上げる。

「猛虎獣衝撃!!」

虎が魚人を薙ぎ払い、一時的にだが襲撃が止む。

「戻るぞ二人とも!」

俺達は飛び上がり、船の上に戻る。闇風と知也も迎撃に加わっており、派手な戦場と化していた。

「全員無事だな!?」

「ああ!」

『トリガー!マキシマムドライブ!』

「流石にキツいぜ!」


「泣き言なんて聞きたくないわよ!」

知也が弾幕で複数を撃ち抜き、闇風がナイフで魚人を切り裂き、海に蹴り落とす。

『咲さん!北西に陸地ッス!』

「本当か!?・・・ってまだ遠いなおい・・・!」

「だけどこれならもちこた・・・!」

ガガガガン!!

嫌な音と共に船の速度が緩まる。・・・帆とかは痛んでない・・・じゃあ・・・

「大変!!」

なのはがサチを抱えながら上がってくる。

「船底に穴を空けられて・・・もう水が止まらないよ!」

「くそっ、むしろその手段を今まで使わなかったのが不思議だよな・・・!」

そしてハッキリわかる程に船が沈み出す。

「不味い・・・なのは、魔力は!?」

「まだ完璧じゃないけど、飛ぶくらいなら・・・!」


「ですけど、飛べない人を運んだら・・・迎撃が難しくなりませんか?」

春鈴の言葉も一理あるが・・・その時、クラナがハッとなって俺を見る。

「あの・・・亮さんの能力は誰でもなれますか?」

「あ・・・ああ。対象を知ってて作品の曲があれば・・・」
「ならスバルさんかギンガさん・・・ノーヴェさんになれますか」

「・・・ああ!なるほどな!」

俺は携帯を取り出す。

「モーションキャプチャー、スバル・ナカジマ!!」

スターズの一人、スバル・ナカジマに真似をして・・・魔力を溜める。

「ウイングロード!」


リパルが示した方角に青いラインが出来る。

「飛ぶよりは安全だな・・・!」


咲が言って先に魚人の注意を引き付けながらウイングロードの上を走る。

「なのは、サチは俺が・・・走れる?」

「うん、大丈夫だよ」

俺となのはを中心に闇風と知也が魚人の数を減らし、春鈴とクラナは万が一の飛び道具対策で構えてもらう。・・・うん、飛ぶよりは安全策だ。


「走れ走れ!敵さんは待っちゃくれねえぞ!」

「うっせ!分かってるよ!」

咲に返しながら俺はウイングロードを伸ばし続ける。そして・・・

「着いたぞ!みんな後少しだ!」

咲が跳び、砂浜に着地して銃を取り出して援護を始める。そして次々に着地し、一気に島の奥へ進む。

「はぁ・・・ふぅ・・・」

数名が荒れた息を整え、状況を再確認。

「リパル、この島に生存者は?」

『ちょっと待って下さいッス・・・・・・ん・・・!沢山あるッス!この間近に一、いや・・・二!』


「距離は!?」

『真反対ッス!?』

「く・・・なら!」

「分かってる、メンバーを分けよう。春鈴と知也は俺と来てくれ!」

「ヤミとクラナ、そんでなのはは俺とだ。・・・サチさんは!?」

「・・・俺たちが責任を持って守る!」

「分かった。どんな状況であれ一時間後にはここに集まろう!来なかったら・・・」

「先に進む・・・か?」

「ああ」

「わかった。行こう二人とも」

俺はサチを抱き抱えて走る。一体誰が・・・!







































































咲~

「リパル、後の距離は!?」

『もう見えるッス!』


開けた場所で戦ってるのは・・・!

「おい、止めろ撫子!俺がわからないのか!?」

「知りません。あなたは敵です」


あの赤髪・・・ルーク!相手は・・・撫子!?


「どういうことよ?」

「あの人・・・味方、でしたよね・・・」

「どっちかが偽物・・・?」

「簡単に分かるさ。・・・おい!」

「咲さん?」

「サキ!お前、無事だったんだな!」

「ルーク!俺が分かるのか?」

「はぁ?何言ってんだよ。髪が黒い以外まんまサキじゃねえか!」



「なら・・・撫子、愛依は分かるか!?」

「・・・破壊者の名前ですよね?それ・・・がっ」


それを聞いた瞬間、俺は迷わず撫子を闇で撃ち抜いた。

「な・・・なぜ・・・咲、さ・・・」

「おい!何やってんだよ!」

「よく見ろ、ルーク」

撫子は力無く崩れると黒い塵になって消滅した。

「な・・・」

「敵の能力なんだよ、これ。記憶から生み出す力・・・」

「・・・わ、訳わかんねぇ・・・つかなんでサキが生きてるんだよ!」

「それは・・・」

「咲、説明は後にしなさい」

「・・・囲まれてます」


「おいおい・・・」
「切り抜けなきゃ・・・」

気がつくとなのははバリアジャケットを身に纏っていた。

「いけるのか?」

「時間が掛かっちゃいそうだけど・・・収束魔法も使えるよ」

「オッケー・・・」

「えっと・・・クラナ君?」

「・・・!・・・はい?」

クラナがチラリとなのはを見る。

「ええっと、クラナ君、私は砲撃を撃つのに時間が掛かっちゃうから・・・前衛を頼んでいいかな?」

「・・・別に、俺以外でも・・・」

「あはは・・・そうなんだけど、君はデバイスもあるしスタイルがストライクアーツだから・・・合わせやすくて」

「・・・」

『了解しました。相棒も喜んで引き受けますよ』

「アル・・・!」

『あくまで一般的な会話をする程度なら問題ないかと』




「っ・・・」

『ご安心ください、なのはさん。相棒は貴女のことはとても便りにしていますので』


「・・・いい加減・・・」

「ほら、デバイスと喧嘩しちゃだめ。・・・来るよ!」




来たのは・・・モンスターか!

「人じゃないだけ気が楽だな・・・!」

ルークがカトラスを構える。・・・あれ?

「ルーク、ローレライの鍵は?」

「城に置いてきちまったよ!」

「・・・そうか」




方天画戟を鎌に変形させ、走る。


「オオリャ!」

横薙ぎに一閃。・・・よし、弱い!

「ヤミ、掃射!」

「言われなくても」

一撃で倒し切れなかったのは闇風任せだ。そんな闇風にモンスターが殺到するが・・・

「守護氷槍陣!!」

ルークが氷の刃で複数のモンスターを串刺しにする。


「なのは!」

「いけるよ!クラナ君、退いて!」

クラナが反応し、跳ぶ。

「シュートッ!!」

桃色の砲撃が多数を呑み込み、吹き飛ばす。

「・・・凄い・・・」

クラナが呟く。・・・いや、まったく同意だ。

「だが、この位なら・・・」


負けることはない筈だ・・・!
















































亮~

一方、俺達の視界に映ったのは・・・


「やめてお兄ちゃん!あたしがわからないの!?」

「ふざけるな!お前が妹の筈がない!」

戦ってるのは・・・リーファとキリト!?

「はぁっ!」

「きゃあ!?」

ソードスキルがリーファの腕に当たり・・・血が吹き出した。


「痛・・・!やめて・・・お兄ちゃん・・・痛いよぉ・・・」

リーファは完全に戦意を喪失していた。対するキリトは刃を止める気はないようだ・・・急がないと!

「知也、サチを頼む!」

気を練り・・・放つ。


「猛虎獣衝撃!!」

「っ!?」

キリトが思い切り後ろに飛んで避ける。俺は瞬動を使い、リーファの真横に移動する。

「直葉!」

「あ・・・亮、お兄ちゃん・・・」

「直葉、腕を出せ。すぐに治してやるからな」

気弾でキリトを牽制しながらリーファの怪我を回復させる。

「亮様、今そち・・・ぎゃん!?」

春鈴がいきなり何かにぶつかったように跳ね返る。

「いたた・・・」

「壁・・・か?」


知也が空中を叩くと音がなる。

「くっ・・・なら破射爆火で・・・」

「いや・・・そんな余裕はないぜ。見な」

春鈴たちに迫る魔物の影・・・

「この数・・・問題はありませんが・・・!」

「亮の援護は無理か・・・」



俺は視線をキリトに戻す。

「・・・」

「キリト、お前なんで直葉に攻撃をする!」

「直葉・・・だって?そんな筈があるか!直葉はリアルに・・・SAOにはいない!」

「「!?」」


SAO・・・って・・・そうか・・・

「偽物か・・・!」

「なんなんだこのイベントは・・・人質を取られるイベントなんて知らないぞ・・・」

「・・・直葉、下がってろ」

「で、でも・・・」

「あの兄貴は俺達が知ってる和人じゃない。・・・それでも直葉にはキツいだろ」

「・・・ごめん」


「流石に好きな奴を躊躇い無く斬れるわけないしな」


擬音を引き抜き、構える。

「来な」

「おおおぉ!!」


キリトのエリュシデータが眼前に迫るが・・・

「・・・っと!」

突きを擬音で逸らし、素早く右拳を腹に叩き込む。

「なっ・・・」

キリトが吹き飛ぶが、空中で体制を立て直した・・・時には既に俺は近接していた。

「・・・!」

横薙ぎに払った擬音は大きく仰け反ったキリトの服を掠める程度に留まる。両方隙が出来たが復帰が速いのはキリトだ。・・・俺は振り切った体勢から跳び、身体を捻って・・・踵落としの体勢を作る。

ガツン!

「・・・がっ・・・」

並の人間なら今のクリーンヒットで意識を持っていける、筈だったが・・・

「っ・・・ぁああ!」

ガキイン!

頭が下がった状態から斬り上がってきた剣を右の葬解で防ぎ、バック宙で距離を取る。

「アバターってのは厄介だな・・・!」

ていうか偽物とはいえ知り合いばっかを攻撃するのは精神的に辛い・・・!

「こんなところで・・・俺は負けられない・・・アスナのためにも・・・!!」

キリトがメニューを操作・・・やばい!

「させっかよ!」

踏み込んで拳を突き出すが・・・新たに左手に現れた剣で弾かれた。アレは・・・ダークリパルサー。咲が持つリパルのオリジナル・・・!そして剣を二本持つあの構えは・・・キリトの十八番、“二刀流”


「はぁぁぁぁ!!」

さっきよりも素早く二つの斬撃が迫る。


「っく、ぉあ!」

捌き切れないと即座に把握。右手で迷切を抜いて弾いていく。

「二刀流!?ユニークスキルじゃ・・・!」

「SAOならな!」
よし・・・このパターンなら前に兄貴と模擬戦をした時にも・・・!

「なら・・・!」


キリトの剣に光が灯る。この軌道のソードスキルは・・・!

ガガガガガガン!!

繰り出される刃を一つ一つ弾く。

「な・・・!」

キリトの目には驚愕。その目に“なぜわかるんだ”とハッキリ映っていた。

「くっ・・・そぉぉぉ!」

最後の突き・・・それを擬音と迷切で思い切り弾きあげる。

「貰った・・・虎牙破斬!!」


二連撃で斬り上げからの斬り下げ。

「なん、で・・・」

遂にキリトはその疑問を口にした。俺は・・・こう返した。

「知っているから。そうとしか言えないな」

迷切を引き・・・突き出した。

「瞬迅剣!」

ズパァン!

「アスナ・・・ユイ・・・ごめん・・・」



キリトはそう言って黒い塵になった。やっぱりか・・・


「ふぅ・・・直葉、なんで一人だったんだ?アス兄と一緒だったんじゃ・・・」

「それが・・・途中ではぐれちゃって・・・」

「そうなのか・・・」

アス兄・・・

「とにかく、壁を突破しないと・・・」

そう言って春鈴達の方を見た瞬間・・・

「きゃあああ!?」

「うわぁぁぁ!?」


その瞬間、春鈴と知也、そして知也が抱えていたサチが吹き飛んできた。

「みんな!?・・・っ!?」

歩いてきたのは・・・フードを被った・・・

「アイツ・・・グレイセスの世界に来た・・・!」


ゆっくりと・・・目の前で動きを止めた・・・





























咲~

「そらよ!」

Bモードを使用して目の前の敵を闇で吹き飛ばす。更に振り返って片手で鎌を振り抜く。そして空間から銃を掴み、離れたモンスターを撃ち抜く。

「へっ、軽い軽い・・・ん?」

モンスターの中に・・・人がいた。それはフードを被っていて・・・

「あ・・・!アビスの世界にいた・・・!」

フードは俺に向かって走り出してきた。

「上等!リパル、全力だ!」」

『ッス!』


鎌に闇を籠め・・・

「デスサイズ!」

それをフードは・・・片手で防いだ。

「なっ・・・がぁっ!?」

もの凄い衝撃で吹き飛ばされた。何が起こった・・・!?

「咲!・・・この!」

闇風が銃を撃つが、フードが片手を出すと弾丸が弾かれていく。

「っ・・・あぐっ!?」

闇風に黒い・・・闇が直撃する。


「ヤミ!」

「ぅあ・・・何よ、これ・・・身体が・・・重い」


あの闇・・・ただ不調を出しただけ・・・?闇風が呑まれることも・・・身体が変異することもなかった。

「・・・アル、三つ!」


『Attraction』

クラナが加速し、不意を突くように死角から拳を突き出す。

「アンチェイン・ナックル!!」


「・・・!」

フードに、驚愕が見えた。だが、そいつは闇の盾を瞬時に張る。

『抜けます、相棒!』

「セェェア!!」

クラナの拳が闇を貫き、当たって吹き飛んだ・・・ように見えた。

『まさか、あのタイミングで・・・!』

「アンチェイン・ナックルが・・・逸らされた・・・!?」

クラナの目には驚き。どうやらあの拳には自信があったようだ。



「いやぁ!実に素晴らしいよ!」

『!?』

フードの横に・・・更に男が現れた。

「お前・・・!」

「やあ、咲君、亮君。あまりにも面白くないから・・・ちょーっと僕もズルさせてもらうよ」

「・・・」

今、亮の名前を呼んだってことは・・・向こうにも同じ会話を?















亮~

「ズルってのがそのフードか」

俺が言うと男は笑う。

「まあね。ただ、このズルは強力だよ?何せ君たちにとっては最強と言っても過言ではないね」

「何が言いたい!ただ強いだけなら俺は負けない!」

「そうかい・・・?じゃあ、お披露目といこうか」

そう言って男は指を鳴らす。するとフードは身に纏った布を掴み・・・脱ぎ捨てた。その下にあった顔は・・・

「「・・・っ!!」」

俺と春鈴の呼吸が、一瞬止まる。













咲~

「そ・・・そんな、バカな・・・そんなことが・・・なんで・・・」

俺は目の前の人物を直視できなかった。何故なら、フードの正体は、彼女は・・・!!


「恋・・・」

「明、命・・・」

俺達にとって、最悪な形の再開だったーーーーー 
 

 
後書き

「新年早々なんつー展開」


「作者に悪意を感じる・・・」


「肝心の作者はSAO二期決定でテンションが最高にハイって奴だし」


「ジョジョもやるんだよな・・・」



「じゃ、それじゃあ今年もよろしくお願いします」


「完結まであとどれくらいかな・・・次回もよろしく!」

 

 

望まぬ再開~

 
前書き
高校生活も残り一ヶ月を切りました。せめて卒業する前には完結させたいなぁ・・・ではどうぞ。 

 
「なんで・・・なんでだ・・・!」

目の前にいたのは俺を庇い、命を落とした・・・明命の姿。

「なんで?簡単さ。愛依に跳ばしてもらったんだよ」


「・・・!」

「ちょっと個人的に用があったからね。・・・いやぁ、苦労したよ」

「何がだ・・・」

「僕の操り人形にする為には心に多少なりとも綻びが必要なんだけど、彼女たちは心が強すぎてねぇ・・・かなり痛め付けても僕に対する反抗の意思は消えなかったよ」

「・・・っ!!」

ギリッ・・・と音が鳴るほど歯を喰い縛る。

「流石に飽きちゃってさぁ・・・すこーし面白いモノを見せてあげたんだ」


































咲~

「面白いモノ・・・だと?」

男は笑う。

「彼女達の目の前で君達を八つ裂きにしてあげたのさ」

「俺・・・達を?」

何を言って・・・あ。

「察したね?別世界の君達さ。だけど度重なる拷問で判断力が弱まったんだろうねぇ・・・心地好い絶叫を響かせて・・・壊れちゃったよ」

「なっ・・・てん・・・めぇ・・・!!!」


闇が・・・抑えきれなくなる。目の前にいるのが本体ではないと解っていても・・・


「・・・話が良すぎるわね。その呂布も偽物じゃないの?」

闇風の言葉に男は笑う。

「頭の悪い子だねぇ。ここは本物を使うから面白いんじゃないか。・・・これが証明になるかな?」

男が持っているのは・・・恋の仮契約カード。

「ヤミ・・・わりぃが俺と恋には少なからずまだ繋がってる部分がある・・・だからわかる・・・!アレは、恋だ・・・!!」


「・・・」


『・・・え?魔力反応・・・』

「ディバイン・・・」

『!?』

振り返るとなのはが構えていた。しかも既に準備は完了していて・・・

「・・・バスタァーーーー!!」

「おおっ」


男だけを狙った射撃。だがそれは障壁に阻まれ・・・

「なのは!?」

「今・・・確かに防いだ。分身なら防ぐ必要はないのに・・・」

「・・・はぁ、面倒だね。そうだよ、僕は本物だ。亮君の方が分身の偽物」

「・・・だったらここで倒す・・・!」

「・・・君の目。つまんなくなったなぁ・・・それじゃあ闇に呑ませられないし・・・消しちゃおっか」


そう言った瞬間・・・恋がなのはに向かって走り出す。

「っ・・・!?」

「・・・装剣」

恋が剣を手にし、踏み込む。

ガキャン!

つばぜり合いになるが、すぐになのはは弾かれ・・・恋の剣に紫のオーラがまとわりついた。

「・・・!」
そして・・・勢いよくなのはを切り裂いた。

「きゃああああ!?」
そして紫のオーラがなのはに集まり・・・一瞬光ったあと、なのはは・・・“消えた”

「オッケー、完璧だよ」

「なのはさんっ!?・・・こいつ・・・!!」

クラナが男を睨み付ける。

「ああそうだ!せっかくこうやって対面したんだし、僕の自己紹介をしないとねぇ!」

男がフードを取る。下には整った顔に水色のウェーブのパーマ。更にアクセサリーがついていて・・・見た目でも苛つく奴だった。


「名前は・・・うーん・・・“シン”って呼んでもらおうかな?」

「シン・・・だ?」

「そ。さてと・・・残りも消しちゃうか」


「・・・おい!こっちだ!今は逃げようぜ!」

ルークが逃げ道を確保してくれたようだ。だが俺とクラナは・・・シンを睨み付けていた。

『咲さん!今は退くッス!!』

『相棒!今の流れで戦うのは得策ではありません!』

そして動けるようになった闇風が俺とクラナに怒鳴る。

「早くしなさい!あなたは呂布と戦えないでしょ!?クラナも今は抑えなさい!なのはは死んだ訳じゃないんだから!」

「・・・くぅっ・・・!」

俺は・・・背を向けて走り出した。確かに・・・今は勝ち目は薄かった・・・














































亮~

「シンだと・・・?神様気取りか!?」

「そうだねぇ。気取り・・・というか神そのものだよ、僕は」

「この・・・!」

俺は明命を見る。その表情は変わらず・・・

「明命!俺だ!亮だ・・・!」

「無駄だよ。一度壊してから人形にしたんだ。もう意識なんか残っちゃいないさ」

「貴っ・・・様ぁ・・・!!」

「こんなクズに明命様を・・・許せない・・・!!」

「まあ、少し遊んであげなよ」

明命が俺と春鈴の目の前に現れる。

「(以前より速い・・・!?)」

相手は明命だ。当然俺と春鈴は防戦に徹する。


「明命!止めてくれ!」

「明命様ぁ!・・・がっ!?」

明命の蹴りが春鈴に直撃し、春鈴が転がる。

「かはっ・・・ひゅっ・・・あ・・・」

「春鈴!?・・・ごっ!?」


サマーソルトが顎に当たり、吹き飛ぶ。気のお陰で辛うじて意識は保ったが・・・!そして明命は普通の刀を手に持つ。

「亮お兄ちゃん!!」

リーファが長刀を抜き、明命に斬りかかる。だが当たる瞬間に明命の姿は消え、リーファは空振る。

「どこに・・・!」

「後ろだ!」

知也が叫びながら撃つが、それすら明命は回避する。

「・・・!」

ガン!

「きゃ・・・!?」

リーファが蹴りでよろめき、なんとか体勢を立て直しながら長刀を振るが、避けられ・・・明命の刀に紫のオーラが現れる。そして明命は隙が出来たリーファを・・・横一文字に切り裂いた。

「な・・・!!」

「りょ・・・う・・・」


リーファは紫のオーラに包まれ・・・消滅した。

「直葉ぁぁぁぁ!!!」


俺は叫ぶ。シンは愉快そうに言う。

「あーあー、亮君ってば恋人どころか妹も守れなかったねぇ!」

「てめぇぇぇ!!」

走りだそうとした俺を止めたのは・・・春鈴だ。
「ダメです・・・!」

「離せ、春鈴・・・!」

「アイツは偽物です・・・それに、今の私達では怒りで精密な気のコントロールが出来ません・・・ここは・・・」

「退くって言うのか!?明命が目の前にいるのに・・・!」

「私だって・・・」

「明命を・・・見捨てて・・・そんなの」

「私だって嫌だ!!けど仕方ないでしょ!?どうしようもないでしょ!?ここで・・・ここで万が一死んだら全部終わっちゃうんだからっ!!!」

「・・・っ!!」



・・・初めて俺に向かって叩きつけられた春鈴の怒り。見れば・・・春鈴に涙が浮かんでいた。

「・・・すみません・・・!けど、私も・・・怒りで我を忘れそうなんです・・・!生きていればチャンスは幾らでも来ますから。だから、今は・・・」

春鈴の口調が戻り・・・俺に懇願してくる。・・・折れるしか、ないじゃないか。



「・・・わかっ、た・・・」

「お話は終わったかい?じゃあ、行くよ」

シンが大量の矢を展開する。

「!?」

「くっ・・・させっかよ!」

『トリガー!マキシマムドライブ!』

「トリガーフルバースト!」

矢を撃ち落とすが・・・まだ増えて・・・!そして矢が俺達を襲う。その時、春鈴は・・・俺の前に立った。

「しゅ・・・」

「亮様に無礼を働いた罰です。・・・罰は受けないと、ですよね」


「やめ・・・!」


矢が当たり、辺りが見えなくなる。だが、俺も・・・ましてや春鈴にも光の矢は当たらない。何故なら・・・

「く、うぅぅ・・・!」

「サチ!?」

サチが、闇の盾で全て防いでいたからだ。

「サチ、止めろ!闇を使ったら・・・!」

「大丈、夫・・・!この人達全部・・・理解してあげるから・・・!」

そうは言うものの、僅かだが腕が異形化し、髪の色が変わっていく。

「サチ!?」


「大丈夫だよ・・・私がいるから・・・もう苦しまなくていいんだよ・・・!」

サチの侵食が・・・止まった。

「あ・・・」

「くうっ・・・」

だがこのままじゃ持たない・・・その時、空間が割れた。

「千の雷!」

空間から現れた何かが矢を薙ぎ払った。その何かは・・・

「シィ!?」

「ごめん!遅くなっちゃった!」

「逃げるなら今だぜ!」

「サチ、平気か!?」

「う・・・うん・・・平気・・・だよ」

「とてもそうは見えないよ。背負うから背中に乗って。・・・速く!」

俺達は走ってその場から逃げ出す。・・・ちくしょう。


































































・・・さっきの場所まで避難して、咲と合流するが・・・お互いの情報を纏め終わると俺達は暗い空気に支配されていた。


「・・・」

誰も言葉を発しようとしない状況で、最初のペンギンを引き受けたのは知也だった。

「・・・んで、どうすっか」

「・・・」

俺はそれに答えず、岩に腰掛けたまま下を向く。

「・・・倒します。・・・それしか、ないですよね」

クラナが呟く。

「・・・クラナ、だっけ。ごめんね、私がしっかりしてればフェイトだって・・・」

「いえ・・・その・・・」

クラナはなのはの世界の住人・・・子供のフェイトにそっくりなシィを見て最初は驚いていた。シィはしばらくあの世界で粘っていたらしいがフェイトが負傷したので撤退。色々外の世界で用意をしていたみたいだ。

「そうよね。アレがラスボスならアイツを倒せばカタがつく・・・避けられないなら倒すまでよ」

「・・・けど、明命たちは・・・」

俺が言うとまた不穏な空気が漂った。

「・・・ごめん」


「とにかく進もうぜ。恋は・・・恋は必ず・・・」

「あの・・・」

サチがおずおずと手を上げる。

「実は・・・私の闇はシンに入れられたの」

『!?』

皆がサチを見る。

「色々聞いてみたけど、この人達は住んでいた世界もバラバラで・・・感情も様々だけど・・・一つだけ・・・希望があったの」


「希望?」

「うん。それは・・・怪我をしていたんだって」


「ああ?怪我ぁ?」

ルークが首を傾げる。

「それがどうかしたんですか?」

春鈴の言葉に答えたのは・・・立ち上がった咲だ。

「そうか・・・つまり、アイツに攻撃は可能・・・それも不死身ではないってことか」

「そう。そして何人かからは・・・破壊者がやったって言ってる」

「つまり途中から椿や愛依にシフトした・・・」
「何かを恐れたのか・・・でも、これでハッキリしたわね」

「ああ。アイツは今まで全ての攻撃を弾いてきた。ヤミにはああ言っておきながら、頭の片隅にアイツは無敵なんじゃないかとも・・・思った。だけど違う・・・充分に倒せる相手だ。・・・やっぱり倒せない悪役なんているかよ・・・!」



咲が言う。そしてサチは・・・

「それともう一つ・・・ええっと、明命さんと恋さん・・・だっけ?あの二人にシンが入れた闇は見当たらなかった・・・だって」


それに咲が驚く。

「・・・まさか、闇を見極められるのか?」

「咲は解らないのか?」


「一度他人の闇を自分の物にするとその主の闇と波長がほぼ同一になるから・・・判別はしにくいんだよ」

「ふーん・・・で、それで何か解決方法が浮かんだの?」

シィの言葉には俺が答える。

「闇による操作じゃないってことは単純な洗脳・・・主であるシンを倒せば洗脳は解ける・・・」

「ですがアイツは言っていました。“壊れた”・・・と」

春鈴の言葉に咲が返す。

「平気さ。・・・ここにも一度壊れて復活した奴がいるからな」

「・・・俺だけじゃなく、サチもね」



「そして・・・なのはと直葉ちゃんも死んだ訳じゃない。アイツを・・・」



「・・・」


『聞こえるかい?二人とも』

「シン・・・!」

『ゲームの再開だ。ただしルール変更で・・・ゲームの勝敗はお互いの命・・・といこうか』

「死んだ方の敗けってか。はっ、分かりやすくていいな」

『そしてこちらは明命ちゃんと恋ちゃんを投入・・・見つけ次第、戦闘を行う。・・・さぁ、勝負の始まりは明日からだ。精々今日の内にお別れを言っておくんだね』


そして声が聞こえなくなり・・・俺達は見合わせる。

「・・・もう日も落ちるし、ここで野宿と行こう。道具はあるから各員協力してテントを張ってくれ」

「本当に便利だなその開閉能力・・・」








その夜・・・俺は一人、テントを離れる春鈴を見つけ、後を追い掛ける。すると春鈴は海の近くの岩に座って何かを考え始めた。俺は後ろから近寄り・・・

「春鈴」


「っ!?・・・亮様ですか・・・」

「俺を察知できない程考え事か?」

「す、すみません・・・迂闊でした」


「いや・・・あのさ、春鈴。話があるんだ」

「・・・明命様のことですか」


「ん・・・まぁ、ね」

「・・・あの、それもすみませんでした」

「え?」

春鈴が立ち上がり、深々と頭を下げた。

「お、おいおい、頭を上げろって。なんで・・・」

「それは・・・亮様に無礼を事を言ってしまって・・・ましてや怒鳴るなどと・・・!」

「そんなの気にしないでよ。俺に敬語使う呉の人なんて、春鈴入れても四人だよ?」

「しかし・・・」

「謝るのはこっちの方だしさ。・・・ごめん」

「うぇ!?りょ、亮様が謝ることなんて・・・」

「いや、謝らせてくれ。あの時春鈴が止めてくれなかったら突撃していたかもしれないし・・・ありがとう、春鈴」

「も、もう・・・やめてくださいよ・・・」


しばらく会話が途切れ、波の音だけが辺りに響く。

「なあ、春鈴」

「はい?」

「・・・俺さ、ダメだよな」

「え?いきなり何を・・・」

「・・・ごめん、春鈴。ちょっと・・・格好悪いところ見せる」

「・・・どうぞ」

俺は・・・空を見上げる。

「また・・・俺は手放しちゃったよ・・・しかも、たった一人の妹の手を・・・」

「・・・リーファ様の事ですか?」

「・・・」

「・・・月並みですが、亮様は悪くありませんよ」

「そんなので・・・片付けられないよ。・・・なんで、なんで何時もこうなっちゃうんだろうな・・・俺、平和を望んじゃいけないのかな・・・?」

正直、もう精神的にかなり参っていたんだと思う。半ば声は叫ぶように、息は荒れ、涙が流れる。

「亮様・・・失礼します」

春鈴が・・・抱き着いてきた。そして、俺がやったように気を同調させ、俺の気を落ち着かせる。

「大丈夫、必ず平和は来ます。それに“何時もは”必ず敵を倒したじゃありませんか。・・・どんな敵にも立ち向かい、最後には勝利を掴む。・・・それが、私が好きになった人なんですから」

「春鈴・・・それ・・・!?」

「・・・女の子の告白なんです。察してください」

「・・・あ、ああ・・・」

「・・・答えは今はいいです。でも・・・」

「必ず返すよ。春鈴の気持ち・・・凄い伝わった」



春鈴の頭を撫でる。

「アイツをぶっ倒して明命達を助けよう。・・・協力してくれる・・・よね?」

「・・・はい!」

俺は春鈴を見送り・・・声をかける。

「・・・盗み聞きかな?人のこと言えないけどな」

クラナが木の影から出てくる。

「・・・すみません」

『相棒も寝付けなかったようで。散歩していたら・・・』

「偶然・・・か。あはは、なんか恥ずかしいとこ見られたな」



「いえ・・・」

「・・・眠れない理由はなのはか?」

「・・・」

「・・・なぁ、教えてくれないか?君となのはは・・・」

「それ、は・・・」

『家族です。亮さん』

「アル!?」

『既にこの状況では情報が漏洩する心配はないかと』

「家族・・・って」


『はい。相棒の名前はクラナ・ディリフス・タカマチ・・・高町クラナと言います』


「高町・・・って、なのはの?」

『血は繋がっておりませんが、立派な家族です』


「そうか・・・そりゃ、眠れなくもなるよな・・・ごめん」

「え・・・?」

『どうして亮さんが謝罪を?』


「なのはを巻き込んだのも俺絡みだからさ・・・フェイトやはやても俺たちを助けようとして重傷を負ったんだ。・・・だから、謝った」

「・・・いえ」

『気にしないで下さい。それに、まだなのはさんは死んだ訳ではありませんから・・・』

「・・・そう、だな」

俺は息を大きく吸って身構えた。

「なあ、クラナ。手合わせしないか?」

「は?」

「・・・俺も眠れないんだ。汗をかく程度でいいからさ、付き合ってくれないか?」

直葉のこと・・・明命やソフィ、黒猫団のみんな・・・全てが蘇ってきて、少し怖くなってしまった。

「頼むよ、クラナ」

『相棒、ストライクアーツとは違う動きを見るチャンスですよ!』


ストライクアーツって総合格闘技みたいな感じだっけ・・・

「・・・中国流の拳法は・・・興味があります」


クラナも構えてくれる。

「アル、一つだけ」
「うん。それじゃあ・・・始め」

お互いに向かって俺達は踏み込んだ・・・













































咲~


『・・・二人が何かをしてるッス』

「・・・ったく、あのバカは・・・」

亮達の様子をリパルにサーチさせていた俺は溜め息を吐く。

「んじゃ、敵の反応が会ったら頼むぜ。・・・まぁ、アイツらは探知できるだろうが」

それよりも・・・

「入るわよ」

「お邪魔します」

闇風とサチがテントに入ってきた。

「おう、待ってたぜ」

「で?わざわざ女二人を呼んで何をするつもり?」

「ヤミ・・・人聞き悪いこと言うなよ・・・じゃなくて、二人とも手を出してくれ」

「「?」」

首をかしげながら手を出してくる二人。俺はまず闇風の手を掴んで・・・闇を探る。

「・・・残って、ないな。身体に違和感とかないか?」

「?・・・ああ。大丈夫よ、とっくにプログラムもリカバーしたから」

「そうか・・・アバターでも闇は使えるから、ちょっと不安になってな。・・・んで次、サチさん」



「私も?」

「闇、使ったって亮から聞いたぞ。念のため見させてくれないか?」

「う、うん」

サチの手を掴んで闇を・・・

『ーーーーデテケ!!』
バチィッ!

「ーーーったぁ!?」

は、弾かれたぁ!?

「こ、こら。ダメだよ、そんなことしたら・・・」


・・・さっきの様子からもしかしてとは思ったが・・・


「・・・サチさん、闇が同化してないのか・・・?」

「同化・・・?ううん、みんな私の中にいるよ?」

「みんなって、やっぱりか・・・」

「何かおかしいの?」

「・・・いや、闇って普通に使えるようになると・・・何と言うか・・・一つの固まりになるんだよ。悲しみも怒りもごっちゃになって・・・」


「私、一人一人とお話もできるし・・・それに、闇を貸してもらっている感じで・・・」
「な、なんだそれ・・・そんな闇使い、今までにいないぞ・・・」

『でも、特例が出てもおかしくないッスよ』

「まぁな・・・サチさん、中の人達は協力的かい?」

「えっと・・・まだ何人か怯えてる子がいるけど・・・みんないい人だよ?」

「・・・なら心配ないかな・・・ごめんサチさん。対処法が思い付かない・・・」

思わず顔を押さえた俺にサチさんが気を使う。

「だ、大丈夫だよ早貴ちゃん。私は平気だから・・・」


「・・・何か違和感会ったら言ってくれ。用事は・・・それだけだな」



俺は息を吐き、眼鏡の位置を直す。


「・・・そう。それじゃ、失礼するわね」

「また明日、早貴ちゃん」

「ああ」




俺はテントの天井を見上げる。

『・・・大丈夫ッスか?』

俺はリパルの言葉に苦笑で返す。

「・・・恋の事か?全然大丈夫じゃねーよ。まさか、殺してしまった恋人が最強の敵なんてな・・・はは」



『咲さん・・・』

「・・・っと、悪いな。リパルに言っても関係・・・」

『恋さんを殺したのは・・・オイラもッス・・・』

「・・・っ!」

そうだった。あの時恋を斬ったのは・・・


「・・・本当に悪い。お前も苦しんでたのにな・・・」

『いえ・・・オイラは恋さんとは面識はないッスから・・・咲さん程では』

「・・・参ったな、本当に・・・」

『救い出す方法・・・きっと何かある筈ッスよね・・・?』

「ああ・・・なきゃ困る・・・いい加減恋を連れて帰らないとねねが可哀想だしな」


俺は横になり、色々思考を働かせる。

「リパル、少し付き合ってくれ。・・・寝られそうにない」

『いいッスけど・・・なのはさんに使ったのを使えば・・・』

「いや・・・なんか闇のせいか耐性があるっぽくてさ・・・」

『そうッスか』




明日からまた戦いの日々か・・・シン・・・必ずぶっ倒してやる・・・!!




 
 

 
後書き

「うがーーー!!」


「ぎゃーーー!!」


「・・・はぁ。なんで明命が・・・」


「・・・ちなみにシンのモデルはスーパーロボット大戦Zのジ・エーデル・ベルナルから。名前の意味は(シン)な。・・・ネーミングセンスの欠片もない」

悪役に凝った名前ははいりませんよ。コンセプトは“腹立つ小物”です。


「嫌なコンセプト・・・んじゃ、次回もよろしく」

 

 

劣勢~

 
前書き
なんか今回から犠牲者ラッシュが半端ない(笑)好きなキャラがやられてしまったらすみません、としあ言えない・・・(汗)ではどうぞ! 

 
・・・翌朝。俺達は一ヶ所に集まっていた。

「リパル、サーチは?」

『完了したッス。・・・現在、生存反応は三ヶ所にあるッス。けど、ひし形のように別れていて一ヶ所一ヶ所回っていたら・・・』

「・・・間に合わないか。よし、またパーティを別けよう。ヤミ、クラナ、知也、ルークは俺と来てくれ。春鈴、シィ、サチさんは亮と組んでくれ」


「あんまり前回と変わらないな」

「下手に変えると連携しにくいからな。・・・俺達は右側から行く。亮は左を頼む」

「あぁ、任せてくれ」

俺達は拳をぶつけ合う。

「じゃ、行くぜ!」


俺達はそれぞれの方角に向けて走り出す。























「・・・音が聞こえる・・・!」

しばらく走ると何かが聞こえる・・・



「サチさん、平気ですか?」

「うん。みんな協力してくれるから・・・春鈴ちゃんとシィちゃんは速いね」

「まぁ、私たちも・・・」

「ちょーっとズルしてるけどね」


『そうですね』

「・・・キリエ、いたんだね」

俺が言うとシィがデバイス(待機状態)を取り出す。


『話すタイミングを見逃しまして。アルさんとは会話しましたが』

「そうか。・・・シィが一番チートだよな。不老不死にどんな武器でも使えるし魔力は強力だし」



「えー?そんなことないよ」

『それより、もう視界に入りますよ?』



「・・・っと!みんな、準備はいいな!?」

戦ってるのは・・・恋と・・・










「うわわ!?ちょっとちょっと、少し落ち着こうって~!?」

「パスカル!距離を取って!」


「ガイ、お願いね」

「ああ、ティアとシェリアは援護を頼む!」



シェリアとパスカル・・・それに、咲から聞いた、ナタリアの仲間か・・・!


「・・・っ!」

恋が俺達を見る。すると刃にあの紫のオーラを纏い・・・

「なっ・・・」

ガイの刀を弾き、ガイを切り裂く。返す刃でティアとパスカルが裂かれる。

「ぐあああ!?」

「きゃああ!?」

「うわわわ!?」

三人は直葉と同じように・・・消滅した。


「みんな・・・!・・・あ・・・」

恋に見られ、シェリアが動けなくなる。

「ここ、までなの・・・?」

「諦めるには早いよ、シェリア」

シィが雷化し、恋に攻撃するが・・・恋は咄嗟に後ろに飛んで回避した。

「し・・・シィ・・・!?」

「俺もいるぜ、シェリア」

「リョウ・・・」


シェリアは安心したのか座り込んでしまう。

「春鈴、サチ、シェリアを頼む」

「御意」

「任せて」

俺はシィの隣に駆け寄る。

「久々だな、シィと一緒は」

「そうだね、付いてこれるかな?」

擬音を抜いて構える。

「速くは、なったつもりだよ」


俺は瞬動で恋の懐に・・・!

ブン!

「っぶねぇ!?」

瞬動に合わせて恋が剣を振る。ギリギリで身を逸らして回避するが・・・

「その初手で踏み込む癖、直ってないね」

シィが背後から恋に迫るが・・・それも恋は反応する。

「っと!流石に速いね・・・!」

「んなろ!」


拳を顔に向かって放つが、それは恋の腕で防がれる。そして振るわれた剣は擬音で弾い、て!?

ガキャアアン!?

「うわああっ!?」

的確に防いだと思ったが・・・身体が意に反して吹っ飛んでいた。勢いが付きすぎてるので、気で爪を作り上げてそれでブレーキする。

「っくぁ・・・!リョウコウと同じ感じかよ・・・ったく、パワータイプは厄介だな・・・」

今はシィがスピードで掻き回してくれている。・・・致命傷なんて与えられないし、ていうか恋を傷付けようものなら咲と剛鬼に殺される。

「最悪、逃げるが勝ちだな・・・!」

春鈴を見ると、春鈴は頷いた。・・・今ので察してくれたようだ。

「シィ、デカイの頼む!」

もう一度接近し、今度は迷切を抜く。

「十秒頂戴!」

シィが退き、俺が恋の注意を退く。

「お・・・らっ!」

横一文字・・・は弾かれた。恋の剣は身を逸らして、受け止めないようにする。


「・・・!」

「な・・・!」

横から来ると見せかけ・・・上からの振り下ろし。・・・不味い!

ガキイン!

「っぁ・・・」

足元が陥没する。重すぎる・・・!

「くっ・・・そぉ!」

グリームアイズの時と同じように擬音を抜いて剣の腹に叩きつけ、そのまま迷切の刃を走らせ・・・地面に落とす!

ズゥゥン・・・!

「よし・・・っがは・・・!?」

逸らした瞬間に無茶な体制からの蹴りで吹き飛ばされるが・・・

「っ・・・シ、ィ・・・!!」

「OK!ありったけのサギタ・マギカ、いっくよー!!」

尋常じゃない数の魔法の矢が地面を抉り、砂ぼこりを巻き上げる。

「ナイスだ!春鈴!」

「はい、こちらです!!」

「急いで、亮!」


シェリアを支えた春鈴とサチの先導で俺達はその場から退避する。













「・・・撒いたか?」

「みたいだね。・・・ふぅ、久々だから疲れたぁ・・・」

『と、言いつつも疲労度はありませんけど』

「うるさいよ、キリエ」

「リョウ・・・パスカルが・・・それに・・・」

「シェリア・・・」

「私、何も出来なかった・・・守れなかった・・・」

俺はシェリアの頭を撫でる。

「大丈夫!・・・みんなは死んでないから。それに・・・俺ももっと早く来れれば・・・ごめんね、シェリア」

三人も・・・やられてしまった。その事実は俺にダメージを与え、精神的に追い込んでくる。

「悔しいよな・・・でもまだ終わってないんだ。・・・アス兄やソフィ、ヒューやマリク教官だってこの世界にいる。・・・それだけじゃない。もっと多くの味方がいるんだ・・・だから、まだまだこれからだよ」

「・・・そうね。今大事なのは・・・悔やむことじゃないわね・・・ありがとう、リョウ」

「いやいや、シェリアだけでも助けられてよかったよ・・・」


「・・・あのー、亮様、こちらの方は?まさか、浮気ですか?」

「ばっ、違うよ!こいつは別世界での俺の幼馴染みで、名前はシェリア・バーンズっていうんだ」

「えっと・・・初めまして、シェリアです」

「あ、幼馴染み・・・私は凌統・・・真名は春鈴です。以後、春鈴とお呼び下さい、シェリア様」

「んで、こっちがサチだ」

「あ・・・は、初めまして、二ノ宮紗智です、シェリアさん」

「シェリアでいいわ、春鈴、サチ」


「・・・善処します」

「うん、よろしくね、シェリア」


未だ春鈴が呼び捨てにしてるのは思春くらいだしな・・・

「このまま最後の地点に向かって咲と合流だね」

「ああ。・・・余計なアクシデントがなけりゃな」


さてと・・・咲は上手くやれてるか・・・?


































咲~




「リパル、距離!」

『後数キロッス!』

「近い・・・!」

「お前ら速いっつの!」

ルークが必死に追い付いてくる。・・・超振動なんてチートを持ってる以外は一般的だしな・・・



「そういやルーク!結合音素は?」

「薬と療養で殆ど元通りだよ!」

「そうか!」

「見えたぜ・・・っと」


人影は・・・三人!

「ジェイド!」

「愛依!」

後一人は・・・確か亮の弟の・・・ヒューバート、だったか。だが・・・次の瞬間、ジェイドとヒューバートはあの紫のオーラに包まれ・・・消滅した。

「な・・・っ」


「・・・消えた?」

『相棒、アレを』


愛依の正面には・・・明命が立っていた。

「う、嘘・・・どうして、周泰が・・・」

愛依が一歩下がる。・・・不味い。

「クラナ!」

「・・・はい!」


既にギアを上げていたクラナが愛依と明命の間に着地する。明命はそれを見て素早く明命は後退りをする。


「愛依!」

「あ・・・さ、咲・・・咲ぃ・・・」


「下がってろ!」

明命の姿が消える。

「見えるか!?」

「・・・キツい、ですね・・・」

「お手上げよ」

「これは狙い撃てねえわ」

「俺も全然駄目だ・・・」


「だよな・・・クラナと俺でなんとか・・・ぐあ!?」

背中が焼けるように熱い・・・斬られた!

「くっ・・・がぁ!?」

闇を溜めようとするが明命の鋭い攻撃で集中できない・・・!

「アル!五つ!」




『Acceleration』

明命の攻撃が止み、打撃音と金属音が響き始める。

「くそ・・・Aモード、発動!!」

なんとか闇を解放、クラナと共に明命と戦うが・・・相変わらず速いな!!

「リパル、鎌ぁ!」

『はいッス!』



最早景色が分からない位に俺達は高速で戦う。明命の表情は変わらず、まだ余裕があるんじゃないかと思うが・・・

「クラナ、まだスピード上げられるか!?」

「可能ですが・・・でも・・・」

「・・・訳ありか、俺もまだ加速できるけど、頭が追い付かなくなりそうだ」

身体は闇で補強済みだし、どっか壊れても再生する。・・・なんだかんだでチート能力だ。

「閉じろ!」

閉じたのはクラナと明命の距離。クラナは拳を振りかぶり・・・

「バルカン!!」

ラッシュに持ち込む。だが明命はそれを捌き、その場から跳んだ。俺達は一度距離を開けて息をつく。

「ふぅー・・・操られてても明命は明命か・・・」

正直、恋が相手じゃなくてよかったぜ・・・つっても、殺しちゃいけない相手には違いないが。

「しょうがない・・・逃げる算段でも考えるか・・・」

『可能でしょうか?』

「・・・生半可じゃ・・・追い付かれます」


「だよなぁ・・・」

後ろをチラリと見ると愛依を庇うルーク・・・そして、闇風と知也は銃を構えていた。・・・なるほど、なら・・・

『咲さんっ!』

「おおっとぉ!」

ガキン!

突っ込んできた明命の一撃を弾く。大丈夫、明命は重さより鋭さ重視・・・おれに致命傷を与える方法は少ない。少なくとも明命が俺を殺すには、首を飛ばすか再生が追い付かないほど細切れにするしかない・・・が、どっちも余程の事が無ければ平気な筈・・・

「らぁっ!」

ビュオン!

もうひとつの問題は俺の攻撃がまったく当たらない事か・・・ったく、これだからスピードタイプは・・・

『咲さんはパワータイプ寄りのスピードタイプでもあるッスけどね』

うるせぇ。亮にパワータイプについてどう思ってるか聞いてみるか。スピードタイプのアイツなら答えてくれるだろ。

「ふっ・・・!」

クラナが明命に蹴りを放つが、回避される。

「・・・当たらない・・・!」

『ギアをここまで上げても対応しますか・・・!』


明命はクラナを避け、俺の足をすくうように刀を払う。

「当たるか!」

足を上げて避けた・・・と思ったが。

ガッ!

刀が地面に当たり・・・砂を巻き上げ、俺の顔にかかる。

「(目潰し・・・!!)」

一瞬怯み・・・明命が踏み込んでくる。・・・やばい!

ガキン!

「え?」

間に誰かが割って入り、明命の一撃を防いだ。

「・・・まったく、無様だな、咲」

「あ・・・お前・・・!」

回復した視界に映ったのは鬼の仮面を付けた男・・・

「剛鬼っ!」

「ふっ!はぁぁ!」

剛鬼が手に持った方天画戟を振り、明命を斬りつける。

ガキキン!

「・・・!」

明命は後ろに飛んで・・・

「今よ、知也!」

「あいよ!」

二人が銃を乱射。辺りに砂ぼこりが立ち込める。

「咲、逃げようぜ!」

「ああ、撤退だ!」

俺達は全力でその場から離れた・・・















































「・・・リパル、サーチ!」

『周囲に反応はないッス』


「撒けたか・・・しんどぉ・・・愛依、あれからどうしたんだ?」

「うん・・・咲と闇風がいなくなっちゃって、しばらくジェイドさんといたんだけど・・・ヒューバートさんとキリトさんに合流したんだ」

「キリト?・・・まさか、キリトまで・・・」


「ううん、キリトさんは先に行ったんだ。捜してる人がいたらしくて・・・それを聞いた二人がキリトさんを送り出して周泰と戦おうとしたんだけど・・・」

「そこからは俺が見てたとこか・・・」

「・・・アタシ、何も出来なかった。周泰だって分かったら身体が動かなくなって・・・」

「いや、仕方ねぇって。後で挽回は出来る。・・・んで、剛鬼、来てくれたんだな」

「ああ。恋が生きる世界を救うためにな」

「相変わらず恋本意な男だな・・・」

「お前は違うのか?」


「俺はプラスで詠と霞がいるからな。若干違うぜ」

「・・・咲」

「・・・なんだ?」

「恋は必ず助け出せ。・・・いいな?」

「お前に言われるまでもねぇよ。・・・必ず助け出すさ、必ず・・・な」

まぁ、恋だけじゃなくて明命や椿も・・・な。

「よう、剛鬼。遅い登場だな」

「知也か。・・・仕方ないだろう。都合があった」

「まあな、お前も・・・もうじき、出しな」

「残りの命・・・この世界の為に使おう・・・お前も手伝え、知也」

「報酬はなんか上手いもんで頼むぜ」

「ああ」

何かを話しているようだが・・・

「よし、じゃあ合流しようぜ。亮達も向かってるだろうし・・・遅れたらこの先にいるキリト達も危ないしよ」

「ああ、ジェイドの仇を取ってやる!」

「ルーク、死んだ訳じゃないわよ」


さてと・・・まずは助けに行ってからだな・・・シン、好き勝手やりやがって・・・! 
 

 
後書き

「被害が一気に増えたなぁ・・・」


「人数が増えると作者が発狂するからな・・・」


「だから定期的にメンバーが変わるのか・・・」


「作者が言うにはパーティチェンジしなければ集団リンチでラスボスフルボッコらしい」


「ストーリー性の欠片もないな・・・んじゃ、次回もよろしく!」 

 

悪意、増大~

 
前書き
インフルエンザ+テスト期間という魔のコンボで更新が遅れました・・・まだテスト期間の途中ですが、更新します。また、後書きでちょっとしたお知らせも・・・ではどうぞ。 

 

「キリエ、位置は!?」

『もう近くです!』

「間に合えばいいけど・・・」

「間に合わせます!」

その先に見えたのは・・・草が広がる大きな平原。そこで魔物と戦っていたのは・・・

「兄貴!アスナ!ユイ!」

「アスベルとソフィも!」

俺達はその魔物の群れに突っ込む。

「うらぁ!」



拳で撃ち抜き、五人に駆け寄る。

「みんな!」

「リョウ!?来てくれたのか!」

「私たちもいるよ!」

「シィ・・・!久しぶりだね・・・」

「久しぶり、ソフィ」

「紅蓮鎌鼬!」

春鈴が魔物を一掃する。

「えい!」

サチが槍を使い、的確に魔物を貫いてからこちらに来る。

「アスベル!ソフィ!」

「シェリア!?シェリアじゃないか!」

「シェリアも来てたんだ」


「兄貴・・・」

「亮、よかった。無事なんだな?・・・・・・亮?」

・・・言わなくては、いけない。

「ごめん、和人・・・俺、直葉を・・・守れなかった・・・!」

「・・・!」

その一言で察したのかキリトは黙る。

「・・・そう、か」

「・・・また、目の前だ。手の届く距離で・・・離してしまった・・・」

「・・・大丈夫、直葉は死んでない。・・・とにかく、今は戦おう」

「あぁ・・・」

「亮君、大丈夫?」

「お兄ちゃん・・・」


アスナとユイが心配そうに声を掛けてくる・・・

「・・・いや、大丈夫。ユイ、俺の後ろに。・・・これ以上やらせるか・・・!」



俺は近くの魔物を斬り捨て、叫ぶ。

「みんな乱戦では同士討ちに気をつけろよ!!」

「慣れてるから平気ですよっ、と!」

「う、うん・・・」

「サチさんは私がお守りしますから、安心してくださいね」



あっという間に混戦が始まる。常に視界にユイを入れ危害が及ばないようにする。サチも心配だが、そちら春鈴に任せるしかない。・・・まぁ、ユイを守ろうとしてるのは俺だけではないので・・・

「おぉぉぁっ!」

「やぁぁぁっ!」


キリトとアスナは息の合った動きでユイに近づく魔物を消滅させていく。・・・お陰で三人の姿は見失わないで済むのだが・・・

「みんな伏せてーーーッ!!」

シィの叫び声。それを聞いて俺はユイを抱き抱え、しゃがむ。


ズガァァァン!

視界が光で埋まり、魔物が消し飛んでいく。

「っぶないな・・・!ユイ、平気?」

「はい。ありがとうございます、お兄ちゃん!」

「キリト、アスナ!」

「なんだ今の・・・」

「ALOでもあんな凄いの見たことないよね・・・」


無事みたいだ。・・・とにかく。

「シィ!千の雷は洒落にならないだろー!?」


「ごめん!でも一掃できたでしょ?」

「そうだけどさ・・・・・・いや」

俺は辺りを見渡す。

「どうやら連中は2ラウンドをご所望のようだよ」

「うわぁ・・・本当だ・・・」

シィが嫌そうに表情を変える。

「重傷者はいる?今の内に回復を済ませよう」


「平気だよ」



再び敵が俺達を囲もうとした時・・・背後から様々な力が降り注ぎ、敵を殆ど壊滅させた。

「無事か!?」

「咲!」

咲達も到着した。メンバーの中には・・・剛鬼と愛依の姿が会った。

「亮、悪い。お前の弟が・・・」

「・・・そう、か。こっちも・・・ティアとガイがやられた。ごめん・・・」

「・・・ま、覚悟はしてたさ。ますます負けられないってだけでさ」



「ああ・・・」

『さてと、じゃあ面白いショーを始めよう』

シンの声・・・目の前に黒い霧が集まり・・・二つの人影。

「今一度、ラムダの力をこの手に・・・!」

「僕はこの世界の神なんだよ・・・!!」


「エメロード!?」

「須郷!?」

グレイセスの世界で戦ったエメロード、ソードアート・オンラインの世界で咲達が戦ったオベイロン、須郷・・・


「ちょっとまて、須郷はわかるがなんでエメロードが・・・」

『これは記憶から造り出した訳じゃないからね。君達に倒された彼女達を僕の闇で復元させてあげたのさ』


「じゃあ、コイツは・・・!?」


『正真正銘、君達と戦った存在だよ』

「力がみなぎる・・・はぁ!」


エメロードが放った雷を俺達は回避する。

「っ・・・!威力が上がってる・・・!?」

『さて、あまりにも数がいても邪魔だから・・・フィールドを別けようか』

瞬間、俺達の周りが黒い壁に覆われる。

「な・・・!」

「壁が・・・」

今、壁の内側にいるのはグレイセスメンバーの三人と春鈴とシィと剛鬼・・・そしてエメロード。

「シェリア、ソフィ、回復役を頼むよ」

「ええ」

「うん、わかった」

「俺達は接近して肉弾戦。術には注意だ」


「御意です!」

「なんか、剛鬼と一緒に戦うのも久し振りだね」

「張遼の救出が初だったか・・・シィ、今回はどう競う?」

「ラストアタックにしよっか。負けないよ」

「ああ。・・・望むところだ」


「来る・・・!」


再び放たれた雷を四方に飛んで回避する。

「せやぁぁ!」

一番始めに飛び込んだのは春鈴だ。そのまま気を練り・・・

「紅蓮鎌鼬!」

炎の気がエメロードに迫るが・・・

「甘いわ!」


エメロードはそれを片腕を振っただけで弾いた。

「嘘・・・きゃ!?」

着地した瞬間、帯電していたのか地面から雷が春鈴を襲う。辛うじて春鈴は退くが・・・

「す、すす・・・すみません・・・から、身体が、し、痺れて・・・」

「春鈴は私達に任せて!」

「ああ、頼む!」



アスベルが抜刀し、剣を振る。

「魔神剣!」

「その程度!」

エメロードは同じように弾くが・・・目的は違う。

「背中ががら空きだ・・・!」

「もらったよ!」

方天画戟を持った剛鬼とキリエを刀に変えたシィが背後から斬りつけ・・・エメロードを吹き飛ばした。

「やった!?」

『それはやってないフラグなのでは・・・』


案の定・・・と言うべきか。エメロードは立ち上がった。しかも傷が一瞬でふさがった。

「ふふふ・・・素晴らしい・・・この力、ラムダにも勝る・・・!」

「闇か・・・!」


「キリエが余計なこと言うから~」

『・・・私のせいですか』

「消えなさい!」

「っと!危ない!」
さっきと違い、今度は黒い雷だ。

「ふふふふふ・・・ははははは!!」

エメロードの身体が変異していく。

「くっ・・・侵食が速いな・・・!」

「まったく、あの手のモノと縁がありますね、私は」

「春鈴、平気か?」

「シェリアさん達のお陰でなんとか。・・・しかし厄介ですね」

「ああ・・・」

「リョウ、エメロードの隙を作ってくれないか?」

アスベルがそう俺に言う。

「なにか秘策があるのか?アス兄」

「ああ。ただ、確実に叩き込みたい。・・・頼めるか?」

「・・・貸し一つね」

「いつか返すさ」


「デカイお返し頼むよ!」

俺とシィが一気に接近する。

「雷の暴風!」

無詠唱で放たれた一撃はエメロードを呑み込む・・・が、無傷だ。

「葬牙乱舞!」

間を与えずに蹴りや拳を放ち、闇の一撃を加えるが・・・

「かってぇ・・・!」

殴った手や足が痺れるくらい、固かった。

「雷の暴風もダメかぁ・・・」

「・・・瞬間的な破壊力・・・仕方ない。春鈴、ソフィ!」

「はい!」

「どうしたの?」

「俺とシィみたいなタイプじゃ分が悪い。俺とシィ、そして剛鬼で時間を稼ぐから・・・」

「一発ドカンと行けと?」

「ああ」

「御意です」

「わかった」

「頼むぜ!」

剛鬼が方天画戟を振り、エメロードを斬りつける。

「・・・俺でも致命傷を与えるのは不可能か」



「闇ってのは厄介だよ!」

「私が言うのもなんだけど、凄く同感!」

素早さに物を言わせ、エメロードの雷に当たらないようにしながら攻撃していく。


「ええい・・・鬱陶しい虫けらめ・・・!」

エメロードの周りの大気が震える。・・・不味い、アスベルとシェリアは離れた位置にいるが、ソフィと春鈴が近い!

「くそっ!」

俺は急いで二人の前に立つ。シィ、剛鬼も来てくれた。

「全力で守るよ!」

「作戦の要をやられる訳にはいかない・・・」

「神なる雷よ、この身にひれ伏せ!ディサイドセイバー!」

「・・・上!」

俺とシィは障壁を張り、剛鬼が力を籠めた一撃で雷と当たるが・・・

ズガァァァン!!

「ぐぅっ!?」

「がっは・・・!」

「きゃあっ!?」

押し負け、俺達三人は吹き飛ぶ。

「く・・・うぅ・・・」

まともにくらったせいで上手く身体が動かない・・・!

「待って皆!今回復を・・・!」



シェリアが詠唱を開始する。・・・春鈴とソフィは!?

「隙ありです!」


二人とも無事だ。春鈴は大きく振りかぶって・・・

「反動は承知の上です!喰らいなさい!」

気が充填され、武器が薄く輝き出す。

「破射爆火!!」

キュオオン!!

「ぬぅぅ・・・!?」

変異した部分にヒビが入る。

「っ・・・!ソフィ様、今です!」

反動で吹き飛びながら春鈴が叫ぶ。それにソフィは答え・・・


「解放します!」

ソフィが原素の固まりをエメロードに撃ち込み、走り出す。

「風と共に!駆け抜ける!」

そして一筋の光となり・・・

「秘技、シャドウ・モーメント!!」

・・・エメロードを貫いた。

「ガァァァァ!?」

完全に変異した部分が砕け、生身が露出する。

「アス兄!」

「終わらせてやる!行くぞ、ラムダ!」

アスベルの右腕が紫の炎に包まれる。

「うおおお!!」

そのまま力を使って爪のように数回切り裂いてからアスベルは跳ぶ。

「天を貫く!断ち斬れ、極光!」

そしてそれは巨大な光の剣となり・・・アスベルはそれを振り下ろす。

「天覇!神雷断!!」

ズガァァァン!

「ば、バカな・・・この私が、こんな・・・こんなぁぁぁ・・・!?」

エメロードが断末魔を上げ・・・消滅した。

「リザレクション!・・・みんな平気?」

「・・・ああ」

「なんとかね・・・」

「ったく・・・迷惑な人だったよ、ほんと・・・春鈴、ソフィ、よくやったね。アス兄もナイス止め」


「いえいえ・・・」

「リョウも、守ってくれてありがとう」

とにかく・・・向こうは平気なのか・・・?













































咲~


「ひひっ・・・久し振りだねぇ、桐ヶ谷君、明日奈。そして・・・早貴」

「出来れば会いたくなかったけどな・・・」

「須郷・・・」


「・・・」

こっちのメンバーは綺麗にSAO組で揃っている。キリト、アスナ、ユイ、サチ、闇風だ。


「ふーん・・・私は須郷って奴は聞いたことあるくらいだけど・・・小物ね」

『油断は禁物ッスよ。今の須郷には闇があるッス』

「ああ・・・余計なことしでかす前に・・・」

「ぐ、うぅ・・・」


「?・・・サチさん?」

サチが急に頭と胸を抑えてうずくまる。

「う、だ、駄目・・・落ち着い、て・・・・・う、あぁぁぁ・・・!?」


次の瞬間・・・サチの瞳の色が変わった。そして槍を構え・・・

「はぁぁぁぁ!」


「サチさん!?」

・・・須郷に向かって突撃した。須郷はエクスキャリバーを手に持ち、サチの一撃を防ぐ。

「ぐっ・・・なんなのよアンタ・・・!?気持ち悪い!」

「ひひっ、そんなに邪険にしなくてもいいじゃあないか。僕と君は同じようなモノさ」

「一緒にするなぁ!」

サチ・・・じゃない。内側の闇がサチの身体を使っている。しかも槍を思いきりブン回すせいでキリトとアスナが援護出来ない。闇風も狙うが・・・

「・・・ダメね。チラチラ射線上に入られてる」

「回り込むしかないか・・・ていうかなんだ?須郷の動きが良すぎる・・・」

「教えて上げようか?彼の与えてくれた力が僕にいい動きをさせてくれるのさ。・・・目の前の君もそうだろ?」

「うるさい!」


サチが槍を突き出すが須郷は涼しい顔でそれを避ける。

「俺を忘れんなよ!」

俺は開閉能力を駆使して須郷の背後に移動、方天画戟を横凪ぎに振る。

ガキン!

「おっと、当然忘れていないさ」

「・・・バカが力を持つと厄介だ、な!」

そのまま分離して左手に持ったダークリパルサーを振り切る・・・が。

ガァン!

「(っ・・・闇の障壁!?)」


「甘いんだよ、早貴」

「っくあ!?」

今度は衝撃波で弾き飛ばされる。


「ちっくしょう・・・」

『咲さん!なんであの人はあそこまで闇を・・・』

「さあな。多分、アイツの醜い心が闇とジャストしちまったんだろ」

「てやぁ!」

サチが槍を払うように振るが・・・弾かれる。そして須郷は剣を振りかぶり。

「消えろ、ゴミ虫め」

「・・・っ!」

ズシャア!

・・・サチを、切り裂いた。

「ごふっ・・・」

「サチ!」

「サチさん!」

サチは数歩後退り、膝をつく。

「ごぼっ・・・ぐ、ぶぇ・・・がはっ・・・」

血を吐き、崩れかけたが・・・再び立ち上がる。

「ぐっ・・・アンタ、なんかに・・・」

「その身体じゃあ僕には勝てないよ」

「ちっ・・・閉じろ!」

俺とサチの距離を閉じて近づく。

「動くなよ!今回復する!」

「アスナ、時間を稼ぐぞ!」

「ええ!」

「援護は任せなさい!」


俺はサチに治癒術をかける。

「おい、お前。勝手にサチさんの身体を使って傷付けんなよ」

「・・・わかってる。でも、存在自体が闇の私には・・・沸き起こる負の感情を抑える術が・・・ない」


「・・・そうか」

正直、その感じがよく分からない。俺や亞莎やシィと言った闇使いが感じる内側の負の感情は一纏めのゴチャゴチャした何かだ。だが今の彼女はそのゴチャゴチャした何かその物・・・味わいたくもない感情なんだろう。


「・・・うっ・・・」

軽く呻いたと思ったら・・・サチの雰囲気と瞳の色が元に戻った。

「・・・ごめんね、早貴ちゃん。この子を怒らないであげて?」

「いや・・・怒る気はないよ。サチさん、痛みは?」

「あんまりないかな・・・」

顔色や表情を見ると、傷の割には平気そうだ。多分、内側で色々してるんだろう。

「うん、とりあえずは平気だ。ただ、治癒術も万能じゃないから・・・後ろでユイちゃんといてくれ」

「うん、わかった」


ゴォォン!

「うわあ!?」

キリト達が衝撃波で吹き飛んでくる。

「くそっ、厄介だな・・・」

「三人とも、平気?」

「ええ。・・・あんなに面倒だとは思わなかったけど」

「だけど、前とは違う・・・今度は私も戦える。キリト君達と一緒なら必ず勝てる!」

「とりあえず、調子に乗ってるあのアホをブッ潰す!・・・Bモード!」

姿を変え、俺は突っ込む。

「オオラァ!」

ガキィン!

「その姿で二度も遅れを取ると思うかい?」

「うっせぇ、口開いてんじゃねぇよカス野郎」

個人的にもコイツには散々お世話になった。・・・一言で言おう。“怨み満載”だ。

「リパル、鎌!」

『ラジャーッス!』

ひたすら鎌を振り回す。幾ら闇の記憶を利用しようとも・・・!

「経験のない技術なんて怖くねーんだよ!」

ガキャアン!

「ぬぅ!?」

ガードが上がる。俺はその隙を逃さずに鎌に闇を籠める。

「デス・・・サイズ!!」

ズバァァン!!

須郷が吹っ飛び、砂煙を巻き上げて転がる。

「手応えはあった・・・が」

『まだ反応は消えてないッス!』

「・・・だろーなぁ」

立ち上がった須郷に闇が纏っていく・・・そして姿を変え、モンスターと言っても過言じゃない姿になった。

「痛いじゃあないかぁ・・・早貴ぃ・・・」

「暴走状態で意識を保つか・・・信じられないな」



「ぐぉぉ!」


須郷が闇の光線を乱射してくる。

「っ!?」

俺はそれを鎌で弾くが・・・気付いた。この弾幕だと・・・!

「ユイちゃん!」

俺は振り返って叫ぶ見るとユイちゃんに闇が迫り・・・

「危ない!」

サチが闇の障壁を張るが、数発で砕け・・・闇がサチを貫いて吹き飛ばされた。

「きゃあっ・・・!?」

「サチさん!?」

ユイが叫んでサチに駆け寄ろうとするが・・・

「ユイ!まだ来るぞ!」

「逃げてユイちゃん!」

避けに専念せざるを得ないキリトとアスナは叫ぶ。だがユイにそんな力はなく・・・

「させないわよ!」

アバターの姿を変えた闇風が一発目をクローで弾くが、直後の二発目は左腕を吹き飛ばされながらも軌道を逸らした。

「ヤミっ!?」

俺達は体制を立て直す為に一度退く。

「ヤミ!腕が・・・!」

「・・・安心しなさい。部位欠損は数分で治るのはあなた達がよく知ってるでしょ?」

「ごめんなさい、闇風さん・・・」

「いいのよ。気にしなくていいわ」

「サチさんは!?」

「う・・・げほっ・・・うん、この子達が守ってくれたから・・・」

直撃を貰ってたけど・・・本当に平気そうだ。

「う・・・ダメだよ、気持ちはわかるけど・・・」

「またか?」

「うん。・・・ねえ、早貴ちゃん」

「ん?」

「私・・・この子達と戦いたい。こんなに苦しそうなのに見てるだけなんて・・・」

「でも・・・闇は使いすぎると・・・」

「早貴、話してる暇はないよ!」

アスナに言われ、見ると須郷が動き出していた。

「あー・・・!サチさんをあんまり無茶させると色々怒られそうだけど・・・わかった!けど、闇は使いすぎないで!」

「うん!」

「ヤミは修復するまでユイちゃんを頼む!」

「わかったわ」

「パパ・・・ママ・・・みんな、気を付けてください!」


再び接近して攻める。

「グアアアア!!」

再び闇を乱射してくるが、それには当たらない。

「やぁぁぁ!」

アスナがソードスキルを使って須郷に一撃を加えるが・・・

「・・・堅い・・・!」

「闇の力は再生力と防御力が跳ね上がる!生半可な一撃は駄目だ!」

「だったら同時だ、アスナ!」


キリトとアスナが交互にソードスキルを叩き込んでいく。僅かにダメージが蓄積されていく。

「はぁ!」

サチが闇の弾を須郷の足に撃ち、バランスを崩す。

「そこだぁ!ダークネスバインド!」

闇の力を解放して須郷を呑み込む。


「・・・ダメだ、再生する!」

「この虫けらどもがぁぁぁ!!」

須郷が爪を振り回す。


「あぐっ!?」

「アスナっ!?」

アスナが切り裂かれ、キリトが受け止める。

「アス・・・がっ!?」

意識が逸れた瞬間に吹っ飛ばされた。

「この・・・!」

サチが槍に闇を籠めるが・・・一人の力じゃ通らない!

「あう・・・!?」

案の定吹き飛ばされる。

「変わって・・・私と変わってよ・・・!」

サチの片目が金色に染まる。

「ダメだよ・・・悲しい気持ちで戦ったら・・・ずっと悲しいままだよ・・・!」

「でも・・・!」

「・・・だから、一緒にやろう?あなた達の苦しみを私も背負うから、全力で・・・行こう」

「まってサチさん!まさか・・・それはダメだ!」

サチがやろうとしていることは・・・!

「大丈夫。私はみんなの苦しみを受け入れるだけだから・・・みんな、私と戦って!」


「・・・なに、これ?アイツが憎いとか・・・殺したいとか思わない・・・ただ、ただサチと戦って・・・勝ちたい、サチを守りたい・・・!この気持ちは・・・」

サチの身体を・・・闇ではなく、光が包んだ。

「なっ・・・!?」

『な、何なんスかこの力・・・闇が、闇じゃなくなって・・・!』

「・・・はぁぁぁ・・・」

サチの姿が変わる。純白のドレスに白銀の鎧。青味が増した髪にライトブルーの瞳、手に持つは細身の蒼の槍。その姿は・・・

「・・・女神・・・」


思わずそう呟いていた。そしてサチは両手を広げ・・・背中から純白の翼を出現させた。


「・・・早貴ちゃん、行くよ!」

「あ、ああ!Aモードだ!」


姿を更に変え、俺とサチは突撃する。

「やぁ!」

「タリャ!」

槍と鎌が須郷を切り裂く。



「ライトフェザー!」

「ダークフェザー!」


二つの羽が須郷に降り注ぐ。


「サチ、大技で決めよう!」

「うん!」

サチが空高く飛び、槍を両手で持つ。


「この・・・!」

須郷がサチに狙いを定めるが・・・直後に目に弾丸が直撃した。

「っぎゃああああ!?」

「・・・腕のお返しよ」

闇風がニヤリと笑う。更にそこに・・・

「ジ・イクリプス!」

キリトが懐に飛び込み、二刀流による連撃を放った。

「サキ!」

「ああ!全力のデスサイズ・・・くらえええ!!」

鎌を突き刺し、一回回してからサチに向かってぶっ飛ばす。

「サチさん!」

サチが槍を思い切り振りかぶり・・・巨大な光の槍を造り出す。

「セイクリッドランス!!・・・やぁぁぁぁぁぁ!!」

その槍を・・・思い切りぶん投げた。


キュイイン!!

それは須郷を容易く貫き・・・爆発した。

「ば・・・バカなぁぁぁぁぁ!?」

須郷が消滅し、辺りは静かになる。

「ふぅ・・・天使と悪魔ってか・・・」

俺とサチは同時に元の姿に戻り・・・サチが座り込んだ。

「サチさん!?」

「だ、大丈夫・・・ちょっと疲れちゃっただけだから・・・」

「にしても凄いなさっきの!女神・・・ゴッテス・・・Gモードなんてどうかな?」

「ネーミングセンスの欠片もないわね・・・」

「あはは・・・」

「お姉ちゃん、その名前格好いいです!」

闇風とアスナは大したダメージではないみたいだ。・・・さてと。

「壁が消えていく・・・他のみんなは・・・!」


無事だといいんだけど・・・ただただ、祈ることしか出来なかった・・・ 
 

 
後書き
さてさて、お知らせというのは二つございます。現在僕は軽いスランプになっていて、文章が思い付かなくなっています。そこで、以前まったくエミル・キャスタニエとは関係ないサイトで書いていた「アイドルマスター」の二次をリメイクしてこちらで書こうかな、と思っています。これは友達に相談した結果で、「たまには違う物に手を出してリフレッシュしたら?」というアドバイスを元にしています(といってもメインは真似と開閉なのですが)これを機に、アイドルマスターを知らない人も知ってもらえたらなーとか思ったり(笑)そしてもう一つ、真似と開閉の今後です。展開もクライマックス、後少しで決戦かもしれません。それで・・・ちょっと、まだ続編を書こうかなーって思っています。何年も続けて造り上げた物語なので、簡単に終わりにできないほど愛着が湧いてしまって・・・要約すると、

・気分転換にアイドルマスターの二次を投稿するかもしれない。

・真似と開閉と世界旅行の続編も考えている。


・・・以上の二点となります。少々突発的なお知らせとなったことをお詫び致します。それでは、これからも真似と開閉と世界旅行をよろしくお願いします!それでは! 

 

危機、到来~

 
前書き
教習所が忙しいなぁ・・・というわけで久々の更新です。話が大分あやふやに・・・ではどうぞ! 

 
闇の壁が消え、見えたのは残っていたメンバーの疲労困憊の姿だった。

「クラナ!」

「無事・・・でしたか」

「俺たちはな・・・一体何が」

『皆さんが闇に囲まれている間、こちらも大量の敵に囲まれました。撃退はしましたが、あまり余力は残せず・・・』

「そうか・・・」

続いて咲が走ってくる。

「おいおい、随分好き勝手やってくれてるみたいだな・・・」


「まったくだな・・・」



「お兄ちゃん、無事ですか?」

ユイの声が聞こえ、振り返った瞬間、思考が一瞬止まった。

「ユ・・・!」


ユイの背後に・・・明命が立っていた。

「ユイっ!!」

「え・・・」

ズシャ

「あ・・・」

ユイが斬られ・・・消滅した。紫のオーラで・・・直葉のように・・・

「ユイちゃん!?」

アスナが明命を見て、構える。

「よくもユイちゃんを!」

「アスナ、まっ・・・」

・・・一瞬だった。明命はアスナの一撃を避け、流れるままにアスナを切り裂いた。当然アスナも、消滅した。


「アスナ!ユイ!」

「動くな兄貴っ!!」

俺が怒鳴るとキリトは立ち止まる。・・・その直後だった。

「ぐああ!?」

「きゃああ!?」

「っ・・・アス兄、シェリア・・・!?」

二人は恋によって斬り伏せられ・・・消滅した。

「っ・・・春鈴、ソフィ、シィ、剛鬼!こっちに来い!」

「キリト達もだ!早く!」

すぐに一ヶ所に集まるが、ここからどうしたものか・・・


「とにかく戦わないとな。恋の相手は俺と・・・剛鬼とサチさん、手伝ってくれ」

「・・・ああ」


「・・・うん」

恋が敵であること、アスナとユイが消滅したせいで士気ががた落ちになっている。

「明命は分かってると思うけど高速タイプ・・・シィ、クラナ。・・・頼む」

「OK」

「はい」

「アタシたちは?」

「愛依達はそのまま待機。何があってもいいように構えていろ」



「咲、気をつけ・・・ったぁ!?」

明命が踏み込んで来たので俺達は回避する。

「くっ、千の・・・」

「っ!」

ビュオン!

「わぁ!?・・・この、マギア・エレベアを使わせないつもり!?」

「アル!ギア・・・っあ!?」

すかさず明命がクナイを投げ、クラナを牽制する。

「明命、癖を見抜いてるのか・・・うわっ!?」

明命の一撃を避ける。・・・くそ、目で見えても身体が追い付かないっての・・・!

「クラナ!少しでもいい、俺を信用してるか!?」

「え?な、なんで・・・」

「いいから答えてくれ!」

「・・・信頼は、している・・・つもりです」

「ならOKだ!俺も信頼している!」

明命の攻撃を回避し、転がりながら携帯をクラナに投げる。

「コイツなら・・・イレギュラーキャプチャー!」

クラナを光が包み、俺と一体化する。服装はクラナのバリアジャケットに、髪もクラナと同色だ。


『これ・・・!?』

『ほうほう、亮さんと一体化した・・・と言うことですか』

『いや、ワケわかんないし!俺はユニゾンデバイスじゃないぞ!?』

「・・・クラナ、お前・・・結構饒舌なのな」

『え!?あ・・・いえ・・・なんで』

「あ、悪い。これ使うと対象の思った事がほぼ筒抜けになるんだよ」

『よかったじゃないですか相棒。少しとはいえ本当のあなたを知ってもらえましたよ?』

『うるさい!いいから喋る前に戦えって!』

「はいはい」

『あ、いや、今の亮さんに言ったんじゃ・・・』

「アル、感覚はクラナと同じで構わない。違うのは戦い方くらいだ」

『了解しました。一時的にですが、サポートに務めさせて頂きます』

「頼む!」


『俺は・・・』

「祈っててくれ。・・・ギア、解放!」

「早くしてよー!」

シィが必死に明命の攻撃を捌いていた。

「悪い!時間稼ぐから・・・」

「うん!ちゃちゃっと詠唱するよ!」



このステータスなら目も身体も追いつく!


「オララララ!!」

明命の斬撃を捌きながら拳を放つ。・・・ストライクアーツ自体はスバルの真似をした際にも使ったが・・・今回は中国拳法混じりだ。


『なるほど・・・確かに相棒とは違いますね』

「一、応!クラナの動きもっ!混ぜてるけどなぁ!」


喋りながらも集中して動き続ける。何せお互いが高速移動だ。下手をすれば高速で壁に激突して自爆でミンチ・・・なんてバカな死に方もあり得る訳だ。

ビュン!フォン!

瞬きも出来ない状況でただひたすら明命に打撃を放ち続ける。



「くっ・・・」

だが明命の顔にまったく表情がない為疲れが分かりにくい。お陰でこっちは焦る一方だ。


「っ!」

ガッ!

「おわっ!?」

『!?』

足払いを喰らって体制が崩れ・・・ながらも片手をついて蹴りを放つ。・・・それすらも避けられたが、手で地面を弾いて反動で立ち上がる。

「ふー・・・」

『周泰さんは・・・体術も?』

「(ああ。どちらかと言えば明命は関節を狙うタイプだけどな)」

以前も一度折られかけたことがあるし・・・

「アル、ギアは・・・五段階が限界だよな」

『・・・はい。それ以上は身体に負担がかかります。・・・お勧めできません』

「だろうな・・・余力を残すかダメージ覚悟か・・・」

「お待たせ!」

シィが明命に殴りかかる。

「シィ!待ってた!」

「ごめんごめん。二人があまりにも速くて・・・キリエ、モード双剣でお願い」
『了解です!』

『シィさんに続きましょう、亮さん』

「ああ!シィ、掻き回してくれ。一発目覚まし代わりにぶちこんで見る」

「うん!」

今度は二人がかりだ。さすがの明命も多少は焦りが・・・見えない。

「はぁ!」

「たらぁ!」

だが、確実に隙は増えてる。俺はシィが明命に斬りかかったタイミングで背後に周り・・・拳を引く。

「拳を引き・・・身体の力、踏み込む際にも・・・」

拳を開き、指の第1、第2関節を曲げる。掌底の形だ。踏み込む足から回転させる腰、全ての力を無駄なく腕に、拳に伝える。

「アンチェイン・ナックル!!」

更に、クラナ特有の透明な魔力。そして彼自身が鍛え、増大した気を流す。気と魔力は反発しあい・・・更なる威力を生み出した。

ズガァァン!!

明命が防御するが、それごと吹き飛ばす。




『アンチェイン・ナックルを・・・』

『ただ、相棒達が使うのとは打ち方が違いましたね』

「ああ、自己流だ。クラナの魔力はすぐ消えちゃうらしいけど、魔力である以上気とは相性がよくない。消える前に爆発させれば威力の向上にも使える」


「ふーん・・・クラナ、全部終わったら手合わせしようよ」

『え?シィさんと・・・?』

『見た目はフェイトさんそっくりでも戦い方が違いますから・・・斬新な戦いになりそうです』



「・・・お喋りは終わりみたいだ」

見ると明命は立ち上がっていた。

「・・・どうやら逸らされたみたいだな・・・」



「決まったようにみえたけどなぁ・・・」

『服が破れただけ・・・ですね』

「マジかよ・・・」

初めて使う技じゃ手応えがよく分からない・・・咲の方は・・・



































咲~



「オォラ!!」

ガゴォン!

振り下ろした鎌は避けられ、直後に来た刃を回避する。

「っとと・・・」

「早貴ちゃん、離れて!」

サチさんが白い弾を発射し、恋が弾いた隙に剛鬼が攻撃するが、闇の障壁で防がれる。

「堅い上に破壊力抜群・・・なんつーチートだ・・・」

・・・今にして思えば、凄い人物と両思いだったのか・・・

「お互い大変だよな、剛鬼」

「・・・大変とは思わないな」

「・・・はっ、お前ならそう言うと思ったぜ」

恋が構え・・・俺達の横を抜けた。まさか狙いは・・・

「サチさん!」

「・・・っ!?」

見開いたサチの目が金色に染まる。

「サチはやらせない!」

身を捻って恋の一撃をかわし、蹴りを入れながらこちらへ跳ぶ。

「おまっ・・・またサチさんの身体を勝手に・・・」

「ちゃんとサチから許可もらったよ!私はサチを守るって決めたんだから!」


・・・俺と于吉より大分関係が良好なようで・・・

「・・・ごめんね、早貴ちゃん。この子は・・・」

気がつけばサチさんは元に戻っていた。

「いや、謝らなくていいよ。もうそいつに悪意がないのは解ってるからな。・・・つかよくそいつが出てくるな」

「うん、この子が一番戦いが上手なんだって。他の人達は戦いとかが苦手だって・・・」

「そっか・・・ごめんな、サチさん」


「え?」

「人を助ける為に使う手を誰かを傷つける為に使わせている・・・本当にごめん」

「・・・ううん。こんな状況じゃ仕方ないよ。戦えるのに戦わなかったら傷つく人がもっと増えちゃうから・・・今はできることを精一杯やらないと」


「・・・おい、何時まで無駄話をしている」

「別に無駄話って訳じゃないさ。なぁサチさん」

「うん。力・・・借りるね?」


俺とサチさんは姿を変える。

「っしゃあ、Aモード!」

「え、えっと・・・Gモード・・・?」

あ、採用してくれるんだ、それ。・・・さて、と。

「剛鬼、わりとガチで叩き込まないと恋は怯みすらしないぜ?」

「・・・ああ、解ってる。加減をして勝てる相手じゃない」

「やるしか・・・ないんだよね」


『っ、来るッス!』

恋の一撃を散開しながら回避する。・・・その一撃で地面にクレーターが出来たが。



「っとに洒落になんねぇな・・・!」


サチさんが槍を構え、突撃する。

「はぁぁ!」

それを恋は容易く弾き、サチさんに刃を振るが、それを弾いて・・・

「ライトフェザー!」

白い羽を撃つ。恋はそれを弾きながら何かを呟き・・・

「“燃える天空”」

・・・爆発がサチさんを呑み込んだ。

「サチさん!?」

「うぅ・・・!」

爆煙の中からサチさんが飛び出す。

「いい加減に目を覚ませ、恋・・・!」
剛鬼が恋に斬りかかり、俺も背後から接近する。

「リパル、剣!」

『ッス!』


リパルを変形させて剣を振り切る。・・・また闇の障壁に阻まれる。

「くっ・・・!?」

次の瞬間、恋の体から闇が吹き出し、その姿を変える。

「び、Bモード・・・」

『やっぱり使うッスよね・・・!』

「だが怯むわけにはいかないぞ」

「凄い・・・あの人・・・」

「サチさん、ダメージは?」

「大丈夫。あまり強くなかったみたいだから・・・」

その時、恋の刃に大量の闇が集まっているのが見えた。

「やべぇ!リパル、方天画戟!」

『ッス!?』

方天画戟を持ち、同じように闇を溜める。

「長期戦は不利すぎる!なんとか相殺に持ち込むからサチさんと剛鬼で頼む!」



「う、うん!」

「・・・ああ」

恋が闇を放つ。

「覚悟決めろよリパルゥッ!!」

『とっくの昔に出来てるッスよーー!』

「オラァァァァ!!」

闇と闇がぶつかる。だが・・・しばらくもしない内に押され始めた。

「ぐっ・・・闇の量は上なのに・・・!!」

『ど、どうやら恋さんは更に魔力も乗せてるみたいッス・・・!』

「負ける・・・かぁぁぁぁ!!」

Aモードに回した闇を方天画戟に籠め・・・一気に押し返す。

ズガァァン!!

闇と闇が爆発。・・・相殺した!

「はぁぁぁ!」



剛鬼が迫り・・・恋を吹き飛ばす。

「サチ!」

「はい!セイクリッド・・・ランス!!」

投げた槍が恋に当たり・・・視界が白に染まる。だが・・・

「・・・」

恋は立っていた。まったく効いた様子もなく・・・

「ったく・・・洒落になんねぇよ・・・」

Aモードが解除され、膝をつく。

「はぁ・・・はぁ・・・」

サチさんも大分体力的にキツイみたいだ。




「きゃあ!?」

愛依の悲鳴。俺は一時的にそちらを見る・・・
































愛依~

「つ・・・椿・・・?」

アタシの目の前に・・・椿がいた。

「愛依・・・なんでそっちにいるの?」

「な、何言ってるんだよ椿。椿こそ・・・そいつは元凶なんだ。椿とアタシを・・・」

「嘘つかないでよ・・・壊したのはコイツら・・・コイツらなんだから・・・」

「違う!この人達は・・・!」

「どうして・・・どうしてそんなこと言うの!?・・・そっか、愛依・・・闇なんか使うからおかしくなっちゃったんだ・・・」

「・・・っ」

椿が・・・怖い。なんでこんなに・・・椿が怖いの・・・?

「治さないと・・・愛依は私の味方だもん・・・愛依は・・・」

「椿・・・!このバカァ・・・!」


アタシは二本の偃月刀を構える。

「ほら・・・やっぱりおかしくなったんだ!愛依は私に武器を向けるわけないよっ!!」

「椿・・・止めてよ・・・!」

椿の刀と偃月刀がぶつかり合う。

「この・・・!」

「つ、椿・・・!」

力が入らない。椿が相手だなんて・・・今まで沢山の憎悪を受けてきた・・・けど・・・椿の憎悪を受けるなんて・・・思いもしなかった。

「わぁぁぁぁ!」

「あっ・・・!?」

椿に弾かれ、刃が・・・

「世話が焼けますねぇ!」

凌統が椿の一撃を弾き、闇風が姿を変えて椿と渡り合う。

「あ、あの・・・ありがとう、ござ・・・ひっ!?」

刃がアタシの首に当てられる。

「あまりにも馴染みすぎてて気づきませんでしたけど・・・仲間面しないでくれます?」

表情は笑顔。ただし、殺意が籠められて・・・アタシは身体が震える。

「あっ・・・あぁっ・・・」

息が出来ない。

「たまーに笑顔とか見せてたけど・・・ふざけてんの?」


「ち・・・違・・・」

ズン!

直後に凌統の拳が腹に叩き込まれた。

「ぐっ・・・おぇぇ・・・!!」

「違う・・・?何が違うの、破壊者」

「う・・・あ、ぐ・・・ひゅ・・・」

息が・・・


「この状況なら亮様も咲様も気づかない。アンタを殺しても、問題ないよ?」


ちなみにルークさん達は椿が新たに出したモンスター達と戦っていた。だから・・・今は誰も見ていない。

「アンタは仲間を消し・・・三國を滅茶苦茶にした・・・そんな大罪人が生きていられると思った?もしかして、この戦いで仲間面してたら勝手に許されると思った?」

「・・・う」

「は?」

これだけは・・・譲れない。

「違う・・・!咲達と戦ってるのは逃げる為じゃない・・・椿を助けて、罪を償うため・・・!!ここで殺される訳にはいかない!」

正面から凌統を見る。

「・・・殺される訳にはいかない・・・か。貴女が消した人間もみんなそう思ってたでしょうね」

「・・・アタシの能力で、みんな死んでない。それは周泰達で分かると思う・・・だから・・・アタシの世界を渡る力で全ての人を捜す!それが償いにもなるし・・・ううん、そんなんじゃ許されない・・・けど・・・今はそれぐらいしか思い付かない・・・」

「バカですか?何人の人間がいると思っているんですか。貴女達が消した世界がどれほどあると・・・」

「全部分かる。闇を持ってるからそれを探れば・・・いや、闇に頼らなくても・・・アタシは忘れたことなんてない・・・苦しむ人の顔を・・・能力で消した分だけ傷つくこの身体の痛みが・・・全てを思い出させてくれる・・・!」


「・・・じゃあここで私に殺されるとしたら?」

「今は・・・抗う。生きなきゃ罪を償えない。アタシは一人でもアタシなりにシンと戦う!」

「・・・」

凌統がしばらく冷めた目で見た後・・・笑った。

「はい、合格です♪」


「・・・は?」

「貴女が望んで破壊していなかったことは亮様達から聞きましたよ。ただ、貴女が本当に恐怖に負けずに自分がしでかした事から目を逸らさずにいられるか・・・それを知りたかったんです」

「え?・・・え?」

「ちょっと春鈴!何時までやっているのよ!」

「すみません、闇風様!あと少しお願いします!」



凌統はニッコリと笑って手を差し出してくる。

「さ、立ってください。怖がりなのにすみませんでした。私にも演技の才能があるかもしれませんね」

「あ、あの、でも・・・お腹・・・」

「斬られたお返しです♪」


・・・本当に、演技だったのだろうか。

「では先ずはこの戦闘を生き残りましょう。それで私に証拠を見せて下さい。ご褒美も上げます」

「ご褒美・・・?」

「私の真名を預けますよ」

「えぇ!?」

真名って大事なんじゃ・・・

「ほら、行きますよ!」

「は、はい!」


闇風が頑張っている所にアタシ達が突っ込む。

「まったく・・・こんな乱戦でよくあんな茶番ができたわね?」

「あはは、すみません。あんな状況じゃないと亮様や咲様に止められますからね」

「貴女、口を開いたら一流ね。そう言った職種に就くのを進めるわ」

「おあいにく様ですが、私の職は思春の副将で手一杯ですので」

「あら、残念ね」

「(なんでこの人達は話しながら戦えるの・・・!?)」




「うわっ!?」

「ぐぅっ!?」

その時、亮と咲が振っとんできた。


























亮~

「くっ・・・あ・・・がはっ!?」

明命の蹴りをくらい、イレギュラーキャプチャーが解除される。

「ちぃ・・・すまない、クラナ・・・」

「いえ・・・」

『まさかここまで速いとは・・・』





『あーーー・・・』


その時、シンが空に現れた。

「うーん、あまり面白くないなぁ・・・よし、こうしよっか」

パチン、と指を鳴らすと俺と咲が引っ張られ・・・周りに闇の壁が張られた。他の仲間は全て一ヶ所に集められた。

「何をする気だ・・・!」

「ん?簡単だ。君たち二人にはこれから殺しあってもらう」

「っ・・・バカなこと言ってんじゃねぇ!!」

「おっと・・・いいのかな?僕の気分次第じゃお仲間は一瞬で串刺しだよ?・・・あと、負けた方の恋人をズタボロにしてあげようか」

「「・・・っ!!」」


「君達に拒否件はないんだよ!!さぁ、殺しあってもらおうか!!」

「ふざけんな屑野郎!誰が・・・」

「・・・ふーん」

シンは恋に近づき・・・何処からか取り出したナイフで恋の肌を浅く切り裂く。

「・・・っ!!」

ジャキン

「っ・・・さ、き・・・?」

咲は・・・俺に武器を突き付けた。

「わりぃな亮・・・お前一人と恋やみんな・・・天秤の傾き具合を言うまでもないだろ?」

『咲さん!?本気ッスか!?亮さんを・・・!』

「リパル・・・“今は”黙って力を貸せ。お説教も・・・後で聞く・・・!!」

『咲、さん・・・』

「・・・分かったよ、お前がそのつもりなら・・・!!」

ジャキン

擬音を咲に向ける。

「お前が先にケンカを売ったんだ。・・・死んでも怨むなよっ・・・!!」

「俺は負けねぇ。死ぬのはお前だ・・・亮!」

この状況で・・・俺達は最悪な一騎討ちを始めた・・・・・・




 
 

 
後書き

「ふぅ・・・」

玲奈
「(チラッチラッ)」


「君、誰?」


玲奈
「あ・・・えっと、私は神無月 玲奈。作者さんが書いてるもう一つの作品の主人公です!」


「ああ・・・なんで来たの?」

玲奈
「自己紹介というなの宣伝です!私の物語もよろしくお願いします!」


「あはは・・・まぁ、気が向いたら見てください・・・」

玲奈
「それではまた次回!」

 

 

起死回生~

 
前書き
遂に仮免許&卒業式です!長いようで短い三年間でした・・・ま、僕のことは置いといて。ではどうぞ! 

 

「本気、なんだな」

「この状況で洒落を言う余裕はねぇよ」

俺と咲はお互いに武器を突き付けたまま話す。

「・・・解ってるだろ。ここで俺達のどっちかが・・・」

「死んだらリーチってことだろ。・・・解ってんだよ、んなことは。だけどな、やるしかないんだ、俺は」

・・・確かに、人質の数が多すぎる。アイツなら一人や二人は・・・

「お喋りは終わりだ。・・・行くぜ、亮」

「・・・くそっ!」

咲が方天画戟を振り払う。それを擬音で弾く。


「ふっ!」

身体を捻って回し蹴りを放つが咲はそれを腕で受け止める。

「らぁっ!」

逆回転して擬音で斬りつけるが咲は避けて方天画戟の石突き部分で顔面を狙ってくる。

ガキン!

人解で防ぐがそのまま吹き飛んで距離が開く。

「猛虎獣衝撃!」

「ダークファイガ!」

闇と気がぶつかり、相殺される。

「くっ・・・はぁ・・・ふぅ・・・」

「どうした・・・息が上がってるぜ、亮・・・」

さっきの戦闘で気が少なく・・・

「・・・はっ、お前だって本気じゃねえだろ、咲」

「・・・お前にはAモードを使う必要もねぇよ・・・」

・・・どうやら咲も体力的にキツイらしい。よく見ると顔に疲労の色が浮かんでいた。

「短期・・・決戦だな」

気が少なくなってる今なら・・・使える。

「はぁぁぁぁ・・・」

気と魔力を均等に調整する。身体を鍛えて気が増加しすぎたせいで使う機会がなかったのだが・・・

「咸掛法!!」

身体が多少軽くなる。

「チッ・・・そういやそんな技能持ってたな・・・ならBモードだ!!」

咲の姿が変わる。

「なんつーか、久々だな。この姿でテメェと殺るなんてな」

「あぁ。ったく、なんでこうも争うのかな」

口は軽く、目は相手を睨み、手は武器を握り締める。・・・何をやってるんだ、本当に・・・

「てぇぇやぁぁ!!」

擬音を振り下ろし、弾かれたなら瞬動で背後に回って拳を放つ。

「ちょこまかと・・・!」



咲は武器を鎌に変形させ、不規則な軌道で攻めてくる。

「ふっ!はぁっ!」

「ぐっ、この・・・」

カァン!キィン!



形状的にあまり近くで刃を受けると身体に刃が届いてしまう。出来る限り弾き飛ばし、つばぜり合いには持ち込まないようにする。

「っと・・・!オラァ!」


合間を狙って気弾を放つが咲は咄嗟に身を捻って回避する。

「そこだ!」

跳び、叩き付けるように拳を放つ。

ガァン!

「ぐはっ・・・」

咲が吹き飛ぶが、左手を地面に叩き付けてブレーキをかけた。


「やってくれんじゃねえ、かっ!?」

ドゴォン!

瞬動で踏み込み、今度は腹に叩き込む。そして・・・

「気功破!」

ズン!

「がっは・・・」



もう一発・・・!

「ザケん・・・な!」

ガキィン!


咲が腕を出し、擬音と競り合う。

「なろっ!」

地面を蹴り・・・咲の目に砂をかける。

「っぐ・・・てめぇ!」

気配を消し、無心となって背後に回る。

「(・・・終わりだ)」


『・・・っ・・・!・・・咲さん!背後右四十五度!!』


「っ・・・!!」

ガキィン!

「なっ・・・!」

「調子に・・・!」

咲に弾かれ、隙が出来る。咲は腕に溜め・・・

「しまっ・・・」

「乗ってんじゃねぇ!!」

ズガァァン!

「っが・・・!」

闇をぶつけられ、そのまま地面を転がる。


「ぐっ、ち、畜生・・・がはっ!」

血を吐き出す。・・・中にまでダメージが入ったのか。

「リパル・・・」

『オイラには黙って見ている事なんて出来ないッス。今やってることはおかしいッスけど・・・オイラは咲さん信じるッス。咲さんはもう無意味なことしない筈ッスから・・・』


「・・・サンキュー、リパル。これなら確率が上がる」


「はっ・・・また・・・二対一か・・・?」

気合いで立ち上がり、擬音を逆手に持って右手で迷切を引き抜く。


「二人で一人と思ってくれよ。リパル、剣だ」

『ッス!』



咲がダークリパルサーを持ち、手斧を空間に投げ入れる。

「・・・っ!」

俺は瞬動を使おうとするが・・・

「閉じろ」

それよりも速く、咲が目の前にいた。

「・・・!!」

「そんくらいの芸当なら俺も出来るんだよ!」

ビュン!

ギリギリで避ける。

「っぶな・・・いな!」

踏み込み、擬音を振り下ろしてから迷切で切り上げる。

ガキキン!


「っ・・・ハァァ!」

横一線。それを逸らして蹴りを叩き込む。

ガツン!

「ぐっ・・・やっぱり真っ向勝負じゃ分が悪いか」

『距離を開きながら隙をつくッス!』

「ああ!」

咲が手に銃を持つ。

「タイトバレット!」

「うっ!?」

飛来した銃弾を弾いていく。・・・やっぱりこっちのが咲らしい戦い方か・・・!

「射出!」

「なぁ!?」

更に大量の武器が飛んでくる。それの対応に気を取られ・・・

『っ、今ッス咲さん!』

「応よ!」

咲が飛び込んでくる。

「コイツ・・・がっ!?」


飛来した武器が擦り、よろめくが・・・それでもなんとか立ち直して咲の一撃を弾く。



「ふらついてるぜ、亮!」

「抜かせ!」

そのまま乱舞を繰り返し、お互いに距離を開く。


「・・・これ以上は面倒だ。・・・決めるぜ、亮」

「ああ・・・これで終わりだ」


擬音を突き刺し、迷切に全ての気を注ぐ。


「・・・!」

咲も闇を全て剣に集め、構える。



「ハァァァァァ!!」

「デヤァァァァ!!」


お互いの一撃が当たると、激しい光と爆発音が全てを呑み込む。


「・・・っ!!」

地面を滑り・・・なんとかブレーキをかける。

「咲は・・・っ」


煙に包まれ周りが見えない。集中して咲の気を探ろうとした瞬間・・・

「“開け”」

ズン


・・・背後から、声。視界には、自らの体から生える刃。

「・・・マジか・・・」


そう、俺は呟いた・・・・・・






































咲~

「・・・わりぃな、亮」


「・・・く・・・あ・・・」


空間から取り出した刀が亮を貫き・・・亮はそのまま倒れた。


「くく・・・はは・・・はーっはっは!!」


シンが笑い、俺を見る。

「本当に殺しちゃったよ!怖いねぇ、咲くんはぁ!簡単に親友を殺しちゃうなんて!」

「・・・天秤にかけたら亮が軽かった。・・・それだけだ」

「うんうん、いい考えだよ!っと、とりあえず・・・見てもらおうか」


パチン、と指を鳴らすとみんなを閉じ込めていた闇の壁が消滅する。

「・・・っ!!」

真っ先に反応したのは春鈴だ。亮を見た瞬間、膝を着く。

「亮・・・様・・・?」

確実に胸元・・・心臓を刺し貫かれているであろう位置。・・・人間なら死ぬだろう。

「嘘、ですよね・・・?そんな・・・え・・・?どうして・・・」

どうやら思考が追い付いていないようだ。

「早貴・・・お前・・・」

キリトが変なものを見るような目で俺を見る。いや・・・ほぼ全員が亮と俺を怪訝な目で見ていた。・・・“ありえない”とでも言いたそうに。


「ちょ、ちょっと待ってよ・・・リパル!亮は死んでるの!?」


シィが聞くとリパルは言い淀み・・・

『っ・・・亮さんは心拍、脈拍、共に停止・・・死亡ッス・・・』


「な・・・き、キリエぇっ!?」

「アル・・・!」


シィとクラナがそれぞれのデバイスに聞くが・・・

『・・・残念ながら』


『相棒・・・結果は変わりません』

「「・・・!」」


自身のデバイスにすら言われ、二人は沈黙する。

「早貴ちゃん・・・どうして・・・どうして亮を・・・!」

「殺るしか道がなかった。・・・言い訳はしない」


いや・・・理由なんてとっくに理解してるだろう。


「・・・リョウが・・・」

みんなの目に・・・悲しみ。

「あははは!いや、本当お見事だよ、咲!」

「・・・だったら・・・!」

愛依が亮に向けて手を向けるが・・・

「“止まれ”」

「うっ!?あぁぁぁ!?」

シンが言うと愛依は頭を抑えてうずくまってしまう。

「そんなの使ったら興醒めじゃないか。・・・もうその力は没収しちゃおっか」

シンが言うと愛依から何かの光が出てきて、それはシンと一体化する。



「さて、と。お疲れ様・・・と言っておこうかな?」

シンが俺に近付いてくる。

「・・・随分不用心に近づくんだな」

「君程度の攻撃が僕に届くと思うのかい?」

「・・・試してやろうか?」


「おぉ、恐い恐い。ただ・・・あまり調子に乗らない方がいいんじゃないかなぁ?」

シンが俺の真っ正面に立ち・・・俺に蹴りを入れた。

「ぐっ・・・!?」

「ムカつくんだよ、その顔・・・さーて、第2ラウンドに行こうか?」

「なんだと・・・!」

「あっはっは!誰が亮だけって言ったかなぁ!?このまま君達には殺しあいをーーーーーー」

シンの言葉が止まる。何故かって?簡単だ。

「な・・・に・・・」


シンの身体に・・・迷切が突き刺さっていた。よろめくシンの背後にいたのは・・・

「やっと隙を見せたな・・・この屑野郎が・・・!!」

「亮、様・・・!!」


亮だ。亮が背後からシンを貫いていた。

「ば、バカな・・・!確かに心臓を貫かれた筈だ!君は闇は・・・」

すると亮はニヤリと笑って刺さった刀を指差す。

「ああ、これ?・・・よく見ろよ」

亮がシャツのボタンを外す。するとそこには・・・空間があった。

「俺が本当に亮を殺すと思ったか?最後の開閉能力は武器を取り出すのだけが目的じゃなく、亮の前後に空間を出す為だったんだ」

「後は咲がそこに的確に刃を通すだけ。・・・そして油断した馬鹿を貫くって作戦だ」


「で、ですが亮様・・・リパルさん達は・・・あっ!」

「・・・まさか、アル!?」

「キリエっ!?」

『すいませんッス・・・嘘、ついたッス』


『申し訳ありません、相棒。的確な筈のリパルのサーチでああ言ったので・・・』

『咄嗟にこちらも乗っかってみました』

「「・・・」」

シィとクラナが自分のデバイスの発言に口をひきつらせる。


「貴様・・・貴様ぁ・・・!!」

シンが怒りで顔を歪め、その場から消える。

「な・・・」

そして少し離れた位置に現れ・・・

「この・・・虫けら風情がこの僕に・・・またこの僕に傷をつけたなぁ・・・!?」

「おうおう、随分余裕がなくなったじゃねぇか」


「それで、ここからどうするのよ?」

「・・・考えてない」

「はぁ!?」



闇風が驚く。

「いや・・・正直さっきの戦闘で気がすっからかんでさ・・・」

『でしょうね。相棒が気を感知できませんでしたから』

「アルが余計な事を言ったから先入観で・・・」

「んで、俺も闇を使いすぎた。・・・正直喋るのも気だるい・・・」


なんとかこの場を気合いで乗り越えないとな・・・


「遊びは終わりだ・・・!椿、明命、恋!コイツらを皆殺しにしろ!!」



三人が集まる。

「(不味い・・・!)」

だが・・・次の瞬間、椿が倒れた。

「・・・え?」

誰かが発した声が辺りに響く。椿の背後に・・・手刀を使ったであろう、明命の姿。

「な、なに・・・?」

明命は・・・口を開いた。

「ーーーそうですね。遊びは終わりにしましょう」


「な・・・っ!?」

恋が闇の刃をシンに向ける。シンはそれを障壁で防ぐが・・・

「・・・弱い奴は、死ね」

障壁ごと・・・シンを吹き飛ばした。

「・・・邪魔です、私の前に立たないで!」

そのまま流れで、明命は障壁が張られてない部分に瞬間で移動し・・・横一文字に切り裂いた。

「がぁっ・・・!?」





シンが吹き飛び・・・空中で体制を立て直した。

「明命・・・?」


「恋・・・?」


俺達が声をかけると・・・明命は笑った。

「はい。周幼平、ここにありです!」

「・・・咲、久しぶり」

その顔と声は・・・俺達の知る彼女達だった。

「な、何故だ・・・何故僕の洗脳が解けたんだ・・・!?」

「そんなの簡単ですよ」

「・・・恋達は元からお前の言いなりじゃない」

「た、確かに君たちは精神的に追い込んで・・・」

「亮があんな簡単に死ぬわけありません」

「・・・咲も同じ」

「ですが、このまま耐えていても仕方がありませんから・・・賭けに出ました」

賭け・・・?

「・・・演技をして、お前の技に耐える」

「結果はご覧の通り・・・あなたは簡単に騙されただけではなく、私たちを強化してしまった」

「・・・後は時を選んで動くだけ」

「それが今来た・・・ということなのです」



「そ、そんな訳が・・・再生させたとはいえ、傷だらけの体で想い人を・・・?」


「私の思い込みかもしれませんが亮は・・・どんな私でも、愛してくれます」


「思い込みじゃないさ・・・心が明命なら、俺は明命を愛し続ける」


「家族の絆はそんなもんじゃ断ち切れない・・・だろ?恋」

「(コクッ)」

「こ、この・・・こうなったら・・・閉じ込めた全ての人間を消滅させてやる!!」

「無理ですよ。・・・あなたが檻として使用していた世界は既に紫さんが発見したでしょう」

「・・・恋達がやったのも、全部紫の所に送った」

「なにぃ・・・!?」



「あなたの詰みです。諦めて・・・」

「・・・コケにしやがって・・・こうなったら・・・!!」

シンが言うと辺りが震え出す。

「この感じ・・・まさか!」

「そうさ!こうなったらこの世界ごとお前たちを消してやる!!」


「くっ・・・」


辺りが裂け始めたその時・・・新たに大きく空間が裂けた。その中から・・・


「亮さん!」

「咲!」

・・・亞莎と詠が飛び出してきた。

「亞莎!」

「え?・・・あぁ!?明命!?ど、どうして・・・」

「・・・詠、久しぶり」

「は・・・なぁ!?あ、アンタ・・・なんで・・・!?」

亞莎も詠も困惑してるみたいだが・・・

「と、とにかく!紫が逃げ道を繋いでくれてるわ!」

「みなさんはこのスキマに飛び込んで下さい!」

それぞれがスキマの中に飛び込んで行く。明命は椿を、恋は愛依を抱える。

「この子達は引き取らせて頂きます」

シンは歪んだままの顔で笑う・・・

「いいさ・・・椿の力なんて僕でも使える・・・そんな奴等はもう用済みだ・・・!・・・それよりも、どうせ真実を話すんだろう?椿達は耐えきれるのかなぁ」

「・・・明命?真実って・・・」

「・・・後でお話します。・・・行きましょう、亮」

「あ、ああ・・・」

「覚えておけ・・・必ず消してやる・・・」


その言葉を聞きながら俺達はスキマに飛び込んだ・・・ 
 

 
後書き

「明命!」

明命
「ただいまです、亮」


「本物・・・なんだよな」


「・・・偽物に見える?」


「いいや、本物だ」


「今回は演技だらけだったなぁ・・・それに真実って・・・」

明命
「それは次回のお楽しみなのです!」


「・・・次回も、見て」

明命
「それでは!」 

 

準備期間~

 
前書き
今回ネタバレ抜群です。分かりやすい伏線だらけなので今更感もしますが・・・ではどうぞ! 

 
「うわ・・・」

俺と咲はスキマから投げ出され、落下する。

「いたた・・・」

「おい・・・亮・・・そこ退けよ・・・」


俺は咲を下敷きにしていた。

「あ・・・悪い悪い・・・」

「ったく・・・」

俺達は立ち上がって辺りを見渡す。そこは・・・見覚えがあった。

「ここは・・・呉・・・?」

呉の首都、建業。俺達はそこにいた。

「どうして・・・」

「・・・亮?」


背後から声をかけられ、振り返る。そこには・・・

「おお!やはり亮か!」

「祭さん!?」

祭さんだ・・・てことはやっぱり・・・

「やはり来たか。ほれ、城に行くぞ、亮」

「え?」

「少し前からお主の知り合いが多数現れての。儂はそいつらを保護する為に見回っておったのじゃが・・・」

「偶然俺達を見つけた・・・ってこと?」

「うむ。しかし、亮も咲も見違えたぞ」

「そうかな?」



「そりゃ何十年って旅だったからな・・・」


・・・てなわけで、俺たちは城に行き、玉座へ向かう。

「失礼、呉王はいらっしゃいますか?」

ふざけて言うと・・・中からは・・・

「誰だ。今・・・あ・・・りょ、亮・・・?」

俺は蓮華に笑顔を見せる。

「・・・元気そうだね、蓮華」

「あなたも・・・無事で・・・」


その時・・・背後から明命達が入ってきた。

「あ・・・あぁ・・・!」

蓮華が笑顔を浮かべ・・・涙を流す。

「・・・蓮華様、周幼平・・・ただいま戻りました」

「・・・ええ・・・!」



・・・とりあえず、形式として俺たち四人は片膝をつき、蓮華の前に頭を垂れる。咲や他の面々は外で待ってもらっている。

「・・・呉王、孫権様。天の御遣い、大澤亮は与えられた罰を果たし・・・」

顔を上げ、蓮華を見る。

「幼平、興覇、子明をこの場に連れ帰ってきた。・・・ただいま、蓮華」

「・・・確かに報を聞いた。その働きを認め、私に逆らった罪を許そう。・・・お帰りなさい、亮」

そして蓮華はみんなを見て・・・

「そして、思春、明命、亞莎も・・・お帰りなさい・・・心の底から嬉しいわ」

「蓮華様・・・」

「・・・勿体無いお言葉です・・・」

「・・・でも、私も嬉しいです・・・」

そのタイミングで・・・入口が開き、咲が顔を出す。

「もういいか?そろそろ通路が人でつっかえてきたんだけど」

「ああ・・・入ってくれ」

蓮華が言うと沢山の人間が入ってくる。・・・そんな矢先・・・

「亮お兄ちゃん!」

「直葉!?よかった、やっぱり無事だったのか。・・・ってなんだよその格好」

今の直葉の格好は・・・リーファではなく直葉そのものだ。しかもSAOチックというか・・・

「私がやったのよ」

来たのは水色の髪の・・・

「確か・・・シノン、だっけ」

「ええ。・・・傍観者としての力で、平行世界の可能性を移せるのよ」

「・・・つーことはアレか?“直葉がSAOをプレイした”っていう外史の直葉の見た目を、ここの直葉に移したってことか?」

「見た目だけでなく、能力も引き継いでるから・・・元のソードスキルも使えるわよ」


「ふーん・・・」

「それに、一足先にあたしも気の使い方を教わったから、亮お兄ちゃんの足手まといにはならないよ!」

「・・・まだ、戦うのか?・・・死ぬかもしれないぞ?俺は・・・」

「死ぬ気なんてないもん。それよりもあたしは亮お兄ちゃんたちが帰ってこない方が嫌だから・・・」

「まったく、兄さんは女性泣かせですね」

「ヒュー!」

「俺達を忘れるなよ?」

「リョウ、無事でよかった」

「キリトにアス兄も・・・」

「・・・亮、説明してほしいのだけど・・・」

「あ、ああ。こっちの二人が一つ目の世界での家族・・・兄のアスベルと弟のヒューバートだ」

「(リョウ、この人は・・・)」

「(話したでしょ?俺の主。この国の王様」

「(なっ・・・)」

「お初にお目にかかります。私はストラタ共和国のヒューバート・オズウェル少佐です」


「あ・・・俺、いや私はラント領の領主のアスベル・ラントです」



「んで、こっちが二つ目の世界での家族で・・・兄の和人と妹の直葉。兄貴の方はややこしいからキリトって呼んでよ」

「えっと・・・どうも、キリト・・・です。よろしくお願いします・・・蓮華、だっわ!?」


思春が素早くキリトの首を押さえ、慌てて耳打ちする。

「(この馬鹿者!認められても居ない者が真名を呼ぶな!)」

「(え、えぇ!?アレが名前じゃないのか!?)」

キリト・・・真名についても説明したのに・・・

「(で、でも春音・・・そうしたらあの人の名前はなんなんだよ?)」

「(あの方は孫権様だ。いいか、真名を口走ったら命が無くなるぞ)」


「思春、気にするな。・・・それに別にこの者達をまったく知らない訳ではない」

「はっ・・・と申されますと・・・」

「以前、三国が再び襲撃を受けたが・・・リョウコウが我らを助けてくれた。その際に市民から話を聞いたのだ。黒き衣を纏った二刀の男と、白き衣を纏った疾風のごとき女が敵を蹴散らした・・・と」


「それって・・・」

「恐らく、お前の事だろう」


蓮華が笑う。

「別世界と言えど、そなた達に民を・・・国を救われた。真名を預けるのに充分に値する」

「・・・だそうだ。よかったな、和人」

思春に言われ、キリトは頭に?を浮かべたまま頷いた。

「あ、桐ヶ谷直葉です!孫権さん、初めまして!」

直葉が小さく「これがあの三國志の・・・」と呟いていた。歴史好きな直葉の事だからこの世界は驚きだろう。・・・ただ、後で聞いたけど直葉はセイバー達にも会ってたみたいだ。


「・・・あのさ、蓮華。俺達は蜀に行きたいんだが・・・」

咲が言った時、スキマが開いて紫が出てくる。

「ふふ・・・遂にここまで来たわね」

「紫・・・楽しそうだな」

「ええ。人様の世界を踏み込んだ借りを存分に返せるのだから、楽しくもなるわ」


おお、恐い・・・

「なあ紫。この世界に転移させてるのは・・・」

「無論、この世界でケリを付ける為よ。・・・これはあなたの世界の住人の意思でもある」


・・・反対しようとしたら釘を刺されたみたいだ。


「相手が数で来るならこちらも数で挑む。・・・亮、咲。・・・二日よ。今全力でアイツを抑えている。だから二日期間を上げるから、その間に状態を完璧にしなさい」


「・・・わかった」

「また、そちらには今回の旅の仲間を援軍として送るけど・・・一部はこっちで借りるわね」

「ああ、構わない」

「・・・なら、私は戻るわ。・・・負けたら許さないわよ」

そう言って紫は姿を消した。それを見計らって蓮華が口を開く。

「咲、桃香たちならこちらに向かっている。霞を含む董卓軍も同行しているそうだ」

「・・・そうなのか」


気がつけばどんどん騒がしくなっていた。


「おーっす、お邪魔するぜー」

「お、お邪魔します・・・」


そんな中、不意に中に入ってきたのは・・・

「あ・・・リョウコウ!?」

「よっ、相変わらずだな、少年」

「少年言うなっての」


リョウコウだ。何時もの着物姿に・・・あれ?

「おいリョウ、後ろの人は?」

見るとリョウコウの背後にはフードを被った女性がいた。

「ん?あぁ、連れだよ連れ」

「ひ、久しぶり、亮・・・あ、じゃなくて初めまして、だよね・・・あれ?」

「初めましてでいいんだよ。お前、こっちの亮や咲とは初めてだろうが」


「?・・・」



「・・・そうだよね。亮、咲、私は・・・・・・ど、どうしよう、りょう・・・」


「はぁ・・・コイツは美幸だ。そう呼んでくれや」

「あ、あぁ・・・」

俺が首を捻っていると・・・

「・・・サチ?」

蓮華が玉座から立ち上がり、美幸に近づく。

「あ・・・」

「・・・やっぱりサチね。どうしてそんな物を被っているの?」



「う・・・れ、蓮華・・・」

「?」

隣でリョウコウが顔を抑え・・・何かを諦めたかのように美幸のフードを掴んで降ろした。

「あっ・・・!りょ、りょう!?」

「もう手遅れだっつの。わりぃ、紹介し直す。コイツは麻野美幸。プレイヤーネーム“サチ”だ」



「え・・・」

その言葉を聞いて俺は固まる。見た目こそALOのアバターだが・・・確かに、サチと言われれば納得する。

「・・・あ・・・」

「レコンやヤミやクラナに引き続いての切札ってとこだな」


「・・・」

別世界のサチに聞きたいことがあった。けどそれはいざとなると口には出ず・・・

「・・・同じだよ、亮」

「え・・・」

美幸が目の前に立っていた。

「私の世界でも・・・月夜の黒猫団で生き残ったのは・・・私だけ」

「・・・!!」

俺は歯を食い縛る。

「・・・リョウ、一つ聞かせてくれ。お前は本来の・・・正史に存在するソードアート・オンラインの世界は・・・」

「・・・ああ、知ってるぜ」

「・・・そこでも、月夜の黒猫団は・・・」



リョウコウが一度美幸を見て、美幸が頷いたのを確認してから口を開く。

「・・・全滅だ。当然、“サチ”もな」

「・・・そう、か」
その時だった。こちらのサチがやって来た。

「・・・亮」

「サチ・・・聞いてたのか?」

「うん・・・」


俺は頭を掻く。

「・・・何と言うか、難しいな・・・外史って・・・」

「ま、難しく考えんなや。お前は確かにサチを救った。それでいいじゃねえか」

「・・・はは、そう考えとくよ。ところで、同じ“サチ”がいて世界的には平気なのか?」

「元はサチでも殆ど別存在だから問題ねぇだろ。しかも本名もちげぇんだからな」

「あ・・・紗智と美幸・・・」


つまり世界は別人と見てるのか・・・


「・・・あの、亮・・・いいですか?」

「ん?なんだ、明命?」

「・・・お話したいことがあります」

俺は皆に断ってから外に出る。ちなみにリョウコウと美幸はこの世界が襲撃された際にも長く滞在していたため、一部の人間には真名を託されているらしい。しかもリョウコウに至っては霞の副将という名目で魏軍に書類上所属しているそうだ。



「・・・何処に行くんだ?」

「椿を休ませているところです。先に恋さんや咲さんも移動してもらっています」

・・・案内された部屋に入ると・・・

「あ・・・亮・・・」

椿が起きていた。隣には愛依もいる。

「目が覚めましたか。気分はどうですか?」

「えと・・・少し、気持ち悪いです・・・周泰、さん・・・」

「明命で構いません。いえ・・・あなたにはもっと別の呼ばれ方があるかもしれませんが・・・」

椿は明命と目を合わせていない。・・・当たり前だ、“殺した”相手が目の前にいるんだ。その手足は尋常じゃないほど震えていた。

「なぁ明命よ。いい加減話してくれないか?恋に聞いても秘密の一点張りで・・・」

「はい。・・・ですが、この事実はとても衝撃的です。私や恋さんも判明した時は動揺を禁じ得ませんでした。・・・椿、愛依にとってはとても辛い真実でしょう。・・・覚悟はいいですか?」

「・・・俺達はとっくに出来てる」

「アタシも・・・聞きたい」

「・・・わたし、も」



明命が大きく息を吐き・・・

「・・・紫さんの協力を得て、二人の元の世界が判明しました」

「「・・・!!」」

「シンが言っていたので最初は私も信じられませんでしたが・・・」

「それで、何処の世界なんだ?俺は特に覚えは・・・」

「・・・恋姫ですよ、亮」

「・・・え?」

「・・・どういうことだ?」

「・・・そのままの意味」

恋の言葉に首を傾げる。

「・・・じゃあ武将なのか?でも、恋姫に二人はいなかったような・・・」

「・・・亮、二人は確かに本来はいないかもしれません。これを見てください」

明命が部屋から持ってきた魂切と椿の刀を持つ。

「一見長さも鞘も違うように見えますが・・・」

「あ・・・柄が同じ・・・」

持ち手が両方とも同じデザインだ。


「そして椿の能力は・・・他者の記憶を持ち、それを具現化したり、それを使って“真似”をする力」

「・・・!!」

「・・・そして愛依は、恋と髪の色が同じ。・・・闇も使える」


「あ・・・あ、あぁぁぁ・・・!!」

咲が驚愕する。・・・そして明命はその真実を口にする。

「椿は・・・私と亮のーーーーーー娘なのです」



「「・・・・・・!!」」

「愛依は・・・恋と咲の・・・子供」



・・・え・・・なんだって?子供・・・娘だって!?

「ま・・・待ってくれ明命・・・でも、こんな・・・」

「疑問はごもっともです。あくまでこの二人がいたのは“平和を得られた世界”の恋姫です。恐らく、ある日生まれたシンはその力の限りを使って世界を壊して回っていたんでしょう」

「・・・だけど、ある時、恋姫の世界に目をつけた」


「何時ものように世界を怖そうとしましたが・・・亮や咲さんの抵抗により、傷を負いました。確かにその外史は壊されましたが・・・傷を負わされた事が気に障ったのでしょう」


「・・・アイツは・・・生きてた愛依や椿を利用しようと考えた」

「記憶を消し、自らの人形として・・・基点であるこの外史の亮と咲さんを自らの娘に殺させる事で鬱憤を晴らそうとしたのです」

「・・・他の世界を破壊してたのは、椿の能力と愛依の闇を強化するため」


「そして・・・あの戦いに繋がります」


俺は・・・壁に拳を叩き付けた。

「なんだよ・・・それ・・・なんなんだよ、それはっ!!」

「アイツ・・・!!心の底から腐ってやがる・・・!!」

咲も闇が滲み出すくらい、怒りが露になっていた。だが・・・その怒りはすぐに消える。何故なら・・・


「嘘・・・周泰が・・・お母様・・・あ・・・わた、し、わたし・・・!お母様に、お母様をさ、刺し、刺して・・・あ・・・あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

椿が髪を振り乱しながら絶叫する。

「アタシ、母さんを、母さんを闇に・・・そんな・・・そんなぁ・・・う・・・うあ・・・うわぁぁぁぁ・・・!」


愛依は椿とは逆に泣き崩れてしまう。だが・・・明命と恋が、それぞれを優しく抱き締めた。

「お母、様ぁ・・・ごめんなさい!ごめんなさいぃ・・・うわぁぁぁぁ!!」

「・・・いいんです。いいんですよ、椿。それに、本当に謝らなくちゃいけないのは私です。あなたを守れなかったから・・・背負う必要のない重荷を背負わせてしまったのですから」


「お母様ぁ・・・!!お母様ぁっ!!」

取り乱す椿をただひたすら明命は抱き締める。

「母さん・・・闇を・・・ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・!」

「・・・大丈夫、気にしてない」

「・・・もっと、もっと何か言ってよ・・・母さん、なに考えてるかわかんないよ・・・怒ってよ、アタシを怒ってよぉ!」

「・・・怒る必要なんてない。・・・ごめんね、愛依。恋が弱いから、愛依が苦しい思いをした。だから、今度はちゃんと守る」


「母さん・・・やっぱり、母さんは変わらないよ・・・」


どうやら明命の言葉で二人にも記憶が戻ってるみたいだ。・・・落ち着くのを待ってから会話を始める。



「・・・椿」

「あ・・・り・・・お父・・・様・・・」


「・・・明命が言ったのは間違いないんだな?」

「・・・うん。私は、周幼平と大澤亮の子供・・・そして愛依は咲さんとれ・・・呂布さんの子供」

「なんで・・・こんな大事なことを・・・」

「・・・仕方ねぇさ。あの屑に記憶を抑えられてたんだ」


俺は椿の頭を撫でる。

「九年間も・・・よく頑張ったな、椿。・・・ダメな父親でごめんな」

「お父様・・・わたし、わたし・・・」

俺は椿に微笑みかけ・・・その時、咲が口を開いた。

「・・・愛依が俺の娘ってのは分かった。実感湧かないけど、事実だしな。・・・問題はこの後だ」

咲が言いたい事はわかる。

「蓮華にどう話すか・・・だよな」

「ああ。普通ならあんな事したら打ち首もんだ。・・・けど、俺は・・・」

「明命、もし蓮華に打ち首を宣告されたらどうする?」

「・・・私は・・・国を、捨てます」

「っ!?」

「そんな・・・ダメだよお母様!?」

「家族を守れなくて国は守れませんよ、椿」

「わたしは本当の娘じゃない!この世界の椿だって生まれるかもしれないんだよ!?だから・・・」

「関係ありませんよ。“私の娘”である以上、どこの世界の椿も大事な家族です。・・・あなたの母親の明命もそう思う筈です」

「お母様・・・」

「まったく・・・大罪だぞ、明命」

「本当に国は捨てませんよ。国の隅でひっそりと暮らして、悪が現れたなら傭兵のように戦う。・・・そんな生活もいいですよね」

「・・・そうなったら俺もお前と運命を共にするからな」

「亮・・・ですが」

「・・・本当にその時になったらどうなるかは俺にも分からない。でもな、明命は・・・人を殺した恐怖に潰されかけた俺を救ってくれた。恋姫から消える時も戻れる保証はないのに着いてきてくれた。ずっと色んな世界で助けてくれて・・・身も、重ねた。・・・それなのに俺はまだ明命に何も返せてちゃいない。・・・明命の幸せの為に俺は動きたい」


「くすっ・・・充分、幸せですよ。亮に出会えただけで・・・私は満たされています」

そこで明命は笑う。

「いいんですか?蓮華様や思春殿達が怒りますよ?」

「・・・沢山愛すべき人がいるのは大変だな・・・あはは・・・」




「話は終わったか?」

咲がニヤリと笑いながら聞いてくる。

「お前も悩まなくていいのかよ?」

「生憎答えは一個だけなんだよ。なぁ恋?」

「(コクッ)」

咲と恋は口を開く。

「「家族を守るのは当たり前」」


「・・・お前らは単純でいいのな」

「お前が考えすぎなんだよ。頭悪いのに」

「んだと!?」

「お、お父様、ケンカはダメだよ」

「そうだよ父さん・・・」


「くくっ・・・あはは・・・」

「ははは!」


俺と咲は笑う。年の近い娘・・・か。

コンコン

「亮様、蓮華様がお呼びですよ」

春鈴の声が扉の向こうから聞こえ、椿と愛依の表情が固まる。そんな椿と愛依の頭に俺と咲は手を乗せる。

「大丈夫」

「俺達が守ってやるからよ」

「「・・・うん!」」




そして再び蓮華が待つ玉座へ向かう。椿と愛依は震えながらもしっかりと蓮華の正面に立つ。

「・・・貴様達が今回の騒動の主犯か?」

鋭く刺さる蓮華の声。二人は再び肩を震わせながらも・・・

「「・・・はい」」

ゆっくりと、肯定した。確かにシンは直接的には関わらなかっただろう。・・・あの事件に関しては。


「・・・貴様達が起こした事の重大さは解るな?」

「「・・・はい」」

「貴様たちはどうやってこの罪を償うつもりだ」

先に口を開いたのは・・・愛依だ。

「本当なら首を差し出さなきゃいけないんですよね。・・・でもアタシは、生きながら罪を償いたいです!死んだら、それで終わりですから・・・それは逃げになります」


「ほう・・・だが貴様によって消された者達はどうする」

「捜します!一生を掛けても必ず全員!!」


その言葉に隣の春鈴が微笑んだ。

「・・・なるほど。では、椿は?」

「・・・わかり、ません」

「・・・」

「わたしはずっと誰かに守られて来ました。愛依やお母様やお父様・・・シィさんやリョウコウ、彩雅さんにもソフィアさんにも助けられました」

椿はゆっくりと言葉を繋いでいく。

「だから・・・だからわたしは、誰かを守りたいです。今まで守られて来た分、傷つけてしまった分、わたしの本当なら終わってしまっていた人生を使って誰かを守りたいです!」

「・・・では、首を差し出す気はないと?」


「「・・・!!」」

椿と愛依は蓮華の鋭い視線から目を逸らさずに見つめ返す。そして蓮華は振り返り・・・

「自分の罪から逃げず、身を投げ出して戦う・・・」

振り向いた蓮華の顔には・・・微笑みがあった。

「本当に亮と咲の娘なのね。椿、愛依」

「「っ!?」」


椿と愛依が目を見開く。俺は・・・リョウコウを見た。

「わり、全部聞いて全部生中継しちまったわ」

「お、お前なぁ・・・!!」

「つってもあくまでここにいるメンバーだけだ。国民にどう行くかは椿たち次第だぜ」

「ありがとう、リョウコウ。・・・またそうやって気にかけてくれたね」

椿がリョウコウに向かって笑顔を向ける。対するリョウコウは指で返事を返しただけだったが。・・・そういやグレイセスの世界で椿を逃がしたのもリョウコウだっけか。


「椿、愛依」

「「は、はい!」」

蓮華が再び表情を引き締め、話す。

「貴女たちに罰を言い渡す。罰はこの後に起こる戦いに尽力を尽くして戦い・・・必ず生き残れ。それが私が与える罰だ」

「「・・・はい!」」


椿と愛依はそう返事をした後・・・座り込んでしまった。

「椿!?」

「愛依!」

「お、お父様・・・立てないよぉ・・・」

「腰・・・またまた抜けちゃったぁ・・・」

『あはははは!』


その場を笑いが支配していた・・・






















































・・・俺は城壁の上に座っていた。

「亮」

「ん・・・蓮華」

蓮華が隣に座る。

「・・・貴方が旅立つ時もここで話したわね」

「ああ・・・もうあれから大分立ったなぁ・・・」

「あの・・・約束、は・・・」

「え?・・・あ、あぁ!忘れてないさ。とんでもないこと言ったなぁ。今にして思えば・・・」

「・・・嫌?」

「まったく。むしろ椿を見て・・・みんなとの子が欲しいと思った」

「・・・私、今回の黒幕が許せないわ」

「蓮華・・・」

「明命の子だと言うなら私にとっても腹違いの娘になるもの。・・・あくまで亮が私を見ていてくれたのなら・・・だけど」

「椿には姉妹がいたっぽいから・・・多分、蓮華達を愛したよ、俺は」


「・・・」

蓮華は・・・俺に抱き着いてきた。

「蓮、華?」

「・・・ごめんなさい。でも、しばらくこうさせて・・・」

「・・・ああ」

「貴方は・・・確かにここに、この腕の中にいるのよね・・・」

「ああ。俺はここにいる。・・・もう、離れたくない。誰とも」

「私もよ。あんな悲しい思いは・・・二度としたくない」

「俺もそうだ。・・・だから・・・勝とう。何時も通りみんなの力を合わせて・・・必ず!」

「ええ・・・勝ちましょう!この世界を好きにはさせない、必ず・・・!」

俺と蓮華は・・・沈み行く夕日を見つめていた・・・・・・


 
 

 
後書き

「椿が・・・娘、か」


「なるほどな、闇や髪の色か・・・」


「なんで気付かなかったんだろうな・・・」


「さあな・・・とりあえず、まだ次回も平和回だぜ」


「次回もよろしく!それでは!」 

 

僅かな平穏・前編~

 
前書き
仕事が始まって全身が筋肉痛です・・・(笑)前後編に分けたいと思います。ではどうぞ。 

 
翌日、早朝から俺はメモを片手に歩き回る。何故なら蓮華に・・・

『亞莎がある程度纏めたが、蜀に説明する為の外史の名簿が欲しい』

・・・と言われ、俺と咲は確認作業に追われていた。



「まず初めは・・・グレイセス組からな」

俺はみんながいるであろう部屋をノックする。

「みんな、入るよ」

中には・・・パーティーメンバーがいた。

「リョウじゃないか。どうかしたのか?」

「名簿作り。みんな今度の戦いでは前に出て戦うから・・・しっかりとした認識が必要なんだ」

「確かに、この世界の皆さんからしたら、ぼくたちは異端ですからね・・・」

「はは、民たちは慣れてるからそんなに意識する必要もないんだけど・・・」


「人数確認だよね?あたしたちは六人だよー」

「アス兄にシェリアにソフィ。ヒューにパスカルにマリク教官・・・リチャードとかはいないのか」

「ああ、リチャードは紫と共に戦ってくれている」

「そうか・・・」



そこで俺はふと、ソフィが目に入った。

「そう言えばソフィ、服替えたのか?・・・ていうか背、伸びてないか?」


ソフィがそれに答えてくる。

「・・・うん、わたし、みんなと同じになれたんだよ」

「同じに・・・?」

「俺が説明する」

アスベルから聞いたのは、俺がいなくなった後、半年後に新たな戦いがあったそうだ。アスベルの中に眠るラムダと協力してそれを解決。その時敵対していた存在により・・・ソフィの身体はほぼ人間と同じになったそうだ。

「そうだったのか・・・」

「それでね、アスベルがお父さんになってくれたの」

「へ?・・・あ、あぁ、養子か」

「そしてシェリアがお母さん」

「・・・ん?」

それに少し理解が追い付かず・・・赤くなったアスベルとシェリアを見て理解した。

「・・・結婚、しましたか?」

「・・・ああ」

「・・・はい」

「そっか・・・うん、おめでとう!」

「あ、ああ」

「あ、ありがとう」

「プロポーズはどっちからだ?」

「ええっと・・・」

「亮、聞きすぎだよ?」

「わっ!?」

背後から現れたのはシィだ。

「し、シィ、なんでここに」


「みんなとは一緒に旅をしたからね。またお話しよっかなって」

「ああ、久しぶりだな、シィ」

「教官も久しぶり。みんな変わらないね」

「あなたがそれを言いますか・・・」

「あ、ヒューはどうなったんだ?」

「え?」

「いやだから、パスカルのことがす「リョウ兄さん少し黙ってください」・・・怒るなって」

ヒューが怖い顔して接近してきた。

「まったくリョウ兄さんという人は・・・!」


「なんだよー、ヒューにしては効率悪いじゃん」

「ぼくだって勇気は振り絞りましたよ。ですけど盛大に勘違いされて完璧に言うタイミング逃したんです・・・!!」

「あぁ・・・パスカルらしいね・・・」

「ん?あたしがどうかしたの?」

「いーや、パスカルって凄いなと思って」

「そう?いやー、褒められて悪い気はしないね!」

「・・・バカと天才は紙一重・・・か」

「亮、悪口だよそれ」

「そうそう、ここの世界の道具は凄いよね。なんか古っぽいけどしっかり使えるし、頑丈だし・・・ちょっと新しいアイデアも出たし、色んな世界の技術もあるし・・・!」



「パスカル、落ち着け。リョウが引いているぞ」

「いや・・・本当相変わらずだなぁ・・・」

俺は気を取り直して話す。

「みんなは他の世界との会話は?」

「俺はキリトや直葉を通じてある程度は・・・」

「私も。ティアやアスナとは・・・」

「・・・わたしも」

「オレやヒューバートも同じだ」

「パスカルさんはどうですか?ある程度お互いを知らないと連携が取れませんよ?」


「あたしはガイやティアくらいかな~?」

「キリトたちは?」

「あんまり話してないんだよね。・・・ああ、そうだ!ねぇリョウ、後でナーヴギアかアミュスフィア貸して!調べたい!」


「・・・後でね。とにかく、まだ一日あるからお互いに交流しといてくれ。もちろんこの世界の住人ともな。亞莎を通せばお互い説明しやすいし。じゃ、俺は次に行くよ。シィ、みんなの道案内は任せるよ」

「はーい。侵入禁止場所は?」

「以前と同じ。じゃ、よろー」



さて、と・・・次は・・・


「・・・ぐー」

部屋の前で美鈴が爆睡してた。

「おーい、美鈴ー?」

俺は近づき、美鈴の頬をツンツン突っつく。

「ん・・・あ!す、すみません咲夜さ・・・あれ?」

「ここは紅魔館じゃないぞ、美鈴」

「あ、ああ・・・亮さんですか・・・」

「なんで見張ってるの?中で寝たら?」

「正直中で寝るよりこっちの方がいいですよ・・・」

「?・・・とにかく名簿作りするから中に入るよ?」

「ええ、どうぞ」

さてさて、中には・・・

「・・・ちょっと誰よ貴方」

金髪の少女にそう言われた。

「味方よ、アリス。それもこの世界の守護者」

「・・・ふうん・・・あまり強そうじゃないわね」

「失礼な・・・さてと、悪いけど名簿を作りたいんだ。名前を聞かせてくれる?」

すると黒い服を着た少女が言う。

「おう、霧雨魔理沙だぜ」

「ああ・・・そういえば」

続いては緑髪の少女。

「東風谷早苗です。初めまして」


最後にさっきの・・・アリスだ。

「・・・アリス・マーガトロイドよ」

「あいよ。それと霊夢と美鈴か」


「ええ、そうよ。・・・まったく、紫には困ったわ。人に隠して裏でコソコソして・・・」

霊夢が頭を掻くと早苗が言う。

「仕方ありませんよ霊夢さん。バレる訳には行きませんし」

「早苗・・・あのね、文や慧音が消えたのは紫が勝手に拉致ったからなのよ?文は飛ばされた人間の回収。慧音は歴史操作で世界を守っている。それを聞かされずに紫に勝手に連れてこられて戦えって・・・あー、思い出してもムカつくわ」

「・・・魔理沙、霊夢は何時もこうか?」

「まーな。大人しくさせたいなら金が一番だぜ」

「守銭奴巫女・・・」

「なんか言った?」

「いや、別に・・・」

「大澤亮。ここには研究道具の一つもないの?」

「この時代に何求めてるんだよ。資料くらいなら提供してやるから資料室行け」

「マジか?」

「魔理沙はダメだ。・・・永遠に資料が帰ってこなさそうだし」

「ちぇっ、ただ死ぬまで借りるだけだぜ?」

「幻想郷に持ってかれたら取りに行くの面倒すぎんだろ・・・」


俺は名前を書いて口を開く。

「じゃ、俺は行くからな。一応他世界と交流しといてよ?」

「あ、はい」

「面倒」

「気が進まないわ」

「気が向いたらな」

「・・・早苗しかまともな返事してないじゃないか・・・」



連携面では期待しない方がいいかな、コレは・・・























咲~


「入るぜー?」

確かここにはアビス組が・・・

「サキ!」

「よっ。・・・あれ、知也と剛鬼もいたのか?」

「・・・ああ」

「一応、俺も同行してたからな。・・・つーか咲、リパルどうした?」

「今、各世界に回してる。リパルの声が聞こえないと何かと不便だからな」


・・・ちなみに、今のリパルは元のダークリパルサーに戻ってしまった。恋が触れたら再びバラバラになって三つの武器になってしまった。・・・ま、方天画戟が恋の武器だし、俺としてはリパルが手元に残れば問題はなし。

「じゃ、いるのは六神将を除いたメンバー?」

「ああ。アッシュもリグレットもアリエッタも向こうで頑張ってる」

「・・・あ、そうだサキ。これ、アリエッタから」


アニスから渡されたのは帽子・・・これ。

「アリエッタが被ってた帽子・・・?」

「眼鏡の代わりに持っててほしいんだって。アリエッタ、本当はこっちに来たかったみたいだけど・・・」

「教官もそうだったわ。・・・伝言も預かってるわよ、サキ」

「伝言?」

「『二度と私を悲しませるな』ですって」


「要するに死ぬなってことか。思ったより守れそうだ」


「おや、随分余裕そうですね」

「こんだけ味方がいるんだ。負ける気もしないさ」

「確かに、みな頼もしいですわ」

「少し居づらいけどな・・・」

ガイが軽くため息を吐く。・・・ああ、女性の比率高いもんな。

「みんなは他の世界とは?」

「色々話してるよ。・・・ただ、人が多くて面倒だけど」


「そうか・・・あれ?ミュウは・・・」

「置いてきたよ。流石にここに連れてくるのは・・・」



「環境も合わないだろうしなぁ」


俺はメモを書いて首を鳴らす。

「じゃ、次に行くか。ガイ、気苦労は多いだろうけど頑張れよ」

「・・・多いというか絶えないんだが・・・」

「はは・・・」














さーて、次々。

「お邪魔しまーす」

「あ、咲くん」



「なのはか。メンバーを教えてくれるか?」

「いいよ。私たちは分かるよね?」

「ああ、なのはにフェイトにはやて・・・ってまだいるのか?」

後ろにワイワイガヤガヤと・・・」

「あー、うん。わたしの騎士たちや。右からシグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラや」


四人が軽く頭を下げる。・・・約二名は睨んできてるが・・・

「はやて、コイツなんなんだよ?」

「五十嵐咲くん。この世界の人や」

「じゃ、コイツらのせいでなのは達が酷い目にあったってことか」

「ヴィータ、よせ」

「なんだよ、事実だろ?」

「ヴィータちゃん・・・」

俺はなのはの前に立つ。

「いいよ、なのは。確かに事実だしな。この件について、俺は謝る以外には黒幕をブチのめして平和にする事しか思い付かない。・・・ただ、俺と戦えないっていうのは止めてほしい」

「なんでだよ」

「ただでさえ、見知らぬ大量の人間が戦うんだ。下手にヴィータが俺に反発すれば・・・」

「それを火種に他の者に不満が爆発する・・・ということか」

シグナムの言葉に頷く。

「俺が気に入らないのはしょうがねぇ・・・けど、そこらへんは全部終わってからにしてくれ。無理なら・・・今ここで一発俺を殴ってもいい。それで今は抑えてくれ。・・・頼む」

ヴィータがしばらく見て・・・溜め息を吐いた。

「・・・ばーか、そんなんで気が済むわけねーだろ」

「・・・」

「あたしだって今の状況が分からないわけじゃねー。それにアイツに負けたあたしらが弱かった・・・それだけなんだよ」

ヴィータはそう言ってそっぽを向いた。それに合わせてシグナムが口を開く。

「・・・すまない。ヴィータ・・・いや、私たちも今の状況に戸惑っていてな」

「・・・ま、そうだよな」

「ごめんなさいね。本当なら私たちは関係ないのに・・・」

シャマル・・・だったか。

「いや、関係ないことはないさ。なのはと知り合って、一度でも共に戦った・・・ならその世界込みで無関係じゃなくなるだろ?」

「咲くん・・・」

「とにかくヴィータ、もやもやしてるなら後で中庭で一戦するか?こういうので発散できるタイプだろ?」

「てめー、あたしが脳筋だって言いたいのか?」


「はは、頭使うのは苦手だろ?」

「・・・っ、だったら後でやるぞ。とりあえずぶっ飛ばしてやる」


「はいはい。・・・それで、こっちの子供たちは・・・」


「あ、待って。クラナくーん!」

「あ・・・」


開けっ放しの扉の前を通りがかったクラナをなのはが引き留める。・・・対するクラナは顔をひきつらせたが。


「・・・何ですか?」

「なのは、この子が?」

「そうだよ、フェイトちゃん。クラナくん、ストライクアーツの使い手なんだ」

「・・・どうも」

『どんな気持ちですか?相棒』

「・・・複雑過ぎて頭痛い・・・」

「ストライクアーツを使うんですか!?」

「・・・っ!?」

金髪の少女が近づくとクラナが目を見開き・・・咄嗟に離れた。

「え・・・えっと・・・」

「あ!す、すみませんいきなり・・・私、高町ヴィヴィオです。初めまして、クラナさん」

「・・・初めまして、か・・・」

クラナがうつ向く。

「なのはの子供か・・・そっちの三人は?」



「あ・・・アインハルト・ストラトスです」



「コロナ・ティミルです」

「リオ・ウェズリーです!よろしくお願いします、お姉さん!」

ピシッ、とみんな固まったのが分かった。

「・・・お姉、さん?」

「え?違うんですか?」


「・・・リオさん、多分この方は男性かと・・・」

「え・・・あ・・・す、すみません!」

いや、まぁ、子供の発言だし・・・

「いや・・・もう慣れたけどさ・・・とにかく男な、俺」

というかこの子はさっきの会話で口調とかさ・・・あ、愛依が最初そうだったか。

「あと、後ろの大人三人。笑い堪えてんなよ」


「え?べ、別に笑ってないよね?フェイトちゃん・・・くすっ・・・」


「そ、そうだね・・・何もないよね、はやて?・・・ふふっ」

「せやなぁ・・・くく・・・」

「いっそ笑えよ・・・そっちの騎士もな」

「いや・・・むしろ気の毒で笑えねえよ」

「・・・苦労してるな」

「カウンセリングが必要?何時でも言ってね」

「・・・」

「気遣いは返って心が痛むぜ・・・」



俺はクラナを見る。

「クラナ、あと任せた」

「・・・え?」

「この世界はお前が一番知ってるだろ?」

「ま、待ってください・・・」

『お任せください、咲さん』



「アル・・・!」

『多少はこちらでもフォローします』


「・・・なんで俺の周りは何時も何時も・・・」


頑張れクラナ。荒療治だな。
























亮~


中庭に差し掛かると・・・強大な気を感じた。

「・・・!!なんだっ!?」

感じた事のない気。俺は走り出す。

「(まさか・・・もう・・・!!)」

・・・が、途中でそれは止まった。何故なら視界にその強力な気の持ち主は・・・知り合いだったから。

「キリト・・・アスナ・・・」

二人の身体から強力な気が吹き出していたが・・・やがて、それが消えて二人は座り込む。

「キリト!アスナ!・・・何やってるんだよ?」

「あ・・・亮・・・」

「亮くん・・・」

見ればソードアート・オンライン組がいた。

「やっほー、亮」

「おはようございます、亮さん」

「亮お兄ちゃん、おはよう」

リズ、シリカ、直葉に・・・

「亮も来たんだ」

「・・・」

「亮、おはよー」

サチ、シノン、ユウキ。それと・・・リョウコウたちか。

「なあリョウ、なにやってんの?」

「ん?気を使う練習だとよ」

「私たちと違ってキリトたちは生身だから・・・」

「使えるものを使わないのは勿体無いわね」

「あはは・・・そうですね」




「それにしても情けないわねぇ、二人とも」

「・・・そう言うリズはどうなんだ?」

キリトに言われるとニンマリと笑う。

「・・・じゃ、見せてあげましょうか。二人とも、いい?」

「「はい!」」



三人が距離を開き・・・まずシリカが気を溜める。

「はぁぁ・・・」

シリカの手のひらに球体状に気が現れる。

「(へぇ、綺麗に纏まってる・・・)」

「リズさん、行きます!」

「何時でも来なさい!」

シリカが大きく振りかぶって・・・気弾を投げた。対するリズはメイスに気を流し・・・

「せぇぇりゃああ!!」

カキィィン!!

リズがその気弾をかっ飛ばした。・・・つまり、反発する気を武器にしっかり籠められた訳だ。

「直葉!」

「はい!」

直葉は刀を抜き、気を刀身に気を籠めた。

「やぁぁぁぁ!!」

振り切った刀から剣閃が飛び・・・気弾を真っ二つにした。

「「・・・」」

「どーよキリト。もう万全よ」

「お兄ちゃんもアスナさんもこのくらいすぐ出来るようになるよ」

「そうですよ。ね、ピナ?」

「キュル!」



「・・・よ、よし、やるか、アスナ!」

「う、うん!」


二人が立ち上がって再び気を出す。


「・・・そういや、お前もプレイしたんだよなぁ」

リョウコウが不意にそんなことを言った。

「ん・・・ああ、SAOか・・・」

「どうだったよ?」

「どう・・・か。そうだな、凄く苦しかったけど・・・楽しくもあった、かな?」

「・・・そかそか」

「なぁ、リョウ。お前ってヒースクリフとやったか?」



「おう、タイマンで相討ち」

「・・・よく生きてたな」

「咲だって生きてたろ?」

「まあね・・・」

そこでリョウコウがニヤっと笑う。

「そうだ。久々にやらねえか?本気の鍛錬をよ」

「えぇ・・・お前とタイマンはやだな・・・」

「んだよ連れねえなぁ」




「外史メンバーとの鍛錬は地獄過ぎるんだよ・・・」

よく片っ端からボコられたなぁ・・・

「じゃあタイマンじゃなきゃいいんだな?


「は?」

「おい美幸、準備できてるか?」

「え、私?」

「お前の力見せとかねぇとな。じゃなきゃどう一緒に戦うか解らねえだろ」

「・・・どうせそっちのサチも凄まじいんだろ・・・」



「外史メンバーとの鍛錬は地獄過ぎるんだよ・・・」

よく片っ端からボコられたなぁ・・・

「じゃあタイマンじゃなきゃいいんだな?」

「は?」

「おい美幸、準備できてるか?」

「え、私?」

「お前の力見せとかねぇとな。じゃなきゃどう一緒に戦うか解らねえだろ」

「・・・どうせそっちのサチも凄まじいんだろ・・・」


俺はぐるりと見回したら・・・一人と目があった。

「・・・サチ、一緒にやるか?」

「え・・・!?」


いや・・・まぁ偶然目が合ったから誘ったんだけど。

「はっ、こりゃ傑作だな。二人のリョウに二人のサチか」

リョウコウが愉快そうに笑う。

「あの頃の俺とは違うぜ、リョウ」

「おう、せいぜい頑張ってくれや」

「お、お手柔らかにね?」

「こ、こちらこそ」




・・・というわけで・・・


「・・・よしっ」

葬解を填め、擬音を逆手に持つ。サチも槍を構える。相手は・・・


「へへ、さぁてやるか」

「やりすぎないでね?りょう」

リョウコウが重量感が凄い偃月刀・・・冷裂を構え、美幸は杖を構えた。

「美幸、まずは下がってろ」

「うん」

リョウコウが肩に冷裂を担ぎ、片手でちょいちょいと手招きをする。

「来な」

瞬間、サチの目が金色に代わる。

「じゃあ私から行くよ!」

「あ、おい!またかよ!」


サチが突っ込み、槍を突き出す。

カキン!

「オラ!」

「次っ!」

俺が斬り込み、もう一度サチが突く。・・・以前と違って俺の存在も考慮してくれてるみたいだ。

「確かに、動きはよくなってるぜ。・・・そら、よ!」

ガキャアアン!!

「「っ!?」」

リョウコウの一撃は俺達を纏めて吹き飛ばした。

「くっ・・・相変わらず馬鹿力だな・・・!!」

「普通の槍なら折れてるよ・・・」

サチはそう言って光弾を放つ。

「っと」

リョウコウはそれを弾く・・・前に瞬動で背後に回り込む。

「らぁっ!」

「とと、そらよ!」

光弾を弾いてからリョウコウは蹴りを放ってくる。

「っ・・・」

俺はそれをギリギリでかわしてから擬音を握る。

「断空剣!」

回転斬りを放つが防がれる・・・が、まだだ。

「衝破魔神拳!!」

思い切り拳を振りかぶり、地面に叩き付ける。

「おっ・・・」

更に足と擬音に気を籠め、ソードスキルの再現をする。

「ビーストファング!」

蹴りと斬撃、四連撃の体術剣術複合スキル。

ガガガガン!


「おっとぉ!」

リョウコウの足が僅かに下がる。・・・まだだ!

「おおおおお!!」

気を刀身に集め・・・巨大な刃を作る。

「鈴音罰殺斬!!」


光の刃が爆裂、土煙が上がる。・・・俺は構えを解かず、気弾を叩き込んで土煙を吹き飛ばす。・・・当然、無傷な姿が目に入る。

「・・・だよな」

「コンボはよかったぜ。ただ、締めが俺に一度見せた技なのはマイナスだな」

「だからって無傷はないだろ無傷は。わりとっていうかガチで叩き込んだのにな・・・」

「そうか?さて、と」

リョウコウの空気が・・・変わった。

「・・・行くぜ、少年?」



リョウコウが、一瞬で接近してきた。

「っ!!!」

ほぼ本能だった。気を籠めた擬音を体の左側に持ってきた瞬間・・・衝撃が身体を貫いた。

ガァァン!

「ぐっっっ!!」


当然吹っ飛ばされ、これまた当然のように・・・追撃してきた。

「まだ一発目だぜ?」

ゴォン!

「ぎっっ・・・!」

俺に出来るのは耐えること。ここで焦って攻めれば、それこそあの一撃の餌食になる。・・・何より恐ろしいのは・・・

「(まだソードスキルを使ってない・・・!)」

それでいてこの破壊力。プレイしたからこそ分かるレベルの高さ。

ドォォォン!

一発一発が大砲のように打ち込まれる。

「かっ・・・はっ・・・!」

思わず呼吸を忘れるほどの攻撃。息をするどころか瞬きする余裕もない。

「私を忘れるな!」

サチがリョウコウに突っ込もうとするが・・・

「美幸!」

「・・・ごめんね?ここは通せないよ」

「くっ・・・!」


援護は期待できそうにない・・・か。

「野暮なことはやめようや。この状況を楽しもうぜ!」

「元、から・・・ぐぅ!・・・この状況にぃ!する、気、だったろ!」

しかも向こうには呼吸をしなくていいばかりか体力は無限大だ。リョウコウの性質上戦闘中に集中力が切れる筈もない!



「ぐぅぅ・・・!」

滑り続け、遂にバランスを崩して片膝が地に着く。

「もうへばったか!」

リョウコウが大きく振りかぶり、冷裂が輝く。・・・ここしかない!」

「・・・ぉぉあああぁぁああ!!」

気を爆発させて無理矢理懐に入る。

「そんなんじゃ怯まねぇぜ!」


「・・・気功破!」
気を炸裂させる。ただし、リョウコウにではなく地面に、だが。

「おおう?」

空中に飛び、冷裂をかわしながら体制を立て直す。

「紅蓮蹴撃!」

炎を纏い、飛び蹴りを放つ。狙いは・・・

「おい!後ろだ美幸!」


「・・・こっちに!?」




だが美幸は特に慌てず、杖を向ける。

「フレイム・スプレッド!」


大量の火球が押し寄せるが、イケる!

「火力増大!」

火球を全て吹き飛ばす。が、美幸はそれでも顔色を変えず。

「・・・じゃあ、竜ならどう?」

詠唱が完了し、こちらに杖を向ける。

「ドラゴン・クリメイション!」

グォォォン!!

・・・明らかに俺を余裕で呑み込める大きさの炎の竜が現れる。

「なぁ!?そ、それはムリ・・・がはぁ!?」
爆発、そして着地(顔面から)

「あちちち!?くっそ、また火傷したぁ!!」

どうやら炎に焼かれるのにも縁があるようで・・・

「はっ、美幸ならやれるとでも思ったか?」

「いや・・・どっちかってーと・・・俺の目的はこっちな」

俺の背後に・・・サチがいた。

「あ・・・」


「これはタッグ戦だよな?仲間と協力は当たり前だぜ」


「んだよ、タイマンはもう終わりかよ」

「うっせ。お前とタイマンなんかゴメンだっつの」


「亮・・・」

「サチに代わってくれ。・・・こっからは本気のコンビネーションだ」


「・・・わかった」

サチの瞳が元に戻る。

「・・・強いね、二人とも」

「ああ。しかも綺麗に遠距離型と近距離型だしな・・・」

「私たち揃って近接だもんね・・・」

サチが苦笑する。

「おーい、何時までお喋りしてんだー?」

「掛かってきてもいいんだぜー?」

「・・・んじゃ、遠慮な、く!」


リョウコウが再び接近するが・・・それを防いだのはサチだ。

「んな軽い槍じゃ割っちまうぞ、サチぃ!」

「・・・ここは、通さない!」

直後、衝撃破。それは軽くリョウコウを後退させ・・・

「Gモード・・・みんな、力を貸して!」

姿を天使のように変えたサチがリョウコウに向かって飛ぶ・・・と同時にリョウコウの横を瞬動で駆け抜ける。

「げっ・・・」

リョウコウは俺に反応したが・・・対応する訳にはいかなかった。何故ならそれはサチに攻撃のチャンスを与える事になるから。幾ら何でも未確認の攻撃を余所見で受け止める程リョウコウはバカじゃない。

「行くぞ、美幸!」

「・・・!」

美幸は素早く詠唱・・・が完了する前に。

「たぁ!」

気弾を指先から連続で発射。だが美幸はそれを避け・・・

「アクア・バインド!」


「っと・・・!」

名前からして拘束系の技だろう。


「当たる、か!」

それは上手く瞬動で回避。そして擬音をサチに向かって振り切る。

ヒュン!

「(避けた!)・・・らぁっ!」

そのまま後ろ回し蹴り。美幸はそれを杖で弾き、至近距離から・・・

「スパーク・ランス!」

雷の槍を放ってくる。慌てて気で防ぐが・・・些かキツいか・・・!」


「こん・・・ちくしょう!」

気合いで弾き、そのまま拳を放つ。

ガッ!

「うぅ・・・!」

続く擬音で杖を弾き・・・もう一度拳を叩き込む。

ゴォッ!

「あぐっ・・・!

「(入った・・・!)」

美幸の腹にめり込む拳・・・すっごい罪悪感があるが、ここで止めたらチャンスはない・・・もう一撃喰らわそうと足に力を入れた瞬間・・・


「・・・調子にのんなよ、少年」

「っっ!!!」

血の気が一瞬で引いた。真後ろから聞こえた。つまり・・・結論が出る前に既に俺はしゃがみ、その頭上を冷裂が通っていった。

「く・・・はぁ!」

そのまま回転して足払いをしようとした・・・足を上から踏みつけられた。

「あぐっ!?」

「見え見えなんだよ」


こちらを見るリョウコウ。・・・俺は恐る恐る口を開く。

「・・・怒ってます?」

「ああ?なんでだよ」

いやだって。今の冷裂明らかに首狙ってたもん。殺る気満々だったもん。

「ただちーっとおいたが過ぎたな。・・・美幸、平気か?」

「う、うん。ありがとう、りょう」

「あの、リョウコウさん?・・・慈悲は・・・」

「ねえな」

「ですよ、ね!」

気弾を放つがリョウコウは軽々飛んで避ける。・・・つーかサチは!?」

「ご、ごめん・・・吹き飛ばされちゃって・・・」

サチが飛んでくる。・・・その背後にはサチが突き破ったと思われる様々な残骸が・・・

「弁償しろよな・・・」


「さて、少しだけ手の内を見せてやるか。美幸、水雷火な」

「え!?い、いいの!?」

「彼奴らなら平気だろ。時間は稼いでやっからとっととやれよ?」

「わ、わかった」


リョウコウがこっちを見る。

「つーわけだ。手札を一枚ずつ見せてやるよ」

「・・・っ」

擬音を握り締める。・・・美幸を止めるかリョウコウに掛かるか。

「チェンジアバター、フェアリー」

リョウコウの姿が変わった・・・瞬間、消えた。

「っ!?」

ガスゥ!

「きゃああ!?」


「サチ!?・・・くあっ!?」

背中に背負った迷切に気を流した瞬間背中に衝撃が走る。

「なんだ、反応いいな」

目の前にリョウコウが現れる。・・・ただ、さっきと違って赤い髪に背中に羽があったが。

「サラマンダーかよ?」

「残念、プーカだ」

「ええぇ・・・」

選んだのかよ・・・

「・・・とにかく、そっちのアバターはスピードタイプってことでいいか?」

「おっ、正解、だっ!?」

素早く斬り込み、迷切を引き抜く。

「おいおい、少しはお喋りを続けようぜ?」

「うっせ!美幸の時間稼いでんのバレバレなんだよ!」

サチが美幸を狙うがリョウコウがそれをさせない。

「く・・・」

「覇ぁ!」

ガゴォン!

「うっ・・・」

「亮!」


大きく吹っ飛び、サチが俺を受け止める。

「サチ、俺はいい!早く美幸を・・・」

「残念、準備完了だ」



「バインディング・ゲイザー!」


水の縄が現れ、俺とサチを絡めとる。

「あう!?」

「ぐっ!?」

だが・・・これくらいなら!

「うぉぉぉぉ!!」

気を放出して縄を打ち破る。

「おいおい、対大型モンスター用なんだが・・・まぁいいか。美幸、次だ」


「(コクッ)」



美幸は頷きながらも詠唱を続け・・・

「オーラクルム・フルメン!」

バチィ!!

「がはっ!?」

「あうっ!?」


雷が直撃し、衝撃が身体を突き抜ける。しかも帯電のオマケ付きだ。

「それ、一応設置型なんだわ。んじゃ、最後よろしくな」

「リクィドゥム・エールプティオー!!」

気が付けば美幸の周りに光の固まりが展開しており・・・それは全て美幸が新たに出したオレンジ色の球体と同形状になる。

「なんだ・・・あれ」

水雷火・・・火・・・帯電・・・引火・・・

「・・・やべぇ!」

俺は咄嗟に気弾を一つにブチ当てる。・・・すると。




ズガァァン!!

気弾が液体のような球体に吸い込まれた・・・瞬間の大爆発。


「サチ!とにかく撃つんだ!」

「う、うん!」

だが球体の速度は早く・・・二つ、討ち漏らした。

「亮、ダメ!」

サチが俺を抱き抱える。

「サ・・・」

「点火だ」

「・・・ごめんね」

ゴガァァァン!!

「うわぁぁぁぁ!?」

「きゃああああ!?」

爆発、そして炎に呑み込まれ・・・吹き飛ばされる。サチは元の姿に戻り、俺達はボロボロの姿で黒煙を上げていた。

「サ・・・サチ・・・」

「う・・・あ・・・」

目の前にリョウコウが立ち、冷裂を突き付けてくる。

「まだやるか?」

「・・・参った」

俺は息を吐いて抵抗を諦めた・・・

















ーーー数分後ーーー

「本当にごめんなさい!大丈夫、二人とも?」

美幸が必死に謝ってくる。ちなみにダメージは治してもらいました。・・・服は着替えてきましたが。

「いや・・・正直今回はリョウコウより美幸の方が怖かったよ、うん」

「ま、戦なら広域魔法で殲滅できる美幸の方が俺よか使えるぜ」

「そんなことないよ。りょうの方が凄いと思うし・・・」


「俺なんざ真っ向から叩き割ることしかできねぇよ。・・・つか、そっちのサチもすげぇな」

「そ、そうかな?でも亮の方が速いし・・・」

「・・・ややこしいね」

「・・・だな」

そんな時、咲がやって来た。

「なにやってんだ、お前ら?」

「わりと本気な訓練。・・・つか咲は?」

「これからヴィータと模擬戦。戦前のウォーミングアップだな」

「ふーん・・・」

そんな感じで咲は準備を始めた・・・ 
 

 
後書き

「またフルボッコー」


「もう勝てないんじゃね?」


「勝負じゃ負けないし・・・まぁいいや、それではまた次回もよろしく!」

 

 

僅かな平穏・後編~

 
前書き
遅くなってすみませんでしたぁぁぁぁ!残業疲れがあんなに辛いとは・・・ではどうぞ。 

 
「っ・・・はぁ~」

ゴロン、と中庭の草原に寝転がる。

「亮、大丈夫か?」

「凄いやられ方してたよね・・・」

キリトとアスナがやって来た。どうやら二人も休憩みたいだ。

「まあね・・・いや、参ったよ本当」


まったく、なんつーチートだ・・・

「誰がチートだって?」

「うわっ!?リョウコウ!?」

更にぬっ、とリョウコウが顔を出してきた。

「・・・あれ?美幸は?」

「あ?彼奴ならソフィんとこいった」

「なんでソフィ?・・・あ、ああー、もう一人の?」

「そういうこった。ま、すぐ意気投合してたし、美幸も嬉しそうだしな・・・」

「そういやさ、リョウ」

「んあ?」

俺はふと気になった事を聞いてみる。

「リョウコウ・・・ってPNだよな?本名は?」

「あ、言ってなかったか。そだな、もう隠す必要もねぇし・・・涼人だ。桐ヶ谷涼人」

・・・え?

「桐ヶ谷!?」

「おう」

「・・・親戚にいたっけ」

首を傾げるキリトにリョウコウは苦笑する。

「だから別世界だっつの。亮は直葉の兄だったんだろ?俺の世界にゃ亮はいねぇ。代わりに親戚の俺がいる。理解したか?カズ」


「ま、まぁなんとなく・・・」

「ね、ねぇリョウコウ。リョウコウの世界って・・・」

リョウコウはああ、と答える。

「安心しな、ちゃんとバカップルだよ、お前らは」

「ば、バカップルって・・・!」



「亮ー♪」

「ん・・・」

アスナが顔を赤くした時・・・誰かが俺を呼んでやって来た。

「亮さん~♪」

「シャオ、穏!うわぁ・・・久しぶりだな!」


言うがいきなり小蓮は飛び掛かってくる。

「亮だ!亮だ!えへへ、あったかい・・・」

「今仕事を終わらせて急いで来たんですよぉ?」

「そうなんだ」

小蓮の頭を撫でながら穏と話す。

「・・・カズ、鼻の下伸びてんぞ」

「え?あ!いや、これは・・・」

「キーリートーくーん?」

「ま、待てアスナ!これは不可抗力だ!」

「許してあげてよ。俺も馴れるまで目に毒だったから」

「毒なんて酷いですよ~!」

穏が頬を膨らませて跳ねる。

「・・・すごっ・・・」

「キリトくん!!」

「ご、ごめん!」

「兄貴、穏みたいなのまだいるからね?」

「・・・俺、ずっと下を向いてようかな」

キリトが顔を抑えてしまう。ふと中庭に目を向けると・・・



「行くぜリパル!」

『ッスー!』

「そんなほっせぇ剣なんかアイゼンで砕いてやる!」


空中がガキンガキン派手な物音を立てて咲とヴィータがぶつかり合う。

「来い、アスベル」

「ああ、勝負だシグナム!」

「「紫電一閃!」」

シグナムとアスベルが戦い・・・

「・・・うーん、じゃあこれを調合すれば?」

「面白そうですが、失敗したらこの国が吹っ飛びますねぇ」

パスカルとジェイドが物騒な話を続け・・・


「・・・来い」

「はい、クラナさん!」


「アインハルトさん、何処からでもどうぞ」

「はい。よろしくお願いします、美鈴さん」


クラナとヴィヴィオ。美鈴とアインハルトが組手を行う。

「・・・凄い光景だなぁ」


「いやはや、絶景だな」



俺は首を鳴らす。

「お兄ちゃん、アスナさん!」

直葉が走ってくる。

「・・・って亮お兄ちゃん?えと・・・」

・・・ああ、そりゃ女子二人にまとわりつかれていたら唖然とするよね。


「そだ、兄貴やアスナも初めてだよな。遅れたけど紹介するよ。右の色々凄いのが穏・・・陸遜だ。それでこっちの子が小蓮、孫尚香だ」


「えぇぇ!?こ、この二人が・・・!?」

直葉が驚き、叫ぶ。・・・気持ちは解るけどね。お互いに軽く挨拶して雑談して・・・


「ある程度回復したかな・・・」

俺は立ち上がり、深呼吸をする。


「俺、今から色々顔を出しに行きたいんだけど・・・着いてきたい人いる?」


「俺とアスナは後でいいよ」

「うん。気の使い方を覚えないと」

「俺もわりぃけどパスな。春鈴と手合わせする約束してんだ」

「春鈴と?」

・・・そういや呉に来たときに春鈴と色々あったんだっけか・・・


「りょ、亮お兄ちゃん・・・」

「?」

「あたし、ちょっと見て回りたいなーって」

「分かった。案内するよ。穏と小蓮は・・・」

「シャオもついてくー♪」

「私はぁ、残念ですけど仕事の報告で蓮華様にご用があるのでここで失礼しますね~」


・・・というわけで。


「直葉って亮の妹なんだよね?」

「え、うん・・・」

「つっても、本当の妹って訳でもないんだよなぁ・・・なんて説明すればいいのやら」

確かに、ソードアート・オンラインの世界ならちゃんとした兄妹だけど、大澤亮だと・・・うーん。

「まいっか。妹で」


「亮お兄ちゃん、説明が面倒だから開き直ったでしょ」

「じゃあ直葉は説明できるのか?」

「・・・・・・いいでしょ、兄妹で」

「ほれみろ」


「うー・・・」

頬を膨らませる直葉の頭を撫でて笑う。

「もう、恥ずかしいから頭撫でないでよ」

「癖だから諦めてくれ」

そんな会話をして辿り着いたのは・・・兵士の訓練所。



「わぁ・・・」

直葉が鍛錬の様子を見て唖然とする。その時、兵士の一人がこちらに気付いた。

「あ・・・御遣い様!」

「え・・・!?」

それに気づいて兵士が駆け寄ってくる。

「お帰りになられたんですね!ご無事で何よりです!」

「ああ、つい先日帰って来たんだ。すまないな、顔を出すべきだった」

「いえ、そんな・・・」


「亮お兄ちゃんって本当に偉いんだ・・・」

俺より強面の人が敬語を使うせいか、直葉は少し引き気味だ。

「だって亮はこの国の英雄みたいなもんだもん」

「孫尚香様までいらっしゃってくれたのですか?おや、こちらの方は・・・」

「ああ、直葉って言って俺の妹だ」

「御遣い様の!?すみません、失礼しました!」

直葉に近づいていた兵士が一歩下がって頭を下げる。直葉はそんな兵士を見てあたふたしていて・・・

「直葉、学校の後輩に接する感じでいいんだよ」

「そ、そんなこと言われても・・・」

慣れろ慣れろ。俺も最初は敬語が抜けなかったから。


「よし、じゃあ誰かコイツと試合してくれないか?」

「亮お兄ちゃん!?」

「気晴らし+親睦会だよ。本当なら外史の全員とやらせたいけど・・・今は直葉しかいないからな。というわけで、ほら」

俺は刃先を潰した模擬剣を直葉に投げ渡す。

「わっ、たったっ・・・」

「では、僭越ながら私がお相手致します」

そこそこ経験を積んでいる兵士が同じように模擬剣を持ち、礼をしてから構える。

「お、お願いします!」

直葉も慌てて頭を下げてから構える。

「よし・・・じゃあ決着は一撃決まるか、もしくは寸止めによる降参で決めよう。双方尋常に・・・始め!」


俺がそう言って手を上げてから下ろすと兵士が走り出す。

「ふん!」

まずは様子見の一撃。直葉は息を吐き・・・

ビュン!

二歩、下がってかわした。直葉が持っているのは見た目的には西洋型の両刃剣が一番近い。普段刀を愛用してる身としては感覚が違うだろう。だからこそ、直葉は初手を剣で受けなかった。恐らく直葉は極力弾くのではなく避ける方向で戦うだろう。

「せやぁぁ!」

三発目を避けたところで直葉が攻めに転じる。だが直葉は一瞬顔をしかめた。

ガキィン!

「う・・・!」

振った時の重心、当たった時の衝撃。それらの感覚の違いが直葉の動きを鈍らせ・・・再び防戦一方となる。

「直葉、押されてるね」

「ああ。でも直葉がきっと勝つ・・・ってあー、やっぱシスコンとブラコンの気でもあるんかな」

「しす・・・?」

「兄妹が好きってこと」

「じゃあシャオも同じだね♪」

・・・無邪気だなぁ。



「やぁぁぁ!」

・・・と、ここで直葉が踏み込む。剣が輝き・・・


「バーチカル・スクエア!!」

そして放たれる四連撃。流石、と言うべきかその兵士はそれを一撃も貰わずに防いだ・・・が、大きく体制を崩された。

「めぇぇぇん!!」

直葉が大きく振りかぶり・・・気合い一閃。

ガコォン!

「ぐぅ!?」

・・・兵士の兜に容赦なしの一撃。

「そこまで!」

「ふぅ・・・あ・・・あぁぁぁぁ!!ご、ごめんなさい!つい本気で・・・」

「あはは・・・構いませんよ。いたた・・・」

兵士がフラフラしながら直葉に礼をして下がる。

「・・・容赦ないのな、お前」

「だ、だって・・・」

「というわけで次戦いたい人ー」

「亮お兄ちゃん!」

すると沢山の立候補者たち。

「よし、頑張れ直葉」

「もう!後で見返りを要求するからね!?」



その時、ふと見慣れない兵士達が目に入った。

「あれ・・・記憶違いなら悪いんだけど・・・君達、以前からいたっけ?」

「い、いえ!僕達は志願兵です!」

「志願兵?呉はそういった募集はしなかった筈だけど・・・」

「確かに、孫権様に反対されましたが・・・僕たちも自分の世界を守りたいんです!だから・・・」

「そうか・・・って、女性もいるのか?」


近くに二人いたので聞いてみた。

「はい。私たちは姉妹で・・・その、一時期魏に所属していました」

「魏に?じゃあなんで呉に・・・」

「・・・三国がまだ三分立していた頃、私たちは・・・三人姉妹だったんです。ですが、末の妹は国境付近の争いに巻き込まれた時に・・・」

「・・・それは」

「ええ、呉の人に殺されました。暗闇で敵と間違われて・・・」

「だから魏に入ったのかい?」

もう一人の少女が頷く。

「・・・でも、戦いは終わった」

「私たちは妹の仇もとれなかったし、一時期はこの世界も壊したいくらい嫌いでした。ですが・・・今じゃ、この世界で生きていきたいと思っています」

「生きられなかった妹の分まで・・・」

「・・・そう、か。だから・・・呉に?」

「はい。呉を中心として戦うと聞いたので・・・戦う力があるのに、なにもしないでいるのに耐えられなく・・・御遣い様」

「ああ・・・」


「私たちはあなたや・・・世界の為に戦います。どうか、一緒に戦うことをお許しください」

二人が・・・いや、志願兵全員が頭を下げる。答えは・・・

「・・・わかったよ。君達の気持ちはよくわかった」

俺は思い切り声を出す。

「君達の覚悟を俺は認める!!共に戦い・・・勝ち取ろう!!」

全員が歓声を上げる。

「いいの?亮。まだお姉ちゃんちゃんと承認してないんだよ?」

「御遣い特権だ。たまには使わせろ」

「元はただの種馬だったのにね」

「シャ・・・!それを言うなよ!」

「えー?だってホントでしょ?元々は亮はみんなと肉体関係になって世継ぎを産ませるのが役目・・・」

「お前なぁ!そう言うと改めて俺がやなことしてると・・・おも・・・う・・・」

振り返って・・・血の気が引いた。

「亮、お兄ちゃん?」

直葉の顔が青ざめていた。

「どういう、こと?」

「あー、えっと・・・」

「簡単に言えば、亮がみんなに《ピーー》して《ピーー》しちゃって子供を・・・」


「な・・・な・・・」

青から赤に変わる直葉の顔。

「す、直葉・・・は、話を・・・」

「亮の・・・亮の変態ぃ!!」

ズドォ!

「ゴッホァ!?」

直葉の鋭い突きが鳩尾を貫く。



「亮の馬鹿!変態!女の敵!」

「直葉・・・頼む、誤解ではないけどせめて弁明を・・・つか説明を・・・」






呼吸が可能になってから直葉に話す。・・・外史メンバーには種馬系の話をしてないんだよ・・・


「・・・というわけで、天の御遣いの血が入れば色々凄いだろ、ってことで俺が種馬扱いされて・・・」

「う・・・うぅ・・・」

直葉は相変わらず顔が真っ赤だった。

「そ、それで・・・亮お兄ちゃんは・・・し、したの?」

「・・・ドウデショウネ」

「顔を露骨に逸らさないでよ!」


直葉は溜め息を吐く。

「・・・えと・・・でもな、直葉。俺は適当な気持ちで子供を作る気はないんだ。そこだけは・・・理解してくれる?」

「・・・もう、いいよ。ここは日本じゃないし・・・それに、亮お兄ちゃんがみんなを大切にする理由もわかったし・・・」

「そうか・・・あの、さ」

「?」

「兄貴やサチ達には内緒にしてほしいなーって・・・」

「亮お兄ちゃんってば・・・すぐ保険に走るんだから」

「もうみんな知ってると思うよ?」

「え?・・・え?」

「だって春鈴が説明してたのシャオ聞いたもん」

「春鈴ィィ・・・!!!」

思わぬ黒幕に頭を抱えた。

「直葉・・・シャオ、もう昼だし飯食いに行こうか・・・」


てなわけで厨房へ・・・




「すいませーん。ちょっと軽く・・・あれ?」

「お兄ちゃん!」

「ユイ、ここにいたのか?」

「お邪魔してます」

「リョウもご飯食べに来たの?」

「美幸とソフィ?なんか面白い組み合わせだな」

美幸とソフィはリョウコウから聞いたけどユイは・・・


「わたしとソフィさんは一緒に行動してました!」

「私は違うソフィちゃんとお友達だから・・・こっちでも仲良くなりたかったんだ」


「・・・もうユイも美幸も友達だよ」

「こうしてみると三人姉妹だな」

俺が言うとユイが嬉しそうに言う。

「じゃあソフィお姉ちゃんと美幸お姉ちゃんです!」

「お姉ちゃん・・・わたしが・・・くす」

「その呼ばれ方・・・私の世界のユイちゃんを思い出すなぁ」



美幸がユイの頭を優しく撫でる。・・・本当に三姉妹だな。

「とと、俺達も飯を・・・」

「おう、亮も来たか」

「祭さん!?」

厨房にはエプロンを付けた祭さんがいた。

「なんで祭さんが・・・」

「なに、簡単じゃよ。飯を食べに来たら人がいなかったからな。儂が自分で作ろうとしたら三人が来てのぅ」

「ついでだからみんなの分を作ろう・・・って?」

「うむ。そういうことじゃ。尚香殿や・・・確か、亮の妹じゃったか?食べるかの?」

「手伝おうか?祭さん」

「せっかく帰って来たんじゃ。久々に手を振るわせぃ。亮にも飛び切りのを作ってやるからの」

そう言って祭さんは再び鼻歌と共に料理を始める。席に座ると小蓮が耳打ちしてくる。



「(祭、きっと亮が帰ってきて嬉しいんだよ)」

「(そ、そうなのか?)」

「(祭の横顔見なよ)」

「(チラッ)」

「~~~♪」

・・・見たことのない笑顔だった。


「(・・・な、なんかうれしいけど恥ずかしい・・・)」

「ねぇ亮お兄ちゃん。あの人は・・・」

「祭さん・・・黄蓋だよ」

「・・・もう、驚き疲れちゃった」

直葉が遠い目で溜め息を吐いた。

「はは・・・蜀の人もこれから来るんだからな?」

「なんか・・・亮お兄ちゃんが別人みたい・・・」

「実質別人だけどな・・・」

そんな会話をしながらしばらく待つと・・・

「待たせたな。ほれ、飯じゃ」



大量の中華料理が運ばれ、並べられる。

「かに玉・・・!!」

ソフィがかに玉に尋常じゃない食い付き方をした。

「まっててね、今取り分けて上げるから」

「(コクコクッ!)」

美幸が微笑みながらソフィとユイの小皿に別けていく。

「直葉とシャオも皿貸して。分けてあげるよ」

「うん♪」

「お、美味しそうだけどカロリーが・・・」


「んなの気にすんな。むしろもうちょい太れ」

「女の子に太れとか言わないでよ!」

パシン、と背中を叩かれる。さて・・・みんなに料理が行き渡り・・・

「じゃあみんな・・・せーの」

『頂きます!』

まず一口。・・・うん!

「美味い!」

「かに玉・・・美味しい・・・」

「野菜が美味しいです!」

「ほら二人とも、ほっぺに付いてるよ」

美幸がソフィとユイの頬を拭く。

「・・・」

直葉は一口食べて固まった後・・・

「う・・・運動すれば太らない・・・太らない・・・うん!」


そう言ってブンブン頭を振って食べるのを再開する。シャオに至ってはただひたすら口に詰め込んでいた。

「そんなに美味いか?亮」

「うん。かなりね!久々に食べれて凄い懐かしい・・・っていうか嬉しい」

「ほう、そうか。・・・なら久々に“あーん”でもしてやろうか?」

「「「ごふっ!?」」」

直葉、美幸、俺は祭さんの発言にむせる。


「さ、さささ祭さん!」

「りょ、亮お兄ちゃん・・・」

ああ、妹の引き気味な視線が痛い・・・!


「わ、私・・・何も聞かなかったから!」

美幸さん、それはそれでキツいッス。

「祭さん・・・あのさぁ・・・」

「なんじゃ、事実だろうに」

「だからってさぁ・・・!」


そんな感じで時間は過ぎていった・・・








































咲~


ヴィータと一戦やり合った後、俺は休んでいた。視線には様々な試合。

「きゃあああ!?」

リョウコウにやられ、空飛ぶ春鈴。


「・・・違う、もう少し腰を捻って溜めるんだ」

「こ、こうですか?」

クラナがヴィヴィオを指導し・・・

「「はぁぁぁぁ!!」」

キリトとアスナは剣閃を空に放っていた。・・・大分慣れたなあの二人。

「・・・咲」

「父さん、何してるの?」

「恋に・・・愛依か」


笑顔の愛依がなんだか嬉しくて頭を撫でる。

「わっ・・・い、いきなりどうしたの?」

「いや・・・娘っていいなぁってさ」


「でも・・・本当の父さんはアタシが・・・」

「闇が暴走する前に殺してくれたんだろ?ごめんな、嫌な役割を押し付けて」

アビスの世界で見た愛依の記憶。愛依は恋に庇われ、暴走しかけた俺を殺した。

「愛依、とにかく思いっきり甘えてこい。お前の親より五年若いけど、それでも俺も咲だからな」

「・・・恋も。沢山甘えてほしい」

「父さん・・・母さん・・・」

「たく、平和な家族団欒ねぇ」

「詠?」

「あ・・・」

愛依が詠を見て固まる。

「あの・・・その・・・」

「いいわよ謝んなくて。なんというか・・・色々気が抜けたわ」

詠がジロッ、と愛依を見る。

「こうしてみるとちゃんと愛依にも咲や恋の特徴があるのよね・・・ボクとしたことが迂闊だったわ」

「・・・いえ、アタシもよく似てないって言われてました。・・・お姉ちゃんたちから」

「姉?」

「はい。四人、姉弟がいました」

「そう・・・」

詠はそれ以上聞かなかった。理由なんて・・・言わなくても分かる。

「アタシにとっては詠さんもお母さんなんです。アタシ達に唯一勉強を教えてくれる人でしたし・・・」

「そう・・・まぁ、そうよね」

「俺は教えなかったのか?」

「父さんは暇があればアタシ達と遊んでくれたから。だからよく詠さんに怒られてたよ」

「あぁ・・・うん」

なんか予想が簡単だ。

「後は・・・お昼寝も好きだなぁ」

「昼寝?」

「うん。母さんの動物達に囲まれて、母さん達と一緒に・・・あれ・・・?」

愛依の目から・・・涙が溢れた。

「おかしいな・・・なんで泣いてるんだろ・・・」

恋が後ろから愛依を抱き締める。

「・・・ここの恋は、愛依を離さない。だから安心して」

「うん・・・やだな、昔っから泣き虫で・・・」

「気にすんな。慰めるのも親の・・・家族の務めだからな」

「うん、ありがとう父さん」


「そういや椿とは?」

「あ、それは父さんと亮さんが親友だから、よく遊んだんだ。引っ込み思案なアタシを椿が引っ張ってくれて・・・」

「そか。そりゃ納得」

「・・・その肝心の椿は何処よ?」

「孫権さんの所で話してるよ。やっぱりまだ椿も緊張してて・・・」

その時・・・

「咲ーっ!!」

「恋殿ぉーっ!!」

「詠ちゃーーん!!」

「え?おわっ!?」

「っ!?」

「きゃっ・・・」

俺達は飛び付かれ、三人とも仰向けに倒れる。

「あたた・・・」

「咲や!ホンマに咲やぁ・・・!」

「し、霞?・・・ああ、久しぶり。いや・・・ただいま」

「お帰り♪よかったわ・・・ん~・・・咲や~」

・・・流石に抱き付かれるのはその・・・当たるといいますか。

『咲さんモテモテッス』

「(お前はやけに黙ってると思ったら・・・)」

『すいませんッス。なんだか話すタイミングを逃して・・・』


「恋殿ぉ・・・ねねは、ねねはずっと待っておりましたぞぉ・・・!」

「・・・ただいま、ねね」


「詠ちゃん・・・お帰りなさい・・・!」

「ちょ、ちょっと月、苦しいわよ・・・」

「やれやれ、おんな泣かせは相変わらずのようだな、咲」

「華雄も来てたのか!」

「ああ、こんな戦、燃えないわけがないからな」



「てことは一刀達も?」

「来とるで。蓮華のとこに顔を出しと・・・る・・・」

霞の目付きが代わった。視界に入ったのは・・・愛依だ。


「・・・お前!!」

「破壊者だと!?」

霞と華雄が後退り、武器を構える。いや・・・ねねや、月ですら愛依を睨んでいた。


「っ・・・」

一方愛依は呼吸もままならなくなっていた。

「愛依・・・俺が」

「大、丈夫」

愛依はゆっくりとだが、事情を話す。俺と恋の娘であること。罪を償う気はあること。黒幕のこと。

「・・・」

華雄は武器を降ろし、月もねねも俯いていた・・・が、ただ一人・・・霞だけは飛龍偃月刀を構えていた。

「霞・・・?」

「そんなん簡単に信じられるかいな。あんたにはウチの大事なモンぶち壊されたしなぁ」


「じゃあ・・・どうすれば信じてもらえますか」

霞がニヤリと笑う。

「咲と恋の・・・武人の娘ならわかるやろ」

愛依が俯いたあと・・・偃月刀を二本構える。

「武で示せ・・・ですよね」

「正解や!」

霞が踏み込み、突きを放つ。愛依の近くにいた俺達は飛び退き、愛依は霞の一撃を弾く。

「勝負か!?勝負なら私が・・・」

「・・・華雄、空気読んで」

「恋に言われただと!?」

恋にKY宣言されて華雄がヘコむ。

「(愛依・・・)」

愛依と霞はひたすら打ち合う。

「大分やるやない、か!」

「くぅ・・・!」

「特別や・・・目ぇかっぽじってよく見ぃ!」

霞の身体が光る。・・・気だ。それが腕と刀身に収縮する。

「はぁぁぁぁ・・・でりゃあああ!!」

連続で素早い突きが放たれる。愛依は防ぎきれずに偃月刀を二本とも弾き跳ばされる。

「らぁっ!」

ゴスッ!

「あぐっ・・・」

霞の蹴りが当たり、愛依が転がる。

『さ、咲さん・・・』

「・・・ああ!手が滑ったぁ!」

俺はわざとらしくリパルを愛依に投げる。

「!」

愛依はリパルをキャッチし、そのまま一閃。霞は防ぎながら下がる。

「ちょいまちぃや!なに手助けしとんねん!」

「いやー、手が滑って」

「思いっきり振りかぶっとったやないかワレぇ!?」


「余所見しないで下さい!」

愛依が今度はスピードで攻める。


「やぁぁ!」

「まだまだ遅い!破壊者の能力とやらを使ったらどうや!」

「アタシにある力は・・・これだけです!」

刃に闇が灯され・・・

「走れぇ!」

衝撃破のように地面を砕いていく。

「闇?・・・んなもん」

再び刀身に気が集まる。

「見慣れすぎて飽きとるわぁ!」

同じように衝撃破を放ち、相殺・・・いや、二発目を放ち、愛依が吹き飛ぶ。

『愛依さん!』

「ま・・・まだ負けない・・・諦めない・・・!」

「・・・」

恋が方天画戟を取り出し・・・

「・・・」

ブンッ!

愛依に向かって投げた。・・・射線上には霞がいたが。

「危ぅっ!?」

「わっ!?」

霞がしゃがんで避け、愛依が受け止める。

「コルァッ!何してくれとんのや!てかまず手助けし過ぎやバカ親!」

「・・・手が滑った?」

「疑問系やないかぁぁっ!!」

「隙ありです!」

左手に持った方天画戟を振り下ろす。

ガキャン!

「重っ・・・」

「闇の補助で充分振れる・・・母さんと父さんの武器を使ってみっともない真似はできない!」

『攻めるッス!』

リパルで捌き、方天画戟で攻める。それをしばらく繰り返した後・・・霞が気を放出した。

「全力でぶちかましたる!」

高速で走り、勢いののった突きを放つ。

「でやぁぁぁぁぁ!!」

「っ!?きゃあああ!」



渾身の一撃が愛依を吹き飛ばした。そして・・・

「・・・終わりや」

・・・首元に偃月刀を突きつけた。

「・・・!」

だが愛依は未だ霞を見続ける。

「もう一回・・・もう一回お願いします!」

「はぁ?何言って・・・」

「これじゃ・・・認めて貰えない・・・アタシが生きなきゃ・・・アタシをかばってくれた父さんと母さんが無駄死にになっちゃうから・・・!そんなの嫌だから!」

愛依の目に涙が浮かぶ。

「・・・もういいよ、愛依」

「ああ、よく戦ってたよ、お前は」

俺と恋が愛依に近付く。

「でも・・・でもぉ!」

「第一・・・負けたら認めない、なんて言ってないだろ?なぁ霞」

霞は偃月刀を担いで笑う。


「せやな。何時から気付いとった?」

「二発目から。霞、楽しくなってただろ」

「だって中々いい動きするんやもん。てか本気で殺る気がないって分かったから愛依に武器貸したんやろ?」

「・・・まあな。霞には悪いけど、愛依を殺す気なら全力で止めてた」

「ウチかて倒すべき相手を間違えるほどアホやない。今は愛依は倒す相手やない・・・ってことや」
「えっと・・・え?」

愛依が首を傾げる。対する霞は笑顔で・・・

「試すような真似してすまんかったなぁ。安心せい、咲の家族ならウチの家族。家族は助け合いや。ウチも愛依のこと助けたる」

「ちょ、張遼さん・・・」

「“霞”や。咲と恋ちんの娘なら遠慮はいらん。ウチの真名預けたる」

「あ、ありがとうございます・・・霞さん」

「んで・・・もう一戦やらへん?」

「え?」

「愛依からもう一回って言ったやん。ウチも長い間知り合いとしかやっとらんから暇やったし・・・」



「・・・だってさ、愛依」

「お・・・お願いします!」

・・・ちなみに、直後に椿が来て霞が同じ方法で試し・・・泣かせた。・・・亮と明命が笑顔で霞に倍返ししたのは別の話・・・ 
 

 
後書き
椿
「台詞・・・なかった」

明命
「そうですね・・・」


「いや・・・まぁ元気出してな?」

椿
「・・・次回もお楽しみに」

明命
「それでは!」 

 

最後の戦~

 
前書き
本当は今回から戦の予定でしたが、思わぬ長さに今回も戦いは無しです。ではどうぞ。 

 
俺達は蓮華に呼ばれ、玉座へ向かう。・・・途中。

「亮、咲!」

「あ・・・一刀!」

「久し振りだな!元気そうで何よりだ」

「そっちこそな。・・・おめでとう、全員無事で」


「ああ、ありがとう。でも・・・」

「分かってる。本当に喜ぶのはこの戦いに勝ってからだ。・・・椿ちゃん達の為にもね」

「椿達に会ったのか?」

「彼女たちと直接ね。愛紗や焔耶を止めるのには苦労したよ・・・愛紗は娘って聞いた時点で退いたけど」

「親だもんな・・・」

「結局焔耶と一戦やったんだ」

「またか・・・」

俺と咲は苦笑する。一刀も苦笑していたから、悪い結果ではなかったのだろう。

「とにかく、中に入ろう。桃香達は先に入ったから」


中に入ると・・・呉の将と椿と愛依、蜀の代表と外史メンバーがいた。

「・・・来たか」


蓮華がゆっくりと立ち上がる。

「日が沈んだ後に集まって貰ったのは他でもない。新たに部隊を編成したため、ここで通達する」

桃香が口を開く。

「今回は蓮華ちゃんに全部任せてあるから。蜀の皆も蓮華ちゃんの指示に従ってね」

「・・・では、発表する。外史から来たものを臨時として将の地位を与え、部隊を率いてもらう。・・・呂蒙」

「はっ」

亞莎が大声を出す。

「各外史から一名を将、二名を副将に任命します。まず第一特別部隊、ヒューバート・オズウェル!」

「・・・ぼくが・・・?」

「・・・いないのか?返事はどうした」

蓮華が言うとヒューバートが頭を下げる。

「分かりました。どこまでやれるかは分かりませんが、全力を尽くします」

「副将、アスベル・ラント!マリク・シザース!」

「はっ!」

「了解だ。ヒューバートを支えればいいんだな?」

「はい。将の手助けをしてください」

亞莎は次にアビス組を見る。

「続いて第二は、ジェイド・カーティス!」

「おや、私ですか。分かりました」

「副将、アニス・タトリン!ガイ・セシル!」

「何時もと・・・」

「あまり変わらないな・・・」

アニスとガイは苦笑しながら返事を返す。

「続けて第三、行きます。結城明日奈!」

「えっ・・・!?」

「・・・どうした」

「あ、は、はい!」


アスナが慌てて返事を返す。

「副将、桐ヶ谷和人!篠崎里香!」

「俺がアスナの・・・ああ!」

「あ、あたしが・・・?わ、分かりました・・・」

緊張からかリズが敬語になる。

「そして第四、八神はやて!」

「了解や!」

「副将、高町なのは!フェイト・T・ハラオウン!」

「私たちも何時も通り・・・」

「・・・だね」

「以上です」

「呼ばれなかった者は自由に戦っても構わない。ただし、時と場合は選んでもらうが」

「・・・」

蓮華がちらりと霊夢達を見る。

「また、シィ、剛鬼、リョウコウ達も同様だ」

「そして、更に呉の部隊を編成します。甘寧隊の副将、大澤並びに凌統を解任します」

「「え?」」

「新たに“大澤隊”を組み、副将を周泰に任命します。周泰隊は凌統が将を務め、凌統隊に名前を変更します」

俺が・・・将。


「また、蜀の皆さんの編成は北郷様達が行なって構いません」

「わかった」


一刀と桃香が頷くと蓮華が口を開く。

「では、将、並びに副将に選ばれた者は今から指定された位置に向かってもらう。そこには既にこのことを通達した部隊の兵達がいる。自分の手足ともなる者たちだ・・・明日の戦の為にも、しっかりと名乗っておけ」

一刀が蓮華に一声かけてから咲に話す。

「咲、お前の部隊も連れてきているからな。名目上、董卓軍のみんなは蜀の配属で扱うけど、いいよな?」

「そういうのは月に言ってくれ。俺は月の部下だからな」

「じゃあ決まりだな。月にはもう話は通してあるからね」

「話が早くて何より・・・」

咲が笑って言うと一刀も笑みを返した。

「・・・皆、明日は三国・・・いや、世界の命運をかけた戦いになるだろう」

『・・・』

「恐らく、今までにない程の戦だ。正直に言えば必ず勝てるとも思えない」

蓮華がそこまで言って玉座を降りる。

「だが、あのような輩にこれ以上好きにやられるのも癪だ。・・・我らの意地を、とくと見せ付けてやろうぞ!」


皆の目付きが変わる。・・・そして、俺は指定された場所に行くと・・・

「俺の・・・部隊か」

大量の兵士が並んでいる。俺は深呼吸をしてから兵の前に立つと、空気が更に張り詰めた気がした。

「・・・みんな、今まで留守にしていてすまなかった。そして今回の戦は殆ど俺や咲への個人的な怨みが元で起こったと言っても過言じゃない。相手は恐ろしい力を持っていて、死ぬ確率だって高い。恐怖で逃げ出したって俺は恨まないし、仕方のないことだと思う。けど・・・それでも、あの敵と戦うと言うのなら・・・頼む、みんなの力を俺に貸してくれ!もう一度平和を取り戻すために・・・お願いだ!!」

俺は勢いよく頭を下げた。直後に・・・声。

「頭なんか下げないでください御遣い様!!」

「御遣い様への怨みなんかバカらしい逆恨みに決まってる!」

「貴方は俺達に希望をくれたんだ!だから、俺達も誰かに希望をあげたいんです!」

「今は御遣い様の希望にならせてください!」

「貴方が命じるなら何処へだって行ってやりますよ!」

「みんな・・・」

兵達は・・・笑っていた。

「攻めてくる愚か者に、呉の誇りを見せ付けてやりましょう!」


「負けませんよ、俺達は!」

「ありがとう・・・感謝するよ・・・!」

どうも涙もろくなってるっぽい。慌てて目元を拭う。

「亮の後で失礼します。私もしばらく留守にしてすみませんでした」

明命が俺に代わり、話している途中・・・

「亮」

「ん・・・サチに・・・シリカ?」

「終わりましたか?」


「ああ、俺はね。・・・何かあったのか?」

「えっと、呼ばれなかったみんなは誰かの部隊に立候補していて・・・」

「それで・・・あたし達を亮さんの部隊に入れて欲しいんです」


「二人を?」

「はい!」

「お願い、亮」


「・・・ああ、わかった。立場は俺の部下ってことになるけど平気?」

「はい、大丈夫です」

「・・・この子達もがんばるだって」

「じゃあアイツらに報告するか・・・明命、終わったか?」

「はい。ご報告があるならどうぞ」

こうして夜が過ぎていく。大勢を指揮する軍所属のヒューやジェイドと違い、KoBとは感覚の違う軍隊にアスナは戸惑ったそうな。(ちなみにリズは緊張のあまり転んだらしい)そして・・・


























「・・・よし」

早朝、俺は自室にて・・・思春が着ていた何時もの服に着替えた。

「やっぱりこの服が一番気合いが入るな・・・」

手に包帯を巻き付け、ズボンの裾を足で踏まないよう直す。腕に葬解、背中に迷切、腰に擬音を身につける。

「・・・」

「お父様」

「椿。・・・どうした?こんな朝早くに」

「・・・ちょっと不安になっちゃって」

「不安?・・・いや、そうか。一度壊されたからな・・・でも大丈夫だ。俺は二度も娘の前からいなくはならないよ」

「・・・うん」

「それに今回は不意打ちじゃないし、俺も強くなったつもりだ」

俺は椿の頭を撫でる。

「絶対に勝つからな。お前が笑える場所を作る為にも、これからの未来の為にも」

「・・・やっぱり、お父様はお父様だね。・・・ありがと、ちょっとだけ自信ついた」

「それでもちょっとかよ・・・」

「お父様の強いとこ見たらもっと安心できるかなー?」

「だったらさっさと安心させてやらないとな。・・・椿、死ぬなよ?」

「お父様も、ね」

その時、扉が開いた。

「・・・もう、母親の私は蚊帳の外ですか?」

「お母様!」

「い、いや、別に明命を仲間はずれにしたわけじゃー」

「亮は妻よりも娘を取るのですね・・・」

「別にどっちを取るとかないから!第一まだ妻じゃ・・・」

「・・・お父様、“まだ”?」

「~~~!!ち、違う!えと、そうじゃなくて・・・だーもう!」

盛大に自爆をかまし、俺は顔を抑える。

「ふふ、ごめんなさい亮。なんだか亮に悪戯したくなっちゃいました」

「明命~・・・でも、気持ちはなんとなくわかるよ。・・・やっと会えたのにゆっくり話せなくて悪いな」

「いいえ、会話ならこうしてしていますし、何より共に戦います。・・・二人の時間はそこからでも遅くないです」

「ああ、そうだな。この戦いに勝って空いていたみんなとの・・・明命との時間を埋めよう」

「はい、亮!」

「お父様、お母様・・・わたしのこと忘れてない・・・?」

涙目の椿を見た俺と明命は笑って椿を抱き締める。

「忘れてないよ」

「二人の時間だけじゃなく、三人の時間も作りましょうね」

「・・・うん」


戦が始まる前の数刻・・・大事な家族団欒を楽しんだ・・・




























咲~



「・・・」

『いよいよッスね・・・』

「ああ。・・・リパル」

『はい?』

「いや・・・お前とも大分長い付き合いだなって思ってさ」

『そうッスね・・・』

「お前に人格を与えたのはリョウコウ達の創作者って聞いたけど・・・感謝感激雨あられって感じだ」

『なんスかそれ?』

「なんでもない。リパル、この戦が終わったらお前になんかプレゼントしてやるよ」

『プレゼントッスか?』

「ああ。今までお前に何にもしてやってないからな。飛び切りのプレゼントを送ってやるよ」

『オイラは咲さんに色んなことをされてるッス。別に何もしてないことは・・・』

「るっせーなぁ。こういうのは素直に礼言っときゃいいんだよ」

『・・・ありがとうございますッス』

「よろしい」

「咲!」

「ん・・・?」

振り返ると・・・翠が走ってきた。

「翠?どうしたいきなり・・・」

「どうした、じゃねーよ!なんで蜀のみんなに顔出さないんだよ。みんな心配してたんだぜ?」

「あ、ああ悪い。董卓軍のみんなと話してたら昨日はそのまま・・・」

「ま、いいけどさ。・・・今、ちょっといいか?」

「ああ、早起きして余裕があるくらいだし、構わないぜ」

「・・・ちょっと話したい事があってさ」


俺は翠に中庭にまで連れ出される。


「んで?どうしたんだ急に」

「・・・これから凄い戦が始まるだろ?・・・ただじゃすまないのは目に見えてる」

「・・・まあ、な」

「アタシも死ぬ気はないけど、万が一の時に悔いを残したくないんだ。だから咲に言いたい」

「・・・」

翠の真剣な表情を見て俺も態度を改める。

「・・・正直、アタシがこの言葉を口にしていいか分からない。でも・・・やっぱり黙ってることが・・・自分を抑えるのはもう無理だ。だから言うぜ」

「ああ、聞くよ」

翠は大きく深呼吸をしてから・・・

「アタシはな、咲。・・・お前のことが・・・好きだ」

「・・・!」

思わず目を見開いて翠を見る。

「大分前から・・・好きになってた。けど恋が・・・詠がいるからって自分をずっと偽って・・・けど、それって逃げてるよな。アタシは逃げるのは嫌だ。だから・・・だから・・・こうして、伝えた」

「そう、か」

俺はふと今までの翠に対する態度を思い出し・・・ちょっと頭を抱えた。

「悪い翠・・・俺、今まで翠を傷付けてたかもしれない・・・」

「な、なんで咲が謝るんだよ!?」

「いや・・・」

『(咲さん・・・)』

「(分かってるよ)」

俺は翠を見る。

「翠」

「お、おう・・・」

気持ちを口にしたからか、翠の勢いがなくなり、凄く不安そうだ。


「ありがとう、気持ち・・・凄い嬉しい」

俺は翠に一歩近付く。

「今まで翠の気持ちに気付かないでいた最低な男だが・・・俺で良ければ、その気持ちに答えるよ。俺も・・・翠のことは好きだからな」


「・・・!!」

翠が驚き・・・涙を浮かべる。そして・・・抱き付いてきた。

「す、翠!?」


「・・・悪い、顔・・・見られたくない」

「・・・ん」

しばらくしてから翠が離れる。その顔は真っ赤だったけど笑顔だった。

「咲!アタシは絶対に死なないからな!咲も死ぬなよな!」

「当然だ。死んでたまるかよ」

翠が走っていく。


「咲ー!」

「なんだー?」

「好きだーーー!!」

「・・・ああ!」

翠の姿が見えなくなる。

「・・・恥ずかしがりやなアイツがなぁ・・・」

『吹っ切れた女性は強いってことッスよ』

「・・・なんだよ。ずいぶん知ったような口振りじゃねーか」


『企業秘密ッス』

「ほほう?主人の命令に従えないのかよ?」

『咲さん自身が言ったじゃないッスか。オイラは相棒ッスよー』

「ははっ、そうだな」


「・・・父さん・・・?」

「げっ、愛依・・・」

苦笑いしている愛依がやって来た。

「えっとな、愛依。今のは浮気とかじゃなくて・・・」

「ううん、知ってる。むしろそういう仲じゃなかったのが驚き・・・かな?」


「・・・俺があっちこっちに手を出してたように見えたか?」

「ちょっと違うかも。・・・だって、ハクは・・・」

「ハク?」

「うん、ハク。本当は琥珀(こはく)って言うけど、大体みんなハクって呼んでて・・・アタシの弟で、すい・・・馬超さんと父さんの子供」

「そう・・・か・・・悪い、やなこと思い出させたな・・・」

「ううん、平気。それよりも、父さんには聞いてほしいんだ。せめて・・・アタシ以外の人が覚えていてくれるために・・・」

「・・・わかった」

「アタシはね、次女なんだ。詠さんの子供の(さく)お姉ちゃん。妹で霞さんの子供の(あかね)さっき言ったハク。魏延さんの子供で弟の蒼馬(そうま)で・・・ソウって呼んでた・・・かな」

「・・・確かに覚え・・・まて、魏延?」

「え?うん」

「魏延って・・・焔耶だよな?」

「そうだけど・・・」

「・・・」

まて、それって・・・え?本当に?

『多分、間違いないんじゃないッスか・・・?』

「マジか・・・てことは俺、焔耶も傷付けてたような・・・」

ああああ、今考えれば心当たりがぁぁぁ・・・

「あ・・・も、もしかしてアタシ、余計なこと言った・・・?ごめん、父さん・・・」

愛依がしょぼんとしてしまったので俺は慌ててフォローする。

「い、いや愛依は悪くねぇって。・・・ったく、俺と恋の娘ならもっと堂々としてろって」

「仕方ないよ・・・これでもマシになったんだよ?椿が友達になってくれなかったらアタシ・・・多分引きこもりになったかも・・・」

「それは嫌だな・・・」

娘が引きこもりになったら泣くわ。

「さて、そろそろ行くか」

「うん。父さん、アタシも父さんの部隊で戦っていいよね?」

「ああ。一緒にアイツをぶったおそうぜ」

「うん!!」



さぁて・・・やるか!
















亮~

・・・紫に指定された位置に俺達は集う。そして将と副将は本陣に呼ばれた。




「皆さん、戦前にすみません」

「別にいいけどよ、俺やシィ、剛鬼の旦那まで呼ぶなんてどうしたんだよ?」

リョウコウの言葉に答えたのは・・・ユイだ。

「それは今から説明します、リョウコウさん」

ユイの言葉にリョウコウは小さく「リョウコウさん、ねぇ・・・」と呟く。元の世界では別の呼ばれ方なのだろうか。

「みなさんにお渡ししたいものがあるんです」

そう言ってユイはせっせと何かを並べ始める。



「これは?」

「これはわたしが設計して様々な世界の皆さんのご協力で作った・・・無線機です!」

それにアスナとキリトが首を傾げる。

「ユイちゃん?これ・・・」

「ただの透き通った水色のプラスチックにしか見えないんだが・・・」

「これはかさばらないようになってるだけです!耳に当ててください」

咲が指先で掴み・・・耳に当てる。すると・・・

カシャン

「おおっ!」

変形し、よくドラマのSPとかが付けてそうな無線機に変形する。

「すげぇな、これ。性能は?」

「保証済みです!今回のフィールド全てに届くようにしてあります!」

「でも、なんで無線機なのよ?」

リズが聞くとユイが更に何かを取り出す。



「お、ミラージュ・スフィアじゃねえか」

「リョウコウ、なんだよそれ?」

一刀が聞くとリョウコウは返事を返す。

「おう、コイツは・・・まぁ3Dでマップが見られる。・・・くらいに考えてくれや」

俺は口を挟む。

「でもユイ。ここはアインクラッドじゃないぞ?それは・・・」

「これも改良済みなんです!どうぞ!」

ユイがミラージュ・スフィアを機動させると・・・ここの当たり一面のマップが表示され、しかも俺たちの軍にマーカーが付いていた。

「なるほど、本来なら一手間かけて伝令を通さなければ戦況はわかりませんが、これを使えばそれを解消できる、と」

「その通りです、ヒューバートさん!」
一刀が軽く手を挙げる。

「取りあえず、見知らぬ人が殆どだろうから、紹介するよ。亞莎はみんな知ってるよな?」

全員が頷く。

「よし・・・朱里、雛里、おいで」

「は、はい!」

「はひっ・・・!」

二人の少女が前に立つ。

「はわわ・・・」

「あわわ・・・」

「二人とも落ち着いて。自己紹介を」

「はい、ご主人様!わた、私は諸葛孔明です!」

「鳳統・・・です」

『・・・っ!?』

朱里達を知らず、三国志を知っている人は目が点になる。一刀はそれを見て苦笑する。

「あはは・・・確かに信じられないかもしれないけど、この二人はちゃんと歴史に伝わってるあの有名な軍師だよ」

「・・・」

SAO組は唖然、なのは組は苦笑。三国志を知らないグレイセスとアビス組は特にリアクションなし。

「まあ、気持ちはわかるよ。一応言うと俺の後ろにいるのは蜀の五虎将軍・・・っていえば伝わるかな?」

更に唖然とする面々。一刀はそこで咳払いをする。

「とにかく、プランとしては朱里たち軍師がそのミラージュ・スフィアで策を立てて、ユイちゃんがみんなにリアルタイムで指令を出す・・・でいいのかな?」

「はい、その通りです一刀さん!」


「なんか他人行儀にされた気分だ・・・」

「キリト君も“カズト”だもんね」


キリトが頭を掻き、それを見てアスナが笑う。



「では、この通信機はお借りしますね」
ジェイドが三つ取り、アニスとガイに渡す。

「わたしらも持っとく?」

「持っていた方が便利だよ、はやて」

「せやな」

「はい、二人とも」

そんな感じで将と副将全員に通信機が行き渡る。

「装着したあとに下側を押すと他の通信機に。上側なら本陣に通話出来ます。指二本で押せば両方です!」


「オッケー、分かった」

「じゃあみんな部隊に戻ろう」



俺は戻る途中・・・呉のメンバーと話す。

「なんだか懐かしいですね・・・」

「ああ、そうだな」

明命の言葉に思春が答える。

「そうじゃのう。お主達がいない間は大変じゃったわい」

「蓮華様なんて、1日に一回は亮さんの名前を呼んでましたよ~?」


「の、穏!?聞いてたの!?」

「はい~♪」

「あはは、蓮華様は一途ですね」

「そういう春鈴はよく思春と亮の部屋によく入ってたよね」

「しゃ、小蓮様・・・何でそれ言いますかね・・・」

「また何で俺や思春の部屋に?」

「・・・何となく、です。亮様たちがいるんじゃないか・・・ってふと思っちゃいまして」

「・・・そうか」

思春が俯く。俺は空気を変えようと話題を変える。

「とにかく、この戦に勝とう。・・・それとさ、終わったらみんなに話したい事もあるし」

「みんなにですか~?」

「ああ。伝えたい・・・大事なこと」

「ほう、なら頑張らねばな」

「私たちなら勝てますよ。ね、思春?」


「・・・ああ、そうだな」

ピピッ

『私を忘れないでください・・・私だって頑張りますから』

本陣に残っていた亞莎から通信が来た。・・・確かに性能いいなこれ。

「お姉ちゃん、頑張ろうね」

「ええ、孫呉の力を思い知らせてあげるわ」

そんな会話をしながらも俺達は自然に気持ちを切り替えていった・・・































咲~


「む、そう言えば詠、お前は本陣に行かないのか?」

華雄が聞くと詠が答える。

「ああ、ボクは今回前線に出るから」

「・・・まさかなんやけど、その腰に付けとる剣は・・・」

「使うから付けてんのよ。それ以外に利用方法があるの?」

「詠!貴様戦えたのか!?」

「違う世界に跳ばされてからよ。けど、アンタ達とも互角に戦えるんじゃない?」

「なんやて!?だったら早速・・・」

「霞、これから戦だっつの」

「・・・後で、いくらでも出来る」

「そうなのです!今は勝つことだけを考えればいいのです!」

「そうやけど・・・勝つんは当たり前や。負ける気で挑んだ戦なんかあらへん」

「そうだ。必ず敵は粉砕する」


「・・・皆さん」

月の言葉にみんなが見る。

「今から・・・家族としてのお願いをします」

「・・・」

「必ず・・・みんな無事に帰ってきてください」


『・・・当然!』

みんなの返事が一致する。


『凄い団結力ッスね・・・』

「家族の絆って奴だ。なぁ恋?」

「(コクコクッ)」

『はは、なんか羨ましいッス』

「・・・リパルも、家族」

「だとさ。ちゃんとカウントに入ってるからな?」

『・・・ッス!』



さてと・・・やるぜ・・・覚悟しやがれ、シン・・・!! 
 

 
後書き

「いやー、始まるな」


「・・・作者、ソードアート・オンラインの新作でなんかやってたな」


「隠し要素でサチとユウキをパーティーに出来るんだってさ」


「既にリズのレベルと好感度がアスナを超えてるんだけど、このリズ」


「ゲームをプレイする際には自分の好きなようにプレイしましょうね」


「関係ない話になったな・・・それじゃ、次回もよろしく!」 

 

いざ、出陣~

 
前書き
三週は・・・!夜勤三週連続は辛い・・・!というわけで最近死んでたエミルです。あとがきにちょっとしたお知らせがあります。ではどうぞ。 

 
・・・俺は馬に乗り、呼吸を整えていた。二度と味わいたくはないが・・・懐かしい、戦場の張り詰めた空気。


「慣れたもんだな、俺も・・・」

小さく笑うと、明命が隣にやって来る。

「亮、久しぶりの乗馬で大丈夫ですか?」

「明命こそ。ブランクはお互い様だろ?」

「そうですね。長すぎるブランクですが・・・」

「ああ、丁度いいハンデ・・・だろ?」

「ええ」

「・・・」

ふと振り向くと椿やシリカ、サチもいた。

「三人とも、馬は平気か?」

「う、うん。不安だけど・・・取りあえずは平気だよ、お父様!」

「大人しい子でよかったです・・・」

「えっと・・・」

サチの片方瞳の色が変わる。

「大丈夫だよサチ。いざとなったら飛べばオッケー!」

「い、いいのかなぁ」

端から見ると独り言だなぁ・・・

ピピッ

『みなさん、配置に付きましたか?』

「こちら亮。準備完了だよ」

『あいよ、咲も準備完了っと』


俺と咲がユイに返事を返してからみんなが次々に報告する。

『狙撃班のお二人もいいですか?』

『・・・ええ、問題ないわ』

『久々に狙い撃つとしますか』


シノンと知也が援護役のようだ。

『諸葛亮さん、なにか指示はありますか?』

『は、はい!すみませんが、最初は各自の判断で動いてください。皆さんからの報告を受け、そこから策を展開していきます』

『御意。朱里、雛里。お前達の力を見せてやれ』

『期待してるぜ!ま、指示が出る前にアタシ達が終わらせるかもしれないけどな』

『あらあら』

『翠の意見に賛成なのだ!朱里達が考えるまでもないのだ!』

『ええい、そんな簡単にいくか!』

『あ、愛紗ちゃん落ち着いて!』

蜀の賑やかな会話。だが次の瞬間・・・空気が変わった。

『っ・・・!みなさん!新たに反応が現れました!東の方向です!』


「東・・・近い!」

俺は位置を合わせてから叫ぶ。

「いくぞみんな!戦いの始まりだ!!」

『オオオオオ!!』

馬を走らせ、群れを視認する。



「あれは・・・!」

こちらと同じように武器を持ち、鎧を着ている・・・が、所謂“和”の軍だった。

「覚悟しろ!」

相手の先頭の馬に乗った兵が突っ込んでくる。俺は慌てずに身を捻ってかわし・・・擬音を振り抜く。

ズシャア

ビチャア


「・・・え?」

身体に血が降りかかる。しかも今の感触・・・

「本・・・物・・・!?」

「ひっ・・・」

シリカとサチが息を呑む。・・・悲鳴を上げる余裕もないらしい。俺は急いで通信機を指で抑える。

「こちら亮!相手は本物の・・・生身の人間だ!!気を・・・」

『・・・少し遅かったみたいだ』

「兄貴?まさか・・・!」

『ああ、アスナが・・・一人、殺した』

「・・・!?」

テイルズ組は混乱が少ない。戦場を味わってるからだからかもしれないが・・・SAO組は違う。人通しで戦うことは確かにあった。だが、こんな風に・・・血が流れ、命を消す行為は・・・

「兄貴は平気なのか?」

『リズもスグもダメなんだ。ここで俺まで自棄になるわけにはいかない。それに・・・俺も人殺し・・・だからな』

「兄貴・・・とにかく、指示を出せるなら部隊を退かせてくれ!誰か応援は・・・」


『俺達に任せときな、少年』

リョウコウか・・・!

「悪い、頼めるか?」

『おう。なんだったら部隊を引き継いでもいいぜ?』

「それは後で検討するよ。今は・・・」

『ああ、わーってるよ。・・・お前も無茶すんなよな』

「無茶しない主役はいないよ」

軽口を叩いてから通信を終了する。

「明命!」

「はい!道を切り開きます!」

「サチとシリカは退いてくれ!」


「あ・・・う・・・」

「で、でも・・・」

シリカは未だに混乱していて、サチは正気を保ち始めたが、それ故に退いていいのか悩んでいるみたいだ。

「・・・誰か!二人を頼む!」

「はっ!」

部下の一人が返事を返して、二人を引き連れていく。俺と明命は馬を走らせ敵陣に斬り込む。




「ふっ!せやぁ!」

人を斬る感触。身にかかる血飛沫。

「はぁ・・・はぁ・・・」

自然と呼吸が荒くなり、自分の中の何かが切り替わっていく。

「亮!」

・・・ふと、明命の声で我に帰った。

「亮、無理をしないでください。あなた一人が背負っていい荷物じゃないんです」


「明命・・・」

「動きが止まったぞ!」

「今だ、かかれ!」

その瞬間、周りの兵士が飛び掛かってくるが。

「リョウコウの記憶、再生!・・・乱嵐流!!」

椿が放った回転斬りが兵士を全て怯ませる。

「シィの記憶、再生・・・!雷の斧!!」

辺りの敵兵は雷に呑まれ、死んでいく。

「椿、お前・・・」

「・・・あんなことしておいて、今更戦えない。なんて言えないもん」

いつの間にか馬から降りていた椿が兵士の死体に手を当てた。

「この人達のも・・・背負わないといけないんだよね」



「・・・ああ、そうだな」

椿は小さく頷き・・・笑顔を見せた。

「大丈夫。・・・背負って見せるよ。だってわたしはお父様とお母様の娘なんだから・・・!」


「はい。・・・いい目をしてますよ、椿」

「じゃ・・・家族の力を見せ付けてやるかぁ!」

「はい!」

「うん!」

俺達は再び武器を構え、乱戦の中を駆け抜けていった・・・



























咲~

「ダァリャァ!!


ダークリパルサーを一閃。敵兵が吹き飛んでいく。

「久々の単騎駆けだなぁ・・・」

『でも、余裕ッス!』

「ああ、お前がいてくれるなら心強いぜ」

直後、光線が敵軍を凪ぎ払った。

「・・・恋も、心強い?」

「強すぎだよ・・・」

『負ける気が本当にしないッス・・・』

「と、父さん、母さん・・・二人ともこんなに強かったんだ・・・」

「おいおい、愛依には散々見せてただろ?」

「娘目線で見るとまた違うよぉ・・・アタシ、凄い人の娘なんだよね・・・」

ピピッ

「っと、通信?」

『おーい、今からデカイのかますから、みんな気ぃつけろー?』


リョウコウの軽い声・・・の直後、雷の槍と爆発が敵陣を吹き飛ばした。

「おおぅ・・・」

『うし、美幸、レコン。ナイスだぜ!』

『やりすぎやボケェ!!』

リョウコウに対して霞が突っ込みをいれる。

『じゃあ次いっくよ!』

シィの声の直後に爆発。

『はわわ・・・な、何がどうなって・・・』

『あわわ・・・策がいらないよぉ』



『落ち着いて、朱里、雛里。策がいらない戦はないからね』

一刀が混乱する軍師を宥める。

『こちら知也。現在シノンと移動中。・・・まったく、射ち放題の狙い放題だな』

『軽口を叩く暇があったらさっさと移動しなさい』

『はいよ』




今のところ特に苦戦してる話はないか・・・



「でも父さん。アスナさん達は平気なの?」

「ん・・・多分リョウコウ達が行ってくれただろうし・・・」

「・・・家族が不安なら、行った方がいい」

恋に言われ、頭を掻く。

「とは言ってもなぁ・・・将がそんな理由で自分の戦線を抜け出すなんて・・・」

その時、衝撃破が敵陣に当たる。

「いいから行きなさい!」

「詠・・・」

「咲の部隊はボクが、恋の部隊はねねが纏めて担当するわ」

「だ、だけど・・・」

「いいから行けって言ってんのよ!リズにはこの剣の借りもあるし・・・アスナも大事な家族なんでしょ?」

「・・・咲、行こう」

「父さん・・・」

更には兵士達もが同調する。

「行ってください!」

「俺らだけでもこの戦線を維持しますよ!」

「・・・わりぃ、頼む!」

俺と恋は同時に闇を解放し、羽根を生やす。

「愛依!」

「・・・掴まって」

「う、うん!」


俺と恋が愛依の腕を掴んで飛ぶ。ほんの少しすれば旗が見えてきて。

「愛依!上手く着地しろよ!」

「え・・・えぇぇぇぇぇ!?」

低空を飛び、愛依の足が付くか付かないかのタイミングで離す。愛依は慌てて闇を足に纏い、着地。俺と恋も滑りながら地面に降り立つ。


「そ、空から!?」

「く・・・ば、化け物め!」

敵兵は突如空から現れた俺達に混乱しているようだ。

「化け物で結構!取りあえずたたっ斬る!」


敵陣に突っ込んだ俺たちは暴れまくる。

「・・・咲、愛依、退いて」

俺はそれを聞いて愛依を抱えて飛ぶ。

「ーーー戦場を駆ける一騎当千の(ホウテンガゲキ)ーーー」


直後に光が敵を呑み込んだ。

「・・・また威力上がってないか」

「母さんって・・・あんなに無茶苦茶なんだ」

『ほんとッスね・・・』


着地して俺は恋に駆け寄る。



「恋、愛依。俺はこのままアスナ達のとこに向かう。・・・任せていいか?」

「(コクッ)」

「行ってあげて、父さん」

「ああ!」

俺は羽根を羽ばたかせ、一気に飛び去る。が、退いてる部隊の先頭に目が向いた。

「あれは・・・!」


「わぁぁぁぁぁ!!」

『リズさん!?』

リパルが驚く。そうだ、リズだ・・・だが・・・

「はぁぁぁぁ!」

グシャア!

リズの一撃が相手の頭を砕く。・・・当然、即死だ。リズは・・・戸惑いなく敵を殺していた。

『咲さん!』

「分かってる!」

俺は着地し、Bモードを解除しながらリズに駆け寄る。

「リズ!」

「やぁぁぁ!!」

・・・呼び掛けるが、リズは反応せずにメイスを振り続ける。

「おい、止めろ!」

「っ!?」

腕を掴まれるが・・・振り払われた。・・・だけでなく

「らぁぁぁ!」

ビュオン!

「うおっ!?」

メイスが俺に振り下ろされる。ここでリズと目があい・・・その瞳が正気を失っているのを物語っていた。

『ど、どうするッスか?』

「・・・こうする!」

俺は一歩踏み込み、ダークリパルサーでメイスを弾き・・・そのままリズを抱き締める。

「リズ!しっかりしろ、俺だ、咲だ!!」


「うわああ!あああああ!!」

だがリズは暴れ続ける。俺は両肩を掴んで引き離してから・・・

「里香っ!!」


パァン!

・・・思い切りリズの頬を叩いた。ゆっくりとリズの瞳に光が戻っていく。

「さ・・・き・・・」

「里香・・・」

「あた、し・・・」

リズはふと自分の手を見た。・・・真っ赤に染まった、血塗れの手を。

「ひっ・・・!」

「・・・里香・・・殺したん、だな?」

「あたし・・・あたし・・・!いきなり、斬りかかられて、それで、咄嗟に、そうしたら、そうしたらぁ・・・!」


その時、俺達を狙う敵が襲ってきた。


「ちっ・・・空気読んでさがってろ!!」

闇を乱射して足止めをする。

「怖かったのよ・・・あたし、人殺しになって・・・」

「・・・そうだ。里香は人を殺した。だからもう逃げちゃダメなんだ」

「逃げ・・・?」

「ああ。命を奪ったなら、そいつの分まで生きるくらいの気持ちでいかないとな」

「・・・そんな軽く言わないでよ!!無理よ・・・あたしにはそんな・・・」

「・・・あのな、相手は殺されるのも承知で戦ってるんだ。それなのに殺した相手がそうじゃ相手も死にきれない。それに・・・お前が何人も倒したことで助かった人間だっているんだぞ?」


「そんなドラマみたいな綺麗事言わないでよ!」

俺は・・・亮みたいに上手く出来ないな。

「・・・そうだな、綺麗事吐いたって里香が人を殺した事に変わりはない。・・・だから、どうする?」

「・・・?」

「今退けばこれ以上汚れることはない。それとも誰かを守る為にその身を汚し続けるか・・・どっちかだ」

「・・・咲、は?」

リズが聞きたいことは何となく分かった。

「俺はとっくに汚れきってるよ。里香に会うずっと前から、な。でもそれでいい。・・・家族を守るためなら人殺しも構わない・・・そう自分に言い聞かせてきた。今までも、これからも・・・お前は、どうする?」


もう一度リズに問う。リズは泣きながら、震えながら・・・口にした。



「・・・戦う」

「・・・いいんだな?」


ゆっくりとリズは頷く。

「・・・少し、いいか?」

俺はリズに触れ、闇を探る。



『(どうッスか?)』

「(・・・大丈夫。闇が疼いてはいるけど、発現はしない。闇に負けない覚悟はあるようだ)」


『早貴、聞こえるか?』

「キリト?」

『今から俺達は前線に復帰する』

「はっ?アスナや直葉ちゃんは・・・」

『二人とも覚悟を決めてるよ。俺も・・・戦う』

「・・・戻れないぞ」

『今更だ。俺はとっくに人殺しだからな』

「・・・解った。戦線が維持できるまでは俺もここで戦うぜ」


『わかった。すぐに戻る!』


「リズ、行けるな?」

「ええ、こうなったらとことんやってやるわ!」


リズは未だに震えがあったが・・・

『(そこは咲さんがフォローッスね)』

「(おうよ)」



俺とリズは駆け出す。こうなったら速めに戦いを終わらせるしかないな・・・!

























亮~

「はぁ!」

通信でキリト達が復帰したのは聞いた。なら俺達は俺達で戦うだけだ。

「魔神拳!」

衝撃破を叩き付ける。更に擬音を引き抜き・・・

「魔神剣・双牙!」

素早く詠唱、魔術を使う。

「イラプション!」

爆発が兵を飲み込む。

「せやぁ!」

明命が姿を消し・・・次に現れた時は数名の命を奪っていた。

「・・・雷の暴風!」

椿の雷がほとんどを飲み込む。

「ちぃ、数が多い!」

「確実にこちらが消耗してきていますね・・・」




「ふぅ・・・ふぅ・・・」

「椿、大丈夫か?」



「あ・・・うん。少し、疲れただけ・・・」

椿の能力は俺と同じで体力を消耗するようだ。・・・その時、更に兵が増える。

「こうなったら勝率の高いライダーで!」

携帯を取り出し、操作する。

「モーションキャプチャー、鎧武!」

携帯がベルトに変わり、手に錠前・・・ロックシードが現れる。

「ふっ!」

『オレンジ!』


体を二回左右に捻り、手を突き上げて頭上で回してからベルトにロックシードを装着する。

『ロックオン』

「変身!」


カッティングブレードを操作すると頭上に果物が現れる。

『ソイヤ!オレンジアームズ!花道!オンステージ!』

俺は仮面ライダー鎧武へと変身する。

「おい見ろ!御遣い様が・・・!」

「おお・・・やはりあの力は・・・」

周りの味方の兵の士気が上がる。さぁ・・・

「ここからは俺たちのステージだ!」

現れた小太刀・・・大橙丸と腰にある刀、無双セイバーを引き抜く。

「おりゃあ!」

二刀流で攻め、相手が混乱を始める。

「そこだ!」

大橙丸と無双セイバーを連結させ、ナギナタモードにする。そしてベルトからロックシードを外し、無双セイバーに装着する。

『ロックオン。イチ、ジュウ、ヒャク、セン、マン!』


ナギナタを振り回し、オレンジ色の斬撃を飛ばす。

『オレンジチャージ!』

「セイハーーー!!」

再び敵を一掃する。

「お父様、凄い!」

「はは、まあな」


『ふむ・・・』

その時、シンの声が聞こえた。俺達の意識は一瞬で空に行く。

『さーて、少し難易度を上げようか』

そう言った瞬間・・・敵兵が黒い何かに包まれ・・・姿を異形に変える。

「・・・闇!?」


目の前で起きた出来事に、俺達は唖然とすることしか出来なかった・・・


 
 

 
後書き
はい。というわけでちょっとしたお知らせです。実は今、真似と開閉と世界旅行の続編の予告的なものを書いているのですが、公開すると今の展開のネタバレになるんじゃないかなー、と思います(続編=物語の続き、ですから)それでもしそれでも予告が読みたいと言う方がいらしたら、感想、もしくはメッセージにて僕に教えて下さい。急いで書き上げてお届けしますので(笑)それでは次回もよろしくお願いします。 

 

二ノ陣~

 
前書き
無駄に時間かかって無駄に長い・・・ではどうぞ。 

 
「くっ・・・」

闇に覆われ、変異した兵たちが襲い掛かってくる。

「みんな気を付けろ!一筋縄じゃいかないぞ!」

『応!!』

兵に叫んだあと、ロックシードを取り出す。

『レモンエナジー』

更にベルトに描かれたライダーの顔・・・そこの部分を外し、ゲネシスコアを取り付け、ロックシードを填める。

「行くぜ!」

カッティングブレードを倒し、走り出す。オレンジの変身音が鳴ったあと・・・

『ミックス!ジンバーレモン!!』

ジンバーレモンアームズに変身し、弓矢型の武器・・・ソニックアローを取り出す。


「ハァ!」

引き・・・放ったエネルギーの矢は怪物に当たり、怯ませる。

「せりゃあ!」

そこをソニックアローで斬り付ける。更に吹き飛んだ相手に向かってもう一発矢を放ち・・・怪物は動かなくなる。

「いける・・・っ!?」

背後から殺気を感じ、ソニックアローを反転させて矢を放つ。・・・実際の弓矢では出来ない芸当だ。

「数が多いな・・・ならスピードで!」


俺はロックシードを取り出し、レモンエナジーと取り替える。

『ミックス!ジンバーチェリー!』

「ふっ・・・!」

目にも止まらぬスピードで走り、怪物達を連続で切り払う。


「お父様、上!」

「っ!」

上から襲い掛かってくる攻撃を避け、回し蹴りを当てて吹き飛ばす。

「これで一気に!」

『カチドキアームズ!いざ、出陣!エイ!エイ!オー!!』

火縄大橙DJ銃を取り出し、マシンガンモードにして乱射する。

「オラァァァ!!」

しばらく撃ち続け・・・辺りに死体だらけになったタイミングで武器をしまう。

「ふぅ・・・」

「お疲れ様です、亮」

俺が真似を解除すると明命と椿が寄ってくる。


「お父様、大丈夫?」


「おう、問題なし」

・・・と、その時・・・通信から切羽詰まった声が聞こえた。


『大変です!!本陣にいきなり怪物が・・・きゃああっ!?』

「ユイ!?おい、ユイ!」

『ユイちゃん、返事して!!』


『とにかく本陣だ!俺は近くにいるから本陣に向かう!』

焦るアスナに対して咲が叫ぶ。・・・そうか、SAO組は撤退をしていたから本陣近くにいるのか。



「とにかく俺達も急ごう!蓮華達が心配・・・だ!?」

俺達三人は一斉に飛び上がる。直後に何かが薙ぎ払われた。

「コイツ・・・!デカイぞ!」

咲が暴走した時よりも巨大な化け物が現れた。

「パワーならパワーで!リョウコウの記憶を再生!でやあああああ!!」

椿が振るった刃が化け物の爪とぶつかりあう。徐々に椿が押していったが・・・


「うっ・・・あぐ・・・あぁぁぁ・・・!!」

突然椿が苦しみだし・・・押し返され、弾き飛ばされてしまう。

「あぅっ・・・!く・・・うぁぁ・・・」

立ち上がろうとするが、どうやら力が入らないようだ。そんな椿に向かって化け物が爪を・・・!

「くそっ!!」

「させません!!」

俺と明命が同時に走り出す。だが化け物はノーモーションで闇を放ち、それによって明命の足が止められてしまう。

「しまっ・・・」

「まだ俺がいる!!」

気弾で爪の軌道を逸らし、障壁を張りながら椿を抱き抱える。そして爪が当たる瞬間に思い切り後ろに飛んだ。

ガァァン!

椿にダメージがいかないように転がり、なんとかノーダメージだ・・・

「お父、様・・・?やだっ!お父様、しっかりしてお父様!!」

俺は錯乱しかけた椿にデコピンをかます。

「大丈夫だよ。こんなんダメージにも入らない。ただ・・・」

椿の頭に手を乗せ、立ち上がった俺と明命が並ぶ。

「人様の娘にずいぶんおいたが過ぎるんじゃないか?」

「そうですね・・・私、凄く怒りたい気分です」

俺は携帯を取り出す。

「・・・やるか」

「・・・はい」

明命が魂切を頭上に投げ、俺が叫ぶ。

「イレギュラーキャプチャー!」


光に包まれた明命と一体化し、髪が伸びて額に明命と同じ額当てが装備される。そして空から振ってきた魂切と背負った迷切を鞘から引き抜き、構える。

「さぁ・・・」

『行きます!!』


強く踏み込み、一瞬で化け物の背後を取る。

「らぁ!」

一閃。更に蹴り飛ばしてから再び背後を取り、二本の刀で斬り付ける。

「俺の気と・・・!」

『私の魔力で・・・!』

『「咸掛法!!」』


常に相手の死角に入り込むように高速で斬撃を叩き込む。

「せやぁぁ!」

肘を打ち込み、一気に二本の刀に魔力と気を流す。

「迷いを切り・・・」

『敵の魂を断ち切る!』

『「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」』


相手が苦し紛れに放った闇を弾きながら一気に接近し・・・武器を振るう。

「おおりゃあああ!!」

連続で五回斬り、一歩後ろに飛んでから再び突撃し・・・

『これで・・・止めです!』

思い切り刀を振り切り・・・化け物が消滅する。それと同時に俺と明命が分離し・・・

「亮、すぐに本陣へ。ここは私と椿が引き受けます」

「すまない、頼む!」

「気を付けてね!」

「ああ!」

携帯を操作しながら俺は走る。・・・間に合えよ・・・!


























咲~

前線は恋と愛依に任せ、俺はリズを連れて空を飛ぶ。

「見えたわ!」

「リズ、やれるか?」

「見た目が人間じゃないなら多少はマシよ!」

「なら人間じゃないって思ってろ!」

着地と同時にリズは武器を構えて走り出す。・・・本陣は阿鼻叫喚だった。兵達はもちろんいきなり現れた敵に混乱し、しかも戦えない侍女も沢山いるんだ。

「皆さんこちらです!慌てないで避難を!」

「こ、こっちですぅ・・・!」

「朱里!雛里!」

俺は見慣れた二人を見かけて駆け寄る。

「あ・・・咲さん!?」

「二人とも、無事だったのか・・・ユイちゃんは?」

「それが・・・私たちも急に襲われて・・・」

「バラバラに逃げてしまったからユイさんが何処にいるのか・・・」

「私と雛里ちゃんもついさっき合流したんです」

「そう、か・・・」

「咲さん!まだ逃げ遅れた人や奥にご主人様達が取り残されています!」

「分かった、助けに行く。二人は・・・」

「ひ、避難活動を続けます」

「頼んだ。危なくなったら逃げるんだ、いいな?」

「「はい」」

俺はダークリパルサーを構えて走り出す。

「リパル!」

『ッス!既に生存者の位置はサーチ済みッス!』

「グッジョブ!速い仕事する奴は出世するぜ!」

リパルのサーチを元に走っていく。

「きゃあああああ!?」

侍女が何人か化け物に襲われているのを目撃・・・無事か?いや、既に何人かが色々と食い千切られて息絶えていた。

「この野郎!」


斬ってから至近距離で闇を叩き付ける。

「ひっ・・・」

・・・とと、Bモードのままだった。解除してから話し掛ける。

「無事か?」

「み、御遣い様・・・あ、ありがとうございます!!」

「速く逃げろ。向こうに孔明達がいる!」

「は、はい!」



「あ、あの・・・」

侍女の一人が口を開く。



「月さんが、奥に取り残されて・・・」

「月が!?・・・何処だ!?」

「あ、あの・・・あっちの方に・・・」

「月・・・!」


俺はまた走り出す。

『そこを右ッス!』
「ああ!」



その時・・・足下に血だまりが拡がっていた。

「っ・・・!!」

呼吸が出来なくなる。

『咲さん!辺りに生体反応があるッス!恐らく闇と・・・』

「・・・!月!月ーーっ!!」

「・・・咲さん!」

「っ、何処だ!?」

『認識したッス!そのまま血の跡を辿って下さいッス!』


「ああ!」


開けた場所に出たら・・・月が化け物に囲まれているのを見つける。

「月!何してるんだ、逃げろ!」

「ダメです!私の後ろに友璃ちゃん・・・もう一人いるんです!」

見たとこ月に外傷はない。・・・てことは月が言ってるもう一人の方があの出血を・・・!

「リパル、全力行くぜ!」

『どうぞ!』

Aモードを使用し、リパルに闇を籠める。

「一撃で終わらせる!ダークオーラ!!」

闇を纏った突撃に、リパルによる斬撃。月を囲んでいた化け物達を全て消滅させた。



『周囲に反応なしッス!』

「よし・・・月!もう一人は!?」

「この子です!」


その月が抱き抱えた少女はまだ幼く、ねねや小蓮くらいだった。その胸元から腰辺りまでに深い傷跡があり、出血も尋常じゃない。

「この子は前回の戦でリョウコウさんが助けた子なんです。家族が殺されて・・・行く宛がないので、私が色々・・・咲さん、お願いします、この子を・・・!」

「分かってる。死にそうな人を見捨てるわけにはいかないからな」

俺は急いで第七音素で治療を試みる。

「お願い・・・友璃ちゃん・・・!」


月が手を組み、一生懸命に祈っている。・・・その時、

『っ・・・咲さん!反応が・・・来るッス!』

「な・・・くそ、空気読めよ・・・!」

「グォォォォァァァ!!」

「あっ・・・」

「月!俺を盾にしろ!」

「そんなことできません!」

「死にはしない!」

今ここで治療を止めたらこの子が死んでしまう。俺はリパルを突き刺し、片手で月を抱き抱える。

「(治療が終わるまでサンドバッグになってやろうじゃねえか・・・)」


覚悟を決め、目を閉じた・・・その時。



「ウォール・オブ・バンリ!!」

俺達と化け物の間に巨大な城壁がせり出た。

「これ、は・・・」

「咲、大丈夫!?」

飛んできたのは・・・

「美幸・・・悪い、助かった」

向こう側から城壁を叩く音が聞こえてくる。

「・・・持つのか?」

「物理なら絶対に壊れないから大丈夫。・・・だけど、あまり放置しない方がいいかな」

そう言うと美幸は詠唱を始める。

「マテリアル・ニードル!」

そう言って城壁に触れると・・・向こうから何かが突き刺さるような音が聞こえた。・・・壁に何かを仕掛けたのか。


「咲、近くに人は?」

「リパル。どうだ?」

『反応はないッス!あることにはあるッスけど・・・確実に闇ッスね』


「・・・そう」

美幸は再び詠唱する。すると周りに球体が現れ・・・

「マギリング・スフィア・・・リクィドゥム・エールプティオー!!」

それらが全てオレンジ色の液体になり、城壁にまとわりつく。

「その子は大丈夫?」

「ああ。もう安定したよ」

「じゃあ次の魔法を使ったら一気に飛んでね」

「ああ。分かった」

リパルを一度空間に入れ、月と友璃を抱き抱え、Bモードを使用する。

「プレス・ウォール!」

美幸が触れた城壁が・・・一気に美幸の反対側に倒壊する。新たに迫っていた化け物が飛び散る城壁の欠片に吹き飛ばされ・・・すぐに俺と美幸は飛ぶ。

「フレイム・スプレッド!」

崩れた城壁に向かって火の玉を発射。オレンジ色の液体に引火し、大爆発を引き起こした。

「すっげ・・・」

再び着地した時には辺りは更地になっていた。

『周囲の反応、完全消失ッス』

「美幸も大概だな・・・」

「そ、そうかなぁ?」

「あんなに使ってMPは平気なのか?」

「うん。回復手段もあるから大丈夫。・・・ふぅ、この子が無事で良かった」

「え、知り合い?」

「私じゃないけど・・・あ、私、行くね?」

「ああ。他に逃げ遅れた人がいないか捜してくれるか?」

「任せて。それじゃあ」

美幸がそう言って飛んでいく。


「月、とにかくここから逃げよう。動けるか?」

「はい。・・・でも咲さん」

月が泣きそうな目で俺を見る。

「さっきみたいなことは止めてください。咲さんに何かあったら・・・私・・・」


俺は頬を掻いてから頭を下げる。

「・・・ごめん、次から気をつける」

「いえ・・・じゃあ、行きましょう」

月達を兵士の元に連れていき、再び奥に進んでいく。






























亮~


本陣に到着するなり、俺は奥に向かって走り出す。

「酷い・・・」

辺りには兵だけでなく、侍女の死体まで転がっている。

「酷すぎる・・・!」


俺は拳を握り締める。

「絶対に許さねぇ・・・!」

息を吸い、一気に走り抜ける。呉の本陣の中心部に辿り着くと、蓮華と小蓮が囲まれながらも戦っていた。

「はぁ、はぁ・・・お姉、ちゃん・・・」

「シャオ、諦めないで!必ず生き残るのよ・・・!」

「蓮華っ、シャオーー!」

俺は叫び、練り上げた気を放つ。

「猛虎獣衝撃!!」

ズガァァァン!!

「亮・・・!!」

「うそ、亮・・・夢じゃないよね?」


「二人とも、無事だよな!?」


「ええ!」

「護衛のみんな、シャオ達を守るために・・・」


辺りに転がる死体を見て、心の中で彼らに感謝、そして冥福を祈る。


「さて、どうやって突破するかな・・・」

『・・・亮』

「・・・水蓮、さん?」


『ーーーーえ、わたーーーーやーーー』

よく聞こえないけど・・・

「蓮華、一緒に!」

「ええ!」

携帯を頭上に放り投げる。

「イレギュラーキャプチャー!」

蓮華と一体化し、髪はピンクに、額には孫家の紋様が現れる。

「お姉ちゃんと亮が合体した!?」

俺は笑って擬音と迷切を差し出す。

「シャオ、少し預かっててくれる?」

「う、うん」

俺は通信機に指を当てる。

「明命、思春、亞莎!久々に借りるぜ!」

『アレですね!』

『ああ、持っていけ!』

『私の力、お貸しします!』


俺が手を突き出すと魂切、鈴音、人解、そして南海覇王が集まり・・・

「吼えろ!刺天猛虎!!」

一本の紅の槍を造り出した。



『よくやった!これならーーーー』


身体にもう一人が入った感覚。

『まさか、お母様・・・!』

“俺”がニヤリと笑う。

「ふふ・・・久しぶりだな・・・この匂い、風、感覚・・・」

「お母、様・・・なの?」



水蓮さんは俺の顔で微笑む。

「ああ。今までよく頑張ったな。あとは私に任せろ」

そして、水蓮さんは槍を構える。

「行くぞ・・・これが呉王の戦いだ!」

ダンっ、と地を蹴ったと思った時には、既に複数の敵を薙ぎ払っていた。

「ハァァァアアアア!!」

鋭い突きが化け物の頭部を貫き、すぐさま死体を蹴りながら槍を引き抜いて石突きで背後の化け物の頭部を粉砕する。

「そお・・・らっ!」

化け物の顔を掴んで近くの岩場に叩きつけ・・・違う化け物が放った闇を掴んだ化け物を盾にして防ぐ。

「どうした?そんなものか。・・・ならば死ね」


槍に気が灯り、片手で振っただけで化け物が衝撃破で吹っ飛んでいく。

『すっげぇ・・・』

『これが、お母様の力・・・』

「もっと掛かってこい。貴様らは我が子に等しい民たちを蹂躙したんだ。・・・礼をしなくてはな?」

こ、怖ぇ・・・



「きゃあああ!?」

『シャオ!』


化け物は水蓮さんに敵わないと悟ったのか、シャオを狙う・・・瞬間、言い様のない寒気が俺と蓮華を襲った。



「・・・おい」

悲鳴を挙げたくなるほどのドスの聞いた声。気が付けば水蓮さんは片手でシャオを狙った化け物を捉えていた。

「・・・卑怯な真似をするな。興醒めもいいとこだ。・・・失せろ」

ブンッ、と投げると化け物は凄まじい勢いで吹っ飛び、木や岩をぶち抜いてしばらく転がって・・・止まった時にはまったく動く気配はなかった。


「・・・無事か?」

「う、うん、ありがとうお母様」

「小蓮、お前は退いていろ。ここにいたら・・・」

「そんなのイヤだよ。シャオだって孫家の娘だもん。もう誰かを置いて逃げたりなんて出来ない!」

『シャオ・・・』

『まさか天照の時のこと・・・』

「それにお母様の戦いを見たい・・・シャオ、お母様のこと全然知らないから・・・」


「・・・孫家の娘、か。・・・お前も・・・立派になったんだな」

水蓮さんが小蓮の頭を撫でる。

「なら見ていろ。私の戦を・・・そして繋いで行け!孫呉の誇りと強さを未来へと!」

『『はい!!』』

「うん!」


再び水蓮さんは暴れだす。・・・三国無双ってこういうこと何だろうな。




































咲~


「一刀、愛紗!!」

「咲・・・!」

一刀と愛紗は二人で化け物を倒していた。

「間に合ったみたいだな」

「ああ。すまない、こんな・・・」

「気にすんな。普通本陣にいきなり出現とかありえねぇからな」

「しかし助かりました。私たちだけではいずれ・・・」

「突撃なのだーー!!」

「らっしゃおらぁぁぁ!!」

・・・と、愛紗が言いかけた時、新たな増援が化け物を吹き飛ばした。

「鈴々!翠!」

「あらあら、私達もいるわよ?」

「ふむ、見せ場としてはいい場だな」

「紫苑に星まで・・・」

「ご主人様!愛紗ちゃん!」


「桃香様!?避難されたのでは・・・」

「うん。だから避難した後にこの不思議な道具でみんなに助けてーって呼んできたんだよ」

「桃香様の命とあれば無下にはできんからな」

「お兄ちゃん達を助ける為にも最大全速で戻ってきたのだ!」



「五虎将軍がいるなら、俺が来る必要もなかったな」

「はは、そんなことないよ。さあ、一気に制圧しよう!」

『応!』

俺達はそれぞれ化け物を打ち倒していく。

「リパル、数は!?」

『着々と減って・・・!?これは・・・咲さん、強力な反応が・・・』


「あああっ!?」


「きゃああ!?」

その時、テントをぶち破って二人の少女が振っとんできた。


「うぅ・・・!」

「まさかここまで・・・」


直後に一回り大きい化け物が現れ、再び少女達は殴り飛ばされる。

「ヴィヴィオ!アインハルト!」


二人の少女は既にボロボロで、立っているのもやっとのようだ。更に、化け物の背後には・・・

「やあ、ご機嫌如何かな?」

「シン・・・!」

俺はリパルを握り締める。

「わざわざ本陣に乗り込んでくるとはな・・・!ここで決めてやる!!」

するとシンが新たに化け物を生み出し、俺を囲む。


「まあまあ、今から面白い物を見せて上げるよ」

「なに!?」

「椿の能力に興味が沸いていてね、少し僕なりにアレンジしてみたんだ」



そう言ってシンが取り出したのは・・・メダル?

「絵柄を見てごらん?」

メダルの絵柄は・・・少女?

「八神はやてから奪った物だよ。これを・・・」

シンはメダルを握り締める。

「ユニゾン・イン」


そう言うとシンの身体に白色が混ざる。

「・・・リインフォースⅡか、少しは使えるかな?」

そう言ってシンはヴィヴィオとアインハルトの足下を氷で固める。

「「!?」」

動けなくなった二人は化け物の攻撃を受け続けてしまう。

「くそっ、邪魔だってンだよ!」

いくら斬り倒しても無限に湧いてくる。あまり離れすぎると一刀の援護も出来ない・・・!

「さ、次だ。・・・これかな?」

シンがメダルを取り出した瞬間、ヴィヴィオとアインハルトが拘束を解き、跳ぶ。

「ヴィヴィオさん、同時です!」

「はい!」

二人が拳を構える。

「一閃必中!」

「覇王・・・!」


「セイクリッド・ブレイザーーーー!!」

「断空拳ーーー!!」

二人の拳が炸裂すると思った瞬間・・・シンは背後に回っていた。

「な・・・」

「え・・・」

「遅いよ。ほら」

無数のナイフが二人に襲い掛かる。あのナイフ・・・まさか!



「咲夜の力か・・・!」

「ご名答。中々面白い能力だろう?ま、力を奪われた人間は・・・いや、実演しようか」

動きが鈍った二人を化け物が拘束する。

「さぁ、覚悟はいいかな?」

シンが二人に手を向け、黒い光を放った。

「くっ・・・避けろ二人とも!」

俺は戦いながら光に向かって闇を放ったが・・・それは当たることなく・・・すり抜けた。

「なにぃ!?」

そしてその光は・・・ヴィヴィオとアインハルトを呑み込んだ。

『あ、アレは一体・・・!』

「闇か!?」

『違うッス!』

黒い光が無くなったあと・・・ヴィヴィオとアインハルトは、“元の姿”に戻っていた。

「え・・・?」

「お、大人モードが・・・?」

そして・・・二人の目の前に二つの人形がポトリと落ちた。

「っ・・・!?クリス・・・クリス!!」

「ティオ!どうしたのティオ!」

「君たちのお探し物はこれかい?」

シンの手に・・・二枚のメダル。絵柄は・・・宝石か?

「君たちのデバイスと魔力は貰ったよ。今の君たちはそこらの子供と同じさ。・・・やれ」

化け物が拘束を解除すると同時に爪で斬り付ける。ヴィヴィオとアインハルトは咄嗟に防御するが、魔力を奪われたのは本当のようで、障壁が張れずにそのまま腕を切り裂かれる。

「あうっ!?」

「くそっ、不味い!」

「咲、俺はいい!ヴィヴィオちゃん達を!」


「くっ・・・ああ!」

だが俺が駆け付けるより速く・・・二体の化け物は吹っ飛ばされた。そして気がつくとヴィヴィオ達の前に・・・

『クラナさん!!』

「・・・」



クラナがヴィヴィオ達を見ると拳を握り締め、シンを睨み付ける。

「よくも・・・俺の妹を・・・!!」

小さく呟くように言ったソレは、尋常じゃない怒りを含んでいた。

『相棒、落ち着いて・・・は無理ですね。ですが・・・』

「分かってるよ、アル・・・このヴィヴィオ達は違うって・・・けど・・・!」

クラナが再び一瞬でシンの背後に出る。

「バルカン!!」

だがシンは再び時間を止めてクラナの攻撃を避けた。

『空間転移・・・いえ、時間操作ですか』

「当たるまで押しきる!」

クラナが背後に回し蹴りを放ってから拳を引く。

「せやぁぁ!」

勢いよく突き出された拳は障壁で阻まれる。・・・と、シンの身体の色が元に戻る。

「・・・おや、時間切れか」

「好都合だ!」


「・・・ふふ」

クラナが拳を放った瞬間・・・シンは避け、クラナに拳を叩き込んだ。

「なっ・・・!?」

『相棒!?』

クラナはすぐに立ち上がって構えをとるが・・・

「今の動き・・・まさか!」

シンの髪が・・・金色に染まっていた。

「たまには格闘も良いものだね」

「お前・・・ヴィヴィオの・・・!」


クラナが歯ぎしりをする。

「さあ、きたまえ」

「この・・・!」

クラナが動き出した時・・・既にシンが黒い光を溜めていた。

「クラナ!」

「っ!」

クラナも気付いたが・・・避けるのは厳しいか・・・!

「間に合え・・・!」

一気に力を籠めて大地を蹴る。・・・が・・・どうやら心配は要らなかったようだ。

「はぁぁぁぁぁ!!」

「っ!?」

ガキィィィン!!

シンの上から亮が振ってきた。・・・亮、か?

『恐らく、孫権さんと融合しているんじゃないッスか?』

「ああ、なるほど・・・」

「クラナ・・・と言ったか、無事か?」

「は、はい」


「はぁ、はぁ。お母様、待って・・・」

小蓮も走ってきた。・・・お母様?

「そのぐらいで疲れるな。まだまだここからだ」
































亮~


『・・・ハァ、ハァ・・・』

『亮?大丈夫なの?』

『うん・・・みんな頑張ってるんだ・・・俺だけ疲れてる訳には・・・』

「(無理はするな。待っていろ、すぐにコイツを倒す)」

言うが速く水蓮さんはシンに突きを放つ。

「おっと・・・」

ガキン!

障壁で阻まれ・・・

「・・・おぉぉぉああああ!!」

いや、止まらない。水蓮さんは先端に気を集中させて僅かに障壁を削っていく。

「抜かせてもらう!」

「調子に・・・乗るんじゃないよ!」

バァン!

「くっ・・・」

衝撃破に押し戻され、水蓮さんは後ろに跳ぶ。

「さぁ・・・喰らうが良いよ。セイクリッド・ブレイザー!」

シンが放った虹色の光線を水蓮さんは真っ向から立ち向かう。

「はぁぁぁ!」

ガガガガガ!!

「・・・ここに僕の力も追加だ」

「なにっ・・・」

虹色が黒く染まり、水蓮さんが後退する。

「ぐ・・・ま、まさか・・・」

ピシッ

刺天猛虎にヒビが入る。

『あ・・・』


そして・・・砕け散った。直後に光線が水蓮さんを呑み込む。

「バカな・・・我が誇りが・・・刺天猛虎が・・・」


繋がりが無くなった事で水蓮さんはいなくなり・・・俺と蓮華も分離してしまう。

「く・・・あぁ・・・」

「りょ、亮・・・」

蓮華は立ち上がれたが・・・俺は身体に力が入らず、立てない。

「(モーションキャプチャー二回にイレギュラーキャプチャー二回・・・少し飛ばしすぎたか・・・)」


「今回ばかりは遊びは抜きだ。死んでもらうよ、亮」

「くっ・・・」

「させるかよ!」

咲が俺の前に立つ。

「二人並んでくれるのなら都合がいいね。これで・・・」

「させないわよ!!」

走ってきたのは・・・リズだ。

「せいぃぃやぁぁぁ!!」

全力で放ったソードスキルが障壁にぶち当たってシンが一度退く。

「リズ!?どうしてここが・・・」

「助けたユイちゃんから教えて貰ったのよ!そして・・・あたしだけじゃないわ」


「死ね!」

「割れろぉ!」

剛鬼とリョウコウが同時に武器を振るう。

「おっと・・・」

「逃がさないよ」

シンが避けた先には・・・魔力を溜めていたシィがいた。

「千の雷!!」

ズガァァン!!

煙が晴れた時・・・シンの右腕から煙が上がっていた。

「よし、通った・・・!!」


「どうやら間に合ったみてぇだな」

「・・・ここで終わらせる」

「チッ・・・ゴミ虫が・・・!仕方ない、今日はここまでかな」

「逃がすと思うの!?」

シィは既にマギア・エレベアを発動していて、剛鬼もリョウコウもゆっくりとシンを囲む。


「そうだ、ついでだし・・・貰っておこうか」

シンがそう言って手を上げると、シィたち三人の体が光出す。

「なっ・・・」

「なんだぁ!?」

「・・・ふっ」

シィが手を引くと・・・三人の体からメダルが飛び出した。


「「「なにっ!?」」」

「君たち、椿に記憶を読まれただろ?僕のはそれの発展型だ。再び読み込ませて貰ったよ」

「なろぉ!」

リョウコウが冷裂を構える。

「壁破槍!」

シンはメダルを握り締め・・・その手に冷裂を出した。

「壁破槍」


まったく同じ動きで同じ威力の攻撃がぶつかりあい、衝撃破を生み出す。

「チィ・・・」

「なるほど、どうやら君たちのような外史の人間からはメダルは取れても能力は奪えないらしい」


そう言うとシンはメダルを取り出す。

「それじゃ、また明日会おうか」



そう言ったシンの姿は一瞬で消える。

「逃げられた・・・か」

剛鬼が呟く。通信には様々な場所から敵が消えたと言う情報が入ってくる。・・・こうして初戦は、何とも言えない結果に終わった・・・


 
 

 
後書き

「シンの野郎・・・」


「にしてもなんでメダル?」

時代の流れです。甥っ子の世代では“妖怪ウォッチ”なるものが流行っておりまして。また、僕の好きな仮面ライダーの一つ、オーズにおいても様々なメダルを活用していました。


「バ○ダイにでも対抗する気か・・・」


「ちなみに・・・最初の椿が苦しんだのは?」


「心当たりはあるんだよなぁ・・・」

まあ、次回は一話平和話ですので、そこで色々と・・・テイルズ組が空気になってしまって・・・


「ま、まだ戦いは続くから・・・」


「次回もよろしく!」 

 

静かな夜~

 
前書き
SAO二期・・・そしてなのはもまた新しいアニメ化決定。なんだか最近のアニメが楽しみだらけですね。ではどうぞ。 

 
俺は夜になると本陣周りを歩いていた。・・・やることもないし、すぐ眠れそうでもなかった。


「・・・」

部隊の再編成も終わったし・・・

「(少し体を動かすか・・・)」

そう思って俺は広い場所へ向かう。・・・ちなみに砕けた刺天猛虎は再びみんなの武器に戻った。そして・・・俺も蓮華も水蓮さんと繋がらなくなってしまった。

「(無事だとは思うけど・・・)」

そんな時、ふと気になる影を見つけた。

「シリカ?」

「あ、亮さん・・・」


「寝なくていいのか?」

シリカの側にピナはいない。どうやら先に寝てしまったようだ。

「なんだか眠れなくて・・・」

「奇遇だね、俺もだよ」

俺とシリカは散歩をしながら話をする。

「眠れないのは・・・今日の戦が焼き付いた、から?」

「・・・はい。あたし・・・あたしは・・・!」

シリカの手が、俺の視界から隠れるように震える。

「いいよ、言わなくて。・・・討ち取った・・・んだよな」

「・・・!」

ビクッ、とシリカの肩が跳ねる。

「・・・あの後、実はあたしやサチさんの方にも敵が来たんです。それで・・・」


「・・・怪我はなかったか?」

「サチさんが守ってくれて・・・でも、あたしは人を・・・この手で・・・」

「・・・その感覚と苦しみは一生かかっても消えない・・・薄くすることはできるけどね」

「どうやって、ですか?」

俺は頬を掻く。

「ちょっと恥ずかしいな・・・ええっと、大切な人と生きて・・・支え合うこと、かな」

現に俺はそうだ。明命達がいなかったら・・・とっくの昔に罪の意識で潰れてた。


「それは周泰さん達の事ですか?」

「うん、まあね・・・明命達には本当に助けられた」

「じゃあ・・・」

「ん?」

シリカが足を止めたので、俺も止まってシリカを見る。


「亮さんはあたしを・・・支えて、くれますか?」

「え・・・?・・・っ!」


今の会話の流れで気づかない程、俺は鈍い訳じゃない。シリカは、俺を・・・

「ご、ごめんなさい!変なこと言っちゃって!迷惑ですよね、いきなりあたしなんかに・・・お、お休みなさい!」


シリカが黙ってしまった俺に背を向けて走り出そうとするが・・・そうはいかない。

「珪子さん!」

俺はシリカの手を掴む。

「・・・!」

「ごめん、珪子さんの気持ちに気付かなくて。正直嬉しいよ・・・けど」

俺は息を大きく吸う。

「大澤亮としては・・・その気持ちは受けていけない・・・のかもしれない」

「・・・っ」

「俺はこの世界で生きている・・・けど珪子さんにはSAOの世界の住人・・・家族だっている。そう、世界観が、違いすぎる」

「ーーーーっ!!」

シリカが俺の腕を振り払おうとする。

「まって!だけど・・・俺は珪子さんの事を・・・桐ヶ谷亮は珪子さんの事を好きになっていたんだ」




これは多分、本当だ。咲程じゃないが、俺もリョウ・ラントや桐ヶ谷亮とは僅かなズレがある。だから大澤亮としてではなく、桐ヶ谷亮と考えると・・・シリカと、一緒にいたいと思う。


「直葉のことも珪子さんのお陰で吹っ切れた。サチを任せられる人も君が頭に浮かんだ。・・・どうなるかは解らないけど、この戦いが終わったら絶対にまたSAOの世界に行く。だからその時は俺とーーーー・・・むぐっ!?」


シリカが不意に俺の口を抑えた。

「・・・それ以上言わなくても大丈夫です」


「ぷは・・・珪子さん・・・」


「あの、約束してください!」

「約束?」

「この戦いが終わって、全部元に戻ったら・・・あたし達の世界に来て、もう一度答えを聞かせてください」

「・・・桐ヶ谷亮として、かな?」

「はい。あの世界で好きになった人はコウハさん・・・桐ヶ谷亮さんですから」

「わかった。・・・約束だね」

俺とシリカは指切りをする。

「じゃあ、約束を守る為にも・・・勝たないとな」


「はい。・・・あたしも、今は・・・!」

よく見ればシリカの震えは収まっていた。

「じゃあ、今度こそお休みなさい!」

「ああ、お休み」

シリカが去った後・・・物音がした。

「誰だ!?」

「あ・・・りょ、亮」

「・・・サチ?」

暗闇から姿を現したのはサチだった。

「どうしたんだ?サチも眠れない?」

「う、うん。えっと、その・・・ね」

「ああ・・・もしかして聞いちゃってたか?」

「・・・うん」

サチが苦笑する。


「でも、少し驚いたなぁ・・・」

「確かにね。シリカが俺のことを・・・」

「亮も好きだったんでしょ?」

「んー・・・まぁ、確かにそうだよ」

「・・・私との約束、覚えてる?」

「なんでいきなり・・・忘れるわけないだろ。サチはみんなを守る。俺はサチを守る」

「うん・・・ありがとう、その約束があればまだ私は前を向ける」

サチは俺に背を向ける。



「サチ?」

「・・・」

サチは答えずに数歩歩き・・・振り向いた。金色に変わった瞳がこっちを見て・・・舌を出した。

「亮のバーーッカ!!女泣かせーーっ!!」

「はぁ!?あ、おい!」

「じゃあね、また明日ー!」

そう言ってサチは走り去っていった。

「な、なんなんだよ、アイツ・・・」

「・・・当たり前の反応だろう」

「女心には何時までも疎いんですね・・・」

「うわっ!?思春、亞莎!?」

気配が何もなかったのに不意に思春と亞莎が背後に現れた。

「・・・別に、解ってない訳じゃないよ。俺の自惚れじゃなかったら・・・だけど」

「・・・気付いてたのか?二ノ宮が・・・」

「なんとなく、そうじゃないかって、曖昧な感じだけどね・・・」

「でも選んだじゃないですか」

「いや、逃げたよ。結局、大澤亮としての答えは・・・」

思春が軽く俺を叩く。

「綾野が好意を抱いたのは桐ヶ谷亮だ。・・・今はそれで納得しておけ」

「・・・だね。いやー、約束が増える増える・・・」

「ラントの方は平気なんですか?」

亞莎が聞いているのはリョウ・ラントのことか・・・

「そっちもな・・・実はアス兄と話したんだけど、母さんが俺に見合い話を持ってきてるらしくて・・・」


「・・・どうするんだ、お前の身体は三つに別れないだろう」

「この戦いが終わったら紫と相談する気だよ。技術的な部分は心配ないし」

「やることは山積みですね・・・」

「ああ、山積みだ。一個ずつ片付けないとな」

「まずはシン、だな」

「勝ちましょう。これ以上好き勝手にはさせません」

「ああ!」



俺達は拳を合わせて頷きあう。空を見上げれば綺麗な月と星が輝いていた・・・



































明命~


「・・・それでですね、雪蓮様達と合流したら、見慣れない男の人がいて・・・」


「それがお父様だったの?」

「そうですよ。あの時は今みたいな頼もしさはまったくなくて・・・あ、亮には秘密ですからね?」

「はーい」



私と椿は歩きながら話をしていました。椿が私と亮の馴れ初めを聞きたいと言ったので・・・

「・・・なんだか、娘にこんな話をすると照れますね」

「そう?わたしは色々嬉しいかな。わたしの世界のお母様とお父様は何にも話してくれなかったもん」

「それは椿が小さかったからですよ。・・・というより椿、もしかして私より背が高くないですか?」

「え?・・・あ、ほんとだ」

「・・・なんかショックです」

落ち込む私を椿は必死にフォローします。

「ほ、ほらお父様は背が高いから!だからきっと遺伝だよ、ね?」

「やめてください・・・ますます落ち込みます・・・」

・・・ふと前を見ると大きな岩の上に・・・月を見上げながら酒を呑む誰かの姿が・・・

「あ、リョウコウ!」

呼ばれた青年はゆっくりとこちらを見る。

「ん・・・椿に、周泰の嬢ちゃんじゃねぇか」

「明命で構いませんよ、リョウコウさん」


私と椿はリョウコウさんの隣に跳ぶ。

「・・・ほいほい真名を預けすぎじゃね?」

「ほいほい預けられる程の実力と信頼を持ってるんですよ」

リョウコウさんは苦笑して何かを操作すると、更に猪口が現れる。

「イケる口か?」

「人並みには」


「椿は・・・まだはぇぇな」

「ええー?」

「駄目ですよ、お酒は二十歳からです」

「お母様もまだ二十歳じゃないでしょー?」

「ま、呑むとしても一杯だけな」

「わーい♪」


椿は早速口に含み・・・顔をしかめた。

「うぇ・・・」

「ははっ、まだ子供だな。ほれ、こっちにしとけ」

「ちぇっ・・・」

リョウコウさんが差し出したジュースを椿はゴクゴクと幸せそうに飲む。

「お月見ですか?」

「おう、この世界は月と星がよく見えるんでな。次の戦に備えてのリフレッシュって奴だ」

「そうですか・・・あの、リョウコウさん」

「ん?」


「亮がお世話になりました。感謝致します」

「あー、そういうのは止めようぜ。ダチ助けんのは当たり前だし」

ヒラヒラと手を振るリョウコウさんを見て私は微笑む。

「それでも、です。私にとって亮はかけがえのない・・・大切な人なんです」

「なぁ明命、一個いいか?」


「はい?」



「お前、自分が原因で起こした失敗を後悔するか?」

「しません。全てを受け入れ、次を考えます。後悔なんて何時でも出来ますしね」

蓮華様に仕えたこと、亮と旅をしたこと、亮の身代わりになったこと・・・何一つ後悔はしていません。

「全てを受け入れるか・・・いいねぇ」

リョウコウさんがニヤリと笑う。

「やっぱ面白いわ、この世界はよ」



「ええ、とても大事な世界です」

リョウコウさんはフッ、と笑った後私を見る。

「しかし、いいんかねぇ?こんな美人さんと晩酌出来るなんてよ」

「そういうお言葉は自分の世界の方に言われた方がいいですよ?」

「おうおう、冷静な返しをどーも。んで、お前はいいのかよ?亮に浮気とか思われんじゃね?」

「亮はそんな小さい方じゃありませんよ。・・・ほら」

見ると亮と思春殿、それに亞莎がやって来た。

「あれ?明命に・・・リョウじゃないか・・・ん?あとは・・・」


「お父様ー♪」

「うわあっ!?」

椿が物凄いスピードで亮に飛び付く。

「えへへ、お父様大好き~♪」

「つ、椿!?おま・・・」

ふと亮が私とリョウコウさんの持っている猪口を見たあと、椿を見てから再びリョウコウさんを見る。

「てめぇ、リョウコウ!椿に酒呑ませやがったな!?」

「別に呑ませたっつっても一口だぜ!?しかも殆ど舐めた程度だっての!」

珍しく怒った亮にリョウコウさんはちょっと引きながら弁解をしています。

「だからって14歳に酒飲ますなこの馬鹿!」

「おいおい、お宅の老将さんや孫家の長女はガキの頃から呑んでるって聞いたぜ?」

「あの二人は異常なんだよ!俺も初めは地獄を・・・!・・・ってんなこたぁどうでもいい!」

「とんでもない親馬鹿だな、おい・・・」

呆れるリョウコウさんでしたが、続く亮の言葉は流せなかったみたいです。

「とにかく降りてこい!一発ぶん殴る!」

「おい、流石に抵抗するぞ、それはよ」

「構うもんか!」

「・・・へぇ」

リョウコウさんの目付きが変わる・・・と同時に足下の岩が粉々に砕け散った。私はお酒が溢れないようにキャッチしながら地面に着地する。・・・どうやらリョウコウさんが思いっきり蹴ったみたいです。

「ずいぶん威勢がいいんじゃねぇの?少年よ」

「あ・・・」

ここで亮が我に返り、青ざめました。

「し、思春・・・」

「武器なら貸してやる」

思春殿はポン、と鈴音を亮に手渡しました。

「ち、ちがっ・・・亞莎・・・」

「応援してます!」

「・・・明、命?」

私は笑顔でこう返しました。

「後先考えずに発言した亮の自業自得です」



「そ、そんなぁ・・・」

椿がふと、亮とリョウコウさんを見比べて離れる。

「リョウコウ、頑張ってー♪」

「おぉい!?父親の応援はしてくれないのぉ!?」

「えー?だってー、わたしお父様も好きだけど、リョウコウも大好きなんだもーん」

「「はぁぁぁ!?」」

これには二人のリョウが叫びます。

「りょ、リョウコウ・・・!お前に娘はやるかぁぁぁぁ!!」

「酒の勢いで言っただけだろうが!つーか手前のキャラ普段と変わりすぎてんぞ!あと貰う気もねぇ!」

残念です、リョウコウさん程の方なら椿は任せられたのですが。ちなみに冷静さを失った亮は数分で吹っ飛ばされ、騒ぎを聞き付けた祭様にリョウコウさん共々やかましいと説教(拳骨のオマケ付き)されてました。騒がしいお月見でしたね・・・

































咲~


「・・・」

俺はヴィヴィオとアインハルトに当てた両手を引き、目を開く。

「・・・取りあえずは闇の侵食はないみたいだな」

シンのあの能力によって何か他に悪影響がないか調べていたが・・・特に異常は見当たらなかった。いや、ある意味異常なんだが・・・

「シィ、キリエ、どうだ?」

「ダメ。微塵も魔力の反応を感じない」

『むしろ、リンカーコアが残ってるかも怪しいですね』



「力を奪われたのはマジみたいだな・・・」

俺は溜め息を吐き、二人を見る。


「悪いが、明日の戦では本陣に待機して貰う。いいな?」

わざと少し強めに言うと、二人は黙ってしまうが・・・

「「・・・はい」」

アインハルトは渋々ながら・・・という感じだったが、ヴィヴィオの方は目に涙を溜め、拳を握りしめていた。

「診てくれて、ありがとうございました・・・」

そう言うとヴィヴィオは走り出してしまう。

「あ、ヴィヴィオさん・・・!」

アインハルトは一礼してから俺の部屋から出ていった。

「はぁ、泣かせちまったか」

『それを覚悟で言ったんじゃないッスか』

「まあな・・・」

俺は布団に身を投げ出す。

「でも仕方ないよ。魔力がないんじゃどうしようもないし・・・」

「いくら鍛錬していると言っても子供じゃな・・・」

気も扱えないだろうし・・・

「咲君?」

なのはが入ってくる。

「ヴィヴィオ達は・・・」

「あ・・・わりぃ、その・・・泣かせちまった」

「え・・・?」

なのはに事情を話す。



「・・・そうなんだ。ごめんね、嫌な役目を押し付けちゃって・・・」

「いいよ、別に。親友がホワイト過ぎるからな、ブラックは俺の役目ってこと」

『・・・の割にはメンタル弱いじゃないッスか』

「あ゛?」

『・・・何でもないッス』


俺は咳払いをしてからなのはに言う。

「・・・つーわけでヴィヴィオ達のアフターケアを頼んでいいか?」

「うん、そのつもり。私はあの子のママだから・・・辛いことがあったら慰めて上げないと」

「そうだな・・・」

そこでシィが聞く。

「ちなみになのは、はやて達はどう?」

リインフォースが捕まっていると言うのは既に伝わっていたはずだ。

「うん・・・表向きは普通に振る舞ってるけど・・・」

「結構キテる?」

「うん・・・空気が凄くピリピリしてる。だから子供達は移動させて、今はフェイトちゃんが側にいるよ」

「・・・後でフェイトに胃薬持ってってやれ」

絶対に胃に穴が空くよな・・・

「・・・もしかしてなのは、逃げてきた訳じゃないよね?」

「・・・ち、違うよ!私はヴィヴィオ達を迎えに来ただけから・・・」

『それ以上踏み込むのはやめましょう』

『試しにシィさんが行ってみたらどうッスか?』

「うーん・・・パスで」

「にゃはは・・・それにしても、本当にフェイトちゃんのちっちゃい時にそっくりだね」

「モチーフだからねー」

シィは笑いながら答える。なのはは一度深呼吸する。

「じゃあ行ってくるね」

『レイジングハートさんにヴィヴィオさんの位置情報を送ったッス。そちらを参考にしてくださいッス』


「ありがとう、リパル」

なのはは最後にお礼を言って出ていっていった。

「あー、さてと、寝る前にもう一作業だな」

「何をするの?」

「空間の武器補充」

俺は鉄やらなんやらの様々な素材を空間から取り出す。

「うわ、こんなに持ち歩いてるの?」

「いや、この世界に戻ってきてから補充したんだよ」

『これ全部武器にするッスか?』

「ああ。つっても単純な剣とか槍くらいだな。あくまで射出用の武器だし」

「私も手伝おっかな」

「魔術変換できるのか?」

「コツさえ掴めば簡単簡単ー♪」

「はは・・・」


・・・といった感じで夜を過ごした・・・





















愛依~


「ふっ、やぁ!」

「・・・えい」

ガキィン!カァン!

アタシと母さんは広い場所で手合わせをしていた。

「せやぁぁぁ!」

思い切り振り切る一撃。・・・だけど。

「・・・甘い」

ゴォン!

「わぁぁ!?」

ぶつかり合った刃が拮抗することもなく、アタシは背後に吹っ飛ばされた。

「いたた・・・」

「・・・愛依、大丈夫?」

母さんが手を差し出してくる。

「う、うん。・・・やっぱり母さんは強いなぁ」

「愛依も、充分強い」

アタシを立ち上がらせると母さんは頭を撫でてくる。

「わっ・・・」

「セキトも、こうやって褒めると喜ぶ」

「い、犬扱い・・・?」

「・・・もしかして、嫌?」

悲しそうな表情を浮かべた母さんを見て、アタシは慌てて首を振る。

「う、ううん!嫌じゃない!嬉しい・・・よ」

「じゃあ、もっと褒める」

母さんは嬉しそうにアタシの頭を撫でる。・・・思わず泣きそうになっちゃったけど、新しいお客さんの到来で堪えることができた。

「・・・何の音かと思えば」

「親子で仲良く鍛錬ってか」

「・・・剛鬼、知也」

「ひぅっ・・・」

剛鬼さんを見てアタシは母さんの背後に隠れる。

「・・・あからさまに逃げるな」

「ご、ごめんなさいぃ・・・!」

「仕方ねぇよ、お前威圧感ありすぎだし。子供受けしねーよ」

「別に受ける必要もないんだが」

「・・・剛鬼、あまり愛依を怖がらせないで」

「・・・善処する」

「相変わらず恋には甘いな、おい・・・」

「うるさい」


「・・・でも、丁度よかった」

「ん?」

母さんはとんでもないことを言い出した。

「剛鬼、愛依と戦ってほしい」

「えぇぇぇ!?」

「・・・なに?」



「か、かかか母さん!?いきなり何を!?」


「・・・強くなるには戦うしかない」

「そ、そうかもだけど・・・」

剛鬼さんはしばらく考えた後、方天画戟を取り出した。

「・・・いいだろう」

「相変わらず恋の頼みには弱いことで・・・」

・・・あ、これ逃げられない空気だ。

「(母さんって、絶対に自覚のないSだ・・・)」

さっきとは違う意味で泣きそうになったけど、アタシは偃月刀を構える。

「・・・行きます!」

「・・・来い」


アタシは踏み込み、右の偃月刀を振る。

ビュン!

「・・・」

・・・しかし、あっさりとかわされ、素早い一撃が返ってくる。

「っ・・・!」

ギャリィ!

「(同じ武器なのに・・・!一撃がまったく違う!)」

「戦いの途中で考えすぎだ!」

ドゴォ!

「っ・・・はっ・・・」


蹴りが鳩尾に叩き込まれ、アタシは地面を転がる。

「あ・・・ぐ、あう・・・」

息が・・・できな・・・


「・・・終わりか」

「・・・愛依・・・」

ふと視界に母さんの姿が入る。・・・拳が、握り締められていた。

「(違う・・・母さんは・・・Sとか・・・そんなんじゃなくて、純粋にアタシを強くしてくれようと・・・)くっ・・・あぁぁ・・・!)」

立ち上がり、片方の偃月刀を投げ捨てる。

「まだやるか」

「瞬殺じゃ・・・鍛錬に、なりませんから・・・」

アタシは武器を両手で構え、走り出す。

「やぁぁぁぁぁ!!」

アタシも・・・強くならないと・・・・・・!

ガガガガガン!!


攻める!ひたすら攻める!考えちゃいけない!


「はぁぁぁぁ!」

ただ前を見て・・・武器を振る!

「ほう・・・!」


剛鬼さんが受けに回ったのを直感で感じとり、一気に攻める。

「うああああ!」


闇を武器に纏わせ、一撃を重くする。

「(押しきる・・・!)」


「頭に乗るな」


カカン!

「え・・・?」

闇を籠めた一撃。それを素早い一撃・・・いや、二撃を当てられ弾かれた。

「ふっ!」

「がっ!?」

首を掴まれ、持ち上げられてから、地面に叩きつけられーーーーーーーーーー



ブツンーーーーーーーーーーー






































































「・・・う・・・」

「・・・!愛依!」

誰かに呼ばれ・・・目を開く。

「母、さん・・・?」

「愛依・・・よかった・・・」

「アタシ・・・」

「剛鬼に気絶させられたんだよ」

「父さん!?」

さっきまでいなかった父さんがそこにいた。

「み、見てたの?」

「リパルが感知してな。気になったから見に来たんだ」

「う・・・そうなんだ」


じゃあまた負けたとこ見られたんだ・・・

『愛依さん頑張ったッスよ』

「うん・・・」

「・・・おい」

「ひぃっ!?」

背後から剛鬼さんの声が聞こえ、咄嗟に父さんの背後に隠れる。

「・・・」

「いい加減慣れてやってくれ。流石の剛鬼も傷付くって」

「知也、勝手な事を言うな」

剛鬼さんがアタシを見る。

「とにかく、分かった事を言ってやる」

「は、はい・・・」

「お前は戦いの時は余計な事を考えるな」

「え・・・?」

「やはりお前は恋と咲の娘だ。頭の回転は速いが・・・咲と違い、深く思考に入りすぎだ」

「父さんは・・・」

「俺は浅い思考を複数展開できるんだよ。あと細かいのはリパル任せだけどな」


「だから咲は攻撃を回避する、もしくは攻撃する際には複数パターンを考え、即座に選択して実行する」

「・・・つまり?」

「愛依、さっきお前はどう俺に攻撃した?」

そう言われ、アタシは考える。

「そう言えば・・・なんとなくここだって思って・・・」

「そのなんとなくは全て、俺が回避できない位置に振られていた。現にお前の初撃は簡単にかわせたが・・・復帰してからは弾くことし出来なかった」

「えっと・・・?」

「単純に言えば、直感で行けって事。お前には恋の・・・飛将軍呂布の血が深く継がれてるんだよ」
父さんに言われ、アタシは考える。

「(・・・確かに最近理屈で戦ってたかも。ちょっとでも有利になった戦いは・・・全部開き直った時だもんなぁ)」

「つっても戦闘スタイルなんかそんなすぐ固まるもんじゃねえけどな。俺も亮もこの戦い方が染み付くには時間がかかったし」

「そうなんだ・・・うん。アタシ、少し考えてみる」


「おう」

「・・・」

ギュッ

「か、母さん?」

いきなり母さんがアタシを抱き締めた。

「・・・さっき愛依が気絶してた時」

「え・・・」

「・・・呼んでも起きないから、不安になった」

「母さん・・・」

「・・・愛依、離さないから・・・絶対に、一人にさせないから・・・」

母さん・・・アタシのこと、そんなに心配してくれて・・・

「ありがとう、母さん。・・・あと、ごめんなさい」


「はは、いい映像だな」

「・・・帰るぞ、知也」

「はいはい。明日も頑張りますか」

二人が去っていく。

『なんだか、いいッスね』

「羨ましいのか?」

『オイラは剣ッスから。やっぱり羨ましいッスよ』


触れ合い・・・か。心があるのに自由に動けないのってどうなんだろう・・・


「・・・愛依、今日は一緒に寝よう」

「え?・・・は、恥ずかしいよ母さ・・・」

「(じーっ)」

「(捨てられた子犬の目だ・・・)・・・い、いいよ母さん」

「(パァッ)」

凄く顔が輝いた・・・


「じゃ、俺はここで「咲も一緒」・・・だと思ったぜ・・・」

『川の字決定ッスね』

「はぁ・・・あ、これ使うか。シィ、聞こえるか?」

父さんが通信機でしばらく話した後・・・

「よし、後で飯おごりでオッケーっと」

『シィさんはまだ作業してるッスか?』


「ああ、もう少しやってくって。・・・じゃ、行くか」

「愛依、手を繋いで」

「う、うん・・・これも恥ずかしいな・・・」


両手を両親と握りあい、布団を目指す。明日も・・・頑張ろう!もっと父さんと母さんといたいから・・・!

 
 

 
後書き

「・・・」


「特にコメントないなぁ」


「そういや咲、武器は?」


「まぁ、一応かなりの量は作れたから平気だけどよ」


「そうか・・・なぁ咲」


「なんだよ」


「俺って・・・親馬鹿か?」


「何を今更・・・」


「やっぱりなぁ・・・じゃあ、次回もよろしく」

 

 

強奪~

 
前書き
終盤…盛り上げにかけるだろうか…ではどうぞ。 

 
ー亮ー

「みんな、何か進展はあるか!?」

俺が聞くと通信から春鈴から必死な声が聞こえてくる。

『来ました…っ…シンです!!』

「「「っ!!!」」」

瞬間、全員に緊張が走る。

「ユイっ!春鈴の部隊の位置は!?」
『亮お兄ちゃんの位置から北西!!…少し遠いです!』
『一般兵の方は退かせて外史の方や将が相手を!』
『俺や亮がいくまで無理はするな!!わかったな!?』

ユイの言葉に焦り、朱里が指示を出して咲が叫ぶ。

「俺もすぐにいく!春鈴、無茶だけはするなよ!!」

俺は叫び、通信を切る。今ので各自はシンの方へ向かうはずだ…!











ー春鈴ー
「いやぁ…参りましたねぇ…」

烈火を構えてシンを見据える。

「やぁ、春鈴ちゃん」
「…貴様、気安く真名を…っ!!」
「あっはは、怖い怖い」

私が怒りと殺意をぶつけてもシンはニヤニヤと笑うだけだ。…その時だった。

「はぁぁぁぁっ!!」
「でやぁぁぁ!!」

ユウキ様とヴィータ様の二人。その一撃は容易く障壁で防がれる。

「てめーがシンか!よくもあたしらの世界を…!」
「絶対にここで倒す!!」
「君たちの相手は面倒だねぇ…」
「お二方、あいつの能力にだけはご注意を!!」

私たち三人が構え、シンは首をこきこきと鳴らし、メダルを手に取る。

「はぁ!!」
「よっと」

二人のラッシュを回避し、まずはヴィータ様に手を向ける。

「千の雷」
「っ!アイゼンっ!!」

金髪に変わったシンの手から強烈な雷が飛び、それがヴィータ様に直撃して障壁ごと大きく吹き飛ばされた。

「ヴィータ様!」
「かっ、はっ…この力…フェイト、よりも…!!」
「次は君だよ、ユウキちゃん」

直後、違うメダルを手に持ち、リョウコウさんの武器を手に持ったシンが一瞬で近づく。

「っっ!ホリゾンタルスクエア!」
「剛断」

ガキィィィン!!

「ぐっ、あっ…!?」

ユウキ様が放った四連撃をシンはたったの一撃で押し切り、吹き飛ばす。そしてまた一瞬でちかづき…

「流星脚!」

ドゴォ!!

「あがぅ…!?」

ユウキ様の鳩尾に飛び蹴りが叩き込まれ、ユウキ様は吹き飛び、苦しみながら転がる。そしてその技の隙を見て私は横から飛び込む。

「そこぉ!!」
「遅いよ」

一瞬で体勢を建て直し、素早い一撃が迫るが私はそれを避ける。

(あの人に一泡吹かせようと鍛練していたのがこんなところで…!!)
「…すばしっこいね…!!」

苛立ちでどんどん動きが荒くなる。…そこは、あの人とは違う。その一瞬で私は冷滅から爪を出して足を固定、気を烈火に込めて弾丸を装填する。

「撃ち抜く!!破射爆火!!」
「ぐっ!!」

キュイィン、といつもの音が響くが…僅かに吹き飛ばしただけで障壁は抜けなかった…!!

「き、さまぁ…僕に衝撃を与えたな…」

シンの顔に怒りが浮かぶ。いける。そう思った次の瞬間…

トン

「……えっ」

腹部から焼けるような痛み。…見れば、そこにナイフが突き刺さっていた。

「ぐっ…ぅ…」
「そこでもがいていなよ」

恐らく、最初の方に使った幻想郷の人の時止め、それを使われたのだ。…吹き飛ばされながらメダルの交換を行ったのだ…だが、あの力は聞いている。長時間は止められないはず…そう思ったとき、シンの姿が消えた。

「…っ!ユウキ様、ヴィータ様!!」
「遅い」

次の瞬間、あの光が二人に放たれ、それが収まるとヴィータ様の武装や魔法の衣服がなくなり、普通の少女に。ユウキ様にいたっては姿が一変してしまっていた。

「君たちの力、もらったよ」
「アイゼンっ!!てめーっ!!アイゼンを返せ!!」
「そんな…ボクの…こんな…!!」

シンはこちらをみる。

「次は君の力を…」
「そうはいかないわ!!」

次にやってきたのはアスナ様、そして飛んできた咲様だ。

「シン…!!ここで終わりにしてやるぜ……!!」
「早いなぁ、君は最後に殺したかったんだけど」

言うが早く…シンはメダルを構えた……









ー咲ー

「リパル、ラスボス戦だ、いけるな!?」
『いつでも!!』
「早速試してみようか…アイゼン」

そういうとシンの手に槌が現れる。

「ふっ、ざけんなてめぇ!!!アイゼン!!おいアイゼンっ!」
「無駄だよ。これはもう僕の物さ…ふっ!!」
「っとぉ!!」

放たれた鉄球を弾き、切り込む。

「ダークオーラ!!」
「ラケーテンハンマー!」

力がぶつかりあい、俺は大きく弾かれる。

「ちぃ!」
「ギガントシュラーク」
「やっ、べぇ!!」

とっさにAモードを発動し、それを受け止めるが、抑えきれるものでもなく、地面に叩きつけられる。

「が、はぁ…っ!!くっ!」

とっさに闇を爆発させ、わずかに空いた隙間から遠くに飛び立つ。

「やぁぁぁ!」

アスナが構えて踏み込む。スピードならいけると踏んだようだが、すぐにシンはメダルを変え、紫の髪にユウキの剣を持つ。

「なっ!」
「あれは…ボクの…っ!!」

アスナはソードスキルを発動し、突撃する。

「カドラプル・ペイン!」
「…ふふっ」

シンは笑うと見たことのない構えを取り、ソードスキルを発動させるが…それを見た瞬間、ユウキの顔が青ざめた。

「うそ…やめて…その、技は…それだけは…やめてぇぇぇぇ!!!」

直後、アスナが放った四連撃は弾かれ、シンのソードスキルは続く。

「ふふふは!!」
「きゃぁぁっ!!」

くりだされる斬撃がアスナの体を裂き、鮮血を舞わせる。

『咲さんっ!!!』
「やめろてめぇぇぇっ!!!」

リパルの声と同時に俺はすぐに飛び立つが、距離が遠い…!アスナは最後の抵抗と言わんばかりにソードスキルを再度発動、シンの攻撃を弾いていくが…アスナの動きが止まったあと、まだシンの剣にはエフェクトが残っていた。

「残念、一発足りなかったね」
「……っ…キリトくん…ごめんね…わたし…!」
「アスナぁぁぁぁ!!!」

シンがつきだした一撃は…アスナを貫かなかった。だが…

「ごほっ…」
「春鈴っ!!」

春鈴が間に割り込み、烈火とその身を持ってアスナを守ったのだ。そして…その身を貫いた刃をがっしりと掴み…叫ぶ。

「…っ!!亮さぁぁぁぁんっ!!!」

叫んだ、その名を呼んだ。…そしてあいつは、答えた。













ー亮ー

俺は連続で瞬動を用いてシンが出たと言う場所に向かう。…そして、見た。アスナが打ち負け、その身を裂かれるのを。そして、見た。春鈴がアスナに向けて止めと放たれた一撃をわざとその身で受け、最大のチャンスを作り出したのを。そして………聞いた。彼女の叫びを。

「…っ!!亮さぁぁぁぁんっ!!!」

…考えることはなかった。俺は擬音と迷切を握りしめ、引き抜く。そしてありったけの気を籠めて…叫んだ。

「うおおおおおおっっっ!!!!!」
「なっ…!?」

ズパァァァンッ!!

「ぎゃぁぁぁ!?!?」

渾身の一撃が、シンの死角をつき、障壁を撃ち抜いてその身を切り裂いた。瞬間、シンは吹きとび…更にはその懐から多数のメダルがこぼれ落ちる。刺さっていた剣が抜け、崩れ落ちる春鈴の体を俺は受け止めた!

「春鈴っ!!」
「…あはは…さすがです…」
「そんな、わたしのせいで…!」
「大丈夫ですって……ちゃんと、急所は外し…ましたから…」
「急所が外れてても出血はしてる、動くな!!」

俺は急ぎ回復術を用いて春鈴の傷を癒す。あくまで最低限の治療をほどこし、俺は春鈴の頭を撫でる。

「…よく、やってくれた…!お前のお陰で…あいつに一撃をくらわせられた!」
「…本当、なら…わたしが叩き込みたかった、ですけど…後は、お任せします」
「ああ、任せろ」

そして咲が飛んできてアスナを回復させる。
「アスナ、大丈夫か?」
「うん…凌統ちゃんのお陰で…」
「……みろよ、亮。あいつの障壁が…」
「ああ、わかる。…なくなっている。…やれるぞ、咲」

シンはゆっくりとその身を起き上がらせ…遊びの消えた目でこちらを見た。

「またしても…またしても…貴様らぁ…このゴミクズめがぁぁ…殺す…チリも残さず殺してやるぅぅぅ!!!」

直後、強烈な力がシンの周囲に渦巻いてく。そして奴の全身は鎧のようなものに包まれる。

「ラスボスお得意の第二形態か…あと一息だ。勝つぞ、亮!」
「ああっ!!」

俺たちは構える。…もう後はない、勝つだけ…俺たちは叫びながらシンに向かって突撃していった…

 
 

 
後書き
実はシンの力で孫堅さん(原作)を出そうか悩んだけどさすがにやめましたw 

 

止まらぬ進撃~

 
前書き
かなりお久しぶりの更新、いままで放置していて申し訳ありませんでした 

 
夜が明け、俺たちはすぐに激戦へと身を投じた。

「ふっ!はぁぁ!!」

目の前に現れた狼型の魔物を切り裂く。…そう、今日は昨日のような人間ではなく、魔物の軍勢が相手だった。

「もう人間じゃ揺さぶれないと判断したみたいだね…!」
『お兄ちゃん!聞こえますか!』
「どうした?」

ユイから通信が入り、俺は返事を返す。

『数多くの反応が迫っています!お兄ちゃんの軍がやや突出しているので、進軍を止めて他の部隊と合流してください!今孔明さんたちがみんなに通達しているので、すぐに来ると思います!』

「わかった」
「亮、気は平気ですか?」
「大丈夫だよ、明命。…兵士もまだやる気が余ってるようだしね」

被害はでているがまだ戦死の報告はない。油断はできないがこれなら…

「グルァァ!!」
「なに!?」

急激に敵意が増したと思った瞬間だった、空より大量の魔物が降り注いできた。俺と明命はとっさに払い除けたが、多数の兵士がその身を食い千切られる…!!

「この、野郎!!」
「気配が、しませんでした…!!」

俺たちは馬から飛び降りて魔物を切り裂いていく

「みんな、慌てるな!陣形を直せ、一度で終わると思うな!!」

力の限り声をあげた瞬間、再び空から…!

「やぁぁぁぁ!!」
「割れろよぉ!!」

二人の妖精がそれらをすべて打ち落とす。

「リョウ、ユウキ!」

「俺らだけじゃねえぜ!美幸、レコン!」

「「了解!」」

直後に二人の術が炸裂し、辺りの敵が一掃された。

「ごめん、助かったよ」
「気にしないでよ、ボクらは仲間なんだしね!」
「が、大分やられたようだな、少年」
「……うん。今ので少なくない被害がでた。油断はしてないつもりだったけど…」


「リョウ兄さん、無事ですか!?」
「ヒュー、来てくれたか」
「ええ、しかし、ぼくたちの部隊も打撃をくらいました。どうやらシンは本当にぼくたちを潰しに来たようですね…」
「あぁ。数が段違いに多すぎる。…無理してでも突破しないといけないのかもしれない…ってぇ!?」


そういった俺の頭をリョウコウが叩く。

「なにすんだよ!?」
「ばーか、ここで突っ込みゃそれこそ奴の思惑通りだろうよ。奴は煽り耐性ほぼゼロのバカなんだ、余裕もって耐えてりゃ向こうがしびれを切らすだろうよ」
「ぼくもそう思います。…しかし、シンの他者の力を奪う力は厄介ですね」
「…わたしなら力はコピーされるだけで…」
「…いや、ただでさえあっちは剛鬼にシィ、リョウや他の外史の力を持ってる…美幸の魔法をコピーされたらこっちが殲滅される…」

俺がそういうとみんなが考え込んでしまう。

「お父様!!また来たよ!!」
「ちっ、考える時間もくれないか!」

椿の呼び掛けで俺たちは再び魔物と向き合う。厄介な…!!















~咲~

「くそ、数ばかり集めやがって!」
「…くっ、やぁ!」

恋の一撃が辺りを薙ぎ払い、魔物ごと吹き飛ばす

『敵性反応、未だ増加中っス!!』
「だろうな!」
「どいて咲!!」

声が響いた瞬間、雷と化したシィが戦場を一閃、魔物を消し飛ばした。

「やばいな、シィやみんなの力を用いても数が減らない…」

俺は焦りを感じ、即座に考えを張り巡らす。

(…やっぱり、持久戦で向こうをじらすしかないのか…?)
『皆さん!大変です!!』
「朱里か!?」
『バラバラな位置に反応が新たに…しかも、全てが単騎です!ですが、辺りの兵士が瞬く間に…!』
「なんだと!?わかった、すぐに対応を…っ!?」

ふと目の前に、見たことない少年が立っていた。

「…誰だ」
「…俺は近衛刀太。…今はあんたらの…敵だ!」

刀太と名乗った少年が、黒の刀を構えて、その一撃が迫る。

「キリエ、剣!はぁ!」

それをシィが弾き、つばぜり合いに持ち込む。

「この感じ…まさか…!!」
「シィ?どうした!」
「…雷の暴風!」

至近距離からシィが雷を放つ…が、刀太は真っ向から受け止め…

「…へっ、もらったぜ!!」

次の瞬間、それが取り込まれ…刀太が雷と化す。

「まさか…!!」
「マギア・エレベア…!」
「ネギと、同じ…」

俺とシィが驚き、恋が呟く。

「ネギ…じいさんのことを知ってるんだな」
「じいさん!?それに近衛って…!」
「わりぃがそれ以上は言えねぇんだ!構うことはねー、俺を全力で殺してみろ!」
「咲!恋!ここは私が押さえる!二人は別のとこへ!」
「わかった!!」









「剛鬼!!」
「…咲か」
「…交戦中か」
「ああ」
「やぁ…!」

少女が斧を振り下ろしてくる。それを剛鬼は防ぎ、弾き飛ばす。

「…奴は自分を徐晃だと名乗った」
「はっ?徐晃…って魏の将軍だろ!?けど…」

あんな子は見たことないぞ…!ということはさっきの刀太と同じ…!

「恐らく、平行世界の恋姫の武将ってことだ」
「なら殺しても構わんな?」
「…ま、奴の手先だろうしな。…仕方ねぇ、殲滅するしかない…!!亮!そっちはどうだ!?」






~亮~
「こっちも来た!!今アス兄とルークが戦ってる!!」

目の前には女性と男性の二人…!

「ウインドカッター!」
「くぅ!」

アスベルが放たれた風の刃を回避する。

「なぜだ!どうしてシンに協力する!」
「…すまない。だが私たちは既に敗北者。すでに認識を書き換えられて君たちを世界の敵と見なすようにされている」
「ミラ?それって…」
「…気にするな、ジュード」

ジュードと呼ばれた少年がルークを見る。

「いくよ!はぁぁぁ!!」
「くそ!そうはいくかっての!」

「私の名はミラ・マクスウェル。私と言う試練を乗り越えなければ君たちはあいつを倒すことはできない。…全力で来い!!」
「…俺にも守りたいものがある。そのためにもここで躊躇はしない、いくぞ!!」

「おい、少年!」
「亮さん、この状況は…」

そこにリョウコウ、クラナ、闇風が現れるが…俺は叫んだ。

「上だ!!」
「「「っ!」」」

リョウコウには蹴りが、クラナには拳が、闇風には銃弾が襲いかかるが、それぞれ対処する。

「ちぃ!なんだ!」
「今のを避けるなんて…」

それぞれ現れたのは全身が銀色のロボットのようなアバター、そしてクラナの前には白い髪の少女

「…その身のこなしはストライクアーツ…!」
「……お覚悟を」

闇風のまえには全身ピンク色の少女が。

「さっき、バレットラインが見えた。あなた、GGOプレイヤーね…」
「…そっちこそ。あなたみたいなのは見たことないけど」

三人が構える。
「シルバークロウ、あなたにデュエルを申し込みます!」
「リンネ・ベルリネッタ…いきます!」
「レン、私の名前はレン!勝負だよ!」

「少年!とっとといけ!ここまで大盤振る舞いしてるってことは、この戦場のどっかにシンがいるはずだ!」
「…わかった!頼んだ、リョウ!!」



俺は走り出す。…ついには平行世界の人間まで利用しはじめて来た。…シン、待ってろ、今度こそ決着をつけてやる…!!
 
 

 
後書き
亮「…何年ぶり?」

咲「いや、知らねぇよ」

亮「作者が長い間死んでたからなぁ…けど、本当にクライマックス!」

咲「あとちょっとで終わりなんだ、一気に駆け抜けようぜ!」

亮「それでは、また次回もよろしくお願いします!!」 

 

猛反撃~

 
前書き
まだ決着つかないぃ…!ではどうぞ! 

 
「まだメダルはある…!!」

怒り狂ったシンがメダルを交換しようとユウキの力を解除した瞬間だった。一筋の閃光が駆け抜けたのだ。

「フラッシング・ペネトレイター!!」
「ぐぁぁ!?」

アスナだ。回復した彼女が助走をつけての突撃を放ち、それがシンの腕を大きく弾き飛ばし、メダルをその手に奪う。けど今のスピードは…

「私の譜歌とシェリアの強化を使ったのよ」
「ティア、シェリア!」

二人が駆けつけており、同時に俺たちにも回復と強化を与える。そしてシンはアスナを睨み付ける。

「貴様ぁ!!」
「アスナっ!」
「っ…!」

アスナが手に持ったメダルと細剣を握り締めた時だった。突如メダルが光り、それがアスナを包む。光が収まると、まるでユウキのカラーをそのままコピーペーストしたかのようなアスナが立っていた。

「これは…!?バカな!?僕以外には使えないはず!」
「…ははっ、シンさんよぉ。随分設定がガバガバじゃねーか」

咲が愉快そうに笑う。後ろにいたユウキは絶句していたが。

「ねぇ…ちゃん」

ユウキが自然と漏らしたその言葉に、何の意味があったのかは定かではないが…アスナは構える。

「はぁぁぁぁ!!」
「調子に乗るなぁ!!」

アスナの一撃をシンが光の刃で防いでいく。メダルの力を失ってもなおシンの力は強く、アスナの攻撃は弾かれていく。

「チッ!ダーク…うお!?」
「猛虎…ぐぅ!?」

俺たちが援護しようと構えた瞬間、光の矢が飛んできた。振り向くとそこにいたのは…シンだ。

「なにっ!?」
「くくく…僕は一人だけじゃないのさぁ…!平行世界から呼び出した傀儡を器に僕の力を乗り移らした!勘違いするなよ、これらすべてが僕だ!!」
「また面倒なことを…!だけど、ならば全て倒せばいいだけだ!」

俺と咲は踏み込み、新たなシンに立ち向かう。…どうやら様々な所でシンとの決戦は始まっているようだ。…頼む、みんな…!



















アスナ~

「くっ!」

段々と威力を増すシンの一撃にわたしは押され始める。

「ほらほら、アスナちゃん!このままじゃ死んじゃうよぉ!?なんなら命乞いすれば命は助けてあげようか!その時はオベイロンとは比較にならない痛みと屈辱をあげるけどねぇ!」
「…最低…!!」

目に見えた挑発は乗らないように…その時だった。

「はっ!霊貴!!」
「セヴァードフェイト!」

二人のナイフがシンに迫り、シンは舌打ちをしながらそれを弾き、距離を取る。…ここが、好機だと直感で感じた。

「シェリア、ティア!!」

「ええ!」

二人が構え、それをシンに向かって放つ。

「泣いて謝っても…許してあげない!!」

「イノセントシャイン!!」
「トリリオンドライブ!!」

「ぐぅぁぁぁ!?」

二つの光の奔流に呑まれ、シンが大きく吹き飛ぶ。わたしはそれを見る前から反対方向で飛んでいた。

「あなたの力を借りるわ、ユウキ!!やぁぁぁぁぁ!!」

背中から翼をはばたかせ、何度も連続で突きを放ち…最後の一撃に力を籠める。

「マザーズ・ロザリオ!!」

ズパァァァンっ!!

「ぎゃぁぁぁぁ!?ば、バカな、僕が…この、僕がぁぁぁぁ!!!!」

断末魔を上げ、黒い靄と化したシンが早貴たちの方に飛んでいく。わたしは元の姿に戻り、ユウキたちに近づく。

「ふぅ…」
「アスナ…」
「はいユウキ、あなたの力よ」

そう言ってユウキに渡すと、メダルが光ってユウキが元の姿に戻る。

「…ありがとう、アスナ」
「ううん、それにしても…凄いソードスキルだね、マザーズロザリオって」
「………うん」

ユウキは俯きながら答える。それに対して聞こうとするが…ティアが話しかけてくる。

「このメダルを回収しましょう。何人か力を奪われていたはず…」
「ああ、ヴィヴィオたちとかな」

力を取り戻したヴィータちゃんがうなずく。

「…早貴、亮くん。…あとはお願い」


































ー別の場所ー

「このクソガキどもが…!!」

「子供舐めないでよね!ソフィ!シリカ!いっくよー!!」

アニスがトクナガによってシリカとソフィを打ち出し、さらにソフィが体を反転させてシリカと合わせる。

「いくよシリカ!」
「うん!お願い!」

ソフィによってさらにシリカは蹴り出される。圧倒的な加速を得たシリカは気を解放しながらソードスキルを放つ。

「てぇぇい!!」
「ぐっ、その程度…!!」
「まだまだぁぁ!!」

足を伸ばし、地面を蹴り、再び斬り付ける。それを繰り返してジグザグに切り込み、最後に思いきり地面を踏み込む。

「ミラージュ・ファング!!」
「ぐぁぁあぁぁあっ!?!?」

「ナイス二人とも!お子さま組、結構やるじゃん!」
「い、一応あたしが歳上なんだけど…」

シンが吹き飛ぶ中、その近くにも何人かがいた。

「よーっし!リズ、この改造ハンマーでgo!」
「ちょっとパスカル!?なんか怪しいのがついて…わひゃぁぁぁぁぁ!?!?」
「いやー、ヴィータのハンマー見てたらつい作りたくなって」

リズの手に持たれたハンマーからジェット噴射がなされ、リズごと回転して空を舞う。その不規則な動きにシンは翻弄され…

「やってやろうじゃないのよぉぉぉぉ!!どっせぇぇぇえい!!!」

ドコォォォォンッ!!!

乙女らしかぬ掛け声とそれが出すにしては大きすぎる音を叩き出してリズの一撃がシンを吹き飛ばす。

「め、目ぇ…回った…」
「ナイス、リズーっ!」

ふらふらするリズと笑顔のパスカル。そして…


「いきますよリーファさん!ガイさん!」
「うん!」
「任せな!」

直葉が詠唱を開始する。

「いきます、ガイさん!タイラントハリケーン!!」

直葉が唱え、具現化させた竜巻に呑まれたシンに向かい、ガイが突っ込む。

「気高き紅蓮の炎よ燃えあがれ!鳳凰天翔駆!!」
「ぐぬぁぁぁ!!」

竜巻によって業火は勢いを増し、炎の竜巻がシンを襲う。そしてその嵐が過ぎ去ったとき、既にヒューバートは自身の武器を弓矢に変形させていた。

「ぼくを怒らせたこと…後悔するんだな!!ヴァンフレージュ!!!」
「ガァァァァァアッ!!」

光の矢がシンを撃ち抜き、吹き飛ばす。分裂したシンがどんどん一ヶ所に集められていく。

「集まったようじゃな、紫宛!!」
「ええ!総員!!」

その声に遠距離武器を持った外史メンバーが構える。

「降り注げ聖光、アストラルレイン!!」

ナタリアたちの矢がシンたちを止め…

「狙い撃つぜぇ!!」
「これが敗北を告げる弾丸の味よ!」
「くらいなさい!!」

知也、シノン、闇風の弾丸の雨にも晒される。

「こ、この程度でぇ…ダメージがあるわけないだろうがぁぁぁ!!」



「ーーーーええ、折り込み済みですよ。みなさん、退避を!!」

地上ではジェイドとマリクが、空中にはレコンとなのは、サチ、霊夢が浮いていた。

「いくぞ、カーティス大佐!」
「ええ、いきますよ!」

「「メテオスォーム!!!」」

大量の隕石が降り注ぎ、さらに全員が構える。

「いっけぇ!!夢想封印!!!」
「スターライト…ブレイカァァァァァ!!!」
「貫け、セイクリッド・ランスっ!!!」
「これがありったけ…!!ランス・オブ・オーディンだぁぁぁ!!」

「ひぃ…!?う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

全ての攻撃に抵抗すら許されず、纏まっていたシンたちは全て消し飛び、靄となって飛び立っていく。

「…亮よ、こちらは凌いだ。あとはお主たち次第じゃ…」

祭は空を見つめ、そう呟いた…

























ー亮ー

「シンっ!!」
「待てこらぁ!!」
「まだだ!これで遊んでいろ!」

そう言うとシンは大型のモンスターを三体、呼び出す。

「この程度!!」
『駄目ッス!!』
「っ!亮、障壁!!」

咲とリパルの声で俺たちは慌てて障壁を貼るが…モンスターから放たれた魔力弾はそれらを容易く弾き、俺らは吹き飛ばされる。

「がはぁ…!!」
「な、にぃ…」
「ひひっ…だーまされーたー」

モンスターの姿が全てシンに変わる。…こいつ…!!

「死ねぇ!!」
「っ!!」

間に合わない…!!その時だった。シンの一撃を誰かが弾いたのだ。

「…えっ?」
「ーーーもー、亮ってば油断しすぎ」

目の前の女性は言う。その姿を見て…思わず、涙が溢れそうになる。…紅のドレス、褐色の肌、そして蓮華やシャオと同じ桃色の……

「……雪蓮っ!!!」
「やっほー♪しばらく見ない内にすっごくいい男の顔になってるじゃない♪」
『私もいるぞ、亮』
「冥琳まで…!来てくれたのか…!!」

通信機から冥琳の声が聞こえ、目の前の雪蓮が微笑む。

「あなたが危険だーって、足のないお母様が来たときは仰天したわよ、もう」

水蓮さん…繋がらないと思ったら…

「たかが人間が二人増えた程度で…!」
「二人?違うわよ…みんな来たわ」
「えっ?」

「魔神剣!!」

衝撃波がシンたちを吹きとばす。

「間に合ったわね」
「…うん」
「咲、ここはうちらに任しとき!」
「我らの力を見せねばな!」

「みんな…!」
董卓軍の皆が来てくれていた。そして俺の方も…

「亮!」
「…シン、ついに会えたな」
「本陣は冥琳様と穏様に任せて来ました!」

「明命、思春、亞莎!」

「あら、蓮華はいないのね?」
「流石に国王を最前線に出すのは不味いだろ、雪蓮…」
「ええ、蓮華様は私たちに全てを任せてくれました。亮たちは先へ!!」
「すまない、頼む!!」

死ぬな、とか気を付けろ、とは言わない。…絶対に…勝って再会するんだ。
























ー明命ー

「待て…!」
「いかせませんよ!!」
「…舐めるなよ…!!またオモチャにしてやる!!」

思春様と亞莎が初めに飛び出し、二人が構える。

「はぁぁぁぁ!!」

亞莎が闇の力を解放、拳と蹴りを力の限り叩きつける。

「殺劇舞荒拳!!」
「がはぁ!?」

続いては思春様が鈴音を構え、その刀身を光らせる。

「曲刀ソードスキル…!レギオン・デストロイヤー!!!」

二人の奥義が炸裂し、打ち上げられる。そしてとどめは私だ。

「ーーーー闇夜を駆ける疾風の一撃(コンセツ)ーーーー!!」

「ぐぬぉぉぉ!?!?」

こっちは倒した…!!あっちは!?


「いくでぇ華雄ちん!!」
「応よ!!」

二人の長物が光輝き、それを全力でフルスイング。シンはそれを受けきるが後ろに後ずさる。

「行け、詠!」
「任せなさい!!」

詠さんが緑の剣を煌めかせ、連続で斬り付ける。

「爪竜連牙斬!!」

それだけでは終わらず、詠さんの剣が光る。

「片手剣ソードスキル!!ノヴァ・アセンション!!」

十連撃の攻撃がシンを斬り刻み、残りの一人の方に吹き飛ばす。

「恋っ!まとめて吹っ飛ばしなさい!」
「…わかった」

恋さんが構え、魔力を溜める。

「ーーー戦場を駆ける一騎当千の将(ホウテンガゲキ)ーーー」

「「ぐぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

「…相変わらずえっぐいわぁ…」

霞さんが飽きれ半分で言う。…だが、ノーダメージだった方のシンは倒しきれていない。

「貴様らぁ…殺す!!殺して…」

「相手は虫の息です、椿!!」
「…愛依、いって…!」

シンの言葉は待たず、私たちについてきていた椿たちが叫びながら武器を振り上げる。

「お母様の…お父様の、みんなの、仇ぃぃい!!」
「お前だけは絶対…許さないんだぁぁぁ!!!」

「なっ!?なんだ、この力…ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

二人の一撃がシンを両断、打ち倒した。

「やった…やったよ、お母様…」
「ええ、よくやりましたよ、椿」
「母さん、アタシ…!」
「…凄い一撃だった」

その様子を亞莎や詠さんたちが微笑みながら見てる。

「ぶーっ、みんなで倒しちゃってつまんなーい」

雪蓮様が頬を膨らませるのを見て私たちは困ったように笑う。


「…亮、勝ってください」
「…咲なら…きっと大丈夫」

私たちは二人の無事を祈るのだった…


 

 

終結~

 
前書き
決着ぅぅぅぅ!!! 

 
ーーー俺たちは目の前のシンへと迫る。長きに渡るこの戦いにケリをつけるため。

「シィィィン!!」

咲が両手に握りしめた鎌を振りきるが、シンはそれを受け流して光線を打ち込む。

「がはっ!?…ってうぉ!?」
「おおぉらっ!!」
「チッ…!」

そんな吹き飛ばされた咲を踏み台にして俺は勢いをつけてシンに回し蹴りを放ち、シンを吹き飛ばす。

「入った…!」
「テメェ!人を踏み台にすんじゃねえよ!!」
「緊急時なんだから許して!」

「きさ、まらぁ!!」

シンが震え、手をかざしたかと思うと空に大量の光が現れ、俺たちを囲むように光弾を放ってくる。

「や、べぇ!」

俺と咲は背中合わせになるようにしてお互いに武器を振るい、光弾を弾き飛ばしていく。しかし光の雨は一向に止む気配はない。俺と咲は息が切れそうになるほどの長い間、体を動かし、すべてを弾き飛ばす。

「はぁ………どうしたシン、もう終わりかよ」
『…っ、違うッス咲さん!上空に更なる熱源が!!』
「なんだと!?」

「(ニヤッ)」

シンが笑うと上空にはいくつかの光が…!俺は咄嗟に気を籠める。

「咲!!」
「わかってる!ダークバリアっ!」
「おおおおお!!」

咲は闇を、俺は気を辺りに張り巡らせ、障壁を張る。……直後だ。今度は球ではく…光線が俺たちを襲った。

パリィィン…!


「「うぁぁぁぁぁぁっ!!?」」

…容易く、障壁は貫かれ、俺たちは光に飲み込まれて大きく吹き飛ぶ。同じように手放し、飛んだ武器が後ろで大きく物音を立てる。


「ぐ、ぅぅ…」
「小物のくせして…まだ、これほどの力を…」
『咲さん!亮さん!』

「こっちも驚いたよ。…平行世界の君たちはこれで戦闘不能になったってのにさぁ…全然、目が死んでないよ…ムカつくねぇ」

シンの言葉に俺たちは反応し、なんとか起き上がる。

「あっ、たりまえだ…」
「この程度でやられてちゃ、世界旅行なんざできるわけねぇだろ…」

「強がりを…だけど、これで終わりだ…死ねぇぇ!!」
「「っ!!」」

シンの手から直接光線が放たれる。…まだ、終われない…!そう思ったときだった。

「させる、かぁぁぁぁ!!!」

……目の前を、黒い疾風が吹き抜けた。…キリトだ。彼は光線に向かって全力のヴォーパル・ストライクを放ったのだ。

「バカな…!たかが一つの外史の中だけの存在が…!!」
「舐めるな!!俺の弟を…アスナの妹を…家族を…やらせるかぁぁぁぁ!!!」

一瞬、キリトの瞳が金色に光る。その瞬間、押されかけていた剣先が力を増し……エリュシデータを砕け散らせながらも光線を相殺した。


「な…!だが、一人増えた程度で…!」
「「一人じゃない!!」」

更に二人が駆け抜けた。…アスベルとルークだ。

「ふざけるなふざけるな!何故抵抗する!何故そうまで戦える!」
「お前には分からないだろう!俺がリョウやみんなと共にあの旅で得られたものを!俺と共に!いくぞラムダ!!」

アスベルの片目が光り、腕に元素を溜め…それを連続で振り抜いていく。シンも手に光の剣を持って応戦するがアスベルに圧倒されていく。そしてアスベルは全ての力を腕と刀に集め…居合い一閃。

「イモータル・アンゲルス!!」

振り切った刀を投げ捨て、背を向ける。そして落下してきた刀をキャッチすると同時にシンに横一文字の斬撃が襲いかかった。

「ぐぁぁぁぁ!?!?ちく、しょうがぁ!たがが外史の、誰かに見られなければ存在できないちっぽけなキャラクター風情が!」
「それでも!!」

気づけばルークは岩盤を駆け上がってシンの背後を取っていた。そして壁を蹴り、振り返りながら体を一回転させ…カトラスを叩き込む。


「俺はここにいる!俺という存在にかけて負けない!ーーー皇牙転生斬!!」

剣先に籠められた超振動のエネルギーがシンを吹き飛ばす。

「がはぁ…!くそぅ…殺してやる!!」

シンの手が大技を放った直後の隙だらけのルークに向けられる。

「そうはいくか!」

キリトは即座に操作して新たな剣をその手に握る。エリュシデータの代わりとなるのは真紅の剣。

「使わせてもらうぜ、リズ…!いくぞ、リメインズハート!!」

どうやらあれはリズが新たに作り上げた武器のようだ。赤と白の剣を握りしめたキリトがシンと打ち込み会う。

「もっとだ…もっと速く!!」

キリトの瞳が再び金色に光り、斬撃のスピードが跳ね上がり…シンに隙を産み出した。

「スターバースト・ストリーム!!」
「ぐぉぉぁぁっ!!」

シンが血を撒き散らしながら吹き飛ぶ。その目には憎悪しか残ってない。

「ここ、殺す…いや…潰してやるぅぅぅ!!!」 
「「うぁぁ!?」」

シンから尋常ではない力が、衝撃波として放たれて間近にいた三人が吹き飛ばされてしまう。

「ぐぐ…!咲…!合わせるぞ!」

俺が携帯を咲に向かって突きつける。

「そういや、やったことなかったな…!!いくぞ、亮!!」
 
その携帯に向かって咲が拳を叩き込む。

「「イレギュラーキャプチャー!!」」

二人の力を一つにするその言葉。俺と咲は光に包まれ…完全に一つとなった。

「「おおおおらぁぁぁ!!!」」

衝撃波をものともせずにシンを思いきり蹴り飛ばした。

「な、なんだ…!?」
「「覚悟しなシン!お前は俺たちがぶっ倒す!」」

今までのイレギュラーキャプチャーと違い、俺と咲の声が重なり、体の動かしかたもまるで二人で操作してるかのようだ。

「「でりゃぁぁ!!」」
「ぐぅ!?」

瞬動で距離を詰め、握りしめたダークリパルサーを連続で振り続ける。

『いけるッス!!そのまま押しきって…!』
「させるかぁぁぁっ!!」
「「うぉ!?」」

苦し紛れにシンが力を解放して衝撃波で俺たちを遠ざける。そしてシンは空高く舞い上がる。

「直接痛め付けて殺してやろうかと思ったが…それはやめだ…世界ごとぶっ壊してやる!!」

そういうとシンは片手を天にかざすと巨大な光の玉を作り出していく。

「「やろう…させるかよ!!はぁぁぁぁぁっ!!」」

力を籠め、解放すると左の背には気で作られた白い翼が、右の背には闇で作られた黒い翼が。


「「うおおおおお!!!」」

翼を羽ばたかせ、俺たちはシンに近づくが…

「ふんっ!!」
「「ぐっ…!うぁぁぁ!?」」

片手で弾かれ、地面に叩き落とされる。そうこうしてる内にシンは見えなくなりそうなほど高笑いをしながら上昇していく。

「「くそ、もう一度…!」」
「待てや少年ども!美幸ぃ!」
「うん!延びて!!」


飛んできたリョウコウと美幸が近くに来て、美幸が地面に手をつくと巨大な岩が天へと伸びていく。

「そんじゃ、任せたぜ旦那!」
「…わかってる。…咲、亮…乗れ」
「「えっ?うぉわ!?」」

剛鬼に持ち上げられられたかと思うと方天画戟の上にのせられ…

「「おい、まさか!」」
「ーーーー飛べ」

剛鬼は思いきり振りきり…俺たちを上に打ち出した。

「「うぉぉぉぉっ!?!?」」
「呆けてる場合じゃねえぞ少年どもが!」

勢いが僅かに緩まった瞬間、岩を駆け上がっていたリョウコウが飛び出してきて足が光り出す。

「しっかり反発させろよ?じゃねえとここで割れるぜ!」
「「上、等!!」」

リョウコウが下からヤクザキックしてくるのと同時に俺たちも両足に気と闇を籠めて突き出した。


「いけやっ!!」

激しい衝突音と共に俺たちはさらに加速する。体にかかるGが肉体を軋ませていくが、そこは咲が闇で補強してくれている。

「亮、咲ーー!!」

そんなとてつもないスピードについてきてくれたのはシィだ。岩を上りきり、俺達の前に飛び出た。思えば…彼女には初めて助けてもらい、そして長い付き合いとなった…恐らく、この戦いが終われば…彼女たちとはあえなくなる…そのことを噛み締め、目の前の少女を俺たちは見つめる。

「…いくよっ!」
「「…頼む!」」

シィが両手を重ねて俺たちの足の裏をのせる。そして俺たちも両足を曲げ…同時に力を解放した。

「とん、でっけーーーーーっ!!」
「「届く…これならっ!!」」
「いーや、時間切れだ」

そういうとシンは…大きく膨れ上がった光の玉を…こちらに落とした。…近づくほどに、わかる。…あれは、やばい。

『オイラが意地でも…!』
「「いや!お前はまだだ!」」

そして俺たちは…いや、俺は叫ぶ。

「みんな、もう一度誇りを俺にーーー!!」

通信機は使っていなかった。だから本当なら声は届かないはず…だけれど、俺の元に…みんなの武器が集まる。…どうしてだかはわからないけれど、きっと思いが届いたんだ…

「「来い!刺天猛虎ーーー!!」」

武器が融合、さらに俺の三つの武器も合わさり、深紅の直槍は蒼を交えた十文字槍へと変化する。

「「でぇぇぇやぁぁぁっ!!!」」

俺たちは回転し、先端に気と闇を集めて光の玉に突っ込む。

「バカめ!自爆したか…な、なにぃ!?」
「「うぉぉぉぉぉっ!!!」」

俺たちは…光の玉を穿ち、突き進む。止まらない、止まるものか。やられてなるものか!

「「ぶち抜けぇぇぇぇ!!!」」

刺天猛虎が一際強く輝き…砕け散る。だがそれと同時に光の玉を撃ち抜き…そのエネルギーはバラバラな微量の流れ星となって散る。…あれはきっと仲間が落とす。僅かな被害も許さないだろう。そして俺たちの手に握られるのは…

「「いくぞ、リパルっ!!」」
『ッス!!』

俺たちは残ったありったけを剣に籠め…刀身が巨大化して大剣となる。

「ば、ば、ばかな…だって、ボクは……神の…」
「「お前は神でも何でもない!罪まみれの大罪人だ!俺たちの…いや…外史すべてから…!!」」
「ひ、ひいぃぃぃっ!!」

俺たちはシンに肉薄し…大きく振りかぶる。シンは光の剣を構えるが…そんなもの、つまようじレベルだ。

「「消え失せろぉぉぉぉぉぉっ!!!!」」

全力で振り下ろし、光の剣を容易く砕き、シンの体を両断した。

「あ…う…うそ…だ…ぼくは…ぼくは」

すぐに剣を引き…突き出す。こいつを完全に消滅させるために。

「「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁあーーーーーーー!!!!」

先端から放たれる力の奔流はシンを呑み込み……そして、その体を消滅させた。

「「………」」
『…反応、完全消滅…』
「「かっ…た…」」

直後、力を使いきったせいか…俺と咲は、分離して落下を始める。

「うわぁぁぁぁぁ!?!?さ、咲!羽、羽プリーズ!」
「もうそんな力残ってねぇよ!?お前こそ真似しろ真似!」
「今能力使ったら即寝落ちするっ!!」

や、やばいやばいやばい!世界を救った直後に落下死とか格好悪すぎる!!

『…大丈夫っすよ』
「「どこが!?」」
『来るッス!』

直後だった。声が、響いたのだ。

「亮!」
「サチ!?」
「…咲!」
「恋…!」

翼を羽ばたかせ、二人が飛んできて…俺たちの手を掴んだ。

「サチ、どうして…」
「明命さんが教えてくれたの。きっと亮は後先考えずに倒してくるって…」
「…はは、お見通しか…」

「咲も…大丈夫?」
「なんとかな…ラスボス恒例の第二形態は今回はなさそうだしよ…」
「…?」
「意味がわからないならそれでいいさ」


そのままゆっくりと俺たちは地上へと降り立つ…瞬間。

「亮!」
「うわっ!?」

まず最初に明命が飛び付いてきて亞沙が、そしてシリカも飛び付いてきて俺は倒れる。

「ったく、なにやってんだよ…」
「…お帰り、咲」
「…ああ」

詠が困ったように笑いながら咲に肩を貸す。…もちろん直後、霞たちに飛び付かれて咲も押し潰されたが。





















「よいっしょー!」
「っしゃおらー!」

あれからしばらく。シンが出した残党を処理するためにリズが獣へハンマーを叩き込み、翠も槍を振るって斬り飛ばす。


「…こっちはもう終わったみてーだな」
「みたいね…」
「こっちも掃討は終わったぜ」

咲が馬に乗りながら二人に言う。そこに俺たちも合流した。

「シンが出したモンスター軍団もこれで終わりだな…蓮華、頼む」
「ええ。……聞け、皆のもの!!!」

蓮華の声が通信機を通して戦場全体に響き渡る。

「悪しき軍団は我らの誇りのもと、消え去った!!この戦……我らの勝ちだッッッッ!!!!」

『『『おおおおおおおおっ!!!!!』』』

兵士たちの、俺たちの歓喜の声が大地を揺らした。それを聞いて涙を流したのは…椿と愛依だった。

「勝った…勝てたんだ…あいつに…」
「アタシたちは…討てたんだ…父さんたちの…仇を…」
「…そうだな」

俺と咲は娘たちの頭を撫でる。ここに……最後の戦いが終演を迎えた………



















ーしばらくー

あれから数ヵ月が経った……戦争の事後処理も時間がかかったが、今はそれが終わって急遽、一年を待たずに祭りを行うこととなったのだ。武道大会、料理大会、知識大会…様々な催しが繰り広げられ、戦の傷を癒すように皆笑い、楽しむ。そして最終日の日……


「…もういくのか?まだ一日あるのに…」
「出たい物は出たし、片っ端から楽しんだからね!」
「…それに、俺たちは何時までもここにいていい存在じゃない」
「ま、そういうこった。…また会えるかはわからねーが、これが最後じゃねえって思ってるぜ、少年」

俺たちと同じように、誰かが産み出した存在…シィ…剛鬼…リョウコウ…彼らが元の世界に帰ろうとしていた。

「シィ、クレスたちにもよろしく。…撫子やソフィアにも…ありがとうって」
「うん、わかったよ亮。咲も…また会おうね!」
『みなさま、ありがとうございました!また会いましょう!』

キリエが言うと同時にシィが空間を開き、その中へ飛び込む。

「…咲」
「…なんだ?」
「いや……恋を…愛依を守れ。それだけだ」
「当たり前だ」

剛鬼がそういい残して飛び込む。それを見て知也はやれやれと肩を竦める。

「最後までまぁあいつは…ま、こっちもかなり狙い撃たせてもらった。報酬はこの祭りの参加権利ってことで満足させてもらうぜ。じゃあなお二人さん。あんたらを狙い打つことにならなくてよかったぜ」
「物騒なことを…」

知也が去れば今度は大所帯のリョウコウ組だ。

「おい少年…いや、亮」
「…なんだよ、改まって」
「…楽しかったぜ。こんな機会、そうそうねえと思うが…あと春鈴にも伝えといてくれや。…次会えたら俺の本気でやってやるってな」
「大分春鈴のこと気に入ってるのな。…ああ、そっちの兄貴や直葉にもよろしくな」
「おう。咲も亮にくらべりゃ接点は少なかったけど…そいつのこと、頼むぜ?」
『リョウコウさん…』
「ああ、こいつはもう家族だからな…とっておきのプレゼントもやる予定なんだ」
「そうかい。んじゃ、俺は一足お先に帰るとするかな!あばよ世界の旅行者さん!」

リョウコウはそういって空間へと飛びこんでいった。次は美幸だ。

「えっとね…亮」
「お、おう」
「そっちのわたしを助けてくれて、ありがとう」
「…それは」
「咲も、頑張ってね…あはは、お別れの言葉って難しいね…」
「そうだな…そっちもリョウコウとうまくいくといいな」
「うん、頑張る。…じゃあね、二人とも」

美幸も行き…次はレコンだ。

「レコンもありがとう。サチやなのはを助けられたのもお前のお陰だ」
「い、いえ、そんな!どれだけ戦力になれたかは…」
「なったぜ。あんなすげー魔法も使えるんだしな。直葉ちゃんも今のお前なら惚れ直すぜきっと」
「咲さん…あはは、気休めでしょうけどありがとうございます。…それじゃ、またいつか!」

レコンが飛び出すと入れ替わりで闇風が前に出た。

「亮にたいしては…まぁ、頑張れとしか」
「はは…あんまし接点なかったしね…」
「咲は…ちょっと耳を貸しなさい」
「ん?」
「ーーーーーーー」
「ーーーえっ?それは」

闇風が離れるとくすりと笑う。

「それ、私の本名だから。多分機会もないでしょうし、今のうちにね。…結構楽しかったわ」
「ああ、俺ももしGGOをやることがあったら闇風みたいなステータスにしてみようかな」
「ええ、やってみなさい。あとその上でゼクシードって奴ぶっとばしたら花丸あげるから」
「…?ああ、わかったぜ」

闇風は手をひらひら振って飛び込んでいった。最後は…クラナだ。

「……」
『相棒…流石にここは何か言ったらどうですか?』
「うるさいな…」
「大丈夫大丈夫。…言葉がでてこないだけだもんな」
「……」

少し口を強く結んだあと…クラナは話し出す。

「…色々、ありがとうございました。俺のことを知らない家族と話すのは…新鮮でした」
「…帰ってから、大丈夫か?」
「わかりません…でもヴィヴィオと…また違った接し方はできると…思います」
「…頑張れよ。アルもさんきゅーな」
『また会いたいッス…』
『ええ、こちらも…ではいきましょうか』
「…さようなら、またいつか」
「「…またな」」

クラナもいなくなり…空間が閉じる。……辺りには静寂が訪れる。

「…いなくなると、寂しいもんだな」
「ああ…それに、彼らがいなければこの戦いに勝ちはなかった…咲…もっと強くなろう。俺たちだけでもこの世界を守れるように」
「ああ、わーってるよ…」





























そこからさらに数週間…ついに破壊されていた世界の修復が終わり、みんなともお別れが近づいていた……


「やっぱり…亮はここに残るんだよな…」

キリトがいうと直葉は…シリカもうつ向く。

「うん…ここが俺の世界だから…」

「サキもここの世界にいるわけですしね」
「だな…姉貴やアリエッタのことを…頼む」

咲の言葉にジェイドは眼鏡を触ることで答えた。

「なんとかならないのでしょうか…」
「ヒュー…」

「何故今生の別れみたいになってるのかしら?」

その時、スキマが開いて紫が出てきた。

「うわ、出た!?」
「なによ、人を幽霊みたいに」
「妖怪だろ、近いもんだろ…てか今生の別れって…ほとんどそうだろうよ。世界を渡るのは俺たちだけじゃ無理…」
「そうね?だから…あなたたちを三等分にするのよ?」
「「はっ?」」

ジリジリと紫が近づいてきて…俺たちも思わず後退りをするが…退路はない。

「大丈夫、痛みは一瞬だから♪」
「「ぎゃ、ぎゃぁぁぁぁぁぁあ!?!?!?」」



青空に俺たちの悲鳴が響くのだった………




 
 

 
後書き
つぎからはエピローグになります!