魔法使いの始め方。


 

プロローグ――序章開幕――

それは、今から中学時代まで遡る――

 狭い部屋に雑多な書籍、地図が置いてある。地図は社会で使う為の世界地図や日本の地図、書籍は国語用の各種辞典をはじめに、教科書の見本や夏休み課題の余りが。床には無地の藁半紙の束が無造作に積んである。それが僕らの部室だ。

「なぁ、やーさんや」

「はい?」

 それは親友、流音寺(りゅうおんじ)駆(かける)と二人で放課後、部室でぐだっていた時の事だ。僕も彼もオセロ部に所属してはいるものの、部員は僕ら二人だけ。先輩方は秋のこの時期、高校受験に向けて忙しい。後輩は、入ってこなかった。僕らが消えたら廃部だろう。今存続が許されているのは、ただ単に部費を消費せず、部室も資料室を借りているからだろう。

「俺、そろっと帰るわ」

 副部長殿の早退宣言。一人じゃマンガ読むくらいしか出来ないし、僕も帰ろうか。

「はいはい。庭手伝い?」

 尋ねたのは何となくだ。深い意味なんか特にない。普段彼は実家の庭仕事を手伝っている。僕はてっきり、その関係だと思ったのだ。秋なら稲刈りあるし。我が中学をも上回る、広大な田園をどうこうするならば僕も手伝いを申し出ようか。そう、思った。

「うんにゃ」

 だが、彼の返事は違った。

「ちがうちがう」

 次の言葉を、僕は一生忘れないだろう。

「俺、ドラゴンに襲われてるんだ」

「……はぃい!?」

 唖然とした。

「おまえは何を言ってるんだ」

 ゲームをやりに帰るのかよ。まぁオセロ部にいる時点でゲーム云々、なんて批判はする権利ないか。しかし今の発言は若干危ない。他人に聞かれたら痛い人だと思われるぞ。

「ほら、見てくれよ」

 そう言って、親友が差し出した手にはぐるぐる巻きの包帯が。なんでも夕食作る過程で火傷したらしい。先生への言い訳が正しければ、なんだけど。

「火傷がどうかしたの?」

「これ、ヤツにやられたんだ。油断した」

「意味がわからんぞ」

「だからドラゴンに追われてて、ヤツに火傷させられたんだよ。あ、今日の六時辺り」

 真顔だ。真顔でこんな事言う奴など、世界広しといえどもこいつくらいのもんだろう。

「……はあ」

 僕は、それしか言えなかった。

神代の古龍(エデンズ・ドラゴン)の一角、"死血恋龍(アルタイル)"ドラクリヤにちとな……」

 日本語喋れお前、と言おうとしてとまる。なんだか聞いたことのあるフレーズだ。たしかファイナルドラゴンシリーズの最新作に出てくる裏ボスだったような……

「お前それゲームじゃん!! 火傷の話関係ありませんよねぇ!?」

 火傷の話なんで挟んだんだろうってカンジだ。ゲームのキャラに火傷させられた、なんて主張を聞く日が来たことにびっくりだ。

「いや、だからドラクリヤの"焼き尽くせよ深紅"をくらってしまってな」

「……」

「いやぁ、油断したわ」

 こんな事を友達に言われたら、どう返せば良いと思う? 僕には全く、わからない。

「ヤバいな、ヤツに気付かれた。多重隔壁にアカシックレコード改竄までしたんだが…」

 ぶつぶつ言う友人殿の単語が果てしなく意味不だ。

「学校が消し炭になる前に俺は逃げる。ヤツは俺を追ってくるから、俺がいなければ大丈夫な筈だ」
 学校が消し炭て。この市立東西中学校はかなり広いんだが。市内を横切る霙川より西、つまり川より日本海側全ての小学校が基本集うこの中学校は一学年が約八百人。教職員その他含めて三千人近い人間が余裕を持って生活出来るスペースのある校舎。震災時に自衛隊のヘリが何台も着陸出来る広さの校庭。

「お、おぅ……」

 呆れながら僕は思った。この中学を吹き飛ばすにはミサイル位の破壊力が必要なのではないかと。こいつは一体、何と戦っているんだ? っーか、仮に、万が一いや億が一、そんな展開があったとしよう。だがミサイルみたいなゲテモノ喰らったのに火傷で済むっておかしくね? 油断どうこうとかそれ以前の問題だろJK。

「あ、念のため」

 あたかも今思い出したかのように、自分の鞄を漁る我が幼なじみ。

「ん?」

「これ、やるよ」

 そう言って押しつけられたのはくしゃくしゃに丸められた紙の束。一番上を広げてみると、昨日の二次方程式の問題用紙だ。しかも満点。ミス連発した僕への嫌みか。

「……何これ?」

「七曜結界の呪符だ。多重隔壁が破壊されたからな。こいつなら万が一巻き込まれても俺が行くまで持ちこたえるだろ」

 一人で納得するなヲイ。七曜結界ってなんだそりゃ。

「じゃな!」

 唖然とする僕を残して、彼はさっさと帰ってしまったのである。……無駄紙の束、押しつけられた?


 兎にも角にも中学二年の秋に僕、天牙峯(あまがみね)八代(やしろ)の人生は転機を迎える羽目になる。 

 

1話――世界混沌――

 昨日、ドラゴンから逃亡なんて素敵な理由で早々に帰宅しやがった我が友人。件のドラゴンからは逃げ切れたのだろうか。まったく、ゲームと現実を混同しているとはなぁ、などと思いながら登校する。しばらくすれば飽きるだろうし、それまで付き合ってやりますかね。

「なぁ、昨日はどうだった?」

 後ろの席に座って尋ねれば、苦しそうな表情で振り向く彼。

「あぁ。やーさんか」

 右手を押さえながら喋る彼は本当に辛そうだ。

「どしたん?」

正負の集積体(カオス)が、自我を取り戻した……」

 は?

「並行世界って知ってるか?」

 カオスとやらの話はどこいったんだろう。気になるがここで突っ込んだら負けな気がする。

「まぁ、聞いたことくらいは…」

 だから何、とばかりに見返せば。

「一つ、ここみたいな世界があるだろ? これが最下界という。最下界は無限に連なる並行世界を持つ。そしてこれを包括する上位世界がある。これを世界1―1としよう。」

 なんか哲学的な話になってきた。なーんか、嫌な予感がする…

「無限に存在する1―1の並行世界群を1―1と併せて包括している世界を1―2とする。1―2を無限に含む世界を1―3とする。……これが1―∞まで続いたとしよう」

 いや待てよおかしいだろそれ。無限より大きい無限って何だよ。数学的に有り得る話なのかそれは。

「1―∞を包括する世界を今度は2―1としようか。無数の2―1を包括する世界を2―2として、これを2―∞まで繰り返す。これをひたすら繰り返し、∞―∞まで続けてみた世界。これが第一次基底世界だ」

「ごめん聞いてなかった」

 理解するのすら面倒臭い話だとはわかったけど。∞が∞が~って辺りで僕は流すことにした。

「第一次基底世界は含まれる最下界の数だけ集まると更に巨大な世界に飲み込まれる。これが第二次基底世界」

 僕の意見をスルーして、彼はひたすら語る語る。

「ギブ! ギブ!!」

 両手を頭上に翳して、振る。降参のジェスチャーだ。そろそろ流石に聞きたくない。まぁ、言ったところで聞いてくれるような人間では無いが。……しっかしよくここまで設定練ったなぁ。

「第二次基底世界は二ってついてるだろ?」

「う、うん……」

 やはり止めてくれない。どうしよう、逃げられない。

「第二次基底世界は含まれる最下界の二乗だけ重なり、第三次基底世界になる。第三次基底世界は含まれる最下界の三乗だけ重なり…」

「どーせこれも第無限次基底世界とかまで続くんだろ!」

 もう早く話し終わらせる他道は無し。諦めた僕は会話をさくさく進めるために積極的に介入する。こうなりゃヤケだ。

「そんな少なくない」

「無限は大きいよ!」

 無限を小さいなんて言うやつ、初めてだ。

「これはさっき言った∞―∞の値になるまで続けられる。んでこの世界が下層魔界と呼ばれ――」

 かーん、なんて鳴る予鈴。良かった、助かった!!



―――

「んで、カオスってのは何なのさ」

 性懲りもなく聞く僕。さっきは世界が~とか無限が~みたいなわけわからん話で終わっちゃったからねぇ。

「世界が――わかったよそこは軽くにしといてやる」

 諦めたように言う友。ま、"世界"って単語が出た瞬間自分の顔が渋くなったのがハッキリわかったからなぁ。

「全ての世界を包括する場所。――ここを俺たちは超空間、と呼ぶんだが――を飲み込む極限存在。森羅万象の代替物。世界そのもの。つまりは意思を持つ"世界"そのもの」

 うむ、わからん。

「無知にして全知。無能にして全能。一にして全。個にして群。最弱にして最強」

「だから意味がわからない」

「つまり、簡単に言えば、世界が暴走を始めた。俺はそれを止めねばならん」

 はじめからそう言ってくれ。そっちの方がわかりやすいわ。

「え。勝算はあるの?」

 聞いてる限りだとヤバそうなんだが。ミサイルで火傷するレベルでなんとかなるのかそれ?

「封印を、解く」

 イケメンボイスで言うな。だれかが寄ってきたらどうする気だ。ただでさえお前イケメンなんだから、こんな話お前に憧れる女子に聞かれたら幻滅されるぞ。

「やーさんだって頑張れば顔くらい平均いけるんじゃね?」

「五月蠅いよ」

「話が逸れたな。俺の左目、あらゆる事象を無効化する"調律(リセット)"とあらゆる事象を破壊する右手の"破壊(アポカリプス)"、これらを使えばあるいは…」

「なにそれ最強すぎんだろ」

 無効化と破壊ってあんた。しかもよく見たら左目だけ僅かに赤いし。わざわざカラーコンタクト片目だけ入れてきたんかい。

「だが、やつは強大だ」

「大丈夫大丈夫」

 超気楽に言う。こいつ負けないだろ絶対。

「カオスに敗北した存在は、全てをやつに奪われる。記憶も、精神も、能力も、周囲との関係も。だから、俺が敗北すればやーさんは俺の事を忘れるだろう」

 悲しそうに言う。いくらなんでも妄想と現実を混同しすぎだろう。妄想で自分が敗北したら僕にまで影響って。

「心配なさんな、ちゃーんと、覚えてるからさ」

 仮にどんな事情があろうとも、どんな奇行に走ろうとも。僕はお前の味方だぞ、と。

「……そうか、ありがとな」

 やつは何かを我慢するように微笑んで。

「先生、体調悪いんで早退します!!」

「はぁ!?」

 まて親友。寝言は寝て言え。

「ん、気をつけろよー」

 そんな僕の動揺など気付かぬ風に、黒板を消していた先生はあっさり許可を出してしまう。

「やーさん、さよならだ」

 そう言って、彼は姿を消した。


 ま、翌日何食わぬ顔で登校してきましたがね! 
 

 
後書き
とりあえずさっさかとある話分を投下っ! 

 

2――新規参戦――

 翌日投稿した僕は気になったこと、つまり。

「おはー」

 すげぇ深刻そうに鬱ってた友の様子を見てみよう。僕はそう思い、さりげなーく、挨拶がてら昨夜の事を聞いてみる。

「昨日はありがとな」

 開口一番、爽やかな笑みを浮かべる駆。はて、なんかやったっけか?

「励ましてもらえてうれしかったよ。これは、お礼だ。カオスの欠片」

 差し出されるのは黒い包み。昨日励ました、って言われてなんのことか思い出す。軽いノリで考えてたのに。なんか、すごい罪悪感だ。

「いや、そんな深刻に考えてなかったし…」

 まさか「妄想なんだからお前が勝つEDで終わるに決まってんだろ」なんて言えず。試験やら現実問題を暗示している場合(こいつの場合まず無いが)をも考えて元気づけただけだし。

「それでも、やーさんの一言に救われたのは事実なんだ」

「あ、ありがとう……」

 どんどん高まる罪悪感。真剣に考えずにすまん。そこまでゲームに入れ込んでいたとは。






 ちなみに中身は半分以上使われた紙粘土でした。もうめっさ固い。……なんだろうねこの感情。捨てるのも悪いし、勿体ないからロッカーの中にぶち込んだ。美術の時間にどうこうしよう。




―――



「僕にも、魔法教えてくれないかな?」

 いつものように部室でパチパチ、と。オセロに興じながら僕は思いきって聞いてみた。このゲーム?の参加方法はわかんないけれど、参加すれば話題の共有が出来る気がしたから。

「んー、良いけどなんで?」

「話題を共有したいから、かな」

「……えぇー」

 高尚な理由じゃなくて悪かったな。

「ま、わかった」

「あら意外。断られるかと思った」

「やーさんにも自衛の技術は必要だからな」

 自衛、という単語に冷や汗がでる。まさかコイツ、近所の不良に喧嘩を売ってないだろうな……!?

「最近、世界の境界線(エンドライン)の揺らぎがおかしい。いつやつらがこちらに来ても、おかしくない」

 知らぬ単語が出てきたが、あたしゃあ突っ込まんぞ。

「巡回する人手が足りない。やーさんが協力してくれるなら助かる」

「え? え?」

 なにこの流れ。協力って何のだよ。

「正直、やーさんを巻き込むのは気が引ける。だが俺達じゃ手が回りきらないんだ、すまんな」

「お、おう……」

 どうやら渡りに船だった模様。
「よっ、と」

 駆が、軽く僕の胸を叩く。

「魔力を、流し込んだ。この魔力を呼び水として、やーさんの魔力を引き出し、身体を慣らす」

 そうは言っても僕はなにも感じないぞ。

「ま、最初だからな。少しずつ強くなってきゃ良い。今は雑魚だが安心しろ」

「……」

 こうして僕は魔法使い(雑魚)を、始めた。




―――


 その夜。僕は夢を見た。色彩の薄い、澱んだ空気の世界。上下左右もわからない。なんとなく、ここには距離も時間も過去も未来も、縦横高さすらも無い世界であることを漠然と感じた。

「くっ……」

 息苦しい。身体が動かない。重い。身に何かが纏わりつく感覚が堪らなく不快だ。

「だらっ、しょあー!!」

 叫ぶ。気合いを全身に注入。俄然重いが、身体を動かすくらいは出来るようになった。亀の歩みだけど。意識を張っておかないと、身体が溶けて消えそうだ。

「やーさん、来れたのか」

「……お前の魔力が指標となったな。この世界で動ける(・・・・・・・・)のも、お前の魔力が結界の役割を持つからか」

 驚いたような駆の声と、聞いたことのない怜悧な女の声。さっきまでなにも無かった前方に、無数の茨が集まっていた。そして、二人はその前に、いつの間にか立っていた。

「リア、これがやーさんだ。やーさん、こいつがドラクリア」

 実在したのかよ。そう言う気力すら無かった。身体が、また怠くなってくる。歩くのがやっとだ。

「君がやーさん、か」

 そう言って笑う、赤みがかった黒の髪を腰まで流した美貌の女性。彼女が噂のドラクリアか。追いかけられていたのなら、駆の敵じゃないのか。

「あ」

 そして、二人の後ろから聞こえる可愛らしい声。茨の中心に、がんじからめに束縛された女の子が一人。金の長い髪は足まで届き、赤紫の瞳は驚きを映している。

「――」

 思わず、息を飲んだ。彼女はとっても可愛かったけど、それ以上に。気になったのはその様子。白く、シミ一つ無い美しい肌なのだろう。しかし茨によって生じた無数の傷と血で汚れていて。それがどこか悲しげな雰囲気を思わせた。

「あの」

――なんで、茨に縛られてるの?

 聞こうとした瞬間、身体が崩れ落ちる感覚。なんだよこれ!?

「限界か」

 複雑な顔でこちらを見ていた駆が言う。

「まぁ、もしよかったら、アルマの話相手になってくれ」

 アルマ、というのは黒いドレスのこの美少女のことか。何故、彼女は茨に捕らわれているのか。疑問がとめどなく溢れ出てくる。

「なにが――!!」

 言葉を綴る前に、僕は世界から弾き出される。意識が、引き戻される。

 そして、僕は夢の世界のことを、忘れた。これを思い出すのは、いくらか時をまたぐことになる 

 

3――属性調査――

「まず、属性を調べてみるか」

 魔法を習うことになった翌日、部室に行った僕を待ち受けていたのはそんな言葉だった。属性ってモロRPGだよなぁ、なんて思ったのは内緒だ。

「手、出してみ」

 言われたように手を出す。

「ふむ。第四属性が一、プラズマか。割とレアだな」

 プラズマァ!?

「マテマテマテ、プラズマって何だよ属性って火とか水じゃないのかよ!?」

 そんな属性聞いたこと無いよ!!

「やーさんの言ったそれらは第一属性だな。火水地風雷、これらを総称して第一属性と言う。まぁ、自然現象だな。魔法使い全体の約半分はこれらになる」

 あ、ヤバい。解説スイッチ入れちゃった。一瞬だけ、後悔。でもここらは大事な気がするからちゃんと聞いとくか。

「次に光と闇、波に重力。これが第二属性。かなりレアだ。全体の二割位か」

 なんか普通のRPGチックだ。波に違和感あるけど。っーか光闇と波、重力が同じ区分なのかよ。

「第三属性は時間、空間。これらは一割、かな。実際はもうちょい少ないか。一割の半分位だな」

「!?」

 属性でそれって…… っーかそんな属性持ちがホイホイいてたまるか。時間操作やら空間移動がホイホイ使えるんだろうか。

「んで、残りの魔法使いが発現するのが第四属性。気体液体固体プラズマ」

「待ていなんじゃそら!」

 それっていわゆる物質の変化だろ!

「もともとプラズマなら炎&雷の二重属性(デュアルズ)っう扱いだったんだがな。それだと系統を分ける際に不便だから、って理由で最近作られたんだ」

 やべぇ、なんか納得出来てしまうのが悔しい! つまりは微妙なものをそれらしい名称で分別した、と。さっきの話から言えば25パーセント、全体の四分の一の人口がこの属性か。

「ちなみに当時は液体が水と風、気体は風と雷、固体は地と炎の二重属性扱いだった」

 ほうほう。

「だから第一から順にチート化していくのに、時間と空間を差し置いて第四なのね」

「そゆこと」

 なんか属性分け一つに歴史を感じさせる話である。

「……ちなみに駆は?」

「俺?」

 どーせ無属性、とか言うオチなんだろうなと予想しつつ聞いてみる。

「俺は全属性」

「……」

 そっちで来たか。

「まぁ、俺の話はどーでも良い。やーさんの強化から始めよう。やーさんの魔力量は見た感じ中の下、ランクにしてE+、ってとこだな」

 下の下&第一属性、とか上の上第三属性、とかなら(つまりは最下位クラスか最上位クラスなら)主役張れそうなもんだが、適度にあるとなんかモブで終わりそうな気しかしねぇ…… え、なんで最下位で主役かって? そりゃ覚醒に期待出来るからさ。

「毎日瞑想な。少しずつ魔力量を上げてこう。あと、ホレ」

 魔力量劇的に上がらないかなぁ、なんて思ってたら渡されたのは布の袋。中身を見れば、無数のラノベ、マンガ、ゲーム。

「イメージが大事だからな。呪文の詠唱とか頑張って覚えておくと良いぜ。まぁ最初は精度高めるためにも自分の属性をメインに二つ、三つってとこか」

 そしてサラッと趣味の布教か。こやつやりおる。

「……使えるの?」

「あぁ。勿論。まぁ属性やら今までの経験やら、そういった自分の適性にも影響されるがな」

 つまりはあらゆるメディア作品から引っ張ってこれる仕様なのか。なんて便利な世界観だ。……手を抜きすぎだろいくらなんでも。

「ふむ……」

 そう言いながらも、マンガを捲る手は止まらない。こーゆーの好きだし。なんか燃えるじゃん。「キミだけの究極のキャラを作れ!」ってカンジで。

「ちなみにプラズマは属性的には雷と炎も使えるから」

 意外と便利な我が属性。なんか主人公っぽいぞ。

「じゃあ、これにする」

 選択したのは三つ。補助と近距離技と遠距離技だ。駆が理解しやすいよう、紙に詳細をメモって渡す。

☆身体強化
属性…雷
対象…自分自身
効果…体内の神経を始めとする器官の強化。身体能力を飛躍的に向上させ、特に反応速度と思考速度を上昇させる。
☆カグヅチ
属性…炎
対象…一人
効果…神殺しの焔。あらゆる事象は紅蓮の波動に燃やされる
☆コロナ
属性…プラズマ
対象…大陸規模
効果…太陽の熱風で周囲一体をなぎ払う。

「ふむ…」

 しばらく目を通し、熟考する駆は、なんか悩んでるみたいで。

「大技ばっかだな。初心者の使う技じゃねぇぞ」

「あ……」

 やべぇすっかり忘れてた。完全盲点だったわそれ。

「これとは別に初等魔術の火よ在れ(ファイア)とか放電(スパーク)みたいな技もあった方が良い」

 第一、と更に言葉が追撃を仕掛けてきて。

「やーさんの魔力じゃ下二つは発動すら出来ん」

「……」

 まさかのオチが待っていた。まぁ、E+とかいう魔力量は少ない部類なんだろうし、そりゃそうか。

「じゃあ発火と発電から始めるよ」

 初歩の初歩、マンガとかがなくてもなんとかなりそうな二つをチョイス。これらと身体強化を主軸にしよう。

「ん、それが良いだろうな」

 結局マンガの類は意味が無かった。使えない以上しょうがないので返そうとする。

「いや、それはやーさんが持っとけ。なんかの役に立つ、かもしれん」

 ブレないなこいつ、布教は続行するのかよ! 

 

4――体術至難――

 
前書き
少しグータラしたら3日近く過ぎてる、だと… 

 
「今日は体術からいこうか」

 なんかもうオセロ部っーかオカルト部だよなぁ、と思っていたら体術て。それ魔法と関係あるの?

「大アリだ。普通の魔法使いならいざ知らず、俺達はどんな状況下でも十全に力を振る舞えなきゃならん。接近戦の心得は必須に決まってる」

 普通じゃない魔法使いって何だよ。喉まで疑問が出掛かったけど、グッと飲み込む。よくわからん理論が出てくることが目に見えてるし。

「まず、やーさんの適正を見るか。剣、刀、槍、長刀、鎌、鎖、ハルバート、弓、銃、爪、素手……手当たり次第に試すぞ。その後で基本的な接近戦のイロハを叩き込む」

 銃ってエアガンのことだよな?

「やーさんって視力いくつだっけ? たまに眼鏡使ってるよな?」

「両目Dだよ。授業中だけ眼鏡使う」

 それがどうかしたのだろうか。

「……コンタクトは?」

「怖いからイヤ」

「水泳の時女子見てもよくわかんないのかよ……可哀想に」

 我が中学は夏に水泳の授業があるのだが、男女共に同じ時間、同じプールでやる。だから隣のレーンをチラ見すれば、女子の水着姿を見れるのだ。お陰で男子の授業への期待具合がハンパない。

「まぁ、見たいけどさ。その為にコンタクトにするのもなんだし。しかもスク水でビキニとかじゃないし。だったら別に良いかなって」

「勿体無い……」

 いや、たしかにそうだけどさ。水着姿の女の子を近くで見る機会なんて多くないし。

「……って。話題がズレてるズレてる」

「おっと、そうだな。じゃあまず剣からいこうか。銃や弓はとりあえず保留で」

 気軽に言われたが剣なんてないぞ?

「ほれ」

 駆は後ろの箱をがさごそ漁る。あのー、そこには世界地図とか先生方が授業で使う道具が入ってるんですが。そっから一つ何かを掴むと、僕の方へ投げてよこす。物投げるのは危ないって。

「棒?」

 渡されたのは棒だった。僕の腰位までの長さで、握るのに丁度良い太さだ。地図に紛れて、そんなもん隠してたんかい。

「とりあえず、俺に一撃与えて見ろ」

「はぁ!?」

 怪我するぞ、ヲイ。

「大丈夫だ。心配してくれるのは有り難いが、今のやーさんじゃ俺に掠り傷一つつけられん」

 その自信はどっから来るんだか。コイツ武術やってたっけか?

「じゃあ、ゆっくり行くよ。少しずつ速くする」

 これなら危なくないだろう。そう思って、かなりゆっくり棒を振る。左から右へ、水平に。速度はスロー映像位で。

「ゆっくりでもやーさんの訓練になるから良いか」

 余裕で避ける駆を見て、もう少し速度を上げてみる。一歩踏み出して、右から左上へ。速度は先ほどの一割増し程。やはり余裕で避けられる。駆は当たる寸前まで引き寄せてから回避する。そんな芸等が余裕なのは、果たして素人の適当な振りが原因か、それともゆっくりすぎるのが原因か。

「両方か」

「?」

「なんでもない!」

 一撃毎に速度を上げる。力を込める。

「その調子。もう少し握りを内側に」

「りょーかい!」

 たまに飛んでくる指摘で姿勢を修正、型を調整しながら振るう。今や振る速度は全力だ。当たれば間違いなく骨が折れるだろう。そんな一撃が連続するにも関わらず、駆は紙一重の回避を続ける。当たらない。当たらない。当たらない――!!

「……トランスしたか。ここまでだな」

 駆が何かを言った気がする。でもいいや。足を前に踏み出し、勢い良く棒を振り下ろす。最速の一撃。だが、それの手応えを感じる前に、僕の身体が中を舞った。

「痛っ!?」

 ぽすん、と。僕の身体はソファーの上に。棒は駆の手の中に。一体、何をされたんだ?

「避けて、近づいて足払いで体勢崩してからの投げ」

 なんでもないことのように言うが、こいつ凄すぎだろ。

「それよかさ。やーさん、意識を強く持て。呑まれるな」

「!?」

 言われて先の光景がフラッシュバック。僕は、何をしようとしていた? 誰を、殴ろうとしていた?

「……ごめん」

「素人にやらせりゃこーなるのは予想済みだ。興奮状態になって暴走する奴らなんざいくつも見てきた」

「次は、負けない」

 武術が精神を鍛える、って意味がわかった気がした。いや、絶対こーゆー意味じゃないんだろうけど。

「今日はこの辺にしておこう」

「わかった。ありがとう」

 なんかこの遊び、トレーニングにもなりそうだ。使う機会があるかどうかわかんないけど。

「じゃ、部活やりますかね」

 言われて時計を見る。現在17:30。18:00に下校なので……

「もうほとんど時間ないじゃん!!」
「はっはっは」

 結局、片付けやって掃除をやったら良い感じの時刻になってしまった。

「明日は土曜日か。1日かけて武器適正全部見るか」

「お、おぅ……」

 なんか、いきなりハードな展開に。果たして武器なんか僕に扱えるのか? 剣なら映画とかでよく見るからわかるけど、鎖ってどーやるねん。

「朝6時におれんちな」

 ……早起き出来るだろうか。 

 

5――裏面/堅城陥落――

 魔界の中核領域、ヨモツヒラサカ。障気と死気に蝕まれた世界は、一切の暖かみを感じられない。生を拒絶する薄暗い大地が見渡す限り続いている。蛍が如く小さい灯りが、そんな空間に無数に漂う。その光から、一組の男女が現れた。光より小さかったその体躯は、数瞬の内に巨大化する。

「ふむ」

 端正な顔立ちの少年だ。学生服に身を包み、黒目黒髪。日本ではありふれた色だが、その顔は見る者を惹きつけてやまないだろう。極限まで鍛えられた肉体は無駄というものが皆無でありながら筋肉質であることを感じさせない。魔力は限界まで研ぎ澄まされており、この魔力で放つ魔術は神代の魔法すら凌駕することが容易にわかる。

「まぁ、この位で良いか」

 そんな彼は魔術で巨大化し、傍らの女へそう確認する。深紅の髪の美女だ。絶世の、という冠詞では足りないくらいの。メリハリの効いたグラマラスな肢体、全てをを見通すような双眸は血に似た赤色。朱色のドレスは白い素肌との間に絶妙なコントラストを醸し出す。

「まぁ、良いんじゃないか? 開け、異界の扉(アストラル・オープン)

 良く透き通る涼しげな声が、あっさりと大魔術を発動する。どんな世界でも、繋げてしまう

「精鋭を選りすぐった、と言えば聞こえは良いが」

「しょうがないだろう。どこまでが味方かわからないのだから。敵が潜伏している場合も考えれば、ここへ全軍を召集する訳にもいくまい」

 嘆息する少年を慰めるかの如く、やわらかな口調で美女が言葉を投げかける。

「攻守三倍則なんか鼻で笑うレベルの兵力差だな」

 前方に聳える城を見てから、背後を見やり苦笑する駆だが、その顔に悲壮感は見られない。

「普通なら負けるだろうな。だが、負けない。私がいる、そしてお前がいる」

 彼女の言葉を肯定するかのように薄く笑い、駆は指示を全員に出す。

「ヴァルハラ城を全軍で囲め。俺がなぎ払うから、残党狩りを任せる。敵は、なるべく捕らえろ。無用な殺戮は禍根を残す」

 敵が布陣するのをじっくり待つ。一応、降伏勧告をする為に。

「……降伏勧告も捕虜も必要なかろう。全て滅ぼしてから再生させれば良い」

「んー、そうするか」

 相手の布陣が整うまでにされた会話は常軌を余りにも逸したもので。

「敵は?」

 悠然と尋ねれば、間髪入れずに返答が来る。

「天界総軍。軍神級が天文単位で存在、主神級も億単位を上回るだろうな」

「……大層な歓迎だ。こっちは数百程度しかいないというに」

 呆れたように呟く駆に、ドラクリアが笑う。深紅の髪が、ふわりと舞った。

「何、この程度。カオスすらも滅却したお前の相手になりはしないだろう」

 駆とドラクリア。魔法界の軍勢の総大将と副大将。この二人を抹殺するために、天界は全軍を率いてきた。各世界での反乱やゲリラを誘発し、敵に各地守護の為兵力を割かせ。虚報や誤報、プロパガンダを駆使し二人の休憩時間を削り疲労させ。

「俺達を戦闘前から締め上げる、か。……戦略面では惨敗だな。まぁ良い。圧勝すれば、済む話だ」

 彼の右手が、光った。

「――詠唱破棄(スペルパージ)、死界福音(ゴスペル)」

 閃光が、世界を瞬時に覆う。世界を滅ぼす一撃を、加減して解き放つ。声を出す間すら与えられず、天界の精鋭達は消滅した。

「ほぅ、残ったか」

 一瞬の光は、天界総軍を飲み込み、壊滅させた。生き残ったのは、僅か三柱の神々。それすらも、満身創痍だ。全滅を予想していただけに、生き残ったことをドラクリアは感心する。

「くっ、これが貴様の本気か。……化け物め!!」

 美しい顔を醜く歪め、無様に這い蹲り、汚らわしく汚れた風貌に成り代わり、それでも良く通る声で天界総軍の大将は、眼前の駆を罵倒する。

「化物、ねぇ。無抵抗な市民を殺し、天界人以外の他種族すべてを根絶せんとするお前らに言われてもな」

 見下ろす彼の瞳は無感情。そして再び、右手が光る。ぱち、ぱち、と電気が帯電する。

「本気なんか出してねぇよ」

 出す価値すら無い。言外にそんな意味を込めながら、駆は無人となった草原を歩き――止まる。遙か彼方に、黒い影。神代の古龍(エデンズ・ドラゴン)の一角。天界を守護する"滅舞踏龍(フォーマルハウト)"クロウ・クルワッハ。

「リア、頼めるか」

 頼まれた美女は薄く笑みを浮かべ、答える。

「同族とやりあうとはな。任せておけ」

 深紅の髪を靡かせて飛翔、瞬時に黒龍の前に立つ。

「ドラクリアか。貴様も天界に刃向かうか?」

 嗄れ声の問いに答える言葉は透き通るように。

「刃向かう? 否。降りかかる火の粉は払うのみ。侵略行為を許容する程、私たちは寛容では無い」

「ならば、死ね」

「貴様がな」

 ドラクリアの身体が、変質する。深紅の鬣、鮮血の瞳、朱色に染まるは身体の鱗。緋色の翼をはためかせ、真紅の爪牙を輝かせ。"死血恋龍(アルタイル)"ドラクリアの真の姿が顕現する――!!

「消し炭となれ、天界の同朋よ!!」

 ドラクリアの放つ特異魔法(ユニークスペル)"焼き尽くせよ深紅"が、クロウ・クルワッハを戦場と化したこの世界ごと焼却する。

「舐めるな姫――!!」

「無駄だ」

 輪転する運命すら、焦がし燃やす炎を前に、あらゆる抵抗は徒労に終わる。多重障壁ごと紅蓮の中へ消えていく。

「き、さまァアア…!!」

 怨差の声を上げながら、闇色の古龍は燃え尽きて。

「同種をも一撃、か…… お前の魔法は怖ろしいな」

 焼け落ち、崩れ、崩壊していく世界を前に、駆が呆れ混じりに呟いた。蘇生の儀の準備をして、敵を蘇生させて今回の戦は終わりなのだ。世界が燃えて、消滅していく光景を見ながら――