ソードアート・オンライン―一刀流と二刀流―


 

アニールブレード

 
前書き
アニールブレードを手に入れるために親友・クラインを見捨てて走り出すキリト。
村に一番乗りしたはずの彼はその先にアニールブレードを背中に吊った一人の少年を見つける。 

 
「わりぃ、和也!!一緒にSAOログインする予定だったけど、無理かも!母ちゃんが宿題やれやれ煩くてさ。先にログインしといてくれ」
「はあ?お前、この折角の記念日をもったいねえ」
俺、小池和也は爆発的大ヒット商品《ソードアート・オンライン》の初回限定ロットを友人と共に手に入れた数少ない幸運の持ち主だ。
もともと、ゲームにどっぷりとはまるタイプではない。
コンピューターゲームは回線や動きの重さが気になってあまり好きではないし、携帯用ゲームもその自由さの少なさからすぐに飽きてしまった。
しかし、このナーヴギアとVRMMORPGという未知のジャンルを見つけたとき、一発でコレだ!と確信した。
母親に頼み込み、すぐにナーヴギアを購入した俺は、兎に角、《ソードアート・オンライン》のβテストに応募した。
父、母、叔父、叔母、祖父、祖母、妹。
全ての名義で出しまくり、その権利を得たときには嬉しさのあまり涙を流すところだったものだ。
そしてとうとう、今日。
正式サービスの開始日なのである。
あと、5分で、その時がやってくる。
コンピューター、おっけぃ。
ナーヴギア、おっけぃ。
無線LAN、おっけぃ。
オールオッケイ。
「だったら、お前、俺の名前はいつも通り、カズだからインスタントメッセージ、飛ばせよ。どうせ1層にいるからさ。今日中にレベル2桁乗せる!!」
「おー、分かった!!お前、レベルすこぶる上げとけよー。俺のレベル上げ、手伝ってもらうんだからよ」
「へいへい。あ、やべ、始まる。切るぞ!」
携帯を置くとサイレントマナーになっていることを確認し、ベッドに横たわる。
深呼吸。
「リンク・スタート」



「戻って来たんだ」
浮遊城アインクラッド第1層始まりの町に降り立った俺はすぐに走り出した。
ホルンカの村に向かうためだ。
今ならたぶん、人はいない。
そこでレベル7まで上げよう。
道中現れた青イノシシを片手剣ソードスキル《スラント》で撃破しながら進んでいく。
経験値の割り振りも何もかも後回しだ。
ホルンカの村に着くと俺は迷わずにとある家に向かった。
そこのお母さんはお鍋でコトコト何かを煮ていた。
俺は声をかける。
このVRMMORPG《ソードアート・オンライン》はナーヴギアが脳波を遮断し、五感をそのままバーチャル空間へ送る。
だから、俺達プレイヤーは、不思議な層が重なって出来たこの浮遊城アインクラッドの中を普段通りに走り回り、飲み食いし、そして、剣で戦う。
これをフルダイブと言うのだが、俺はそれを意図的に忘れるようにしていた。
「おばさん、こんにちは」
「悪いけど水くらいしか出せないの」
「んじゃあ、水で」
そう言うとお母さんはお鍋から離れ、水をくれた。
俺はそれを飲み干すと、お母さんが語り出すのを待った。
お母さん曰く。
娘が病気だが、その薬を作るにはモンスターから出る胚種が必要だから取ってきてくれないか。
俺はそれを聞いた瞬間に走り出した。
「おばさん、任せな」
この付近に来るまでにレベル3になっていた俺は、2つあるスキルロットを《片手用直剣》と《索敵》にした。
《索敵》は効率的レベリングには必須だ。
なにせモンスターの位置がかなり手前から分かる。
プレイヤーもだが。
そう思いながら気持ち悪い植物型モンスターを探した。
このクエスト《森の秘薬》に必要な《リトルペネントの胚珠》はリトルペネントとというモンスターからドロップするのだが、このリトルペネント、三種類の見た目を持つ。
ノーマル、頭に実を着けた実つき、頭に花を咲かせた花つきの3つだ。
そして、《リトルペネントの胚珠》は花つきからしかドロップしない。
ノーマルを狩れば狩るだけ花つきの出現率は上がるし、今の俺のレベルなら丁度良くレベルアップさせられるので俺は始まりの町周辺をすっ飛ばして、ここに来たのだ。
それに報酬のアレも欲しい。
こうして俺は横凪ぎ一閃の片手剣単発技《スラント》と縦切り一貫の片手剣単発技《バーチカル》を駆使してリトルペネントを狩りまくった。
「ッエヤア!!」
もう何十体目か知れない植物型モンスターを青白いライトエフェクトを放つ剣で切り裂き終えた俺は肩で息をしていた。
既にサービス開始から1時間が経過していた。
未だに花つきが出てこない。
仕方ない。
かなりの数を減らしたからリトルペネントも枯渇してきただろう。
次の実つきは叩き割る。
実つきはその実を割られると凄い数の仲間を呼ぶので、そのなかに花つきがいたら優先的に倒して逃げよう。
勿論、死ぬ確率もあるが、デスペナルティはこの段階では大して痛くないし、どうせ始まりの町で蘇生する。
そう思っていたら実つきが現れた。
「ラッキィ!!」
剣を構えて、様子を伺う。
触手が2本襲いかかってくるのを、ステップで避けて突っ込む。
しかし、まだ遠い。
剣の間合いに入る前によくわからない液体を吐いてくる。
それを先読みしていた俺は体を限界まで捻りながら前に跳びギリギリでかわすと共にモーションに入る。
ソードスキル《バーチカル》の発動姿勢。
システムアシストによる有り得ない速度で降り下ろされる剣にタイミングを合わせて威力を上乗せする。
綺麗にうち下ろされた初期装備の愛剣《スモールソード》は実つきの実を叩き割った。
僅かな硬直時間が終わると、止めをさして、周囲を見渡す。
花つき、花つき、花つき、どこだ。
花つき、花つき……いた!
見つけた直後に突っ込む。
背後に5体。
右舷に3体。
左舷に8体。
そして、前方に花つきを含めて6体。
まだこんなに残ってたのか。
繰り出される触手を直撃コースだけは避けながら猛烈なスピードで突っ込んでいく。
脇腹や肩を触手が穿っていく。
それでも気にしない。
止まったら囲まれてジ・エンドだ。
「セェイヤァァァァァ」
正面から来た触手を体を捻った状態からの回転切りで叩き落とし、そのスピードのまま花つきの腹部を裂く。
まだ浅い。
もう一発。
突き気味の攻撃で敵を仰け反らせる。
花つきの周りのノーマル達の触手が迫る。
それを見ながら横凪ぎ単発技《スラント》を放つ。
システムアシストの加速で触手が貫く直前に前方に跳んだ俺はそのまま花つきを撃破した。
地面に転がる胚珠を掴むとアイテムストレージに仕舞うのも忘れて走り出す。
村に入ればこっちの勝ちだ。
剣で触手をいなしながら死ぬのを覚悟で正面突破を狙う。
2体纏めてスラントの餌食にするとその隙に村まで駆け抜けた。


ホウホウの体で村に戻った俺は無事にクエストをクリアし、お母さんから片手剣《アニールブレード》を受け取った。
ズシリと思いその武骨な剣を背中に吊った俺をいきなり光が包んだ。



直後。
ソードアート・オンラインは永遠にその姿を変えた。
HP=現実の命というデスゲームに。
小池和也は決意する。
意地でも生き抜くと。







「ん?アイツは…?」
《森の秘薬》の家から出てきたキリトは不覚にも病気の娘役NPCに妹を重ねて泣いてしまった目もとを拭いながら村の先を見た。
盾無し片手剣士。
この村で売っている革製の防具。
そして、アニールブレード。
「先客が…いたのか?」
見つめた先の少年は一人、呟いた。
「俺は負けない。このゲームにもプレイヤーにも」 
 

 
後書き
ソードアート・オンラインの二次創作です!
どうでしょう?
キリトがコペルに殺されかけた《森の秘薬》クエからのスタートでした!
初心者なので下手くそですが温かく見守ってください!! 

 

ユニークスキル―一刀流―

 
前書き
時間軸が飛びます…!


最前線が第58層アグネジアに移った今、迷宮区にこもって高速レベリングに励むカズ。
そんな彼は、隠し扉を見つける。
隠し扉の奥に入ろうとするカズを《黒の剣士》キリトが止める。
「トラップかもしれない。止めろ」 

 
「ェイヤァ!!」
右肩に担ぐように持った愛剣エアフォーストライデントを青白い光が包む。
ソードスキル《ソニックリープ》が発動し、爆発的な速度で敵に肉薄する。
美しい薄青色の剣を手の中で回転させながら後ろ越しに差した鞘に仕舞う。
「ふぅ…」
最前線第58層の主街区アグネジアが開通したのは1週間前だ。
1つ下の層が青白い水晶で包まれた層だったのに対し、この層は赤い溶岩で囲まれた層だ。
フィールドモンスターは重突進技《ソニックリープ》を使う人型モンスター《マグマフリップ》を中心に防御力の高いのが多く、厄介だが、1つ下の層のボスからドロップした魔剣エアフォーストライデントのおかげでさして苦労せずに倒せている。
そんな俺が3日もこの迷宮区に籠っているのには理由がある。
バカ広いのだ。
迷宮区だけでこの層を埋め尽くさんとするくらいの広さで1週間たった今でも、半分もマッピングされていない。
トラップも多く、危険な迷宮区が広すぎるのは最早チートではないか?と思うのだが文句も言ってられない。
大手ギルド《血盟騎士団》を筆頭に攻略編成が組まれ、初の計画的合同マッピングがされているという。
どちらにせよ、ソロの俺には関係ない。
いろいろと考えながら壁にもたれ掛かる。
集中力も限界に近かった。
蒼白の重撃士と呼ばれるまでに上り詰めた俺のステータスはあの黒の剣士にも劣らないとおもっている。
だが、迷宮区では何が起こるか分からない。
少し休むか…。
そう思い、力を込めて安全地帯に向かおうとした直後。
ガゴ…
「うへ!?」
背中から壁のなかに倒れ込む…!?
ブービートラップか!?
危険を感じるが倒れ込む身体は止まらない。
クソッ…。
「おい…」
突如、俺のライトブルーの上着を捕まれ、支えられる。
「大丈夫か?」
真っ黒の革装備、黒い剣、黒い髪。
間違いなかった。
「黒の剣士…」
そう呟くと彼は前髪を弄りながら斜を向く。
「その扉、罠かもしれない」
「でも、レア物がでるかもしれない。助けてくれてありがとう。俺はいくよ」
「あんた、蒼白の重撃士だろ。速さのなかに凄まじい重さがあるって有名な」
「あ、ぁあ」
あまり触れてほしくないな、そこは。
何せ、俺が使ってるのは片手用直剣であり、そうじゃない。
「俺も付き合わせてくれないか。モチロン、アイテムは全部そっち優先で構わない」
そう言う彼の目には重度のMMORPG中毒者のレアアイテムへの好奇心が宿っていた。
「分かった。行こうか?」
「ああ、そうしよう」
そうして、キリトとの初、パーティーが組まれたのだった。


「ここは?」
入って少し歩くと円形の空間があった。
中心には明らかにレアな装備一式。
美しい光沢のある必要最低限の青い金属。
深い艶のある革。
「あれ、スゲエ…」
そう呟いて、それをストレージに格納。
すぐに装備した。
すると…。
広場中央にゴツゴツとしたポリゴンが重なりあっていく。
「あれって…」
それはすぐに形を造っていく。
2本の長い槍。
赤い身体はゴツゴツとした突起が幾つもある。
モンスター名にはTheがついていた。
「ボスモンスターだ」
キリトが掠れた声で呟く。
「逃げるぞ。転移アグネジア!!」
転移結晶を掴んで叫ぶが効果がない。
一部のトラップゾーンにある結晶無効化空間。
「扉は?」
俺は叫びながら振り向くがそこにはなにもない壁が広がっていた。
「クソ。やるしかない」
キリトはそう言うと黒い剣を背中から抜いた。
俺も後ろ越しから横向きになった鞘から愛剣を抜く。
「仕方ない…。キリト。見なかったことにしてくれよな」
キリトが怪訝そうな目で俺を見たが、それを無視して突っ込む。
腰だめに構えた愛剣を黄色い光が包む。
「一刀流重突進飛翔技・コーミュラスクランブル」
そう呟き、地を蹴った。
このボスモンスターは明らかに頭の天辺にあるひび割れが弱点だ。
二人で5段あるフィールドボスモンスターにしては有り得ない体力を削るには弱点に攻撃を当て続けるしかない。
今まで隠してきたユニークスキル一刀流を発動してでも生き残るしかない。
一刀流は片手用直剣のソードスキルと独自の5連撃程の恐ろしく早く重い攻撃、そしてもう1つ、防御系スキルが特徴だ。
つまり、2つの種類のソードスキルを使えるために物凄いバリエーションとなっている。
そのぶん、確認している限りでは最高でも8連撃までしかないが。
敵の面前で5メートルほどジャンプする。
そして、大きく振りかぶり1撃目、右斜め下に切り下ろし。
綺麗に割れ目に当て、その剣を軸に敵の後ろにジャンプ。
2撃目、左斜め下に切り下ろし。
こちらもクリーンヒットして、落下。
空中で硬直時間が溶ける便利さのある高高度攻撃技なのだ。
「カズ…」
着地して、足の間を走り込み、1撃喰らわせながらキリトの前に戻る。
「俺のも、見なかったことにしろよな」
そう言うとキリトは不適に笑い、2本目の剣を実体化させた。
目映い白の輝き。
ダークリパルサーという銘らしい剣を構えると、言った。
「二刀流最上位ソードスキル、ジ・イクリプス」